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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067740
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】制限値設定装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20220426BHJP
   F01L 1/352 20060101ALI20220426BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
F01L1/356 Z
F01L1/352
F02D13/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176500
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】湊 博志
(72)【発明者】
【氏名】徳永 禎斉
(72)【発明者】
【氏名】弘田 徹
(72)【発明者】
【氏名】中井 敬野
(72)【発明者】
【氏名】吉川 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】野村 隆博
(72)【発明者】
【氏名】山下 英夫
(72)【発明者】
【氏名】鴨山 剛之
【テーマコード(参考)】
3G018
3G092
【Fターム(参考)】
3G018AB17
3G018BA32
3G018CA02
3G018CA13
3G018DA45
3G018EA19
3G018EA32
3G018FA01
3G018FA07
3G018GA09
3G018GA37
3G092AA11
3G092AC00
3G092DA10
3G092DF05
3G092DG08
3G092EA02
3G092FA43
3G092FB03
3G092HA13Z
3G092HF02Z
(57)【要約】
【課題】適切に電流制限値を設定することが可能な制限値設定装置を提供する。
【解決手段】車両に搭載される内燃機関のクランクシャフトに対して同期回転する駆動側回転体、駆動側回転体の回転軸心と同軸心に配置され、内燃機関のカムシャフトと一体回転する従動側回転体、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を設定する位相設定機構、及び位相設定機構を駆動するモータMを備えた弁開閉時期制御装置100における、モータMに流れる電流を制限する電流制限値を設定する制限値設定装置1は、モータMに電力供給を行うバッテリBの出力電圧の電圧値を示す電圧値情報を取得する電圧値情報取得部71と、モータMに電力供給を行っている際のバッテリBの電圧降下を示す電圧降下情報を取得する電圧降下情報取得部72と、電圧降下に応じて、バッテリBからモータMに流れる電流を制限する電流制限値を設定する制限値設定部73と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される内燃機関のクランクシャフトに対して同期回転する駆動側回転体、前記駆動側回転体の回転軸心と同軸心に配置され、前記内燃機関のカムシャフトと一体回転する従動側回転体、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対回転位相を設定する位相設定機構、及び前記位相設定機構を駆動するモータを備えた弁開閉時期制御装置における、前記モータに流れる電流を制限する電流制限値を設定する制限値設定装置であって、
前記モータに電力供給を行うバッテリの出力電圧の電圧値を示す電圧値情報を取得する電圧値情報取得部と、
前記モータに電力供給を行っている際の前記バッテリの電圧降下を示す電圧降下情報を取得する電圧降下情報取得部と、
前記電圧降下に応じて、前記バッテリから前記モータに流れる電流を制限する電流制限値を設定する制限値設定部と、
を備える制限値設定装置。
【請求項2】
前記バッテリの出力電圧の電圧値を測定する測定部を更に備え、
前記電圧値情報取得部は、前記測定部による測定結果に基づいて前記電圧値情報を取得する請求項1に記載の制限値設定装置。
【請求項3】
前記内燃機関が始動された場合に想定される、前記車両に搭載されるデバイスの夫々に対して前記バッテリから流れる電流の電流値を示す電流値情報が予め記憶されている記憶部を更に備え、
前記電圧値情報取得部は、前記記憶部に記憶されている前記電流値情報に基づいて前記デバイスの夫々に前記電流が流れたとした場合における前記電圧値を算定して前記電圧値情報を取得する請求項1に記載の制限値設定装置。
【請求項4】
前記制限値設定部により設定された前記電流制限値を示す制限値情報が、前記制限値設定部から、前記モータに流れる電流を制御する駆動制御ユニットに対して、PWM信号の周波数に対応付けして伝達される請求項1から3のいずれか一項に記載の制限値設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに流れる電流を制限する電流制限値を設定する制限値設定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のクランクシャフトに対して同期回転する駆動側回転体、駆動側回転体の回転軸心と同軸心に配置され、内燃機関のカムシャフトと一体回転する従動側回転体、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を設定する位相設定機構、及び位相設定機構を駆動するモータを備えた弁開閉時期制御装置が利用されてきた。このような電動式の弁開閉時期制御装置にあっては、モータに対して大きな電流を流すことがあるが、当該大きな電流からモータを駆動するインバータが備えるスイッチング素子を保護することを目的として、予め設定された電流値を超えないように電流制限値が設定されているものもある。このような電流制限値が設けられた電動式の弁開閉時期制御装置に関する技術として、例えば下記に出典を示す特許文献1及び2に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には、内燃機関のバルブの開閉タイミングをモータによって調整する電動バルブタイミング調整装置に用いられるモータ駆動装置に関して記載されている。このモータ駆動装置は、電動バルブタイミング調整装置を駆動するモータと、モータに対して駆動電圧を印加するスイッチング手段と、スイッチング手段に流れる電流に応じた電流情報を送出する電流情報送出手段と、スイッチング手段を制御してモータへの通電を行う通電制御手段と、電動バルブタイミング調整装置周りの油温に基づく油温相当値に応じた油温情報を送出する油温情報送出手段と、を備えている。通電制御手段は、電流情報送出手段からの電流情報に基づき、モータへの通電を一時的に遮断して、目標電流値を超えないようにスイッチング手段に流れる電流を制御し、油温情報送出手段からの油温情報に基づき、油温相当値が予め定められた温度に到達するまでの間、目標電流値として通常値よりも大きな電流値を採用するように構成されている。
【0004】
特許文献2には、内燃機関のバルブタイミング制御用モータ駆動装置に関して記載されている。この内燃機関のバルブタイミング制御用モータ駆動装置は、電動VCTシステムにおけるカムシャフトの位相を制御することでバルブの開閉を制御するためのモータを駆動するモータ駆動部と、モータを始動するタイミングであるか通常駆動するタイミングであるか判定する判定部とを備え、モータ駆動部は、判定部によりモータを通常駆動するタイミングと判定されると進角駆動し、モータを始動するタイミングであると判定されると進角駆動することなく通常駆動するように構成されている。また、内燃機関のバルブタイミング制御用モータ駆動装置は、モータの駆動用の電源電圧を検出する検出部を更に備え、検出部により検出されるモータの駆動用の電源電圧が閾値を上回っていることを条件として、モータ駆動部がモータを駆動するように構成される。更に、内燃機関のバルブタイミング制御用モータ駆動装置は、モータ駆動部にはモータの駆動用の電源電圧が与えられており、モータの回転方向の振動を検知する振動検知部により振動が検知された後に電源電圧がトルク閾値電圧を超えたか否かを判定し、電源電圧がトルク閾値電圧を超えたと判定されるまでモータ駆動部による駆動を停止し、電源電圧がトルク閾値電圧を超えたと判定されたことを条件としてモータ駆動部による駆動を開始するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-31661号公報
【特許文献2】特開2017-2886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、油温が予め定められた温度に到達するまでの間は、通常時よりも大きな電流を流すように構成されている。係る構成の場合、モータ駆動装置に大電流が流れたときに、バッテリの出力電圧が低下する可能性があり、これにより例えば内燃機関の駆動を制御する制御ユニットがシャットダウンし、内燃機関の運転が停止する可能性もある。また、特許文献2に記載の技術は、電源電圧がトルク閾値電圧を超えたと判定されるまでモータが停止されるため、それまでは電動VCTシステムにおけるカムシャフトの位相を制御することができず、排ガス性能や燃費の悪化に至る可能性がある。
【0007】
そこで、適切に電流制限値を設定することが可能な制限値設定装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る制限値設定装置の特徴構成は、車両に搭載される内燃機関のクランクシャフトに対して同期回転する駆動側回転体、前記駆動側回転体の回転軸心と同軸心に配置され、前記内燃機関のカムシャフトと一体回転する従動側回転体、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対回転位相を設定する位相設定機構、及び前記位相設定機構を駆動するモータを備えた弁開閉時期制御装置における、前記モータに流れる電流を制限する電流制限値を設定する制限値設定装置であって、前記モータに電力供給を行うバッテリの出力電圧の電圧値を示す電圧値情報を取得する電圧値情報取得部と、前記モータに電力供給を行っている際の前記バッテリの電圧降下を示す電圧降下情報を取得する電圧降下情報取得部と、前記電圧降下に応じて、前記バッテリから前記モータに流れる電流を制限する電流制限値を設定する制限値設定部と、を備えている点にある。
【0009】
このような特徴構成とすれば、バッテリの出力電圧を監視し、出力電圧の電圧降下に応じてモータに流れる電流を制限することができる。したがって、適切に電流制限値を設定でき、内燃機関の運転が停止されるといった状況を回避することが可能となる。
【0010】
また、前記制限値設定装置は、前記バッテリの出力電圧の電圧値を測定する測定部を更に備え、前記電圧値情報取得部は、前記測定部による測定結果に基づいて前記電圧値情報を取得すると好適である。
【0011】
このような構成とすれば、バッテリの出力電圧の実測電圧値に基づいて制限値を設定することができるので、例えばバッテリの出力電圧が所期の値から変動している場合であっても、適切に電流制限値を設定することが可能となる。
【0012】
あるいは、前記制限値設定装置は、前記内燃機関が始動された場合に想定される、前記車両に搭載されるデバイスの夫々に対して前記バッテリから流れる電流の電流値を示す電流値情報が予め記憶されている記憶部を更に備え、前記電圧値情報取得部は、前記記憶部に記憶されている前記電流値情報に基づいて前記デバイスの夫々に前記電流が流れたとした場合における前記電圧値を算定して前記電圧値情報を取得するように構成しても良い。
【0013】
このような構成とすれば、モータを駆動する前に、予め電流制限値を設定することができるので、例えば環境条件(温度変動等)に応じた負荷変動(始動トルクの増大等)による影響を低減できる。このように、本構成であっても適切に電流制限値を設定することができる。
【0014】
また、前記制限値設定部により設定された前記電流制限値を示す制限値情報が、前記制限値設定部から、前記モータに流れる電流を制御する駆動制御ユニットに対して、PWM信号の周波数に対応付けして伝達されると好適である。
【0015】
このような構成とすれば、駆動制御ユニットに対して制限値情報を正確に伝達することができる。したがって、内燃機関を停止させることなく、運転させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】弁開閉時期制御装置の模式図である。
図2】制限値設定装置、駆動制御ユニット、及び、弁開閉時期制御装置の構成を示すブロック図である。
図3】モータを流れる電流と、バッテリの出力電圧の電圧降下と、電流制限値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る制限値設定装置は、電動式の弁開閉時期制御装置が備えるモータに流れる電流を制限する電流制限値を設定可能に構成される。以下、本実施形態の制限値設定装置1について説明する。
【0018】
図1は弁開閉時期制御装置100の断面図であり、図2は制限値設定装置1の構成を示す図である。図1及び図2に示されるように、弁開閉時期制御装置100は、駆動ケース(「駆動側回転体」の一例)10、内部ロータ(「従動側回転体」の一例)20、位相設定機構30、モータMを備えて構成される。
【0019】
駆動ケース10は、車両に搭載される内燃機関Eのクランクシャフト2に対して同期回転する。内燃機関Eは、弁開閉時期制御装置100により開閉時期が制御される吸気バルブVaを有する。クランクシャフト2とは、内燃機関Eからの回転力を出力する出力軸にあたる。駆動ケース10の外周面には駆動プーリ11が設けられ、クランクシャフト2の出力プーリ1Sに亘ってタイミングベルト6が巻き回される。これにより、駆動ケース10がクランクシャフト2と同期回転することが可能となる。
【0020】
内部ロータ20は、駆動ケース10の回転軸心Xと同軸心に配置され、内燃機関Eの吸気カムシャフト7(本実施形態では、吸気バルブVa用のカムシャフト)と一体回転する。駆動ケース10の回転軸心Xと同軸心に配置されるとは、内部ロータ20の軸心と駆動ケース10の軸心とが一致した状態で配置されていることをいう。内部ロータ20は、駆動ケース10に内包され、連結ボルト23により吸気カムシャフト7に連結固定される。これにより、内部ロータ20が吸気カムシャフト7に連結状態で支持され、内部ロータ20の外周部位に駆動ケース10が相対回転自在に支持される。
【0021】
位相設定機構30は、駆動ケース10と内部ロータ20との相対回転位相を設定する。位相設定機構30はモータMにより駆動され、位相設定機構30は内部ロータ20と共に、駆動ケース10内に収容される。駆動ケース10は、開口部分に複数の締結ボルト25によりフロントプレート24が締結固定される。これにより、位相設定機構30と内部ロータ20との回転軸心Xに沿う方向での変位がフロントプレート24によって規制される。
【0022】
上述したように、タイミングベルト6からの駆動力により駆動ケース10及び内部ロータ20はクランクシャフト2と同期回転する。本実施形態においては、回転軸心Xに沿ってモータMからフロントプレート24を見たときに、駆動ケース10及び内部ロータ20は時計回りに回転する。位相設定機構30は、モータMの駆動力に基づいて位相設定機構30を介して内部ロータ20に伝えられ、駆動ケース10に対する内部ロータ20の相対回転位相が変位される。この変位のうち、タイミングベルト6からの駆動力による回転方向(時計回り方向)と同方向へ向かう変位方向を進角方向と称し、この逆方向を遅角方向と称する。
【0023】
位相設定機構30は、内部ロータ20の内周に回転軸心Xと同軸心に形成したリングギヤ26と、内部ロータ20の内周側に偏心軸心Yと同軸心で回転自在に配置されるインナギヤ27と、インナギヤ27の内周側に配置される偏心カム体28と、フロントプレート24と、継手部Jとを備えている。偏心軸心Yは、回転軸心Xと平行する姿勢で形成されている。
【0024】
リングギヤ26は複数の内歯部26Tを有し、インナギヤ27は複数の外歯部27Tを有する。外歯部27Tの一部はリングギヤ26の内歯部26Tに咬合している。この位相設定機構30は、リングギヤ26の内歯部26Tの歯数と比較して、インナギヤ27の外歯部27Tの歯数が1歯だけ少ない遊星ギヤ減速機として構成されている。
【0025】
本実施形態では、内燃機関Eの稼動時には、クランクシャフト2と等しい速度で、出力軸Maが時計回りに駆動回転することにより、駆動ケース10と内部ロータ20との相対回転位相を維持する。また、相対回転位相を進角方向に変位させる場合には出力軸Maの回転速度を減じ、相対回転位相を遅角方向に変位させる場合には出力軸Maの回転速度を増大する制御が行われる。
【0026】
すなわち、位相設定機構30は、モータMの駆動による出力軸Maの回転に伴い、偏心カム体28が回転軸心Xを中心に回転した際には、インナギヤ27が1回転する毎に、歯数差に対応する角度だけ、インナギヤ27とリングギヤ26とを相対回転させることになる。その結果、インナギヤ27に対し継手部Jを介して一体回転する駆動ケース10と、リングギヤ26に連結ボルト23により連結する吸気カムシャフト7とを相対回転させ、バルブタイミングの調節をすることが可能となる。
【0027】
図2に示されるように、駆動制御ユニット50の制御部51はインバータIを制御して、モータMのロータ(図示せず)の位置に基づいてコイル(図示せず)の通電状態を切り替える。ロータの位置とは、モータMのコイルに対する通電に応じて回転するロータの位置(回転角)である。制御部51は後述するインバータIをPWM制御し、コイルの通電状態を順次、切り替える。このようなPWM制御は、公知であるので説明は省略する。
【0028】
インバータIは、モータMのコイルに流れる電流を制御して、モータMを駆動する。制御部51は、モータMのコイルを流れる電流の電流値を検出し、当該電流値と制限値設定装置1からの制限値情報とに基づいてフィードバック制御によりインバータIを制御する。
【0029】
制限値設定装置1は、弁開閉時期制御装置100のモータMに流れる電流を制限する電流制限値を設定する。図2に示されるように、制限値設定装置1は、電圧値情報取得部71、電圧降下情報取得部72、制限値設定部73、測定部74の各機能部を備えて構成される。これらの各機能部は、電流制限値の設定に係る処理を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0030】
電圧値情報取得部71は、モータMに電力供給を行うバッテリBの出力電圧の電圧値を示す電圧値情報を取得する。モータMに電力供給を行うバッテリBとは、弁開閉時期制御装置100が搭載される車両に設けられるバッテリBであり、モータMのロータを回転させるために、コイルに通電される電流が流れ出るバッテリBである。本実施形態では、上述した駆動制御ユニット50に対する電力供給もバッテリBから行われる。バッテリBの出力電圧の電圧値とは、バッテリBから電流が流れている状態と流れていない状態とを包含したバッテリBの出力電圧の電圧値を意味する。出力電圧の電圧値を示す電圧値情報とは、モータMに印加される電圧の電圧値を示す情報である。
【0031】
本実施形態では、バッテリBの出力電圧の電圧値は測定部74により測定される。測定部74は、継続してバッテリBの出力電圧の電圧値を測定し、測定結果を電圧値情報取得部71に伝達する。したがって、本実施形態では、電圧値情報取得部71は、測定部74による測定結果に基づいて電圧値情報を取得する。
【0032】
電圧降下情報取得部72は、モータMに電力供給を行っている際のバッテリBの電圧降下を示す電圧降下情報を取得する。電圧降下情報とは、バッテリBの始動前出力電圧からの電圧降下を示す情報である。バッテリBの始動前出力電圧とは、出力電圧のうち、バッテリBから電流が流れていない状態の出力電圧が相当する。本実施形態では、モータMに電力供給が行われる前の出力電圧が相当し、好ましくは車両の内燃機関Eの始動前における車両に搭載されるデバイスに電流が流れていない状態における出力電圧であると好適である。一方、バッテリBの始動前出力電圧からの電圧降下とは、バッテリBから電流が流れていない状態の始動前出力電圧と、バッテリBから電流が流れている状態の始動後出力電圧との差異が相当する。バッテリBから電流が流れている状態の始動後出力電圧とは、本実施形態では、出力電圧のうち、実際にモータMに電力供給が行われている状態での出力電圧が相当し、車両の内燃機関Eの始動後における車両に搭載されるデバイスに電流が流れている状態における出力電圧であると好適である。したがって、電圧降下情報取得部72は、バッテリBから電流が流れていない状態の始動前出力電圧と、バッテリBから電流が流れている状態の始動後出力電圧との差異を電圧降下として算出し、電圧降下情報として取得する。
【0033】
制限値設定部73は、電圧降下情報に応じて、バッテリBからモータMに流れる電流を制限する電流制限値を設定する。電圧降下情報は、上述した電圧降下情報取得部72から伝達される。バッテリBからモータMに流れる電流を制限するとは、バッテリBから流れる電流の電流値が所期の値より大きくならないようにすることを意味する。このような所期の値が、電流制限値に相当する。具体的には、制限値設定部73は、電圧降下情報により示されるバッテリBの電圧降下が大きい程、電流制限値を大きく設定し、電圧降下情報により示されるバッテリBの電圧降下が小さい程、電流制限値を小さく設定すると好適である。
【0034】
電流制限値の設定は、次のように行うことが可能である。バッテリBの出力電圧や、バッテリBと各デバイスとを接続するハーネスの抵抗値から、モータMを流れる電流に対するバッテリBの電圧降下は演算可能である。そこで、モータMに実際に流れている電流の電流値と上記電圧降下との関係を用いて、電流制限値を設定することで適切に電流制限値を設定することが可能となる。
【0035】
また、バッテリBの内部抵抗は劣化により増大することが知られているが、内部抵抗の増大に応じてバッテリBの出力電圧の電圧降下は大きくなる。そこでこの内部抵抗を考慮して電流制限値を設定することで、より適切に、すなわち想定よりバッテリBの出力電圧が低下し、内燃機関Eが停止するといった状況を回避することが可能となる。具体的には、駆動中のモータMに流れる電流とバッテリBの出力電圧とからバッテリBの内部抵抗を推定し、推定された内部抵抗の値を用いて電流制限値を設定することでより適切に電流制限を行うことが可能となる。
【0036】
図3には、モータMを流れる電流と、バッテリBの出力電圧の電圧降下と、電流制限値との関係が示される。t=0でモータMの通電が開始されるが、この時、電流制限値としてI1が設定されている。時間の経過と共に、モータMを流れる電流が増大し、これに伴い、電圧降下も増大する。t=1において、電圧降下が予め設定されたV1に達すると、電流制限値としてI2(ただし、I1>I2である)が設定される。これにより、モータMを流れる電流が一定となり、電圧降下も一定となる。この時のバッテリBの出力電圧により、車両に搭載されるデバイスがシャットダウンしないように設定することで、内燃機関Eは停止するといった状況を回避できる。
【0037】
図2に戻り、制限値設定部73により設定された電流制限値を示す制限値情報は、制限値設定部73から、モータMに流れる電流を制御する駆動制御ユニット50に対して、PWM信号の周波数に対応付けして伝達される。本実施形態では、駆動制御ユニット50の制御部51はインバータIをPWM制御して、モータMに流れる電流を制御する。そこで、制限値設定部73から伝達される制限値情報は、電流値そのものを制限する値であっても良いし、PWM制御におけるオンDUTY比を制限する値であっても良い。制限値設定部73は、このような制限値情報を電流制限値毎にPWM信号の周波数に対応付けし、対応付けされた周波数のPWM信号を、制限値設定装置1の制限値設定部73から駆動制御ユニット50の制御部51に対して伝達する。すなわち、電流制限値を示す制限値情報は、PWM信号により情報通信が行われる。なお、オンDUTY比は、所定の値で良い。
【0038】
駆動制御ユニット50は、制限値設定部73からのPWM信号を受信し、当該PWM信号により示される電流制限値に基づいてモータMに流れる電流を制御する。すなわち、駆動制御ユニット50は、弁開閉時期制御装置100が、PWM信号の周波数により規定される電流制限値以下の電流値の電流で動作するように、インバータIを制御する。図3においては、バッテリBの電圧降下がV1に到達したことを電圧降下情報取得部72から伝達されると、制限値設定部73は、電流制限値をI1からI2に設定変更し、変更された電流制限値I2をPWM信号により駆動制御ユニット50の制御部51に伝達する。駆動制御ユニット50は、弁開閉時期制御装置100のモータMが電流制限値I2以下の電流で動作するようにインバータIを制御する。
【0039】
以上のように構成することで、バッテリBの出力電圧が降下した場合であっても、車両に搭載されるデバイスがシャットダウンしないだけの電力を供給できるので、例えば環境温度が極低温となり、内燃機関Eに始動に大電流が流れ、内燃機関Eが停止してしまうといった状況を回避することが可能となる。また、状況によりモータMに流れる電流が規制されるが、規制された電流値の電流をモータMに流すことができるので、弁開閉時期制御装置100が停止できないといった状況も回避できる。したがって、排ガス特性の悪化や内燃機関Eの始動性が悪化するといったことを防止できる。
【0040】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、測定部74がバッテリBの出力電圧の電圧値を測定し、測定部74による測定結果に基づいて電圧値情報取得部71が電圧値情報を取得するとして説明したが、制限値設定装置1は、モータMに電流が流れる前に、すなわちバッテリBから車両に搭載されるデバイスに電力供給を行う前に、電流制限値を演算して設定することが可能である。
【0041】
係る構成では、記憶部に、内燃機関Eが始動された場合に想定される、車両に搭載されるデバイスの夫々に対してバッテリBから流れる電流の電流値を示す電流値情報が予め記憶しておくと良い。内燃機関Eが始動された場合に想定される、車両に搭載されるデバイスの夫々に対してバッテリBから流れる電流の電流値を示す電流値情報とは、車両に搭載されるデバイスの夫々に対してバッテリBから流れる電流を流した場合に、デバイスに流れる電流の電流値を示す電流値情報である。このような電流値情報は、例えば設計段階においてデバイス毎に印加される電圧の電圧値との関係から得ることができる。そこで、デバイス毎に電流値を事前には記憶部に記憶しておくと良い。これにより、電圧値情報取得部71が、実際のモータM等に電流を流すことなく(すなわち、内燃機関Eのスタータモータの駆動前に)、記憶部に記憶されている電流値情報に基づいてデバイスの夫々に電流が流れた場合における電圧値を算定して電圧値情報を取得することが可能となる。このような電圧値情報に基づき、電圧降下情報取得部72が電圧降下を演算し、制限値設定部73が電流制限値を設定すると良い。
【0042】
上記実施形態では、制限値設定部73により設定された電流制限値を示す制限値情報が、制限値設定部73から、モータMに流れる電流を制御する駆動制御ユニット50に対して、PWM信号の周波数に対応付けして伝達されるとして説明したが、制限値情報は、PWM信号の周波数に対応付けされずに伝達することも可能である。
【0043】
本発明は、モータに流れる電流を制限する電流制限値を設定する制限値設定装置に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1:制限値設定装置
2:クランクシャフト
7:カムシャフト
10:駆動ケース(駆動側回転体)
20:内部ロータ(従動側回転体)
30:位相設定機構
50:駆動制御ユニット
71:電圧値情報取得部
72:電圧降下情報取得部
73:制限値設定部
74:測定部
100:弁開閉時期制御装置
B:バッテリ
E:内燃機関
M:モータ
X:回転軸心
図1
図2
図3