(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067319
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】脳機能改善用、又は神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/60 20060101AFI20220425BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220425BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220425BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20220425BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220425BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220425BHJP
【FI】
A61K35/60 ZNA
A61P25/28
A61P25/16
A61P21/04
A61P43/00 111
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020175964
(22)【出願日】2020-10-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細見 亮太
(72)【発明者】
【氏名】福永 健治
(72)【発明者】
【氏名】西本 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】村上 由希
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD74
4B018ME14
4B018MF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB29
4C087CA03
4C087MA52
4C087MA55
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA94
4C087ZC41
(57)【要約】
【課題】脳機能改善用、又は神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物、神経細胞の軸索を変性から保護するための組成物、神経細胞においてニューロフィラメントタンパク質及びミエリン塩基性タンパク質から選択される少なくとも一種のタンパク質を維持するための組成物、又はインターロイキン6の発現を抑制するための組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
タラ科に属する魚の魚肉組成物を上記組成物、又は上記組成物の一部として使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、脳機能改善用、又は神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物。
【請求項2】
前記魚肉組成物が、脱脂組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記魚肉組成物が粉末状の組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記神経変性疾患が、認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上麻痺、多系統萎縮症、及びトリピレットリピート病から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、神経細胞の軸索を変性から保護するための組成物。
【請求項6】
タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、神経細胞においてニューロフィラメントタンパク質及びミエリン塩基性タンパク質から選択される少なくとも一種のタンパク質を維持するための組成物。
【請求項7】
タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、インターロイキン6の発現を抑制するための組成物。
【請求項8】
前記組成物が、海馬又は大脳皮質におけるインターロイキン6の発現を抑制するためのものである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
飲食品組成物である、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
医薬組成物である、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、脳機能改善用、又は神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物、神経細胞の軸索を変性から保護するための組成物、神経細胞においてニューロフィラメントタンパク質及びミエリン塩基性タンパク質から選択される少なくとも一種のタンパク質を維持するための組成物、及びインターロイキン6の発現を抑制するための組成物が開示される。
【背景技術】
【0002】
欧米で行われた数多くの横断的疫学調査や大規模なコホート研究により、認知症発症予防には魚摂取が有効であることが報告されている(非特許文献1)。この魚の摂取によって認知症を予防する成分としてn-3系高度不飽和脂肪酸(PUFA)であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が第一に挙げられる。特にDHAは、神経新生、シナプス形成、神経細胞分化、神経突起伸張、膜流動性の維持、抗炎症作用、抗酸化作用などに関与し、脳機能維持に重要な役割を担っている。そのため、魚摂取による脳機能維持は、n-3PUFAの作用と考えられてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Barnes JL, et al. Nutr Rev. 2014;72:707-719.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高度不飽和脂肪酸は、熱や光、空気中に含まれる酸素の影響を受け酸化し、過酸化脂質を生じるという問題がある。また、高度不飽和脂肪酸は常温で液体であり、機能性食品として製剤化する際にソフトカプセルに充填する必要があり、それ以外の剤形を選択しにくい。さらに、他の食品等に高度不飽和脂肪酸を添加すると、外観、味、食感等が変わってしまうという課題がある。
【0005】
本発明は、タンパク質を有効成分とする脳機能改善用、神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物を提供することを一課題とする。本発明は、タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、神経細胞の軸索を変性から保護するための組成物を提供することを一課題とする。本発明は、タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、神経細胞においてニューロフィラメントタンパク質及びミエリン塩基性タンパク質から選択される少なくとも一種のタンパク質を維持するための組成物を提供することを一課題とする。本発明は、タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、インターロイキン6の発現を抑制するための組成物を提供することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、魚肉由来タンパク質に、神経変性疾患の進行を抑制する作用があることを見出した。
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、脳機能改善用、又は神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物。
項2.前記魚肉組成物が、脱脂組成物である、項1に記載の組成物。
項3.前記魚肉組成物が粉末状の組成物である、項1又は2に記載の組成物。
項4.前記神経変性疾患が、認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上麻痺、多系統萎縮症、及びトリピレットリピート病から選択される、項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
項5.タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、神経細胞の軸索を変性から保護するための組成物。
項6.タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、神経細胞においてニューロフィラメントタンパク質及びミエリン塩基性タンパク質から選択される少なくとも一種のタンパク質を維持するための組成物。
項7.タラ科に属する魚の魚肉組成物を含む、インターロイキン6の発現を抑制するための組成物。
項8.前記組成物が、海馬又は大脳皮質におけるインターロイキン6の発現を抑制するためのものである、項7に記載の組成物。
項9.飲食品組成物である、項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
項10.医薬組成物である、項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
タンパク質を有効成分とする脳機能改善用、神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】スケトウダラの魚肉から調製した魚肉タンパク質のアミノ酸組成を示す。
【
図5】各群のモーリスの水迷路試験におけるプラットホーム到達時間の結果を示す。
【
図12】海馬におけるインターロイキン6(IL-6)の発現量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.組成物
本発明のある実施形態は、魚肉組成物を含む、脳機能改善用、又は神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物に関する。魚肉組成物は、いわゆる「白身魚」と呼ばれる魚の魚肉を含む限り制限されない。例えば、白身魚として、例えばタラ科に属する魚を上げることができる。魚肉は、好ましくは魚肉タンパク質である。
【0010】
タラ科に属する魚は、タラ目タラ科(Gadidae)に属する魚を意図する。タラ科に属する魚として、好ましくはスケトウダラ、マダラ、ギンダラ、コマイ、ミナミダラ等である。より好ましくは、スケトウダラ、マダラ、ギンダラであり、さらに好ましくはスケトウダラである。
【0011】
魚肉には、魚の肉に由来するあらゆる形態の肉を含み得る。例えば、生の魚肉、調理した魚肉(例えば焼く、煮る、蒸す、揚げる等した魚肉を含む)、乾燥させた魚肉等を含み得る。
【0012】
魚肉組成物の形態は、特に制限されない。魚肉組成物には、例えば、切り身、細切れ肉、魚肉のミンス、魚肉のペースト、魚肉の乾燥破砕物(生又は調理した魚肉を乾燥させる前に破砕して乾燥させてもよく、乾燥後に破砕してもよい)、魚肉の乾燥粉末(生の魚肉を乾燥させ粉末にしたもの等を含む)、魚肉の乾燥顆粒(乾燥させた魚肉を破砕し顆粒状にしたもの、乾燥していない状態の魚肉のミンス又はペーストを顆粒状に成形し乾燥させたもの、乾燥させた魚肉の粉末を顆粒に成形したもの等を含む)等の形態が含まれ得る。好ましくは、魚肉の乾燥粉末である。
さらに、魚肉を一度練り物、ソーセージ等の加工食品に加工したものやその乾燥物を上記魚肉にかえて上記形態に加工してもよい。
【0013】
魚の摂取によって認知症を予防する成分としてn-3系高度不飽和脂肪酸(PUFA)であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が知られている。特にDHAは、神経新生、シナプス形成、神経細胞分化、神経突起伸張、膜流動性の維持、抗炎症作用、抗酸化作用などに関与し、脳機能維持に重要な役割を担っていることが報告されている。このため、魚摂取による脳機能維持は、n-3PUFAの作用と考えられてきた。しかし、日常の食生活ではn-3PUFAのみを選択的に摂取することは少なく、魚肉として、DHAなど脂質成分以外にタンパク質成分も同時に摂取しているため、生の魚肉、調理した魚肉、又は乾燥させた魚肉でも脳機能維持効果は期待できる。
【0014】
また、上記魚肉組成物は、魚肉に対して、脱脂処理を行った脱脂肉、及びその乾燥物から調製されてもよい。好ましくは、生の魚肉のミンス、及び/又は生の魚肉ペーストに対して脱脂処理を行い、脱脂された脱脂組成物を乾燥させ破砕物、粉末、又は顆粒として使用することができる。
【0015】
脱脂処理は、脂質成分が除去できる限り制限されない。例えば、n-ヘキサン、エタノール及びこれらの混合物と対象物とを混合し、不溶物を回収することで脱脂組成物を得ることができる。脱脂処理は、複数回行ってもよい。脱脂組成物は、脱脂処理後に乾燥させてもよい。
【0016】
乾燥粉末は、様々な剤形に加工しやすい。また、特に脱脂組成物の乾燥粉末はタンパク質を主成分とするため、脂肪酸に比べ安定性が高い。特に白身魚は、DHAやEPAを豊富に含む青魚よりも魚臭が少なく、組成物に加工した際に、魚臭が少ないという利点がある。
【0017】
2.組成物の用途
上記魚肉組成物は、脳機能改善用、又は神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物として使用することができる。また、上記魚肉組成物は、脳機能改善用、又は神経変性疾患の予防及び/又は治療用の組成物に加工することができる。
【0018】
脳機能改善とは、神経細胞の機能的改善を意図し、例えば、仮に神経細胞に変性の有無にかかわらず、脳としての機能、例えば、記憶力、計算力、認識力等が改善することを意図する。
【0019】
神経変性疾患には、器質的に神経細胞が変性する疾患を含む。例えば、神経変性疾患といて、認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上麻痺、多系統萎縮症、及びトリピレットリピート病から選択される疾患を含み得る。認知症には、アルツハイマー病、脳血管性認知症、ピック病など前頭側頭型、レビー小体型認知症、及び感染症(スピロヘータ、HIVウイルス、プリオンなど)による認知症が含まれる。また、MCI等の軽度認知障害も含まれる。認知症として好ましくは、軽度認知障害、アルツハイマー病、脳血管性認知症である。
予防には、神経変性疾患の発症を予防すること、神経変性疾患に伴う症状の悪化、もしくは進行を抑制することを含む。
治療には、発症した神経変性疾患の症状を軽減すること、又は消失させることを含み得る。
【0020】
上記魚肉組成物は、神経細胞の軸索を変性から保護するための組成物に加工することができる。神経細胞の軸索を変性から保護することには、軸索の形態を維持すること、及び/又は機能を維持することを含み得る。好ましくは、軸索の形態の維持である。
【0021】
上記魚肉組成物は、神経細胞においてニューロフィラメントタンパク質及びミエリン塩基性タンパク質から選択される少なくとも一種のタンパク質を維持するための組成物に加工することができる。前記タンパク質を維持することには、神経細胞における前記タンパク質の発現、又は量を維持すること、及び/又は前記タンパク質の機能を維持することを含み得る。好ましくは、前記タンパク質の発現、又は量を維持することである。ここで、神経細胞には、ミエリン鞘(髄鞘)を有する有髄神経細胞と、ミエリン鞘を有さない無髄神経を含み得る。ミエリン鞘は、神経細胞の軸索に巻き付く、オリゴデンドロサイト、又はシュワン細胞から構成されるが、本明細書では、オリゴデンドロサイト、及びシュワン細胞も神経細胞の一部として扱う。
【0022】
上記魚肉組成物は、インターロイキン6の発現を抑制するための組成物に加工することができる。インターロイキン6の発現は、前記組成物を投与した対象者における発現である限り制限されない。好ましくは、海馬又は大脳皮質におけるインターロイキン6の発現の抑制である。ここで、「抑制」には、インターロイキン6の発現を低下させること、又は発現を消失させることを含み得る。
【0023】
前記、予防及び/又は治療用の組成物、神経細胞の軸索を変性から保護するための組成物、神経細胞においてニューロフィラメントタンパク質及びミエリン塩基性タンパク質から選択される少なくとも一種のタンパク質を維持するための組成物、及びインターロイキン6の発現を抑制するための組成物は、魚肉組成物であってもよい。
組成物は、飲食品組成物、又は医薬組成物として使用することができる。
【0024】
組成物は、上記魚肉組成物と適当な担体又は添加剤を組み合わせて調製してもよい。上記組成物の調製に用いられる担体や添加剤としては、食品及び医薬品への使用が許容されるに各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤等を例示できる。
【0025】
上記組成物が経口投与されるものである場合の剤形は、特に制限されないが、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(硬質カプセル剤及び軟質カプセル剤を含む)、液剤、丸剤、懸濁剤、及び乳剤等を例示できる。また上記組成物が、非経口投与されるものである場合には、注射剤、点滴剤、坐剤、点鼻剤、及び経肺投与剤等を例示できる。
【0026】
上記組成物が、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤等の経口用固形組成物である場合の調製に際しては、担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム等の賦形剤;単シロップ、プドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウム等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フイルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
【0027】
上記組成物が、丸剤の経口用固形組成物である場合の調製に際しては、担体として、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0028】
上記組成物が、カプセル剤の経口用固形組成物である場合の調製に際しては、カプセル剤は有効成分を上記で例示した各種の担体と混合し、硬質カプセル、又は軟質カプセル等に充填して調製される。
上記製剤が液剤の場合には、水性又は油性の懸濁液、溶液、シロップ、エリキシル剤であってもよく、通常の添加剤を用いて常法に従い、調製される。
【0029】
飲食品組成物には、一般食品、保健機能食品(機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品)が含まれる。保健機能食品の定義及び分類は、日本の健康増進法、及び食品衛生法に定めるところによる。
【0030】
また、本発明の第2の態様である飲食品組成物には、ペット(イヌ、ネコ、ハムスター、ウサギ、トリなど)に対する飲食品(ペットフード)、及び家畜(牛、豚、家禽類)に対する飲食品(飼料組成物)も含まれる。
【0031】
本態様の飲食品組成物としては、特に制限されることはないが、例えば飲料(例:乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、スポーツ飲料、粉末飲料、茶飲料など)、冷菓(例:ゼリー、ババロア、プリンなど)、氷菓(例:アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット)、菓子類(例:クッキー、ビスケット、おかき、飴類、チョコレート類、ガム類)、パン類、麺類(例:中華麺、パスタ、うどん、蕎麦、素麺)、スープ類(粉末または固形スープを含む)、調味料(例:ドレッシング、ジュレ、ソース、マヨネーズ様ソース、たれ)などを挙げることができる。
【0032】
また本発明の飲食品組成物は、上記形態を有する飲食品の他に、サプリメント形態の飲食品組成物、及び病者用食品(要介護者用食品、及び嚥下困難者用食品を含む)を含む。このようなサプリメント形態の飲食品組成物や病者用食品として調製する場合、継続的な摂取が容易にできるように、例えば、液剤(ドリンク剤)、シロップ剤、ドライシロップ剤、ゼリー製剤(用時調製用のものを含む。以下同じ)、顆粒剤、散剤、丸剤、錠剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤)、トローチ剤、チュアブル剤等の製剤形態に調製することが好ましい。好ましくは、液剤(ドリンク剤)、ゼリー製剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤)であり、より好ましくは液剤(ドリンク剤)、ゼリー製剤である。かかる製剤形態の調製は、各製剤の形態に応じて、上述したように、薬学的に許容される担体又は添加剤を用いて、製剤製造の常法に従って行うことができる。
【0033】
なお、各国の国内法において、飲食品組成物に疾患との関係を表示することが禁じられている場合には、上記疾患との関係を国内法に抵触しない表示形式に変更することができる。例えば、脳を良好な状態(健康な状態)に保つため、記憶力を保つため等の表現を上記飲食品組成物の用途として表示しても良い。
【0034】
本発明の飲食品組成物の投与量としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、剤型、患者の年齢、性別、病状の程度等によって適宜設定され得るが、例えば、上記有効成分の量に換算して成人(15才以上)(体重約60kgとして計算する)1日量あたり0.1~1,000mg/kg程度、好ましくは0.5~500mg/kg程度である。
【0035】
組成物を医薬組成物として使用する場合、医薬組成物の投与量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されない。投与量は、剤型、患者の年齢、性別、病状の程度等によって適宜設定され得るが、例えば、上記有効成分の量に換算して成人(15才以上)(体重約60kgとして計算する)1日量あたり0.1~1,000mg/kg程度、好ましくは0.5~500mg/kg程度である。
【実施例0036】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
また、本実施例における動物実験は、関西大学の動物実験施設で、関西大学動物実験委員会の承認のもと行った。
【0037】
I.実験方法
1.魚肉タンパク質分析
1-1.魚肉タンパク質調製
スケトウダラ(Theragra chalcogramma)の冷凍切り身を解凍し、皮を除去後、細切して、業務用ミンサーでミンチ状にした。これを棒状に成形し、液体窒素で凍結後、凍結乾燥を行った。十分に凍結乾燥した後、ミキサーで粉砕した。そして十分量のn-ヘキサン:エタノール(1:1)混合溶液に浸漬し、脱脂した。脱脂後の残渣を風乾し、再度ミキサーで粉末化したものを魚肉タンパク質(FP)とした。
【0038】
1-2.アミノ酸組成分析(フェニルチオカルバモイル化法)
FP 5 mgと6 M塩酸2 mLを10 mL容蓋付きガラス試験管に入れ、ヘッドスペースを窒素で置換後、110℃で24時間加水分解を行った。その後、試料溶液10μLを1.5 mL容チューブに移し、2.5 mM L-2-Aminoadipic acid溶液10μLを加え、減圧デシケーター内で乾燥した。次に中和試薬(エタノール:超純水:トリエタノールアミン=2:2:1)20μLを加え、撹拌後、減圧デシケーター内で中和試薬を留去した。その後、フェニルチオカルバモイル化試薬(エタノール:超純水:トリエタノールアミン:フェニルイソチオシアナート=7:1:1:1)20 μLを加え、撹拌後、室温にて20分間反応した。そして、減圧デシケーター内でフェニルチオカルバモイル化試薬を留去し、PTC-Amino acids Mobile Phase A 1 mLに溶解後、0.45μmフィルターで濾過した。そして、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。HPLCの条件を下記に示す。
【0039】
HPLC条件(Prominence―式)
カラム:Wakopack Wakosil-PTC
(4.0 mm × 250 mm, 富士フイルム和光純薬株式会社製)
カラム温度:40℃
グラジエント条件:0 - 20 min , B液 = 0 - 70 %
検出波長:UV 254 nm
流量:1.0 mL/min
注入量10 μL
移動相:A液 PTC-Amino acids Mobile Phase A
B液 PTC-Amino acids Mobile Phase B
【0040】
1-3.一般組成分析
1-3-1.水分測定
常圧加熱乾燥法で水分含量を測定した。るつぼに一定量のFPを入れ、105℃のオーブン中で24時間乾燥し、減少した重量を求め、水分含量を測定した。
【0041】
1-3-2.灰分測定
直接灰化法で灰分含量を測定した。るつぼに一定量のFPを入れ、550℃の電子炉中で24時間加熱後の残渣重量を求め、灰分含量を測定した。
【0042】
1-3-3.粗脂質含量測定
Bligh & Dyer法で粗脂質含量を測定した。FP 1 gを試験管に入れ、蒸留水5 mL、メタノール10 mL、クロロホルム5 mLを加え十分に混合した。その後、蒸留水5 mL、クロロホルム5 mLを加え、十分に混合した。そして、2,000 rpmで10分間遠心分離を行い、クロロホルム層をパスツールピペットで回収した。再度、クロロホルム 10 mLを添加し、十分に混合し、遠心分離を行い、クロロホルム層を回収した。合一したクロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを添加し、脱水した。そして、ろ過により無水硫酸ナトリウムを除き、ろ液を重量既知のナス型フラスコに移し、エバポレーターにより溶媒を留去した。溶媒を留去したナス型フラスコを減圧デシケーター内で数時間乾燥し、脂質を含むナス型フラスコの重量を求め、あらかじめ測定しておいた空のナス型フラスコ重量との差分から、脂質含量を測定した。
【0043】
1-3-4.粗タンパク質含量測定
ミクロケルダール法で粗タンパク質含量を定量した。FP 0.02 gをケルダールフラスコに入れ、分解補助剤(K2SO4:CuSO4・5H2O=1:9, w/w)1 gと濃硫酸2 mLを加え、溶液が透明になるまで加熱後、放冷した。飽和ホウ酸5 mL、ケルダール試薬(0.1%メチルレッドと0.2%ブロムクレゾールグリーンの95%エタノール溶液を2 : 1の割合で混合)数滴を加えた三角フラスコをケルダール装置の出口に配置した。放冷した試料溶液をケルダール装置に加え、さらに15 mLの0.2 Mチオ硫酸ナトリウム含有15 M NaOH溶液を入れた。そして、蒸留水で共洗い後、加熱を開始した。ケルダール装置の出口に配置した三角フラスコの内容液のケルダール試薬が赤から青に変化した際からさらに5分間加熱した。その後、三角フラスコの内容液について、0.02 M HCl溶液で滴定した。以下の式から粗タンパク質含量を求めた。
【0044】
粗タンパク質含量 (g/100g) =[(0.00028×T×F×6.25)/S]×100
T : 滴定値(mL)
F : 0.02 M HCl溶液のファクター
S :試料量(g)
「/」は除算を示す。「×」は乗算を示す。
【0045】
2.動物実験
実験動物として4週齢の雄性SAMP10/TaSlcマウスを日本エスエルシー株式会社から購入した。SAMP10/TaSlcマウスは、老化促進モデルマウスの系統の1つである。餌料組成を表1に示す。餌料は各成分秤量後、乳鉢で十分に混合し調製した。α-コーンスターチ、β-コーンスターチ、ミルクカゼイン、ショ糖、セルロース、AIN93Gミネラル混合、AIN93ビタミン混合はオリエンタル酵母工業株式会社、L-シスチンはシグマアルドリッチジャパン合同会社、重酒石酸コリンと大豆油は富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。魚油は日本水産株式会社から購入した。
【0046】
【0047】
マウスの搬入後、1週間の予備飼育を行った。その後1群10匹として3群(対照群、FP群、FO群)に分けた。対照群には基本餌料のAIN93G餌料(カゼイン20%, w/w)を給餌した。FP群には対照群餌料のタンパク質源をFPに置換した餌料を給餌した。FO群には対照群餌料の脂肪源の一部を魚油(イワシ由来)に置換した餌料を給餌した。餌料及び水は自由摂取とした。飼育開始120日後、124日~127日後、130日~138日後にそれぞれY字型迷路試験、新奇物体認識試験、モーリスの水迷路試験を実施した。155日間飼育後、イソフルラン麻酔下でマウスから全血を採取し、安楽死させた。冷生理食塩水により灌流後、脳の摘出を行った。脳の右半球は分析を行うまで-80℃にて保存した。一方、脳の左半球は後述する4-1-1.で述べる免疫組織学的解析用に組織の固定を行った。採取した血液は遠心分離して血清を得て、日本医学株式会社に委託し血清生化学検査に供した。
【0048】
3.行動分析
脳機能の評価は以下に示す3種類の行動試験により行った。
3-1.Y字型迷路試験
Y字型迷路は、アーム長/400 mm、下部アーム幅/30 mm、上部アーム幅/100 mm、高さ/120 mmのサイズを使用した。3つのアームのうち1つのアームにマウスを置いた後、8分間放置し、マウスのアームへの進入回数を記録した。アームへの総進入回数を、自発行動量とした。さらに、3回連続して異なるアームに進入した回数をカウントし、以下の式から自発的交替行動変化率を求めた。また、本試験における進入の基準は、「マウスの臀部がアームの半分より奥に進入した時」とした。
【0049】
自発的交替行動変化率(%)=[(3回連続して異なるアームへ侵入した回数)/アームの総進入回数-1)]×100
(「/」は除算を示す。「-」は減算を示す。「×」は乗算を示す。)
【0050】
3-2.新奇物体認識試験
新奇物体認識試験には縦幅400 mm、横幅400 mm、高さ400 mmの黒色のボックスを用いた。1及び2日目は、ボックス内にマウスを10分間放置し、馴化を行った。3日目は、ケージ内に同一の物体を2つ置き、マウスを10分間放置した。4日目は、片方の物体を新奇物体に変え、マウスを10分間放置した。両物体を探索した時間を計測、総探索時間に対する新奇物体の探索時間の割合を算出し、記憶学習能力の指標とした。
【0051】
3-3.モーリスの水迷路試験
モーリス水迷路試験に用いた円形プールは室町機械株式会社から購入した。1日目は、マウスの遊泳能力を確認する目的で、120秒間で円形プールを遊泳させた。2日目は、円形プール内の水面0.5 cmの位置にプラットホームを設置し、マウスにプラットホームが安全な場所であることを認識させるため、プラットホームに30秒間滞在させ、その後15秒間遊泳させることを3回繰り返した。3日目から9日目は、マウスを円形プールの端から遊泳させ、プラットホームに到着した時間を計測した。
【0052】
4-1.海馬の免疫染色
記憶や空間作業記憶の形成を司る海馬について免疫組織学的解析を行うため免疫染色を行った。手順と使用した試薬は、以下の通りである。
【0053】
4-1-1.固定
摘出した脳を4%パラフォルムアルデヒド-リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(以下、「4%PFA」と略記する)に浸し、4℃で24時間固定した。次に、固定した脳を30%スクロース溶液に浸し、4℃で保管した。脳が30%スクロース溶液中に沈殿した後、30%スクロース溶液とTFM Tissue Freezing Medium(General Data Company Inc.)を等量混合した溶液に浸し、さらに4℃で24時間保管した。
【0054】
4-1-2.凍結ブロックの作成
固定した脳をキムタオル上へ置き、カミソリで嗅球及び小脳を除いた。TFM Tissue Freezing Mediumに浸漬後、ティシュー・テック(登録商標)クリオモルド(包埋皿)に脳の切断面を下にして入れた。次に、包埋皿にTFM Tissue Freezing Mediumを満たし、-80℃で凍結した。
【0055】
4-1-3.凍結切片の作成
クライオスタットを用いて、海馬の断面が確認できるように凍結ブロックを厚さ10μmに切断し、スライドグラスに貼り付けた。裏からドライヤーで温風をあて、切片をスライドグラスに密着した。
【0056】
4-1-4.抗原賦活化処理及び一次染色
湿潤箱に凍結切片を貼り付けたプレートを並べ、4%PFA 2 mLを切片上にのせ、10分間静置した。4%PFAを除き、PBSを1 mLのせてすぐに除き、再度PBSをのせ、5分間静置した。次にプレートを80℃のクエン酸緩衝液内に浸し、30分間抗原賦活化処理を行った。放冷後、PBS 1 mLのせてすぐに除き、再度PBSをのせ、5分間静置した。次にPBSを除き、プレートの四隅をSuper PAP Pen Mini(大道産業株式会社)で囲い、0.5% Triton-X in PBSを750μLのせ、15分間静置した。続いて、3%牛血清アルブミン(BSA)in トリス緩衝生理食塩水 with Tween 20(TBS-T)を750μLをのせ、30分間ブロッキングを行った。さらに、希釈した一次抗体を350μLのせ、4℃で24時間静置した。一次抗体として、Anti-Myelin Basic Protein(BioLegend製)、Anti-Neurofilament,Heavy(Merck製)を用いた。
【0057】
4-1-5.二次染色
プレートをTBS-Tで浸した状態で10分間振とうする洗浄工程を二度繰り返した。湿潤箱にプレートを並べ、希釈した二次抗体を350μLのせ、遮光しながら室温で2時間静置した。二次抗体として、Cy3-conjugated AffiniPure Goat ani-Mouse IgG(H+L)(富士フイルム和光純薬株式会社製)及びAlexa Fluore 488-conjugated AffiniPure Goat ani-Rabbit IgG(H+L)(Jackson Immunoresearch製)を用いた。その後、プレートをTBS-Tで浸した状態で10分間振とうする洗浄工程を二度繰り返した。プレートを湿潤箱に並べ、DAPI溶液を350μLのせ、10分間静置した。DAPI溶液をTBS-Tで洗浄し、TBS-Tで浸した状態で3分間振とう洗浄後、マウント処理を行った。
【0058】
4-1-6.顕微鏡観察
共焦点レーザー顕微鏡システム(Zeiss LSM700)で、海馬の免疫組織学的観察を行った。
【0059】
4-2.リアルタイムPCRによる遺伝子発現量測定
4-2-1.Total RNA抽出
-80℃で保存していた海馬の一部を1.5 mL容チューブに入れ、TRIzol(登録商標) Reagent(Thermo Fisher Scientific)200μL、ジルコニアビーズ3粒を加え、ビーズ式細胞破砕装置(トミー精工株式会社)を用いて破砕した(4℃、5,000 rpm、60秒)。次いで、TRIzol(登録商標) Reagent 800μL及びクロロホルム200μLを加え、撹拌した。その後、遠心分離(4℃、12,000 rpm、15分)し、上清を回収後、同容量のイソプロパノールを加えて撹拌し、遠心分離(4℃、12,000 rpm、5分)した。次いで、上清を除去し、75%エタノールを500μL加え撹拌後、遠心分離(4℃、12,000 rpm、3分)した。さらに上清を除去後、クリーンベンチ内で採取したTotal RNAを10分間乾燥し、RNA Free Water 100μL加え沈殿を溶解した。吸光光度計を用いてA260/A280を測定し、RNA濃度を求めた。
【0060】
4-2-2.cDNAの合成
分離したTotal RNAを用いてGoScript(商標) Reverse Transcriptase kit(Promega)の説明書に従って逆転写反応を行い、cDNAを合成した。
【0061】
4-2-3.リアルタイムPCR
合成したcDNAを鋳型にGoTaq(登録商標) qPCR Master Mix(Promega)を用いて、リアルタイムPCR(TP-850、タカラバイオ株式会社)を行った。使用したプライマーの塩基配列は以下の通りである。インターロイキン-6(IL-6)Forward: CCAGAAACCGCTATGAAGTTCC(配列番号1), Reverse: CCAGCATCAGTCCCAAGAAG(配列番号2)、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)Forward: AAATGGTGAAGGTCGGTGTG(配列番号3), Reverse: AATCTCCACTTTGCCACTGC(配列番号4)。
【0062】
II.結果
1.FP分析
1-1.アミノ酸組成
試料のアミノ酸組成の解析結果を
図1に示す。FPはカゼイン(CAS)と比較し、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシン、リジン、スレオニンの構成比率が高く、グルタミン酸、プロリン、セリン、チロシン、バリンの構成比率が低かった。
【0063】
1-2.一般成分組成分析
FPの一般成分組成を表2に示す。
【0064】
【0065】
2.動物実験
2-1.体重変化、餌料摂取量、水分摂取量
体重変化、餌料摂取量、水分摂取量は、対照群と比較し、FP及びFO群で有意な差は見られなかった。有意差検定は、Tukey-Kramer検定を用いた。
【0066】
2-2.臓器重量
解剖時の臓器重量(肝臓、腎臓、脾臓、脳、白色脂肪組織)において、すべての群間で有意差は見られなかった。有意差検定は、Tukey-Kramer検定を用いた。
【0067】
2-3.血清分析
総タンパク質、アルブミン、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、中性脂肪、総コレステロール、尿素窒素、クレアチン、尿酸、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、クロール、リン脂質、総脂質、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、不飽和鉄結合能(UIBC)、クレアチニンキナーゼ(CPK)、アルブミン/グロブリン(A/G)比、無機リン、高密度リポタンパク質(HDL)-コレステロール値の結果を表3に示す。
【0068】
【0069】
3.行動分析
3-1.Y字型迷路試験
自発行動量を
図2、自発的交替行動変化率を
図3に示す。自発行動量は各群間で有意差はなかったのに対し、自発的交替行動変化率はFP群で他の二群と比較して有意に高値を示した。
図3中「a」は「b」で示される群に対して、Tukey-Kramer検定で有意差がp < 0.05であったことを示す。
【0070】
3-2.新奇物体認識試験
新奇物体認識試験の結果を
図4に示す。新奇物体探索割合において、FP群は、対照群と比較して高値を示す傾向にあった(p= 0.06)。
【0071】
3-3.モーリスの水迷路試験
モーリスの水迷路試験の結果を
図5に示す。全群間において有意差はなかった。
【0072】
Y字型迷路試験及び新奇物体認識試験の結果、FPの給餌は、カゼインの給餌と比較して、短期記憶障害の予防及び短期記憶保持を向上させることが分かった。
【0073】
4.脳の組織解析
4-1.免疫染色による神経細胞変性抑制効果の検証
軸索形成に関わるミエリン塩基性タンパク質(MBP)及びニューロフィラメント(NF)を染色し、蛍光顕微鏡で確認した。対照群、FP群、FO群の海馬CA2付近の画像をそれぞれ
図6~
図8に示す。また、対照群、FP群、FO群の海馬歯状回の画像を
図10~
図11に示す。観察の結果、対照群と比較し、海馬CA2付近と歯状回においてFP群とFO群で神経軸索の形態が維持されていることを確認した。これらの結果は、FPの給餌は神経細胞の変性を抑制することを示している。また、変性の抑制の程度は、EPA及びDHAを豊富に含む魚油と同じであった。
【0074】
4-2.IL-6発現量の比較
リアルタイムPCRにより、海馬のIL-6遺伝子発現量を求めた。その結果を
図12に示す。FP群、及びFO群は対照群と比較してIL-6遺伝子発現量が減少傾向を示した。これらのことから、FP群、及びFO群は炎症反応の一部が抑制されている可能性があると考えられた。