IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリンパスメディカルシステムズ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066160
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】湾曲可能なクリップデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/10 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
A61B17/10
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165771
(22)【出願日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】63/092,981
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】304050923
【氏名又は名称】オリンパスメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 勝
(72)【発明者】
【氏名】常藤 達礼
(72)【発明者】
【氏名】安齋 慎矢
(72)【発明者】
【氏名】服巻 拓志
(72)【発明者】
【氏名】新藤 尚吾
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160CC07
4C160CC12
4C160MM32
4C160NN02
4C160NN04
(57)【要約】
【課題】外科的処置において、患者の組織を容易に把持可能なクリップデバイスを提供する。
【解決手段】クリップデバイスは、互いに閉じる方向に移動可能な第一アームと第二アームとを有するクリップと、長手方向に延びるチャンネルを有するシースと、を備え、前記シースの前記チャンネルの内部には、前記クリップを操作するワイヤが相対移動可能であり、前記シースは、前記シースの先端領域において前記シースの前記チャンネルに沿って配置される湾曲部を有し、前記湾曲部は、前記シースの基端領域に向かって前記クリップの先端をスイング可能に構成される。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに閉じる方向に移動可能な第一アームと第二アームとを有するクリップと、
長手方向に延びるチャンネルを有するシースと、を備え、
前記シースの前記チャンネルの内部には、前記クリップを操作するワイヤが進退移動可能であり、
前記シースは、前記シースの先端領域において前記シースの前記チャンネルに沿って配置される湾曲部を有し、
前記湾曲部は、前記シースの基端領域に向かって前記クリップの先端をスイング可能に構成される、
クリップデバイス。
【請求項2】
前記湾曲部は、前記シースの前記先端領域に接続された可撓性チューブを備える、
請求項1に記載にクリップデバイス。
【請求項3】
前記湾曲部は、前記シースの前記先端領域から延びる可撓性チューブを備える、
請求項1に記載にクリップデバイス。
【請求項4】
前記湾曲部は、ピンにより連結された先端関節部と基端関節部とを有するジョイントを備え、
前記ジョイントは、前記シースの前記チャンネルに沿って配置される、
請求項1に記載にクリップデバイス。
【請求項5】
前記湾曲部は、前記シースと一体の部分である、
請求項1に記載にクリップデバイス。
【請求項6】
前記シースの前記基端領域は、硬いチューブを有する、
請求項5に記載にクリップデバイス。
【請求項7】
前記湾曲部は、前記シースの前記先端領域を熱処理することにより形成されている、
請求項5に記載にクリップデバイス。
【請求項8】
前記湾曲部は、金属を含む、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載にクリップデバイス。
【請求項9】
前記湾曲部は、ポリマー材料を含む、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載にクリップデバイス。
【請求項10】
前記クリップの基端と前記ワイヤの先端とを接続し、前記シースの前記チャンネルをスライド移動可能な連結部をさらに備える、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載にクリップデバイス。
【請求項11】
前記湾曲部の先端は、前記クリップが閉状態において、前記連結部と接続された前記ワイヤの先端と重ならない、
請求項10に記載にクリップデバイス。
【請求項12】
前記連結部は、ピンにより連結された先端関節部と基端関節部と有するジョイントを備える、
請求項10に記載にクリップデバイス。
【請求項13】
前記連結部は、前記湾曲部の内部において回転可能である、
請求項10に記載にクリップデバイス。
【請求項14】
前記連結部は、前記ワイヤの前記先端に接続されたテーパ状の基端部を有する、
請求項10に記載にクリップデバイス。
【請求項15】
前記湾曲部上を相対移動可能で前記湾曲部を回転しないようにロックする区分け部をさらに有する、
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載にクリップデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
この出願は、2020年10月16日に出願された米国仮出願第63/092,981号の利益を主張し、その全文が参照により本明細書に援用される。
【0002】
[技術分野]
本発明は、患者の組織を把持するクリップデバイスであって、クリップと、シースと、シースに向かってクリップを回転させることができる湾曲部と、を備えるクリップデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
以下の説明では、特定の構造および/または方法について言及する。しかしながら、以下の説明は、これらの構造および/または方法が先行技術であることを認めるものとして解釈されるべきではない。出願人は、そのような構造および/または方法が本発明に対する先行技術として適していないことを実証する権利を明示的に留保する。
【0004】
内視鏡用クリップ、すなわちエンドクリップは、内視鏡とともに使用され、人体内において組織を把持できる。エンドクリップは、組織の出血の防止、穿孔の閉鎖、および他の外科的処置などの治療処置での使用が見出されている。形状および/またはサイズが異なる多くのエンドクリップがあり、使い捨ておよび再装填可能なシステムを使用して取り扱うことができ、身体へのクリップの配置を容易にするために開閉するものと開閉しないものとがある。
【0005】
特許文献1は、生体内の対象位置にクリップを導入する際にクリップを回転させることができる内視鏡装置用の回転機構を開示している。特許文献1は、クリップの回転を制限する剛体部材を備えた回転駆動部を含む内視鏡装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/158566号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、外科的処置において患者の組織を把持可能なクリップデバイスに対する継続した更なるニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の利点は、患者の生体組織を把持するクリップデバイスが先端領域において湾曲部を備えるシースを備え、湾曲部は、特にクリップが組織に対して垂直な方向に接近しないとき、組織の把持を容易にするために回転可能であることである。有利なことに、湾曲部はクリップを回転させるための駆動部やワイヤを必要とせず、使用中にクリップに圧力を加えることによってクリップを回転させるように構成されている。
【0009】
これらおよびその他の利点は、少なくとも部分的には以下のクリップデバイスによってもたらされる。クリップデバイスは、互いに閉じる方向に移動可能な第一アームと第二アームとを有するクリップと、長手方向に延びるチャンネルを有するシースと、を備える。前記シースの前記チャンネルの内部には、前記クリップを操作するワイヤが相対移動可能である。前記シースは、前記シースの先端領域において前記シースの前記チャンネルに沿って配置される湾曲部を有する。前記湾曲部は、前記シースの基端領域に向かってクリップの先端をスイング可能に構成される。有利なことに、湾曲部は、クリップの先端がシースの基端領域に向かって少なくとも約45度、例えば最大約60度、または最大約90度、またはそれ以上の角度を形成するように回転可能である。湾曲部は、シースの先端領域に接続された可撓性チューブまたはシースの先端領域から延びる可撓性チューブを備えてもよい。また、湾曲部は、シースそのものと一体の部分であってもよく、そのシースの基端領域は先端領域よりも高い剛性を有してもよい。また、湾曲部は、シースの先端領域に沿って接続されるジョイントを有してもよい。
【0010】
本開示の実施形態は、以下の特徴のうち一つ以上の特徴を個別または組み合わせて有する。例えば、湾曲部は、金属またはポリマー材料(例えば、ステンレス鋼、エラストマー、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素化ポリオレフィン、ポリエチレンなどのポリオレフィン)を含むことができる。本開示の一態様において、シースは、シースの先端領域より基端領域がより硬くなるように熱処理したりカバーを付けたりすることにより構成してもよい。他の態様において、湾曲部はシースと接着剤や溶接により連結されていてもよい。
【0011】
他の態様において、クリップデバイスは、クリップの基端とワイヤの先端を接続し、シースの長手方向チャンネルの中をスライド移動可能である連結部を備えてもよい。他の態様において、湾曲部の先端は、クリップが閉状態において、連結部と接続されたワイヤの先端と重ならない。別の実施形態において、連結部は、ピンにより連結された先端関節部と基端関節部と有するジョイントを備える。さらなる実施形態において、連結部は湾曲部の内部において回転可能である。追加の実施形態において、連結部は、ワイヤの先端に接続されたテーパ状の基端部を有する。他の態様において、クリップデバイスは、湾曲部上を相対移動可能で湾曲部を回転しないようにロックする区分け部を有してもよい。
【0012】
本発明の追加の利点は、以下の詳細な説明から当技術分野の当業者に容易に明らかになり、本発明の好ましい実施形態のみが、本発明を実施するために検討される最良の様式の例示として単に示され、説明される。認識されるように、本発明は他の異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの詳細は、すべて本発明から逸脱することなく、様々な明らかな点で修正することができる。したがって、図面および説明は、本質的に例示的なものと見なされるべきであり、限定的なものとして見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】湾曲部を有さないクリップデバイスを概略的に示す図である。
図2A】本開示の態様に係る湾曲部を含むシースを備えたクリップデバイスを概略的に示す図である。
図2B】本開示の態様に係る湾曲部を含むシースを備えたクリップデバイスを概略的に示す図である。
図3】本開示の態様に係る可撓性チューブの形態である湾曲部の実施形態を概略的に示す図である。
図4】本開示の態様に係る可撓性チューブを有する湾曲部の他の実施形態を概略的に示す図である。
図5A】本開示の態様に係るシースの先端から延びるチューブの形態である湾曲部の他の実施形態を概略的に示す図である。
図5B】本開示の態様に係るシースと一体の部分である湾曲部の他の実施形態を概略的に示す図である。
図6】本開示の態様に係るピンにより連結された先端関節部と基端関節部と有するジョイントを備える湾曲部を概略的に示す図である。
図7】本開示の態様に係るクリップデバイスの内部における湾曲部の実装を概略的に示す図である。
図8】クリップが閉状態において、湾曲部の先端がワイヤの先端と近接するクリップデバイスの湾曲部の他の実装を概略的に示す図である。
図9】ピンにより連結された先端関節部と基端関節部と有するジョイントを備えるクリップデバイスの湾曲部の他の実装を概略的に示す図である。
図10】クリップの基端をワイヤに連結し、回転可能な連結部を備えるクリップデバイスの湾曲部の他の実装を概略的に示す図である。
図11】クリップの基端をワイヤに連結し、ワイヤに接続されるテーパ状の基端部を有する連結部を備えるクリップデバイスの湾曲部の他の実装を概略的に示す図である。
図12A】湾曲部上を相対移動可能で湾曲部を回転しないようにロックする区分け部を備えるクリップデバイスの湾曲部の他の実装を概略的に示す図である。
図12B】湾曲部上を相対移動可能で湾曲部を回転しないようにロックする区分け部を備えるクリップデバイスの湾曲部の他の実装を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付の図面を参照する。ここで、同じ符号の指定を有する要素は、全体を通して同様の要素を表す。すべての図面を通して、それぞれの構成要素の寸法は、明確にするために適切に調整されている。場合によっては、見やすくするために図において名前付き機能の一部のみに符号が付けられている。
【0015】
本開示は、組織の出血の防止、穿孔および止血の閉鎖、内傷の縫合収縮、病変およびトラクション(粘膜隆起)のマーキング、および他の外科的処置のような患者の治療処置に有用なクリップデバイスを対象とする。本明細書で使用される「患者」という用語は、あらゆる生物を含み、「被験者」という用語を含む。患者は人間でもあってもよく動物でもあってもよい。
【0016】
一般的に、クリップデバイスは、患者の組織を把持するものであり、操作ハンドルによって操作されて長手方向に進退するワイヤによって駆動されるクリップを備える。本明細書における「先端(遠位)」という用語は、操作ハンドルから離れる方向であり、一方、「基端(近位)」という用語は、操作ハンドルに向かう方向である。
【0017】
図1は、従来のクリップデバイスを概略的に示している。 図1に示すように、クリップデイバスは、組織Tを把持するアーム12,13を有するクリップ11を備える。クリップデバイスは、シース16に接続された押さえ管14をさらに備える。さらに図示されるように、このような従来のクリップデバイスが90度未満の角度θで組織に接近する場合(例えば接線アプローチなどの、垂直アプローチよりも角度θが小さいアプローチ)、クリップCを閉じるときにアームは滑りやすく組織を把持しにくい。特に、組織への接線アプローチにおいて2番目のアーム12にかかる圧力が低いため、組織から最も遠いアーム(アーム12)が滑る可能性がある。このような現象は、狭い管腔内における処置において発生しやすい。
【0018】
しかしながら、本開示のクリップデバイスは、有利なことに、先端領域に湾曲部を有するシースを備えており、組織の把持を容易にするためにシースの基端領域に対するクリップの向きを合わせることができる。このような湾曲部は、クリップの先端部がシースの基端領域に向かって回転またはスイング可能な構造的特徴を有する。クリップデバイスのシースの基端に向かう移動において、クリップの先端はシースの基端に対してより近い位置に動かされる。湾曲部は、クリップの先端がシースの基端に向かって少なくとも約45度、例えば最大約60度、または最大約90度、またはそれ以上の角度を形成するように回転またはスイングできることが好ましい。本開示のクリップデバイスに有用な湾曲部は、例えばシースの先端から延びる可撓性チューブ、シースの先端領域に接続された可撓性チューブ、またはシースの先端領域に沿ったジョイントが含まれる。
【0019】
本開示の湾曲部は、金属またはポリマー材料(例えば、ステンレス鋼、エラストマー、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素化ポリオレフィン、ポリエチレンなどのポリオレフィン)を含むことができる。湾曲部は、先端領域においてシースと一体の部分でもよく、接着剤または溶接によってシースに接合された別の部分であってもよい。シースの先端領域の湾曲部は、シースの基端領域よりも柔軟になるように構成される。この構成は、湾曲部およびシースそれぞれの材料の選択、設計または厚さの違い、シースの各部に対する処理の有無、基端領域のカバー、またはこれらの組合せによって達成される。有利なことに、湾曲部は、クリップの先端をシースの基端に対して回転させる圧力をシースを介してクリップの先端に対して加えることによって駆動される。
【0020】
特定の態様においては、組織とシースとの間の距離を最小化できるように、クリップの基端の近くに湾曲部を有することが望ましい。 特定の実施形態では、可撓性チューブの基端は、クリップの基端から約100mm以下である。他の実施形態では、湾曲部の先端から基端までの長さは、約90mm以下であり、例えば、約80mm、70mm、60mm、50mm、40mm、30mm、20mm、10mmおよびそれらの間の値以下である。
【0021】
本開示に係るクリップデバイスの様々な態様を、図1および図12を参照して説明する。
【0022】
図2Aおよび図2Bは、本開示の態様に係る湾曲部を含むシースを備えたクリップデバイスを概略的に示す。図示のように、クリップデバイス20は、第一アーム22および第二アーム23を有するクリップ21と、チューブやコイルなどの形態であるシース26と、を備える。第一アーム22および第二アーム23は、クリップ(不図示)の基端に接続されたワイヤの操作によって、クリップ21を閉じる方向に移動可能に構成されている。本実施形態においては、第一アーム22は第一爪22aを有し、第二アーム23は第二爪23aを有し、シース26は押さえ管24に接続されている。シース26は、長手方向に延びる長手方向チャンネル(不図示)を有し、ワイヤはシースの長手方向チャンネル内を相対移動してクリップを操作する。ワイヤ(不図示)は、クリップ21の基端に接続可能であり、ワイヤの反対の端部は、クリップを開閉するため押さえ管からクリップ21を相対移動させる操作ハンドル(不図示)に接続可能である。
【0023】
図2Aにさらに示されているように、シース26は、シースの長手方向チャンネルに沿ったシースの先端領域に湾曲部25を備え、クリップデバイスを操作するときに加えられた力でクリップをシースの基端に向かってスイング(S)させることができる。この例では、湾曲部25はシース26の先端領域26aとシース26の基端領域26bとの間にある。本開示のクリップデバイスの効果は、図2Aに示すように組織TへのクリップのアプローチAが接線アプローチ、すなわち角度θが90度未満であった場合であっても、クリップ21が組織を把持できることである。
【0024】
図2Bは、図2Aに示すクリップデバイス20の湾曲部を有するシースの側面図を概略的に示している。 図2Bにさらに示されるように、湾曲部25は、シース26の長手方向チャンネルに沿ってシース26の先端領域26aと基端領域26bとの間にあり、クリップ21の先端を回転させてシースの基端に向かってスイングするように構成される。有利なことに、本開示の湾曲部は、クリップの先端がシースの基端に向かって90度の角度(図2B)となることを可能とする。図2Aおよび図2Bに示すように、クリップが接線方向から組織に接近するとき、クリップ21が欠陥Dの近くの組織Tに対してより垂直な方向になるように、湾曲部25はクリップの先端をシースの基端に向かってスイングさせることができる。クリップと組織のそのような相対位置は、クリップのアームの爪が組織をより容易に把持できるため、組織をより容易に持ち上げることができる。
【0025】
術者は、第一アーム22を接線アプローチの方向(図中にAで示す矢印の方向)に組織Tに押し付けることにより、第二アーム23が追従する方向にスイング(S)する。その結果、クリップ21は組織Tに対して垂直アプローチとなる方向を向く。垂直アプローチにおいては、第一爪22aと第二爪23aの両方が組織に対して略均等に差し込まれるため、第一アーム22および第二アーム23が滑りにくい。なお、湾曲部25はいずれの方向にもスイングでき、クリップがスイング(S)する方向に指向性がないことが望ましい。
【0026】
図2Aおよび図2Bに示される湾曲部は、シースと一体の部分であってもよく、接着剤または溶接によってシースに接合された可撓性チューブを備えてもよい。湾曲部は、基端領域よりも柔軟であるように構成されている場合(例えば、可撓性チューブ)、ステンレス鋼などの金属、エラストマー、フッ素化ポリオレフィンなどのポリオレフィンなどにより形成され得る。シースの基端領域に対する湾曲部の柔軟性の向上は、湾曲部およびシースそれぞれの材料の選択、設計または厚さの違い、先端領域の処理など、またはそれらの組み合わせによって実現できる。
【0027】
図3から図5は、本開示のクリップデバイスの湾曲部とシースの態様を概略的に示している。特に図3は、シース36の先端領域36aと基端領域36bとの間において、シースの長手方向チャンネルに沿って接続された可撓性チューブの形態である湾曲部35を示している。この例では、湾曲部35は、金属により形成されており、金属から構成され得るシース36よりも高い柔軟性を有するように構成されている。シースは、湾曲部より硬いシースとして設けられた連続チューブまたはコイルの形態であってもよい。湾曲部35は、接着剤を用いた溶接によりシースに接続される。
【0028】
図4は、シースの長手方向チャンネルに沿って、シース46の先端領域46aと基端領域46bとの間において接続された可撓性チューブを備える湾曲部45を示す。この例では、湾曲部45は、エラストマー材料などの高分子樹脂により形成され、金属から構成され得るシースよりも高い柔軟性を有するように構成されている。シースは、湾曲部より硬いシースとして設けられた連続チューブまたはコイルの形態であってもよい。湾曲部は、接着剤によりシースに接続される。
【0029】
図5は、シース56の先端領域56aに挿入され、先端領域56aの先端開口57から延出する可撓性チューブ55を備える湾曲部を示す。可撓性チューブ55は、金属または高分子材料により形成され、シース56よりもより柔軟となるように構成されている。図5Aに示すように、可撓性チューブ55の基端領域に接するシース56の先端56aの先端開口57は、可撓性チューブに圧力を加えるための支点として機能し、先端開口57での可撓性チューブの屈曲を容易にする。この例では、可撓性チューブ55はシース56の内部を基端方向に延びている。
【0030】
本開示の別の態様において、湾曲部はシースと一体の部分であってもよい。例えば、シースの先端領域を熱処理することにより、処理されていない基端領域と比較して先端領域をより柔軟に加工して、先端領域に湾曲部を備えたシースを形成することもできる。そのような熱処理は、図3図4に示すような構成とするために、シースの剛体部分の間に湾曲部を形成する方法により実施することができる。ただし、湾曲部は、シースに接続された別のチューブではなく、シースにおける熱処理された部分である。
【0031】
または、湾曲部は、シースの先端領域の柔軟性を維持しつつシースの基端領域を硬くするようにチューブ(例えば熱収縮チューブ)によりシースの基端領域の外周を覆うことにより形成された、シースと一体の部分であってもよい。図5Bは、シースと一体の部分として湾曲部を含むシースを概略的に示している。図に示すように、シース58は、一体のシースとして、シース58の先端領域の湾曲部58aと、硬い基端領域58bと、を有する。シース58の基端領域58bは、硬いチューブ(例えば熱収縮チューブ)により覆うことができ、シース58の基端領域58bは柔軟性が維持されたシース58の先端領域に対して硬い。この例のさらなる別の態様は、シース58の硬い先端領域58cを形成するために、シース58の先端領域を覆うことである。(シース58の硬い先端領域58cは、それがオプションの要素であることを示すために、シース58上に破線として示されている。硬い先端領域58cがない場合、湾曲部は58aである。硬い先端領域58cがある場合、湾曲部は58dである。)硬い先端領域58cを含めることにより、湾曲部58dがシースの先端領域58cと基端領域58bとの間に形成されていてもよい。
【0032】
図2から図5に概略的に示された湾曲部は、有利なことに、相互接続された可動部を設けなくても柔軟性を備えるために、シースに対して柔軟な要素を含んでいてもよい。図2から図5に概略的に示された湾曲部は、製造が比較的容易であり、内視鏡の従来のチャンネルに挿入させやすい。
【0033】
図6は、シースの長手方向チャンネルに沿って接続可能な湾曲部の他の実施形態を示している。この例において、湾曲部65は関節式であり、シース66の長手方向チャンネルに沿う形態となるよう、例えばピンにより接続された先端部65aと基端部65bとを有するジョイントにより構成されている。ジョイントの先端部および基端部は、ピンによって接続され、シースの先端および基端に取り付けられた先端チューブおよび基端チューブを備えてもよい。この例において、湾曲部65は、金属または高分子材料で構成されていてもよく、シースは連続チューブまたはコイルの形態であってもよい。湾曲部は、シースの長手方向チャンネルに沿って溶接または接着剤により接続される。
【0034】
図7から図12は、本開示のクリップデバイスにおける湾曲部の実装についての特定の態様を概略的に示す。特に図7は、患者の生体組織を把持するクリップデバイス70であり、爪のあるアームを有するクリップ71と、長手方向に延びるチャンネルを有してシース76に接続される押さえ管74と、シースの長手方向チャンネルの中を相対移動可能なワイヤ77と、を備える。湾曲部75は、シースの長手方向チャンネルに沿ってシースの先端領域に接続されている。この例では、ワイヤ77は、連結部78によってクリップ71の基端に接続されている。
【0035】
手技において、ワイヤの基端に接続された操作ハンドル(不図示)は、ワイヤを操作して押さえ管内にクリップを牽引して、クリップのアームを閉じる。クリップデバイスは、押さえ管をシースに対して着脱可能なリンク機構を有してもよい。そのようなクリップデバイスは、クリップの先端をワイヤに対して係合・非係合する連結部を含む。さらに、連結部は、係合・非係合する要素部材を内部に含んでいてもよい。そのようなクリップデバイスは、国際特許出願番号WO2020/136906に開示されており、その全文が参照により本明細書に援用される。
【0036】
しかしながら、クリップと係合・非係合する連結部を含む追加の構成要素は、クリップの先端がシースの基端に向かって約90度以上など約60度を超える角度でスイングしたとき、湾曲部と干渉する可能性がある。
【0037】
シース76とワイヤ77との軸ズレ防止の観点においては、連結部78とシース76のクリアランスは小さい方がよい。しかしながら、上述したような連結部78と湾曲部75との干渉を低減するには、連結部78とシース76のクリアランスは大きい方が望ましい。この場合、図7に示すように湾曲部75が湾曲したとき、連結部78はシース76に対してある程度傾くことができ、連結部78と湾曲部75との干渉が低減される。なお、連結部は、基端側の外径が先端側の外径より小さい形状(例えば円錐形状)であってもよい。この形状を備える連結部は、上記の軸ズレを防止でき、かつ、連結部と湾曲部75との干渉を低減できる。
【0038】
図8は、クリップデバイスの湾曲の他の実装を概略的に示しており、特に連結部が湾曲部の長手方向チャンネル内を移動しないように連結部からシースに沿って離れた位置に配置された湾曲部を示している。図示されているように、クリップデバイス80は、閉状態として図示された爪のあるアームを有するクリップ81を備える。クリップデバイスは、ワイヤ87が相対移動可能な長手方向チャンネルを有するシース86の先端領域86aに接続された押さえ管84をさらに含む。湾曲部85は、シースの長手方向チャンネルに沿ってシースの先端領域86aと基端領域86bとの間に接続されている。
【0039】
この例において、クリップ81の基端とワイヤ87の先端の間にある連結部88は、シースの長手方向チャンネルの中をスライド移動可能である。連結部は、クリップ81の基端とワイヤ87の先端87aとを、直接またはクリップを解放可能に構成された連結要素(不図示)を経由して接続する。図8は、シースの長手方向チャンネルに沿って先端位置(S1)と基端位置(S2)との間をワイヤ87の先端87aがスライドする長さの範囲(例えばS1とS2との間)をさらに示す。このスライドする長さの範囲(S1とS2)は、クリップデバイスを操作するときにクリップが開閉するためにクリップが移動するのに必要な先端位置から基端位置の長さによって決まり、所定の値である。ワイヤの先端87aが長手方向チャンネルを移動する範囲の先端位置(S1)ではクリップが開状態となり、ワイヤの先端87aが移動する範囲の基端位置(S2)ではクリップが開状態となる。この図に示すように、湾曲部の先端領域85aは、クリップが閉状態となるときにワイヤの先端87aが移動する基端位置(S2)と重ならない。そのため、この例においては、クリップが閉状態のとき、湾曲部の先端はワイヤの先端に近接している。
【0040】
図9および図10は、本開示のクリップデバイスにおける湾曲部の別の実装を概略的に示している。図9および図10に示すように、クリップデバイスは、爪のあるアームを有するクリップ91と、長手方向に延びるチャンネルを有してシース76に接続される押さえ管94と、シースの長手方向チャンネルの中を相対移動可能なワイヤ97と、を備える。湾曲部95は、シースの長手方向チャンネルに沿ってシース96の先端領域に接続されており、シースの長手方向チャンネルに沿って延びている。
【0041】
図9において、クリップ91の基端とワイヤ97の先端97aの間にある連結部98は、ジョイントを形成するピン(98c)により連結された2個の関節部(98a,98b)を含む。図示されるように、連結部98は、シースの長手方向チャンネルの中をスライド移動可能であり、また、湾曲部95の長手方向チャンネルの中をスライド移動可能である。連結部98は、クリップ91の基端とワイヤ97の先端97aとを、直接またはクリップを解放可能に構成された連結要素(不図示)を経由して接続する。一実施形態において、連結部99は、クリップの基端と係合・非係合するように構成されている。他の実施形態において、連結部99のような連結部は、連結部98のようなジョイントにより回転および湾曲するように構成されていてもよい。図9に示すように、連結部98は、ピン98cにより連結された先端関節部98aと基端関節部98bとを有する関節を備える。図9は、分離したピン98cにより連結された先端関節部98aと基端関節部98bとを示しているが、先端関節部98aと基端関節部98bとは、一体として形成されていてもよい。ジョイントを用いて連結部を構成することにより、連結部が湾曲部の長手方向チャンネルの中に延びて湾曲部が図9に示すように回転したとき、連結部が湾曲部との干渉を最小化するように、先端を回転(RT)させることができる。
【0042】
図10において、クリップ91の基端とワイヤ97の先端97aの間にある連結部108は回転(RT)するように構成されている。連結部108は、例えば柔軟性を有するプラスチックなどの材料の選択や、連結部の外周面に沿ってスパイラルカット等を備える構造や、これらの組合せにより、回転可能に構成されている。図10に示すように、連結部108は、シースの長手方向チャンネルの中をスライド移動可能であり、また、湾曲部95の長手方向チャンネルの中をスライド移動可能である。連結部は、クリップ91の基端とワイヤ97の先端とを、直接またはクリップを解放可能に構成された連結要素(不図示)を経由して接続する。一実施形態において、連結部99のような連結部は、例えば図10に示す連結部108ように、湾曲部の内部において回転可能に構成されていてもよい。そのような回転可能な連結部は、図10に示すように連結部が湾曲部の長手方向チャンネルに延びて湾曲部が回転したとき、湾曲部との干渉を最小化できる。
【0043】
図11は、本開示に係る湾曲部を備えたクリップデバイスの別の実装を示す。図示されているように、クリップデバイス110は、閉状態として図示された爪のあるアームを有するクリップ111を備える。クリップデバイスは、ワイヤ117が相対移動可能な長手方向チャンネルを有するシース116の先端に接続された押さえ管114をさらに含む。湾曲部115は、シースの長手方向チャンネルに沿ってシース116の先端領域に接続されている。
【0044】
図11において、クリップ111の基端とワイヤ117の先端の間にある連結部118は、ワイヤ117の先端に接続されたテーパ状の基端部118bを備えように構成されている。図11に示すように、連結部118は、シースの長手方向チャンネルの中をスライド移動可能であり、また、湾曲部115の長手方向チャンネルの中をスライド移動可能である。連結部は、クリップ111の基端とワイヤ117の先端とを、直接またはクリップを解放可能に構成された連結要素(不図示)を経由して接続する。連結部99は、クリップの基端と係合・非係合するように構成される。連結部118も、クリップの基端と係合・非係合するように構成される。しかしながら、連結部118のテーパ状の基端部118bは、連結部が湾曲部の長手方向チャンネルに延びて湾曲部が回転したとき、湾曲部との干渉を最小化できる。
【0045】
特定の手技において、有利なことに、湾曲部を回転しないようにロックしてもよい。湾曲部は、必要に応じて、シースの基端に向かってクリップを回転またはスイングするようにロックが解除される。このようなロック機構は、湾曲部上を相対移動可能で湾曲部を回転しないようにロックする区分け部により実装できる。
【0046】
図12Aおよび図12Bは、本開示に係る湾曲部を備えたクリップデバイスの実装例を概略的に示している。図12Aおよび図12Bに示すように、湾曲部125は、湾曲部上を相対移動可能な硬い区分け部により湾曲しないようにロックされる。この例において、硬い区分け部は、チューブやインナーシース128の形態である。さらに図示されているように、クリップデバイスは、閉状態として図示された爪のあるアームを有するクリップ121と、スライダ132の操作によってワイヤ127が相対移動可能な長手方向チャンネルを有するシース126の先端領域126aの端面に接続された押さえ管124と、を備える。湾曲部125は、シースの長手方向チャンネルに沿ってシースの先端領域126aと基端領域126bとの間に接続されている。
【0047】
湾曲部125は、図12Aに示すように湾曲部を回転可能な動作状態とすることができる。この動作状態において、区分け部128は湾曲部と重ならない。区分け部は区分け部の基端に接続された例えばノブ129のようなコントローラによって操作され、コントローラは区分け部を湾曲部上で相対移動させることができる。コントローラは、ハンドル130の外面に配置することができる。図12Bに示すように、コントローラを操作して区分け部を湾曲部上に移動させることにより、湾曲部が回転することを阻止する。湾曲部125の回転が再度必要な場合は、コントローラを操作して、例えば図12Aに示す後ろ側の位置など湾曲部125の位置から離れた位置に区分け部を移動させる。区分け部は、材料の選択やデザインや厚みやこれらの組合せにより湾曲部よりも硬くなるように構成されている。区分け部は、高密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリエーテルケトンなどの金属または高分子材料を含むことができる。この構成によって、ノブを駆動することにより、必要となるまで湾曲部を回転しないようにロックできる。なお、区分け部は、シース126の外側に配置されたアウターシースにより実装されていてもよい。
【0048】
請求された発明が、特定の実施形態を参照して詳細に説明されているが、当業者が、本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく、請求された発明に様々な変更および修正を加えることができることは明らかである。したがって、例えば、当業者は、日常的な実験を使用することで、本明細書に記載の特定の物質および手順と同等のものを認識または確認できる。そのような同等物は、本発明の範囲内であると見なされ、以下の特許請求の範囲によってカバーされる。
【符号の説明】
【0049】
20,70,80,110 クリップデバイス
21,71,81,91,111,121 クリップ
22 第一アーム
22a 第一爪
23 第二アーム
23a 第二爪
24,74,84,94,114,124 押さえ管
25,35,45,65,75,85,95,115,125 湾曲部
55 可撓性チューブ(湾曲部)
58a,58d 湾曲部
26,36,46,56,58,66,76,86,96,116,126 シース
77,87,97,117,127 ワイヤ
78,88,98,99,108,118 連結部
98a 先端関節部
98b 基端関節部
98c ピン
128 区分け部
128 インナーシース(区分け部)
129 ノブ
130 ハンドル
132 スライダ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B