(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066544
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 9/26 20060101AFI20220421BHJP
H01Q 21/30 20060101ALI20220421BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20220421BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20220421BHJP
H01Q 1/32 20060101ALN20220421BHJP
H01Q 1/22 20060101ALN20220421BHJP
【FI】
H01Q9/26
H01Q21/30
H01Q13/08
H01Q1/52
H01Q1/32 Z
H01Q1/22 B
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037097
(22)【出願日】2022-03-10
(62)【分割の表示】P 2018015819の分割
【原出願日】2018-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2017081478
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(72)【発明者】
【氏名】山瀬 智彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 聖
(72)【発明者】
【氏名】松永 和也
(57)【要約】
【課題】スリーブアンテナ等の情報通信系アンテナ用途に適したアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置1は、直線状の内部導体31と、内部導体31を覆う絶縁体32と、絶縁体32をさらに覆う外部導体33と、上縁で外部導体33に接続する山状導体34とを有するスリーブアンテナ30を備え、内部導体31は、山状導体34の上縁よりも上方では外部に露出している。これにより、良好な指向特性と平均利得を実現している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体と、
前記絶縁体に設けられるアンテナエレメントと、を備え、
前記アンテナエレメントは、直線状の内部導体と、前記内部導体の両側に位置する直線状の外部導体と、前記外部導体の上端に接続する山状導体と、を有する、
スリーブアンテナ。
【請求項2】
前記山状導体は、前記山状導体の上縁から下縁に放射状に広がる、
請求項1に記載のスリーブアンテナ。
【請求項3】
前記山状導体は、前記内部導体に関して線対称に位置する、請求項1又は2に記載のスリーブアンテナ。
【請求項4】
前記山状導体は、前記外部導体の軸方向に対して鋭角を成す、請求項1から3のいずれか一項に記載のスリーブアンテナ。
【請求項5】
前記山状導体の前記上縁から前記下縁を結ぶ線が、前記アンテナエレメントの動作周波数における前記絶縁体上の実効波長の1/4である、請求項1から4のいずれか一項に記載のスリーブアンテナ。
【請求項6】
前記内部導体と前記外部導体とは、所定の間隔をあけて位置する、請求項1から5のいずれか一項に記載のスリーブアンテナ。
【請求項7】
前記内部導体は、前記山状導体の上端よりも上方に突出している突出部を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のスリーブアンテナ。
【請求項8】
前記内部導体の前記突出部は、前記アンテナエレメントの動作周波数における前記絶縁体上の実効波長の1/4である、請求項7に記載のスリーブアンテナ。
【請求項9】
前記内部導体、前記外部導体、前記山状導体は、前記絶縁体の一面に形成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のスリーブアンテナ。
【請求項10】
前記絶縁体の前記一面の反対側の面には、別の外部導体が形成され、
前記外部導体と前記別の外部導体とが、スルーホールを介して接続される、請求項9に記載のスリーブアンテナ。
【請求項11】
前記絶縁体が、基板であり、
前記内部導体、前記外部導体、前記山状導体が、導体パターンにより形成される、請求項1から10のいずれか一項に記載のスリーブアンテナ。
【請求項12】
同軸コネクタを備え、
前記基板には、前記同軸コネクタの一方の連結部材が設けられ、
前記絶縁体には、前記同軸コネクタの他方の連結部材が設けられる、請求項11に記載のスリーブアンテナ。
【請求項13】
ケースと、
前記ケースとともに収容空間を形成するベースと、
前記ベースの上に位置する基板と、
前記基板に差し込まれるアンテナ基板と、を備え、
前記アンテナ基板には、内部導体と、前記内部導体の両側に位置する外部導体と、前記外貌導体の上端に接続される山状導体と、を有するスリーブアンテナが形成され、
前記内部導体の下端部及び前記外部導体の下端部が、前記基板と前記ベースとの間に位置する、
アンテナ装置。
【請求項14】
前記内部導体と、前記外部導体と、前記山状導体と、は、前記アンテナ基板の一面に形成され、
前記アンテナ基板の前記一面の反対側の面には、別の外部導体が形成され、
前記外部導体と前記別の外部導体とは、スルーホールを介して接続されている、
請求項13に記載のアンテナ装置。
【請求項15】
前記スリーブアンテナの動作周波数帯とは異なる周波数帯で動作する別のアンテナをさらに備える、請求項13又は14に記載のアンテナ装置。
【請求項16】
前記別のアンテナは、平面アンテナであり、
前記平面アンテナは、指向方向が前記ベースの上向きとなるように配置され、
前記スリーブアンテナは、前記ベースに対して立設するように配置され、
前記スリーブアンテナと前記平面アンテナの中心との距離Dが、
D≦λ1+λ2/4
(但し、前記スリーブアンテナの動作周波数の波長:λ1、前記平面アンテナの動作周波数の波長:λ2)
である、
請求項15に記載のアンテナ装置。
【請求項17】
前記スリーブアンテナはV2X用のアンテナである、請求項13から16のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項18】
前記スリーブアンテナの上端と前記ベースとの距離は、70mm以下である、
請求項13から17のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項19】
同軸コネクタを備え、
前記基板には、前記同軸コネクタの一方の連結部材が設けられ、
前記アンテナ基板には、前記同軸コネクタの他方の連結部材が設けられる、請求項13から18のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用に適したアンテナ装置に係り、特にスリーブアンテナ等の情報通信系アンテナを具備するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シャークフィンアンテナと呼ばれる車載用アンテナ装置が開発されている。車載用アンテナ装置には、AM/FMアンテナ等の放送系受信アンテナ以外の、スリーブアンテナ等の情報通信系アンテナ(例えば車車間通信、路車間通信用アンテナ)を搭載する動きがある。スリーブアンテナ等の情報通信系アンテナの場合、直線偏波、とくに垂直偏波であり、かつ水平面内の指向特性が無指向性であることが要求され、また、所要の利得が確保できる必要がある。
【0003】
また、限られたケース内の空間に、前記情報通信系アンテナと、それ以外のアンテナ、例えば衛星用平面アンテナ等を近接して設けると、アンテナ同士の距離が十分に取れず、アンテナの利得が低下した。一方、ケース内においてアンテナ同士の距離を大きくしようとすると、ケースが大きくなり、小型化できなかった。
【0004】
複数種のアンテナを同一ケース内に収容した公知文献としては、例えば下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スリーブアンテナ等の情報通信系アンテナ用途に好適なアンテナ装置である。
【0007】
さらに、本発明は、異種アンテナが近接した場合でも特性の劣化が少なく、小型化に適したアンテナ装置である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様はスリーブアンテナである。このスリーブアンテナは、絶縁体と、前記絶縁体に設けられるアンテナエレメントと、を備え、
前記アンテナエレメントは、直線状の内部導体と、前記内部導体の両側に位置する直線状の外部導体と、前記外部導体の上端に接続する山状導体と、を有する。
【0009】
前記山状導体は、前記山状導体の上縁から下縁に放射状に広がるとよい。
【0010】
前記山状導体は、前記内部導体に関して線対称に位置するとよい。
【0011】
前記山状導体は、前記外部導体の軸方向に対して鋭角を成すとよい。
【0012】
前記山状導体の前記上縁から前記下縁を結ぶ線が、前記アンテナエレメントの動作周波数における前記絶縁体上の実効波長の1/4であるとよい。
【0013】
前記内部導体と前記外部導体とは、所定の間隔をあけて位置するとよい。
【0014】
前記内部導体は、前記山状導体の上端よりも上方に突出している突出部を有するとよい。
【0015】
前記内部導体の前記突出部は、前記アンテナエレメントの動作周波数における前記絶縁体上の実効波長の1/4であるとよい。
【0016】
前記内部導体、前記外部導体、前記山状導体は、前記絶縁体の一面に形成されているとよい。
【0017】
前記絶縁体の前記一面の反対側の面には、別の外部導体が形成され、前記外部導体と前記別の外部導体とが、スルーホールを介して接続されるとよい。
【0018】
前記絶縁体が、基板であり、前記内部導体、前記外部導体、前記山状導体が、導体パターンにより形成されるとよい。
【0019】
同軸コネクタを備え、前記基板には、前記同軸コネクタの一方の連結部材が設けられ、前記絶縁体には、前記同軸コネクタの他方の連結部材が設けられるとよい。
【0020】
本発明の第2の態様はアンテナ装置である。このアンテナ装置は、ケースと、前記ケースとともに収容空間を形成するベースと、前記ベースの上に位置する基板と、前記基板に差し込まれるアンテナ基板と、を備え、
前記アンテナ基板には、内部導体と、前記内部導体の両側に位置する外部導体と、前記外貌導体の上端に接続される山状導体と、を有するスリーブアンテナが形成され、
前記内部導体の下端部及び前記外部導体の下端部が、前記基板と前記ベースとの間に位置する。
【0021】
前記内部導体と、前記外部導体と、前記山状導体と、は、前記アンテナ基板の一面に形成され、前記アンテナ基板の前記一面の反対側の面には、別の外部導体が形成され、前記外部導体と前記別の外部導体とは、スルーホールを介して接続されているとよい。
【0022】
前記スリーブアンテナの動作周波数帯とは異なる周波数帯で動作する別のアンテナをさらに備えるとよい。
【0023】
前記別のアンテナは、平面アンテナであり、前記平面アンテナは、指向方向が前記ベースの上向きとなるように配置され、前記スリーブアンテナは、前記ベースに対して立設するように配置され、前記スリーブアンテナと前記平面アンテナの中心との距離Dが、
D≦λ1+λ2/4
(但し、前記スリーブアンテナの動作周波数の波長:λ1、前記平面アンテナの動作周波数の波長:λ2)
であるとよい。
【0024】
前記スリーブアンテナはV2X用のアンテナであるとよい。
【0025】
前記スリーブアンテナの上端と前記ベースとの距離は、70mm以下であるとよい。
【0026】
同軸コネクタを備え、前記基板には、前記同軸コネクタの一方の連結部材が設けられ、前記アンテナ基板には、前記同軸コネクタの他方の連結部材が設けられるとよい。
【0027】
以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るアンテナ装置は、スリーブアンテナ等の情報通信系アンテナ用途に適したアンテナを備えており、例えば車載用の車車間通信、路車間通信を行うのに適した特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係るアンテナ装置の実施の形態1の前後方向断面を示す側断面図。
【
図3】実施の形態1において、インナーケースを半断面とした斜視図。
【
図4】実施の形態1において、インナーケースを省略した斜視図。
【
図5】実施の形態1におけるV2X用のスリーブアンテナの縦断面図。
【
図6】実施の形態1におけるV2X用のスリーブアンテナを装着するための同軸コネクタ近傍を基板下方から見た部分斜視図。
【
図7】実施の形態1において、水平面に対し垂直なV2X用のスリーブアンテナの水平面の指向性を示すシミュレーションによる指向特性図。
【
図8】実施の形態1におけるV2X用のスリーブアンテナが、水平面の垂線に対し5°傾斜したときの水平面の指向性を示すシミュレーションによる指向特性図。
【
図9】実施の形態1におけるV2X用のスリーブアンテナが、水平面の垂線に対し10°傾斜したときの水平面の指向性を示すシミュレーションによる指向特性図。
【
図10】山状導体と外部導体の軸方向との成す角度αが異なるモデル1~3のスリーブアンテナに対応する指向特性及び平均利得をそれぞれ示す説明図。
【
図11】山状導体と外部導体の軸方向との成す角度αが異なるモデル4~6のスリーブアンテナに対応する指向特性及び平均利得をそれぞれ示す説明図。
【
図12】モノポールアンテナ単独、及び異なる距離で平面アンテナが近接配置されたモデル11~14の指向特性及び平均利得をそれぞれ示す説明図。
【
図13】実施の形態1に示したスリーブアンテナ単独、及び異なる距離で平面アンテナが近接配置されたモデル21~24の指向特性及び平均利得をそれぞれ示す説明図。
【
図14】垂直ダイポールアンテナに平面アンテナが近接配置されたモデルの指向特性を示す説明図。
【
図15】実施の形態1に示したスリーブアンテナの地板(金属製のベース相当)からの上下方向高さHと平均利得との関係を示すグラフ。
【
図16】本発明に係るアンテナ装置の実施の形態2であって、前後方向断面を示す側断面図。
【
図17】同じくインナーケースを半断面とした斜視図。
【
図18】実施の形態2におけるV2X用のアンテナ基板の主面を示す斜視図。
【
図19】実施の形態3におけるV2X用のアンテナ基板の主面の反対面を示す斜視図。
【
図20】実施の形態2における基板に対し略垂直なV2X用のスリーブアンテナの水平面の指向性を、実施の形態1におけるV2X用のスリーブアンテナと対比して示すシミュレーションによる指向特性図。
【
図21】実施の形態2における基板に対し略垂直なV2X用のスリーブアンテナと、実施の形態3における基板に対し略垂直なV2X用のスリーブアンテナの水平面の指向性を対比して示すシミュレーションによる指向特性図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0031】
図1から
図6を用いて本発明に係るアンテナ装置の実施の形態1を説明する。ここでは、アンテナ装置1の前後及び上下方向を
図1中に示す。
図1において、紙面の左側がアンテナ装置1の前側、紙面の右側がアンテナ装置1の後側、紙面の上側がアンテナ装置1の上側、紙面の下側がアンテナ装置1の下側である。
図1から
図6において、アンテナ装置1は、金属製のベース5と、ベース5上にネジで固定される絶縁性の基板7と、基板7を内側にしてベース5の上側を覆うようにベース5にネジ止めされる電波透過性のインナーケース6とを有している。また、アンテナ装置1において、ベース5とインナーケース6とで囲まれた内部空間、つまり基板7の上面に、前からSXM(衛星ラジオ)用の平面アンテナ(パッチアンテナ)10、GPS用の平面アンテナ(パッチアンテナ)20及びV2X用のスリーブアンテナ30の順に配置されている。スリーブアンテナ30の動作周波数はDSRC帯であるが、TEL帯であってもよい。インナーケース6の前部天井面にはSXM用の平面アンテナ10の上面に対向する金属板からなる無給電素子15が配置、固定されている。基板7上に搭載されたSXM用の平面アンテナ10及びGPS用の平面アンテナ20の指向方向は、基板7の垂直上方、つまり天頂方向(地面に対する鉛直線の上向き方向)である。ベース5とインナーケース6との間には防水パッキン9が介在して防水構造となっている。インナーケース6を覆うように例えばシャークフィン形状のアウターケースがベースに固定されるが、アウターケースの図示は省略する。
【0032】
ベース5には、その底面から下方に突出する凸部5aが設けられており、凸部5aの下端面に開口するネジ穴5bが形成されている。凸部5aは車体ルーフ等の取付相手側部材の取付穴を貫通するものであり、取付相手側部材のベース5載置面の反対面にキャプチャーファスナー(取付部品)60をネジ穴5bに螺合するボルト61で装着し、締め付けることでベース5が取付相手側に固定されるようになっている。防水のためにベース5と取付相手側との間に防水シール62が介在している。ベース5にはケーブル引出孔5cが形成されているが、各アンテナ10,20,30に接続するケーブルの図示は省略している。
【0033】
図5に示すように、絶縁性の基板7の上面には、同軸コネクタ40(一方の連結部材としてのレセプタクル41と、他方の連結部材としてのプラグ45の組からなる)のレセプタクル41が上向きに固定され、レセプタクル41と嵌合するプラグ45と一体的にV2X用のスリーブアンテナ30が組み立てられている。スリーブアンテナ30は同軸構造を有するプラグ45と、プラグ45の中心導体45aに接続される直線状の内部導体31と、内部導体31の外周を覆う絶縁体32と、絶縁体32の外周をさらに覆いかつプラグ45の外周導体45bに接続される真っ直ぐな円筒状の外部導体33と、上縁で外部導体33に接続する山状導体34とを有している。以下では、山状とは、上縁から下縁に放射状に広がると共に上縁から下縁に向かうに連れて高さが低くなる形状、すなわち中空の円錐や角錐などの錐体の底面が存在しない形状をいうものする。プラグ45の中心導体45aの下方先端は、平面アンテナ10,20の放射素子よりも下方に延びている。プラグ45の中心導体45aに接続するレセプタクル41側の中心導体41aの下方先端は、平面アンテナ10,20の放射素子よりも下方に延びて基板7を貫通している。山状導体34の上縁より上方では絶縁体32と外部導体33とは存在せず内部導体31が外部に露出している。内部導体31と絶縁体32と外部導体33とは、内部導体31を中心導体とする同軸構造を成している。山状導体34と外部導体33の軸方向(上下方向)とのなす角度αは、90°未満、つまり鋭角であり、とくに略10°~略30°程度が好ましい。スリーブアンテナ30の動作周波数の波長をλ
1とすると、山状導体34の上縁から下縁までの長さはλ
1/4であり、山状導体34の上縁から上方の内部導体31の上下方向の長さもλ
1/4である。
【0034】
レセプタクル41は方形フランジ部42を一体に有し、方形フランジ部42で基板7にネジ止め、固定されている。レセプタクル41に対してプラグ45が嵌合、連結された状態では、プラグ45側の中心導体45aがレセプタクル41側の中心導体41aに接続し、プラグ45側の外周導体45bがレセプタクル41側の外周導体41bに接続する。
図5では、外側にネジが形成された外周導体41bに外周導体45bが螺合する構成を図示するが、ネジが形成されていない外周導体41bの外側に外周導体45bが差し込まれて嵌まる構造でもよい。
【0035】
図6に示すように、基板7を貫通して下面に達したレセプタクル41の中心導体41aは基板7下面のマイクロストリップ線路8にハンダ付けで接続される。さらに
図1に示すベース5のケーブル引出孔5cの近傍位置にてマイクロストリップ線路8に中心導体が接続された同軸ケーブル(図示せず)でベース5のケーブル引出孔5cを貫通して外部に引き出される。外周導体41bは基板7のグラウンド導体に接続され、さらに前記同軸ケーブルの外部導体に接続される。
【0036】
<同軸コネクタ使用の長所>
アンテナ装置1は、スリーブアンテナ30を同軸コネクタ40で基板7に取り付ける構造であり、スリーブアンテナ30の下部に一体的に固定されたプラグ45をレセプタクル41に嵌めるだけでスリーブアンテナ30を基板7に対し確実に垂直に立設することができる。したがって、スリーブアンテナを基板にハンダ付けして基板に垂直に立設させるよりも製造容易である(ハンダ付けの場合、スリーブアンテナが基板に対し完全な垂直にならず傾くことがある)。また、内部導体31が外部導体33及びレセプタクル41側の外周導体41bで覆われているので、プラグ45側の外周導体45bの螺合の影響を受けにくい。
【0037】
図7はスリーブアンテナ30が水平面に対して垂直の場合の、直線偏波かつ垂直偏波における水平面内の指向性を示すシミュレーションによる特性図であり、
図8は水平面に対する垂線から5°傾けたスリーブアンテナ30の垂直偏波における水平面の指向性を示すシミュレーションによる特性図であり、
図9は水平面に対する垂線から10°傾けたスリーブアンテナ30の水平面の指向性を示すシミュレーションによる特性図である。
図7から
図9では、スリーブアンテナ30と金属製のベース5のみでシミュレーションを行い、中心から角度0°に向かう方向がアンテナ装置1の前方向である。指向性を示す特性図における最大利得から最少利得を減じた利得偏差は、
図7で0dBi、
図8で0.6dBi、
図9で1.7dBiである。
【0038】
図7から
図9に示すように、スリーブアンテナ30の水平面に対する垂線方向から傾く角度が小さいと、利得偏差が小さくなってスリーブアンテナ30の水平面の指向性がよくなる(理想的な無指向性に近づく)。スリーブアンテナ30は、同軸コネクタ40を取付部品として利用して基板7の垂直方向に立設されているので、製造組立時に傾斜することが無く、水平面の指向性を良好に維持できる。
【0039】
<山状導体34と外部導体軸方向とが成す角度αと利得>
図10は山状導体34が完全に閉じた角度α=0°のモデル1、角度α=10°のモデル2、角度α=30°のモデル3の各々についてシミュレーションによる垂直偏波の水平面内指向特性と平均利得[dBi]とを示した説明図、
図11は角度α=60°のモデル4、角度α=80°のモデル5、角度α=90°のモデル6の各々についてシミュレーションによる垂直偏波の水平面内指向特性と平均利得[dBi]とを示した説明図である。
図10と
図11では、中心から角度0°に向かう方向がアンテナ装置1の前方向である。各モデル共に指向特性に大きな差異はないが、平均利得は、モデル2(角度α=10°)及びモデル3(角度α=30°)が大きく、角度αが略10°~略30°程度であると平均利得が高くなることがわかる。
【0040】
<平面アンテナが近接する場合の山状導体34の長所>
図12のモデル11はモノポールアンテナ単独の場合、モデル12~14はモノポールアンテナに近接して平面アンテナ(パッチアンテナ)が同一地板上に配置されており、モノポールアンテナと平面アンテナの中心との地板に平行な平面上の距離Dがそれぞれ32mm、57.4mm、82.8mmの場合の、モノポールアンテナに関するシミュレーションによる垂直偏波の水平面内指向特性を示す。ここで、平面アンテナの動作周波数であるSXM帯の波長をλ
2としたとき、32mm=λ
2/4に相当する。モノポールアンテナの動作周波数であるDSRC帯の波長をλ
1としたとき、57.4mm=32mm+λ
1/2に相当する。また、82.8mm=32mm+λ
1に相当する。
【0041】
図12のモデル12~14からわかるように、モノポールアンテナの近くに平面アンテナが存在するときは、モノポールアンテナ単独のモデル11に比較して水平面内指向性がかなり劣化している。
【0042】
図13のモデル21はスリーブアンテナ単独の場合、モデル22~24はスリーブアンテナに近接して平面アンテナが同一地板上に配置されており、スリーブアンテナと平面アンテナの中心との地板に平行な平面上の距離Dがそれぞれ32mm、57.4mm、82.8mmの場合の、スリーブアンテナに関するシミュレーションによる垂直偏波の水平面内指向特性を示す。
図13では、スリーブアンテナの山状導体34の角度α=30°であり、平面アンテナの動作周波数(SXM帯)及びスリーブアンテナの動作周波数(DSRC帯)は
図12と同じとした。
【0043】
図13のモデル22~24からわかるように、スリーブアンテナの近くに平面アンテナが存在しても、具体的にはスリーブアンテナの中心から82.8mm(=λ
1+λ
2/4)以内に平面アンテナの中心が存在しても、スリーブアンテナの水平面内指向性の劣化は少なく、モノポールアンテナのモデル12~14よりも指向特性が優れている。
【0044】
図14は垂直ダイポールアンテナ80に近接して平面アンテナ81が同一地板82上に配置されたモデルであり、垂直ダイポールアンテナ80と平面アンテナ81の中心との距離Dが32mmの場合の、垂直ダイポールアンテナ80に関するシミュレーションによる垂直偏波の水平面内指向特性を示す。
図14では、平面アンテナ81の動作周波数(SXM帯)及び垂直ダイポールアンテナ80の動作周波数(DSRC帯)は
図12と同じとした。垂直ダイポールアンテナ80の近くに平面アンテナ81が存在しても、水平面内指向性の劣化は少ない。一方、垂直ダイポールアンテナ80は上下方向の高さがスリーブアンテナよりも大きくなるきらいがある。
【0045】
図12から
図14に示すように、山状導体34を有するスリーブアンテナ30は、平面アンテナが近くにあっても、モノポールアンテナよりも水平面の指向性が良好となる。さらに、スリーブアンテナ30は、垂直ダイポールアンテナと同程度に良好な水平面の指向性を得ることができると共に、垂直ダイポールアンテナよりも上下方向の高さを低くすることができる。
【0046】
<スリーブアンテナ30の上下方向の高さ>
図15はスリーブアンテナ30の上下方向の高さHと平均利得との関係を示す実測による特性図である。FR-4基板の両面を導体で覆った一辺が300mmの地板となる平板(金属製のベース5に相当)に同軸コネクタ40を設け、同軸コネクタ40に上下方向の高さ(平板からの高さH)を45mm、50mm、60mm、70mm、80mmとしたスリーブアンテナ30を嵌めて(装着して)、各々について測定を行った。スリーブアンテナ30の受信周波数をDSRC帯の5887.5MHzとした。
【0047】
一般的にアンテナ素子の上下方向の高さが低くなるとアンテナ素子の平均利得は低下する。しかし、
図15に示すように、スリーブアンテナ30の上下方向の高さが70mm以下であっても、スリーブアンテナ30の垂直偏波における水平面平均利得[dBi]に大きな変化は見られない。このため、スリーブアンテナ30は、上下方向の高さが70mm以下であっても上下方向の高さに拘わらず十分な平均利得を得ることができる。
【0048】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0049】
(1) アンテナ装置1は、内部導体31と、内部導体31を覆う絶縁体32と、絶縁体32をさらに覆う外部導体33と、上縁で外部導体33に接続する山状導体34とを有するスリーブアンテナ30を用いている。したがって、垂直偏波の水平面内指向特性を理想的な無指向性に近づけることが可能であり、所要の利得を確保できる。このため、車載用等の情報通信系アンテナとして好適に利用できる。特に、山状導体34と外部導体33の軸方向との成す角度αを略10°~略30°程度に設定することで、平均利得を高くすることが可能になる。
【0050】
(2) 同軸コネクタ40のレセプタクル41が設けられた基板7と、同軸コネクタ40のプラグ45側に設けられたスリーブアンテナ30とを備え、レセプタクル41にプラグ45を連結して、スリーブアンテナ30を基板7に対して垂直に立設している。このため、スリーブアンテナ30を基板7にハンダ付けしてスリーブアンテナ30を上下方向に立設させるよりもアンテナ装置1の製造組立が容易となる。つまり、従来のハンダ付けの場合、スリーブアンテナが基板に対し完全な垂直にならず傾くことがあり、これを解消しようとすると却って手間かがかかる。同軸コネクタ40を取付に用いることで、スリーブアンテナ30を基板7に対して確実に垂直に立設可能となる。このため、指向性に偏りが生じにくく、理想的な無指向性に近づけることが可能である。
【0051】
(3) 山状導体34を有するスリーブアンテナ30は、平面アンテナが近くにあっても、指向特性の劣化が少なく、モノポールアンテナよりも水平面の指向性が良好となる。さらに、スリーブアンテナ30は、垂直ダイポールアンテナと同程度に良好な水平面の指向性を得ることができると共に、垂直ダイポールアンテナよりも上下方向の高さを低くすることができる。このため、小型化に適したアンテナ装置を提供可能である。
【0052】
(4) スリーブアンテナ30は、金属製のベース5を基準とした上下方向の高さが70mm以下であっても、十分な平均利得を得ることができ、シャークフィンアンテナ装置に適用可能である。
【0053】
図16から
図18を用いて本発明に係るアンテナ装置の実施の形態2を説明する。実施の形態2のアンテナ装置2は、前述の実施の形態1のスリーブアンテナ30の代わりにV2X用のスリーブアンテナ80を設けたアンテナ基板70が用いられている。アンテナ基板70は、基板7に対し略垂直に立設、固定されている。アンテナ基板70は、絶縁体板90の主面(片面)に、直線状の内部導体パターン81と、内部導体パターン81の両側に平行に設けられる直線状の外部導体パターン83と、外部導体パターン83の上端に接続する山状導体パターン84とを有するスリーブアンテナ80を備える。山状導体パターン84は内部導体パターン81を挟んだ外部導体パターン83の両側に設けられている。具体的には、山状導体パターン84は内部導体パターン81に関して線対称に配置された直線状パターンであって、外部導体パターン83の軸方向に対し鋭角を成して下向きに傾いている。これらの内部導体パターン81、外部導体パターン83及び山状導体パターン84は、例えば、絶縁体板90への導体の印刷、絶縁体板90に貼り付けた導体箔のエッチング等で形成される。内部導体パターン81とこれを挟むように配置される外部導体パターン83とは絶縁体板90の主面において所定間隔に保持されている。山状導体パターン84は、前述の実施の形態1における山状導体34を内部導体パターン31を通る平面で切断した断面形状に相当する2次元的な導体パターンを構成するものである。内部導体パターン81は、山状導体パターン84の上縁(上端)よりも上方では外部導体パターン83より突出している。絶縁体板90の主面の反対面には導体パターン等は形成されていない(何も設けられていない)。
【0054】
スリーブアンテナ80の動作周波数における絶縁体板90上の実効波長をλ1eとすると、山状導体パターン84の上端から下端までの長さはλ1e/4であり、山状導体パターン84の上端から上方の内部導体パターン81の上下方向の長さもλ1e/4である。また、スリーブアンテナ80の給電点は、基板7に差し込まれたアンテナ基板70の下端部にあり、内部導体パターン81の下端部81aが、図示しない同軸ケーブルの中心導体に接続され、外部導体パターン83の下端部83aは同軸ケーブルの外部導体に接続される。その他の構成は前述の実施の形態1と同様である。
【0055】
図20は実施の形態2における基板7に対し略垂直なV2X用のスリーブアンテナ80の水平面の指向性を、実施の形態1におけるV2X用のスリーブアンテナ30と対比して示すシミュレーションによる指向特性図である。実施の形態2のV2X用のスリーブアンテナ80は平面的(2次元的)な山状導体パターン84を用いているにもかかわらず、前述の実施の形態1のスリーブアンテナ30に近い指向特性が得られている。
【0056】
実施の形態2のアンテナ装置2は、スリーブアンテナ80を絶縁体板90の片面に形成したアンテナ基板70を用いるため、前述の実施の形態1における立体的な山状導体34を持つスリーブアンテナ30に比べて安価に構成できる。また、スリーブアンテナ30に比べて構造が簡単であるので、生産時のバラツキが少ない。このため、生産性が向上する。
【0057】
図19は本発明に係るアンテナ装置の実施の形態3であって、V2X用のスリーブアンテナを有するアンテナ基板70Aの主面の反対面を示す。この場合、アンテナ基板70Aの主面は
図18と同じである。絶縁体板90の主面の反対面に裏側外部導体パターン86が設けられている。裏側外部導体パターン86は多数のスルーホール87を介して主面側の外部導体パターン83(
図18)に接続されている。アンテナ基板70Aの主面の反対面以外の構成は前述の実施の形態2と同様である。
【0058】
図21は前述の実施の形態2における基板7に対し略垂直なV2X用のスリーブアンテナ80と、実施の形態3における基板7に対し略垂直なV2X用のスリーブアンテナ(裏側外部導体パターン86付き)の水平面の指向性を対比して示すシミュレーションによる指向特性図である。前述の実施の形態2の方が、実施の形態3よりも全方位において利得が少し上回っている。前述の実施の形態2の場合は、外部導体パターン83間の内部導体パターン81も電波の放射に寄与できているからである。
【0059】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0060】
本発明の各実施の形態では、車載用、とくに車体ルーフ等に装着することを前提としてインナーケースの前側の高さが低く、後側が高く設定されているが、用途に応じてケース構造は任意である。
【0061】
実施の形態1において、スリーブアンテナを取り付けている同軸コネクタの基板裏面に直接同軸ケーブルを接続してベース底面より引き出す構造も可能である。
【0062】
実施の形態2,3で用いたアンテナ基板70,70Aは
図16及び
図17に示すようにアンテナ装置2の前後方向に沿うように設けられているが、アンテナ装置2の左右方向に沿うように設けられていても良い。
【0063】
スリーブアンテナと共にケース内に収容される別のアンテナとして平面アンテナを例示したが、別種のアンテナが収容されていてもよい。
【0064】
また、各実施の形態において、V2X用のスリーブアンテナ30,80とGPS用平面アンテナ20の間に板状の板金で形成されたTEL用アンテナが設けられていても良い。
【符号の説明】
【0065】
1 アンテナ装置
5 ベース
6 インナーケース
7 基板
10,20 平面アンテナ
30,80 スリーブアンテナ
31 内部導体
32 絶縁体
33 外部導体
34 山状導体
40 同軸コネクタ
41 レセプタクル
45 プラグ
70,70A アンテナ基板
81 内部導体パターン
83 外部導体パターン
84 山状導体パターン
90 絶縁体板