(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022006602
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】マスク材料、それを用いたマスクおよびそのマスクの着用方法
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
A41D13/11 B
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020108925
(22)【出願日】2020-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】500437692
【氏名又は名称】小杉織物株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小杉 秀則
(57)【要約】 (修正有)
【課題】装着した状態でマスク内の換気を行うことができるマスク材料、それを用いたマスクおよびマスクの着用方法を提供する。
【解決手段】マスク本体11と、その左右に設けられた耳掛け部12とからなるマスク10は、マスク本体11の表面(外側)にボックスプリーツ13が形成されており、そのボックスプリーツ13を挟むように、左右方向に延びるノーズワイヤ15およびチンワイヤ16が設けられている。このマスク10は、使用者の操作によって、マスク内を密閉させる密着状態と、マスク内と大気とを連通する連通路が形成された通気状態とを呈することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にボックスプリーツが形成されたマスク材料であって、
前記ボックスプリーツを挟むように、左右方向に延びるノーズワイヤおよびチンワイヤが設けられている、
マスク材料。
【請求項2】
前記ノーズワイヤに対してチンワイヤの方が、曲げ強さが大きい、
請求項1記載のマスク材料。
【請求項3】
前記ノーズワイヤに対してチンワイヤの方が長い、
請求項1または2記載のマスク材料。
【請求項4】
前記ノーズワイヤおよびチンワイヤは、非金属製である、
請求項1から3のいずれかに記載のマスク材料。
【請求項5】
前記チンワイヤがバルカナイズドファイバーからなる、
請求項1から4のいずれかに記載のマスク材料。
【請求項6】
前記マスク材料は、外層と、中間層と、内層とを備えた複層構造であり、
前記外層および前記内層は、不織布以外の布製品であり、
前記中間層は、不織布であり、
前記外層、中間層および内層は、少なくとも左右縁が縫製されて一体化されている、
請求項1から5のいずれかに記載のマスク材料。
【請求項7】
前記不織布の目付が50g/m2以上である、
請求項6記載のマスク材料。
【請求項8】
前記外層および/または前記内層は、織物である、
請求項6または7記載のマスク材料。
【請求項9】
前記織物が、ジャガード織機によって織られた紋織物である、
請求項8記載のマスク材料。
【請求項10】
前記内層が、絹製織物または絹製二重織物である、
請求項6から9のいずれかに記載のマスク材料。
【請求項11】
前記外層を除いて、前記内層と前記中間層とが中央領域において結合されている、
請求項6から10のいずれかに記載のマスク材料。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のマスク材料と、その両端に設けられた耳掛け部とからなるマスク。
【請求項13】
請求項12記載のマスクの着用方法であって、
前記ノーズワイヤを使用者の鼻の付け根に装着する工程と、
前記ボックスプリーツのタックを広げてマスクと使用者の顔との間に空間を形成させる工程と、
前記チンワイヤを立体的に変形させて、使用者の下顎に支持させると同時に、前記空間と大気とを連通させた通気路を形成させる工程とを有する、
マスクの着用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク材料、それを用いたマスクおよびそのマスクの着用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉等の様々なアレルギー症状を抱える患者が増加している。また様々なウイルスによる感染症が毎年のように流行している。このようなアレルギー症および感染症に対する有効な手段として、マスクの着用が挙げられる。
マスクは、人の顔に装着し、鼻および口を覆うものであり、空気中の微細な浮遊物が体内に取り込まれないようにしたり、口や鼻からの分泌物を周囲にまき散らさないようにする。そのため、花粉等やウイルスを体内に取り込むことを防止し、また、万が一、感染症に罹ったとしても周囲への影響を最小限にとどめることができる。特に、感染症が流行している際、公共の場所において、マスクの着用はエチケットとされつつある。
【0003】
一方、マスクは、口及び鼻を外気から塞ぐものであるため、通気性を十分に与えないと酸欠状態となることがある。また、マスクを長時間着用すると、マスク内の温度および湿度が上昇し、非常に不快となる。さらに、マスクを着用して運動等を行う場合、時には命にもかかわる。そのため、長時間着用するとき、あるいは、運動等を行うときには、マスク内の換気が重要となる。特に、夏場の暑い時期は、こまめにマスク内を換気する必要がある。
【0004】
このようにマスクの内部の換気ができるものとして、マスクの一部に通気性を有する部材を設けるものが知られている。例えば、特許文献1は下顎領域に通気性素材部を設けたマスクを開示しており、特許文献2は頬領域に表裏方向への通気性を有する発泡体シートを設けたマスクを開示している。
【0005】
またマスクの内部の換気を行うものではないが、特許文献3には、上部と下部に形状記憶効果を有する保形部材を設けたマスクが開示されている。このように保形部材を使用者の顎部および鼻部に合わせて変形させることにより、使用者の鼻周りや顎周りからの空気の漏れや侵入を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-189676号公報
【特許文献2】特開2019-206773号公報
【特許文献3】実全昭61-156944
【特許文献4】特開2017-197851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2のようにマスクの一部に通気性を有する部材を設ける場合、製造工程が複雑となる。また通気性を有する部材であっても、空間が閉じていることには変わらないため、清涼効果は認められるが、マスク内の空気を積極的に換気するものではない。
本発明は、装着した状態でマスク内の換気を行うことができるマスク材料、それを用いたマスクおよびそのマスクの着用方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマスク材料は、表面にボックスプリーツが形成されたマスク材料であって、前記ボックスプリーツを挟むように、左右方向に延びるノーズワイヤおよびチンワイヤが設けられていることを特徴としている。
本発明のマスク材料を有するマスクは、使用者の操作によって、マスク内を密閉させる密着状態と、マスク内と大気とを連通する連通路が形成された通気状態とを呈することができる。そして、通気状態とすることにより、マスク内の空気を換気することができる。
詳しくは、ノーズワイヤを使用者の鼻の付け根に装着し、チンワイヤを使用者の下顎に装着し、ボックスプリーツのタックを広げてマスクと使用者の顔との間に空間を形成させることによって密閉状態となる。一方、ノーズワイヤを使用者の鼻の付け根に装着し、ボックスプリーツのタックを広げてマスクと使用者の顔との間に空間を形成させ、チンワイヤを立体的に変形させて、使用者の下顎に支持させると同時に、前記空間と大気とを連通させた通気路を形成させることによって通気状態となる。通気状態において、チンワイヤによって形成される通気路の開口部からマスク内に新鮮な空気が供給される。
【0009】
本発明のマスク材料であって、前記ノーズワイヤに対してチンワイヤの方が、曲げ強さが大きいものが好ましい。チンワイヤの曲げ強さを大きくすることにより、通気状態において通気路を維持させることができる。
本発明のマスク材料であって、前記ノーズワイヤに対してチンワイヤの方が長いものが好ましい。チンワイヤを長くすることにより、通気状態において、通気路の開口を大きくできる。
本発明のマスク材料であって、前記ノーズワイヤおよびチンワイヤは、非金属製であるが好ましい。非金属製であるため、洗濯して繰り返し使用することができる。
本発明のマスク材料であって、前記チンワイヤがバルカナイズドファイバーからなるものが好ましい。
【0010】
本発明のマスク材料であって、前記マスク材料は外層と、中間層と、内層とを備えた複層構造であり、前記外層および前記内層は、不織布以外の布製品であり、前記中間層は、不織布であり、前記外層、中間層および内層は、少なくとも左右縁が縫製されて一体化されているものが好ましい。その場合、前記外層および内層は、織物であるものが好ましい。前記外層および前記内層が、合成樹脂製の織物、麻製織物、絹製織物または絹製二重織物のいずれかの織物であるものが好ましい。特に、前記織物が、ジャガード織機によって織られた紋織物であるものが好ましい。
本発明の複層構造のマスク材料であって、前記内層が絹製織物または絹製二重織物であるものが好ましい。
本発明の複層構造のマスク材料であって、前記不織布の目付が50g/m2以上であるものが好ましい。
本発明の複層構造のマスク材料であって、前記外層を除いて、前記内層と前記中間層とが中央領域において結合されているものが好ましい。
【0011】
本発明のマスクは、本発明のマスク材料と、その両端に設けられた装着部とからなることを特徴としている。
【0012】
本発明のマスクの着用方法は、前記ノーズワイヤを使用者の鼻の付け根に装着する工程と、前記ボックスプリーツのタックを広げてマスクと使用者の顔との間に空間を形成させる工程と、前記チンワイヤを立体的に変形させて、使用者の下顎に支持させると同時に、前記空間と大気とを連通させた通気路を形成させる工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマスクは、使用者の操作によって、マスク内を密閉させる密着状態と、マスク内と大気とを連通する連通路が形成された通気状態とを呈することができ、マスク内を簡単に換気することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のマスクを装着した状態を示す正面図である。
【
図2】
図2aは本発明のマスクの密着状態を示す側面図であり、
図2bは本発明のマスクの通気状態を示す側面図である。
【
図3】
図3aは、
図2bの通気状態のマスクの一部を下方から見た概略図であり、
図3b、
図3cは他の形状を示す概略図である。
【
図4】
図4a、
図4b、それぞれ本発明のマスクの正面図および背面図である。
【
図7】本発明のマスクの他の実施形態の使用状態の概略を示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1のマスク10は、マスク本体11と、その左右に設けられた耳掛け部12とからなる。マスク本体11の表面(外側)にボックスプリーツ13が形成されており、そのボックスプリーツ13を挟むように、左右方向に延びるノーズワイヤ15およびチンワイヤ16が設けられている。
【0016】
このマスク10は、
図2a、bに示すように、ノーズワイヤ15は使用者の鼻Nの付け根近辺に装着し、チンワイヤ16は下顎Cの下端近辺に装着する。そして、ボックスプリーツ13のタックを広げ、マスク10と使用者の顔との間に空間Sを形成させて着用する。
このマスク10は、使用者の操作によって、チンワイヤ16(マスク10の下縁10b)を下顎Cの稜線に沿って変形させた
図2aの密着状態と、チンワイヤ16を立体的に変形させた
図2bの通気状態とを呈する。
密着状態とは、マスク10を着用したとき、使用者の鼻Nの周りおよび下顎Cの周りに隙間が生じないようにした状態をいう。
通気状態とは、チンワイヤ16(マスク10の下縁10b)を下顎Cの稜線とそろわないように、立体的に変形させて、マスク10の下縁10bを下顎に支持させると同時に、マスク内の空間Sと大気とを連通させて通気路Pを形成させた状態をいう。なお、チンワイヤ16を立体的に変形させるとは、マスク本体11の平面に対して垂直な方向に変形させることをいう。例えば、
図2bでは、チンワイヤ16を、
図3aに示すように、下顎Cに対して垂直方向に逆U字状または逆V字状に変形させている。しかし、チンワイヤ16(マスク10の下縁10b)の立体的な形状は特に限定されるものではない。例えば、
図3bのM字状や、
図3cのオメガ(Ω)字状に変形させてもよい。なお、チンワイヤ16の変形は、マスク10を装着する前に行っても、マスク10を装着した後に行ってもよい。
【0017】
マスク本体11は、3枚の布地を重ねて縫製した長方形状のものである。詳しくは、
図4a、bおよび
図5a、b、cに示すように、上縁10aに折り目が形成されており、左右縁および下縁が縫製されて一体化されている。つまり、内層21と外層23とは、一枚の布製品を半分に折ることによって構成されている(
図5b参照)。しかし、内層21と外層23と独立させてもよい。その場合、上縁も縫製されることになる。
符号11a、11bは、それぞれ左右縁の縫い目を表している。この左右縁の縫い目11a、11bによって、耳掛け部12が連結される。下縁10bは、裁断縁および縫製糸(
図5cの縫い目11c)が現れないように縫製した後、裏返している。また折り目である上縁10aの若干下方に、上縁10aと平行に左右に延びるノーズワイヤ用縫い目15aが設けられている。そして、下縁10bの若干上方に、下縁10bと平行に左右に延びるチンワイヤ用縫い目16aが設けられている。これらの縫い目11a、11b、15a、16aは、3層の全てを貫通するように設けられている。
【0018】
マスク本体11の表面(
図4a)の中央部には、ボックスプリーツ13(箱ひだ)が形成されている。言い換えれば、マスク本体の内面(
図4b)の中央部の上側に、下方に向かって形成される上側折込部13aが形成されており、マスク本体11の内面の中央部の下側に、上方に向かって形成される下側折込部13bが形成されている。そして、上側折込部13aと下側折込部13bとは、端部が重ならないように中央に位置し、箱裏面は覆われている。この箱ひだ13は、3層すべてを折って形成されている。
【0019】
このようにボックスプリーツ13を設けることにより、マスク10を装着したとき、顔表面とマスク10の内面との間に空間Sを設けることができる(
図2、b参照)。特に、ボックスプリーツの場合、タックが対向しているため、広げることにより、上側折込部13aと、下側折込部13bと、プリーツ裏面とによって、箱状の空間Sが簡単に形成される。特に、マスク10のように比較的形状保持力の高いものでも、空間Sを簡単に形成させることができる。そのため、外部から通気路Pを通じて空気が供給されたとき、供給された空気はその空間Sの全体に行き届きやすく、マスク10内の空気は換気しやすい。なお、ボックスプリーツ13の箱表面の高さT(
図2a参照)は、マスク全体の高さT
0の20%以上、より好ましく25%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは35%以上である。一方、上限は、60%以下、好ましくは50%以下、特に好ましくは45%以下である。箱表面の高さTがマスク全体の高さT
0の20%より小さいと、マスク10を装着したときに十分な空間を形成させることができない。一方、60%より大きいと、マスク10を装着したときにタックが広がりにくくなる。
またボックスプリーツ13を設けることにより、それらの折り目によってマスク本体11に所定の強度が付与され、全体として所定の形状保持力が付与される。つまり、通気路Pは、左右方向に延びる折り目に対して実質的に垂直に延びているため、折り目が通気路Pのリブとして働く。よって、通気状態において、チンワイヤ16による通気路の開口部が形成されたとき、その開口部の形状に追随して、通気路Pが潰れにくい。
【0020】
マスク本体11の上部には、左右方向に沿って、ノーズワイヤ15が設けられている。詳しくは、上縁10aとノーズワイヤ用縫い目15aとの間にノーズワイヤ15が設けられている。
そして、マスク本体11の下部には、左右方向に沿ってチンワイヤ16が設けられている。詳しくは、下縁10bとチンワイヤ用縫い目16bとの間にチンワイヤ16が設けられている。
ノーズワイヤ15およびチンワイヤ16は、それぞれ
図5b、
図5cに示すように、内層21と外層23との間に設けられている。また中間層22を挟むように設けられている。しかし、中間層22を大きくし、中間層22の外側または内側に設けてもよい。このようにワイヤ用縫い目15aおよびチンワイヤ用縫い目16aが、実質的に3層を一体化させる上側の縫い目となっている。
【0021】
ノーズワイヤ15またはチンワイヤ16の材質としては、金属、合成樹脂、バルカナイズドファイバーなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、鉄等が挙げられる。合成樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルが挙げられる。バルカナイズドファイバーは、圧縮した繊維を化学的に処理したものである。例えば、木材パルプ、綿を原料としたセルロース繊維を圧縮し、化学的(特に、塩化亜鉛溶液に浸漬)に処理したものが挙げられる。
しかし、非金属製のワイヤは繰り返し洗濯して使用するマスク材料に適している。そのため、合成樹脂またはバルカナイズドファイバーが好ましく、特に、セルロース繊維からなるバルカナイズドファイバーは、環境にもやさしい。
ノーズワイヤ15およびチンワイヤ16は、同じ材質としてもよく、異なる材質としてもよい。しかし、チンワイヤとして、バルカナイズドファイバーを用いるのが好ましい。
【0022】
ノーズワイヤ15またはチンワイヤ16としては、線状物または帯状物が挙げられる。
ノーズワイヤ15とチンワイヤ16とは、用途および機能が異なる。ノーズワイヤ15は、密着状態および通気状態のいずれにおいて、鼻Nの付け根に沿って変形させて、鼻Nに係止するものである。一方、チンワイヤ16は密着状態では下顎Cの稜線に沿って変形させ、通気状態ではマスク内を大気と連通させる通気路Pの開口部を形成し、その開口部の形状を維持した状態で下顎Cに支持される。そのため、チンワイヤ16には、ノーズワイヤ15より高い形状保持力あるいは剛性が必要となる。
【0023】
ノーズワイヤ15の左右方向の長さは、4cm~12cm、好ましくは8cm~10cmである。4cmより小さいと、鼻に沿って曲げても、鼻にうまく引っ掛からないことがある。12cmより大きくても特に、意味がない。
チンワイヤ16の左右方向の長さは、10cm以上、好ましくは12cm以上、特に好ましくは14cm以上である。10cmより小さいと、通気状態において、通気路の開口を十分に確保することができない。チンワイヤ16は、長い方が通気路の開口を大きくでき、かつ、その形状の自由度も高くなるため好ましい。そのため、最大でマスクの横幅と実質的に同じにしてもよい。このようにチンワイヤ16は、ノーズワイヤ15より長い方が好ましい。
【0024】
ノーズワイヤ15の曲げ強さは、30~90MPa、好ましくは40~85MPa、特に好ましくは50~80MPaである。30MPaより小さいと、ノーズワイヤを鼻の付け根に係止しにくくなる。一方、80MPaより大きいと、鼻の付け根に沿って小さく湾曲させにくくなる。
チンワイヤ16の曲げ強さは、80~200MPa、好ましくは90~170MPa、特に好ましくは100~150MPaである。80MPaより小さいと、通気状態において、チンワイヤ16を変形させて下顎に支持させたとき、通気路の開口がつぶれやすくなる。一方、200MPaより大きいと、重くなり、マスクがずれ落ちやすくなる。
ここで曲げ強さは、
図6に示すような3点曲げ試験によって求められる。なお、曲げ強さMは、M=F
maxL/4Zで求めることができる。このとき、F
maxは、試験片が破壊に至るまでの最大荷重である。Zは、試験片の形状によって異なり、試験片が帯状である場合、Z=W(D
2)/6(Wは幅、Dは厚み)であり、試験片が線状である場合、Z=πd
3/32(dは直径)である。
【0025】
チンワイヤ16は、ノーズワイヤ15より曲げ強さを大きくするのが好ましい。例えば、チンワイヤ16の曲げ強さをノーズワイヤ15の曲げ強さより、5MPa以上、好ましくは10MPa以上、特に好ましくは15MPa以上である。これはチンワイヤ16の方が、通気状態を保たせるのにノーズワイヤ15より強度が必要であるためである。なお、ノーズワイヤ15の強度を高くすると、鼻の付け根への密着性が低下し、また、コスト高になるためである。
例えば、ノーズワイヤ15およびチンワイヤ16として同じ素材を用いる場合、チンワイヤ16の長さ方向に垂直な面で切断した断面積が、ノーズワイヤ15の長さ方向に垂直な面で切断した断面積より大きくなるようにする。例えば、チンワイヤ16の断面積を、ノーズワイヤ15の断面積の1.2倍以上、好ましくは1.4倍以上、より好ましくは1.5倍以上とする。なお、チンワイヤ16の断面積を、ノーズワイヤ15の断面積の3倍以上とすると、マスクを装着したときに邪魔になる。具体的には、ノーズワイヤ15およびチンワイヤ16として同じ素材で同じ厚みの帯状体を用いる場合、チンワイヤ16の幅をノーズワイヤ15の幅より大きくする、あるいは、ノーズワイヤ15およびチンワイヤ16として同じ素材で同じ幅の帯状体を用いる場合、チンワイヤ16の厚みをノーズワイヤ15の厚みより大きくする方法が挙げられる。
【0026】
次に、3層構造のマスク本体について説明する。マスク本体11は、上述したようにボックスプリーツ13が形成されているため、それらの折り目によってマスク本体11に所定の強度が付与される。しかし、複層構造とし、それらの全てを織ってボックスプリーツ13を形成させる場合、一層マスク本体11の形状保持力が向上する。
マスク本体を構成する布製品としては、織物や編物や不織布が挙げられる。これらはどのような組み合わせで使用しても構わない。しかし、外層および内層を不織布以外の布製品とし、中間層を不織布とするのが好ましい。
マスク本体を構成する複層の布製品は、少なくとも左右縁が縫製された一体化されている。
図1のマスク10では、左右縁および下縁が縫製されて一体化されている。
【0027】
織物は、経糸および緯糸を組み合わせた布製品であり、平織、綾織、繻子織、あるいはそれらを組み合わせた紋織物が挙げられる。特に、ジャガード織機によって織られた紋織物であることが好ましい。2枚の織物を一体化させた二重織物がさらに好ましい。二重織物は、一方の織物の緯糸(あるいは経糸)を部分的に他方の織物の組織に組み入れることによって、一体化させたものである。二重織物は、単に一層の織物より肌触りが柔らかく、マスク全体に重厚感を与え、装飾性を高めることができる。また二重織物とすることにより、マスク本体11の形状保持力が向上する。
編物は、糸を編んで作った布製品である。
【0028】
織物および編物を構成する材質は、麻や綿等の植物性繊維や絹や羊毛等の動物性繊維の天然繊維、ナイロン、アクリル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等の合成繊維が挙げられる。外層と内層は、同じ材質にしてもよいし、異なる材質としてもよい。そのような組み合わせ(外層/内層)としては、特に限定されるものではないが、例えば、麻/麻、絹/絹、麻/絹、合成樹脂/絹等が好ましく挙げられる。絹製とすることにより、装着する肌に対して刺激が小さく、肌触りが良い。また、絹糸は吸湿性がよいため、マスク内を所定の湿度範囲内に保つことができる。さらに、洗濯することにより、絹糸が適度な水分を吸収し、装着したときに一層しなやかな肌触りが得られる。そのため、内層を絹製とするのが特に、好ましい。一方、麻製や合成樹脂製とすることにより、通気性を高くでき清涼感が得られる。
【0029】
不織布(中間層22)は、花粉やウイルス等の微細な浮遊物を吸着するフィルターとして働く。また形状保持力を有する不織布を用いる場合、マスク10に形状保持性を与え、また、洗濯等によって内層および外層の収縮を防止する。
また中間層22の不織布は、所定の形状の押し型で強圧し、加熱したエンボス加工が施されている。このようにエンボス加工を施すことにより、一層、マスク10の形状保持性を高め、洗濯耐久性が高くなる。
【0030】
形状保持力を有する不織布の目付量の下限が50g/m2以上、好ましくは60g/m2以上、より好ましくは70g/m2以上、特に好ましくは80g/m2以上である。50g/m2より小さいと、中間層としてマスク本体11に十分な形状保持性を与えることができない。またマスク本体11の洗濯耐久性が低下する。一方、目付の上限は200g/m2以下、好ましくは、150g/m2以下、より好ましくは、120g/m2以下、特に110g/m2以下である。200g/m2より大きいと、通気性が低下する。
形状保持力を有する不織布の厚さは、0.5mm以上、好ましくは0.6mm以上、より好ましくは0.7mm以上、特に好ましくは0.75mm以上である。不織布の厚さが、0.5mmより薄いと、中間層としてマスク本体11に十分な形状保持性を与えることができない。またマスク本体11の洗濯耐久性が低下する。一方、不織布の厚さの上限は、5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下、特に好ましくは1.5mm以下である。
形状保持力を有する不織布の繊度としては、0.5~10デニール、好ましくは1~7デニール、特に好ましくは2~5デニールである。10デニールより大きいと、フィルター効果が低下する。なお、0.5デニールより小さいものは、マスク用の材料として現実的ではない。
【0031】
不織布の繊維の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロンなどが挙げられる。これら一種または数種類を混ぜ合わせてもよい。特に、ポリプロピレンが好ましい。不織布の材質としては、内層および/または外層の布製品と異なる材質にするのが好ましい。
不織布の製法としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ケミカルスパンレース法、スパンボンド法、メルトブロー法、エアレイド法などが挙げられる。この中でも、スパンボンド法、メルトブロー法などの紡糸直結タイプの不織布が好ましく、特に、スパンボンド法による不織布が好ましい。紡糸直結タイプの不織布は、連続した長繊維を不織布とするため、洗濯したとき繊維のほつれが起こりにくい。
不織布は、1枚または複数枚の不織布を重ねてもよい。複数枚の不織布を重ねる場合、少なくとも1枚が上述した目付量および厚さの条件、あるいは、目付量、厚さ、繊度の条件を満たしていればよい。たとえば、抗菌、抗ウイルス作用の強い不織布を、上述した目付量および厚さの不織布を重ねて使用することが考えられる。
【0032】
エンボス加工は、不織布の全体に凹部を設けることによって行う。特に、凹部は均等に設けるのが好ましい。このような凹部(押し型)の面積は5mm2以下、好ましくは3mm2以下、特に好ましくは1mm2以下ある。きめ細かく凹部を設けることにより、通気がよく、菌等の付着性もよい。一方、0.2mm2より小さいのは、現実的ではない。
中間層22の全面積に対する凹部の総面積の上限は、40%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは25%以下である。40%より大きいと、通気性が悪くなる。一方、その下限は、5%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上である。5%より小さいと、洗濯耐久性が低くなる。
【0033】
このようにマスク10は、使用者の操作によって、マスク内を密閉させる密閉状態と、マスク内の空間Sと大気とを連通する連通路Pが形成された通気状態とを呈することができ、特に、通気状態とすることにより、マスク内の空間Sの空気を簡単に換気することができる。
【0034】
次に、マスクの製造方法の一例について、説明する。
初めに、内層および外層用の布製品を準備する。例えば、ジャガード織機等の織機において、絹糸から二重織物を成形し、マスク本体11の2倍の大きさ、詳しくは高さ方向に2倍の大きさに裁断し、裁断した二重織物を上下半分に折り重ねて、折り目10aを形成する。その後、内層と外層の下縁を縫製して裏返す。なお、内層および外層をそれぞれ独立して準備して、縫製してもよい。
次に、内層21と外層23の間に中間層22、ノーズワイヤ15およびチンワイヤ16を挿入し、ワイヤ用縫い目15aおよびチンワイヤ用縫い目16aを入れて、3層を固定し、ノーズワイヤ15およびチンワイヤ16を固定する。なお、先に縫い目15a、16aを設けて3層を固定してから、各ワイヤを挿入してもよい。
次に、上下に3層全体を折り曲げてプリーツ加工を施す。
最後に、耳掛け部11をマスク材料50の左縁および右縁の所定の位置に配置させ、左縁および右縁を縫製し、マスク1を製造する。なお、この際、繊維が露出した裁断縁が現れないように内側に織り込んで縫製するのが好ましい。
なお、ここではマスクの製造方法の一例を紹介したが、本発明において、マスクの製造方法が上記製造方法に限定されるものではない。
【0035】
図7のマスク10Aは、外層23を除いて、内層21と、中間層22の略真ん中の中央領域を縫い合わせて結合させたものである。符号25は、十字状の縫い目である。このように内層21を中間層22と一体化させることにより、内層21の形状保持性が高くなる。つまり、マスク10を装着した使用者の呼吸によって、内層21が変形し、空間Sが潰れることがない。このような内層21と中間層22の結合は、内層21として柔軟性の高いものを使用する場合、効果が顕著になる。一方、外層23を除くことによりマスク10の意匠の自由度が向上する。特に、外層を紋織物としている場合に好ましい。
なお、ここでは縫製することにより、内層21と中間層22とを結合しているが、接着させたり、溶着させたり、内層21の経糸または緯糸を中間層22に絡ませるように一体に織ってもよい。
【0036】
本発明のマスク材料またはマスクは、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、3層構造のマスクを挙げたが、2層または4層以上の複層構造であってもよい。またマスク材料を顔に装着するための装着部として、耳掛け部が使用されているが、マスク材料を顔に装着できれば特に限定されない。例えば、マスク本体11の左右に橋渡された弾性体を頭に装着するようにしてもよい。
また
図1のマスク10は、左右方向の折れ目を有するボックスプリーツが形成されているが、上下方向の折れ目を有するボックスプリーツを形成させてもよい。この場合も同様に、空間Sが簡単にでき、通気路の形状を保持させる効果を有する。
【符号の説明】
【0037】
10 マスク
10a 上縁
10b 下縁
11 マスク本体
11a、11b、11c 縫い目
12 耳掛け部
13 ボックスプリーツ
13a 上側折込部
13b 下側折込部
15 ノーズワイヤ
15a ノーズワイヤ用縫い目
16 チンワイヤ
16a チンワイヤ用縫い目
21 内層
22 中間層
23 外層
25 縫い目
C 下顎
N 鼻
P 通気路
S 空間