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特開2022-67251発現ベクター送達担体及びそれを含む医薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067251
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】発現ベクター送達担体及びそれを含む医薬
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20220425BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220425BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220425BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220425BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220425BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C07K16/30
A61P35/00
A61P13/08
A61P43/00 121
A61K35/17 Z
A61K38/17
A61K48/00
A61K9/127
A61K47/42
A61K31/7088
A61K39/395 N
A61K39/395 D
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020175868
(22)【出願日】2020-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 晃輔
(72)【発明者】
【氏名】川上 恭司郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅史
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC29
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE23
4C076EE41
4C076FF67
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084DA27
4C084MA02
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA05
4C086MA24
4C086NA13
4C086ZA81
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB63
4C087MA02
4C087NA05
4C087ZA81
4C087ZB26
4C087ZC75
4H045AA11
4H045BA54
4H045DA76
4H045EA28
(57)【要約】
【課題】がん免疫を向上させて、免疫療法の治療成績を向上させることができる発現ベクター送達担体、及びそれを含み、免疫療法に有用な医薬を提供する。
【解決手段】本発明の発現ベクター送達担体は、がん細胞に特異的なタンパク質(例えば、PSA)を発現するためのプロモーター及びその制御下に配置されたパーフォリンをコードする遺伝子を含み、前記パーフォリンが前記がん細胞で発現するように構築された発現ベクターを内包する。本発明の医薬は、本発明の送達担体を含有する、がん(例えば、前立腺がん)治療のための医薬である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞に特異的なタンパク質を発現するためのプロモーター及びその制御下に配置されたパーフォリンをコードする遺伝子を含み、前記パーフォリンが前記がん細胞で発現するように構築された発現ベクターを内包する、発現ベクター送達担体。
【請求項2】
前記がん細胞に特異的なタンパク質がPSAである、請求項1に記載の送達担体。
【請求項3】
前記がん細胞に特異的な抗原と結合する細胞結合分子により表面が修飾されている、請求項1又は2に記載の送達担体。
【請求項4】
前記細胞結合分子が抗体である、請求項3に記載の送達担体。
【請求項5】
前記がん細胞に特異的な抗原がPSMAである、請求項3又は4に記載の送達担体。
【請求項6】
治療有効量の請求項1~5のいずれか1項に記載の送達担体を含有する、がん治療のための医薬。
【請求項7】
前記がんが前立腺がんである、請求項5に記載の医薬。
【請求項8】
細胞障害性リンパ球と組み合わせて投与される、請求項5又は6に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発現ベクター送達担体及びそれを含む医薬に関する。更に詳しくは、本発明は、がん免疫を向上させるために、パーフォリンをがん細胞で発現させることができる発現ベクター送達担体、及びそれを含み、がん免疫療法に有用な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療方法として、手術、放射線療法、及び化学療法が知られている。早期がんは、手術療法又は放射線療法により根治を期待できる。一方、進行がんは、主に化学療法によって治療される。進行がんに対する化学療法は、がんの進行を抑えられるが、根治は困難であることが知られている。
【0003】
発生したがん細胞は通常、免疫機構により排除される。この排除において、細胞障害性T細胞及びナチュラルキラー細胞等の細胞傷害性リンパ球が重要な役割を果たしている。細胞障害性リンパ球の細胞質顆粒には、パーフォリン及びグランザイム等の細胞傷害性因子が含まれている。細胞障害性リンパ球ががん細胞上の抗原を認識すると、顆粒からパーフォリン及びグランザイムを放出する。放出されたパーフォリンは、Ca2+の存在下でがん細胞の膜上に膜貫通孔を形成する。グランザイムはこの膜貫通孔を経由して細胞内に入ると、DNAが切断されてアポトーシス(細胞死)が生じ、がん細胞は排除される。
【0004】
かかる免疫機構に着目して、近年、がんの治療方法として免疫療法が行われている。例えば、ニボルマブに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1/PD-L1経路を阻害することにより、細胞傷害性リンパ球の機能を回復してがん細胞を排除する。免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法では、化学療法が無効となった症例でも長期にわたり効果があり、根治に近い状態となることもある。
【0005】
上記のように、免疫療法における細胞障害性因子の重要性から、細胞障害性因子に関する研究が続けられている。例えば、特許文献1には、パーフォリンの細胞に対する孔形成能を増強することにより、がんの治療に役立てられる可能性があることを指摘している。また、特許文献2には、宿主細胞において、パーフォリンの発現を駆動できるレトロウイルスベクターが記載されている。特許文献3には、クローディンに結合する第1の結合ドメインと、CD3に結合する第2のドメインを有する結合剤が開示されている。当該結合剤がT細胞上のCD3に結合することにより、T細胞の増殖及び又は活性化が引き起こされる。T細胞の増殖及び又は活性化により、パーフォリン及びグランザイム等の細胞障害性因子が放出され、がん細胞のアポトーシスが起きる。特許文献4には、パーフォリンの発現レベルを検出、測定することにより、免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療の効果を評価する診断剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-108378号公報
【特許文献2】特開2007-526774号公報
【特許文献3】特開2019-162104号公報
【特許文献4】国際公開WO2019/207942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、免疫療法は、根治を期待できる治療法と考えられている。しかし、免疫チェックポイント阻害薬として代表的なニボルマブの効果は3~4割といわれている。現状で、免疫療法の治療成績は必ずしも十分とは言えない。よって、治療成績の向上のために、免疫療法の更なる改善が求められている。
【0008】
従って、本発明は、がん免疫を向上させて、免疫療法の治療成績を向上させることができる発現ベクター送達担体、及びそれを含み、免疫療法に有用な医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の送達担体は、がん細胞に特異的なタンパク質を発現するためのプロモーター及びその制御下に配置されたパーフォリンをコードする遺伝子を含み、前記パーフォリンが前記がん細胞で発現するように構築された発現ベクターを内包する。
【0010】
本発明の医薬は、治療有効量の本発明の送達担体を含む、がん治療のための医薬である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の送達担体によれば、がん細胞に特異的に、パーフォリンをコードする遺伝子を導入し、がん細胞においてパーフォリンを発現させることができる。これにより、細胞障害性リンパ球による細胞傷害作用を高めて、免疫療法の治療成績を向上させることができる。また、がん細胞に特異的に遺伝子を導入することができるので、免疫細胞に対する遺伝子治療と比べて安全性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例のパーフォリン発現ベクターのベクターマップを示す図である。
図2】実施例のパーフォリン発現ベクターの塩基配列並びにパーフォリン1のアミノ酸配列を示す図である。
図3】パーフォリンリポソーム及びPSMAパーフォリンリポソームを添加した前立腺がん細胞株22Rv1及びPC-3細胞のパーフォリン発現量をプロットしたグラフである。
図4】パーフォリンリポソームとドセタキセルと添加した前立腺がん細胞株(22Rv1DR)の細胞数をプロットしたグラフである。
図5】パーフォリンリポソームとヒト末梢血単核球(PBMC)とを添加した前立腺がん細胞株(22Rv1DR)の細胞数をプロットしたグラフである。
図6】パーフォリンリポソーム又はPSMAパーフォリンリポソームとヒト末梢血単核球(PBMC)とを添加した前立腺がん細胞株(22Rv1DR及びPC-3細胞)の細胞数をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一つの態様において、本発明の送達担体(以下、「本担体」という。)は、がん細胞に特異的なタンパク質を発現するためのプロモーター及びその制御下に配置されたパーフォリンをコードする遺伝子を含み、前記パーフォリンが前記がん細胞で発現するように構築された発現ベクターを内包する。
【0014】
前記がん細胞の種類には特に限定はない。前記がん細胞として具体的には、例えば、前立腺がん、胃がん、乳がん、肝がん、大腸がん、食道がん、膵臓がん、子宮頸がん、腎がん、膀胱がん、肺がん、及び悪性黒色腫の細胞が挙げられる。
【0015】
前記がん細胞に特異的なタンパク質(以下、単に「前記タンパク質」という。)は、がん細胞において正常細胞よりも高く発現するタンパク質であれば特に限定はない。前記タンパク質として好ましくは、がん細胞にのみ発現するタンパク質である。前記タンパク質としては、がん・精巣抗原、分化抗原、過剰発現抗原、ウイルス抗原、及び変異遺伝子産物抗原に分類されるタンパク質が挙げられる。前記タンパク質として具体的には、例えば、PSMA、PSA、WT1、MUC1、MAGE-A1、MAGE-A3、BAGE、NY-ESO-1、gp100、Her-2/neu、CEA、ras、HIF、及びp53が挙げられる。前記タンパク質として好ましくは、PSMA及びPSAが挙げられる。
【0016】
前記プロモーターは、前記タンパク質の発現、即ち前記タンパク質をコードする遺伝子の転写を制御(調節)することができる機能を有する限り、その種類及び配列に特に限定はない。前記プロモーターとして、前記タンパク質の発現を制御できる既知のプロモーターを使用することができる。例えば、PSAのプロモーターとして、InvivoGen社の「pDRIVE-PSA/PSA」(https://www.invivogen.com/pdrive-psa-psa)が挙げられる(参考文献;(1)Schuur ER. et al. 1996. Prostate-specific antigen expression is regulated by an upstream enhancer. JBC. 271(12):7043-7051,(2)Latham JP. et al. 2000. Prostate-specific antigen promoter/enhancer driven gene therapy for prostate cancer: construction and testing of a tissue-specific adenovirus vector. Cancer Res. 60(2):334-41)。
【0017】
前記パーフォリンは、細胞障害性T細胞及びナチュラルキラー細胞等の細胞傷害性リンパ球に含まれるタンパク質であり、Ca2+の存在下で凝集して、標的細胞膜上に膜貫通孔を形成することができる。前記パーフォリンは前記膜貫通孔を形成することができる限り、その種類に特に限定はない。前記パーフォリンは、天然パーフォリン(天然に存在するアミノ酸配列を有するパーフォリン)でもよく、一部のアミノ酸配列が変更された変異パーフォリンでもよい。また、前記パーフォリンは、膜貫通孔を形成する機能を保持した天然パーフォリン又は変異パーフォリンの断片又は修飾体でもよい。
【0018】
前記変異パーフォリンとして好ましくは、前記天然パーフォリンのアミノ酸配列と比べて、アミノ酸残基の1~10個の欠失、挿入、又は置換を含むものが挙げられる。前記置換は、例えば、類似の物理化学的特徴を有する残基により置き換える置換、例えば、アミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基と置き換える保存的置換が挙げられる。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーとしては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。
【0019】
前記天然パーフォリンの断片並びに前記変異パーフォリン及びその断片のアミノ酸配列は、前記天然パーフォリンと少なくとも80%、好ましくは90%、更に好ましくは95%、より好ましくは98%、特に好ましくは99%の配列同一性を有する。前記配列同一性は、公知の配列同一性の決定法のうちのいずれかで上記範囲に含まれていればよい。
【0020】
前記パーフォリンをコードする遺伝子(以下、単に「前記遺伝子」という。)は、前記パーフォリンをコードし、且つ前記パーフォリンを前記がん細胞で発現させることができる限り、塩基配列に特に限定はない。例えば、天然のヒトパーフォリンの遺伝子配列は、Immunogenetics 30,452-457(1989)等で開示されている。また、前記天然パーフォリンの断片並びに前記変異パーフォリン及びその断片をコードする遺伝子は、これらのアミノ酸配列又は天然のヒトパーフォリンの遺伝子配列に基づいて、公知の手法により適宜設計することができる。
【0021】
前記遺伝子は、前記タンパク質を発現するためのプロモーター(以下、単に「前記プロモーター」という。)の制御下に配置されている。ここで、「制御下に配置されている」とは、前記遺伝子と前記プロモーターとが機能的に(即ち、前記遺伝子が作動可能に)連結していることを意味する。前記遺伝子の転写が前記プロモーターの制御(調節)を受けている限り、前記遺伝子及び前記プロモーターの配置状態に特に限定はない。前記遺伝子は前記プロモーターの上流又は下流のいずれに配置されていてもよい。また、前記遺伝子は前記プロモーターと隣接していてもよく、あるいは他の配列が介在していてもよい。
【0022】
前記発現ベクターは、前記プロモーター及び前記遺伝子を含み、前記パーフォリンが前記がん細胞で発現するように構築されている限り、具体的態様に特に限定はない。前記発現ベクターは直鎖状でもよく、あるいは環状でもよい。前記発現ベクターは、前記プロモーター及び前記遺伝子以外の他の配列、例えば、薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー配列を有していてもよい。前記発現ベクターとして好ましくは、プラスミド等の非ウイルスベクターが挙げられる。
【0023】
本担体は、前記発現ベクターを内包し、前記発現ベクターを前記がん細胞に導入することができる限り、サイズ及び具体的形態には特に限定はない。本担体として具体的には、例えば、巨大分子、微小集合体、微小粒子、ミクロスフェア、ナノスフェア、高分子ミセル、脂質ナノ粒子、リポソーム、エマルションが挙げられる。本担体の具体的形態としてリポソームが好ましい。
【0024】
前記「内包」は、前記発現ベクターを膜で形成された閉鎖空間内に内包した態様だけでなく、膜が2以上ある場合、膜間に内包した態様及び膜内に包含した態様でもよい。例えば、本担体の実施態様としてリポソームを選択した場合、リポソームは内膜の内側及び内膜と外膜との間にそれぞれ内腔を有する。前記発現ベクターは、いずれの内腔に含まれていてもよい。
【0025】
前記リポソームは、少なくとも1つの脂質二重層(内膜及び外膜)を持つ球形の小胞である限り、その具体的な態様に特に限定はない。前記リポソームの粒径(直径)は、通常、1nm以上1000nm未満である。前記脂質二重層を構成する脂質として好ましくは、リン脂質が挙げられる。前記リン脂質として具体的には、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、及びホスファチジルグリセロール等のグリセロリン脂質;スフィンゴミエリン及びセラミドシリアチン等のスフィンゴリン脂質が挙げられる。また、前記リン脂質は、動植物から抽出、精製した天然物であっても、化学合成したものであってもよく、水素添加、水酸化処理等の加工を施したものであってもよい。例えば、前記リン脂質として、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆レシチン水素添加物、又は卵黄レシチン水素添加物を用いてもよい。前記リン脂質は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記リポソームを構成する脂質二重膜は、リン脂質以外に、糖脂質、ステロール類、カチオン性脂質等の他の成分を1以上含んでいてもよい。
【0027】
前記リポソームの調製方法には特に限定はない。前記リポソームは、原料、粒径等を考慮して、公知の方法を適宜選択して調製することができる。
【0028】
一つの態様として、本担体の表面を他の分子で修飾することができる。例えば、本担体の表面を、がん細胞に特異的な抗原と結合する細胞結合分子により修飾することができる。当該修飾により、前記プロモーターと共に、がん細胞に対する選択性を更に高めることができる。その結果、免疫療法の治療成績及び安全性を更に向上させることができるので好ましい。
【0029】
前記「がん細胞に特異的な抗原」(以下、単に「前記抗原」という。)の「がん細胞」については、前記タンパク質における説明が妥当する。また、前記抗原は、がん細胞において正常細胞よりも高く発現する物質であればその種類に特に限定はない。前記抗原はタンパク質でもよく、糖脂質(例えば、GD2及びGM2)でもよい。前記抗原として、がん細胞表面に発現する抗原が好ましい。前記抗原がタンパク質である場合、前記タンパク質における説明が妥当する。前記抗原は、前記タンパク質と同じ物質でもよく、異なる物質でもよい。例えば、前記抗原として、がん細胞表面に発現する抗原を選択し、前記タンパク質として、これと異なるタンパク質を選択することができる。より具体的には、例えば、前記抗原としてPSMA、前記タンパク質としてPSAを選択することができる。
【0030】
前記細胞結合分子は、前記抗原と結合することができる限り、その種類及び具体的態様には特に限定はない。前記細胞結合分子は1種単独でもよく、2種以上でもよい。前記細胞結合分子として好ましくは抗体である。前記抗体は、前記抗原と結合することができる限り、その種類及び具体的態様には特に限定はない。前記抗体として具体的には、例えば、抗体全長(ポリクローナル又はモノクローナル)、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体);一本鎖抗体;前記抗原と結合できる抗体断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)が挙げられる。
【0031】
本担体の表面を前記他の分子で修飾する方法には特に限定はない。ここで「修飾」とは、本担体の表面に前記他の分子が保持されていればよい。よって、本担体の表面を構成する物質と前記他の分子とが直接結合していてもよく、あるいは他のリンカー分子を介して結合していてもよい。また、本担体の表面を構成する物質と前記他の分子とが非共有結合(例えば、静電的相互作用)により結合されていてもよい。前記修飾は、例えば、DTSSP等の架橋剤を本担体の表面に結合させ、次いで、前記細胞結合分子と架橋剤とを結合させることにより行うことができる。
【0032】
本医薬は、治療有効量の本発明の送達担体を含む、がん治療のための医薬である。前記がんの種類には特に限定がない。前記がんは、原発性がんでもよく、転移がんでもよい。前記がんの具体例としては、前記タンパク質における説明が妥当する。前記がんとして好ましくは前立腺がんである。
【0033】
本明細書において、がんの「治療」とは、治療後の状態がよりよい状態となるようにすることを意味し、必ずしも根治だけに限定されない。前記「治療」には、再発リスクの低減、がん転移の抑制、及び生存期間の延長も含まれる。また、「治療有効量」は、がんの治療に有効な量である限り、具体的な量に限定はない。
【0034】
1つの実施態様として、本医薬は、細胞障害性リンパ球と組み合わせて投与することができる。これにより、免疫療法、特に、リンパ球のがん細胞への攻撃機能自体が低下していると考えられる、免疫チェックポイント阻害剤の効果が十分でない症例に対する免疫療法において、治療成績を向上させることができるので好ましい。ここで「組み合わせて投与」は、必ずしも本医薬と細胞障害性リンパ球とを同時に投与する態様に限定されない。前記「組み合わせて投与」には、細胞障害性リンパ球を投与した後、本医薬を投与する態様及び本医薬を投与した後、細胞障害性リンパ球を投与する態様も含まれる。
【0035】
前記細胞障害性リンパ球は、がん細胞を認識して排除する機能を有する限り、その具体的な態様には特に限定はない。前記細胞傷害性リンパ球として具体的には、例えば、細胞障害性T細胞(CD8陽性T細胞)及びナチュラルキラー細胞が挙げられる。また、前記細胞障害性リンパ球は、投与後にリンパ球に分化するものでもよい。前記細胞障害性リンパ球として具体的には、例えば、造血幹細胞、末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄細胞(BM)、リンパ球系共通前駆細胞、T細胞前駆細胞(ナイーブT細胞)、ナイーブCD8+T細胞、又は成熟CD8+T細胞を用いることができる。前記細胞障害性リンパ球として好ましくは、末梢血単核球(PBMC)を用いることができる。前記細胞障害性リンパ球は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本医薬は、免疫治療を阻害しない限り、本担体以外の成分を1種又は2種以上含んでいてもよい。該成分として例えば、薬学上許容される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、安定剤、保存剤、及び無痛化剤が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上併用することができる。
【0037】
本医薬の剤型及び投与方法には特に限定はない。投与方法は経口投与でもよく、非経口投与でもよい。剤型としては、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、水剤、及び注射剤が挙げられる。本医薬の投与方法は非経口投与が好ましく、剤型は注射剤が好ましい。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。また、実施例における結果に対する考察は、全て発明者の見解に過ぎず、何ら本発明を限定又は定義付ける趣旨の説明ではないことを付言する。
【0039】
実施例1;パーフォリン発現ベクターの調製
がん細胞に特異的なタンパク質を発現するためのプロモーターとして、PSAのプロモーター(InvivoGen社「pDRIVE-PSA/PSA」)を用いた。PSAのプロモーター及びパーフォリン1をコードする遺伝子をプラスミドに挿入したパーフォリン発現ベクターを、人工遺伝子合成サービスを利用して作製した。パーフォリン発現ベクターのベクターマップを図1に、パーフォリン発現ベクターの塩基配列(パーフォリン1のアミノ酸配列を含む。)を図2に示す。
【0040】
実施例2;発現ベクター内包リポソームの調製
実施例1で得られたパーフォリン発現ベクターを用いて、以下の方法により、抗体未修飾の発現ベクター内包リポソーム(以下、「パーフォリンリポソーム」という。)及び表面を抗PSMA抗体で修飾した発現ベクター内包リポソーム(以下、「PSMAパーフォリンリポソーム」という。)を調製した。
【0041】
調製例1;パーフォリンリポソームの調製
1)実施例1で得られたパーフォリン発現ベクター溶液及びプロタミン溶液(各10mM HEPES緩衝液(pH5.3))を混合し、コンプレックス溶液を得た。
2)ss-Palm M(日油「COSTSOME SS-M」)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、コレステロール(Chol)、及びDMG-PEG2000の各エタノール溶液を採取し、混合することにより、脂質溶液(脂質処方;ss-Palm M:DOPE:Chol:DMG-PEG2000=3:4:3:0.5(モル比))を得た。
3)2)の脂質溶液をボルテックスしながら1)のコンプレックス溶液を添加し、混合した。
4)3)の混合液を10mM HEPES緩衝液(pH5.3)で10倍希釈した。
5)4)の希釈液について、分画分子量300,000Da、100mM HEPES緩衝液(pH7.4)で限外濾過した。
6)5)で濾過した溶液を10mM HEPES緩衝液(pH7.4)に置換した後、仕込み容量の1.5倍濃縮状態で回収し、パーフォリンリポソームを得た。
【0042】
調製例2;PSMAパーフォリンリポソームの調製
上記調製例1で得られたパーフォリンリポソームについて、以下の方法により、リポソームの表面を抗PSMA抗体で修飾して、PSMAパーフォリンリポソームを得た。尚、抗体溶液は、アジ化ナトリウムを除去するため、使用前にPBS(-)緩衝液で遠心限外濾過を行った。
【0043】
7)上記調製例1の6)で得られたリポソーム溶液にDTSSP溶液を添加し、一晩冷蔵撹拌した(DTSSPはDNase free水で溶解した。)。
8)7)の溶液について、分画分子量300,000Da、炭酸緩衝液(pH8.5)で限外濾過を行い、遊離DTSSPを除去した。
9)8)の溶液に、抗PSMA抗体溶液を終濃度100~500μg/mLになるように添加し、一晩冷蔵撹拌した
10)9)の溶液について、分画分子量300,000Da、10mM HEPES/150mM NaCl緩衝液(pH7.4)で限外濾過を行った。
11)10)の溶液について、0.22μmフィルターで濾過滅菌を行い、PSMAパーフォリンリポソームを得た。
【0044】
実施例3;前立腺がん細胞でのパーフォリンの発現
PSMA及びPSAを発現している前立腺がん細胞株として22Rv1を使用した。また、PSMA及びPSAを発現していない前立腺がん細胞株としてPC-3細胞を使用した。上記各細胞を、20,000個/ウェルの量で96ウェルプレートに100μLずつ播種し、5%CO、37℃で培養した。24時間後、それぞれの細胞に、実施例2で調製したパーフォリンリポソーム又はPSMAパーフォリンリポソームを添加し(リポソーム内に含まれる核酸濃度として500ng/培地100μL)、5%CO、37℃で細胞の培養を継続した。72時間後に細胞上清を回収し、遠心して細胞成分を除去した。回収された細胞上清中のパーフォリン濃度を、abcam社の「Human Perforin ELISA Kit(PRF1)」(ab46068)を使用して測定した。その結果を図4に示す。
【0045】
図4より、PSMA及びPSAを発現している前立腺癌細胞22Rv1でのみパーフォリンが発現している。また、PSMAパーフォリンリポソームで、パーフォリンリポソームより多くのパーフォリンが発現している。これらの結果は、パーフォリンリポソーム及びPSMAパーフォリンリポソームはいずれも、PSAとPSMAを発現している前立腺癌細胞に特異的に標的としており、抗PSMA抗体で修飾されているPSMAパーフォリンリポソームは、パーフォリンリポソームより特異的に前立腺癌細胞を標的としていることを示している。
【0046】
実施例4;パーフォリンリポソームの抗腫瘍効果(I)
段階的にドセタキセルの濃度を上昇させることにより、前記22Rv1からドセタキセル耐性株(22Rv1DR)を調製した(参考文献;Kojima K, Fujita Y, Nozawa Y, Deguchi T, Ito M. Prostate. 2010 Oct 1;70(14):1501-12. doi: 10.1002/pros.21185. PMID: 20687223 )。22Rv1DRを、10,000個/ウェルの量で、96ウェルプレートに50μLずつ播種し、5%CO、37℃で培養した。24時間後、ウェルにパーフォリンリポソーム(0.1μL:核酸量として18.4μg/ウェル)及びドセタキセル(30、60、100nM)を添加し、5%CO、37℃で細胞の培養を継続した。48時間後、WST assay(Roche社 Cell Proliferation Reagent WST-1 5015944001)で細胞数を測定した。その結果を図5に示す。
【0047】
図5より、22Rv1DRにドセタキセルとパーフォリンリポソームを添加しても、22Rv1DRの増殖は抑制されなかった。この結果は、リンパ球等の免疫細胞が介在しないためと考えられる。
【0048】
実施例5;パーフォリンリポソームの抗腫瘍効果(II)
患者全血5mlあたり0.5M EDTA(PH0.8)を50μL添加し、次いで4℃のPBSを20ml添加して撹拌した。その後、Ficall(GE healthcare Ficoll(R) Paque Plus)10mlを添加して、遠心してPBMCを回収した。
【0049】
22Rv1DRを、1,000個/ウェルの量で、96ウェルプレートに50μLずつ播種し、5%CO、37℃で培養した。24時間後、ウェルに上記で回収されたPBMCを20,000/ウェル及びパーフォリンリポソームを、細胞培養液の1/1000量添加し、5%CO、37℃で細胞の培養を継続した。144時間後、WST-1 assayにより細胞数を測定した。その結果を図6に示す。
【0050】
図6より、PBMCとパーフォリンリポソームとを併用した場合、22Rv1DRの顕著な増殖抑制効果が認められた。これらの結果は、パーフォリンリポソームにより、リンパ球等の免疫細胞が存在するインビボで、あるいは、パーフォリンリポソームとリンパ球等の免疫細胞とを組み合わせて投与することにより、がん細胞に特異的に増殖を抑制する効果が期待できることを示している。
【0051】
実施例6;パーフォリンリポソーム及びPSMAパーフォリンリポソームの抗腫瘍効果
22Rv1DR又はPC-3を、1000個/ウェルの量で、96ウェルプレートに50μLずつ播種し、5%CO、37℃で培養した。24時間後、ウェルを低濃度群と高濃度群に分け、低濃度群には、実施例5で調製したPBMC(20,000個/ウェル)とパーフォリンリポソーム又はPSMAパーフォリンリポソーム(核酸濃度として5ng/ウェル)とを添加した。一方、高濃度群では、実施例5で調製したPBMC(20,000個/ウェル)とパーフォリンリポソーム(核酸量として84.5ng/ウェル)又はPSMAパーフォリンリポソーム(核酸量として61.9ng/ウェル)とを添加し、5%CO、37℃で細胞の培養を継続した。その後、WST-1 assayにより細胞数を測定した。低濃度群では、164時間後に22RV-1DRの細胞数を測定した。一方、PC-3では120時間後に細胞が増殖しきってしまったため、この時点での細胞数を測定した。高濃度群では、144時間後に22RV-1DR及びPC-3の細胞数を測定した。これらの結果を図5に示す。
【0052】
図5より、22RV-1DRでは、パーフォリンリポソーム又はPSMAパーフォリンリポソームとPBMCとの併用、特に高濃度群で、著名な増殖抑制効果が認められた。一方、PC-3では、低濃度群及び高濃度群のいずれにおいても、22RV-1DRと比べて、増殖抑制効果が低かった。これらの結果は、パーフォリンリポソーム又はPSMAパーフォリンリポソームにより、リンパ球等の免疫細胞が存在するインビボで、あるいは、パーフォリンリポソームとリンパ球等の免疫細胞とを組み合わせて投与することにより、がん細胞に特異的に増殖を抑制する効果が期待できることを示している。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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