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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067656
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】コロナウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/77 20060101AFI20220425BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220425BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20220425BHJP
   A01N 31/02 20060101ALI20220425BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
A61K31/77
A01P1/00
A01N25/30
A01N31/02
A01N61/00 D
A61P31/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171365
(22)【出願日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020176210
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠記
(72)【発明者】
【氏名】八城 勢造
(72)【発明者】
【氏名】森本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】片山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 慧
(72)【発明者】
【氏名】戸高 玲子
【テーマコード(参考)】
4C086
4H011
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086FA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4H011AA04
4H011BA05
4H011BB03
4H011BB19
4H011DH03
(57)【要約】
【課題】優れたSARS-CoV-2不活化効果を示すSARS-CoV-2不活化剤の提供。
【解決手段】アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2不活化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2不活化剤。
【請求項2】
アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2不活化剤。
【請求項3】
アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
【請求項4】
アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
【請求項5】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルのエチレンオキサイド平均付加モル数が1~8である、請求項1記載のSARSコロナウイルス-2不活化剤又は請求項3記載のSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARSコロナウイルス-2不活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SARSコロナウイルス-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,;SARS-CoV-2)は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)やMERSコロナウイルス(MERS-CoV)と同様ベータコロナウイルス属に属し、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるSARS関連コロナウイルスである。SARS-CoV-2は2019年に中国湖北省武漢市付近で発生が初めて確認され、その後、COVID-19の世界的流行(パンデミック)を引き起こしている。
【0003】
SARS-CoV-2の感染拡大に対応し、ウイルスの付着のおそれがある手や指、衣類、各種器具・部材を洗浄・消毒してウイルス不活性化により感染を予防するため、エタノールや界面活性剤、次亜塩素酸水等の消毒物資のSARS-CoV-2に対する有効性評価が実施されている。界面活性剤については、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)における検証試験の結果、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)、アルキルグリコシド(0.1%以上)、アルキルアミンオキシド(0.05%以上)、塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)、塩化ベンゼトニウム(0.05%以上)、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01%以上)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)、脂肪酸カリウム(0.24%以上)、脂肪酸ナトリウム(0.22%以上)の計9種類にSARS-CoV-2不活化効果が認められたことが報告されている(非特許文献1)。前記括弧内の数値は各界面活性剤の最小有効濃度である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~”、[online]、[令和2年9月18日検索]、インターネット<URL:https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れたSARS-CoV-2不活化効果を示すSARS-CoV-2不活化剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来の検証試験では、ポリオキシエチレンアルキルエーテルについては0.2%以上の濃度でSARS-CoV-2の不活化効果が認められていたが、本発明者は、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイドの付加モル数の平均値が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルはより低濃度でSARS-CoV-2不活化効果を示すことを見出した。
【0007】
本発明は、以下の1)~20)に係るものである。
1)アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2不活化剤。
2)アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2不活化剤。
3)アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
4)アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
5)SARSコロナウイルス-2不活化剤を製造するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満である、使用。
6)SARSコロナウイルス-2不活化剤を製造するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満である、使用。
7)SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤を製造するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満である、使用。
8)SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤を製造するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満である、使用。
9)SARSコロナウイルス-2不活化に使用するための、濃度が150ppm以上2000ppm未満であるアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
10)SARSコロナウイルス-2不活化に使用するための、濃度が100ppm以上2000ppm未満であるアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
11)SARSコロナウイルス-2感染症の予防に使用するための、濃度が150ppm以上2000ppm未満であるアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
12)SARSコロナウイルス-2感染症の予防に使用するための、濃度が100ppm以上2000ppm未満であるアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
13)SARSコロナウイルス-2を不活化するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非治療的使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満である、使用。
14)SARSコロナウイルス-2を不活化するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非治療的使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満である、使用。
15)SARSコロナウイルス-2感染症を予防するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非治療的使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満である、使用。
16)SARSコロナウイルス-2感染症を予防するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非治療的使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満である、使用。
17)アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、その濃度が150ppm以上2000ppm未満で、それを必要とする対象に適用するSARSコロナウイルス-2の不活化方法。
18)アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、その濃度が100ppm以上2000ppm未満で、それを必要とする対象に適用するSARSコロナウイルス-2の不活化方法。
19)アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、その濃度が150ppm以上2000ppm未満で、それを必要とする対象に適用するSARSコロナウイルス-2感染症の予防方法。
20)アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、その濃度が100ppm以上2000ppm未満で、それを必要とする対象に適用するSARSコロナウイルス-2感染症の予防方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、界面活性剤の低濃度での使用においてもSARS-CoV-2の不活化が可能で、SARS-CoV-2感染の拡大を防止又は低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数(E.O.)が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルをSARSコロナウイルス-2不活化のための有効成分として使用する。以下、本明細書において「アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル」を単に「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」と記載することがある。
【0010】
本発明に用いられるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下である。当該ポリオキシエチレンアルキルエーテルは単独で用いてもよく、また複数を組み合わせて用いてもよい。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、市販品として入手可能である。また、常法により化学合成してもよい。
【0011】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルのエチレンオキサイド平均付加モル数は8以下であるが、SARS-CoV-2不活化の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、また、好ましくは8以下であり、より好ましくは6以下である。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルのエチレンオキサイド平均付加モル数は、好ましくは1~8であり、より好ましくは2~8であり、更に好ましくは3~6である。
【0012】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、高純度に精製されていても、エチレンオキサイド付加モル数に分布があるものを用いてもよいが、SARS-CoV-2不活化の観点から、エチレンオキサイド付加モル数に分布があるものが好ましい。同様の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体を合計で30質量%以上、より好ましくは50質量%以上含有することが好ましい。また、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体の合計量の上限値は特に限定されないが、好ましくは70質量%以下である。エチレンオキサイドの付加モル数はガスクロマトグラフィー分析により分析できる。
(ガスクロマトグラフィー測定条件)
測定機器:Agilent6850
カラム:100%ジメチルポリシロキサン 無極性 キャピラリーカラム 15m
キャリアガス:ヘリウム
INJ温度:300℃
DET温度:350℃
カラム温度:60℃~350℃
検出器:FID
注入量:1μl
【0013】
本発明において、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度は、SARS-CoV-2不活化の観点から、150ppm(質量ppm、以下同じ)以上であって、好ましくは250ppm以上、より好ましくは270ppm以上、更に好ましくは300ppm以上であり、また、コストや不活化対象へのダメージの観点から、2000ppm未満であって、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下である。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度は、150ppm以上2000ppm未満であって、好ましくは250ppm以上2000ppm未満であり、より好ましくは250ppm以上1500ppm以下であり、より好ましくは270ppm以上1500ppm以下であり、更に好ましくは270ppm以上1000ppm以下であり、更に好ましくは300ppm以上500ppm以下である。
【0014】
本発明において、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、より低濃度の100ppmでSARS-CoV-2不活化効果が認められた。よって、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度は、SARS-CoV-2不活化の観点から、100ppm以上であって、好ましくは150ppm以上、より好ましくは200ppm以上、更に好ましくは250ppm以上、より更に好ましくは270ppm以上、より更に好ましくは300ppm以上であり、また、コストや不活化対象へのダメージの観点から、2000ppm未満であって、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下である。
アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度は、100ppm以上2000ppm未満であって、好ましくは150ppm以上2000ppm未満であり、より好ましくは200ppm以上2000ppm未満であり、更に好ましくは250ppm以上1500ppm以下であり、より更に好ましくは270ppm以上1000ppm以下であり、より更に好ましくは300ppm以上500ppm以下である。
なお、本明細書におけるポリオキシエチレンアルキルエーテルの定量は、JIS K 3362:2008家庭用合成洗剤試験方法における非イオン界面活性剤の定性及び定量に従うものとする。
【0015】
後記実施例に示すように、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、当該界面活性剤濃度が低濃度であっても抗SARS-CoV-2検証試験においてSARS-CoV-2不活化効果が認められる。
本明細書において、SARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となる、SARS関連コロナウイルスである。
SARS-CoV-2は、そのウイルスゲノムは29,903塩基程度で、一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。また、ウイルス粒子(ビリオン)は、50~200nmほどの大きさである。一般的なコロナウイルスと同様に、スパイクタンパク質、ヌクレオタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質として知られる4つのタンパク質と、RNAより構成されている。このうちヌクレオタンパク質がRNAと結合してヌクレオカプシドを形成し、脂質と結合したスパイクタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質がその周りを取り囲んでエンベロープを形成する(A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature. 2020 Mar;579(7798):270-273.、A new coronavirus associated with human respiratory disease in China. Nature. 2020 Mar;579(7798):265-269.)。
【0016】
スパイクタンパク質は、2つのサブユニット、S1及びS2からなる大きなI型膜貫通型タンパク質で、S1は主に、細胞表面の受容体を認識する受容体結合ドメイン(RBD)が、S2には膜融合に必要な要素が含まれている。S1に結合する既知の受容体には、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)、DPP4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)、APN(アミノペプチダーゼN)、CEACAM(癌胎児性抗原関連細胞接着分子1)、O-ac Sia(O-アセチル化シアル酸)があり、SARS-CoV-2は、ヒトACE2を介してヒト呼吸上皮細胞に感染することが報告されている(Structure, Function, and Antigenicity of the SARS-CoV-2 Spike Glycoprotein Cell. Volume 181, Issue 2, 16 April 2020, Pages 281-292.e6)。
【0017】
本明細書における抗SARS-CoV-2検証試験は、評価対象となる不活化剤で処理したSARS-CoV-2をVero C1008またはE6/TMPRSS2細胞に感染させた系によって行われる。詳細は後述するとおりである。本明細書では、当該検証試験において、接種したウイルスをほぼ完全に不活化(検出限界以下まで)させた場合を不活化効果ありとする。
【0018】
従って、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、SARS-CoV-2不活化効果を示すことから、SARS-CoV-2不活化剤となり得、SARS-CoV-2不活化のために使用することができる。また、SARS-CoV-2不活化剤を製造するために使用することができる。SARS-CoV-2不活化により、当該ウイルス感染を阻止し、SARS-COV-2感染症を予防又は改善することができる。
ここで、「使用」は、生体(ヒト又は非ヒト動物)における使用である場合、治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0019】
本明細書において、SARS-COV-2感染症とは、SARS-COV-2に感染することによって発症する急性呼吸器疾患(COVID-19)を指す。その症状は特異的ではなく、症状のないもの(無症候性)から重症の肺炎まで幅広い。典型的な症状・徴候としては発熱、空咳、疲労、喀痰、息切れ、咽頭痛、頭痛、下痢、嗅覚異常等があるが、本発明においては、斯かる症状に限定されるものではない。
また、「予防」とは、個体におけるSARS-COV-2感染の防止、抑制又は遅延、或いは発症の危険性を低下させることをいう。「改善」とは、SARS-COV-2の感染又は症状の好転、症状の悪化の防止又は遅延、或いは症状の進行の逆転、防止又は遅延を意味し、「治療」を含む意である。
【0020】
本発明のSARS-CoV-2不活化剤は、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを単独で使用する形態であってもよく、また、使用態様に応じて、これらと適宜溶剤や製剤添加物等の他の成分を含む組成物の形態であってもよい。当該組成物は、未希釈の形態であってもよく、また、希釈形態であってもよい。未希釈の形態は、希釈されることなく、処理対象のSARS-CoV-2不活化に用いられる。希釈形態は、推奨希釈濃度で希釈された後の濃度が、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルによりSARS-CoV-2不活化効果が発揮される上記の有効成分濃度となるように水等の適当な媒体によって希釈されて、処理対象のSARS-CoV-2不活化に用いられる。
好適には、SARS-CoV-2不活化剤は、SARS-CoV-2の汚染が懸念される手や指、野菜や魚などの食品、無生物対象物の硬質表面、繊維や繊維製品の洗浄;空気の浄化等に使用される製品や製剤となり、或いは当該製品や製剤にSARS-CoV-2不活化のための素材として使用される。
硬質表面としては、飲料や食品の包装、または家庭や事業施設における、床、壁、窓、扉、食品加工機器、医療機器、化粧室やトイレ、浴室、洗面所、シャワー台、台所、居室、寝室等の各種家具・家電・器具・道具等が挙げられる。硬質表面の材質は、例えば、プラスチック(シリコーン樹脂等を含む)、金属、陶器、木、ガラス又はこれらの組み合わせが挙げられる。
繊維や繊維製品としては、衣類、タオル、マスク、ソファー、クッション、寝具、カーテン、靴、鞄等が挙げられる。
【0021】
SARS-CoV-2を不活化させるには、本発明のSARS-CoV-2不活化剤を処理対象に接触させればよい。接触時間は、SARS-CoV-2不活化の観点から、10秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上であり、作業負荷の観点から、24時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下である。接触の手段としては、特に限定するものではなく、塗布又は噴霧する、浸漬する、洗浄する、添加する、揮散する等が挙げられる。
【0022】
上記製品や製剤の形態としては、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、液状、ゲル状、ペースト状、固形状とすることができる。
また、紙、天然繊維、再生繊維(レーヨン等)及び/又は合成繊維(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等)の織布又は不織布に、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを塗布、或いは含浸した形態とすることができる。
具体的な製品や製剤の形態としては、例えば、ハンドソープ等の皮膚洗浄剤、台所用洗剤、洗濯用洗剤、柔軟剤、住居用洗剤、トイレ洗浄剤、風呂用洗剤、コンタクトレンズ洗浄・保存剤、紙製品、ウェット拭き取り用品、空間噴霧製品、空気清浄機、加湿器、除湿器、エアコンや空気清浄機用のフィルター等が挙げられる。
【0023】
上記製品や製剤は、上記本発明の有効成分を、又は本発明の効果を阻害しない範囲内で、当該有効成分以外の他の成分を適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。斯かる他の成分としては、例えば、キレート剤、水溶性溶剤、油分、高級脂肪酸、シリコーン類、アルカリ剤、pH調整剤、水軟化剤、金属封鎖剤、分散剤、安定化剤、酵素、蛍光増白剤、漂白剤、保湿剤、増粘剤、懸濁剤、防腐剤、抗菌剤、消泡剤、粉末成分、色素、蛍光染料、香料、他の界面活性剤等が挙げられる。
他の界面活性剤としては、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル以外のイオン性界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤)、非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
本発明のSARS-CoV-2不活化剤における上記本発明の有効成分の含有量は、組成物の形態に応じて適宜決定できる。希釈を想定した製品や製剤において好適な含有量は、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルが150ppm以上20質量%以下であり、より好ましくは当該ポリオキシエチレンアルキルエーテルが250ppm以上20質量%以下であり、更に好ましくは当該ポリオキシエチレンアルキルエーテルが270ppm以上10質量%以下である。
希釈を想定しない製品や製剤において好適な含有量は、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルが150ppm以上20質量%以下であり、より好ましくは当該ポリオキシエチレンアルキルエーテルが250ppm以上20質量%以下であり、更に好ましくは当該ポリオキシエチレンアルキルエーテルが300ppm以上10質量%以下である。
【0025】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の態様をさらに開示する。
【0026】
<1>アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2不活化剤。
<2>アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2不活化剤。
<3>アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
<4>アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満であるSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
【0027】
<5>SARSコロナウイルス-2不活化剤を製造するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満である、使用。
<6>SARSコロナウイルス-2不活化剤を製造するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満である、使用。
<7>SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤を製造するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満である、使用。
<8>SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤を製造するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満である、使用。
【0028】
<9>SARSコロナウイルス-2不活化に使用するための、濃度が150ppm以上2000ppm未満であるアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
<10>SARSコロナウイルス-2不活化に使用するための、濃度が100ppm以上2000ppm未満であるアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
<11>SARSコロナウイルス-2感染症の予防に使用するための、濃度が150ppm以上2000ppm未満であるアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
<12>SARSコロナウイルス-2感染症の予防に使用するための、濃度が100ppm以上2000ppm未満であるアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
【0029】
<13>SARSコロナウイルス-2を不活化するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非治療的使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満である、使用。
<14>SARSコロナウイルス-2を不活化するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非治療的使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満である、使用。
<15>SARSコロナウイルス-2感染症を予防するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非治療的使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が150ppm以上2000ppm未満である、使用。
<16>SARSコロナウイルス-2感染症を予防するためのアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非治療的使用であって、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が100ppm以上2000ppm未満である、使用。
【0030】
<17>アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、その濃度が150ppm以上2000ppm未満で、それを必要とする対象に適用するSARSコロナウイルス-2の不活化方法。
<18>アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、その濃度が100ppm以上2000ppm未満で、それを必要とする対象に適用するSARSコロナウイルス-2の不活化方法。
<19>アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、その濃度が150ppm以上2000ppm未満で、それを必要とする対象に適用するSARSコロナウイルス-2感染症の予防方法。
<20>アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、その濃度が100ppm以上2000ppm未満で、それを必要とする対象に適用するSARSコロナウイルス-2感染症の予防方法。
【0031】
<21><1>~<20>において、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのエチレンオキサイド平均付加モル数が、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、また、好ましくは8以下であり、より好ましくは6以下であり、また、好ましくは1~8であり、より好ましくは2~8であり、更に好ましくは3~6である。
<22><1>~<20>において、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体を合計で、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、また、好ましくは70質量%以下含有する。
<23><1>~<20>において、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度は、150ppm以上であって、好ましくは250ppm以上であり、より好ましくは270ppm以上であり、更に好ましくは300ppm以上であり、また、2000ppm未満であって、好ましくは1500ppm以下であり、より好ましくは1000ppm以下であり、更に好ましくは500ppm以下であり、また、150ppm以上2000ppm未満であって、好ましくは250ppm以上2000ppm未満であり、より好ましくは250ppm以上1500ppm以下であり、更に好ましくは270ppm以上1500ppm以下であり、より更に好ましくは270ppm以上1000ppm以下であり、更に好ましくは300ppm以上500ppm以下である。
<24><2>、<4>、<6>、<8>、<10>、<12>、<14>、<16>、<18>又は<20>において、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度は、100ppm以上であって、好ましくは150ppm以上、より好ましくは200ppm以上、更に好ましくは250ppm以上、より更に好ましくは270ppm以上、より更に好ましくは300ppm以上であり、また、2000ppm未満であって、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下であり、また、100ppm以上2000ppm未満であって、好ましくは150ppm以上2000ppm未満であり、より好ましくは200ppm以上2000ppm未満であり、更に好ましくは250ppm以上1500ppm以下であり、より更に好ましくは270ppm以上1000ppm以下であり、より更に好ましくは300ppm以上500ppm以下である。
<25><17>~<20>において、対象が、好ましくはSARS-CoV-2の汚染が懸念される手や指、食品、無生物対象物の硬質表面、繊維や繊維製品、又は空気である。
【実施例0032】
[評価液]
・ポリオキシエチレン(1E.O.)ラウリルエーテル:エチレンオキサイド平均付加モル数1、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体の合計量48.5質量%、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(2E.O.)ラウリルエーテル:エチレンオキサイド平均付加モル数2、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体の合計量63.3質量%、有効成分99質量%以上
ポリオキシエチレン(1E.O.)ラウリルエーテル及びポリオキシエチレン(2E.O.)ラウリルエーテルは、ラウリルアルコール(純度98質量%以上)に高温・加圧下で酸化エチレンを付加重合することで合成した。合成の触媒にはKOH、中和には酢酸を用いた。
【0033】
・ポリオキシエチレン(3E.O.)ラウリルエーテル:エマルゲン103、エチレンオキサイド平均付加モル数3、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体の合計量68.8質量%、花王(株)製、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(4E.O.)ラウリルエーテル:エマルゲン105、エチレンオキサイド平均付加モル数4、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体の合計量66.2質量%、花王(株)製、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(5E.O.)ラウリルエーテル:エマルゲン106、エチレンオキサイド平均付加モル数5、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体の合計量60.0質量%、花王(株)製、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(6E.O.)ラウリルエーテル:エマルゲン108、エチレンオキサイド平均付加モル数6、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体の合計量50.0質量%、花王(株)製、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(8E.O.)ラウリルエーテル:エマルゲン508K-S90、エチレンオキサイド平均付加モル数8、エチレンオキサイドの付加モル数が1~6の低付加モル体の合計量32.6質量%、花王(株)製、有効成分90質量%
・ポリオキシエチレン(9E.O.)ラウリルエーテル:エマルゲン109P、エチレンオキサイド平均付加モル数9、花王(株)製、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(10E.O.)ラウリルエーテル:エマルゲン110L、エチレンオキサイド平均付加モル数10、花王(株)製、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(4E.O.)オレイルエーテル:エマルゲン404、エチレンオキサイド平均付加モル数4、花王(株)製、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(4E.O.)セチルエーテル:BC-4SY、エチレンオキサイド平均付加モル数4、日光ケミカルズ(株)製、有効成分99質量%以上
・ポリオキシエチレン(5E.O.)セチルエーテル:BC-5SY、エチレンオキサイド平均付加モル数5、日光ケミカルズ(株)製、有効成分99質量%以上
【0034】
実施例1~5、比較例1~3
[抗SARS-CoV-2検証試験]
抗SARS-CoV-2検証試験の概要は以下のとおりである。
(材料)
SARS-CoV-2:JPN/TY/WK-521
細胞:Vero E6/TMPRSS2(JCRB1819)
培地:500mL DMEM(High Glucose) (ナカライテスク, 08459-64)
10mL G 418 Disulfate Aqueous Solution(ナカライテスク, 09380-44)
5mL Penicillin-Streptomycin(10,000U/mL)(Gibco,15140122)
FBS:biosera,FB-1365/500,Lot10259
非働化56℃、30分
通常培養時5%培地に添加
感染時2%培地に添加
Trypsin:TrypLE(登録商標) Select Enzyme(1X), no phenol red(Gibco, 12563011)
RT-qPCR:SARS-CoV-2 Detection Kit -N2 set-(東洋紡, NCV-302)
【0035】
(プロトコル)
1.Vero E6/TMPRSS2を96well plateに100%コンフルエントとなるようにまく
2.オートクレーブした水道水で界面活性剤を希釈し評価液を調整
3.評価液27μLとSARS-CoV-2液3μL(約30万ウイルス相当)を混合
4.室温10分反応
5.2%FBS培地 270μLを添加し反応停止
6.5.の溶液20μLを180μLの2%FBS培地へと事前に培地交換したVero E6/TMPRSS2の96plateに添加・混合
7.37℃/5%CO2下で1時間感染
8.2%FBS DMEM 200μLで2回Wash
9.37℃/5%CO2下で3日間培養
10.ウイルス性細胞変性効果とRT-qPCRによりSARS-CoV-2不活化を判断
IX73(オリンパス社)を用いた顕微鏡観察でウイルスによる細胞変性効果が認められず、かつ、培養上清のRT-qPCRでウイルスゲノムが検出できなかった場合にSARS-CoV-2を不活化したと判断した。RT-qPCRではCt(Threshold Cycle)値が30未満となった場合にウイルスが増殖したと判断した。
【0036】
[試験結果]
結果を表1に示す。SARS-CoV-2不活化が認められたものは「〇」、SARS-CoV-2不活化が認められなかったものは「×」とした。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例6~12、比較例4~6
[抗SARS-CoV-2検証試験]
抗SARS-CoV-2検証試験の概要は以下のとおりである。
(材料)
SARS-CoV-2:JPN/TY/WK-521
細胞:Vero C1008(ATCC CRL-1586)
培地:500mL MEM(Sigma-Aldrich,M4655)
5mL Penicillin-Streptomycin(10,000U/mL)(Gibco,15140122)
FBS:biosera,FB-1365/500,Lot10259
非働化56℃、30分
通常培養時10%培地に添加
感染時2%培地に添加
Trypsin:TrypLE(登録商標) Select Enzyme(1X), no phenol red(Gibco, 12563011)
RT-qPCR:SARS-CoV-2 Detection Kit -N2 set-(東洋紡, NCV-302)
(プロトコル)
1.Vero C1008を96well plateに100%コンフルエントとなるようにまく
2.オートクレーブした水道水で界面活性剤を希釈し評価液を調整
3.評価液27μLとSARS-CoV-2液3μL(約100万ウイルス相当)を混合
4.室温10分反応
5.2%FBS培地 270μLを添加し反応停止
6.5.の溶液20μLを180μLの2%FBS培地へと事前に培地交換したVeroC1008の96plateに添加・混合
7.37℃/5%CO2下で1時間感染
8.2%FBS DMEM 200μLで2回Wash
9.37℃/5%CO2下で3日間培養
10.RT-qPCRによりSARS-CoV-2不活化を判断
培養上清のRT-qPCRでウイルスゲノムが検出できなかった場合にSARS-CoV-2を不活化したと判断した。RT-qPCRではCt(Threshold Cycle)値が30未満となった場合にウイルスが増殖したと判断した。
【0039】
[試験結果]
結果を表2に示す。SARS-CoV-2不活化が認められたものは「〇」、SARS-CoV-2不活化が認められなかったものは「×」とした。
【0040】
【表2】
【0041】
上記表1及び表2のとおり、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が8以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルでは低濃度でSARS-CoV-2不活化効果が確認された。アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が1、3~6又は8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルでは、より低濃度の100ppmでSARS-CoV-2不活化効果が確認された。
これに対して、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド平均付加モル数が9又は10であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル基の炭素数が16でエチレンオキサイド平均付加モル数が4又は5であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル基の炭素数が18でエチレンオキサイド平均付加モル数が4であるポリオキシエチレンアルキルエーテルではSARS-CoV-2不活化効果が認められなかった。