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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067278
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】抗菌剤、抗菌性部材、及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/66 20060101AFI20220425BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220425BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220425BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
A01N43/66
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020175908
(22)【出願日】2020-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 章世
(72)【発明者】
【氏名】稗田 奈央
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA01
4H011BB09
4H011BC06
4H011BC16
4H011BC19
4H011DA14
4H011DH02
4H011DH07
4H011DH08
(57)【要約】
【課題】本発明は、樹脂等に配合した場合においても、少量で抗菌性に優れる、光応答型の抗菌剤を提供することを目的とする。また、本発明は、前記抗菌剤から得られる抗菌性部材、及び抗菌剤としての使用方法を提供することを目的とする。
【解決手段】分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物を有効成分とする抗菌剤。基材上に前記抗菌剤を塗布し、乾燥及び/又は硬化させてなる抗菌性部材。分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物の抗菌剤としての使用方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物を有効成分とする抗菌剤。
【請求項2】
前記化合物は、下記一般式(1)で表されるトリアジン誘導体である請求項1に記載の抗菌剤。
【化1】
(式(1)中、R及びRは独立してメチル基またはエチル基を表す。Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表す。Xは下記一般式(2):Ar、Ar、ArまたはArで表されるアリール基である。nは0から2の整数を表す。)
【化2】
(式(2)中、mは0から3の整数を表す。Rは、独立した置換基であって、炭素数1から18のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表す。前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表す。前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、及び、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基、または炭素数1~8のアシル基を表す。あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成してもよい。)
【請求項3】
さらに、樹脂を含有し、前記化合物は、前記樹脂100質量部に対して0.1~30質量部である請求項1または2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
基材上に請求項1~3のいずれかに記載の抗菌剤を塗布し、乾燥及び/又は硬化させてなる抗菌性部材。
【請求項5】
分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物の抗菌剤としての使用方法。
【請求項6】
前記化合物は、下記一般式(1)で表されるトリアジン誘導体である請求項5に記載の使用方法。
【化3】
(式(1)中、R及びRは独立してメチル基またはエチル基を表す。Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表す。Xは下記一般式(2):Ar、Ar、ArまたはArで表されるアリール基である。nは0から2の整数を表す。)
【化4】
(式(2)中、mは0から3の整数を表す。Rは、独立した置換基であって、炭素数1から18のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表す。前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表す。前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、及び、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基、または炭素数1~8のアシル基を表す。あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成してもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤、抗菌性部材、及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、感染症対策の一環として、抗菌剤が注目されている。抗菌剤は、有機系化合物や無機系化合物が多種利用されており、一長一短の性質を有している。なかでも、酸化チタンに代表される光触媒作用を利用した抗菌剤(光応答型の抗菌剤)は、持続性と即効性に優れ、広く用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-226364号公報
【特許文献2】WO2015/133316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酸化チタンは、樹脂等に配合した場合、両者の比重差により、酸化チタンは沈降し易いため、十分な抗菌性を発現させるためには、酸化チタンを抗菌剤中に多量に含ませる必要があった。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明は、樹脂等に配合した場合においても、少量で抗菌性に優れる、光応答型の抗菌剤を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、上記の抗菌剤から得られる抗菌性部材、及び抗菌剤としての使用方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物を有効成分とする抗菌剤に関する。
【0008】
また、本発明は、基材上に前記抗菌剤を塗布し、乾燥及び/又は硬化させてなる抗菌性部材に関する。
【0009】
また、本発明は、分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物の抗菌剤としての使用方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗菌剤における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。但し、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されない。
【0011】
本発明の抗菌剤は、分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物を有効成分とする。トリアジン骨格は、太陽光や蛍光灯から発せられる光を吸収し、その光エネルギーにより過酸化結合が分解し、酸素ラジカルが発生する。発生した酸素ラジカルは強力な酸化剤として作用し、優れた抗菌性を示す。また、前記化合物は、樹脂との比重差が小さく、少ない配合量であっても優れた抗菌性を発現する。
【0012】
また、本発明の抗菌剤は、樹脂への溶解性に優れるため高い透明性を有し、視認性が求められる部材へも好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について以下に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<抗菌剤>
本発明の抗菌剤は、分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物を有効成分とする。前記化合物は、トリアジン骨格が太陽光や蛍光灯から発せられる光を吸収し、その光エネルギーにより過酸化結合が分解し、酸素ラジカルが発生することから、発生した酸素ラジカルは強力な酸化剤として作用し、優れた抗菌性を示すため、抗菌剤として使用できる。なお、前記化合物は、過酸化結合及び/又はトリアジン骨格を分子内に複数有していてもよい。
【0015】
前記化合物は、アセトニトリル中での波長380nmのモル吸光係数が50(L・mol-1・cm-1)以上であることが好ましく、より好ましくは500(L・mol-1・cm-1)以上である。アセトニトリル中での波長380nmのモル吸光係数が50(L・mol-1・cm-1)以上であることにより、波長380nm以上の可視光領域の光を吸収し、室内環境下における蛍光灯等の光でも十分に抗菌性を発現することができる。
【0016】
前記化合物は、優れた抗菌性を示す観点から、下記一般式(1)で表されるトリアジン誘導体であることが好ましい。
【化1】
(式(1)中、R及びRは独立してメチル基またはエチル基を表す。Rは炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基を表す。Xは下記一般式(2):Ar、Ar、ArまたはArで表されるアリール基である。nは0から2の整数を表す。)
【化2】
(式(2)中、mは0から3の整数を表す。Rは、独立した置換基であって、炭素数1から18のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表す。前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表す。前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、及び、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基、または炭素数1~8のアシル基を表す。あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成してもよい。)
【0017】
前記一般式(1)中、RおよびRは独立してメチル基またはエチル基を表す。RおよびRは、前記トリアジン誘導体の抗菌持続性の観点から、メチル基が好ましい。
【0018】
前記一般式(1)中、Rは、炭素数が1~5の脂肪族炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基である。前記アルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基、イソプロピルフェニル基が挙げられる。これらの中でも、前記トリアジン誘導体の合成が容易である観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基であることが好ましい。
【0019】
前記一般式(1)中の、nは、0から2の整数で表される。前記トリアジン誘導体の合成が容易である観点から、nが0または1であることが好ましい。
【0020】
前記一般式(2)中の、mは、0から3の整数で表される。前記トリアジン誘導体の合成が容易である観点から、mが0から2であることが好ましく、光応答性に優れる観点から、mが1であることがより好ましい。
【0021】
前記式(2)中の、Rは、独立した置換基であって、炭素数1から18のアルキル基、一般式(3):R-Y-で表される置換基、ニトロ基、またはシアノ基を表す。前記Yは、酸素原子または硫黄原子を表す。前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、チオエーテル結合、及び、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基、アルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基、または炭素数1~8のアシル基を表す。あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-Y-により5~6員環を形成してもよい。
【0022】
前記Rは、光応答性に優れる観点から、独立した置換基であって、炭素数1から8のアルキル基、または一般式(3):R-Y-で表される置換基を表し、前記Yは、酸素原子を表し、前記Rは、炭素骨格中に、エーテル結合、および、末端に水酸基のいずれか1つ以上を有していてもよい炭素数1~8の炭化水素基、またはアルキル基を有してもよい炭素数6~9の芳香族炭化水素基であるか、あるいは、Rは隣接する2つの前記一般式(3):R-X-により5~6員環を形成することが好ましい。
【0023】
前記Rの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ドデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-メトキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-ブトキシエトキシ基、2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ基、2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ基、3-ヒドロキシ-n-プロピルオキシ基、3-メトキシ-n-プロピルオキシ基、1,2-ジヒドロキシプロピルオキシ基、メチレンジオキシ基、ジメチルメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基等のアルコキシ基;フェニルオキシ基、4-イソプロピルフェニルオキシ基等のアリールオキシ基;メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、ヘキシルスルファニル基、2-メトキシエチルスルファニル基、2-(2-メトキシエトキシ)エチルスルファニル基等のアルキルスルファニル基;フェニルスルファニル基、2-メチルフェニルスルファニル基、4-メチルフェニルスルファニル基等のアリールスルファニル基、アセチル基、n-ブタノイル基、2-エチルヘキサノイル基、ベンゾイル基、2-メチルベンゾイル基等のアシル基等が挙げられる。これらの中でも、前記トリアジン誘導体の合成が容易であり、光応答性に優れる観点から、前記Rは、メトキシ基、エトキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基が好ましい。
【0024】
前記Rの置換位置は、特に限定されないが、XがArの場合、Rの少なくとも一つが、トリアジン基が置換されたベンゼン環の4位に置換されていることが好ましく、XがArの場合、Rの少なくとも一つが、トリアジン基が置換されたベンゼン環とは別のベンゼン環の4位に置換されていることが好ましく、XがArの場合、Rの少なくとも一つが、1位に置換されたトリアジン基の4位に置換されていることが好ましく、XがArの場合、Rの少なくとも一つが、トリアジン基が置換されたベンゼン環とは別のベンゼン環の4位に置換されていることが光応答性に優れる観点から好ましい。
【0025】
以下に前記化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0026】
【化3】
【0027】
前記一般式(1)で表されるトリアジン誘導体の製造方法は、とくに限定されず、例えば、国際公開第2018/221177に記載の製造方法が参考となる。
【0028】
本発明の抗菌剤は、分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物を有効成分とすればよく、抗菌剤の組成は特に制限はないが、例えば、抗菌剤を基材に担持させる観点から、樹脂を含有してもよい。
【0029】
前記樹脂としては、抗菌剤より得られる抗菌性部材の抗菌性が確保される限り、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。さらに、各種の(メタ)アクリレート系モノマーも適用可能である。前記樹脂は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記化合物は、前記樹脂100質量部に対し、0.1~30質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることがさらに好ましい。前記化合物の含有量がこの範囲であることにより、塗膜物性の低下を抑制し、高い透明性を確保しつつ、優れた抗菌性を発現することができる。
【0031】
<溶媒>
前記抗菌剤は、必要に応じて、溶媒で希釈して用いてもよい。前記溶媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、カルビトール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ラクトン系溶媒、不飽和炭化水素系溶媒、セロソルブアセテート系溶媒、カルビトールアセテート系溶媒やプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。前記溶媒は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
<任意成分>
前記抗菌剤は、本発明の目的を阻害しない範囲において、上記以外に任意成分を含有してもよい。任意成分としては、レベリング剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、着色顔料、艶消し剤等が挙げられる。
【0033】
<抗菌剤の調製方法>
前記抗菌剤を調製する場合には、収納容器内に、前記化合物、必要に応じて、前記樹脂、前記溶媒、前記任意成分を投入し、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドグラインドミル、ボールミル、アトライターミル、2本ロールミル、3本ロールミル等を用いて、常法に従って溶解または分散させればよい。また、必要に応じて、メッシュまたはメンブレンフィルター等を通してもろ過してもよい。
【0034】
<抗菌性部材>
本発明の抗菌性部材は、基材上に前記抗菌剤を塗布し、乾燥及び/又は硬化させてなる。
【0035】
<基材>
前記基材の材質は、有機高分子、セラミック、金属、ガラス、紙、化粧合板又はそれらの複合物等使用することができる。基材の形状も特に限定されず、例えば、板状物や球状物、円柱状物、円筒状物、棒状物、角柱状物、中空の角柱状物等の単純形状のものでも複雑形状のものでもよい。また、基材はフィルターのような多孔質体でもよい。なかでも、有機高分子のうち、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、シクロオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂等の透明樹脂からなるフィルムが好ましい。
【0036】
上記の塗布方法は特に限定されず、スピンコート、フローコート、スプレーコート、ロールコート、ディップコート、インクジェット等の塗工法や、凸版、平版、凹版、スクリーン版等の印刷法等が挙げられる。また、乾燥方法は、例えば、加熱乾燥、通風加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の方式としては、特に制限されることはないが、例えば、オーブン、ホットプレート、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また、通風加熱乾燥の方式としては、例えば、送風式乾燥オーブン等が挙げられる。
【0037】
また、前記乾燥において、乾燥温度と時間は適宜設定すべきである。一例として、乾燥温度は、60から120℃であることが好ましく、70から100℃であることがより好ましい。乾燥時間は1から60分であることが好ましく、5から30分であることがより好ましい。乾燥温度と時間を上記範囲にすることで、抗菌剤の性能劣化を抑制しつつ有機溶剤を十分に除去することができる。なお、必要に応じて、抗菌性部材を乾燥した後、さらに紫外線照射を行ってもよい。これにより得られる塗膜を硬化させ、塗膜強度を高めることが可能となる。
【0038】
<膜厚>
前記抗菌剤を含有する塗膜の乾燥膜厚は、用途に応じて適宜設定されるが、0.1から1000μmであることが好ましく、0.5から100μmであることがより好ましく、1から10μmであることがさらに好ましい。乾燥膜厚が0.1μmよりも薄いと、塗膜強度を確保できず、且つ、単位面積あたりに含有する抗菌剤の量が少なくなるため、十分な抗菌性が発現されない。また、乾燥膜厚が1000μmよりも厚いと、基材への密着性が確保できず、塗膜のそりが生じたりするため好ましくない。
【0039】
<その他の形態>
また、本発明の抗菌剤は、分子内に過酸化結合とトリアジン骨格を有する化合物を有効成分とすれば、上記の抗菌性部材のほか、任意の組成にて、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状、溶液状、ペースト状、成形物状等の形態で使用してもよい。
【実施例0040】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0041】
<実施例1>
<抗菌剤の調製>
ポリメチルメタクリレート(アクリペットVH、三菱ケミカル株式会社製)100質量部をメチルエチルケトン1000質量部に溶解した溶液に、化合物25を30質量部およびBYK-302(ビックケミー社製)を1質量部配合して、攪拌し、抗菌剤を得た。
【0042】
<抗菌性部材の製造>
上記で調製した抗菌剤を、バーコーター(#26)を用いて、易接着処理が施されたPETフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡社製)上に塗布した。塗布後、PETフィルムを80℃の乾燥機中で30分間乾燥処理により溶媒を乾燥させ、厚さ3μmの塗膜を有する抗菌性部材を作製した。
【0043】
<実施例2~7および比較例1~2>
表1に示す原料および配合割合で、実施例1と同様の方法で、抗菌剤を調製し、抗菌性部材を製造した。なお、化合物25、31、35、41およびパーブチルC(tert‐ブチル‐クミルペルオキシド、日油株式会社製)につき、モル吸光係数を以下の方法で算出した。
【0044】
[モル吸光係数の算出]
化合物25、31、35、41およびパーブチルC(tert‐ブチル‐クミルペルオキシド、日油株式会社製)の0.002wt%アセトニトリル溶液について、UV-VISスペクトル測定装置(1.0cm石英セル、島津製作所製、UV-2450)を用いて、波長200から600nmにおけるUV-VISスペクトルを測定した。波長380nmにおけるモル吸光係数を算出した。
化合物25:899(L・mol-1・cm-1
化合物31:2352(L・mol-1・cm-1
化合物35:169(L・mol-1・cm-1
化合物41:3622(L・mol-1・cm-1
パーブチルC:0(L・mol-1・cm-1
【0045】
<評価方法>
各実施例及び比較例において得られた抗菌性部材を下記記載の方法によってその性質を評価した。評価結果は表2に示した。
【0046】
<抗菌性>
JIS R1702(ファインセラミックス-光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果)に準拠して黄色ぶどう球菌を用いて、抗菌性評価を実施した。光照射の条件は、UVブラックライトを用いて照度0.25mW/cmで、4時間照射した。抗菌性は,式(1)より求めた抗菌活性値Rで評価した。抗菌活性値が2.0以上で、抗菌効果があることを示している。なお、寒天平板培養法による生菌数の測定において、洗い出し液1.0mLを用いたシャーレから生残菌が認められない場合は、生菌数は<10と表示し、10を用いて抗菌活性値を算出した。
=log(B/A)-log(C/A)=log(B/C)・・・式(1)
:照度Lで光照射した抗菌性部材の抗菌活性値
L:照度(mW/cm
A:比較例1(抗菌剤を含まない部材)の接種直後の3個の試験片の生菌数の平均値(個)
:比較例1(抗菌剤を含まない部材)を光照射した後の3個の試験片の生菌数の平均値(個)
:各抗菌性部材を光照射した後の3個の試験片の生菌数の平均値(個)
【0047】
<透明性>
ヘイズメーター(「NDH2000」、日本電色工業(株)製)を用いて抗菌性部材のヘイズ値を測定した。ヘイズ値が1.0未満を〇、ヘイズ値が1.0以上を×と評価した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1中、
アクリペットVHは、三菱ケミカル(株)製、ポリメチルメタクリレート;
ユピゼータPFC-0330は、三菱ガス化学(株)製、特殊ポリカーボネート;
パーブチルCは、日油(株)製、tert‐ブチル‐クミルペルオキシド;
BYK-302は、ビックケミー社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示されるとおり、実施例1~7の抗菌性部材は抗菌活性値が2.0以上、ヘイズ値は1.0%未満であり、優れた抗菌性、且つ、高い透明性を示した。比較例2は、抗菌剤にパーブチルCを用いており、パーブチルCはトリアジン骨格を有さないため抗菌性を示さなかった。