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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065763
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20220421BHJP
   F02P 5/145 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
F01M13/00 L
F01M13/00 M
F01M13/00 K
F01M13/00 G
F02P5/145 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174451
(22)【出願日】2020-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智史
(72)【発明者】
【氏名】西尾 貴史
(72)【発明者】
【氏名】的場 保憲
【テーマコード(参考)】
3G015
3G022
【Fターム(参考)】
3G015AA13
3G015BD12
3G015BD13
3G015BD24
3G015BD25
3G015DA02
3G015EA37
3G015FA02
3G015FA03
3G015FB01
3G015FB06
3G015FC02
3G015FC03
3G015FC05
3G022CA02
3G022DA02
(57)【要約】
【課題】ブローバイガスに含まれる凝縮水の凍結およびこれに伴う氷塊の形成を効果的に防止可能なエンジンの制御装置を提供する。
【解決手段】排気通路60に設けられたタービン15と、吸気通路50に設けられたコンプレッサ16とを含むターボ過給機5を備えたエンジンにおいて、エンジン本体1の内部に漏出したブローバイガスを吸気通路50に還流するブローバイガス通路71が、吸気通路50のコンプレッサ16の近傍に接続されており、外気温が所定の判定温度Ta1未満の場合に、点火手段11の点火時期を外気温が判定温度Ta1以上のときの点火時期よりも遅角側の時期に補正する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を含むエンジン本体と、前記エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、前記エンジン本体から導出される排気ガスが流通する排気通路と、前記吸気を過給するターボ過給機とを備えたエンジンの制御装置において、
前記燃焼室から漏出したブローバイガスが前記吸気通路に還流するように前記エンジン本体と前記吸気通路とを接続するブローバイガス通路と、
前記燃焼室内の混合気に点火を行う点火手段と、
前記点火手段を制御する制御手段とを備え、
前記ターボ過給機は、前記排気通路に設けられて前記排気ガスにより駆動されるタービンと、前記吸気通路に設けられて前記タービンにより回転駆動されることで前記吸気を過給するコンプレッサとを有し、
前記ブローバイガス通路は、前記吸気通路のうち前記コンプレッサの近傍に接続されており、
前記制御手段は、外気温が所定の判定温度未満のときの前記点火手段の点火時期を、外気温が前記判定温度以上のときの点火時期よりも遅角側の時期に補正する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、前記点火時期の補正を行う場合、エンジン回転数が低いときの方が高いときよりも前記点火時期の遅角量を大きくする、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、前記点火時期の補正を行う場合、エンジン負荷が小さいときの方が大きいときよりも前記点火時期の遅角量を大きくする、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、エンジン負荷が所定の負荷以上の場合に、前記点火時期の補正を行う、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジン本体の下部に設けられたオイルパンをさらに備え、
前記制御手段は、前記オイルパン内の水分量が所定の判定水分量以上の場合に、前記点火時期の補正を行う、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御手段は、前記エンジン本体の下部に設けられたオイルパンに貯留されているエンジンオイルの温度が所定の判定温度以上の場合に、前記点火時期の補正を行う、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室を含むエンジン本体と、エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、エンジン本体から導出される排気ガスが流通する排気通路と、前記吸気を過給するターボ過給機とを備えたエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、車両等に設けられるエンジンにおいて、エンジン本体に形成された燃焼室からエンジン本体内部の他の空間に漏出したガスであるブローバイガスを吸気通路に還流するべく、吸気通路とエンジン本体とをブローバイガス通路(PCV通路)によって連通することが行われている。
【0003】
ブローバイガスは主として燃焼ガスからなり水分を含んでいる。そのため、外気温が低いときには、ブローバイガス中の水分が凝縮して吸気通路に凝縮水が導入される。ここで、外気温が特に低いと、この凝縮水が低温の吸気によって冷却されて凍結し、吸気通路とブローバイガス通路との接続部分に氷塊が形成されるおそれがある。そして、この氷塊がエンジン本体側に吸い込まれると、エンジン部品を損傷させるおそれがある。
【0004】
この問題に対して、特許文献1のエンジンでは、エンジン本体から排出された排気ガスを吸気通路に還流させるEGR通路の外壁とブローバイガス通路の外壁とを隣り合わせて、EGR通路を流通する高温の排気ガスによってブローバイガスを昇温させ、ブローバイガス中の水分の凝縮を抑制するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-151906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成では、ブローバイガス通路と吸気通路の接続部分に氷塊が形成されるのを防止する点において十分に効果を得られないおそれがある。具体的には、EGR通路を介して排気ガスを吸気に還流させるのは、燃焼温度を低下させてNOxの排出を抑制するためである。そのため、外気温が低く燃焼が不安定になりやすいときは、EGR通路を介した排気ガスの吸気への還流は行われない。従って、特許文献1の構成では、外気温が低くブローバイガス中の凝縮水が凍結しやすいときにブローバイガスをEGR通路内の排気ガスによって温めることができず、凝縮水の凍結およびこれに伴う氷塊の形成を十分に防止できない。
【0007】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、ブローバイガスに含まれる凝縮水の凍結およびこれに伴う氷塊の形成を効果的に防止可能なエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、燃焼室を含むエンジン本体と、前記エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、前記エンジン本体から導出される排気ガスが流通する排気通路と、前記吸気を過給するターボ過給機とを備えたエンジンの制御装置において、前記燃焼室から漏出したブローバイガスが前記吸気通路に還流するように前記エンジン本体と前記吸気通路とを接続するブローバイガス通路と、前記燃焼室内の混合気に点火を行う点火手段と、前記点火手段を制御する制御手段とを備え、前記ターボ過給機は、前記排気通路に設けられて前記排気ガスにより駆動されるタービンと、前記吸気通路に設けられて前記タービンにより回転駆動されることで前記吸気を過給するコンプレッサとを有し、前記ブローバイガス通路は、前記吸気通路のうち前記コンプレッサの近傍に接続されており、前記制御手段は、外気温が所定の判定温度未満のときの前記点火手段の点火時期を、外気温が前記判定温度以上のときの点火時期よりも遅角側の時期に補正する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明では、ターボ過給機を備えたエンジンにおいて、ブローバイガス通路が吸気通路のうちコンプレッサの近傍に接続されている。そのため、タービンを通過する高温の排気ガスによって加熱されたタービン収容部位からコンプレッサ収容部位に付与された熱エネルギーを、吸気通路とブローバイガス通路との接続部分に供給して、この接続部分を昇温できる。特に、エンジン稼働中は高温の排気ガスがタービンを常時通過するため、外気温が低いときにも排気ガスの熱エネルギーによって前記接続部分を十分に昇温でき、この接続部分でのブローバイガス中の凝縮水の凍結およびこれに伴う氷塊の形成を効果的に防止できる。
【0010】
しかも、本発明では、外気温が所定の判定温度未満と特に低い場合には外気温が判定温度以上の場合よりも点火時期が遅角側の時期とされて、エンジン本体から導出される排気ガスの温度が高くされて前記接続部分がより昇温される。そのため、外気温が特に低く凝縮水の凍結および氷塊の形成が生じやすいときであっても、当該氷塊が形成される確率を十分に低減できる。
【0011】
前記構成において、好ましくは、前記制御手段は、前記点火時期の補正を行う場合、エンジン回転数が低いときの方が高いときよりも前記点火時期の遅角量を大きくする(請求項2)。
【0012】
エンジン回転数が低いときは、吸気通路を流通する吸気の流速が遅くなることで、吸気通路とブローバイガス通路の接続部分に凝縮水が溜まって氷塊が形成されやすい。これに対して、この構成では、エンジン回転数が低いときに点火時期がより遅角されて排気ガスの温度がより高められる。そのため、エンジン回転数が低く氷塊が形成されやすいときに、排気ガスの高い熱エネルギーによって前記接続部分を効果的に温めて氷塊の形成を十分に防止できる。また、エンジン回転数が高いときには、点火時期の遅角量が小さく抑えられることで、点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を小さく抑えることができる。
【0013】
前記構成において、好ましくは、前記制御手段は、前記点火時期の補正を行う場合、エンジン負荷が低いときの方が高いときよりも前記点火時期の遅角量を大きくする(請求項3)。
【0014】
エンジン負荷が低いときは、燃焼エネルギーが低くなることで排気ガスの温度が低くなりやすい。これに対して、この構成では、エンジン負荷が低いときに点火時期がより遅角されて排気ガスの温度低下が抑制される。そのため、エンジン負荷が低いときであっても、高温の排気ガスが有する熱エネルギーによって前記接続部分を昇温して氷塊の形成を十分に防止できる。また、エンジン負荷が高いときに点火時期の遅角量が小さく抑えられることで、点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を小さく抑えることができる。
【0015】
前記構成において、好ましくは、前記制御手段は、エンジン負荷が所定の負荷以上の場合に、前記点火時期の補正を行う(請求項4)。
【0016】
エンジン負荷が所定の負荷よりも低いときは、エンジン本体内の圧力が低くなることから、ブローバイガス通路を介してエンジン本体から吸気通路に導入されるブローバイガスの量およびブローバイガスに起因する凝縮水の量が少なくなる。これより、この構成では、吸気通路に導入される凝縮水の量が少なくブローバイガス通路と吸気通路の接続部分に氷塊が形成されにくいときには点火時期の補正が行われず、氷塊が形成されやすいときにのみ点火時期の補正が行われることになる。従って、この構成によれば、前記接続部分での氷塊の形成を防止しつつ、点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を抑制できる。
【0017】
前記構成において、好ましくは、前記エンジン本体の下部に設けられたオイルパンをさらに備え、前記制御手段は、前記オイルパン内の水分量が所定の判定水分量以上の場合に、前記点火時期の補正を行う(請求項5)。
【0018】
ブローバイガスに含まれる水分にはオイルパンから蒸発した水分が含まれており、オイルパン内の水分量が少ない場合は、ブローバイガスに含まれる水分量も少なくなることでブローバイガス通路と吸気通路との接続部分に氷塊が形成されにくくなる。これより、この構成では、前記接続部分に氷塊が形成されにくいときには点火時期の補正が行われず、氷塊が形成されやすいときにのみ点火時期の補正が行われることになる。従って、この構成によれば、前記接続部分での氷塊の形成を防止しつつ、点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を抑制できる。
【0019】
前記構成において、好ましくは、前記制御手段は、前記エンジン本体の下部に設けられたオイルパンに貯留されているエンジンオイルの温度が所定の判定温度以上の場合に、前記点火時期の補正を行う(請求項6)。
【0020】
オイルパンに貯留されているエンジンオイルの温度が低い場合は、エンジンオイルから蒸発する水分量が少なくなることでブローバイガスに含まれる水分量も少なくなりブローバイガス通路と吸気通路との接続部分に氷塊が形成されにくくなる。これより、この構成では、前記接続部分に氷塊が形成されにくいときには点火時期の補正が行われず、氷塊が形成されやすいときにのみ点火時期の補正が行われることになる。従って、この構成によれば、前記接続部分での氷塊の形成を防止しつつ、点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明のエンジンの制御装置によれば、ブローバイガスに含まれる凝縮水の凍結およびこれに伴う氷塊の形成を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの構成を示した図である。
図2】エンジンの側面図である。
図3】コンプレッサハウジングとエアパイプ周辺の斜視図である。
図4】コンプレッサハウジングとエアパイプ周辺の上面図である。
図5】エアパイプの正面図である。
図6】制御ブロックを示した図である。
図7】点火プラグの制御内容を示したフローチャートである。
図8】オイルパン内水分量の算出手順を示したフローチャートである。
図9】エンジンの運転領域を示したフローチャートである。
図10】エンジン回転数と基本リタード量との関係を示したグラフである。
図11】外気温と補正係数との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの制御装置が適用されるエンジンの概略構成図である。エンジンは、自動車等の車両に搭載されている。エンジンは、気筒2aが形成されたエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される空気(吸気)が流通する吸気通路50と、エンジン本体1から導出される排気ガスが流通する排気通路60とを備えている。本実施形態では、エンジン本体1は、図1の紙面に直交する方向に並ぶ6つの気筒2aを有する4ストロークの直列6気筒エンジンである。
【0024】
エンジン本体1は、気筒2aが内部に形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に設けられたシリンダヘッド3と、気筒2aに往復摺動可能に挿入されたピストン4とを有している。ピストン4の上方には燃焼室5が形成されており、シリンダブロック2のうち燃焼室5の下方の領域にはクランク軸13を収納するクランクケース20が区画されている。エンジン本体1の下方には、オイルパン22が設けられている。オイルパン22には、エンジン本体1の各部を潤滑するための潤滑油であるエンジンオイルが貯留されている。オイルパン22内のエンジンオイルは、オイルパン22とエンジン本体1の各部とをつなぐオイル通路23に設けられたオイルポンプ24によってエンジン本体1の各部へ送られる。
【0025】
シリンダブロック2には、燃焼室5内に燃料を噴射するためのインジェクタ10が取り付けられている。シリンダヘッド3には、燃焼室5内の混合気(燃料と空気との混合気)に対して火花放電による点火を行う点火プラグ11が取り付けられている。シリンダヘッド3には、各燃焼室5に空気を導入するための吸気ポート6と、吸気ポート6を開閉する吸気弁8と、各燃焼室5で生成された排気ガスを導出するための排気ポート7と、排気ポート7を開閉する排気弁9とが設けられている。吸気弁8を駆動する吸気弁駆動機構12には、吸気弁8の開閉時期を変更可能な吸気開閉時期変更機構が設けられており、吸気開閉時期変更機構によって吸気弁8の開閉時期が変更されることで気筒2a内に流入する吸気量を変更できるようになっている。前記の点火プラグ11は、請求項の「点火手段」の一例に該当する。
【0026】
本実施形態では、エンジンがターボ過給機付きエンジンであり、エンジンには、排気通路60に設けられて排気ガスにより駆動されるタービン15と、吸気通路50に設けられてタービン15により回転駆動されることで吸気を過給するコンプレッサ16と、タービン15とコンプレッサ16とを連結する連結軸17とを有するターボ過給機14が設けられている。
【0027】
ターボ過給機14は、排気通路60の一部を区画してタービン15を収容するタービンハウジング110と、吸気通路50の一部を区画してコンプレッサ16を収容するコンプレッサハウジング120と、連結軸17を収容するセンタハウジング130とを有している。以下では、吸気通路50のうちコンプレッサハウジング120から上流側の部分を上流側吸気通路50Aといい、コンプレッサハウジング120から下流側の部分を下流側吸気通路50Bという。また、排気通路60のうちタービンハウジング110から上流側の部分を上流側排気通路60Aといい、タービンハウジング110から下流側の部分を下流側排気通路60Bという。
【0028】
上流側吸気通路50Aには、エアクリーナ51が設けられている。下流側吸気通路50Bには、上流側から順に、スロットルバルブ52、インタークーラ53、サージタンク54が設けられている。燃焼室5には、基本的に、エアクリーナ51で塵等が除去されてコンプレッサ16で圧縮された後インタークーラ53で冷やされた空気が導入される。スロットルバルブ52は吸気通路50を開閉可能なバルブであり、スロットルバルブ52の開度に応じて吸気通路50を流通する吸気の量が調整され得るようになっている。ただし、本実施形態では、エンジン本体1の運転中、基本的にスロットルバルブ52は全開もしくはこれに近い開度に維持される。
【0029】
吸気通路50には、ブローバイガスつまり燃焼室5からエンジン本体1の内部(詳細にはクランクケース20)に漏出したガスを吸気通路50に導入するためのブローバイガス還流通路70が接続されている。本実施形態では、ブローバイガス還流通路70として2本の通路(ブローバイガス通路71、サブブローバイガス通路72)がエンジンに設けられている。
【0030】
ブローバイガス通路71は、シリンダヘッド3と上流側吸気通路50Aに接続されており、エンジン本体1を構成するシリンダヘッド3の内側空間と上流側吸気通路50Aとを連通している。ブローバイガス通路71は、上流側吸気通路50Aのうちのコンプレッサ16の近傍に接続されている。
【0031】
サブブローバイガス通路72は、シリンダブロック2と下流側吸気通路50Bに接続されており、エンジン本体1を構成するシリンダブロック2の内側空間と下流側吸気通路50Bとを連通している。図1の例では、サブブローバイガス通路72はサージタンク54に接続されている。
【0032】
上流側排気通路60Aは、各気筒2aの排気ポート7にそれぞれ接続される独立排気通路61と、複数の独立排気通路61が集合した集合通路62とを含み、集合通路62の下流端がタービンハウジング110に連結されている。本実施形態では、6つの気筒2aに対応して6つの独立排気通路61が上流側排気通路60Aに設けられている。また、3つの独立排気通路61が1つの集合通路62に集合しており、上流側排気通路60Aは2つの集合通路62を有している。そして、これら2つの集合通路62の双方の下流端がタービンハウジング110に連結されている。
【0033】
下流側排気通路60Bには、上流側から順に、三元触媒等の触媒が内蔵された触媒コンバータ68、GPF(Gasoline Particulate Filter)69が設けられている。
【0034】
排気通路60には、タービン15をバイパスして上流側排気通路60Aと下流側排気通路60Bとを連通するバイパス通路63が設けられており、バイパス通路63を通過することで上流側排気通路60A内の排気ガスの一部がタービン15を通らずに下流側排気通路60Bに流れるようになっている。バイパス通路63は、下流側排気通路60Bの触媒コンバータ68よりも上流側の部分に接続されている。また、バイパス通路63は上流側排気通路60A側において2つの通路に分岐しており、各分岐通路が2つの集合通路62にそれぞれ接続されている。バイパス通路63には、モータ64によって駆動されてバイパス通路63を開閉するウエストゲートバルブ65が設けられている。ウエストゲートバルブ65の開度は、全閉、全開およびこれらの間の任意の開度に変更される得るようになっており、ウエストゲートバルブ65の開度に応じてバイパス通路63を流通する排気ガスの量が調整される。
【0035】
エンジンには、排気ガスの一部を吸気に還流させるEGR装置が設けられており、上流側排気通路60Aと下流側吸気通路50Bとを接続するEGR通路90と、EGR通路90を流通するEGRガスを冷却するEGRクーラ91と、EGR通路90を開閉するEGRバルブ92とを有してる。図1の例では、EGR通路90は、上流側排気通路60Aのうちバイパス通路63の接続部分よりも上流側の部分と、下流側吸気通路50Bのうちインタークーラ53とサージタンク54の間の部分とを接続している。
【0036】
エンジンには、各種センサが設けられている。具体的には、シリンダブロック2に、クランク軸13の回転角度つまりエンジン回転数を検出するためのエンジン回転数センサSN1、および、エンジン本体1の内部を流通してこれを冷却するためのエンジン冷却水の温度つまりエンジン水温を検出するためのエンジン水温センサSN2が設けられている。上流側吸気通路50Aのうちエアクリーナ51よりも下流側の部分には、吸気通路50を流通する吸気の流量を検出するためのエアフローセンサSN3およびこの部分を通過する吸気の温度を検出するための吸気温センサSN4が設けられている。サージタンク54には、サージタンク54内の圧力である吸気圧を検出するための吸気圧センサSN5が設けられている。
【0037】
(2)第1ブローバイガス通路と吸気通路の接続構造
次に、図2図5を用いて、ブローバイガス通路71と吸気通路50の接続構造について説明する。図2は、エンジン本体1周辺の一部を示した側面図である。図3は、コンプレッサハウジング120と後述するエアパイプ150周辺の斜視図である。図4は、図3に対応する上面図である。図5は、エアパイプ150の正面図である。以下の説明および図2図5では、気筒2aの並び方向であって図2の左右方向を前後方向とし且つ図2の右側を前側として扱うとともに、前後方向および上下方向と直交する方向を左右方向とし且つ図2の紙面手前側であって排気ポート7が設けられる側(いわゆる排気側)を右側として扱う。
【0038】
図2に示すように、ターボ過給機14は、エンジン本体1の右方のこれと隣接する位置に、タービンハウジング110(タービン15)、センタハウジング130(連結軸17)、コンプレッサハウジング120(コンプレッサ16)がこの順で前から一列に並ぶ姿勢、つまり、連結軸17が前後方向に延びる姿勢で、配設されている。本実施形態では、センタハウジング130が鋳鉄製であるのに対して、コンプレッサハウジング120はアルミ合金鋳物である。また、タービンハウジング110は耐熱鋳鋼により形成されている。
【0039】
コンプレッサハウジング120の吸気導入口121(コンプレッサハウジング120の内側に吸気を導入するための開口部)はコンプレッサハウジング120の後端部において後方に開口しており、タービンハウジング110の排気導出口111(タービンハウジング110から外部に排気ガスを導出するための開口部)はタービンハウジング110の前端部において前方に開口している。また、コンプレッサハウジング120の吸気導出口122(コンプレッサハウジング120から外部に吸気を導出する開口部)はコンプレッサハウジング120の上部において左方に開口している。
【0040】
コンプレッサハウジング120の後端部には、エアパイプ150が連結されている。エアパイプ150は、上流側吸気通路50Aの下流端部を構成する吸気側通路部151と、ブローバイガス通路71の下流端部を構成するブローバイガス側通路部152とを有している。つまり、本実施形態では、上流側吸気通路50Aの下流端部とブローバイガス通路71の下流端部とが、エアパイプ150に一体的に設けられて、このエアパイプ150がコンプレッサハウジング120に直結されている。エアパイプ150は、アルミ合金鋳物により一体形成されており、その熱伝導率はアルミ合金と同様、約200W/(m・K)である。
【0041】
吸気側通路部151は、前後方向に延びる円筒状を有しており、その前端部151aにおいてコンプレッサハウジング120の吸気導入口121と連通している。吸気側通路部151は、前斜め下方に傾斜している。上流側吸気通路50Aのうち吸気側通路部151よりも上流側の部分140は、吸気側通路部151の後端部151bに接続されており、この後端部151bから後方に延びる部分と、この部分の後端部からエンジン本体1の上方を通って左方に延びる部分と、この部分の左端部から前方に延びてエアクリーナ51に連結される部分とを有している。
【0042】
ブローバイガス側通路部152は、円筒状を有し、吸気側通路部151の外周面の左側部分から上方に延びている。ブローバイガス側通路部152は、吸気側通路部151の外周面から左方に膨出するように湾曲している。ブローバイガス側通路部152の内径は吸気側通路部151の内径よりも小さく設定されている。吸気側通路部151の内周面にはブローバイガス側通路部152の内側空間と連通する連通口152aが形成されており、ブローバイガスはこの連通口152aを通って吸気側通路部151内の吸気に合流する。連通口152aは、吸気側通路部151の前側部分つまり前後方向についてコンプレッサハウジング120に近い側に形成されており、ブローバイガス側通路部152は、吸気側通路部151のうちコンプレッサハウジング120近傍の部分から上方に延びている。本実施形態では、この楮によって、前記のように、ブローバイガス通路71が吸気通路50のうちコンプレッサハウジング120およびコンプレッサ16の近傍となる位置においてこれに接続されるという構成が実現されている。以下では、適宜、エアパイプ150のうちの連通口152a付近の部分であってブローバイガス側通路部152と吸気側通路部151との接続部分X(ブローバイガス通路71と吸気通路50との接続部分X)を、単に、接続部Xという。
【0043】
ブローバイガス通路71のうちブローバイガス側通路部152よりも上流側の部分は、ブローバイガス側通路部152の上端部に接続されており、この上端部から上方に延びる第1部分171と、第1部分171の上端部から左方に延びる第2部分172と、第2部分172の左端部から下方に延びてシリンダヘッド3の上面に連結される第3部分173とを有している。なお、第2部分172は、右斜め下方に傾斜している。
【0044】
エアパイプ150は、吸気側通路部151の前端部151aに設けられて吸気側通路部151の径方向外側に張り出す第2フランジ部153を有している。エアパイプ150は、この第2フランジ部153が、コンプレッサハウジング120の後端部に設けられた第1フランジ部123にボルトにより連結されることで、コンプレッサハウジング120の後端部に直接固定されている。
【0045】
エアパイプ150には、第2フランジ部153とブローバイガス側通路部152の前側部分の外周面とをつなぐリブ部154が設けられている。図5に示すように、リブ部154は、略台形状を有し、第2フランジ部153の左側上部と、ブローバイガス側通路部152の前側外周面の右側部分とをつないでいる。なお、第2フランジ部153およびリブ部154も、ブローバイガス側通路部152および吸気側通路部151と一体に形成されている。
【0046】
(3)点火プラグの制御
次に、点火プラグ11の制御について説明する。図6は、エンジンの制御系を示したブロック図である。インジェクタ10、点火プラグ11、スロットルバルブ52、ウエストゲートバルブ65等のエンジンの各部は、車両に搭載されたECU(エンジン制御ユニット)100によって制御される。ECU100は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM、I/F等から構成されるマイクロプロセッサである。前記のECU100は、請求項の「制御手段」の一例に該当する。
【0047】
ECU100には、各種センサからの情報が入力される。例えば、ECU100は、エンジン回転数センサSN1、エンジン水温センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気温センサSN4、吸気圧センサSN5と電気的に接続されており、これらのセンサからの入力信号(エンジン回転数、吸気量、エンジン水温、吸気温、吸気圧)を受け付ける。また、車両には、運転者により操作されるアクセルペダル(不図示)の開度を検出するアクセル開度センサSN6等が設けられており、その検出結果もECU100に入力される。
【0048】
図7は、ECU100により実施される点火プラグ11の制御内容を示したフローチャートである。なお、図7に示した各ステップは、エンジンの稼働中に実施される。
【0049】
まず、ECU100は、センサSN1~SN6等により検出された各種情報を読み込む(ステップS1)。
【0050】
次に、ECU100は、基本点火時期を設定する(ステップS2)。基本点火時期は、点火プラグ11が点火を行う時期である点火時期の基本的な時期である。ECU100は、エンジン回転数センサSN1により検出されたエンジン回転数とエンジン負荷等に基づいて基本点火時期を設定する。なお、ECU100は、別途、アクセル開度センサSN6により検出されたアクセルペダルの開度とエンジン回転数等からエンジン負荷を算出している。
【0051】
次に、ECU100は、オイルパン22に溜まっている液体の水の重量であるオイルパン内の水分量(以下、オイルパン内水分量という)を算出する(ステップS3)。ECU100は、オイルパン22に追加された液体の水の重量からオイルパン22から蒸発した水の重量を差し引いた量を積算していくことでオイルパン内水分量を算出する。具体的には、ECU100は、図8のフローチャートに示したサブルーチンを実行することでオイルパン内水分量を算出する。
【0052】
まず、ECU100は、単位時間あたり(例えば、1演算サイクルあたり)のブローバイガスの量つまり単位時間内に燃焼室5からクランクケース20に漏出したガスの重量を算出する(ステップS11)。具体的に、ECU100は、エンジン回転数およびエンジン負荷等に基づいて現在のブローバイガス量を算出する。次に、ECU100は、オイルパン22内における凝縮水の増加量W1(オイルパン22内における液体の水の重量の増加量)を算出する(ステップS12)。具体的に、ECU100は、ステップS11で算出したブローバイガス量に所定の係数をかけた値からクランクケース20内の飽和水蒸気量を差し引いた値をオイルパン22の凝縮水の増加量W1として算出する。前記の係数は例えば0.075に設定される。また、飽和水蒸気量は予め設定されてECU100に記憶されている。
【0053】
次に、ECU100は、オイルパン22内の水の蒸発量W2であって蒸発によって生じたオイルパン22内における凝縮水の重量の減少量を算出する(ステップS13)。ECU100は、オイルパン22内のエンジンオイルの温度(以下、適宜、油温という)と、現在(1演算サイクル前に算出したオイルパン内水分量W)とに基づいて水の蒸発量W2を算出する。本実施形態では、ECU100は、エンジン水温センサSN2により検出されたエンジン水温に基づいて油温を推定し、この油温を用いて水の蒸発量W2を算出する。なお、ECU100は、エンジン水温が高いほど油温が高くなるようにこれを推定する。具体的に、ECU100は、油温が50℃未満の場合は、水の蒸発量W2を油温に関わらず予め設定した所定量に設定する。一方、ECU100は、油温が50℃以上の場合は、油温が高いほど水の蒸発量W2が大きくなるようにこれを算出する。
【0054】
最後に、ECU100は、現在のオイルパン内水分量W(i)を、W(i)=W(i-1)+W1(i)-W2(i)により算出する(ステップS14)。なお、iは演算サイクル数、W(i-1)は1演算サイクル前に算出したオイルパン内水分量W、W1(i)は今回の演算サイクルにおいてステップS12で算出した凝縮水の増加量W1、W2(i)は今回の演算サイクルにおいてステップS13で算出した水の蒸発量W2を表している。
【0055】
図7に戻り、オイルパン内水分量を算出した後は、ECU100は、算出したオイルパン内水分量が判定水分量以上であるか否かを判定する(ステップS4)。判定水分量はゼロより大きい値に予め設定されてECU100に記憶されている。例えば、判定水分量は50cc程度に設定される。ステップS4の判定がNOであってオイルパン内水分量が判定水分量未満の場合、ECU100は、リタード量をゼロ(0)に設定する(ステップS5)。リタード量は、点火時期の基本点火時期に対する遅角量である。
【0056】
一方、ステップS4の判定がYESであってオイルパン内水分量が判定水分量以上の場合、ECU100は、油温が判定油温以上であるか否かを判定する(ステップS6)。前記のように、本実施形態では、ECU100はエンジン水温に基づいて油温を推定しており、この推定した油温に基づいてこの判定を実施する。判定油温は予め設定されてECU100に記憶されている。判定油温は、例えば、50℃程度に設定される。
【0057】
ステップS6の判定がNOであって油温が判定油温未満の場合、ECU100は、ステップS5に進み、リタード量をゼロ(0)に設定する。
【0058】
一方、ステップS6の判定がYESであって油温が判定油温以上の場合、ECU100は、リタード量の基本的な値である基本リタード量を設定する(ステップS7)。
【0059】
ECU100は、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づいて基本リタード量を設定する。エンジンの運転領域を示した図9のように、エンジンの全運転領域のうちエンジン回転数が所定の基準回転数N1未満で且つエンジン負荷が所定の基準負荷Tq1以上の第1領域A1では基本リタード量はゼロ(0)より大きい値に設定される。一方、その他の第2領域A2では基本リタード量はゼロに設定される。例えば、第1領域A1の基本リタード量は、0~5°CA(クランク角)の範囲内で設定される。基準回転数N1は例えば、2500rpmに設定される。
【0060】
また、第1領域A1において、エンジン回転数が低い方が基本リタード量が大きくなり、エンジン負荷が低い方が基本リタード量が大きくなるように、基本リタード量は設定される。図10は、図9に示したエンジン負荷T1~T5における本実施形態におけるエンジン回転数と基本リタード量との関係を示したグラフである。図10に示すように、本実施形態では、いずれのエンジン負荷においてもエンジン回転数が高いときの方が低いときよりも基本リタード量は大きい値とされる。また、第1領域A1のうちのエンジン回転数が所定の回転数N11以下の領域において、エンジン負荷が低いときの方が高いときよりも基本リタード量は大きい値とされる。具体的には、エンジン負荷がT4よりも大きい場合は、所定のエンジン回転数N10(例えば1500rpm)以下において基本リタード量はエンジン回転数に関わらず一定の値R2(例えば、5°CA)とされ、エンジン回転数がこの回転数N10よりも大きくなるとエンジン回転数に比例して基本リタード量が小さくされる。また、エンジン負荷がT4以下の場合は、所定のエンジン回転数N11(例えば2000rpm)以下において基本リタード量はエンジン回転数に関わらず一定の値R1(例えば、2.5°CA)とされ、エンジン回転数がこの回転数N11よりも大きくなるとエンジン回転数に比例して基本リタード量が小さくされる。
【0061】
本実施形態では、各エンジン回転数と各エンジン負荷とについての基本リタード量が予め設定されてECU100にマップで記憶されている。ECU100は、このマップから現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応する値を抽出して基本リタード量に設定する。
【0062】
図7に戻り、基本リタード量を設定した後は、ECU100は、基本リタード量の補正に用いる補正係数Kを外気温に基づいて算出する(ステップS8)。ここで、外気温はエンジン外および車両外の大気の温度であるが、吸気温センサSN4により検出される吸気温と外気温とはほぼ同じであり、本実施形態では、ECU100は、吸気温センサSN4により検出された吸気温を外気温として用いて補正係数Kを算出する。外気温(吸気温)が判定温度Ta1以上の場合は補正係数Kはゼロ(0)に設定され、外気温が判定温度Ta1未満の場合に補正係数Kは0よりも大きい値且つ1以下の値に設定される。判定温度Ta1は予め設定されてECU100に記憶されている。判定温度Ta1は、例えば、-20℃に設定される。
【0063】
図11は、本実施形態における外気温(吸気温)と補正係数Kとの関係を示した図である。図11に示すように、また、前記のように、外気温が判定温度Ta1以上の場合は補正係数Kはゼロ(0)に設定され、外気温が判定温度Ta1未満の場合は補正係数Kはゼロ(0)よりも大きい値に設定される。また、図11に示すように、本実施形態では、外気温が低いときの方が高いときよりも補正係数Kは大きい値に設定される。図11の例では、外気温が判定温度Taよりも低い所定の温度Ta2以下の場合は外気温に関わらず補正係数Kは1に設定され、この温度Ta2よりも高くなると外気温に比例して補正係数Kは小さくされる。前記の所定の温度Ta2は例えば-30℃に設定される。
【0064】
本実施形態では、図11に示すような各外気温(吸気温)についての補正係数Kが予め設定されてECU100にマップで記憶されており、ECU100は、このマップから吸気温センサSN4により検出された現在の吸気温に対応する値を抽出して補正係数Kに設定する。
【0065】
図7に戻り、補正係数Kを設定した後は、ECU100は、ステップS7で設定した基本リタード量とステップS8で設定した補正係数Kとに基づいてリタード量を算出する。具体的には、ECU100は、基本リタード量に補正係数Kをかけた値をリタード量として算出する。つまり、リタード量はリタード量=(基本リタード量)×(補正係数)により算出される。
【0066】
ここで、第2領域A2の基本リタード量はゼロであり、外気温(吸気温)が判定温度Ta1以上の場合の補正係数Kはゼロである。これより、外気温が判定温度Ta1以上である、あるいは、エンジンが第2領域A2で運転されている場合は、リタード量はゼロとされる。また、基本リタード量および補正係数Kが前記のように設定されることから、エンジンが第1領域A1で運転されており且つ外気温が判定温度Ta1未満の場合において、外気温が低いときの方が高いときよりもリタード量は大きい値に算出され、エンジン回転数が低いときの方がエンジン回転数が高いときよりもリタード量は大きい値に算出され、エンジン負荷が低いときの方がエンジン負荷が高いときよりもリタード量は大きい値に算出される。
【0067】
次に、ECU100は、ステップS2で算出した基本点火時期とステップS9あるいはステップS5で算出したリタード量に基づいて点火時期を設定し(ステップS10)、点火時期の算出処理を終了する(ステップS1に戻る)。ECU100は、基本点火時期に対して算出したリタード量分だけ遅角した時期を点火時期に設定する。
【0068】
ここで、前記のように、ステップS7、S8において、外気温が判定温度Ta1以上であるという条件あるいはエンジンが第2領域A2で運転されているという条件が成立する場合、リタード量はゼロに設定される。また、オイルパン内水分量が判定水分量未満であるという条件あるいは油温が判定油温未満であるという条件が成立する場合は、ステップS5にてリタード量はゼロに設定される。これより、前記4つの条件のいずれかが成立している場合、点火時期は基本点火時期に設定され、点火時期の基本点火時期からの遅角は行われない。つまり、この場合は、点火時期を基本点火時期から遅角させるという点火時期の補正は行われない。一方、前記4つの条件の全てが成立している場合は、リタード量がゼロより大きい値に設定されることに伴って基本点火時期よりもリタード量分だけ遅角側の時期が点火時期に設定され、点火時期の基本点火時期からの遅角が行われる。つまり、この場合は、点火時期を基本点火時期から遅角させるという点火時期の補正が行われる。
【0069】
このようにして点火時期を設定した後は、ECU100は、設定した点火時期に点火が行われるように点火プラグ11に指令信号を出力する。
【0070】
(作用等)
以上のように、本実施形態では、ブローバイガス通路71が吸気通路50のうちコンプレッサ16の近傍となる部分に接続されている。そのため、タービン15を通過する高温の排気ガスからタービン15およびタービンハウジング110を介してコンプレッサ16およびコンプレッサハウジング120に付与された熱エネルギーの多くを、接続部X(吸気通路50とブローバイガス通路71との接続部分)に供給できる。また、エンジン稼働中は常時高温の排気ガスがタービン15を通過する。そのため、外気温が低いときにも、排気ガスの高い熱エネルギーを接続部Xに供給できる。従って、接続部Xにおけるブローバイガス中の凝縮水の凍結およびこれに伴う氷塊の形成を効果的に防止できる。そして、氷塊が接続部Xよりも下流側の部品に衝突してこれを損傷するのを防止できる。本実施形態では、接続部Xの下流側にコンプレッサ16が配設されていることから、氷塊との衝突によってコンプレッサ16が損傷するおそれがあるが、これを防止できる。
【0071】
しかも、外気温が判定温度Ta1以上の場合は点火時期が基本点火時期に設定されるのに対して、外気温が判定温度Ta1未満の場合は点火時期が基本点火時期に対して遅角側の時期に補正される。つまり、外気温が判定温度Ta1未満の場合は、点火時期が、外気温が判定温度Ta1以上の場合の点火時期に対して遅角される。点火時期が遅角されると、燃焼室5内での混合気の燃焼開始時期および燃焼終了時期が遅くなることに伴って、燃焼室5から排気通路60に導出される排気ガスの温度がより高くなる。そのため、外気温が判定温度Ta1未満と低いことで接続部Xにおいて凝縮水が凍結しやすい場合に、排気ガスの温度および接続部Xに付与される熱エネルギーを高くでき、この接続部Xにおける凝縮水の凍結および氷塊の形成が生じる確率を十分に低減できる。
【0072】
特に、本実施形態では、コンプレッサハウジング120に直結されたエアパイプ150であって上流側吸気通路50Aの下流端部を構成する吸気側通路部151を備えたエアパイプ150に、ブローバイガス通路71の下流端部を構成するブローバイガス側通路部152が設けられており、コンプレッサハウジング120の直上流において吸気通路50とブローバイガス通路71とが接続されている。そのため、コンプレッサハウジング120に伝えられた排気ガスの熱エネルギーを効果的にブローバイガス通路71の下流端部に伝えることができ、接続部Xを十分に昇温できる。さらに、本実施形態では、ブローバイガス側通路部152と、エアパイプ150の第2フランジ部153であってコンプレッサハウジング120の第1フランジ部123に締結される部分とが、リブ部154を介して連結されている。そのため、コンプレッサハウジング120の熱エネルギーをブローバイガス側通路部152に効率よく伝えることができ、ブローバイガス側通路部152内での凝縮水の凍結および氷塊の形成を効果的に防止できる。また、エアパイプ150が、熱伝導率の高いアルミ合金製鋳物であることによっても、コンプレッサハウジング120からブローバイガス側通路部152に伝えられる熱エネルギーが大きくされる。
【0073】
ここで、エンジン回転数が低いときは、吸気通路50を流通する吸気の流速が遅くなることで、接続部Xに凝縮水が溜まりやすく氷塊が形成されやすい。これに対して、本実施形態では、前記のように、エンジン回転数が低いときの方が高いときよりも点火時期のリタード量(遅角量)が大きくされて点火時期がより遅角側の時期とされる。そのため、エンジン回転数が低く氷塊が形成されやすいときに、タービン15を通過する排気ガスの温度をより高くしてこの高い排気ガスの熱エネルギーによって接続部Xを効果的に昇温でき、接続部Xでの凝縮水の凍結および氷塊の形成を十分に防止できる。
【0074】
また、点火時期のリタード量(遅角量)を大きくすると前記のように排気ガスの熱エネルギーを増大できる一方、燃費性能は悪化する。これに対して、本実施形態では、前記のように、エンジン回転数が高く氷塊が形成されにくいときには点火時期のリタード量が小さく抑えられる。従って、氷塊の形成を防止しつつ点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を小さく抑えることができる。
【0075】
また、エンジン負荷が低いときは、燃焼エネルギーが低いことに伴って排気ガスの温度が低くなりやすく、接続部Xでの凝縮水の凍結および氷塊の形成が起こりやすい。これに対して、本実施形態では、前記のように、エンジン負荷が低いときの方が高いときよりも点火時期のリタード量(遅角量)が大きくされて点火時期がより遅角側の時期とされる。そのため、エンジン負荷が低く凝縮水の凍結および氷塊の形成が起こりやすいときに、タービン15を通過する排気ガスの温度をより高くしてこの排気ガスの熱エネルギーによって接続部Xを効果的に昇温でき、接続部Xでの凝縮水の凍結および氷塊の形成を十分に防止できる。また、エンジン負荷が高く接続部Xでの凝縮水の凍結および氷塊の形成が起こりにくいときには、点火時期の遅角量が小さく抑えられることで、点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を小さく抑えることができる。
【0076】
前記のように、エンジン負荷が低くなると排気ガスの温度が低くなることで接続部Xでの凝縮水の凍結が起こりやすいといえる。ただし、エンジン負荷が十分に小さいときは、エンジン本体1内の圧力が低いことからブローバイガス通路71を介したエンジン本体1から吸気通路50へのブローバイガスの流れがほぼ停止して接続部Xの凝縮水の供給がほぼ停止する。そのため、エンジン負荷が十分に小さいときは、接続部Xでの凝縮水の凍結および氷塊の形成は起こりにくい。これに対して、本実施形態では、前記のように、エンジン負荷が基準負荷Tq1以上の場合にリタード量をゼロよりも大きい値に設定し、エンジン負荷が基準負荷Tq1未満の場合はリタード量をゼロにする。つまり、本実施形態では、点火時期を基本点火時期に対して遅角側の時期にする点火時期の補正を、エンジン負荷が基準負荷Tq1以上の場合にのみ実施している。従って、本実施形態によれば、接続部Xでの氷塊の形成を防止しつつ、点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を小さく抑えることができる。
【0077】
また、ブローバイガスに含まれる水分にはオイルパン22から蒸発した水分が含まれており、オイルパン22内の水分量が少ない場合は、ブローバイガスに含まれる水分量も少なくなって接続部Xでの凝縮水の凍結および氷塊の形成は起こりにくい。これに対して、本実施形態では、オイルパン22内の水分量であるオイルパン内水分量が判定水分量以上の場合にのみ、点火時期を基本点火時期から遅角させるという点火時期の補正を行っている。従って、本実施形態によれば、オイルパン内水分量が高く接続部Xでの凝縮水の凍結および氷塊の形成は起こりやすいときにこれの発生を防止しつつ、オイルパン内水分量が低いときにおいて点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を抑制できる。
【0078】
また、オイルパン22に貯留されているエンジンオイルの温度が低い場合は、エンジンオイルから蒸発する水分量が少なくなることでブローバイガスに含まれる水分量も少なくなり前記接続部Xでの氷塊の形成は生じにくい。これに対して、本実施形態では、オイルパン22に貯留されているエンジンオイルの温度が判定温度以上の場合にのみ点火時期の補正を行う。従って、本実施形態によれば、エンジンオイルの温度が高いことに伴い生じやすい接続部Xでの氷塊の形成を防止しつつ、エンジンオイルの温度が高いときにおいて点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を抑制できる。
【0079】
また、本実施形態では、外気温が判定温度Ta1未満において外気温が低いときの方が高いときよりも前記補正係数Kが大きい値とされている。つまり、点火時期の補正を行う場合において、外気温が低いときの方が高いときよりも点火時期のリタード量が大きくされて点火時期がより遅角側の時期とされる。従って、外気温が特に低く接続部Xでの凝縮水の凍結および氷塊の形成が起こりやすいときにこれを防止できるとともに、外気温が比較的高いときにおいて点火時期の遅角に伴う燃費性能の悪化を抑制できる。
【0080】
(変形例)
前記実施形態では、補正係数Kの算出(点火時期を遅角させる補正を行うか否かの判定を含む)に用いる外気温として吸気温センサSN4により検出された吸気温を用いた場合を説明したが、この算出(判定)に用いる外気温はこれに限らない。例えば、エンジンとは別の位置に外気温を検出する外気温センサを設けてこれの検出値を用いてもよい。
【0081】
前記実施形態では、エンジン水温センサSN2により検出されたエンジン水温に基づいて油温(エンジンオイルの温度)を推定する場合を説明したが、油温を検出可能な油温センサを設けてこれにより検出された油温を各演算に用いるようにしてもよい。
【0082】
前記実施形態に係るエンジンの制御装置が適用されるエンジンの気筒数等の具体的な構造は前記に限らない。
【0083】
判定温度Ta1、判定水分量、判定油温、前記の所定のエンジン回転数N10、N11、基本リタード量、補正係数K(判定温度Ta1未満での補正係数)の具体的な数字は前記に例示したものに限られない。例えば、第1領域A1においてエンジン負荷やエンジン回転数に関わらず基本リタード量を一定の値にしてもよい。
【0084】
また、油温が判定油温以上であるか否かの判定、オイルパン内水分量が判定水分量以上であるか否かの判定は省略してもよい。
【0085】
また、前記実施形態では、ブローバイガス通路71が上流側吸気通路50A(吸気通路50のコンプレッサ16よりも上流側の吸気通路50)に接続される場合を説明したが、ブローバイガス通路71は下流側吸気通路50B(コンプレッサ16よりも下流側の吸気通路50)に接続されてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 エンジン本体
11 点火プラグ(点火手段)
14 ターボ過給機
15 タービン
16 コンプレッサ
22 オイルパン
50 吸気通路
60 排気通路
71 ブローバイガス通路
100 ECU(制御手段)
X 接続部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11