(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066183
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】インジウムを含有する歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液
(51)【国際特許分類】
A61K 6/60 20200101AFI20220421BHJP
A61K 6/20 20200101ALI20220421BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169522
(22)【出願日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2020174308
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】野中 和理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周平
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA20
4C089BA01
4C089BA09
4C089BA10
4C089BA18
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】
天然歯エナメル質同様の高い透光性をジルコニア焼結体に付与することができる歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液およびその使用方法を提供する。
【解決手段】
歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液を、溶媒及びインジウム化合物を含み、歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上溶液全体量に対して、インジウム化合物をインジウム換算で2.0wt%~20.0wt%含むものとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液であって、
溶媒及びインジウム化合物を含み、
歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上溶液全体量に対して、インジウム化合物をインジウム換算で2.0wt%~20.0wt%含むことを特徴とする歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液であって、溶媒が水またはアルコールまたはその混合物であることを特徴とする透光性向上液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液であって、沈殿剤を含むことを特徴とする歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法であって、歯科用ジルコニア仮焼体に歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液を塗布及び又は含浸することを特徴とする歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法であって、切削された歯形状の歯科用ジルコニア仮焼体の咬合面又は切端側に透光性向上液を塗布することを特徴とする歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法。
【請求項6】
請求項5に記載の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法であって、歯形状の歯科用ジルコニア仮焼体がインレー、ラミネート、クラウンまたはブリッジ形態であることを特徴とする歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ジルコニア仮焼体の透光性を向上させるための溶液およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により補綴装置を作製する技術が急速に普及してきている。これにより、ジルコニア、アルミナ、二ケイ酸リチウム等のセラミックス材料や、アクリルレジン、ハイブリッドレジン等のレジン材料で製造された被切削体を加工することで、容易に補綴装置を作製することが可能となってきている。
【0003】
特に、ジルコニアは、高い強度を有していることから様々な症例で臨床応用されている。一方、焼結させた口腔内で使用可能なジルコニア(以下、ジルコニア焼結体)は、硬度が非常に高いため、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工することができない。そのため、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、最終焼成まで行わず低い焼成温度で仮焼し、切削加工可能な硬度に調整したものが用いられている。
【0004】
歯科材料として応用され始めた当初のジルコニアは、強度は高いものの透光性が低く、主にコーピングやフレームとしての使用にとどまっていた。
近年、透光性を向上させたジルコニア(高透光性ジルコニア)が開発されたことで、その用途は臼歯部から前歯部のフルクラウンにまで拡大されている。
しかし、高透光性ジルコニアにおいても、天然歯のエナメル質を再現するには透光性が不十分である。そのため、特に審美性が求められる症例においては、ジルコニアに陶材を築盛することで自然な修復物を作製している。
このような状況において、フルカウントゥアジルコニアでより自然な修復物を得ることが望まれており、
そのためにより透光性に優れるジルコニアの開発が求められている。
【0005】
特許文献1には、イットリウムを含む透光性向上液およびその使用方法が開示されている。当溶液をジルコニア仮焼体に使用することで、任意の部分の透光性を向上させることができる。しかしながら、当該溶液により透光性を向上させても、なお天然歯エナメル層の色調再現には透光性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ジルコニア焼結体に天然歯エナメル質同様の高い透光性を付与する技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、天然歯エナメル質同様の高い透光性をジルコニア焼結体に付与することができる歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液について検討した。
【0009】
本発明は、溶媒及びインジウム化合物を含み、歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上溶液全体量に対して、インジウム化合物をインジウム換算で2.0wt%~20.0wt%含むことを特徴とする歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液を提供する。
本発明の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液においては、溶媒が水またはアルコールまたはその混合物とすることができる。
本発明の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液においては、沈殿剤を含むことができる。
【0010】
本発明はまた、本発明の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法であって、歯科用ジルコニア仮焼体に歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液を塗布及び又は含浸することを特徴とする歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法を提供する。
本発明はまた、本発明の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法であって、切削された歯形状の歯科用ジルコニア仮焼体の咬合面又は切端側に透光性向上液を塗布することを特徴とする歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法を提供する。
この場合、歯形状の歯科用ジルコニア仮焼体がインレー、ラミネート、クラウンまたはブリッジ形態歯形状の歯科用ジルコニア仮焼体がインレー、ラミネート、クラウンまたはブリッジ形態とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液は、ジルコニア焼結体に天然歯エナメル質同様の高い透光性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液は、溶媒及びインジウム化合物を含み、歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上溶液全体量に対して、インジウム化合物をインジウム換算で2.0wt%~20.0wt%含むことを特徴としている。
【0013】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液に含まれるインジウム化合物はより好ましくはインジウム換算で5.0wt%~15.0wt%である。インジウム換算で2.0wt%未満の場合、ジルコニア焼結体に十分な透光性を付与できない。一方、インジウム換算で20.0wt%を超える場合も、ジルコニア焼結体に十分な透光性を付与できない。
本発明は歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液中のインジウム量が最も重要となる。
【0014】
前記インジウム化合物としては溶媒に溶解する公知のインジウム化合物であればなんら制限なく用いることができる。具体的には、本発明に用いられるインジウム化合物はインジウムの酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩などである。具体的には酸化インジウム、硝酸インジウム、塩化インジウム、硫酸インジウムなどである。入手が容易であること、溶媒に溶解しやすいことから、硝酸インジウムを用いることが好ましい。
【0015】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液に使用する溶媒は任意であるが、水及び有機溶媒などを用いることができる。入手、取り扱いが容易であることから、水またはアルコールまたはその混合物が特に好ましい。具体的なアルコールはエタノールである。溶媒は歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の基材であり、配合量は歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液への配合成分残部である。
【0016】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体中での偏析を抑制する目的で沈殿剤を含んでいてもよい。沈殿剤としては、尿素、ヘキサメチレンテトラミンなどが挙げられるが、入手が容易であることから尿素を用いることが好ましい。沈殿剤の濃度に特に制限はないが、5wt%~40wt%とすることが好ましい。
【0017】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液は、インジウム以外の金属を含んでいてもよい。具体的には、ジルコニア中で安定化剤となるイットリウムや、着色剤となるエルビウム、鉄、コバルトなどが挙げられる。インジウム以外の金属濃度に特に制限はないが、イットリウムは4wt%以下、着色剤となる金属は2wt%以下、より好ましくは着色剤となる金属の合計が2wt%以下であることが好ましい。イットリウム濃度が4wt%を超えると、透光性が低下する傾向がある。着色剤となる金属のイオン濃度が2wt%を超えると、天然歯の色調再現が困難となる。
【0018】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液は、増粘剤を含んでいてもよい。具体的には、ポリオール類、グリコールエーテル類などが挙げられる。増粘剤の濃度に特に制限はないが、5wt%以下が好ましく、0.001wt%~5wt%がより好ましい。増粘剤の濃度が5wt%を超えると、透光性向上液の浸透に時間がかかりすぎるため好ましくない。
【0019】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液は、視認性を高める目的で染色剤を含んでもよい。この染色剤は、続く焼結工程において分解除去されるものであることが好ましい。この染色剤は有機染色剤であることが好ましく、具体的にはローダミン、メチレンブルーなどが挙げられる。染色剤の濃度に特に制限はないが、0.01wt%~1wt%が好ましい。
【0020】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の調製方法は、特に限定されるものではなく、金属化合物を溶媒に溶解させれば、いずれの調製方法であっても何等問題はない。
【0021】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液の使用方法としては、ジルコニア仮焼体の任意の部位に浸透させて、インジウムを当該部位に担持させることができるものであれば特に制限はない。具体的にはジルコニア仮焼体の一部もしくは全部を歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液に浸漬させてもよいし、筆等を用いて透光性向上液をジルコニア仮焼体に塗布してもよい。塗布する具体的な部位としては、例えば、切削された歯形状の歯科用ジルコニア仮焼体の咬合面又は切端側とすることができる。
【0022】
歯科用ジルコニア仮焼体に透光性向上液を浸透させる具体的な雰囲気は、特に制限はなく、常圧雰囲気下、減圧雰囲気下、加圧雰囲気下のいずれにおいても問題はない。製造時間短縮の観点から、周囲の環境を減圧雰囲気下または、加圧雰囲気下に置くことは、透光性向上液の浸透を促すことになるので、好ましい手段である。また、減圧操作の後に常圧に戻す操作(減圧/常圧の操作)又は加圧操作の後に常圧に戻す操作(加圧/常圧の操作)を複数回繰り返すことは、透光性向上液を、歯科用ジルコニア仮焼体の内部にある、歯科用ジルコニア仮焼体の外部と連通する空間に浸入させる工程の時間短縮のためには有効である。
【0023】
透光性向上液を歯科用ジルコニア仮焼体に浸漬させる時間は、歯科用ジルコニア仮焼体の相対密度及び成形体サイズ、透光性向上液の浸透程度及び浸漬方法等によって一概には決定されず、適宜、調整することができる。例えば、浸漬させる場合は、通常1~120時間であり、減圧下での浸漬の場合は、通常0.5~12時間であり、加圧下で接触させる場合は、通常0.2~6時間である。
【0024】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液を含浸させるジルコニア仮焼体の形態に制限はない。切削加工前のディスク形状やブロック形状でもよいし、切削加工後のインレー、ラミネート、クラウン、ブリッジ等の形状でもよい。また、本発明の透光性向上液を適用することにより、より審美的な補綴装置を得るためには多層構造のブロック形状やディスク形状の歯科用ジルコニア仮焼体を用いることがより好ましい態様である。
【0025】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液を含浸させるジルコニア仮焼体の相対密度は、50~70%であることが好ましい。相対密度が50%未満の場合、その被切削体を焼結したときに好ましい強度、透光性が得られないため好ましくない。一方、相対密度が70%を越える場合、透光性向上液が十分に浸透せず、そのジルコニア仮焼体を焼結したときに好ましい透光性が得られないため好ましくない。本明細書において、ジルコニア仮焼体の相対密度とは、完全焼結体の密度を100%としたときにおける半焼結体であるジルコニア仮焼体の見かけ上の密度をいうものである。
【0026】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液を含浸させるジルコニア仮焼体の比表面積は、0.5~10m2/gであることが好ましい。比表面積が0.5m2/g未満の場合、及び10m2/gを越える場合、そのジルコニア仮焼体を焼結したときに好ましい透光性が得られないため好ましくない。
【0027】
本発明における歯科用ジルコニア仮焼体用透光性向上液を含浸させたジルコニア仮焼体は、その後乾燥させることが好ましい。乾燥方法に特に制限はないが、短時間で乾燥させられることから80~120℃の乾燥機中で乾燥させることが好ましい。
【0028】
本発明の透光性向上液を塗布液として用いる場合には、透光性向上液は、全ての成分を混合して製造することが好ましく、流動性がある状態の液体状であることが好ましい。なお、透光性向上液はいずれの状態であっても何等制限は無く、例えば均一にすべての成分が相溶している状態、複数層に分離している状態、ある特定の成分が分離して沈降している状態等が挙げられるが、使用前に振る等の操作により全体が均一な状態になるのであれば特に問題はない。その中でも本発明の透光性向上液を歯科用ジルコニア仮焼体に塗布後に本発明の透光性向上液が浸透するという観点からは、上記したとおり、すべての成分が相溶しており、流動性がある低粘性の液体状であることが好ましい。
【0029】
さらに本発明の透光性向上液を用いた歯科用ジルコニア仮焼体への塗布方法であるが、均一に歯科用ジルコニア仮焼体の表面に適用できる手法であれば何等問題はなく、筆による塗布、スプレー等を用いた噴霧、ピペット等を用いた滴下等いずれの塗布方法でも何等制限はない。その中でも均一に歯科用ジルコニア仮焼体の表面のみに適用できるこことから、筆等を用いて塗布することが好ましい。
【0030】
本発明の透光性向上液を塗布液として用いる場合には、歯科用ジルコニア仮焼体の表層のみに透光性向上液を塗布することが好ましい。このようにすることで、歯冠形態を想定して表層のみの透明性を向上させることができ、例えば、歯冠形態のエナメル部のみ塗布することにより、サービカル部は不透明な状態を維持することもできる。
【0031】
このようにして、本発明における透光性向上液によりインジウムが添加されたジルコニア仮焼体が得られる。
【0032】
得られたジルコニア仮焼体を最終焼成(焼結)させる方法に特に制限はないが、簡便で好ましい方法は、常圧で焼成することである。焼成温度に特に制限はないが、1450~1600℃が好ましく、1500~1600℃が特に好ましい。焼成温度での係留時間は、特に限定はないが、1分間~12時間が好ましく、2~4時間が特に好ましい。昇温速度は、特に限定はないが、1~400℃/minが好ましく、より好ましくは、3~100℃/hが特に好ましい。
【実施例0033】
[透光性向上液の調整]
表1に示した透光性向上液の組成を混合した後1時間攪拌混合することで作製した。なお、表1における各成分の総量が100%となっていないのは、インジウム源、着色剤源に含まれる硝酸イオン、塩化物イオン等の重量が加算されていないためである。
【表1】
【0034】
[ジルコニア仮焼体の作製]
5.5mоl%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05重量%含有)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。
【0035】
[焼結条件]
ジルコニア仮焼体を焼成炉にて焼成(焼成温度:1550℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
【0036】
[透光性の評価]
透光性評価用試験体は、ジルコニア仮焼体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて焼結した。その後、平面研削盤にて各試験体の厚さ(1.0mm)を調整した。なお、透光性の評価は、コントラスト比の測定により行った。コントラスト比は、分光測色計(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。各試験体の下に白板を置いて測色した時のY値をYwとし、試験体の下に黒板を置いて測色した時のY値をYbとした。コントラスト比は、以下の式をより算出した。
コントラスト比が、0に近づくほど、その材料は透光であり、コントラスト比が1に近づくほどその材料は不透光である。
コントラスト比=(Yb/Yw) (式)
さらに、以下の式より透光性向上度を算出した。
透光性向上度=(1-(試験体のコントラスト比)/(基準品のコントラスト比))×100
基準品は透光性向上液を使用していない焼結体である(実施例1~12においては比較例8、実施例13においては比較例9、実施例14においては比較例7)。
各試験体の透光性向上度を以下のABCスコアーで評価した。
透光性向上度≧5:A
5>透光性向上度≧3:B
3>透光性向上度:C
Aの場合、高い透光性向上能力を有する。
Bの場合、ある程度の透光性向上能力を有する。
Cの場合、透光性向上能力は低いもしくは全くない。
【0037】
実施例1:ジルコニア仮焼体を丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工した。得られた試験体を溶液1に浸漬した(室温、1.5時間)。その後溶液1から試験体を取り出し、表面に付着した溶液をふき取った後、乾燥機で乾燥させた(120℃、1時間)。乾燥後の試験体を焼成炉にて焼成(焼成温度:1550℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
【0038】
実施例2:溶液1の代わりに溶液2を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例3:溶液1の代わりに溶液3を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例4:溶液1の代わりに溶液4を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例5:溶液1の代わりに溶液5を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例6:溶液1の代わりに溶液6を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例7:溶液1の代わりに溶液7を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例8:溶液1の代わりに溶液8を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例9:溶液1の代わりに溶液9を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例10:溶液1の代わりに溶液10を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例11:溶液1の代わりに溶液11を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例12:溶液1の代わりに溶液12を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
実施例13:溶液1の代わりに溶液13を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
【0039】
実施例14:ジルコニア仮焼体から切削加工により上顎左側中切歯単冠形状の試験体を作製した。得られた、試験体に溶液3を筆で五回重ねて塗布した。その際、一回目の塗布は切端部から全長の約1/2の範囲に、二回目の塗布は約1/3の範囲に、三回目の塗布は約1/4の範囲に、四、五回目の塗布は1/5の範囲に行った。その後、乾燥機で乾燥(120℃、1時間)させた後、焼成炉にて焼成(焼成温度:1550℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、上顎左側中切歯単冠形状の修復物を得た。
【0040】
比較例1:溶液1の代わりに溶液14を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例2:溶液1の代わりに溶液15を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例3:溶液1の代わりに溶液16を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例4:溶液1の代わりに溶液17を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例5:溶液1の代わりに溶液18を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例6:溶液1の代わりに溶液19を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例7:溶液1の代わりに溶液20を使用したこと以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例8:溶液への浸漬を行わなかった以外は実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例9:溶液13の代わりに溶液21を使用したこと以外は実施例13と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
比較例10:溶液の塗布を行わなかった以外は実施例14と同様にして上顎左側中切歯単冠形状の修復物を作製した。
【0041】
実施例および比較例で製造した歯科切削加工用ジルコニア被切削体の特性試験結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
実施例1~13は、インジウム濃度が2.0~20.0wt%の溶液を使用していることから、透光性が十分に向上しており、天然歯に類似の透光性を示した。
【0044】
比較例1~7及び9は、インジウム濃度が2.0wt%未満もしくは20.0wt%を超える溶液を使用していることから、十分に透光性が向上しておらず、天然歯に類似の透光性が得られなかった。
【0045】
実施例14の補綴物は、補綴物中間部から切端に向けて徐々に透光性が向上しており、天然歯に類似の外観を有していた。
【0046】
比較例10の補綴物は、補綴物全体が同一の不十分な透光性を有しており、天然歯とは異なる外観を有していた。