(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065625
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】開瞼器
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20220420BHJP
【FI】
A61F9/007 200A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159761
(22)【出願日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2020174001
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517344251
【氏名又は名称】株式会社MIRAI EYE
(74)【代理人】
【識別番号】100114764
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100178124
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】飽浦 淳介
(72)【発明者】
【氏名】津田 基史
(57)【要約】
【課題】本発明は、眼瞼を簡単かつ安全に開くことができる開瞼器を提供することを目的とする。
【解決手段】本開瞼器を眼瞼Gに設置する際、把持部1を閉じることにより第1のアーム部21と第2のアーム部22を介して第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更したあと、把持部1を開いていくことにより第1のアーム部21と第2のアーム部22を介して第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させていく。これにより、第1の掛止部31と第2の掛止部32を上眼瞼G1と下眼瞼G2の眼瞼縁にそれぞれ同時にスムーズに掛け止めながら、眼瞼を簡単かつ安全に開くことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術において眼瞼を開くために用いられる開瞼器であって、
上眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第1の掛止部と、
下眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第2の掛止部と、
前記第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする把持機構とを備え、
前記把持機構は、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭める際、前記第1の掛止部の開口方向を上眼瞼側の上方から眼球側の後方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を下眼瞼側の下方から眼球側の後方に変更させる一方、
前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を拡げる際、前記第1の掛止部の開口方向を眼球側の後方から上眼瞼側の上方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を眼球側の後方から下眼瞼側の下方に変更させることを特徴とする開瞼器。
【請求項2】
前記把持機構は、眼瞼よりも耳側または鼻側において上下方向に延びる把持部と、
前記把持部の上側部から上眼瞼側に延びて前記第1の掛止部に連設する第1のアーム部と、
前記把持部の下側部から下眼瞼側に延びて前記第2の掛止部に連設する第2のアーム部とを備え、
前記把持部の上側部と下側部が近接方向に閉じられると、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部が互いに近接しながら眼瞼に対して相対的に軸回転し、それに伴って第1の掛止部と第2の掛止部が互いに間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させる一方、
前記把持部の上側部と下側部が離間方向に開かれると、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部が互いに離間しながら眼瞼に対して相対的に軸回転し、それに伴って前記第1の掛止部と前記第2の掛止部が互いに間隔を拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させる請求項1に記載の開瞼器。
【請求項3】
前記把持部は、上下方向に沿って山型形状に形成されている請求項2に記載の開瞼器。
【請求項4】
前記把持部は、上側部と下側部を開く方向に弾性力を有する部材から構成される請求項2または請求項3に記載の開瞼器。
【請求項5】
前記把持部は、上側部と下側部を開く方向に付勢するバネ部材が設けられている請求項2から請求項4のいずれかに記載の開瞼器。
【請求項6】
前記把持部は、弾性変形可能な線状部材により構成され、
一端部が第1のアーム部に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に延びる上側部と、
一端部が第2のアーム部に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に延びる下側部と、
一端部が前記上側部の他端部に折り返される態様で連設され、かつ他端部が前記下側部の他端部に折り返される態様で連設され、上側部と下側部の間においてループ状に形成されたループ部とを備え、
前記ループ部の弾性力により前記上側部と前記下側部が開く方向に付勢される請求項2に記載の開瞼器。
【請求項7】
前記把持部は、上側部と下側部が所定の角度以上に開くことを規制するストッパーが設けられている請求項2から請求項6のいずれかに記載の開瞼器。
【請求項8】
前記第1のアーム部および前記第2のアーム部は、前記把持部の上側部および下側部から前記第1の掛止部および前記第2の掛止部に向かって互いに離れるように延びる請求項2から請求項7のいずれかに記載の開瞼器。
【請求項9】
前記第1の掛止部および前記第2の掛止部は、前記第1のアーム部および前記第2のアーム部よりも後方に位置するように設けられている請求項2から請求項8のいずれかに記載の開瞼器。
【請求項10】
前記第1の掛止部および前記第2の掛止部は、眼瞼の裏側の結膜嚢に挿入されるスライド部と、眼瞼縁に引っ掛けられる引掛部とを備える請求項1から請求項9のいずれかに記載の開瞼器。
【請求項11】
前記第1の掛止部および前記第2の掛止部は、開口方向を後方から上方または下方に変更した際、眼瞼の平面方向に対して後方に25°~45°の傾斜角度の範囲内で傾斜した状態を維持する請求項1から請求項10のいずれかに記載の開瞼器。
【請求項12】
前記第1の掛止部および前記第2の掛止部は、間隔を狭めたり、または拡げたりすることを補助するための第2の把持機構が設けられている請求項1から請求項11のいずれかに記載の開瞼器。
【請求項13】
眼科手術において眼瞼を開くために用いられる開瞼器であって、
上眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第1の掛止部と、
下眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第2の掛止部と、
前記第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする連結機構とを備え、
前記連結機構は、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭める際、前記第1の掛止部の開口方向を上眼瞼側の上方から眼球側の後方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を下眼瞼側の下方から眼球側の後方に変更させる一方、
前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を拡げる際、前記第1の掛止部の開口方向を眼球側の後方から上眼瞼側の上方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を眼球側の後方から下眼瞼側の下方に変更させることを特徴とする開瞼器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白内障手術等の眼科手術において眼瞼を開くために用いられる開瞼器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、白内障手術等の眼科手術を行う場合、眼瞼の内部や周辺部を消毒し、ドレープを載置したあと、開瞼器により眼瞼を開くことにより術野を拡大した状態にする。
【0003】
この開瞼器は、一般に眼瞼の平面方向に平行な状態で設けられるアーム部と、該アーム部の先端部に設けられた一対の掛止部とから構成され、掛止部の開口方向は互いに外側に反対方向に向くように形成されている。そして、この開瞼器として、
図12に示すように、掛止部を開閉する方式によって、バネ式、ネジ式、スライド式など、様々なものが知られている。
【0004】
このうち、バネ式の開瞼器は、アーム部の基端部がU字状またはV字状に屈曲しており、この屈曲部分のバネの弾性力を利用しながらアーム部を開閉させることにより、アーム部の先端部に設けられた掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする。具体的には、アーム部を把持して屈曲部のばねの弾性力に抗しながらアーム部を閉じていくと、それに伴ってアーム部の先端部に設けられた一対の掛止部の間隔が次第に狭まり、そのまま一対の掛止部を眼瞼に引っ掛ける。その後、アーム部の把持力を弱めながら屈曲部のばねの弾性力によりアーム部を開いていくと、それに伴って掛止部の間隔が次第に広がり、眼瞼が上下方向に開く(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、ネジ式の開瞼器は、アーム部の基端部にネジ機構が設けられており、このネジ機構によりアーム部を開閉させることにより、掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする。
【0006】
また、スライド式の開閉器は、アーム部の基端部がスライド機構が設けられており、このスライド機構によりアーム部を開閉させることにより、掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の開瞼器は、アーム部が上眼瞼と下眼瞼の平面方向に沿って開閉する構造であるため、アーム部の開閉に伴って、掛止部も眼瞼の平面方向に沿って間隔を狭めたり、拡げたりすることとなり、掛止部の開口方向も眼瞼の平面方向に向いたままの状態であった。
このため、一対の掛止部を上眼瞼と下眼瞼に引っ掛けようとしても、掛止部の開口方向は眼瞼の平面方向に向いたままの状態であるのに対して、実際の眼瞼の裏側は眼球壁に沿って斜め後方の奥側に向かって傾斜しているため、掛止部を上眼瞼と下眼瞼に同時に掛け止めることが難しかった。しかも、掛止部は先端部からアーム部側の基端部まで一定の長さを有するのに対して、実際の上眼瞼と下眼瞼の平面方向の輪郭は緩やかな山型に湾曲しているため、その点からも掛止部を上眼瞼と下眼瞼に同時に掛け止めることは難しかった。
このことから、実際の手術時においては、掛止部を眼瞼に引っ掛けるために、掛止部の間隔を狭めた状態のまま開瞼器全体を眼瞼側に傾けて、眼瞼に近い一方の掛止部を上眼瞼または下眼瞼の一方に引っ掛けたあと、他方の掛止部を上眼瞼または下眼瞼の他方に引っ掛けなければならなかった。しかも、アーム部を閉じて掛止部の間隔を狭めたときに、構造上、掛止部の耳側(アーム部側)の端部を狭めにくいため、結果として、掛止部を様々な方向に傾けたり、開瞼器を持つ手と反対の手で眼瞼を開いたりしながら、掛止部を眼瞼に引っ掛けることが行われており、開瞼器の設置作業が面倒であるという問題があった。
【0009】
また、従来の開瞼器(特にバネ式の開瞼器)は、一対の掛止部の間隔を狭めた際、掛止部の耳側(アーム部側)の端部は狭めにくい状態となる一方、掛止部の間隔を広げた際、逆に掛止部の鼻側の端部は開きにくいという構造上の問題があり、手術中に十分な術野を確保しづらいという問題もあった。
【0010】
また、奥目の患者(皮下組織が厚かったり、眼球が奥側に存在し、眼瞼表面に対して眼球が相対的に深い位置にある患者)では、眼瞼下の結膜嚢が眼球壁に沿って斜め後方の奥側に向かって深いところに存在しているため、従来の開瞼器(掛止部の開口方向が眼瞼の平面方向に向いたまま間隔が狭まったり、広がったりする開瞼器)により奥目の人の眼瞼を開こうとすると、掛止部が眼瞼を過度に前方に持ちあげてしまい、結果として奥目を増強させて手術操作が難しくなったり、水溜まりを増強させて視認性を低下させたり、あるいは眼瞼組織を傷付けて術後の眼瞼下垂を誘発する場合があるという問題もあった。
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、白内障手術等の眼科手術においてあらゆる患者の眼瞼を簡単かつ安全に開くことができる開瞼器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、眼科手術において眼瞼を開くために用いられる開瞼器であって、上眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第1の掛止部と、下眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第2の掛止部と、前記第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする把持機構とを備え、前記把持機構は、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭める際、前記第1の掛止部の開口方向を上眼瞼側の上方から眼球側の後方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を下眼瞼側の下方から眼球側の後方に変更させる一方、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を拡げる際、前記第1の掛止部の開口方向を眼球側の後方から上眼瞼側の上方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を眼球側の後方から下眼瞼側の下方に変更させることを特徴とする。
【0013】
これによれば、開瞼器を眼瞼に設置する際、把持機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させたあと、把持機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させていく過程において、第1の掛止部と第2の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入していき、上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼を開いていくことによって、あらゆる患者の眼瞼を簡単かつ安全に開くことができる。
【0014】
また、前記把持機構は、眼瞼よりも耳側または鼻側において上下方向に延びる把持部と、前記把持部の上側部から上眼瞼側に延びて前記第1の掛止部に連設する第1のアーム部と、前記把持部の下側部から下眼瞼側に延びて前記第2の掛止部に連設する第2のアーム部とを備え、前記把持部の上側部と下側部が近接方向に閉じられると、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部が互いに近接しながら眼瞼に対して相対的に軸回転し、それに伴って第1の掛止部と第2の掛止部が互いに間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させる一方、前記把持部の上側部と下側部が離間方向に開かれると、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部が互いに離間しながら眼瞼に対して相対的に軸回転し、それに伴って前記第1の掛止部と前記第2の掛止部が互いに間隔を拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させてもよい。これによれば、開瞼器を眼瞼に設置する際、把持部を閉じることにより第1のアーム部と第2のアーム部を介して第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更したあと、把持部を開いていくことにより第1のアーム部と第2のアーム部を介して第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させていく過程において、第1の掛止部と第2の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入させ易くなるともに、上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼を開き易くなる。
【0015】
また、前記把持部は、上下方向に沿って山型形状に形成させてもよい。これによれば、把持部の上側部と下側部を簡単かつ確実に近接離間方向に開閉し得るため、第1の掛止部と第2の掛止部の間隔および開口方向を簡単かつ確実に変更させることができる。
【0016】
また、前記把持部は、上側部と下側部を開く方向に弾性力を有する部材から構成されてもよい。これによれば、把持部を閉じた状態から把持力を弱めていくと、把持部が有する弾性力により把持部が自動的に離間方向に開くため、眼瞼をスムーズに開くことができる。
【0017】
また、前記把持部は、上側部と下側部を開く方向に付勢するバネ部材が設けられてもよい。これによれば、把持部を閉じた状態から把持力を弱めていくと、把持部のバネ部材の付勢力により把持部が自動的に離間方向に開くため、眼瞼をスムーズに開くことができる。
【0018】
また、前記把持部は、弾性変形可能な線状部材により構成され、前記上側部と前記下側部がループ状に形成されてもよい。すなわち、一端部が第1のアーム部に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に延びる上側部と、一端部が第2のアーム部に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に延びる下側部と、一端部が前記上側部の他端部に折り返される態様で連設され、かつ他端部が前記下側部の他端部に折り返される態様で連設され、上側部と下側部の間においてループ状に形成されたループ部とを備え、前記ループ部の弾性力により前記上側部と前記下側部が開く方向に付勢されてもよい。これによれば、把持部の上側部と下側部を簡単かつ確実に近接離間方向に開閉し得るため、第1の掛止部と第2の掛止部の間隔および開口方向を簡単かつ確実に変更させることができる。また、把持部を閉じた状態から把持力を弱めていくと、ループ部が有する弾性力により把持部の上側部と下側部が自動的に離間方向に開くため、眼瞼をスムーズに開くことができる。さらに、弾性変形可能な線状部材を単にループ状に形成する構成であるため、開瞼器の製造コストを抑えることができる。
【0019】
また、前記把持部は、上側部と下側部が所定の角度以上に開くことを規制するストッパーが設けられてもよい。これによれば、把持部が所定の角度以上に開くことを規制することができる。
【0020】
また、前記第1のアーム部および第2のアーム部は、前記把持部の上側部および下側部から前記第1の掛止部および前記第2の掛止部に向かって互いに離れるように延びてもよい。これによれば開瞼器を眼瞼に設置した際、把持部を掛止部よりも後方に配置することができ、手術中の器具操作を行い易くなる。
【0021】
また、前記第1の掛止部および第2の掛止部は、前記第1のアーム部および第2のアーム部よりも後方に位置するように設けられてもよい。これによれば、第1の掛止部と第2の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入させ易くなるともに、上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼を開き易くなり、特に奥目の患者にも本開瞼器を容易に設置することが可能となる。
【0022】
また、前記第1の掛止部および第2の掛止部は、眼瞼の裏側の結膜嚢に挿入されるスライド部と、眼瞼縁に引っ掛けられる引掛部とを備えてもよい。これによれば、第1の掛止部および第2の掛止部のスライド部を上眼瞼および下眼瞼の結膜嚢にスライドさせながら挿入するとともに、第1の掛止部および第2の掛止部の引掛部を上眼瞼および下眼瞼の眼瞼縁に引っ掛けることにより、簡易な構成にして眼瞼を簡単かつ安全に開くことができる。
【0023】
また、前記第1の掛止部および第2の掛止部は、開口方向を後方から上方または下方に変更した際、眼瞼の平面方向に対して後方に25°~45°の傾斜角度の範囲内で傾斜した状態を維持してもよい。これによれば、本開瞼器により眼瞼を開いた際、上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁が過度に前方に浮き上がることを防止することができる。
【0024】
また、前記第1の掛止部および第2の掛止部は、間隔を狭めたり、または拡げたりすることを補助するための第2の把持機構が設けられてもよい。これによれば、第2の把持機構を開閉することにより第1の掛止部および第2の掛止部の間隔を補助的に狭めたり、拡げたりすることができる。
【0025】
また、本発明に係る開瞼器は、眼科手術において眼瞼を開くために用いられる開瞼器であって、上眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第1の掛止部と、下眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第2の掛止部と、前記第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする連結機構とを備え、前記連結機構は、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭める際、前記第1の掛止部の開口方向を上眼瞼側の上方から眼球側の後方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を下眼瞼側の下方から眼球側の後方に変更させる一方、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を拡げる際、前記第1の掛止部の開口方向を眼球側の後方から上眼瞼側の上方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を眼球側の後方から下眼瞼側の下方に変更させることを特徴とする。
【0026】
これによれば、開瞼器を眼瞼に設置する際、連結機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させたあと、連結機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させていく過程において、第1の掛止部と第2の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入していき、上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼を開いていくことによって、あらゆる患者の眼瞼を簡単かつ安全に開くことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、開瞼器を眼瞼に設置する際、把持機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させたあと、把持機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させていくことによって、第1の掛止部と第2の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入していき、上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼を開いていくことによって、あらゆる患者の眼瞼を簡単かつ安全に開くことができる。
【0028】
また、掛止部の間隔を拡げた際、掛止部の先端部および基端部のいずれも開きやすい構造であるため、手術中に十分な視野を確保することができる。
【0029】
また、掛止部により眼瞼を前方に持ち上げることがなく、あるいは軽減されるため、奥目の人に対して開瞼器を設置する場合、奥目を増強させて手術操作を難しくしたり、水溜まりを増強させて視認性を低下させたり、眼瞼組織を傷付けて術後の眼瞼下垂を誘発することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る開瞼器の斜視図である。
【
図2】
図1の開瞼器の(a)平面図、(b)側面図、(c)底面図である。
【
図3】
図1の開瞼器の(a)背面図および(b)正面図、(c)角度説明図である。
【
図4】
図1の開瞼器を動作を説明するための開瞼器の(a)平面図、(b)背面図、(c)正面図である。
【
図5】
図1の開瞼器により眼瞼を開く過程を示す平面図である。
【
図6】
図1の開瞼器により眼瞼を開く過程を示す正面図である。
【
図10】第2の実施形態に係る開瞼器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1の実施形態>
次に、本発明に係る開瞼器の第1の実施形態について、
図1~
図6を参照しつつ説明する。なお、本発明では、手術を受ける患者の眼瞼Gは上眼瞼G1と下眼瞼G2からなり、上眼瞼G1と下眼瞼G2が並ぶ方向を上下方向(
図5(a)の上下方向、
図6(a)の左右方向)、眼瞼Gが延びる方向を左右方向(
図5(a)の左右方向))、眼瞼Gを貫く方向を前後方向(
図6(a)の上下方向)とする。
【0032】
[本開瞼器の構成]
本開瞼器は、
図1に示すように、把持部1と、該把持部1に設けられたアーム部2と、アーム部2の先端部に設けられた掛止部3とを備える。
【0033】
前記把持部1は、全体として上下方向に沿って屈曲した山型形状に形成されており、上側に配置される第1の把持板部11(上側部)と、下側に配置される第2の把持板部12(下側部)と、第1の把持板部11と第2の把持板部12とを開閉可能に連結するヒンジ部13とを備える。
【0034】
前記第1の把持板部11および第2の把持板部12は、いずれも平面視矩形状に形成された板状部材であって、山型形状を構成しながら互いに突き合わされた状態となっている。なお、第1の把持板部11および第2の把持板部12が突き合わされた部分が把持部1の山型形状の頂上部Kを構成する。
【0035】
また、前記第1の把持板部11は、上側端部11aが患者の顔面側の後方に屈曲する一方、前記第2の把持板部12は、下側端部12aが患者の顔面側の後方に屈曲している。このため、第1の把持板部11および第2の把持板部12の上側端部11aおよび下側端部12aを指で把持することにより、把持部1を山型形状の頂上部Kを基軸にしながら開閉し易くなっている。
【0036】
前記ヒンジ部13は、第1の把持板部11の裏面に設けられた第1のヒンジ片131と、第2の把持板部12の裏面に設けられた第2のヒンジ片132と、第1のヒンジ片131と第2のヒンジ片132を回動可能な状態で軸支する軸部133とを備え、第1のヒンジ片131と第2のヒンジ片132が軸部133を中心に開閉するのに伴って、第1の把持板部11と第2の把持板部12がヒンジ部13を介して開閉するものとなされている。
【0037】
また、前記ヒンジ部13は、裏面にバネ部材134が設けられており、該バネ部材134により把持部1の頂上部Kを基軸として第1の把持板部11と第2の把持板部12を開く方向に付勢している。
【0038】
なお、把持部1は、頂上部Kの表面側にストッパー14が設けられている。このストッパ14は、全体として上下方向に沿って山型形状に形成され、第1の把持板部11の表面に固定された第1のストッパー片141と、第2の把持板部12の表面に当接する第2のストッパー片142とからなる。これによれば、第1の把持板部11と第2の把持板部12がヒンジ部13の付勢力により離間方向に開く際、ストッパー14の第2のストッパー片142が第2の把持板部12に当接することにより、第1の把持板部11と第2の把持板部12が所定の角度(ストッパー14の屈曲角度)以上に開くことを規制することができる。
【0039】
前記アーム部2は、前記把持部1の第1の把持板部11に設けられた細長板状の第1のアーム部21と、前記把持部1の第2の把持板部12に設けられた細長板状の第2のアーム部22とを備える。
【0040】
前記第1のアーム部21は、前記把持部1の第1の把持板部11から左右方向に沿って上眼瞼G1側に延びている。また、前記第2のアーム部22は、前記把持部1の第2の把持板部12から左右方向に沿って下眼瞼G2側に延びている。このため、第1のアーム部21および第2のアーム部22は、互いに所定距離を隔てながら眼瞼Gの左右方向に沿って概ね平行な状態で延びている。
【0041】
前記掛止部3は、第1のアーム部21の先端部に設けられた第1の掛止部31と、第2のアーム部22の先端部に設けられた第2の掛止部32とを備える。
【0042】
前記第1の掛止部31は、上眼瞼G1の裏側の結膜嚢に挿入される板状のスライド部31aと、上眼瞼G1の眼瞼縁に引っ掛けられる引掛部31bとを備える。スライド部31aは、上眼瞼G1に対して後斜め上方に傾斜しながら延びている。また、引掛部31bは、スライド部31aの先端部および基端部から前斜め上方に向けて屈曲しながら延びている。
【0043】
前記第2の掛止部32は、下眼瞼G2の裏側の結膜嚢に挿入される板状のスライド部32aと、下眼瞼G2の眼瞼縁に引っ掛けられる引掛部32bとを備える。スライド部32aは、下眼瞼G2に対して後斜め下方に傾斜しながら延びている。また、引掛部32bは、スライド部32aの先端部および基端部から前斜め下方に向けて屈曲しながら延びている。
【0044】
而して、第1の掛止部31および第2の掛止部32が上眼瞼G1および下眼瞼G2の眼瞼縁に掛け止められる際、スライド部31aが上眼瞼G1の結膜嚢に後斜め上方に向けて挿入され、かつスライド部32aが下眼瞼G1の結膜嚢に後ろ斜め下方に向けて挿入されるとともに、引掛部31b、32bが上眼瞼G1および下眼瞼G2の眼瞼縁にそれぞれ引っ掛けられることにより、スライド部31a、32aと引掛部31b、32bの間に上眼瞼G1および下眼瞼G2の眼瞼縁が配置される。
【0045】
また、第1の掛止部31および第2の掛止部32は、基端部側の引掛部31b、32bを介して第1のアーム部21および第2のアーム部22に連設しているため、本開瞼器を眼瞼Gに設置した際、第1の掛止部31および第2の掛止部32が第1のアーム部21および第2のアーム部22よりも後方に位置する。このため、第1の掛止部31と第2の掛止部32を上眼瞼G1と下眼瞼G2の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入させ易くなるともに、上眼瞼G1と下眼瞼G2の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼Gを開き易くなり、特に奥目の患者にも本開瞼器を容易に設置することが可能となる。
【0046】
なお、第1の掛止部31および第2の掛止部32は、
図3(b)に示すように、スライド部31a、32aと引掛部31b、32bにより正面視でU字状に形成され、該U字状の開口している方向(本実施形態では、スライド部32aの上方または下方に延びる方向)を開口方向とする。
【0047】
[本開瞼器の動作]
次に本開瞼器の動作について、
図4を参照しつつ説明する。
【0048】
まず、本開瞼器が開いた自然状態(
図4の点線)において、把持部1の第1の把持板部11と第2の把持板部12を把持して、ヒンジ部13のバネ部材134の付勢力に抗しながら内側方向に把持力を作用させると、
図4の実線に示すように、把持部1が後方に折れ曲がるようにして第1の把持板部11と第2の把持板部12が山型形状の頂上部Kを基軸としながら近接方向に閉じていく。
【0049】
そして、このように第1の把持板部11と第2の把持板部12が近接方向に閉じていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに近接しながら眼瞼Gに対して相対的に90度の範囲内で軸回転する。このとき、
図4(c)の実線に示すように、第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔を狭めながら眼瞼Gに対して横倒状態から起立状態に姿勢を変更し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向を上方または下方から後方に変更し、最終的に本開瞼器が閉じた状態(
図4の実線)に移行する。このとき、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向は、互いに後方の同じ方向に向いている。
【0050】
一方、本開瞼器が閉じた状態(
図4の実線)において、把持部1に対する把持力を弱めると、
図4の点線に示すように、ヒンジ部13のバネ部材134の付勢力によって把持部1が元の開いた状態に戻るようにして第1の把持板部11と第2の把持板部12が山型形状の頂上部Kを基軸としながら離間方向に開いていく。
【0051】
そして、このように第1の把持板部11と第2の把持板部12が離間方向に開いていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに離間しながら眼瞼Gに対して相対的に90度の範囲内で軸回転する。このとき、
図4(c)の点線に示すように、第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔を拡げながら眼瞼Gに対して起立状態から横倒状態に姿勢を変更し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向を後方から上方または下方に変更し、最終的に本開瞼器が開いた状態(
図4の点線)に移行する。このとき、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向は、互いに上方および下方の逆方向に向いている。
【0052】
なお、本実施形態では、本開瞼器は、完全に開いた自然状態(
図4の点線)において、把持部1の第1の把持板部11および第2の把持板部12が眼瞼の平面方向(
図5の左右方向かつ
図5の上下方向からなる平面方向)に対して後方に傾斜しており、それに伴って第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向も眼瞼Gの平面方向に対して後方に傾斜した状態で上方および下方に向いている。このときの第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向の傾斜角度αについては、特に限定されるものではないが、眼瞼Gの平面方向に対して25°~45°の傾斜角度の範囲内であるのが好ましい(
図3(c)参照)。
【0053】
また、本開瞼器は、完全に閉じた状態(
図4の実線)において、把持部1の第1の把持板部11および第2の把持板部12が眼瞼Gの平面方向に対して垂直に近い状態で傾斜しており、それに伴って第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向も眼瞼Gの平面方向に対してほぼ垂直か垂直に近い状態に傾斜している。このときの第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向の傾斜角度βについては、特に限定されるものではないが、眼瞼Gの平面方向に対して60°~90°の傾斜角度の範囲内であるのが好ましい(
図3(c)参照)。
【0054】
[本開瞼器の設置方法]
次に本開瞼器を眼瞼Gに設置する方法について説明する。
【0055】
まず、
図5(a)および
図6(a)に示すように、本開瞼器を眼瞼Gの前方に所定距離を隔てながら配置した際、完全に開いた自然状態の把持部1の第1の把持板部11と第2の把持板部12を山型形状の頂上部Kを基軸としながらバネ部材134の付勢力に抗して近接方向に閉じていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに近接しながら眼瞼Gに対して相対的に軸回転し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔を狭めながら眼瞼Gに対して横倒状態から起立状態に姿勢を変更することによって、本開瞼器を完全に閉じた状態に移行させる。このとき、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向は、眼瞼Gに対して上方および下方から後方に変更する。
【0056】
そして、
図5(b)および
図6(b)に示すように、本開瞼器を眼瞼Gに掛け止める際、閉じた状態の把持部1の第1の把持板部11と第2の把持板部12を山型形状の頂上部Kを基軸としながらバネ部材134の付勢力により離間方向に次第に開いていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに離間しながら眼瞼Gに対して相対的に軸回転し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔を拡げながら眼瞼Gに対して起立状態から傾斜状態に姿勢を次第に変更する。このとき、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向は、眼瞼Gに対して後方から眼瞼Gに対して後斜め上方および後斜め下方に変更するため、第1の掛止部31および第2の掛止部32のスライド部31a、32aをそれぞれ上眼瞼G1および下眼瞼G2の裏側の結膜嚢に後斜め上方および後斜め下方に向けて同時にスライドさせながら挿入していく。
【0057】
そして、
図5(c)および
図6(c)に示すように、本開瞼器により眼瞼Gを開く際、半ば開いた状態の把持部1の第1の把持板部11と第2の把持板部12を山型形状の頂上部Kを基軸としながらバネ部材134の付勢力により離間方向にさらに開いていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに離間しながら眼瞼Gに対して相対的に軸回転し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔をさらに拡げながら眼瞼Gに対して傾斜状態から横倒状態に姿勢を次第に変更する。このとき、第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向は、眼瞼Gに対して後斜め上方および後斜め下方から上方および下方に変更するため、第1の掛止部31および第2の掛止部32の引掛部31b、32bをそれぞれ上眼瞼G1および下眼瞼G2の眼瞼縁に引っ掛けながら、上眼瞼G1および下眼瞼G2を所定の位置まで開いていく。このあと、本開瞼器の把持部1を眼球Eの横側の顔面又はドレープ上に載置して、上眼瞼G1および下眼瞼G2を開いた状態を維持する。
【0058】
このように、開瞼器を眼瞼Gに設置する際、把持部1を閉じることにより第1のアーム部21と第2のアーム部22を介して第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させたあと、把持部1を開いていくことにより第1のアーム部21と第2のアーム部22を介して第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させる過程において、第1の掛止部31と第2の掛止部32を上眼瞼G1と下眼瞼G2の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入していき、上眼瞼G1と下眼瞼G2の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼を開いていくことによって、眼瞼Gを簡単かつ安全に開くことができる。
【0059】
なお、術後に本開瞼器を取り外す際には、上述の本開瞼器の設置と逆の動作を行えば、本開瞼器を眼瞼Gから簡単かつ確実に取り外すことができる。
【0060】
なお、本実施形態では、把持部1と第1のアーム部21および第2のアーム部22を把持機構として構成したが、その他の構成の把持機構であってもよい。要は、第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を狭める際、第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向を眼瞼Gに対して上方または下方から後方に変更させる一方、第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を拡げる際、第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向を眼瞼Gに対して後方から上方または下方に変更させる把持機構であれば、その構成は限定されない。
【0061】
また、前記把持部1は、上下方向に沿って屈曲した山型形状に形成したが、上下方向に緩やかに湾曲した山型形状に形成してもよい。あるいは、前記把持部1は、開いた自然状態では平坦な形状であって、把持力を作用させた閉じた状態において山型形状に移行するものであってもよい。
【0062】
また、前記把持部1は、バネ部材134により第1の把持板部11と第2の把持板部12を開く方向に付勢するものとしたが、把持部1が有する弾性力により第1の把持板部11と第2の把持板部12を開く方向に付勢してもよい。
【0063】
また、前記把持部1は、第1の把持板部11と第2の把持板部12が所定の角度以上に開くことを規制するストッパー14を設けるものとしたが、ストッパー14を設けなくてもよい。
【0064】
また、前記第1の掛止部31および第2の掛止部32は、眼瞼Gの裏側の結膜嚢に挿入するスライド部31a、32aと、眼瞼縁に引っ掛けられる引掛部31b、32bとを備える構成としたが、その他の構成であってもよい。
【0065】
また、掛止部3は、スライド部31a、31bを板状に形成したが、
図7に示すように、弾性変形可能な線状部材に形成してもよい。
【0066】
また、前記把持部1は、
図7や
図8に示すように、第1の把持板部11と第2の把持板部12が板バネ部材で形成され、両者の中央の頂点部Kが
図1に示す把持部1のヒンジ部13のように機能してもよい。
【0067】
また、前記第1のアーム部21および前記第2のアーム部22は、把持部1の第1の把持板部11および第2の把持板部12から第1の掛止部31および第2の掛止部32互いに平行に延びるものとしたが、必ずしも平行に延びていなくてもよい。例えば、
図8に示すように、第1のアーム部21および前記第2のアーム部22は、把持部1の上側部および下側部から第1の掛止部31および第2の掛止部32に向かって互いに近接するように延びるものが挙げられる。これによれば、本開瞼器を眼瞼Gに設置した際、把持部1を第1の掛止部31および第2の掛止部32よりも後方に配置することができ、手術中の器具操作を行い易くなる。
【0068】
また、第1の掛止部31および第2の掛止部32は、間隔を狭めたり、または拡げたりすることを補助するための第2の把持機構が設けられてもよい。例えば、
図8に示すように、本開瞼器の第1の掛止部31の先端部側の引掛部31bおよび第2の掛止部32の引掛部32bを長く形成すると、これら先端部側の引掛部31b、32bが第2の把持機構として機能する。これによれば、第2の把持機構(先端部側の引掛部31b、32b)を開閉することにより第1の掛止部31および第2の掛止部32の間隔を補助的に狭めたり、拡げたりすることができる。
【0069】
また、本開瞼器は、把持部1およびアーム部2からなる把持機構に代わって、連結機構により第1の掛止部31と第2の掛止部32を開閉させてもよい。具体的には、この連結機構は、
図9に示すように、第1の掛止部31と第2の掛止部32の両端部を上下方向に沿って連結する2本の復元力を有する弾性の連結部15、15を備える。これによれば、本開瞼器を眼瞼Gに設置する際、第1の掛止部31と第2の掛止部32を近接方向に押圧しながら連結機構の連結部15、15を山型に閉じることにより、第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させたあと、第1の掛止部31と第2の掛止部32に対する押圧を次第に弱めていきながら連結機構の連結部15、15を開いていくことにより、第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させる。そして、この動作の過程において、第1の掛止部31と第2の掛止部32のスライド部31a、32aを上眼瞼G1と下眼瞼G2の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入していくとともに、第1の掛止部31と第2の掛止部32の引掛部31b、32bを上眼瞼G1と下眼瞼G2の眼瞼縁に引っ掛けることによって、第1の掛止部31と第2の掛止部を眼瞼Gの眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼Gを簡単かつ安全に開いていくことができる。
【0070】
なお、
図9に示す開瞼器において
図1に示すような把持部1およびアーム部2からなる把持機構を脱着可能に設けてもよい。具体的には、第1のアーム部21と第2のアーム部22の先端部を引掛部31b、32bに脱着可能に連結する。これによれば、把持部1およびアーム部2により開瞼器を眼瞼Gに設置したあと、手術中は把持部1およびアーム部2を開瞼器から外すことができる一方、開瞼器を眼瞼Gから取り外すときには把持部1およびアーム部2を再び開瞼器に接続したあと、把持部1およびアーム部2により開瞼器を眼瞼Gから取り外すことができる。また、把持部1およびアーム部2以外の器具を用いて開瞼器を眼瞼Gに設置したり、眼瞼Gから取り外してもよい。
【0071】
また、本開瞼器の材質は特に限定されるものではないが、例えば、PMMA、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコンゴム、ポリプロピレン、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアセタールポリマー、ステンレスやチタン等の金属、形状回復性の良い樹脂やゴムなどの一ないし複数の材料から形成されることが挙げられる。
【0072】
<第2の実施形態>
次に、本発明に係る開瞼器の第2の実施形態について、
図10および
図11を参照しつつ説明する。なお、以下では上記の実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、同一の構成については説明を省略して同一の符号を付すこととする。
【0073】
本実施形態に係る開瞼器は、
図10に示すように、把持部1、アーム部2(前記第1のアーム部21および第2のアーム部22)、および掛止部3(第1の掛止部31および第2の掛止部32)が金属等の弾性変形可能な一の線状部材を曲折することにより構成されている。
【0074】
前記把持部1は、
図10に示すように、一端部が第1のアーム部21に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に左右方向に延びる上側部11と、他端部が第2のアーム部22に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に左右方向に延びる下側部12と、上側部11と下側部12の間に設けられたループ部16と、ループ部16の後側に設けられたヒンジグリップ部17とを備える。
【0075】
前記ループ部16は、一端部が上側部11の他端部に折り返される態様で連設され、かつ他端部が下側部12の他端部に折り返される態様で連設され、上側部11と下側部12の間において略円形のループ状に形成されている。
【0076】
前記ループ部16の形状について具体的に説明すると、
図11に示すように、平面視(左右・上下方向)において、上側部11の左側の他端部から下側部12に向けて
図11の左斜め下方向に延び、第1の曲折箇所P1で
図11の左斜め上方向に緩やかに曲折しながら延びたあと、第2の曲折箇所P2で上側部11に向けて
図11の右斜め上方向に緩やかに曲折しながら延び、第3の曲折箇所P3で
図11の右斜め下方向に緩やかに曲折しながら延びていき、下側部12の左側の他端部に連設される。
【0077】
また、側面視(左右・前後方向)において、上側部11の左側の他端部から左斜め前方向に延び、第1の曲折箇所P1で左斜め後方向に緩やかに曲折しながら延びたあと、第2の曲折箇所P2で緩やかに曲折しながら右斜め前方向に延び、第3の曲折箇所P3で右斜め後方向に緩やかに曲折しながら延びていき、下側部12の左側の他端部に連設される。
【0078】
また、前記ループ部16は、上記構造によりバネのような弾性力を有し、このループ部16の弾性力により上側部11と下側部12が開く方向に付勢される。なお、本実施形態では、前記ループ部16は、一のループを形成しているが、これに限られず、二以上のループを形成してもよい。また、前記ループ部16は、アーム部21,22から前方の垂直方向に延びてもよい。
【0079】
前記第1のアーム部21および第2のアーム部22は、
図11(a)に示すように、把持部1の上側部11と下側部12が自然に開いた状態において、掛止部3側の端部同士が把持部1側の端部同士よりも離間したハの字形状に形成され、
図11(b)に示すように、前記把持部1の上側部11と下側部12が近接方向に閉じられたときに互いに平行な状態になる
【0080】
前記ヒンジグリップ部17は、上側部11と下側部12の間に架設された帯状部材である。このヒンジグリップ部17は、上側部11と下側部12とループ部16により構成される把持機構を補助する第2の把持機構であって、上側部11と下側部12が開閉される際に開瞼器が型崩れするのを抑制するとともに、上側部11と下側部12が開かれる際に上側部11と下側部12が所定の角度以上に開くことを規制する。また、開閉機能は同じで、構造の異なる2つの把持機構を有することにより、バネ力を向上させるとともに非常にスムーズな開閉を実現することが可能となる。
【0081】
また、前記ヒンジグリップ部17は、その後方に眼瞼G内の液体を排出する排液器が接続固定される。これによれば、開瞼器を眼瞼Gに配置する操作により、排液器と開瞼器を一体的に設置することができる。
【0082】
而して、本開瞼器が開いた自然状態(
図11(a))において、把持部1の上側部11と下側部12を把持して、ループ部16の付勢力に抗しながら内側方向に把持力を作用させると、ループ部16が上側部11および下側部12の前側に浮き上がりながら、上側部11と下側部12が近接方向に閉じていく。
【0083】
そして、このように上側部11と下側部12が近接方向に閉じていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに近接しながら眼瞼Gに対して相対的に90度の範囲内で軸回転する。このとき、第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔を狭めながら眼瞼Gに対して横倒状態から起立状態に姿勢を変更し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向を上方または下方から後方に変更し、最終的に本開瞼器が閉じた状態(
図11(b))に移行する。このとき、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向は、互いに後方の同じ方向に向いている。
【0084】
一方、本開瞼器が閉じた状態(
図11(b))において、把持部1に対する把持力を弱めると、ループ部16が当初の位置に復帰するように後側に沈みながら、上側部11と下側部12が離間方向に開いていく。
【0085】
そして、このように上側部11と下側部12が離間方向に開いていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに離間しながら眼瞼Gに対して相対的に90度の範囲内で軸回転する。このとき、第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔を拡げながら眼瞼Gに対して起立状態から横倒状態に姿勢を変更し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向を後方から上方または下方に変更し、最終的に本開瞼器が開いた状態(
図11(a))に移行する。このとき、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向は、互いに上方および下方の逆方向に向いている。
【0086】
これによれば、把持部1の上側部11と下側部12を簡単かつ確実に近接離間方向に開閉し得るため、第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔および開口方向を簡単かつ確実に変更させることができる。また、把持部1を閉じた状態から把持力を弱めていくと、ループ部16が有する弾性力により把持部1の上側部11と下側部12が自動的に離間方向に開くため、眼瞼Gをスムーズに開くことができる。さらに、把持部1は弾性変形可能な線状部材を単にループ状に形成する構成であるため、開瞼器の製造コストを抑えることができる。
【0087】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1…把持部
11…上側部(第1の把持板部)
12…下側部(第2の把持板部)
13…ヒンジ部
131…第1のヒンジ片
132…第2のヒンジ片
133…軸部
134…バネ部材
14…ストッパー
141…第1のストッパー片
142…第2のストッパー片
15…連結部
16…ループ部
17…ヒンジグリップ部
2…アーム部
21…第1のアーム部
22…第2のアーム部
3…掛止部
31…第1の掛止部
31a…スライド部
31b…引掛部
32…第2の掛止部
32a…スライド部
32b…引掛部