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特開2022-65628耐電圧特性に優れた絶縁体用ポリオレフィン樹脂組成物およびそれにより製造された成形品
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  • 特開-耐電圧特性に優れた絶縁体用ポリオレフィン樹脂組成物およびそれにより製造された成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065628
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】耐電圧特性に優れた絶縁体用ポリオレフィン樹脂組成物およびそれにより製造された成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20220420BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C08L53/00
C08L23/08
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163399
(22)【出願日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】10-2020-0133080
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0102025
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】515253049
【氏名又は名称】ハンファ トータル ペトロケミカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】イ ウンウン
(72)【発明者】
【氏名】キム ボンソク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ヨンソン
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB052
4J002BP021
4J002GQ01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性、耐電圧特性、直流絶縁特性、および機械的物性に優れた軟質ポリオレフィン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)プロピレン単独重合体またはエチレン-プロピレンランダム共重合体とエチレン-プロピレンゴム共重合体とが反応器内で段階的に重合されて得られるエチレン-プロピレンブロック共重合体50重量%~100重量%と、(B)エチレン-αオレフィンゴム共重合体0~50重量%とを含むポリオレフィン樹脂組成物であって、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)中のそれぞれの金属性触媒残渣の含有量が5ppm以下であり、金属性触媒残渣の総含有量が50ppm以下であり、ポリオレフィン樹脂組成物の溶融温度(Tm)が150℃以上であり、該溶融温度と結晶化温度(Tc)との差(Tm-Tc)が45℃以下である、ポリオレフィン樹脂組成物とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)と成分(B)との総重量を基準に、プロピレン単独重合体またはエチレン-プロピレンランダム共重合体とエチレン-プロピレンゴム共重合体とが反応器内で段階的に重合され得られるエチレン-プロピレンブロック共重合体(A)50重量%~100重量%と、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)0~50重量%とを含むポリオレフィン樹脂組成物であって、
前記エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)中のそれぞれの金属性触媒残渣の含有量が5ppm以下であり、
前記金属性触媒残渣の総含有量が50ppm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂組成物の溶融温度(Tm)が150℃以上であり、該溶融温度と結晶化温度(Tc)との差(Tm-Tc)が45℃以下である、ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属性触媒残渣がMg、Ti、Si、およびAlからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項3】
動的粘弾性測定装置(DMA)で測定する際、前記エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)中のゴム成分のガラス転移温度が-60℃~-40℃にて表れる、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)中のαオレフィンが炭素数3~8である、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)が、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-1-ブテンゴム、エチレン-ブチレンゴム、エチレン-1-ペンテンゴム、エチレン-1-ヘキセンゴム、エチレン-1-ヘプテンゴム、エチレン-1-オクテンゴム、およびエチレン-4-メチル-1-ペンテンゴムからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項4に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項6】
前記エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)中のαオレフィンの含有量が10重量%~90重量%である、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項7】
溶融温度(Tm)が150℃~165℃にてある、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項8】
動的粘弾性測定装置で測定する際、前記ポリオレフィン樹脂組成物中のゴム成分のガラス転移温度が-60℃~-40℃にて表れる、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項9】
酸化防止剤、中和剤、UV安定剤、長期耐熱安定剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、補強材、充填材、耐候安定剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、難燃剤、顔料、および染料からなる群より選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項10】
前記添加剤が前記ポリオレフィン樹脂組成物100重量部に対して1.0重量部以下の含有量で追加される、請求項9に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項によるポリオレフィン樹脂組成物を成形して製造されるポリオレフィン樹脂成形品。
【請求項12】
曲げ弾性率が600MPa以下であり、耐寒打撃温度が-40℃以下である、請求項11に記載のポリオレフィン樹脂成形品。
【請求項13】
常温で測定する際に体積抵抗が1016Ω・cm以上である、請求項11に記載のポリオレフィン樹脂成形品。
【請求項14】
常温~60℃にてPEA(pulse electro acoustic)法により測定した空間電荷特性において、ヘテロ空間電荷の累積現象が発生しない、請求項11に記載のポリオレフィン樹脂成形品。
【請求項15】
電力ケーブルの絶縁層である、請求項11に記載のポリオレフィン樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁特性に優れ、電力ケーブルへの使用に好適なポリオレフィン樹脂組成物およびそれにより製造された成形品に関するものである。詳細には、耐熱性、耐電圧特性、直流絶縁特性、および機械的物性に優れたポリオレフィン樹脂組成物およびそれにより製造された成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ポリプロピレン樹脂は、優れた剛性と高い耐熱性、化学薬品に対する安定性と高い絶縁特性により、電子製品の重要な部品の包装、自動車用電気部品のハウジング、電気製品の主要部位の保護、小型電熱器の表面などと、高い電圧に対する絶縁特性および耐熱性を同時に必要とする製品に広く利用される。
【0003】
しかし、ポリプロピレン樹脂は剛性が高く、曲げる際に白化現象が生じるため、屈曲のある部品に適用することが困難で、衝撃に脆弱であり、特に低温で容易に破壊される性質があるため、屋外環境や屈曲の多い部位への設置および使用が困難である。
【0004】
したがって、このような環境で使用される電力ケーブル用絶縁体としては、ポリエチレン、エチレン-プロピレンゴム共重合体(ethylene-propylene rubber;EPR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム共重合体(ethylene-propylene-diene rubber;EPDM)などを架橋して使用することもある。
【0005】
ところが、架橋されたポリエチレン、EPRまたはEPDMを使用する場合、製品の寿命が尽きたり、不良が発生したりすると、リサイクルが不可であり、これを焼却するしかないので環境にやさしくない。
【0006】
一方、非架橋状の高密度ポリエチレン(HDPE)、線形低密度ポリエチレン(LLDPE)または低密度ポリエチレン(LDPE)の場合、リサイクルは可能であるが、耐熱性が低いため高温で変形が発生して溶融されるため、運転温度が高温である高電圧ケーブルに使用することは難しい。
【0007】
ポリプロピレン樹脂の欠点を補完し、高温稼働温度および耐衝撃特性を補完するために、ポリプロピレンにポリオレフィンエラストマー(polyolefin elastomer;POE)、EPDM、スチレン-エチレン-ブテン-スチレンゴム(styrene-ethylene-butene-styrene rubber;SEBS)共重合体などを混合したポリオレフィン組成物を使用する絶縁体の開発が試みられている。
【0008】
しかし、結晶性高分子であるポリプロピレンとは異なり、非晶性高分子であるPOE、EPDM、SEBSなどは、耐熱特性や誘電特性が低いため、これを混合したポリオレフィン組成物の絶縁特性も急激に低下する。
【0009】
このような欠点を改善するために、特許文献1には、有機核剤を添加したポリプロピレン樹脂を絶縁層に使用した電力ケーブルが開示されている。しかし、核剤によってポリプロピレン樹脂組成物の剛性が増加するため軟性が大幅に低下した。
【0010】
また、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5および特許文献6は、ポリプロピレンと、SEBS、カタロイ(Catalloy(登録商標))、POEなどとを混合した樹脂を用いてポリプロピレンの耐熱性、耐薬品性、耐電圧特性とともに軟性と耐衝撃性とを改善した絶縁材料が開示されている。しかし、該樹脂組成物の場合、相分離が発生してポリプロピレンとゴムとの間に界面が生成されることによって、電気絶縁特性が低下したり、耐熱特性が低下したりし得る。
【0011】
また、非特許文献1によると、EPR、POE、EPDM、SEBSなどの共重合体は電気定数が高いため、これを混合したポリオレフィン樹脂組成物は、誘電率が増加し耐電圧特性が低下して絶縁体として効果的ではなく、温度が上がるほど耐電圧特性が急激に低下するゴム共重合体の特性により、高温における使用には不適である。
【0012】
一方、架橋高分子やポリプロピレンの場合は、架橋残渣や触媒の残渣が外部電圧によって帯電され絶縁体に加えられる電場を高め、その結果、絶縁破壊強度が低下する現象が発生するので、直流絶縁体として使用するのに不適である。これを改善するために、別途添加剤や電圧安定剤として有機または無機充填剤を用いる場合があるが、高い直流電圧においては、これらがヘテロ電荷の役割をして、むしろ空間電荷が累積され電界に歪みが生じるという欠点が発生する。
【0013】
これを改善するために、特許文献7においては、線形低密度ポリエチレンにカルボキシル基を含む変性ポリエチレン樹脂を添加して直流絶縁体を成形することによって絶縁破壊強度を改善しようとしており、特許文献8においては、ナノサイズの触媒システムを適用したポリプロピレン樹脂の直流絶縁特性を改善しようとした。また、特許文献9においては、ポリエチレンまたはポリプロピレン絶縁樹脂にナノ無機粒子(酸化マグネシウム、炭素粒子、酸化ケイ素、二酸化チタンなど)を混合して、体積抵抗率に優れ、絶縁破壊強度に優れた絶縁物質を製造する方法を開示している。しかし、このような方法は、ナノ粒子をポリオレフィン内に均一に分散し難いという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2014-0053204号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10-2121072号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10-2141732号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10-2082674号公報
【特許文献5】韓国登録特許第10-2082673号公報
【特許文献6】韓国登録特許第10-1946945号公報
【特許文献7】韓国公開特許第10-2008-007653号公報
【特許文献8】国際公開第2013/030206号
【特許文献9】韓国公開特許第10-2011-0110928号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Hosier et al., J. Mater. Sci., 46, 4058(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記のような問題点を解決するために、本発明の目的は、耐熱性、耐電圧特性、直流絶縁特性、および機械的物性に優れた軟質ポリオレフィン樹脂組成物を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、前記ポリオレフィン樹脂組成物から製造される成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するための本発明の一実施例により、成分(A)と成分(B)との総重量を基準に、(A)プロピレン単独重合体またはエチレン-プロピレンランダム共重合体とエチレン-プロピレンゴム共重合体とが反応器内で段階的に重合されて得られるエチレン-プロピレンブロック共重合体50重量%~100重量%と、(B)エチレン-αオレフィンゴム共重合体0~50重量%とを含むポリオレフィン樹脂組成物であって、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)中のそれぞれの金属性触媒残渣の含有量が5ppm以下であり、金属性触媒残渣の総含有量が50ppm以下であり、ポリオレフィン樹脂組成物の溶融温度(Tm)が150℃以上であり、該溶融温度と結晶化温度(Tc)との差(Tm-Tc)が45℃以下である、ポリオレフィン樹脂組成物が提供される。
【0019】
本発明の実施例において、金属性触媒残渣は、Mg、Ti、Si、およびAlからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。
【0020】
本発明の実施例において、動的粘弾性測定装置(dynamic mechanical analyzer;DMA)で測定する際、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)中のゴム成分のガラス転移温度が-60℃~-40℃にて表れ得る。
【0021】
本発明の実施例において、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)中のαオレフィンは、炭素数が3~8であり得る。具体的に、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)は、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-1-ブテンゴム、エチレン-ブチレンゴム、エチレン-1-ペンテンゴム、エチレン-1-ヘキセンゴム、エチレン-1-ヘプテンゴム、エチレン-1-オクテンゴム、およびエチレン-4-メチル-1-ペンテンゴムからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。好ましくは、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)は、エチレン-プロピレンゴムであり得る。
【0022】
本発明の実施例において、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)中のαオレフィン含有量は、10重量%~90重量%である。
【0023】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂組成物の溶融温度(Tm)が150℃~165℃であり得る。
【0024】
本発明の実施例において、動的粘弾性測定装置で測定する際、ポリオレフィン樹脂組成物中のゴム成分のガラス転移温度が-60℃~-40℃にて表れ得る。
【0025】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、酸化防止剤、中和剤、UV安定剤、長期耐熱安定剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、難燃剤、顔料、および染料からなる群より選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含み得る。
【0026】
なお、添加剤は、ポリオレフィン樹脂組成物100重量部に対して1.0重量部以下の含有量で追加され得る。
【0027】
本発明の他の実施例により、前記ポリオレフィン樹脂組成物を成形して製造されるポリオレフィン樹脂成形品が提供される。
【0028】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂成形品は、曲げ弾性率が600MPa以下であり、耐寒打撃温度が-40℃以下であり得る。
【0029】
本発明の実施例において、常温で測定する際、ポリオレフィン樹脂成形品の体積抵抗が1016Ω・cm以上であり得る。
【0030】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂成形品は、常温~60℃にてPEA法により測定した空間電荷特性において、ヘテロ空間電荷の累積現象が発生しない。
【0031】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂成形品は、電力ケーブルの絶縁層であり得る。
【発明の効果】
【0032】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、耐熱性、耐電圧特性、直流絶縁特性、および機械的物性に優れ、ヘテロ電荷による空間電荷が発生せず、架橋が不要であるため、リサイクルが可能で環境に優しい。したがって、これにより製造されるポリオレフィン樹脂成形品は、電力ケーブルの絶縁層として効果的に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、架橋ポリエチレン(XLPE)商業製品、比較例1の組成物、および実施例1の組成物の空間電荷累積状態を示す図である。
図2図2は、架橋ポリエチレン商業製品、比較例1の組成物、および実施例1の組成物の、温度による絶縁破壊強度を示すグラフである。
図3図3は、実施例1および比較例2の樹脂組成物のガラス転移温度を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0035】
[ポリオレフィン樹脂組成物]
本発明の一実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)との総重量を基準に、(A)プロピレン単独重合体またはプロピレン-αオレフィンランダム共重合体とエチレン-プロピレンゴム共重合体とが反応器内で段階的に重合されて得られるエチレン-プロピレンブロック共重合体50重量%~100重量%と、(B)エチレン-αオレフィンゴム共重合体0~50重量%とを含む。
【0036】
(A)エチレン-プロピレンブロック共重合体
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を含む。この際、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)は、プロピレン単独重合体またはエチレン-プロピレンランダム共重合体と、エチレン-プロピレンゴム共重合体とが、反応器内で段階的に重合されて得られるものである。
【0037】
本発明の実施例において、まず、プロピレン単独重合体またはエチレン-プロピレンランダム共重合体のポリプロピレン系マトリックス(matrix)が重合され、次いで該ポリプロピレン系マトリックスにエチレン-プロピレンゴム成分がブロック共重合され、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)樹脂が調製され得る。
【0038】
本発明の実施例において、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)は、それぞれの金属性触媒残渣の含有量が5ppm以下であり、金属性触媒残渣の総含有量が50ppm以下、好ましくは30ppm以下であり得る。金属性触媒残渣の総含有量が50ppmを超えると、金属成分によって成形品の絶縁性が低下して絶縁破壊強度が低くなり、誘電率が上がって絶縁性能が低下する。
【0039】
本発明の実施例において、前記金属性触媒残渣は、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)の重合に使用された触媒に由来するものであり得る。したがって、前記金属性触媒残渣は、ポリプロピレン系樹脂の重合に使用される触媒に由来するものであれば如何なるものも可能である。具体的に、前記金属性触媒残渣は、Mg、Ti、Si、およびAlからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。
【0040】
本発明の実施例において、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)中のゴム成分は、動的粘弾性測定装置(dynamic mechanical analyzer;DMA)で測定する際、ガラス転移温度(glass transition temperature;Tg)が-60~-40℃にて鮮明に表れ得る。この際、アイゾット衝撃試験によるポリオレフィン樹脂組成物の耐寒衝撃強度が2kgf・cm/cm以上であり得る。
【0041】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)との総重量を基準に、前記エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を50重量%~100重量%の含有量で含む。エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)の含有量が50重量%未満であると、成形品の耐熱性が低下し、加熱変形が激しくなり、高温の運転において外形の変化が深刻となり得る。
【0042】
前記エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を調製する方法に特に制限はなく、本発明が属する技術分野に公知のエチレン-プロピレンブロック共重合体の調製方法をそのまま、または適宜変形して使用し得る。
【0043】
好ましくは、バルク(bulk)反応器2台と気相反応器1台とが直列に連結され連続的に重合し得る三井(Mitsui)社のハイポール(登録商標)プロセス(Hypol process)を利用して、通常の技術者に公知の重合方法によりエチレン-プロピレンブロック共重合体を調製し得る。
【0044】
具体的に、1段目と2段目の反応器においては、プロピレンを単独注入してプロピレン単独重合体を生成するか、エチレンを追加注入してエチレン-プロピレンランダム共重合体を生成し得る。エチレン-プロピレンランダム共重合体の重合の際には、各重合反応器にて同量のエチレンが共重合され得る。続く3段目の反応器においては、エチレンとプロピレンとを投入してエチレン-プロピレンゴム成分をブロック共重合することにより、最終的なエチレン-プロピレンブロック共重合体が得られ得る。生成される共重合体の溶融指数は、各反応器に水素を注入して制御し得る。
【0045】
本発明の実施例において、触媒は、塩化マグネシウムまたはジアルコキシマグネシウム担体にチタン化合物と内部電子供与体を反応させて調製され得る。たとえば、チーグラー・ナッタ触媒は、反応開始剤であるハロゲン化合物または窒素ハロゲン化合物の存在下で金属マグネシウムとアルコールとを反応させて得られるジアルコキシマグネシウム粒子からなる担体と、四塩化チタンおよび内部電子供与体とを含んでなり得る。
【0046】
なお、ジアルコキシマグネシウム担体の調製に用いられる金属マグネシウム粒子の形状には大きく制限はないが、その平均粒径が10μm~300μmの粉末状が好ましく、50μm~200μmの粉末状がより好ましい。金属マグネシウムの平均粒径が10μm未満であると、生成物である担体の平均粒子サイズが非常に微細となり好ましくない。金属マグネシウムの平均粒径が300μmを超えると、担体の平均粒子サイズが非常に大きくなり、担体の形状が均一な球形になり難いので好ましくない。
【0047】
前記で得られた触媒は、助触媒として有機アルミニウム化合物(例えば、トリエチルアルミニウム)および外部電子供与体としてジアルキルジアルコキシシラン系化合物(例えば、ジシクロペンチルジメトキシシラン)とともに用いることが好ましい。
【0048】
(B)エチレン-αオレフィンゴム共重合体
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)を含み得る。エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)は、成形品の軟性を改善する役割をし得る。
【0049】
本発明の実施例において、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)中のαオレフィンは、炭素数が3~8であり得る。具体的に、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)は、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-1-ブテンゴム、エチレン-ブチレンゴム、エチレン-1-ペンテンゴム、エチレン-1-ヘキセンゴム、エチレン-1-ヘプテンゴム、エチレン-1-オクテンゴム、およびエチレン-4-メチル-1-ペンテンゴムからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。好ましくは、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)がエチレン-プロピレンゴムであり得る。
【0050】
本発明の実施例において、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)中のαオレフィンの含有量が10重量%~90重量%である。具体的に、エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)をフーリエ変換赤外分光光度計で測定する際、αオレフィンの含有量が10重量%~90重量%である。αオレフィンの含有量が10重量%未満であると、エチレン含有量が過量であるため、ポリプロピレン系マトリックスと相分離が発生して成形品の軟性と機械的物性が低下し、界面に沿って電気通路が生成され絶縁特性が低下する。αオレフィンの含有量が90重量%を超えると、樹脂組成物のガラス転移温度が高く形成され、-40℃にて成形品の耐寒衝撃特性が悪くなる。
【0051】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)との総重量を基準に、前記エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)を0~50重量%の含有量で含み得る。エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)が追加されると、成形品の軟性が改善されるが、50重量%を超えると、成形品の耐熱特性が急激に減少し得る。
【0052】
エチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)は、前記で述べたハイポールプロセスに続く4段目の気相反応器において、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)の存在下でエチレンとαオレフィン単量体とを追加供給して重合し得る。
【0053】
別の方法として、ハイポールプロセスで得られたエチレン-プロピレンブロック共重合体(A)に、商業的に入手可能なエチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)をブレンドすることにより、本発明のポリオレフィン樹脂組成物を調製することもできる。商業的に入手可能なエチレン-αオレフィンゴム共重合体(B)は、Versify(登録商標、ダウ・ケミカル社)、Vistamaxx(登録商標、ExxonMobil社)、Tafmer(登録商標、三井化学社)、KEP(錦湖石油化学社)、Engage(登録商標、ダウ・ケミカル社)、Exact(登録商標、ExxonMobil社)、Lucene(登録商標、LG化学社)、Solumer(SKケミカル社)などが挙げられるが、これらに特に制限されるものではない。
【0054】
(C)非極性αオレフィン重合体
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、非極性αオレフィン重合体(C)をさらに含み得る。非極性αオレフィン重合体(C)は、成形品の曲げ弾性率が増加することを防ぎながら、誘電率と耐電圧特性を維持する役割をする。
【0055】
本発明の実施例において、非極性αオレフィン重合体(C)は、低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、およびエチレンとαオレフィンとの三元共重合体からなる群より選択される少なくとも1つを含み得るが、これらに特に制限されない。
【0056】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)との100重量部を基準に、非極性αオレフィン重合体(C)を10重量部以下の含有量でさらに含み得る。非極性αオレフィン重合体(C)の含有量が10重量部を超えると、ポリオレフィン樹脂組成物と界面を形成して耐電圧特性が低下し、曲げ弾性率が高くなり過ぎて、電線素材としての軟性を確保するのが難しい。
【0057】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物を調製する方法に特に制限はなく、本発明が属する技術分野に公知のブレンド法をそのまま、または適宜変形して使用し得る。
【0058】
具体的に例えると、前記で述べた各樹脂と後述する添加剤とを必要な量だけニーダー(kneader)、ロール(roll)、バンベリーミキサー(Banbury mixer)などの混練機または1軸/2軸押出機などに投入した後、これらの機器を用いて投入された原料をブレンドする方法により、本発明のポリオレフィン樹脂組成物が調製され得る。
【0059】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂組成物は、溶融温度(Tm)が150℃以上である。好ましくは、ポリオレフィン樹脂組成物の溶融温度(Tm)が150℃~165℃であり得る。該溶融温度が150℃よりも低いと、ポリオレフィン樹脂組成物の耐熱性が十分でないため、高い温度で運転される高電圧電力ケーブルに使用されるには不適である。
【0060】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂組成物は、溶融温度(Tm)と結晶化温度(Tc)との差(Tm-Tc)が45℃以下である。溶融温度と結晶化温度との差が45℃を超えると、製品成形のために溶融状態のポリオレフィン樹脂組成物を冷却して結晶化する際、基核(nuclei)の数が少なく結晶成長(crystal growth)が遅れて球晶(spherulite)のサイズが大きくなるため、成形品の電気的特性が低下する。
【0061】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂組成物は、ASTM D1238に基づいて2.16kgの荷重で230℃にて測定する際、溶融指数が0.5g/10分~10g/10分であり得る。ポリオレフィン樹脂組成物の溶融指数が0.5g/10分未満であると、押出工程に適しておらず、10g/10分を超えると、分子量が低いため成形品の耐電圧特性が低下し得る。
【0062】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂組成物は、キシレン(xylene)溶剤により常温で抽出する際に抽出されるゴム成分(つまり、溶剤抽出物)の含有量が25重量%~50重量%であり、好ましくは30重量%~45重量%であり得る。該ゴム成分の含有量が25重量%未満であると、成形品の強度が高いため可撓性が低下し、ゴム成分の含有量が50重量%を超えると、成形品の加熱変形率が高く、引張強度および伸び率が低いため耐熱特性および加工性が低下する。
【0063】
本発明の実施例において、キシレン溶剤で抽出されたポリオレフィン樹脂組成物中のゴム成分は、135℃のデカリン溶媒において測定される固有粘度が2.0dl/g~4.0dl/gであり得る。該固有粘度が2.0dl/g未満であると、成形品の衝撃強度が好ましくなく、4.0dl/gを超えると、ゴム成分の凝集が発生することがあり、界面の面積が低下して空間電荷が容易に累積され得る。
【0064】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂組成物中のゴム成分は、動的粘弾性測定装置(dynamic mechanical analyzer;DMA)で測定する際、ガラス転移温度(glass transition temperature;Tg)が-60℃~-40℃において鮮明に表れ得る。この場合、アイゾット衝撃試験によるポリオレフィン樹脂組成物の耐寒衝撃強度が2kgf・cm/cm以上であり得る。
【0065】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、本発明の目的から外れない範囲内で添加剤を含み得る。例えば、本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、酸化防止剤、中和剤、UV安定剤、長期耐熱安定剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、難燃剤、顔料、および染料からなる群より選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含み得るが、これらに特に制限されるものではない。
【0066】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂組成物は、耐熱安定性を増加させるために酸化防止剤を含み得る。
【0067】
この際、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤などが使用されて良く、具体的にテトラキス(メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシリレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート)、1,3,5-トリメチル-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、およびトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトからなる群より選択される少なくとも一つであり得るが、これらに特に制限されるものではない。
【0068】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂組成物は、触媒残渣を除去するための中和剤としてハイドロタルサイト、ステアリン酸カルシウムなどを含み得るが、これらに限定されるものではない。
【0069】
本発明の実施例において、添加剤は、ポリオレフィン樹脂組成物100重量部に対して1.0重量部以下の含有量で加えられ得る。
【0070】
[成形品]
本発明の他の実施例により、前記ポリオレフィン樹脂組成物を成形して製造されるポリオレフィン樹脂成形品が提供される。
【0071】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物から成形品を製造する方法に特に制限はなく、本発明が属する技術分野に公知の方法を使用し得る。例えば、本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物を、射出成形、押出成形、キャスティング成形などの通常の方法により成形して、ポリオレフィン樹脂成形品を製造し得る。
【0072】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂成形品は、曲げ弾性率が600MPa以下であり、好ましくは550MPa以下、より好ましくは500MPa以下であり得る。
【0073】
また、本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂成形品は、耐寒打撃温度が-40℃以下であり得る。
【0074】
したがって、本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂成形品は、曲げ弾性率が600MPa以下であり、耐寒打撃温度が-40℃以下であり得る。
【0075】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂成形品は、常温で測定する際、体積抵抗が1016Ω・cm以上であり得る。体積抵抗が該範囲内の場合、成形品が絶縁体として機能し得る。
【0076】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂成形品は、常温~60℃にてPEA(pulse electro acoustic)法により測定した空間電荷特性において、ヘテロ空間電荷の累積現象が発生しない。
【0077】
本発明の実施例において、ポリオレフィン樹脂成形品は、電力ケーブルの絶縁層であり得る。
【0078】
(実施例)
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を例示するためのものであるのみ、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0079】
[触媒の調製]
撹拌機とオイルヒーター、冷却還流装置が装着された5Lサイズのガラス反応器を窒素で十分に換気した後、N-クロロコハク酸イミド1.65g、金属マグネシウム(平均粒径100μmの粉末製品)15g、無水エタノール240mLを投入し、撹拌速度を240rpmで維持しながら反応器の温度を78℃に上げて、エタノールが還流される状態を維持した。約5分が経過すると反応が開始され水素が発生するので、発生する水素が抜けていくように、反応器の出口を開放した状態にして反応器の圧力を常圧に維持した。
【0080】
水素発生が終わると、金属マグネシウム(平均粒径100μmの粉末製品)15gとエタノール240mLとを3回に分けて20分毎に投入した。金属マグネシウムとエタノールとの注入がすべて終わると、反応器の温度および撹拌速度を還流状態で2時間維持した(熟成処理)。
【0081】
熟成処理が終わった後、50℃にて洗浄1回当りノルマルヘキサン2000mLを用いて結果物を3回洗浄した。洗浄済みの結果物を流れる窒素下で24時間乾燥して、流動性の良い白色粉末状の固体生成物であるジエトキシマグネシウム270g(収率96%)を得た。調製されたジエトキシマグネシウムは平均粒径37μmの球形であり、粒度分布指数が0.78、見掛け密度が0.32g/mLであった。
【0082】
撹拌機が設置され窒素で十分に置換された1Lサイズのガラス反応器にトルエン150mLと、前記調製済みのジエトキシマグネシウム25gとを投入して10℃に維持した。四塩化チタン25mLをトルエン50mLに希釈して1時間かけて投入した後、反応器の温度を60℃まで毎分0.5℃の速度で昇温した。反応混合物を60℃にて1時間維持した後、撹拌を止めて固体生成物が沈殿するまで待って上澄み液を除去し、新たにトルエン200mLを用いて15分間撹拌した後、静置して上澄み液を除去する方法により1回洗浄した。
【0083】
四塩化チタンで処理された前記固体生成物にトルエン150mLを添加して、温度を30℃に維持した状態で、250rpmで撹拌しながら四塩化チタン50mLを1時間かけて一定の速度で投入した。四塩化チタンの投入が完了すると、ジイソブチルフタレート2.5mLを投入し、反応器の温度を110℃まで80分間かけて一定の速度で昇温した(毎分1℃の速度で昇温)。昇温過程において、反応器の温度が40℃と60℃に達したとき、それぞれジイソブチルフタレート2.5mLを追加投入した。
【0084】
110℃にて1時間維持した後、90℃に温度を下げて撹拌を止め上澄み液を除去し、さらにトルエン200mLを用いて撹拌した後、静置して上澄み液を除去する方法により1回洗浄した。これにトルエン150mLと四塩化チタン50mLとを投入し、温度を110℃まで上げて1時間維持した。熟成過程が終わった前記スラリー混合物を毎回当たりトルエン200mLで2回洗浄し、40℃にてノルマルヘキサンで毎回200mLずつ5回洗浄して、淡黄色の触媒を得た。これを流れる窒素において18時間乾燥して得られた乾燥触媒中のチタン含有量は2.70重量%であった。
【0085】
[エチレン-プロピレンブロック共重合体の調製]
前記で調製された触媒を用い、助触媒としてトリエチルアルミニウムおよび外部電子供与体としてジシクロペンチルジメトキシシランを使用した。エチレン-プロピレンブロック共重合体の重合は、バルク反応器2台と気相反応器1台が直列に連結され連続的に重合し得る三井(Mitsui)社のハイポールプロセス(Hypol process)を利用した。バルク反応器である1段目反応器の運転温度と圧力は、68℃~75℃、25kg/cm~35kg/cmであり、2段目反応器の運転温度と圧力は、60℃~67℃、20kg/cm~30kg/cmであった。気相反応器である3段目反応器の運転温度と圧力は、75℃~82℃、15kg/cm~20kg/cmであった。1、2段目バルク反応器にてプロピレン単独重合体を重合する場合には、各反応器にプロピレンとともに水素をさらに注入して溶融指数を調整しており、エチレン-プロピレンランダム共重合体を重合する場合には、各反応器にて同量のエチレンが共重合できるようにエチレンとプロピレンとの割合を調整した。
【0086】
また、比較のために架橋ポリエチレン(XLPE)商業製品(ボレアリス社のLS4201)を使用した。
【0087】
(実施例1)
前記で述べたハイポールプロセスと触媒とを用いて、プロピレン単独重合体にエチレン-プロピレンゴム共重合体が重合されたエチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を調製した。
【0088】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により重合するが、1段目と2段目の反応器においてエチレンをそれぞれ1重量%と1.8重量%とを注入してエチレン-プロピレンランダム共重合体を重合した後、エチレン-プロピレンゴム共重合体を重合して、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を調製した。エチレン-プロピレンランダム共重合体を重合する際、各重合反応器にて同量のエチレンが重合されるように工程条件を調節した。
【0089】
(実施例3)
実施例1と同様の方法によりエチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を得て、これにエチレン-プロピレンゴム共重合体(B)(プロピレン含有量80重量%、溶融指数3.0g/10分)を追加で溶融混合した。
【0090】
(実施例4)
実施例1と同様の方法によりエチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を得て、これにエチレン-ブテンゴム共重合体(B)(ブテン含有量40重量%、溶融指数1.0g/10分)を追加で溶融混合した。
【0091】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により重合するが、リヨンデルバセル社(LyondellBasell)のZN118触媒を使用した。
(比較例2)
比較例1と同様の方法により重合するが、1段目と2段目の反応器においてエチレンをそれぞれ1重量%と1.8重量%とを注入してエチレン-プロピレンランダム共重合体を重合した後、エチレン-プロピレンゴム共重合体を重合して、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を調製した。エチレン-プロピレンランダム共重合体を重合する際、各重合反応器にて同量のエチレンが重合されるように工程条件を調節した。
【0092】
(比較例3)
比較例1と同様の方法によりエチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を得て、これにエチレン-プロピレンゴム共重合体(B)(プロピレン含有量80重量%、溶融指数3.0g/10分)を追加で溶融混合した。
【0093】
(比較例4)
比較例1と同様の方法によりエチレン-プロピレンブロック共重合体(A)を得て、これにエチレン-ブテンゴム共重合体(B)(ブテン含有量40重量%、溶融指数1.0g/10分)を追加で溶融混合した。
【0094】
(試験例)
前記実施例1~3および比較例1~5において調製された組成物および成形品試験片の物性を下記の方法および基準に基づいて測定した。その結果を以下の表1および表2に示す。
【0095】
(1)溶融指数(melt index)
ASTM D 1238の方法により、2.16kgの荷重で230℃にて測定した。
【0096】
(2)溶剤抽出物(xylene soluble)の含有量
樹脂組成物をキシレンに1%の濃度で140℃にて1時間溶解した後、常温にて2時間経過した後抽出してその重量を測定し、樹脂組成物全体の重量に対する百分率で表示した。
【0097】
(3)溶剤抽出物の固有粘度
粘度計を用いて、135℃のデカリン溶媒において、前記(2)で得られた溶剤抽出物の固有粘度を測定した。
【0098】
(4)溶融温度
TAインスツルメント社のQ2000示差走査熱量計(differential scanning calorimetry;DSC)を用いて、サンプルを200℃にて10分間等温に維持して熱履歴を除去した後、200℃から30℃まで毎分10℃ずつ冷却しながら結晶化して、同じ熱履歴を持つようにした後、30℃にて10分間等温維持し、さらに毎分10℃ずつ昇温させながらピーク温度から溶融温度(melting temperature;Tm)を求めた。
【0099】
(5)ガラス転移温度
動的粘弾性測定装置(dynamic mechanical analyzer;DMA;TAインスツルメント社のQ800)を用いて、-140℃から2℃/分の速度で145℃まで昇温させ、応力緩和曲線(stress relaxation curve)からゴム成分のガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0100】
(6)金属性触媒残渣
蛍光X線分析装置(X-ray fluorescence;XRF)を用いて、ポリプロピレン系樹脂内部に残存する金属性物質の含有量を測定した。
【0101】
(7)曲げ弾性率(flexural modulus;FM)
ASTM D 790の方法により測定した。射出試験片の規格は100mm×10mm×3mmであった。
【0102】
(8)直流絶縁破壊電圧
ポリプロピレン試験片は、実験用押出機(HAAKE extruder)を用いて200μm厚のシートを作製した後、ASTM D 149-92の方法により、直径12.7mmの球対球電極(sphere electrodes)を用いて、常温にて直流絶縁破壊電圧を測定した。
【0103】
(9)交流絶縁破壊電圧
実験用押出機を用いて250μm厚のポリプロピレンシートを作製した後、ASTM D 149規格に基づいて交流絶縁破壊電圧を測定した。
【0104】
(10)空間電荷測定
実験用押出機を用いて250μm厚のシートを作製した後、それぞれ30℃と60℃において20kV/mm、50kV/mm、100kV/mmで10分間パルスを加えるPEA(pulse electro acoustic)法により空間電荷の生成を観察した。
【0105】
(11)耐寒打撃実験
エタノールとドライアイスとを混合して-40℃に維持されている媒体において、38mm×6.0mm×2.0mmで射出加工された試験片を入れ、2分後に打撃を加えて破壊の有無を記録した。KSC 3004:2002により合計5個の試験片に対して行い、2個以上の試験片が破壊されるとFail、2個未満の試験片が破壊されるとPassとした。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
前記表1と表2および図1図2から確認されるように、本発明の範囲に属する実施例の樹脂組成物は、交流絶縁破壊電圧、直流絶縁破壊電圧、体積抵抗、および空間電荷累積などの電気的特性にいずれも優れている。
【0109】
一方、比較例の樹脂組成物は、エチレン-プロピレンブロック共重合体(A)中の金属性触媒残渣の含有量が高いため、空間電荷累積が発生した。また、架橋ポリエチレン(XLPE)の場合にも、空間電荷累積が発生した。
【0110】
特に、比較例2の樹脂組成物は、溶融温度と結晶化温度との差が大きいので球晶が大きく成長するため、絶縁破壊強度が低かった。エチレン-αオレフィン(B)が溶融混合された比較例3と4の場合、実施例3と4に比べて電気的特性が低下した。比較例5の場合、電気的特性には優れているが、追加の金属安定化剤が投入され空間電荷が累積される問題が発生した。
【0111】
本発明の実施例によるポリオレフィン樹脂組成物は、耐熱性、耐電圧特性、直流絶縁特性および機械的物性に優れるので、これにより製造されるポリオレフィン樹脂成形品は、電力ケーブルの絶縁層として有効に使用され得る。
図1
図2
図3