(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065762
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】化粧品組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20220421BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20220421BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20220421BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/19
A61Q1/00
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174450
(22)【出願日】2020-10-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) 送付日 2020年9月11日 送付先 通信販売の利用顧客 (その2) 送付日 2020年9月24日、2020年10月11日 送付先 通信販売の利用顧客 (その3) 送付日 2020年9月15日 送付先 女性誌・美容誌・主婦誌の出版社 (その4) 送付日 2020年10月7日 送付先 雑誌出版社 (その5) 送付日 2020年10月10日 送付先 通信販売の利用顧客 (その6) 送付日 2020年10月11日 送付先 通信販売の利用顧客
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金平 有華
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AB351
4C083AB352
4C083AC102
4C083AC112
4C083AC302
4C083AC332
4C083AC422
4C083AC482
4C083AC532
4C083AC581
4C083AC582
4C083AD092
4C083AD332
4C083AD352
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC01
4C083EE01
4C083FF01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】肌に潤いを与え、また肌のバリア機能を増強若しくは回復させる新規な化粧品組成物の提供。
【解決手段】(A)亜硫酸金属塩、ピロ亜硫酸金属塩、及び亜硫酸水素金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩、並びに(B)プロテオグリカンを含有し、pHが5.3~7.8である、組成物。好ましくは、前記プロテオグリカンが分子量180万以上のプロテオグリカンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)亜硫酸金属塩、ピロ亜硫酸金属塩、及び亜硫酸水素金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩、並びに
(B)プロテオグリカン
を含有し、
pHが5.3~7.8である、
組成物。
【請求項2】
(A)の金属塩が、アルカリ金属塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(A)の金属塩が、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸カリウム、及び亜硫酸水素カリウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(B)が、分子量180万以上のプロテオグリカンである、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
さらにアミノ酸を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
化粧品組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化粧品組成物等に関し、詳細にはプロテオグリカンを含有する化粧品組成物に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
化粧品は、皮膚に適用することにより、様々な効果を肌に与えることが期待される。例えば、肌に潤いを与え、また肌のバリア機能を増強若しくは回復させることが期待される。このため、このような種々の機能を好ましく奏する化粧品組成物が求められている。このような機能を有する化粧品組成物として、例えばプロテオグリカンを含有する組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/007885号
【特許文献2】国際公開第2014/017570号
【特許文献3】国際公開第2012/099224号
【特許文献4】国際公開第2012/099216号
【特許文献5】特開2017-066097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、プロテオグリカンを含有する組成物(特に化粧品組成物)の検討を進め、プロテオグリカンを含有する組成物はある程度以上(例えば25℃以上)程度の温度で長期間保存すると、組成物の色が徐々に黄色に変色する(つまり、黄変する)ことを見いだした。組成物を特に化粧品組成物として用いるときなどは、保存により徐々に変色することは消費者から忌避されるため、このような黄変を抑制することが重要である。
【0005】
そこで、本発明者らは、プロテオグリカン含有組成物の保存により生じる黄変(経時的黄変)を抑制する方法を見いだすべく、さらに検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、プロテオグリカン含有組成物に、さらに特定の金属塩を含有させることにより、経時的黄変を抑制できる可能性を見いだし、さらに改良を重ねた。
【0007】
そして、本発明者らは、当該改良段階において、金属塩を加えるとプロテオグリカンが分解して分子量が小さくなってしまうおそれがあることも見いだした。上記各特許文献に記載されるように、プロテオグリカンは分子量が比較的大きいもののほうが優れた効果を奏する場合も多いことから、組成物中のプロテオグリカンの分子量を保つことが望ましい。
【0008】
そこで、本発明者らは、組成物中のプロテオグリカンの分子量が保たれるようにするための検討も行い、組成物を特定のpHとすることによって、プロテオグリカンの分解が抑制され得ることも見いだした。
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
(A)亜硫酸金属塩、ピロ亜硫酸金属塩、及び亜硫酸水素金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩、並びに
(B)プロテオグリカン
を含有し、
pHが5.3~7.8である、
組成物。
項2.
(A)の金属塩が、アルカリ金属塩である、項1に記載の組成物。
項3.
(A)の金属塩が、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸カリウム、及び亜硫酸水素カリウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属塩である、項1に記載の組成物。
項4.
(B)が、分子量180万以上のプロテオグリカンである、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
さらにアミノ酸を含有する、項1~4のいずれかに記載の組成物。
項6.
化粧品組成物である、項1~4のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
経時的黄変が抑制され、含有されるプロテオグリカンの分子量減少も抑制された、プロテオグリカン含有組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】凍結サケ鼻軟骨ブロックの写真である。プラスチック容器の中央に配置された塊が凍結サケ鼻軟骨ブロックである。
【
図2】高分子量プロテオグリカンを含有する魚類軟骨水抽出物(凍結乾燥物:サンプル1)の、ウロン酸量クロマトグラム及び280nmタンパク質量クロマトグラムを示す。
【
図3】市販プロテオグリカンの、ウロン酸量クロマトグラム及び280nmタンパク質量クロマトグラムを示す。
【
図4a】ピロ亜硫酸ナトリウム及びプロテオグリカンを含有する組成物を1ヶ月保存した時の写真を示す。なお、左から順に、-5℃、室温(25℃)、40℃、55℃での保存後の写真である。
【
図4b】プロテオグリカンを含有する組成物(亜硫酸塩含有せず)を1ヶ月保存した時の写真を示す。なお、左から順に、-5℃、室温(25℃)、40℃、55℃での保存後の写真である。
【
図4c】亜硫酸ナトリウム及びプロテオグリカンを含有する組成物を1ヶ月保存した時の写真を示す。なお、左から順に、-5℃、室温(25℃)、40℃、55℃での保存後の写真である。
【
図4d】ピロ亜硫酸カリウム及びプロテオグリカンを含有する組成物を1ヶ月保存した時の写真を示す。なお、左から順に、-5℃、室温(25℃)、40℃、55℃での保存後の写真である。
【
図4e】亜硫酸水素ナトリウム及びプロテオグリカンを含有する組成物を1ヶ月保存した時の写真を示す。なお、左から順に、-5℃、室温(25℃)、40℃、55℃での保存後の写真である。
【
図4f】チオ硫酸ナトリウム及びプロテオグリカンを含有する組成物を1ヶ月保存した時の写真を示す。なお、左から順に、-5℃、室温(25℃)、40℃、55℃での保存後の写真である。
【
図5】pHの異なる各例の組成物について、含有されるプロテオグリカンの分子量分布をゲル濾過クロマトグラフィーにより検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、プロテオグリカン含有組成物等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0013】
本開示に包含される組成物は、(A)特定の金属塩、及び(B)プロテオグリカンを含有し、pHが5.3~7.8である組成物である。以下、本開示に包含される当該組成物を「本開示の組成物」ということがある。
【0014】
(A)の金属塩は、亜硫酸金属塩、ピロ亜硫酸金属塩、及び亜硫酸水素金属塩である。当該金属塩は、アルカリ金属塩であることが好ましく、リチウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩がより好ましい。特にナトリウム塩及びカリウム塩が好ましく、具体的には亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸カリウム、及び亜硫酸水素カリウムが好ましい。(A)の金属塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。当該特定の金属塩をプロテオグリカンと組み合わせて組成物に含有させることにより、当該組成物の黄変を抑制することができる。
【0015】
プロテオグリカンは、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)及びタンパク質が結合した構造を有する化合物である。グリコサミノグリカンは、2糖の繰り返し構造を有する酸性糖であり、具体的にはコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸等が例示できる。これら酸性糖成分が有する2糖の繰り返し構造において、当該2糖のうち通常1つはアミノ糖、もう1つはウロン酸である。従って、プロテオグリカンの検出には、ウロン酸検出法の常法の1つであるカルバゾール硫酸法を用いることができる。
【0016】
また、タンパク質に、櫛の歯状にグリコサミノグリカンが結合した化合物はプロテオグリカンモノマーとも呼ばれる(プロテオグリカンモノマーにおける当該タンパク質はコアタンパク質と呼ばれる。)。特に生体内では、このプロテオグリカンモノマーがリンクタンパク質を介してヒアルロン酸と結合した会合体を形成していると考えられており、当該会合体はプロテオグリカン集合体(proteoglycanaggregate)とも呼ばれる。本明細書における用語「プロテオグリカン」は、特に断らない限り、プロテオグリカンモノマー及びプロテオグリカン集合体を包含する意味で用いられる。なお、ヒアルロン酸もグリコサミノグリカンの一種である。
【0017】
本開示の組成物に(B)成分として用いられるプロテオグリカンは、比較的高分子量のプロテオグリカンであることが好ましい。また、本開示の組成物に含まれるプロテオグリカンは、下述するように特定の方法により魚類軟骨から調製される水抽出物に含有される形で得られうる。当該特定の方法により得られるプロテオグリカンは比較的高分子量のプロテオグリカンであり、好ましい。従って、本開示の組成物の好ましい一形態は、当該魚類軟骨水抽出物を含有する組成物(特に化粧品組成物)ということができる。
【0018】
本開示の組成物に含まれる高分子量プロテオグリカンは、具体的には分子量180万以上のプロテオグリカンであり、好ましくは分子量250万以上、300万以上、400万以上、500万以上、600万以上、700万以上、800万以上、900万以上、1000万以上、1100万以上、1200万以上、1300万以上、1400万以上、1500万以上、1600万以上、1700万以上、1800万以上、1900万以上、又は2000万以上のプロテオグリカンである。分子量が大きいものほど好ましく、特に分子量500万以上が好ましい。また、分子量の上限は特に制限はされないが、例えば2500万が例示される。当該分子量範囲(180万~2500万)の上限又は下限は、例えば、190万、200万、210万、220万、230万、240万、250万、260万、270万、280万、290万、300万、310万、320万、330万、340万、350万、360万、370万、380万、390万、400万、410万、420万、430万、440万、450万、460万、470万、480万、490万、500万、510万、520万、530万、540万、550万、560万、570万、580万、590万、600万、610万、620万、630万、640万、650万、660万、670万、680万、690万、700万、710万、720万、730万、740万、750万、760万、770万、780万、790万、800万、810万、820万、830万、840万、850万、860万、870万、880万、890万、900万、910万、920万、930万、940万、950万、960万、970万、980万、990万、1000万、1010万、1020万、1030万、1040万、1050万、1060万、1070万、1080万、1090万、1100万、1110万、1120万、1130万、1140万、1150万、1160万、1170万、1180万、1190万、1200万、1210万、1220万、1230万、1240万、1250万、1260万、1270万、1280万、1290万、1300万、1310万、1320万、1330万、1340万、1350万、1360万、1370万、1380万、1390万、1400万、1410万、1420万、1430万、1440万、1450万、1460万、1470万、1480万、1490万、1500万、1510万、1520万、1530万、1540万、1550万、1560万、1570万、1580万、1590万、1600万、1610万、1620万、1630万、1640万、1650万、1660万、1670万、1680万、1690万、1700万、1710万、1720万、1730万、1740万、1750万、1760万、1770万、1780万、1790万、1800万、1810万、1820万、1830万、1840万、1850万、1860万、1870万、1880万、1890万、1900万、1910万、1920万、1930万、1940万、1950万、1960万、1970万、1980万、1990万、2000万、2010万、2020万、2030万、2040万、2050万、2060万、2070万、2080万、2090万、2100万、2110万、2120万、2130万、2140万、2150万、2160万、2170万、2180万、2190万、2200万、2210万、2220万、2230万、2240万、2250万、2260万、2270万、2280万、2290万、2300万、2310万、2320万、2330万、2340万、2350万、2360万、2370万、2380万、2390万、2400万、2410万、2420万、2430万、2440万、2450万、2460万、2470万、2480万、又は2490万であってもよい。例えば、当該範囲は500万~2000万であってもよい。
【0019】
魚類軟骨水抽出物を、下記条件のゲル濾過クロマトグラフィーにより処理し、得られる各フラクションに含まれるウロン酸量(プロテオグリカン量を反映する)をカルバゾール硫酸法で定量し、当該ウロン酸量に基づくクロマトグラムを作成することにより、上記の分子量以上のプロテオグリカンの存在を確認することができる。このようなウロン酸量に基づくクロマトグラムを以下「ウロン酸量クロマトグラム」ということがある。また、各フラクションの280nmでの吸光度を測定することで、含まれるタンパク質量を相対値化し(すなわち、含まれるタンパク質量を反映する値とし)、当該吸光度に基づくクロマトグラムを描くこともできる。このようなクロマトグラムを以下「280nmタンパク質量クロマトグラム」ということがある。
【0020】
〔ゲル濾過クロマトグラフィー条件〕
カラム: SepharoseCL-2B 充填カラム(Sepharose CL-2Bを担体としてφ1cm×50cmのカラムに充填したもの。Sepharose CL-2Bのデキストランの分画範囲は100~20,000kDaであり、GE Healthcare社等から入手できる。Sepharose CL-2Bは、2%架橋アガロース、粒子径60~200μm(レーザー回折散乱法による)、CAS登録番号65099-79-8である。)
バッファー: 0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.1, 0.2M NaCl含有)
アプライサンプル量:魚類軟骨水抽出物4mg(乾燥質量換算)(1mLバッファーに溶解させて使用)
流速: 0.15mL/min
分画フラクション量: 1mL/tube
分子量検量線:次の各種デキストラン分子量マーカーについて上記と同様の条件でゲル濾過クロマトグラフィーを行い、糖検出のための周知の方法であるフェノール・硫酸法により各フラクションの吸光度(デキストラン量を反映する)を測定し、各マーカーが溶出されたフラクションを求め、当該条件のゲル濾過クロマトグラフィーの各フラクションに含まれる成分の分子量を反映する検量線を作成する。“各マーカーが溶出されたフラクション”とは、各マーカーが最も多く溶出されたフラクションをいう。換言すれば、各デキストラン分子量マーカーをゲル濾過した際の、デキストラン量を反映するクロマトグラムにおけるピークトップに相当するフラクションである。
【0021】
<デキストラン分子量マーカー>
Dextran from Leuconostoc mesenteroides(mol wt 5,000,000-40,000,000)(SIGMA)・・・カラムのvoid volume測定用、20000kDa
Dextran Standard 1,400,000(SIGMA)・・・1400kDa
Dextran Standard 670,000(SIGMA) ・・・670kDa
Dextran Standard 410,000(SIGMA) ・・・410kDa
Dextran Standard 270,000(SIGMA) ・・・270kDa
【0022】
但し、Dextran from Leuconostoc mesenteroidesについては、これに含まれる低分子のデキストランを除去する前処理を行った後、マーカーとして用いる。当該前処理は、上述の〔ゲル濾過クロマトグラフィー条件〕によりDextran from Leuconostoc mesenteroidesそのものを溶出させ、分子量20,000kDa以上の分子を回収し、凍結乾燥させることで行う。具体的には、フェノール・硫酸法により各フラクションの吸光度を測定して作成した、デキストラン量を反映するクロマトグラムにおいて、最初に出現したピークに相当するフラクションを回収し、これを凍結乾燥する(これにより、分子量20,000kDa以上の分子を回収、凍結乾燥できると考えられる)。この凍結乾燥物を実際にマーカー(カラムのvoidvolume測定用)として用いる。
【0023】
デキストラン量を反映するクロマトグラムを得るための吸光度測定は、Hodge, J. E. and Hofreiter, B. T., Method in Carbohydrate Chemistry, 1, 338 (1962)に記載の方法(フェノール・硫酸法)に従う。具体的には、次のようにして行う。
〔1〕105×15mmの試験管に試料水溶液を500μL加える。
〔2〕フェノール試薬(5 v/v%フェノール水溶液)を500μL加え、撹拌する。
〔3〕濃硫酸を2.5mL加え、すぐに10秒間激しく撹拌する。
〔4〕室温に20分以上放置する。
〔5〕分光光度計で490nmの吸収を測定する。
【0024】
なお、カルバゾール硫酸法とは、ウロン酸(グルクロン酸(GlcA)、イズロン酸等)の発色色素であるカルバゾール溶液を測定検体に添加し、分光光度計を用いて吸光度を測定し、当該吸光度を基にウロン酸量を算出する周知の方法である。濃度を規定したグルクロン酸標準溶液を用いて検量線を作成し、検体中のグルクロン酸含量を求める。より具体的には、次のようにして行う。ホウ酸ナトリウム・10水和物0.95gを濃硫酸100mLに溶解した試薬2.5mLを試験管にとり、氷冷する。これに被検体0.5mL(2~20μgのウロン酸を含むようにするのが好ましい)を静かに重層する。室温以上にならないように水冷しながらよく攪拌する。ガラス球で蓋をした後に、沸騰湯浴中で10分間加熱し、室温まで水冷する。これに、カルバゾール125mgを無水メチルアルコール100mLに溶解した試薬を0.1mL加えて混合し、更に15分間沸騰湯浴中で加熱する。その後、室温まで水冷し530nmにおける吸光度を測定する。ブランクは蒸留水0.5mLを用いる。同時に、グルクロン酸を用いて検量線を作成する。(下述する実施例のカルバゾール硫酸法も、ここに記載した方法で行った。)
【0025】
特に限定はされないが、乾燥質量換算で、魚類軟骨水抽出物に含まれるウロン酸量(カルバゾール硫酸法により定量)全量のうち、10質量%以上は、分子量180万以上のプロテオグリカンに由来するのが好ましい。換言すれば、魚類軟骨水抽出物は、乾燥質量換算で、分子量180万以上のプロテオグリカンが含むウロン酸量が、抽出物に含まれるウロン酸全量の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、又は55質量%以上である。当該割合は大きい程好ましい。
【0026】
また、魚類軟骨水抽出物は、乾燥質量換算で、分子量250万以上のプロテオグリカンが含むウロン酸量が、抽出物に含まれるウロン酸全量の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、又は60質量%以上である。当該割合は大きい程好ましい。
【0027】
また、特に限定はされないが、魚類軟骨水抽出物は、乾燥質量換算で、分子量500万以上のプロテオグリカンが含むウロン酸量が、抽出物に含まれるウロン酸全量の7質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以上、13質量%以上、16質量%以上、20質量%以上、24質量%以上、27質量%以上、30質量%以上、34質量%以上、又は37質量%以上である。当該割合は大きいほど好ましい。
【0028】
なお、特定の分子量(仮にXとする)以上のプロテオグリカンが含むウロン酸量が、抽出物に含まれるウロン酸全量のどの程度の割合を占めるのかは、上述したウロン酸量クロマトグラムのピーク面積から求めることができる。具体的には、当該ウロン酸量クロマトグラムのピーク面積全体に対して、分子量X以上のウロン酸が占める面積割合を求めればよい。より具体的には、縦軸がウロン酸量、横軸がフラクションNo.であるウロン酸量クロマトグラムにおいて、分子量Xのプロテオグリカンを含むフラクションを通るように垂線を引き、その垂線で分断されたピーク部分のうち、分子量のより大きいプロテオグリカンを含むピーク部分の面積が、ピーク全体の面積のどの程度の割合を占めるかを求めればよい。
【0029】
なお、魚類軟骨水抽出物に含まれるウロン酸は、プロテオグリカンに含まれるものの他、プロテオグリカンから分断された糖鎖に含まれるもの等も想定される。
【0030】
また、魚類軟骨水抽出物に含まれるウロン酸量(カルバゾール硫酸法により測定)は、乾燥質量換算で、当該抽出物の好ましくは5質量%以上、より好ましくは7.5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、よりさらに好ましくは12.5質量%以上、なお好ましくは15質量%以上、特に好ましくは17.5質量%以上である。なお、本明細書(特に図表)において、ウロン酸量を示す際にグルクロン酸の略記であるGlcAを用いて「GlcA(μg)」などと表す場合がある。なお、魚類軟骨水抽出物に含まれるプロテオグリカン中のグリコサミノグリカンは、ほぼコンドロイチン硫酸と考えられる。そして、おおよそのコンドロイチン硫酸量は、ウロン酸量に係数2.593を乗ずることで求められることが知られている。よって、本発明の魚類軟骨水抽出物に含まれるおおよそのプロテオグリカン量は、ウロン酸量に係数2.593を乗ずることで算出できる。
【0031】
魚類軟骨水抽出物は、魚類軟骨(魚類の軟骨)から抽出される。魚類としては、サケ科サケ属の魚が好ましく、具体的にはマス(カラフトマス、サクラマス、サツキマス等)、サケ(シロザケ、ベニザケ、ギンザケ、マスノスケ、スチールヘッド等)、等が例示される。また、サメ、タラ等も用いることができる。特にサケ又はマスが好ましい。また、軟骨としては、特に制限されないが、頭部軟骨、中でも鼻軟骨が好ましい。また、通常、魚類(特にサケやマス)が食品製品等へ加工される際に頭部は廃棄されることから、頭部軟骨の入手コストは安く、大量に安定供給され得るという利点もある。魚類軟骨水抽出物としては、サケ鼻軟骨水抽出物が最も好ましい。
【0032】
抽出は、水を用いて行われる。魚類軟骨は、生体から採取した軟骨をそのまま抽出に供してもよく、微細化(より具体的には、小片化又は粉末化)してから抽出に供してもよい。また、下述するように、抽出前に例えばエタノールなどの有機溶媒を用いて魚類軟骨に脱脂処理を施しても良い。このようにして、水によりプロテオグリカン(高分子量プロテオグリカンを含む)を抽出することができる。また、あるいは、水抽出を行う際、水を加熱しつつ行なうことにより、もしくは熱水や沸騰水を用いることにより、効率的により効果が高い魚類軟骨水抽出物を得ることができる。
【0033】
上記の通り、生体から採取した魚類軟骨をそのまま抽出に供することができる。抽出に供するまで、凍結して保存しておくことが好ましい。凍結方法は特に制限されず、公知の凍結方法を用いることができる。例えば、フリーザーを用いて、魚類軟骨を-20~-80℃程度で24~72時間程度保存する方法が例示できる。また、魚類軟骨は、脱脂(すなわち脂肪除去)処理されているものを用いることもできる。脱脂処理されたものを用いることで、脂質の混入が少ない精製度の高い魚類軟骨水抽出物を得ることができる点で好ましい。脱脂処理方法としては、下述する「脱脂処理された魚類軟骨」を得る方法が例示できる。
【0034】
小片化魚類軟骨は、魚類軟骨を小片化したものである。小片化は、公知の方法により行うことができる。例えば、公知のブレンダーやミル等の機器を用いて、魚類軟骨(好ましくは凍結魚類軟骨)を小片化することができる。小片化操作は、できるだけ低温で行うことが好ましい。例えば、小片化された魚類軟骨が凍結状態を保持可能な温度であることが好ましい。具体的には0℃以下が例示できる。
【0035】
また、小片化魚類軟骨は、抽出効率の観点からは、凍結された小片化魚類軟骨(凍結小片化魚類軟骨)であることが好ましい。凍結小片化魚類軟骨は、(i)魚類軟骨を凍結した後小片化することで、又は(ii)魚類軟骨を小片化した後凍結することで、得ることができるが、(i)により得られるものが特に好ましい。凍結方法は特に制限されず、公知の凍結方法を用いることができる。例えば、フリーザーを用いて、魚類軟骨を-20~-80℃程度で24~72時間程度保存する方法が例示できる。
【0036】
小片化魚類軟骨又は凍結小片化魚類軟骨は、1小片あたり0.001~0.5g程度が好ましく、0.005~0.3g程度がより好ましく、0.01~0.1g程度がさらに好ましい。小片化操作は、このような小片が得られるように行われるのが好ましい(使用機器条件を検討することにより、このような小片が得られる機器使用条件は簡単に決定できる)。
【0037】
粉末化魚類軟骨は、魚類軟骨を粉末化したもの(魚類軟骨粉末)である。粉末化は、公知の方法により行うことができる。例えば、公知のブレンダーやミル等の機器を用いて、魚類軟骨(好ましくは凍結魚類軟骨)を粉末化することができる。粉末化操作は、できるだけ低温(例えば0℃以下)で行うことが好ましい。
【0038】
また、粉末化魚類軟骨は、抽出効率の観点からは、凍結された粉末化魚類軟骨(凍結粉末化魚類軟骨)であることが好ましい。凍結粉末化魚類軟骨は、(i’)魚類軟骨を凍結した後粉末化することで、又は(ii’)魚類軟骨を粉末化した後凍結することで、得ることができるが、(i’)により得られるものが特に好ましい。凍結方法は特に制限されず、公知の凍結方法を用いることができる。例えば、フリーザーを用いて、魚類軟骨を-20~-80℃程度で24~72時間程度保存する方法が例示できる。
【0039】
なお、「粉末」は「小片」に比べて、小さいものを指すが、明確に区別することを意図する訳ではない。魚類軟骨を微細化したもののうち、比較的大きめの欠片のものを「小片」、比較的小さめの欠片のものを「粉末」と称している。従って、特に制限される訳ではないが、粉末としては、粒径約10~1000μm程度、好ましくは50~500μm程度、より好ましくは100~200μm程度(レーザー回折散乱法により測定)の粒径を有する粒子を含む粉末が望ましい。これらの粒径を有する粒子は、粉末中多く(例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上)含まれることが好ましい。
【0040】
用いられる小片化魚類軟骨又は粉末化魚類軟骨は、脱脂(すなわち脂肪除去)されているものも使用できる。つまり、小片化脱脂魚類軟骨又は粉末化脱脂魚類軟骨も使用できる。脱脂処理されたものを用いることで、脂質の混入が少ない精製度の高い魚類軟骨水抽出物を得ることができるからである。小片化脱脂魚類軟骨又は粉末化脱脂魚類軟骨は、(α)脱脂処理された魚類軟骨を小片化又は粉末化することにより、あるいは(β)魚類軟骨を小片化又は粉末化した後に脱脂処理することにより、得ることができる。
【0041】
脱脂方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、上記(α)において魚類軟骨を脱脂処理する方法としては、例えば、魚類軟骨を1~24時間程度流水(例えば水道蛇口からの流水)にさらす方法が例示される。また、魚類軟骨の入手は公知の方法で行うことができ、例えば魚類組織(好ましくは魚類頭部)を水に1~24時間程度漬けて膨潤させ、軟骨(好ましくは鼻軟骨)以外の組織を除去する方法や、あるいは、凍結サケ頭部を解凍後、直ちに鼻軟骨を取り出し、さらに流水に1~24時間程度さらして洗浄及び脱脂する方法が例示される。肉片等が残存する場合は、ピンセット等により残存する肉片等を取り除くことが好ましい。なお、この段階では魚類軟骨は小片化又は粉末化されていないため、流水にさらす等しても、ほとんどプロテオグリカンは抽出されないと考えられる。また、下記の(β)の場合と同様に、有機溶媒により脂質を抽出除去する方法も用いることができる。
【0042】
また、例えば、(β)において、小片化魚類軟骨又は粉末化魚類軟骨を脱脂処理する方法としては、例えば、有機溶媒により脂質を抽出除去する方法が例示される。有機溶媒としては、エタノール、ヘキサン、アセトン等が例示される。より具体的には、上記(β)の方法として、特開2009-173702号公報に記載される方法を好ましく用いることができる。つまり、例えば、以下の工程A~Eを含む方法により、粉末化脱脂魚類軟骨を得、これを本発明に用いることができる(より詳細な条件も特開2009-173702号公報に記載されている)。
A.凍結した水棲動物組織(魚類組織)を破砕し、これに水を加え、温度0~20℃、pH4.8~7で処理する工程
B.Aの固液混合物を遠心分離し、最上部の脂質層と中間層の水層を取り除き、沈殿物を回収する工程
C.沈殿物を乾燥し、微粉末化する工程
D.得られた乾燥微粉末に、溶媒としてヘキサン、アセトン又はエタノールを加え、残存脂質を抽出除去する工程
E.溶媒を除去する工程
【0043】
なお、凍結処理及び脱脂処理が両方なされた小片化魚類軟骨又は粉末化魚類軟骨(凍結小片化脱脂魚類軟骨又は凍結粉末化脱脂魚類軟骨)を用いるのが、さらに好ましい。これらは、例えば、脱脂処理された魚類軟骨を凍結し、これを小片化又は粉末化することにより得ることができる。
【0044】
これらの脱脂方法は、小片化魚類軟骨又は粉末化魚類軟骨だけでなく、生体から採取した軟骨そのものにも適用できる。
【0045】
魚類軟骨(小片化魚類軟骨及び粉末化魚類軟骨を含む。なお、以下小片化魚類軟骨及び粉末化魚類軟骨まとめて「微細化魚類軟骨」ということがある。)は水抽出に供される。水抽出に用いる水(以下「抽出水」という場合がある)としては、例えば、ミリQ水、蒸留水、脱イオン水、精製水、水道水等が例示される。また、抽出水のpHは、通常5.5~8.0程度、好ましくはpH6.0~7.5程度、より好ましくはpH6.5~7.5程度である。酸やアルカリ、塩基類などpHを大きく変動される物質を溶解させるのは好ましくない。なお、有機酸や無機酸等の酸化合物や水酸化ナトリウム等のアルカリ化合物を抽出水に添加すると、高分子量プロテオグリカン(特に分子量が1000万を超える高分子量プロテオグリカン)が減少若しくは消失するため、酸化合物やアルカリ化合物は添加しないことが好ましい。なお、限定的な解釈を望むものではないが、これは、酸化合物やアルカリ化合物の影響により、抽出処理中にプロテオグリカン集合体が崩壊することが原因ではないかと推測される。
【0046】
水抽出は、例えば、魚類軟骨を水に適当時間(例えば30分以上、好ましくは30分~24時間程度、より好ましくは1~12時間程度、さらに好ましくは2~6時間程度、よりさらに好ましくは3~4時間程度)浸漬させることで行うことができる。水の量は、特に制限されないが、例えば抽出に供される小片化魚類軟骨又は粉末化魚類軟骨が全て水に浸かる程度の量が例示される。水抽出の際、静置してもよいし、撹拌してもよい。撹拌することが好ましい。また、抽出時の水の温度は、特に制限はされないが、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上である。そのため、抽出時に加温してもよいし、抽出前に予め温めておいてもよい。加熱温度(すなわち用いる水の温度)は、具体的には、好ましくは50~100℃程度、より好ましくは70~100℃程度、さらに好ましくは80~100℃程度、よりさらに好ましくは90~100℃程度が例示される。また、加圧下で加熱してもよい。また、加熱を行う場合は、高分子量プロテオグリカンが熱により分解されるおそれがあるため、加熱された抽出水を抽出処理中に置換してもよい。抽出水を置換する場合の各抽出水における抽出時間間隔は、例えば15分~4時間毎、好ましくは30分~2時間又は1時間程度が例示される。好ましい一態様としては、魚類軟骨に、これらを全量浸漬できる量の水(好ましくは加熱された水)を加え、3~4時間加熱しつつ静置若しくは撹拌する、という方法が挙げられる。また、他の好ましい一態様としては、“魚類軟骨に、これらを全量浸漬できる量の水(好ましくは加熱された水)を加え、1時間加熱しつつ静置し、この水を回収する”という工程を4回繰り返す方法が挙げられる(この場合、合計4時間の水抽出を行うことになる)。
【0047】
水抽出後は、液体部分を回収することで、魚類軟骨水抽出物を得ることができる。液体部分の回収は、例えば遠心分離(例えば5000rpm、20分、4℃での遠心分離が例示できる)処理や連続遠心分離処理などを行い、上清を回収することで行い得る。当該液体(上清)をそのまま本発明の魚類軟骨水抽出物として用いてもよいし、公知の方法により更に精製(例えば脱脂)してもよい。あるいは、減圧蒸留法等により、濃縮してもよい。またあるいは、凍結乾燥法やスプレードライ法等により、乾燥や粉末化してもよい。
【0048】
例えば上記のようにして得られる、高分子量プロテオグリカン(あるいは高分子量プロテオグリカンを含有する魚類軟骨水抽出物)を、本開示の組成物に好ましく用いることができる。
【0049】
本開示の組成物は、pHが7.8~7.8である。当該pHは室温(25℃)でpHメーターを用いて測定した値である。pHを当該範囲に調整するため、必要に応じてpH調整剤を用いることができる。pH調整剤としては、例えば化粧品分野で公知のpH調整剤を用いることができ、より具体的には例えばクエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸、トリエタノールアミン(TEA)、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。pH調整剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
なお、当該pHの範囲(5.3~7.8)の上限又は下限は、例えば、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、又は7.7であってもよい。例えば当該範囲は5.4~7.7であってもよい。
【0051】
本開示の組成物には、(A)特定の金属塩及び(B)プロテオグリカン(好ましくは高分子量プロテオグリカン又は高分子量プロテオグリカンを含有する魚類軟骨水抽出物)、及び必要に応じたpH調整剤の他に、化粧品分野で用いられる公知の成分を含有することができる。
【0052】
このような成分としては、ブチレングリコール(特に1,3-ブチレングリコール)が好ましい。本開示の組成物に、高分子量プロテオグリカンを含有する魚類軟骨水抽出物並びにブチレングリコールが含まれる場合、後述する肌荒れ改善効果(特に界面活性剤による肌荒れ改善効果)が特に好ましく奏され得る。この場合において、当該魚類軟骨水抽出物とブチレングリコールとの質量比は、例えば当該魚類軟骨水抽出物(乾燥質量換算)1質量部に対して、ブチレングリコール100質量部以下程度が好ましく、5~100質量部程度がより好ましい。当該範囲(5~100質量部)の上限または下限は、例えば6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、
71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99質量部であってもよい。例えば、当該範囲は10~90質量部であってもよい。
【0053】
また、本開示の組成物には、化粧品分野で用いられるアミノ酸が含まれていてもよい。特に制限はされないが、アミノ酸としては例えばLアミノ酸、Dアミノ酸のいずれも用いることができる。より具体的には、例えばイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニン、アルギニン等が挙げられる。またヒドロキシ基が導入される等の修飾が施されていてもよい。より具体的には、D-アラニン、L-ヒドロキシプロリン等が好ましく例示される。
【0054】
なお、限定的な解釈を望むものではないが、上記の通り、プロテオグリカンの構成成分として糖が存在するところ、糖とアミノ酸を含有する組成物では、一定以上の温度が加わることでメイラード反応が起こり変色(黄変)が生じる可能性があるところ、本開示の組成物はアミノ酸を含有したとしても経時的黄変は抑制され得る。
【0055】
また、これらの他にも、本開示の組成物には、例えば、化粧品用として許容される界面活性剤、湿潤剤、高分子剤、粉体、エステル類、アルコール類、動植物油脂、薬効剤、保存剤、着色剤、香料や、その他化粧品用として許容される成分、材料等が含まれていてもよい。
【0056】
また、本開示の組成物は、上記(A)、(B)成分、及び必要に応じてその他の成分を適宜配合して、常法(例えば混合)に従って製造され得る。また、本開示の組成物の形態も特に限定はされず、例えば、育毛剤、ヘアトニック、乳液、化粧水、クリーム、美容液、フェイスパック、フェイスマスク、日焼け止め等を挙げることができる。
【0057】
本開示の組成物は、肌に潤いを与え、また肌のバリア機能を増強若しくは回復させ得ることから、特に肌荒れ改善用として好ましく用いることができる。
【0058】
本開示の組成物における、高分子量プロテオグリカン、あるいは高分子量プロテオグリカンを含有する魚類軟骨水抽出物の配合量は、上記効果が発揮される限り特に制限はされず、例えば、0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%が挙げられる。
【0059】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0060】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0061】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0062】
プロテオグリカンの調製
以下の手順により、サケ鼻軟骨からプロテオグリカン含有水抽出物を得た。サケ鼻軟骨としては、凍結サケ頭部を解凍後、直ちに鼻軟骨を取り出し、さらに流水に6時間さらして洗浄及び脱脂した後、さらにピンセットで肉片等を取り除き、手で水洗いして得られたサケ鼻軟骨を用いた。
【0063】
サケ鼻軟骨をフリーザーに保存して凍結させ、これを「凍結サケ鼻軟骨ブロック」として用いた。当該凍結サケ鼻軟骨ブロックの写真を
図1に示す。なお、用いたサケ頭部の大きさにもよるが、凍結サケ鼻軟骨ブロック1個は、およそ、大きさ 2.5×1.5 ~ 4.5×2 cm、重さ 1.71 ~ 6.91 gの塊(7個あたりの平均の重さは3.701g)であった。
【0064】
凍結サケ鼻軟骨ブロックを100℃で加熱することによりプロテオグリカンを抽出した。
具体的には、次のようにして抽出を行った。凍結サケ鼻軟骨ブロック合計約1000gに対し2500mLの蒸留水を加え、100℃で3時間加熱し、それらを遠心分離機により8,000rpm、30分、4℃で遠心分離し、不溶物(残渣)を取り除き上清を回収した。回収上清を、濾紙を用いて吸引濾過し、得られた濾液を凍結乾燥し、プロテオグリカン含有凍結乾燥物を得た。当該凍結乾燥物を、カッターミルで破砕し、粉末状にして、以下の分析に供した。当該粉末は、約65g得られた。なお、当該粉末状のプロテオグリカン含有凍結乾燥物を、「サンプル1」とする。
【0065】
分子量の検討
サンプル1を、下記条件のゲル濾過クロマトグラフィーにより各フラクションに分離した。そして、各フラクションに含まれるウロン酸量をカルバゾール硫酸法により定量した。また、各フラクションの280nmでの吸光度を測定し、当該吸光度を、含まれるタンパク質量を反映する値とした。そして、これらの結果を基にして、ウロン酸量クロマトグラム及び280nmタンパク質量クロマトグラムを描いた。ウロン酸量クロマトグラム及び280nmタンパク質量クロマトグラムを重ねて描いた図を
図2に示す。なお、サンプル1全量(約65g)中、ウロン酸量は約12gであった。
【0066】
また、
図2には、ウロン酸量クロマトグラムにおいて各デキストラン分子量マーカーが溶出されたフラクションの位置も、併せて示す。なお、ゲル濾過クロマトグラフィーの分画フラクション量は下記の通り 1mL/tubeとしたため、
図2の横軸「Elution Volume(mL)」は、フラクションNo.も反映する。
【0067】
〔ゲル濾過クロマトグラフィー条件〕
カラム: SepharoseCL-2B 充填カラム(Sepharose CL-2Bを担体としてφ1cm×50cmのカラムに充填したもの。Sepharose CL-2Bのデキストランの分画範囲は100~20,000kDaであり、GE Healthcare社等から入手できる。Sepharose CL-2Bは、2%架橋アガロース、粒子径60~200μm(レーザー回折散乱法による)、CAS登録番号65099-79-8である。)
バッファー: 0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.1, 0.2M NaCl含有)
アプライサンプル量:ウロン酸として1mg/ml
流速: 0.15mL/min
分画フラクション量: 1mL/tube
分子量検量線:分子量マーカーとして、次の各種デキストランについて上記と同様の条件(但しサンプルアプライ量は1mg/1mLバッファー)でゲル濾過クロマトグラフィーを行い、フェノール・硫酸法により各フラクションの吸光度(デキストラン量を反映する)を測定し、検量線を作成した。
【0068】
<デキストラン分子量マーカー>
Dextran from Leuconostoc mesenteroides(mol wt 5,000,000-40,000,000)(SIGMA)・・・カラムのvoid volume測定用、20000kDa
Dextran Standard 1,400,000(SIGMA)・・・1400kDa
Dextran Standard 670,000(SIGMA) ・・・670kDa
Dextran Standard 410,000(SIGMA) ・・・410kDa
Dextran Standard 270,000(SIGMA) ・・・270kDa
【0069】
但し、Dextran from Leuconostoc mesenteroidesについては、当該マーカーに含まれる低分子のデキストランを除去する前処理を行った後、用いた。当該前処理は、上述の〔ゲル濾過クロマトグラフィー条件〕(アプライ量はマーカー用の量)によりDextran from Leuconostoc mesenteroidesそのものを溶出させ、分子量2000万以上の分子を回収し、凍結乾燥させることで行った。具体的には、フェノール・硫酸法により各フラクションの吸光度を測定して作成した、デキストラン量を反映するクロマトグラムにおいて、最初に出現したピークに相当するフラクションを回収し、これを凍結乾燥した(これにより、分子量20,000kDa以上の分子を回収、凍結乾燥できると考えられる)。この凍結乾燥物を実際にマーカー(カラムのvoid volume測定用)として用いた。
【0070】
デキストラン量を反映するクロマトグラムを得るための吸光度測定は、Hodge, J. E. and Hofreiter, B. T., Method in Carbohydrate Chemistry, 1, 338 (1962)に記載の方法(フェノール・硫酸法)に従った。具体的には、次のようにして行った。
〔1〕105×15mmの試験管に試料水溶液を500μL加える。
〔2〕フェノール試薬(5 v/v%フェノール水溶液)を500μL加え、撹拌する。
〔3〕濃硫酸を2.5mL加え、すぐに10秒間激しく撹拌する。
〔4〕室温に20分以上放置する。
〔5〕分光光度計で490nmの吸収を測定する。
【0071】
得られた検量線は(y = -4.3446Ln(x)+56.68 ; R2=0.9823)であり、R2値から考えて、分子量とフラクションNo.(即ち溶出液量)はよく相関していることがわかった。
【0072】
図2に示されるように、サンプル1には、少なくとも分子量180万以上、特に分子量500万以上の高分子量のプロテオグリカンが含まれることがわかった。
【0073】
また、「プロテオグリカン」として市販されている製品を対照として、同様に検討を行った。ウロン酸量クロマトグラム及び280nmタンパク質量クロマトグラムを重ねて描いた図を
図3に示す。また、
図3には、ウロン酸量クロマトグラムにおいて各デキストラン分子量マーカーが溶出されたフラクションの位置も、併せて示す。当該検討において作成した検量線は(y = -3.943Ln(x)+59.069 ; R
2=0.9978)であり、R
2値から考えて、分子量とフラクションNo.(即ち溶出液量)はよく相関していた。
図3に示されるように、市販のプロテオグリカンには、分子量180万以上のプロテオグリカンはほとんど含まれず、特に分子量500万以上のプロテオグリカンは全く含まれないことがわかった。なお、当該市販のプロテオグリカンを、以下「サンプル2」とする。
【0074】
さらに、サンプル1及びサンプル2における分子量180万以上のプロテオグリカンが含むウロン酸量が、サンプル全体のウロン酸量に占める割合について、
図2及び
図3に示されるウロン酸クロマトグラムを基に算出した。具体的には、
図2及び
図3に示されるウロン酸クロマトグラムにおいて、ピーク面積全体に対して、分子量180万以上のウロン酸が占める面積割合を算出した。より具体的には、分子量180万に相当する溶出液量点に垂線を引き、該クロマトグラムを分割した際の2部分の面積比を求めた。また、同様にして、サンプル1及びサンプル2における分子量500万以上のプロテオグリカンが含むウロン酸量が、サンプル全体のウロン酸量に占める割合についても算出した。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
乾燥質量換算で、サンプル1を1質量部に対して、水を9質量部加えて溶解させ、さらに当該溶解液31.5質量部に対して水38.5質量部及び1,3-ブチレングリコール30質量部を加えて混合した。以下、当該混合液をプロテオグリカン溶液として用いた。
【0077】
プロテオグリカン含有組成物の調製及び検討
表2及び表3に記載される処方に従って各成分を混合して、組成物を調製した。なお、表2に記載される処方の各成分量は質量%である。また、当該組成物は、特に化粧品組成物として用い得る。
【0078】
【0079】
【0080】
調製した実施例1~4及び比較例1~2の各組成物を、-5℃、室温(25℃)、40℃、又は55℃で、1ヶ月保管した。結果を
図4a~4fに示す。なお、これらの図では、4つの瓶に充填された各組成物の写真が示されるところ、左から順に、-5℃で1ヶ月保存した組成物、室温(25℃)で1ヶ月保存した組成物、40℃で1ヶ月保存した組成物、及び55℃で1ヶ月保存した組成物が、それぞれ示されている。
【0081】
これらの図から、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、又は亜硫酸水素ナトリウムを含有する組成物は経時的黄変が抑制される一方、金属塩が含有されない組成物及びチオ硫酸ナトリウムを含有する組成物は、経時的黄変は抑制されないことが確認できた。また、これら黄変した組成物の状態から、プロテオグリカン含有組成物の経時的黄変は、保存温度が高いほど進行が早く、特に40℃以上での保存で黄色が濃くなってしまうこともわかった。
【0082】
なお、これらの金属塩以外にも、プロテオグリカン含有組成物の黄変を抑制できる成分として、酸化防止剤やキレート剤が有用では無いかと予測して探索を行ったが、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム(EDTA-2Na)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、フィチン酸、エチドロン酸を用いた検討では、黄変を抑制することはできなかった。
【0083】
プロテオグリカン含有組成物の調製及びpHの検討
サンプル1を1質量部に対して、水を9質量部加えて溶解させた溶解液(サンプル1溶解液)を用い、表4に示す処方に従って各成分を混合して、組成物を調製した。なお、表4に記載される処方の各成分量は質量%である。また、表4には各組成物のpHもあわせて示す。当該pHは室温(25℃)でpHメーターを用いて測定した値である。
【0084】
【0085】
得られた処方A~Jの各組成物について、ゲル濾過クロマトグラフィーにより各フラクションに分離した。そして、各フラクションに含まれるウロン酸含有成分(プロテオグリカンを包含する)量をカルバゾール硫酸法により定量した。結果を
図5に示す。
【0086】
pHが5.3~7.8程度(処方C~G)及びの組成物は、得られたクロマトグラムのピークが比較的高分子量側にあり分解が抑制されている一方、pHが5.2以下(処方A~B)の組成物及び7.9以上(処方H~J)の組成物ではクロマトグラムのピークが比較的低分子側にあり分解が生じていることが分かった。