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特開2022-65796プレフィル用シリンジ及び当該プレフィル用シリンジに造影剤を保存する方法、並びに、プレフィルドシリンジ及びシリンジバレル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065796
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】プレフィル用シリンジ及び当該プレフィル用シリンジに造影剤を保存する方法、並びに、プレフィルドシリンジ及びシリンジバレル
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/12 20060101AFI20220421BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20220421BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20220421BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220421BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20220421BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220421BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
A61L31/12 100
A61M5/28
A61M5/31 530
A61L31/06
A61L31/02
A61L31/14 100
A61L31/14
A61L31/04 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174503
(22)【出願日】2020-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 喜子
(72)【発明者】
【氏名】小川 俊
【テーマコード(参考)】
4C066
4C081
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066CC03
4C066DD07
4C066EE06
4C081AC09
4C081BB09
4C081CA02
4C081CA16
4C081CB01
4C081CC01
4C081CG04
4C081CG07
4C081CG08
4C081DA03
4C081DC04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】過酸化水素溶液を長期保存可能なプレフィル用シリンジ、及び当該プレフィル用シリンジに造影剤を保存する方法、並びに、プレフィルドシリンジ及びシリンジバレルを提供する。
【解決手段】プレフィル用シリンジであって、ポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層(A)と、熱可塑性樹脂を含む樹脂層(B)とを含み、且つ、少なくとも、前記樹脂層(B)が前記酸素吸収性樹脂層(A)の両側に積層された多層構造を有するシリンジバレルを備え、前記ポリエステル化合物が、下記一般式(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1つで示される構成単位を含有する、プレフィル用シリンジ。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレフィル用シリンジであって、
ポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層(A)と、熱可塑性樹脂を含む樹脂層(B)とを含み、且つ、少なくとも、前記樹脂層(B)が前記酸素吸収性樹脂層(A)の両側に積層された多層構造を有するシリンジバレルを備え、
前記ポリエステル化合物が、下記一般式(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1つで示される構成単位を含有する、プレフィル用シリンジ。
【化1】
【請求項2】
前記遷移金属触媒が、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含む、請求項1に記載のプレフィル用シリンジ。
【請求項3】
前記遷移金属触媒が、前記ポリエステル化合物100質量部に対し、遷移金属量として0.0001~10質量部を含む、請求項1又は請求項2に記載のプレフィル用シリンジ。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィンである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のプレフィル用シリンジ。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のプレフィル用シリンジを用いた、過酸化水素溶液を含む造影剤を保存する方法。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のプレフィル用シリンジに過酸化水素溶液を収容した、プレフィルドシリンジ。
【請求項7】
プレフィル用シリンジに用いられるシリンジバレルであって、
ポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層(A)と、熱可塑性樹脂を含む樹脂層(B)とを含み、且つ、少なくとも、前記樹脂層(B)が前記酸素吸収性樹脂層(A)の両側に積層された、多層構造を有するシリンジバレルを備え、
前記ポリエステル化合物が、下記一般式(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1つで示される構成単位を含有する、シリンジバレル。
【化2】
【請求項8】
前記遷移金属触媒が、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含む、請求項7に記載のシリンジバレル。
【請求項9】
前記遷移金属触媒が、前記ポリエステル化合物100質量部に対し、遷移金属量として0.0001~10質量部を含む、請求項7又は請求項8に記載のシリンジバレル。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィンである、請求項7~請求項9のいずれか1項に記載のシリンジバレル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過酸水素水溶液の保存性に優れるプレフィル用シリンジ及び当該プレフィル用シリンジに造影剤を保存する方法、並びに、プレフィルドシリンジ及びシリンジバレルに関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素溶液は、工業的には漂白剤、酸化剤として化学製品の中間原料、工業廃水・下水処理薬剤として使用され、食品分野では殺菌剤として、医療分野では消毒剤、がん治療法である放射線療法に使用されている。
【0003】
放射線治療において使用される過酸化水素溶液は、過酸化水素を0.01~3.5W/V%を含有する0.1~10W/V%ヒアルロン酸ナトリウムとして、放射線増感剤として用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1のように過酸化水素溶液を放射線増感剤用途に使用する場合、過酸化水素溶液が容易に分解する特性上、使用する際に保存容器からシリンジへ量り取る操作が求められる。
【0005】
また、特許文献2には、ガラス製シリンジに代わり、薬液が直接接触する部分のシリンジ材質が樹脂であって、過酸化水素溶液中の過酸化水素の分解速度がガラスよりも低いシリンジを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2008/041514号公報
【特許文献2】特許第6551857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
過酸化水素溶液を放射線増感剤用途にて使用する場合、過酸化水素溶液をシリンジに収容してプレフィルド化すると、保存中に過酸化水素溶液の分解によって酸素が発生するという問題がある。このため、従来使用されているガラス製シリンジに過酸化水素溶液を収容してプレフィルド化すると、シリンジ内が膨張し、ガスケットが押し戻されて長期保存が困難となる問題があった。
【0008】
一方、ガラス製シリンジの代わりに樹脂を用いた特許文献2に記載のプレフィル用シリンジは、シクロオレフィンポリマー(COP樹脂)若しくはシクロオレフィンコポリマー(COC樹脂)を使用することで、外筒を構成する材料による過酸化水素の分解については抑制することができる。しかし、当該技術では紫外線による過酸化水素の分解については考慮されておらず、紫外線下における過酸化水素の分解が十分に抑制されていない。このため、プレフィル用シリンジに過酸化水素溶液を充填して長期保存した場合に紫外線による過酸化水素の分解物によってプランジャーの押し戻しが生じてしまうなど、紫外線による問題の解決が十分とはいえない。
【0009】
本発明は、上述の課題を解決すべく、過酸化水素溶液を長期保存可能なプレフィル用シリンジ、及び当該プレフィル用シリンジに造影剤を保存する方法、並びに、プレフィルドシリンジ及びシリンジバレルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
過酸水素保存性及び過酸化水素分解生成物である酸素の吸収性を示す医療用プレフィル用シリンジについて鋭意研究を行った結果、中間層に酸素吸収性樹脂を使用した酸素吸収性多層容器を採用することにより、上述の課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
<1> プレフィル用シリンジであって、
ポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層(A)と、熱可塑性樹脂を含む樹脂層(B)とを含み、且つ、少なくとも、前記樹脂層(B)が前記酸素吸収性樹脂層(A)の両側に積層された多層構造を有するシリンジバレルを備え、
前記ポリエステル化合物が、下記一般式(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1つで示される構成単位を含有する、プレフィル用シリンジ。
【化1】
<2> 前記遷移金属触媒が、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含む、前記<1>に記載のプレフィル用シリンジ。
<3> 前記遷移金属触媒が、前記ポリエステル化合物100質量部に対し、遷移金属量として0.0001~10質量部を含む、前記<1>又は前記<2>に記載のプレフィル用シリンジ。
<4> 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィンである、前記<1>~前記<3>のいずれかに記載のプレフィル用シリンジ。
<5> 前記<1>~前記<4>のいずれかに記載のプレフィル用シリンジを用いた、過酸化水素溶液を含む、造影剤を保存する方法。
<6> 前記<1>~前記<4>のいずれかに記載のプレフィル用シリンジに過酸化水素溶液を収容した、プレフィルドシリンジ。
<7> プレフィル用シリンジに用いられるシリンジバレルであって、
ポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層(A)と、熱可塑性樹脂を含む樹脂層(B)とを含み、且つ、少なくとも、前記樹脂層(B)が前記酸素吸収性樹脂層(A)の両側に積層された、多層構造を有するシリンジバレルを備え、
前記ポリエステル化合物が、下記一般式(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1つで示される構成単位を含有する、シリンジバレル。
【化2】
<8> 前記遷移金属触媒が、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含む、前記<7>に記載のシリンジバレル。
<9> 前記遷移金属触媒が、前記ポリエステル化合物100質量部に対し、遷移金属量として0.0001~10質量部を含む、前記<7>又は前記<8>に記載のシリンジバレル。
<10> 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィンである、前記<7>~前記<9>のいずれかに記載のシリンジバレル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、過酸化水素溶液を長期保存可能なプレフィル用シリンジ、及び当該プレフィル用シリンジに造影剤を保存する方法、並びに、プレフィルドシリンジ及びシリンジバレルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のシリンジの保存時における構成を示す概略図である。
図2】シリンジバレル(筒状本体)の多層構造を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明する。なお、以下の実施の形態は本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0015】
《プレフィル用シリンジ》
本実施形態のプレフィル用シリンジ(以下、単に「シリンジ」と称することがある)は、プレフィル用シリンジであって、
ポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層(A)と、熱可塑性樹脂を含む樹脂層(B)とを含み、且つ、少なくとも、前記樹脂層(B)が前記酸素吸収性樹脂層(A)の両側に積層された、多層構造を有するシリンジバレルを備え、
前記ポリエステル化合物が、下記一般式(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1つで示される構成単位を含有する。
【0016】
【化3】
【0017】
本実施形態のシリンジは、過酸化水素溶液を保存するプレフィル用シリンジとして特に有用である。本実施形態のシリンジは、例えば、シリンジバレルの最内面が樹脂層(B)であるため、過酸化水素溶液中の過酸化水素の分解速度がガラスよりも低く、さらには保存の際に紫外線等に影響よって発生した過酸化水素の分解物である酸素を吸収することによって当該酸素によるシリンジ内の膨張を抑制できる。ため、過酸化水素溶液を収容(プレフィルド)した状態で長期保存(例えば、56日以上)することができる。
本実施形態で用いられるプレフィル用シリンジは、過酸水素保存性、及び、過酸化水素分解生成物である酸素の吸収性を示す医療用プレフィル用シリンジへの過酸化水素溶液の保存の観点から、中間層である酸素吸収性樹脂層(A)に使用する酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収速度が23℃90%RH(相対湿度)の条件で測定した際に、0.01mL/g/56day以上であることが好ましく、0.5mL/g/56day以上であることが更に好ましい。
【0018】
<シリンジの構成>
本実施形態のシリンジの構成について説明する。なお、以下の構成は本発明の一態様であり、本発明は以下の構成によって限定されるものではない。
【0019】
図1は、本実施形態のシリンジの保存時における構成を示す概略図である。図1に示すように、シリンジ100は、シリンジバレル10と、ガスケット20と、プランジャー30と、キャップ40と、を備えている。シリンジ100は、薬液18を密封状態で収容するいわゆるプレフィルドシリンジに用いられるシリンジ(プレフィル用シリンジ)である。また、シリンジ100に薬液(過酸化水素溶液)を収容した態様が本実施形態のプレフィルドシリンジの一例となる。
【0020】
シリンジバレル10は、図1に示されるように筒状本体12を有しており、その内部に薬液18が収容されている。本実施形態においては、過酸化水素溶液が収容される。筒状本体12は、図1におけるXX’直線を中心軸として同方向に沿って同径の筒状体である。また、筒状本体12の先端には薬液18を注出(吐出)するための注出部14を有しており、他端にはガスケット20が挿入される挿入部16を有している。
【0021】
図2に示すように、筒状本体12は多層構造を有しており、本実施形態におけるシリンジバレルは酸素吸収性多層容器となる。図2は、筒状本体12の多層構造を説明するための概略図である。本実施形態における筒状本体12は、酸素吸収性樹脂層A1が中間層(コア層)となるように樹脂層B1及びB2(スキン層)の間に積層された三層構造を有している。各樹脂層及び酸素吸収性樹脂層に用いられる材料については後述するが、筒状本体12は、少なくとも内面(最内層)を構成する樹脂層B1がシクロオレフィン系ポリマーを含んでいることが好ましい。本実施形態のシリンジ100は、スキン層に樹脂層(B)を採用し、且つ、シリンジバレル10が酸素吸収性樹脂層A1を有しているため、シリンジバレル10の内面との接触による過酸化水素の分解が抑制されており、且つ、コア層である酸素吸収性樹脂層によって紫外線等による過酸化水素の分解物である酸素を吸収できるため、長期保存の際におけるシリンジ内の膨張を抑制することができる。
【0022】
次に、図1に示すように、筒状本体12の注出部14には、シリンジ100の保管時においてキャップ40が嵌められている。シリンジ100の使用時には、キャップ40が外され注出部14には注射針が装着される。注出部14は筒状本体12よりも小径の部位からなり、テーパ状に形成することもできる。
【0023】
ガスケット20はプランジャー30の一端に装着されており、シリンジバレル10内を図1におけるXX’直線に沿って摺動可能なように設置されている。上述のようにガスケット20はシリンジバレル10の挿入部16から挿入されており、シリンジ100の使用時には挿入部16から注出部14に向かう方向(即ち、図1における矢印Pの方向)に押し動かされる。ガスケット20が矢印Pの方向に摺動すると、シリンジバレル10内の薬液18が同方向側の圧力を受ける。上述のように、シリンジ100の使用時には注出部14には図示を省略する注射針が接続されており、ガスケット20により圧力を受けた薬液18は、注出部14を介して、注射針から注出される。
以下、各部材について説明する。
【0024】
<シリンジバレル>
本実施形態のシリンジは、ポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層(A)(以下、単に“層A”と称することがある)と、熱可塑性樹脂を含む樹脂層(B)(以下、単に“層B”と称することがある)とを含み、且つ、少なくとも、樹脂層(B)が酸素吸収性樹脂層(A)の両側に積層された、多層構造を有するシリンジバレルを備える。具体的には、上述のシリンジバレルを構成する筒状本体が多層構造を有する。筒状本体の多層構造は一対の層Bが層Aの両側に積層され、且つ、層Bがシリンジバレルの最内面(薬液と接触する部位)に位置していれば、層A及び層Bの数や種類は特に限定されない。また、層Aをコア層、層Bをスキン層と称することがある。多層構造の最小構成は、2層の樹脂層(B)を備え、酸素吸収性樹脂層(A)を2層の樹脂層(B)の間に配置した三層構造である(B/A/B構造)。また、本実施形態におけるシリンジバレルの多層構造は、1層の層A並びに層B1及び層B2の2種4層の層BからなるB1/B2/A/B2/B1の5層構成であってもよい。さらに、本実施形態におけるシリンジバレルの多層構造は、後述のように、必要に応じて接着層(層AD)等の任意の層を含んでもよく、例えば、B1/AD/B2/A/B2/AD/B1の7層構成であってもよい。なお、酸素吸収性樹脂層(A)と樹脂層(B)とは直接接するように積層してもよいし、他の層を介して積層されていてもよい。
【0025】
[酸素吸収性樹脂層A(層A)]
酸素吸収性樹脂層(A)は、酸素吸収性樹脂組成物を含む層である。酸素吸収性樹脂組成物は、上述の一般式(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1つで示される構成単位を含むポリエステル化合物と、遷移金属触媒と、を含む。ポリエステル化合物に含まれる構成単位は、テトラリン環を有する構成単位である。酸素吸収性樹脂層(A)は、酸素吸収性樹脂組成物以外の材料を含んでいてもよいが、酸素吸収性樹脂組成物のみで形成することもできる。
【0026】
(テトラリン環含有ポリエステル化合物)
本実施形態におけるポリエステル化合物は、一般式(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1種のテトラリン環を有する構成単位を含有する。ここで、「構成単位を含有する」とは、化合物中に当該構成単位を1以上有することを意味する。かかる構成単位は、テトラリン環含有ポリエステル化合物中に繰り返し単位として含まれていることが好ましい。テトラリン環含有ポリエステル化合物が重合体である場合、当該ポリエステル化合物は、前記構成単位のホモポリマーであってもよいし、前記構成単位と他の構成単位とのランダムコポリマーであってもよいし、前記構成単位と他の構成単位とのブロックコポリマーのいずれであっても構わない。
【0027】
【化4】
【0028】
上述の一般式(1)~(3)で表される構成単位を含有するポリエステル化合物は、テトラリン環を有するジカルボン酸又はその誘導体、及びジオール又はその誘導体を重縮合することで得られる。
【0029】
本実施形態におけるポリエステル化合物には、性能に影響しない範囲で、一般式(1)~(3)で表される構成単位以外の構成単位を共重合成分として組み込んでもよい。具体的には、ジオール又はその誘導体や、ジカルボン酸又はその誘導体を共重合成分として用いることができる。前記ポリエステル化合物が、一般式(1)~(3)で表される構成単位以外の構成単位を含む場合、ポリエステル化合物中の一般式(1)~(3)で表される構成単位の含有率は、原料コストの削減の観点から、0.01~50mol%であることが好ましく、0.01~20mol%がさらに好ましい。
【0030】
ジオール又はその誘導体としては、例えば、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、又はこれらの誘導体等が挙げられる。ジオール又はその誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
ジカルボン酸又はその誘導体としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸類、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸類、2,6-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸類、又はこれらの誘導体等が挙げられる。ジカルボン酸又はその誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本実施形態におけるポリエステル化合物の極限粘度(フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での測定値)は特に限定されないが、ポリエステル化合物の成形性の面から、0.7~1.3dL/gが好ましく、0.9~1.1dL/gがより好ましい。
【0033】
本実施形態に用いるポリエステル化合物を製造する方法は特に制限はなく、従来公知のポリエステルの製造方法をいずれも適用することができる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等を挙げることができる。上述のポリエステル化合物の製造方法の中では、原料入手の容易さの点から、エステル交換法が好適に使用される。
【0034】
本実施形態におけるポリエステル化合物の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は特に限定はないが、所望する性能や取扱性の点から、1.0×103以上が好ましく、1.0×103~8.0×106が更に好ましく、5.0×103~5.0×106が特に好ましい。同様に、数平均分子量(ポリスチレン換算)も特に限定はないが、同じく所望する性能や取扱い性の点から、1.0×103以上が好ましく、1.0×103~8.0×106が更に好ましく、5.0×103~5.0×106が特に好ましい。
【0035】
また、本実施形態におけるポリエステル化合物のガラス転移温度(Tg1)は、50℃~160℃であることが好ましく、55℃~150℃であることがより好ましく、60℃~140℃であることが更に好ましい。前記ポリエステル化合物のガラス転移温度(Tg1)が前記温度範囲にあると、耐熱性及び成形性の観点から良好なシリンジバレルを作製することができる。
【0036】
酸素吸収性樹脂組成物中の本実施形態におけるポリエステル化合物の含有率は特に限定されないが、層Aを構成する樹脂成分の総質量に対する前記ポリエステル化合物の含有率が、好ましくは1~30質量%、さらに好ましくは1.5~25質量%、特に好ましくは2~20質量%となるように設定することができる。
【0037】
(遷移金属触媒)
酸素吸収性樹脂層(層A)の酸素吸収性樹脂組成物に用いられる遷移金属触媒としては、上述のテトラリン環含有ポリエステル化合物の酸化反応の触媒として機能し得るものであれば、公知のものから適宜選択して用いることができ、特に限定されない。
【0038】
かかる遷移金属触媒の具体例としては、遷移金属の有機塩、ハロゲン化物、リン酸塩、亜リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等が挙げられる。ここで、遷移金属触媒に含まれる遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、鉄、コバルト、ニッケル、銅が好ましい。また、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタイノイック酸、ラウリン酸、ステアリン酸、アセチルアセトン、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、前記遷移金属触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含むことが好ましい。また、遷移金属触媒はこれらの遷移金属と有機酸とを組み合わせたものが好ましく、遷移金属が鉄、コバルト、ニッケル又は銅であり、有機酸が酢酸、ステアリン酸、2-エチルヘキサン酸、オレイン酸又はナフテン酸である組み合わせがより好ましい。なお、遷移金属触媒は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
酸素吸収性樹脂層(層A)の酸素吸収性樹脂組成物中におけるテトラリン環含有ポリエステル化合物及び遷移金属触媒の含有割合は、使用するテトラリン環含有ポリエステル化合物や遷移金属の種類及び必要な性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収量の観点から、遷移金属触媒の含有量は、テトラリン環含有ポリエステル化合物100質量部に対し、遷移金属量として0.0001~10質量部であることが好ましく、より好ましくは、0.0002~2質量部である。
【0040】
(酸素吸収性樹脂組成物の調製)
テトラリン環含有ポリエステル化合物及び遷移金属触媒は、公知の方法で混合することができるが、好ましくは、押し出し機により混錬することにより、分散性の良い酸素吸収性樹脂組成物として使用することができる。また、酸素吸収性樹脂組成物には、本実施形態の効果を損なわない範囲で、乾燥剤、顔料、染料、酸化防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、安定剤等の添加剤、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカ等の充填剤、消臭剤等を添加しても良いが、以上に示したものに限定されることなく、種々の材料を混合することができる。
【0041】
本実施形態における酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収反応を促進させるために、必要に応じて、さらにラジカル発生剤や光開始剤など他の添加剤を含有していてもよい。ラジカル発生剤の具体例としては、N-ヒドロキシイミド化合物が挙げられ、例えば、N-ヒドロキシコハクイミド、N-ヒドロキシマレイミド、N,N‘-ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、N-ヒドロキシテトラクロロイミド、N-ヒドロキシテトラブロモフタルイミド、N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、3-スルホニル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-メトキシカルボニル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-メチル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-ヒドロキシ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-ニトロ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-クロロ―N-ヒドロキシフタルイミド、4-メトキシ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-ジメチルアミノ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-カルボキシ-N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、4-メチル-N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、N-ヒドロキシヘッド酸イミド、N-ヒドロキシハイミック酸イミド、N-ヒドロキシトリメット酸イミド、N,N-ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、光開始剤の具体例としては、ベンゾフェノンとその誘導体、チアジン染料、金属ポルフィリン誘導体、アントラキノン誘導体が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、これらのラジカル発生剤及び光開始剤は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
-他の熱可塑性樹脂-
また、本実施形態における酸素吸収性樹脂組成物は、本実施形態の目的を阻害しない範囲で上述のポリエステル化合物以外の他の熱可塑性樹脂と押し出し機で混錬することもできる。
混錬に用いることのできる他の熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、或いはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダム又はブロック共重合体などのポリオレフィン、無水マレイン酸グラフとポリエチレンや無水マレイン酸グラフトポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体やそのイオン架橋物(アイオノマー)、エチレンメタクリル酸メチル共重合体等のエチレン-ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、α-メチルスチレン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン(登録商標)、ナイロン(登録商標)66、ナイロン(登録商標)610、ナイロン(登録商標)12、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンエチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンサクシネート(PES),ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレノキサイド等のポリエーテル等或いはこれらの混合物などが挙げられる。
【0043】
[熱可塑性樹脂を有する樹脂層(層B)]
本実施形態における樹脂層B(層B)は、熱可塑性樹脂を含有する層である。層Bにおける熱可塑性樹脂の含有率は特に限定されないが、層Bの総質量に対する熱可塑性樹脂の含有率が、70~100質量%であることが好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%が特に好ましい。
【0044】
本実施形態において層Bに含まれる熱可塑性樹脂としては、任意の熱可塑性樹脂を使用することができ、特に限定されない。例えば、前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、植物由来樹脂及び塩素系樹脂を挙げることができるが、過酸化水素溶液を保存する観点から、ポリオレフィンであることが好ましい。
【0045】
(ポリオレフィン)
上述のポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖上(線状)低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、エチレンとα-オレフィンとの共重合体、プロピレンとα-オレフィン共重合体、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸エステル共重合体等の公知の樹脂が挙げられる。好ましいポリオレフィンの一例には、ノルボルネン若しくはテトラシクロドデセン又はそれらの誘導体などのシクロオレフィン類開環重合体及びその水素添加物;ノルボルネン若しくはテトラシクロドデセン又はその誘導体などのシクロオレフィンとエチレン又はプロピレンとの重合により分子鎖にシクロペンチル残基や置換シクロペンチル残基が挿入されたものが含まれる。また、好ましいポリオレフィンの具体例としては、熱可塑性ノルボルネン系樹脂又は熱可塑性テトラシクロドデセン系樹脂が挙げられる。熱可塑性ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体、その水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加型重合体、ノルボルネン系単量体とオレフィンの付加型重合体などが挙げられる。熱可塑性テトラシクロドデセン系樹脂としては、テトラシクロドデセン系単量体の開環重合体、その水素添加物、テトラシクロドデセン系単量体の付加型重合体、テトラシクロドデセン系単量体とオレフィンの付加型重合体などが挙げられる。熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、例えば特開平3-14882号公報、特開平3-122137号公報、特開平4-63807号公報などに記載されている。
【0046】
特に好ましいポリオレフィンとしては、ノルボルネンとエチレンなどのオレフィンとを原料とした共重合体、及びテトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)、また、ノルボルネンを開環重合し、水素添加した重合物であるシクロオレフィンポリマー(COP)も好ましい。このようなCOC及びCOPは、例えば特開平5-300939号公報或いは特開平5-317411号公報に記載されている。
【0047】
シクロオレフィンコポリマー(COC)としては、例えば三井化学(株)製、アペル(登録商標)として市販されているものを用いることができる。また、またシクロオレフィンポリマー(COP)は、例えば日本ゼオン(株)製、ゼオネックス(登録商標)又はゼオノア(登録商標)や(株)大協精工製、Daikyo Resin CZ(登録商標)として市販されているものを用いることができる。
【0048】
上述のCOC及びCOPは、耐熱性や耐光性などの化学的性質や耐薬品性はポリオレフィン樹脂としての特徴を示し、機械特性、溶融、流動特性、寸法精度等の物理的性質は非晶性樹脂としての特徴を示すことから最も好ましい材質である。
【0049】
樹脂層(B)に含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は特に限定はないが、原料コスト削減の点から、1×104~1×105が好ましく、2.5×104~7.5×104が更に好ましく、5×104~6×104が特に好ましい。同様に、数平均分子量(ポリスチレン換算)も特に限定はないが、原料コスト削減の点から、1×104~1×105が好ましく、2.5×104~7.5×104が更に好ましく、5×104~6×104が特に好ましい。
【0050】
また、樹脂層(B)に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg2)は、上述の酸素吸収性樹脂組成物中の本実施形態におけるポリエステル化合物のガラス転移温度(Tg1)に対して-10~+20℃であることが好ましく、-5~+15℃であることがより好ましく、±0~+10℃であることが更に好ましい。ガラス転移温度(Tg2)がガラス転移温度(Tg1)に対して前記温度範囲にあると、酸素吸収性樹脂層(A)との多層成形において、外観の良好な成形体を作製することができる。
【0051】
[他の層]
本実施形態のプレフィル用シリンジは、酸素吸収性樹脂層(A)及び樹脂層(B)に加えて、所望する性能等に応じて任意の他の層を含んでもよい。そのような任意の他の層としては、例えば、接着層などが挙げられる。
例えば、本実施形態におけるシリンジバレルにおいて、隣接する2つの層の間で実用的な層間接着強度が得られない場合に、当該2つの層の間に接着層(層AD)を設けることができる。接着層は、接着性を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。接着性を有する可塑性としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。接着層としては、接着性の観点から、熱可塑性樹脂と同士の樹脂を変性したものを用いることが好ましい。
【0052】
[本実施形態のプレフィル用シリンジの製造方法]
(プレフィル用シリンジ)
本実施形態のプレフィル用シリンジ及びシリンジバレルの製造方法並びに層構成については特に限定されず、通常の射出成形法により製造することができる。例えば、2台以上の射出機を備えた成形機及び射出用金型を用いて、酸素吸収性樹脂層A(層A)を構成する材料及び樹脂層B(層B)を構成する材料をそれぞれの射出シリンダーから金型ホットランナーを通して、キャビティ内に射出して、射出用金型の形状に対応した多層構造を有するシリンジバレルを製造することができる。また、先ず、層Bを構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで、層Aを構成する材料を別の射出シリンダーから層Bを構成する樹脂と同時に射出し、次に層Bを構成する樹脂を必要量射出してキャビティを満たすことにより3層構造B/A/Bの多層構造を有するシリンジバレルを製造できる。
また、先ず、層B1を構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで、層Aを構成する材料を単独で射出し、最後に層B2を構成する材料を必要量射出して金型キャビティを満たすことにより、5層構造B1/A/B2/A/B1の多層構造を有するシリンジバレルを製造できる。
また、先ず、層B1を構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで、層B2を構成する材料を別の射出シリンダーから、層B1を構成する樹脂と同時に射出し、次に層Aを構成する樹脂を層B1、層B2を構成する樹脂と同時に射出し、次に層B1を構成する樹脂を必要量射出してキャビティを満たすことにより5段階構造層B1/B2/A/B2/B1の多層構造を有するシリンジバレルを製造できる。
また、押出成形、圧縮成形(シート成形、ブロー成形)等の成形手段によって所望の容器形状に成形してもよい。
【0053】
本実施形態のプレフィル用シリンジの構成は一般的なプレフィル用シリンジ用容器となんら変わるものではなく、上述のように、少なくとも過酸化水素溶液等を充填するためのシリンジバレルを有し、その他、シリンジバレルの一端に注射針を接合するための接合部(抽出部)に装着されたキャップ、及び、使用時に過酸化水素溶液等を押し出す為のガスケット及びプランジャーを含んで構成することができる。上述のように、本実施形態のプレフィル用シリンジにおいては、シリンジバレルが酸素吸収性の多層容器であり、中間層(コア層)の少なくとも一層に酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層(A)(層A)となり、最内層及び外層(スキン層)が熱可塑性樹脂を含む樹脂層(B)(層B)となる。
【0054】
また、シリンジバレルと針との接合部は一体のものとして成形してもよいし、別々に成形したものを接合してもよい。
【0055】
シリンジバレルの厚さは、使用目的や大きさによるが0.5mm~10mm程度のものであればよい。また、厚さは均一であっても、部分的に厚さを変えたものであってもよい。また、表面に過酸化水素の長保存安定の目的で、別のガス吸収膜や遮光膜が形成されてもよい。かかる膜及びその形成方法としては特開2004-323058号公報に記載された方法などを採用できる。
【0056】
本実施形態のプレフィル用シリンジにおいて、酸素吸収性樹脂層(A)(層A)の厚みは特に限定されないが、10~800μmであることが好ましく、より好ましくは20~700μmであり、さらに好ましくは30~500μmである。酸素吸収層の厚みが上述の範囲内であると、加工性や経済性を過度に損なうことなく、酸素吸収性能がより高められ、過酸化水素溶液のさらなる長期の保存が可能な点で有利である。
【0057】
本実施形態のプレフィル用シリンジは、上述のように樹脂層(B)(層B)を複数有していてもよく、複数の層Bの構成は互いに同一であっても異なっていてもよい。層Bの厚みは、用途に応じて適宜決定することができ、多層容器に要求される諸物性を確保するという観点からは、好ましくは100~5000μm、より好ましくは200~3000μm、さらに好ましくは300~2000μmである。
【0058】
また、特に限定されるものではないが、本実施形態におけるシリンジバレルの総質量に対する、酸素吸収性樹脂層(A)の質量は、酸素吸収性能を十分に発揮させる観点から、10~50質量%が好ましく、20~40質量%が好ましく、25~35質量%が更に好ましい。
【0059】
上述のように、任意の2層間に接着層(層AD)を設けた場合、当該接着層の厚みは、実用的な接着強度を発揮しつつ成形加工性を確保するという観点から、好ましくは2~100μmであり、より好ましくは5~90μmであり、更に好ましくは10~80μmである。
【0060】
<ガスケット>
本実施形態のシリンジバレルは、好適なガスケットを組み合わせることで良好な気密性、液密性及び摺動性を発揮する。本実施形態のシリンジバレルには従来公知のガスケットを適宜選定して組み合わせることができる。
【0061】
本実施形態のシリンジバレルに好適に用いられる従来公知のガスケットとしては、例えば、ラミネートガスケットと呼ばれるゴム製ガスケットを用いることができる。不活性フィルムは摺動性に優れたものを用いることができ、ガスケットの表面にラミネートすることができる。ラミネートガスケットを用いることでゴム成分が薬液へ移行することを抑制し、かつ、摺動性を保持しつつシリコーン化合物量を削減することが可能となる。
【0062】
ガスケットの本体部分を構成するゴム複合体の原料となるゴムには、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等のニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴム又は1,2-ポリブタジエン等が使用される。
これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
<キャップ>
本実施形態におけるキャップは、シリンジバレルの注出部に装着される。前記キャップを構成する材料としては、酸素透過係数が300mL・mm/(m2・day・atm)以下であるものを用いるのが好ましい。さらに、キャップを構成する材料の酸素透過係数は200mL・mm/(m2・day・atm)以下が好ましく、150mL・mm/(m2・day・atm)以下がより好ましく、100mL・mm/(m2・day・atm)以下が特に好ましい。例えば、イソブチレンと少量のイソプレンの共重合体からなるブチルゴム、ブチルゴムをハロゲン化したブロモブチルゴムやクロロブチルゴムが挙げられ、ブロモブチルゴム、クロロブチルゴムが好ましい。シリンジバレルの注出部と接触する部分のキャップの厚みとしては、酸素バリア性能の観点から300~20000μmが好ましく、500~10000μmがより好ましく、1000~5000μmが特に好ましい。またシリンジバレルの注出部の開口部を覆う部分のキャップの厚みとしては、酸素バリア性能の観点から500~30000μmが好ましく、1000~20000μmがより好ましく、2000~10000μmが特に好ましい。
【0064】
<プランジャー>
本実施形態におけるプランジャーはガスケットに装着され、プランジャーを押圧することでガスケットを移動させる。前記プランジャーは一般的なシリンジに用いるプランジャーを使用でき、その構造及び材質に制限はない。
【0065】
<プレフィルドシリンジ>
プレフィルドシリンジの一態様としては、上述したシリンジバレル、ガスケット、キャップ及びプランジャーを備えたシリンジに薬液等を収容し、使用時にバレルの先端側を開封して注射針を装着するように構成された注射器(シリンジ)が挙げられる。
【0066】
《過酸化水素溶液を含む造影剤の保存方法》
本実施形態の過酸化水素溶液を含む造影剤を保存する方法は、上述のプレフィル用シリンジを用いる。プレフィル用シリンジに保存する過酸化水素溶液は、最終製剤の過酸化水素の含有量が0.01~3.5質量%であり、がん治療法のである放射線療法において、造影剤(放射線増感剤)として用いることができる。
【0067】
放射線増感剤として用いられる過酸化水素溶液は、注射局所の疼痛を緩和されるとともに過酸化水素を局所に長時間滞留させることを目的として、人体に注射可能なヒアルロン酸、又はその塩、ゼラチン、リポソーム、グリセオールなどを混合する。また、体内に注入できるものであればそのほかの物質であってもよい。
【0068】
過酸化水素溶液を収容したプレフィルドシリンジを保存する際の条件は、特に限定はなく、温度条件は25℃、35℃、45℃、又は60℃であってもよく、保存期間は1週間、2週間、3週間又は4週間であってもよく、4週間以上であってもよい。
【0069】
(滅菌処理)
本実施形態の保存方法においては、被保存物の充填前に、被保存物に適した形で、医療多層容器(プレフィル用シリンジを構成する各部材)や被保存物の滅菌を施すことができる。滅菌方法としては、100℃以下での熱水処理、100℃以上の加熱熱水処理、121℃以上の高温加熱滅菌、紫外線、マイクロ波、ガンマ線、電子等の電磁波滅菌、エチレンオキサイドなどのガス処理、過酸化水素や次亜塩素酸などの薬液滅菌などが挙げられる。
【実施例0070】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
<モノマーの合成例>
内容積18Lのオートクレーブに、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸ジメチル2.20kg、2-プロパノール11.0kg、5%パラジウムを活性炭に担持させた触媒350g(50質量%含水品)を仕込んだ。次いで、オートクレーブ内の空気を窒素と置換し、さらに窒素を水素と置換した後、オートクレーブ内の圧力が0.8mPaとなるまで水素を供給した。次に、撹拌機を起動し、回転速度を500rpmに調整し、30分間かけて内温を100℃まで上げた後、さらに水素を供給し圧力を1mPaとした。その後、反応の進行による圧力低下に応じ、1mPaを維持するよう水素の供給を続けた。7時間後に圧力低下が無くなったので、オートクレーブを冷却し、未反応の残存水素を放出した後、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液を濾過し、触媒を除去した後、分離濾液から2-プロパノールをエバポレーターで蒸発させた。得られた粗生成物に、2-プロパノールを4.40kg加え、再結晶により精製し、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルを80%の収率で得た。精製したテトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルの融点は77℃であった。尚、NMRの分析結果は下記の通りである。1H‐NMR(400mhz cdcl3)δ7.76-7.96(2H m)、7.15(1H d)、3.89(3H s)、3.70(3H s)、2.70-3.09(5H m)、2.19-2.26(1H m)、1.80-1.95(1H m)
【0072】
<ポリマー製造例>
充填塔式精留塔、分縮器、コールドラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えたポリエステル樹脂製造装置に、上述のモノマーの合成例で得られたテトラリン-2, 6-ジカルボン酸ジメチル543g、エチレングリコール217g、テトラブチルチタネート0.038g、及び酢酸亜鉛0.15gを仕込み、装置内の混合物を窒素雰囲気化で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転嫁率を90%以上とした後、昇温と減圧とを徐々に90分間かけて行い、さらに、275℃、133Pa以下で重縮合を1時間行い、テトラリン環含有ポリエステル化合物(以下、単に「ポリエステル化合物」とも称する。)を得た。
【0073】
得られたポリエステル化合物のガラス転移温度と融点とをDSC(示差走査熱量測定)により測定を行った結果、ガラス転移温度は69℃であり、融点は非晶性のため認められなかった。極限粘度は0.98dL/gであった。また、得られたポリエステル化合物のポリスチレン換算の重量平均分子量は2.8×104、数平均分子量は2.8×104であった。なお、極限粘度は以下に従って測定した。
<極限粘度の測定>
JIS K7367-5:2000「プラスチック-毛細管形粘度計を用いたポリマー希釈溶液の粘度の求め方-第5部:熱可塑性ポリエステル(TP)ホモポリマー及びコポリマー」に基づいて測定を実施した。具体的には、溶媒(フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン)及びポリマー0.005g/ml溶液の25℃における流下時間をJIS K7367-5:2000に記載の方法で測定し、これらの測定結果と適用したポリマー濃度に基づいて粘度数を計算した。
【0074】
<酸素吸収性樹脂組成物の製造例>
上述より得られたポリエステル化合物100質量部に対し、ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量が0.025質量部となるようドライブレンドして得られた混合物を、直径37mmのスクリューを2本有する2軸抽出機に15kg/hの速度で供給し、シリンダー温度290℃の条件にて溶融混錬を行い、押出機ヘッドからストランドを押し出し、冷却後、ペレタイジングすることにより、酸素吸収機能を有する酸素吸収性樹脂組成物を得た。得られた酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収速度は1.2mL/g/56dayであった。なお、酸素吸収速度は以下に従って測定した。
【0075】
<酸素吸収性樹脂の酸素吸収速度測定>
酸素吸収性樹脂組成物を用いて厚さ200μm、10cm四方の酸素吸収性樹脂製フィルムを作製し、アルミ箔積層フィルムからなるガスバリア袋を用い、袋内の温度を90%(RH:相対湿度)に調湿して、酸素吸収性樹脂製フィルム3枚を空気200mlと共に密封し、23℃下で保管した。保管開始から56日間のフィルム1g当たりの酸素吸収量を測定し、56日当たりの酸素吸収量を酸素吸収速度とした。
【0076】
<シリンジバレルの製造例>
下記の条件により、樹脂層(B)(層B)を構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで酸素吸収性樹脂層(A)(層A)を構成する材料を別の射出シリンダーから、層Bを構成する樹脂と同時に射出し、次に層Bを構成する樹脂を必要量射出して射出金型内キャビティ―を満たすことにより、B/A/Bの3層構成の射出成形体を製造した。その後、射出成形体を所定の温度まで冷却し、ブロー金型へ移行した後にブロー成形を行うことでシリンジバレルを製造した。層Aの質量をシリンジバレルの総質量の30質量%とした。また、層Aの厚さは45μm、各層Bの厚さは350μmであった。
層Bを構成する樹脂としてはシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、製品名:「ZEONEX(登録商標)5000」を使用した。層Aを構成する樹脂としては、上述の酸素吸収性樹脂組成物を使用した。
【0077】
(シリンジバレルの形状)
ISO11040-6に準拠した内容量1ml(Long)とした。なお、シリンジバレルの製造には、射出ブロー一体型成形機(日精エー・エス・ビー機械(株)製。型式:ASB12N/10T)を使用した。
【0078】
(シリンジバレルの成形条件)
・酸素吸収性樹脂層(A)(層A)用の射出シリンダー温度:260℃
・樹脂層(B)(層B)の射出シリンダー温度:260℃
・射出成形内樹脂流路温度:260℃
・金型温度:18℃
【0079】
<過酸化水素溶液の保存試験>
上述の製造例から得られた酸素吸収性樹脂層(A)及びシクロオレフィンポリマー(COP)製の樹脂層(B)を有する3層構造のシリンジバレル(実施例1)を使用して過酸化水素溶液の保存試験を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
(保存試験の内容)
過酸化水素濃度2.5~3.5%の過酸化水素溶液1mLをシリンジバレルに収容し、ストッパーを用いて封入した。ついで、暗所にて、及び、27Wの蛍光灯2本を光源とした光照射下60℃及び30日間保存した後のストッパーの移動距離を測定した。
【0081】
[比較例1]
シリンジバレルを容器の内面に、ケイ素、酸素、炭素、水素及びフッ素を含有するガラス製のシリンジとした以外は実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0082】
[比較例2]
シリンジバレルをシクロオレフィンポリマー(COP:日本ゼオン(株)製、製品名:「ZEONEX(登録商標)5000」)製単層のシリンジとした以外は実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0083】
[比較例3]
シリンジバレルをシクロオレフィンコポリマー(COC:三井化学(株)製、製品名「アペル(登録商標)」)製の単層のシリンジとした以外は実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、暗所、60℃環境下で30日間放置した結果、ガラス製シリンジ(比較例1)では0.75mm、COP製単層シリンジでは0.45mm(比較例2)、COC製単層シリンジ(比較例3)では0.53mm、酸素吸収性樹脂層(A)及びシクロオレフィンポリマー(COP)製の樹脂層(B)を有する3層構造のシリンジ(実施例1)では0mmのプランジャーの移動が確認された。
【0086】
以上の結果、実施例1のシリンジは、暗所における保存結果において、比較例1~3のシリンジ(ガラス製シリンジ、COP製単層シリンジ、COC製単層シリンジ)よりも過酸化水素の分解によるプランジャーの押出が抑制されていることが分かった。
【0087】
また、光照射、60℃環境下で30日間放置した結果、ガラス製シリンジ(比較例1)では0.90mm、COP製単層シリンジ(比較例2)では0.54mm、COC製単層シリンジ(比較例3)では0.63mm、酸素吸収性樹脂及びCOP製の3層シリンジ(実施例1)では0mmのプランジャーの押し戻しが確認された。
【0088】
比較例1~3においては暗所における保存結果と比較して光照射下での保存結果の移動距離が大きかったことから、これら比較例のシリンジにおいては紫外線による過酸化水素分解が促進されていることが示された。これに対し、実施例1のシリンジでは光照射下の保存結果においても押出距離は0mmであった。
以上の結果、酸素吸収性樹脂層(A)及びシクロオレフィンポリマー(COP)製の樹脂層(B)を有する3層構造のシリンジ(実施例1)は、比較例のシリンジ(ガラス製シリンジ、COP製単層シリンジ、COC製単層シリンジ)よりも過酸化水素の紫外線による分解を抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0089】
10… シリンジバレル、12…筒状本体、12A~12C…内面、14…注出部、16
…挿入部、20…ガスケット、30…プランジャー、40…キャップ、100… シリンジ
図1
図2