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特開2022-66279被覆された物体及びこの物体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066279
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】被覆された物体及びこの物体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20220421BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20220421BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
C23C14/06
C23C14/34
C23C14/08
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022027325
(22)【出願日】2022-02-24
(62)【分割の表示】P 2018559801の分割
【原出願日】2017-05-04
(31)【優先権主張番号】102016108734.3
(32)【優先日】2016-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】399031078
【氏名又は名称】ケンナメタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
【住所又は居所原語表記】1600 Technology Way Latrobe PA 15650-0231, USA
(71)【出願人】
【識別番号】518396013
【氏名又は名称】エリコン サーフィス ソリューションズ アーゲー ファフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】デルフリンガー、 フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】コールシェーン、 イェルン
(57)【要約】
【課題】さまざまな金属及び金属合金を加工する切削工具の性能を改善し、寿命を延長させるさらなる被覆部を提供する。
【解決手段】基材及びこの基材上に物理的蒸着によって施与された耐摩耗性被覆を備える被覆された物体は、厚さが1~10μmの、基材上に施与される基層と、厚さが0.1~5μmの、基層に隣接するカバー層とを有しており、基層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から形成され、カバー層は、酸窒化物層及びこの酸窒化物層の上に配置されている窒化物層から成る少なくとも1つの交換層を備えており、酸窒化物層は、アルミニウムと、その他に任意で、クロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、ケイ素及びそれらの組み合わせから成る金属群から選択した金属とによる酸窒化物から形成され、窒化物層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から形成されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び該基材上に物理的蒸着によって施与された耐摩耗性の被覆部を備える被覆された物体であって、前記被覆部は基層及びカバー層を有しており、
前記基材上に施与された前記基層は、厚さが1~10μmであり、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から形成されており、
前記基層に隣接する前記カバー層は、厚さが0.1~5μmであり、
酸窒化物層及び該酸窒化物層の上に配置されている窒化物層から成る少なくとも1つの交番層を備えており、前記酸窒化物層は、アルミニウムと、その他に任意で、クロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、ケイ素及びそれらの組み合わせから成る金属群から選択した金属とによる酸窒化物から形成されており、前記窒化物層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から形成されており、
前記酸窒化物層は、該酸窒化物層中の窒素及び酸素の割合に関して、50原子濃度よりも少ない窒素含有量を有している、
被覆された物体。
【請求項2】
前記被覆部の前記基層は、アルミニウムチタン窒化物及び/又はアルミニウムチタンケイ素窒化物から構成され、好ましくはアルミニウムチタン窒化物から構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項3】
前記基層のAl:Ti原子比率は60:40~70:30の範囲にあり、好ましくは62:38~65:35の範囲にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の被覆された物体。
【請求項4】
前記被覆部にある前記基層に隣接する前記カバー層は、前記酸窒化物層及び前記窒化物層から成る少なくとも1つの前記交番層の繰り返しを1~10回、好ましくは3~5回有していることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項5】
前記酸窒化物層及び前記窒化物層から成る前記交番層の厚さは、約0.1μm~1μmの範囲にあることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項6】
少なくとも1つの前記交番層の前記酸窒化物層は、アルミニウムの酸窒化物、好ましくはAlO1-x、0.5<x≦0.99、又はアルミニウムとクロムの酸窒化物、好ましくは(Al,Cr)O1-x、0.5<x≦0.99から形成されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項7】
前記酸窒化物層は、それぞれ1~30原子%の窒素、好ましくは2~15原子%の窒素を含有していることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項8】
少なくとも1つの前記交番層にある前記酸窒化物層と前記窒化物層の間に、さらには任意で連続する前記交番層の間に、それぞれ1つの中間層が設けられており、前記中間層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる酸窒化物から形成されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項9】
前記中間層は、アルミニウムとチタンの酸窒化物、好ましくは(Al,Ti)O1-x、0<x<1から形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の被覆された物体。
【請求項10】
前記中間層は、さらに前記基層とこれに隣接する少なくとも1つの前記交番層との間にも配置されていることを特徴とする、請求項8又は9に記載の被覆された物体。
【請求項11】
前記被覆部は、TiN、ZrN、CrN及び/又はAlCrNから成る最外層を有していることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の耐摩耗性に被覆された物体の製造方法であって、
基材を準備する工程と、
厚さが1~5μmの基層であり、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から物理的蒸着によって形成される前記基層を前記基材上に施与する工程と、
アルミニウムと、その他に任意で、クロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、ケイ素及びそれらの組み合わせから成る金属群から選択した金属とから成る酸窒化物から物理的蒸着によって形成される少なくとも1つの酸窒化物層を基層の上に施与する工程と、
アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から物理的蒸着によって形成される窒化物層を酸窒化物層の上に施与する工程と、
任意で、酸窒化物層と窒化物層の施与を繰り返す工程と
を有しており、
基層、酸窒化物層及び窒化物層の蒸着中に窒素を連続的に、かつ調整しながら供給することを特徴とする、製造方法。
【請求項13】
前記基層及び/又は前記窒化物層の施与中の窒素分圧は、1~8Paの範囲、好ましくは2~5Paの範囲にあることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
陰極として、Al/Tiハイブリッド陰極を使用し、任意でCr、Si及び/又はZrでドープすることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸窒化物層の施与のため、酸素を10~100sccm、好ましくは40~60sccmの量で供給することを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項16】
前記酸窒化物の施与中の窒素分圧は、1~8Paの範囲、好ましくは2~5Paの範囲に維持されることを特徴とする、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記酸窒化物層の蒸着中の窒素分圧は、前記窒化物層の施与時よりも低く調整されることを特徴とする、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記酸窒化物層の物理的蒸着の陰極として、アルミニウム陰極を使用し、任意でクロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム及び/又はケイ素でドープすることを特徴とする、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記基層の施与後、前記酸窒化物層の施与後、前記窒化物層の施与後に、それぞれ1つの中間層を物理的蒸着によって施与し、前記中間層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる酸窒化物から形成されることを特徴とする、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記中間層の施与中に、酸素を、質量流量を増加又は減少しながら供給することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
酸素の前記質量流量は、前記酸窒化物層の施与中に供給される酸素の質量流量の約50%~100%の範囲で変動することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記中間層の施与中の窒素分圧は、1~8Paの範囲、好ましくは2~5Paの範囲に維持されることを特徴とする、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記中間層の施与中の前記窒素分圧は、窒化物層の施与時よりも低いことを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆された物体、詳細には基材及びこの基材上に耐摩耗性被覆部を備える切削工具ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼及び鋳鉄のような金属及び金属合金の機械加工に使用する切削工具は、通常、本体及びこの本体上に施与された被覆部から構成されており、この被覆部は、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化チタンアルミ及び/又はアルミナのような硬質材料の層を1つ以上備えることができる。この層は、切削インサートの硬度及び/又は耐摩耗性を高め、切削特性を改善するために用いられる。被覆部を施与するための方法としては、CVD法(化学気相成長)やPVD法(物理気相成長)の両方が使用される。
【0003】
PVD法としては、特にアーク蒸着法(アークPVD)及び陰極スパッター法(スパッタリング)が知られている。スパッター法では、陰極金属(ターゲット)の原子をプラズマの高エネルギーイオン銃によって照射し、続いてターゲットの近くに配置されている基材上に析出する。反応性ガスが存在することにより、ターゲット原子と反応性ガスの反応生成物が基材上に形成される。プラズマを形成する作用ガスとしては、多くの場合アルゴンなどの希ガスが用いられる。
【0004】
PVD法は、一般的に、窒化チタンと窒化チタンアルミの析出に使用される。アルミニウムの添加は、窒化チタン層の硬度と耐酸化性を向上させる。AlCrNのようなチタンを含まない層の使用も知られており、これらの層はシリコンなどのその他の元素によってドープすることにより、層特性を改善することができる。
【0005】
硬質のアルミナ層を析出するためのPVD法は、電圧パルス式陰極を使用することにより、非導電性アルミナによる金属ターゲットの被毒を防止する。アルミナ層を形成するため、アルミニウムターゲットを有する2つのマグネトロンスパッター源を正弦波発生器に接続することができ、両方のスパッター源が20~100kHzのパルス変化周波数でスパッター構成体の陽極及び陰極として交互に作用するようにする。
【0006】
米国特許第8,709,583B2号は、本体とその上に施与された多層被覆部を備える切削工具を開示しており、この被覆部は、第1層が厚さ1~5μmのTiAlNから成り、第2層が厚さ1~4μmのアルミナから成り、さらにこの被覆部は、第2のアルミナ層の上に交互に重なり合う形で、n個のTiAlN層とアルミナ層を有しており、それぞれの層厚は0.1~0.5μmである。このとき、nは個々の各層に関連し、0から10までの偶数である。また、被覆部の全体の厚さは2~16μmであり、被覆部はPVD法で形成される。
【0007】
米国特許出願第2014/193637A1号から、硬質合金、サーメット、鋼又は高速度鋼(HSS)から成る基材の上に、PVD法で析出した多層被覆部を備える切削工具が知られており、この被覆部は、窒化物又は炭窒化物から成る同一層又は種類の異なる層を1つ以上重ね合わせた基層と、クロム含有の酸化物機能層とを有している。基層の窒化物又は炭窒化物には、少なくともアルミニウム(Al)と、Ti、Cr、Si、Y、Ru、Moから選択したその他の複数の金属が任意で含まれている。
【0008】
クロム含有の機能層の結合を改善するため、米国特許出願第2014/193637A1号によれば、金属Al、Cr、Si及び/又はZrの酸化物又は酸窒化物を1つ以上有する中間層が基層と機能層との間に設けられており、この中間層は立方晶系構造を有している。クロム含有の機能層は、酸化クロム(Cr)、クロム窒化物、アルミニウムクロム酸化物(AlCr)、アルミニウムクロム酸窒化物、もしくはアルミニウムとクロムにその他の金属群Hf、Y、Zr、Ruを加えた混合酸化物又は混合酸窒化物から選択されており、菱面体構造を有している。
【0009】
独国特許出願第102010052687号は、好ましくはHSS及び硬質合金などの基材上に立方晶系のAlN及びAlONを有する多層酸窒化物層システムを開示している。この層システムは、層の厚さが0.1~0.5マイクロメートルの、好ましくは元素Cr、Al、Nから成る第1の接着層と、層の厚さが0.3~2.5マイクロメートルの、好ましくは元素Cr、Al、Nから成る第2の支持層と、層の厚さが0.3~2.5マイクロメートルの、好ましくは元素Cr、Al、O、Nから成る酸素含有の中間層と、層の厚さが0.3~2.5マイクロメートルの、好ましくは元素Cr、Al、O、Nから成る酸素含有の酸窒化物層とから構成されている。第2の実施形態では、さらにTiAlNなどの硬質合金から成るカバー層が設けられている。
【0010】
独国特許出願第102013005437号から、さらに、金属酸窒化物硬質材料層から成る被覆部を備える切削工具も知られている。金属酸窒化物硬質材料層の金属元素は、少なくとも1つのターゲットから物理的蒸着によって析出され、このターゲットは、金属群Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Alの少なくとも1つの金属を有し、好ましくは金属群Y、Ni、B、Siの少なくとも1つの元素も有している。このターゲットは異なるプロセスで少なくとも3つの層を析出するために使用されるが、反応性ガスの組成以外は同一のプロセスパラメータが用いられる。第1の基準層は金属窒化物層Mep1n1m1(n1=0)であり、この層は反応性ガスとして窒素を用いて析出される。第3の基準層は、原子濃度において最大30%、好ましくは20~30%の酸素濃度n3を有する金属酸窒化物層Mep3n3m3である。第2の基準層は、原子濃度において酸素濃度がn1よりも大きく、n3よりも小さく、好ましくは5~20%の範囲にある酸素濃度n2を有する金属酸窒化物層Mep2n2m2であり、この第2の基準層及び第3の基準層は、反応性ガスとして窒素と酸素を使用して析出される。さらに、これらの基準層に対しては、p1=p3=p2およびp1/(m1+n1)=p3/(m3+n3)=p2/(m2+n2)が当てはまる。基準層には酸化物相が含まれるべきではない。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、さまざまな金属及び金属合金を加工する切削工具の性能を改善し、寿命を延長させるさらなる被覆部を提供するという課題に基づいている。
【0012】
この課題は、本発明に基づき、基材及びこの基材上に物理的蒸着によって施与された耐摩耗性被覆部を備える被覆された物体によって解決され、この被覆部は基層及びカバー層を有しており、
基材上に施与された基層は、厚さが1~10μm、好ましくは1~5μmであり、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から形成されており、
基層に隣接するカバー層は、厚さが0.1~5μm、好ましくは0.1~3μmであり、酸窒化物層及びこの酸窒化物層の上に配置されている窒化物層から成る少なくとも1つの交番層を備えており、酸窒化物層は、アルミニウムと、その他に任意で、クロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、ケイ素及びそれらの組み合わせから成る金属群の金属とによる酸窒化物から形成されており、窒化物層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から形成されており、
酸窒化物層は、酸窒化物層中の窒素及び酸素の割合に関して、50原子濃度よりも少ない窒素含有量を有している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
窒素及び任意でCr、Hf、Zr、Y及び/又はSiなどのその他の金属を、酸窒化物層の形成下でアルミナの結晶格子の中に沈積させることにより、驚くべきことに、鋼などの部材、特に錆止めを施していない鋼(SS)又は高速度鋼(HSS)、及び/又は鋳鉄の湿式切削及び/又は乾式切削において、本発明に従って被覆した基材を備える切削工具の寿命は、周知の被覆を備える切削工具に比べて明らかに延長された。酸窒化物層及び窒化物層から成る少なくとも1つの交番層を提供することにより、被覆された切削工具の寿命を短縮することなく、カバー層を全体的により薄く形成することが可能になる。
【0014】
アルミナの結晶格子内への窒素の沈積によって改質された層は、純粋な酸化物層と比較して、より高い硬度を有していることが判明した。同時に、高温での耐摩耗性も改善している。任意で酸素によりドープした窒化物層と比較すると、本発明に基づく被覆の耐酸化性は改善しており、少なくとも同等の硬度ならびに耐摩耗性を達成している。
【0015】
本発明に基づき被覆された物体の製造に適した基材は周知である。例えば、硬質合金、サーメット、立方晶系窒化ホウ素(pcBN)、鋼又は高速度鋼から基材を製造することが可能である。
【0016】
好ましい実施形態では、被覆部の基層がアルミニウムチタン窒化物(AlTiN)及び/又はアルミニウムチタンケイ素窒化物(AlTiSiN)から構成され、特に好ましくはアルミニウムチタン窒化物から構成されている。アルミニウムチタン窒化物(AlTiN)は、非常に強靱で硬く、特に金属の切削加工で発生する高温状態においても優れた耐摩耗性を有していることから、基層に適している。
【0017】
本発明に従って耐摩耗性に被覆された物体の場合、一般的な基層のAl:Ti原子比率は60:40~70:30であり、好ましくは62:38~68:32である。すべての範囲表示には、表示されている最終値も含まれている。
【0018】
被覆部にある基層に隣接するカバー層は、酸窒化物層及び窒化物層から成る少なくとも1つの交番層の繰り返しを1~10回、好ましくは3~5回有することができる。酸窒化物層及び窒化物層から成る交番層の厚さは、好ましくは約0.1μm~1μmの範囲にある。酸窒化物層及び窒化物層は、それぞれ0.05~0.95μmの範囲の厚さを有していてよい。
【0019】
少なくとも1つの交番層にある酸窒化物層は、好ましくはアルミニウムの酸窒化物、特にAlO1-x、又はアルミニウムとクロムの酸窒化物、特に(Al,Cr)O1-xから形成されており、特に好ましくはアルミニウム酸窒化物から形成され、このときxはそれぞれ0.5<x≦0.99である。アルミニウムとクロムの酸窒化物中のクロム含有量は、アルミニウム含有量よりも多くてもよいが、同等もしくは少なくすることもできる。好ましくは、アルミニウムとクロムの酸窒化物はアルミナAlから派生し、クロムによってドープされた酸窒化物である。
【0020】
特に好ましくは、酸窒化物層がそれぞれ1~30原子%の窒素、有利には2~15原子%の窒素を含有している。この酸窒化物層中の窒素含有量により、窒化物層及び/又は基層への結合が改善することから、被覆の耐摩耗性が向上する。
【0021】
さらに好ましくは、少なくとも1つの交番層にある酸窒化物層と窒化物層の間に、さらには任意で連続する交番層の間に、それぞれ1つの中間層が設けられており、この中間層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる酸窒化物から形成されており、好ましくは、アルミニウムとチタンの酸窒化物、特に(Al,Ti)O1-x、0<x<1から形成される。このとき、x及び/又はAl/Tiの比は、中間層の厚さによって変化してもよい。中間層は、好ましくは酸素勾配を有し、中間層の酸素含有量はそれぞれ酸窒化物層方向に増加し、及び/又は窒化物層方向に減少する。
【0022】
一方で、交番層内では酸窒化物層とその上にある窒化物層との間に中間層を配置し、他方で、交番層の外側の窒化物層とこの交番層に続く次の交番換層の酸窒化物層との間に中間層を配置することにより、酸窒化物層と窒化物層の相互の結合をさらに改善することができる。これにより、被覆の耐摩耗性をより一層改善することができる。
【0023】
これに加え、基層とこれに隣接する少なくとも1つの交番層との間にも中間層を設けてよい。従って、中間層は基層上に直接施与されており、この中間層のすぐ上に少なくとも1つの交番層がある。この場合も、中間層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる酸窒化物から形成されており、好ましくはアルミニウムとチタンの酸窒化物、特に(Al,Ti)O1-x、0<x<1から形成されている。基層上の中間層は、酸窒化物層方向に増加する酸素勾配及び/又は中間層の厚さに応じた可変Al/Ti比を有していてよい。
【0024】
好ましくは、中間層の厚さは1μmよりも小さく、好ましくは0.5μmよりも小さく、特に好ましくは0.2μmよりも小さい。例えば、中間層の層厚が5~100nmの範囲では特に良好な結果が得られた。
【0025】
最後に、装飾目的の被覆部及び/又は使用上の指示としての被覆部は、TiN、ZrN、CrN又はAlCrN、あるいはこれらの化合物を混ぜた、金色から銀色に見える混合物から成る最外層を有していてもよい。この最外層により、この最外層を施した切削工具の切刃の使用を肉眼で識別することが可能になる。
【0026】
本発明に従って耐摩耗性に被覆された物体の製造方法では、例えば硬質合金、サーメット、pcBN、鋼又は高速度鋼から成る基材の上に、物理的蒸着によって、厚さが1~10μm、好ましくは1~5μm、特に好ましくは3~4.5μmの基層と、厚さが0.1~5μm、好ましくは0.1~3μmのカバー層とを備える被覆部が施与される。
【0027】
基層及びカバー層は、酸窒化物層と窒化物層から成る少なくとも2つの交番層及び任意の中間層も含めて、主にそれぞれに適したPVD法によって析出することができる。しかしながら、マグネトロンスパッタリング、反応性マグネトロンスパッタリング、デュアルマグネトロンスパッタリング、高出力パルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)、又は陰極スパッタリング(スパッター析出)とアーク蒸着(Arc-PVD)の同時使用が好ましい。被覆部のすべての層をアーク蒸着(Arc-PVD)によって析出することは、これによって特に硬質かつ高密度の層を析出できるため、特に好ましい。さらに、Arc-PVDの製造工程で生成された液滴は良好に後処理可能であることから、この仕方によって、本発明に基づく被覆部を析出するための安定的かつフレキシブルな製造方式が提供されることも確認された。
【0028】
本発明にとって重要なのは、本発明に従って耐摩耗性に被覆された物体の製造方法において、基材上に被覆部を施与するためのPVDプロセス中に窒素を連続的に供給し、さらに被覆部のそれぞれの層の望ましい組成に応じて窒素を調整することである。
【0029】
従って、本発明の対象は、耐摩耗性に被覆された物体の製造方法も含まれ、この方法は、
基材を準備する工程と、
厚さが1~10μm、好ましくは1~5μmの基層であり、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から物理的蒸着によって形成される基層を基材上に施与する工程と、
アルミニウムと、その他に任意で、クロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、ケイ素及びそれらの組み合わせから成る金属群から選択した金属とによる酸窒化物から物理的蒸着によって形成される少なくとも1つの酸窒化物層を基層の上に施与する工程と、
アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から物理的蒸着によって形成される窒化物層を酸窒化物層の上に施与する工程と、
任意で、酸窒化物層と窒化物層の施与を繰り返す工程と
を有しており、
基層、酸窒化物層及び窒化物層の蒸着中に窒素を連続的に、かつ調整しながら供給することを特徴としている。
【0030】
好ましくは、基層及び/又はカバー層の少なくとも1つの交番層の窒化物層の施与中に、1~8Pa、好ましくは2~5Pa及びさらに好ましくは3~4Paの範囲でN分圧が存在している。
【0031】
陰極としては、特に混合Al/Ti陰極を使用し、任意でCr、Si及び/又はZrでドープすることができる。Al/Ti陰極の原子比率は、好ましくは60:40~70:30の範囲にある。陰極電流は、この方法工程の場合、好ましくは150~250Aの範囲に、さらに好ましくは180~220Aの範囲にある。
【0032】
酸窒化物層の蒸着工程では、酸素を10~100標準立法センチメートル/分(sccm)、好ましくは40~60sccmの量で供給する。このとき、本発明に基づき、さらに、窒素分圧を1~8Pa、好ましくは2~5Pa、さらに好ましくは3~4Paの範囲で維持しながら窒素を供給する。特に、酸窒化物層の蒸着中の窒素分圧は、基層又は交番層の窒化物層の蒸着時よりも低く調整してもよい。特に好ましくは、酸窒化物層施与中の窒素分圧は、窒化物層施与中の分圧の約70~90%である。
【0033】
酸窒化物層蒸着の陰極としては、特に、アルミニウム陰極を使用し、任意でクロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム及び/又はケイ素でドープすることができ、特にAl/Crハイブリッド陰極を使用してもよい。酸窒化物層施与中の陰極電流は、好ましくは100~140Aの範囲にある。
【0034】
酸窒化物層の蒸着中は、供給する酸素量を一定に保つことが好ましい。
【0035】
酸窒化物層の施与前及び/又は施与後に中間層を形成するため、上昇ランプ又は下降ランプの形で質量流量を増加又は減少させて酸素供給を行ってもよい。特に、窒化物層の析出後の酸素供給は、次の酸化物層方向へ質量流量を段階的又は常時増加させながら行い、酸窒化物層の析出後の酸素供給は、次の窒化物層方向へ質量流量を段階的又は常時低下させながら行うことができる。
【0036】
好ましくは、中間層の形成中に供給される酸素の質量流量は、酸窒化物層の施与中に供給され質量流量の約50%~100%の範囲で変動する。基層又は窒化物層から酸窒化物層への移行時には、酸素の質量流量を、好ましくは上昇ランプの形で調整する。酸窒化物層から隣接する窒化物層への移行時には、酸素の質量流量を、好ましくは下降ランプの形で調整する。
【0037】
中間層の形成中の窒素分圧は、好ましくは1~8Pa、特に好ましくは2~5Paの範囲に維持する。特に、中間層施与中の窒素分圧は、窒化物層施与時よりも低くなるように調整する。特に好ましくは、中間層施与中の窒素分圧は、窒化物層蒸着中の分圧の約70~90%である。
【0038】
中間層を施与するため、好ましくは、基層及び窒化物層の施与に使用される陰極を別のアルミニウム陰極と一緒に使用する。好ましくは、中間層施与中のアルミニウム陰極への陰極電流は100~140Aの範囲にあり、Al/Ti陰極への陰極電流は120~180A、好ましくは約120~160Aの範囲にある。
【0039】
本発明のその他の特徴及び利点は、以下の好ましい実施形態の説明に示されている。しかし、以下に記載する例は本発明の説明にのみ用いるものであり、制限する意味に理解されるべきではない。
【0040】
製造例1
Oerlikon-Balzers社のInnova(商標)タイプのPVD被覆システムにおいて、約10重量%のCoを含むタングステンカーバイト硬質合金製切削工具の基材に、AlTiN基層と、3つの連続する交番層から成るカバー層とをアーク蒸着法によって取り付けた。各交番層にはAlOxN1-x酸窒化物層とAlTiN窒化物層がそれぞれ1つずつ含まれている。
【0041】
基層と第1の交番層の酸窒化物層との間、各交番層の酸窒化物層と窒化物層との間、互いに隣接する交番層との間には、それぞれ、酸素勾配を備えるAlTiO1-x中間層を析出した。
【0042】
チタン含有層の析出には、組成がAl67Ti33(原子%)の陰極を使用した。窒素分圧は、被覆の全継続時間にかけて3.0~3.5Paの範囲で調整を行った。酸窒化物層及び中間層の析出中には、酸素を30~50sscmの質量流量で供給した。
【0043】
AlTiN基層の厚さは3.7μmであった。カバー層の全厚は1.9μmであるため、被覆の全厚は5.6μmとなった。
【0044】
基材上に析出された被覆のその他のパラメータを、以下の表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
製造例2
PVD被覆システムにおいて、約10重量%のCoを含むタングステンカーバイト超硬合金製切削工具の基材に、AlTiN基層と、(Al,Cr)O1-x酸窒化物層及びAlTiN窒化物層を含む単独の交番層から成るカバー層とをアーク蒸着法によって取り付けた。
【0047】
基層と交番層の酸窒化物層との間、交番層の酸窒化物層と窒化物層との間には、それぞれ、酸素勾配を備える(Al,Cr)TiO1-x中間層を析出した。
【0048】
それぞれの層の析出は、製造例1で示されたパラメータに従って行われた。酸窒化物層ならびに中間層の析出には、アルミニウム陰極の代わりに、組成がAl70Cr30(原子%)の陰極を使用した。基層及び窒化物層の析出は、それぞれAlTi陰極を使用して行った。
【0049】
AlTiN基層の厚さは3.6μmであった。カバー層の全厚は0.8μmであるため、被覆の全厚は4.4μmとなった。
【0050】
製造例3
PVD被覆システムにおいて、85.5重量%のタングステンカーバイト、2.5重量%の混合炭化物、12重量%のCoから成る切削工具の硬質合金基材に、AlTiN基層と、3つの連続する交番層から成るカバー層を取り付けた。各交番層にはAlOxN1-x酸窒化物層とAlTiN窒化物層がそれぞれ1つずつ含まれている。
【0051】
基層と第1の交番層の酸窒化物層との間、各交番層の酸窒化物層と窒化物層との間、互いに隣接する交番層との間には、それぞれ、酸素勾配を備えるAlTiO1-x中間層を析出した。その他の被覆パラメータは製造例1と同じである。
【0052】
AlTiN基層の厚さは3.5μmであった。カバー層の全厚は1.8μmであるため、被覆の全厚は5.3μmとなった。
【0053】
製造例4
81.5重量%のタングステンカーバイト、10.5重量%の立方晶系混合炭化物、8重量%のCoから成る切削工具の硬質合金基材に、PVD被覆システムにおいて、AlTiN基層と、3つの連続する交番層から成るカバー層とを取り付けた。各交番層には(Al,Cr)O1-x酸窒化物層とAlTiN窒化物層がそれぞれ1つずつ含まれている。
【0054】
基層と交番層の酸窒化物層との間、交番層の酸窒化物層と窒化物層との間には、それぞれ、酸素勾配を備える(Al,Cr)TiO1-x中間層を析出した。
【0055】
それぞれの層の析出は、製造例1で示されたパラメータに従って行われた。酸窒化物層ならびに中間層の析出には、アルミニウム陰極の代わりに、組成がAl85Cr15(原子%)の陰極を使用した。
【0056】
AlTiN基層の厚さは3.1μmであった。カバー層の全厚は1.8μmであるため、被覆の全厚は4.9μmとなった。
【0057】
比較例1
比較のため、製造例1~4の硬質合金基材に、Oerlikon-Balzers社のInnova(商標)タイプのPVD被覆システムにおいてAlTiN被覆をアーク蒸着法によって取り付けた。Al:Tiの原子比率は約67:33であった。AlTiN被覆は、厚さが約3.3~4.1μmの範囲にあった。
【0058】
比較例2
PVD被覆システムにおいて、85.5重量%のタングステンカーバイト、2.5重量%の混合炭化物、12重量%のCoから成る切削工具の硬質合金基材に、AlTiN基層と、(Al,Cr)酸窒化物層及びAlTiN窒化物層を含む単独の交番層から成るカバー層とを取り付けた。酸窒化物層の析出には、Al:Crの原子比率が70:30の陰極を使用した。
【0059】
AlTiN基層の厚さは2.8μmであった。カバー層の全厚は2.0μmであるため、被覆の全厚は4.8μmとなった。
【0060】
切削試験1
グレード1.4301の鋼製ワークピースに6つの歯を有する平面フライスカッターを使用したフライス削り試験において、インサート形状HNGJ0905ANSN-GDを備える製造例1の切削工具を使用し、比較例1に従って被覆した対応の切削工具と比較した。
【0061】
このフライスカッターを、シングルポイント方式(Einzahnversuch)において、切削速度(vc)120m/分、切削深さ(ap)1mm、接触幅55mmで作動させた。歯のピッチは0.25mmであった。フライス加工は、冷却なしの乾式で行った。
【0062】
工具寿命の終了は、逃げ面摩耗>0.2mm又は切刃の破損によって定義された。
【0063】
本発明に従って被覆された切削工具により、フライス削り長さ7.5mの寿命を達成することができた。比較例1に従って被覆した切削工具の寿命は僅か4.5mであった。
【0064】
切削試験2
グレード1.4301の鋼製ワークピースに6つの歯を有する平面フライスカッターを使用したフライス削り試験において、インサート形状HNGJ0905ANSN-GDを備える製造例2の切削工具を使用し、比較例1に従って被覆した対応の切削工具と比較した。
【0065】
このフライスカッターを、シングルポイント方式(Einzahnversuch)において、切削速度(vc)100m/分、切削深さ(ap)1mm、接触幅50mmで作動させた。歯のピッチは0.25mmであった。フライス加工はエマルジョン冷却で行った。
【0066】
工具寿命の終了は、逃げ面摩耗>0.2mm又は切刃の破損によって定義された。
【0067】
本発明に従って被覆された切削工具により、フライス削り長さ2.4mの寿命を達成することができた。比較例1に従って被覆した切削工具の寿命は僅か1.8mであった。
【0068】
切削試験3
グレード1.4301の鋼製ワークピースに6つの歯を有する平面フライスカッターを使用したフライス削り試験において、インサート形状XPHT160412を備える製造例3の切削工具を使用し、比較例1及び2による対応の切削工具と比較した。
【0069】
このフライスカッターを、シングルポイント方式(Einzahnversuch)において、切削速度(vc)250m/分、切削深さ(ap)2.5mm、接触幅24mmで作動させた。歯のピッチは0.15mmであった。フライス加工は冷却なしで行った。
【0070】
工具寿命の終了は、逃げ面摩耗>0.3mmまたは切削エッジの破損によって定義された。
【0071】
本発明に従って被覆された切削工具により、フライス削り長さ2.1mの寿命を達成することができた。比較例1及び2に従って被覆した切削工具の寿命は僅か1.2mであった。
【0072】
切削試験4
グレードEN-GJS-700の球状黒鉛製ワークピースに6つの歯を有する平面フライスカッターを使用したフライス削り試験において、インサート形状XPHT160412を備える製造例4の切削工具を使用し、比較例1による対応の切削工具と比較した。
【0073】
このフライスカッターを、シングルポイント方式(Einzahnversuch)において、切削速度(vc)250m/分、切削深さ(ap)1mm、接触幅20mmで作動させた。歯のピッチは0.25mmであった。フライス加工は冷却なしで行った。
【0074】
工具寿命の終了は、逃げ面摩耗>0.1mmまたは切削エッジの破損によって定義された。
【0075】
本発明に従って被覆された切削工具により、フライス削り長さ12.8mの寿命を達成することができた。比較例1に従って被覆した切削工具の寿命は僅か9.0mであった。
【0076】
従って、本発明に基づく被覆により、切削工具の寿命を30%以上、部分的には70%以上も顕著に延長することが可能である。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び該基材上に物理的蒸着によって施与された耐摩耗性の被覆部を備える被覆された物体であって、前記被覆部は基層カバー層及び中間層を有しており、
前記基材上に施与された前記基層は、厚さが1~10μmであり、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から形成されており、
前記基層に隣接する前記カバー層は、厚さが0.1~5μmであり、酸窒化物層及び該酸窒化物層の上に配置されている窒化物層から成る少なくとも1つの交番層を備えており、
前記中間層は、前記少なくとも1つの交番層における前記酸窒化物層と前記窒化物層との間に析出されており、
前記少なくとも1つの交番層における前記酸窒化物層は、アルミニウムの酸窒化物、又はアルミニウムとさらにクロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、ケイ素及びそれらの組み合わせから成る金属群から選択した金属とによる酸窒化物から形成されており、
前記少なくとも1つの交番層における前記窒化物層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から形成されており、
前記中間層は、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる酸窒化物から形成されており、
前記少なくとも1つの交番層における前記酸窒化物層は、該酸窒化物層中の窒素及び酸素の割合に関して、50原子よりも少ない窒素含有量を有している、
被覆された物体。
【請求項2】
前記被覆部の前記基層は、アルミニウムチタン窒化物及び/又はアルミニウムチタンケイ素窒化物から構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項3】
前記基層のAl:Ti原子比率は60:40~70:30の範囲にあり、好ましくは62:38~65:35の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項4】
記カバー層は、前記酸窒化物層、前記中間層及び前記窒化物層から成る前記少なくとも1つの交番層の繰り返しを1~10回有していることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項5】
少なくとも1つの交番層の厚さは、約0.1μm~1μmの範囲にあることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項6】
前記少なくとも1つの交番層の前記酸窒化物層は、アルミニウムの酸窒化物、好ましくはAlO1-x、0.5<x≦0.99、又はアルミニウムとクロムの酸窒化物、好ましくは(Al,Cr)O1-x、0.5<x≦0.99から形成されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項7】
前記酸窒化物層は、それぞれ1~30原子%の窒素、好ましくは2~15原子%の窒素を含有していることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項8】
前記中間層が、連続する前記交番層の間にさらに設けられていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項9】
前記中間層は、アルミニウムとチタンの酸窒化物、好ましくは(Al,Ti)O1-x、0<x<1から形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の被覆された物体。
【請求項10】
前記中間層は、さらに前記基層とこれに隣接する前記少なくとも1つの交番層との間にも配置されていることを特徴とする、請求項8又は9に記載の被覆された物体。
【請求項11】
前記被覆部は、前記カバー層の上に、TiN、ZrN、CrN及び/又はAlCrNから成る最外層を有していることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の被覆された物体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の耐摩耗性に被覆された物体の製造方法であって、
基材を準備する工程と、
厚さが1~5μmの基層であり、アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から物理的蒸着によって形成される前記基層を前記基材上に施与する工程と、
アルミニウムと、その他に任意で、クロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、ケイ素及びそれらの組み合わせから成る金属群から選択した金属とから成る酸窒化物から物理的蒸着によって形成される少なくとも1つの酸窒化物層を前記基層の上に施与する工程と、
アルミニウムと、その他にTi、Cr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる酸窒化物から物理的蒸着によって形成される中間層を前記酸窒化物層の上に施与する工程と、
アルミニウムと、その他にTi、Cr、Si、Zr及びそれらの組み合わせから成る金属群のうち少なくとも1つの金属とによる窒化物から物理的蒸着によって形成される窒化物層を前記中間層の上に施与する工程と、
任意で、前記酸窒化物層、前記中間層及び前記窒化物層の施与を繰り返す工程と
を有しており、
基層、前記酸窒化物層、前記中間層及び前記窒化物層の蒸着中に窒素を連続的に、かつ調整しながら供給することを特徴とする、製造方法。
【請求項13】
前記基層、前記中間層び前記窒化物層の施与中の窒素分圧は、1~8Paの範囲、好ましくは2~5Paの範囲にあることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記物理的蒸着のための陰極として、任意でCr、Si及び/又はZrでドープされたAl/Tiハイブリッド陰極を使用することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸窒化物層の施与のため、酸素を10~100sccm、好ましくは40~60sccmの量で供給することを特徴とする、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記酸窒化物の施与中の窒素分圧は、1~8Paの範囲、好ましくは2~5Paの範囲に維持されることを特徴とする、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記酸窒化物層の蒸着中の窒素分圧は、前記窒化物層の施与時よりも低く調整されることを特徴とする、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記酸窒化物層の物理的蒸着の陰極として、任意でクロム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム及び/又はケイ素でドープされたアルミニウム陰極を使用することを特徴とする、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記基層の及び前記窒化物層のに、前記中間層をさらに施与することを特徴とする、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記中間層の施与中に、酸素を、質量流量を増加又は減少しながら供給することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
酸素の前記質量流量は、前記酸窒化物層の施与中に供給される酸素の質量流量の約50%~100%の範囲で変動することを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記中間層の施与中の窒素分圧は、1~8Paの範囲、好ましくは2~5Paの範囲に維持されることを特徴とする、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記中間層の施与中の前記窒素分圧は、窒化物層の施与時よりも低いことを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【外国語明細書】