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特開2022-67351内視鏡スネア用ワイヤおよび内視鏡スネア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067351
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】内視鏡スネア用ワイヤおよび内視鏡スネア
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/32 20060101AFI20220425BHJP
【FI】
A61B17/32 528
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176018
(22)【出願日】2020-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅人
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160FF23
(57)【要約】
【課題】
無茎のポリープや隆起状粘膜等を滑りが生じないようにスネアループで確実に締め付けることができ、滑り止め用の部材が脱落して体内に残留するおそれがなく、部材がシース開口部で引っ掛かって操作性が悪化することもない内視鏡スネア用ワイヤを提供する。
【解決手段】
内視鏡スネア用ワイヤ2は、表面が粗い第1の表面粗さ部分8と、表面が滑らかな第2の表面粗さ部分10とを有しており、前記第1の表面粗さ部分8の算術平均粗さRaが0.4μm以上1.0μm以下である。この第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合は5%以上が好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の金属素線を撚り合わせた内視鏡スネア用ワイヤであり、前記内視鏡スネア用ワイヤは、表面の算術平均粗さRaが0.4μm以上1.0μm以下である部分を有する内視鏡スネア用ワイヤ。
【請求項2】
前記内視鏡スネア用ワイヤは、第1の表面粗さ部分と、第2の表面粗さ部分とを有しており、前記第1の表面粗さ部分の算術平均粗さRaが0.4μm以上1.0μm以下であり、前記第2の表面粗さ部分の算術平均粗さRaが0.4μm未満である内視鏡スネア用ワイヤ。
【請求項3】
前記内視鏡スネア用ワイヤの第1の表面粗さ部分が前記内視鏡スネア用ワイヤの外部露出面に占める表面積の割合が、5%以上である請求項1又は2に記載の内視鏡スネア用ワイヤ。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか一項記載の内視鏡スネア用ワイヤを先端のループ部に用いたことを特徴とする内視鏡スネア。
【請求項5】
前記内視鏡スネア用ワイヤの第1の表面粗さ部分が、スネアのループ内周側にのみ存在する請求項4に記載の内視鏡スネア。
【請求項6】
前記内視鏡スネア用ワイヤの第1の表面粗さ部分が、スネアループの内周側となる外部露出面に占める表面積の割合が10%以上である請求項5に記載の内視鏡スネア。
【請求項7】
複数本の金属素線を撚り合わせた撚線体を、ローラの表面粗さRaが2μm以上8μm以下であるローラと、表面粗さRaが0.3μm以下であるローラで加圧加工する、内視鏡スネア用ワイヤの製造方法。
【請求項8】
金属素線を、ローラの表面粗さRaが2μm以上8μm以下であるローラで加圧加工し、前記加圧加工を施した少なくとも1本の素線と、前記加圧加工を施さない複数の素線とを撚線加工する、内視鏡スネア用ワイヤの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡スネア用ワイヤおよび内視鏡スネアに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下外科手術において病変部を切除するために、内視鏡用スネアが使用されている。内視鏡用スネアは一般に、可撓性シース内に操作ワイヤが軸線方向に進退自在となるように挿通配置されており、その操作ワイヤの先端には弾性ワイヤからなるスネアループが連結されている。操作ワイヤを手元側から軸線方向に進退操作することにより、スネアループが可撓性シースの先端内に出入りする構造となっている。スネアループは可撓性シース外では自己の弾性によって膨らみ、可撓性シース内に引き込まれることにより弾性変形して窄まるようになっている。
【0003】
そのような内視鏡用スネアのスネアループを構成する弾性ワイヤとして、複数の細いステンレス鋼線を撚り合わせた撚線が用いられるのが一般的である。しかし無茎のポリープや隆起状粘膜等を絞扼する際にスネアループが粘膜面で滑って、狙い通りの箇所を絞扼できない場合がある。
【0004】
そこで従来は、スネアループを構成する撚線に複数の滑り止め用チップをループ内側に向けてかしめて固定したものが提案されている。
【0005】
例えば実公平6-3549号公報においては、滑り止め用チップがポリープに食い込んで滑らないような工夫がなされている。しかし、この滑り止め用チップをスネア用ワイヤにかしめて固定したスネアにおいては、筒状のチップまたは丸められた板状のチップを外側から単に押しつぶすだけであることから、固定状態が安定せず、使用中にチップがずれて緩んだり、場合によっては外れてしまい体内に残留するおそれがあった。またスネアループをシースに引き込む際に、この滑り止め用チップがシースの開口部で引っ掛かって操作性が悪くなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平6-3549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、無茎のポリープや隆起状粘膜等を滑りが生じないようにスネアループで確実に締め付けることができ、滑り止め用の部材が脱落して体内に残留するおそれがなく、部材がシース開口部で引っ掛かって操作性が悪化することもない内視鏡スネア用ワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内視鏡スネア用ワイヤでは、複数本の金属素線を撚り合わせた内視鏡スネア用ワイヤであり、表面の算術平均粗さRaが0.4μm以上1.0μm以下である部分を有することである。
【0009】
好ましくは、この内視鏡スネア用ワイヤは、第1の表面粗さ部分と、第2の表面粗さ部分とを有しており、前記第1の表面粗さ部分の算術平均粗さRaが0.4μm以上1.0μm以下であり、前記第2の表面粗さ部分の算術平均粗さRaが0.4μm未満である。
【0010】
好ましくは、この内視鏡スネア用ワイヤの第1の表面粗さ部分が前記内視鏡スネア用ワイヤの外部露出面に占める表面積の割合が、5%以上である。
【0011】
他の観点によれば、本発明に係る内視鏡スネア用ワイヤをスネア先端のループ部に用いたことを特徴とするものである。
【0012】
好ましくは、この内視鏡スネア用ワイヤの第1の表面粗さ部分が、スネアのループ内周側にのみ存在する。
【0013】
好ましくは、この内視鏡スネア用ワイヤの第1の表面粗さ部分が、スネアループの内周側となる外部露出面に占める表面積の割合が10%以上である。
【0014】
本発明に係る内視鏡スネア用ワイヤの製造方法は、複数本の金属素線を撚り合わせた撚線体を、ローラの表面粗さRaが2μm以上8μm以下であるローラと、表面粗さRaが0.3μm以下であるローラで加圧加工することである。
【0015】
他の観点によれば、本発明に係る内視鏡スネア用ワイヤの製造方法は、金属素線を、ローラの表面粗さRaが2μm以上8μm以下であるローラで加圧加工し、前記加圧加工を施した少なくとも1本の素線と、前記加圧加工を施さない複数の素線とを撚線加工することである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るスネア用ワイヤは、スネアループと無茎のポリープや隆起状粘膜等との滑りがないためポリープの捕縛が良好である。さらに、滑り止め用の部材の脱落や、滑り止め材の引っかかりによる操作性の悪化も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る、スネア用ワイヤが示された正面図である。
図2図2(a)は、図1のスネア用ワイヤの断面方向における構造が示された拡大断面図で、図2(b)は、スネア用ワイヤの表面を粗く加工する前のベースワイヤが示された拡大断面図である。
図3図3は、図1のスネア用ワイヤの製造装置の一つである、ローラ装置の前面図である。
図4図4は、図3のローラ装置のローラが示された拡大正面図である。
図5図5は、図3のローラ装置で図1のスネア用ワイヤの表面を加工する状態を示した模式図である。
図6図6は、図1のスネア用ワイヤが算術平均粗さRaの測定装置と共に示された説明図である。
図7図7は、図1のスネア用ワイヤの第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合を測定する装置が示された正面図である。
図8図8(a)は、図7の測定における、スネア用ワイヤ2最初の測定位置を示した上面図であり、図8(b)は、図8(a)の断面図である。
図9図9(b)は、図8(a)の撮影位置から周方向に120°回転させた測定位置を示した上面図であり、図9(b)は、図9(a)の断面図である。
図10図10(a)は、図9(a)の撮影位置から周方向に120°回転させた測定位置を示した上面図であり、図10(b)は、図10(a)の断面図である。
図11図11は、本発明の他の実施形態に係る、スネア用ワイヤが示された断面図である。
図12図12(a)は、本発明の他の実施形態に係る、スネア用ワイヤが示された断面図であり、図12(b)は図12(a)のスネア用ワイヤが示された正面図である。
図13図13(a)は、本発明の他の実施形態に係る、スネア用ワイヤが示された断面図であり、図13(b)は図13(a)のスネア用ワイヤが示された正面図である。
図14図14は、図12及び図13のスネア用ワイヤの製造装置の一つである、ローラ装置の前面図である。
図15図15は、図14のローラ装置のローラが示された拡大正面図である。
図16図16は、図14のローラ装置で、図12図13の第1の表面粗さ側素線の表面を加工する状態を示した模式図である。
図17図17は、図1のスネア用ワイヤを部材として使用する内視鏡スネアで、ポリープを絞扼している状態を示す模式図である。
図18図18は、本発明の他の実施形態に係る、内視鏡スネアで、ポリープを絞扼している状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0019】
図1には、内視鏡スネア用ワイヤ2(以下、「スネア用ワイヤ2」という)が示されている。このスネア用ワイヤ2は金属素線から形成されている。この金属素線の材質としてはステンレス鋼、ニッケルチタン合金などが挙げられるが、これらの材質にとらわれるものではない。特にステンレス鋼としては、SUS304,SUS316Lが好ましい。SUS304は、入手が容易で比較的安価である。SUS316Lは、ステンレス鋼の中で最も耐食性が良好である。ニッケルチタン合金は耐食性が良好であるため、スネア用ワイヤ2の材料として好ましい。
【0020】
このスネア用ワイヤ2を構成している金属素線は、ステンレス鋼等の原線を、ダイスによる伸線や、圧延にて所定の線径まで縮径することで得られる。ダイスによる伸線や、圧延にて縮径することで得られる金属素線の表面の算術平均粗さRaは0.4未満である。特にダイスによる伸線の場合は、ダイヤモンドダイスを使用することで、その表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下である滑らかなものが得られる。
【0021】
このスネア用ワイヤ2は長尺である。このスネア用ワイヤ2が所定長さに切断され、スネアループとして用いられる。このスネア用ワイヤ2の側面には長さ方向に亘って第1の表面粗さ部分8が形成されている。
【0022】
図2(a)は、このスネア用ワイヤ2の拡大断面図である。図2(a)にはスネア用ワイヤ2の長さ方向に対して垂直な断面が示されている。このスネア用ワイヤ2は、1本のコア素線4と、6本の側素線6とを有している。図2(a)において矢印Dで示されているのは、スネア用ワイヤ2の直径であり、典型的には、0.1~0.5mmであり、好ましくは0.25~0.40mmである。
【0023】
側素線6は、コア素線4の周りを螺旋状に巻かれている。この実施形態では、図1の左側から右側に向かって反時計回りに、側素線6が撚られている。このスネア用ワイヤ2は、いわゆる層撚り構造を有する。この実施形態では、スネア用ワイヤ2は、「1+6」の層撚り構造を有している。6本の側素線6は、この層撚り構造における最外層を形成している。
【0024】
撚り合わされて最外層となった側素線6には後述する外部露出面7がある。側素線6の外部露出面7には表面を粗く加工した第1の表面粗さ部分8と表面が滑らかな第2の表面粗さ部分10が示されている。この実施形態では、第1の表面粗さ部分8が、スネア用ワイヤ2の左半周側にのみ形成されている。第1の表面粗さ部分8以外の部分は、表面を粗くする加工がされていない第2の表面粗さ部分10が形成されている。
【0025】
図2(b)は、スネア用ワイヤ2の表面を粗く加工する前のベースワイヤ3が示されている。ベースワイヤ3の最外層には、隣の側素線6同士の接触点やコア素線4との接触面を除外した部分である外部露出面7が示されている。この外部露出面7は以降の全てのスネア用ワイヤにおいて同様に考えることができる。なお、最外周の隣接するワイヤ同士が接触点を有しない場合は、最外周の素線の外周の1/2を外部露出面とする。
【0026】
ベースワイヤ3を後述のローラ装置12に通すことで、その表面粗さが調整される。ベースワイヤ3の表面粗さを調整する方法として、エッチング液の槽にベースワイヤ3を通す、ベースワイヤ3の表面に直接ショットブラストを施すなどの処理でもよい。
【0027】
図3は、ローラ装置12が示された概念図である。ローラ装置12はジグザグに配置された複数のローラ13を有している。図3の実施形態では、ローラ13の数は11である。これらのローラ13に沿って、ベースワイヤ3がジグザグに進行する。
【0028】
図4は、ローラ装置12のローラ13が示された拡大正面図である。このローラ13は溝14を有している。溝14は第1の表面粗さ用の溝16と、第2の表面粗さ用の溝18とを有する。この2種類の溝の表面粗さがベースワイヤ3の表面に転写されることで、第1の表面粗さ部分8や第2の表面粗さ部分10が形成される。第1の表面粗さ用の溝16は、ショットブラストにて算術平均粗さRaが2μm以上8μm以下に調整されている。第2の表面粗さ用の溝18は、研磨加工にて算術平均粗さRaが0.3μm以下に調整されている。
【0029】
図5は、ローラ13の溝14でベースワイヤ3の表面が処理されている拡大上面図である。図の上側に第2の表面粗さ用の溝18を有するローラ13を配置し、図の下側に第1の表面粗さ用の溝16を有するローラ13を配置して、ベースワイヤ3を処理する場合には、ベースワイヤ3の上半分に第2の表面粗さ部分10が形成され、ベースワイヤ3の下半分に第1の表面粗さ部分8が形成される。
【0030】
ローラ装置12においてローラ13の個数、ローラ13の押し込み量、ローラ装置12出口でのベースワイヤ3の張力を調整することにより、第1の表面粗さ部分8での算術平均粗さRaの大きさや、第1の表面粗さ部分8が外部露出面7に占める表面積の割合を調整することが可能である。ローラ13の個数、ローラ13の押し込み量、ローラ装置12出口でのベースワイヤ3の張力の好ましい範囲は以下のとおりである。
ローラの数:9-15個
ローラ装置出口でのベースワイヤの張力:破断荷重の40-70%
ローラの押し込み量:溝深さの30-300%
ローラ13の押し込み量は、ベースワイヤ3を中心にして向かい合うローラ13の溝14以外の表面同士が一直線に揃う状態を0%として、向かい合うローラ13同士が交差する方向へ、どの程度押し込まれたかを計測して求められる。
【0031】
撚り合わされて表面粗さが調整された後、ひずみ取り熱処理を施すことでスネア用ワイヤ2が得られる。
【0032】
第1の表面粗さ部分8の算術平均粗さRaは0.4μm以上1.0μm以下であることが好ましい。算術平均粗さRaが0.4μm以上であるスネア用ワイヤ2は、無茎のポリープ又は隆起状粘膜等(以下、「無茎ポリープ等」という)を絞扼する際にスネアループが外れにくく捕縛性に優れる。この観点から算術平均粗さRaは0.6μm以上がより好ましい。この算術平均粗さRaが1.0μm以下であるスネア用ワイヤ2は、内視鏡スネアとして使用する際に断線しにくい。この観点から算術平均粗さRaは0.8μm以下がより好ましい。
【0033】
第2の表面粗さ部分10の算術平均粗さRaは0.4μm未満であることが好ましい。第2の表面粗さ部分10の算術平均粗さRaが0.4μm未満であるスネア用ワイヤ2は、スネアループをシースに引き込む際の摩擦が小さいため、操作性が良好である。この観点から、算術平均粗さRaは0.3μm以下がより好ましく、0.2μm以下が特に好ましい。
【0034】
算術平均粗さRaは、「JIS B0601:2001」の規定に準拠して測定される。測定は、三鷹光器社の非接触輪郭形状測定装置「MLP-2」によってなされる。図6に、測定の様子が示されている。この装置は、照射器20を有している。第1の表面粗さ部分8を測定する場合には、この照射器20から、スネア用ワイヤ2を構成する側素線6の第1の表面粗さ部分8に向かってレーザー22が照射される。第2の表面粗さ部分10を測定する場合には、照射器20から、側素線6の第2の表面粗さ部分10に向かってレーザー22が照射される。
【0035】
スネア用ワイヤ2は、図6(a)の矢印Aで示された方向(径方向)に、相対的に移動する。図6(a)では、レーザー22が点P1を照射している。図6(b)では、レーザー22が点P2を照射している。図6(a)に示された時点から図6(b)に示された時点までの、スネア用ワイヤ2の側素線6の第1の表面粗さ部分8、若しくは第2の表面粗さ部分10の形状が測定され、算術平均粗さRaが算出される。換言すれば、算術平均粗さRaは、スネア用ワイヤ2の側素線6の径方向に沿って測定される。測定のピッチは、1.00μmである。点P1は、側素線6の前側から、この側素線6の径Dの15%の位置である。点P2は、スネア用ワイヤ2の後側から、このス側素線6の径Dの15%の位置である。従って、測定距離は、側素線6の径Dの70%である。
【0036】
この第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合は5%以上が好ましい。第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合が5%以上であるスネア用ワイヤ2は、無茎ポリープ等を絞扼する際にスネアループが外れにくく捕縛性に優れる。この観点から第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合は15%以上がより好ましく、25%以上が特に好ましい。無茎ポリープ等のスネアループによる捕縛性は、第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合が高い方が向上するため、100%でもよい。
【0037】
第1の表面粗さ部分8はローラ装置12での加工によって形成されることから、外部露出面7の第1の表面粗さ部分8以外の部分は、第2の表面粗さ部分10となっている。
【0038】
図7は、第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合を測定する装置であるマクロスコープ30が示されている。測定はキーエンス社のマイクロスコープ「VHX-5000」によってなされる。顕微鏡部32に配置された測定サンプルであるスネア用ワイヤ2の画像データが本体部34に送られ、画像解析によって割合が算出される。
【0039】
図8図7の測定をする際のスネア用ワイヤ2の撮影位置と撮影範囲を示した図である。図8(a)はスネア用ワイヤ2最初の測定位置を示した上面図で、図8(b)は図8(a)の断面図である。図9(a)は図8(a)の撮影位置から周方向に120°回転させた測定位置を示した上面図で、図9(b)は図9(a)の断面図である。図10(a)は図9(a)の撮影位置から周方向に120°回転させた測定位置を示した上面図で、図10(b)は図10(a)の断面図である。
【0040】
図7の装置を使用して図8(a)の視野で撮影したスネア用ワイヤ2画像の測定範囲36を範囲指定して、表面が粗い故にハレーションを起こした部分と、そうでない部分とで二値化する。二値化したデータを元に第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合が算出される。続いて図9(a)の視野になるようスネア用ワイヤ2を周方向に120°回転させ、同様に測定を行う。更に図10(a)の視野になるようスネア用ワイヤ2を周方向に120°回転させて同様に測定を行う。上記3回分の測定値を平均することで、求める第1の表面粗さ部分8が外部露出面7に占める表面積の割合が算出される。
【0041】
本発明のこの実施形態のスネア用ワイヤ2では図2のように「1+6」の層撚り構造が示されているが、図11のように1本のコア素線42の周りに6本の中間層側素線43が配置されており、更に外側の層に12本の最外層の側素線44が配置された「1+6+12」構造のスネア用ワイヤ40でもよい。このスネア用ワイヤ40の場合、最外層の側素線44に第1の表面粗さ部分46が形成される。
【0042】
図12は、本発明の他の実施形態に係るスネア用ワイヤ60が示された図である。図12(a)が断面図で、図12(b)が正面図である。図12(a)で示すように、このスネア用ワイヤ60はコア素線62が1本と、その表面が第1の表面粗さ部分68で覆われている第1の表面粗さ側素線64が3本と、その表面が第2の表面粗さ部分10で覆われている第2の表面粗さ側素線66が3本とで構成されている。図12(a)、図12(b)で示すように、3本の第1の表面粗さ側素線64が隣り合わせで配置されているため、正面から見ると3本毎に第1の表面粗さ側素線64と第2の表面粗さ側素線66が交互に配置されている。
【0043】
図13は、本発明の他の実施形態に係るスネア用ワイヤ69が示された図である。図13(a)が断面図で、図13(b)が正面図である。図12と同様に、コア素線62が1本と、その表面が第1の表面粗さ部分68で覆われている第1の表面粗さ側素線64が3本と、その表面が第2の表面粗さ部分10で覆われている第2の表面粗さ側素線66が3本とで構成されている。図13(a)、図13(b)で示すように、第1の表面粗さ側素線64と第2の表面粗さ側素線66は交互に配置されているため、正面から見ても第1の表面粗さ側素線64と第2の表面粗さ側素線66が交互に配置されている。
【0044】
この第1の表面粗さ側素線64は、撚り合わせる前の素線を後述するローラ装置70で加工される。
【0045】
以下図12のスネア用ワイヤ60及び図13のスネア用ワイヤ69の製造の一例が示される。ステンレス鋼等の原線をダイスによる伸線や、圧延にて所定の線径まで縮径し、コア素線及び側素線用の細線材72が準備される。ダイスによる伸線や、圧延にて縮径することで得られる金属素線の表面の算術平均粗さRaは0.4未満である。特にダイスによる伸線の場合は、ダイヤモンドダイスを使用することで、その表面粗さが滑らかな第2の表面粗さ部分10とすることができ、コア素線用材料と第2の表面粗さ側素線用材料が準備される。この細線材72をローラ装置70に通すことで、第1の表面粗さ側素線64用の材料が準備される。
【0046】
図14は、ローラ装置70が示された概念図である。ローラ装置70はジグザグに配置された複数のローラ74を有している。図14の実施形態では、ローラ74の数は11である。これらのローラ74に沿って、細線材72がジグザグに進行する。
【0047】
図15は、ローラ装置70のローラ74が示された拡大正面図である。このローラ74は溝76を有している。溝76は第1の表面粗さ用の溝78を有する。この第1の表面粗さ用の溝78の表面粗さが細線材72の表面に転写されることで、第1の表面粗さ部分68が形成される。第1の表面粗さ用の溝78は、ショットブラストにて算術平均粗さRaが2μm以上8μm以下に調整されている。
【0048】
図16は、ローラ74の溝76で細線材72の表面が処理されている拡大上面図である。図の全てのローラに第1の表面粗さ用の溝78を有するローラ74を配置し、細線材72を処理することで、細線材72の全周に第1の表面粗さ部分68が形成され、第1の表面粗さ側素線64用の材料が得られる。この第1の表面粗さ側素線64用の材料を作成する際、図5のように溝の表面粗さが異なるローラの使用や押し込み量等を調整することで、第1の表面粗さ側素線64用の材料の表面全体に占める第1の表面粗さ部分8の割合を変更することができる。
【0049】
この第1の表面粗さ側素線64用の材料3本と、コア素線62用材料1本と、第2の表面粗さ側素線66用の材料3本の7本を撚り合わせた後、ひずみ取り熱処理を施すことで、スネア用ワイヤ60若しくはスネア用ワイヤ69が得られる。
【0050】
この第1の表面粗さ側素線64用の材料3本と、コア素線62用材料1本と、第2の表面粗さ側素線66用の材料3本の7本を撚り合わせる際に、第1の表面粗さ側素線64用の材料3本を隣り合わせに配置して撚ることで、スネア用ワイヤ60の形状が得られ、側素線材料として第1の表面粗さ側素線64用の材料と第2の表面粗さ側素線66用の材料を交互に配置して撚ることで、スネア用ワイヤ69の形状が得られる。
【0051】
これらのスネア用ワイヤ60及びスネア用ワイヤ69のように、第1の表面粗さ側素線64を含む実施形態では、最外層を構成する側素線の少なくとも1本が第1の表面粗さ側素線64であればよい。また第1の表面粗さ側素線64と第2の表面粗さ側素線66の最外層における配置は適宜調整することができる。
【0052】
図17は、前記本発明のスネア用ワイヤを部材として使用する内視鏡スネア80で、無茎ポリープ等100を絞扼している状態を示す模式図である。内視鏡スネア80は、先端部にスネアループ82の材料として前記本発明のスネア用ワイヤを使用している。適切な長さに切断されたスネア用ワイヤをループ状に束ねてスネアループ82とし、図示されていない操作ワイヤに固定して、可撓性シース84の内部に挿通した構造となっている。なお図中では第1の表面粗さ部分8は省略している。
【0053】
図17の模式図では図示されていない内視鏡の処置具挿通チャンネルから、内視鏡スネア80の先端を突き出し、スネアループ82で無茎ポリープ等100を囲んでから、スネアループ82を可撓性シース84内に部分的に引き込むことにより、ある程度窄ませて無茎ポリープ等100を締め付けている状態を示している。
【0054】
本発明のスネア用ワイヤは、第1の表面粗さ部分8を有している。従ってこの内視鏡スネア80は、無茎ポリープ等100を絞扼する際にスネアループ82が外れにくく捕縛性が高く、かつ断線しにくい。
【0055】
図18は、本発明の他の実施形態に係るスネア86で、無茎ポリープ等100を絞扼している状態を示す模式図である。スネアループ88はスネア用ワイヤ2をループ状に成型する際に、第1の表面粗さ部分8が無茎ポリープ等100と接する内周側に位置するように成型されている。スネアループの外周側には第2の表面粗さ部分10が位置している。
【0056】
第1の表面粗さ部分8がスネアループ88の内周側に位置していることで、無茎ポリープ等100への捕縛性が向上する。第2の表面粗さ部分10が、可撓性シース90と接触する外周側に位置していることで、スネアループ88を可撓性シース90に引き込む際の摩擦が小さいため、操作性が良好である。
【0057】
第1の表面粗さ部分8が、スネアループ88の内周側となる外部露出面7に占める表面積の割合は10%以上が好ましい。無茎ポリープ等のスネアループによる捕縛性は、第1の表面粗さ部分8が、外部露出面7に占める表面積の割合が高い方が向上するため、内周側の全面でもよい。
【0058】
本発明のスネアは、スネアループを構成する材料として、金属線以外の材料は使用されていない。またスネアループの表面に、滑り止めを目的とした特別な突起物は設置されていない。従ってスネアループをシースに引き込む際に、滑り止め用の部材が脱落して体内に残留するおそれがなく、部材がシース開口部で引っ掛かって操作性が悪化することもない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係るスネア用ワイヤは、様々なスネアの材料として用いられうる。
【符号の説明】
【0060】
2、40、60、69・・・スネア用ワイヤ
3・・・ベースワイヤ
4、42、62・・・コア素線
6、・・・側素線
8、46、68・・・第1の表面粗さ部分
10・・・第2の表面粗さ部分
12、70・・・ローラ装置
13、74・・・ローラ
14、76・・・溝部
16、78・・・第1の表面粗さ用の溝
18・・・第2の表面粗さ用の溝
20・・・照射器
22・・・レーザー
30・・・マイクロスコープ
32・・・顕微鏡部
34・・・本体部
36・・・測定範囲
43・・・中間層側素線
44・・・最外層側素線
64・・・第1の表面粗さ側素線
66・・・第2の表面粗さ側素線
72・・・細線材
80、86・・・内視鏡スネア
82、88・・・スネアループ
84、90・・・可撓性シース
100・・・無茎ポリープ等
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17
図18