(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066578
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/08 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
E03D11/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038348
(22)【出願日】2022-03-11
(62)【分割の表示】P 2018086982の分割
【原出願日】2018-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寿治
(72)【発明者】
【氏名】宇田 拓哉
(57)【要約】
【課題】溜水部に後方から流入する水流を用いて汚物を排出するうえで、汚物排出能力の向上を図れる技術を提供する。
【解決手段】汚物受け面80及び溜水部84を有する便鉢部16と、便鉢部16の底部に接続される便器排水路18と、便鉢部16内に周方向の一方側に向けて第1吐水孔78Aから洗浄水を吐き出すことによって、便鉢部16の左右一方側の第1側方領域16aを後方に向かう第1旋回流Fwaを形成する第1吐水部90Aと、を備え、溜水部84は、溜水部84の左右他方側に設けられる立壁面84cに接触しつつ溜水部84に後方から流入する水流によって、便器排水路18に汚物を押し込む誘導流Fwfを形成するように構成され、便鉢部16は、溜水部84の前端84hより後方で第1側方領域16aにおいて便鉢部16の内周面に形成され、自らと衝突した第1旋回流Fwaを後方に誘導可能な誘導面98を有する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体を備える水洗大便器であって、
前記便器本体は、
鉢状の汚物受け面、及び、前記汚物受け面の下端縁から下方に窪む溜水部を有する便鉢部と、
前記便鉢部の底部に接続される便器排水路と、
前記便鉢部内に周方向の一方側に向けて第1吐水孔から洗浄水を吐き出すことによって、前記便鉢部の左右一方側の第1側方領域を後方に向かう第1旋回流を形成する第1吐水部と、を備え、
前記溜水部は、前記溜水部の左右他方側に設けられる立壁面に接触しつつ前記溜水部に後方から流入する水流によって、前記便器排水路に汚物を押し込む誘導流を形成するように構成され、
前記便鉢部は、前記溜水部の前端より後方で前記第1側方領域において前記便鉢部の内周面に形成され、自らと衝突した前記第1旋回流を後方に誘導可能な誘導面を有する水洗大便器。
【請求項2】
前記第1側方領域の後部に形成される第2吐水孔を有し、前記便鉢部内に前記周方向の一方側に向けて前記第2吐水孔から洗浄水を吐き出す第2吐水部を備え、
前記第2吐水部は、前記第2吐水孔から吐き出された洗浄水によって、前記誘導面により誘導された前記第1旋回流と合流する第1水流を形成し、
前記第1水流は、前記第1旋回流と合流することによって、前記溜水部内に後方から流入する主流を形成する請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記第2吐水部は、前記第2吐水孔から吐き出された洗浄水によって、前記溜水部より後方にて前記汚物受け面を経由して前記便鉢部の左右他方側の第2側方領域を前方に向かう第2旋回流を形成する請求項2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
前記便鉢部は、前記第1吐水孔から吐き出された洗浄水を旋回させるように導くための導水路を有し、
前記導水路は、前記便鉢部の径方向外側に延びる凹曲面状の底面と、前記底面の外周端から上方に延びる凹曲面状の側面と、前記側面の上端から前記径方向内側に延びる返し面と、を有し、
前記返し面は、水平に延びる平坦面を有する請求項1から3のいずれかに記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、汚物を排出するための洗浄方式に関して種々の検討がなされている。特許文献1には、便鉢部の左右片側の側方領域を後方に向かう旋回流を形成し、その旋回流の一部を便鉢部の溜水部に後方から流入させることで、便器排水路に汚物を押し込むための誘導流を形成できる水洗大便器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
便鉢部の溜水部に後方から水流を流入させることで、便器排水路に汚物を押し込む誘導流を形成する場合を考える。この場合、良好な汚物排出能力を得るうえで、その旋回流の溜水部の後方からの流入量を増大できるとよい。本発明者は、このような観点のもと、汚物排出能力の向上を図るうえで、新たな方策があるとの知見を得た。
【0005】
本発明のある態様は、このような課題に鑑みてなされ、その目的の1つは、溜水部に後方から流入する水流を用いて汚物を排出するうえで、汚物排出能力の向上を図れる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するための本発明の第1態様は水洗大便器である。第1態様の水洗大便器は、便器本体を備える水洗大便器であって、前記便器本体は、鉢状の汚物受け面、及び、前記汚物受け面の下端縁から下方に窪む溜水部を有する便鉢部と、前記便鉢部の底部に接続される便器排水路と、前記便鉢部内に周方向の一方側に向けて第1吐水孔から洗浄水を吐き出すことによって、前記便鉢部の左右一方側の第1側方領域を後方に向かう第1旋回流を形成する第1吐水部と、を有し、前記溜水部は、前記溜水部の左右他方側に設けられる立壁面に接触しつつ前記溜水部に後方から流入する水流によって、前記便器排水路に汚物を押し込む誘導流を形成するように構成され、前記便鉢部は、前記溜水部の前端より後方で前記第1側方領域において前記便鉢部の内周面に形成され、自らと衝突した前記第1旋回流を後方に誘導可能な誘導面を有する。
【0007】
第1態様によれば、誘導面との衝突により第1旋回流を減速させられる。これに伴い、溜水部に後方から流入せずに溜水部より後方にて汚物受け面を経由する水流の流量を減らし、溜水部の立壁面に接触しつつ溜水部に後方から流入する水流の流量を増やせる。このため、便器排水路に汚物を押し込む誘導流の流量を増やすことができ、汚物排出能力の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の水洗大便器の側面断面図である。
【
図5】参考例の便器本体の一部を示す側面断面図である。
【
図6】参考例の便器本体での物体の流れ方を示す図である。
【
図7】第1実施形態の便器本体での物体の流れ方を示す図である。
【
図10】第1段階での洗浄水の流れ方を示す図である。
【
図11】第2段階での洗浄水の流れ方を示す図である。
【
図12】第2段階での洗浄水の流れ方を示す他の図である。
【
図14】
図13の第1導水路に洗浄水が流れている状態を示す図である。
【
図15】第1実施形態の便器本体の便器素地を分解した状態を示す側面断面図である。
【
図16】第1実施形態の便鉢側部分の便器素地の成形途中の状態を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
(第1の実施の形態)
まず、第1実施形態の水洗大便器10の第1の工夫点を説明する。
図1は、第1実施形態の水洗大便器10の側面断面図である。水洗大便器10は、便器本体12を備える。本実施形態の便器本体12は陶器を素材とするが、樹脂等を素材としてもよい。本実施形態の便器本体12は洋風大便器である。本実施形態の便器本体12は、トイレ室に設けられる側壁部14に掛けられる壁掛け式である。
【0011】
以下、水洗大便器10の構成要素の位置関係に関して、互いに直交する三つの方向を用いて説明する。この方向とは、便器本体12の前後方向X、左右方向Y及び上下方向Zである。前後方向X、左右方向Yは水平方向であり、便器本体12に取り付けられる便座(不図示)に通常の姿勢で座る着座者の前後左右と対応する。上下方向Zは鉛直方向である。
【0012】
便器本体12は、便鉢部16と、便鉢部16の底部に接続される便器排水路18と、を備える。本実施形態において、便鉢部16と便器排水路18との間には中空空間20が形成される。
【0013】
便器排水路18は、便鉢部16内から下水側水路(不図示)に排出される汚物や水の通り道となる。本実施形態の便器排水路18はトラップ部22が構成する。便器排水路18は、上流側から下流側にかけて順に、第1下降流路部24と、上昇流路部26と、第2下降流路部28と、出口端部30と、を有する。
【0014】
第1下降流路部24は、便鉢部16の底部に連なり、下流側に向かうにつれて下降するとともに後方に延びるように形成される。上昇流路部26は、第1下降流路部24の下流端部に連なり、下流側に向かうにつれて上昇するとともに後方に延びるように形成される。第2下降流路部28は、上昇流路部26の下流端部に連なり、下流側に向かうにつれて下降するとともに後方に延びるように形成される。出口端部30は、筒状をなしており、便器本体12の後面部12aに後方に突き出るように設けられる。出口端部30には、トイレ室の側壁部14から引き出される排水管32が接続され、便器排水路18は排水管32を介して下水側水路に接続される。
【0015】
便鉢部16や便器排水路18内には封水34が貯留される。封水34は、便器排水路18の第1下降流路部24や上昇流路部26が構成する封水貯留部36の内部に貯留される。封水34は、便器排水路18内の流体の流れ方向での空気の流れを遮断する。
【0016】
便器排水路18は、封水34の水位を定めるための溢れ縁38を有する。詳しくは、溢れ縁38は、静止した状態にある封水34の最高水位を定めるためのものである。便器排水路18内に溢れ縁38を超える水が入り込んだとき、便器排水路18内の水は溢れ縁38より下流側に溢れ出ることで下水側水路に排出される。この結果、便器排水路18内に残る水、つまり、静止した状態にある封水34の最高水位が定められる。溢れ縁38は、上昇流路部26の内下面の上端縁により構成される。
【0017】
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図1、
図2に示すように、便器排水路18は、便器排水路18を形成する便器本体12の外壁部を貫通する掃除口40を有する。掃除口40は、便器排水路18内に詰まった異物等の物体の取り出しのような、便器排水路18内の掃除に用いられる。ここでの「物体」には、通常の使用時に便器排水路18を流れることが想定される汚物の他に、そのように便器排水路18を流れることが想定されない異物が含まれる。ここでの「汚物」には、たとえば、排泄物、トイレットペーパー等が含まれる。ここでの「異物」には、たとえば、おむつ、携帯電話等が含まれる。
【0018】
掃除口40は、蓋体42(
図1では不図示)により開閉可能である。蓋体42は、便器本体12の外壁部の表側から掃除口40を閉じる蓋本体44と、その外壁部の裏側に配置される裏当て部材46と、蓋本体44と裏当て部材46を共締めするねじ部材48と、を有する。蓋本体44と裏当て部材46は、ねじ部材48により共締めされることで、便器本体12の掃除口40の周縁部を挟持した状態で便器本体12に固定される。裏当て部材46は板状をなす。裏当て部材46は、便器排水路18の内面に掃除口40を跨いで自らの両端部を当てられる縦幅寸法を持つとともに、掃除口40から出し入れ可能な横幅寸法を持つ。蓋本体44と裏当て部材46は、ねじ部材48を緩めることで、便器本体12から分離できる。
【0019】
便器本体12の外面には掃除口40の周縁部に被シール面50が設けられる。蓋本体44と便器本体12の被シール面50との間にはシール部材52が配置される。シール部材52はゴム等の弾性体である。被シール面50は環状の平坦面であり、シール部材52は被シール面50に接触する。蓋本体44と便器本体12の被シール面50との間はシール部材52によりシールされ、便器排水路18内からの漏水がシール部材52により規制される。
【0020】
図3は、
図1の拡大図である。便器排水路18の上昇流路部26の内上面には、上昇流路部26内を通る物体を案内するための第1ガイド面54が設けられる。第1ガイド面54は、上昇流路部26内を上昇する物体との接触を伴い、その物体を後方向に案内する。本実施形態の第1ガイド面54は、前述の中空空間20と便器排水路18の内部空間とを隔てる第1隔壁部56に設けられる。第1ガイド面54は、溢れ縁38より上方まで延びる延び部分54aを有する。
【0021】
便器本体12は、便器本体12の側面断面視において、溢れ縁38より上方に設けられる第2隔壁部58を有する。ここでの「側面断面視」とは、
図3に示すように、便器本体12の左右方向Yに直交する断面を左右方向Yに視ることをいう。第2隔壁部58は、便器排水路18の上側に設けられる第1空間60と、便器排水路18の内部空間とを隔てている。この第1空間60とは、便器排水路18の出口端部30の周囲に設けられる第2空間62とは別の空間であり、本実施形態では共通通水路94(後述する)の内側の空間が該当する。
【0022】
便器排水路18の内上面には、便器排水路18内で溢れ縁38の上方を通る物体を案内するための第2ガイド面64が設けられる。第2ガイド面64は、溢れ縁38の上方を通る物体との接触を伴い、その物体を後方向に案内する。第2ガイド面64は、便器本体12の側面断面視において、溢れ縁38より上方に設けられる。本実施形態の第2ガイド面64は前述の第2隔壁部58に設けられる。
【0023】
掃除口40は、便器本体12の側面断面視において、第1ガイド面54の延び部分54aと前後方向Xに重なる位置で延び部分54aより後方に設けられる。掃除口40は、第1ガイド面54の延び部分54aの少なくとも一部と上下方向Zにおいて同じ位置にある。本実施形態において、掃除口40の中心40aは、第1ガイド面54の延び部分54aと上下方向Zにおいて同じ位置にある。
【0024】
掃除口40は、便器本体12の側面断面視において、第2ガイド面64と上下方向に重なる位置で第2ガイド面64より下方に設けられる。掃除口40は、第2ガイド面64の少なくとも一部と前後方向Xにおいて同じ位置にある。
【0025】
本実施形態の掃除口40の中心40aは、溢れ縁38より上方に設けられる。別の観点からみると、掃除口40の中心40aは、側面断面視において、上昇流路部26と第2下降流路部28の間で前後方向Xに沿って連続する空間と重なる箇所に設けられるともいえる。
【0026】
図4は、
図1のB-B線断面図である。本図は、上昇流路部26内での流体の流れ方向Paに直交する上昇流路部26の流路断面を示す図でもある。この流れ方向Paは、上昇流路部26の中心軸線La(
図1参照)に沿った方向でもある。この上昇流路部26の流路断面の内面に内接する最小径の内接円をCiとし、その内接円Ciの直径をRd[mm]とする。この内接円Ciとは、上昇流路部26の下流端部から上流端部までの範囲において、上昇流路部26の流路断面において最小径となる内接円Ciをいう。
【0027】
このとき、
図3に示すように、溢れ縁38から第2ガイド面64までの上下方向Z(鉛直方向)に沿った上下寸法Lbは、前述の内接円Ciの直径Rdに対して0.9倍以上1.2倍以下の大きさに設定される。この条件は、本発明者による実験的な検討に基づき導き出したものである。
【0028】
溢れ縁38から上方にLb/2だけ離れた位置を基準位置Prという。このとき、第1ガイド面54の延び部分54aは、便器本体12の側面断面視において、基準位置Prより上方に延びている。また、掃除口40の全体は、便器本体12の側面断面視において、第1隔壁部56の後端56aより後方に設けられる。また、掃除口40の中心40aは、便器本体12の側面断面視において、溢れ縁38より前方に設けられる。
【0029】
図2に示すように、便器排水路18の第2ガイド面64は、本実施形態において、前後方向Xに直交する断面において、下向きに凸となる凸曲面状をなす。掃除口40は第2ガイド面64の下端64aより下方に設けられ、被シール面50は第2ガイド面64の一部と左右方向Yに重なる位置に設けられる。
【0030】
次に、参考例の便器本体12を用いて、本実施形態の便器本体12が解決しようとする課題を説明する。
図5は、参考例の便器本体12の一部を示す側面断面図である。参考例の便器本体12は、実施形態の便器本体12と同様、便器本体12の後面部に後方に突き出るように便器排水路18の出口端部30が設けられる。参考例の掃除口40は、便器本体12の側面断面視において、第1ガイド面54と前後方向Xに重なる位置には設けられておらず、第1ガイド面54と上下方向Zに重なる位置で第1ガイド面54より上方に設けられる。
【0031】
壁掛け式の便器本体12は、通常、床置き式の便器本体と比べて、便器本体12の前後方向Xでの寸法が小さくなる。これは、便器本体12の後部への貯水タンクの設置が不要であることに起因する。これに伴い、壁掛け式の便器本体12は、通常、参考例の便器本体12から、第1ガイド面54を形成する第1隔壁部56(
図5の二点鎖線の部位)を省いた構造になることが多い。
【0032】
しかしながら、このように便器本体12の第1隔壁部56を省いてしまうと、便器排水路18内を物体が通り難くなる。よって、この対策として、参考例のように、便器本体12に第1隔壁部56を設けたうえで第1ガイド面54を形成する方策が考えられる。
【0033】
このように便器本体12の第1ガイド面54を形成するうえで、参考例のような位置に掃除口40を設けると、便器排水路18の第1ガイド面54を形成する第1隔壁部56の上方にて、前方に向けて広がるような無駄な空間66が形成されてしまう。特に、便器本体12の外面で掃除口40の周縁部には被シール面50を設ける必要がある。被シール面50の裏側には便器素地(後述する)を成形するための型を配置できない。この関係から、便器排水路18の内部には被シール面50の裏側に余計な空間を確保せざるを得ない。これに伴い、参考例の構造のもとでは、前述の無駄な空間66が一層広くなってしまう。
【0034】
このような空間66が形成されてしまうと、次の問題が生じ得る。
図6は、参考例の便器本体12の問題点を説明するための図である。便器本体12の便器排水路18内を圧縮された物体Fmが通ろうとする場合を考える。ここでは、このような物体Fmとして、汚物の一例となるトイレットペーパーを想定している。
【0035】
この場合、便器排水路18内で上昇流路部26を通り過ぎたところで、圧縮された物体Fmは、前述の空間66で圧縮された状態から復元するように広がろうとする。このように広がった状態の物体Fmは、洗浄水の水頭圧Fwにより便器排水路18の出口端部30側となる後方に向けて押し流される。この結果、前述の空間66と前後方向Xに重なる位置で後方に設けられる壁部68に物体が引っ掛かってしまい、物体の詰まりが生じ易くなる。この水頭圧Fwは、便鉢部16内に一時的に溜められた洗浄水の水位と、物体Fmに対して水頭圧Fwが作用する箇所との間での高低差に起因して生じる。このような問題は、通常の使用時に用いられるトイレットペーパーを流したときに生じるため、その対策が強く求められる。
【0036】
図7は、本実施形態の便器本体12での物体Fmの流れ方を示す図である。本実施形態によれば、掃除口40は、便器本体12の側面断面視において、第1ガイド面54の延び部分54aと前後方向Xに重なる位置で延び部分54aより後方に設けられる。よって、参考例の構造のように、便器排水路18の第1ガイド面54を形成する第1隔壁部56の上方で、便器排水路18の内部に余計な空間66を形成せずともよくなる。これにより、便器排水路18内を物体Fmが通る過程で、圧縮された物体Fmが広がり難くなり、その物体Fmの詰まりを抑制し易くなる。
【0037】
また、
図5に示すように、参考例の掃除口40は、便器排水路18内で溢れ縁38の上方を通る物体を案内するための第2ガイド面64と前後方向Xに重なる位置で第2ガイド面64より前方に設けられる。このような構造のもとでは、便器排水路18の第2ガイド面64を形成する壁部70の前方にて、上方に向けて広がるような無駄な空間72が形成されてしまう。
【0038】
これに対して、本実施形態によれば、掃除口40は、便器本体12の側面断面視において、第2ガイド面64と上下方向Zに重なる位置で第2ガイド面64より下方に設けられる。よって、参考例の構造のように、便器排水路18の第2ガイド面64を形成する第2隔壁部58の前方に余計な空間72を形成せずともよくなる。これにより、便器排水路18内を物体Fmが通る過程で、圧縮された物体Fmが広がり難くなり、その物体Fmの詰まりを抑制し易くなる。
【0039】
図3に示すように、溢れ縁38から第2ガイド面64までの上下寸法Lbは、上昇流路部26の内接円の直径Rdに対して0.9倍以上1.2倍以下の大きさに設定される。この上下寸法Lbが直径Rdに対して1.2倍超になると、溢れ縁38と第2ガイド面64の間の空間が過度に広くなってしまう。これに伴い、溢れ縁38と第2ガイド面64の間の空間で圧縮された物体Fmが大きく広がってしまい、その第2ガイド面64の後方の壁部74との接触により物体Fmが詰まり易くなる。一方、この上下寸法Lbが直径Rdに対して0.9倍未満になると、溢れ縁38と第2ガイド面64の間の空間が過度に狭くなり、第2ガイド面64と溢れ縁38の間で物体Fmが詰まり易くなる。この点、本実施形態によれば、これら問題の生じる事態を避けることができ、物体Fmの詰まりを抑制し易くなる。
【0040】
図7に示すように、便器排水路18は第2下降流路部28を有する。このような構造のもとでは、第2下降流路部28の内上面には後方に向かって下向きに延びる斜面28aが設けられる。溢れ縁38の上方を通る物体Fmは、洗浄水の水頭圧Fwにより、第2下降流路部28の斜面28aに当たりつつ下方かつ後方に誘導され、便器排水路18の出口端部30に導かれる。この結果、物体Fmの詰まりを抑制し易くなる。
【0041】
なお、下水側水路から便器排水路18に汚水が逆流しようとしたとき、第2下降流路部28の内下面により汚水を堰き止めることができ、封水34に汚水が混入してしまう事態を避けられる。
【0042】
次に、水洗大便器10の第2の工夫点を説明する。
図8は、水洗大便器10の構成図である。水洗大便器10は、洗浄水供給装置76を更に備える。洗浄水供給装置76は、フラッシュバルブ、貯水タンク等を用いて構成される。
【0043】
図9は、
図1のC-C線断面図である。
図1、
図9に示すように、便器本体12は、便鉢部16、便器排水路18の他に、便鉢部16内に洗浄水を吐き出すための吐水部78A、78Bを備える。
【0044】
便鉢部16は、汚物を受けるための鉢状の汚物受け面80と、便鉢部16の上端部を形成するリム部82と、汚物受け面80の下端縁から下方に窪む溜水部84と、を備える。汚物受け面80は、平面視での曲率半径が前端80aにおいて最小となる形状である。リム部82の内周面の上部には内側に向けて突き出るオーバーハング部86が設けられる。
【0045】
溜水部84は、便鉢部16の底部を形成するとともに有底状をなす。溜水部84は、底壁面84aと、底壁面84aから立ち上がる複数の立壁面84b~84dと、を有する。底壁面84aの後部には便器排水路18の入口18aが開口する。溜水部84には前述の封水34の一部が溜水88として溜められる。
【0046】
立壁面84b~84dには、溜水部84の左右一方側となる左側(
図9の紙面では右側)に設けられる左側立壁面84b(第1立壁面)と、溜水部84の左右他方側となる右側(
図9の紙面では左側)に設けられる右側立壁面84c(第2立壁部)とが含まれる。また、立壁面84b~84dには、溜水部84の後側に設けられる後側立壁面84dが含まれる。左側立壁面84bと右側立壁面84cは、後述する誘導流Fwf(
図11参照)を形成するため、前方に向かうにつれて先細りする形状であり、その前端部が第1凹曲面84eを介して滑らかに連なっている。本実施形態の左側立壁面84bは、第2凹曲面84fを介して後側立壁面84dに滑らかに連なっている。本実施形態の右側立壁面84cも、第3凹曲面84gを介して後側立壁面84dに滑らかに連なっている。
【0047】
便鉢部16は、左右一方側となる左側の左側方領域16a(第1側方領域)と、左右他方側(本図では左側)の右側方領域16b(第2側方領域)とを有する。左側方領域16aは、便鉢部16の左右中心線Lcに対して左右一方側に配置される領域であり、右側方領域16bは、その左右中心線Lcに対して左右他方側に配置される領域である。左右中心線Lcとは、便鉢部16の内面部分の左右方向Yに沿った寸法を二等分し、前後方向Xに沿って延びる直線をいう。
【0048】
吐水部78A、78Bには、便鉢部16の右側方領域16bに形成される第1吐水孔90Aを有する第1吐水部78Aと、便鉢部16の左側方領域16aに形成される第2吐水孔90Bを有する第2吐水部78Bとが含まれる。本実施形態の第1吐水孔90Aは、平面視において、溜水部84と左右方向Yに重なる位置に設けられる。本実施形態の第1吐水孔90Aは、溜水部84より左右他方側となる右側に形成され、本実施形態の第2吐水孔90Bは、溜水部84より左右一方側となる左側に形成される。
【0049】
第1吐水孔90Aは前方に向けて開放しており、便鉢部16内に周方向の一方側(
図9の紙面では反時計回り方向。以下、単に反時計回り方向ともいう)に向けて洗浄水を吐き出す。第1吐水孔90Aは、このように洗浄水を吐き出すことによって、便鉢部16の右側方領域16bを後方に向かう後述の第1旋回流Fwa(
図11参照)を形成する。第2吐水孔90Bは、左右他方側となる右側に向けて開放しており、便鉢部16内に反時計回り方向に向けて洗浄水を吐き出す。
【0050】
第1吐水部78Aは、第1吐水孔90Aに洗浄水を供給するための第1通水路92Aを有し、第2吐水部78Bは、第2吐水孔90Bに洗浄水を供給するための第2通水路92Bを有する。第1通水路92Aや第2通水路92Bには、洗浄水供給装置76の一部となる給水管76aから共通通水路94を通して洗浄水が供給される。第1通水路92Aや第2通水路92Bは共通通水路94の下流端部から左右に分岐している。
【0051】
第1通水路92Aは、始端側となる共通通水路94の下流端部から反時計回り方向に延びるように形成される。第1通水路92Aの終端部には第1吐水孔90Aが形成される。
【0052】
第2通水路92Bは、始端側となる共通通水路94の下流端部から周方向の他方側(
図9の紙面では時計回り方向。以下、単に時計回り方向ともいう)に延びるように形成される。第2通水路92Bの終端部には折り返し部分92Baが形成され、その折り返し部分92Baの先端部に第2吐水孔90Bが形成される。
【0053】
便鉢部16は、吐水孔90A、90Bから吐き出された洗浄水を旋回させるように導くための導水路96A、96Bを有する。導水路96A、96Bには、第1吐水孔90Aに対応する第1導水路96Aと、第2吐水孔90Bに対応する第2導水路96Bが含まれる。導水路96A、96Bは、便鉢部16の汚物受け面80の一部及びリム部82が構成しており、対応する吐水孔90A、90Bから反時計回り方向に延びるように形成される。
【0054】
便鉢部16は、溜水部84の前端84hより後方で右側方領域16bにおいて便鉢部16の内周面に形成される誘導面98を有する。第1吐水孔90Aから誘導面98までの便鉢部16の内周面部分のうち、誘導面98と隣接する部分を隣接部分100という。誘導面98は、便鉢部16の隣接部分100に対して径方向外側に凹となる屈曲部102を介して連なっている。本実施形態において、平面視において、便鉢部16の隣接部分100は凹曲面が構成するのに対して、誘導面98は平坦面が構成している。これにより、誘導面98は、第1吐水孔90Aから吐き出される洗浄水により形成される第1旋回流Fwa(
図11参照)が衝突可能に設けられる。誘導面98は、このように自らと衝突した第1旋回流Fwaを後方に誘導可能である。
【0055】
以上の水洗大便器10による洗浄方法を説明する。本実施形態の水洗大便器10は、水の落差を用いて汚物を押し流す洗い流し式の洗浄方式によって汚物を排出する。洗浄水供給装置76は、所定の洗浄開始条件を満たすと、所定の水量の洗浄水を通水路92A、92B、94に供給する供給動作を行う。洗浄開始条件は、たとえば、レバー等の操作部材、または、リモートコントローラ、スマートフォン等の電気機器に対する操作を通じて洗浄水供給装置76が洗浄開始指令を受けることである。
【0056】
図10は、第1段階での洗浄水の流れ方を示す図である。ここでの第1段階とは、便鉢部16内に洗浄水が流れ始めた段階をいう。本図では、洗浄水の流れ方向に矢印を付して示す。
【0057】
洗浄水は、洗浄水供給装置76から通水路92A、92B、94に供給され、その通水路92A、92B、94から各吐水孔90A、90Bに供給され、各吐水孔90A、90Bから吐き出される。第1吐水孔90Aから吐き出された洗浄水は、汚物受け面80の前端80aを経由して左側方領域16aを後方に向かう第1旋回流Fwaを形成する。第1旋回流Fwaは主流として形成される。本明細書での「主流」とは、洗浄水の一部が部分的に集まった状態で流れるすじ状の流れのことをいう。第1旋回流Fwaは誘導面98と衝突し、その勢いを弱めた状態で誘導面98により後方に向けて誘導される。
図10では第1旋回流Fwaが次に説明する第1水流Fwbと合流する直前の状態を示す。
【0058】
第2吐水部78Bには折り返し部分92Baが設けられ、その折り返し部分92Baを通して乱れた流れは、十分に整えられる前に第2吐水孔90Bから広角な範囲に吐き出される。これにより、第2吐水孔90Bから吐き出された洗浄水は、溜水部84に後方から流入する第1水流Fwbと、溜水部84より後方にて汚物受け面80を経由して便鉢部16の右側方領域16bを前方に向かう第2旋回流Fwcを形成する。第1水流Fwbや第2旋回流Fwcは主流として形成される。第2吐水部78Bは、第2吐水孔90Bから洗浄水を吐き出すことによって、このような第1水流Fwbと第2旋回流Fwcを形成するように構成されることになる。
【0059】
第1水流Fwbは、汚物受け面80から溜水部84に落ち込むように溜水部84内に後方から流入する。第1水流Fwbは、溜水部84の後側立壁面84dに接触しつつ落ち込み、便器排水路18の入口18aに向けて流れ込む。
【0060】
第1旋回流Fwaや第2旋回流Fwcを形成する洗浄水は、汚物受け面80から溜水部84側に向けて徐々に流れ落ちることで、汚物受け面80から溜水部84に向かう水流Fwdを形成する。
【0061】
図11は、第2段階での洗浄水の流れ方を示す図である。ここでの第2段階とは、第1段階より時間が経過した後の段階をいう。第1旋回流Fwa、第2旋回流Fwcの流れ方は第1段階と同様である。
【0062】
第2段階では、誘導面98により後方に誘導された第1旋回流Fwaと、第2吐水孔90Bから吐き出される洗浄水が形成する第1水流Fwbとが合流して主流Fweを形成する。第2吐水部78Bは、第2吐水孔90Bから吐き出された洗浄水によって、第1旋回流Fwaと合流する第1水流Fwbを形成するように構成されるとも捉えられる。第1旋回流Fwaは第1水流Fwbの流れ方向の側方から第1水流Fwbと合流する。これにより、第1旋回流Fwaと第1水流Fwbが合流して形成される主流Fweは、第1水流Fwbが流れていた箇所より第2旋回流Fwc寄りの箇所に形成される。主流Fweは、溜水部84の右側立壁面84cに接触しつつ落ち込むように溜水部84内に後方から流入する。この主流Fweは、便器本体12の汚物受け面80に形成される流れのなかで最も流量の多い流れとなる。この主流Fweは、汚物受け面80から溜水部84に流入する水流のなかで最も流量が多い流れでもある。
【0063】
図12は、第2段階での洗浄水の流れ方を示す他の図である。
図11、
図12に示すように、溜水部84内に後方から流入する主流Fweは、溜水部84の右側立壁面84cに接触しつつ下向きに流れる。この主流Fweは、溜水部84の底壁面84aや左側立壁面84bに衝突することで上方かつ後方に向きを変えた後、溜水部84内で上昇したうえで自重により下降する縦旋回流となる誘導流Fwfを形成する。この誘導流Fwfは、溜水部84内で後方に向けて上昇してから下降することで、便器排水路18の入口18aに汚物を押し込むような流れとなる。このように溜水部84の右側立壁面84c、左側立壁面84b及び底壁面84aは、右側立壁面84cに接触しつつ溜水部84内に後方から流入する流れによって、便器排水路18に汚物を押し込む誘導流Fwfを形成するように構成されている。
【0064】
以上の水洗大便器10の効果を説明する。
【0065】
(A)本実施形態の便鉢部16は、便鉢部16の右側方領域16bを後方に向かう第1旋回流Fwaと衝突し、その衝突した第1旋回流Fwaを後方に誘導可能な誘導面98を有する。よって、誘導面98との衝突により第1旋回流Fwaを減速させられる。これに伴い、溜水部84に後方から流入せずに溜水部84より後方にて汚物受け面80を経由する水流の流量を減らし、溜水部84の右側立壁面84dcに接触しつつ溜水部84に後方から流入する水流の流量を増やせる。このため、便器排水路18に汚物を押し込む誘導流Fwfの流量を増やすことができ、汚物排出能力の向上を図れる。
【0066】
第1吐水部78Aが形成する第1旋回流Fwaは、汚物受け面80の前端80aを経由する。よって、汚物受け面80の前端80aを経由する過程で第1旋回流Fwaの勢いを適度に弱めてから、第1旋回流Fwaを誘導面98に衝突させられる。このため、突発的に洗浄水の流量が増えた場合でも、誘導面98との衝突による飛沫の発生を抑え易くなる。
【0067】
第2吐水部78Bが形成する第1水流Fwbは、第1旋回流Fwaと合流することによって、溜水部84内に後方から流入する主流Fweを形成する。よって、便器排水路18に汚物を押し込む誘導流Fwfの流量を更に増やすことができ、汚物排出能力の更なる向上を図れる。
【0068】
第2吐水部78Bは、溜水部84より後方にて汚物受け面80を経由して右側方領域16bを前方に向かう第2旋回流Fwcを形成する。よって、第2吐水孔90Bから吐き出される洗浄水によって、第1旋回流Fwaと合流する第1水流Fwbを形成しつつも、第2旋回流Fwcによって広範囲を洗浄できる。
【0069】
なお、誘導面98の上方にはオーバーハング部86が設けられる(
図8参照)。よって、誘導面98との衝突により飛沫が発生したとき、便鉢部16の外部への飛沫の飛び出しをオーバーハング部86により抑え易くなる。
【0070】
また、誘導面98は、平面視において、溜水部84と左右方向Yに重なる位置に設けられる。よって、便鉢部16の内部を正面から覗き込んだとき、誘導面98が見え難い位置に設けられることになり、良好な意匠性を得られる。
【0071】
次に、水洗大便器10の他の特徴を説明する。
図13は、
図1の第1導水路96Aの拡大図である。第1導水路96Aは、便鉢部16の径方向外側に延びる凹曲面状の底面96aと、底面96aの外周端96bから上方に延びる凹曲面状の側面96cと、側面96cの上端96dから径方向内側に延びる返し面96eと、を有する。第1導水路96Aの底面96aは汚物受け面80の一部が構成し、第1導水路96Aの側面96cや返し面96eはリム部82の一部が構成する。本実施形態において、平面視での便鉢部16の上端開口の中心16c(
図8参照)を通る鉛直断面において、側面96cの曲率半径は、底面96aの曲率半径より大きくなるように設定される。
【0072】
返し面96eは、水平に延びる平坦面96fと、径方向内側に向かうにつれて上向きに延びる縁面96gとを有する。ここでの「水平」とは、字句通りに水平である場合の他に、ほぼ水平である場合も含まれる。本実施形態の平坦面96fは、第1導水路96Aの側面96cの上端96dに連なっており、その内周端は縁面96gに連なっている。
【0073】
以上の水洗大便器10の効果を説明する。
図14は、第1導水路96Aに洗浄水Waが流れている状態を示す図である。便器本体12の第1導水路96Aを周方向に伝う洗浄水Waには径方向外側に向かう遠心力Fpが付与される。第1導水路96Aの底面96aは凹曲面状をなしている。よって、洗浄水に付与される遠心力は第1導水路96Aの底面96aにより上向きの力Fq1にスムーズに変換される。この上向きの力Fq1により、第1導水路96Aを周方向に伝う洗浄水は押し上げられ、第1導水路96Aの底面96aの他に側面96cも伝うように流れる。
【0074】
第1導水路96Aの側面96cは凹曲面状をなしている。よって、前述のように第1導水路96Aの底面96aから押し上げられた洗浄水が第1導水路96Aの側面96cを伝い始めたとき、洗浄水の上向きの力Fq1は第1導水路96Aの側面96cによって径方向内向きの力Fq2にスムーズに変換される。この結果、導水路96A、96Bを流れる洗浄水は、上向きの力Fq1を大きく失うことなく、第1導水路96Aの上下方向の広い範囲を伝えるようになる。
【0075】
また、第1導水路96Aの返し面96eは水平に延びる平坦面96fを有するため、便鉢部16の外周端16dから便鉢部16の上端部(リム部82)の内周端16eまでの距離を確保し易くなる。これに伴い、導水路96A、96Bを大流量の洗浄水が流れたときに便鉢部16の外部への飛沫の飛び出しを抑え易くなる。
【0076】
また、第1導水路96Aの底面96aと側面96cは凹曲面状であるため、両者のいずれかが平面状である場合と比べ、両者の間でつっかえずにスムーズに拭き易くなる。
【0077】
なお、第1吐水孔90Aから洗浄水を吐き出したとき、汚物受け面80の前端80aを経由した直後の箇所、つまり、便鉢部16の右側方領域16bの前端部16ba(
図11参照)において、第1旋回流Fwaの上端の位置が最も高くなる。洗浄水供給装置76から供給される洗浄水の流量は、この便鉢部16の右側方領域16bの前端部16baにおいて、第1導水路96Aの返し面96eまで達しない大きさに設定される。
図14では、洗浄水の流量は、汚物受け面80の前端80aで第1導水路96Aの返し面96eまで達しない大きさに設定される例を示す。
【0078】
次に、便器素地の成形方法を説明する。ここでの便器素地とは、陶器製の便器本体12を得るために必要な便器本体12の半製品であり、鋳込み成形により得られる。
【0079】
図15は、便器本体12の便器素地を分解した状態を示す側面断面図である。便器本体12の便器素地は、便器本体12を上下に分割した形状の上面側部分104と便鉢側部分106とを備える。上面側部分104は、便器本体12の上面部を含む部分である。便鉢側部分106は、便器本体12の上面側部分104より下側の部分であり、便鉢部16の大部分を含む部分である。
【0080】
便器本体12は、前述の上面側部分104及び便鉢側部分106それぞれの便器素地を鋳込み成形により成形し、これらを接着等により接合した後、焼成工程を経ることで得られる。以下、便鉢側部分106の便器素地を鋳込み成形により得るための成形方法を主に説明する。
【0081】
図16は、便鉢側部分106の便器素地の成形途中の状態を示す側面断面図である。便鉢側部分106は、複数の型108A~108Dを用いた鋳込み成形により得られる。複数の型108A~108Dは、石膏等の吸水性をもつ素材により構成される。本実施形態の型108A~108Dには、上側に配置される上型108Aと、下側に配置される下型108Bと、左右両側に配置される横型108Cと、後側に配置される後型108Dとが含まれる。
【0082】
各型108A~108Dは、便鉢側部分106の便器素地を成形するための成形面110を有する。後型108Dの成形面110は、便鉢側部分106の後方に面する部位の少なくとも一部を成形するためのものである。後型108Dの成形面110は、便器排水路18の出口端部30を形成する筒状の壁部をかたどった形状を少なくとも持つ。複数の型108A~108Dを型合わせしたとき、複数の型108A~108Dそれぞれの成形面110により型空間112が形成される。
【0083】
便鉢側部分106を得るための鋳込み成形には、次の工程が含まれる。まず、複数の型108A~108Dを型合わせすることによって、便鉢側部分106の便器素地を成形するための型空間112を形成する工程S1を行う。次に、型空間112内に未硬化状態の泥しょう114を注入する工程S2を行う。この工程S2を得ることで、各型108A~108Dの表面に沿って泥しょう114が硬化し、その泥しょう114の硬化部分により便鉢側部分106の便器素地が成形される。次に、便鉢側部分106の便器素地内に残る未硬化状態の泥しょう114を排出する工程S3を行う。次に、各型108A~108Dを便器素地から脱型する工程S4を行う。
【0084】
ここで、後型108Dは、便器排水路18の内部空間を下流側から閉塞する閉塞部116を成形する。この閉塞部116は、便器排水路18の出口端部30を形成する壁部の先端面30aと面一に形成され、板状をなしている。便器素地の閉塞部116は、前述の工程S4の後、便器素地が焼成前の柔らかい状態にあるうちに、手指、工具等を用いて切除する。これにより、便器排水路18の出口端部30の先端開口部から奥まった箇所に閉塞部116を形成する場合と比べ、閉塞部116の切除作業が容易となる。これに伴い、閉塞部116の切除箇所にバリが残存する事態を避け易くなり、バリの残存に起因する便器排水路18内での紙詰まりのリスクを避けられる。
【0085】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。次に、各構成要素の変形例を説明する。
【0086】
(第1の工夫点に関して)
便器本体12の便器排水路18は、第2下降流路部28を有していなくともよい。
【0087】
掃除口40は、第1ガイド面54の延び部分54aと前後方向Xに重なる位置で後方に設けられていればよい。たとえば、掃除口40は、第2ガイド面64の前方に設けられていてもよい。また、便器排水路18の溢れ縁38から第2ガイド面64までの上下寸法Lbは特に限定されない。
【0088】
(第2の工夫点に関して)
便器本体12は、壁掛け式である例を説明したが、床置き式でもよい。水洗大便器10は、洗い落し式以外の他の洗浄方式を用いて洗浄してもよい。この洗浄方式とは、たとえば、サイホン式である。
【0089】
便器本体12は第1吐水部78Aのみを有し、第2吐水部78Bを有していなくともよい。この場合でも、(A)の効果を得られる。この場合に、(A)の効果を得るうえで、第1吐水部78Aの第1吐水孔90Aは、第2吐水部78Bの第2吐水孔90Bが形成されていた箇所、つまり、便鉢部16の左側方領域16aに形成されていてもよい。この場合、第1吐水部78Aは、第1吐水孔90Aから吐き出される洗浄水により第1旋回流Fwaを形成し、その第1旋回流Fwaの少なくとも一部が誘導面98に衝突するように構成されていればよい。
【0090】
第1吐水孔90A、第2吐水孔90B、第1旋回流Fwa、第2旋回流Fwc、主流Fwe等は、実施形態での位置に対して左右で逆の位置に設けてもよい。たとえば、第1吐水部78Aは、便鉢部16内に時計回り方向に向けて第1吐水孔90Aから洗浄水を吐き出すことによって第1旋回流Fwaを形成してもよい。この場合、第1吐水部78Aは、第1吐水孔90Aから洗浄水を吐き出すことによって、便鉢部16の左右一方側となる右側方領域16bを後方に向かう第1旋回流Fwaを形成すればよい。この場合、溜水部84は、溜水部84の左右他方側となる左側立壁面84bに接触しつつ溜水部84に後方から流入する水流によって誘導流Fwfを形成するように構成されていればよい。この場合、誘導面98は、便鉢部16の左右一方側となる右側方領域16bに形成されていればよい。
【0091】
誘導面98は、平面視において、平坦面の代わりに、便鉢部16の隣接部分100がなす凹曲面より曲率半径の小さい凹曲面が構成してもよい。これによっても、誘導面98は第1旋回流Fwaが衝突可能に設けられる。
【0092】
第2吐水部78Bは、第2吐水孔90Bから吐き出される洗浄水によって、第1水流Fwbのみを形成し、第2旋回流Fwcを形成しなくともよい。
【0093】
導水路96A、96Bの形状は特に限定されるものではない。たとえば、導水路96A、96Bの底面96aや側面96cは凹曲面状をなしていなくともよいし、導水路96A、96Bは返し面96eを有していなくともよい。
【0094】
以上、本発明の実施形態や変形例について詳細に説明した。前述した実施形態や変形例は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態や変形例の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0095】
以上の実施形態、変形例により具体化される発明を一般化すると、以下の技術的思想が導かれる。以下、発明が解決しようとする課題に記載の態様を用いて説明する。
【0096】
第2態様の水洗大便器は、第1態様において、前記第1側方領域の後部に形成される第2吐水孔を有し、前記便鉢部内に前記周方向の一方側に向けて前記第2吐水孔から洗浄水を吐き出す第2吐水部を備え、前記第2吐水部は、前記第2吐水孔から吐き出された洗浄水によって、前記誘導面により誘導された前記第1旋回流と合流する第1水流を形成し、前記第1水流は、前記第1旋回流と合流することによって、前記溜水部内に後方から流入する主流を形成してもよい。
この態様によれば、便器排水路に汚物を押し込む誘導流の流量を更に増やすことができ、汚物排出能力の更なる向上を図れる。
【0097】
第3態様の水洗大便器は、第2態様において、前記第2吐水部は、前記第2吐水孔から吐き出された洗浄水によって、前記溜水部より後方にて前記汚物受け面を経由して前記便鉢部の左右他方側の第2側方領域を前方に向かう第2旋回流を形成してもよい。
この態様によれば、第2吐水部から吐き出される洗浄水によって、第1旋回流と合流する第1水流を形成しつつも、第2旋回流によって広範囲を洗浄できる。
【0098】
第4態様の水洗大便器は、第1から第3態様のいずれかにおいて、前記便鉢部は、前記第1吐水孔から吐き出された洗浄水を旋回させるように導くための導水路を有し、前記導水路は、前記便鉢部の径方向外側に延びる凹曲面状の底面と、前記底面の外周端から上方に延びる凹曲面状の側面と、前記側面の上端から前記径方向内側に延びる返し面と、を有し、前記返し面は、水平に延びる平坦面を有してもよい。
この態様によれば、導水路を流れる洗浄水が、上向きの力を大きく失うことなく、導水路の上下方向の広い範囲を伝えるようになる。
【0099】
以上の実施形態、変形例により具体化される発明を一般化すると、以下の項目に記載の発明が含まれているともいえる。
【0100】
(第1項目)
上面側部分と、前記上面側部分より下側の便鉢側部分とを接合して構成される便器本体における前記便鉢側部分の便器素地の成形方法であって、
前記便器本体は、便鉢部と、前記便鉢部の底部に接続される便器排水路と、を備え、
前記便器排水路の出口端部は、前記便器本体の後面部に後方に突き出るように設けられ、
複数の型を型合わせすることによって、前記便器素地を成形するための型空間を形成する工程を含み、
前記複数の型には、前記便器本体の後方に面する部位を成形する後型が含まれ、
前記後型は、前記便器排水路の内部空間を下流側から閉塞する閉塞部を成形し、
前記閉塞部は、前記出口端部を形成する壁部の先端面と面一に形成される便器素地の製造方法。
【符号の説明】
【0101】
10…水洗大便器、12…便器本体、16…便鉢部、16a…左側方領域(第1側方領域)、18…便器排水路、78A…第1吐水部、78B…第2吐水部、80…汚物受け面、80a…前端、84…溜水部、84b…立壁面、90A…第1吐水孔、90B…第2吐水孔、96A…導水路、96a…底面、96c…側面、96e…返し面、96f…平坦面、98…誘導面。