(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065558
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】窒化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20220420BHJP
C30B 23/02 20060101ALI20220420BHJP
C30B 19/04 20060101ALI20220420BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220420BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220420BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C30B29/38
C30B23/02
C30B19/04
C23C14/06 A
C23C14/34 N
H01L21/203 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174225
(22)【出願日】2020-10-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111707
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】ソン イェリン
(72)【発明者】
【氏名】川村 史朗
(72)【発明者】
【氏名】島村 清史
(72)【発明者】
【氏名】大橋 直樹
【テーマコード(参考)】
4G077
4K029
5F103
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE13
4G077BE15
4G077CC04
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4G077TK01
4K029AA07
4K029AA24
4K029BA02
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4K029GA05
5F103AA08
5F103BB22
5F103BB33
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5F103NN06
5F103PP00
5F103PP03
5F103RR01
5F103RR06
(57)【要約】
【課題】窒化アルミニウム、窒化ガリウム等の第III族元素の窒化物を含む窒化物膜の製造方法及び製造装置を提供し、その製造方法に関連して用いられる種々の要素技術を提供する。
【解決手段】物理気相成長可能な装置に、所定の材料からなる基板を設置する工程と、該基板上に、目的とする窒化物膜を構成する金属又は半導体元素を含む所定の材料からなるフラックス金属又は合金を付着させる工程と、付着済みの基板が曝される雰囲気に窒素ラジカルを発生させる工程と、付着済みの基板を所定の温度範囲に保持する工程と、を含む窒化物膜を製造する方法及びその方法を実施する装置を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物膜を製造する方法であって、
物理気相成長可能な装置に、所定の材料からなる基板を設置する工程と、
該基板上に、目的とする窒化物膜を構成する金属又は半導体元素を含む所定の材料からなるフラックス金属又は合金を付着させる工程と、
付着済みの基板が曝される雰囲気に窒素ラジカルを発生させる工程と、
付着済みの基板を所定の温度範囲に保持する工程と、を含む窒化物膜を製造する方法。
【請求項2】
前記装置が、金属薄膜を作製可能な装置を含むことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記フラックス金属又は合金が、アルミニウム、ガリウム、スズ、ビスマス、インジウム、鉛から選択される少なくとも1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の方法。
【請求項4】
前記フラックス金属又は合金が、少なくともスズを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記基板材料が、目的とする窒化物のエピタキシャル成長が可能な単結晶であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記窒素ラジカルを発生させる工程が、窒素雰囲気下でスパッタリングを行うことを含み、対象となるターゲット材料が該スパッタリングに対して耐性があることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記所定の温度範囲が、フラックス金属又は合金の融点以上であって、同金属又は合金の沸点以下であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記窒化物膜を構成する金属元素は、アルミニウム及び/又はガリウムを含む第III族金属元素を含むことを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
更に、フラックス金属又は合金を除去する化学処理工程を含む、請求項1から8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
窒化物膜を製造する装置であって、
所定の材料からなる所定の位置に配置される基板と、
該基板に物理気相成長により付着するための金属又は半導体を含む金属等材料源と、
窒素ガス雰囲気下で、スパッタリングに対して耐性のある耐性ターゲットと、
前記物理気相成長に使用可能な前記金属等材料源から金属蒸気又は粒子を飛び出させるエネルギー源と、
前記エネルギー源のON及びOFF可能な制御装置と、
内部雰囲気を外界から隔離可能なチャンバと、
内部雰囲気に所定の種類の気体を供給可能なガス供給部と、
前記チャンバ内を排気可能な真空系と、
前記基板を加熱可能なヒータと、を含み、
前記基板は、前記窒化物膜を成長可能な面を備える配向結晶を含み、
前記物理気相成長により付着させられる金属又は半導体は、製造される窒化物膜を構成する金属又は半導体元素に加えて、フラックスとして機能する金属元素を含み、
前記耐性ターゲットは、窒素ガス雰囲気中で、高周波スパッタリングに曝され、
前記ヒータは、前記耐性ターゲットに対向する金属又は半導体が付着させられた基板を前記高周波スパッタリング中に所定の温度に維持することができることを特徴とする窒化物膜を製造する装置。
【請求項11】
窒化物膜を製造する方法であって、
目的とする窒化物膜を構成する金属又は半導体元素を含む所定の材料からなるフラックス金属又は合金が付着した基板を前記フラックス金属又は合金の少なくとも1部が融解する所定の温度に保持する工程と、
窒素ラジカルを少なくとも1部が融解した前記フラックス金属又は合金に接触させる工程と、
を含む窒化物膜を製造する方法。
【請求項12】
窒素ラジカルを発生させる方法であって、
所定の圧力範囲において、窒素を供給して窒素雰囲気を構成する工程と、
前記窒素雰囲気を横切って高周波を印加する工程と、
を含み、
前記高周波の印加は、耐性材料からなるターゲットをカソード側にしたスパッタリングに相当することを特徴とする窒素ラジカル発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム、窒化ガリウム等の第III族(若しくは、第13族)元素の窒化物を含む窒化物膜の製造方法及び製造装置に関し、特に、結晶性のよい窒化物膜を効率よく生成する製造方法及び製造装置に関すると共に、その製造方法に関連して用いられる種々の要素技術に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム、窒化ガリウム等の窒化物は、好ましい熱的特性、電気的特性を有する。特に、窒化アルミニウムは、優れた耐熱性、熱伝導性、広いバンドギャップ、高い電気絶縁性、高い圧電性、シリコンに近い熱膨張等の特性を持っており、種々の電子素材用途に期待されている。このような窒化アルミニウムは、膜として製造されることも多く、例えば、アンモニアガスを使用しないで、ラジカル促進有機金属化学蒸着(Radical Enhanced Metal Organic Chemical Vapor Deposition:REMOCVD)法で成長する技術が開示されている(特許文献1)。一方、成膜速度の高い例では、爆発溶射法を用いて、緻密な窒化アルミニウム皮膜を形成する皮膜製造方法が開示される(特許文献2)。結晶性の高い方法として一般にはエピタキシーが知られているが、気相からでは、成長速度が遅く、液相からでは成膜条件が限られる。また、窒素ガスを含む雰囲気下で、アルミニウムの他に少なくとも2つの元素を含むターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする窒化アルミニウム膜の成膜方法が開示される(特許文献3)。このようにして得られる窒化アルミニウム膜の特性は、その結晶性や配向性に影響を受ける。
【0003】
一方、ガリウムの溶融物に、窒素を溶解させ、窒素を溶質として含む溶融液を冷却させて、窒化ガリウム膜を形成する方法が開示されている(例えば、非特許文献1)。ここでは、ガリウム融液が窒素プラズマに曝され、サファイア基板上に窒化ガリウム膜が形成された。また、金属アルミニウム及びスズを混合して、窒化ホウ素るつぼ中で加熱し、溶融させ、高圧窒素に曝すことにより、窒素含有融液を作り、それを冷却して、窒化アルミニウム単結晶が製造されている(非特許文献2)。また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一つの金属元素と、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)及びインジウム(In)からなる群から選択される少なくとも一つのIII族元素との混合溶液を加熱して前記金属元素のフラックスを形成し、反応室に窒素含有ガスを導入して、前記フラックス中のIII族元素と窒素とを反応させてIII族元素窒化物の単結晶を成長させており、前記反応室内でベース基板を水平回転させつつ、当該ベース基板上に上から前記フラックスを滴下させて前記単結晶を成長させるIII族元素窒化物単結晶の製造方法が開示される(特許文献4)。更に、GaN基板をGaが溶解されたGa-Na融液に回転させることなく浸漬し、引き上げることでGaN基板の表面にGa-Na融液を付着させる工程と、前記Ga-Na融液が表面に付着したGaN基板を窒素雰囲気下で加熱することでGaN基板の表面にGaN単結晶を成長させる工程とを具備しており、前記Ga-Na融液には2族元素としてCaにまたはSrが0.05~2.0mol%の比率(Naと2族元素との合計量に対する2族元素の比率)で混合されていることを特徴とするGaN単結晶成長方法が開示される(特許文献5)。このような融液方法では、窒化物の製造効率が高いと考えられるが、基板等に制約があり、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-132613号公報
【特許文献2】特開2017-71835号公報
【特許文献3】特開2015-54986号公報
【特許文献4】国際公開第2017-111000号
【特許文献5】特開2019-19040号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jeffrey S. Dyckら、「Growth of Oriented Thick Films of Gallium Nitride」MRS Internet J. Nitride Semicond. Res. 4S1, G3.23 (1999)
【非特許文献2】Yelim Songら、「Conditions for growth of AlN single crystals in Al-Sn flux」 J. Am. Ceram. Soc., 2018; 101: 4876-4879
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような種々の方法では、生産性が高く、所望の結晶性を備え、成形性のよい、窒化アルミニウムのような窒化物膜の製造方法又は製造装置としては、未だ改善の余地がある。このような窒化物膜の製造に応用可能な関連技術の開発も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、係る状況に鑑みて、種々の方法の特性を再検討して、以下のような窒化物膜の製造方法を見出すことに成功した。例えば、比較的融点の低い、アルミニウム、ガリウム、インジウムのような第III族金属の窒化物膜の製造方法又は製造装置において、これら金属よりも融点の高い金属窒化物を製造するにあたり、物理気相成長装置を含む装置を用いることができる。また、このような製造方法又は製造装置に関して、関連技術を開発することができた。
【0008】
より具体的には、以下のものを含んでもよい。
(1)窒化物膜を製造する方法であって、 物理気相成長可能な装置に、所定の材料からなる基板を設置する工程と、 該基板上に、目的とする窒化物膜を構成する金属又は半導体元素を含む所定の材料からなるフラックス金属又は合金を付着させる工程と、 付着済みの基板が曝される雰囲気に窒素ラジカルを発生させる工程と、 付着済みの基板を所定の温度範囲に保持する工程と、を含む窒化物膜を製造する方法。
前記窒化物膜を構成する金属元素は、第III族金属を含むことを特徴とする上述する方法。
前記フラックス金属又は合金が、前記窒化物膜を構成する金属又は半導体元素のみからなることを特徴とする上述するいずれかの方法。
(2)前記装置が、金属薄膜を作製可能な装置を含むことを特徴とする上述するいずれかの方法。
(3)前記フラックス金属又は合金が、アルミニウム、ガリウム、スズ、ビスマス、インジウム、鉛から選択される少なくとも1種又は2種以上を含むことを特徴とする上述するいずれかの方法。
(4)前記フラックス金属又は合金が、少なくともスズを含むことを特徴とする上述するいずれかの方法。
(5)前記基板材料が、目的とする窒化物のエピタキシャル成長が可能な単結晶であることを特徴とする上述するいずれかの方法。
(6)前記窒素ラジカルを発生させる工程が、窒素雰囲気下でスパッタリングを行うことを含み、対象となるターゲット材料が該スパッタリングに対して耐性があることを特徴とする上述するいずれかの方法。
(7)前記所定の温度範囲が、フラックス金属又は合金の融点以上であって、同金属又は合金の沸点以下であることを特徴とする上述するいずれかの方法。
(8)第III族金属窒化物膜の第III族金属が、アルミニウム及び/又はガリウムを含むことを特徴とする上述するいずれかの方法。
(9)更に、フラックス金属又は合金を除去する化学処理工程を含む上述するいずれかの方法。
(10)窒化物膜を製造する装置であって、 所定の材料からなる所定の位置に配置される基板と、 該基板に物理気相成長により付着するための金属又は半導体を含む金属等材料源と、 窒素ガス雰囲気下で、スパッタリングに対して耐性のある耐性ターゲットと、 前記物理気相成長に使用可能な前記金属等材料源から金属蒸気又は粒子を飛び出させるエネルギー源と、 前記エネルギー源のON及びOFF可能な制御装置と、 内部雰囲気を外界から隔離可能なチャンバと、 内部雰囲気に所定の種類の気体を供給可能なガス供給部と、 前記チャンバ内を排気可能な真空系と、 前記基板を加熱可能なヒータと、を含み、 前記基板は、前記窒化物膜を成長可能な面を備える配向結晶を含み、 前記物理気相成長により付着させられる金属又は半導体は、製造される窒化物膜を構成する金属又は半導体元素に加えて、フラックスとして機能する金属元素を含み、 前記耐性ターゲットは、窒素ガス雰囲気中で、高周波スパッタリングに曝され、 前記ヒータは、前記耐性ターゲットに対向する金属又は半導体が付着させられた基板を前記高周波スパッタリング中に所定の温度に維持することができることを特徴とする窒化物膜を製造する装置。
(11)窒化物膜を製造する方法であって、 目的とする窒化物膜を構成する金属又は半導体元素を含む所定の材料からなるフラックス金属又は合金が付着した基板を前記フラックス金属又は合金の少なくとも1部が融解する所定の温度に保持する工程と、 窒素ラジカルを少なくとも1部が融解した前記フラックス金属又は合金に接触させる工程と、 を含む窒化物膜を製造する方法。
(12)窒素ラジカルを発生させる方法であって、 所定の圧力範囲において、窒素を供給して窒素雰囲気を構成する工程と、 前記窒素雰囲気を横切って高周波を印加する工程と、 を含み、 前記高周波の印加は、耐性材料からなるターゲットをカソード側にしたスパッタリングに相当することを特徴とする窒素ラジカル発生方法。
【0009】
ここで、物理気相成長は、物質の表面に薄膜を形成する蒸着法のひとつで、気相中で物質の表面に物理的手法により目的とする物質の薄膜を堆積する方法であり、同装置は、そのような膜を堆積することができる装置であってよい。基板は、所定の材料からなってもよい。この所定の材料は、窒化物膜が成長できるような結晶面を有する元素や化合物を含んでよい。例えば、アルミナ、炭化ケイ素、ケイ素などを含んでよい。窒化物膜は、金属又は半導体の窒化物からなる膜を意味することができる。金属は、金属元素を含んでよく、金属元素は、アルカリ金属(第I族元素)、アルカリ土類金属(第II族元素)、遷移元素((第IIIからXII族元素))を含んでよい。第III族元素は、ホウ素族元素とも呼ばれるかもしれない。上述する第III族金属窒化物膜を構成する第III族金属は、アルミニウム、ガリウム、インジウムから選択される少なくとも1種を含んでよい。半導体は、電気伝導性の良い金属などの導体(良導体)と電気抵抗率の大きい絶縁体(不導体)の中間的な抵抗率をもつ物質を言う。例えば、元素半導体のケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)を含んでもよい。上述する金属等材料源は、これらのような金属、合金、半導体等を含んでもよい。フラックス金属又は合金は、溶融したとき溶剤若しくは溶媒のような機能を有する金属又は合金を含んでよい。ここでは、窒化物を構成する窒素及び金属若しくは半導体を溶解してもよい。フラックス金属又は合金が窒化物膜を構成する金属又は半導体元素のみからなる場合は、構成しない他の金属等を含んでいなくてよい。金属薄膜を作製可能な装置は、MBE(分子線エピタキシー装置、ALD(アトミックレイヤーデポジション)装置、スパッタ(リング)装置等のいわゆるPVD(Physical Vapor Deposition)装置を含んでよい。また、ラジカルガン等を含むことができる。上述する金属蒸気又は粒子を飛び出させるエネルギー源は、各種装置に適切に適用される電源等のエネルギー源を含むことができる。スパッタリング装置を含む場合は、スパッタリング可能な部品又はアセンブリが組み込まれてもよい。高周波スパッタリング装置、マグネトロンスパッタリング装置等の種々の装置を含んでよい。他の物理気相成長可能な装置を除外する必要はない。基板が配置される所定の位置は、基板に付着される金属又は半導体膜或いは窒化物膜が容易に堆積可能な位置であってよい。例えば、これらの膜を構成する構成元素が気相中存在するとき当該気相に曝される位置が好ましい。金属等材料源は、材料となる金属又は半導体を含む固形物であってもよい。焼結、圧粉等種々の方法で固められていてもよい。基板材料は、所望の結晶面を表に有する単結晶を含んでもよい。例えば、アルミナ、SiC、Si、GaN、ZnOから選択される少なくとも1種であってもよい。フラックス金属又は合金には、第III族金属窒化物膜を構成する第III族金属に加えて、Sn、Bi、Ga、In、Pbから選択される少なくとも1種を含んでよい。フラックス金属又は合金を付着させる工程は、当該フラックス金属又は合金をターゲットとするスパッタリング法を含んでよい。複数のターゲットを用いる場合は、シールドにより適宜カバーすることができる。また、基板を覆う基板シャッターをオプションとして含んでもよい。このシャッターは、基板に成膜させたくないときに基板を覆い(閉じ)、成膜してもよいときに基板を覆わない(開ける)ように制御されてよい。前記付着済みの基板が曝される雰囲気は、窒素を含んでよく、該窒素はプラズマ化されてもよい。窒素ラジカルを発生させる工程は、窒素プラズマを使用してもよい。付着済みの基板を所定の温度範囲に保持する工程において、所定の温度範囲は、フラックス金属又は合金に窒素が容易に溶解する範囲であってもよい。上記化学処理工程は、酸若しくはアルカリによる溶解を含んでもよい。
【0010】
以上のような製造方法や製造装置により、好ましい第III族金属窒化物膜を所定の基板上に付着させることができ、同膜が配向性及び結晶性に優れる。故に、電子材料として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例において、第III族金属窒化物膜を製造する装置を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施例において、窒化アルミニウム膜を製造する工程を図解する図である。
【
図3】本発明の実施例において、(a)ターゲットの構成を模式的に示し、(b)本装置により製造される際に付着された金属組成と得られた窒化アルミニウム膜X線解析結果を示し、(c)最適な付着金属組成で行った窒化処理の温度と得られた窒化アルミニウム膜X線解析結果を示す。
【
図4】
図1に示すような実施例で用いた装置において、窒素プラズマを光学測定装置で測定した結果をします図である。
【
図5】本発明の実施例において、製造された窒化アルミニウム膜の(a)フラックス金属などの除去前の断面図及び(b)フラックス金属などの除去後の断面図である。
【
図6】本発明の実施例において製造された窒化アルミニウム膜及び比較例において製造された窒化アルミニウム膜について、半値幅を成長時間に対してプロットしたグラフである。
【
図7】(a)比較例において製造された窒化アルミニウム膜及び(b)本発明の実施例において製造された窒化アルミニウム膜について、SIMSにより深さ方向に成分分析をした結果を示すグラフである。
【
図8】本発明の別の実施例において、フラックス膜被覆スパッタリング法により成長したGaNのX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
[実施例1]
[窒化アルミニウム膜の製造装置]
図1は、本発明の実施例において使用可能な装置を図解する。RFスパッタリング装置を利用して構成される窒化アルミニウム膜を製造する装置10の概略図である。中央上部に配置されるのは、スパッタリング装置と同様な構成である、サファイア(アルミナ)基板12である。この基板12は特に図示しない基板ホルダに取り付けられ、その基板ホルダーには、サファイア基板の上に示されるヒータ14が備え付けられる。このヒータは、通常は抵抗加熱によるヒータ14で、熱電対(不図示)で温度の管理をすることができるが、主に、基板12を加熱する。左下隅には、放射ヒータ16が設けられているが、これは、オプションであり、上述する基板ホルダのヒータ14だけでもよい。左上隅には、真空系18が描かれているが、これは、基板12が配置されるチャンバ20内を排気することができる真空ポンプ等を意味する。図中サファイア基板12の下方には、アルミニウムターゲット22、スズターゲット24、及びジルコニアターゲット26がそれぞれに独立したカソード23、25、27上に配置される。付着させるAl、Sn組成は、それぞれのターゲット22、24、26に印加するRF電力によって制御する(高周波電源28及び同制御装置30参照)。右横には、ガス源32が模式的に記載され、チャンバ20内に必要な雰囲気のガスを導入する。Sn及びAlを基板12に付着させる際は主にアルゴンが用いられる。このターゲットと基板の間には、必要に応じて、右上隅に模式的に表されるRF電源28により電源ケーブル34を介して、高周波が印加される。この図において、基板12の上(全体図の上下関係から言えば下側)にAl-Sn系の金属膜が形成されたように示され、基板との界面においては、溶融成長としての溶融相が模式的に表されている。これは、本装置10に基板12が取り付けられた後、直ぐに、基板12上に、Alターゲット22及びSnターゲット24に対して、スパッタリングが行われた結果沈着されたものである。このとき、チャンバ20内には、Arが導入されてもよく、Alターゲット及びSnターゲットがプラズマ状のArに暴露される。その後、ヒータ加熱を行い、サファイア基板12上のAl-Sn系金属が溶融される。Alの融点は、約660℃であり、Snの融点は、約230℃である。Al-Sn系の相図によれば、Sn99wt%あたりで共晶はあるものの、SnとAlは均一な合金融液を形成する。
【0014】
次に、チャンバ20内には、窒素ガスが導入される。そして、窒素は通常分子になっているところ、高周波をかけると、チャンバ内の窒素がラジカル化する。このとき、基板12(又は基板の上に付着した膜)に対向するのが、ジルコニアターゲット26である。また、Alターゲット22及びSnターゲット24にはRF電力を印加しないように制御するよりスパッタリングが起こらないようにする。ジルコニアは、融点も高く、高周波によりプラズマ化された窒素原子又は分子等によるスパッタリングによっても、Zr及びO原子等が飛び出さない。それにも関わらず、高周波をかけるので、ターゲットに衝突したプラズマ窒素は、おそらく、大部分がラジカル化する。従って、マイクロ波でプラズマ化された窒素とは異なる状態であり、本方法で、ラジカル化された窒素は、Al-Sn系溶融液中に溶けていくものと考えられる。この時の溶解速度及び/又は溶解量は、プラズマ分子状窒素に比べてより大きいと考えられる。尚、Al-Sn系融液は、サファイアに対して表面張力が低く濡れやすいので、重力に反して基板表面に付着した状態を保つことができる。この状態で、適切に温度管理を行えば、熱力学的安定性から、基板表面に窒化アルミニウムの核ができ、それが成長して、一面を覆う窒化アルミニウム膜ができるものと考えられる。窒化スズは、必ずしも熱力学的に安定ではないので、液相のスズは窒化物を形成することなく、窒素を気相面から基板側に拡散させ、アルミニウムとの反応を促すものと考えられる。尚、基板表面に不必要な異物が落下しないように、基板表面を下向きにするのが通常であるが、本願の実施例において、不都合を回避できるのであるなら、基板表面を上向きに設置することもできる。それ以外に、基板を垂直に置いたり、角度をつけて斜めに置くことも可能であるが、Al-Sn系融液は、通常粘度が低いので、基板の一方の端に融液がたまりやすくなり、好ましくはない。
【0015】
ある程度、窒化アルミニウム膜が形成されると、形成速度が遅くなるので、温度をスズの融点以下にまで下げて、反応を終了させる。常温常圧下に置いた基板から、不必要なスズや未反応のアルミニウムを塩酸などの酸で溶解し、窒化アルミニウム膜を精製する。
【0016】
[実施例2]
[窒化アルミニウム膜の製造]
図2は、より具体的に行った製造方法を図解するものである。上述するような、装置(例えば、マグネトロンスパッタリング装置)により、時間軸に沿って、実行する。直径2インチ(約5cm)のサファイア基板((0001)面)が基板ホルダに装着された。金属アルミニウム(99.999%、株式会社ニラコ製)、金属スズ(99.999%、株式会社レアメタリック製)、及び焼結ZrO
2(東和工業株式会社製)によるターゲットをそれぞれ独立して設置した。チャンバー内は、一旦真空にされ、0.6PaでArを導入して通常のスパッタリングを、アルミニウムターゲット及びスズターゲットに対して
図2に示す条件で行った。サファイア基板上にスパッタされたAl-Sn系金属の組成は、Al:Sn=12:88(mol)であった。次に、窒化を行った。具体的には、ヒータにより基板の温度を合金の融点以上に上げ、30分から2時間、ZrO
2ターゲットにRF電力を供給することで発生した窒素ラジカルを供給することで窒化を行った。ここで、ZrO
2ターゲットに対して30Wの電力をかけた。この時の窒素のプラズマ化は
図2に示すような条件で行った。得られた窒素ラジカルはAl-Sn系金属に容易に溶解し、窒化アルミニウム膜がサファイア基板上に形成した。尚、窒素(プラズマ状態などを含む)雰囲気の圧力は、0.1Pa以上、0.3Pa以上、又は、0.5Pa以上が好ましい。装置の構造上、高圧な雰囲気は工業的に好ましくなく、0.1MPa以下、0.01MPa以下、又は0.001MPa以下が好ましい。このとき、基板の温度を460℃から610℃に変化させた。基板は、窒化中6rpmで回転させた。窒化工程後、基板は、塩酸溶液中にディッピングされ、スズフラックス金属又は合金及び未反応のAlが取り除かれた。このような窒化膜の製造方法を本明細書では、フラックス膜被覆スパッタリング法(flux film-coated sputtering (FFC-sputtering))と呼ぶ。
【0017】
上記実施例において、得られた窒化アルミニウム膜の結晶性について、特に重要と考えられるのは、フラックス組成(Al-Sn組成)及び成長温度(窒化工程での温度)である。フラックス組成は、最初のAl-Snスパッタリングによって影響されるので、
図3(a)に示す壁が使用されて、フラックス組成を順に変えることができた。これは、基板を回転させないことで実施可能である。得られたAl-Sn組成は、
図3(a)に示すように5か所の位置の蒸着されたフラックスを剥がし、EDX(株式会社堀場製作所製、EMAX 6853-H)により測定された。尚、金属膜の組成分析は、基板からはがされていたので、基板の影響を受けなかった。それぞれの基板位置でのフラックス組成は、
図3(b)に示すとおりであり、最適の組成は、12:88であった。これは、
図3(b)のAlNのX線解析結果(株式会社リガク製、RINT-2200を使用)から、その結晶度が最も高いものが相当するからである。
【0018】
図3(c)は、同じフラックス組成で、得られた窒化アルミニウム膜のX線解析結果(株式会社リガク製、RINT-2200を使用)について、窒化過程での処理温度違いを比較したものである。490℃以上の温度について、X線解析でAlN成長に関するピークがみられている。しかしながら、それ以下の温度であっても、AlN成長をさせることができることは言うまでもない。
【0019】
図5(a)は、フラックスを塩酸で除去する前の窒化アルミニウム膜の断面図である。Al-Sn系金属は5時間、サファイア基板上にスパッタリングで付着された。窒化工程では、610℃で2時間加熱された。
図5(b)は、残存フラックスが取り除かれた後の0.7μmの厚さのAlN膜を示す。
【0020】
[比較例]
[反応性スパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造]
同じマグネトロンスパッタリング装置により、サファイア基板並びにアルミニウムターゲットを用いて、45Wで反応性スパッタリングを行った。反応性スパッタリングは、室温から500℃の間で最適化された。圧力は0.6Pa及び1.0Paであり、Ar:N2=5:10(sccm)及び10:10(sccm)であった。
【0021】
[実施例3]
[窒素のラジカル化]
プラズマ中でラジカル化した窒素については、フラックス金属又は合金中に窒素が溶解しやすいことが知られている。窒素ラジカルの確認は、光学分光計によって行うことができる。実施例2において、窒化工程中の発光スペクトルの測定を行った。その結果を
図4に示す。この図にあるようにfirst positive 及びsecond positiveにそれぞれスペクトル群があり、窒素分子の励起が認められる。窒素分子は、一番下が基底状態で、上に向かうほどエネルギーの高い準位になり、準位は電子の振動により離散的に複数の準位を持つ。例えば、B
3Πgの準位から、A
3Σ
u
+への遷移は、First positiveと呼ばれ、550~800nm付近に観測される。また、B
3Πgの準位からC
3Π
uへの遷移は、Second positive と呼ばれるものである。
例えば、J. Appl. Phys. 114, 093704 (2013)「Electrical properties of scandium nitride epitaxial films grown on (100) magnesium oxide substrates by molecular beam epitaxy」の
図1、J. Appl. Phys. 98, 023522 (2005) 「High nitrogen incorporation in GaAsN epilayers grown by chemical beam epitaxy using radio-frequency plasma source」の
図2、及びJournal of Crystal Growth 189/190 (1998) 390D394「Growth of cubic III-nitrides by gas source MBE using atomic nitrogen plasma: GaN, AlGaN and AlN」の
図1等を参照。
このように、ZrO
2(融点:2715℃)に限らず、固体で、不活性で、高融点で、化学的に安定であり、窒素分子が衝突した際にエッチングされない材料からなるターゲットを用いることができる。例えば、アルミナ(融点:2072℃)や安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニアを用いることができる。そして、窒素ラジカルは、フラックス金属又は合金に溶解しやすい。
このようなターゲットに対して、窒素雰囲気中で高周波スパッタリングを行うと、窒素ラジカルが生成され得る。ここで、窒素ラジカル生成方法としては、例えば、高周波スパッタリング(マグネトロンタイプ等、如何なる既存のタイプを含んでよい)装置を適用可能である。チャンバ等のような所定の容器内を一旦真空にし、所定の圧力の窒素ガスを導入してもよい。備え付けられた基板(安定性の高い材料からなってよい)と、ターゲット(窒素によるスパッタリングに耐性のある材料が好ましい)との間に高周波を印加し、窒素プラズマを発生させる。この時の周波数は、100kHz以上、500Hz以上、又は、1MHz以上が好ましい。また、500MHz以下、200MHz以下、又は、100MHz以下が好ましい。窒素雰囲気圧力は、0.1Pa以上、0.3Pa以上、又は、0.5Pa以上が好ましい。また、100Pa以下、50Pa以下、又は、10Pa以下が好ましい。出力は、0.1W以上、1W以上、又は、10W以上が好ましい。また、10kW以下、1kW以下、又は、500W以下が好ましい。上記は全て1インチターゲットを使用した場合の値である。ターゲット材料は、融点が高く、不活性なものが好ましい。例えば、ZrO
2又はアルミナ等の酸化物が好ましい。ZrO
2が好ましい。このような窒素ラジカルの生成は、高周波スパッタリング装置等において、窒素雰囲気を所定の圧力範囲内で導入したチャンバ内で、融点が高く、不活性なものからなるターゲットや、ラジカルガン等を使用してもよい。
【0022】
[実施例2と比較例の比較」
Gaの液相からGaN膜を形成する製造方法では、Ga自身がフラックス金属又は合金となりGaN膜を形成すると考えられる。本願の本実施例において、AlN膜はc軸方向に配向しており、結晶性も良好であった。このことは、
図6から確認できる。
図6は、窒化工程を1時間、3時間、5時間行ったものの、ロッキングカーブ法を用いた結晶性解析の結果を示す。実施例2において形成したAlN膜及び比較例で反応性スパッタリングにより形成したAlN膜について(0002)面に対するロッキングカーブ法で比較した結果を
図6に示す。四角のプロットは実施例2の(0002)面の半値幅によるものであり、●は実施例の(10-11)の結果である。黒点線は比較例の(0002)の半値幅で、これから分かるように、いずれのものでも、半値幅(FWHM)は、実施例2のものの方が小さい。従って、実施例2の方が結晶性に優れることが分かる。
【0023】
不純物濃度について、実施例2のAlN膜と、比較例のAlN膜とをSIMSを用いて約200nmの深さまで調べた。
図7(a)は比較例の結果であり、
図7(b)は実施例2の結果である。これらの図から分かるように、表面から200nmまで、O及びCの濃度は、実施例2の場合が特に高い。また、残存するSnの濃度も認められる。しかるに、
図6に示すように、実施例2のAlN膜の結晶性は高く、仮にO及びCの濃度が高くても優れた熱的電気的特性を有するAlN膜を形成することが、本実施例2の方法ではできるともいえる。
【0024】
[第III族金属窒化物膜の製造方法]
以上述べてきたように、本発明の実施例にかかる製造方法は、所定の基板を用意し、金属又は合金系フラックス(第III族金属窒化物膜の原料となる第III族金属を含む)を基板に付着させ、窒素ラジカル雰囲気中で所定の温度範囲内で窒化処理を行うことにより、第III族金属窒化物膜を製造する。更に、フラックス金属又は合金や未反応の第III族金属を化学処理により除去してもよい。また、物理的に或いは化学的に基板から第III族金属窒化物膜を剥離してもよい。
【0025】
[実施例4]
[窒化ガリウム膜の製造]
これまで述べてきたフラックス膜被覆スパッタリング法により、窒化ガリウム膜を製造した。このとき、Snが、サファイア基板上にGaN膜を成長させるためにフラックス材料として用いられた。窒素ラジカルを生成させるためにZrO
2ターゲットが用いられ、ガリウムの融点が低いので、GaNターゲットがGa源として用いられた。Ga-Snフラックス膜を付着させるため、20WがそれぞれGaNターゲット及びSnターゲットに供給され、10 sccmで、Arガスが流された。続いて、基板温度が610℃に上げられ、窒素プラズマから生成される窒素ラジカルを導入することにより窒化が30分間行われた。窒化工程の後、サファイア基板上のGaN膜は、フラックス金属又は合金を溶解するため塩酸水溶液にドブ漬けされた。
図8は、サファイア基板上に得られたGaN膜のX線回折パターンを示す。サファイア基板上にc軸配向したGaN膜がフラックス膜被覆スパッタリング法により得られた。X線回折パターン結果から、フラックス膜被覆スパッタリング法がAlNや他の窒化物を成長させる期待される方法であることが分かる。
【0026】
[基板]
基板としては、単結晶であることが好ましい。製造する窒化物膜と同一の組成からなってもよい。また、異なる組成であってもよい。熱処理により、窒化を行うため、高い融点を有する単体又は化合物が好ましい。融点は、フラックスとして使用する金属又は合金よりも高いものが好ましい。また、第III族金属の融点より高いものが好ましい。当然のことながら、好ましい窒化物のエピタキシーが可能な面を有するものが好ましい。また、アルミニウム、ガリウム、インジウムを含む第III族金属と反応しないものが好ましい。特にアルミニウムやガリウムとの反応が抑制的であるものが好ましい。本法の条件下でスズや窒素と反応しないものが好ましい。デバイス用として膜と共に使用する場合は、基板は熱伝導率が高いものが好ましい。フラックス金属又は合金を除去する際の化学処理剤に対して溶解等せず、不活性であることが好ましい。例えば、塩酸(強塩酸を含む)と反応しないものが好ましい。例えば、SiC、Si、サファイア、GaN、ZnO等が使用可能である。
【0027】
[実施例5]
[フラックス金属又は合金の付着]
フラックス金属又は合金としては、融点が低いものが好ましい。融点付近での蒸気圧は低いものが好ましい。蒸気圧が高いと液体状態を維持し難くなるからである。このような金属としては、例えば、Bi(融点:272℃、蒸気圧:1 Pa (668℃)、塩酸中で簡単に溶ける、低価格)、Ga(融点:29.7℃、蒸気圧:1Pa (1037℃)、高価)、In(融点:156℃、蒸気圧:1 Pa (923℃)、後処理:塩酸中で簡単に溶ける、高価)、Pb(1.融点:327℃、蒸気圧:1 Pa (705℃)、後処理:硝酸に溶ける、低価格)等が挙げられる。
このようなフラックス金属又は合金の付着方法は、スパッタリングを含む気相方法を含むことができる。蒸着を含んでもよいが、蒸気圧の異なる金属を付着させる場合は注意が必要である。スパッタリング法は、相互の反応性やいわゆる蒸気圧をあまり気にする必要がない点で有利である。また、基板温度を不必要に高温又は低温にする必要がない方法が好ましく、付着速度が高い方法が好ましい。尚、後工程では、窒素ラジカルを形成するので、その形成が容易に行われるような方法が好ましい。尚、本実施例では、基板は、下向きに配置されるが、これに限られる必要はない。基板が上向きであってもよい。
【0028】
[窒素ラジカルの生成]
窒素をフラックス金属又は合金中に溶解させることが好ましい。そのためには、窒素ラジカルを形成することが好ましい。窒素を含む化合物を付着させたフラックス金属又は合金に付着させ、窒素をフラックス金属又は合金中に溶解させる方法を含んでもよい。また、気相中の窒素原子、窒素ラジカル、窒素分子、窒素イオン等をフラックス金属又は合金中に溶解させるためには、界面の面積を大きくする形状等の工夫をすることができる。また、窒素ラジカルを発生させるためには所定のエネルギーが必要なため、窒素プラズマを生成させることが好ましい。窒素プラズマは、高周波をかけること、マイクロ波等の電磁波による窒素プラズマ形成方法を含んでよい。
上述する[窒素のラジカル化]の方法を行うことができる。
【0029】
[窒化処理]
所定の濃度以上の窒素がフラックス金属又は合金中に含まれる場合は、窒化アルミニウムを含む第III族金属窒化物膜を基板上に形成することができる。その時の基板温度及び/又はフラックス金属又は合金の温度は、第III族金属窒化物を形成可能な温度範囲である。例えば、フラックス金属又は合金の融点以上であってよい。金属又は合金フラックスを液相にすることが好ましいからである。フラックス金属又は合金にSnを含む場合は、Snの融点以上であってもよい。フラックス金属又は合金にSnを含み、窒化アルミニウム膜を製造する場合は、300℃以上が好ましい。350℃以上、400℃以上、450以上が好ましい。温度が高すぎると、フラックス金属又は合金の蒸発等、不都合なこともあるので、高すぎないことが好ましい。1300℃以下、1000℃以下、又は610℃以下であってもよい。昇温は、実施例2のように、基板ホルダにいずれのヒーターを設置しても良く、例えば、抵抗加熱ヒータ及び/又は放射ヒータで加熱してもよい。放射ヒータとしては、レーザ光、キセノンランプ等、既存の技術を適用できる。
係る窒化処理の停止は、温度を下げることにより、及び/又は、供給する窒素を停止することにより行うことができる。
窒化処理に引き続いて、固化後に、歪を除去する熱処理を行ってもよい。雰囲気は、必要に応じて窒素を含ませることができる。
【0030】
[フラックス金属等の除去]
フラックス金属又は合金や未反応の金属等を化学処理剤で除去してもよい。
【0031】
以上のように、所定の工程を行うことにより、結晶性に優れる第III族金属窒化物膜を形成することができる。これによって、好ましい表面弾性波デバイス、パワーデバイス、発光ダイオード或いは圧電素子のような電子材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 窒化アルミニウム膜を製造する装置 12 基板 14 ヒータ
16 放射ヒータ 18 真空系 20 チャンバ
22 アルミニウムターゲット 23、25、27 カソード
24 スズターゲット 26 ジルコニアターゲット 28 高周波電源
30 制御装置 32 ガス源 34 電源ケーブル