(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066182
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】In及びYを含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体
(51)【国際特許分類】
A61K 6/818 20200101AFI20220421BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20220421BHJP
A61K 6/80 20200101ALI20220421BHJP
C04B 35/488 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
A61K6/818
A61K6/831
A61K6/80
C04B35/488
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169513
(22)【出願日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2020174307
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】野中 和理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周平
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089BA01
4C089BA05
4C089BA20
(57)【要約】
【課題】
ジルコニア焼結体に天然歯エナメル質同様の高い透光性を付与する技術が求められていた。
【解決手段】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、安定化剤としてイットリウム化合物及びインジウム化合物を含み、イットリウム化合物を酸化物換算で3.0mоl%~6.0mоl%で含み、インジウム化合物を酸化物換算で0.2mоl%~3.0mоl%で含み、イットリウム化合物とインジウム化合物の合計が酸化物換算で5.5mоl%~7.0mоl%であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
安定化剤としてイットリウム化合物及びインジウム化合物を含み、
イットリウム化合物を酸化物換算で3.0mоl%~6.0mоl%で含み、
インジウム化合物を酸化物換算で0.2mоl%~3.0mоl%で含み、
イットリウム化合物とインジウム化合物の合計が酸化物換算で5.5mоl%~7.0mоl%であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
焼結体とした場合に、試料厚さ1.0mmにおけるコントラスト比が0.68以下であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項3】
請求項1記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
着色剤を含み、
焼結体とした場合に、試料厚さ1.0mmにおけるコントラスト比が0.68以下であることを特長とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項4】
請求項1記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
着色剤を含まず、
焼結体とした場合に、試料厚さ1.0mmにおけるコントラスト比が0.65以下であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を焼結させて得られる補綴装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により補綴装置を作製する技術が急速に普及してきている。これにより、ジルコニア、アルミナ、二ケイ酸リチウム等のセラミックス材料や、アクリルレジン、ハイブリッドレジン等のレジン材料で製造された被切削体を加工することで、容易に補綴装置を作製することが可能となってきている。
【0003】
特に、ジルコニアは、高い強度を有していることから様々な症例で臨床応用されている。一方、最終焼成した口腔内で使用可能なジルコニア最終焼成体(以下、ジルコニア焼結体ともいう)は、硬度が非常に高いため、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工することができない。そのため、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、最終焼成まで行わず低い焼成温度で仮焼し、切削加工可能な硬度に調整したものが用いられている。
【0004】
歯科材料として応用され始めた当初のジルコニアは、強度は高いものの透光性が低く、主にコーピングやフレームとしての使用にとどまっていた。
近年、透光性を向上させたジルコニア(高透光性ジルコニア)が開発されたことで、その用途は臼歯部から前歯部のフルクラウンにまで拡大されている。
しかし、高透光性ジルコニアにおいても、天然歯のエナメル質を再現するには透光性が不十分である。そのため、特に審美性が求められる症例においては、ジルコニアに陶材を築盛することで自然な修復物を作製している。
このような状況において、フルカウントゥアジルコニアでより自然な修復物を得ることが望まれており、そのためにより透光性に優れるジルコニアの開発が求められている。
【0005】
特許文献1には、アルミナ量を低減させた3mol%のイットリウムを含有したジルコニア粉末を用いて歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製し、当該ジルコニア被切削体から作製したジルコニア焼結体が開示されている。当該焼結体は、高い強度を維持しつつ、透光性を向上させているため、4ユニット以上のロングスパンブリッジや臼歯部フルクラウン等で臨床応用されている。しかしながら、当該焼結体においても、透光性が不十分であるため、前歯部など高い審美性が求められる症例への適用は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ジルコニア焼結体に天然歯エナメル質同様の高い透光性を付与する技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、天然歯エナメル質同様の高い透光性をジルコニア焼結体に付与することができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体について検討した。
【0009】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、安定化剤としてイットリウム化合物及びインジウム化合物を含み、イットリウム化合物を酸化物換算で3.0mоl%~6.0mоl%で含み、インジウム化合物を酸化物換算で0.2mоl%~3.0mоl%で含み、イットリウム化合物とインジウム化合物の合計が酸化物換算で5.5mоl%~7.0mоl%であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。本発明においては、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を構成する成分として特定された成分以外の残部を、ジルコニア(ZrO2)により構成することができる。またジルコニア(ZrO2)は酸化物換算で90mоl%~94.5mоl%とすることができる。
さらに、イットリア濃度とインジウム濃度の合計が6.0mоl%~6.7mоl%とすることができる。
【0010】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、焼結体とした場合に、試料厚さ1.0mmにおけるコントラスト比が0.68以下である歯科切削加工用ジルコニア被切削体とすることができる。
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、着色剤を含み、焼結体とした場合に、試料厚さ1.0mmにおけるコントラスト比が0.68以下である歯科切削加工用ジルコニア被切削体とすることができる。
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、着色剤を含まず、焼結体とした場合に、試料厚さ1.0mmにおけるコントラスト比が0.65以下である歯科切削加工用ジルコニア被切削体とすることができる。
本発明はまた、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を焼結させて得られる補綴装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、天然歯エナメル質同様の高い透光性をジルコニア最終焼成体に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、安定化剤としてイットリウム化合物及びインジウム化合物を含み、イットリウム化合物を酸化物換算で3.0mоl%~6.0mоl%で含み、インジウム化合物を酸化物換算で0.2mоl%~3.0mоl%で含み、イットリウム化合物とインジウム化合物の合計が酸化物換算で5.5mоl%~7.0mоl%であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。本発明においては、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を構成する成分として特定された成分以外の残部を、ジルコニア(ZrO2)により構成することができる。またジルコニア(ZrO2)は酸化物換算で90mоl%~94.5mоl%とすることができる。
【0013】
インジウム化合物は酸化インジウム(In2O3)換算で、より好ましくは0.4mоl%~1.3mоl%である。酸化インジウム量が0.2mоl%未満の場合、ジルコニア焼結体に十分な透光性を付与できない。一方、酸化インジウム量が3.0mоl%を超える場合、ジルコニア焼結体に十分な透光性を付与できない。
【0014】
ジルコニア焼結体になる前の本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体中におけるインジウム化合物の状態に制限はない。具体的にはジルコニアに固溶していてもよいし、インジウム化合物としてジルコニアとは別の結晶もしくは非晶質として存在していてもよい。
【0015】
前記インジウム化合物としては公知のインジウム化合物であればなんら制限なく用いることができる。具体的には、本発明に用いられるインジウム化合物はインジウムの酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩などである。具体的には酸化インジウム、硝酸インジウム、塩化インジウム、硫酸インジウムなどである。
【0016】
本発明における、インジウム化合物を歯科切削加工用ジルコニア被切削体に添加する方法は、規定の量を歯科切削加工用ジルコニア被切削体中に均一に添加できるものが好ましい。例えば、ジルコニア粒子を製造する際にインジウム化合物を添加する方法を用いてもよいし、切削加工用ジルコニア被切削体をインジウム化合物を含む溶液に浸漬させる方法を用いてもよい。
【0017】
切削加工用ジルコニア被切削体をインジウム化合物を含む溶液に浸漬させる方法を用いる場合、インジウム溶液の溶媒は任意であるが、水、アルコール、有機溶媒などを用いることができる。入手、取り扱いが容易であることから、水またはエタノール、もしくはその混合物が特に好ましい。
【0018】
インジウム化合物を含む溶液の調製方法は、特に限定されるものではなく、インジウム化合物を溶媒に溶解させれば、いずれの調製方法であっても何等問題はない。
【0019】
切削加工用ジルコニア被切削体にインジウム化合物を含む溶液を浸透させる具体的な雰囲気は、特に制限はなく、常圧雰囲気下、減圧雰囲気下、加圧雰囲気下のいずれにおいても問題はない。製造時間短縮の観点から、周囲の環境を減圧雰囲気下または、加圧雰囲気下に置くことは、インジウム化合物を含む溶液の浸透を促すことになるので、好ましい手段である。また、減圧操作の後に常圧に戻す操作(減圧/常圧の操作)又は加圧操作の後に常圧に戻す操作(加圧/常圧の操作)を複数回繰り返すことは、インジウム化合物を含む溶液を、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の内部にある、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の外部と連通する空間に浸入させる工程の時間短縮のためには有効である。
【0020】
インジウム化合物を含む溶液を切削加工用ジルコニア被切削体に浸漬させる時間は、切削加工用ジルコニア被切削体の相対密度及び成形体サイズ、インジウム化合物を含む溶液の浸透程度及び浸漬方法等によって一概には決定されず、適宜、調整することができる。例えば、浸漬させる場合は、通常1~120時間であり、減圧下での浸漬の場合は、通常0.5~12時間であり、加圧下で接触させる場合は、通常0.2~6時間である。
【0021】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれるイットリウム化合物は酸化イットリウム換算(Y2O3)で4.0mоl%~5.5mоl%であるとより好ましい。酸化イットリウム量が、3.0mоl%未満の場合、ジルコニア最終焼成後に十分な透光性を付与することができないため好ましくない。一方、イットリア量酸化イットリウム量が、6.0mоl%を越える場合も、ジルコニア最終焼成体の透光性が低下していく傾向にあるため好ましくない。最終焼成とは、口腔内で利用できる補綴装置を得るための焼成工程であり、最終焼成体とは口腔内で利用できる補綴装置と同じ焼成工程を得たものである。
【0022】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれるイットリウム化合物とインジウム化合物の総量は、酸化物換算で6.0mоl%~6.7mоl%であるとより好ましい。イットリウム化合物とインジウム化合物の総量が、5.5mоl%未満の場合、ジルコニア最終焼成後に十分な透光性を付与することができないため好ましくない。一方、イットリウム化合物とインジウム化合物の総量が、7.0mоl%を越える場合も、ジルコニア最終焼成後に十分な透光性を付与することができないため好ましくない。
本発明においては、イットリウム化合物は酸化イットリウム換算で4.0mоl%~5.5mоl%、インジウム化合物は酸化インジウム換算で0.4mоl%~1.3mоl%、イットリウム化合物とインジウム化合物の総量が酸化物換算で6.0mоl%~6.7mоl%の3つの要件の内いずれかを満たすと好ましく、2つの要件を満たすと更に好ましく、3つの要件を満たすと最も好ましい。満たす要件が多くなるに従い、コントラスト比が低くなり、透光性が増す。
【0023】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造に用いられるジルコニア粉末の一次粒子径は、1~500nmであることが好ましい。一次粒子径が1nm未満の場合、ジルコニア焼結体の透光性は向上するものの十分な強度を付与することが困難となる傾向にある。一方、一次粒子径が500nmより大きい場合、ジルコニア焼結体に十分な強度を付与することが困難となる傾向にある。
【0024】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、着色剤を含むことが好ましい。具体的には、無機系着色剤がである。より具体的には、酸化鉄、エルビウム、コバルト、マンガン、クロム、希土類元素である。黄色を付与するためには酸化鉄や、赤色を付与するたにはエルビウムを加える。また、これらの着色剤に加えて、色調調整のためにコバルト、マンガン、クロムなどの元素を併用することが好ましい。本発明が着色剤を含むことで歯牙色に着色することが好ましい。
【0025】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、焼結助剤を含んでもよい。具体的には、焼結性向上と低温劣化の抑制を目的として、0.01~0.3質量%のアルミナを含有することが好ましい。アルミナ量が、0.01質量%より低い場合、最終焼成を行っても十分な特性を得にくく、十分な強度や透光性を付与することができない傾向にある。一方、アルミナ量が、0.3質量%を越える場合、ジルコニア焼結体の強度は向上するものの十分な透光性を付与することが困難となる傾向にある。
【0026】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体を1450℃~1600℃において焼成したジルコニア焼結体の相対密度は、理論密度の98%以上であることが好ましい。相対密度は、測定密度/理論密度により求められる。相対密度が98%以下であれば強度や透光性が低下する傾向にある。
【0027】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の結晶相は、正方晶および/または立方晶であることが好ましい。結晶相が、単斜晶である場合、最終焼成行っても十分な透光性を付与しにくいため好ましくない。
【0028】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法であれば何ら問題なく使用できる。具体的には、ジルコニア粉末をプレス成形によって成形したものが好ましい。さらに、色調や組成の異なるジルコニア粉末を多段階的にプレス成形し、多層成形したものがより好ましい。
【0029】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、プレス成形後に、冷間静水等方圧加圧法(CIP処理)により等方加圧を施したものが好ましい。
【0030】
本発明におけるCIP処理の最大負荷圧力は、50MPa以上であることが好ましい。最大負荷圧力が50MPa未満の場合、ジルコニア焼結体に十分な透光性と強度を付与できないことがある。
【0031】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の仮焼成温度は、800~1200℃が好ましい。仮焼成温度が800℃未満の場合、ビッカース硬度および/または曲げ強さが低くなりすぎるため、切削加工時にチッピングや破折が生じやすい傾向にある。一方、仮焼成温度が1200℃以上の場合、ビッカース硬度および/または曲げ強さが強くなりすぎるため、切削機のミリングバーの消耗が激しくなり、ランニングコストが高くなる傾向にある。
【0032】
このようにして、本発明の製造方法により、歯科切削加工用ジルコニア被切削体が得られる。得られた歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、必要に応じて所望の大きさに切断、切削、表面研磨が施される。
【0033】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を最終焼成させる方法としては、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、常圧で焼成することである。焼成温度は、特に限定はないが、1450~1600℃が好ましく、1500~1600℃が特に好ましい。焼成温度での係留時間は、特に限定はないが、1分間~12時間が好ましく、2~4時間が特に好ましい。昇温速度は、特に限定はないが、1~400℃/minが好ましく、より好ましくは、3~100℃/hが特に好ましい。
【0034】
本発明においては、歯科切削加工用ジルコニア被切削体を最終焼成させた焼結体のコントラスト比は、試料厚さ1mmにおいて0.68以下であることが好ましい。
【0035】
本発明においては、着色剤を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体を最終焼成させた焼結体のコントラスト比は、試料厚さ1mmにおいて0.68以下であることが好ましい。
【0036】
本発明においては、着色剤を含まない歯科切削加工用ジルコニア被切削体を最終焼成させた焼結体のコントラスト比は、試料厚さ1mmにおいて0.65以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて切削加工する補綴装置の種類は特に制限はなく、インレー、オンレー、べニア、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の形状も特に制限はなく、インレー、オンレー、べニア、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニア被切削体でも用いることができる。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明をより詳細に、かつ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
[酸化インジウム、酸化イットリウム含有量(mоl%)測定]
インジウムおよびイットリウム含有量評価用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。蛍光X線分析装置(リガク社製)を用いて、各試験体の上面、下面のインジウムおよびイットリウム量をそれぞれ測定し、上面、下面の平均値をインジウムおよびイットリウム含有量とした。なお、インジウムおよびイットリウム含有量(mоl%)は酸化物換算で示している。
【0040】
[焼結条件]
歯科切削加工用ジルコニア被切削体を所定の形状に切削加工し、焼成炉にて焼成(焼成温度:1550℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
【0041】
[透光性の評価]
透光性評価用試験体は、各歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて焼結した。その後、平面研削盤にて各試験体の厚さ(1.0mm)を調整した。なお、透光性の評価は、コントラスト比の測定により行った。コントラスト比は、分光測色計(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。各試験体の下に白板を置いて測色した時のY値をYwとし、試験体の下に黒板を置いて測色した時のY値をYbとした。コントラスト比は、以下の式をより算出した。
コントラスト比が、0に近づくほど、その材料は透明であり、コントラスト比が1に近づくほどその材料は不透明である。
コントラスト比=(Yb/Yw) (式)
さらに、コントラスト比を用いて以下のABCスコアーで評価した。
着色剤を含まない焼結体のコントラスト比≦0.65:A
0.65<着色剤を含まない焼結体のコントラスト比≦0.68:B
着色剤を含まない焼結体のコントラスト比>0.68:C
着色剤を含む焼結体のコントラスト比≦0.68:A
0.68<着色剤を含む焼結体のコントラスト比≦0.71:B
着色剤を含む焼結体のコントラスト比>0.71:C
Aの場合、高い透光性が求められる症例に十分適用可能な高い透光性を有する。この中でもコントラスト比が低い値となるものが好ましい。
Bの場合、高い透光性が求められる症例にある程度適用可能な透光性を有する。
Cの場合、透光性が低く、高い透光性が求められる症例には不向きである。
【0042】
実施例1:5.5mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。前記仮焼結体を硝酸インジウム水溶液(インジウム濃度:インジウムとして3.86mass%)に室温、大気圧下で12時間浸漬した。その後仮焼結体を溶液から取り出し、120℃の乾燥機中で完全に乾燥させ、歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製した。作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体から、切削加工により試験体を作製し、焼成炉にて焼成(焼成温度:1550℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
【0043】
実施例2:硝酸インジウム水溶液のインジウム濃度を4.5mass%(インジウムとして)とした以外は実施例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
実施例3:硝酸インジウム水溶液のインジウム濃度を6.0mass%(インジウムとして)とした以外は実施例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
実施例4:硝酸インジウム水溶液のインジウム濃度を8.0mass%(インジウムとして)とした以外は実施例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
実施例5:硝酸インジウム水溶液のインジウム濃度を10.0mass%(インジウムとして)とした以外は実施例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
実施例6:硝酸インジウム水溶液のインジウム濃度を12.0mass%(インジウムとして)とした以外は実施例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
実施例7:仮焼結体を硝酸インジウム-硝酸イットリウム水溶液(インジウム濃度:インジウムとして4.10mass%、イットリウム濃度:イットリウムとして3.07mass%)に室温、大気圧下で12時間浸漬した以外は実施例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
実施例8:使用するジルコニア粉末を、5.5mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)と、5.5mоl%の固溶したイットリアと酸化鉄を含むジルコニア粉末(Zpex Yellоw:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)との混合粉末(混合比(mass) 75:25)とした以外は実施例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
【0044】
実施例9:3.0mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末:93.2gと酸化インジウム:6.8gをボールミル中で混合して作成したジルコニア粉末を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体から、切削加工により試験体を作製し、焼成炉にて焼成(焼成温度:1550℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
【0045】
実施例10:4.0mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末:95.5gと酸化インジウム:4.5gをボールミル中で混合して作成したジルコニア粉末を用いた以外は実施例9と同様にジルコニア焼結体を作製した。
【0046】
実施例11:硝酸インジウム-硝酸イットリウム水溶液の濃度を、インジウム濃度:インジウムとして1.71mass%、イットリウム濃度:イットリウムとして3.07mass%とした以外は実施例7と同様にジルコニア焼結体を作製した。
【0047】
比較例1:5.5mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体から、切削加工により試験体を作製し、焼成炉にて焼成(焼成温度:1550℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
【0048】
比較例2:5.5mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。前記仮焼結体を硝酸イットリウム水溶液(イットリウム濃度:イットリウムとして3.0mass%)に室温、大気圧下で12時間浸漬した。その後仮焼結体を溶液から取り出し、120℃の乾燥機中で完全に乾燥させ、歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製した。作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体から、切削加工により試験体を作製し、焼成炉にて焼成(焼成温度:1550℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
【0049】
比較例3:硝酸イットリウム水溶液のイットリウム濃度を8.0mass%(イットリウムとして)とした以外は比較例2と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例4:硝酸イットリウム水溶液のイットリウム濃度を10.0mass%(イットリウムとして)とした以外は比較例2と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例5:使用するジルコニア粉末を、5.5mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)と、5.5mоl%の固溶したイットリアと酸化鉄を含むジルコニア粉末(Zpex SMILE Yellоw:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)との混合粉末(混合比(mass) 75:25)とした以外は比較例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例6:使用するジルコニア粉末を、5.5mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)と、5.5mоl%の固溶したイットリアと酸化鉄を含むジルコニア粉末(Zpex SMILE Yellоw:東ソー社製 アルミナ0.05質量%含有)との混合粉末(混合比(mass) 75:25)とした以外は比較例2と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例7:硝酸イットリウム水溶液のイットリウム濃度を8.0mass%(イットリウムとして)とした以外は比較例6と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例8:硝酸イットリウム水溶液のイットリウム濃度を10.0mass%(イットリウムとして)とした以外は比較例6と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例9:硝酸インジウム水溶液のインジウム濃度を0.9mass%(インジウムとして)とした以外は実施例1と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例10:3.0mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末:92.8gと酸化インジウム:7.2gを用いた以外は実施例9と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例11:硝酸インジウム-硝酸イットリウム水溶液の濃度を、インジウム濃度:インジウムとして1.71mass%、イットリウム濃度:イットリウムとして4.30mass%とした以外は実施例7と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例12:5.5mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末:95.5gと酸化インジウム:4.5gを用いた以外は実施例9と同様にジルコニア焼結体を作製した。
比較例13:4.0mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末を用いた以外は実施例6と同様にジルコニア焼結体を作製した。
【0050】
実施例および比較例で製造した歯科切削加工用ジルコニア被切削体の酸化インジウム及び酸化イットリウム含有量並びに特性試験結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
実施例1~11は、含有するイットリウム化合物とインジウム化合物の合計が5.5mоl%~7.0mоl%であることから、天然歯エナメル層同様の高い透光性を示した。
【0053】
比較例1~13は、インジウム化合物を含有していないか、含有するイットリウム化合物とインジウム化合物の合計が5.5mоl%未満もしくは7.0mоl%を超えることから、天然歯エナメル層同様の高い透光性を有していなかった。