(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066052
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】微生物捕集装置及び微生物評価方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20220421BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220421BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220421BHJP
C12Q 1/24 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M1/00 C
C12N1/00 Z
C12Q1/24
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174957
(22)【出願日】2020-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】519367935
【氏名又は名称】ピコテクバイオ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520146525
【氏名又は名称】Zigen.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳則
(72)【発明者】
【氏名】関根 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大野 剛嗣
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA09
4B029BB01
4B029GA08
4B029GB05
4B029HA10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QS10
4B063QS11
4B063QX01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA86X
4B065BA30
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】微生物を捕捉するフィルタの目詰まりを抑制し、空気中に浮遊する微生物を容易にサイズごとに切り分けて評価できるようにする。
【解決手段】微生物捕集装置は、吸気口及び排気口を有し、前記吸気口から吸気した空気を前記排気口から排気するようにファンを内蔵する筐体と、前記吸気口から前記排気口へ向かう空気の流通経路上における前記ファンよりも上流の位置において前記筐体に対して脱着可能に取り付けられたトラップチップと、を備え、前記トラップチップは、前記吸気口から前記排気口へ向かう空気中の微小物体を捕捉するための複数のフィルタを備え、前記複数のフィルタは、捕捉可能な微小物体のサイズの下限が互いに異なっており、それぞれのフィルタ面が前記吸気口から前記排気口へ向かう空気の流れ方向に対して略垂直であり、捕捉可能な微小物体のサイズの下限が大きいほど前記流れ方向における上流に位置するように前記空気の流れ方向に沿って互いに離間して配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口及び排気口を有し、前記吸気口から吸気した空気を前記排気口から排気するようにファンを内蔵する筐体と、
前記吸気口から前記排気口へ向かう空気の流通経路上における前記ファンよりも上流の位置において前記筐体に対して脱着可能に取り付けられたトラップチップと、を備え、
前記トラップチップは、前記吸気口から前記排気口へ向かう空気中の微小物体を捕捉するための複数のフィルタを備え、
前記複数のフィルタは、捕捉可能な微小物体のサイズが互いに異なっており、それぞれのフィルタ面が前記吸気口から前記排気口へ向かう空気の流れ方向に対して略垂直であり、捕捉可能な微小物体のサイズが大きいほど前記流れ方向における上流に位置するように前記空気の流れ方向に沿って互いに離間して配置されている、微生物捕集装置。
【請求項2】
前記トラップチップは、前記複数のフィルタのそれぞれを個別に保持する複数の部材が互いに分離可能な態様で一体化されて構成されている、請求項1に記載の微生物捕集装置。
【請求項3】
前記筐体は、前記吸気口を上面に有し、前記排気口を側面に有する、請求項1又は2に記載の微生物捕集装置。
【請求項4】
一定方向に流れる空気の経路上に、捕捉可能な微小物体のサイズが互いに異なる複数のフィルタを、捕捉可能な微小物体のサイズが大きいほど前記空気の流れ方向における上流に位置するように互いに離間して配置し、前記複数のフィルタのそれぞれによって互いにサイズの異なる微生物を捕集する捕集ステップと、
前記捕集ステップにより微生物を捕捉した前記複数のフィルタのそれぞれを互いに分離する分離ステップと、
前記分離ステップにより分離された前記複数のフィルタのうち少なくとも1つのフィルタに捕捉された微生物の評価を行なう評価ステップと、を備えている微生物評価方法。
【請求項5】
前記分離ステップの後でかつ前記評価ステップの前に、前記少なくとも1つのフィルタのそれぞれに捕捉された微生物の増幅又は培養を行なう増幅/培養ステップを備えている、請求項4に記載の微生物評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物捕集装置及び微生物評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カビ、細菌、ウイルスといった微生物が空気中に浮遊しており、そのような微生物を空気中から除去するための空気清浄器も販売されている。また、空気中に浮遊する微生物の存在量等を評価ために、空気中に浮遊している微生物を捕集する微生物捕集装置も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている微生物捕集装置では、空気中に浮遊する様々な微生物をフィルタで捕捉し、微生物の浮遊状況を把握するための検証に供することが可能である。一方で、様々なサイズの微生物をフィルタで捕捉することになるため、特定のサイズの微生物だけを捕集し評価するといったことは難しい。また、メンブレンなどの網状のフィルタを使用して捕集しようとするとき、フィルタの目詰まりなどによって1時間を越える捕集、捕獲の際にはその機能が満たされない場合がある。
【0005】
本発明は、微生物を捕捉するフィルタの目詰まりを抑制しつつ、空気中に浮遊する微生物を容易にサイズごとに切り分けて評価できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る微生物捕集装置は、吸気口及び排気口を有し、前記吸気口から吸気した空気を前記排気口から排気するようにファンを内蔵する筐体と、前記吸気口から前記排気口へ向かう空気の流通経路上における前記ファンよりも上流の位置において前記筐体に対して脱着可能に取り付けられたトラップチップと、を備え、前記トラップチップは、前記吸気口から前記排気口へ向かう空気中の微小物体を捕捉するための複数のフィルタを備え、前記複数のフィルタは、捕捉可能な微小物体のサイズの下限が互いに異なっており、それぞれのフィルタ面が前記吸気口から前記排気口へ向かう空気の流れ方向に対して略垂直であり、捕捉可能な微小物体のサイズの下限が大きいほど前記流れ方向における上流に位置するように前記空気の流れ方向に沿って互いに離間して配置されている。なお、本発明における「微生物」には、カビ、細菌、ウイルスなどが含まれる。
【0007】
本発明に係る微生物捕集装置の第1の態様では、前記トラップチップが、前記複数のフィルタのそれぞれを個別に保持する複数の部材が互いに分離可能な態様で一体化されて構成されている。このような態様により、互いに異なるサイズの微生物を捕捉した複数のフィルタをそれぞれ個別に取り出すことが容易である。
【0008】
本発明に係る微生物捕集装置の第2の態様では、前記筐体は、前記吸気口を上面に有し、前記排気口を側面に有する。
【0009】
本発明に係る微生物評価方法では、一定方向に流れる空気の経路上に、捕捉可能な微小物体のサイズの下限が互いに異なる複数のフィルタを、捕捉可能な微小物体のサイズの下限が大きいほど前記空気の流れ方向における上流に位置するように互いに離間して配置し、前記複数のフィルタのそれぞれによって互いにサイズの異なる微生物を捕集する捕集ステップと、前記捕集ステップにより微生物を捕捉した前記複数のフィルタのそれぞれを互いに分離する分離ステップと、前記分離ステップにより分離された前記複数のフィルタのうち少なくとも1つのフィルタに捕捉された微生物の評価を行なう評価ステップと、を備えている。
【0010】
本発明に係る微生物評価方法の1つの態様では、前記分離ステップの後でかつ前記評価ステップの前に、前記少なくとも1つのフィルタのそれぞれに捕捉された微生物を培養する培養ステップを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る微生物捕集装置によれば、吸気口から排気口へ向かって流れる空気の経路上に、複数のフィルタが、捕捉可能な微小物体のサイズの下限が大きいほど上流側にくるように設けられているので、空気中に浮遊する微生物をそのサイズごとに別々のフィルタによって捕捉することができる。これにより、微生物を捕捉するフィルタの目詰まりを抑制しつつ、空気中に浮遊する微生物を容易にサイズごとに切り分けて評価することが可能である。
【0012】
本発明に係る微生物評価方法によれば、捕捉可能な微小物体のサイズの下限が大きいほど上流側にくるように設けられた複数のフィルタによって空気中の微生物を捕集するので、フィルタの目詰まりが起こりにくく、長時間の微生物の捕集も可能である。そして、複数のフィルタを互いに分離して各フィルタに捕捉されている微生物の測定を実施するので、空気中に浮遊する微生物を容易にサイズごとに切り分けて評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】微生物捕集装置の一実施例を示す斜視図である。
【
図2】同実施例のトラップチップの構造の一例を示す断面図である。
【
図3】トラップチップがフィルタごとに分離された状態を示す断面図である。
【
図4】同実施例の微生物捕集装置を用いた微生物評価方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】同実施例の微生物捕集装置の各フィルタに捕捉された微生物の培養後の画像である。
【
図6】同実施例の微生物捕集装置に複数のフィルタを配置した場合と単一のフィルタを配置した場合における吸気性能への影響を比較するデータである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る微生物捕集装置及び微生物評価方法について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
【0016】
微生物捕集装置は筐体2を備え、筐体2の上面に吸気口4、下部側面に複数の排気口6が設けられ、筐体2の中段部分にファン8が設けられている。ファン8は、上方から吸気して下方へ排気するように設けられており、ファン8が駆動されることによって、吸気口4から排気口6へ向かう空気のフローが形成されるようになっている。筐体2は、ファン8から吸気口4へ上に向かうにつれて内径及び外径が拡大していくような形状を有している。
【0017】
筐体2内におけるファン8の上部、すなわち、吸気口4から排気口6へ向かう空気の流通経路上に、トラップチップ10が設けられている。トラップチップ10は、吸気口4から取り込まれた空気中の微生物(カビ、細菌、ウイルスなど)を捕集するためのものである。吸気口4から取り込まれた空気の少なくとも一部は、排気口6から排気される前にトラップチップ10を通過し、トラップチップ10を通過した空気中に浮遊していた微生物がトラップチップ10によって捕集される。
【0018】
図2に示されているように、トラップチップ10は複数の部材12、14、16及び18によって構成されている。部材12、14、16及び18のそれぞれは円筒形状を有し、部材12の上面に設けられた円柱状の窪みに部材14の下面に設けられた円柱状の凸部が嵌め込まれ、部材14の上面に設けられた円柱状の窪みに部材16の下面に設けられた円柱状の凸部が嵌め込まれ、部材16の上面に設けられた円柱状の窪みに部材18の下面に設けられた円柱状の凸部が嵌め込まれることによって、各部材12、14、16及び18が互いに連結されている。部材12、14、16及び18の素材に特に制限はなく、プラスチック樹脂などで構成することができる。
【0019】
部材12の中央部に通気ネット12aが設けられ、部材14の中央部に通気ネット14aが設けられ、部材16の中央部に通気ネット16aが設けられ、部材18の中央部に防塵ネット18aが設けられている。通気ネット12a、14a及び16aと防塵ネット18のそれぞれは、吸気口4から排気口6へ向かう空気の流れに対して略垂直に配置されている。
【0020】
通気ネット12a、14a及び16aのそれぞれの上に、微生物を捕捉するためのフィルタ20、22及び24が、各通気ネット12a、14a及び16aに対して平行に配置されている。各フィルタ20、22及び24は、捕捉可能な微生物のサイズの下限(すなわち、孔径)が互いに異なっており、吸気口4から排気口6へ向かう空気の流れ方向における上流にいくにしたがって孔径が大きくなるように、各フィルタ20、22及び24の孔径が選択されている。すなわち、フィルタ20、22及び24のうち最上段に位置するフィルタ24は最も孔径が大きく(例えば、100μm)、中段に位置するフィルタ22はその次に孔径が大きく(例えば、40μm)、最下段に位置するフィルタ20は最も孔径が小さい(例えば、1μm)。
【0021】
防塵ネット18は、空気中の粉塵が各フィルタ20、22及び24が設けられている領域へ侵入することを防止するためのものである。防塵ネット18は、例えば、孔径が1mm程度の金属製の網状部材である。通気ネット12a、14a及び16aは通気性があればよく、防塵ネット18と同等の部材であってよい。
【0022】
上記の構造により、トラップチップ10は、互いに孔径が異なる複数のフィルタ20、22及び24を互いに離間して保持し、空気中に浮遊する微生物をサイズレンジそれぞれのフィルタ20、22及び24によってサイズレンジで切り分けて捕捉することができる。
【0023】
図3に示されているように、トラップチップ10は、各部材12、14、16及び18を互いに分離することができ、それによって互いに異なるサイズレンジの微生物を捕捉したフィルタ20、22及び24を個別に取り出し、各フィルタ20、22及び24に捕捉された微生物の増幅処理や培養処理、さらにはその後の評価までを別々に行なうことができる。
【0024】
なお、上記の実施例では、トラップチップ10が4つの部材12、14、16及び18からなる4層構造となっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、2層、3層又は5層以上の構造を有していてもよい。すなわち、トラップチップ10によって保持されるフィルタの数は任意の変更することができ、必要なフィルタの数に応じてトラップチップ10の層構造を変更することができる。
【0025】
上記微生物捕集装置を用いた微生物の測定方法の一例について、
図1、
図2とともに
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0026】
まず、微生物捕集装置、複数のフィルタ20、22及び24を保持したトラップチップ10をセットした後、その微生物捕集装置を評価対象の室内の任意の場所に配置し、ファン8を駆動して一定時間(例えば12時間~24時間)、放置する。ファン8の風速は、最大で5m/s程度である。これにより、室内の空気中に浮遊する微生物がトラップチップ10の各フィルタ20、22及び24にサイズレンジごとに切り分けられた状態で捕集される(ステップS101)。
【0027】
微生物の捕集が終了した後、微生物捕集装置からトラップチップ10を取り出し、トラップチップ10の各部材12、14、16及び18を互いに分離し、評価したいサイズレンジのフィルタを取り出す(ステップS102)。そして、そのフィルタに捕捉された微生物の増幅処理又は培養処理を行なった後(ステップS103)、増幅又は培養後の微生物に基づく評価を画像処理等によって実施する(ステップS104)。例えば、微生物の培養を実施する場合は、対象のフィルタを専用の培地上に載置し、フィルタの表面を培地にスタンプし、その培地を収容する容器を密閉して一定時間(例えば12時間)、放置する。また、増幅処理としてはPCRが挙げられる。
【0028】
図5の(A)~(C)はそれぞれ、上記微生物捕集装置を24時間稼働させた後の上流フィルタ(フィルタ24)、中間フィルタ(フィルタ22)及び下流フィルタ(フィルタ20)をそれぞれ専用の培地にスタンプし、12時間放置したときの各培地の画像である。この図から明らかなように、フィルタ20、22及び24のそれぞれに微生物が捕捉されており、空気中の微生物がサイズレンジごとに切り分けられて培養されていることがわかる。
【0029】
図6は、
図1の微生物捕集装置を用い、トラップチップ10に3つのフィルタ20、22及び24(それぞれの孔径は1μm、40μm、100μm)を保持させた場合(3フィルタ)と、孔径1μmのフィルタを1枚のみ保持させた場合(単フィルタ)における、吸気口4からの吸気速度の低下度合いの比較データである。この検証では、ファン8の駆動開始時(測定開始時)の吸気口4からの吸気速度(m/s)と、ファン8の駆動を開始してから8時間経過後の吸気口4からの吸気速度(m/s)とを測定し、両者の比率(8時間経過後の吸気速度/測定開始時の吸気速度)を求めた。この比較データから明らかなように、トラップチップ10に互いに異なる孔径の複数のフィルタを配置すると、1枚のフィルタのみを配置するよりも吸気速度の低下が抑制されている。これは、トラップチップ10に互いに孔径の異なる複数のフィルタを保持させることによって、1枚のフィルタのみが保持されている場合に比べて各フィルタに捕捉される微小物体の量が低減され、それによって各フィルタでの目詰まりの発生が抑制されているからである。このように、互いに孔径の異なる複数のフィルタを使用することによって、フィルタでの目詰まりの発生及び吸気能力の低下が抑制され、微生物の捕集を長時間にわたって実施することが可能になることがわかる。