(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065711
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】音声システム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20220421BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20220421BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20220421BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20220421BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20220421BHJP
H03G 7/00 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
H04R3/00 310
B60R11/02 B
H04R3/00 320
H04R1/02 102B
H04R1/00 310F
H04R7/04
H03G7/00 007
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174349
(22)【出願日】2020-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
【テーマコード(参考)】
3D020
5D016
5D017
5D220
5J030
【Fターム(参考)】
3D020BA02
3D020BA10
3D020BA11
3D020BC04
3D020BC11
3D020BD05
3D020BE03
5D016AA01
5D017AE16
5D017AE18
5D017BC01
5D220AA02
5D220AA11
5D220AB08
5D220BA01
5D220BB03
5J030BC02
5J030BC07
(57)【要約】
【課題】 比較的簡易な構成で乗員の会話音声を聴き取り易くする音声システムを提供する。
【解決手段】 音声システム1は、各座席Q1~Q4に対応した位置に設けられた複数のマイクMC1~MC4と、各座席Q1~Q4に対応した位置に設けられた複数の内装組み込み型のスピーカEC1~EC4と、複数のマイクMC1~MC4のいずれかで集音された会話音声を複数のスピーカEC1~EC4のいずれかから出力させる出力制御部10とを含む。出力制御部10は、複数のマイクMC1~MC4から出力された各音声信号S1からロードノイズを検出し、検出したロードノイズに応じたゲイン情報を決定し、決定したゲイン情報に基づき、複数のマイクMC1~MC4から抽出した会話音声のゲインを調整する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各座席に対応した位置に設けられた複数のマイクと、
各座席に対応した位置に設けられた複数のスピーカと、
前記複数のマイクのいずれかで集音された会話音声を前記複数のスピーカのいずれかから出力させる出力制御手段とを含み、
前記出力制御手段は、
前記複数のマイクから出力された各音声信号からノイズを検出する検出手段と、
検出されたノイズに基づきゲイン情報を決定する決定手段と、
前記複数のマイクから出力された各音声信号から会話音声を抽出する抽出手段と、
前記ゲイン情報に基づき前記抽出した会話音声のゲインを調整する調整手段とを含む、音声システム。
【請求項2】
前記決定手段は、検出されたノイズに応じたゲイン係数を決定し、
前記調整手段は、前記ゲイン係数に基づき会話音声のゲインを調整する、請求項1に記載の音声システム。
【請求項3】
前記検出手段は、前記複数のマイクから出力された各音声信号から会話音声以外の周波数帯域の音声信号を選択するフィルタと、前記フィルタから出力された各音声信号のレベルを計算するレベル計算部と、前記レベル計算部で計算された各音声信号のレベルの平均を算出する平均計算部とを含む、請求項1に記載の音声システム。
【請求項4】
前記決定手段は、前記平均計算部で計算されたノイズのレベルに基づきゲイン係数を決定する、請求項3に記載の音声システム。
【請求項5】
前記レベル計算部はさらに、音声信号のレベルを平滑化するためのローパスフィルタを含む、請求項3に記載の音声システム。
【請求項6】
前記決定手段は、ゲイン係数の傾きを決定する、請求項2に記載の音声システム。
【請求項7】
前記抽出手段は、前記複数のマイクから出力された各音声信号から会話音声の周波数帯域の音声信号を選択するバンドパスフィルタを含む、請求項1に記載の音声システム。
【請求項8】
前記フィルタは、ロードノイズの低周波数帯域の音声信号を選択するローパスフィルタである、請求項3に記載の音声システム。
【請求項9】
前記フィルタは、音声会話の周波数帯域を遮断するバンドストップフィルタである、請求項3に記載の音声システム。
【請求項10】
音声システムはさらに、オーディオ信号を再生するオーディオ装置を含み、
前記出力制御手段は、前記オーディオ装置から出力されたオーディオ再生信号に応答して前記複数のスピーカからオーディオ再生音を出力させる、請求項1に記載の音声システム。
【請求項11】
前記複数のスピーカは、車両の天井に取り付けられるエキサイタである、請求項1に記載の音声システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の移動体内の乗員の会話を補助する機能を備えた音声システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車内における乗員の過ごし方は多様化し、各席個別音源再生装置(ゾーンサウンド)や座席間会話補助装置(インカ―コミュニケーション:ICC)の需要が高まっている。座席間会話補助装置は、騒音下や音楽等の再生中であっても、乗員同士の会話音声を明瞭に聞き取れるようにするものである(例えば、特許文献1、2)。特許文献1の車内会話補助装置は、
図1に示すように、各座席にスピーカ101、102、103、104が設けられ、また各座席用にマイク105、106、107、108が設けられる。制御部200は、マイクで集音した乗員の会話音声をスピーカ101~104から出力可能にするとともに、オーディオ装置203で再生されたオーディオ再生音をスピーカ101~104から出力可能にする。
【0003】
また、特許文献2の音声出力装置は、
図2に示すように、適応フィルタを用いて車内のスピーカ6からマイク7までの音声信号の伝達関数を模擬し、加算器10で生成されたノイズに基づき音量調整アンプ3のゲインをラウドネス補償制御部11で調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-51392号公報
【特許文献2】特開2006-173840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
座席間会話補助装置、すなわちICC機能を実装する場合、通常、オートゲインコントロール(AGC)によって車内の騒音(ノイズ)の音量に応じたゲイン補正を行わなければ、会話音声が周囲ノイズに埋もれ、静寂時と走行時で会話音声の聴き取り易さに差が生じてしまう。つまり、AGCは、会話音声が明瞭に聴きとり易くなるように出力音声の自動調整を行う。
【0006】
図3は、国際規格(ITU-T1150 ICC)で設定された仕様のノイズと音声レベルとの関係を示すグラフである。横軸はノイズ、縦軸は音声レベルである。ノイズが大きくなるにつれ、音声レベルの上限と下限との差が狭くなり、この範囲内に収まるようにターゲットの音声信号のゲインを調整しなければならない。しかし、ゲインの調整には、特許文献2に示すように適応フィルタを使用してノイズを抽出しなければならず、この方法は、高精度である反面、騒音や音楽と会話音声とを分離するための処理が複雑であり、信号処理への負荷が大きくなるという課題がある。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決し、比較的簡易な構成で乗員の会話音声を聴き取り易くする音声システムを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る音声システムは、各座席に対応した位置に設けられた複数のマイクと、各座席に対応した位置に設けられた複数のスピーカと、前記複数のマイクのいずれかで集音された会話音声を前記複数のスピーカのいずれかから出力させる出力制御手段とを含み、前記出力制御手段は、前記複数のマイクから出力された各音声信号からノイズを検出する検出手段と、検出されたノイズに基づきゲイン情報を決定する決定手段と、前記複数のマイクから出力された各音声信号から会話音声を抽出する抽出手段と、前記ゲイン情報に基づき前記抽出した会話音声のゲインを調整する調整手段とを含む。
【0009】
ある実施態様では、前記決定手段は、検出されたノイズに応じたゲイン係数を決定し、前記調整手段は、前記ゲイン係数に基づき会話音声のゲインを調整する。ある実施態様では、前記検出手段は、前記複数のマイクから出力された各音声信号から会話音声以外の周波数帯域の音声信号を選択するフィルタと、前記フィルタから出力された各音声信号のレベルを計算するレベル計算部と、前記レベル計算部で計算された各音声信号のレベルの平均を算出する平均計算部とを含む。ある実施態様では、前記決定手段は、前記平均計算部で計算されたノイズのレベルに基づきゲイン係数を決定する。ある実施態様では、前記レベル計算部はさらに、音声信号のレベルを平滑化するためのローパスフィルタを含む。ある実施態様では、前記決定手段は、ゲイン係数の傾きを決定する。ある実施態様では、前記抽出手段は、前記複数のマイクから出力された各音声信号から会話音声の周波数帯域の音声信号を選択するバンドパスフィルタを含む。ある実施態様では、前記フィルタは、ロードノイズの低周波数帯域の音声信号を選択するローパスフィルタである。ある実施態様では、前記フィルタは、音声会話の周波数帯域を遮断するバンドストップフィルタである。ある実施態様では、音声システムはさらに、オーディオ信号を再生するオーディオ装置を含み、前記出力制御手段は、前記オーディオ装置から出力されたオーディオ再生信号に応答して前記複数のスピーカからオーディオ再生音を出力させる。ある実施態様では、前記複数のスピーカは、車両の天井に取り付けられるエキサイタである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のマイクから出力される各音声信号からノイズを検出し、検出されたノイズに応じたゲイン情報を決定し、当該ゲイン情報に基づき会話音声のゲインを調整するようにしたので、従来の適応フィルタを用いた会話音声のゲインの調整と比較して、構成を簡易にしかつコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来の座席間会話補助装置の構成例を示す図である。
【
図2】従来のラウドネス補償回路の構成例を示す図である。
【
図3】国際規格で要求される音声レベルとノイズとの関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例に係る座席会話補助機能を備えた音声システムの概略構成を示す図である。
【
図5】
図4に示すマイクとエキサイタの取付け例を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の実施例に係る出力制御部の内部構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の実施例に係る音声システムの信号処理部の構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の変形例に係る音声システムの信号処理部の構成を示すブロック図である。
【
図9】本発明の実施例に係る座席会話補助機能を備えた音声システムの他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る音声システムは、自動車等の移動体の車内において、オーディオ再生音の出力に加えて、乗員同士の会話音声を出力する機能を有する。また、電気自動車の普及に伴う車両の軽量化(車両形状の変化、ドアの樹脂化)や運転者や乗員のスペースを重視した車両構造の変化、また信号処理技術の変化などにより、既存の位置以外に取り付け可能な超軽量のスピーカの開発が求められている。そこで、本発明に係る音声システムは、1つの実施態様として、車両の内装にエキサイタを組み込んだ内装組み込み型のスピーカを用いる。内装組み込み型のスピーカは、内装デザインに組み込まれ、外部から視認することができず、取り付け自由度の高い超軽量の小型のスピーカであり、ゾーンサウンドや座席間会話補助(ICC)と親和性が高く、オーディオ視聴以外の付加価値を提供する。但し、本発明の音声システムは、エキサイタを組み込んだ内装組み込み型のスピーカに限定されるものではなく、既存のコーン型のスピーカを用いて構成されてもよいし、内装組み込み型のスピーカとコーン型のスピーカとを併用するものであってもよい。
【実施例0013】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。なお、図面のスケールは、発明の理解を容易にするために誇張されて記載されており、必ずしも実際の製品のスケールを表すものではないことに留意すべきである。
【0014】
図4は、本発明の実施例に係る音声システムのエキサイタやマイクの取り付け位置を平面的に表した図であり、
図5は、エキサイタやマイクの取り付け位置を立体的に表した断面図である。ここでは、車内の前方に2つの前方座席Q1、Q2、後方に2つの後部座席Q3、Q4が配置される例を示しているが、これは一例であり、他の座席数や座席の並び(例えば、3列の座席)であってもよい。
【0015】
本実施例の音声システム300は、各座席Q1、Q2、Q3、Q4の位置に対応する天井40に取り付けられた複数のエキサイタEC1、EC2、EC3、EC4と、各座席Q1、Q2、Q3、Q4のヘッドレスト近傍に取り付けられた複数のマイクMC1、MC2、MC3、MC4と、エキサイタEC1~EC4およびマイクMC1~MC4に電気的に接続され、音声の出力制御を行う出力制御部310と、オーディオ再生信号S2を出力制御部310へ提供するオーディオ装置320とを含んで構成される。
【0016】
座席Q1は、
図5に示すように、着座部330、背もたれ部332およびヘッドレスト334を含み、マイクMC1は、ヘッドレスト334の近傍に取り付けられる。例えば、ヘッドレスト334と背もたれ部332との間の空間に取り付けられるようにしてもよいし、ヘッドレスト334の下部または背もたれ部332の上部に埋め込まれるように取り付けられてもよい。他の座席Q2、Q3、Q4にも同様に、ヘッドレスト334の近傍にマイクMC2、MC3、MC4が取り付けられる。マイクMC1~MC4は、乗員の会話音声を入力するものであり、マイクMC1~MC4で集音された会話音声の音声信号S1は、有線または無線により出力制御部310へ入力される。
【0017】
図5に示すように、座席Q1に対応する天井340の位置にエキサイタEC1が取り付けられる。エキサイタEC1は、乗員U1が座席Q1に着座したときに乗員U1の頭上近傍に取り付けられる。エキサイタEC1は、天井340の内装材(天井基材)342の裏面側に取り付けられ、乗員U1は、内装材342の表面からエキサイタEC1を視認することはできない。つまり、エキサイタEC1は、内装組み込み型のスピーカである。内装材342は、振動板としても機能し、エキサイタEC1が音声駆動信号DVによって振動されると、その振動が内装材342に伝達され、内装材342の振動によって天井340から音Pが出力される。他のエキサイタEC2、EC3、EC4も同様に、座席Q2、Q3、Q4に対応する天井340の位置に取り付けられる。
【0018】
エキサイタEC1~EC4は、有線または無線により出力制御部310から出力される各スピーカSPKOut1~SPKOut4の音声駆動信号DVにより駆動される。エキサイタEC1~EC4は、通常のコーン型スピーカと同様に、音声駆動信号DVを振動に変換する振動子であるが、コーン型スピーカと比較して、小型化、省スペース化、軽量化が可能である。
【0019】
オーディオ装置320は、オーディオ信号を再生する機能を備えたデバイスであり、特にその構成は限定されない。オーディオ装置320は、例えば、AVN(オーディオ・ビジュアル・ナビゲーション)装置、スマートフォン、携帯型オーディオプレイヤーなどであることができる。オーディオ装置320は、乗員からの指示を受け取ると、オーディオ信号の再生を開始し、オーディオ再生信号S2が出力制御部310に出力される。
【0020】
出力制御部310は、少なくともオーディオ装置320で再生されたオーディオ再生音をエキサイタEC1~EC4から出力させる機能と、乗員の会話音声をエキサイタEC1~EC4から出力させる機能とを有する。出力制御部310は、オーディオ装置320と連携し、オーディオ装置320を制御したり、オーディオ装置320から制御されることが可能である。出力制御部310は、このような機能を実行する上で必要なDSP(Digital Signal Processor)、マイクロコントローラ、アンプ、適応フィルタなどのハードウエア資源やハードウエアを制御するソフトウエア資源を含むことができる。
【0021】
図6に、出力制御部310の内部構成の一例を示す。出力制御部310は、マイクMC1~MC4から出力されるアナログ音声信号をデジタル音声信号に変換するアナログ/デジタル変換器(ADC)350と、ADC350から出力されたデジタル音声信号を入力し、ロードノイズの検出や会話音声のゲインの調整等を行う信号処理部352と、信号処理部352で処理されたデジタル音声信号とオーディオ装置320から出力されたデジタルオーディ再生信号S2とを合成する合成器354と、合成器354から出力されたデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換するデジタル/アナログ変換器(DAC)356と、DAC356から出力されたアナログ音声信号を増幅し音声駆動信号DVを生成するアンプ358と、信号処理部352等の各部を制御するコントローラ360とを含む。
【0022】
コントローラ360は、オーディオ装置320による音声再生が行われるとき、合成器354を介してオーディオ再生信号S2を入力し、エキサイタEC1~EC4からオーディオ再生音を出力させる。
【0023】
また、コントローラ360は、乗員の会話音声がマイクMIC1~MC4のいずれかで集音され、マイクから音声信号S1が出力されると、信号処理部352に音声信号S1の必要な処理を実施させ、音声駆動信号DVを介して選択された1つまたは複数のエキサイタを駆動し、天井40から会話音声を出力させる。ある実施態様では、コントローラ360は、マイクMIC1~MC4から出力された音声信号のレベルの大きさから発話された座席を識別し、発話者以外の座席に対応するエキサイタに音声駆動信号を出力する。例えば、運転席Q1の乗員U1が発話したとき、マイクMC1から出力された音声信号が他のマイクMC2~MC3から出力された音声信号よりもレベルが相対的に大きくなる。コントローラ360は、音声信号のレベルから発話された運転席Q1を識別し、他の座席Q2~Q4に対応するエキサイタEC2~4に音声駆動信号DVを出力し、それらの天井から乗員U1の会話音声を出力させる。さらに別の実施態様では、座席への乗員の有無を検知する重量センサを搭載し、コントローラ360は、重量センサの検知結果に基づき乗員が不在の座席に対応するエキサイタに音声駆動信号DVを出力しないようにすることも可能である。
【0024】
次に、
図6に示す信号処理部352の内部構成を
図7に示す。同図に示すように、信号処理部352は、マイクMC1~MC4の音声信号S1からロードノイズを検出し、検出したロードノイズに応じたゲインを決定するゲイン決定部400と、マイクMC1~MC4の音声信号S1から会話音声を抽出し、会話音声のゲインの調整等を行う会話音声処理部500とを含む。
【0025】
ゲイン決定部400は、フィルタ410、レベル計算部420、平均計算部430、乗算器440および加算器460を含んで構成される。フィルタ410は、マイクMC1~MC4から出力された音声信号S1を入力し、当該音声信号S1からロードノイズの音声成分を検出する。ロードノイズの周波数帯域は、概ね250Hz以下である。それ故、フィルタ410は、音声信号S1から約250Hz以下の低周波信号を通過させるローパスフィルタ(LPF)で構成される。車内の会話では、乗員が発話したとき、その座席のマイクから会話音声に応じたレベルの音声信号S1が出力され、それ以外の座席のマイクからはロードノイズに応じたレベルの音声信号S1が出力される。つまり、全座席のマイクMC1~MC4が、同時にかつ長時間、一定のレベルの会話音声の音声信号S1を出力することは希であり、マイクMC1~MC4は、多くの時間期間においてロードノイズを集音している。それ故、本実施例では、マイクMC1~MC4から出力された音声信号S1の低周波成分をロードノイズとみなしている。
【0026】
レベル計算部420は、フィルタ410から出力された音声信号の音声レベルを計算する。好ましい態様では、レベル計算部420は、レベル計算値にローパスフィルタ(LPF)をかけ、レベルを平滑化することでレベルの変動を生じ難くさせ、短期的なレベル変動を検出しないようにする。短期的なレベル変動が生じると、後述するようにロードノイズに応じたゲインを短期的に変動させることになり、その結果、会話音声の大きさが短期的で変動し、会話音声を聴き取り難くなってしまう。
【0027】
平均計算部430は、レベル計算部420から出力された4つのマイクMC1~MC4のレベルを平均化する。これにより、マイクMC1~MC4で集音するロードノイズのレベルのバラツキを抑制し、仮に1つのマイクから大きなレベルのロードノイズが集音されたとしても、その影響を生じ難くする。
【0028】
乗算器440は、平均計算部430から平均化されたロードノイズのレベルを受け取り、このレベルに、エフェクトゲイン450に保持されたパラメータを乗算することで、ロードノイズに応じたゲインを決定する。エフェクトゲイン450のパラメータは、
図3に示すようなロードノイズに応じたゲインの増幅度合または傾きを決定し、この増幅度合に応じて、ロードノイズが大きくなるにつれゲインを大きくし、ロードノイズが小さくなるにつれゲインを小さくする。
【0029】
加算器460は、乗算器440から出力されたゲインに標準値470のパラメータを加算し、ゲイン係数を生成する。加算器460は、ゲイン係数が「1」を超えないように、つまり、ゲイン係数の最低値が「1」にするような処理を行う。これは、後述するAGCオフセット部550が加算器460のゲイン係数を会話音声のゲインに乗算するため、加算器460のゲイン係数が「1」よりも小さいと、会話音声のゲインが小さくなってしまうことを防止するためである。それ故、標準値470は、ノイズが0dBのときの真値を「1」とし、加算器460は、標準値を加算することで1よりも大きなゲイン係数を生成する。
【0030】
会話音声処理部500は、ノイズゲート510、フィルタ520、エコーキャンセラ530、ICCゲイン540およびAGCオフセット部550を含んで構成される。ノイズゲート510は、マイクMC1~MC4で集音された音声信号S1を入力し、一定レベル以下の音声信号を減衰させることでノイズを低減する。
【0031】
フィルタ520は、ノイズゲート510から出力された各音声信号S1を入力し、当該音声信号S1から会話音声を抽出する。会話音声の周波数帯域は、概ね250Hz~4kHzである。それ故、フィルタ520は、音声信号S1から約250Hz~4kHzの周波数信号を通過させるバンドパスフィルタ(BPF)で構成される。
【0032】
エコーキャンセラ530は、フィルタ520から出力された各会話音声を入力し、ハウリング等の音響エコーのキャンセル動作を行う。エコーキャンセラ530は、例えば、適応フィルタを用いて音響エコーに相当する信号を生成し、これをマイクMC1~MC4の各音声信号S1から減算することで空間を伝播した音響成分を各音声信号S1から消去する。
【0033】
ICCゲイン540は、エコーキャンセルされた各会話音声のゲインを設定する。例えば、マイクMC1~MC4で集音された会話音声が小さい場合には、ICCゲイン540は、会話音声の音声信号S1のゲインを大きく設定し、反対に集音された会話音声が大きすぎる場合には、音声に歪みが生じない程度まで音声信号S1のゲインを小さく設定する。
【0034】
AGCオフセット部550は、ICCゲイン540から出力された各会話音声のゲインと加算器460から出力されたゲイン係数とを受け取り、各会話音声のゲインを調整する。1つの実施態様では、AGCオフセット部550は、各会話音声のゲインに加算器460で生成されたゲイン係数(ゲインの係数は1より大きい)を乗算することで、ロードノイズの大きさに応じて各会話音声のゲインが増加するようにゲインを調整する。他の実施態様として、AGCオフセット部550は、予め用意されたルックアップテーブルを参照し、加算器460からのゲイン係数に応じて会話音声のゲインの増加量を調整するようにしてもよい。
【0035】
AGCオフセット部550によりゲインが調整された会話音声の各音声信号は、合成器354へ出力される。もし、オーディオ装置320によりオーディオ再生が行われている場合には、会話音声の各音声信号とオーディオ再生信号S2とが合成される。合成器354から出力されたデジタル音声信号は、DAC356によりアナログ音声信号に変換され、アナログ音声信号は、アンプ358により増幅された音声駆動信号DVに変換される。オーディオ装置320がオーディオ再生している場合には、車内のエキサイタEC1~EC4の全てからオーディオ再生音が出力され、他方、会話音声は、発話した乗員の座席以外の選択された座席のエキサイタから出力される。
【0036】
このように本実施例によれば、会話音声を集音するために各座席に対応して設けられたマイクMC1~MC4からロードノイズを検出し、検出されたロードノイズに基づきゲインを決定し、当該ゲインによって会話音声のゲインを調整するようにしたので、従来のように適応フィルタを用いてロードノイズを算出する方法と比較して構成が簡易であり、かつコストを低減させることができる。
【0037】
次に、本実施例の変形例を
図8に示す。変形例では、ゲイン決定部400のバンドストップフィルタ410Aが会話音声の周波数帯域の音声信号を遮断する点で
図7に示すフィルタ410と構成を異にし、それ以外の構成は同じである。バンドストップフィルタ410Aは、フィルタ520が通過させる周波数帯域と同じ周波数帯域で音声信号S1を遮断する。つまり、バンドストップフィルタ410Aは、概ね250Hz~4kHzの周波数帯域の音声信号を遮断する。
【0038】
本変形例では、会話音声を優先させ、それ以外の周波数帯域の音声をロードノイズまたは周辺ノイズと見做す。つまり、オーディオ装置320によるオーディオ再生が行われている場合には、ロードノイズに加えて、会話音声の周波数帯域以外のオーディオ再生音をノイズと見做し、オーディオ再生音を考慮したゲインを決定し、このゲインに基づき会話音声のゲインを調整する。これにより、例えば、オーディオ再生音が大きくなった場合には、会話音声のゲインが自動的に高くなり、会話音声が聴き取り易くなる。
【0039】
上記実施例では、音声システム300が内装組み込み型のスピーカとしてエキサイタを使用する例を示したが、本発明の音声システムは、必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、
図9に示すように、音声システム300Aは、コーン型のスピーカSP1、SP2、SP3、SP4を用いるものであってもよく、スピーカSP1~SP4は、各座席Q1~Q4に対応する位置(例えば、ドア)に設けられる。さらに本発明の音声システムは、スピーカとエキサイタとを併用するものであってもよい。
【0040】
上記実施例では、加算器460によりゲイン係数を算出し、AGCオフセット部550で会話音声のゲインにゲイン係数を乗算する例を示したが、これは一例であり、例えば、ゲイン決定部400においてロードノイズのレベルに応じたゲインを決定し、この決定されたゲインに基づき会話音声のゲインが増加するようにオフセットさせてもよく、このような場合、加算器460によるゲイン係数の生成は必ずしも必要ではない。
【0041】
上記実施例では、音声システム1が各座席Q1~Q4のヘッドレスト近傍にマイクMC1~MC4を配置する例を示したが、本発明の音声システムは、必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、前方座席用のマイクは、ハンドルやダッシュボード近傍に配置されるようにしてもよいし、後部座席用のマイクは、その前の座席の背もたれ部の後方に配置されるようにしてもよい。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲において、種々の変形、変更が可能である。