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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067043
(43)【公開日】2022-05-02
(54)【発明の名称】サルコペニアの改善用の組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/07 20060101AFI20220422BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220422BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220422BHJP
【FI】
A61K36/07
A61P21/00
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084633
(22)【出願日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】109136177
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】519298765
【氏名又は名称】葡萄王生技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 勁初
(72)【発明者】
【氏名】李 宜蓁
(72)【発明者】
【氏名】李 宗儒
(72)【発明者】
【氏名】呂 庭宇
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲彦▼博
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD82
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF13
4C088AA02
4C088BA05
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA25
4C088MA44
4C088MA52
4C088MA55
4C088NA14
4C088ZA94
4C088ZC52
(57)【要約】
【課題】サルコペニアの改善用の組成物を提供する。
【解決手段】有効成分としてメシマコブ(Phellinus linteus)の発酵抽出物及び/又はその誘導体を含み、且つメシマコブが例えば、受託番号がNITE BP-03321及びBCRC 930210の菌株であってよいサルコペニアの改善用の組成物である。上記組成物により、筋管直径、筋肉量及び筋肉持久性を維持して、サルコペニアを改善することができる。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてメシマコブの発酵抽出物及び/又はその誘導体を含み、前記メシマコブは2020年11月12日に日本独立行政法人 製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)特許生物寄託センター(International Patent Organism Depositary;IPOD)に寄託され、受託番号がNITE BP-03321であり、且つ2019年7月18日に台湾財団法人食品産業開発研究所バイオリソースセンター(BCRC)に寄託され、且つ前記メシマコブの受託番号がBCRC 930210であるサルコペニアの改善用の組成物。
【請求項2】
前記発酵抽出物は、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物を含み、且つ前記誘導体は、発酵水抽出乾燥物、発酵水抽出濃縮物、発酵アルコール抽出乾燥物、発酵アルコール抽出濃縮物及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる請求項1に記載のサルコペニアの改善用の組成物。
【請求項3】
前記発酵水抽出物の動物の筋細胞に対する有効投与量は、5μg/mL~15μg/mLである請求項2に記載のサルコペニアの改善用の組成物。
【請求項4】
前記発酵アルコール抽出物の動物の筋細胞に対する有効投与量は、0.5μg/mL~1.5μg/mLである請求項2に記載のサルコペニアの改善用の組成物。
【請求項5】
前記組成物がマウスに投与される場合、前記有効成分の有効投与量は、400mg/kg.体重(body weight;bw)/日間~600mg/kg.bw/日間である請求項1に記載のサルコペニアの改善用の組成物。
【請求項6】
前記組成物が人体に投与される場合、前記有効成分の有効投与量は、2300mg/60kg.bw/日間~2500mg/60kg.bw/日間である請求項1に記載のサルコペニアの改善用の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、医薬組成物又は食品組成物であり、且つ食品又は薬学的に受容可能な担体、賦形剤、希釈剤、補助剤、防腐剤、充填剤及び/又は添加剤を含む請求項1に記載のサルコペニアの改善用の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サルコペニアの改善用の組成物に関し、特に、有効成分としてメシマコブの発酵抽出物及び/又はその誘導体を含むサルコペニアの改善用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サルコペニアは、老年期に入った後によく見られる疾患の1つである。サルコペニアの特徴としては、全身の骨格筋の重量及び機能の継続的な減少を含み、サルコペニアが持続的に悪化すると、患者の活動性及び生活の質を低下させるだけでなく、更に、他の疾患、障害、転倒の発生率を向上させ、ひいては死亡を引き起こす可能性がある。
【0003】
サルコペニアの原因には、運動神経の変性、栄養素の不均衡、タンパク質合成の低下、慢性疾患及び/又は炎症などが含まれる。現在、サルコペニアが薬物によって制御されることができないため、サルコペニアを遅らせたり改善したりするために、運動、慢性疾患や炎症症状の制御、特定の栄養素の補給が必要である。
【0004】
メシマコブ(Phellinus linteus)は、「桑耳」、「桑臣」とも呼ばれ、タバコウロコタケ(Hymenochaetaceae)科のメシマコブ属の薬用真菌である。メシマコブは、木の幹、特にクワ属(Morus spp)植物の幹に寄生する。メシマコブは、毒性が低いが、例えば、抗酸化、抗炎症、免疫増強、抗がん、肝臓保護、抗認知症、心血管疾患予防、抗アレルギー(アレルギー性鼻炎、湿疹、関節リウマチ)、睡眠の質の向上、鎮痛(月経痛等)、尿酸抑制、スキンケア等の多くの効果がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、サルコペニアの改善に効果的な方法も、メシマコブのサルコペニアに対する改善効果についての研究もなく、現在の要求に対応することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明の一態様は、筋管直径、筋肉量及び筋肉持久性を維持するように、サルコペニアの改善用の組成物を提供する。
【0007】
本発明の上記の態様によれば、有効成分としてメシマコブ(Phellinus linteus)の発酵抽出物及び/又はその誘導体を含み、前記メシマコブは例えば、2020年11月12日に日本独立行政法人 製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)特許生物寄託センター(International Patent Organism Depositary;IPOD)に寄託され、受託番号がNITE BP-03321であり、別に2019年7月18日に台湾新竹食品路331号の財団法人食品産業開発研究所バイオリソースセンター(BCRC)に寄託され、且つ受託番号がBCRC 930210であるサルコペニアの改善用の組成物を提供する。
【0008】
本発明の上記の実施例によれば、発酵抽出物は、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物を含み、且つ誘導体は、例えば、発酵水抽出乾燥物、発酵水抽出濃縮物、発酵アルコール抽出乾燥物、発酵アルコール抽出濃縮物及び上記の任意の組み合わせからなる群から選ばれる。
【0009】
本発明の上記の実施例によれば、発酵水抽出物の動物の筋細胞に対する有効投与量は、例えば、5μg/mL~15μg/mLであってよい。
【0010】
本発明の上記の実施例によれば、発酵アルコール抽出物の動物の筋細胞に対する有効投与量は、例えば、0.5μg/mL~1.5μg/mLであってよい。
【0011】
本発明の上記の実施例によれば、組成物がマウスに投与される場合、有効成分の有効投与量は、例えば、400mg/kg.体重(body weight、bw)/日間~600mg/kg.bw/日間であってよい。
【0012】
本発明の上記の実施例によれば、組成物が人体に投与される場合、有効成分の有効投与量は、例えば、2300mg/60kg.bw/日間~2500mg/60kg.bw/日間であってよい。
【0013】
本発明の上記の実施例によれば、組成物は、例えば、医薬組成物又は食品組成物であってよく、且つ食品又は薬学的に受容可能な担体、賦形剤、希釈剤、補助剤、防腐剤、充填剤及び/又は添加剤を含んでよいが、それらに限定されない。
【発明の効果】
【0014】
本発明のサルコペニアの改善用の組成物の適用において、この組成物は、有効成分としてメシマコブの発酵抽出物及び/又はその誘導体を含み、筋管直径、筋肉量及び筋肉持久性を維持して、サルコペニアを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
下記添付図面についての説明は、本発明の上記及び他の目的、特徴、メリットと実施例をより分かりやすくするためのものである。
【0016】
図1A】本発明による実施例に係る発酵抽出物及びデキサメタゾンを含む又は含まない培地で培養したマウス骨格筋細胞を示す組織染色顕微鏡写真である。
図1B】本発明による実施例に係る発酵抽出物及びデキサメタゾンを含む又は含まない培地で培養したマウス骨格筋細胞を示す組織染色顕微鏡写真である。
図1C】本発明による実施例に係る発酵抽出物及びデキサメタゾンを含む又は含まない培地で培養したマウス骨格筋細胞を示す組織染色顕微鏡写真である。
図1D】本発明による実施例に係る発酵抽出物及びデキサメタゾンを含む又は含まない培地で培養したマウス骨格筋細胞を示す組織染色顕微鏡写真である。
図1E】本発明による実施例に係る発酵抽出物及びデキサメタゾンを含む又は含まない培地で培養したマウス骨格筋細胞を示す組織染色顕微鏡写真である。
図1F】本発明による実施例に係る発酵抽出物及びデキサメタゾンを含む又は含まない培地で培養したマウス骨格筋細胞を示す組織染色顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記のように、本発明は、有効成分としてメシマコブ(Phellinus linteus)の発酵抽出物及び/又はその誘導体を含んでよいサルコペニアの改善用の組成物を提供する。
【0018】
上記メシマコブは、例えば、2020年11月12日に日本独立行政法人 製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)特許生物寄託センター(International Patent Organism Depositary;IPOD)に寄託されてよく、受託番号がNITE BP-03321である。また、前記メシマコブは、菌糸体として、2019年7月18日に台湾新竹食品路331号の財団法人食品産業開発研究所バイオリソースセンター(BCRC)に寄託され、受託番号がBCRC 930210の菌株である。
【0019】
上記メシマコブ菌糸体は、多段階培養工程を経た後、メシマコブの発酵物が得られる。メシマコブは異なる成長又は分化段階で異なる培養条件(栄養成分及び環境要因を含む)を要求するため、多段階培養工程により、メシマコブの各成長段階での培養条件を調節して、多くの生物量及び/又は特定の有効成分を得ることができる。
【0020】
一実施例において、多段階培養工程は、固体培養工程、液体培養工程及び発酵培養工程を含んでよい。詳しくは、固体培養工程として、例えば、固体培地によってメシマコブの上記菌糸体(又は第1の菌糸体とも呼ばれ)を培養して、第2の菌糸体を得ることができる。上記固体培地は、炭素源、窒素源及びメシマコブの成長に必要な他の栄養物質を含んでよい。一実施例において、固体培地は、例えば、ポテトデキストロース寒天培地(potato dextrose agar;PDA)であってよい。一実施例において、固体培養工程としては、例えば、15℃~30℃で1週間~2週間培養してよい。
【0021】
上記液体培養工程としては、例えば、第1の培養液により第2の菌糸体に対して液体培養工程を行って、第3の菌糸体を得てよく、第1の培養液のペーハー値は、例えば、pH2~pH6であってよく、且つ第1の培養液は、1重量%~3重量%の包括的な炭素・窒素源(例えば、穀物及び/又は豆類)、1重量%~4重量%の糖類(例えば、単糖及び/又は二糖)、0.1重量%~1重量%の酵母抽出物、0.1重量%~1重量%のペプトン及び0.01重量%~0.05重量%の無機塩類(例えば、リン酸塩及び/又は硫酸塩)を含んでよい。前記第1の培養液の成分を使用要求に応じて適切に調整してよいことは理解されたい。一実施例において、第1の培養液を、例えば、15℃~30℃で110rpm~130rpmの回転速度で3日間~14日間培養してよい。
【0022】
上記発酵培養工程としては、例えば、15℃~30℃で第2の培養液により第3の菌糸体に対して発酵培養工程を3日間~21日間行って、発酵物を得ることができ、第2の培養液の成分は、例えば、第1の培地と同じ、又はその成分を使用要求に応じて適切に調整してよく、且つ第2の培養液のpH値は、例えば、2~6であってよい。
【0023】
上記発酵培養工程は、発酵槽で行われる。一実施例において、発酵培養工程を行う時に、例えば、空気、酸素、二酸化炭素、ヘリウム及び上記の任意の組み合わせからなる群から選ばれてよい気体を発酵槽に対して導入する。一実施例において、槽の圧力は、例えば、0.5kg/cm~1.0kg/cmであってよい。一実施例において、通気速度は、例えば、0.01(導入気体体積/発酵液体積/分間、VVM)~1.5VVMであってよい。他の実施例において、発酵培養工程の回転速度は、50rpm~150rpmである。
【0024】
次に、上記発酵物に対して抽出工程を行って、発酵抽出物を得る。抽出工程を、従来の抽出方法によって行ってよい。一実施例において、極性溶媒により発酵物に対して溶媒抽出工程を行い、極性溶媒が水及び/又は低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等)を含む。注意すべきなのは、後の適用の要求を考慮すると、それぞれ水又はエタノールによって水抽出工程又はエタノール抽出工程を行って、発酵水抽出物又は発酵アルコール抽出物を得ることが好ましい。
【0025】
一実施例において、上記水抽出工程は、選択的に沸騰水(例えば、90℃~100℃で)により熱水抽出処理を行ってよい。別の実施例において、上記エタノール抽出工程は、選択的に超音波振動処理と組み合わせて、室温(例えば、10℃~40℃)で例えば、500W~700W、30kHz~50kHzの超音波によって行ってよい。上記抽出工程の時間は限りがない。一実施例において、熱水抽出処理は、20分間~40分間行われる。別の実施例において、多くの有効成分を得るように、超音波振動処理と組み合わせる上記エタノール抽出工程は40分間~80分間行われる。
【0026】
上記実施例において、極性溶媒と発酵物との重量の比は特に限定されなく、例えば、10倍~30倍であってよいが、ここに列挙されたものに限定されない。
【0027】
一実施例において、多段階培養工程及び抽出工程の間に、再加工処理を含んでよいが、これに限定されなく、再加工処理は、後の抽出工程を容易にするように、乾燥工程及び/又は濃縮工程を含んでよい。
【0028】
上記乾燥工程は、例えば、凍結乾燥法、真空乾燥法又は噴霧乾燥法のような従来の乾燥方法によって行われてよい。一実施例において、発酵物に対して乾燥工程を行って、発酵乾燥物を得る。
【0029】
上記濃縮工程は、例えば、減圧濃縮、蒸発濃縮法又は膜濃縮法のような従来の濃縮方法によって行われてよい。
【0030】
一実施例において、抽出工程の後で、発酵抽出物の誘導体を得るように、上記再加工処理を含んでよいが、これに限定されない。前記誘導体は、発酵水抽出乾燥物、発酵水抽出濃縮物、発酵アルコール抽出乾燥物、発酵アルコール抽出濃縮物及び上記の任意の組み合わせからなる群から選ばれてよい。
【0031】
上記発酵抽出物及び/又はその誘導体は、サルコペニアに対する改善効果を有することが証明され、サルコペニアの改善に適用される潜在力を有するので、サルコペニアを改善するための組成物の有効成分として使用することができる。前記「サルコペニアを改善する」とは、上記組成物を被験者に投与した後に、筋肉量及び筋肉持久性の喪失を遅らせることができることを指し、その具体的な評価指標には、筋管直径、筋肉量及び筋肉持久性に対する効果的な維持が含まれる。
【0032】
動物細胞実験によると、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物が筋管直径を維持可能な効果を有することは証明された。この実施例において、発酵水抽出物の動物の筋細胞に対する有効投与量は、例えば、5μg/mL~15μg/mLであってよく、且つ発酵アルコール抽出物の動物の筋細胞に対する有効投与量は、例えば、0.5μg/mL~1.5μg/mLであってよい。上記投与量範囲は、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物に、筋肉細胞に毒性を与えずに、サルコペニアを遅らせる効果を持たせるのに十分である。
【0033】
また、動物実験によって評価された結果、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物は、筋肉量及び筋肉持久性を維持する効果を有してよい。
【0034】
適用時に、発酵抽出物及び/又はその誘導体の有効投与量は、発酵抽出物及び/又はその誘導体の形態及び/又は適用の対象によって定められてよい。一実施例において、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物は、マウスに投与される場合、有効投与量が例えば、400mg/kg.体重(body weight;bw)/日間~600mg/kg.bw/日間であってよい。一実施例において、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物は、人体に投与される場合、有効投与量が例えば、2300mg/60kg.bw/日間~2500mg/60kg.bw/日間であってよい。
【0035】
適用時に、前記組成物は、例えば、食品組成物又は医薬組成物であってよい。一実施例において、組成物は、食品又は薬学的に受容可能な担体、賦形剤、希釈剤、補助剤、防腐剤、充填剤及び/又は添加剤を選択的に含んでよい。
【0036】
以下、複数の実施例により本発明の適用を説明するが、本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の精神や範囲から逸脱しない限り、様々な変更や修正を行うことができる。
【0037】
実施例1 メシマコブの発酵抽出物及びその誘導体の調製
【0038】
本実施例のメシマコブ(Phellinus linteus)の第1の菌糸体は、2020年11月12日に日本NITE-IPOD(アドレス:日本千葉木更津市Kazusakamatari2-5-8 120号室;郵便番号:292-0818)に寄託され、受託番号がNITE BP-03321であった。2019年7月18日に財団法人食品産業開発研究所のバイオリソース研究センター(BCRC)(アドレス:台湾新竹市食品路331号)に寄託され、且つ受託番号が930210の菌株であった。この菌株は、中国の野生メシマコブ子実体から物理的に分離された菌糸体であった。
【0039】
上記メシマコブ(NITE BP-03321、BCRC 930210)の菌学的特徴及び培養形態については、台湾出願番号TW 109129939の出願を参照し、ここで参考文献として併記された。
【0040】
BCRCに寄託されるメシマコブの菌糸体(第1の菌糸体とも呼ばれる)をポテトデキストロース寒天培地(potato dextrose agar;PDA)に接種し、25℃で7日間培養して、第2の菌糸体を得た。そして、メシマコブの第2の菌糸体の一部をこすり取り第1の培養液に接種して、25℃、pH5、120rpmの回転速度という条件で、7日間の培養工程を行って、第3の菌糸体を得た。上記第1の培養液は、1重量%の包括的な炭素・窒素源、1.5重量%の糖類、0.3重量%の酵母抽出物、0.3重量%のペプトン及び0.05重量%の無機塩類を含む。上記包括的な炭素・窒素源は、穀物(小麦粉及び/又ははふすま粉 )及び/又は豆類(きな粉、緑豆粉、大豆粉及び/又はケイヒ末)であった。上記糖類は、単糖(グルコース及び/又はフルクトース)及び/又は二糖(マルトース及び/又はスクロース)であった。上記無機塩類は、リン酸塩(リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム)及び/又は硫酸塩(硫酸マグネシウム及び/又は硫酸鉄)であった。包括的な炭素・窒素源、糖類及び無機塩類の具体的なレシピは、当業者に熟知されており、発酵工程に影響を与えずに、実際の要求に応じて任意に調整してよいので、ここで説明しない。
【0041】
次に、第1の培養液におけるメシマコブの第3の体菌糸体の一部を取って第2の培養液(成分が第1の培養液と同じ)を含む発酵槽内に接種し、25℃、pH5、0.5kg/cmの気圧、1.0VVMの空気通気速度及び80rpmの攪拌速度で14日間発酵して、発酵物を得た。
【0042】
発酵物を取って凍結乾燥を行って、発酵凍結乾燥粉末を得た。本実施例において、100Lの発酵物によって3kgの発酵凍結乾燥粉末が得られた。
【0043】
更に、発酵凍結乾燥粉末に対して抽出工程を行って、発酵水抽出物及び発酵アルコール抽出物を含む発酵抽出物を得た。上記発酵水抽出物は、蒸留水により100℃で熱水抽出を30分間行った後で得られたものであり、発酵凍結乾燥粉末に対する水の重量比が20であった。発酵水抽出物を室温まで冷却した後、凍結乾燥を行って、サンプル1を得た。
【0044】
上記発酵アルコール抽出物は、エタノールによって25℃で超音波振動処理を1時間行った後で得られたものであり、超音波振動処理は超音波洗浄器(メーカ:三角洲超音波有限公司、台湾;型番:DC600H)によって600W、40kHzの超音波で行われて、且つ発酵凍結乾燥粉末に対するエタノールの重量比が20であった。次に、遠心分離を行って層を分離し、上澄みは発酵アルコール抽出物であった。そして、発酵アルコール抽出物に対して減圧濃縮を行って、サンプル2を得た。
【0045】
後述の配置のために、それぞれジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide;DMSO)でサンプル1及びサンプル2を溶解した。
【0046】
実施例2 発酵抽出物の筋管直径、筋肉量及び筋肉持久性に対する維持効果についての評価
【0047】
マウス骨格筋細胞(C2C12細胞株)によってサルコペニアモデルを確立した。サルコペニアモデルの確立は、人工合成のコルチコステロイドであるデキサメタゾン(dexamethasone)を使用してよく、デキサメタゾンは免疫系を抑制することができるため、抗炎症薬又は抗アレルギー薬として使用することができる。しかしながら、デキサメタゾンには筋萎縮(筋肉量の低下及び/又は筋肉持久性の低下を含む)を引き起こす副作用もあるので、本実施例は、デキサメタゾンによって筋細胞萎縮を誘発して、サルコペニアをシミュレートした。
【0048】
まず、成長培地[10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ最小必須培地(Dulbecco’s modified minimal essential medium;DMEM)]によって37℃、5%のCOでC2C12細胞株を培養し、C2C12細胞株の初期細胞密度が1x10~2x10個/mLであった。C2C12細胞株が70%程度に成長したら、分化培地(2%馬血清含有のDMEM)によって7日間分化培養を行って、その間に分化培地を2日間ごとに一回交換して、分化された細胞を得、その90%が筋管に分化された。
【0049】
その後、上記分化された細胞をブランク対照群、陰性対照群、実験群1、実験群2、実験群3及び実験群4に分け、ブランク対照群の培地は0.1%のDMSO含有のDMEMであり、陰性対照群の培地は0.1%のDMSO及び10μMのデキサメタゾン含有のDMEMであり、実験群1の培地は10μg/mLのサンプル1含有のDMEMであり、実験群2の培地は10μMのデキサメタゾン及び10μg/mLのサンプル1含有のDMEMであり、実験群3の培地は1μg/mLのサンプル2含有のDMEMであり、且つ実験群4の培地は10μMのデキサメタゾン及び1μg/mLのサンプル2含有のDMEMであった。注意すべきなのは、サンプル1及びサンプル2がまずDMSOに溶解されてから培地の調製に用いられるため、実験群1~実験群4の培地にDMSOが含まれるが、細胞への毒性を避けるように、濃度が0.1%以下であった。
【0050】
図1A図1Fに示すように、37℃、5%のCOでそれぞれ上記培地によって上記分化した細胞株を24時間培養した後、ヘマトキシリン・エオジン(hematoxylin and eosin;H&E)染色を行ってから、光学顕微鏡で分化した細胞株における筋管直径を観察した。
【0051】
図1A図1Fは、本発明の一実施例に係る発酵抽出物及び/又はデキサメタゾンを含む又は含まない培地でマウス骨格筋細胞を培養した組織染色図である。図1A図1B図1C図1D図1E及び図1Fは、それぞれブランク対照群、陰性対照群、実験群1、実験群2、実験群3及び実験群4に対応する。図1A(ブランク対照群)に比べると、図1B(陰性対照群)の筋管直径が小さいが、図1B(陰性対照群)に比べると、図1C図1F(実験群1~実験群4)の筋管直径が大きかった。
【0052】
市販のソフトウェア(Image-Pro Plus software)によって筋管直径を測定し、筋管直径の統計結果を表1に示した。表1の統計形態は、対応のあるサンプルのt検定(paired sample t-test)によって各項目のパーセンテージを分析し、且つ「#」及び「*」は、それぞれブランク対照群及び陰性対照群と統計的に著しい差(p<0.05、n=60)があることを表した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から分かるように、ブランク対照群に比べると、陰性対照群の筋管直径は著しく減少し、デキサメタゾンが確実に筋細胞萎縮を引き起こす可能性があることを示した。しかしながら、陰性対照群に比べると、実験群2及び実験群4は著しく高く、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物がデキサメタゾンによって誘発される筋管直径の長さを維持できることを示し、発酵水抽出物及び/又は発酵アルコール抽出物が筋肉量の減少を遅らせ及び/又は回避することができることを意味した。また、実験群1及び実験群3とブランク対照群との間に有意差はなく、発酵水抽出物又は発酵アルコール抽出物が筋管直径の大きさに影響を与えなく、つまり、発酵水抽出物又は発酵アルコール抽出物は筋管細胞に対して細胞毒性がないことを示した。
【0055】
実施例3 発酵抽出物の筋肉量及び筋肉持久性に対する維持効果についての評価
【0056】
上記サンプル1及びサンプル2を同じ重量で混合させて、サンプル3を得た。
【0057】
本実施例において、C57BL/6Jマウスをモデル生物とした。マウスをブランク群、対照群及び実験群に分けて、対応する試薬を一日間に1回経管投与し、実験群の試薬がサンプル3であり、且つブランク群及び対照群の試薬が水であった。具体的に、サンプル3は、供給量を500mg/kg.bw/回に制御するように、適量の水に溶解され、且つ経管投与ブランク群及び対照群の水の体積がサンプル3と水の混合した総体積に等しかった。
【0058】
それぞれ実験群及び対照群のマウスの後肢を石膏で7日間固定処理して、マウスの後肢の萎縮を誘発させた。次に、石膏を取り除いて、マウスをケージ内で7日間自由に動かさせた。そして、筋肉持久性実験を行って、マウスを犠牲にして、マウスの後肢の骨格筋を測定した。上記石膏固定処理及び自由活動の期間(合計14日間)中に、経管投与を続けた。
【0059】
上記筋肉持久性実験としては、マウスを、底部にショックグリッド(shock grids)が設けられた、搬送ベルトが18m/min~20m/minの速度で下へ運ばれる傾斜したトレッドミルに配置した。マウスが動かない場合、搬送ベルトは、マウスをトレッドミルの底に運んで、マウスの尾に電気刺激を与えた。一般的に、マウスは、尾への電気刺激を避けるために、上に走った。しかしながら、筋肉持久性が不十分である場合、マウスは、搬送ベルトの速度に打ち勝つことができなく、トレッドミルの底部に運ばれて、電気刺激を受けた。同じ時間内で、マウスの受けた電気刺激の回数が多いほど、マウスの筋肉持久性が悪くなることを示した。市販のソフトウェア[GraphPad Prism (version 8.0)]によって一元配置分散分析(one-way analysis of variance;one-way ANOVA)及びDunnett’s test事後検定(post-hoc)でマウスの受けた電気刺激の回数を分析し、結果を表2に示し、「#」及び「*」はそれぞれブランク群及び対照群と統計的に著しい差(p<0.05、n=6)があることを表した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示すように、ブランク群に比べると、対照群のマウスの受けた電気刺激の回数が著しく向上し、石膏固定法が確実にマウスの骨格筋萎縮を引き起こして筋肉持久性が喪失する可能性があることを示した。しかしながら、対照群に比べると、実験群のマウスの受けた電気刺激の回数が著しく低下し、発酵水抽出物と発酵アルコール抽出物との混合物を投与すると、筋肉量及び筋肉持久性を効果的に維持し、マウスの筋肉持久性の喪失を遅らせ及び/又は回避することができることを示した。
【0062】
次に、マウスを犠牲にしてその後肢の腓腹筋の重量を測定した。結果を市販のソフトウェア[GraphPad Prism (version 8.0)]によって一元配置分散分析(one-way ANOVA)及びDunnett’s test事後検定(post-hoc)分析を行って群間の差異を統計した。結果を表3に示し、相対重量は腓腹筋の重量をマウスの重量で割って、体学的な個体差を排除したものであり、且つ図番「#」及び「*」はそれぞれブランク対照群及び対照群と統計的に著しい差(p<0.05、n=6)があることを表した。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すように、ブランク群に比べると、対照群の腓腹筋の相対重量が著しく小さく、石膏固定処理は筋肉量の減少を引き起こすことができることを示した。しかしながら、対照群に比べると、実験群の腓腹筋の相対重量が著しく大きく、発酵水抽出物と発酵アルコール抽出物との混合物を投与して筋肉量を効果的に維持し、筋肉量の喪失を遅らせ及び/又は回避することができることを示した。
【0065】
実施例4 人体への有効投与量の推定
【0066】
本実施例は、2005年に米国食品医薬品局によって発表された実験初期推定方法に基づいて、上記のマウスへの有効投与量を使用して、人体への有効量を推定した。この方法は、マウスの体重1キログラムあたりの有効投与量を換算係数12.3で割ると、人体の体重1キログラムあたりの有効投与量を得た。本実施例においてマウスに毎日に投与した500mg/kg.bwの投与量に基づいて、人体への有効投与量が2400mg/60kg.bw/日間(60kg.bwの成人の体重で計算する)であると推定した。
【0067】
上記から分かるように、本発明の発酵水抽出物及び発酵アルコール抽出物は、筋管直径、筋肉量及び筋肉持久性を効果的に維持できるため、サルコペニアの改善に適用されることができる。
【0068】
注意すべきなのは、本発明は、特定のプロセス、特定の分析方法及び/又は特定の機器を例として、本発明のサルコペニアの改善用の組成物及びその効果を説明するが、当業者なら誰でも分かるように、本発明はこれらに限定されなく、本発明の精神や範囲から逸脱しない限り、他のプロセス、他の分析方法又は他の機器によって実施してもよい。
【0069】
本発明は、複数の実施例で前記の通りに開示されたが、それらは本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の精神や範囲から逸脱しない限り、多様の変更や修飾を加えてもよいので、本発明の保護範囲は、後の特許請求の範囲で指定した内容を基準とするものである。
【0070】
生物材料の寄託
メシマコブ(Phellinus linteus)は、2020年11月12日に日本独立行政法人 製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation;NITE)特許生物寄託センター(International Patent Organism Depositary;IPOD)に寄託され、受託番号がNITE BP-03321である。メシマコブは、また、2019年7月18日に台湾新竹食品路331号財団法人食品産業開発研究所バイオリソースセンター(BCRC)に寄託され、且つ受託番号がBCRC 930210である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F