(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067468
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20220425BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220425BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
B41J2/14 201
B41J2/01 401
B41J2/015 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176187
(22)【出願日】2020-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅規
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EB07
2C056EB30
2C056EB49
2C056EB59
2C056EC07
2C056EC38
2C056EC42
2C056EC54
2C056FA03
2C056JA13
2C056JC13
2C057AF99
2C057AL25
2C057AM19
2C057AM31
2C057BA03
2C057BA13
(57)【要約】
【課題】適切なタイミングでエージング回復動作を実行できる構成を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置は、複数のノズルを有し、発熱素子で発生した熱エネルギーを利用し、複数のノズルを介してインクを吐出可能な記録ヘッドと、記録ヘッドの温度を検知可能な温度センサと、発熱素子の駆動を制御可能な制御部と、を備える。制御部は、第一の出力で発熱素子を駆動させて、記録ヘッドに記録材へインクを吐出させる画像形成動作(印刷)と、複数のノズルの吐出回数(吐出数)に基づいて、第一の出力よりも大きい第二の出力で発熱素子を駆動させて、記録ヘッドにインクを吐出させるエージング回復処理とを実行可能である。制御部は、指令により画像形成動作で画像形成を行う印刷ジョブの終了時に温度センサにより検知した温度が高い方が低い場合よりもエージング回復処理を実行するタイミングを早くする。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを有し、発熱素子で発生した熱エネルギーを利用し、前記複数のノズルを介してインクを吐出可能な吐出部と、
前記吐出部の温度を検知可能な温度検知手段と、
前記発熱素子の駆動を制御可能であり、第一の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部に記録材へインクを吐出させる第一モードと、前記複数のノズルの吐出回数に基づいて、前記第一の出力よりも大きい第二の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部にインクを吐出させる第二モードとを実行可能な制御手段と、を備え、
前記制御手段は、指令により前記第一モードで画像形成を行う画像形成ジョブの終了時に前記温度検知手段により検知した温度が高い方が低い場合よりも前記第二モードを実行するタイミングを早くする、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、複数の前記画像形成ジョブを実行した場合に、複数の前記画像形成ジョブの終了時に検知した温度の平均値が高い方が低い場合よりも前記第二モードを実行するタイミングを早くする、
ことを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記複数のノズルをそれぞれ前記複数のノズルの数よりも少ない数のノズルにより構成される複数のノズル群に分けた場合に、前記第二モードの実行タイミングにおいて、前記複数のノズル群のうち、ノズルの吐出回数の合計が所定回数以上のノズル群に対して前記第二モードを実行し、他のノズル群に対しては前記第二モードを実行しない、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
複数のノズルを有し、発熱素子で発生した熱エネルギーを利用し、前記複数のノズルを介してインクを吐出可能な吐出部と、
前記吐出部の温度を検知可能な温度検知手段と、
前記発熱素子の駆動を制御可能であり、第一の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部に記録材へインクを吐出させる第一モードと、前記第一の出力よりも大きい第二の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部にインクを吐出させる第二モードとを実行可能な制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記複数のノズルをそれぞれ前記複数のノズルの数よりも少ない数のノズルにより構成される複数のノズル群に分けた場合に、
指令により前記第一モードで画像形成を行う画像形成ジョブの終了時に前記温度検知手段により検知された前記吐出部の温度と、前記画像形成ジョブの前記複数のノズル毎の吐出回数とに基づいて、前記吐出部の温度が高い方が低い場合よりも、前記複数のノズル毎の前記吐出回数に対し回数が多くなるようにそれぞれ重みづけをして、前記複数のノズル群毎に前記吐出回数を累計し、
前記複数のノズル群の少なくとも何れかにおいて、前記吐出回数の累計値が第一の値を超えた場合に、前記複数のノズル群のうち、前記吐出回数の累計値が前記第一の値よりも小さい第二の値以上の前記ノズル群のノズルに対して、前記第二モードを実行する、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
複数のノズルを有し、発熱素子で発生した熱エネルギーを利用し、前記複数のノズルを介してインクを吐出可能な吐出部と、
前記吐出部の温度を検知可能な温度検知手段と、
前記発熱素子の駆動を制御可能であり、第一の出力で前記発熱素子を駆動させて、記録材にインクを吐出させる第一モードと、ユーザの指令に基づいて、前記第一の出力よりも大きい第二の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部にインクを吐出させる第二モードとを実行可能な制御手段と、
指令により前記第一モードで画像形成を行う画像形成ジョブ毎の、前記複数のノズル毎の吐出回数と、前記画像形成ジョブの終了時に前記温度検知手段により検知された前記吐出部の温度とを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御手段は、
前記複数のノズルをそれぞれ前記複数のノズルの数よりも少ない数のノズルにより構成される複数のノズル群に分けた場合に、
ユーザの指令により前記第二モードを実行する際に、前記記憶部に記憶された前記吐出部の温度と、前記複数のノズル毎の吐出回数とに基づいて、前記吐出部の温度が高い方が低い場合よりも、複数の前記ノズル毎の前記吐出回数に対し回数が多くなるようにそれぞれ重みづけをして、前記複数のノズル群毎に前記吐出回数を累計し、
前記複数のノズル群のうち、前記吐出回数の累計値が第一所定値以上の前記ノズル群のノズルに対して、前記第二モードを実行する、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
ユーザに情報を通知可能な通知手段を備え、
前記制御手段は、前記記憶部に記憶された吐出回数の累計値が前記第一所定値よりも大きい第二所定値に達した場合に、前記通知手段により、前記第二モードを実行すべき旨の情報をユーザに通知する、
ことを特徴とする、請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記発熱素子に印加する電圧の周波数を小さくすることにより、前記発熱素子の駆動出力を低くすることが可能であり、前記第二モードの実行時に、前記複数のノズル群のうち、第二モードを実行するノズル群の数が多い方が少ない場合よりも、前記発熱素子に印加する電圧の周波数を小さくする、
ことを特徴とする、請求項4ないし6の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記複数のノズルには、インクを吐出可能な吐出口が形成され、
前記吐出口を覆うことが可能な覆い部材と、
前記覆い部材に設けられ、前記覆い部材に覆われた前記吐出口から吐出されたインクを保持可能な保持部材と、を備え、
前記制御手段は、前記第二モード実行時に、前記発熱素子を駆動させることで吐出部に前記覆い部材に覆われた吐出口を介して前記保持部材へインクを吐出させる、
ことを特徴とする、請求項1ないし7の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のノズルよりインクを吐出させることで画像形成を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吐出ヒータ(発熱素子)上に付着する焦げ付き(コゲ)を除去するためにエージング回復処理と呼ばれる記録用の吐出駆動(第一モード)とは異なる吐出駆動(第二モード)を実行する技術が知られている。このエージング回復処理の実行タイミングを、記録ヘッド毎に累積(累計)された吐出回数に基づき、決定している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、吐出時の温度が高いほどコゲの付着量が多くなり易い。しかしながら、特許文献1では、記録ヘッド毎のインクの吐出回数のみによりエージング回復処理(第二モード)のタイミングを決定しているため、適切なタイミングでエージング回復処理を行えない可能性がある。
【0005】
本発明は、適切なタイミングで第二モード(エージング回復処理)を実行できる構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数のノズルを有し、発熱素子で発生した熱エネルギーを利用し、前記複数のノズルを介してインクを吐出可能な吐出部と、前記吐出部の温度を検知可能な温度検知手段と、前記発熱素子の駆動を制御可能であり、第一の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部に記録材へインクを吐出させる第一モードと、前記複数のノズルの吐出回数に基づいて、前記第一の出力よりも大きい第二の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部にインクを吐出させる第二モードとを実行可能な制御手段と、を備え、前記制御手段は、指令により前記第一モードで画像形成を行う画像形成ジョブの終了時に前記温度検知手段により検知した温度が高い方が低い場合よりも前記第二モードを実行するタイミングを早くする、ことを特徴とする。
【0007】
本発明は、複数のノズルを有し、発熱素子で発生した熱エネルギーを利用し、前記複数のノズルを介してインクを吐出可能な吐出部と、前記吐出部の温度を検知可能な温度検知手段と、前記発熱素子の駆動を制御可能であり、第一の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部に記録材へインクを吐出させる第一モードと、前記第一の出力よりも大きい第二の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部にインクを吐出させる第二モードとを実行可能な制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記複数のノズルをそれぞれ前記複数のノズルの数よりも少ない数のノズルにより構成される複数のノズル群に分けた場合に、指令により前記第一モードで画像形成を行う画像形成ジョブの終了時に前記温度検知手段により検知された前記吐出部の温度と、前記画像形成ジョブの前記複数のノズル毎の吐出回数とに基づいて、前記吐出部の温度が高い方が低い場合よりも、前記複数のノズル毎の前記吐出回数に対し回数が多くなるようにそれぞれ重みづけをして、前記複数のノズル群毎に前記吐出回数を累計し、前記複数のノズル群の少なくとも何れかにおいて、前記吐出回数の累計値が第一の値を超えた場合に、前記複数のノズル群のうち、前記吐出回数の累計値が前記第一の値よりも小さい第二の値以上の前記ノズル群のノズルに対して、前記第二モードを実行する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明は、複数のノズルを有し、発熱素子で発生した熱エネルギーを利用し、前記複数のノズルを介してインクを吐出可能な吐出部と、前記吐出部の温度を検知可能な温度検知手段と、前記発熱素子の駆動を制御可能であり、第一の出力で前記発熱素子を駆動させて、記録材にインクを吐出させる第一モードと、ユーザの指令に基づいて、前記第一の出力よりも大きい第二の出力で前記発熱素子を駆動させて、前記吐出部にインクを吐出させる第二モードとを実行可能な制御手段と、指令により前記第一モードで画像形成を行う画像形成ジョブ毎の、前記複数のノズル毎の吐出回数と、前記画像形成ジョブの終了時に前記温度検知手段により検知された前記吐出部の温度とを記憶する記憶部と、を備え、前記制御手段は、前記複数のノズルをそれぞれ前記複数のノズルの数よりも少ない数のノズルにより構成される複数のノズル群に分けた場合に、ユーザの指令により前記第二モードを実行する際に、前記記憶部に記憶された前記吐出部の温度と、前記複数のノズル毎の吐出回数とに基づいて、前記吐出部の温度が高い方が低い場合よりも、複数の前記ノズル毎の前記吐出回数に対し回数が多くなるようにそれぞれ重みづけをして、前記複数のノズル群毎に前記吐出回数を累計し、前記複数のノズル群のうち、前記吐出回数の累計値が第一所定値以上の前記ノズル群のノズルに対して、前記第二モードを実行する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適切なタイミングでエージング回復処理を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成断面図。
【
図2】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の装置本体の動作を説明するための模式図。
【
図3】第1の実施形態に係る記録ヘッド周りのエージング回復処理に関する構成を示す模式図。
【
図4】第1の実施形態に係る記録ヘッドの構成を示す模式図。
【
図5】第1の実施形態に係る記録ヘッドのノズル周りの一部断面図。
【
図6】(a)発熱素子に印加するダブルパルスを示す図。(b)発熱素子に印加するシングルパルスを示す図。
【
図7】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の制御ブロック図。
【
図9】ヘッド温度毎の画像不良の発生する累計吐出数を示す図。
【
図10】第1の実施形態におけるエージング回復処理に関するフローチャート。
【
図11】印刷時に用いる駆動パルス条件決定のためのテーブルAを示す表。
【
図12】重みづけに関する演算のためのテーブルBを示す表。
【
図13】重みづけした累計ポイントの記録のためのテーブルCを示す表。
【
図14】ノズル毎の累計ポイントとエージング回復処理の実施領域を示す図。
【
図15】エージング回復処理の実施領域数に応じた駆動パルスの周波数を表すテーブルDを示す表。
【
図16】エージング回復処理時に用いる駆動パルス条件の決定のためのテーブルEを示す表。
【
図17】(a)第1の実施形態におけるエージング回復処理前の印字品位イメージを表す図。(b)第1の実施形態におけるエージング回復処理後の印字品位イメージを表す図。
【
図18】(a)第2の実施形態における印刷ジョブを示すフローチャート(b)第2の実施形態におけるエージング回復処理を示すフローチャート。
【
図19】第2の実施形態における累計吐出数を記録するためのテーブルFを示す表。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
第1の実施形態について、
図1ないし17を用いて、説明する。まず、第1の実施形態に係るインクジェット記録装置1について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置1の概略構成を示す断面図である。本実施形態において、インクジェット記録装置1の本体1Aには、発熱素子で発生した熱エネルギーを利用してインクを吐出可能な吐出部としての記録ヘッドユニット30aが搭載されている。
【0012】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」と言う場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。さらに人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、「記録材」(「シート」という場合もある)とは、一般的な記憶装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0013】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0014】
[インクジェット記録装置]
このようなインクジェット記録装置1は、
図1に示すように、装置本体1Aと給送部10とを備える。給送部10は、ロールシートPを収納する収容部10aと、一対の給送ローラ10bとを有する。収容部10a内に内蔵しているロールシートPは、一対の給送ローラ10bの回転駆動により、装置本体1Aに供給される。また、装置本体1Aは、ロールシートPを搬送可能な搬送部20と画像形成部30と、回復部40と、制御手段としての制御部50(
図7参照)と、を有する。
【0015】
搬送部20は、給送部10から搬送されたロールシートPを画像形成部30に搬送し、画像形成後のロールシートPを、排出口1Eを介して、機外へ順に搬送する。画像形成部30は、搬送されてきたロールシートPに第一モードとしての画像形成動作を行う。回復部40は、画像形成部30に安定して画像形成を行えるように、後述する第二モードとしてのエージング回復処理等の回復動作を行う。制御部50は、給送部10、搬送部20、画像形成部30、回復部40等のインクジェット記録装置1が有する各構成の動作を制御する。以下、具体的に説明する。
【0016】
まずは、搬送部20について、
図1を用いて詳しく説明する。搬送部20は、ロールシートPを載置して搬送する搬送ベルト20aと、この搬送ベルト20aを張架するローラ20bと、ローラ20bと搬送ベルト20aを挟んで対向する位置に配置されるローラ20cと、を有する。
【0017】
搬送ベルト20aは、搬送モータ20dにより回転駆動される。ローラ20cは、搬送ベルト20aとの間で搬送するロールシートPを挟持しつつ運搬可能である。また、ローラ20cは、搬送ベルト20aのロールシートPを載置する面のうち、記録ヘッドユニット30aからインク吐出が行われる記録領域からロールシートPの搬送方向X上流側と下流側に外れた領域に配置されている。
【0018】
搬送部20は、上流側のローラ20cと搬送ベルト20aとで上流側ニップ部を形成し、下流側のローラ20cと搬送ベルト20aとで下流側ニップ部を形成可能である。搬送部20は、これらの上流側ニップ部と下流側ニップ部とで給送部10から給送されたロールシートPを挟持しつつ、図中矢印で示される搬送方向Xに搬送し、画像形成部30へ搬送する。
【0019】
次に、画像形成部30について、
図1及び
図2を用いて詳しく説明する。
図2は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の動作を説明するための模式図である。画像形成部30は、
図1に示すように記録ヘッドユニット30aと、インクタンク30dK、30dC、30dM、30dYと、を有する。また、記録ヘッドユニット30aは、
図2に示されるように、搬送ベルト20aのロールシートPを搬送する搬送面と対向する位置に設けられている。記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYは、後述するが、それぞれ内部に発熱素子群を内蔵しており、発熱素子で発生した熱エネルギーによりインクが加熱されることで、ノズルからインクを吐出可能である。
【0020】
また、4本の記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYにインクを供給しているのが、
図1に示される、上述の各色のインクタンク30dK、30dC、30dM、30dYである。インクタンク30dK、30dC、30dM、30dYは、装置本体1Aにおいて搬送ベルト20aの下方に配置されている。
【0021】
また、不図示のフレキシブルチューブ等でそれぞれ対応する色の記録ヘッド30A1に接続され、各色のインクを供給可能に構成されている。記録ヘッド30aKにはインクタンク30dK、記録ヘッド30aCにはインクタンク30dC、記録ヘッド30aMにはインクタンク30dM、記録ヘッド30aYにはインクタンク30dYに対応している。また、4本の記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYの詳細については、後述する。
【0022】
搬送ベルト20aに載置されつつ搬送されてきたロールシートPは、
図2に示されるように、記録ヘッドユニット30aに対向する位置に到達する。すると、記録ヘッドユニット30aは、対向するロールシートPに対して、相対移動しながら、受信した印字データに合わせて、ブラックインク(Bk)、シアンインク(C)、マゼンタインク(M)、イエローインク(Y)の順序でインクを吐出する。これにより、記録ヘッドユニット30aは、第一モードとしての画像の記録を行う。画像が記録されたロールシートPは、搬送ベルト20aによって排出側へと搬送されていき、排出口1Eに設けられた不図示の排出ガイドにより、整列して排出され、折りたたまれる構成となっている。
【0023】
[回復部]
次に回復部40について、
図1ないし
図3を用いて詳しく説明する。
図3は、第1の実施形態に係る記録ヘッド周りの後述するエージング回復処理に関する構成を示す模式図である。回復部40は、
図3に示されるように、覆い部材としての回復桶部材40aと、廃インク(廃液)を収容可能な廃液タンク部材40bと、不図示のポンプと、を有する。後述するが、複数のノズルには、インクを吐出可能な吐出可能な吐出口が形成されており、回復桶部材40aは、待機中の記録ヘッドユニット30aの複数のノズルの吐出口の暴露を防止するために、複数のノズルの吐出口を密接に覆うことが可能である。
【0024】
また、回復桶部材40aは、
図3に示すようにインクを保持可能な保持部材40a1を有する。言い換えると、回復桶部材40aに覆われた吐出口から吐出されたインクを保持可能な保持部材40a1は、回復桶部材40aに設けられている。本実施形態に係るインクジェット記録装置1では、第二モードとしてのエージング回復処理時に、記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYは、発熱素子の熱エネルギーにより、回復桶部材40aが有する保持部材40a1にインクを吐出する。
【0025】
言い換えると、制御部50は、エージング回復処理実行時に、発熱素子を駆動させることで記録ヘッドユニット30aに、回復桶部材40aに覆われた状態で、後述する吐出口30aK2を介して保持部材40a1へインクを吐出させる。
【0026】
また、記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYは、エージング回復処理にて、ヒータ加熱にて発生する気泡によるキャビテーションを用いて、ヒータ上に堆積するコゲをはがすことができる。この時、回復桶部材40aの外にインクが溢れたり、飛散しないように、回復桶部材40aの下位置でポンプによって、回復桶部材40a内に溜まったインクIを吸引し、廃液タンク部材40bに送っている。
【0027】
[記録ヘッドユニット]
次に、記録ヘッドユニット30aについて、
図4及び
図5を用いて、更に詳しく説明する。
図4は、第1の実施形態に係る記録ヘッドユニット30aの構成を示す模式図である。
図5は、第1の実施形態に係る記録ヘッドユニット30aについて、ノズル周りを一部破断した断面図である。記録ヘッドユニット30aは、
図4に示すように、搬送方向Xに対して上流側から、記録ヘッド30aK、記録ヘッド30aC、記録ヘッド30aM、記録ヘッド30aYを配列した構成を有する。
【0028】
なお、記録ヘッド30aKは、ブラックインク(K)を吐出し、記録ヘッド30aCはシアンインク(C)を吐出し、記録ヘッド30aMはマゼンタインク(M)を吐出し、記録ヘッド30aYはイエローインク(Y)を吐出する。この4本の記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYはいずれも接しており、それぞれの間にはギャップが無い構成となっている。
【0029】
また、記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYは、それぞれ、記録素子としての発熱素子群(ヒータ群)30bK,30bC,30bM,30bYを有する。発熱素子群(ヒータ群)30bK、30bC、30bM、30bYは、記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYがそれぞれ有する複数のノズル内に設けられている。
【0030】
例えば、
図5に示すように、記録ヘッド30aKの有する複数のノズルのうちのノズル30aK1の内部に、発熱素子群30bKのうちの発熱素子30bK1が設けられ、発熱素子30bK1を駆動させることにより、吐出口30aK2からインクを吐出する。また、発熱素子群30bK,30bC,30bM,30bYに近接した位置に、
図4に示すように、記録ヘッドユニット30a内の温度を検知可能な温度検知手段としての温度センサ30cK,30cC,30cM,30cYが設けられている。温度センサ30cK,30cC,30cM,30cYは、例えばダイオードセンサである。
【0031】
なお、発熱素子は、インクジェット記録装置における記録素子の一種である。記録素子は、一つの吐出口に対応づけられたアクチュエータであり、ヒータやピエゾ素子など、様々な種類のものを含む。言い換えると、本実施形態では、記録素子としてヒータである発熱素子を用いており、各記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYにおいて、記録素子は、例えば1200dpiの間隔で配置されている。
【0032】
また、各発熱素子群30bK,30bC,30bM,30bYに対して、発熱をアシストするためのサブヒータが、それぞれ設けられてもよい。また、本実施形態では、発熱素子群に対して1つの温度センサが設けられているが、複数のセンサを設けても良い。例えば、1つの発熱素子につき、1つの温度センサを設けても良い。
【0033】
[発熱素子に印加する駆動パルス]
次に、発熱素子に印加する駆動パルスについて、
図6(a)、(b)を用いて説明する。
図6(a)は、記録ヘッドにインクを吐出させる時に発熱素子に印加するダブルパルス501を示す図である。
図6(b)は、記録ヘッドにインクを吐出させる時に発熱素子に印加するシングルパルス502を示す図である。発熱素子に印可する駆動パルスには、
図6(a)に示すダブルパルス501、あるいは
図6(b)に示すシングルパルス502を採用している。本実施形態では、通常印刷時の駆動パルスとエージング回復処理時の駆動パルスとには、ダブルパルスを採用している。
【0034】
通常印刷時の駆動パルスの印加時間T1およびT3は、
図11に示す吐出パルステーブルを参照して決定し、T2は、1860nsで固定としている。これらの通常印刷時の駆動パルスのエネルギーは、第一の出力として吐出係数1.2で設計している。一方、エージング回復処理時の駆動パルスの印加時間T1およびT3は、
図16に示すエージングパルステーブルを参照して決定する。T2は、通常印刷時と同様に1860nsで固定としている。これらのエージング回復処理時の駆動パルスのエネルギーは、第二の出力として吐出係数1.45で設計している。
【0035】
言い換えると、制御部50は、発熱素子の駆動を制御可能であり、第一の出力で発熱素子を駆動させて、記録ヘッドユニット30aにロールシートPへインクを吐出させる第一モードとしての画像形成動作を実行可能である。また、後述する複数のノズルの吐出回数に基づいて、第一の出力よりも大きい第二の出力で発熱素子を駆動させて、記録ヘッド30aK、30aC。30aM、30aYにインクを吐出させる第二モードとしてのエージング回復処理を実行可能である。なお、吐出係数は、以下の式によって求めることができる。
【数1】
【0036】
Topは、T1とT3を足し合わせたエネルギー印加時間、Tthはインク滴が吐出し始める最小シングルパルス幅を示している。なお、吐出係数Kは、インクの色や種類(染料、顔料)、また、記録ヘッドによって異なるため、都度、設計することが好ましい。
【0037】
なお、エージング回復処理等の回復動作には、予備吐出という、エージング回復処理と同様に、回復桶部材40aにインクを吐出して不図示のポンプに吸引させ廃液タンク部材40bに送ることで、ノズル内の増粘したインクを排出する動作がある。しかし、予備吐出は、駆動パルスの吐出係数が通常印刷時の1.2を用いており、エージング回復処理とは異なる動作である。なお、予備吐出で印加する吐出エネルギーが通常の記録時と同等であるのに対し、エージング回復処理では、通常印刷時よりもパルス長(ON時間)を長くすることで、エージング回復処理で用いる駆動パルスに、より大きなエネルギーを持たせるようにしている。
【0038】
[制御部]
次に、第1の実施形態に係る制御部50について、
図7を用いて説明する。
図7は、本実施形態におけるインクジェット記録装置1の制御ブロック図である。制御部50は、CPU50a、イメージメモリ50b、プログラムROM50c、ワークRAM50d、EEPROM50e、入出力ポート50f、出力ポート50g、ホストインターフェイス50h、ヘッド駆動回路50i、記録ヘッド温度検出部50j、ポイント演算部50kを有する。CPU50aは、ホストコンピュータ80からホストインターフェイス50hを介して記録データを受信する。
【0039】
記録データは、イメージメモリ50bに一時的にあらかじめ決められたサイズの記録画像の展開が行われ、記憶される。展開完了後、CPU50aは、出力ポート50gを介して、給送部10、搬送部20、画像形成部30の各々が持つ駆動モータ等の不図示のアクチュエータを駆動し、指令により画像形成を行う画像形成ジョブとしての印刷ジョブにおける記録動作をスタートさせる。CPU50aは、イメージメモリ50bの読み出しを開始し、ヘッド駆動回路50iを介して、各記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYに順次記録データを転送し、ロールシートPにカラー記録を行わせる。
【0040】
記録を行う際、記録ヘッド温度検出部50jにより検出した温度に基づいて、発熱素子に印可する駆動条件が決定される。これら一連の動作は、プログラムROM50cに記憶された制御プログラムに基づき、CPU50aが実行する。CPU50aは、その実行の際に必要とする作業用メモリとしてワークRAM50dを利用する。制御部50には、このほかに種々の指令やデータなどの入力を行うオペレーションパネル70、EEPROM50e、給送部10及び搬送部20にてロールシートPの搬送状態を検出するセンサ類60が接続されている。
【0041】
ここで、印刷の際に、吐出されたドットの数(吐出回数)が、記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aY毎に計数され、ポイント演算部50kによって、それぞれ累計ポイントが記憶部としてのEEPROM50eに書き込まれる。なお。このようなEEPROM50eは、各記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aY内に設けられる構成であってもよい。
【0042】
[ヘッド温度とコゲの堆積量との関係]
次に、ヘッド温度とコゲの堆積量との関係について、
図8及び
図9を用いて説明する。
図8は、ヘッド温度と画像不良との関係性を調べるために、連続印刷した場合と間欠印刷した場合とを比較した図である。
図9は、ヘッド温度毎に画像不良の発生する吐出数を調査した結果を示す図である。
【0043】
図8において、間欠印刷は、時間をかけて1枚ずつ間欠印刷したケースを示し、連続印刷は、一度に連続印刷したケースを示す。印刷画像(601)は、どちらもマゼンタの同じ画像を用いている。印刷画像(601)を繰り返し印刷した際のヘッド温度(602)を比較すると、連続印刷の方が、印刷中のヘッド温度が高いことが分かる。図の603は、合計10,000枚印刷した後に、ハーフトーン(25%Duty)画像を印刷し、印字不良(擦れ具合)をチェックしたときの様子を示す。
【0044】
間欠印刷も連続印刷も同じ累計ドット数であるにも関わらず、擦れ具合は連続印刷の方が目立つことから、より高温で印刷する方が、より印字不良が発生しやすく、発熱素子にコゲが堆積しやすいことが分かる。なお、このようなヘッド温度上昇の要因としては、連続印字する枚数の他に、外気温や印刷する画像の内容すなわち濃度が挙げられる。例えば、濃度の低い画像であれば吐出回数が少ないため、ヘッド温度が上がりにくく、逆に濃度の高い画像であれば吐出回数が多くなり、ヘッド温度が上がりやすくなる。
【0045】
以上から、より高温で印刷するほうが、より早くコゲが堆積することがわかる。ここで、本実施形態では、温度センサ30cK,30cC,30cM,30cYにより検知された、記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYの温度に基づいて、エージング回復処理のタイミング、および発熱素子の駆動条件を決定している。具体的には、検知温度に応じて、より検知温度が高い方がエージング回復処理を行うタイミングが早くなるように、重みづけを行っている。
【0046】
言い換えると、制御部50は、印刷ジョブの終了時に温度センサ30cK、30cC、30cM、30cYにより検知した温度が高い方が低い場合よりもエージング回復処理を実行するタイミングを早くする。また、制御部50は、複数の印刷ジョブを実行した場合に、複数の印刷ジョブの終了時に検知した温度の平均値が高い方が低い場合よりもエージング回復処理を実行するタイミングを早くする。
【0047】
具体的には、
図9に示すヘッド温度毎の不良発生回数を調査した表に基づき、
図12に示すノズル毎の重みづけの演算のための数値を決定している。ここで、
図9は、ヘッド温度を変えた、複数のパターンで連続印刷を行い、画像不良の発生する吐出数を調査した結果をまとめた表である。なお、
図9において、○は、濃度低下がなく品質がOKな画像を示し、△は、やや濃度低下がみられるものの品質上はOKな画像を示し、×は、濃度低下が見られ品質がNGとなる画像を示す。
【0048】
[第1の実施形態に係るエージング回復処理の制御フロー]
次に、第1の実施形態に係るエージング回復処理の制御フローについて、
図10ないし17を用いて説明する。
図10は、第1の実施形態におけるエージング回復処理に関するフローチャートである。
図11は、印刷時の駆動パルスの条件を決定するためのテーブルAである。
【0049】
図11のT1、T3は、
図6(a)に示すダブルパルスにおける2つのパルスのパルス幅を示す。インクジェット記録装置1に備えられる記録ヘッドは、記録ヘッドの抵抗値のばらつきを補正するための情報に基づき、複数のランクに分けられている。「Head Rank」は、そのランクを示すもので、インクジェット記録装置1は、例えば、装着された記録ヘッドの情報からこのランクを知ることができる。
【0050】
「Temp」は、温度センサ30cK、30cC、30cM、30cYにより検知される記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aY内の温度で、各欄ではその数値の温度未満であることを示している。例えば、「<15℃」は、記録ヘッド内の温度が15℃未満であることを示している。表の見方としては、各記録ヘッドの該当するランク、温度に該当するテーブルを参照して、駆動パルス幅を決定する。
【0051】
図12は、吐出回数に重みづけの演算をするための重みづけ値が記載されたテーブルBである。
図12の「検出温度」は、温度センサ30cK、30cC、30cM、30cYにより検知される記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aY内の温度(TEMP)を示す。
【0052】
例えば、「15℃≦TEMP<25℃」は、記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aY内の温度が15℃以上25℃未満であることを示している。検出温度がこの範囲である場合、重みづけ値は同じ行の“1.020”となり、表の下に記載された演算式に従い、重みづけ演算ができる。
図13は、
図12で重みづけの演算後の数値を記録するためのテーブルCである。
図13の領域は、記録ヘッドの複数のノズルを複数のノズル群として、324個に分けたものであり、後述するように、それぞれの領域の累計ポイントが
図13のテーブルに保存される。
【0053】
図14は、領域毎の累計ポイントをプロットしたグラフと決定したエージング回復処理の実施領域を示す図である。
図14に示すグラフの横軸は領域のノズル列における位置を示し、縦軸は各領域の累計ポイント数を示す。更に、累計ポイントをプロットした点群と、エージング回復処理タイミング決定のための第一の値としての既定ポイントと、エージング回復処理実施領域決定のための第二の値又は所定回数としての既定ポイント×1/2とをそれぞれ示す直線と、が記されている。後に、エージング回復処理のタイミングと実施領域の決定について、このグラフを用いて説明を行う。
【0054】
図15は、エージング回復処理の実施対象の領域数に応じて設定する駆動パルスの周波数を示すテーブルDである。
図15の「エージング領域数」は、エージング回復処理の実施が決まった領域の数の上限を示しており、下限は左の欄に記される上限値から判断できる。例えば、「~144」の欄は、その欄の左のテーブルが「~108」と記されていることから、実施領域数が109~144個であることを示している。「周波数(Hz)」は、エージング回復処理時に印加する駆動パルスの周波数となる。例えば、実施領域数が109~144個の範囲内にある場合、印加するエージングパルスの周波数は、3000Hzとなる。
【0055】
図16は、エージング回復処理時の駆動パルスの条件を決定するためのテーブルEであり、
図11と同様の図である。
図17(a)、(b)は、通常印刷(ハーフトーン印刷)に関して本実施形態に係るエージング回復処理前後の印字品位イメージを表す図であり、(a)は、エージング回復処理前のハーフトーン画像を、(b)は、エージング回復処理後のハーフトーン画像をそれぞれ示している。
【0056】
図10により、エージング回復処理について具体的に説明する。まず、インクジェット記録装置1の電源をONにする(S1)。印刷ジョブ(画像形成ジョブ)を受信した時点で(S2)、各記録ヘッド30aK、30aC、30aM、30aYのエージングフラグ情報を読み込む(S3)。読み込んだ情報からエージングフラグのON/OFFを確認する(S4)。エージングフラグが立っていない(OFF)場合(S4:NO)、ヘッド温度を取得(S5)し、
図11に示す吐出パルステーブルAを参照(S6)する。S5で取得したヘッド温度に基づいて、印刷条件として吐出パルス条件を決定し(S7)、受信した画像データを印刷する(S8)。
【0057】
印刷ジョブ終了時に、発熱素子の温度(温度検知手段としての温度センサ30cK,30cC,30cM,30cYにより検知された温度)の取得(S9)、および、各ノズルの吐出数(吐出回数)の取得を行う(S10)。次に、
図12に示すポイント演算テーブルBを参照することによって、取得したノズル毎の吐出回数に対して重みづけを行い、ポイントを演算する(S11)。
【0058】
即ち、制御部50は、印刷ジョブの終了時に温度センサ30cK、30cM、30cC、30cYにより検知されたヘッド温度と、印刷ジョブの複数のノズル毎の吐出回数とに基づいて、ヘッド温度が高い方が低い場合よりも、複数のノズル毎の吐出回数に対し回数が多くなるようにそれぞれ重みづけをする。この重みづけをした吐出回数が、以下に説明する各領域のポイントとなる。
【0059】
演算したポイントは、
図13に示したポイント演算テーブルCに記録する(S12)。ここで、S11における演算は、複数のノズルをノズル群としての領域ごとに分けて行う。
図13で扱う各領域には16の発熱素子ずつ割り当てられる。すなわち、一つの記録ヘッドの5184個の発熱素子群を324個の領域に分けて演算や記録するようにしている。
【0060】
言い換えると、制御部50は、複数のノズルをそれぞれ複数のノズルの数よりも少ない数のノズルにより構成される複数の領域に分けており、各領域毎にポイントを累計している。これは発熱素子1つずつ温度と吐出数、ポイントを扱うと、処理速度と記録容量を切迫するためである。もし、CPU、RAM、ROMの容量に余裕があるならば、各発熱素子毎にポイントを扱ってもよい。
【0061】
引き続き、累計したポイントが第一の値としての規定ポイントに達したかどうかを判定する(S13)。言い換えれば、累計したポイントが規定ポイントに達した領域があるか否かを判定する。本実施形態において、規定ポイントを1,000,000としているが、使用するインクや記録ヘッドに合わせて設定することが好ましい。上記、規定ポイントを超えていた場合(S13:YES)、規定ポイントの1/2以上(第二の値以上)のポイントを持つ領域を検出(S14)する。
【0062】
ノズル毎の累計ポイントからエージング回復処理の実施領域を決定する様子を、
図14を用いて説明する。
図14は、上述のようにS12にて記録された各領域の累計ポイントがグラフ上にプロットされている。また、エージング回復処理の判定のための既定ポイントが直線1201で示されている。プロットされたポイントがこの直線1201よりも上方にある場合に、累計したポイントが既定ポイントに達したと判定する。
【0063】
また、直線1201で示されている規定ポイントの1/2にあたる第二の値、又は所定回数としてのポイントを直線1202で示している。この場合、プロットされた累計ポイントが直線1202で示されている規定ポイントを超えている領域がエージング回復処理の実施領域と判断する。
図14では、縦線Lと縦線Rとの間にあるため、縦線Lと縦線Rに囲われる範囲にある累計ポイントに該当する領域のノズルをエージング回復処理実施対象に決定する(S15)。
【0064】
言い換えると、エージング回復処理実行のタイミングにおいて、複数の領域のうち、重みづけされたノズルの吐出回数の合計が既定ポイント以上の領域に対してエージング回復処理を実行し、他の領域に対しては、エージング回復処理を実行しない。
【0065】
なお、規定ポイントの1/2以上のポイントを有する発熱素子をエージング回復処理の対象としているのは、
図9で示される△のような、品質はOKだが濃度低下が見られるような発熱素子に対してもエージング回復処理を行うためである。しかし、処理対象を決める閾値は既定ポイントの1/2ではなくてもよい。例えば、既定ポイントの1/3でもよいし、既定ポイントでもよい。
【0066】
次に、
図15に示すエージング周波数テーブルDを参照し(S16)、エージング回復処理対象領域数に基づいて、エージング回復処理の周波数を決定後、エージングフラグを立て(S17)、その後、印刷ジョブ待ち(S18)に戻る。すなわち、S13にて既定ポイントに達していた場合は、エージングフラグが立つことになるため、後述するように、次回印刷ジョブ開始時にエージング回復処理を実行することとなる。
【0067】
言い換えると、複数の領域の少なくとも何れかにおいて、吐出回数の累計値(ポイント累計)が第一の値(既定ポイント)を超えた場合に、複数の領域のうち、第二の値(所定の回数、既定ポイントの1/2)以上の領域のノズルに対して、第二モードとしてのエージング回復処理を実行する。
【0068】
また、
図15に示すエージング周波数テーブルDに記載されている駆動周波数は、エージング回復処理領域数に応じて増減させた数値となっている。これは、エージング回復処理領域数に応じてヘッド内の温度が変わり、ヘッド内の温度が変わることで、エージング回復処理中の焦げの除去効果が低下することを抑制するため、駆動周波数を調整することで、エージング回復処理に適した温度にヘッド温度を調整している。エージング回復処理領域数に応じてヘッド内の温度が変わるのは、エージング回復処理領域が多くなるほど、発熱するヒータの数が増えるためである。
【0069】
また、印刷中のヘッド温度によってコゲの堆積が変わることと同様に、エージング回復処理中のヘッド温度によってもコゲの除去効果は変わる。具体的には、コゲの除去効果の高いエージング回復処理に適した温度があり、更に温度が一定以上になるとコゲ除去がうまく行えない傾向がある。これは、ヘッド温度が高くなりすぎると、ヘッド内で小さい泡が繋がって、ノズルを塞ぐような大きな泡となり、正常な吐出が行えなくなるためである。本実施形態では、通常の記録時のヘッド温度は、40~50℃であり、エージング回復処理の最適な温度は60℃である。エージング回復処理時は、この最適な温度になるように駆動条件が設定されている。
【0070】
また、吐出周波数は、1秒間の加熱回数であり、吐出周波数が高くなるほど、エージング回復処理中のヒータ上の温度が高くなり、一方、吐出周波数が低いほど、ヒータ上の温度を下がるため、周波数を調整することでヘッド温度を調整するようにしている。例えば、エージング回復処理領域が増えると、同じ周波数で吐出を行っても、発熱するヒータの数が増えるため、ヘッド温度が上昇するので、その分周波数を下げる必要がある。
図15では、エージング回復処理領域が増えるにつれて、増えた分吐出周波数が低くなるように設定されている。
【0071】
言い換えると、制御部50は、発熱素子に印加する電圧の周波数を小さくすることにより、発熱素子の駆動出力を低くすることが可能である。また、エージング回復処理実行時に、複数の領域のうち、エージング回復処理を実行する領域の数が多い方が少ない場合よりも、発熱素子に印加する電圧の周波数を小さくするようにしている。
【0072】
一方、エージングフラグ確認時(S4)に、エージングフラグが立っていた場合(S4:YES)、エージング回復処理モードに移行する(S19)。ヘッド温度取得(S20)後、
図16に示したエージングパルステーブルEを参照し(S21)、エージング回復処理の駆動パルス条件のT1およびT3を決定し(S22)、エージング回復処理を実行する(S23)。なお、上述の通り、T2は1860nsで固定としている。
【0073】
なお、本実施形態では、
図11と
図16に示すように、発泡を安定させるために予め加熱するパルスの印加時間T1と、その熱をインクに伝えるための時間T2は、通常の記録とエージング回復処理で同じ条件としている。したがって、吐出エネルギーは、発泡を行うパルスの印加時間T3で調整している。しかし、T3での発泡を安定化できる条件であれば、通常の記録時とエージング回復処理時のT1とT2は、それぞれ異なる設定でも良い。また、T2はT1で印加したパルスの熱がインクに伝わるのに十分な時間であれば1860nsでなくても良い。
【0074】
また、フローチャートには図示していないが、エージング回復処理中は、定期周期でヘッド温度を取得して駆動パルス条件を更新するような制御であってもよい。また、本発明のエージング回復処理時にエージング回復処理対象のノズルから吐出する吐出数は1,200,000発としているが、各インクや記録ヘッド、またはプリンタ本体の仕様によって最適化することが好ましい。
【0075】
エージング回復処理後、エージングフラグを解除(S24)するとともに、エージング回復処理を実施した領域のポイント値をリセット(S25)してから、S5以降の印刷動作を実施する。ここで、
図17に示すように、本実施形態に係るエージング回復処理による画像不良の改善について確認すると、エージング回復処理前の濃度カスレ(a)が、エージング回復処理実施後(b)は改善していることが分かる。以上より、本実施形態のインクジェット記録装置1では、印刷ジョブの終了時に温度センサによる温度が高い方が低い場合よりもエージング回復処理を実行するタイミングを早くすることで、適切なタイミングでエージング回復処理を実行できることが確認できる。
【0076】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、
図18(a)ないし19を用いて説明する。
図18(a)は、第2の実施形態における印刷ジョブに関する制御を示すフローチャートである。
図18(b)は、第2の実施形態におけるエージング回復処理に関する制御を示すフローチャートである。
図19は、第2の実施形態におけるヘッド温度毎の吐出数や累計吐出数を記録するためのテーブルFである。
【0077】
第1の実施形態では、印刷ジョブ毎にポイント演算を実施していたが、第2の実施形態ではエージング回復処理モード移行後にポイント演算を実施している。また、第1の実施形態では、印刷ジョブ中にエージング回復処理のフラグを確認し、フラグが立っている場合は、自動でエージング回復処理モード移行するが、第2の実施形態は、ユーザの操作により、エージング回復処理モードに移行する。なお、その他の構成及び作用は、上述の第1の実施形態と同様であるため、同様の構成には同じ符号を付し、説明及び図示を省略又は簡略にし、以下、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0078】
[第2の実施形態に係るエージング回復処理の制御フロー]
まず、フローチャートを用いて、第2の実施形態における印刷ジョブとエージング回復処理の制御について説明する。まずは、印刷ジョブに関する制御について説明する。
図18(a)のフローチャートに示されるように、印刷(S8)終了後に、温度取得(S9)の結果と吐出数取得(S10)の結果とを
図19に示すドット数管理テーブルFに記録する(S26)。
【0079】
図19に示すように、ドット数管理テーブルFには、各領域のドット数(吐出回数)を温度別に記録するとともに、各領域の累計ドットカウント値の演算結果を記録する。次に、累計ドット数が、第二所定値(後述する第一所定値よりも大きい値)としての規定ドットカウント数である800,000発に達したか判定する(S27)。達していない場合(S27:NO)は、印刷ジョブ待ち状態(S18)に戻る。達している場合(S27:YES)は、通知手段としてのホストコンピュータ80にエージング回復処理実施を推奨する通知(第二モードを実行すべき旨の情報の通知)を行い(S28)、印刷ジョブ待ち状態(S18)に戻る。
【0080】
ホストコンピュータ80(
図7参照)により通知を受け取ったユーザは、ホストコンピュータ80やオペレーションパネル70(
図7参照)を介して、制御部50にエージング回復処理の実行指令を送信する。制御部50は指令を受信すると、後述するエージング回復処理モードを実行する。言い換えると、制御部50は、印刷ジョブ毎の、複数のノズル毎の吐出回数を記憶部としてのEEPROM50eに記憶する。また、印刷ジョブ終了時の発熱素子の温度(温度検知手段としての温度センサ30cK,30cC,30cM,30cYにより検知された温度)もEEPROM50eに記憶する。
【0081】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1は、ユーザに情報を通知可能なホストコンピュータ80を備えている。制御部50は、EEPROM50eに記憶された吐出回数の累計値が、第二所定値としての既定ドットカウント数を超えた場合に、ホストコンピュータ80に所定の情報としてのエージング回復処理実施を推奨する通知をユーザに通知させる。なお、上記、規定ドットカウント数は、
図9の結果に基づき決定している。
【0082】
図18(b)に示されるフローチャートは、上述のように、本実施形態のインクジェット記録装置1のユーザが、ホストコンピュータ80を介してエージング回復処理の実行を指令するとスタートし、エージング回復処理モードに移行する(S29)。即ち、第2の実施形態に係る制御部50は、ユーザの指令に基づいて、第一の出力よりも大きい第二の出力で発熱素子を駆動させて、記録ヘッドユニット30aにインクを吐出させるエージング回復処理を実行可能である。
【0083】
図19に示される、ドット数管理テーブルFを参照し(S30)、取得したドット数に対して、
図12の表を基に、温度が高いほど数値が大きくなるように重みづけの演算を行う(S11、S12)。第一所定値としての最高ポイントの1/2以上のポイントを持つ領域を検出後(S31)、フローに従ってエージング回復処理を実施する(S22)。
【0084】
言い換えると、制御部50は、ユーザの指令によりエージング回復処理実行する際に、EEPROM50eに記憶された記録ヘッドユニット30aの温度と、複数のノズル毎の吐出回数とに基づいて、記録ヘッドユニット30aの温度が高い方が低い場合よりも、複数のノズル毎の吐出回数に対し回数が多くなるように重みづけをして、複数の領域(ノズル群)毎に吐出回数を累計する。そして、重みづけした吐出回数の累計値に基づいて、複数の領域のうち、吐出回数の累計値が最高ポイントの1/2以上(第一所定値以上)の領域のノズルに対して、エージング回復処理(第二モード)を実行する。その後、既定ドットカウンタ値をリセット(S32)して、終了する。
【0085】
以上から、本実施形態によれば、より実際のコゲの堆積状況に即した適切なタイミングで、コゲの堆積の除去を行うことができ、効果的にコゲによる画像不良を抑制することができる。更に、重みづけの演算をエージング回復処理時にまとめて行うことで、通常の印刷ジョブにおける処理時間を削減することができる。
【0086】
なお、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を実行可能であれば、インクジェット記録装置1の制御部50はソフトウェア(プログラム)を有する必要はない。例えば、ネットワークを介して、ソフトウェアを有するサーバー等の外部の機器と、又は、ソフトウェアを有する各種記憶媒体と、インクジェット記録装置とを接続し、それらのシステム自体でプログラムを読みだして実行しても良い。あるいは、それらのプログラムをインクジェット記録装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)が読みだして実行する構成であってもよい。
【0087】
また、第1の実施形態、第2の実施形態では、エージング回復処理の実施の判断を、印刷ジョブ中に行っていたが、紙間ごとにポイントを計算し、規定値に到達したら、印刷ジョブを中断してエージング回復処理を行っても良い。ただし、エージング回復処理に時間がかかることやエージング回復処理前後で画像の濃度や色味の変化の可能性があることから、印刷ジョブを中断してエージング回復処理を行うよりは、印刷ジョブ終了後にエージング回復処理を行った方が好ましい。
【符号の説明】
【0088】
1・・・インクジェット記録装置/30aK、30aC、30aM、30aY・・・記録ヘッド(吐出部)/30aK1・・・ノズル/30aK2・・・吐出口/30bK1・・・発熱素子/30cK、30cC、30cM、30cY・・・温度センサ(温度検知手段)/40a・・・回復桶部材(覆い部材)/40a1・・・保持部材/50・・・制御部(制御手段)/80・・・ホストコンピュータ(通知手段)