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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067904
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】摺動構造
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/02 20060101AFI20220426BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20220426BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20220426BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220426BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20220426BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20220426BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20220426BHJP
   C10M 105/04 20060101ALI20220426BHJP
   C10M 105/34 20060101ALI20220426BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20220426BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20220426BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20220426BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
C10M171/02
C08L23/16
C08L25/12
C08K5/01
C08K5/101
C08L23/02
C08L9/02
C10M105/04
C10M105/34
C10M107/02
C10N40:02
C10N20:02
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176764
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】青柳 彩子
【テーマコード(参考)】
4H104
4J002
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB04A
4H104BB08A
4H104BB32A
4H104BB42A
4H104CB15A
4H104EA02Z
4H104LA20
4H104PA01
4J002AC071
4J002BB151
4J002BD121
4J002EA016
4J002EH106
4J002FD010
4J002FD030
4J002FD172
4J002FD176
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】摺動時に優れた摺動能力を実現する摺動構造を提供すること。
【解決手段】40℃での動粘度が500mm/s以下である潤滑液体と、ゴムとを有する、摺動構造であって、JIS K6258:2016に従いゴムを25℃の潤滑液体中に336時間、浸漬させた時の体積変化率が10(%)以下である、摺動構造。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃での動粘度が500mm/s以下である潤滑液体と、ゴムとを有する、摺動構造であって、JIS K6258:2016に従い前記ゴムを25℃の潤滑液体中に336時間、浸漬させた時の体積変化率が10(%)以下である、前記摺動構造。
【請求項2】
前記ゴムは、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)およびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)からなる群から選択される少なくとも一種のゴムである、請求項1に記載の摺動構造。
【請求項3】
前記潤滑液体は、ヘキサデカン、オレイン酸メチル、およびポリ-α-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種の潤滑液体である、請求項1または2に記載の摺動構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、摺動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴムと金属の摺動部の摩擦低下のために、摺動部の回転速度を大きくしたり、摺動部に塗布する潤滑液体の粘度を高くして流体潤滑状態とすることにより摺動部の摩擦特性を改善することが行われてきた。特許文献1(特開2019-166317号公報)は、天然ゴム成分およびブロモブチルゴム等を含み、所定範囲の湿潤摩擦係数、乾燥摩擦係数、DIN摩耗およびダイC引裂強度を有する、ゴム組成物を開示する。
【0003】
近年、省エネルギー化の観点から潤滑液体の低粘度化が進み、従来の流体潤滑による低摩擦化だけでなく境界潤滑領域における低摩擦が求められるようになってきた。しかし、低粘度の潤滑液体は一般的に分子量が小さいため摺動構造を構成するゴム中に吸収されやすく摺動面に潤滑液体が留まりにくくなるという特性を有する。このため、低粘度の潤滑液体を使用しつつ摺動時に優れた摺動能力をする摺動構造が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-166317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、潤滑液体とゴムの親和性の指標である体積変化率を制御することにより、ゴム中への潤滑液体の吸収を抑えて、摺動時に優れた摺動効果を発揮する摺動構造が得られることを発見した。すなわち、本発明は、摺動時に優れた摺動能力を実現する摺動構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の各態様は、以下のとおりである。
[1]40℃での動粘度が500mm/s以下である潤滑液体と、ゴムとを有する、摺動構造であって、JIS K6258:2016に従い前記ゴムを25℃の潤滑液体中に336時間、浸漬させた時の体積変化率が10(%)以下である、前記摺動構造。
[2]前記ゴムは、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)およびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)からなる群から選択される少なくとも一種のゴムである、上記[1]に記載の摺動構造。
[3]前記潤滑液体は、ヘキサデカン、オレイン酸メチル、およびポリ-α-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種の潤滑液体である、上記[1]または[2]に記載の摺動構造。
【発明の効果】
【0007】
摺動時に優れた摺動能力を実現する摺動構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の摺動構造は、40℃での動粘度が500mm/s以下である潤滑液体と、ゴムとを有し、JIS K6258:2016に従いゴムを25℃の潤滑液体中に336時間、浸漬させた時の体積変化率が10(%)以下である。40℃での動粘度が500mm/s以下の潤滑液体を用いることにより、省エネルギー化を図ることができる。また、
ゴム上に、40℃での動粘度が500mm/s以下の低粘度の潤滑液体が存在する場合であっても、ゴムが該潤滑液体を吸収して膨潤を起こすことを効果的に防止できる。このため、摺動構造が摺動する際に、摺動部は境界潤滑状態になっているものと考えられるが、このような場合であっても低摩擦を実現することができる。結果として、ゴムを有する摺動構造において優れた摺動能力(低摩擦)を実現することができる。
【0009】
以下では、本発明の摺動構造について詳細に説明する。
潤滑液体は、40℃で500mm/s以下の動粘度を有する。潤滑液体の40℃での動粘度は1~500mm/sが好ましく、3~400mm/sがより好ましい。潤滑液体は、ゴムの体積変化率が10%以下となるものであれば特に限定されないが、例えば、ウンデカン、ドデカン、ヘキサデカン、イソドデカン、イソヘキサデカン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、ジペンチルエーテル、ジブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジ-2-エチルヘキシルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソヘキシルエーテル、エチルイソペンチルエーテル、プロピルイソペンチルエーテル、エチルイソブチルエーテル、プロピルイソブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸プロピル、ヘキサン酸ブチル、ヘキサン酸イソブチル、ヘプタン酸メチル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸プロピル、オレイン酸メチル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびポリ-α-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種の潤滑液体を挙げることができる。これらの潤滑液体の中でも、ゴムの体積変化率が低くなる潤滑液体としてエチレングリコール、ヘキサデカン、オレイン酸メチル、およびポリ-α-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種の潤滑液体を用いることが好ましい。
【0010】
ゴムは、潤滑液体中での体積変化率が10%以下となるものであれば特に限定されないが、例えば、シリコーンゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、ウレタンゴム(U)、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)およびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)からなる群から選択される少なくとも一種のゴムを挙げることができる。なお、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)は、ニトリル含量を調節することによって、潤滑液体中での体積変化率を制御することができる。これらのゴムの中でも潤滑液体を吸収しにくいことから、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)およびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)からなる群から選択される少なくとも一種のゴムが好ましい。なお、ゴムの体積変化率は、JIS K6258:2016に従い、20×50×2mm の大きさのゴム試験片を25℃の潤滑液体
中に336時間、浸漬させた時の体積の変化率を表す。上記方法に従って測定したゴムの体積変化率は10%以下であり、1%以下が好ましい。
【0011】
本発明の摺動構造は、必要に応じて潤滑液体以外の成分を有しても良い。例えば、摺動構造は、潤滑液体以外の成分として、潤滑液体中に、加硫剤;カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強材;ワックス、金属石けん、カルナバワックス等の加工助剤;水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等の受酸剤;老化防止剤;熱可塑性樹脂;可塑剤;軟化剤;発泡剤;発泡助剤;着色剤;分散剤;難燃剤;粘着性付与剤;離型剤;各種金属粉末等を含むことができる。これらの成分は潤滑液体中に溶解または分散していてもよい。
【0012】
(摺動構造の製造方法)
一実施形態の摺動構造は、ゴム材料を架橋、成形することによって所定の形状とした後、該所定の形状のゴムを含む摺動部を組み立てる。次いで、該摺動部を構成するゴム等の
表面上に潤滑液体を塗布することによって製造することができる。ゴム材料の架橋、成形の条件は、ゴム材料の種類によって適宜、設定することができる。
【0013】
(摺動構造)
摺動構造が互いに対向する部材から構成される摺動部を有する場合、互いに対向する部材の両方がゴムから形成されていてもよいし、互いに対向する部材の一方がゴムから形成されており他方は他の材料から形成されていてもよい。一実施形態の摺動構造では、ゴムと金属から摺動部が構成され、該ゴムと金属の間に潤滑液体を有することができる。例えば、ゴムと金属の間に、40℃で500mm/s以下の動粘度を有する潤滑液体を塗布することによって境界潤滑状態として優れた摺動特性(低摩擦状態)を達成することができる。摺動構造は特に限定されず、エアコンのコンプレッサー、自動車のエンジンピストン、電磁弁、プランジャー、バルブ、ブッシュ、すべり軸受等の摺動構造とすることができる。
【実施例0014】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0015】
(実施例1~11および比較例1~6)
以下の通りにして、各例の体積変化率および最大摩擦係数を測定した。
(最大摩擦係数)
下記表1に示す配合に従って準備した各々のゴム(EPDM、NBR 1、NB2、
FKM)の混練を行った。
【0016】
【表1】
そして、ゴムを架橋して半径2mmの半球状ゴムピンを成形した。該半球状ゴムピンに対向するように、摺動部材として鏡面仕上げを行ったSPCC(Steel Plate
Cold Commercial;冷間圧延鋼板)製のディスクを配置させた。次いで、表2に示すゴムからなる半球状ゴムピンとSPCC製のディスクの間に、表2に示す潤滑液体を塗布することで摺動構造を得た。この後、3Nの荷重下でSPCC製のディスクを表3に記載のステップ1から20まで順次、段階的に回転速度を増加させながら合計で180分間、回転させた。SPCC製のディスク回転時の摩擦係数を計算し該摩擦係数の最大値を最大摩擦係数として記録した。
【0017】
(体積変化率)
JIS K6258:2016に準じて、表2に記載のゴムからなる20×50×2mmの大きさ・形状のゴム試験片を作成した。該ゴム試験片を、表2に記載の25℃の潤滑液体中に336時間、浸漬させた時の体積変化率(%)を測定した。
各例の体積変化率および最大摩擦係数を表4に示す。
【0018】
【表2】
HD:n-ヘキサデカン:40℃動粘度3mm/s
MO:オレイン酸メチル:40℃動粘度5mm/s
ポリ-α-オレフィン(PAO A):40℃動粘度5mm/s(イネオスオリゴマーズジャパン社製 DURASYN 162)
ポリ-α-オレフィン(PAO B):40℃動粘度400mm/s(イネオスオリゴマーズジャパン社製 DURASYN 174)
EG:エチレングリコール:40℃ 動粘度 9mm/s
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
表4の結果から、実施例1~11に示すように体積変化率が10%以下であると最大摩擦係数が0.4以下となり低摩擦となることが分かる。