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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065805
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】熱処理治具
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/00 20060101AFI20220421BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20220421BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20220421BHJP
【FI】
C21D1/00 F
C21D9/00 A
C21D1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174522
(22)【出願日】2020-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596174341
【氏名又は名称】ミクニ機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高崎 典大
(72)【発明者】
【氏名】松下 博之
【テーマコード(参考)】
4K034
4K042
【Fターム(参考)】
4K034AA16
4K034BA10
4K034CA05
4K034DA02
4K034DA04
4K034DA06
4K034DB02
4K034DB03
4K034EA01
4K034EC06
4K034FA01
4K034FA06
4K034GA07
4K034GA08
4K042AA18
4K042AA23
4K042BA03
4K042DA06
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD05
4K042DE03
4K042DE05
4K042DE06
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】特殊な材料を必要とすることなく、優れた強度と耐久性とを有する熱処理治具を提供すること。
【解決手段】熱処理治具は、ベーストレイ10に立設される少なくとも2つの支柱部30と、隣接する支柱部30間を連結する少なくとも1つのビーム部40aと、支柱部30同士を連結させて、ワークWを保持するワーク保持部50と、を有し、ビーム部40aは、第1リブ部41と、第1リブ部41の上下の少なくとも一方に設けられ、第1リブ部41よりも幅が細く、第1リブ部41と連結柱43により接続される第2リブ部42と、を有し、第2リブ部42は、ビーム部40aが連結する一方の支柱部30と他方の支柱部30との間で断続的に形成される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーストレイに立設される少なくとも2つの支柱部と、
隣接する前記支柱部間を連結する少なくとも1つのビーム部と、
前記支柱部同士を連結させて、ワークを保持するワーク保持部と、を有し、
前記ビーム部は、
第1リブ部と、
前記第1リブ部の上下の少なくとも一方に設けられ、前記第1リブ部よりも幅が細く、前記第1リブ部と連結柱により接続される第2リブ部と、を有し、
前記第2リブ部は、前記ビーム部が連結する一方の前記支柱部と他方の前記支柱部との間で断続的に形成される熱処理治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理治具に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車やシャフト等の製造工程では、浸炭焼入れ等の各種熱処理が行われる。これらの被熱処理品に対して熱処理を行う場合、被熱処理品は熱処理治具に保持された状態で熱処理に供される。被熱処理品を保持する熱処理治具としては、例えば、トレイ、バスケット、ホルダー、グリッド、金網、立棒等が用いられる。熱処理治具には、被熱処理品を保持するための優れた強度と、熱処理に伴う熱応力及び変形に耐え得る耐久性と、が求められる。
【0003】
特許文献1には、C/Cコンポジットにより形成され、還元性または中性雰囲気、あるいは真空中での熱処理に用いられる熱処理用治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-123219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の熱処理用治具(熱処理治具)は、材料費が高価であるC/Cコンポジットを用いているため、高コストであるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、特殊な材料を必要とすることなく、優れた強度と耐久性とを有する熱処理治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態にかかる熱処理治具は、ベーストレイに立設される少なくとも2つの支柱部と、隣接する支柱部間を連結する少なくとも1つのビーム部と、支柱部同士を連結させて、ワークを保持するワーク保持部と、を有し、ビーム部は、第1リブ部と、第1リブ部の上下の少なくとも一方に設けられ、第1リブ部よりも幅が細く、第1リブ部と連結柱により接続される第2リブ部と、を有し、第2リブ部は、ビーム部が連結する一方の支柱部と他方の支柱部との間で断続的に形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、特殊な材料を必要とすることなく、優れた強度と耐久性とを有する熱処理治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1にかかる構成が組み込まれる熱処理治具の全体構成を示す写真である。
図2】実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成するベーストレイの上面図である。
図3】実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成する支柱ユニットの正面図である。
図4】実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成する支柱ユニットの上面図である。
図5】実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成する支柱ユニットの側面図である。
図6】実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成するワーク保持部の正面図である。
図7】実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成するワーク保持部の上面図である。
図8】実施例のビーム部を示す図である。
図9図8のII-II線に沿う側面断面図である。
図10】比較例のビーム部を示す図である。
図11】参考例1のビーム部を示す図である。
図12】参考例2のビーム部を示す図である。
図13】参考例3のビーム部を示す図である。
図14】実施の形態1にかかる熱処理治具を用いた熱処理条件を示す図である。
図15】実施の形態1にかかる熱処理治具に生じる主応力の計算結果を示す図である。
図16】実施の形態1にかかる熱処理治具の交差部に生じる主応力差を比較したグラフである。
図17】実施の形態1にかかる熱処理治具のビーム部における変形量差を説明する図である。
図18】実施の形態1にかかる熱処理治具のビーム部における変形量差を比較したグラフである。
図19】主応力差及び変形量差の増減率を示す図である。
図20】比較例の熱処理治具にクラックが発生した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。なお、以下の説明では、ビーム部の延在方向をX方向とし、X方向に直交する方向であって、ビーム部の幅方向をY方向とし、X方向及びY方向に直交する方向であって、ビーム部の高さ方向をZ方向とする。
【0011】
まず、図1を参照して、本実施形態にかかる熱処理治具の基本構成を説明する。本実施形態では、トランスミッション用歯車等の円環形状の複数のワーク(被熱処理品)を熱処理する場合に用いられる熱処理治具を例として説明する。図1は、実施の形態1にかかる構成が組み込まれる熱処理治具の全体構成を示す写真である。図1は、比較例にかかる構成を含む場合の熱処理治具の全体構成を示している。図1に示すように、熱処理治具は、ワークWの軸心を水平方向に配置して保持する治具であり、ステンレス鋼や耐熱鋳鋼を用いて製造される。熱処理治具は、ベーストレイ10と、支柱ユニット20と、ワーク保持部50と、により構成される。以下に説明する実施例、比較例、参考例1~3の構成がそれぞれ組み込まれる各熱処理治具は、それぞれ支柱ユニット20の一部の形状が異なるものである。
【0012】
図2図7を参照して本実施形態にかかる熱処理治具について説明する。初めに、図2は、実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成するベーストレイの上面図である。図2に示すベーストレイ10は、平板状のベース部材に対してZ方向に貫通する複数の空隙を設けた網目構造を有し、雰囲気ガスや焼入媒体が流通可能に構成される。ベーストレイ10は、XY面に沿う略長方形の外枠11と、外枠11の内部を略正方形の網目状に組んだ補助枠12と、を有する。また、補助枠12の各正方形の各頂点位置には、Z方向に貫通する略円形の係合孔13が形成される。さらに、係合孔13は、外枠11の長方形の各頂点位置と、X方向に存在する外枠11及び補助枠12の交点位置と、外枠11のY方向に沿う各辺の中央部分において補助枠12との交点位置と、に形成される。
【0013】
次に、図3図5を参照して、支柱ユニット20について説明する。図3は、実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成する支柱ユニットの正面図である。図4は、実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成する支柱ユニットの上面図である。図5は、実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成する支柱ユニットの側面図である。
【0014】
本実施形態において、支柱ユニット20は、ベーストレイ10に立設される少なくとも2つの支柱部30と、隣接する支柱部30間を連結する少なくとも1つのビーム部40と、を有する。さらに、支柱ユニット20は、底部21と、係合部25と、を有する。支柱ユニット20は、3つの支柱部30がX方向においてそれぞれ所定間隔離間して配置される。そして、隣接する2つの支柱部30間には、3つのビーム部40がZ方向においてそれぞれ所定間隔離間して配置される。すなわち、本実施形態では、3つの支柱部30に対して6つのビーム部40が形成される。
【0015】
まず、支柱ユニット20を構成する支柱部30について説明する。図5に示すように、支柱部30は、支柱本体31と、複数のアーム32と、を有する。支柱本体31は、平板状部材に対してX方向に貫通する複数の空隙33を設けた網目構造を有する。本実施形態では、YZ面に沿う略長方形をなす支柱本体31のY方向に略正方形の2つの空隙33が並設され、当該2つの空隙33を1組としてZ方向に6組の空隙33が並設される。このような構成により、支柱本体31には、Z方向に延在する端部34、36及び中央部35が形成される。また、支柱本体31のY方向に沿う下端は、支柱ユニット20の底部21に接続される。
【0016】
アーム32は、支柱本体31の端部34、36からY方向に左右対称に突出形成され、後述するワーク保持部50を支持するものである。図5に示すアーム32は、支柱本体31に対して左右対称に2つの略U字形のアーム32が形成される。当該2つの略U字形のアーム32のそれぞれの両端は支柱本体31の端部34、36に接続される。また、当該2つの略U字形のアーム32のY方向に沿う下端は支柱ユニット20の底部21に接続される。当該2つの略U字形のアーム32は、その下端と対向してY方向に沿って延びる上端によって、ワーク保持部50を支持する。
【0017】
さらに、当該2つの略U字形のアーム32の上側に支柱本体31に対して左右対称に形成された2つの略三角形状のアーム32が形成される。当該2つの略三角形状のアーム32の一辺は支柱本体31の端部34、36に接続される。当該2つの略三角形状のアーム32は、支柱本体31に接続される一辺と直交するとともに、Y方向に沿って延びる上端によってワーク保持部50を支持する。
【0018】
このように、1つの支柱部30に対して4つのアーム32が設けられる。各支柱部30に設けられたアーム32は、上下のそれぞれの位置においてX方向に平行に配置され、X方向において隣接する2つのアーム32間はワークWの保持空間である。各アーム32の上端面に形成される2つの凸部32aは、後述するワーク保持部50をアーム32に設置した際に、ワーク保持部50のY方向への移動を規制するものである。なお、図5において破線で示す部分にビーム部40が設けられる。
【0019】
続いて、支柱ユニット20を構成するビーム部40について説明する。図3は、実施例にかかる構成を含む支柱ユニット20を示している。なお、以下の説明では、説明の便宜上、複数存在する支柱本体31に対して、それぞれを区別する場合には、個別の符号を用いて具体例を説明する。図3においては、各支柱本体31に対して31a~31cの符号を付している。
【0020】
ビーム部40の詳細な形状については、実施例、比較例、及び参考例1~3を挙げて後述する。後述する実施例、比較例、及び参考例1~3は、それぞれビーム部40の形状が異なるものであるが、ビーム部40がX方向に延在し、隣接する支柱部30間を連結するように架設される点は共通している。また、ビーム部40は、支柱本体31の中央部35における編目の交点付近からX方向に突出し、隣接する一方の支柱本体31から他方の支柱本体31に向けて延設されるものである。
【0021】
続いて、支柱ユニット20を構成する底部21について説明する。図4に示すように、底部21は、平板状部材に対してZ方向に貫通する複数の空隙24を設けた網目構造を有する。底部21は、XY面に沿う略長方形の外枠22と、外枠22の内部を略長方形の網目状に組んだ補助枠23と、を有する。例えば、底部21には、4つの空隙24が設けられ、補助枠23は十字に組まれる。そして、外枠22のY方向に沿う2つの辺及び補助枠23のY方向に沿う辺の3箇所に、それぞれ支柱部30が立設される。また、補助枠23のX方向に沿う辺とビーム部40とは、X方向において互いに重なるように配置される。このような構成により、底部21は、熱処理治具において外側に配置される支柱部30が熱処理治具の外側方向に広がって変形することを防止する機能を果たす。なお、図5において破線で示す部分に係合部25が設けられる。
【0022】
続いて、支柱ユニット20を構成する係合部25について説明する。係合部25は、ベーストレイ10の係合孔13と係合可能な円筒形状に形成される。支柱ユニット20の係合部25とベーストレイ10の係合孔13とが係合することにより、ベーストレイ10に支柱部30が立設される。図3図5に示すように、係合部25は、支柱部30が設けられる底部21の上端面と反対側の底部21の下端面から突出形成される。係合部25は、各支柱部30の配設位置と対応する底部21のY方向に沿う辺に設けられ、ベーストレイ10のいずれかの係合孔13と一致して係合可能に構成される。例えば、図5において、係合部25は、支柱本体31の端部34及び端部36に対応する位置において各2つの係合部25が互いに離隔して設けられる。
【0023】
次に、図6及び図7を参照して、ワーク保持部50について説明する。図6は、実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成するワーク保持部の正面図である。図7は、実施の形態1にかかる熱処理用治具を構成するワーク保持部の上面図である。
【0024】
ワーク保持部50は、ワークWの軸方向に存在する軸孔に挿入された状態で、X方向において隣接する一対のアーム32に設置されることにより、隣接する支柱部30同士を連結させて、熱処理治具にワークWを保持するものである。図6及び図7に示すように、ワーク保持部50は、細長い板状部材が略U字状に成形されたワーク保持部本体51と、ワーク保持部本体51から突出する2つの掛止部56と、を有する。ワーク保持部本体51は、XZ面に沿ってX方向に長い略長方形に形成される2つの挿入部52がY方向に並設され、当該2つの挿入部52間はY方向に延びる補助部53により連結される。
【0025】
挿入部52の上下端にはZ方向に切り欠かれた複数の溝54aが所定間隔離間して上下対称に形成され、先端側には、溝54aよりもX方向の長さが大きく切り欠かれた溝54bが上下対称に形成される。2つの挿入部52の基端側を繋ぐ部分は、ワーク係止部55である。ワーク保持部50をワークWに装着する際には、ワーク保持部本体51(挿入部52)の先端側をワークWに挿入し、ワーク係止部55によりワークWの軸方向の移動を規制するように構成される。
【0026】
また、掛止部56は、ワーク係止部55からX方向に沿ってワーク保持部本体51の外側方向に突出形成され、XZ面に沿う略長方形の板状部材の上下端にZ方向に切り欠かれた溝54cが上下対称に形成される。溝54cは溝54aよりもX方向の長さが大きく切り欠かれている。ワーク保持部50は、各アーム32の2つの凸部32a間、並びに、支柱本体31側の凸部32aと支柱本体31との間に、上下どちらか一方の溝54b、54cを嵌めることにより、アーム32に引っ掛かるように設置される。
【0027】
2つの掛止部56のY方向の離間距離は、2つの挿入部52のY方向の離間距離と比べて狭く構成される。そのため、支柱ユニット20に対して複数のワーク保持部50をX方向に連続して設置する場合にも、一方のワーク保持部50の挿入部52と他方のワーク保持部50の掛止部56とが、1つのアーム32において互いに干渉することなく設置することができる。
【0028】
次に、図8図13を参照して、実施例、比較例、及び参考例1~3の各ビーム部40a~40eの詳細な形状について説明する。本実施形態では、3つの支柱本体31a、31b、31cに対して6つのビーム部40が形成されるが、6つのビーム部40は同一形状、又は3つの支柱本体31a、31b、31cの中央に配置される支柱本体31bを挟んで対称的な形状を有する。そのため、以下の説明では、互いに隣接する支柱本体31aと支柱本体31bとの間に設けられる1つのビーム部40を例として、その形状を説明する。
【0029】
(実施例)
図8及び図9に示すように、実施例のビーム部40aは、X方向に延在し、隣接する支柱部30間(支柱本体31aと支柱本体31bとの間)を連結するように架設される。また、ビーム部40aは、第1リブ部41と、第1リブ部41の上下の少なくとも一方に設けられ、第1リブ部41よりも幅が細く、第1リブ部41と連結柱43により接続される第2リブ部42と、を有する。さらに、第2リブ部42は、ビーム部40aが連結する一方の支柱部30と他方の支柱部30との間で断続的に形成される。
【0030】
なお、説明の便宜上、複数存在するもの(第2リブ部42、及び連結柱43)に対して、それぞれを区別する場合には、個別の符号を用いて具体例を説明する。図9においては、各第2リブ部42に対して42a~42g、各連結柱43に対して43a~43hの符号を付している。
【0031】
ここで、図3及び図5に示すように、第1リブ部41は、支柱本体31の中央部35における編目の交点付近からX方向に突出し、隣接する一方の支柱本体31から他方の支柱本体31に向けて連続的に延びる部分である。また、第1リブ部41のY方向の幅は、支柱本体31の中央部35のY方向の幅より少し細く形成される。
【0032】
図8及び図9に示すように、第2リブ部42は、第1リブ部41とZ方向に所定間隔離間した位置に、第1リブ部41と平行をなして設けられる。第2リブ部42のY方向の幅は、第1リブ部41のY方向の幅より細く構成される。また、第2リブ部42は、X方向に沿った所定の位置に部分的に形成される。すなわち、第2リブ部42は、隣接する支柱部30間においてX方向に沿って断続的に形成される部分である。そして、第1リブ部41と第2リブ部42とは、X方向の所定の位置にそれぞれ離間して形成されてZ方向に延びる複数の連結柱43により接続される。
【0033】
本実施例では、第1リブ部41の上側には、それぞれ離間した3つの第2リブ部42a、42b、42cが形成される。当該3つの第2リブ部42a、42b、42cのうち、2つの第2リブ部42a、42cにおいては、第2リブ部42aの一端が支柱本体31aの中央部35に接続され、第2リブ部42cの一端が支柱本体31bの中央部35に接続される。第2リブ部42aの他端は支柱本体31aの近傍に設けられた連結柱43aに接続され、第2リブ部42cの他端は支柱本体31bの近傍に設けられた連結柱43dに接続される。第1リブ部41の上側に形成される残り1つの第2リブ部42bは、2つの第2リブ部42a、42cの間に配置され、その両端は対応するそれぞれの連結柱43b、43cにより第1リブ部41と接続される。
【0034】
一方、第1リブ部41の下側には、1つの連結柱43を介して連続した2つの第2リブ部を1組として、2組の第2リブ部(42d及び42eの1組、並びに、42f及び42gの1組)が互いに離間して形成される。2組の第2リブ部のうち、第2リブ部42dの一端は支柱本体31aの中央部35に接続され、第2リブ部42gの一端は支柱本体31bの中央部35に接続される。また、第2リブ部42dの他端は連結柱43eに接続され、第2リブ部42gの他端は連結柱43hに接続される。そして、第2リブ部42eの両端は、対応するそれぞれの連結柱43e、43fに接続され、第2リブ部42fの両端は、対応するそれぞれの連結柱43g、43hに接続される。
【0035】
例えば、1つの第1リブ部41の寸法は、X方向:249.5mm、Y方向:30mm、Z方向:7mmである。また、1つの連結柱43の寸法は、X方向:8mm、Y方向:9mm、Z方向:21.5mmである。そして、連結柱43aは、一方の支柱本体31aからX方向に37.5mmの間隔を空けて設けられ、この連結柱43aから他方の支柱本体31bに向かって45mmピッチで3つの連結柱43b~43dが設けられる。連結柱43は、第1リブ部41の上下に対称的に設けられるため、第1リブ部41の上側に設けられる連結柱43a~43dと同様の間隔で、連結柱43e~43hが第1リブ部41の下側に設けられる。
【0036】
第2リブ部42は、X方向:37.5mm、Y方向:9mm、Z方向:9mmの寸法を有する第2リブ部42a、42dが一方の支柱本体31aに接続されるとともに、第1リブ部41の上下に対称的に設けられる。そして、その他の第2リブ部42b~42c、42e~42gの寸法は、X方向:45mm、Y方向:9mm、Z方向:9mmであり、第1リブ部41の上下において、第2リブ部42a、42dのそれぞれから他方の支柱本体31bに向かうX方向に沿って断続的に設けられる。なお、支柱本体31及び第2リブ部42、連結柱43及び第1リブ部41、並びに、連結柱43及び第2リブ部42が交差する部分は、それぞれ所定の曲率半径で曲がる曲面形状を有する。
【0037】
以上、実施例のビーム部40aの具体的な形状について説明したが、当該ビーム部40aの形状は上記に限定されるものではない。例えば、第2リブ部42が形成されるパターンは、第2リブ部42b、42e、42fのように、第1リブ部41の上側又は下側の少なくとも一方に設けられればよく、第2リブ部42の一部は、第2リブ部42a、42d、並びに、第2リブ部42c、42gのように、第1リブ部41の上下に共に設けられてもよい。第2リブ部42が形成されるパターンやビーム部40aを構成する各部の形状及び配置は、熱処理治具の強度、重量、熱処理の効率等を考慮して、適宜設計されるものである。
【0038】
(比較例)
図10を参照して、比較例のビーム部40bの形状について説明する。図10は、比較例のビーム部を示す図である。比較例のビーム部40bは、第2リブ部の形成パターンが異なることを除いて、実施例のビーム部40aと同様の構成である。ビーム部40bは、ビーム部40aと同様に、隣接する一方の支柱本体31から他方の支柱本体31に向けて連続的に延びる第1リブ部41と、X方向の所定の位置にそれぞれ離間して形成されるとともに、Z方向に延びる複数の連結柱43a~43hと、を有する。
【0039】
一方、ビーム部40bにおいては、第1リブ部41とZ方向に所定間隔離間した位置に、第1リブ部41と平行に設けられる第2リブ部44a、44bが、隣接する支柱部30間に連続的に形成された形状を有する。すなわち、ビーム部40bは、Y方向に貫通する空隙が第1リブ部41の上下に5つずつX方向に並設された網目状に形成される。このように構成される比較例のビーム部40bは、後述する参考例1~3のビーム部40c~40eと比べて、剛性を確保しつつ、軽量化された構造である。
【0040】
(参考例1)
図11を参照して、参考例1のビーム部40cの形状について説明する。図11は、参考例1のビーム部を示す図である。図11に示すように、ビーム部40cは、隣接する一方の支柱本体31から他方の支柱本体31に向けて連続的に延び、XZ面に沿って広がる板状を呈している。また、Y方向に切り欠かれた複数の溝がX方向に離間して並設される。したがって、ビーム部40cには、X方向に沿って、厚肉部45aと当該溝に対応する薄肉部45bとが交互に形成される。ビーム部40cの両端に存在する厚肉部45aは、隣接する2つの支柱本体31のそれぞれの中央部35と接続される。ビーム部40cにおけるXYZの3方向の外形寸法は、実施例のビーム部40aのXYZの3方向の外形寸法と同一に構成される。
【0041】
(参考例2)
図12を参照して、参考例2のビーム部40dの形状について説明する。図12は、参考例2のビーム部を示す図である。図12に示すように、参考例2のビーム部40dは、参考例1のビーム部40cの薄肉部45bに対してY方向に貫通する略正方形の空隙46が設けられた形状を有し、その他は参考例1のビーム部40cと同様の構成である。
【0042】
(参考例3)
図13を参照して、参考例3のビーム部40eの形状について説明する。図13は、参考例3のビーム部を示す図である。図13に示すように、ビーム部40eは、隣接する一方の支柱本体31から他方の支柱本体31に向けて連続的に延び、四角柱状を呈している。ビーム部40eにおけるXYの2方向の外形寸法は、実施例のビーム部40aのXYの2方向の外形寸法と同一に構成される。参考例3のビーム部40eは、他のビーム部40a~40dよりもZ方向の外形寸法が短く構成される。
【0043】
上記の実施例、比較例及び参考例1~3の各ビーム部40a~40eをそれぞれ備えた5種類の熱処理治具にワークWをセットした状態で浸炭炉に装入し、図14に示す熱処理条件下で浸炭処理を行った。図14は、実施の形態1にかかる熱処理治具を用いた熱処理条件を示す図である。図14に示すように、本実施形態に適用した浸炭処理は、ステップS1の加熱工程、ステップS2の浸炭工程、ステップS3の焼入れ工程、及び、ステップS4の空冷工程を有する。
【0044】
各工程の操作は、常温の浸炭炉内を加熱して4320~5280秒間で950℃に到達させ(ステップS1)、950℃の温度でT1~T2の10800~13200秒間加熱保持して浸炭を施した(ステップS2)。その後、油冷によりT2~T3の240秒間で130℃まで降温し(ステップS3)、さらに、T3~T4の500秒間で常温の20℃まで空冷した(ステップS4)。そして、浸炭処理を施した5種類の熱処理治具において、温度変化に伴う応力及び変形量を調査した。
【0045】
次に、図15及び図16を参照して、各熱処理治具に生じる主応力について説明する。図15は、実施の形態1にかかる熱処理治具に生じる主応力の計算結果を示す図である。図16は、実施の形態1にかかる熱処理治具の交差部に生じる主応力差を比較したグラフである。図15及び図16は、図14に示した熱処理条件において、加熱により950℃に到達する昇温完了時に生じる主応力差と、冷却により20℃に至る冷却完了時に生じる主応力差と、を示している。また、図15に示すように、主応力の発生部位は、支柱本体31と各ビーム部40a~40eとが接続される交差部60である。図15及び図16に記載される数値は、交差部60に生じる最大主応力と最小主応力との差分を主応力差として算出して示している。最大主応力は、主にプラスの値を示し、引張応力を表す。一方、最小主応力は、主にマイナスの値を示し、圧縮応力を表す。従って、ある一点での最大主応力と最小主応力との差(主応力差)が大きいほど、その点周辺でクラック等の不具合が発生しやすい。
【0046】
このように算出した主応力差は、比較例では、昇温完了時の主応力差が206MPa、冷却完了時の主応力差が300MPaであった。実施例では、昇温完了時の主応力差が102MPa、冷却完了時の主応力差が292MPaであった。参考例1では、昇温完了時の主応力差が190MPa、冷却完了時の主応力差が680MPaであった。参考例2では、昇温完了時の主応力差が177MPa、冷却完了時の主応力差が655MPaであった。参考例3では、昇温完了時の主応力差が120MPa、冷却完了時の主応力差が414MPaであった。
【0047】
次に、図17及び図18を参照して、各ビーム部40a~40eの変形量について説明する。図17は、実施の形態1にかかる熱処理治具のビーム部における変形量差を説明する図である。図18は、実施の形態1にかかる熱処理治具のビーム部における変形量差を比較したグラフである。図17に示すように、浸炭処理を施したビーム部40には、浸炭処理の温度変化に応じた熱膨張により、歪みが生じる。そこで、各ビーム部40a~40eのZ方向に沿う高さについて、最大値δ2と最小値δ1との差分を変形量差として算出した。このように算出した変形量差は、比較例では0.065mm、実施例では0.047mm、参考例1では0.118mm、参考例2では0.124mm、参考例3では0.063mmであった。
【0048】
次に、図19を参照して、上記のように得られた主応力差及び変形量差の値について、比較例を基準として実施例、比較例、及び参考例1~3を比較した結果を説明する。図19は、主応力差及び変形量差の増減率を示す図である。
【0049】
昇温完了時に生じる主応力差は、実施例及び参考例1~3の全てが比較例よりも低い値であった。昇温完了時に比較例のビーム部40bに生じる主応力差を基準(ゼロ)として、比較例に対する増減率を比べた場合、実施例では最も減少幅が大きく50%減少し、参考例1では8%減少し、参考例2では14%減少し、参考例3では42%減少した。
【0050】
一方、冷却完了時に生じる主応力差は、実施例は比較例よりも低い値であったが、参考例1~3は比較例よりも高い値であった。冷却完了時に比較例のビーム部40bに生じる主応力差を基準(ゼロ)として、比較例に対する増減率を比べた場合、実施例では3%減少し、参考例1では127%増加し、参考例2では118%増加し、参考例3では38%増加した。
【0051】
さらに、変形量差は、実施例及び参考例3は比較例よりも小さい値であったが、参考例1及び参考例2は比較例よりも大きい値であった。比較例のビーム部40bにおける変形量差を基準(ゼロ)として増減率を比べた場合、実施例では最も減少幅が大きく28%減少し、参考例3では僅かに3%の減少であった。また、参考例1では82%増加し、参考例2では91%増加した。
【0052】
ここで、熱処理治具に強度及び耐久性を付与するための梁構造を設ける場合には、単に四角柱状を呈した参考例3のビーム部40eの形状が考えられる。しかし、ビーム部40eの形状では大型化するため、ビーム部40eとビーム部40eが接続される支柱本体31との体積差が大きくなる。この体積差が大きいと、昇温に際してビーム部40eと支柱本体31との温度差が大きくなるとともに、ビーム部40eの膨張量が大きくなる。さらに、昇温及び冷却に際して交差部60に生じる熱応力も大きくなり、この熱応力が降伏応力を超えることとなる。その結果、このようなビーム部40eには、熱による変形やクラック等の不具合が生じやすい。
【0053】
そこで、この体積差を低減するために、ビーム部40の体積を小さくする各種の形状が考えられ得る。しかしながら、例えば、熱処理治具に比較例のビーム部40bの形状を備えた場合でも、依然としてビーム部40bの体積が大きく、交差部60にクラック等の不具合が生じる場合が多い。図20は、比較例の熱処理治具にクラックが発生した様子を示す図である。図20では、ビーム部40bの第2リブ部44aにおける接続端(交差部60周辺)にクラックCが発生している。
【0054】
一方、実施例1のビーム部40aは、比較例のビーム部40bよりもさらに軽量化されるとともに、体積が小さくなっている。つまり、ビーム部40aとビーム部40aが接続される支柱本体31との体積差が小さく構成される。このような構成によれば、昇温に際してビーム部40aと支柱本体31との温度差が低減されるとともに、ビーム部40aの膨張量が低減する。さらに、昇温及び冷却に際して交差部60に生じる熱応力も小さくなる。
【0055】
さらに、比較例のビーム部40bを備えた熱処理治具及び実施例のビーム部40aを備えた熱処理治具に対して、図14に示す熱処理条件下における浸炭処理を複数サイクル行い、クラックCが発生するまでの治具寿命を比較した。その結果、比較例のビーム部40bは、99サイクル目の浸炭処理で図20に示したようにクラックCが発生した。これに対し、実施例のビーム部40aは137サイクル目の浸炭処理まで治具寿命を延長することができた。このように、熱処理治具の変形やクラックC等の不具合が発生しやすい箇所に生じる熱応力と熱による膨張とを低減することは、熱処理治具の強度及び耐久性を向上させるために有効である。
【0056】
以上説明したように、本実施形態にかかる熱処理治具は、ベーストレイ10に立設される支柱部30間にワークWを保持するものであり、隣接する支柱部30間に少なくとも1つのビーム部40aが設けられることにより、熱処理治具に強度が付与される。そして、ビーム部40aは、隣接する一方の支柱部30から他方の支柱部30に向けて連続的に形成される第1リブ部41を有する。さらに、ビーム部40aは、一方の支柱部30と他方の支柱部30との間で断続的に形成される第2リブ部42を有する。第2リブ部42は、第1リブ部41の上下の少なくとも一方に設けられ、連結柱43を介して第1リブ部41と接続される。そして、第2リブ部42の幅は、第1リブ部41の幅より細く構成される。
【0057】
このように、ビーム部が断続的に形成されるリブ構造を有し、所望の強度を満たす構成とすることにより、ビーム部の強度を確保しながらビーム部の体積を低減することができる。これにより、ビーム部とビーム部が接続される支柱部との体積差が小さくなるため、加熱による部材の膨張を抑制し、クラック等が発生しやすい箇所に生じる熱応力に伴う主応力差を低減できる。したがって、熱による変形やクラック等の不具合の発生を抑制し、熱処理治具の強度及び耐久性を向上させて、治具寿命を延長することができる。
【0058】
例えば、特許文献1のように、気孔を多く含む多孔性材料であるC/Cコンポジットを用いて熱処理治具を形成した場合、熱処理後のワークを熱処理治具と共に油に浸漬させて急冷させると、C/Cの気孔内に油が浸透して残留する。そして、油が残留した熱処理治具を次のサイクルに使用すると、熱処理中に油が炭化して製品へ異物付着等の悪影響を及ぼすことがあるという問題があった。
【0059】
これに対し、本実施形態にかかる熱処理治具では、C/Cコンポジットのように特殊で高価な材料を用いることにより生じる上記のような問題もなく、形状の工夫によって熱処理治具の強度と耐久性とを向上することができる。また、表面処理等の追加の加工も必要としない。本実施形態にかかる熱処理治具によれば、熱処理治具の剛性に加え、熱処理治具に生じる熱応力も考慮してその形状を設計することにより、熱処理治具の治具寿命を向上することができる。
【0060】
10 ベーストレイ
11 外枠
12 補助枠
13 係合孔
20 支柱ユニット
21 底部
22 外枠
23 補助枠
24、33、46 空隙
25 係合部
30 支柱部
31、31a、31b、31c 支柱本体
32 アーム
32a 凸部
34、36 端部
35 中央部
40、40a、40b、40c、40d、40e ビーム部
41 第1リブ部
42、42a、42b、42c、42d、42e、42f、42g 第2リブ部
43、43a、43b、43c、43d、43e、43g、43h 連結柱
44a、44b 第2リブ部
45a 厚肉部
45b 薄肉部
50 ワーク保持部
51 ワーク保持部本体
52 挿入部
53 補助部
54a、54b、54c 溝
55 ワーク係止部
56 掛止部
60 交差部
C クラック
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
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図11
図12
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