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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065967
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】電磁遮蔽シート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20220421BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20220421BHJP
【FI】
H05K9/00 M
C01B32/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174813
(22)【出願日】2020-10-16
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】井上 翼
(72)【発明者】
【氏名】知久 典和
【テーマコード(参考)】
4G146
5E321
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB05
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AC19B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AD08
4G146AD17
4G146AD21
4G146AD40
4G146BA04
4G146BA42
4G146CB03
4G146CB05
4G146CB11
4G146CB19
4G146CB35
5E321AA01
5E321BB21
5E321BB34
5E321BB44
5E321GG11
(57)【要約】
【課題】CNTの持つ電気伝導性、熱伝導性等の特徴を活かした電磁遮蔽シートを提供する。
【解決手段】シート状CNT連続体を備える導電層が絶縁層によりサンドイッチされた構造を有する電磁遮蔽シートであって、1cm2あたりのCNT使用量である単位CNT使用量が0.3mg以下であり、前記単位CNT使用量は0.02mg以上0.15mg以下であってもよく、前記シート状CNT連続体に含まれるCNTは、前記シート状CNT連続体の面内方向に沿って延在する構造を有していてもよい。
【選択図】 図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状CNT連続体を備える導電層が絶縁層によりサンドイッチされた構造を有する電磁遮蔽シートであって、1cm2あたりのCNT使用量である単位CNT使用量が0.3mg以下であることを特徴とする電磁遮蔽シート。
【請求項2】
前記単位CNT使用量が0.02mg以上である、請求項1に記載の電磁遮蔽シート。
【請求項3】
前記単位CNT使用量が0.15mg以下である、請求項1または請求項2に記載の電磁遮蔽シート。
【請求項4】
前記CNTはその全体が前記絶縁層により覆われている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電磁遮蔽シート。
【請求項5】
前記シート状CNT連続体に含まれる前記CNTは、前記シート状CNT連続体の面内方向に沿って延在する構造を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電磁遮蔽シート。
【請求項6】
前記シート状CNT連続体に含まれる前記CNTの長軸方向長さは、導電層の厚さよりも長い、請求項5に記載の電磁遮蔽シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁遮蔽シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信技術ではデータ通信料の増加に伴い、例えば、無線LAN(2~6GHz)、Bluetooth(登録商標)(2.4GHz)、携帯電話(0.8~3GHz)というように、無線通信の高周波数化が進んでいる。この高周波数の電磁波による電子機器の誤動作(電磁干渉、EMI)を防止するため、電子機器内の電磁波遮蔽(電磁波シールド)の技術が重要になっている。
【0003】
従来は金属板による電磁波遮蔽が一般的であるが、金属板は重い、柔軟性がない、腐食する、等の問題があり、また小型の電子機器への組み込みにも難がある。また、金属板は電磁波の反射率が高く吸収率が低いため、金属板で反射した電磁波が別の障害を起こす問題がある。
【0004】
金属板の電磁波遮蔽の問題を解決するものとして、非金属の材料が使われるようになってきており、樹脂材料に導電性フィラー(カーボン系材料)を配合した複合材料の開発が盛んにおこなわれている。このカーボン系材料のフィラーを用いた電磁波遮蔽は金属板よりも遮蔽効果は劣るが、小型化やフレキシブル化がしやすい効果がある。
【0005】
カーボンナノチューブ(CNT)は、長軸方向に高い電気伝導性、熱伝導性を持ち、機械的性質も優れているが、一般的に市販されているCNTは粉末状の材料である。この粉末状のCNTを使用する場合には、液体媒体に分散させ塗布等を行うこと(例えば特許文献1)、樹脂に混入し成形することなどが一般的である。CNTが樹脂に分散してなる電磁遮蔽シートについて、遠方界における磁気遮蔽効果(EMI-SE)が測定された結果が、非特許文献1から非特許文献5に開示されている。
【0006】
本明細書において、「CNTフォレスト」とは、複数のCNTの合成構造(以下、かかる合成構造を与えるCNTの個々の形状を「一次構造」といい、上記の合成構造を「二次構造」ともいう。)の一種であって、複数のCNTが長軸方向の少なくとも一部について一定の方向(具体的な一例として、基板が備える面の1つの法線にほぼ平行な方向が挙げられる。)に配向するように成長してなるCNTの集合体を意味する。
【0007】
また、本明細書において、CNTフォレストの一部のCNTをつまみ、そのCNTをCNTフォレストから離間するように引っ張ることによって、CNTフォレストから複数のCNTを連続的に引き出すこと(本明細書において、この作業を従来技術に係る繊維から糸を製造する作業に倣って「紡績」ともいう。)によって形成される、複数のCNTが互いにつながった構造を有する構造体を「CNT連続体」という。特許文献2には、複数のCNTが連続してウェブ状の全体形状を有する二次構造(本明細書においてこの二次構造を「CNTウェブ」という。)について開示がある。CNTウェブを構成するCNTは、CNTウェブの面内方向の一つ(紡績方向に相当する。)に沿って配向している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-82610号公報
【特許文献2】特許第5664832号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M H Al-Saleh, W H Saadeh, U Sundararaj, EMI shielding effectiveness of carbon based nanostructured polymeric materials: a comparative study, Carbon N. Y. 60 (2013) 146?156, doi:10.1016/j.carbon.2013.04.008.
【非特許文献2】Z Liu, G Bai, Y Huang, Y Ma, F Du, F Li, T Guo, Y Chen, Reflection and absorption contributions to the electromagnetic interference shielding of single-walled carbon nanotube/polyurethane composites, Carbon N. Y 45 (2007) 821?827, doi:10.1016/j.carbon.2006.11.020.
【非特許文献3】W C Yu, J Z Xu, Z G Wang, Y F Huang, H M Yin, L Xu, Y W Chen, D X Yan, Z M Li, Constructing highly oriented segregated structure towards high-strength carbon nanotube/ultrahigh-molecular-weight polyethylene composites for electromagnetic interference shielding, Compos. Part A Appl. Sci. Manuf. 110 (2018) 237?245, doi:10.1016/j.compositesa.2018.05.004.
【非特許文献4】W C Yu, G Q Zhang, Y H Liu, L Xu, D X Yan, H D Huang, J H Tang, J Z Xu, Z M Li, Selective electromagnetic interference shielding performance and superior mechanical strength of conductive polymer composites with oriented segregated conductive networks, Chem. Eng. J. 373 (2019) 556564, doi:10.1016/j.cej.2019.05.074.
【非特許文献5】S Teotia, B P Singh, I Elizabeth, V N Singh, R Ravikumar, A P Singh, S Gopukumar, S K Dhawan, A Srivastava, R B Mathur, Multifunctional, robust, light-weight, free-standing MWCNT/phenolic composite paper as anodes forlithium ion batteries and EMI shielding material, RSC Adv. 4 (2014) 33168?33174, doi:10.1039/c4ra04183f.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1のようにCNTを液体媒体に分散させる、あるいは樹脂に混入して使用すると、液体や樹脂の中でCNTがランダムな方向を向いてしまい、一定の方向に整列させることは難しい。そのため、CNTの高い電気伝導性、熱伝導性といった優れた特徴が低減されてしまうという課題がある。
【0011】
本発明は、CNTの持つ電気伝導性、熱伝導性等の特徴を活かした電磁遮蔽シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、シート状CNT連続体を備える導電層が絶縁層によりサンドイッチされた構造を有する電磁遮蔽シート(以下、この構造を有する電磁遮蔽シートを「サンドイッチ電磁遮蔽シート」という場合がある。)であって、1cm2あたりのCNT使用量である単位CNT使用量が0.3mg以下であることを特徴とする電磁遮蔽シートが提供される。シート状CNT連続体を備えるサンドイッチ電磁遮蔽シートは、CNTの存在密度が高い領域を設けることができるため、単位CNT使用量を高めることなく高い電磁遮蔽能力を有することができる。
【0013】
ここで、サンドイッチ電磁遮蔽シートにおいて導電層の単位CNT使用量が過度に高くなると、その導電層は金属板と同様の振る舞いをする。すなわち、シート状CNT連続体を用いてなり、単位CNT使用量が0.3mgを超えるサンドイッチ電磁遮蔽シートは、金属板を絶縁層によりサンドイッチしてなるサンドイッチ電磁遮蔽シートと同様の高い反射特性を有する。このため、その電磁波吸収特性はむしろ高まりにくくなってしまう。この傾向は、3GHz以上の高周波帯域で顕著となる。そこで、本発明に係るシート状CNT連続体を備えるサンドイッチ電磁遮蔽シートでは、単位CNT使用量を0.3mg以下とすることにより、電磁波吸収特性を高めることができる。
【0014】
シート状CNT連続体を備えるサンドイッチ電磁遮蔽シートにおいて、単位CNT使用量を0.02mg以上とすることにより、1GHz以上の高周波帯域の電磁波吸収特性を高めることがより安定的に実現され、2GHz以上の帯域ではこの傾向がより顕著となる。
【0015】
シート状CNT連続体を備えるサンドイッチ電磁遮蔽シートにおいて、単位CNT使用量を0.15mg以下とすることにより、3GHz以上の高周波帯域の電磁波吸収特性を高めることがより安定的に実現される。
【0016】
シート状CNT連続体に含まれるCNTは、シート状CNT連続体の面内方向に沿って延在する構造を有することが好ましい場合がある。この場合において、CNTの長軸方向長さは、導電層の厚さよりも長いことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、電磁遮蔽能力(特に1GHz以上の高周波帯域の電磁波吸収特性)が改善された電磁遮蔽シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る電磁遮蔽シートの構成を概略的に示す図である。
図2】電磁遮蔽シートの製造装置の説明図である。
図3】(a)CNTフォレストの端部からCNTウェブが紡ぎ出される様子の外観図、(b)紡ぎ出し端部の拡大図であって、CNTフォレストの端部からCNTが離れている様子を示す図である。
図4】電磁遮蔽シートの一例の外観図である。
図5】CNTウェブの積層数が1であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シートをCNTの延在方向に沿って切断した断面の観察図である。
図6図5において観察した断面におけるCNTウェブが表示される領域の部分拡大図である。
図7】CNTウェブの積層数が2であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シートをCNTの延在方向に沿って切断した断面の観察図である。
図8図7において観察した断面におけるCNTウェブが表示される領域の部分拡大図である。
図9】CNTウェブの積層数が10であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シートをCNTの延在方向に沿って切断した断面の観察図である。
図10】CNTウェブの積層数が20であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シートをCNTの延在方向に沿って切断した断面の観察図である。
図11】遠方界EMIシールド特性を測定するためのサンプルの形状を示す図である。
図12】遠方界EMIシールド特性を測定するためのシステムを示す図である。
図13】実施例に係る電磁遮蔽シートの遠方界EMIシールド特性(EMI-SE)の測定結果を示すグラフである。
図14】実施例に係る電磁遮蔽シートの反射特性の測定結果を示すグラフである。
図15】実施例に係る電磁遮蔽シートの透過特性の測定結果を示すグラフである。
図16】実施例に係る電磁遮蔽シートの吸収特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る電磁遮蔽シートの構成を概略的に示す図である。図1に示されるように、電磁遮蔽シート10は、シート状CNT連続体を備える導電層11が2つの絶縁層12、13によりサンドイッチされた構造(サンドイッチ電磁遮蔽シート)を有する。このように、導電層を絶縁層で挟む構造を有することにより、電磁遮蔽シート10における導電材料(電磁遮蔽シート10ではCNT)の存在密度が高い領域を設けることが容易であり、導電材料の使用量が比較的少量であっても、電磁遮蔽能力、特に電磁波吸収特性を高めることができる。電磁遮蔽シート10では、1cm2あたりのCNT使用量である単位CNT使用量が0.01mg以上であれば、高い電磁遮蔽能力が得られ、単位CNT使用量が0.02mg以上であれば、高い電磁波吸収特性が得られる。この傾向は電磁波の周波数が1GHz以上の高周波帯域で顕著となり、2GHz以上の帯域において特に顕著となる。
【0021】
サンドイッチ電磁遮蔽シートは、上記のように優れた電磁遮蔽能力が得られやすいが、導電層11における導電材料の存在密度が過度に高くなると、導電層11が金属板を備える場合と同様の振る舞いをしやすい。導電層11が金属板を備える場合には、導電層11は電磁波の反射体として機能する。この場合においても、電磁遮蔽能力を有しているといえるが、反射した電磁波が新たな干渉因子となり、結果的に電磁干渉(EMI)が低減しにくくなる可能性もある。それゆえ、電磁遮蔽シートは電磁波を吸収する能力(吸収特性)が高いことが好ましい。
【0022】
この観点から、電磁遮蔽シート10の導電層11は単位CNT使用量が0.3mg以下に設定されている。導電層11の単位CNT使用量が適切に抑えられているため、導電層11は電磁波の吸収体として適切に機能する。すなわち、導電層11へと照射された電磁波の一部は反射せずに導電層11の内部に侵入し、導電層11のCNTと相互作用して、電磁波を熱振動に変換することができる。CNTは熱伝導率が高く、しかも、導電層11におけるCNTはシート状CNT連続体として存在しているため、電磁波から変換して生じた熱は、導電層11の面内方向に速やかに拡散する。それゆえ、電磁遮蔽シート10は、優れた吸収特性を安定的に維持することができる。
【0023】
後述するように、電磁遮蔽シート10の吸収特性は、照射された電磁波の周波数が高くなるほど高くなるが、単位CNT使用量が0.3mgを超えると、照射電磁波の周波数が高くなっても吸収特性が高まりにくくなり、むしろ、高周波において相対的に吸収特性が低下することもある。このため、単位CNT使用量を0.3mg以下にして電磁遮蔽シート10の吸収特性を高めることの効果は、照射電磁波の周波数が高い(具体的には3GHz以上の帯域)ほど顕著となる。3GHz以上の帯域の電磁波に対する電磁遮蔽シート10の吸収特性を安定的に高める観点から、導電層11における単位CNT使用量は、0.15mg以下であることが好ましく、0.10mg以下であることがより好ましい。
【0024】
導電層11が備えるシート状CNT連続体は、複数のCNTの連続体を備えシート状の全体形状を有する構造体であり、隣り合うCNTがファンデルワールス力により相互作用して全体形状を維持している。本実施形態において、シート状CNT連続体に含まれるCNTは、シート状CNT連続体の面内方向に沿って延在する構造を有する。かかる構造を有するため、シート状CNT連続体は、面内方向の導電性および熱伝導性に優れる。
【0025】
シート状CNT連続体が特許文献2に開示される方法により製造される場合には、シート状CNT連続体はCNTウェブまたはCNTウェブの積層体からなり、好ましい一形態において、シート状CNT連続体を構成するCNTの長軸方向長さは導電層11の厚さよりも長い。この場合には、導電層11は、導電性および熱伝導性の面内方向への配向性が特に高くなる。このため、導電層11内のCNTは、電磁遮蔽シート10と交差するように入射する電磁波と相互作用しやすく、導電層11が電磁波を吸収しやすい。また、電磁波と相互作用してCNTに生じた熱がCNTの延在方向に沿って拡散しやすいため、電磁波が継続的に照射されても、導電層11の吸収特性が低下しにくい。
【0026】
特許文献2に開示される方法により製造されたCNTウェブを用いてなるシート状CNT連続体を導電層11が備える場合には、導電層11の単位CNT使用量を、シート状CNT連続体におけるCNTウェブの積層数によって制御することができる。
【0027】
導電層11は、シート状CNT連続体のみから構成されていてもよいが、構造安定性を高める観点から、マトリックスとなる樹脂材料にシート状CNT連続体が分散した構造、換言すれば、シート状CNT連続体に樹脂材料が含浸した構造を有していることが好ましい。シート状CNT連続体に含浸させる樹脂材料の種類は限定されない。導電層11の両側に位置する絶縁層12、13を構成する樹脂材料と等しいことが、製造容易性の観点から好ましい場合がある。
【0028】
導電層11の厚さは、シート状CNT連続体の厚さに応じて設定される。限定されない例示を行えば、導電層11の厚さは1μm程度から30μm程度の範囲とされる。導電層11におけるCNTの体積率はシート状CNT連続体の構造により変化する。シート状CNT連続体がCNTウェブから形成される場合には、3vol%程度から15vol%程度の範囲となる。
【0029】
絶縁層12、13を構成する材料は、適切な絶縁性を有している限り、限定されない。電磁遮蔽シート10の全体の厚さを薄くすることが容易であり、かつ物性の制御性に優れるなどの観点から、絶縁層12、13を構成する材料は樹脂材料を含む樹脂系材料であることが好ましい場合がある。
【0030】
樹脂系材料は、樹脂材料から構成されていてもよいし、樹脂材料に非樹脂材料、たとえばガラスフィラー、アルミナなどの無機物が分散していてもよい。こうした非樹脂材料は、絶縁層12、13の機械特性を高める観点や、絶縁層12、13の難燃性を高める観点から用いられることもある。
【0031】
樹脂材料として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ナイロン6、6などのポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が例示される。熱可塑性ポリウレタン、エチレン・プロピレンゴムなどのエラストマーも樹脂材料の一種として例示される。樹脂材料は1種類の樹脂から構成されていてもよいし、複数種類の樹脂から構成されていてもよい。
【0032】
上記の電磁遮蔽シート10の製造方法は特に限定されない。以下、製造方法の一例として、特許文献2に示される方法により製造されたCNTウェブを用いて電磁遮蔽シート10を製造する方法を説明する。
【0033】
図2は、電磁遮蔽シートの製造装置の説明図である。製造装置30は、それぞれヒータ(ヒータ31、ヒータ32)が設けられた2つのバックプレート33、34により、加熱しながら加圧成形可能である。ヒータ31、ヒータ32の間には積層体40が配置される。積層体40は、1枚以上のCNTウェブが積層されてなるシート状CNT連続体41と、これを挟むように位置する2枚の樹脂シート42、43とからなる。
【0034】
この状態で、2つのヒータ31、32を所定の温度に加熱して、2つのバックプレート33、34により、積層体40を加熱しながら、積層方向(図2中、白抜き矢印で示した。)に加圧する。これにより、シート状CNT連続体41の隙間に樹脂シート42、43を構成する樹脂材料が含浸されて、シート状CNT連続体41が樹脂材料からなるマトリックスに分散した構造を有する導電層11が、樹脂材料からなる絶縁層12、13にサンドイッチされた構造を有する電磁遮蔽シート10が得られる(図1)。
【0035】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0036】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0037】
図2に示される製造装置を用いて、図1に示される電磁遮蔽シートを製造した。
【0038】
特許文献2に示される製造方法により、成長高さ1mmのCNTフォレストを得た。CNTフォレストを構成するCNTは、直径が30nm~40nmであった。基板上の面密度は5×109cm-2であった。CNTフォレストを構成するCNTの結晶性をラマン散乱測定により評価したところ、グラフェン面内振動モードのGピーク強度とそのディスオーダー振動に起因するDピーク強度の比IG/IDは2.5~3であった。
【0039】
CNTフォレストを紡績してウェブ状のCNT連続体(CNTウェブ)を得た。図3には、CNTウェブが紡績されている様子が示されている。図3(a)は、CNTフォレストの端部からCNTウェブが紡ぎ出される様子の外観図であり、図3(b)は、紡ぎ出し端部の拡大図であって、CNTフォレストの端部からCNTが離れている様子を示す図である。得られたCNTウェブをドラムに巻き取ることにより、CNTウェブの積層数が異なる4種類(積層数:1、2、10、20)のシート状CNT連続体を得た。
【0040】
得られたシート状CNT連続体を、2枚の樹脂シート(厚さ25μmの低密度ポリエチレンフィルム)で挟んで積層体とした。図2に示される装置を用いて、これらの積層体を加熱・加圧した。具体的には、まず、10MPaの加圧力でヒータを100℃まで加熱し、その状態を30分維持した。その後、ヒータを140℃まで加熱し、加圧力を0.5MPa~1MPaに調整した。この状態でさらに10分加熱し、その後加圧を終了し、室温まで自然冷却して、厚さ50μmの電磁遮蔽シートを得た(実施例1から実施例4)。図4は、こうして得られた電磁遮蔽シートの一例の外観図である。図4に示される電磁遮蔽シートが備えるシート状CNT連続体は、2枚のCNTウェブの積層体であった。
【0041】
図5は、CNTウェブの積層数が1であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シートをCNTの延在方向に沿って切断した断面の観察図である。図6は、図5において観察した断面におけるCNTウェブが表示される領域の部分拡大図である。図7は、CNTウェブの積層数が2であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シートをCNTの延在方向に沿って切断した断面の観察図である。図8は、図7において観察した断面におけるCNTウェブが表示される領域の部分拡大図である。図9は、CNTウェブの積層数が10であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シートをCNTの延在方向に沿って切断した断面の観察図である。図10は、CNTウェブの積層数が20であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シートをCNTの延在方向に沿って切断した断面の観察図である。図5図7図9、および図10において、水平方向に延びる2本の白破線の間の領域が導電層に対応する。
【0042】
図5から図10に示されるいずれの電磁遮蔽シートについても、シート状CNT連続体の内部に絶縁層を構成するポリエチレン樹脂が含浸し、導電層はポリエチレン樹脂からなるマトリックスにシート状CNT連続体が分散した構造を有していた。CNTウェブの積層数が10であるシート状CNT連続体を備える電磁遮蔽シート(実施例3)について、CNTの延在方向に沿って導電層の導電率を測定したところ、400S/cmであった。
【0043】
シート状CNT連続体の質量および樹脂シートの質量を予め測定することにより、積層体におけるCNT重量率(単位:wt%)を求め、これをその積層体から形成された電磁遮蔽シートのCNT重量率(単位:wt%)とした。また、電磁遮蔽シートの断面観察から、各シートの厚さを測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1には、参考例として、非特許文献1から非特許文献5に開示される電磁遮蔽シートの情報を示した。実施例1から実施例4に係る電磁遮蔽シートは、参考例1から参考例5に係る電磁遮蔽シートとの対比で、シート厚さが薄いことが確認される。このように実施例1から実施例4に係る電磁遮蔽シートは薄いため、可撓性に優れ、取り扱いが容易である。
【0046】
実施例1から実施例4に係る電磁遮蔽シートに関する測定結果から、電磁遮蔽シートのCNT体積率(単位:vol%)および導電層のCNT体積率(単位:vol%)を求めた。その結果を表1に示した。表1に示されるように、導電層のCNT体積率は2vol%程度から8vol%程度であった。この値は、CNT重量率から換算された電磁遮蔽シートのCNT体積率よりもかなり高く(数倍~数十倍)、実施例に係る電磁遮蔽シートでは、導電層においてCNTが高密度で存在しているといえる。
【0047】
一方、参考例1から参考例5に係る電磁遮蔽シートは、厚さ方向の全体にCNTが分散しているため、実施例1から実施例4に係る電磁遮蔽シートのように、絶縁層/導電層/絶縁層の構造を有していない。このため、電磁遮蔽シートの厚さがそのまま導電層の厚さとなる。それゆえ、表1に示されるように、参考例1から参考例5に係る電磁遮蔽シートの導電層のCNT体積率はすなわち電磁遮蔽シートのCNT体積率となる。
【0048】
得られた複数種類の電磁遮蔽シートを図11に示されるようなドーナッツ状に加工し、図12に示される同軸管に配置して遠方界EMIシールド特性(EMI-SE、単位:dB)を測定した。測定結果を図13に示した。基本的傾向として、CNTウェブの積層数が増えるほどEMI-SEは高く(縦軸の上方)なり、電磁遮蔽効果が高くなることが確認された。
【0049】
図13に示されるEMI-SEの測定を構成する、電磁遮蔽シートの反射特性、透過特性、および吸収特性を、それぞれ、図14図15、および図16に示した。図14に示されるように、CNTウェブの積層数が1または2である実施例1、実施例2の電磁遮蔽シートは、反射率が極めて少なく、これらの電磁遮蔽シートによる電磁波の減衰は、吸収が主体であった。図15に示されるように、CNTウェブの積層数が10または20である実施例3、実施例4の電磁遮蔽シートは実施例1、実施例2の電磁遮蔽シートに比べて2GHz以上の高周波における透過率の低下が顕著であった。
【0050】
図16に示されるように、基本的傾向として、CNTウェブの積層数が増えるほど吸収率は高くなり、周波数が高くなるほど吸収率も高くなる。しかしながら、実施例4の電磁遮蔽シートの吸収率は、相対的比較をすると、高周波における吸収率が低下しており、特に、3GHz以上の帯域では、実施例1の電磁遮蔽シートの吸収率と大差なかった。
【0051】
本実施例に係る電磁遮蔽シートの形状、EMI-SEなどの測定結果を、表1に、参考例に係る電磁遮蔽シートの測定結果と対比可能に示した。表1に示されるように、本実施例に係る電磁遮蔽シートは、参考例に係る電磁遮蔽シートに比べて、単位CNT使用量がはるかに少ないにもかかわらず、優れた電磁遮蔽能力を有していた。
【符号の説明】
【0052】
10 :電磁遮蔽シート
11 :導電層
12、13 :絶縁層
30 :製造装置
31、32 :ヒータ
33、34 :バックプレート
40 :積層体
41 :シート状CNT連続体
42、43 :樹脂シート
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