(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066750
(43)【公開日】2022-05-02
(54)【発明の名称】触覚センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 5/166 20200101AFI20220422BHJP
G01K 11/12 20210101ALI20220422BHJP
G01K 11/16 20210101ALI20220422BHJP
【FI】
G01L5/166
G01K11/12 B
G01K11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020175274
(22)【出願日】2020-10-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 A-STEP機能検証フェーズ「触覚センサ付きロボットハンドによる加工食品のハンドリング」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。
(71)【出願人】
【識別番号】805000018
【氏名又は名称】公益財団法人名古屋産業科学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000145471
【氏名又は名称】株式会社十川ゴム
(71)【出願人】
【識別番号】503424554
【氏名又は名称】株式会社太田廣
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大日方 五郎
(72)【発明者】
【氏名】角田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】河田 朝香
(72)【発明者】
【氏名】加藤 信彦
【テーマコード(参考)】
2F051
2F056
【Fターム(参考)】
2F051AA10
2F051AB03
2F051BA05
2F051DA03
2F051DB05
2F056VF11
2F056VF20
(57)【要約】
【課題】力学量の測定と同時に、接触対象物の温度も測定可能な触覚センサを提供する。
【解決手段】触覚センサ1は、筐体2と、筐体2の一面21から前方に突出した凸状の接触面32を含む透光性弾性材31を有し、接触面32にマーカー部33が形成された接触体3と、筐体2内に配置され、接触面32に物体が接触した際の接触面32を接触体3の後面を通して撮像する撮像素子51と、を備える。接触体3は、接触面32が物体に接触すると、接触面32が物体の温度に応じた色を呈するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体の一面から前方に突出した凸状の接触面を含む透光性弾性材を有し、前記接触面にマーカー部が形成された接触体と、
前記筐体内に配置され、前記接触面に物体が接触した際の前記接触面を前記接触体の後面を通して撮像する撮像素子と、
を備え、
前記接触体は、前記接触面が前記物体に接触すると、前記接触面が前記物体の温度に応じた色を呈するように構成されている、
触覚センサ。
【請求項2】
前記接触面は、前方に向かって突出する凸状曲面である、
請求項1記載の触覚センサ。
【請求項3】
前記透光性弾性材は、
マトリックス材料に遮光性顔料を含む遮光層と、
前記遮光層に積層され、マトリックス材料に示温性顔料を含む示温層と、
を有する、
請求項1又は請求項2記載の触覚センサ。
【請求項4】
前記示温性顔料が、ロイコ染料を内包してマイクロカプセル化した顔料、酸化バナジウム、酸化ビスマスから選ばれるいずれか1種又は2種以上の顔料である、
請求項3に記載の触覚センサ。
【請求項5】
前記マトリックス材料が、シリコーンゴム、ポリウレタン樹脂、熱可塑性エラストマから選ばれるいずれか1種又は2種以上の材料である、
請求項3又は請求項4に記載の触覚センサ。
【請求項6】
前記透光性弾性材の切断時伸びが、200%以上である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の触覚センサ。
【請求項7】
前記透光性弾性材の引張強さが、6.0MPa以上である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の触覚センサ。
【請求項8】
前記透光性弾性材のデュロメータ硬さが、A20以上A60以下である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の触覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚センサに関し、より詳細には、光学式の接触センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の触覚センサ(特許文献1では光学式触覚センサ)が記載されている。特許文献1記載の光学式触覚センサは、凸状曲面状にマーカー部が形成された触覚部と、触覚部の後面を撮像する撮像手段と、を備える。撮像手段は、触覚部に物体が接触し、触覚部が変形した際の触覚部の後面を撮像することで、マーカー部の挙動を画像情報(画像データ)に変換することができる。
【0003】
マーカー部の画像情報は、制御部に取り込まれる。制御部は、取得した画像情報に対して画像処理を実行することで、触覚部に生じた摩擦係数、法線力、接線力及びトルクを測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1記載の光学式触覚センサは、ロボットハンドに設置することで、測定した摩擦係数、法線力、接線力及びトルクに基づいてフィードバック制御を実行し、ロボットハンドによる把持力を適切な力とすることができる。これにより、できる限り人に近い触覚機能を持つロボットハンドを実現しようとするものである。
【0006】
しかしながら、人は物体を把持する際、物体の温度を感じているため、人の触覚機能に匹敵する触覚センサを実現するには情報量が不足している。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、力学量の測定と同時に、接触対象物の温度も測定可能な触覚センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の触覚センサは、筐体と、前記筐体の一面から前方に突出した凸状の接触面を含む透光性弾性材を有し、前記接触面にマーカー部が形成された接触体と、前記筐体内に配置され、前記接触面に物体が接触した際の前記接触面を前記接触体の後面を通して撮像する撮像素子と、を備え、前記接触体は、前記接触面が前記物体に接触すると、前記接触面が前記物体の温度に応じた色を呈するように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る上記態様の触覚センサは、力学量の測定と同時に、接触対象物の温度も測定可能な触覚センサを提供することができる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る触覚センサの概略構成図である。
【
図2】
図2(A)は、同上の触覚センサの接触体の斜視図である。
図2(B)は、接触体の平面図である。
図2(C)は、
図2(B)のX1-X1線断面図である。
【
図3】
図3は、同上の触覚センサと制御装置とのブロック図である。
【
図4】
図4(A)は、撮像素子によって撮像された接触面の画像を示す図である。
図4(B)は、接触面に接触対象物が接触した際の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
(1)全体構成
本実施形態に係る触覚センサ1は、光学式の触覚センサ1である。触覚センサ1は、物体(「接触対象物」という場合がある)に接触した際に生じる力学量と、物体の温度とを、電気信号に変換することができる。したがって、本実施形態に係る触覚センサ1を用いることで、物体に接触した際に生じる力学量と物体の温度とを同時に測定することができる。
【0012】
ここで、本明細書にいう「力学量」とは、せん断力、法線力、接線力、摩擦係数及びトルクのうちの少なくとも一つを意味する。本実施形態に係る触覚センサ1は、力学量として、せん断力、法線力、接線力、摩擦係数及びトルクの全てを測定することができる。また、本明細書にいう「法線力」とは、触覚センサ1によって物体を押した際、当該物体の接触面32に対して直交する方向に作用する力を意味する。また、本明細書にいう「接線力」とは、触覚センサ1によって物体を押した際、当該物体の接触面32に対して平行に作用する力を意味する。
【0013】
本実施形態に係る触覚センサ1によれば、物体に接触した際に生じる力学量と同時に、物体の温度を測定することができるため、触覚センサ1をロボットハンドの手指に設置することで、例えば、次のような用途に適切に使用することができる。
【0014】
例えば、冷凍食品をハンドリングするロボットハンドに用いられる。これによれば、触覚センサ1による電気信号を用いて、フィードバック制御を行うことで、ロボットハンドが冷凍食品に対して適切な力で把持できるように制御される。その際、冷凍食品の温度をハンドリング中に測定することができる。このため、製造ラインでの特定の時間(場所)における温度を管理することができ、この結果、製造ラインでの冷凍食品の温度を測定する工程を設ける必要がないため、タクトタイムの短縮を図ることができる。
【0015】
ロボットハンドの把持対象物(接触対象物)としては、冷凍食品に限らず、例えば、適切な力で把持する必要があり、かつ温度を測定する必要がある物体であれば、特に制限はない。把持対象物としては、食品のほか、例えば、工業製品、食器、織物、布製品、紙製品等が挙げられる。また、触覚センサ1としては、ロボットハンドに限らず、例えば、製造装置、自動車、航空機、搬送機等に用いられてもよい。
【0016】
触覚センサ1は、
図1に示すように、筐体2と、接触体3と、ハーフミラー6と、撮像素子51を有するカメラ5と、発光体4とを備える。触覚センサ1は、接触対象物に接触することで生じた電気信号を制御装置7に出力する。触覚センサ1と制御装置7とで、センシングシステムを構成する。センシングシステムによって、上述の通り、例えばロボットハンドを制御することができる。
【0017】
(2)筐体
筐体2は、接触体3の一部、ハーフミラー6、発光体4及びカメラ5を収める中空体である。筐体2は、本実施形態では、直方体状の箱体であるが、本発明では、形状には特に制限はない。筐体2としては、例えば、円筒状、角筒状、球状等であってもよい。ロボットハンドに対して触覚センサ1を設置する場合、筐体2は手指の形状に形成されてもよい。
【0018】
筐体2の一面21には、接触体3が設けられている。ここでは、筐体2において、接触体3が設けられた一面21に直交する方向を「前後方向」として定義し、前後方向において、一面21の反対側の面から当該一面21に向かう方向を「前方向」とし、その反対方向を「後ろ方向」として定義する。また、前後方向に直交し、かつ筐体2の長手方向に沿う方向を「左右方向」として定義する。ただし、これらの方向の定義は、説明の便宜上、定義するに過ぎず、触覚センサ1の使用用途を特定する趣旨ではない。
【0019】
筐体2は、遮光性を有しており、筐体2の外部から筐体2の内部に向かう光を遮断する。筐体2の材料としては、特に制限はなく、例えば、合成樹脂、金属、木、紙、カーボン、布等が挙げられる。本実施形態に係る筐体2は、黒色のABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂で構成されている。
【0020】
本実施形態に係る筐体2は、接触体3、ハーフミラー6、発光体4及びカメラ5を収容し、制御装置7については収容していないが、筐体2の内部に制御装置7を配置してもよい。
【0021】
(3)接触体
接触体3は、触覚センサ1において、接触対象物に接触する部分をもつ部材である。接触体3は、接触対象物に接触した結果、接触対象物に接触した部分が、変形すると共に接触対象物の温度に応じた色を呈する。接触体3は、
図2(A)に示すように、接触面32を有する透光性弾性材31と、接触体3の後面を構成する押さえ板37と、を備える。
【0022】
透光性弾性材31は、一定量以上の光量を通す弾性材であり、筐体2の一面21から前方に突出した凸状の接触面32を有する。透光性弾性材31は、
図2(A)に示すように、半球状に形成されており、したがって、接触面32は凸状曲面によって構成されている。接触面32に対して接触対象物が接触することで、接触面32は、弾性変形し、かつ接触対象物の温度に応じた色を呈する。
【0023】
透光性弾性材31は、本実施形態では半球状に形成されているが、本発明では、半球状に限らず、筐体2の一面21から突出していれば、例えば、円柱状、角柱状、シート状等に形成されてもよい。また、接触面32は、球面に限らず、緩やかな曲面や平面であってもよい。
【0024】
接触面32には、マーカー部33が形成されている。マーカー部33は、接触面32に形成された印である。マーカー部33は、接触対象物が接触面32に接触すると、接触面32の変形に従って変形する。マーカー部33としては、例えば、格子状、ドット状、ストライプ状等が挙げられる。本実施形態では、マーカー部33として、
図2(B)に示すような格子状(グリッドパターン)が採用されている。
【0025】
マーカー部33は、接触面32に対して、例えば、溝、突条、突起、窪み、切り込み、印刷、塗布、色紙を貼着すること等により形成される。マーカー部33は、接触面32上に形成されてもよいし、接触面32のすぐ下に埋められてもよい。したがって、本明細書でいう「接触面32にマーカー部33が形成される」とは、接触面32の変形に伴ってマーカー部33が変形するような態様で、接触面32にマーカー部33があることを意味する。
【0026】
透光性弾性材31は、マトリックス材料と、遮光性顔料と、示温性顔料とを含むエラストマ(「示温エラストマ」という場合がある)によって構成されており、接触した接触対象物の温度に応じた色を呈する。透光性弾性材31としては、マトリックス材料に対して、遮光性顔料と示温性顔料とを含んだ一層構造で構成されてもよいが、本実施形態では、
図2(C)に示すように、遮光層34と、示温層35と、を含む多層構造で構成されている。
【0027】
ここで、透光性弾性材31において、遮光性顔料の濃度が大き過ぎると、接触対象物の温度に応じた色の変化が分かりにくくなる一方、遮光性顔料の濃度が小さ過ぎると、接触対象物の色の影響を受けやすくなる傾向にある。透光性弾性材31を遮光性顔料と示温性顔料とを含んだ一層構造とする場合、部分的に濃度の偏りが生じやすくなるが、2層構造にすると、遮光性顔料の濃度の部分的な偏りが抑制できるというメリットがある。
【0028】
遮光層34は、一定の遮光性を有する層であり、示温層35の色及びマーカー部33をカメラ5で撮像する際に、外部から透光性弾性材31を通る光を抑制する。これによって、カメラ5による撮像した画像に対して画像処理を行う際に、画像認識の精度を高くすることができる。
【0029】
遮光層34は、マトリックス材料に遮光性顔料を混ぜることで構成されている。マトリックス材料としては、シリコーンゴム、ポリウレタン樹脂、熱可塑性エラストマから選ばれるいずれか1種又は2種以上の材料で構成されている。熱可塑性エラストマとしては、例えば、スチレン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ハロゲン系が挙げられる。遮光性顔料は、無機顔料が使用できる。また、色調によっては、有機顔料を混合してもよい。無機顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタンから選ばれるいずれか1種又は2種以上の顔料が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシニアン系から選ばれるいずれか1種又は2種以上の顔料が挙げられる。
【0030】
遮光層34の色は、透光性弾性材31のベースの色となる。遮光層34の色としては、示温層35が呈する色と区別できる色に設定することが好ましい。また、本実施形態に係る遮光層34には、マーカー部33が形成されているが、透光性弾性材31を後面から撮像することから、遮光層34は、マーカー部33の変形の態様を識別可能な色味である必要がある。
【0031】
示温層35は、接触面32に対して接触対象物が接触すると、接触対象物の温度に応じた色を呈する層である。示温層35は、遮光層34に対し、厚さ方向の内側(前後方向の後面側)に積層されている。示温層35と遮光層34とは、別々にシート状に形成した後、互いに重ねるようにして構成されてもよいし、示温層35と遮光層34とのうちの一方を形成し、それに重ねるように他方を形成してもよいし、一方を形成した後、他方をコーティングしたり、塗装したりしてもよい。また、透明な基材の一面に示温層35をコーティングし、他面に遮光層34をコーティングして積層してもよい。
【0032】
示温層35は、マトリックス材料に、熱によって変色する感熱変色性色素成分を含んで構成されている。マトリックス材料としては、シリコーンゴム、ポリウレタン樹脂、熱可塑性エラストマから選ばれるいずれか1種又は2種以上の材料で構成されている。示温層35のマトリックス材料は、遮光層34のマトリックス材料と同じであってもよいし、異なる材料で構成されてもよい。
【0033】
感熱変色性色素成分は、ロイコ染料を内包してマイクロカプセル化した顔料、酸化バナジウム、酸化ビスマスから選ばれるいずれか1種又は2種以上の成分が挙げられる。この中でもロイコ染料を内包してマイクロカプセル化した顔料が好ましい。ロイコ染料としては、例えば、ラクトン環化合物、顕色剤、及び感熱温度で溶融する減感剤の組み合わせが挙げられる。示温層35は、所定温度以下の場合、マイクロカプセル内で顕色剤が酸として働き、ラクトン環化合物を開環してカルボン酸体へ構造変化することで発色する。一方、示温層35の温度が上昇すると、減感剤が溶融することにより、減感剤に含まれる塩基成分が顕色剤と結合することで、閉環してラクトン環に戻ることで、示温層35の色が消えてゆく(透明度が増してゆく)。
【0034】
ラクトン環化合物としては、例えば、クリスタルバイオレットラクトン、スピロラクトン類等から選ばれる1種又は2種以上の顔料が挙げられる。この中でも、クリスタルバイオレットラクトンが好ましい。顕色剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、モノフェノール類、ジフェノール類、トリフェノール類等のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。減感剤としては、例えば、高級炭化水素類、脂肪族系高級アルコール類、脂肪族系高級脂肪酸類、脂肪族系高級脂肪酸エステル類等が挙げられる。減感剤に含まれる塩基成分としては、例えば、高級脂肪酸、第4級アンモニウムの塩等が挙げられる。
【0035】
透光性弾性材31は、
図2(C)に示すように、遮光層34と示温層35とで形成された半球体の内部にある中心層36を有する。中心層36としては、例えば、シリコーンゴム等の弾性体、一定の粘性を有するジェル、空気層等が挙げられる。中心層36は、示温層35の色及びマーカー部33を撮像するために、透光性を有する必要がある。ここでは、透明であることが好ましい。
【0036】
透光性弾性材31は、接触対象物に接触して変形し、接触対象物が離れると弾性的に復元する。このため、次のような物性値を有することが好ましい。
【0037】
JIS K 6251に準拠した切断時伸びが、200%以上が好ましく、より好ましくは300%以上である。切断時伸びが200%未満であると、触覚センサ1として必要な疲労に対する耐久性が得られない可能性がある。
【0038】
JIS K 6251に準拠した引張り強さが、6.0MPa以上であることが好ましく、より好ましくは8.0MPa以上である。引張り強さが6.0MPa未満であると、触覚センサ1として必要な強度が得られない可能性がある。
【0039】
JIS K 6253-2に準拠したデュロメータ硬さ(タイプA)が、A20以上A60以下であることが好ましく、より好ましくはA30以上A50以下である。デュロメータ硬さがA20未満又はA60超であると、触覚センサ1として必要な柔軟性が得られない可能性がある。
【0040】
押さえ板37は、透光性弾性材31の後面に取り付けられ、接触体3の後面を構成する。押さえ板37は、透光性弾性材31よりも硬い。押さえ板37に対する透光性弾性材31の取付けは、例えば、接着、圧着、溶着等により実現される。押さえ板37は、透明板により構成されている。押さえ板37としては、例えば、アクリル板、ガラス板、ポリカーボネート板等が挙げられる。押さえ板37が筐体2に対して固定されることで、接触体3は、接触面32が筐体2の一面21から突き出すようにして、筐体2に対して取り付けられる。
【0041】
(4)発光体
発光体4は、筐体2の内部に配置されており、発光することで筐体2の内部を照らす。発光体4から光が放射されることで、カメラ5は、接触体3の示温層35の色と、マーカー部33の変化の態様を撮像することができる。
【0042】
発光体4は、例えば、白色LEDランプにより構成されるが、LEDランプに特に制限されない。また、発光体4は、本実施形態では、筐体2の後面に沿って配置されているが、光が必要な部位の明るさに応じて、配置位置を適宜変更することができる。
【0043】
本実施形態に係る発光体4は、平板状に形成されているが、例えば、棒状であってもよいし、リング状であってもよい。
【0044】
(5)カメラ
カメラ5は、撮像素子51を有している。撮像素子51は、接触体3の後面を通して、接触面32を撮像する。接触面32に物体が接触した際の接触面32を撮像することで、透光性弾性材31の色とマーカー部33の態様とを撮像し、電気信号に変換することができる。撮像素子51としては、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、CCD(Charge Coupled Device)等が挙げられる。
【0045】
カメラ5は、筐体2内に配置される。カメラ5は、接触体3において、接触面32よりも後方側に配置されている。カメラ5は、接触体3に接触対象物が接触した際のマーカー部33の挙動(変位、歪み)を撮像するため、カメラ5の焦点は、マーカー部33に合っている。
【0046】
カメラ5は、
図1に示すように、ハーフミラー6を介して、接触面32を撮像する。カメラ5は、カメラ5とハーフミラー6との間の光軸L1と、ハーフミラー6と接触体3との間の光軸L2とが直交するように配置される。ただし、本発明では、カメラ5は、光軸が直線状となるように、接触体3の後方に配置されてもよい。
【0047】
(6)制御装置
制御装置7は、撮像素子51からの電気信号を受け取り、制御対象物である、例えばロボットハンドを制御する制御部を有する。制御装置7は、
図3に示すように、CPU71と、ROM72と、RAM73と、入出力ポート74と、を備える。CPU71には、ROM72、RAM73及び入出力ポート74が接続されている。
【0048】
CPU71は、センシングシステム全体を制御するための各種処理を実行し、その処理結果を制御信号として出力する。ROM72には、センシングシステムを制御するための制御プログラムなどが記憶されている。RAM73には、センシングシステムの動作に必要な各種の情報が一時的に記憶される。入出力ポート74には、カメラ5及び発光体4が接続されている。
【0049】
CPU71には、撮像素子51によって、マーカー部33の挙動及び接触面32の色を撮像することで生成された電気信号が、入出力ポート74を介して入力される。この電気信号は、画像データを含む。CPU71は、発光体4を点灯させるための電気信号を、入出力ポート74を介して、発光体4に出力する。
【0050】
CPU71には、一定時間ごと(例えば、33msごと)に撮像された画像データが入力される。変形前の接触体3のマーカー部33についての画像データがCPU71に入力されると、CPU71は画像処理を行い、基準となるマーカー部33の模様を認識する。ここでは、
図4(A)に示すように、CPU71は、マーカー部33を格子状の模様として認識する。
【0051】
なお、一定時間ごとに取得した画像データは、RAM73の記憶領域に一定期間記憶されるが、古いものから順次消去される。画像処理を実行するソフトウェアとしては、特に制限はなく、例えば、HALCON(MVTec社製)が用いられる。
【0052】
接触体3の接触面32に対して接触対象物が接触し、接触面32が変形すると、変形後の画像データがCPU71に入力される。CPU71は、入力された変形後の画像データから、接触領域T1を判定し、接触領域T1のうち、固着領域T11と滑り領域T12とを判定する(
図4(B)参照)。
【0053】
ここでいう「接触領域T1」とは、接触面32のうち接触対象物が接触した領域を意味する。接触面32に対して接触対象物が接触した状態を撮像素子51によって撮像した画像(
図4(B))では、マーカー部33が、格子状の模様として認識されると共に接触対象物が接触した部分が、非接触の部分に対して、明度が異なって見える(具体的には、接触部分が、非接触部分よりも明度が高い)。したがって、CPU71は、画像データのマーカー部33において、接触領域T1を抽出することができる。しかも、本実施形態に係る触覚センサ1では、発光体4が白色光を放射するため、接触領域T1と非接触領域T1との明度の差が明確にわかる。これにより、CPU71は、接触領域T1をより正確に判断することができる。特に、本実施形態では、接触体3が接触対象物の温度に応じた色を呈するため、接触対象物が接触した部分は温度が変化する。このため、接触領域T1の抽出精度が向上する。
【0054】
「固着領域T11」とは、画像データのうち、接触面32に対して接触対象物が接触した状態で、マーカー部33が動かない領域を意味する。また、「滑り領域T12」とは、接触面32に接触対象物が接触した状態でマーカー部33が動き得る領域を意味する。
【0055】
CPU71は、接触領域T1、固着領域T11、滑り領域T12を判定すると、せん断力、法線力、接線力、摩擦係数及びトルクを割り出すことができる。これらの力学量を割り出す具体的な方法は、既知の技術(例えば、特開2005-257343号公報に記載)を利用することができるため、ここでは説明を省略する。
【0056】
CPU71は、画像データから接触面32の色から、接触対象物の温度を割り出すことができる。CPU71は、接触面32の色からRGB値を抽出する。ROM72には、RGB値と、接触対象物の温度を、が関連付けられて記憶されている。CPU71は、RGB値を参照し、ROM72から接触対象物の温度を読み出すことができる。
【0057】
制御装置7は、せん断力、法線力、接線力、摩擦係数、トルク及び接触対象物の温度を割り出すと、これに基づいて、図示しないアクチュエータ(例えば、ロボットハンド)を制御するための制御信号を出力することができる。
【0058】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0059】
上記実施形態に係る触覚センサ1では、接触体3の後面が押さえ板37によって構成されたが、本発明では、押さえ板37はなくてもよい。
【0060】
上記実施形態に係る接触センサでは、接触面32が凸状曲面で構成されたが、接触面32が平面状であっても、少なくともせん断力は測定可能である。したがって、本発明に係る接触センサでは、力学量として、せん断力、法線力、接線力、摩擦係数及びトルクのうちの少なくとも一つが測定できればよい。
【0061】
上記実施形態に係る接触センサは、ハーフミラー6を有したが、本発明では、ハーフミラー6は設けられなくてもよい。また、ハーフミラー6は、ミラーであってもよい。
【0062】
上記実施形態に係る接触センサでは、接触体3の接触面32が突出する筐体2の一面21は平面であったが、一面21は、曲面であってもよく、平面でなくてもよい。
【0063】
上記実施形態に係る接触体3は、示温層35と遮光層34とが積層されていたが、本発明では、一のマトリックス材料に、示温性顔料と遮光性顔料とが含有されていてもよい。
【0064】
<まとめ>
以上説明したように、第1の態様に係る触覚センサ1は、筐体2と、筐体2の一面21から前方に突出した凸状の接触面32を含む透光性弾性材31を有し、接触面32にマーカー部33が形成された接触体3と、筐体2内に配置され、接触面32に物体が接触した際の接触面32を接触体3の後面を通して撮像する撮像素子51と、を備える。接触体3は、接触面32が物体に接触すると、接触面32が物体の温度に応じた色を呈するように構成されている。
【0065】
この態様によれば、物体に接触した際に生じる力学量と物体の温度とを同時に測定可能な触覚センサ1を提供することができる。
【0066】
第2の態様に係る触覚センサ1では、第1の態様において、接触面32は、前方に向かって突出する凸状曲面である。
【0067】
この態様によれば、物体の温度と同時に、物体に接触した際に生じる、せん断力、法線力、接線力、摩擦係数及びトルクを測定可能なセンサを提供することができる。
【0068】
第3の態様に係る触覚センサ1では、第1又は第2の態様において、透光性弾性材31は、マトリックス材料に遮光性顔料を含む遮光層34と、遮光層34に積層され、マトリックス材料に示温性顔料を含む示温層35と、を有する。
【0069】
この態様によれば、遮光性顔料の濃度の部分的な偏りが抑制できる。この結果、物体に接触した際に、透光性弾性材31の色の変化が画像処理によって認識しやすく、触覚センサ1により測定される物体の温度の精度を向上することができる。
【0070】
第4の態様に係る触覚センサ1では、第3の態様において、遮光性顔料が、無機顔料、又は無機顔料に有機顔料を混合したものである。無機顔料は、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタンから選ばれるいずれか1種又は2種以上の顔料である、有機顔料は、アゾ系、フタロシニアン系から選ばれるいずれか1種又は2種以上の顔料である。
【0071】
この態様によれば、画像処理によって、示温層35の色を適切に認識可能な信号を出力する触覚センサ1とすることができる。
【0072】
第5の態様に係る触覚センサ1では、第3又は請求項4の態様において、示温性顔料が、ロイコ染料を内包してマイクロカプセル化した顔料、酸化バナジウム、酸化ビスマスから選ばれるいずれか1種又は2種以上の顔料である。
【0073】
この態様によれば、示温層35が物体の温度に応じて適切に色を変えることができるため、画像処理によって、示温層35の色を適切に認識可能な信号を出力する触覚センサ1とすることができる。
【0074】
第6の態様に係る触覚センサ1では、第3~5のいずれか1つの態様において、マトリックス材料が、シリコーンゴム、ポリウレタン樹脂、熱可塑性エラストマから選ばれるいずれか1種又は2種以上の材料である。
【0075】
この態様によれば、力学量を測定するに当たり、適切な弾性変形が可能な接触体3を構成することができる。
【0076】
第7の態様に係る触覚センサ1では、第1~6のいずれか1つの態様において、透光性弾性材31の切断時伸びが、200%以上である。
【0077】
この態様によれば、物体に接触した際に、物体の温度に応じた色を呈しながらも、変形に耐え得る接触体3をもつ触覚センサ1を提供することができる。
【0078】
第8の態様に係る触覚センサ1では、第1~7のいずれか1つの態様において、透光性弾性材31の引張強さが、6.0MPa以上である。
【0079】
この態様によれば、物体の温度に応じた色を呈しながらも、変形に耐え得る接触体3をもつ触覚センサ1を提供することができる。
【0080】
第9の態様に係る触覚センサ1では、第1~8のいずれか1つの態様において、透光性弾性材31のデュロメータ硬さが、A20以上A60以下である。
【0081】
この態様によれば、物体の温度に応じた色を呈しながらも、変形に耐え得る接触体3をもつ触覚センサ1を提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 触覚センサ
2 筐体
21 一面
3 接触体
31 透光性弾性材
32 接触面
33 マーカー部
34 遮光層
35 示温層
51 撮像素子