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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067806
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】ゴム組成物および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20220426BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20220426BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20220426BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L75/04
C08G18/32 015
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176606
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早見 純平
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131BA18
3D131BA20
3D131BC02
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002CK042
4J002FD010
4J002FD030
4J002FD140
4J002FD150
4J002GN01
4J034BA02
4J034BA06
4J034BA08
4J034CA04
4J034CA13
4J034CA15
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB07
4J034CB08
4J034CC08
4J034CC12
4J034CC61
4J034CC62
4J034CC67
4J034CD13
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DC50
4J034DF01
4J034DF02
4J034DF03
4J034DG01
4J034HA01
4J034HA07
4J034HA08
4J034HA09
4J034HB03
4J034HB12
4J034HB15
4J034HB16
4J034HC03
4J034HC09
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC22
4J034HC45
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC53
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC65
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA01
4J034JA12
4J034JA32
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC02
4J034KC17
4J034KD02
4J034KD03
4J034KD11
4J034KD12
4J034KE02
4J034QA03
4J034QB03
4J034QB15
4J034RA12
(57)【要約】
【課題】tanδ(0℃)とtanδ(60℃)とのバランスが改良されたゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ジエン系ゴムと、液晶ポリマーとを含有するゴム組成物であって、加硫後のゴムのtanδを60℃で測定したtanδ(60℃)に対する、0℃で測定したtanδ(0℃)の比(tanδ(0℃)/tanδ(60℃))が1.1以上であるゴム組成物。液晶ポリマーが、分岐構造を有する分岐型液晶ポリマーであることが好ましく、分岐型液晶ポリマーが、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、分岐構造を有する分岐型イソシアネート化合物との反応物であることがより好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、液晶ポリマーとを含有するゴム組成物であって、
加硫後のゴムのtanδを60℃で測定したtanδ(60℃)に対する、0℃で測定したtanδ(0℃)の比(tanδ(0℃)/tanδ(60℃))が1.1以上であることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリマーが、分岐構造を有する分岐型液晶ポリマーである請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記分岐型液晶ポリマーが、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、分岐構造を有する分岐型イソシアネート化合物との反応物である請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記液晶ポリマーが、液晶相から等方相への転移温度(Ti)が20℃以下のものである請求項1~3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ジエン系ゴムの全量を100質量部としたとき、前記液晶ポリマーの含有量が1~50質量部である請求項1~4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のゴム組成物を原料として得られた加硫ゴムを備える空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物および該ゴム組成物を備える空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは様々な走行環境で使用され、例えば雨の中、湿潤路面でのグリップ性能であるウェットグリップ性能(以下、単に「WET性能」とも言う)を改良することが求められる。しかしながら、かかるWET性能の向上を目的としてゴム組成物の配合設計を行った場合、得られる加硫ゴムの低燃費性が悪化する場合があるため、これらをバランス良く向上させる技術が求められていた。
【0003】
下記特許文献1では、ゴム成分としてtanδの温度分散曲線がバイモーダルとなる少なくとも2種のジエン系ゴムを含むゴム組成物を原料として使用することで、空気入りタイヤのWET性能および低燃費性の向上を図る技術が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、軟化点が140℃以上である芳香族ビニル化合物の単独重合体樹脂および共重合体樹脂から選択される少なくとも1種を所定量配合したゴム組成物を原料として使用することで、タイヤの初期グリップ性能および走行安定性の向上を図る技術が記載されている。
【0005】
さらに、下記特許文献3では、芳香族ビニル化合物と共役ジエン含有化合物とを単量体単位として含有し、重量平均分子量(Mw)が1,000~50,000である液状共重合体を含むゴム組成物を原料として使用することで、空気入りタイヤのWET性能および低燃費性の向上を図る技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08-27313号公報
【特許文献2】特開2008-169295号公報
【特許文献3】特開2016-117880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空気入りタイヤのWET性能および低燃費性の両立を図る場合、原料となるゴム組成物の損失正接(tanδ)の最適化を図ることが重要となる。一般に、WET性能は原料となるゴム組成物の0℃でのtanδ(以下、「tanδ(0℃)」とも言う)に大きく依存し、tanδ(0℃)が大きい方が空気入りタイヤのWET性能に優れる。一方、低燃費性は原料となるゴム組成物の60℃でのtanδ(以下、「tanδ(60℃)」とも言う)に大きく依存し、tanδ(60℃)が小さい方が空気入りタイヤの低燃費性に優れる。
【0008】
しかしながら、前記特許文献に記載の技術では、ゴム組成物のtanδ(0℃)を大きくし、かつtanδ(60℃)を小さくすることが難しく、最終製品である空気入りタイヤのWET性能および低燃費性をバランス良く向上することが困難であることが判明した。本発明は上記実情に鑑みて完成されたものであり、tanδ(0℃)とtanδ(60℃)とのバランスが改良されたゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、ジエン系ゴムと、液晶ポリマーとを含有するゴム組成物であって、加硫後のゴムのtanδを60℃で測定したtanδ(60℃)に対する、0℃で測定したtanδ(0℃)の比(tanδ(0℃)/tanδ(60℃))が1.1以上であることを特徴とするゴム組成物に関する。
【0010】
上記ゴム組成物において、前記液晶ポリマーが、分岐構造を有する分岐型液晶ポリマーであることが好ましい。
【0011】
上記ゴム組成物において、前記分岐型液晶ポリマーが、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、分岐構造を有する分岐型イソシアネート化合物との反応物であることが好ましい。
【0012】
上記ゴム組成物において、前記液晶ポリマーが、液晶相から等方相への転移温度(Ti)が20℃以下のものであることが好ましい。
【0013】
上記ゴム組成物において、前記ジエン系ゴムの全量を100質量部としたとき、前記液晶ポリマーの含有量が1~50質量部であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、前記いずれかに記載のゴム組成物を原料として得られた加硫ゴムを備える空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムと、液晶ポリマーとを含有し、加硫後のゴムのtanδを60℃で測定したtanδ(60℃)に対する、0℃で測定したtanδ(0℃)の比(tanδ(0℃)/tanδ(60℃))が1.1以上となるように設計されている。したがって、例えば本発明に係るゴム組成物の加硫ゴムを備える空気入りタイヤは、低燃費性およびWET性能の両方がバランスよく向上する。
【0016】
ゴム組成物が分岐構造を有する分岐型液晶ポリマーを含有する場合、特に加硫ゴムのtanδ(60℃)が低く維持されつつtanδ(0℃)が大きくなるため、(tanδ(0℃)/tanδ(60℃))を、より確実に1.1以上に設計可能となる。ゴム組成物が分岐構造を有する分岐型液晶ポリマーを含有する場合、特に加硫ゴムのtanδ(60℃)が低く維持されつつtanδ(0℃)が大きくなる理由については明らかではないが、以下の理由が推定可能である。
【0017】
tanδは損失弾性率(E’’)と貯蔵弾性率(E’)との比率で表される(tanδ=E’’/E’)。分岐型液晶ポリマーは柔軟な分岐構造を有するため、分岐型液晶ポリマーを含有する加硫ゴムに歪が印加された場合、分岐構造が運動し、分子内摩擦が生じる。このため、加硫ゴムの変形に必要なエネルギー量、つまり損失弾性率(E’’)が増加し、その結果、tanδ、特にはtanδ(0℃)が大きくなることが推定可能である。
【0018】
上記ゴム組成物において、液晶ポリマーが、液晶相から等方相への転移温度(Ti)が20℃以下のものであることが好ましい。Tiが20℃以下である液晶ポリマーをゴム組成物中に配合した場合、相対的に0℃付近はTiと近く、60℃はTiと離れることになることから、0℃付近ではE’’に比してE’が急激に低下するため、tanδが大きく増大する。一方、60℃付近では液晶ポリマーが等方相に存在することから、E’’およびE’がいずれも緩やかに低下するため、tanδの増大が抑制される。これらの結果、ゴム組成物のtanδ(0℃)とtanδ(60℃)とのバランスをより高いレベルで改良することができる。
【0019】
本発明に係る液晶ポリマーを配合したゴム組成物は、tanδ(0℃)とtanδ(60℃)とのバランスが改良されている。このため、例えばかかるゴム組成物を原料として空気入りタイヤを製造した場合、WET性能および低燃費性の両方に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムと、液晶ポリマーとを含有する。
【0021】
ゴム成分としては、空気入りタイヤの原料として使用可能なゴム成分を任意に使用可能であるが、本発明ではジエン系ゴムを好適に使用することができる。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられる。必要に応じて、末端を変性したもの(例えば、末端変性BR、末端変性SBRなど)、あるいは所望の特性を付与すべく改質したもの(例えば、改質NR)も好適に使用可能である。また、ポリブタジエンゴム(BR)については、コバルト(Co)触媒、ネオジム(Nd)触媒、ニッケル(Ni)触媒、チタン(Ti)触媒、リチウム(Li)触媒を用いて合成したものに加えて、WO2007-129670に記載のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物を用いて合成したものも使用可能である。
【0022】
空気入りタイヤの低燃費性を考慮した場合、ポリスチレンブタジエンゴムについては、スチレン含有量10~40質量%、ブタジエン部のビニル結合量10~70質量%、およびcis分10質量%以上であるものが好ましく、スチレン含有量15~25質量%、ブタジエン部のビニル結合量10~60質量%、およびcis分20質量%以上であるものが特に好ましい。また、本発明に係るゴム組成物を空気入りタイヤのトレッドゴム部として使用する場合、油添タイプよりも非油添タイプのポリスチレンブタジエンゴムを使用することが好ましい。
【0023】
本発明においては、液晶ポリマーが、分岐構造を有する分岐型液晶ポリマーであることが好ましい。本発明においては、分岐構造が長鎖分岐構造よりも短鎖分岐構造であることが好ましく、より具体的には分岐構造部分の分子量が15~500g/molであることが好ましい。かかる分岐型液晶ポリマーとしては、(i)少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、分岐構造を有する分岐型イソシアネート化合物との反応物であってもよく、(ii)少なくとも活性水素基を有し、かつ分岐構造を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物との反応物であってもよい。以下、各構成について説明する。
【0024】
前記(i)のメソゲン基含有化合物としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が使用可能である。
【化1】
【0025】
上記一般式(1)において、Xは活性水素基であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、Rは隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、Rが-O-であり、且つRが隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。なお、「隣接する結合基の一部をなす単結合」とは、当該単結合が隣接する結合基の一部と共有されている状態を意味する。例えば、上記一般式(1)において、Rが隣接する結合基の一部をなす単結合である場合、単結合であるRは両側のベンゼン環と共有された状態となり、当該両側のベンゼン環とともにビフェニル構造を形成する。Xとしては、例えば、OH、SH、NH、COOH、二級アミンなどが挙げられる。
【0026】
メソゲン基含有化合物として、前記一般式(1)で表される化合物にアルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドを付加した化合物(以下、「オキシド付加化合物」ともいう)を使用してもよい。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドは、液晶ポリウレタンポリマーにおける液晶相の発現温度を低下させるように機能するため、メソゲン基含有化合物としてオキシド化合物を使用して生成した液晶ポリウレタンポリマーは、液晶相から等方相への転移温度(Ti)を所望の温度範囲に容易に設計可能となる。アルキレンオキシドは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはブチレンオキシドを使用することができる。上掲のアルキレンオキシドは、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。スチレンオキシドについては、ベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基、ハロゲンなどの置換基を有するものでもよい。アルキレンオキシドは、上掲のアルキレンオキシドと、上掲のスチレンオキシドとを混合したものを使用することも可能である。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの付加量は、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドが4~20モル、好ましくは6~15モル付加されるように調整される。
【0027】
メソゲン基含有化合物、特にはオキシド付加化合物の配合量は、液晶ポリマーの原材料全体の中で、20~95質量%、好ましくは30~85質量%となるように調整される。メソゲン基含有化合物、特にはオキシド付加化合物の配合量の配合量が20質量%未満の場合、生成したポリマーに液晶性が発現し難くなる。メソゲン基含有化合物、特にはオキシド付加化合物の配合量の配合量が95質量%を超える場合、ウレタン反応による高分子化が不十分となる。
【0028】
前記(ii)のメソゲン基含有化合物としては、例えば、前記一般式(1)で表されるメソゲン基含有化合物に、分岐構造を形成するブチレンオキシド併用して生成したメソゲン基含有化合物が挙げられる。
【0029】
前記(i)のイソシアネート化合物としては、例えば、トリメチルヘキサメチルジイソシアネートやジイソシアン酸イソホロンなどが挙げられる。
【0030】
前記(ii)のイソシアネート化合物としては、例えば下記に示すジイソシアネート化合物を使用することができる。ジイソシアネート化合物を例示すると、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、およびm-キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、および1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;並びに1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。例示したジイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0031】
なお、本発明では前記(i)および(ii)のイソシアネート化合物として3官能以上のイソシアネート化合物を併用しても良い。3官能以上のイソシアネート化合物を例示すると、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネート、およびテトライソシアネートシランなどのテトライソシアネートが挙げられる。
【0032】
液晶ポリマーを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100質量部としたとき、イソシアネート化合物の割合は5~70質量部であることが好ましく、15~60質量部であることがより好ましい。イソシアネート化合物の配合量が5質量部未満である場合、ウレタン反応による高分子化が不十分となる。一方、イソシアネート化合物の割合が60質量部を超える場合、液晶ポリウレタンポリマーの原材料全体に占めるメソゲン基含有化合物の配合量が相対的に少なくなるため、液晶ポリウレタンポリマーの液晶性が低下する。
【0033】
本発明に係る液晶ポリマーにおいては、メソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物とに加え、液晶ポリマーの原材料として、活性水素基含有化合物を使用してもよい。活性水素基含有化合物としては、例えば、ポリオール化合物、アミン化合物が挙げられる。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、meso-エリトリトール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6-テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンなどが挙げられる。アミン化合物としては、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン、モノエタノールアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、およびモノプロパノールアミンなどが挙げられる。上掲の各活性水素基含有化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0034】
また、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物とを反応させる場合、当業者に公知のウレタン重合触媒を使用してもよい。かかる重合触媒としては、ジブチル錫ジラウレートやオクチル酸錫などの有機錫系触媒、トリエチレンジアミンおよびその誘導体、N-メチルモルホリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、ビス(N,N-ジメチルアミノ-2-エチル)エーテル、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテルなどの第3級アミン系触媒、酢酸カリウム、オクチル酸カリウムなどのカルボン酸金属塩触媒、イミダゾール系触媒などが挙げられる。これらの中でも、トリエチレンジアミンおよびその誘導体の使用が好ましい。
【0035】
液晶ポリマー中に多官能化合物を組み入れる場合、多官能化合物は、活性水素基またはイソシアネート基と反応し得る官能基を3つ以上有する化合物が挙げられる。具体的には例えば、グリセリン、トリメチロールプロパンなどのトリオール;ペンタエリスリトールなどのテトラオール;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、3,3’-ジクロロ―4,4’ジアミノジフェニルメタン(MOCA)などのジアミン;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンなどのアミノアルコール;前記の3官能以上のイソシアネート化合物などが挙げられる。
【0036】
ジエン系ゴム中での分散性を考慮した場合、本発明で使用する液晶ポリマーの平均粒子径は50μm以下に設計されることが好ましい。ジエン系ゴム中への液晶ポリマーの分散性を考慮した場合、液晶ポリマーの平均粒子径は10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。液晶ポリマーの平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば0.06μm程度が例示可能である。
【0037】
本発明に係るゴム組成物中、液晶ポリマーの配合量は、ゴム組成物のtanδ(0℃)とtanδ(60℃)とのバランス向上の見地から、ジエン系ゴムの全量を100質量部としたとき、1~50質量部に設計することが好ましい。ゴム組成物中、液晶ポリマーの配合量が1質量部未満であると、最終製品である空気入りタイヤのWET性能および低燃費性をバランス良く向上することが困難となり、液晶ポリマーの配合量が50質量部を超えると、ゴム物性が損なわれる可能性がある。最終製品である空気入りタイヤのゴム物性を維持しつつ、WET性能および低燃費性をバランス良く向上するためには、ジエン系ゴムの全量を100質量部としたとき、液晶ポリマーの配合量は5~40質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。
【0038】
本発明においては、ゴム組成物のtanδ(0℃)とtanδ(60℃)とのバランスをより高いレベルで改良するために、加硫後のゴムのtanδを60℃で測定したtanδ(60℃)に対する、0℃で測定したtanδ(0℃)の比(tanδ(0℃)/tanδ(60℃))が1.1以上であるゴム組成物が好ましく、tanδ(0℃)/tanδ(60℃)が1.3以上であることがより好ましい。
【0039】
本発明においては、ゴム組成物のtanδ(0℃)とtanδ(60℃)とのバランスをより高いレベルで改良するために、液晶ポリマーが、液晶相から等方相への転移温度(Ti)が20℃以下のものであることが好ましく、Tiが5℃以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明に係るゴム組成物には、前記ゴム成分および液晶ポリマーに加えて、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、オイルなどの軟化剤、および加工助剤などの各種配合剤を配合することができる。
【0041】
シリカとしては、湿式シリカ、乾式シリカを用いることができるが、特に、含水ケイ酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。
【0042】
シランカップリング剤としては、ジエン系ゴムに対し反応活性を有するシランカップリング剤を使用する。本発明において使用可能なシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(例えば、デグサ社製「Si69」)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(例えば、デグサ社製「Si75」)、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランが挙げられる。
【0043】
カーボンブラックは、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。
【0044】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0045】
加硫系配合剤以外の配合剤を混合する工程の後、さらに加硫系配合剤を混合・分散させる。加硫系配合剤を混合する工程において使用する加硫系配合剤としては、硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などが挙げられる。
【0046】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0047】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0048】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分および液晶ポリマー、必要に応じてカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0049】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系配合剤以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0050】
本発明では、ジエン系ゴムと液晶ポリマーとを混合した後、得られたゴム組成物を加硫することにより、ジエン系ゴム中に液晶ポリマーが分散した加硫ゴムを製造することができる。かかる加硫ゴムは、ジエン系ゴム中の液晶ポリマーの分散性に優れる。このため、tanδ(0℃)とtanδ(60℃)とがバランスに優れ、ゴム物性にも優れる。したがって、本発明に係るゴム組成物の加硫ゴムは、例えば空気入りタイヤのトレッド部材として特に有用である。
【実施例0051】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0052】
<ガラス転移温度(Tg)>
原料反応物1~3について、示差走査熱量分析計[DSC](品名:X-DSC 7000、日立ハイテクサイエンス社製)を使用し、ガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0053】
<転移温度(Ti)>
原料反応物1~3について、示唆走査熱量分析計[DSC](品名:X-DSC 7000、日立ハイテクサイエンス社製)を使用し、転移温度(Ti)を測定した。
【0054】
<動的粘弾性測定>
実施例1~6のゴム組成物、および比較例1~2のゴム組成物について、160℃で20分間加熱することで加硫を行い、所定形状に成形して測定試料とした。各測定試料について、動的粘弾性測定装置(製品名「全自動粘弾性アナライザ VR-7110」、上島製作所社製)により貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E”)を測定し、tanδ(0℃)およびtanδ(60℃)を求めた。表2は、比較例1のtanδの値を100とした指数で表示してある。測定条件は以下のとおりである。
測定試料のサイズ:長さ40mm、幅3mm、厚み2mm
測定モード :引張モード
測定温度 :0℃、60℃
周波数 :100Hz
動歪み :0.15%
【0055】
(メソゲンジオールAの製造)
反応容器に、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物としてBH6(500g)、水酸化カリウム(19g)、及び溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(3000ml)を入れて混合し、さらに、アルキレンオキシドとしてプロピレンオキシドを1モルのBH6に対して8.8当量添加し、これらの混合物を、加圧条件下、120℃で2時間反応させた(付加反応)。次いで、反応容器にシュウ酸(15g)を添加して付加反応を停止させ、反応液中の不溶な塩を吸引ろ過によって除去し、さらに、反応液中のN,N-ジメチルホルムアミドを減圧蒸留法により除去することにより、メソゲンジオールAを得た。メソゲンジオールAの水酸基価は130である。メソゲンジオールAの合成スキームを式(2)に示す。なお、式(2)中に示したメソゲンジオールAは代表的なものであり、種々の構造異性体を含み得る。式(2)中のnは平均4.4である。
【0056】
【化2】
【0057】
(原料反応物1~3の製造)
メソゲンジオールA100質量部に対し、イソシアネート化合物として1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート (2,2,4-,2,4,4-混合物)(東京化成工業株式会社製)、またはジイソシアン酸イソホロン (異性体混合物)(東京化成工業株式会社製)を表1に記載の配合比で配合し、これらを撹拌しながら80℃で混合し、原料反応物1~3を製造した。
【0058】
【表1】
【0059】
(実施例1~6および比較例1~2のゴム組成物の製造)
得られた(東京化成工業株式会社製)を、ラボミキサー(製品名:ラボプラストミル、東洋精機製作所社製)を使用してジエン系ゴム(SBR、商品名:SL563、JSR社製)に配合した。配合手順は、表2に記載の配合比率で、初めに第一段階として、SBRに対しシリカ(商品名:ニップシールAQ、東ソー・シリカ社製)、シランカップリング剤(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、商品名:Si69、エボニック・デグザ社製)、亜鉛華(商品名:亜鉛華1種、三井金属鉱業社製)、ステアリン酸(商品名:ルナックS-20、花王株式会社製)、および老化防止剤(商品名:ノクラック6C、大内新興化学工業株式会社製)を添加して160℃で混練し、次に第二段階として、混練物に原料反応物1~3を添加して160℃で混練し、さらに第三段階として、混練物に、硫黄(ゴム用粉末硫黄150メッシュ、細井化学工業社製)、および加硫促進剤(商品名:ノクセラーCZ(1次加硫促進剤)、ノクセラーD(2次加硫促進剤)、いずれも大内新興化学工業社製)を添加して90℃で混練し、得られたものを実施例1~6および比較例1~2のゴム組成物とした。
【0060】
【表2】
【0061】
表2の結果から、実施例1~6に係るゴム組成物の加硫ゴムはtanδ(0℃)が大きく増大しているものの、tanδ(60℃)の増大が抑制されており、tanδ(0℃)とtanδ(60℃)とのバランスが改良されていることが分かる。