IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドバンテストの特許一覧

特開2022-67884バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法
<>
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図1
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図2
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図3
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図4
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図5
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図6
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図7
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図8
  • 特開-バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067884
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】バイオセンサおよびバイオセンサ用リアクター、リアクターの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220426BHJP
   G01N 25/48 20060101ALI20220426BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220426BHJP
   C12Q 1/25 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
C12M1/34 E
G01N25/48
G01N37/00 101
C12Q1/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176740
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽登
【テーマコード(参考)】
2G040
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040BA02
2G040BA24
2G040CA02
2G040DA03
2G040DA12
2G040EA01
2G040FA01
2G040FA09
2G040GA01
2G040GA05
2G040HA07
4B029AA07
4B029BB16
4B029FA13
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ68
4B063QQ70
4B063QQ79
4B063QR01
4B063QS02
4B063QS39
(57)【要約】
【課題】バイオセンサの測定精度を改善し、および/または、再現性を改善する。
【解決手段】容器210は、検出対象である基質を含む液体試料4を収容する。反応部材220は、容器210の内側に設けられる。反応部材220は、酵素222および樹脂224をそれらが混ざり合わない状態で含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象である基質を含む液体試料を収容する容器と、
前記容器の内側に設けられ、酵素および樹脂をそれらが混ざり合わない状態で含む反応部材と、
を備えることを特徴とするバイオセンサ用リアクター。
【請求項2】
検出対象である基質を含む液体試料を収容する容器と、
前記容器の内側に設けられ、酵素および樹脂それぞれが実質的に均一な密度分布で存在する反応部材と、
を備えることを特徴とするバイオセンサ用リアクター。
【請求項3】
前記酵素と前記樹脂は積層構造を形成していることを特徴とする請求項1または2に記載のバイオセンサ用リアクター。
【請求項4】
前記反応部材は、布、紙、多孔質体、網状体のいずれかである保持シートを含み、
前記樹脂と前記酵素は、前記保持シートの内部に浸入した状態で存在することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のバイオセンサ用リアクター。
【請求項5】
前記反応部材は保持シートを含み、
前記樹脂と前記酵素は、前記保持シートの表面に積層されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のバイオセンサ用リアクター。
【請求項6】
前記反応部材の親水度が、前記反応部材の周囲の親水度よりも低いことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のバイオセンサ用リアクター。
【請求項7】
前記容器には開口が設けられ、当該開口は、フィルムにより塞がれており、
前記反応部材は、前記フィルムの内側表面に設けられることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のバイオセンサ用リアクター。
【請求項8】
前記フィルムの表層は、親水性の層で覆われることを特徴とする請求項7に記載のバイオセンサ用リアクター。
【請求項9】
前記容器の前記反応部材と対向する部分の親水度が、その周囲の親水度よりも低いことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のバイオセンサ用リアクター。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のバイオセンサ用リアクターと、
前記バイオセンサ用リアクターの前記反応部材の温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの出力を処理する演算処理装置と、
を備えることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項11】
バイオセンサ用のリアクターの製造方法であって、
保持シートに樹脂を塗布し、硬化させるステップと、
前記樹脂の塗布に先立って、または前記樹脂の硬化の後に、前記保持シートに酵素を塗布し、硬化させるステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項12】
フィルムの表面に、親水化処理を施すステップと、
前記保持シートを、前記フィルムに貼り付けるステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記保持シートは、布、紙、多孔質体、網状体のいずれかであることを特徴とする請求項11または12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酵素活性度の評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料中の特定成分(基質)を検出するためにバイオセンサが用いられる。バイオセンサの方式のひとつとして、カロリメトリック方式が提案されている。カロリメトリック方式のバイオセンサ(以下、カロリメトリックバイオセンサ、あるいは単にカロリメトリックセンサという)は、液体試料を収容する容器あるいは流路(以下、単に容器という)と、容器内に設けられた反応部材を備える。反応部材は、液体試料に含まれる基質と反応する酵素を含んでおり、酵素と基質が反応することにより生ずる熱を温度センサによって測定し、基質の種類や濃度を同定する。
【0003】
酵素を温度センサの近傍に定着させる必要があることから、従来では、酵素をPVC(ポリ塩化ビニル)を含む水溶性感光性樹脂などと混ぜ、酵素と樹脂の混合液を、基材に塗布し、硬化させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-239538号公報
【特許文献2】特開2012-235771号公報
【特許文献3】特開2017-217617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、酵素と樹脂との混合溶液を硬化させて反応部材を形成する従来技術について検討し、以下の課題を認識するに至った。
【0006】
カロリメトリックセンサとして実用的な濃度で酵素を樹脂に混ぜると、混合溶液は白濁する。この白濁は、樹脂成分が凝集することにより生じるものである。白濁した混合溶液を塗布して形成した反応部材は、樹脂の密度が不均一となる。ここでの不均一とは、あるエリア内での密度分布の不均一性、あるいは、同じ混合溶液を使って、多数のサンプルを作成した場合の再現性(ばらつき)の両方を含む。反応部材の密度の均一性は、測定精度および再現性に重要であり、改善が求められる。
【0007】
従来技術では、樹脂の網目中に酵素が捕獲されることで酵素が固定されるため、樹脂の密度分布が不均一であると、樹脂の密度が高い部分では酵素は強固に固定される一方で、樹脂の密度が低い部分に捕獲された酵素は、液体に溶け出すおそれがある。したがって、反応部材に含まれる酵素密度が経時的に変化するおそれがあり、測定精度および再現性が低下するおそれがある。
【0008】
また、カロリメトリックセンサでは、酵素と基質の反応熱の他に、樹脂に液体試料が染みこむときに発生する湿潤熱がノイズとして観測される。この湿潤熱は、樹脂への液体試料のしみこみ易さ、すなわち樹脂の密度に依存するところ、樹脂の密度が、反応部材のサンプル毎に不均一であると、湿潤熱が、反応部材ごとに異なる状況が生じ、再現性が低下する要因となる。
【0009】
なお、これらの課題を、当業者の一般的な認識と捉えてはならず、本発明者が独自に認識したものである。
【0010】
本開示は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、測定精度を改善し、および/または、再現性を改善したバイオセンサおよびリアクターの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のある態様は、バイオセンサ用リアクターに関する。バイオセンサ用リアクターは、基質を含む液体試料を収容する容器と、容器の内側に設けられ、酵素および樹脂を、それらが混ざり合わない状態で含む反応部材と、を備える。
【0012】
本開示の別の態様は、バイオセンサ用のリアクターの製造方法に関する。製造方法は、保持シートに樹脂を塗布し、硬化させるステップと、樹脂の塗布に先立って、または樹脂の硬化の後に、保持シートに酵素を塗布し、硬化させるステップと、を備える。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本開示のある態様によれば、測定の精度、再現性の少なくとも一方を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係るバイオセンサを模式的に示す断面図である。
図2】実施例1に係る反応部材の構成を示す断面図である。
図3図3(a)~(d)は、図2の反応部材の製造方法を説明する断面図である。
図4】実施例2に係る反応部材の構成を示す断面図である。
図5図5(a)~(d)は、図4の反応部材の製造方法を説明する断面図である。
図6図6(a)は、容器の平面図であり、図6(b)は、容器のI-I線に沿った断面図である。
図7図7(a)、(b)は、一実施例に係るリアクターの断面図である。
図8図8(a)は、反応部材の上に気泡がない場合、図8(b)は、気泡がある場合における、温度センサの出力の波形図である。
図9】変形例に係るリアクターの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0017】
一実施形態に係るバイオセンサ用リアクターは、基質を含む液体試料を収容する容器と、容器の内側に設けられ、酵素および樹脂をそれらが混ざり合わない状態で含む反応部材と、を備える。
【0018】
この構成によれば、樹脂と酵素が混合していないため、樹脂の凝集による不均一性を解消できる。このバイオセンサ用リアクターを用いることで、検出精度を高め、再現性を高めることができる。
【0019】
たとえば、「酵素および樹脂とそれらが混ざり合わない状態」とは、酵素と樹脂が、別々に固定された状態であり、たとえば酵素の層と樹脂の層に界面が存在する状態であってもよく、酵素の層と樹脂の層が積層されている場合や、酵素と樹脂の一方が他方を被覆するような態様を含みうる。
【0020】
一実施形態において、酵素と樹脂は積層構造を形成してもよい。酵素および樹脂の一方で、第1層の膜を形成し、他方で第1層を覆うことで、樹脂と酵素の混合を防止でき、樹脂の密度を均一化できる。
【0021】
一実施形態において、反応部材は、布、紙、多孔質体、網状体のいずれかである保持シートを含んでもよい。樹脂と酵素は、保持シートの内部に侵入した状態で存在してもよい。これにより、反応部材の実効的な表面積を増やすことができる。表面積の増加は、熱量の増加、および熱容量の増加をもたらすため、温度センサによる検出が容易となる。
【0022】
一実施形態において、反応部材は保持シートを含んでもよい。樹脂と酵素は、保持シートの表面に積層されてもよい。
【0023】
一実施形態において、反応部材の親水度は、反応部材の周囲の親水度よりも低くてもよい。これにより反応部材とオーバーラップする箇所に気泡を発生させることができる。気泡は、液体試料よりも熱伝導率が低いため、反応部材で発生した熱が逃げるのを防止することができ、反応にともなう経時的な温度変化を測定することが可能となる。
【0024】
一実施形態において、容器には開口が設けられ、当該開口は、フィルムにより塞がれてもよい。反応部材は、フィルムの内側表面に設けられてもよい。容器とフィルムを分離可能に構成することで、バイオセンサ用リアクターの製造が容易となり、またコストを下げることができる。
【0025】
一実施形態において、フィルムの表層は、親水性の層で覆われてもよい。これにより、反応部材の親水度が周囲に比べて相対的に低くなるため、気泡を形成することができる。
【0026】
一実施形態において、容器の反応部材と対向する部分の親水度が、その周囲の親水度よりも低くてもよい。これにより反応部材とオーバーラップする箇所に気泡を発生させることができる。気泡は、液体試料よりも熱伝導率が低いため、反応部材で発生した熱が逃げるのを防止することができ、反応にともなう経時的な温度変化を測定することが可能となる。
【0027】
一実施形態に係るバイオセンサは、上述のいずれかのバイオセンサ用リアクターと、バイオセンサ用リアクターの反応部材の温度を測定する温度センサと、温度センサの出力を処理する演算処理装置と、を備えてもよい。
【0028】
一実施形態に係るバイオセンサ用のリアクターの製造方法は、保持シートに樹脂を塗布し、硬化させるステップと、樹脂の塗布に先立って、または樹脂の硬化の後に、保持シートに酵素を塗布し、硬化させるステップと、を備える。
【0029】
保持シートは、布、紙、多孔質体、網状体のいずれかであってもよい。
【0030】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0031】
図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0032】
図1は、実施の形態に係るバイオセンサ100を模式的に示す断面図である。バイオセンサ100は、カロリメトリック方式のセンサであり、基質と酵素との接触反応(接触触媒反応)で生じる反応熱に基づいて液体試料(基質溶液)4に含有される基質の量を測定する。
【0033】
バイオセンサ100は、温度センサ110、演算処理装置120およびリアクター200を備える。
【0034】
リアクター200は、バイオセンサ100の検査キットであり、容器210および反応部材220を備える。容器210は、基質を含む液体試料(基質溶液)4を収容する。
【0035】
液体試料4の具体例としては、血液、尿、汗、唾液、及び、涙等のヒトから取得した体液を例示することができる。なお、液体試料4が生体由来の液体であれば、特に上記に限定されず、例えば、犬や猫などの哺乳類や鳥類などの動物から取得した体液であってもよい。
【0036】
また、基質の具体例としては、特に限定されないが、グルコース、尿酸、乳酸、タンパク、脂肪、クレアチニン、及び、ビリルビン等を例示することができる。
【0037】
反応部材220は、容器210の内側に設けられており、基質と反応する酵素222を含む。酵素222の具体例としては、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、トリプシン、リパーゼ、クレアチニナーゼ、及び、ビリルビンオキシダーゼ等を例示することができる。
【0038】
反応部材220は、酵素222に加えて、酵素222を安定的に保持・固定するための樹脂224を含む。樹脂224の材料は、特に限定されないが、水溶性感光性樹脂を用いることができ、PVC(ポリ塩化ビニル)やPVOH(ボリビニルアルコール)、東洋合成工業株式会社製のBIOSURFINE(登録商標)-AWPが例示される。
【0039】
反応部材220は、それに含まれる酵素222と、液体試料4中の基質との接触反応により生じた反応熱を持つ。温度センサ110は、リアクター200の反応部材220の温度を測定する。温度センサ110の構成や種類は特に限定されないが、たとえば熱電対を用いることができる。
【0040】
容器210の反応部材220が設けられる部分212は、局所的に薄く構成されており、外部から反応部材220の温度を測定可能となっている。温度センサ110は、容器210の外側に設けられ、この部分212を介して、反応部材220の温度を測定する。この部分212は、熱伝導を妨げない材料および厚みで構成される。これにより温度センサ110を、液体試料4に浸潤させる必要がないため、温度センサ110を使い回すことができる。
【0041】
演算処理装置120は、温度センサ110の出力を処理し、基質の有無、あるいは量を推定する。演算処理装置120における演算処理については公知技術あるいは将来利用可能な技術を用いればよいため、本明細書では立ち入らない。
【0042】
本実施形態において、反応部材220は、酵素222および樹脂224を、それらが混ざり合わない状態で含んでいる。別の観点から言えば、反応部材220の内部において、酵素222の密度分布は実質的に均一であり、また樹脂224の密度分布も実質的に均一である。なお図1は、酵素222および樹脂224を模式的に示しているに過ぎず、それらの形状や分布などを限定するものではない。
【0043】
以上がバイオセンサ100の基本構成である。このバイオセンサ100では、反応部材220に含まれる樹脂224の密度分布が、酵素222と樹脂224を混合した溶液を塗布・硬化する従来技術に比べて均一化されている。樹脂224の密度分布が均一化されると、湿潤熱のサンプルばらつきを抑えることができ、再現性を高めることができる。また、樹脂224の密度が低い領域が減るため、酵素222が溶け出すのを防止でき、反応部材220の特性の経時的変化も抑制できる。
【0044】
続いて反応部材220の具体的な構成および製造方法を説明する。
【0045】
(実施例1)
図2は、実施例1に係る反応部材220Aの構成を示す断面図である。反応部材220Aは、内部に空隙232を有する保持シート230Aを含む。
【0046】
保持シート230Aは、特に限定されないが、キュプラ繊維からなる不織布(旭化成株式会社製ベンコット(登録商標)PS-2)を例示することができ、例えば、直径1mm程度の円形形状を有していると共に、30μm程度の厚さを有している。あるいは、特に限定されないが、日本製紙クラシア株式会社製のワイプオール等の不織布ワイパを、保持シート230Aとして用いてもよい。あるいは、保持シート230Aとして、上記以外の不織布を用いてもよいし、不織布以外の布を用いてもよい。
【0047】
保持シート230Aとして、不織布に代えて、紙を用いてもよい。保持シート230Aとして用いることのできる紙の具体例としては、不織紙、濾紙、吸取紙、和紙等を例示することができる。特に限定されないが、日本製紙クラシア株式会社製のキムワイプ等の紙ワイパを、保持シート230Aとして用いることができる。こうした布や紙で保持シート230Aを構成することで、当該保持シート230Aの低コスト化を図ることができる。
【0048】
あるいは、保持シート230Aとして、布及び紙に代えて、多孔質体、又は、網状体を用いてもよい。保持シート230Aとして用いることのできる多孔質体の具体例としては、連続気泡構造を有するスポンジを例示することができる。また、保持シート230Aとして用いることのできる網状体としては、10μm程度の金属細線を編み込むことで形成されたメッシュ部材を例示することができる。
【0049】
あるいは、保持シート230Aとして、上記した布、紙、多孔質体、又は、網状体以外の毛細管現象により吸水可能なシート片を用いてもよい。
【0050】
樹脂と酵素は、それぞれが、実質的に均一な密度で存在するように、保持シート230Aの内部の空隙232に侵入した状態で保持される。保持シート230Aの内部における樹脂および酵素の形状を具体的に図示することは困難であるから、図2では、樹脂と酵素は図示を省略する。
【0051】
図2の反応部材220Aを利用すると、基質と酵素との接触反応により生じた反応熱が保持シート230Aに蓄熱されてからゆっくりと拡散される。このため、温度センサにより反応熱ΔTを検出可能な状態を長く確保することができ、反応熱を精度良く検出することができる。
【0052】
また、保持シート230Aを不織布や不織紙、多孔質体などの内部に空隙を有する材料を用いており、酵素は、保持シート230Aの内部に多く保持される。その結果、液体試料4と酵素との接触面積が増加するので、当該液体試料4中の基質と酵素との接触反応による反応熱ΔTを増加させることができる。
【0053】
図3(a)~(d)は、図2の反応部材220Aの製造方法を説明する断面図である。この例では保持シート230Aは不織紙あるいは不織布であり、繊維234が絡み合って結合した構造を有しており、繊維234の隙間が空隙232となる。なお、保持シート230Aは、上から平面視したときの形状は限定されず、円形であってもよいし、矩形、多角形、その他の形状であってもよい。以下の説明では円形であるものとする。
【0054】
図3(a)に示すように、保持シート230Aが、フィルム240の上に貼り付けられる。このフィルム240は、図1における容器210の薄い部分212に対応する。したがってこのフィルム240の材料および厚みは、熱伝導を妨げないように設計される。たとえばフィルム240は、ポリエステル等の樹脂材料を選択することができる。フィルム240の厚さは、熱伝導を考慮して定めればよく、30μm以下とすることが好ましく、たとえば16μm程度である。
【0055】
図3(b)に示すように、酵素222をリン酸緩衝溶液に溶かした液体223を、保持シート230Aに滴下し、毛細管現象によって内部に浸潤させる。その後、乾燥・硬化させる。これにより図3(c)に示すように、酵素222は、保持シート230Aの繊維234の表面に付着した状態で保持される。
【0056】
フィルム240の表面は疎水性であることが望ましい。これにより、保持シート230Aに滴下した溶液が、フィルム240上で広がるのを防止できる。たとえばフィルム240として、粘着性のフィルムを用いれば、粘着力を利用して保持シート230Aを固定することが可能である上に、粘着面は疎水性を有するため、都合がよい。
【0057】
続いて図3(d)に示すように、Biosurfineなどの樹脂224の溶液を、保持シート230Aに滴下する。
【0058】
そして、樹脂224を乾燥させ、紫外線を照射して硬化させる。以上が反応部材220Aの製造方法である。
【0059】
この製造方法で製造された反応部材220Aにおいて、酵素222は、保持シート230Aの繊維の表面に付着しているため、酵素222の密度を均一化できる。また樹脂224も、保持シート230Aの内部に均一に浸潤するため、その密度を均一化できる。さらに、酵素222の定着後に、樹脂224を硬化させるため、酵素222および樹脂224を、混ざり合わない状態で保持することができる。
【0060】
ある繊維に着目してミクロに観察すると、酵素と樹脂は繊維をベースとして積層構造を形成しているものと理解できる。
【0061】
(実施例1の変形例)
この例では、先に酵素222を定着させ、後から樹脂224を塗布したがその限りでなく、順序を入れ替えてもよい。すなわち、先に樹脂224を、保持シート230Aに滴下し、毛細管現象によって内部に浸潤させ、硬化させる。この状態で樹脂224の密度が均一化される。その後に、酵素222をリン酸緩衝溶液に溶かした液体を、保持シート230Aに浸潤させ、乾燥させる。これにより酵素222の密度も均一化される。
【0062】
(実施例2)
図4は、実施例2に係る反応部材220Bの構成を示す断面図である。反応部材220Bは、平坦な保持シート230B、酵素222および樹脂224の積層構造を形成している。
【0063】
図5(a)~(d)は、図4の反応部材220Bの製造方法を説明する断面図である。この例では保持シート230Bは表面が平滑なフィルムあるいはテープであり、酵素222および樹脂224が固着する領域よりも広い面積を有する。はじめに図5(a)に示すように、保持シート230Bの所定領域に、酵素222をリン酸緩衝溶液に溶かした液体223を塗布し、その後、乾燥・硬化させる。これにより図3(b)に示すように、酵素222の膜が形成される。
【0064】
続いて図5(c)に示すように、Biosurfineなどの樹脂224の溶液を、酵素222の上から塗布し、硬化させる。
【0065】
これにより、図5(d)に示すように、反応部材220Bが完成する。
【0066】
(リアクターの構成例)
続いて、リアクター200の具体的な構成を説明する。図6(a)は、容器210の平面図であり、図6(b)は、容器210のI-I線に沿った断面図である。容器210は、液体試料4の流入口214と、液体試料4の排出口216を有する。容器210の内部には、液体試料4を収容する幅広の内部空間218が形成されており、内部空間218と流入口214の間は、流路215を介して連通しており、内部空間218と排出口216の間は、流路217を介して連通している。
【0067】
流路215,217を形成することにより、ポンプ等を用いることなく、毛細管現象を利用して、内部空間218内に、液体試料4を自動的に流入させることができ、バイオセンサ100の低コスト化と小型化を図ることができる。
【0068】
容器210は、図6(b)に示すように積層構造とすることができる。具体的には、容器210は、スペーサ250、上側フィルム252、下側フィルム254、保持フィルム260を含む。
【0069】
スペーサ250は、内部空間218、流路216,217および流入口214、排出口218の部分が開口されている。また上側フィルム252は、流入口214および排出口216の部分が開口されている。スペーサ250を、上側フィルム252および下側フィルム254で挟み込むことにより、流路216,217および内部空間218が形成される。
【0070】
下側フィルム254は、内部空間218とオーバーラップする箇所に開口256が設けられており、この開口256を塞ぐように、保持フィルム260が貼り付けられる。反応部材220は保持フィルム260に貼り付けられ、これにより反応部材220は、内部空間218内に位置することなる。
【0071】
なお反応部材220を、図3の製造方法で作成する場合、図3のフィルム240を保持フィルム260とすることができる。また反応部材220を、図5の製造方法で作成する場合、図5の保持シート230Bを、保持フィルム260とすることができる。
【0072】
スペーサ250は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂材料から構成されるフィルムであり、特に限定されないが、500μm程度の厚さを有している。
【0073】
上側フィルム252は、ポリエステル等の樹脂材料から構成されたフィルムであり、特に限定されないが、100μm程度の厚さを有している。この上側フィルム252の下面(スペーサ250に対向する面)は、その全面に親水化処理が施された親水化処理面である。親水化処理の具体例としては、上側フィルム252の下面への界面活性剤や親水性高分子の塗布やプラズマ処理等を例示することができる。
【0074】
下側フィルム254も、上述の上側フィルム252と同様に、ポリエステル等の樹脂材料から構成されたフィルムであり、特に限定されないが、100μm程度の厚さを有している。この下側フィルム254の上面(スペーサ250に対向する面)も、その全面に親水化処理が施された親水化処理面である。上述のように、フィルム240はポリエステル等の樹脂材料であり、16μm程度と、他のフィルム252,254に比べて薄い。これにより、フィルム240を隔てて、外部から反応部材220の温度を測定することが可能となる。
【0075】
図6(a)に示すように、内部空間218内には、反応部材220と隣接して、ダミーの反応部材221が設けてもよい。ダミーの反応部材221は、反応部材220と基本構成が実質的に同じであるが、酵素を含んでいない点で異なる。たとえばダミーの反応部材221は、図3(d)の処理を省略して作製することができ、あるいは、図5(c)、(d)の処理を省略して作製することができる。
【0076】
上述の温度センサ110は、反応部材220と、ダミーの反応部材221の温度の差分を検出可能に構成される。反応部材220の温度は、液体試料4の温度、酵素と基質の反応熱(温度上昇)と、湿潤熱に応じている。一方、ダミーの反応部材221の温度は、液体試料4の温度と、湿潤熱に応じている。したがって、2つの温度の差分ΔTを検出することで、液体試料4の温度および湿潤熱の影響を除去し、反応熱(温度上昇)の成分を高精度で取り出すことができる。
【0077】
たとえば温度センサ110は、反応部材220の温度を測定する第1熱電対と、ダミーの反応部材221の温度を測定する第2熱電対を含んでよい。第1熱電対は、反応部材220と熱的に結合される温接点(測定点)を含み、第2熱電対は、ダミーの反応部材221と熱的に結合される温接点(測定点)を含む。この場合において、第1熱電対と第2熱電対とで、冷接点(基準点)を共通化して構成してもよい。この場合、第1熱電対の温接点と第2熱電対の温接点の電位差を測定することで、温度差ΔTを検出することができる。
【0078】
続いてリアクター200のさらなる特徴を説明する。
【0079】
図7(a)、(b)は、一実施例に係るリアクター200Cの断面図である。この実施例において、反応部材220の親水度は、反応部材220の周囲の親水度よりも低い。具体的には、反応部材220を保持する保持フィルム260の表面262には親水化加工が施されており、これにより、反応部材220の表面の親水度は、周囲の親水度に比べて相対的に低くなっている。親水化処理は、たとえば界面活性剤や親水性高分子の塗布、プラズマ処理等を用いることができる。
【0080】
なお、反応部材220と対向する面(内部空間の上側の壁面)については、全面が親水性とされる。なお、上面を全面、疎水性としてもよい。
【0081】
図7(b)には、内部空間218を液体試料4で満たした状態が示される。親水化処理を施した領域には、液体試料4が侵入しやすい反面、反応部材220の上部空間には、液体試料4が侵入しにくくなっている。これにより、反応部材220の上側に気泡6を発生させることができる。
【0082】
図8(a)は、反応部材220の上に気泡がない場合、図8(b)は、気泡がある場合における、温度センサの出力の波形図である。図8(a)に示すように、酵素と基質の反応熱によって、反応部材220の温度は上昇するが、気泡がない場合には、熱が液体試料4を介して拡散するため、短時間で低下する。これに対して反応部材220の上に気泡を発生させると、気泡6は液体試料4よりも熱伝導率が低いため、反応部材220で発生した熱が逃げるのを防止することができる。その結果、図8(b)に示すように、温度センサの出力の減衰時間を長くすることができる。
【0083】
このように、図7のリアクター200Cによれば、気泡を意図的に発生させることで、急激な熱拡散を抑制することができる。その結果、従来では、急峻な冷却で測定できなかった発熱情報(信号成分)を検出することができる。
【0084】
さらに、気泡は、樹脂と接触する液体量を減少させる効果ももたらす。したがって、気泡によって反応量を制御することも可能となる。
【0085】
図9は、変形例に係るリアクター200Dの断面図である。この変形例では、容器210の上面である上側フィルム252の反応部材220と対向する部分252Aの親水度が、その周囲の部分252Bの親水度よりも低くなっている。この変形例によっても、内部空間218に液体試料4を注入した際に、反応部材220の上側に、気泡を発生させることができる。
【0086】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0087】
例えば、同一の保持シートに複数種の酵素が固定されていてもよい。この場合の具体例として、基質がグルコースであり、酵素がグルコースオキシダーゼである場合に、このグルコースオキシダーゼに加えて、カタラーゼを保持シートに保持させてもよい。グルコースとグルコースオキシダーゼとの接触反応により過酸化水素が発生するが、この過酸化水素とカタラーゼとがさらに接触反応することで、反応熱ΔTを増加させることができる。
【0088】
また、液体試料が酵素を含有し、当該酵素に対応した基質を保持シートに固定してもよい。この場合の具体例としては、酵素が酸性フォスファターゼであり、基質が1-ナフチル・リン酸である。
【0089】
また、液体試料が、体液以外の液体であってもよく、例えば、野菜、果実、又は、海藻等から取得した液体であってもよい。
【0090】
また、上述の実施形態では、温度センサ110とリアクター200とが分離可能であるバイオセンサ100について説明したが、バイオセンサの構成は特にこれに限定されない。流路部材とセンサ部材とが一体化されたバイオセンサに、本開示に係る技術を適用してもよい。
【0091】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0092】
4 液体試料
100 バイオセンサ
110 温度センサ
120 演算処理装置
200 リアクター
210 容器
220 反応部材
222 酵素
224 樹脂
230 保持シート
232 空隙
234 繊維
240 フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9