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  • -抗ウイルス性フィルム及び食品用包装袋 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065629
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】抗ウイルス性フィルム及び食品用包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20220420BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164750
(22)【出願日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020173865
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(72)【発明者】
【氏名】寺本 靖丈
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA01
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA15
3E086BB90
3E086CA01
4F100AB17B
4F100AB24B
4F100AG00B
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100GB23
4F100JC00B
4F100JN06
(57)【要約】
【課題】効率的、経済的、安定した品質での製造が可能であるとともに、汎用的な使用に適した抗ウイルス性フィルムを提供する。また、接触感染に適切に対応した食品用包装袋を提供する。
【解決手段】基材層20と抗ウイルス層30とを含む2層以上で構成され、ISO 21702(2019)に準拠するインフルエンザウイルス又はネコカリシウイルスの少なくとも一方に対しての抗ウイルス活性値が2.0以上の抗ウイルス性能を有するフィルム体であって、抗ウイルス層30は銀及び銅成分を含有する溶解性ガラスの抗ウイルス剤が1重量%以上添加されてフィルム体の表層に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と抗ウイルス層とを含む2層以上で構成され、ISO 21702(2019)に準拠するインフルエンザウイルス又はネコカリシウイルスの少なくとも一方に対しての抗ウイルス活性値が2.0以上の抗ウイルス性能を有するフィルム体であって、
前記抗ウイルス層は銀及び銅成分を含有する溶解性ガラスの抗ウイルス剤が1重量%以上添加されて前記フィルム体の表層に設けられていることを特徴とする抗ウイルス性フィルム。
【請求項2】
前記抗ウイルス層の前記抗ウイルス剤の含有量が3~6重量%である請求項1に記載の抗ウイルス性フィルム。
【請求項3】
前記フィルム体のヘーズ値が7%以下である請求項1又は2に記載の抗ウイルス性フィルム。
【請求項4】
前記フィルム体が、食品包装用フィルムである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の抗ウイルス性フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の抗ウイルス性フィルムで構成されてなることを特徴とする食品用包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性フィルム及び抗ウイルス性フィルムを使用した食品用包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コロナウイルスによる感染症の歴史は古く、近年ではMERSウイルスやSARSウイルスが知られている。ウイルスによる感染症は、ウイルスが口や鼻、目等から体内に入り込むこと等により発症する。ウイルスの感染経路は、主に接触感染、飛沫感染、空気感染等である。ウイルス感染に対しては、抗ウイルス効果を発揮する抗ウイルス剤の研究開発がなされており、特定の金属元素や有機化合物からなる抗ウイルス剤が流通している。これらの抗ウイルス剤は、例えば、接触感染の対策として、建材、寝具、塗料、服飾等の様々な分野の商品に好適に使用される。
【0003】
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行し、日本国内においても連日多数の感染者が確認され、感染症により死に至るケースも報告されている。そして、新型コロナウイルス感染症の拡大により感染症予防の意識が高まり、店頭での商品購入等に際して、安心、安全、衛生的であることが特に要求されるようになっている。
【0004】
例えば、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の店舗では、客が一度手に取った商品を陳列棚へ戻すことがあり、不特定多数の人が同じ商品に触れる機会も少なくない。このように不特定多数の人が触れることは、接触感染の可能性が増加するとして衛生的に好ましくないと気に掛ける人も増えている。そこで、食品や日用雑貨等の各種商品の包装袋に抗ウイルス性を付与する、すなわち包装袋に使用するフィルム状物に抗ウイルス性を付与することで、上記のような接触感染に対応することができると考えられる。
【0005】
抗ウイルス性能を有するフィルム状物としては、例えば、フィルム表面に抗ウイルス剤を塗布して抗ウイルス性能を付与するものが挙げられる。しかしながら、抗ウイルス剤の塗布むらが発生する場合がある等の品質的な問題があった。
【0006】
また、他の抗ウイルス性フィルムとしては、基材となるフィルム上に、抗ウイルス効果があるCu及びPdのうち、少なくとも1種の金属からなる金属粒子を島状に散在させたものが知られている(特許文献1参照)。この従来の抗ウイルス性フィルムでは、金属粒子をスプレー法等の散布工程、あるいはインクジェット法等の転写工程によりフィルム上に付着させて、抗ウイルス効果を付与する。この抗ウイルス性フィルムは、タッチパネル用の保護フィルムや、ディスプレイ用のフィルム等に好適に使用することができ、その他、人が触れやすい適宜の場所に貼り付けて使用することができる。
【0007】
しかしながら、この抗ウイルス性フィルムは、フィルム上に抗ウイルス性を保持させる加工が煩雑であることから経済的に高コストとなり、食品や日用雑貨等の包装袋のような汎用的な使用には不向きであった。特に、抗ウイルス性製品では、接触感染に適切に対応した食品用包装袋が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-134753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、効率的、経済的、安定した品質での製造が可能であるとともに、汎用的な使用に適した抗ウイルス性フィルムを提供する。また、接触感染に適切に対応した食品用包装袋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1の発明は、基材層と抗ウイルス層とを含む2層以上で構成され、ISO 21702(2019)に準拠するインフルエンザウイルス又はネコカリシウイルスの少なくとも一方に対しての抗ウイルス活性値が2.0以上の抗ウイルス性能を有するフィルム体であって、前記抗ウイルス層は銀及び銅成分を含有する溶解性ガラスの抗ウイルス剤が1重量%以上添加されて前記フィルム体の表層に設けられていることを特徴とする抗ウイルス性フィルムに係る。
【0011】
請求項2の発明は、前記抗ウイルス層の前記抗ウイルス剤の含有量が3~6重量%である請求項1に記載の抗ウイルス性フィルムに係る。
【0012】
請求項3の発明は、前記フィルム体のヘーズ値が7%以下である請求項1又は2に記載の抗ウイルス性フィルムに係る。
【0013】
請求項4の発明は、前記フィルム体が、食品包装用フィルムである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の抗ウイルス性フィルムに係る。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4に記載の抗ウイルス性フィルムで構成されてなることを特徴とする食品用包装袋に係る。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る抗ウイルス性フィルムによると、基材層と抗ウイルス層とを含む2層以上で構成され、ISO 21702(2019)に準拠するインフルエンザウイルス又はネコカリシウイルスの少なくとも一方に対しての抗ウイルス活性値が2.0以上の抗ウイルス性能を有するフィルム体であって、前記抗ウイルス層は銀及び銅成分を含有する溶解性ガラスの抗ウイルス剤が1重量%以上添加されて前記フィルム体の表層に設けられているため、従来より低コストで効率的に製造できて品質を安定させることができるとともに、汎用的な使用に適した抗ウイルス性フィルムを提供することができる。
【0016】
請求項2の発明に係る抗ウイルス性フィルムによると、請求項1の発明において、前記抗ウイルス層の前記抗ウイルス剤の含有量が3~6重量%であるため、適切な抗ウイルス性能を確保することができる。
【0017】
請求項3の発明に係る抗ウイルス性フィルムによると、請求項1又は2の発明において、前記フィルム体のヘーズ値が7%以下であるため、透明感あるフィルムとすることができ、特に食品等の包装用に好適である。
【0018】
請求項4の発明に係る抗ウイルス性フィルムによると、請求項1ないし3の発明において、前記フィルム体が、食品包装用フィルムであるため、食品の包装に適した構造の包装袋を製造することができる。
【0019】
請求項5の発明に係る食品用包装袋によると、請求項4に記載の抗ウイルス性フィルムで構成されてなるため、接触感染に効果的に対応した構造の食品用包装袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性フィルムの概略断面図である。
図2図1の抗ウイルス性フィルムを用いた食品用包装袋の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示す本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性フィルム10は、抗ウイルス活性値が2.0以上の抗ウイルス性能を有するフィルム体であって、基材層20と、抗ウイルス層30とを含む2層以上で構成される。この抗ウイルス性フィルム10は、包装袋等の各種フィルム製品に使用され、特に、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の店舗で扱われるパン、おにぎり、ならびに、生鮮食品、加工食品、菓子類等の食品、日用雑貨等の物品等を包装する包装袋を構成するフィルム材として好適に使用される。
【0022】
抗ウイルス性フィルム10において、抗ウイルス活性値(antiviral activity)とは、抗ウイルス加工製品の抗ウイルス性能を判定する基準である。プラスチック製品やセラミック製品等の非繊維系の抗ウイルス加工製品の抗ウイルス活性値は、ISO 21702(2019)に準拠する抗ウイルス試験方法により算出される。一般社団法人抗菌製品技術協議会(SIAA)によれば、抗ウイルス性フィルム10の抗ウイルス性能は、抗ウイルス加工製品の抗ウイルス活性値が2.0以上に定められていることに基づいている。特に、この抗ウイルス活性値は、インフルエンザウイルス又はネコカリシウイルスの少なくとも一方に対しての値である。すなわち、インフルエンザウイルス又はネコカリシウイルスのいずれか一方でも抗ウイルス活性値が2.0以上であれば、抗ウイルス加工製品として認められる。抗ウイルス活性値が2.0以上の場合、ウイルス除去率は99%以上となる。
【0023】
基材層20は、フィルム10の主体となる樹脂層である。この基材層20は、食品の包装等に好適に使用される適宜の樹脂材料によって構成される。例えば、ポリオレフィン系樹脂が好ましく使用され、特に、安価で汎用性が高いポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)や、プロピレンとエチレンやブテン等の他のオレフィンとの共重合体(プロピレンコポリマー)等のプロピレンを主体とする重合体から選択される。
【0024】
抗ウイルス層30は、フィルム10に抗ウイルス性能を付与する樹脂層であって、抗ウイルス剤が1重量%以上添加されてフィルム体の表層に設けられる。フィルム体の表層とは、抗ウイルス性フィルム10の最外層であって、表面層と裏面層に相当する。図1に示す例では、抗ウイルス層30が基材層20の一面側の表層、すなわちフィルム10の一方の表面(表面層)のみに形成されている。抗ウイルス層30は、食品の包装等に好適に使用される適宜の樹脂材料によって構成され、基材層20との接着強度の観点から、例えば、基材層20と同種の樹脂材料を主体として構成することが好ましい。
【0025】
抗ウイルス剤は、抗ウイルス性能を付与する添加剤であって、抗ウイルス効果を備えた銀及び銅成分を含有する溶解性ガラスからなる。抗ウイルス剤により付与される抗ウイルス性能は、抗ウイルス層30を構成する樹脂材料に対する含有量に応じて高められ、必要な抗ウイルス性能を得るにはその含有量は1重量%以上あればよい。しかしながら、抗ウイルス剤の含有量が多すぎると、フィルム10の透明性が悪化(ヘーズ値が上昇)する傾向がある。また、抗ウイルス剤には金属成分が含有されていることから、樹脂材料に対する含有量が多くなると、樹脂の酸化劣化が促進される銅害と称する現象が発生するおそれがある。銅害は添加剤により抑制可能であるが、それらの添加剤は高価であるとともに透明性が低下するおそれがある。そこで、適切な抗ウイルス性能を確保するために、抗ウイルス層30の抗ウイルス剤の含有量は3~6重量%であることが好ましい。
【0026】
抗ウイルス層30では、図1に示すように、抗ウイルス剤35が層表面31から適度に露出することによって抗ウイルス効果が発揮される。実施形態では、抗ウイルス剤35が粒径約2.5μm程度であることから、適切に抗ウイルス性能を確保するために抗ウイルス層30が1.0~2.0μmの厚さで形成されることが好ましい。抗ウイルス層30の厚さが1.0μm未満の場合は抗ウイルス剤35が抗ウイルス層30から脱落するおそれがあり、2.0μmより厚い場合は層表面31から露出しない抗ウイルス剤35が多くなって十分な抗ウイルス効果が得られなくなるおそれがある。
【0027】
この抗ウイルス性フィルム10では、基材層20と抗ウイルス層30の他に、必要に応じて適宜の樹脂層を形成してもよい。他の樹脂層は、食品の包装等に好適に使用される適宜の樹脂材料によって構成され、基材層20との接着強度の観点から、例えば、基材層20と同種の樹脂材料を主体として構成することが好ましい。他の樹脂層は、基材層20と表層(最外層)の抗ウイルス層30との間、又は抗ウイルス層30が一面側(表面側)のみの場合には他面側(裏面側)に形成される。また、他の樹脂層は、用途等に応じて、複数層形成してもよいし、基材層20の両面側に形成してもよい。なお、図示のフィルム10では、基材層20の他面側に裏面層40が形成されている。
【0028】
上記フィルム10は、各層を構成する樹脂がそれぞれ溶融されて、Tダイ法やインフレーション法等の公知の技術製法により所定の厚さに製膜される。また、基材層20や抗ウイルス層30にポリプロピレン系樹脂を使用した場合には、公知の一軸延伸法又は二軸延伸法により製膜されることが好ましい。延伸されたポリプロピレン製フィルムは、優れた透明性を有し、機械的強度が高いことにより印刷加工性や製袋加工性にも優れるため、食品包装用フィルムとして好適である。
【0029】
また、フィルム10では、各層のいずれか一層又は複数層に、必要に応じて防曇剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤等の公知の添加剤を適宜添加してもよい。食品包装用フィルムとして使用する場合には、防曇剤、アンチブロッキング剤を添加することが好ましい。防曇剤としては、公知の防曇性フィルムに用いられるアルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の1種又は複数種混合で使用され、特に列挙の防曇剤の3種混合が好ましい。アンチブロッキング剤としては、公知の無機系のシリカや有機系の架橋アクリルビーズ等の1種又は複数種混合で使用される。
【0030】
当該フィルム10では、良好な外観性を得るために透明性を高くすることが好ましい。透明性の判断は、例えばヘーズ値の高低により評価される。ヘーズ値はフィルムの曇りを示す指標であり、JIS K 7136(2000)に準拠して測定され、値が低いほど透明性が高くなる。そこで、フィルム10のヘーズ値は、7%以下であることが好ましい。フィルム10のヘーズ値が7%以下である場合、透明感あるフィルムとすることができ、特に食品等の包装用に好適である。ヘーズ値が7%を超える場合、フィルム自体の透明性が喪失して、特に食品等の包装に要求される視認性が損なわれるおそれがある。
【0031】
また、フィルム10では、必要に応じて、表面にコロナ処理を施してもよい。コロナ処理によるフィルム表面のぬれ張力は、36mN/m~44mN/mが好ましい。ぬれ張力が36mN/m未満であると、防曇性の発現が不十分となったり、印刷を施す場合等に印刷インキの密着性が悪くなったりするおそれがある。44mN/mを超えると、防曇剤の表面へのブリードアウトが増加してフィルムの白化やブロッキング現象が起こるおそれがある。
【0032】
本発明の抗ウイルス性フィルム10は、抗ウイルス剤を樹脂材料に添加して抗ウイルス層30を構成するため、例えばフィルム表面に抗ウイルス剤を塗布する等の従来の抗ウイルス性フィルムより低コストで効率的に製造できるとともに、塗布むら等の発生を回避して品質を安定させることができる。また、抗ウイルス層30が基材層20の一面側の表面、すなわちフィルム10の一面側(表面側)のみに形成した場合、フィルム10では一面側(表面側)に抗ウイルス性能が付与されて他面側(裏面側)が他の機能を備えるように構成されるため、多様な用途に供することが可能であり、汎用的な使用に適した抗ウイルス性フィルムを提供することができる。また、フィルム10の両面に抗ウイルス層30を形成すれば、フィルム10の両面に抗ウイルス性能を付与することができる。
【0033】
特に、本発明の抗ウイルス性フィルム10は、一面側(表面側)のみに抗ウイルス性能を付与した場合に、食品包装用として好適である。すなわち、図2に示す食品用包装袋50のように、内容物(食品)Cに触れる面となる内面51側を抗ウイルス性能が付与されていない面とするとともに、内容物Cに触れず人の手等が触れる面となる外面52側を抗ウイルス性能が付与されている面とするように構成される。図示の実施形態では、包装袋50の内面51側がフィルム10の裏面層40、外面52側がフィルム10の抗ウイルス層30にそれぞれ相当する。
【0034】
この食品用包装袋50では、人の手等が触れる可能性がある外面52全体に抗ウイルス性能を付与することができる。そのため、接触感染に極めて効果的に対応した構造とすることができる。なお、食品用包装袋50は、ピロー包装や三方シール包装等の公知の包装方法により、食品等の内容物Cを包装する。
【実施例0035】
[抗ウイルス性フィルムの作製]
試作例1~10のフィルムについて、後述の樹脂配合割合(重量%)に基づき、原料となる樹脂のペレット等を押出成形機に供給して溶融、混練し、一度に三層を共押出しするTダイフィルム成形機により共押出しして、二軸延伸機により延伸倍率を縦(巻き取り方向、MD)5倍、横(軸方向、TD)8倍として製膜した。製膜後、両表層に対して一般的なフィルムに用いられる条件でコロナ処理を施した。なお、試作例1~10の各フィルムは、基材層と、基材層の一面側(表面側)に形成された表面層と、基材層の他面側(裏面側)に形成された裏面層との三層で構成され、抗ウイルス剤は表面層に添加することとした。
【0036】
[樹脂材料]
フィルムを構成する各層には、下記の樹脂(PP1)~(PP6)の材料を使用した。
・樹脂PP1:ホモポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製,「FL203D」)
・樹脂PP2:グリセリンモノステアレート40重量%とオレイルジエタノールアミン20重量%とステアリルジエタノールアミンモノステアレート40重量%からなる防曇剤8重量%、樹脂PP1を92重量%の割合で溶融混練した防曇剤マスターバッチ
・樹脂PP3:ランダムポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製,「FX4E」)
・樹脂PP4:樹脂PP3を90重量%、銀及び銅成分を含む溶解性ガラス(石塚硝子株式会社製,「GlassAC01」)を10重量%の割合で溶融混練したマスターバッチ
・樹脂PP5:樹脂PP3を90重量%、銀成分を含む溶解性ガラス(石塚硝子株式会社製,「イオンピュアWPA」)を10重量%の割合で溶融混練したマスターバッチ
・樹脂PP6:樹脂PP3を90重量%、銀成分を含む溶解性ガラス(石塚硝子株式会社製,「イオンピュアZAF HS」)を10重量%の割合で溶融混練したマスターバッチ
【0037】
[試作例1]
試作例1は、樹脂PP1を使用して240℃で押出した基材層と、樹脂PP3を50重量%と樹脂PP4を50重量%の割合で混合して200℃で押出した表面層と、樹脂PP1を使用して240℃で押出した裏面層とで構成された厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例1のフィルムにおいて、各層の厚さは、表面層/基材層/裏面層が2/17/1の比となるようにそれぞれの原料の吐出量を調整した。また、試作例1のフィルムの表面層中の溶解性ガラスの総量は5.0重量%である。
【0038】
[試作例2]
試作例2は、基材層が樹脂PP1を87.5重量%と樹脂PP2を12.5重量%の割合で混合して構成された以外は試作例1と同様に構成した厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例2のフィルムにおいて、表面層中の溶解性ガラスの総量は5.0重量%である。また、基材層中の防曇剤の総量は1.0重量%である。
【0039】
[試作例3]
試作例3は、樹脂PP1を使用して240℃で押出した基材層と、樹脂PP3を使用して200℃で押出した表面層と、樹脂PP1を使用して240℃で押出した裏面層とで構成された厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例3のフィルムにおいて、各層の厚さは、表面層/基材層/裏面層が1/18/1の比となるようにそれぞれの原料の吐出量を調整した。
【0040】
[試作例4]
試作例4は、樹脂PP1を使用して240℃で押出した基材層と、樹脂PP3を50重量%と樹脂PP5を50重量%の割合で混合して200℃で押出した表面層と、樹脂PP1を使用して240℃で押出した裏面層とで構成された厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例4のフィルムにおいて、各層の厚さは、表面層/基材層/裏面層が1/18/1の比となるようにそれぞれの原料の吐出量を調整した。また、試作例4のフィルムの表面層中の溶解性ガラスの総量は5.0重量%である。
【0041】
[試作例5]
試作例5は、基材層が樹脂PP1、表面層が樹脂PP3を50重量%と樹脂PP6を50重量%の割合で混合して構成された以外は試作例2と同様に構成した厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例5のフィルムにおいて、表面層中の溶解性ガラスの総量は5.0重量%である。
【0042】
[試作例6]
試作例6は、基材層が樹脂PP1を53.8重量%と樹脂PP2を46.2重量%の割合で混合して構成された以外は試作例3と同様に構成した厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例6のフィルムにおいて、基材層中の防曇剤の総量は3.7重量%である。
【0043】
[試作例7]
試作例7は、基材層が樹脂PP1、表面層が樹脂PP3を90重量%と樹脂PP4を10重量%の割合で混合して構成された以外は試作例3と同様に構成した厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例7のフィルムにおいて、表面層中の溶解性ガラスの総量は1.0重量%である。
【0044】
[試作例8]
試作例8は、基材層が樹脂PP1、表面層が樹脂PP3を70重量%と樹脂PP4を30重量%の割合で混合して構成された以外は試作例3と同様に構成した厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例8のフィルムにおいて、表面層中の溶解性ガラスの総量は3.0重量%である。
【0045】
[試作例9]
試作例9は、基材層が樹脂PP1、表面層が樹脂PP3を50重量%と樹脂PP4を50重量%の割合で混合して構成された以外は試作例3と同様に構成した厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例9のフィルムにおいて、表面層中の溶解性ガラスの総量は5.0重量%である。
【0046】
[試作例10]
試作例10は、基材層が樹脂PP1、表面層が樹脂PP3を30重量%と樹脂PP4を70重量%の割合で混合して構成された以外は試作例3と同様に構成した厚さ約20μmの二軸延伸フィルムである。試作例10のフィルムにおいて、表面層中の溶解性ガラスの総量は7.0重量%である。
【0047】
[抗ウイルス性フィルムの性能の評価]
試作例1~10のフィルムを用いて、フィルムの厚さ(μm)、ヘーズ(%)、抗ウイルス活性値についてそれぞれ測定し、性能を評価した。なお、抗ウイルス性フィルムの性能の総合評価では、抗ウイルス活性値が「不可」と判定された場合には「不可(×)」、抗ウイルス活性値が「可」以上と判定された場合には「可(〇)」以上とし、特に抗ウイルス活性値とヘーズの双方で「良」と判定された場合に「良(◎)」とした。その結果について後述の表1,2に示した。なお、表1,2では、表面層に含有される溶解性ガラスの表面層中の総量(重量%)と金属成分についても記載した。
【0048】
[フィルムの厚さの測定]
試作例1~10の各フィルムの全体の厚さをJIS K 7130(1999)に準拠してそれぞれ測定した。
【0049】
[ヘーズの測定]
ヘーズ(%)の測定は、透明性の指標であって、JIS K 7136(2000)に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製,NDH-5000)を使用して測定を行った。試作例1~10のフィルムでは、食品包装用のフィルムとして食品の包装時に内容物が視認可能な透明性が要求されることから、測定結果が7%以下を「良(〇)」、7%より大きい場合を「不可(×)」とした。
【0050】
[抗ウイルス活性値の測定]
抗ウイルス活性値は、ISO 21702(2019)に準拠する抗ウイルス試験方法により算出される。抗ウイルス試験方法は、まず50mm×50mmの試験片に、予め調整したウイルス懸濁液0.4mlを接種させて、40mm×40mmのカバーフィルムをかぶせた後、25℃、90%RH以上で24時間静置してウイルスと検体とを作用させる。続いて、洗い出し液(SCDLP培地)10mlを加えて検体からウイルスを回収し、回収したウイルスを培養してウイルス感染価が測定される。なお、この抗ウイルス試験では、A型インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスの1種類以上のウイルスが使用可能とされる。A型インフルエンザウイルスはエンベロープを有するタイプのウイルスであり、新型コロナウイルスもこのタイプに該当する。また、ネコカリシウイルスはエンベロープを有していないタイプのウイルスであり、ノロウイルスの代替ウイルスである。実施例では、A型インフルエンザウイルス(H3N2)、ネコカリシウイルス(F-9)を使用した。
【0051】
ウイルス感染価(PFU/cm)は、ウイルスの培養後、6~60個のプラークが現れた希釈系列のWellのプラーク数を測定し、下記の計算式により求められる。
ウイルス感染価/0.1ml(PFU/0.1ml)=プラーク数×希釈倍率
ウイルス感染価/ml(PFU/ml)=プラーク数×希釈倍率×10
ウイルス感染価/1cm(PFU/cm
=(ウイルス感染価/ml)×(洗い出し液量)÷(カバーフィルム面積)
【0052】
測定されたウイルス感染価に基づき、下記の計算式を用いて抗ウイルス活性値が算出される。そして、SIAAが設けた判定基準に基づいて、下記計算式で算出された抗ウイルス活性値がインフルエンザウイルスとネコカリシウイルスの双方とも2.0以上の場合を「良(◎)」、インフルエンザウイルスとネコカリシウイルスのいずれか一方が2.0以上の場合を「可(〇)」、インフルエンザウイルスとネコカリシウイルスの双方とも2.0未満の場合を「不可(×)」とした。
R=Ut-At
R:抗ウイルス活性値
Ut:無加工品の24時間静置後のウイルス感染価(PFU/cm)の常用対数の平均
At:抗ウイルス加工品の24時間静置後のウイルス感染価(PFU/cm)の常用対数の平均
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
[結果と考察]
表1に示すように、総合評価は試作例1,2,8,9が「良(◎)」であり、試作例7,10が「可(〇)」であり、試作例3~6が「不可(×)」であった。総合評価が「不可」の試作例3~6のフィルムのうち、試作例3のフィルムは表面層が抗ウイルス剤(溶解性ガラス)を含まない構成であり、試作例4,5のフィルムは表面層に含まれる抗ウイルス剤として金属成分が銀成分のみの溶解性ガラスを使用したもので、抗ウイルス活性値がいずれも極めて低い値となった。試作例6のフィルムは、基材層に防曇剤を過剰に添加したフィルムであり、フィルム表面へ防曇剤を過剰にブリードアウトさせることによって抗ウイルス性能の発現を期待したが、抗ウイルス効果は全く得られなかった。
【0056】
これに対し、総合評価が「良」の試作例1,2,8,9のフィルムでは、表面層に含まれる抗ウイルス剤として金属成分が銀成分及び銅成分の溶解性ガラスを使用したものであった。このことから、表面層に添加する抗ウイルス剤は、銀成分及び銅成分を含有する溶解性ガラスが好ましいことが分かった。
【0057】
総合評価が「可」の試作例10のフィルムについても、表面層に含まれる抗ウイルス剤として金属成分が銀成分及び銅成分の溶解性ガラスを使用したものであり、抗ウイルス活性値は高く良好な抗ウイルス効果が期待できることがわかった。しかしながら、試作例10のフィルムはヘーズ値が高く、透明度がやや損なわれる結果であった。したがって、試作例10のフィルムは透明フィルムとして使用する場合にはあまり適していないが、透明性が求められていない場合には抗ウイルス性フィルムとして良好に使用することができる。総合評価が「可」の試作例7のフィルムは、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性値がやや不足するものの、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値は基準値を上回っているため、抗ウイルス性フィルムとして適切に使用することができる。
【0058】
また、総合評価が「良」の試作例1,2のフィルムのうち、試作例2は基材層に防曇剤が添加されたフィルムである。この試作例2のフィルムでは、防曇剤が添加されていない試作例1のフィルムと同等の抗ウイルス活性値が得られた。防曇剤を添加するとフィルム表面に浮き出る性質があることから、防曇剤が抗ウイルス効果の妨げとなるとも考えられたが、試作例1,2から理解されるように、適量の防曇剤を添加した場合でも適切な抗ウイルス性能が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の抗ウイルス性フィルムは、フィルム体の表層に銀及び銅成分を含有する溶解性ガラスの抗ウイルス剤が添加された抗ウイルス層を形成したため、従来より低コストで効率的に製造できて品質を安定させることができる。また、この抗ウイルス性フィルムは汎用的な使用に適しており、特に食品包装用フィルムとして使用することで接触感染に効果的に対応した構造の食品用包装袋を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 抗ウイルス性フィルム
20 基材層
30 抗ウイルス層
31 層表面
35 抗ウイルス剤
40 裏面層
50 食品用包装袋
51 食品用包装袋の内面
52 食品用包装袋の外面
C 内容物
図1
図2