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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067082
(43)【公開日】2022-05-02
(54)【発明の名称】ロードセル
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/22 20060101AFI20220422BHJP
【FI】
G01L1/22 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169741
(22)【出願日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2020175503
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】今福 裕史
(72)【発明者】
【氏名】神山 竜一
(72)【発明者】
【氏名】秋澤 克佳
(72)【発明者】
【氏名】竹野 広晃
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 英二
【テーマコード(参考)】
2F049
【Fターム(参考)】
2F049BA13
2F049CA01
2F049CA04
2F049DA04
(57)【要約】
【課題】小型でありながら高荷重を測定することが可能で、高応力にも耐えることができ、配線が剥がれてしまうことが抑制されたロードセルを提供する。
【解決手段】弾性を有する起歪体10と、起歪体10の上面11(第1主面)から突出して形成され、起歪体10に力を伝達する力伝達部材13と、起歪体10の周縁部を全周にわたり上面側に突出するように囲む固定部14と、起歪体10の上面11とは反対側の下面12(第2主面)に周方向に延在するように形成された等方的なゲージ率を有する導電性部材からなる歪ゲージ部20と、を備え、起歪体10及び固定部14が一体的に形成されていることを特徴とするロードセルRにより解決される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する起歪体と、
前記起歪体の第1主面から突出して形成され、前記起歪体に力を伝達する力伝達部材と、
前記起歪体の周縁部を全周にわたり前記第1主面側に突出するように囲む固定部と、
前記起歪体の前記第1主面とは反対側の第2主面に周方向に延在するように形成された等方的なゲージ率を有する導電性部材からなる歪ゲージ部と、を備え、
前記起歪体及び前記固定部が一体的に形成されていることを特徴とするロードセル。
【請求項2】
前記起歪体、前記固定部及び前記歪ゲージ部を外側から覆う筒形状のハウジング部材を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載のロードセル。
【請求項3】
前記起歪体の前記第2主面の側において、前記ハウジング部材の開口を覆うカバー部材を更に備えていることを特徴とする請求項2に記載のロードセル。
【請求項4】
前記起歪体の前記第2主面に形成され、前記歪ゲージ部とともに歪検知用回路を構成する電極部と、
前記電極部に接続された配線部材と、を更に備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載のロードセル。
【請求項5】
前記配線部材は、配線が形成されたフレキシブル基板であり、前記電極部に接続された接続部から折り返されて前記ハウジング部材の外部へと延在していることを特徴とする請求項4に記載のロードセル。
【請求項6】
前記電極部は、前記起歪体の前記第2主面において、前記力伝達部材及び前記固定部の間、又は、前記力伝達部材の裏側に形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のロードセル。
【請求項7】
前記歪ゲージ部は、線状の前記導電性部材によって形成されており、
前記力伝達部材を取り囲む位置及び前記固定部の周囲の位置、または、前記ダイアフラム部材内に生じる+歪と-歪がそれらの絶対値で最大となる位置及びその周囲において、前記導電性部材が前記起歪体の中央を中心として環状に延在するように前記起歪体の前記第2主面に配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のロードセル。
【請求項8】
前記導電性部材がCr、N及び不可避不純物からなるCr-N薄膜により構成されていることを特徴とする請求項7に記載のロードセル。
【請求項9】
前記起歪体は金属で形成されており、
前記起歪体の前記第2主面は、絶縁層を備え、
前記絶縁層の上に前記歪ゲージ部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のロードセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロードセルに関し、特に、小型化可能なロードセルに関する。
【背景技術】
【0002】
IoTによる生産設備の効率化は、センシング、情報通信、情報処理とそのリアクションといった3つの技術が重要とされている。従来人手に頼ってきた現場のセンシングには、多種多様かつ様々な環境への対応力が求められている。センシングが要望される場面の中でも、物理的変化である応力の測定は重要である。応力測定では一般的にロードセルが使用されてきた。今後センシング機能の開発を進める上で、従来では測定が困難とされてきた微小空間、微小物の応力測定は特に重要である。
【0003】
これまでにも小型なロードセルは開発されてきたが、小型にするにつれ、測定可能な応力も小さくなってしまう課題があった。ロードセルは歪ゲージを使用しており、その起歪部には歪検出部が付与されている。起歪部に応力がかかって生じた歪により歪検出部分も歪んで、抵抗値変化が生じる。この抵抗値変化を逆換算して荷重、圧力などを算出する。ロードセルを小型にすると、起歪部も小さくなり、耐えることができる応力も小さくなってしまう。応力に耐えることができるように、起歪部を高剛性にすると、歪量が小さくなる為、応力を検出することが出来なくなってしまう。つまり、ロードセルを小型化しようとすると、測定可能な応力(荷重)も小さくなってしまうという本質的な課題があった。
【0004】
ロードセルを小型化する場合、歪ゲージに付与する電極も小さくなってしまい、電極に配線を取り付けることも困難となる。また、小型化したロードセルに高荷重がかかるとロードセルの歪みも生じやすく、可動部であるが故に電極に配線を取り付けても剥がれやすくなってしまう。ロードセルの小型化への要望は高く、これまでにも色々な技術で対応がなされてきた。
【0005】
特許文献1には、円筒形の保持体の中心に、十字状に配置した断面四角形の4本のスポーク柱によって荷重受け部を支持した同形の2つのロードセル半部を、前記保持体の端部同士を向き合わせて上下対称にしたことを特徴とした多軸力ロードセルが記載されている。この技術では、片側だけだと荷重によって側壁となる円柱部分の歪みが生じ、繰り返しの使用で残留歪が生じてしまい、ヒステリシス性が悪化するが、上下に同じ構造体を接続することで、ヒステリシス性が悪化してしまうことを解消している。特許文献1の技術は、小型化に伴い、筐体にかかる荷重が大きくなることを回避している。
【0006】
特許文献2には、一体成形してなる概Z型筐体における最も大きく歪む箇所に、厚さ80μm以下の絶縁性セラミック基板上にCr-N薄膜を形成した歪ゲージ(特開2014-074661号公報の歪ゲージに相当)を貼り付けてロードセルを成す技術が記載されている。小型化によって起歪部における見かけの剛性が増加することにより従来の低感度な市販歪ゲージでは十分な信号が得られず計測が不可能であった問題に対し、上記技術によれば、高感度なCr-N薄膜歪ゲージを用いることで概Z型筐体からなるロードセルのさらなる小型化が可能になるとされている。
【0007】
特許文献3には、内側の円管と外側の円管とを歪ゲージのついた歪検出部で接続(橋渡し)することでロードセルを小型化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-163405号公報
【特許文献2】特開2014-077673号公報
【特許文献3】特開2012-063266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術では、同一構造体であると歪みが出るものに対し、2つの構造体を合体することで対応することは、歪みの低減には繋がるものの、抜本的な対策にはなってはいない。また、小型ロードセルを作成する際には、ゲージ部分以外の電極、そこからの配線を如何に施すかが重要となるが、その点について説明はされていない。ロードセルを小型化していくと、筐体、ゲージ部分が小さくなるものの、そこに付随する電極、配線等が相対的に大きくなりがちである。スポーク状の柱に配置された歪ゲージの端部に電極を施し、そこに配線を付けると、他のスポーク状の柱に影響を与え、精度を下げてしまうことは容易に推測される。
【0010】
また、小さくなった歪ゲージに施された電極も小さくなるが、それに接続される配線を如何に接続するかについて説明はない。また、歪ゲージ部分が外界に剥き出しになっているが、その構造上、スポーク状柱部分は外から見ることができるようになっており、設置環境によってはゴミ等の付着が問題となる。特にロードセルを小型化したい場合には、設置後において簡単にメンテナンス等を行って接触できなくなってしまうことも想定される。また、現場には腐食性のゴミやガスの存在も懸念される。今後のIoT分野におけるセンシングでは、従来では思いもよらない場所に設置することも想定しておく必要がある。さらに、ロードセルを小型にする場合、歪ゲージ部分を如何に小さく出来るかが重要となる。しかしながら、この点について、特許文献1には詳述されていない。特許文献1のロードセルでは、長方形部分を歪ゲージ部分としているが、長方形が伸縮する方向での歪を検出すると推定される。しかし、この長方形の長手距離が長いと、その分だけ円管は大きくなり、小型化は困難になる。
【0011】
特許文献2に記載の技術では、起歪体の幅が4mmと狭いものの、概Z型構造をとっている為、高さが長くなり、小型化には支障がある。例示されているロードセルについて、幅4mm、長さ11mm、高さ14mmと、幅だけ見れば小さいが、全体の小型化を目指す場合においては長さ(奥行き)と高さは小さくない。また、歪ゲージが施された基板を起歪体に貼付けて使用するため、クリープやひずみ伝達性の観点から測定精度の向上に問題が生じる可能性がある。この問題は、貼付けでしか設置し得ない概Z型構造の内側に歪ゲージを配置する形態であることが主要因であり、さらなる小型化および高容量化(高荷重計測を可能にすること)は困難である。
【0012】
特許文献3に記載の技術では、構造体を削り出し等の方法でダイアフラム構造とする場合に比べ、2つの円管を複数の橋渡しで連結しようとすると、そのバランスを均等にとる必要がある。内側円管と外側円管とその間の歪む部分とが一体となる構造物を作成することは難しい。ロードセルを小型化しようとすると、構造物を作成することがより難しくなってしまう。また、円管を橋渡しした歪検出部付の部品だけで連結すると、高荷重には耐えられなくなってしまう。さらに、歪検出部についてメアンダラインとなっていて、全長が長くなっている。内側円管と外側円管との間隔を最小限にすることが求められるが、これだけの長さをもった検出部では、ロードセルを小型化することに限界が生じてしまう。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、小型でありながら高荷重を測定することが可能で、高応力にも耐えることができ、配線が剥がれてしまうことが抑制されたロードセルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は、本発明のロードセルによれば、弾性を有する起歪体と、前記起歪体の第1主面から突出して形成され、前記起歪体に力を伝達する力伝達部材と、前記起歪体の周縁部を全周にわたり前記第1主面側に突出するように囲む固定部と、前記起歪体の前記第1主面とは反対側の第2主面に周方向に延在するように形成された等方的なゲージ率を有する導電性部材からなる歪ゲージ部と、を備え、前記起歪体及び前記固定部が一体的に形成されていること、により解決される。
【0015】
このように、起歪体をその周縁部を囲む固定部と一体型としたダイアフラム構造とすることで、構造体としての強度を確保することが可能となるとともに、ロードセルの高さを低くすることができる。したがって、ロードセルを小型化するに際して従来技術が有していた課題が解消され、5mmφ以下の超小型かつ高容量(大荷重)を計測することができるロードセルを提供することが可能となる。
【0016】
このとき、前記起歪体、前記固定部及び前記歪ゲージ部を外側から覆う筒形状のハウジング部材を更に備えていると好適である。
このように、起歪体を固定部と一体化したダイアフラム構造を筒形状のハウジング部材で覆って支えることでダイアフラム構造の変形を抑制し、無荷重に戻った際の構造体全体の変形が抑制される。
【0017】
このとき、前記起歪体の前記第2主面の側において、前記ハウジング部材の開口を覆うカバー部材を更に備えていると好適である。
このように、起歪体の第2主面(裏面)に歪ゲージ部(導電性部材)を形成し、ダイアフラム構造を筒形状のハウジング部材に収容してカバー部材で覆うことで、測定環境中において、歪ゲージ部にゴミ等が付着することが抑制されるとともに、素子全体の強度が向上する。
【0018】
このとき、前記起歪体の前記第2主面に形成され、前記歪ゲージ部とともに歪検知用回路を構成する電極部と、前記電極部に接続された配線部材と、を更に備えていると好適である。
このように、起歪体の第2主面(裏面)に電極部を形成して配線部材を接続することで、ロードセルの外部へと配線を取り出し易くなる。
【0019】
このとき、前記配線部材は、配線が形成されたフレキシブル基板であり、前記電極部に接続された接続部から折り返されて前記ハウジング部材の外部へと延在していると好適である。
このように、フレキシブルプリント回路基板である配線部材が折り返されて、一旦反転してからハウジング部材の外部へと取り出されることで、力伝達部材に荷重がかかって起歪体が上下に動く際、配線部材の折り返された部分において上下の動きが吸収される。ロードセルを小型化する場合、配線部材と電極部との接続箇所の面積が小さくなる為、配線部材が電極部から剥がれやすくなるが、フレキシブルプリント回路基板である配線部材が折り返されていることで、配線部材が電極部から剥がれてしまうことが抑制される。
【0020】
このとき、前記電極部は、前記起歪体の前記第2主面において、前記力伝達部材及び前記固定部の間、又は、前記力伝達部材の裏側に形成されていると好適である。
このように、+歪、-歪が最大となる、力伝達部材の周辺と固定部の間、又は、力伝達部材の裏側に電極部が形成されていることで、適切に荷重を検出することが可能となる。
【0021】
このとき、前記歪ゲージ部は、線状の前記導電性部材によって形成されており、前記力伝達部材を取り囲む位置及び前記固定部の周囲の位置、または、前記ダイアフラム部材内に生じる+歪と-歪がそれらの絶対値で最大となる位置及びその周囲において、前記導電性部材が前記起歪体の中央を中心として環状に延在するように前記起歪体の前記第2主面に配置されていると好適である。
このように、+歪、-歪が最大となる、力伝達部材を取り囲む位置及び固定部の周囲の位置に、線状に形成された歪ゲージ部(導電性部材)を施すことで、歪ゲージ部が占める面積を小さくすることが可能となる。
また、+歪、-歪が最大となる、力伝達部材を取り囲む位置及び固定部の周囲の位置に、歪ゲージ部(導電性部材)が環状に延在するように形成されていることで、構造の強度を高くしたまま微小な歪を感知可能な、超小型なロードセルを実現することができる。
【0022】
このとき、前記導電性部材がCr、N及び不可避不純物からなるCr-N薄膜により構成されていると好適である。
既存のCu-NiやNi-Cr合金からなる歪ゲージを用いる場合、それらの横感度(測定用の電流が流れる方向である受感部の長手方向がひずみ方向に対して垂直に配置された時の感度)は非常に小さいことから、ひずみ量の大きい径方向の歪を検知するためには、縦感度(測定用の電流が流れる方向である受感部の長手方向がひずみ方向に対して平行に配置された時の感度)を用いた径方向配置を利用する(すなわち、その歪ゲージの電流が流れる長手方向を径方向に沿って配設する)必要があるので径方向に歪領域を長く確保することが求められ、そのため起歪部となるダイアフラム構造の力伝達部材と固定部との間の幅を広くとらなければならず、故にダイアフラムの小型化が困難となる。
【0023】
それに対し、前記Cr-N薄膜は従来のひずみゲージ材料と異なって横感度が縦感度と同程度に大きく、すなわち等方的な感度を示す(特開2014-35239号公報)ので、ダイアフラムの(径方向に垂直な)周方向に電流が流れる長手方向を配設しても横感度を用いて径方向の歪を検知することができ、そればかりか縦感度により周方向の歪も併せて検知することが可能なため、それらの歪が同符号の位置にCr-N薄膜を設置すると径方向歪と周方向歪が加算された、より大きな歪量を検知することが可能となる。そして周方向に線状のCr-N薄膜を環状に配設することにより、径方向に対してはその線幅分の非常に狭い領域を占めるだけであることから歪領域も狭くて良く、起歪部となるダイアフラム構造の力伝達部材と固定部との間の幅を狭くすることが可能となり、故にダイアフラムの小型化が可能となる(特開2020-153791号公報)。
【0024】
また、感度の低い既存のCu-NiやNi-Cr合金からなる歪ゲージでは、歪量が大きくないと抵抗値変化が生じにくいため、起歪部となるダイアフラム構造の力伝達部材と固定部との間の厚みを薄くすることによって、必要な抵抗値変化を生じさせる必要があった。それに対しCr-N薄膜は高感度(特開2015-31633号公報)である為、わずかな歪でも大きな抵抗値変化を生じさせるので、起歪部となるダイアフラム構造の力伝達部材と固定部との間の厚みを大きくしてダイアフラムの剛性を高くすることができ、構造体の強度を向上させて高応力に耐えうる高荷重計測を可能とするロードセルを提供することが可能となる。
【0025】
このとき、前記起歪体は金属で形成されており、前記起歪体の前記第2主面は、絶縁層を備え、前記絶縁層の上に前記歪ゲージ部が形成されていると好適である。
このように、金属製の起歪体に絶縁層を付与し、その上に歪ゲージ部(導電性部材)を形成することで、金属製の起歪体に生じる歪を、歪ゲージを接着して用いる場合に存在する比較的柔らかい接着層や、歪を伝える上では余分となる基板の影響が無く、歪を直接検知可能となり、ロードセルを高精度化することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のロードセルは、Cr-N薄膜の等方的感度を利用した周方向配置を用いると共に起歪体をその周縁部を囲む固定部と一体型としたダイアフラム構造とすることで、小型化および構造体としての強度を確保することが可能となるとともに、ロードセルの高さを低くすることができる。したがって、ロードセルを小型化するに際して従来技術が有していた課題が解消され、外径5mmφ以下で高さが3mm以下の超小型かつ1Nから400Nのワイドレンジで高容量(大荷重)を計測することができるロードセルを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係るロードセルの構成を示す模式図である。
図2A】ロードセルが備えるダイアフラム部材の斜視図である。
図2B図2AのA-A断面図である。
図2C】ダイアフラム部材の裏面側を示す斜視図である。
図3A】ロードセルが備えるハウジング部材及びカバー部材の斜視図である。
図3B】ハウジング部材の正面図である。
図3C図3BのB-B断面図である。
図4図1のIV-IV断面図である。
図5】ダイアフラム部材の裏面側における歪ゲージ部及び電極部の配置の一例を示す模式図である。
図6A図5のC-C断面図である。
図6B】電極部の断面図(図5のE-E断面図)である。
図7A】配線部材としてのフレキシブル基板を示す模式図である。
図7B】電極部に対するフレキシブル基板の接続態様を示す模式図である。
図8】フレキシブル基板の取り回しを示す模式図である。
図9】ハウジング部材を含む構造解析結果を示すグラフである。
図10】荷重印加試験結果を示すグラフである。
図11】5N~35Nまで、7回の繰り返しを行った荷重印加試験結果を示すグラフである。
図12】荷重に対して抵抗値をプロットしたグラフである。
図13】400Nまでの荷重印加試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)に係るロードセルRについて図1乃至図13を参照して説明する。
【0029】
本実施形態のロードセルRは、歪検出部としてのダイアフラム部材Dがハウジング部材Hに収容されて構成されている(図1)。以下、ロードセルRの構成要素の位置および姿勢の説明のため、起歪体10において力伝達部材13が突出する方向を、上側(表側)とする。
【0030】
歪検出部としてのダイアフラム部材Dは、起歪体10と、起歪体10に力を伝達する力伝達部材13と、起歪体10の周縁部を支持する固定部14と、歪ゲージ部20と、電極部30と、を備えている(図2A及び図2B)。
【0031】
弾性を有する起歪体10は、上面11(第1主面、表面)及び下面12(第2主面、裏面)を有している。具体的には、起歪体10は、上下方向を厚さ方向とし、一対の主面として上下方向に垂直な上面11および下面12を有して略円板形状に形成されている。起歪体10の厚さは均一であってもよく、局所的に肉薄になる領域が存在する場合のように不均一であってもよい。
【0032】
ロードセルRは、起歪体10の中心領域において、起歪体10の上面11から突出する略柱状の力伝達部材13を備えている。力伝達部材13は、起歪体10と一体的に形成されていると好ましいが、起歪体10に当接していればよく、ボルト-ナット方式などの機械的方式によって起歪体10に機械的に連結されていてもよい。
【0033】
起歪体10は、その周縁部を全周にわたり上方に張り出している環状の固定部14を備えている。固定部14は、起歪体10の上面11から、力伝達部材13と同じ方向、つまり、上方(上面11側)に向かうように突出して形成されているとよい。なお、固定部14は、起歪体10の下面12から、力伝達部材13と反対の方向、つまり、下方に向かうように突出して形成することも可能である。さらに固定部14は、起歪体10の上方と下方の両方に突出して形成することも可能である。起歪体10と固定部14は、切削加工や鋳造によって一体的に形成されている。また、上下方向において、起歪体10(ダイアフラム部材Dの隔膜部)の厚さと外周の固定部14の厚さが等しくてもよい。
【0034】
起歪体10が、その周縁部に固定部14を備えて支持されており、上面11から突出する力伝達部材13を有していることにより、力伝達部材13を介して起歪体10に力が作用した際に起歪体10に歪みが生じる。
【0035】
起歪体10は、例えば、弾性を有する金属もしくは合成樹脂またはこれらの組み合わせにより構成されている。起歪体10が金属などの導電性材料からなる場合、その下面12側は少なくとも歪ゲージ部20や電極部30が形成される領域において、絶縁性薄膜により被覆されている。これにより、起歪体10と、歪ゲージ部20及び電極部30と、が電気的に絶縁されている。
【0036】
歪ゲージ部20は、導電性部材21を有しており、起歪体10の下面12(第2主面、裏面)に周方向に延在するように形成されている(図2C)。導電性部材21は、等方的なゲージ率を有する材料であるCrおよび不可避不純物からなるCr薄膜、または、Cr、Nおよび不可避不純物からなるCr-N薄膜により構成されている。Cr-N薄膜は、例えば、一般式Cr100-xで表され、組成比xは原子%で0.0001≦x≦30である。Cr-N薄膜は、抵抗温度係数(TCR)が極めて小さいため(<±50ppm/℃)、温度変化に対して安定である。
【0037】
また、導電性部材21の両端部には、歪ゲージ部20とともに歪検知用回路を構成する電極部30が設けられている。この電極部30には、配線部材としてのフレキシブル基板Fが接続されている。本実施形態のロードセルRでは、起歪体10の下面12(第2主面、裏面)に電極部30が形成され、フレキシブル基板F(配線部材)を接続することで、ロードセルRの外部へと配線を取り出し易くなっている。
【0038】
本実施形態に係るロードセルRは、力伝達部材13とは反対側の下面12に歪ゲージ部20が形成された起歪体10を、その周縁部を囲む固定部14と一体型としたダイアフラム部材D(ダイアフラム構造)とすることで、構造体としての強度を確保することが可能となるとともに、ロードセルRの高さを低くすることができる。したがって、ロードセルRを小型化するに際して従来技術が有していた課題が解消され、5mmφ以下の超小型かつ高容量(大荷重)を計測することができる素子を実現できる。
【0039】
(ハウジング部材H)
図3A乃至図3Cに示されるように、ハウジング部材Hは、外壁41及び内壁42を有する筒形状の円筒形部材40を主構成要素とする。円筒形部材40は、上側開口43に、ダイアフラム部材Dを収容する段差部43aを備えている。円筒形部材40は、下側開口44の近傍において、配線部材としてのフレキシブル基板Fを通すために切り欠き45が形成されている。円筒形部材40の下側開口44には、カバー部材46が配置される。
【0040】
筒形状の円筒形部材40を備えるハウジング部材Hが、起歪体10、固定部14及び歪ゲージ部20を外側から覆っている。このように、起歪体10を固定部14と一体化したダイアフラム部材D(ダイアフラム構造体)を筒形状のハウジング部材Hで覆って支えることで(図4)、ダイアフラム構造の変形を抑制し、無荷重に戻った際の構造体全体の変形が抑制される。なお、固定部14及びハウジング部材Hの外形は、円筒形状(円柱形状)に限定されるものではなく、四角形状、六角形状、八角形状など任意の形状とすることが可能である。
【0041】
また、導電性部材21を有する歪ゲージ部20が形成された起歪体10の下面12の側において、円筒形部材40の下側開口44を覆うカバー部材46を備えていることで、測定環境中において、歪ゲージ部20にゴミ等が付着することが抑制されるとともに、ロードセルR(素子)全体の強度が向上する。
【0042】
以下、歪ゲージ部20及び電極部30の具体的な構成について説明をする。図5に示されるように、5つの電極部30が、起歪体10の下面12(第2主面、裏面)において、力伝達部材13及び固定部14の間に形成されている。このように、+歪、-歪が最大となる、力伝達部材13の周辺と固定部14の間(後述する図10)に電極部30が形成されていることで、適切に荷重を検出することが可能となる。なお、電極部30は、起歪体10の下面12の中央付近、すなわち力伝達部材13の裏側付近に形成されていても良い。
【0043】
また、歪ゲージ部20は、線状の導電性部材21,22,23,24によって形成されている。導電性部材21,22は、力伝達部材13を取り囲む位置において、環状に延在するように配置されており、導電性部材21,22は、固定部14の周囲の位置において、環状に延在するように配置されている。より詳細には、歪ゲージ部20は、力伝達部材13を取り囲む位置(力伝達部材13から数mm以内の位置)及び固定部14の周囲の位置(固定部14から数mm以内の位置)、または、ダイアフラム部材D内に生じる+歪と-歪がそれらの絶対値で最大となる位置及びその周囲において、導電性部材21,22,23,24が起歪体10の中央を中心として環状に延在するように起歪体10の下面12(第2主面、裏面)に配置されている。
【0044】
このように、+歪、-歪が最大となる、力伝達部材13を取り囲む位置及び固定部14の周囲の位置に、線状に形成された導電性部材21,22,23,24を施すことで、歪ゲージ部20が占める面積を小さくすることが可能となる。また、+歪、-歪が最大となる、力伝達部材13を取り囲む位置及び固定部14の周囲の位置に、環状に延在するように導電性部材21,22,23,24が配置されて歪ゲージ部20が形成されていることで、構造の強度を高くしたまま微小な歪を感知可能な、超小型なロードセルRを実現することができる。
【0045】
このとき、導電性部材がCr、N及び不可避不純物からなるCr-N薄膜により構成されていると好適である。従来の感度の低い歪ゲージでは、横感度が非常に小さいため環状に延在(周方向配置)した状態では径方向歪は検知できず、比較的小さい周方向歪のみを低感度で検出することになるので抵抗値変化が生じにくい。そのため、径方向に沿った折り返しパターンが用いられ、それにより径方向歪を検出して、検知可能な抵抗値変化を生じさせる必要があった。歪ゲージ部20(導電性部材21,22,23,24)を等方的で高い感度を有するCr-N薄膜とし、力伝達部材13を取り囲む位置及び固定部14の周囲の位置に環状に延在するように形成することで、線幅方向の僅かな歪を検知することが可能となる。さらに、Cr-Nは高感度である為、わずかな歪でも大きな抵抗値変化を生じさせるので、起歪部となるダイアフラム部材D(ダイアフラム構造体)において、力伝達部材13と固定部14との間の厚みを大きくすることができ、構造体の強度を向上させて高応力に耐えうるロードセルRを実現することが可能となる。
【0046】
図6Aに示されるように、起歪体10は、主に金属製の基板10a(例えば、SUS304又はSUS316L)で形成されており、その下面12(第2主面)には、絶縁膜10b(例えば、SiO膜、約3μm)が形成されている。そして、絶縁膜10bの上に歪ゲージ部20が形成されている。このとき、ポリイミド樹脂又はソルダーレジストからなる保護膜P(膜厚1~15μm)を、絶縁膜10bの上面、導電性部材21,22,23,24の上面および側面に設けてもよい。
【0047】
電極部30は、図6Bに示すように、絶縁膜10bの上に、Cr-N薄膜23a,24a(膜厚50~500nm)、Ti又はCrからなる第1金属薄膜23b,24b(膜厚30~50nm)、Niからなる第2金属薄膜23c,24c(膜厚150~250nm)、Auからなる第3金属薄膜23d,24d(膜厚50~100nm)が順番に積層されて構成されている。このとき、ポリイミド樹脂又はソルダーレジストからなる保護膜P(膜厚1~15μm)を、絶縁膜10bの上面、電極部30の側面に設けてもよい。
【0048】
このように、起歪体10を、金属製の基板10aに絶縁膜10bを付与し、その上に歪ゲージ部20(導電性部材21,22,23,24)を直接形成することで、金属に生じる歪を比較的柔らかい接着層や、歪を伝える上では余分となる基材の影響が無く、歪を直接検知可能となり、ロードセルRを高精度化することができる。
【0049】
以下、配線部材としてのフレキシブル基板Fの具体的な配置等について説明をする。図7Aは、配線部材としてのフレキシブル基板Fを示す模式図である。図7Bは、起歪体10の下面12における電極部30に対するフレキシブル基板Fの接続態様を示す模式図である。図8は、配線部材としてのフレキシブル基板Fの取り回しを示す模式図である。
【0050】
フレキシブル基板Fは、FPC(Flexible printed circuits)とも呼ばれるフレキシブルプリント配線板である。フレキシブル基板Fは、ポリイミドなどの薄いプラスチックフィルムに銅箔を貼りあわせたもの(銅張積層板)を化学的にエッチングして回路を形成されている。フレキシブル基板Fの接続部Faは、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を介して電極部30と接続されている。
【0051】
5本の配線が形成されたフレキシブル基板Fは、5つの電極部30(電極パッド)に接続された接続部Faから折り返し部Fbにおいて折り返されて切り欠き45から円筒形部材40(ハウジング部材H)の外部へと延在し、5極FPC用コネクタへと接続されている。配線部材としてのフレキシブル基板Fが折り返されて、一旦反転してからハウジング部材Hの外部へと取り出されることで、力伝達部材13に荷重がかかって起歪体10が上下に動く際、折り返し部Fbにおいて上下の動きが吸収される。
【0052】
ロードセルRを小型化する場合、フレキシブル基板F(配線部材)と電極部30との接続箇所である接続部Faの面積が小さくなる為、フレキシブル基板F(配線部材)が電極部30から剥がれやすくなる。本実施形態のロードセルRでは、フレキシブル基板F(配線部材)である配線部材が折り返し部Fbにおいて折り返されていることで、電極部30から剥がれてしまうことが抑制される。
【実施例0053】
図9に、ハウジング部材H(外径4.6mmφ)を含む構造解析を行った結果を示す(起歪体10:外径4mmφ)。構造解析の結果から正と負のひずみ位置に各2本周方向に円環状のセンサ膜R-1、R-2、R-3、R-4(導電性部材)を図9に示す半径位置(縦線)に配設した。
【0054】
前記寸法の起歪体(外径4mmφ)およびハウジング部材(外径4.6mmφ)と前記位置および様態で配設された導電性部材と配線部材等からなるロードセルを製作し、機械試験機と抵抗測定装置を用いて、そのロードセルについての荷重印加試験を行った。荷重印加は、まず5Nまで印加してゼロ荷重に戻し、次はさらに5N加えて10Nまで印加してゼロ荷重に戻すというように、最大荷重を5Nずつ増加させて35Nまで測定を実施した。
【0055】
円環状のセンサ膜R-1、R-2、R-3、R-4(導電性部材)それぞれの抵抗値の変化を計測した。それらの内R-4についての荷重印加試験の結果を図10乃至図12に示す。図からわかるように、本発明のロードセルにおいて明確な出力信号が安定に得られ、35Nまでは直線性良好でヒステリシスがない結果を示したことから、これまで前記寸法の小さいロードセルでは検知できなかった10N以上の荷重を問題なく検知可能とすることがわかった。同様に、最大荷重400Nまで測定した結果を図13に示す。図に示すように、荷重に略比例した出力信号が得られることがわかった。つまり、本発明のロードセルRによれば、起歪体の外形が4mmφと小型化した場合であっても、400Nまでの広い荷重域の検知が可能となる。
【0056】
よって本発明は、ロードセルに関して、その小型化自体が難しく、また、それを小型化しようとすると、測定可能な応力(荷重)も小さくなってしまうという、従来の概念では本質的であり解決が困難であった課題を解消する貴重な技術であることが明らかになった。本発明により、さらに小型でさらなる大荷重を検知可能なロードセルの提供が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のロードセルは、極小空間、狭い隙間環境など、超小型化が要望される環境での荷重や応力の測定を対象とすることができる。従来技術では、素子全体として荷重を計測していたが、本発明のロードセルでは細かなエリアで荷重を測定することが可能となるので、狭小領域における荷重やそれを基にした各種力学量およびその分布を測定したい場面に応用できる。例えば、本発明のロードセルを用いると、布や壁や生体(肌や乳房のマンモグラフィー)および柔軟物を含む各種加工品等の表面や内部の形状や性状およびその分布の測定(微細構造や小さな凹凸および硬さ柔らかさの測定)、プッシュ入力機器やタッチセンサおよびタッチペン入力装置等のタッチ箇所の押圧応答検査(高位置分解能な測定)、ロボットハンド等把持装置およびそれに類する装置の対象接触箇所における応力およびその分布の測定(衝撃や過荷重にも対応可能なワイドレンジな測定)などを実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
R ロードセル
D ダイアフラム部材(歪検出部)
10 起歪体
10a 基板
10b 絶縁膜(絶縁層)
11 上面(第1主面、表面)
12 下面(第2主面、裏面)
13 力伝達部材
14 外周固定部(固定部)
20 歪ゲージ部
21,22,23,24 導電性部材
23a,24a Cr-N薄膜(100~500nm)
23b,24b 第1金属薄膜、Ti又はCr(30~50nm)
23c,24c 第2金属薄膜、Ni(150~250nm)
23d,24d 第3金属薄膜、Au(50~100nm)
P 保護膜
30 電極部(導線部材)
H ハウジング部材
40 円筒形部材
41 外壁
42 内壁
43 上側開口
43a 段差部
44 下側開口
45 切り欠き
46 カバー部材
F フレキシブル基板(配線部材)
Fa 接続部(ACF)
Fb 折り返し部
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13