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  • 特開-表面被覆鉄合金部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065716
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】表面被覆鉄合金部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20220421BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20220421BHJP
   C23C 10/32 20060101ALN20220421BHJP
   C23C 8/20 20060101ALN20220421BHJP
   C23C 8/24 20060101ALN20220421BHJP
【FI】
C23C26/00 C
F02B39/00 U
C23C10/32
C23C8/20
C23C8/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174362
(22)【出願日】2020-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三岡 哲也
(72)【発明者】
【氏名】水野 智仁
(72)【発明者】
【氏名】上田 真玄
(72)【発明者】
【氏名】林 秀高
【テーマコード(参考)】
3G005
4K028
4K044
【Fターム(参考)】
3G005FA13
3G005GA01
3G005GB25
3G005KA05
4K028AA01
4K028AA02
4K044AA02
4K044AA03
4K044AB02
4K044AB03
4K044BA12
4K044BA13
4K044BA14
4K044BA18
4K044BB01
4K044BB11
4K044BC01
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】高温環境下においても摩擦を低減することができる表面被覆鉄合金部材を提供する。
【解決手段】表面被覆鉄合金部材1は、鉄合金からなる母材2と、窒化ホウ素粒子及び窒化ホウ素粒子を保持する無機系バインダーを含み、母材2の表面を被覆する窒化ホウ素皮膜3と、を有している。母材2の表面には、表面に近いほどCr原子の濃度が高くなるように構成されたCr浸透層が設けられていてもよい。Cr浸透層には、Cr原子と、N原子及びC原子のうち少なくとも一方の原子とが含まれていてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄合金からなる母材と、
窒化ホウ素粒子及び前記窒化ホウ素粒子を保持する無機系バインダーを含み、前記母材の表面を被覆する窒化ホウ素皮膜と、を有する、表面被覆鉄合金部材。
【請求項2】
前記母材の表面には、表面に近いほどCr原子の濃度が高くなるように構成されたCr浸透層が設けられている、請求項1に記載の表面被覆鉄合金部材。
【請求項3】
前記Cr浸透層には、Cr原子と、N原子及びC原子のうち少なくとも一方の原子とが含まれている、請求項2に記載の表面被覆鉄合金部材。
【請求項4】
前記窒化ホウ素皮膜中の前記窒化ホウ素粒子の含有量は、30質量%以上80質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面被覆鉄合金部材。
【請求項5】
前記窒化ホウ素皮膜の厚みは1μm以上20μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面被覆鉄合金部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆鉄合金部材に関する。
【背景技術】
【0002】
可動部を備えた機械装置においては、機械装置を構成する部品同士の摩擦を低減する目的で、固体潤滑剤が用いられることがある。例えば特許文献1には、ディーゼルエンジンに装着される可変容量ターボチャージャに関する記載がある。特許文献1のターボチャージャにおいては、ノズル翼角度調整リングの溝とクランクレバーとの係合部に、シリコン樹脂中に二硫化タングステン粒子とグラファイトと三酸化アンチモンを分散させた皮膜が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-149612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、従来固体潤滑剤が使用されている温度範囲よりも高い温度において使用される機械装置の可動部に固体潤滑剤を適用することが望まれている。しかし、特許文献1に記載された皮膜は、このような高温環境下では比較的早期に劣化しやすいという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、高温環境下においても摩擦を低減することができる表面被覆鉄合金部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、鉄合金からなる母材と、
窒化ホウ素粒子及び前記窒化ホウ素粒子を保持する無機系バインダーを含み、前記母材の表面を被覆する窒化ホウ素皮膜と、を有する、表面被覆鉄合金部材にある。
【発明の効果】
【0007】
前記表面被覆鉄合金部材は、母材の表面に、窒化ホウ素粒子と、窒化ホウ素粒子を保持する無機系バインダーとを含む窒化ホウ素皮膜が設けられている。窒化ホウ素皮膜中の窒化ホウ素粒子及び無機系バインダーは、いずれも高い耐熱性を有している。それ故、前記窒化ホウ素皮膜は、高温環境下においても長期間にわたって摩擦を低減する効果を維持することができる。
【0008】
従って、前記の態様によれば、高温環境下においても摩擦を低減することができる表面被覆鉄合金部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実験例1における表面被覆鉄合金部材の断面図である。
図2図2は、実験例1における動摩擦係数の測定結果を示す説明図である。
図3図3は、実験例2における耐摩耗性の評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前記表面被覆鉄合金部材の母材は、鉄合金から構成されている。母材を構成する鉄合金は、普通鋼であってもよいし、フェライト系ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼等の合金鋼であってもよい。母材を構成する鉄合金は、耐熱性の観点から、SUS316L、SUS310S等のオーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0011】
母材としては、前述した鉄合金からなる部材をそのまま使用してもよい。また、母材の表面には、母材の内部とは異なる化学成分を有し、窒化ホウ素皮膜により被覆された表面層が設けられていてもよい。表面層は、単一の層から構成されていてもよいし、互いに積層された複数の層から構成されていてもよい。
【0012】
表面層としては、例えば、窒化処理により形成される窒化層や、浸炭処理により形成される浸炭層等が挙げられる。母材の表面に窒化層または浸炭層を形成することにより、母材の表面の硬さをより上昇させることができる。これにより、表面被覆鉄合金部材の摩耗に対する耐久性をより向上させることができる。
【0013】
母材の表面には、前記表面層として、表面に近いほどCr原子の濃度が高くなるように構成されたCr浸透層が設けられていることが好ましい。Cr浸透層は、母材と他の部材とが摺動した際の摩擦をより低減することができる。それ故、母材の表面にCr浸透層を設けることにより、窒化ホウ素皮膜が摩耗により消滅した場合においても、他の部材との摩擦の上昇を抑制することができる。さらに、Cr浸透層は、母材の表面の硬さをより上昇させ、耐摩耗性を向上させる作用を有している。これらの結果、母材の表面にCr浸透層を設けることにより、高温環境下における摩擦の増大をより長期間にわたって抑制することができる。
【0014】
母材の表面にCr浸透層を形成するためには、例えば、母材の表面にクロマイズ処理等のCr原子を浸透させる表面処理を行えばよい。
【0015】
前述した作用効果をより高める観点からは、前記Cr浸透層には、Cr原子と、N原子及びC原子のうち少なくとも一方の原子とが含まれていることが好ましい。なお、母材の表面にCr原子とN原子との両方を含むCr浸透層を形成するためには、例えば、母材の表面に、Cr原子を浸透させる処理と窒化処理とを組み合わせて行えばよい。また、母材の表面にCr原子とC原子との両方を含むCr浸透層を形成するためには、母材の表面に、Cr原子を浸透させる処理と浸炭処理とを組み合わせて行えばよい。
【0016】
高温環境下における摩擦の増大をより長期間にわたって抑制する効果をさらに高める観点からは、母材は、浸炭層または窒化層のうちいずれか一方の中間層と、前記中間層上に設けられ、窒化ホウ素皮膜により被覆されたCr浸透層とからなる表面層を有していることがさらに好ましい。
【0017】
母材の表面には、窒化ホウ素粒子と、窒化ホウ素粒子を保持する無機系バインダーと、を含む窒化ホウ素皮膜が設けられている。窒化ホウ素皮膜は、母材の表面全体に設けられていてもよいし、母材の表面の一部に設けられていてもよい。窒化ホウ素粒子としては、例えば、六方晶窒化ホウ素(いわゆるh-BN)からなる粒子を用いることができる。窒化ホウ素粒子の平均粒子径は特に限定されることはないが、例えば、0.5μm以上12μm以下の範囲であればよい。なお、窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、体積基準の粒度分布に基づいて算出されるメジアン径(つまり、累積50%径)である。窒化ホウ素粒子の体積基準の粒度分布は、例えば、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いることにより取得することができる。
【0018】
無機系バインダーとしては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物を使用することができる。無機系バインダーは、前述した金属酸化物のうち1種の金属酸化物から構成されていてもよいし、2種以上の金属酸化物から構成されていてもよい。
【0019】
前記窒化ホウ素皮膜中の前記窒化ホウ素粒子の含有量は、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。窒化ホウ素皮膜中の窒化ホウ素粒子の含有量を30質量%以上とすることにより、窒化ホウ素粒子による摩擦低減の効果をより高め、高温環境下における表面被覆鉄合金部材と相手材との摩擦をより低減することができる。摩擦低減の効果をより高める観点からは、窒化ホウ素皮膜中の窒化ホウ素粒子の含有量を45質量%以上とすることがより好ましい。
【0020】
また、窒化ホウ素皮膜中の窒化ホウ素粒子の含有量を80質量%以下とすることにより、窒化ホウ素皮膜中の無機系バインダーの量を十分に多くし、窒化ホウ素皮膜からの窒化ホウ素粒子の脱落をより長期間にわたって抑制することができる。これにより、窒化ホウ素皮膜による摩擦低減の効果をより長期間にわたって維持することができる。かかる作用効果をより確実に奏する観点からは、窒化ホウ素皮膜中の窒化ホウ素粒子の含有量を70質量%以下とすることがより好ましい。
【0021】
また、前記窒化ホウ素皮膜の厚みは1μm以上20μm以下であることが好ましい。窒化ホウ素皮膜の厚みを1μm以上とすることにより、窒化ホウ素皮膜による摩擦低減の効果をより長期間にわたって維持することができる。一方、窒化ホウ素皮膜の厚みを過度に厚くすると、相手材との摩擦によって窒化ホウ素皮膜が摩耗しやすくなるおそれがある。窒化ホウ素皮膜の厚みを好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下とすることにより、窒化ホウ素皮膜の摩耗をより長期間にわたって抑制し、ひいては窒化ホウ素皮膜による摩擦低減の効果をより長期間にわたって維持することができる。
【0022】
前記表面被覆鉄合金部材は、例えば、摺動面を備えた摺動部品として構成されていてもよい。鉄合金からなる摺動部品の摺動面に窒化ホウ素皮膜を設けることにより、高温環境下においても摩擦を低減することができる。摺動部品は、より具体的には、ガソリンエンジン用ターボチャージャに用いるための摺動部品として構成されていてもよい。ガソリンエンジンはディーゼルエンジンに比べて排気温度が高いため、ガソリンエンジンに取り付けられるターボチャージャの部品には、ディーゼルエンジン用のターボチャージャに比べて高い耐熱性が求められる。前記表面被覆鉄合金部材は、表面に高い耐熱性を有し、摩擦の小さい窒化ホウ素皮膜を有しているため、ガソリンエンジン用ターボチャージャの摺動部品として好適である。特に、前記表面被覆鉄合金部材は、ターボチャージャにおけるタービンハウジングの内部、つまり、排気ガスが流通する部分に配置される摺動部品として好適である。
【0023】
前記表面被覆鉄合金部材を作製するに当たっては、例えば、以下の方法を採用すればよい。まず、窒化ホウ素皮膜が形成される母材と、窒化ホウ素皮膜を形成するための塗料とを準備する。
【0024】
母材としては、鉄合金からなり、所望の形状を有する部材を準備すればよい。この際、必要に応じて、母材に窒化処理や浸炭処理、クロマイズ処理等の表面処理を実施することにより、窒化層や浸炭層、Cr浸透層などの表面層を備えた母材を得ることができる。
【0025】
また、塗料としては、窒化ホウ素粒子と無機系バインダーの前駆体との混合物を使用することができる。前駆体としては、例えば、アルカリケイ酸塩や金属アルコキシド等の、焼成後に金属酸化物となる化合物を使用することができる。塗料には、必要に応じて、有機溶媒等が含まれていてもよい。
【0026】
このようにして準備した母材の表面に塗料を塗布した後、母材上の塗料を加熱して前駆体を焼成することにより、母材の表面に窒化ホウ素皮膜を形成することができる。前駆体の焼成温度及び焼成時間は、前駆体の化学構造に応じて適宜設定すればよい。
【実施例0027】
前記表面被覆鉄合金部材の実施例を以下に説明する。なお、本発明に係る表面被覆鉄合金部材の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0028】
(実験例1)
本例の表面被覆鉄合金部材1は、図1に示すように、鉄合金からなる母材2と、窒化ホウ素粒子及び窒化ホウ素粒子を保持する無機系バインダーからなり、母材2の表面を被覆する窒化ホウ素皮膜3と、を有している。本例の表面被覆鉄合金部材1は円柱状を呈しており、その先端11は曲率半径250mmの球面状に成形されている。
【0029】
本例においては、以下の方法により準備した試験材1~7を用い、窒化ホウ素皮膜を備えた表面被覆鉄合金部材の摩擦特性の評価を行った。なお、試験材2~7は、試験材1との比較のための試験材であり、表面に窒化ホウ素皮膜を有していない。
【0030】
・試験材1
試験材1は、鉄合金からなる母材と、窒化ホウ素粒子及び窒化ホウ素粒子を保持する無機系バインダーからなり、母材の表面を被覆する窒化ホウ素皮膜と、を有している。試験材1の形状は図1に示す通りである。
【0031】
試験材1の母材を構成する鉄合金の材質は、具体的にはSUS310Sである。試験材1の窒化ホウ素皮膜の厚みは10μmである。試験材1の窒化ホウ素皮膜には50質量%の六方晶窒化ホウ素粒子が含まれている。試験材1の無機系バインダーは、具体的にはシリカである。
【0032】
・試験材2
試験材2は、SUS310Sから構成されている。試験材2の形状は、試験材1と同様である。
【0033】
・試験材3
試験材3は、SUS310Sからなり、表面がCuめっき膜により被覆されている。試験材3の形状は、試験材1と同様である。
【0034】
・試験材4
試験材4は、SUS310Sからなり、表面がCrめっき膜により被覆されている。試験材4の形状は、試験材1と同様である。
【0035】
・試験材5
試験材5は、SUS310Sからなり、表面にCr原子及びN原子を含むCr浸透層が設けられている。試験材5の形状は、試験材1と同様である。試験材5のCr浸透層は、具体的には、SUS310Sからなる母材の表面にCr原子を浸透させる処理と窒化処理とを組み合わせて行うことにより形成されている。
【0036】
・試験材6
試験材6は、SUS310Sからなり、表面にCr原子及びC原子を含むCr浸透層が設けられている。試験材6の形状は、試験材1と同様である。試験材6のCr浸透層は、具体的には、SUS310Sからなる母材の表面にCr原子を浸透させる処理と浸炭処理とを組み合わせて行うことにより形成されている。
【0037】
・試験材7
試験材7は、Ni基耐熱合金から構成されている。試験材7を構成するNi基耐熱合金の材質は、具体的にはIN713Cである。試験材7の形状は、試験材1と同様である。
【0038】
以上の構成を有する試験材1~7を用い、高温環境下において摺動試験を行った。まず、試験材1~7と摺動させる相手材として、SUS310Sからなる板材を準備した。この相手材に試験材の先端を4Nの荷重で相手材に押し付けつつ往復させることにより、試験材を相手材に摺動させた。なお、往復運動の振幅は10mm、試験材の速度は2mm/秒とし、摺動試験の継続時間は1800秒とした。また、摺動試験は、表1に示すいずれかの温度の高温槽内で行った。表1及び図2に、摺動試験開始時から100秒後までの動摩擦係数の平均値を示す。なお、図2の縦軸は動摩擦係数の平均値であり、横軸は試験温度(単位:℃)である。表1における記号「-」は、当該温度において摺動試験を行わなかったことを示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1及び図2に示したように、鉄合金からなる母材の表面に窒化ホウ素皮膜が形成されている試験材1は、いずれの温度においても、窒化ホウ素皮膜が設けられていない試験材2~6に比べて動摩擦係数を低減することができた。さらに、試験材1は、Ni基耐熱合金からなる試験材7に比べても動摩擦係数を低減することができた。
【0041】
以上のように、鉄合金からなる母材2の表面に窒化ホウ素皮膜3を形成することにより、高温環境下においても摩擦を低減することができる表面被覆鉄合金部材1が得られた。さらに、かかる表面被覆鉄合金部材1の母材2は鉄合金から構成されているため、試験材7のようにNi基耐熱合金からなる部材に比べて材料コストを容易に低減することができる。
【0042】
(実験例2)
本例では、実験例1における試験材2及び試験材5~7を用い、Cr浸透層による耐摩耗性向上の効果の評価を行った。
【0043】
耐摩耗性向上の効果の評価は、高温環境下における摺動試験により行った。本例における摺動試験の試験方法及び条件は、試験材に加える荷重を60Nとした以外は、実験例1と同様である。表2及び図3に、摺動試験完了後における試験材の先端の摩耗量(単位:μm)と、相手材の摩耗量(単位:μm)との合計を示す。なお、図3の縦軸は試験材の先端の摩耗量と相手材の摩耗量との合計(単位:μm)であり、横軸は試験温度(単位:℃)である。表2における記号「-」は、当該温度において摺動試験を行わなかったことを示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2及び図3に示したように、鉄合金からなる母材の表面にCr浸透層を形成した試験材5~6は、いずれの温度においても、Cr浸透層が設けられていない試験材2や試験材7に比べて摩耗量を低減することができた。
【0046】
以上のように、鉄合金からなる母材2の表面にCr浸透層を形成することにより、母材の耐摩耗性が向上した。また、実験例1の表1及び図2によれば、表面にCr浸透層を有する鉄合金は、Ni基耐熱合金よりも小さい動摩擦係数を有している。それ故、これらの結果によれば、表面被覆鉄合金部材1における窒化ホウ素皮膜3の下にCr浸透層を設けることにより、Cr浸透層が摩耗により消失した場合においても、動摩擦係数の増大を抑制できることが理解できる。
【符号の説明】
【0047】
1 表面被覆鉄合金部材
2 母材
3 窒化ホウ素皮膜
図1
図2
図3