(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066343
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】反応処理容器、反応処理装置、反応処理方法および反応処理容器の使用方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220421BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220421BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031555
(22)【出願日】2022-03-02
(62)【分割の表示】P 2019142779の分割
【原出願日】2017-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2016214059
(32)【優先日】2016-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「環境中病原性微生物の迅速定量装置の実用化開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】福澤 隆
(57)【要約】
【課題】試料の移動を適切に行って、安定したPCRを行うことができる反応処理容器を提供する。
【解決手段】反応処理容器10は、基板14と、基板14に形成された、試料50が移動するための流路12と、流路12の両端に設けられた第1空気連通口24および第2空気連通口26と、流路12における第1空気連通口24および第2空気連通口26の間に形成された、試料50にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域32とを備える。流路12は、サーマルサイクル領域32と第1空気連通口24との間に、第1分岐流路61および第2分岐流路62を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に形成された、試料が移動するための流路と、
前記流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域であって、試料に変性を起こさせる変性領域と、試料にアニーリング・伸長を起こさせるアニーリング・伸長領域と、前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路を含む接続領域と、を含むサーマルサイクル領域と、
前記流路における前記サーマルサイクル領域と少なくとも一方の前記空気連通口との間に形成され、試料を前記流路に導入することが可能な少なくとも一つの孔を含む、分注が可能な流路と、
を備え、
前記変性領域および前記アニーリング・伸長領域は、複数の曲線状の流路と、当該複数の曲線状の流路を繋ぐ直線状の流路を含み、
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路の長さは、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域に含まれる前記直線状の流路の長さよりも長く、
前記一対の空気連通口からの交互の加圧により試料を前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間で繰り返し往復式に移動させることによって、試料にサーマルサイクルを付与してPCRを起こさせる反応処理装置に用いられることを特徴とする反応処理容器。
【請求項2】
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間隔は、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域を区画する矩形の一辺より長いことを特徴とする請求項1に記載の反応処理容器。
【請求項3】
前記樹脂製基板の面に貼付され、前記流路を封止するための第1封止フィルムと、
試料を前記流路に導入することが可能な前記孔を封止するための第2封止フィルムと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の反応処理容器。
【請求項4】
反応処理容器と、
前記反応処理容器の温度を調節する温度制御システムと、
試料を前記反応処理容器内で移動させる送液システムと、
前記反応処理容器内の試料からの蛍光を検出する蛍光検出器と、
前記蛍光検出器により検出された情報に基づいて前記送液システムを制御する制御部と、
を備える反応処理装置であって、
前記反応処理容器は、
樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に形成された、試料が移動するための流路と、
前記流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域であって、試料に変性を起こさせる変性領域と、試料にアニーリング・伸長を起こさせるアニーリング・伸長領域と、前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路を含む接続領域と、を含むサーマルサイクル領域と、
前記流路における前記サーマルサイクル領域と少なくとも一方の前記空気連通口との間に形成され、試料を前記流路に導入することが可能な少なくとも一つの孔を含む、分注が可能な流路と、
を備え、
前記変性領域および前記アニーリング・伸長領域は、複数の曲線状の流路と、当該複数の曲線状の流路を繋ぐ直線状の流路を含み、
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路の長さは、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域に含まれる前記直線状の流路の長さよりも長く、
前記送液システムを用いて前記一対の空気連通口からの交互の加圧により試料を前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間で繰り返し往復式に移動させることによって、試料にサーマルサイクルを付与してPCRを起こさせることを特徴とする反応処理装置。
【請求項5】
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間隔は、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域を区画する矩形の一辺より長いことを特徴とする請求項4に記載の反応処理装置。
【請求項6】
反応処理容器を準備するステップと、
前記反応処理容器の温度を調節するステップと、
前記反応処理容器内の試料からの蛍光を検出するステップと、
検出された蛍光に基づいて、前記反応処理容器内で試料を移動させるステップと、
を備える反応処理方法であって、
前記反応処理容器は、
樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に形成された、試料が移動するための流路と、
前記流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域であって、試料に変性を起こさせる変性領域と、試料にアニーリング・伸長を起こさせるアニーリング・伸長領域と、前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路を含む接続領域と、を含むサーマルサイクル領域と、
前記流路における前記サーマルサイクル領域と少なくとも一方の前記空気連通口との間に形成され、試料を前記流路に導入することが可能な少なくとも一つの孔を含む、分注が可能な流路と、
を備え、
前記変性領域および前記アニーリング・伸長領域は、複数の曲線状の流路と、当該複数の曲線状の流路を繋ぐ直線状の流路を含み、
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路の長さは、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域に含まれる前記直線状の流路の長さよりも長く、
前記一対の空気連通口からの交互の加圧により試料を前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間で繰り返し往復式に移動させることによって、試料にサーマルサイクルを付与してPCRを起こさせることを特徴とする反応処理方法。
【請求項7】
前記反応処理容器は、
前記樹脂製基板の面に貼付され、前記流路を封止するための第1封止フィルムと、
試料を前記流路に導入することが可能な前記孔を封止するための第2封止フィルムと、
をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の反応処理方法。
【請求項8】
前記孔が露出するまで前記第2封止フィルムを剥がすステップと、
試料を前記孔から導入するステップと、
前記孔が再び封止されるように前記第2封止フィルムを貼り戻すステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の反応処理方法。
【請求項9】
反応処理容器の使用方法であって、
前記反応処理容器は、
樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に形成された、試料が移動するための流路と、
前記流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域であって、試料に変性を起こさせる変性領域と、試料にアニーリング・伸長を起こさせるアニーリング・伸長領域と、前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路を含む接続領域と、を含むサーマルサイクル領域と、
前記流路における前記サーマルサイクル領域と少なくとも一方の前記空気連通口との間に形成され、試料を前記流路に導入することが可能な少なくとも一つの孔を含む、分注が可能な流路と、
前記樹脂製基板の面に貼付され、前記流路を封止するための第1封止フィルムと、
試料を前記流路に導入することが可能な前記孔を封止するための第2封止フィルムと、
を備え、
前記変性領域および前記アニーリング・伸長領域は、複数の曲線状の流路と、当該複数の曲線状の流路を繋ぐ直線状の流路を含み、
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路の長さは、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域に含まれる前記直線状の流路の長さよりも長く、
前記反応処理容器は、前記一対の空気連通口からの交互の加圧により試料を前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間で繰り返し往復式に移動させることによって、試料にサーマルサイクルを付与してPCRを起こさせる反応処理装置に用いられ、
前記孔が露出するまで前記第2封止フィルムを剥がすステップと、
試料を前記孔から導入するステップと、
前記孔が再び封止されるように前記第2封止フィルムを貼り戻すステップと、
を備えることを特徴とする反応処理容器の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)に使用される反応処理容器およびその反応処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査は、各種医学分野における検査、農作物や病原性微生物の同定、食品の安全性評価、さらには病原性ウィルスや各種感染症の検査にも広く活用されている。遺伝子である微小量のDNAを高感度に検出するために、DNAの一部を増幅して得られたものを分析する方法が知られている。中でもPCRは、生体等から採取されたごく微量のDNAのある部分を選択的に増幅する注目の技術である。
【0003】
PCRは、DNAを含む生体サンプルと、プライマーや酵素などからなるPCR試薬とを混合した試料に、所定のサーマルサイクルを与え、変性、アニーリングおよび伸長反応を繰り返し起こさせて、DNAの特定の部分を選択的に増幅させるものである。
【0004】
PCRにおいては、対象の試料をPCRチューブ又は複数の穴が形成されたマイクロプレート(マイクロウェル)などの反応処理容器に所定量入れて行うことが一般的であるが、近年、基板に形成された微細な流路を備える反応処理容器(チップとも呼ばれる)を用いて行うことが実用化されてきている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PCRでは、試料を例えば60℃程度の中温に維持された流路の領域と95℃程度の高温に維持された流路の領域との間で往復移動させることにより、試料に対してサーマルサイクルを所定回数繰り返す必要がある。試料は通常水溶液であるため95℃程度の高温領域では蒸気圧が高くなり、試料の水成分が蒸発しやすい。この蒸発した試料の水成分の一部が流路の比較的温度の低い部分で凝縮または結露して液体の固まりとなり、流路を閉塞する可能性がある。このように液体の固まりにより流路が塞がれると、流路内を加圧しても推進力が試料に好適に作用せず、試料の移動を適切に行うことができない可能性がある。このように試料の移動を適切に行うことができないと、安定したPCRを行うことができないおそれがある。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、試料の移動を適切に行って、安定したPCRを行うことができる反応処理容器および反応処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の反応処理容器は、基板と、基板に形成された、試料が移動するための流路と、流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、流路における一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域とを備える。流路は、サーマルサイクル領域と少なくとも一方の空気連通口との間に、複数の分岐流路を備える。
【0009】
サーマルサイクル領域は、第1温度に維持される第1温度領域と、第1温度よりも高い第2温度に維持される第2温度領域とを含んでもよい。複数の分岐流路は、第2温度領域と該第2温度領域側に位置する空気連通口との間に配置されてもよい。
【0010】
サーマルサイクル領域の流路と複数の分岐流路との分岐部は、第2温度領域の近傍に配置されてもよい。
【0011】
複数の分岐流路のうち少なくとも一つの分岐流路は、第2温度領域の近傍を通るように配置されてもよい。
【0012】
複数の分岐流路は、それぞれ屈曲部を備えてもよい。複数の分岐流路のうち少なくとも一つの分岐流路の屈曲部は、他の分岐流路の屈曲部よりも大きい曲率半径で屈曲していてもよい。
【0013】
本発明の別の態様は、反応処理装置である。この反応処理装置は、上述の反応処理容器と、サーマルサイクル領域の温度を調節するための温度制御手段と、試料を流路内で移動および停止させる送液手段とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料の移動を適切に行って、安定したPCRを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の実施形態に係る反応処理容器を説明するための図である。
【
図2】
図1(a)に示す反応処理容器のA-A断面図である。
【
図4】試料が反応処理容器内に導入された様子を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る反応処理装置を説明するための模式図である。
【
図6】本実施形態に係る反応処理容器の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る反応処理容器および反応処理装置について説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の実施形態に係る反応処理容器10を説明するための図である。
図1(a)は、反応処理容器10の平面図であり、
図1(b)は、反応処理容器10の正面図である。
図2は、
図1(a)に示す反応処理容器10のA-A断面図である。
図3は、反応処理容器10が備える基板14の平面図である。
【0018】
反応処理容器10は、下面14aに溝状の流路12が形成された樹脂性の基板14と、基板14の下面14a上に貼られた、流路12を封止するための流路封止フィルム16と、基板14の上面14b上に貼られた2枚の封止フィルム(第1封止フィルム18および第2封止フィルム20)とから成る。
【0019】
基板14は、温度変化に対して安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自家蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン(Si)等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂、中でもシクロオレフィンポリマー樹脂(COP)が好適である。基板14の寸法の一例は、長辺76mm、短辺26mm、厚み4mmである。
【0020】
基板14の下面14aには溝状の流路12が形成されている。本実施形態に係る反応処理容器10において、流路12の大部分は基板14の下面14aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を封止して流路として活用するために、基板14の下面14a上に流路封止フィルム16が貼られる。流路12の寸法の一例は、幅0.7mm、深さ0.7mmである。
【0021】
流路封止フィルム16は、一方の主面が粘着性を備えていてもよいし、押圧や紫外線などのエネルギー照射、加熱等により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の下面14aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム16は、粘着剤も含めて低い自家蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム16は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、反応処理容器10の反りや変形防止に役立つ。
【0022】
基板14における流路12の一端12aの位置には、第1空気連通口24が形成されている。基板14における流路12の他端12bの位置には、第2空気連通口26が形成されている。一対の第1空気連通口24および第2空気連通口26は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。
【0023】
基板14中における第1空気連通口24と流路12の一端12aとの間には、第1フィルタ28が設けられている。基板14中における第2空気連通口26と流路12の他端12bとの間には、第2フィルタ30が設けられている。流路12の両端に設けられた一対の第1フィルタ28および第2フィルタ30は、低不純物特性が良好であるほか、空気のみを通し、PCRによって目的のDNAの増幅やその検出を妨げないように、または目的のDNAの品質が劣化しないようにコンタミネーションを防止する。フィルタ材料としては、例としてポリエチレンを撥水処理したものを用いることができるが、上記の機能を備えるようなものであれば公知の材料から選択できる。第1フィルタ28および第2フィルタ30の寸法は、基板14に形成されたフィルタ設置スペースに隙間なく収まるような寸法に形成され、例えば直径4mm、厚さ2mmであってよい。
【0024】
図1(a)に示すように、流路12は、一対の第1空気連通口24および第2空気連通口26の間に、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域32と、所定量の試料を抽出する所謂分注を行うための分注領域34とを備える。サーマルサイクル領域32は、流路12における第1空気連通口24側に位置している。分注領域34は、流路12における第2空気連通口26側に位置している。サーマルサイクル領域32と分注領域34は連通している。分注領域34で分注した試料をサーマルサイクル領域32に移動させて、サーマルサイクル領域32に含まれる所定の温度に維持された反応領域間を連続的に往復移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる。
【0025】
流路12のサーマルサイクル領域32は、後述の反応処理装置に反応処理容器10が搭載された際に、比較的低温(約55℃)に維持される反応領域(以下「中温領域38」と称する)と、それより高温(約95℃)に維持される反応領域(以下、「高温領域36」と称する)と、高温領域36と中温領域38を接続する接続領域40とを含む。高温領域36は第1空気連通口24側に位置しており、中温領域38は第2空気連通口26側(言い換えると分注領域34側)に位置している。
【0026】
高温領域36および中温領域38はそれぞれ、曲線部と直線部とを組み合わせた連続的に折り返す蛇行状の流路を含んでいる。このように蛇行状の流路とした場合、後述の温度制御手段を構成するヒータ等の限られた実効面積を有効に使うことができ、反応領域内での温度のばらつきを低減することが容易であるとともに、反応処理容器の実体的な大きさを小さくでき、反応処理装置の小型化に貢献できるという利点がある。接続領域40は、直線状の流路であってよい。
【0027】
流路12の分注領域34は、サーマルサイクル領域32の中温領域38と第2フィルタ30との間に位置している。上述したように、分注領域34は、PCRに供される所定量の試料を抽出する分注機能を有する。分注領域34は、所定量の試料を規定するための分注流路42と、分注流路42から分岐する2つの支流路(第1支流路43および第2支流路44)と、第1支流路43の端に配置された第1試料導入口45と、第2支流路44の端に配置された第2試料導入口46とを備える。第1試料導入口45は、第1支流路43を介して分注流路42と連通している。第2試料導入口46は、第2支流路44を介して分注流路42と連通している。分注流路42は、最小限の面積で所定量の試料を分注するために蛇行状の流路とされている。第1試料導入口45および第2試料導入口46は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。第1試料導入口45は比較的小径に形成され、第2試料導入口46は比較的大径に形成されている。第1支流路43が分注流路42から分岐する分岐点を第1分岐点431とし、第2支流路44が分注流路42から分岐する分岐点を第2分岐点441としたとき、PCRに供される試料の体積は第1分岐点431と第2分岐点441の間の分注流路42内の体積によってほぼ決まる。
【0028】
本実施形態においては、サーマルサイクル領域32と第2フィルタ30との間に分注領域34を設けたが、分注領域34の位置はこれに限定されず、サーマルサイクル領域32と第1フィルタ28の間に設けられてもよい。また、正確にピペット等で分注できるのであれば、分注領域34は設けずに流路を構成してもよいし、サーマルサイクル領域32等に直接試料を導入することができるように構成してもよい。
【0029】
本実施形態に係る反応処理容器10においては、流路12はさらに、サーマルサイクル領域32の高温領域36と第1空気連通口24との間に、2つの並列に配置された分岐流路(第1分岐流路61および第2分岐流路62)を備える。すなわち、流路12は、サーマルサイクル領域32では単一の流路であるが、高温領域36の近傍に位置する分岐部63で第1分岐流路61および第2分岐流路62に分岐している。第1分岐流路61および第2分岐流路62は、それぞれ基板14の異なる部分を通るように延在しており、流路12の一端12aで再び合流している。
図1(a)に示すように、第1分岐流路61は、高温領域36から遠ざかるように分岐部63から上方に延びた後、左方に比較的小さな曲率半径で屈曲し、流路12の一端12aに到達している。一方、第2分岐流路62は、分岐部63から左方に高温領域36の近傍を通るよう延びた後、流路12の一端12aに到達している。本実施形態においては、第2分岐流路62の屈曲部は第1分岐流路61の屈曲部よりも大きな曲率半径で上方に屈曲させるようにしている。こうすることにより液体の固まりが局所に集中しにくくなる効果が期待できるが、屈曲の態様については、これに限られるものではなく、反応処理容器のサイズや反応処理装置の設計や構成上の都合によって、当業者が適宜設計してもよい。
【0030】
第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28、第2フィルタ30、第1試料導入口45および第2試料導入口46は、基板14の上面14bに露出している。そこで、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を封止するために第1封止フィルム18が基板14の上面14bに貼り付けられる。第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止するために第2封止フィルム20が基板14の上面14bに貼り付けられる。第1封止フィルム18および第2封止フィルム20を貼った状態では、全流路は閉空間となっている。
【0031】
第1封止フィルム18は、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を同時に封止可能なサイズのものが用いられる。第1空気連通口24、第2空気連通口26への加圧式ポンプ(後述する)の接続は、ポンプ先端に備わった中空のニードル(先端がとがった注射針)で第1空気連通口24、第2空気連通口26のそれぞれに対応する第1封止フィルム18の一部分に穿孔することにより行う。そのため、第1封止フィルム18は、ニードルによる穿孔が容易な材質や厚みから成るフィルムが好ましい。本実施形態では、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を同時に封止するサイズの封止フィルムについて記載したが、これらを別個に封止する態様でもよい。また、第1空気連通口24、第2空気連通口26を封止しているフィルムを剥がして加圧式ポンプと接続してもよい。
【0032】
第2封止フィルム20は、第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止可能なサイズのものが用いられる。第1試料導入口45および第2試料導入口46を通じての試料の流路12内への導入は、第2封止フィルム20を一旦、基板14から剥がして行い、所定量の試料の導入後には第2封止フィルム20を再び基板14の上面14bに戻し貼り付ける。そのため、第2封止フィルム20としては、数サイクルの貼り付け/剥がしに耐久するような粘着性を備えるフィルムが望ましい。また第2封止フィルム20は、試料導入後には新しいフィルムを貼り付ける態様であってもよく、この場合は繰り返しの貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0033】
第1封止フィルム18および第2封止フィルム20は、流路封止フィルム16と同様に、一方の主面に粘着剤層が形成され、または押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が形成されていてもよい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン又はアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また上述したように複数回の貼り付け/剥離によっても、その粘着性等の特性が使用に影響をきたす程度に劣化しないことが望ましいが、剥離して試料等の導入後や加圧式ポンプとの接続後に、新たなフィルムを貼り付ける態様である場合は、この貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0034】
次に、以上のように構成された反応処理容器10の使用方法について説明する。まず、サーマルサイクルにより増幅すべき試料を準備する。試料としては、例えば、一または二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として蛍光プローブ、耐熱性酵素および4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。さらに反応処理対象のDNAに特異的に反応するプライマーを混合する。市販されているリアルタイムPCR用試薬キット等も使用することができる。
【0035】
次に、第2封止フィルム20を基板14から剥がし、第1試料導入口45および第2試料導入口46を開放する。
【0036】
次に、試料導入口に試料をスポイトやシリンジ等で導入する。
図4は、試料50が反応処理容器10内に導入された様子を模式的に示す。試料50は、第1試料導入口45および第2試料導入口46のいずれか一方から分注流路42に導入される。導入の方法はこれらに限られないが、例えばピペットやスポイトで適量の試料50を直接導入してよい。ピペットで導入する場合、比較的小径の第1試料導入口45から試料50を導入する。この場合、試料50は、分注流路42内を第2試料導入口46に向かって充填される。スポイトで導入する場合、比較的大径の第2試料導入口46から試料50を導入する。この場合、試料50は、分注流路42内を第1試料導入口45に向かって充填される。いずれか一方の試料導入口から導入された試料のうち、支流路の体積を超えて余剰なものはもう一方の試料導入口に溜まる。それ故試料導入口部分を一種のサーバーとして活用する目的で、ある一定のスペースを有するように作製してもよい。後述するように、第1空気連通口24、第2空気連通口26からの加圧により、第1分岐点431および第2分岐点441間の分注流路42に充填された試料50がPCRに供されることになる。このように、反応処理容器10の分注領域34は、所定量の試料を抽出する分注機能を果たす。
【0037】
次に、第2封止フィルム20を再び基板14に貼り戻し、第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止する。剥がした第2封止フィルム20に代えて、新たな第2封止フィルム20を貼ってもよい。以上で反応処理容器10への試料50の導入は完了である。
【0038】
上記の反応処理容器における分注機能は、ピペット単体で試料を精密に分注しながら導入することを妨げるものではない。
【0039】
図5は、本発明の実施形態に係る反応処理装置100を説明するための模式図である。
【0040】
本実施形態に係る反応処理装置100は、反応処理容器10が載置される反応処理容器載置部(図示せず)と、温度制御システム102と、CPU105とを備える。温度制御システム102は、
図5に示すように、反応処理容器載置部に載置される反応処理容器10に対して、反応処理容器10の流路12における高温領域36を約95℃(高温領域)、中温領域38を約60℃に精度よく維持、制御できるように構成されている。
【0041】
温度制御システム102は、サーマルサイクル領域の各温度領域の温度を維持するものであって、具体的には、流路12の高温領域36を加熱するための高温用ヒータ104と、流路12の中温領域38を加熱するための中温用ヒータ106と、各温度領域の実温度を計測するための例えば熱電対等の温度センサ(図示せず)と、高温用ヒータ104の温度を制御する高温用ヒータドライバ108と、中温用ヒータ106の温度を制御する中温用ヒータドライバ110とを備える。さらに、本実施形態に係る反応処理装置100は、流路12の分注領域34を加熱するための分注用ヒータ112と、分注用ヒータ112の温度を制御する分注用ヒータドライバ114とを備える。温度センサによって計測された実温度情報は、CPU105に送られる。CPU105は、各温度領域の実温度情報に基づいて、各ヒータの温度が所定の温度となるよう各ヒータドライバを制御する。各ヒータは例えば抵抗加熱素子やペルチェ素子等であってよい。温度制御システム102はさらに、各温度領域の温度制御性を向上させるための他の要素部品を備えてもよい。
【0042】
本実施形態に係る反応処理装置100は、さらに、試料50を反応処理容器10の流路12内で移動および停止させるための送液システム120を備える。送液システム120は、第1ポンプ122と、第2ポンプ124と、第1ポンプ122を駆動するための第1ポンプドライバ126と、第2ポンプ124を駆動するための第2ポンプドライバ128と、第1チューブ130と、第2チューブ132とを備える。
【0043】
反応処理容器10の第1空気連通口24には、第1チューブ130の一端が接続される。第1空気連通口24と第1チューブ130の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン134やシールが配置されることが好ましい。第1チューブ130の他端は、第1ポンプ122の出力に接続される。同様に、反応処理容器10の第2空気連通口26には、第2チューブ132の一端が接続される。第2空気連通口26と第2チューブ132の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン136やシールが配置されることが好ましい。第2チューブ132の他端は、第2ポンプ124の出力に接続される。
【0044】
第1ポンプ122、第2ポンプ124は、例えばダイアフラムポンプからなるマイクロブロアポンプであってよい。第1ポンプ122、第2ポンプ124としては、例えば株式会社村田製作所製のマイクロブロアポンプ(型式MZB1001T02)などを使用することができる。このマイクロブロアポンプは、動作時に一次側より二次側の圧力を高めることができるが、停止した瞬間または停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる。
【0045】
CPU105は、第1ポンプドライバ126、第2ポンプドライバ128を介して、第1ポンプ122、第2ポンプ124からの送風や加圧を制御する。第1ポンプ122、第2ポンプ124からの送風や加圧は、第1空気連通口24、第2空気連通口26を通じて流路12内の試料50に作用し、推進力となって試料50を移動させる。より詳細には、第1ポンプ122、第2ポンプ124を交互に動作させることにより、試料50のいずれかの端面にかかる圧力が他端にかかる圧力より大きくなるため、試料50の移動に係る推進力が得られる。第1ポンプ122、第2ポンプ124を交互に動作させることによって、試料50を流路内で往復式に移動させて、反応処理容器10の流路12の各温度領域に繰り返し曝すことができ、その結果、試料50にサーマルサイクルを与えることが可能となる。より具体的には、高温領域において変性、中温領域においてアニーリング・伸長の各工程を繰り返し与えることにより、試料50中の目的のDNAを選択的に増幅させる。言い換えれば高温領域は変性温度域、中温領域はアニーリング・伸長温度域とみなすことができる。また各温度領域に滞留する時間は、試料50が各温度領域の所定の位置で停止する時間を変えることによって適宜設定することができる。
【0046】
本実施形態に係る反応処理装置100は、さらに、蛍光検出器140を備える。上述したように、試料50には所定の蛍光プローブが添加されている。DNAの増幅が進むにつれ試料50から発せられる蛍光信号の強度が増加するので、その蛍光信号の強度値をPCRの進捗や反応の終端の判定材料としての指標とすることができる。
【0047】
蛍光検出器140としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明るい場所か暗い場所かにもかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE-510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料50の発する蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能であり、さらに光ファイバ型蛍光検出器によってもたらされる光線の径の小ささから、流路などの小さいまたは細い領域に存在する試料からの蛍光を検出するのに適している。
【0048】
光ファイバ型の蛍光検出器140は、光学ヘッド142と、蛍光検出器ドライバ144と、光学ヘッド142と蛍光検出器ドライバ144とを接続する光ファイバ146とを備える。蛍光検出器ドライバ144には励起光用光源(LED、レーザその他特定の波長を出射するように調整された光源)、光ファイバ型合分波器及び光電変換素子(PD,APD又はフォトマル等の光検出器)(いずれも図示せず)等が含まれており、これらを制御するためのドライバ等からなる。光学ヘッド142はレンズ等の光学系からなり、励起光の試料への指向性照射と試料から発せられる蛍光の集光の機能を担う。集光された蛍光は光ファイバ146を通じて蛍光検出器ドライバ144内の光ファイバ型合分波器により励起光と分けられ、光電変換素子によって電気信号に変換される。
【0049】
本実施形態に係る反応処理装置100においては、高温領域と中温領域とを接続する流路内の試料50からの蛍光を検出することができるように光学ヘッド142が配置される。試料50は流路内を繰り返し往復移動させられることで反応が進み、試料50に含まれる所定のDNAが増幅するので、検出された蛍光の量の変動をモニタリングすることで、DNAの増幅の進度をリアルタイムで知ることができる。また、本実施形態に係る反応処理装置100においては、後述するように、蛍光検出器140からの出力値を利用して、試料50の移動制御に活用する。蛍光検出器は、試料からの蛍光を検出する機能を発揮するものであれば光ファイバ型蛍光検出器に限定されない。
【0050】
図6は、本実施形態に係る反応処理容器の効果を説明するための図である。
図6に示す反応処理容器10では、分注領域34の第1分岐点431および第2分岐点441間の分注流路42に充填された試料50が、サーマルサイクル領域32に移動されている。具体的には、試料50が充填された反応処理容器10を反応処理装置100にセットし、第2ポンプ124のみを作動させることにより、分注領域34内の試料50をサーマルサイクル領域32に推進させる。その後、上述したように、第1ポンプ122、第2ポンプ124(
図5参照)を交互に動作させることによって、試料50を流路12内で往復式に移動させて、高温領域36と中温領域38とを連続的に往復移動させることにより、試料50にサーマルサイクルを与えることができる。なお、試料50にサーマルサイクルを与えているときの分注領域34の温度、特に分注領域34における第1試料導入口45および第2試料導入口46の温度が、分注領域34に試料50があるときの温度より低くなるように、分注用ヒータ112を制御してもよい。こうすることにより、サーマルサイクル領域32の熱が第1試料導入口45、第2試料導入口46に伝達し昇温させ、第1試料導入口45、第2試料導入口46に残存している試料を流路に押し出して流路内に現れるのを防ぐことができる。このような試料が離間して存在すると、PCRに供される試料50の往復移動に支障をきたす虞があるからである。
【0051】
高温領域36と中温領域38との間での往復移動中(すなわちPCRのサーマルサイクル中)、高温領域36では蒸気圧が高くなり、試料50の水成分が蒸発しやすい。この蒸発した試料50の水成分の一部が流路12の比較的温度の低い部分で凝縮して液体の固まりとなり、流路12を閉塞する可能性がある。例えば、
図6に示すように、高温領域36から離れた所を通る第1分岐流路61は温度が低くなりやすく、液体の固まり65が発生しやすい。
【0052】
しかしながら、本実施形態に係る反応処理容器10においては、
図6に示すように第1分岐流路61が液体の固まり65で閉塞された場合であっても、閉塞されていない第2分岐流路62を介してポンプ(
図5参照)からの加圧を試料50に作用させることができ、試料50の移動を適切に行って、安定したPCRを行うことができる。
【0053】
分岐部63が高温領域36から離れている場合、分岐部63に液体の固まりが発生するおそれがある。この場合、ポンプからの加圧を試料50に作用させることが難しくなる。そこで、分岐部63は、
図6に示すように高温領域36の近傍に配置することが望ましい。このように分岐部63を高温領域36の近傍に配置することで、高温領域36の熱が分岐部63に伝わって分岐部63で液体の固まりが発生し難くなるため、ポンプからの加圧をより好適に試料50に作用させることが可能となる。
【0054】
上述の実施形態では、2つの分岐流路を設けたが、分岐流路の数は2つに限定されず、3つ以上の分岐流路をサーマルサイクル領域32の高温領域36と第1空気連通口24との間に設けてもよい。
【0055】
複数の分岐流路のうち少なくとも一つの分岐流路は、高温領域36の近傍を通るように配置されることが望ましい。例えば上述の実施形態では、第1分岐流路61は高温領域36から離れた所を通っているが、第2分岐流路62は高温領域36の近傍を通っている。このようにすることで、高温領域36の熱が第2分岐流路62に伝わり、第2分岐流路62で液体の固まりが発生し難くなるため、ポンプからの加圧をより好適に試料50に作用させることが可能となる。このことは、裏返せば以下のように言える。蒸発した試料の水成分が結露等により液体の固まりとなり、閉塞する流路の部分が経験的又は実験的に予め分かっていれば、そのような部分が閉塞することを許容し、そのような事態が生じても、推進力としての送風や加圧のバックアップ又はバイパス的な通り道を確保することができる。
【0056】
上述の実施形態では、第1分岐流路61および第2分岐流路62はそれぞれ屈曲部を備えているが、高温領域36の近傍を通る第2分岐流路62の屈曲部は、高温領域36から離れた所を通る第1分岐流路61よりも大きい曲率半径で屈曲している。一般に、屈曲部の曲率半径が大きいと液体の固まりが発生し難くなる。従って、第2分岐流路62の屈曲部を、第1分岐流路61の屈曲部よりも大きい曲率半径で屈曲させることにより、第2分岐流路62で液体の固まりが発生し難くなるため、ポンプからの加圧をより好適に試料50に作用させることが可能となる。また、上述の実施形態においては、サーマルサイクル領域32の高温領域36と第1空気連通口24との間の流路が複数になるような構成を開示したが、その他の流路の部分、例えば経験上蒸発した試料が液体の固まりとなって、流路の一部を閉塞しやすい部分を、複数の流路とすることができる。
【0057】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0058】
10 反応処理容器、 12 流路、 14 基板、 16 流路封止フィルム、 18 第1封止フィルム、 20 第2封止フィルム、 24 第1空気連通口、 26 第2空気連通口、 28 第1フィルタ、 30 第2フィルタ、 32 サーマルサイクル領域、 34 分注領域、 36 高温領域、 38 中温領域、 40 接続領域、 42 分注流路、 43 第1支流路、 44 第2支流路、 45 第1試料導入口、 46 第2試料導入口、 50 試料、 61 第1分岐流路、 62 第2分岐流路、 63 分岐部、 65 液体の固まり、 100 反応処理装置、 102 温度制御システム、 104 高温用ヒータ、 105 CPU、 106 中温用ヒータ、 108 高温用ヒータドライバ、 110 中温用ヒータドライバ、 112 分注用ヒータ、 114 分注用ヒータドライバ、 120 送液システム、 122 第1ポンプ、 124 第2ポンプ、 126 第1ポンプドライバ、 128 第2ポンプドライバ、 130 第1チューブ、 132 第2チューブ、 134,136 パッキン、 140 蛍光検出器、 142 光学ヘッド、 144 蛍光検出器ドライバ、 146 光ファイバ、 431 第1分岐点、 441 第2分岐点。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に利用できる。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に形成された、試料が移動するための流路と、
前記流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域であって、試料に変性を起こさせる変性領域と、試料にアニーリング・伸長を起こさせるアニーリング・伸長領域と、前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路を含む接続領域と、を含むサーマルサイクル領域と、
前記流路における前記サーマルサイクル領域と少なくとも一方の前記空気連通口との間に形成され、試料を前記流路に導入することが可能な少なくとも一つの孔を含む、分注が可能な流路と、
を備え、
前記変性領域および前記アニーリング・伸長領域は、複数の曲線状の流路と、当該複数の曲線状の流路を繋ぐ直線状の流路を含み、
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間隔は、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域に含まれる前記直線状の流路の長さよりも長く、
前記一対の空気連通口からの交互の加圧により試料を前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間で繰り返し往復式に移動させることによって、試料にサーマルサイクルを付与してPCRを起こさせる反応処理装置に用いられることを特徴とする反応処理容器。
【請求項2】
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間隔は、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域を区画する矩形の一辺より長いことを特徴とする請求項1に記載の反応処理容器。
【請求項3】
前記樹脂製基板の面に貼付され、前記流路を封止するための第1封止フィルムと、
試料を前記流路に導入することが可能な前記孔を封止するための第2封止フィルムと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の反応処理容器。
【請求項4】
反応処理容器と、
前記反応処理容器の温度を調節する温度制御システムと、
試料を前記反応処理容器内で移動させる送液システムと、
前記反応処理容器内の試料からの蛍光を検出する蛍光検出器と、
前記蛍光検出器により検出された情報に基づいて前記送液システムを制御する制御部と、
を備える反応処理装置であって、
前記反応処理容器は、
樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に形成された、試料が移動するための流路と、
前記流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域であって、試料に変性を起こさせる変性領域と、試料にアニーリング・伸長を起こさせるアニーリング・伸長領域と、前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路を含む接続領域と、を含むサーマルサイクル領域と、
前記流路における前記サーマルサイクル領域と少なくとも一方の前記空気連通口との間に形成され、試料を前記流路に導入することが可能な少なくとも一つの孔を含む、分注が可能な流路と、
を備え、
前記変性領域および前記アニーリング・伸長領域は、複数の曲線状の流路と、当該複数の曲線状の流路を繋ぐ直線状の流路を含み、
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間隔は、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域に含まれる前記直線状の流路の長さよりも長く、
前記送液システムを用いて前記一対の空気連通口からの交互の加圧により試料を前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間で繰り返し往復式に移動させることによって、試料にサーマルサイクルを付与してPCRを起こさせることを特徴とする反応処理装置。
【請求項5】
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間隔は、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域を区画する矩形の一辺より長いことを特徴とする請求項4に記載の反応処理装置。
【請求項6】
反応処理容器を準備するステップと、
前記反応処理容器の温度を調節するステップと、
前記反応処理容器内の試料からの蛍光を検出するステップと、
検出された蛍光に基づいて、前記反応処理容器内で試料を移動させるステップと、
を備える反応処理方法であって、
前記反応処理容器は、
樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に形成された、試料が移動するための流路と、
前記流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域であって、試料に変性を起こさせる変性領域と、試料にアニーリング・伸長を起こさせるアニーリング・伸長領域と、前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路を含む接続領域と、を含むサーマルサイクル領域と、
前記流路における前記サーマルサイクル領域と少なくとも一方の前記空気連通口との間に形成され、試料を前記流路に導入することが可能な少なくとも一つの孔を含む、分注が可能な流路と、
を備え、
前記変性領域および前記アニーリング・伸長領域は、複数の曲線状の流路と、当該複数の曲線状の流路を繋ぐ直線状の流路を含み、
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間隔は、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域に含まれる前記直線状の流路の長さよりも長く、
前記一対の空気連通口からの交互の加圧により試料を前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間で繰り返し往復式に移動させることによって、試料にサーマルサイクルを付与してPCRを起こさせることを特徴とする反応処理方法。
【請求項7】
前記反応処理容器は、
前記樹脂製基板の面に貼付され、前記流路を封止するための第1封止フィルムと、
試料を前記流路に導入することが可能な前記孔を封止するための第2封止フィルムと、
をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の反応処理方法。
【請求項8】
前記孔が露出するまで前記第2封止フィルムを剥がすステップと、
試料を前記孔から導入するステップと、
前記孔が再び封止されるように前記第2封止フィルムを貼り戻すステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の反応処理方法。
【請求項9】
反応処理容器の使用方法であって、
前記反応処理容器は、
樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に形成された、試料が移動するための流路と、
前記流路の両端に設けられた一対の空気連通口と、
前記流路における前記一対の空気連通口の間に形成された、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域であって、試料に変性を起こさせる変性領域と、試料にアニーリング・伸長を起こさせるアニーリング・伸長領域と、前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域とを接続する流路を含む接続領域と、を含むサーマルサイクル領域と、
前記流路における前記サーマルサイクル領域と少なくとも一方の前記空気連通口との間に形成され、試料を前記流路に導入することが可能な少なくとも一つの孔を含む、分注が可能な流路と、
前記樹脂製基板の面に貼付され、前記流路を封止するための第1封止フィルムと、
試料を前記流路に導入することが可能な前記孔を封止するための第2封止フィルムと、
を備え、
前記変性領域および前記アニーリング・伸長領域は、複数の曲線状の流路と、当該複数の曲線状の流路を繋ぐ直線状の流路を含み、
前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間隔は、前記変性領域または前記アニーリング・伸長領域に含まれる前記直線状の流路の長さよりも長く、
前記反応処理容器は、前記一対の空気連通口からの交互の加圧により試料を前記変性領域と前記アニーリング・伸長領域との間で繰り返し往復式に移動させることによって、試料にサーマルサイクルを付与してPCRを起こさせる反応処理装置に用いられ、
前記孔が露出するまで前記第2封止フィルムを剥がすステップと、
試料を前記孔から導入するステップと、
前記孔が再び封止されるように前記第2封止フィルムを貼り戻すステップと、
を備えることを特徴とする反応処理容器の使用方法。