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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067579
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】ガス吹きノズル
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/58 20060101AFI20220425BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20220425BHJP
   B22D 41/22 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
B22D41/58
B22D11/10 360E
B22D11/10 320D
B22D11/10 340Z
B22D41/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176364
(22)【出願日】2020-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】永水 廣太
(72)【発明者】
【氏名】八反田 浩勝
【テーマコード(参考)】
4E004
4E014
【Fターム(参考)】
4E004HA01
4E004HA02
4E004MB09
4E014MA01
4E014MA20
(57)【要約】
【課題】介在物をより確実に除去できるガス吹きノズルを提供すること。
【解決手段】本発明のガス吹きノズル1は、貯留容器5の底部に取り付けられ、溶融金属が流出する溶湯流出孔10を軸芯部に形成するとともに、ガスを吹き込むガス吹きノズル1において、ガス吹きノズル1が、上ノズル部2と、下ノズル部3と、を有し、上ノズル部2は、ガス吐出口23を有する大径ガス発生部20と、大径ガス発生部20の上方又は下方に設けられ、連続した細孔を有する多孔質耐火物よりなる小径ガス発生部24と、大径ガス発生部20及び小径ガス発生部24から吹き出すガスを供給するガス供給部27と、を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を貯留する貯留容器の底部に取り付けられ、前記溶融金属が流出する溶湯流出孔を軸芯部に形成するとともに、前記溶湯流出孔内の前記溶融金属にガスを吹き込むガス吹きノズルにおいて、
前記ガス吹きノズルは、
前記貯留容器内に上端が開口する筒状の上ノズル部と、
前記上ノズル部と連通し、前記溶融金属が吐出する吐出口が下端に開口する筒状の下ノズル部と、
を有し、
前記上ノズル部は、
前記溶湯流出孔に対面して開口するガス吐出口を有する大径ガス発生部と、
大径ガス発生部の上方又は下方に設けられ、連続した細孔を有する多孔質耐火物よりなり、前記溶湯流出孔に対面する内周面から透過したガスが吹き出す筒状の小径ガス発生部と、
前記大径ガス発生部及び前記小径ガス発生部から吹き出すガスを供給するガス供給部と、
を有することを特徴とするガス吹きノズル。
【請求項2】
前記上ノズル部は、前記大径ガス発生部の下方に前記小径ガス発生部が設けられている請求項1記載のガス吹きノズル。
【請求項3】
前記大径ガス発生部は、多孔質耐火物で形成される請求項1~2のいずれか1項に記載のガス吹きノズル。
【請求項4】
前記上ノズル部と前記下ノズル部との間に、
前記貯留容器に固定され、前記上ノズル部の前記溶湯流出孔と連通する上プレート孔が形成された上プレートと、
前記上プレートの下面と摺動可能に設けられ、前記上プレート孔及び前記下ノズル部の前記溶湯流出孔と連通可能な下プレート孔が形成された下プレートと、
を有する請求項1~3のいずれか1項に記載のガス吹きノズル。
【請求項5】
前記貯留容器は、タンディッシュである請求項1~4のいずれか1項に記載のガス吹きノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吹きノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
金属の連続鋳造は、タンディッシュ等の貯留容器に貯留した溶融金属をモールドに流出させて行われる。溶融金属は、貯留容器の底部に設けたノズルを介してモールドに流出する。
【0003】
ノズルは、貯留容器の溶融金属が流れる溶湯流出孔が形成された、全体として筒状を有する部材である。ノズルは、上ノズル、下ノズル(浸漬ノズルとも称される)、及び流量制御部(いわゆるゲート)を備えている。上ノズルは、溶融金属が流れる上ノズル孔が形成され、貯留容器の底部から上方(溶融金属内)に突出して設けられた筒状を有する。下ノズルは、上ノズル孔と連通する下ノズル孔が形成され、上ノズルの下方に設けられた筒状を有する。流量制御部は、上ノズル孔と連通する上プレート孔が形成され、かつ貯留容器に固定した上プレートと、上プレート孔と連通可能な下プレート孔が形成され、かつ上プレートの下面に摺動可能に設けられた下プレートと、を備え、上プレート孔と下プレート孔の開口径を調節して上ノズル孔から下ノズル孔に向けて流れる溶融金属の流れを制御する。上ノズル孔、下ノズル孔、及び上プレート孔と下プレート孔の開口部がノズルの溶湯流出孔を形成する。
【0004】
連続鋳造時にノズルは、溶湯流出孔の内周面から溶融金属に不活性ガスを吹き込む。吹き込まれた不活性ガスは、その気泡が溶融金属中の介在物を捕捉して浮上させ、介在物を除去する。溶融金属中の介在物を除去することで、鋳造不良の発生が抑えられる。
【0005】
不活性ガスを吹き込み可能なノズル(具体的には、上ノズル)には、溶湯流出孔の内周面を形成する耐火物に径方向に貫通する貫通孔を設け、貫通孔のノズルの内周面での開口部から、ガスを吐出するノズルがある。このノズルは、ガスを貫通孔の外径側の開口部に供給し、貫通孔を通って内周面の開口部からガスを吐出する。別の構成のノズルとしては、上ノズルの内周面の一部を通気性の多孔質耐火物で形成し、多孔質耐火物の内周面から吐出するノズルがある。このノズルは、多孔質耐火物の外径側に不活性ガスを供給し、供給したガスが多孔質耐火物の細孔を径方向内方に向けて透過し、内周面から吐出する。
【0006】
貫通孔を有するノズルは、ノズルの溶湯流出孔の内周面のガス吐出口が開口していない部分の介在物の除去が十分に行えない問題があった。具体的には、ノズルの溶湯流出孔の内周面のうち、ガス吐出口が開口していない部分に介在物が付着しやすくなっていた。
また、通気性の多孔質耐火物を用いるノズルは、溶湯流出孔の内周面の全面からガスを吹き出すことができて耐火物への介在物付着防止によるノズル詰まり防止の効果はあるものの、吹き出すガスの気泡径が小さく、大きな介在物をガスが捕捉しても介在物を浮上させるまでの浮力を得られにくく介在物の除去が十分でなくなりやすかった。さらに、通気性の多孔質耐火物を用いるノズルは、ノズルの内周面から間隔を隔てた位置(特に、溶湯流出孔の軸芯部近傍の位置)にまでガスが届きにくかった。つまり、溶湯流出孔の軸芯付近に位置する介在物の除去性能が低かった。
この結果、従来のガス吹きノズルでは、介在物の除去が十分に行えず、下ノズルが介在物で閉塞しやすくなるとともに、流出する溶融金属に介在物が残留して鋳造不良を生じるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、介在物をより確実に除去できるガス吹きノズルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明のガス吹きノズルは、溶融金属を貯留する貯留容器の底部に取り付けられ、前記溶融金属が流出する溶湯流出孔を軸芯部に形成するとともに、前記溶湯流出孔内の前記溶融金属にガスを吹き込むガス吹きノズルにおいて、前記ガス吹きノズルは、前記貯留容器内に上端が開口する筒状の上ノズル部と、前記上ノズル部と連通し、前記溶融金属が吐出する吐出口が下端に開口する筒状の下ノズル部と、を有し、前記上ノズル部は、前記溶湯流出孔に対面して開口するガス吐出口を有する大径ガス発生部と、大径ガス発生部の上方又は下方に設けられ、連続した細孔を有する多孔質耐火物よりなり、前記溶湯流出孔に対面する内周面から透過したガスが吹き出す筒状の小径ガス発生部と、前記大径ガス発生部及び前記小径ガス発生部から吹き出すガスを供給するガス供給部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明のガス吹きノズルは、上ノズル部が、ガス吐出口を有する大径ガス発生部と、連続した細孔を有する多孔質耐火物よりなる小径ガス発生部と、を有している。小径ガス発生部から吹き出すガスが溶湯流出孔の内周面に沿って流れて介在物の付着を防止し、大径ガス発生部から吹き出すガスが溶融金属中の介在物を除去する。この結果、本発明は、溶湯流出孔から流出する溶融金属に、介在物が残存することが抑えられ、その後の工程での鋳造不良が発生することが抑えられる。
なお、本発明において、上方向とは上ノズルが貯留容器の底部から溶融金属中に突出する方向である。具体的には、上方向は、鉛直方向の上方に向かう方向である。下方向とは、上方向とは背向する方向であり、下ノズルが貯留容器の底部から突出する方向である。具体的には、下方向は、鉛直方向の下方に向かう方向である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1のガス吹きノズルの構成を示す断面図である。
図2】実施形態1の変形形態の上ノズルの構成を示す断面図である。
図3】実施形態1のガス吹きノズルを用いた連続鋳造装置の構成を示す図である。
図4】比較例の上ノズルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を用いて本発明を具体的に説明する。なお、実施形態は、本発明を具体的に実施する1つの形態であり、本発明をこれらの形態のみに限定するものではない。また、実施形態において特に言及されない構成や材料は、従来のガス吹きノズルと同様の構成や材料とすることができる。
【0012】
[実施形態1]
本形態のガス吹きノズル1は、連続鋳造装置のタンディッシュ5の底部に設けられるノズルであり、図1図3に断面図で示したように、上ノズル2、下ノズル(浸漬ノズル)3、ゲート4を有する。
本形態のガス吹きノズル1は、溶融金属を貯留するタンディッシュ5(貯留容器)の底部に取り付けられ、溶融金属が流出する溶湯流出孔10を軸芯部に形成するとともに、溶湯流出孔10内の溶融金属にガスを吹き込む装置である。
上ノズル2は、タンディッシュ5内に上端が開口する筒状を有する。上ノズル2は、上段部20,下段部24,ガス供給路27,鉄皮28を有する。
本形態では、上段部20の吐出口23が大径ガス発生部に相当し、下段部24が小径ガス発生部に相当する。
【0013】
上段部20は、多孔質耐火物で形成される。上段部20は、全体として略円筒形状をなす部材である。上段部20は、略円筒状の内部が溶湯流出孔10となる。多孔質耐火物は、多数の微細な細孔を連続した状態で有する材料で形成された耐火物である。多孔質耐火物は、連続した細孔を通してガスを透過させることができる。すなわち、多孔質耐火物は、全体としてガスの透過を許容する。
なお、本形態では上段部20が多孔質耐火物のみから形成されているが、この構成に限定されない。すなわち、上段部20は、非多孔質耐火物のみから形成されていても、多孔質耐火物と非多孔質耐火物とを組み合わせて形成されていても、いずれでもよい。非多孔質耐火物は、ガスの透過を許容しない緻密な耐火物である。
【0014】
多孔質耐火物と非多孔質耐火物とを組み合わせて形成した上段部20は、例えば、図2に模式図で示す構成を挙げることができる。図2には、非多孔質耐火物200,多孔質耐火物201,非多孔質耐火物202,多孔質耐火物203,非多孔質耐火物204の順序で、上方から下方に向かって非多孔質耐火物と多孔質耐火物とが交互に配された構成を示した。
図2に示す構成は、多孔質耐火物203に貫通孔22が形成されているが、この構成に限定されない。すなわち、多孔質耐火物201,203、非多孔質耐火物200,202,204のいずれか又は両者、非多孔質耐火物と多孔質耐火物との当接界面、の少なくとも一つに貫通孔22を形成してもよい。
図2の構成では、2つの多孔質耐火物201,203と、3つの非多孔質耐火物200,202,204が配されているが、この数に限定されない。さらに、各耐火物の上下方向の長さも限定されない。
【0015】
上段部20は、円筒形状の外周面と鉄皮28との間に、ガス室21を形成する。上段部20は、ガス室21と溶湯流出孔10を連通する貫通孔22を有する。貫通孔22は、上段部20を径方向に貫通して形成されている。貫通孔22は、その内径が略一定の孔である。貫通孔22は、径方向内方側が上方に向いて傾斜して形成されている。貫通孔22の径方向内方側の端部は、溶湯流出孔10に対面して開口し、開口部がガス吐出口23となる。ガス室21に供給されたガスは、ガス室21から径方向内方に向かって貫通孔22内を流れ、ガス吐出口23から溶湯流出孔10内に吹き出す。ここで、本形態の上段部20がガスを透過する多孔質耐火物で形成されているが、ガスは、多孔質耐火物を透過するよりも、はるかに貫通孔22を通り易い。この結果、ガス室21に供給されたガスは、多孔質耐火物を透過する量よりも、貫通孔22を通ってガス吐出口23から吹き出す量がはるかに多い。
本形態では貫通孔22が径方向内方側が上方に向いて傾斜して形成されているが、貫通孔22の伸びる方向はこの方向に限定されない。すなわち、水平方向に沿って形成されていても、径方向内方側が下方に向いて傾斜していても、いずれでもよい。また、貫通孔22が傾斜しているときの傾斜角についても限定されない。
【0016】
貫通孔22の数や大きさは、鋳造条件(すなわち、連続鋳造における溶湯流出孔10を通過する溶融金属の材料,流量,流速等の鋳造条件)により適宜決定できる。本形態における貫通孔22は、図1に示すように、上下方向で3段をなして設けられている。また、周方向に沿って15本が等間隔に設けられている。また、ガス吐出口23は、0.3~0.5mmの開口径でもうけられている。
【0017】
下段部24は、多孔質耐火物で形成され、全体として円筒形状(又は環状)をなす筒状部材25を備える。筒状部材25を形成する多孔質耐火物は、上段部20を形成する多孔質耐火物と同様な多孔質耐火物である。
【0018】
本形態の下段部24の筒状部材25は、上段部20のガス吐出口23の下方にて、上段部20を形成する多孔質耐火物に埋設して配置されている。筒状部材25の上端面及び下端面は、上段部20の多孔質耐火物とすき間なく密着している。筒状部材25の外周面と多孔質耐火物との間にガス室26が形成されている。上ノズル2の内径側から外径側に向かって、下段部24の筒状部材25、ガス室26,上段部20の多孔質耐火物の順で配置されている。ガス室26は、下段部24の筒状部材25の外周側に周方向に沿って伸びた状態で全周に形成されている。ガス室26に供給されたガスは、下段部24の筒状部材25の外周面から多孔質耐火物の連続した微細な細孔を通って内周面まで透過し、内周面の細孔の開口部から溶湯流出孔10内に吹き出す。
【0019】
上段部20及び下段部24の筒状部材25を形成する多孔質耐火物の細孔特性は、鋳造条件により適宜決定できる。本形態では、上段部20と下段部24に同一の多孔質耐火物を用いており、この多孔質耐火物は気孔率10~30%、内周面での気孔径が5~50μmの細孔を有する。本形態では、多孔質耐火物の内周面での気孔径は、多孔質耐火物の平均細孔径を用いる。多孔質耐火物の気孔率及び平均細孔径は、市販の測定装置を用いて測定できる。本形態の平均細孔径は、水銀圧入法で測定した。
上段部20及び下段部24の筒状部材25の多孔質耐火物の細孔特性は、同じであっても異なっていても、いずれでもよい。
【0020】
本形態では、多孔質耐火物よりなる下段部24の筒状部材25の内周面での気孔径の開口径をAとし、ガス吐出口23の開口部の開口径をBとしたときに、BがAの5~100倍となっている。すなわち、5A<B<100Aの関係を満たしている。
ガス供給路27は、外部のガス源(図示せず)とガス室21,26とを接続するパイプ27A,27Bを有する。ガス供給路27は、ガス供給部に相当する。
【0021】
パイプ27Aは、ガス源とガス室21とを接続する。パイプ27Bは、ガス源とガス室26とを接続する。ガス供給路27は、ガス源からのガスをガス室21,26のそれぞれに供給する。ガス室21,26のそれぞれに供給されたガスは、ガス吐出口23と下段部24の筒状部材25の内周面の全面のそれぞれから、溶湯流出孔10内の溶融金属に吹き出す。
【0022】
本形態では、一つのガス源が二つのガス室21,26にガスを供給するが、二つのガス室21,26のそれぞれが異なるガス源からガスの供給を受けてもよい。また、ガス供給路27(パイプ27A,27B)は、ガス流量を制御する制御手段を設けていてもよい。
【0023】
鉄皮28は、その内部に上段部20及び下段部24の筒状部材25を収容する略円筒状の耐熱性金属よりなる部材である。鉄皮28は、上段部20の多孔質耐火物の外周形状と略一致する内周形状を有する。上記のように、鉄皮28と上段部20の多孔質耐火物の間に、ガス室21が形成される。鉄皮28は、パイプ27A,27Bと一体に形成されている。
【0024】
ゲート4は、上ノズル2と下ノズル(浸漬ノズル)3との間に設けられる。ゲート4は、上ノズル2の下部に設けられ、溶湯流出孔10を流れる溶融金属の流量を制御する部材である。ゲート4は、上プレート40と下プレート42とを有する。
上プレート40は、タンディッシュ5に固定されている。上プレート40には、上ノズル2の下端部が固定されている。上ノズル2は、上プレート40を介してタンディッシュ5に固定されている。
【0025】
上プレート40は、上ノズル2の溶湯流出孔10と連通する上プレート孔41が形成されている板状の部材である。上プレート孔41は、板状の上プレート40を貫通している。上プレート孔41は、溶湯流出孔10の一部を形成し、上ノズル2の下端での溶湯流出孔10と同じ径の孔である。
下プレート42は、上プレート40の下面40aと摺動可能に設けられた板状の部材である。上プレート40と下プレート42は、対向面が平面をなしている。
【0026】
下プレート42は、上プレート孔41及び上ノズル2の溶湯流出孔10と連通可能な下プレート孔43が形成されている。下プレート孔43は、板状の下プレート42を貫通している。下プレート孔43は、溶湯流出孔10の一部を形成し、上プレート孔41と同じ径の孔で形成されている。
【0027】
下プレート42は、摺動装置(図示せず)に接続され、摺動装置により板の表面に沿った方向(図1の左右方向)に、摺動しながら往復動する。摺動装置は、下プレート42を、上プレート孔41と下プレート孔43が完全に重なる状態(全開状体)と、下プレート孔43が上プレート孔41と重なる部分がない状態(全閉状体、例えば図1に示した状態)との間で、往復動させる。全開状体と全閉状体の間は、下プレート孔43と上プレート孔41とが部分的に重なった状態(例えば図3に示した状態)となる。摺動装置は、上プレート孔41と下プレート孔43が重なる部分の量(重なる部分の広さ、開度)を調節することで、溶湯流出孔10を流れる溶融金属の流量(鋳造条件)を制御する。
【0028】
下ノズル(浸漬ノズル)3は、ゲート4の下プレート42に固定され、全体として略円筒形状をなす部材である。下ノズル(浸漬ノズル)3は、略円筒状の上端部が下プレート42に固定されている。下ノズル(浸漬ノズル)3は、下プレート42が摺動したときに、下プレート42とともに変位する。下ノズル(浸漬ノズル)3は、下端部がモールド6に貯留する溶融金属に浸漬する。
【0029】
下ノズル(浸漬ノズル)3は、略円筒形状の下端部の端面が閉じ、かつ下端部近傍の外周面に溶融金属が吐出する吐出口30が形成されている。吐出口30は、下ノズル(浸漬ノズル)3の下端部がモールド6に貯留する溶融金属に浸漬したときに、溶融金属中に開口する。つまり、下ノズル(浸漬ノズル)3は、下端部がモールド6に貯留する溶融金属に浸漬した状態で使用され、このとき、吐出口30は、溶融金属の液面下で開口する。
略円筒状の下ノズル(浸漬ノズル)3は、下プレート42の下プレート孔43と同じ径の円形をなすように内周面が形成されている。下ノズル(浸漬ノズル)3の軸芯の中空部は、溶湯流出孔10となる。
タンディッシュ5は、図3に示した連続鋳造装置において、モールド6に注がれる溶融金属(例えば、溶鋼)を貯留する容器である。タンディッシュ5及びモールド6の具体的な構成は限定されない。
モールド6は、図3に示した連続鋳造装置において、ガス吹きノズル1からの溶融金属を成形する装置である。モールド6は、成形に供する溶融金属を一時的に貯留し、液面に介在物を浮上させる。
【0030】
(動作及び作用効果)
本形態のガス吹きノズル1は、図3に示す連続鋳造装置のタンディッシュ5に組み付けられる。
本形態のガス吹きノズル1は、摺動装置を稼働して、上プレート孔41と下プレート孔43を連通させ、形成した溶湯流出孔10に溶融金属を流れさせ、タンディッシュ5に貯留した溶融金属を下ノズル(浸漬ノズル)3の吐出口30からモールド6に吐出する。本形態のガス吹きノズル1は、摺動装置で下プレート42を往復動して、上プレート孔41と下プレート孔43が重なる部分の量(広さ)を調節し、溶湯流出孔10を流れる溶融金属の流量(鋳造条件)を制御する。
【0031】
本形態のガス吹きノズル1は、タンディッシュ5に溶融金属を貯留した状態で、ガス源からのガスをガス供給路27(パイプ27A,27B)を介して二つのガス室21,26に供給する。
ガス室21に供給されたガスは、ガス室21内に充満するとともに、全ての貫通孔22を通ってガス吐出口23から溶湯流出孔10内の溶融金属に吹き出す。そして、ガス吐出口23から吹き出したガスは、溶融金属中の介在物に付着して捕捉し、介在物を浮上させ、溶融金属から除去する。
ガス室21に供給されたガスの一部は、上段部20の多孔質耐火物の細孔を通って、貫通孔22及びガス吐出口23の開口部の周辺(近傍)からも、小径のガスを溶湯流出孔10内の溶融金属に吹き出すことができる。ガス吐出口23の開口部の周辺(近傍)から吹き出したガスは、ガス吹きノズル1の内周面に沿って流れ、介在物が内周面に付着することを防止する。
【0032】
また、ガス室26に供給されたガスは、ガス室26内に充満するとともに、ガス室26の内周側に位置する筒状部材25を透過して内周面から溶湯流出孔10内の溶融金属に吹き出す。そして、下段部24の筒状部材25から吹き出したガスは、ガス吹きノズル1の内周面に沿って流れ、介在物が内周面に付着することを防止する。
【0033】
本形態のガス吹きノズル1では、ガス吹きノズル1の溶湯流出孔10の内周面での開口径の大きさの違いから、上段部20のガス吐出口23から吹き出すガスによる気泡の径が、筒状部材25から吹き出すガスによる気泡の径よりも大きい。
【0034】
本形態において、上段部20のガス吐出口23からのガスの気泡は、溶融金属中の介在物に付着して介在物を捕捉し、介在物を浮上させる。ガス吐出口23からの気泡は大径であるため、溶湯流出孔10の軸芯部まで到達する。つまり、ガス吐出口23からのガスの気泡は、溶湯流出孔10の軸芯部の介在物も除去できる。
【0035】
一方、上段部20のガス吐出口23の開口部の近傍及び下段部24の筒状部材25からのガスの気泡は、ガス吐出口23からの気泡より小径であり、溶湯流出孔10の軸芯部まで到達しにくく、溶湯流出孔10の内周面に沿って流れやすくなっている。筒状部材25からのガスの気泡は、微細な径の泡であり、かつ連続して吹き出していることから、溶湯流出孔10を区画するガス吹きノズル1の内周面に介在物が接触することを抑制する。そして、本形態では、微細な径の泡が多く吹き出す筒状部材25がガス吐出口23の下方であり、かつゲート4の近傍に設けられており、筒状部材25からの気泡は、溶湯流出孔10の内周面の周方向の略全周において、介在物の接触を抑えることができる。溶湯流出孔10の内周面との接触が抑えられた介在物は、溶融金属中に残存し、上段部20のガス吐出口23からの気泡で捕捉され、除去される。
【0036】
さらに、ゲート4が開いて溶湯流出孔10を溶融金属が流れたとき、下段部24の筒状部材25からの気泡は、溶融金属の流れにのって、溶湯流出孔10の内周面に沿って下方に流れる。すなわち、介在物が下ノズル(浸漬ノズル)3に付着することが抑えられ、下ノズル(浸漬ノズル)3に付着した介在物が溶湯流出孔10を閉塞することが抑えられる。
【0037】
以上のように、本形態のガス吹きノズル1は、下段部24の筒状部材25からの気泡が溶湯流出孔10を区画するガス吹きノズル1の内周面と介在物との接触を抑えながら、溶融金属中の介在物を上段部20のガス吐出口23からの気泡で捕捉して除去する。この結果、本形態のガス吹きノズル1は、溶湯流出孔10を流れる溶融金属に含まれる介在物をより確実に除去できる。さらに、溶湯流出孔10を溶融金属が流れたとき、介在物が下ノズル(浸漬ノズル)3に付着して溶湯流出孔10が閉塞することが抑えられる。
以上のように、本形態のガス吹きノズル1は、溶融金属に介在物が残存して、鋳造不良を生じることを抑える効果を発揮する。
【0038】
本形態のガス吹きノズル1は、大径ガス発生部(ガス吐出口23)が上段部20に、小径ガス発生部(筒状部材25の内周面)が大径ガス発生部の下方に位置する下段部24に、それぞれ設けられている。この構成によると、上段部20のガス吐出口23から吹き出したガスが介在物を浮上させて除去するとともに、下段部24の筒状部材25からの気泡がガス吹きノズル1の内周面と介在物との接触を抑える効果をより確実に発揮できる。
本形態のガス吹きノズル1は、上段部20(大径ガス発生部)が、多孔質耐火物より形成される。この構成によると、ガス室21に供給されたガスが、ガス吐出口23の開口部近傍からも吹き出し、上段部20からのガスが、介在物の除去、及びガス吹きノズル1の内周面と介在物とが接触することを抑える効果をより確実に発揮できる。
本形態のガス吹きノズル1は、筒状部材25の内周面における気孔径(平均細孔径)をAとし、ガス吐出口23の開口部の開口径をBとしたときに、BがAの5~100倍である。また、筒状部材25の多孔質耐火物が、気孔率10~30%、内周面での気孔径が5~50μmの細孔を有し、上段部20のガス吐出口23が0.3~0.5mmの開口径で開口する。本形態のガス吹きノズル1は、この構成となることで、上記の効果をより確実に発揮できる。
【0039】
なお、筒状部材25の気孔径が過剰に大きくなると、筒状部材25からの気泡とガス吐出口23からの気泡の径との差が小さくなり、気泡の流れが溶湯流出孔10の内周面から離れやすくなり、上記した介在物の接触を抑える効果を生じにくくなる。筒状部材25の気孔径が小さくなりすぎると、溶湯流出孔10を流れる溶融金属に気泡が残存しやすくなり(溶融金属から浮き上がりにくくなり)、鋳造品中に気泡が残存しやすくなる。
【0040】
[実施形態2]
本形態は、上段部20を形成する材料が異なること以外は、実施形態1と同様な構成のガス吹きノズル1である。
本形態のガス吹きノズル1の上段部20は、非多孔質耐火物で形成される。非多孔質耐火物は、実施形態1の変形形態で用いた緻密質耐火物である。すなわち、非多孔質耐火物は、ガス透過性を有していない耐火物である。上段部20は、実施形態1と同様な構成の貫通孔22及びガス吐出口23が形成されている。
すなわち、本形態のガス吹きノズル1は、上段部20及び下段部24を備えている。上段部20は、非多孔質耐火物により形成され、この上段部20には貫通孔22及びガス吐出口23が形成されている。下段部24は、多孔質耐火物よりなる筒状部材25を有している。
【0041】
本形態のガス吹きノズル1は、実施形態1のガス吹きノズル1と同様な効果を発揮する。
本形態のガス吹きノズル1は、ガス室21に供給されたガスの全てがガス吐出口23から吹き出す。つまり、上段部20のガス吐出口23のみからガスが吹き出すこととなる。この結果、上段部20からのガスが、溶湯流出孔10の軸芯まで到達でき、気泡が介在物を除去する効果をより確実に発揮できる。
本形態のガス吹きノズル1は、上段部20が非多孔質耐火物で形成されている。非多孔質耐火物は、多孔質耐火物よりも緻密で強度に優れており、高い耐摩耗性を有している。つまり、溶湯流出孔10を流れる溶融金属による摩耗損傷が抑えられる。
【0042】
[実施形態3]
本形態は、上段部20と下段部24の配置が異なること以外は、実施形態1と同様な構成のガス吹きノズル1である。
本形態のガス吹きノズル1は、実施形態1の下段部24に相当する位置に、ガス吐出口23が開口している。実施形態1の上段部20のガス吐出口23が開口している位置に多孔質耐火物よりなる小径ガス発生部が設けられている。
すなわち、本形態のガス吹きノズル1は、上段部20及び下段部24を備えている。上段部20は、多孔質耐火物よりなる筒状部材25を有している。下段部24は、多孔質耐火物により形成され、この下段部24には貫通孔22及びガス吐出口23が形成されている。
本形態のガス吹きノズル1は、実施形態1のガス吹きノズル1と同様な効果を発揮する。
【0043】
[実施形態4]
本形態は、下段部24にもガス吐出口23が更に形成されていること以外は、実施形態1と同様な構成のガス吹きノズル1である。
本形態のガス吹きノズル1は、実施形態1の下段部24の筒状部材25の下方に、ガス吐出口23が開口している。
すなわち、本形態のガス吹きノズル1は、上段部20及び下段部24を備えている。上段部20は、多孔質耐火物により形成され、この上段部20には貫通孔22及びガス吐出口23が形成されている。下段部24は、多孔質耐火物よりなる筒状部材25と、筒状部材25の下方に開口した貫通孔23を有している。
本形態のガス吹きノズル1は、実施形態1のガス吹きノズル1と同様な効果を発揮する。
【実施例0044】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
[実施例1]
本例は、上記の実施形態1のガス吹きノズル1である。本例は、上段部20の貫通孔22の内径及びガス吐出口23の開口径がφ0.3mmである。すなわち、上記のB=0.3mm=300μmである。下段部24の筒状部材25を形成する多孔質耐火物は、水銀圧入法で測定した、溶湯流出孔10に面する内周面の平均気孔径が14.7μmである。すなわち、上記のA=14.7μmである。このA、Bは、78.5(=14.7×5)<B(=300)<1470(=14.7×100)の関係を満たしている。また、筒状部材25を形成する多孔質耐火物の気孔率は、19.7%であった。
【0045】
[実施例2]
本例は、上記の実施形態2のガス吹きノズル1である。本例は、上段部20の貫通孔22の内径及びガス吐出口23の開口径、及び多孔質耐火物の細孔特性は実施例1と同様である。
【0046】
[実施例3]
本例は、上記の実施形態4のガス吹きノズル1である。本例は、下段部24にもガス吐出口23が更に形成されている例である。本例の下段部24の貫通孔の内径及びガス吐出口23の開口径は上段部20のガス吐出口23と同様である。
【0047】
[比較例]
本例は、図4に示した上ノズル2を有するガス吹きノズルである。本例は、上ノズル2の構成が異なる以外は、実施例と同様な構成のガス吹きノズルである。
本例の上ノズル2は、図4に示したように、実施例1の上ノズル2の上段部20の貫通孔22が形成されている部分に、下段部24の筒状部材25を形成する多孔質耐火物を配した構成となっている。
具体的には、実施例の上ノズル2の上段部20の貫通孔22が形成されている部分と、下段部24が形成されている部分と、の上下方向の2箇所にガス吹き部29,29が形成されている。ガス吹き部29,29のそれぞれは、実施例の上ノズル2の下段部24の筒状部材25と同様に形成されている。
すなわち、本例は、実施例1の上ノズル2の下段部24の筒状部材25が上下方向の2箇所に形成された構成を備えている。
【0048】
[評価]
各実施例及び比較例のガス吹きノズル1の評価として、水モデル試験を行った。評価結果を表1に示した。
【0049】
水モデル試験は、ガス吹きノズル1を半割(すなわち、図1に示した軸方向断面を示す状態)として溶湯流出孔10を水平方向に面した状態(すなわち、溶湯流出孔10の軸方向が鉛直方向に沿った状態)で水中に配置しておき、ガス吹きノズル1の内周面からガスを吹き出し、水中のガスの気泡の大きさを測定する。気泡の大きさは、水中の気泡を撮影し、撮影した画像から大きさ(すなわち気泡径)を測定する。気泡径が3mm以上のものを大径の気泡とし、3mm未満のものを小径の気泡とした。合わせて、大径及び小径の気泡の測定位置を求めた。測定した気泡径及び測定位置を表1に示した。
なお、表1中、小径及び大径の気泡の測定位置の上段部又は下段部内壁面とは、上段部又は下段部の内壁面近傍の位置を示す。上段部又は下段部中央部とは、上段部又は下段部での溶湯流出孔10の中央部近傍の位置を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示したように、各実施例のガス吹きノズル1からは、大径の気泡と小径の気泡の2種類の気泡のガスが確認できた。各実施例のガス吹きノズル1において、大径の気泡のガスは、溶湯流出孔10を流れる溶融金属中の介在物を除去する。小径の気泡は、ガス吹きノズル1の内周面に沿って流れ、ガス吹きノズル1の内周面に介在物が付着することを防止する。
【0052】
一方、比較例のガス吹きノズル1からは、小径の気泡のガスのみが確認できた。比較例例のガス吹きノズル1において、小径の気泡は、ガス吹きノズル1の内周面に沿って流れ、ガス吹きノズル1の内周面に介在物が付着することを防止する。しかし、比較例のガス吹きノズル1からは、大径の気泡のガスが確認できなかった。すなわち、比較例のガス吹きノズル1からは、大径の気泡のガスによる効果が十分に発揮できない。
【0053】
更に、各実施例のガス吹きノズル1は、少なくとも下段部24が多孔質耐火物よりなっており、下段部24から小径の気泡のガスが吹き出す。下段部24から吹き出す小径の気泡は、溶湯流出孔10を溶融金属が流れたとき、溶融金属の流れにのって下方(下ノズル(浸漬ノズル)3側)に流れる。この結果、介在物が下ノズル(浸漬ノズル)3に付着して溶湯流出孔10が閉塞することが抑えられる。
【符号の説明】
【0054】
1:ガス吹きノズル、10:溶湯流出孔、
2:上ノズル、20:上段部、21:ガス室、22:貫通孔、23:ガス吐出口、24:下段部、25:筒状部材、26:ガス室、27:ガス供給路、28:鉄皮、29:ガス吹き部、
3:下ノズル(浸漬ノズル)、30:吐出口、
4:ゲート、40:上プレート、41:上プレート孔、42:下プレート、43:下プレート孔、
5:タンディッシュ、
6:モールド。
図1
図2
図3
図4