(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066073
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】シート材をダンベル形状に裁断する裁断装置と裁断方法
(51)【国際特許分類】
B26F 1/44 20060101AFI20220421BHJP
B26F 1/40 20060101ALI20220421BHJP
B26D 7/18 20060101ALI20220421BHJP
B26D 7/02 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
B26F1/44 B
B26F1/40 B
B26F1/44 D
B26F1/44 Z
B26D7/18 F
B26D7/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174986
(22)【出願日】2020-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】300082863
【氏名又は名称】喜岡 達
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】特許業務法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜岡 達
【テーマコード(参考)】
3C021
3C060
【Fターム(参考)】
3C021CA06
3C021FD02
3C060AA04
3C060AA06
3C060BA03
3C060BB05
3C060BD01
3C060BE09
3C060BG07
(57)【要約】
【課題】簡単かつ容易に、しかもタクトタイムを短縮して能率よく、高い寸法精度で試験片を裁断する。
【解決手段】裁断装置は、シート材6を受け台5に載せて筒状の打ち抜き刃物1でダンベル形状の試験片7に裁断する。筒状の打ち抜き刃物1は、下端部の外周面に外側刃面11を設けてなる片刃の刃物で、片刃の内周面には、シート材6の裁断方向を修正する修正刃面12を有し、外側刃面11と修正刃面12との先端縁にはシート材6をダンベル形状に打ち抜く刃先10を有し、打ち抜き刃物1の筒状内周面14と刃先10の間隔である偏在間隔(L2)が、筒状外周面13と刃先10との間隔である片刃間隔(L1)の1/4以下であって、片刃の刃先10が、打ち抜き刃物1の筒状内周面14から外側に偏在している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材を受け台に載せて筒状の打ち抜き刃物でダンベル形状の試験片に裁断する、シート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
筒状の前記打ち抜き刃物は、
下端部の外周面に外側刃面を設けてなる片刃の刃物で、
片刃の内周面には、シート材の裁断方向を修正する修正刃面を有し、
前記外側刃面と前記修正刃面との先端縁にはシート材をダンベル形状に打ち抜く刃先を有し、
前記打ち抜き刃物の筒状内周面と前記刃先の間隔である偏在間隔(L2)が、筒状外周面と前記刃先との間隔である片刃間隔(L1)の1/4以下であって、
片刃の前記刃先が、前記打ち抜き刃物の前記筒状内周面から外側に偏在してなることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記修正刃面の実質傾斜角が、5度以下であることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記修正刃面の上下幅(H)が、5mm以下であることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記打ち抜き刃物が、厚さを2mm以上の、焼き入れされた金属板であることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項5】
請求項4に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記修正刃面の傾斜角が、片刃の前記刃先に向かって大きくなることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項6】
裁断して試験片とするシート材を載せて裁断する裁断面を有する受け台と、
前記裁断面に向かって往復運動して、
前記裁断面のシート材を、
中央部の試験領域の両端部にチャッキング領域を設けてなるダンベル形状の試験片に裁断する筒状の打ち抜き刃物と、
前記打ち抜き刃物を、前記受け台の表面に直交する方向に往復運動させる駆動機構と、
筒状である前記打ち抜き刃物の筒状内周面の内側に相対的に往復運動自在に配置されてなる平面プッシャーと、
前記平面プッシャーを前記打ち抜き刃物の刃先から弾性的に突出させてなる弾性体と、を備え、
前記駆動機構は、
前記打ち抜き刃物と前記平面プッシャーとを往復運動する上下台を備え、
前記打ち抜き刃物は、往復運動しない状態で前記上下台に固定されるが、
前記平面プッシャーは、前記弾性体を介して往復運動自在に前記上下台に連結され、
前記平面プッシャーは、
前記裁断面との対向面には、前記シート材を押圧する平面状の押圧面を有し、
前記打ち抜き刃物の内周面と前記平面プッシャーの外周面との間には、
前記平面プッシャーが前記打ち抜き刃物に対して往復運動できるスリット隙間を設けており、
前記平面プッシャーは、前記打ち抜き刃物が前記シート材の非裁断位置において、前記弾性体に押し出されて、前記打ち抜き刃物の刃先から前記押圧面を突出位置に配置することを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項7】
請求項6に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記打ち抜き刃物が、
ダンベル形状である試験片の試験領域を裁断する試験領域裁断刃と、
チャッキング領域を裁断するチャッキング領域裁断刃とを有し、
前記平面プッシャーが、
前記試験領域裁断刃の内側に位置する細幅押圧部と、
前記チャッキング領域裁断刃の内側に位置する広幅押圧部とを備え、
前記試験領域裁断刃と前記細幅押圧部との間のスリット隙間が0.1mm以上であって2mm以下であることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記平面プッシャーの外形が、前記打ち抜き刃物の筒状内周面に沿うダンベル形状であることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項9】
請求項8に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記打ち抜き刃物の筒状内周面が、前記平面プッシャーを往復運動させるガイド筒であることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか一項に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、さらに、
筒状である前記打ち抜き刃物の筒状外周面の外側に相対的に往復運動自在に配置されてなるアウタープッシャーと、
前記アウタープッシャーを前記打ち抜き刃物の刃先から弾性的に突出させてなる弾性体と、を備え、
前記アウタープッシャーは、前記弾性体を介して往復運動自在に前記上下台に連結され、
前記アウタープッシャーは、
前記裁断面との対向面には、前記シート材を押圧する平面状の押圧面を有し、
前記アウタープッシャーは、前記打ち抜き刃物が前記シート材の非裁断位置において、前記弾性体に押し出されて、前記打ち抜き刃物の刃先から前記押圧面を突出位置に配置することを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項11】
請求項10に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記アウタープッシャーが、前記打ち抜き刃物を内側に配置する枠形状であって、その内形を前記打ち抜き刃物の筒状外周面に沿うダンベル形状としており、
前記アウタープッシャーの内周面と前記打ち抜き刃物の外周面との間には、前記アウタープッシャーが前記打ち抜き刃物に対して往復運動できる往復運動隙間を設けてなることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項12】
請求項11に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記平面プッシャーの外形が、前記打ち抜き刃物の筒状内周面に沿うダンベル形状で、
前記平面プッシャーの外周面と前記アウタープッシャーの内周面との間に前記打ち抜き刃物の通過隙間が形成されており、
前記通気隙間の幅(d)が、前記打ち抜き刃物の厚さよりも大きく8mm以下であることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項13】
請求項6ないし12のいずれか一項に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置であって、
前記弾性体が前記平面プッシャーを弾性的に押圧する押圧力が、前記打ち抜き刃物が前記シート材を裁断する裁断状態で、前記シート材の表面であって、前記打ち抜き刃物の試験領域で裁断される表面を実質的に平面状に保持する押圧力であることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置。
【請求項14】
裁断して試験片とするシート材を受け台の裁断面に載せて、打ち抜き刃物でもって、中央部の試験領域の両端部にチャッキング領域を有するダンベル形状の試験片に裁断するシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法であって、
以下の(A)~(F)の方法でシート材を裁断することを特徴とする、シート材をダンベル形状に裁断する裁断方法。
(A)前記打ち抜き刃物に、
先端部にはダンベル形状の刃先を有し、
下端部の外周面に外側刃面を設けてなる片刃の刃物で、
片刃の内周面には、シート材の裁断方向を修正する修正刃面を有し、
外側刃面と修正刃面との先端縁にはシート材をダンベル形状に打ち抜く刃先を有し、
前記打ち抜き刃物の筒状内周面と刃先の間隔(L2)が、
筒状外周面と刃先との間隔(L1)の1/4以下であって、
片刃の前記刃先を、筒状内周面から外側に偏在させてなる刃物を使用する。
(B)シート材の表面を押圧プレートでプレスして前記打ち抜き刃物で裁断する。
(C)筒状である前記打ち抜き刃物の内側において、シート材の表面を平面プッシャーの押圧面でプレスして裁断する。
(D)前記打ち抜き刃物と前記平面プッシャーを、
前記打ち抜き刃物を往復運動させる上下台で弾性体を介して往復運動してシート材を押圧する。
(E)前記平面プッシャーは、
ダンベル形状の筒状である打ち抜き刃物の横幅よりも小さい横幅であって、
前記打ち抜き刃物の内周面との間にスリット隙間を設けて、前記打ち抜き刃物の内側を往復運動される。
(F)前記平面プッシャーは、
前記打ち抜き刃物が前記シート材を裁断しない非裁断位置において、
前記打ち抜き刃物の刃先から突出する位置に前記押圧面を配置して、
前記打ち抜き刃物が前記シート材を裁断する状態では、
前記平面プッシャーで前記打ち抜き刃物の内側のシート材をプレスして裁断する。
【請求項15】
請求項14に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法であって、
前記シート材の表面を、弾性体を介して前記上下台に連結してなる押圧プレートでプレスして裁断すると共に、
前記押圧プレートが、前記平面プッシャーと、前記打ち抜き刃物の外側を押圧するアウタープッシャーとでプレスしてシート材を裁断することを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法。
【請求項16】
請求項15に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法であって、
前記アウタープッシャーを枠形状とすることを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法。
【請求項17】
請求項16に記載のシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法であって、
前記平面プッシャーと前記アウタープッシャーとで前記シート材をプレスして、
前記シート材を実質的に平面状に保持して前記打ち抜き刃物でダンベル形状に裁断することを特徴とするシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムやプラスチック等のシート材を、引張試験や衝撃試験等に用いられるダンベル形状の試験片を裁断する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の用途に使用される材料は、JISに基づいて引張試験や衝撃試験等の各種試験が行われる。たとえば、タイヤなどに使用されるゴムは、引張試験や衝撃試験をするために、ゴムを所定の厚さのゴムシートとし、これをダンベル形状の試験片に裁断している。シート材は、厚さと外形をJIS規格に適合する寸法に裁断して引張試験に使用される。
【0003】
シート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は開発されている。(特許文献1参照)
特許文献1に記載する裁断装置は、公開公報の[解決手段]に以下の構造として記載されている。
基台上に前後にスライド移動可能に配設されたスライドベースと、スライドベース上に水平回転可能に配設された回転ベースと、回転ベースの上にシート材を固定保持するクランプ機構と、回転ベースの上方に位置して基台に取り付けられ、シート材の打ち抜き加工を行うカッター装置とから試験片打ち抜き装置が構成される。カッター装置は、基台に固定されて下方に伸縮可能なシリンダロッドを有する昇降シリンダと、シリンダロッドの下端部に長手方向に延びて取り付けられた薄刃状の打ち抜き刃物とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の公報に記載される裁断装置は、直線状である1枚の打ち抜き刃物でシート材を裁断するので、試験片の両側を別々に裁断する必要がある。とくに、ダンベル形状の試験片を裁断するには、シート材又は打ち抜き刃物のいずれかを180度回転して2回に裁断する必要があるので、裁断装置は極めて複雑となり、さらにタクトタイムも長くなって能率よく多量生産できない欠点もある。さらに、ダンベル形状の両側を別々に裁断するので、裁断されるダンベル形状の寸法誤差を高い精度とするには、裁断装置にも高い精度が要求されて、装置コストが著しく高価となる欠点もある。
【0006】
さらに、従来の裁断装置は、裁断される試験片の寸法精度を高くするために、薄刃状の打ち抜き刃物を使用しているので、打ち抜き刃物の寿命が短く、刃物交換などのメンテナンスに手間がかかる欠点もある。打ち抜き刃物を厚くして寿命を長くできるが、厚い打ち抜き刃物で、厚いシート材をダンベル状に裁断すると、刃先の切断面が試験片の幅方向にずれて、正確な寸法に裁断できなくなる。
【0007】
本発明は以上の欠点を解消することを目的として開発されたもので、本発明の大切な目的は、簡単な構造の裁断装置で簡単かつ容易に、しかもタクトタイムを短縮して能率よく試験片を裁断でき、さらに高い寸法精度で試験片を裁断できるシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置と裁断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様に係るシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、シート材を受け台に載せて筒状の打ち抜き刃物でダンベル形状の試験片に裁断する。筒状の打ち抜き刃物は、下端部の外周面に外側刃面を設けてなる片刃の刃物で、片刃の内周面には、シート材の裁断方向を修正する修正刃面を有し、外側刃面と修正刃面との先端縁にはシート材をダンベル形状に打ち抜く刃先を有し、打ち抜き刃物の筒状内周面と刃先の間隔である偏在間隔(L2)が、筒状外周面と刃先との間隔である片刃間隔(L1)の1/4以下であって、片刃の刃先が、打ち抜き刃物の筒状内周面から外側に偏在している。
【0009】
本発明の他の態様に係るシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、裁断して試験片とするシート材を載せて裁断する裁断面を有する受け台と、裁断面に向かって往復運動して、裁断面のシート材を、中央部の試験領域の両端部にチャッキング領域を設けてなるダンベル形状の試験片に裁断する筒状の打ち抜き刃物と、打ち抜き刃物を受け台の表面に直交する方向に往復運動させる駆動機構と、筒状である打ち抜き刃物の筒状内周面の内側に相対的に往復運動自在に配置されてなる平面プッシャーと、平面プッシャーを打ち抜き刃物の刃先から弾性的に突出させてなる弾性体とを備えている。駆動機構は、打ち抜き刃物と平面プッシャーとを往復運動する上下台を備えている。打ち抜き刃物は、往復運動しない状態で上下台に固定されるが、平面プッシャーは、弾性体を介して往復運動自在に上下台に連結されている。平面プッシャーは、裁断面との対向面には、シート材を押圧する平面状の押圧面を有し、打ち抜き刃物の内周面と平面プッシャーの外周面との間には、平面プッシャーが打ち抜き刃物に対して往復運動できるスリット隙間を設けている。平面プッシャーは、打ち抜き刃物がシート材の非裁断位置において、弾性体に押し出されて、打ち抜き刃物の刃先から押圧面を突出位置に配置している。
【0010】
本発明のある態様にかかるシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法は、裁断して試験片とするシート材を受け台の裁断面に載せて、打ち抜き刃物でもって、中央部の試験領域の両端部にチャッキング領域を有するダンベル形状の試験片に裁断するシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法であって、以下の(A)~(F)の方法でシート材を裁断する。
(A)打ち抜き刃物には、先端部にはダンベル形状の刃先を有し、下端部の外周面に外側刃面を設けてなる片刃の刃物で、片刃の内周面には、シート材の裁断方向を修正する修正刃面を有し、外側刃面と修正刃面との先端縁にはシート材をダンベル形状に打ち抜く刃先を有し、打ち抜き刃物の筒状内周面と刃先の間隔(L2)が、筒状外周面と刃先との間隔(L1)の1/4以下であって、片刃の刃先を、筒状内周面から外側に偏在させてなる刃物を使用する。
(B)シート材の表面を押圧プレートでプレスして前記打ち抜き刃物で裁断する。
(C)筒状である打ち抜き刃物の内側において、シート材の表面を平面プッシャーの押圧面でプレスして裁断する。
(D)打ち抜き刃物と平面プッシャーを、打ち抜き刃物を往復運動させる上下台で弾性体を介して往復運動してシート材を押圧する。
(E)平面プッシャーは、ダンベル形状の筒状である打ち抜き刃物の横幅よりも小さい横幅であって、打ち抜き刃物の内周面との間にスリット隙間を設けて、打ち抜き刃物の内側を往復運動させる。
(F)平面プッシャーは、打ち抜き刃物がシート材を裁断しない非裁断位置において、打ち抜き刃物の刃先から突出する位置に押圧面を配置して、打ち抜き刃物がシート材を裁断する状態では、平面プッシャーで打ち抜き刃物の内側をプレスして裁断する。
【発明の効果】
【0011】
以上の裁断装置と裁断方法は、簡単な構造の裁断装置を使用して、簡単かつ容易に、しかもタクトタイムを短縮して能率よくシート材からダンベル形状の試験片を裁断でき、しかも試験片を高い寸法精度で裁断できる特長がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態1に係る裁断装置の概略正面図である。
【
図2】
図1に示す裁断装置の刃物ユニットを示す正面図である。
【
図4】
図2に示す刃物ユニットの垂直縦断面図であって、
図3のIV-IV線断面に相当する図である。
【
図5】
図2に示す刃物ユニットの垂直横断面図であって、
図3のV-V線断面に相当する図である。
【
図6】
図2に示す刃物ユニットの垂直横断面図であって、
図3のVI-VI線断面に相当する図である。
【
図7】打ち抜き刃物がシート材を裁断する状態を示す要部拡大断面図である。
【
図8】
図1の裁断装置で裁断される試験片の一例を示す斜視図である。
【
図9】刃物ユニットの他の一例を示す底面図である。
【
図10】
図9に示す刃物ユニットの垂直縦断面図である。
【
図11】本発明の実施形態2に係る裁断装置の打ち抜き刃物がシート材を裁断する状態を示す要部拡大断面図である。
【
図12】従来の裁断装置の打ち抜き刃物がシート材を裁断する状態を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のある実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、シート材を受け台に載せて筒状の打ち抜き刃物でダンベル形状の試験片に裁断する。筒状の打ち抜き刃物は、下端部の外周面に外側刃面を設けてなる片刃の刃物で、片刃の内周面には、シート材の裁断方向を修正する修正刃面を有し、外側刃面と修正刃面との先端縁にはシート材をダンベル形状に打ち抜く刃先を有し、打ち抜き刃物の筒状内周面と刃先の間隔である偏在間隔(L2)が、筒状外周面と刃先との間隔である片刃間隔(L1)の1/4以下であって、片刃の刃先が、打ち抜き刃物の筒状内周面から外側に偏在している。
【0014】
以上の裁断装置は、打ち抜き刃物を、筒状の内周面をほぼ垂直面として、外周面に外側刃面を設けて片刃の刃物とする。さらに片刃の内周面には修正刃面を設けて、外側刃面と修正刃面との先端縁を、ダンベル形状の刃先としている。さらに、打ち抜き刃物は、筒状内周面と刃先の間隔(L2)を、筒状外周面と刃先の間隔(L1)の1/4以下として、刃先を筒状内周面から外側に偏在させている。以上の打ち抜き刃物は、一回の打ち抜き加工で、シート材からダンベル形状の試験片を打ち抜きできるので、従来の裁断装置のように、試験片の両側を2工程で裁断する必要がない。また、シート材や打ち抜き刃物を180度回転して、ダンベル形状の両側を裁断する必要もなく、1工程の打ち抜き処理で、シート材からダンベル形状の試験片を能率よく打ち抜きできる。
【0015】
さらに、以上の打ち抜き刃物は、片刃の内周面に修正刃面を設けて、片刃の刃先を、内周面から外周面に偏在して配置する独特の刃先形状とするので、試験片を高い寸法精度でダンベル形状に打ち抜きできる。それは、刃先がシート材を裁断する工程で、修正刃面によって、シート材の内側に、正確にはダンベル形状の横幅を狭くする方向に片刃が食い込んで裁断するのを抑制できるからである。この状態でシート材を裁断する打ち抜き刃物は、片刃の内周面に設けている修正刃面で、刃先の裁断方向をシート材表面に対して直交する方向に修正して裁断できる。
【0016】
図7の拡大断面図は、刃先10がシート材6を裁断する状態を示している。この図は、刃先10がシート材6に食い込んで裁断するタイミングで、外側刃面11と修正刃面12とに作用する押圧力F1、F2を示している。この図に示すように、片刃の刃先10は、シート材6に食い込む状態で外側刃面11に横向きの力F1が発生して、ダンベル形状の横幅を狭くする方向に食い込む力が作用する。さらに、片刃の刃先10には、刃先10がシート材6に食い込む状態で、内側に設けている修正刃面12によって横向きの力F2が発生して、ダンベル形状の横幅を広くする方向に作用する。外側刃面11に作用するダンベル形状の横幅を狭くする力F1と、修正刃面12に作用するダンベル形状の横幅を広くする力F2とは互いにバランスして、ダンベル形状の横幅を正確な寸法で裁断する。
【0017】
さらに、以上の打ち抜き刃物は、刃先の内周面に設けている修正刃面の偏在間隔(L2)を、外側刃面の片刃間隔(L1)の1/4以下と小さくしている。刃先がシート材に食い込んで裁断する状態で、刃先がシート材に侵入する侵入方向は、刃先のわずかな領域が特に強い影響を与える。したがって、片刃の内周面にわずかな修正刃面を設けることで、刃先はシート材表面に直交する方向に侵入して裁断される試験片の横幅を一定に保持して裁断できる。
【0018】
さらにまた、以上の打ち抜き刃物は、刃先の内側に設けている修正刃面を外側刃面よりも小さくして、筒状内周面をほぼ垂直面としているので、裁断された試験片を打ち抜き刃物の内側にスムーズに挿入できる。打ち抜き刃物の内側にスムーズに挿入される試験片は、幅方向に強く押圧されることがない。このため、ダンベル形状に打ち抜きされた後、筒状内周面に挿入されて変形され、あるいは変質されることがなく、打ち抜き刃物からスムーズに押し出しできる。
【0019】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、修正刃面の実質傾斜角を、5度以下としている。
【0020】
本明細書において修正刃面の実質傾斜角は、
図7の拡大断面図に示すように、修正刃面の上下幅(H)に対する筒状内周面と刃先との間隔(L2)の傾斜角(α)すなわち、tanα=L2/Hを意味する。
【0021】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、修正刃面の上下幅(H)を5mm以下としている。
【0022】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、打ち抜き刃物が、厚さを2mm以上の、焼き入れされた金属板としている。
【0023】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、修正刃面の傾斜角を片刃の刃先に向かって大きくしている。
【0024】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、裁断して試験片とするシート材を載せて裁断する裁断面を有する受け台と、裁断面に向かって往復運動して、裁断面のシート材を、中央部の試験領域の両端部にチャッキング領域を設けてなるダンベル形状の試験片に裁断する筒状の打ち抜き刃物と、打ち抜き刃物を受け台の表面に直交する方向に往復運動させる駆動機構と、筒状である打ち抜き刃物の筒状内周面の内側に相対的に往復運動自在に配置されてなる平面プッシャーと、平面プッシャーを打ち抜き刃物の刃先から弾性的に突出させてなる弾性体とを備えている。駆動機構は、打ち抜き刃物と平面プッシャーとを往復運動する上下台を備えている。打ち抜き刃物は、往復運動しない状態で上下台に固定されるが、平面プッシャーは、弾性体を介して往復運動自在に上下台に連結されている。平面プッシャーは、裁断面との対向面には、シート材を押圧する平面状の押圧面を有し、打ち抜き刃物の内周面と平面プッシャーの外周面との間には、平面プッシャーが打ち抜き刃物に対して往復運動できるスリット隙間を設けており、平面プッシャーは、打ち抜き刃物がシート材の非裁断位置において、弾性体に押し出されて、打ち抜き刃物の刃先から押圧面を突出位置に配置している。
【0025】
図12の拡大断面図は、従来の裁断装置がシート材96を裁断する状態を示している。この図は、押圧プレートで押圧されないシート材96を裁断する状態を示す断面図である。この図は、打ち抜き刃物91がシート材96の裁断を開始する直前の状態を示している。シート材96は、打ち抜き刃物91の刃先92が接触した直後から裁断が開始されることはなく、この図に示すように、刃先92が所定の圧力でシート材96をプレスして圧縮した状態から裁断が開始される。刃先92で押圧されたシート材96は、刃先92の両側が弾性的に膨れた状態となるので、この状態で裁断が開始されたシート材96は、裁断された試験片97の横幅(W’)が広くなる。それは、膨れたシート材96の実質的な横幅(W’)が両側の刃先間隔(D)よりも広くなるからである。
【0026】
本発明の以上の実施態様の裁断装置は、平面プッシャーが、ダンベル形状の打ち抜き刃物の内側でシート材をプレスして裁断するので、極めて高い精度でダンベル形状の試験片を打ち抜きできる特長がある。それは、
図11の拡大断面図に示すように、平面プッシャー21でシート材6をプレスして平面状に保持して裁断するからである。とくに、以上の裁断装置は、打ち抜き刃物の筒状内周面と平面プッシャーの外周面との間にスリット隙間を設けており、平面プッシャーは、打ち抜き刃物がシート材を裁断しない位置、すなわちシート材に刃先が接触しない状態で、打ち抜き刃物の刃先から突出する位置に配置しているので、打ち抜き刃物の刃先がシート材を裁断する状態では、シート材を平面状に保持し、とくに、ダンベル形状の筒状である打ち抜き刃物の刃先の内側を平面状に保持して、シート材が膨れない状態として裁断するので、試験片の横幅を極めて高い精度で裁断できる。
【0027】
特に以上の裁断装置は、平面プッシャーが、打ち抜き刃物の筒状内周面との対向面をダンベル形状に沿う形状として、平面プッシャーでもって、刃先の内側でシート材を押圧する。このため、刃先に押圧されて湾曲形状に膨れようとするシート材を平面状に保持して裁断できるので、ダンベル形状の試験片を極めて高い精度で、とくに横幅の精度を高くして、裁断できる特長がある。試験片の横幅の誤差は、引張強度の精度を低下させる原因となるので、試験片の横幅を高い精度で裁断できる以上の装置は、試験機でもって試験片の引張強度を高精度に測定できる特長を実現する。
【0028】
さらに、以上の裁断装置は、打ち抜き刃物がシート材の非裁断位置において、平面プッシャーが弾性体に押し出されて、打ち抜き刃物の刃先から押圧面を突出位置に配置するので、打ち抜き刃物の刃先を平面プッシャーで被覆して刃先を保護できると共に、作業者が不意に刃先に触れるのを防止して安全に使用できる。
【0029】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、打ち抜き刃物が、ダンベル形状である試験片の試験領域を裁断する試験領域裁断刃と、チャッキング領域を裁断するチャッキング領域裁断刃とを有し、平面プッシャーが、試験領域裁断刃の内側に位置する細幅押圧部と、チャッキング領域裁断刃の内側に位置する広幅押圧部とを備え、試験領域裁断刃と細幅押圧部との間のスリット隙間を0.1mm以上であって2mm以下としている。
【0030】
以上の裁断装置は、打ち抜き刃物の試験領域裁断刃と平面プッシャーの細幅押圧部との間にスリット隙間を設けているので、平面プッシャーの細幅押圧部を打ち抜き刃物の筒状内周面に沿ってスムーズに往復運動させながら、試験領域裁断刃で裁断される試験領域の横幅を極めて高い精度にできる。
【0031】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、平面プッシャーの外形を、打ち抜き刃物の筒状内周面に沿うダンベル形状としている。
【0032】
以上の裁断装置は、平面プッシャーで試験片の全体外形を高い寸法精度で打ち抜きでき、また、裁断されて筒状内周面に案内された試験片を、平面プッシャーでスムーズに押し出しできる。
【0033】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、打ち抜き刃物の筒状内周面を、平面プッシャーを往復運動させるガイド筒としている。
【0034】
以上の裁断装置は、平面プッシャーを往復運動させるためな専用のガイドを設けることなく、簡単な構造で平面プッシャーを往復運動できる特長がある。
【0035】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、さらに、筒状である打ち抜き刃物の筒状外周面の外側に相対的に往復運動自在に配置されてなるアウタープッシャーと、アウタープッシャーを打ち抜き刃物の刃先から弾性的に突出させてなる弾性体とを備えている。アウタープッシャーは、弾性体を介して往復運動自在に上下台に連結され、裁断面との対向面には、シート材を押圧する平面状の押圧面を有している。アウタープッシャーは、打ち抜き刃物がシート材の非裁断位置において、弾性体に押し出されて、打ち抜き刃物の刃先から押圧面を突出位置に配置している。
【0036】
以上の裁断装置は、打ち抜き刃物の外周面の外側にアウタープッシャーを備えて、アウタープッシャーでシート材をプレスして平面状に保持して裁断するので、刃先で裁断されるシート材が外側方向に変形するのを抑制して、試験片の横幅を高い精度で裁断できる。さらに、アウタープッシャーは、弾性体を介して連結台に連結しているので、打ち抜き刃物の刃先がシート材を裁断する状態では、弾性体を介して所定の押圧力でシート材をプレスして、シート材の変形を抑制する状態で裁断できる。
【0037】
さらに、以上の裁断装置は、打ち抜き刃物がシート材の非裁断位置において、アウタープッシャーが弾性体に押し出されて、打ち抜き刃物の刃先から押圧面を突出位置に配置するので、打ち抜き刃物の刃先をアウタープッシャーで被覆して刃先を保護できると共に、作業者が不意に刃先に触れるのを防止して安全に使用できる。
【0038】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、アウタープッシャーが、打ち抜き刃物を内側に配置する枠形状であって、その内形を打ち抜き刃物の筒状外周面に沿うダンベル形状としており、アウタープッシャーの内周面と打ち抜き刃物の外周面との間には、アウタープッシャーが打ち抜き刃物に対して往復運動できる往復運動隙間を設けている。
【0039】
以上の裁断装置は、アウタープッシャーの内周面と打ち抜き刃物の外周面との間に往復運動隙間を設けているので、アウタープッシャーを打ち抜き刃物の筒状外周面に沿ってスムーズに往復運動させながら、打ち抜き刃物の外側においてアウタープッシャーでシート材を確実にプレスして平面状に保持できる。とくに、枠形状のアウタープッシャーの内形を打ち抜き刃物の筒状外周面に沿うダンベル形状とすることで、打ち抜き刃物の外側全体において、シート材をアウタープッシャーで理想的にプレスしながら裁断できる。
【0040】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、平面プッシャーの外形が、打ち抜き刃物の筒状内周面に沿うダンベル形状として、平面プッシャーの外周面とアウタープッシャーの内周面との間に打ち抜き刃物の通過隙間を形成しており、通気隙間の幅(d)を、打ち抜き刃物の厚さよりも大きく8mm以下としている。
【0041】
以上の裁断装置は、平面プッシャーの外周面とアウタープッシャーの内周面との間に形成される通過隙間の幅を打ち抜き刃物の厚さよりも大きくすることで、平面プッシャー及びアウタープッシャーを打ち抜き刃物に対してスムーズに往復運動させながら、通過隙間の幅を8mm以下とすることで、通過隙間に作業者の指先が侵入するのを確実に防止でき、作業者が不意に刃先に触れるのを阻止して安全に使用できる。
【0042】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装置は、弾性体が平面プッシャーを弾性的に押圧する押圧力を、打ち抜き刃物がシート材を裁断する裁断状態で、シート材の表面であって、打ち抜き刃物の試験領域で裁断される表面を実質的に平面状に保持する押圧力としている。
【0043】
本発明のある実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断装方法は、裁断して試験片とするシート材を受け台の裁断面に載せて、打ち抜き刃物でもって、中央部の試験領域の両端部にチャッキング領域を有するダンベル形状の試験片に裁断するシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法であって、以下の(A)~(F)の方法でシート材を裁断する。
(A)打ち抜き刃物には、先端部にはダンベル形状の刃先を有し、下端部の外周面に外側刃面を設けてなる片刃の刃物で、片刃の内周面には、シート材の裁断方向を修正する修正刃面を有し、外側刃面と修正刃面との先端縁にはシート材をダンベル形状に打ち抜く刃先を有し、打ち抜き刃物の筒状内周面と刃先の間隔(L2)が、筒状外周面と刃先との間隔(L1)の1/4以下であって、片刃の刃先を、筒状内周面から外側に偏在させてなる刃物を使用する。
(B)シート材の表面を押圧プレートでプレスして前記打ち抜き刃物で裁断する。
(C)筒状である打ち抜き刃物の内側において、シート材の表面を平面プッシャーの押圧面でプレスして裁断する。
(D)打ち抜き刃物と平面プッシャーを、打ち抜き刃物を往復運動させる上下台で弾性体を介して往復運動してシート材を押圧する。
(E)平面プッシャーは、ダンベル形状の筒状である打ち抜き刃物の横幅よりも小さい横幅であって、打ち抜き刃物の内周面との間にスリット隙間を設けて、打ち抜き刃物の内側を往復運動させる。
(F)平面プッシャーは、打ち抜き刃物がシート材を裁断しない非裁断位置において、打ち抜き刃物の刃先から突出する位置に押圧面を配置して、打ち抜き刃物がシート材を裁断する状態では、平面プッシャーで打ち抜き刃物の内側をプレスして裁断する。
【0044】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法は、シート材の表面を、弾性体を介して上下台に連結してなる押圧プレートでプレスして裁断すると共に、押圧プレートが、平面プッシャーと、打ち抜き刃物の外側を押圧するアウタープッシャーとでシート材をプレスしてシート材を裁断する。
【0045】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法は、アウタープッシャーを枠形状とする。
【0046】
本発明の他の実施態様のシート材をダンベル形状に裁断する裁断方法は、平面プッシャーとアウタープッシャーとでシート材をプレスして、シート材を実質的に平面状に保持して打ち抜き刃物でダンベル形状に裁断する。
【0047】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体例を示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0048】
(実施形態1)
図1に示すシート材をダンベル形状の試験片に裁断する裁断装置100は、裁断して試験片とするシート材6を載せて裁断する裁断面50を有する受け台5と、裁断面50に向かって往復運動して、裁断面50のシート材6を、ダンベル形状の試験片に裁断する筒状の打ち抜き刃物1と、打ち抜き刃物1を、受け台5の表面に直交する方向に往復運動させる駆動機構4とを備える。
【0049】
さらに、裁断装置100は、好ましくは
図2~
図7に示すように、打ち抜き刃物1で裁断されるシート材6を平面状に保持して裁断する押圧プレート2を備える。押圧プレート2は、打ち抜き刃物1でシート材6を裁断するタイミングで、平面状の下面でシート材6をプレスして平面状に保持する。押圧プレート2のある裁断装置100は、試験片を高い寸法精度で裁断できるが、裁断装置100は必ずしも押圧プレート2を設けることなく、シート材6をダンベル形状の試験片に打ち抜きすることもできる。ダンベル形状の試験片7は、
図8に示すように、中央部には細幅の試験領域7Xを設けて、試験領域7Xの両端には広幅のチャッキング領域7Yを設けている。試験片7は、両端のチャッキング領域7Yを試験機でチャッキングして、特定の横幅(W)に裁断している試験領域7Xの引張強度が測定される。
【0050】
(受け台5)
受け台5は金属製で、上面に設けている裁断面50を平滑な平面として水平姿勢に配置している。ただし、受け台5は、全体又は表面をプラスチックやゴム製とすることもできる。金属製の受け台5は、
図1に示すように、裁断面50に緩衝シート51を載せている。緩衝シート51は、打ち抜き刃物1の刃先10の損傷を防止しながらシート材6をダンベル形状に打ち抜きできる。緩衝シート51は、厚さを1mm~5mmとするプラスチック製のシートである。上面に緩衝シート51を積層している受け台5は、打ち抜き刃物1でシート材6を打ち抜きする状態で、打ち抜き刃物1の刃先10を緩衝シート3に密着し、あるいは打ち抜き刃物1の刃先10を緩衝シート3の表面に挿入して、シート材6から試験片7の全周を綺麗に裁断できる。ただし、受け台5は、必ずしも上面にプラスチック製の緩衝シート51を配置する必要はなく、プラスチック製の緩衝シート51に代わって、刃先10で切断されるが打ち抜き刃物1の刃先10を損傷させないプラスチック以外の緩衝シート51、例えば真鍮や鉛などの受け台5よりも柔らかい金属などを積層し、あるいは緩衝シート51を積層することなく、受け台5の裁断面50に打ち抜き刃物1を接近ないし接触させて、シート材6を打ち抜き加工して裁断することもできる。
【0051】
(駆動機構4)
駆動機構4は、打ち抜き刃物1を水平姿勢に保持して、垂直方向に往復運動させて載せ台の裁断面50に載せたシート材6を裁断してダンベル形状の試験片7に打ち抜きする。駆動機構4は、打ち抜き刃物1を固定している上下台41と、この上下台41を上下に往復運動させるシリンダ42とを備える。打ち抜き刃物1は、上下台41の下面に垂直姿勢に固定され、シリンダ42が上下に往復運動して、受け台5に載せているシート材6をダンベル形状の試験片7に打ち抜きする。さらに、押圧プレート2を備える裁断装置100は、上下台41に弾性体20を介して押圧プレート2を連結している。
【0052】
(打ち抜き刃物1)
打ち抜き刃物1は、
図2~
図7に示すように、下端縁の刃先10でシート材6をダンベル形状に裁断する筒状で、好ましくは厚さを2mm以上とする金属板で製作される。打ち抜き刃物1は、焼き入れできる鋼材で製作されるが、好ましくは、加工性に優れた炭素鋼が適している。炭素鋼は、要求される硬さと脆さとを考慮して炭素の含有量を最適値に調整する。打ち抜き刃物1の金属板は、炭素の含有量を多くして硬くできる。ただ、炭素の含有量が多くなると脆くなるので、刃物に加工される鋼材の炭素の含有量は、例えば0.4%以上であって1.4%以下、好ましくは0.45%以上であって0.7%以下とする。
【0053】
打ち抜き刃物1は、
図7の拡大断面図に示すように、筒状の金属板の先端部を、砥石やヤスリで研削して片刃の刃先10を設けている。片刃の刃先10は、筒状の金属板の下端部の外周面を研削し、研磨して外側刃面11を設けて製作する。さらに、打ち抜き刃物1は、片刃の内周面を研削し研磨して、シート材6の裁断方向を修正する修正刃面12を設けている。打ち抜き刃物1は、外側刃面11と修正刃面12との先端縁を刃先10とし、この刃先10でもって、シート材6をダンベル形状に打ち抜く。打ち抜き刃物1は、片刃の刃先10を、筒状内周面14から外側に偏在して配置している。この刃先10は、筒状内周面14と刃先10の間隔である偏在間隔(L2)を、筒状外周面13と刃先10との間隔である片刃間隔(L1)の1/4以下とする位置にある。
【0054】
刃先10の偏在間隔(L2)は、ダンベル形状に裁断する試験片7の横幅を最も正確な寸法に裁断する間隔に設定する。とくに、ダンベル形状に裁断される試験片7の試験領域7Xの横幅(W)が、厚さ方向にずれることなく正確な寸法で裁断できる間隔に設定する。刃先10の偏在間隔(L2)は、刃先10がシート材6に食い込んで裁断するに従って、ダンベル形状の横幅を広くするように作用する。刃先を筒状内周面に配置する偏在間隔(L2)を0とする片刃は、シート材に食い込んで裁断するに従って、ダンベル形状に裁断する試験片97の横幅が次第に狭くなる(
図12参照)。ダンベル形状の試験片は、試験領域の両端部に設けたチャッキング領域を試験機でチャッキングして、試験領域を破断して引張強度を測定する。このことから、ダンベル形状の試験片は、試験領域の横幅(W)を高い精度で裁断することが極めて大切である。打ち抜き刃物1に設けた偏在間隔(L2)は、片刃の刃先10がシート材6に食い込んで裁断するに従って、試験領域7Xの横幅(W)を次第に細くするのを防止する。片刃の打ち抜き刃物1は、偏在間隔(L2)を大きくして、刃先10がシート材6に食い込んで裁断するにしたがって細くなる試験片7の横幅を広くできる。偏在間隔(L2)が大きすぎると、試験片7の横幅が裁断するに従って広くなるので、片刃の打ち抜き刃物1は、偏在間隔(L2)を片刃間隔(L1)の1/4以下とする。ただ、偏在間隔(L2)が小さすぎると、裁断される試験片7の横幅が次第に細くなるので、例えば、偏在間隔(L2)は裁断するシート材6の材質や厚さを考慮して、片刃間隔(L1)の1/10以上、好ましくは1/8以上であって、1/4以下とする。
【0055】
偏在間隔(L2)は、修正刃面12の実質傾斜角と上下幅(H)で調整できる。片刃の打ち抜き刃物1は、好ましくは、修正刃面12の実質傾斜角を5度以下、上下幅(H)を50mm以下として、刃先10を前述の位置に配置する。以上の打ち抜き刃物1は、たとえば、金属板の厚さを3mm、偏在間隔(L2)を0.5mm、片刃間隔(L1)を2.5mmとして、厚さを4mmとするプラスチック板を正確な横幅のダンベル形状の試験片7に裁断できる。
【0056】
修正刃面12の実質傾斜角とは、
図7の拡大断面図に示すように、修正刃面12の上下幅(H)に対する筒状内周面14と刃先10との間隔(L2)の傾斜角(α)すなわち、tanα=L2/Hを意味する。修正刃面12は、傾斜角(α)を一定とする平面状の刃面とすることもできるが、好ましくは
図7に示すように、傾斜角(α)が刃先10に向かって次第に大きくなる形状とする。
【0057】
(押圧プレート2)
裁断装置100は、シート材6の変形を防止して高い寸法精度で裁断する押圧プレート2を備える。押圧プレート2は、シート材6を裁断面50にプレスして、打ち抜き刃物1が裁断するタイミングにおいて、シート材6の変形、とくに刃先10の側面での膨れを阻止して、試験片7の寸法精度を高くする。
図2~
図6に示す押圧プレート2は、打ち抜き刃物1の筒状内周面14の内側に位置する平面プッシャー21と、筒状外周面13の外側に位置するアウタープッシャー22を備える。
図1の裁断装置100は、平面プッシャー21とアウタープッシャー22で刃先10の内側と外側においてシート材6を押圧するが、押圧プレート2は必ずしも刃先10の両側を押圧する必要はなく、図示しないが平面プッシャーのみを設け、あるいはアウタープッシャーのみを設けて試験片の寸法精度を向上できる。
【0058】
本発明は、試験片7に裁断するシート材6の材質を特定するものではないが、シート材6が裁断される瞬間をミクロに観察すると、刃先10がシート材6の表面を局所的にプレスして線状に凹んだ状態で裁断する。いかに鋭利な刃先10であっても、シート材6の表面を完全な平面状に保持して、すなわち刃先10がシート材6の表面に接触した瞬間から裁断を開始することはない。
【0059】
試験片7は、主として軟質プラスチック、硬質プラスチック、ゴム状弾性体などのシート材6を裁断して製作される。ゴム状弾性体や軟質のプラスチックは、裁断時に刃先10に押圧されて変形が大きいので、変形を防止することなく試験片7を裁断すると、試験片7の寸法誤差が大きくなる。硬質プラスチックは、軟質プラスチックやゴム状弾性体に比較して裁断時の変形が少なく、試験片7の寸法誤差を少なくはできるが、より高い精度での引張試験においては試験片7の寸法誤差は問題となる。
【0060】
押圧プレート2は、打ち抜き刃物1の往復運動に連動して往復運動して、裁断されるシート材6の表面を平面状にプレスして、刃先10による裁断時の変形を防止する。押圧プレート2の平面プッシャー21とアウタープッシャー22は、弾性体20を介して駆動機構4の上下台41に連結されている。上下に往復運動する上下台41は、弾性体20を介して平面プッシャー21とアウタープッシャー22を連結している。
【0061】
図1の概略正面図に示す裁断装置100の駆動機構4は、ロッド42aが伸縮するシリンダ42を、ロッド42aを下向きとする垂直姿勢で配置しており、ロッド42aの下端を上下台41の中央部に連結している。さらに、駆動機構4は、上下台41の両端部に対向して、一対のガイド機構43を備えており、ガイド筒部43bに挿通されたガイドロッド43aを垂直姿勢で配置して、ガイドロッド43aの下端を上下台41の両端部に連結している。以上の駆動機構4は、シリンダ42がロッド42aを伸縮する状態で、上下台41を水平姿勢に保持しながら上下に往復運動させる。
【0062】
上下台41は、打ち抜き刃物1と押圧プレート2を連結しているベースプレート30と、このベースプレート30を脱着自在に連結している本体部45とを備える。ベースプレート30は平面状の金属板で、
図2及び
図4に示すように、本体部45に脱着自在に連結する連結部31を上面に固定して、打ち抜き刃物1と押圧プレート2を下面に連結している。打ち抜き刃物1は、溶接してベースプレート30に固定され、押圧プレート2は弾性体20を介してベースプレート30に連結している。この構造は、打ち抜き刃物1と押圧プレート2とをベースプレート30に連結して刃物ユニット3として、便利に交換できる構造としている。
【0063】
(刃物ユニット3)
図2~
図6は刃物ユニット3を示し、
図2は正面図、
図3は底面図、
図4は垂直縦断面図、
図5は試験片7の中央部の試験領域7Xにおける横断面図、
図6は試験片7の端部のチャッキング領域7Yにおける横断面図をそれぞれ示している。これ等の図に示す刃物ユニット3は、連結部31を上面に固定してなるベースプレート30と、ベースプレート30の下面に固定してなる筒状の打ち抜き刃物1と、打ち抜き刃物1の筒状内周面14の内側に相対的に往復運動自在に配置してなる平面プッシャー21と、打ち抜き刃物1の筒状外周面13の外側に相対的に往復運動自在に配置してなるアウタープッシャー22とを備えている。平面プッシャー21は、弾性体20を介してベースプレート30に連結されており、平面プッシャー21を打ち抜き刃物1の刃先10から弾性的に突出させている。アウタープッシャー22は、弾性体20を介してベースプレート30に連結されており、アウタープッシャー22を打ち抜き刃物1の刃先10から弾性的に突出させている。
【0064】
(平面プッシャー21)
図2~
図6に示す平面プッシャー21は、その外形を、打ち抜き刃物1の筒状内周面14に沿うダンベル形状であって、ダンベル形状の筒状である打ち抜き刃物1の内形よりも僅かに小さいダンベル形状としている。打ち抜き刃物1は、ダンベル形状である試験片7の試験領域7Xを裁断する試験領域裁断刃1Xと、チャッキング領域7Yを裁断するチャッキング領域裁断刃1Yとを備えている。平面プッシャー21は、試験領域裁断刃1Xの内側に位置する細幅押圧部21Xと、チャッキング領域裁断刃1Yの内側に位置する広幅押圧部21Yとを備えている。平面プッシャー21は、下面を押圧面21aとしており、打ち抜き刃物1の内側にあって、打ち抜き刃物1に対して相対的に上下方向に往復運動する。平面プッシャー21は、打ち抜き刃物1がシート材6の非裁断位置において、弾性体20に押し出されて、打ち抜き刃物1の刃先10から押圧面21aを突出位置に配置している。また、平面プッシャー21は、押打ち抜き刃物1の筒状内周面14との間に狭いスリット隙間33を設けている。この平面プッシャー21は、打ち抜き刃物1をガイド筒として、打ち抜き刃物1に対して相対的に上下に往復運動できる。
【0065】
平面プッシャー21は、打ち抜き刃物1とのスリット隙間33を狭くして、試験片7をより高い精度でダンベル形状に打ち抜きできる。スリット隙間33を狭くして、平面プッシャー21の外周縁を刃先10の側面に接近できる。この平面プッシャー21は、刃先10の側面におけるシート材6の変形を防止して、試験片7の寸法精度を高くする。ただし、スリット隙間33は、狭すぎると、平面プッシャー21が筒状内周面14の内側でスムーズに往復運動するのが難しくなる。したがって、平面プッシャー21と筒状内周面14とのスリット隙間33は、好ましくは0.1mm以上であって2mm以下、さらに好ましくは0.2mm以上であって1mm以下とする。ダンベル形状の平面プッシャー21は、試験片7の外周全体を高い寸法精度で打ち抜きでき、さらに裁断されて筒状内周面14に挿入された試験片7を、弾性体20でスムーズに打ち抜き刃物1から押し出しできる特長も実現する。
【0066】
試験片7の寸法はISO規格で特定されている。例えば、ISO974:2000は、
試験片7の中央部の試験領域7Xの幅を2.50mm、全長を20mm、厚さを2.5mm、試験領域7Xの寸法精度を2.50±0.05mmに規定している。
【0067】
図12は、両側の刃先間隔(D)を2.5mmとする従来の片刃の試験領域裁断刃91が、2.5mmの厚さのゴム状のシート材96を裁断する拡大断面図を示している。この図に示すように、シート材96を裁断する直前の刃先92は、シート材96の表面を局所的に線状にプレスして溝状に押し込む。この状態で、片刃の外側刃面93がシート材96をプレスする。片刃の刃先92は、矢印Aで示すように、刃先92の方向が内側に傾斜しているので、シート材96と刃先92との摩擦抵抗は、矢印Bで示す方向が逆方向よりも小さく、外側刃面93でプレスされたシート材96を試験領域裁断刃92の内側に押し込んで、裁断されて試験片97の試験領域97Xとなる領域を
図12に示すように湾曲形状に変形する。湾曲面に変形した試験領域97Xの実質横幅(W’)は、刃先10の内幅の2.5mmよりも広くなる。この状態で刃先10がシート材6を裁断すると裁断された試験領域97Xの横幅(W’)は2.5mmよりも広くなる。本発明者の試験において、厚さ2.5mmのゴムシートを内幅2.5mmの片刃の打ち抜き刃物91で裁断すると、試験片7の試験領域97Xの横幅は2.55mmよりも広くなって、ISO規格を超える寸法誤差となる。
【0068】
図7の要部拡大断面図は、試験領域裁断刃1Xの内側を平面プッシャー21でプレスして片刃の刃先10で裁断する状態を示している。この図に示すように、平面プッシャー21がシート材6をプレスして片刃の刃先10でシート材6を裁断すると、裁断された試験片7の試験領域7Xの横幅は、刃先10の内幅である2.5mmにほぼ等しくなって、ISO規格の2.5±0.05mmの範囲内となる。さらに、試験片7の試験領域7Xの横幅(W)は、平面プッシャー21がシート材6をプレスする圧力を最適値に設定して、試験領域7Xをより高い精度で裁断できる。平面プッシャー21がシート材6をプレスする最適な圧力は、片刃の刃先10がシート材6を裁断するタイミングにおいて、試験領域裁断刃1Xの内側のシート材6を実質的に平面状に保持できる圧力に設定される。シート材6は、厚さ方向に加圧されて実質的に体積が変化しない非圧縮性の物性を示す。したがって、平面プッシャー21がシート材6をプレスする圧力は、シート材6が強くプレスされて「白化」するなどの、材質変化を起こさない限界圧力以下、たとえば限界圧力の80%以下、好ましくは50%以下であって、裁断されるシート材6の表面を平面状に保持できる圧力に設定する。たとえば、ゴム状弾性のシート材6を加圧する平面プッシャー21は、刃先10と同一平面に位置する状態でシート材6を加圧する圧力を、例えば0.1kg/cm
2以上であって10kg/cm
2以下として、シート材6を平面状に保持し、材質を変質させることなく高い寸法精度で裁断できる。
【0069】
平面プッシャー21は、必ずしもダンベル形状の外形とする必要はない。試験片7は、試験領域7Xの横幅に高い寸法精度が要求される。試験領域7Xの引張強度を検出してシート材6の引張強度を測定するからである。試験片7は、試験領域7Xの横幅が規格寸法よりも細くなると、シート材6の引張強度は弱く検出されて、正確な引張強度を測定できない。このことから、裁断装置100は、試験片7の試験領域7Xの横幅を高い寸法精度で裁断することが特に大切である。試験機にチャッキングされるチャッキング領域7Yの横幅には、必ずしも高い寸法精度は要求されない。試験片7のチャッキング領域7Yは、確実にチャッキングできる横幅で足りるからである。
【0070】
(平面プッシャーの他の例)
図9の底面図に示す刃物ユニット3Aの押圧プレート2Aは、平面プッシャー21Aの全体の横幅を、試験片7の試験領域7Xを裁断する試験領域裁断刃1Xの内幅よりもわずかに狭い横幅の長方形としている。打ち抜き刃物1は、試験片7の試験領域7Xを裁断する試験領域裁断刃1Xと、チャッキング領域7Yを裁断するチャッキング領域裁断刃1Yとを有し、試験領域裁断刃1Xの間隔をチャッキング領域裁断刃1Yの間隔よりも狭くしてシート材6をダンベル形状に裁断する。試験領域裁断刃1Xとチャッキング領域裁断刃1Yの境界部分は、試験領域裁断刃1Xからチャッキング領域裁断刃1Yに向かって間隔を次第に広くしている。
【0071】
図9の平面プッシャー21Aは、試験領域裁断刃1Xの内側に位置する細幅押圧部21XAと、チャッキング領域裁断刃1Yの内側に位置する広幅押圧部21YAとからなる。
図9の平面プッシャー21Aは、細幅押圧部21XAと広幅押圧部21YAの横幅を同じ寸法として、全体を長方形としている。この平面プッシャー21Aは、試験領域裁断刃1Xの内側に接近して、試験領域裁断刃1Xで裁断されるダンベル形状の試験領域7Xの幅方向の寸精度を高くする。以上の形状の平面プッシャー21Aは、
図9及び
図10に示すように、平面プッシャー21Aの上面に配置された支持プレート36を介して筒状の打ち抜き刃物1の内側を上下方向に往復運動できるようにベースプレート30に連結している。図の支持プレート36は、底面形状をダンベル状とする金属板で、中央部の幅狭部36aの下面に、試験領域裁断刃1Xの内側に配置される平面プッシャー21Aを固定し、両端の幅広部36bを連結ロッド31と弾性体20とを介してベースプレート30に連結している。
【0072】
全体の形状を長方形とする平面プッシャー21Aの横幅は、打ち抜き刃物1の試験領域裁断刃1Xと間のスリット隙間33が、好ましくは0.1mm以上であって2mm以下、さらに好ましくは0.2mm以上であって1mm以下とする横幅とする。この平面プッシャー21Aは、試験領域裁断刃1Xの内側に接近してシート材6を押圧するので、打ち抜き刃物1で試験片7の試験領域7Xの横幅を高い寸法精度で裁断できる。
図9の平面プッシャー21Aは、全体の横幅を同一幅の長方形として、試験領域裁断刃1Xの内側に接近する形状としているが、平面プッシャー21は、試験領域裁断刃1Xとのスリット隙間33を狭くして、チャッキング領域裁断刃1Yとのスリット隙間33Aを広くして、試験片7の試験領域7Xの横幅を高い寸法精度で裁断することもできる。
【0073】
(アウタープッシャー22)
図2~
図6に示すアウタープッシャー22は、打ち抜き刃物1を内側に配置する枠形状であって、その内形を打ち抜き刃物1の筒状外周面13に沿うダンベル形状、具体的には、ダンベル形状の筒状である打ち抜き刃物1の外形よりも僅かに大きい内形としている。アウタープッシャー22は、下面を押圧面22aとしており、打ち抜き刃物1の外側にあって、打ち抜き刃物1に対して相対的に上下方向に往復運動する。アウタープッシャー22は、打ち抜き刃物1がシート材6の非裁断位置において、弾性体20に押し出されて、打ち抜き刃物1の刃先10から押圧面22aを突出位置に配置している。また、アウタープッシャー22の内周面と打ち抜き刃物1の外周面との間には、アウタープッシャー22を打ち抜き刃物1に対して往復運動させるための往復運動隙間34を設けている。
【0074】
枠形状のアウタープッシャー22は、一対の縦枠22mと一対の横枠22nとを直角に連結している。両側の縦枠22mは、打ち抜き刃物1の試験領域裁断刃1Xと対向する領域の横幅を広くしており、この部分の内周面を試験領域裁断刃1Xの外側面に接近させている。両端の横枠22nは横幅を等しくしている。アウタープッシャー22は、外形を長方形状とすると共に、四隅の角を削って湾曲部を設けることで、安全性を向上している。また、ベースプレート30についても、アウタープッシャー22と同様に外形を長方形状として四隅の角を削って湾曲部を設けることで、安全性を向上している。図に示す刃物ユニット3は、ベースプレート30とアウタープッシャー22の外形をほぼ等しくしている。
【0075】
図3に示す押圧プレート2は、平面プッシャー21の外形を、打ち抜き刃物1の筒状内周面14に沿うダンベル形状とすると共に、枠形状のアウタープッシャー22の内形を打ち抜き刃物1の筒状外周面13に沿うダンベル形状としており、平面プッシャー21の外周面とアウタープッシャー22の内周面との間に打ち抜き刃物1の通過隙間32を形成している。通過隙間32は、
図3に示すように、底面視において、所定の幅(d)を有するダンベル形状に形成されており、この通過隙間32に筒状の打ち抜き刃物1を通過させる状態でシート材6を打ち抜きできるようにしている。通過隙間32の幅(d)は、打ち抜き刃物1の厚さよりも大きくすると共に、8mm以下、好ましくは5mm以下としている。このように、通過隙間32の幅(d)を8mm以下とすることで、通過隙間32に作業者の指先が侵入するのを確実に防止でき、作業者が不意に刃先10に触れるのを阻止して安全に使用できるようにしている。また、
図3の押圧プレート2は、通過隙間32の幅(d)を均一にしているが、通過隙間32は、領域によって幅(d)を変更することもできる。とくに、打ち抜き刃物1の試験領域裁断刃1Xと対向する領域の通過隙間32の幅(d)を狭くすることで、試験片7の試験領域7Xの横幅の寸法精度をより高くできる。
【0076】
平面プッシャー21及びアウタープッシャー22からなる押圧プレート2は、例えば、プラスチック板や金属板が使用できる。プラスチック製の押圧プレート2として、たとえば、エンジニアリングプラスチックを所定の厚さに成形した板材が使用できる。このようなプラスチック板として、高強度で汎用性が高いナイロン、例えばMCナイロンが使用できる。ただ、ナイロン以外のプラスチックも使用できる。とくにプラスチック製の押圧プレート2とすることで、全体の厚さを厚くしながら軽量にできる。また、厚く成形された平面プッシャー21とアウタープッシャー22は、打ち抜き刃物1の刃先10から弾性的に突出させた状態で刃先10を確実に被覆できるので、作業者が刃先10に触れるのを防止して安全に使用できる。プラスチック製の押圧プレート2は、詳細には後述するが、刃先10からの突出量を考慮して、その厚さを5mm~20mm、好ましくは8mm~15mmとして強度を保証しながら、安全性を向上できる。
【0077】
以上の刃物ユニット3は、試験領域裁断刃1Xの内側のスリット隙間33を狭くしているので、裁断される試験片7の試験領域7Xの横幅の寸法精度を高くできる。また、アウタープッシャー22の縦枠22mの中央部を試験領域裁断刃1Xの外側に接近させることで、試験領域裁断刃1Xの外側に接近した領域においてシート材6の表面を押圧しながら裁断できるので、試験領域7Xの横幅を高い寸法精度で裁断できる。アウタープッシャー22は、試験片7の打ち抜きされたシート材6を下方に押し出して、打ち抜き刃物1から分離する。
【0078】
平面プッシャー21とアウタープッシャー22は、打ち抜き刃物1を固定しているベースプレート30に連結されて刃物ユニット3を構成する。刃物ユニット3は、平面プッシャー21とアウタープッシャー22の両方を、打ち抜き刃物1に対して相対的に上下方向に往復運動できるようにベースプレート30に連結している。平面プッシャー21とアウタープッシャー22は、連結ロッド23と弾性体20を介してベースプレート30に連結している。平面プッシャー21は、両端部を一対の連結ロッド23でベースプレート30に連結して、水平姿勢で往復運動される。アウタープッシャー22は、両端部と両側部を各々連結ロッド23でベースプレート30に連結して、水平姿勢で往復運動される。
図3に示すように、アウタープッシャー22の前後左右の4カ所を連結ロッド23でベースプレート30に連結することで、アウタープッシャー22をぐらつかせることなく安定して水平姿勢で往復運動できる。
【0079】
(連結ロッド23、ストッパ24)
連結ロッド23は、平面プッシャー21とアウタープッシャー22に下端を固定して、上端部をベースプレート30の貫通穴30aに往復運動自在に挿入している。連結ロッド23は上端にストッパ24を有し、このストッパ24がベースプレート30の上面に接触して、平面プッシャー21とアウタープッシャー22の刃先10からの突出位置を特定する。平面プッシャー21とアウタープッシャー22の突出位置は、例えば刃先10から約2mm以上であって10mm以下、好ましくは3mm以上であって8mm以下に設定する。
【0080】
連結ロッド23は先端部にネジ部23aを設けて、ストッパ24をネジ部23aにねじ込んでいるナット24aとして、平面プッシャー21とアウタープッシャー22とを簡単な構造でベースプレート30に連結し、さらに突出位置を簡単に最適位置に調整できる。連結ロッド23のネジ部23aは、平面プッシャー21とアウタープッシャー22に設けた挿通孔25に下から上に挿通して配置できる。連結ロッド23のネジ部23aは、ネジ頭23bが平面プッシャー21及びアウタープッシャー22の下面から突出しないように、平面プッシャー21及びアウタープッシャー22の下面に凹部26を設けて、凹部26にネジ頭23bを案内してしている。ストッパ24のナット24aは、ベースプレート30から突出する連結ロッド23のネジ部23aにねじ込まれている。ストッパ24は、複数のナット24aをねじ込んでダブルナットとして、往復運動して位置ずれしない構造にできる。この連結ロッド23は、ナット24aのねじ込み位置を調整して、平面プッシャー21とアウタープッシャー22の刃先10からの突出位置を最適値に設定できる。
【0081】
(弾性体20)
弾性体20は押しバネのコイルスプリング20aで、位置ずれしないように連結ロッド23を挿入して、ベースプレート30と、平面プッシャー21及びアウタープッシャー22の間に配置される。弾性体20はコイルスプリング20aの押しバネで、平面プッシャー21とアウタープッシャー22を刃先10から弾性的に押し出している。弾性体20のコイルスプリング20aは、圧縮された状態で平面プッシャー21及びアウタープッシャー22とベースプレート30との間に配設される。弾性体20はバネ定数を大きくして、平面プッシャー21とアウタープッシャー22がシート材6をプレスする圧力を強くできる。例えば、平面プッシャー21とアウタープッシャー22がシート材6を加圧して裁断する状態で、シート材6の表面を平面状に押圧する圧力は、弾性体20のバネ定数と、ストッパ24が弾性体20を圧縮する位置を調整して最適値に設定できる。
【0082】
さらに、
図4に示す刃物ユニット3は、ベースプレート30に貫通孔を開口して空気孔35としている。筒状の打ち抜き刃物1をガイド筒として、その内側を往復運動する平面プッシャー21をスムーズに移動させるためである。この刃物ユニット3は、平面プッシャー21を打ち抜き刃物1の内側に押し込む際には、内部の空気を空気孔35から外部に排気し、打ち抜き刃物1の内部に押し込まれた平面プッシャー21を開口部側に押し出す際には、外部の空気を空気孔から内部に吸気することで、平面プッシャー21をスムーズに往復運動できる。とくに、平面プッシャー21と打ち抜き刃物1との間に設けるスリット隙間33を狭くしながら、平面プッシャー21を打ち抜き刃物1の内面に沿ってスムーズに往復運動できる。
【0083】
以上の裁断装置100は、以下の工程でシート材6を打ち抜きしてダンベル形状の試験片7に裁断する。
(1)シリンダ42で上下台41を上昇位置に配置して刃物ユニット3を上下台41に連結する。
(2)受け台5の裁断面50にシート材6をセットする。
(3)シリンダ42で上下台41を降下する。
(4)降下する上下台41は、打ち抜き刃物1の刃先10がシート材6に接近する位置で、平面プッシャー21とアウタープッシャー22がシート材6の表面に接触する。
この状態でさらに上下台41が降下すると、弾性体20が圧縮されて、平面プッシャー21とアウタープッシャー22がシート材6の表面をプレスする。
平面プッシャー21は、シート材6が刃先10で裁断される状態で表面を平面状に保持する圧力でシート材6の表面をプレスする。平面プッシャー21は、弾性体20の刃先10の内側でシート材6をプレスして、刃先10がシート材6を裁断する状態で、刃先10の内側が変形するのを防止して平面状に保持する。
【0084】
(5)この状態で、さらに上下台41が降下すると、
図7の拡大断面図に示すように、刃先10がシート材6の表面に食い込んで裁断を開始する。このタイミングで、刃先10の内側のシート材6は、平面プッシャー21にプレスされて平面状に保持される。刃先10は平面状に保持されるシート材6を裁断して、正確な寸法でダンベル形状に裁断する。アウタープッシャー22は、刃先10の外周面から離れた位置をプレスする。したがって、刃先10の外側表面のシート材6は、
図7に示すように、突出形状に変形する。刃先10の外側でのシート材6の変形は、ダンベル形状の寸法精度、とくに試験領域7Xの横幅の寸法精度に影響が少ない。
(6)さらに、上下台41を降下させて、打ち抜き刃物1の刃先10を垂直方向に移動してシート材6を高い寸法精度でダンベル形状に裁断する。
【0085】
(実施形態2)
以上の実施形態1の裁断装置は、打ち抜き刃物として、先端部の外周面に外側刃面11を設けて、片刃の内周面に修正刃面12を設けてなる筒状の打ち抜き刃物1を使用する例を示している。ただ、裁断装置は、
図11に示すように、筒状の打ち抜き刃物1Bを、先端部の外周面に外側刃面11を設けて、内側面を垂直面状とする片刃の打ち抜き刃物1Bとし、筒状の打ち抜き刃物1Bの内側には、弾性体20を介して往復自在に配置された平面プッシャー21を備える構造とすることもできる。この構造の裁断装置も、平面プッシャー21が、ダンベル形状の打ち抜き刃物1の内側でシート材6をプレスして裁断するので、極めて高い精度でダンベル形状の試験片を打ち抜きできる。とくに、平面プッシャー21の外周面21bを片刃の打ち抜き刃物1Bの内周面14に接近させてスリット隙間33を狭くすることで、シート材6を平面状にプレスする平面プッシャー21の押圧面21aの外周縁に極めて接近した位置でシート材6を裁断でき、シート材6を裁断する際に刃先10がシート材6の表面を湾曲するのを抑制して、試験片の横幅を極めて高い精度に裁断できる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、ゴムやプラスチック等のシート材を裁断して、引張試験や衝撃試験等に用いられるダンベル形状の試験片を裁断する裁断装置及び裁断方法して好適に使用できる。
【符号の説明】
【0087】
100…裁断装置
1、1B…打ち抜き刃物
1X…試験領域裁断刃
1Y…チャッキング領域裁断刃
2、2A…押圧プレート
3、3A…刃物ユニット
4…駆動機構
5…受け台
6…シート材
7…試験片
7X…試験領域
7Y…チャッキング領域
10…刃先
11…外側刃面
12…修正刃面
13…筒状外周面
14…筒状内周面
20…弾性体
20a…コイルスプリング
21、21A…平面プッシャー
21a…押圧面
21b…外周面
21X、21XA…細幅押圧部
21Y、21YA…広幅押圧部
22…アウタープッシャー
22a…押圧面
22m…縦枠
22n…横枠
23…連結ロッド
23a…ネジ部
23b…ネジ頭
24…ストッパ
24a…ナット
25…挿通孔
26…凹部
30…ベースプレート
30a…貫通穴
31…連結部
32…通過隙間
33、33A…スリット隙間
34…往復運動隙間
35…空気孔
36…支持プレート
36a…幅狭部
36b…幅広部
41…上下台
42…シリンダ
42a…ロッド
43…ガイド機構
43a…ガイドロッド
43b…ガイド筒部
45…本体部
50…裁断面
51…緩衝シート
91…打ち抜き刃物
92…刃先
93…外側刃面
96…シート材
97…試験片
97X…試験領域