IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キューベックス・メディカル株式会社の特許一覧

特開2022-67933外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン
<>
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図1
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図2
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図3
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図4
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図5
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図6
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図7
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図8
  • 特開-外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067933
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピン
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/86 20060101AFI20220426BHJP
   A61B 17/88 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
A61B17/86
A61B17/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176810
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】519042238
【氏名又は名称】キューベックス・メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119404
【弁理士】
【氏名又は名称】林 直生樹
(74)【代理人】
【識別番号】100177769
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100188743
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮野 哲
(72)【発明者】
【氏名】高木 稔
(72)【発明者】
【氏名】松本 信二
(72)【発明者】
【氏名】曲渕 通昇
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL37
4C160LL42
4C160LL57
4C160LL58
4C160LL59
(57)【要約】
【課題】手動によって固定ピンをアダプタに対して着脱するための機構及び操作がより簡単な外科用固定ピン刺込器具、及びこれに使用される外科用固定ピンを提供する。
【解決手段】外科用固定ピン刺込器具1は、骨に刺し込んで固定される固定ピン10と、固定ピン10を着脱可能に保持するアダプタ30とを有して軸L方向に延びる。固定ピン10は、ワイヤ挿通孔23、23’が軸回りの外周面間に貫設されたワイヤ保持部20と、ワイヤ保持部20から先端方向に延びる刺込固定軸部11とを有する。アダプタ30は、先端側が開口してワイヤ保持部20を収容するピン固定穴47と、ピン固定穴47にワイヤ保持部20を収容させた状態で固定ピン10を当接させる当接部とを有する。ワイヤ保持部20の外周面に雄ネジ25が形成され、ピン固定穴47の内周面に雄ネジ25と螺合させる雌ネジが31b形成される。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用ワイヤを挿通させるワイヤ挿通孔を有して、骨に刺し込んで固定するための固定ピンと、
前記固定ピンを着脱可能に保持して、回転工具に取り付けるためのアダプタと、から構成され、
先端側から基端側へ向けて軸方向に延びる外科用固定ピン刺込器具であって、
前記固定ピンは、
前記ワイヤ挿通孔が軸回りの外周面間に貫設されたワイヤ保持部と、
前記ワイヤ保持部から軸方向先端側へ延びて、先端部に刃部が形成された刺込固定軸部と、を有しており、
前記アダプタは、
軸方向先端側に向けて開口し前記固定ピンの前記ワイヤ保持部を収容して保持するピン固定穴と、
前記ピン固定穴に前記ワイヤ保持部を収容して保持させた状態において、前記固定ピンを軸方向基端側に向けて当接させる当接部と、を有しており、
前記固定ピンの前記ワイヤ保持部の前記外周面には、雄ネジが形成され、
前記アダプタの前記ピン固定穴の内周面には、前記ワイヤ保持部の前記雄ネジと螺合させる雌ネジが形成されている、
ことを特徴とする外科用固定ピン刺込器具。
【請求項2】
前記固定ピンは、更に前記ワイヤ保持部から軸方向基端へ延びるガイド軸部を有し、
前記アダプタは、更に前記ピン固定穴の基端側から軸方向基端側に延びて前記固定ピンの前記ガイド軸部を摺動自在に挿入させるガイド穴を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の外科用固定ピン刺込器具。
【請求項3】
前記ワイヤ保持部の軸方向基端側の端には、前記軸と直交方向に延びる基端側端面が形成され、
前記当接部が、前記ピン固定穴の基端側に前記軸と直交して配された当接面によって形成されており、
前記ピン固定穴に前記ワイヤ保持部を収容して保持させた状態において、前記ワイヤ保持部の前記基端側端面が、前記当接面に対して当接されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の外科用固定ピン刺込器具。
【請求項4】
前記ワイヤ保持部は、前記軸と直交する横断面が軸方向において均一な柱状に形成されており、
前記ワイヤ保持部の前記基端側端面と前記当接面とが、互いに対向する平坦面によって形成されており、
前記ワイヤ保持部の前記基端側端面の中心から前記ガイド軸部が立設され、
前記当接面の中心に前記ガイド穴が開設されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の外科用固定ピン刺込器具。
【請求項5】
前記ワイヤ保持部の軸回りの前記外周面は、前記軸を挟んで互いに背向する一対の平坦面部と、前記軸を挟んで互いに背向する一対の円弧面部との組み合わせによって形成されており、
前記一対の円弧面部に前記雄ネジが形成され、前記一対の平坦面部間に前記ワイヤ挿通孔が貫設されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の外科用固定ピン刺込器具。
【請求項6】
前記ワイヤ保持部の軸回りの前記外周面が、前記一対の平坦面部の2組と前記一対の円弧面部の2組とによって形成されており、
前記ワイヤ保持部が、前記円弧面部を軸方向に沿って延びる四隅に配した断面略正方形の四角柱状に形成されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の外科用固定ピン刺込器具。
【請求項7】
前記アダプタは、軸方向先端部に前記当接部を有して軸方向に延びる動力伝達部と、前記動力伝達部の軸周りに回動可能で且つ軸方向に移動可能に設けられ、前記動力伝達部に対して軸周りに回動させると、前記動力伝達部を軸方向に移動させるように設けられたアダプタ本体部と、を有し、
前記アダプタ本体部に対して前記動力伝達部が固定された状態で、前記アダプタ本体部を軸周り一方側に回動させると、前記アダプタ本体部が軸方向先端側へと移動して、前記当接部が前記固定ピンに当接する軸方向先端側の当接位置から離間する、
ことを特徴とする請求項1に記載の外科用固定ピン刺込器具。
【請求項8】
前記アダプタ本体部は、バネ力によって軸方向基端側へ常時付勢されていて、
前記アダプタ本体部を前記バネ力に抗して軸方向先端側へと移動させることができるようになっている、
ことを特徴とする請求項7に記載の外科用固定ピン刺込器具。
【請求項9】
前記刃部は、
軸方向先端側へ延びる二等辺三角形状の中心刃と、
前記中心刃を挟んで軸周りに配された一対の外刃と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の外科用固定ピン刺込器具。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載の外科用固定ピン刺込器具において用いられる前記固定ピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用ワイヤを用いて骨折した部位を固定する際に好適に用いられる外科用固定ピン刺込器具及びこれに使用される固定ピンであって、特に、骨に刺し込まれる固定ピンがアダプタに対して着脱可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
骨折した部位を修復する際に使用される外科用の固定ピンとしては、外科用ワイヤを挿通可能なワイヤ挿通孔を有しているものが既に知られている。このような固定ピンは、例えば特許文献1に記載された外科用固定ピン刺込器具(外科用ケーブルスリーブシステム)のように、回転工具のチャックに取り付けられるためのアダプタ(スリーブ保持器具)に着脱可能に装着される。この固定ピンは、軸方向先端から骨に刺し込まれる軸状導入部と、軸状導入部の軸方向基端部に形成されたスリーブ本体部とを有してなり、スリーブ本体部は、軸方向に対して直交する方向に貫設された2つのワイヤ挿通孔を有している。一方、前記アダプタは、その軸方向先端部に固定ピンの前記スリーブ本体部を着脱可能に装着するスリーブ装着部を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-198696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の固定ピン刺込器具においては、固定ピンのスリーブ本体部及びこのスリーブ本体部を装着するアダプタの装着部の構造が複雑である。このため、固定ピンをアダプタに対して着脱するための機構及び操作がより簡単であることが望まれている。
【0005】
そこで、本発明の技術的課題は、手動によって固定ピンをアダプタに対して着脱するための機構及び操作がより簡単な外科用固定ピン刺込器具、及びこれに使用される外科用固定ピンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る外科用固定ピン刺込器具は、外科用ワイヤを挿通させるワイヤ挿通孔を有して、骨に刺し込んで固定するための固定ピンと、前記固定ピンを着脱可能に保持して、回転工具に取り付けるためのアダプタと、から構成され、先端側から基端側へ向けて軸方向に延びる外科用固定ピン刺込器具であって、前記固定ピンは、前記ワイヤ挿通孔が軸回りの外周面間に貫設されたワイヤ保持部と、前記ワイヤ保持部から軸方向先端側へ延びて、先端部に刃部が形成された刺込固定軸部と、を有しており、前記アダプタは、軸方向先端側に向けて開口し前記固定ピンの前記ワイヤ保持部を収容して保持するピン固定穴と、前記ピン固定穴に前記ワイヤ保持部を収容して保持させた状態において、前記固定ピンを軸方向基端側に向けて当接させる当接部と、を有しており、前記固定ピンの前記ワイヤ保持部の前記外周面には、雄ネジが形成され、前記アダプタの前記ピン固定穴の内周面には、前記ワイヤ保持部の前記雄ネジと螺合させる雌ネジが形成されている、ことを特徴とする。
【0007】
この場合において、好ましくは、前記固定ピンは、更に前記ワイヤ保持部から軸方向基端へ延びるガイド軸部を有し、前記アダプタは、更に前記ピン固定穴の基端側から軸方向基端側に延びて前記固定ピンの前記ガイド軸部を摺動自在に挿入させるガイド穴を有する。
【0008】
また、前記ワイヤ保持部の軸方向基端側の端には、前記軸と直交方向に延びる基端側端面が形成され、前記当接部が、前記ピン固定穴の基端側に前記軸と直交して配された当接面によって形成されており、前記ピン固定穴に前記ワイヤ保持部を収容して保持させた状態において、前記ワイヤ保持部の前記基端側端面が、前記当接面に対して当接されている。また、より好ましくは、前記ワイヤ保持部は、前記軸と直交する横断面が軸方向において均一な柱状に形成されており、前記ワイヤ保持部の前記基端側端面と前記当接面とが、互いに対向する平坦面によって形成されており、前記ワイヤ保持部の前記基端側端面の中心から前記ガイド軸部が立設され、前記当接面の中心に前記ガイド穴が開設されている。
【0009】
また、好ましくは、前記ワイヤ保持部の軸回りの外周面は、前記軸を挟んで互いに背向する一対の平坦面部と、前記軸を挟んで互いに背向する一対の円弧面部との組み合わせによって形成されており、前記一対の円弧面部に前記雄ネジが形成され、前記一対の平坦面部間に前記ワイヤ挿通孔が貫設されている。また、より好ましくは、前記ワイヤ保持部の軸回りの前記外周面が、前記一対の平坦面部の2組と前記一対の円弧面部の2組とによって形成されており、前記ワイヤ保持部が、前記円弧面部を軸方向に沿って延びる四隅に配した断面略正方形の四角柱状に形成されている。
【0010】
また、好ましくは、前記アダプタは、軸方向先端部に前記当接部を有して軸方向に延びる動力伝達部と、前記動力伝達部の軸周りに回動可能で且つ軸方向に移動可能に設けられ、前記動力伝達部に対して軸周りに回動させると、前記動力伝達部を軸方向に移動させるように設けられたアダプタ本体部と、を有し、前記アダプタ本体部に対して前記動力伝達部が固定された状態で、前記アダプタ本体部を軸周り一方側に回動させると、前記アダプタ本体部が軸方向先端側へと移動して、前記当接部が前記固定ピンに当接する軸方向先端側の当接位置から離間する。また、より好ましくは、前記アダプタ本体部は、バネ力によって軸方向基端側へ常時付勢されていて、前記アダプタ本体部を前記バネ力に抗して軸方向先端側へと移動させることができるようになっている。
【0011】
また、好ましくは、前記刃部は、軸方向先端側へ延びる二等辺三角形状の中心刃と、前記中心刃を挟んで軸周りに配された一対の外刃と、を有する。
【0012】
また、本発明に係る固定ピンは、請求項1~9の何れかに記載の外科用固定ピン刺込器具において用いられる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、手動によって固定ピンをアダプタに対して着脱するための機構及び操作がより簡単な外科用固定ピン刺込器具、及びこれに使用される外科用固定ピンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る外科用固定ピン刺込器具の一実施形態を示す斜視図である。
図2】外科用固定ピン刺込器具が電動ドライバに装着された状態の側面図である。
図3】アダプタに対して固定ピンが分離された外科用固定ピン刺込器具の斜視図である。
図4図3に示す固定ピンの斜視図である。
図5図3に示す固定ピンを示し、同図(a)は固定ピンの側面図であり、同図(b)は固定ピンの正面図であり、同図(c)は固定ピンの裏面図である。
図6図1に示すアダプタを示し、同図(a)はアダプタの側面図であり、同図(b)はアダプタの正面図であり、同図(c)はアダプタの裏面図である。
図7図6(a)におけるVII-VII矢視断面図である。
図8】外科用ワイヤ及び固定ピンを用いた手術例の手順を説明するための説明図である。
図9】外科用固定ピン刺込器具を用いて固定ピンを骨に刺し込む際の手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る外科用固定ピン刺込器具について説明する。本実施形態の外科用固定ピン刺込器具1は、骨折部位において固定ピン10を骨Bに刺し入れて外科用ワイヤWを骨Bの周囲に掛け回すことにより骨折部位を固定的に接合するためのものである。
【0016】
この外科用固定ピン刺込器具1は、図1図5(a)に示すように、外科用ワイヤW(図8参照)を挿通するワイヤ挿通孔23を有して骨に刺し込んで固定するための固定ピン10と、固定ピン10を着脱可能に保持して、回転工具に取り付けるためのアダプタ30と、を有してなり、軸L方向の先端側(以下、「先端側」と記す。)から軸L方向の基端側(以下、「基端側」と記す。)へ向けて軸L方向に延びる。アダプタ30には動力駆動源となる回転工具、例えば電動ドライバ3(図2参照)が接続されて、電動ドライバ3の回転動力がアダプタ30を介して固定ピン10に伝達されることにより、固定ピン10が回転しながら骨Bに刺し入れられる。固定ピン10のワイヤ挿通孔23に通された外科用ワイヤWは、骨Bの周囲に掛け回されて締結される。
【0017】
固定ピン10は、図4に示すように、ワイヤ挿通孔23、23’が軸回りの外周面28間において軸Lと交差する方向に貫設されたワイヤ保持部20と、ワイヤ保持部20の軸L方向の先端から軸L方向の先端側方向(以下、「先端方向」と記す。)に延びると共に、軸L方向先端部(以下、「先端部」と記す。)に刃部12が形成された刺込固定軸部11と、ワイヤ保持部20の軸L方向の基端から軸L方向の基端側方向(以下、「基端方向」と記す。)に延びるガイド軸部15と、を有する。固定ピン10は、生体適合性の観点から、例えばチタン合金やステンレス鋼等で形成される。
【0018】
刺込固定軸部11とガイド軸部15とは円柱状であって軸L方向に延びる。本実施形態では、刺込固定軸部11はガイド軸部15よりも小径であり、刺込固定軸部11の軸L方向長さはガイド軸部15の軸L方向長さよりも長い。なお、刺込固定軸部11の軸L方向長さ及び外径は、刺し入れられる骨の大きさ等によって任意に変更可能である。一方、ガイド軸部15の軸L方向長さ及び外径は、固定ピン10をアダプタ30に対して軸方向に配置するための必要な大きさを有している。
【0019】
ガイド軸部15は、図5(a)に示すように、ワイヤ保持部20の後述する基端側端面20aの中心(軸Lと基端側端面20aとの交点)から立設されており、ガイド軸部15の先端部には脆弱部15aが形成されている。本実施形態では、脆弱部15aは、先端側に進むにしたがって外径が小さくなるように形成されている。このため、刺込固定軸部11に対してガイド軸部15を傾動させると、脆弱部15aに応力が集中して刺込固定軸部11に対して脆弱部15aを破断することができる。このため、ガイド軸部15を刺込固定軸部11に対して容易に分離することができる。
【0020】
刺込固定軸部11の先端部に形成された刃部12は、刺込固定軸部11の軸L方向に延びる二等辺三角形状の中心刃12aと、中心刃12aを挟んで軸周りに配されて外向きに開く一対の外刃12bと、を有してなる。
【0021】
本実施形態では、中心刃12aは、その両側のなす角度が鋭角を有して尖った状態に形成されているので、骨の表面が湾曲している部位等の斜めに傾斜した場所でも中心刃12aの先端の逃げを抑えることができる。また、中心刃12aの両側に形成された外刃12bがあることにより、中心刃12aのみの場合と比較して、切削抵抗を低減することができる。このため、固定ピン10の回転時において、固定ピン10のブレが抑制されて、精度の高い孔を骨に開けることができる。
【0022】
ワイヤ保持部20は、刺込固定軸部11の軸L方向基端部(以下、「基端部」と記す。)に軸Lと直交する横断面が軸L方向において均一な柱状に形成されている。本実施形態では、ワイヤ保持部20は、軸方向視において外形が略正方形状であって軸L方向に延びる四角柱状に形成されている。
【0023】
ワイヤ保持部20の軸回りの外周面28は、図4に示すように、軸Lを挟んで互いに背向する一対の平坦面部21,22と、軸Lを挟んで互いに背向する一対の円弧面部26,27との組み合わせによって形成されている。本実施形態では、ワイヤ保持部20の外周面28は、2組の一対の平坦面部21,22と、2組の一対の円弧面部26,27とによって形成されている。一対の平坦面部21は、軸Lを挟んだ左右方向両側に形成され、一対の平坦面部22は、軸Lを挟んだ上下方向両側に形成されている。一対の平坦面部21、21間には、ワイヤ挿通孔23、23’が貫設されている。ワイヤ挿通孔23、23’の詳細については後述する。
【0024】
円弧面部26,27は、断面が略正方形の四角柱状に形成されたワイヤ保持部20の軸方向に沿って延びる四隅に形成されている。一対の円弧面部26は、先端側からワイヤ保持部20を見たときに、ワイヤ保持部20の右側上部及び左側下部の夫々の隅に形成されており、一対の円弧面部27は、ワイヤ保持部20の左側上部及び右側下部の夫々の隅に形成されている。これらの円弧面部26,27には、その軸方向先端から軸方向基端に亘って雄ネジ25が形成されている。
【0025】
ワイヤ保持部20の軸L方向の先端及び基端には、図4及び図5(a)に示すように、軸方向に対して直交する方向(以下、「径方向」と記す。)に延びる先端側端面20b及び基端側端面20aが形成されている。これら先端側端面20b及び基端側端面20aは平坦面によって形成されている。本実施形態では、先端側端面20bは、刺込固定軸部11の基端と同一平面上に位置する。また、軸方向視におけるワイヤ保持部20の外形はガイド軸部15の外径よりも大きい。このため、基端側端面20aは、ガイド軸部15に対して径方向外側へ延出しているので、後述するアダプタ30(図7参照)の動力伝達部40の先端(先端側端面40a、当接部)に対して当接させることができる。
【0026】
一対の平坦面部21間に設けられた2つのワイヤ挿通孔23、23’は、上下方向に間隔を有して並設されて、断面形状が円形である。ワイヤ挿通孔23、23’の内径は外科用ワイヤWの外径よりも大きく形成され、ワイヤ挿通孔23、23’の開口部には、開口部の端部に沿った環状の面取り24が設けられている。このため、ワイヤ挿通孔23に挿通された外科用ワイヤWが開口部の端部に接触して損傷する虞を防止することができる。
【0027】
これら2つのワイヤ挿通孔23、23’は、図5(a)に示すように、基端側端面20a及び先端側端面20bの内側に近接して設けられている。このため、ワイヤ保持部20の軸方向両側の肉厚は、薄肉に形成されている。従って、ワイヤ挿通孔23、23’に挿通された外科用ワイヤWをワイヤ保持部20に固定する際に、ワイヤ挿通孔23、23’をカシメることにより、外科用ワイヤWをワイヤ保持部20に容易に固定することができる。
【0028】
次に、アダプタ30について説明する。アダプタ30は、図3図6(a)、図7に示すように、軸L方向に延びる円柱状に形成され、軸L方向に延びる貫通孔32を有して円筒状に形成されたアダプタ本体部31と、アダプタ本体部31の貫通孔32内に挿入されて回転工具からの動力を受けて軸回りに回転する動力伝達部40と、動力伝達部40の回転とともにアダプタ本体部31を供回りさせる供回り機構部50と、を有してなる。
【0029】
アダプタ本体部31は、金属材料で形成され、基端側には径方向外側へ突出した円環状の把持部33が形成されている。把持部33の外周面には、ローレット目33aが設けられている。アダプタ本体部31の先端部31aは、先端側へ進むに従って外径が縮小するように形成され、この先端部31aの内面には、固定ピン10の雄ネジ25が螺合する雌ネジ31bが形成されている。
【0030】
アダプタ本体部31の内側に設けられた貫通孔32は、断面が円形状であって、動力伝達部40が摺動可能に嵌合する第1貫通孔部32aと、第1貫通孔部32aの先端部に繋がって第1貫通孔部32aよりも小径の第2貫通孔部32bと、を有する。第2貫通孔部32bの内面に雌ネジ31bが形成されている。本実施形態では、雌ネジ31bは、第2貫通孔部32bの軸方向先端から基端に亘って形成されている。
【0031】
アダプタ本体部31の把持部33よりも先端側の側壁34には、軸周りに延びて側壁34を貫通する案内孔35が設けられる。本実施形態では、案内孔35は、軸Lを挟んだ径方向両側に一対設けられ、案内孔35には、動力伝達部40に設けられた案内ピン46が挿入される。以下、案内ピン46と案内孔35とを併せて供回り機構部50と記す。供回り機構部50の詳細については後述する。
【0032】
動力伝達部40は、図7に示すように、金属材料で形成されて、貫通孔32に挿入された動力伝達部本体41と、動力伝達部本体41の基端部から基端側へ延びる動力伝達軸43とを有してなる。動力伝達軸43は、断面が円形状であり、動力伝達部本体41とともに軸L方向に延びる。この動力伝達軸43には、動力源となる例えば電動ドライバ3(図2参照)が着脱可能に接続される。
【0033】
動力伝達部本体41は、図7に示すように、軸L方向に延びる円柱状に形成され、動力伝達部本体41の先端側は基端側よりも小径の小径部42が形成されている。小径部42は軸L方向に延びており、小径部42の外径は、雌ネジ31bの内径(めねじ内径)よりも僅かに小さい。本実施形態では、小径部42の先端部が雌ネジ31bの基端側内に挿入された状態で、動力伝達部本体41がアダプタ本体部31の貫通孔32内に挿入されている。すなわち、動力伝達部40の先端は、雌ネジ31bの基端よりも先端側に位置している。このため、雌ネジ31bに固定ピン10の雄ネジ25を螺合させると、ワイヤ保持部20の基端側端面20aを小径部42の先端に当接させることができる。固定ピン10をアダプタ30に固定する詳細については後述する。
【0034】
動力伝達部40の小径部42よりも基端側には、径方向に貫通する挿通孔41bが設けられ、この挿通孔41bに案内ピン46が挿着されている。案内ピン46は、挿通孔41bの両側の開口から案内ピン46の長手方向両端部が突出している。
【0035】
ところで、本実施形態に係る外科用固定ピン刺込器具1においては、固定ピン10を、アダプタ30に対して同軸上に挿入させた状態で固定することができるようになっている。
【0036】
以下に、固定ピン10をアダプタ30に対して固定可能な構造について具体的に説明する。図7に示すように、動力伝達部40には、小径部42の先端に開口して基端側へ延びるガイド穴44が設けられている。本実施形態では、ガイド穴44は、小径部42を超えて案内孔35に挿入された案内ピン46の近傍まで延びている。ガイド穴44の内径は、固定ピン10のガイド軸部15の外径よりも僅かに大きく形成されており、ガイド穴44にガイド軸部15が挿入されると、固定ピン10を動力伝達部40に対して軸方向(同軸上)に配置することができる。ガイド穴44の軸方向長さLhは、ガイド軸部15の軸方向長さLsよりも長い。このため、ガイド軸部15の全てをガイド穴44に挿入することができる。
【0037】
小径部42の先端は、軸L方向に対して直交する径方向に沿って延びる先端側端面40aが形成されている。この先端側端面40aは、平坦面によって形成されて軸方向視において円環状であり、固定ピン10のワイヤ保持部20の基端側端面20a(図5(a)参照)と対向して当接する当接部として機能する。また、雌ネジ31bと先端側端面40aとで区画される凹部はワイヤ保持部20を収容して保持するためのピン固定穴47として機能する。
【0038】
また、本実施形態では、ピン固定穴47における雌ネジ31bの軸方向長さLaは、雄ネジ25の軸方向長さLb(図5(a)参照)と略同一である。このため、固定ピン10をアダプタ30に螺合させて、ワイヤ保持部20の基端側端面20aを小径部42の先端側端面40aに当接させた状態にすると、ワイヤ保持部20の先端側端面20bがアダプタ本体部31の先端と略同一平面上に位置する。
【0039】
このように、動力伝達部40のガイド穴44に固定ピン10のガイド軸部15を挿入し、固定ピン10のワイヤ保持部20の雄ネジ25をアダプタ本体部31の雌ネジ31bに螺合させ、ワイヤ保持部20の基端側端面20a(図5(a)参照)を動力伝達部40の先端側端面40a(図7参照)に当接させることにより、固定ピン10をアダプタ30に対して軸方向(同軸上)に配置した状態で固定することができる。
【0040】
次に、供回り機構部50について説明する。供回り機構部50は、前述したように、アダプタ本体部31に設けられた案内孔35と、動力伝達部本体41に設けられた案内ピン46とを有してなる。案内孔35は、図6(a)及び図7に示すように、アダプタ本体部31の把持部33よりも先端側の側壁34に軸周りに延びて、軸Lを挟んだ径方向両側に一対設けられている。これら一対の案内孔35の夫々に、動力伝達部本体41から突出する案内ピン46の長手方向の両端部の対応するいずれかが挿入されている。
【0041】
案内孔35は、案内ピン46の外径と略同じ軸L方向の幅を有して軸周りに延びる。このため、アダプタ本体部31は、案内ピン46及び案内孔35を介して動力伝達部40に対して軸L方向に一体的に接続されている。また、アダプタ本体部31に対して動力伝達部40を軸周りに回転させた場合、案内ピン46が案内孔35の軸周りの一方側端部又は他方側端部に当接すると、アダプタ本体部31と動力伝達部40とが軸周りに一体となって供回りが可能になる。
【0042】
すなわち、図6(c)に示すように、アダプタ30を基端側から見たときに、アダプタ30を反時計方向に回転させる方向を「左回転方向」とし、アダプタ30を時計方向に回転させる方向を「右回転方向」とした場合、アダプタ本体部31に対して動力伝達部40を右回転方向に回転させて、案内ピン46が案内孔35の右回転方向側端部35b1に当接すると、アダプタ本体部31と動力伝達部40とが右回転方向に対して一体となって右回転方向への供回りが可能になる。また、アダプタ本体部31に対して動力伝達部40を左回転方向側に回転させて、案内ピン46が案内孔35の左回転方向側端部35a1に当接すると、アダプタ本体部31と動力伝達部40とが左回転方向に対して一体となって左回転方向側への供回りが可能になる。
【0043】
ところで、本実施形態に係わる外科用固定ピン刺込器具1においては、アダプタ30の動力伝達部40に接続された電動ドライバ3が駆動して、固定ピン10が回転しながら骨に刺し入れられている時に、固定ピン10に作用する切削抵抗により、固定ピン10及びアダプタ30の夫々の回転角度に差が生じる場合がある。この場合、アダプタ本体部31及び固定ピン10のいずれか一方が軸方向に移動する場合がある。例えば、アダプタ本体部31に対して固定ピン10の回転角度が大きい場合には、アダプタ本体部31に対して固定ピン10のワイヤ保持部20が回転することにより、固定ピン10がアダプタ本体部31に対して基端側へ移動して、固定ピン10側の雄ネジ25がアダプタ30側の雌ネジ31bに対して基端側へ付勢する。その結果、雄ネジ25と雌ネジ31bとの間に、ネジの噛み込みが生じる虞がある。このネジの噛み込みが生じると、固定ピン10からアダプタ30を取り外す際に、アダプタ30を容易に取り外すことができなくなる。
【0044】
そこで、本実施形態に係わる供回り機構部50では、図6(a)及び図6(c)に示すように、動力伝達部40に対してアダプタ本体部31を軸周り(左回転方向)に回転させることにより、アダプタ本体部31に対して動力伝達部40を基端側へ移動させることができるようになっている。
【0045】
以下に、アダプタ本体部31に対して動力伝達部40を基端側へ移動させる供回り機構部50について説明する。供回り機構部50の案内孔35は、図6(a)、図6(c)及び図7に示すように、アダプタ本体部31の側壁34に軸L方向に対して軸周りに延びる基端側孔部35aと、基端側孔部35aの右回転方向側の開口端部から右回転方向へ延びて且つ基端側孔部35aよりも先端側に位置する先端側孔部35bと、を有してなる。なお、先端側孔部35bと基端側孔部35aとの軸L方向の位置ずれ間の距離は、動力伝達部40が基端側に移動することによって、ワイヤ保持部20と動力伝達部40との間に形成される隙間g(図9(d)参照)に対応している。
【0046】
本実施形態では、基端側孔部35aは、左回転方向側へ進むに従って基端側に斜めに延びるように形成され、先端側孔部35bは、基端側孔部35aの軸周りの右側端部から右回転方向に軸周りに延びるように形成される。このため、先端側孔部35bと基端側孔部35aとは、軸周りに互いに連通している。従って、供回り機構部50は、案内ピン46が基端側孔部35aの左回転方向側端部35a1に当接した状態から動力伝達部40を右回転方向側へ回動させて、案内ピン46が先端側孔部35bの右回転方向側端部35b1に当接するまでの動力伝達部40の回転角度を所定角度θとした場合、アダプタ本体部31に対して動力伝達部40を、所定角度θを有して右回転方向に回動させると、アダプタ本体部31と動力伝達部40とが右回転方向に対して一体化して、これらを右回転方向に供回りさせることができる。
【0047】
また、供回り機構部50は、アダプタ本体部31及び動力伝達部40が右回転方向に対して一体となった状態において、動力伝達部40に対してアダプタ本体部31を、手動で右回転方向側へ所定角度θを有して回動させると、案内ピン46が先端側孔部35bから基端側孔部35aへ相対移動して、動力伝達部40をアダプタ本体部31に対して基端側へ移動させることができる。すなわち、動力伝達部40が固定されていない状態において、動力伝達部40に対してアダプタ本体部31を、手動で右回転方向側へ回動させると、当接部として機能する動力伝達部40の先端側端面40aを、固定ピン10のワイヤ保持部20に当接する当接位置から、固定ピン10のワイヤ保持部20から離間する基端側へ移動させることができる。このため、動力伝達部40が固定された状態(例えば、電動ドライバ3に接続保持された状態)では、アダプタ本体部31を手動で右回転方向側へ回動させると、アダプタ本体部31が動力伝達部40に対して先端側へ移動する。
【0048】
したがって、ワイヤ保持部20に設けられた雄ネジ25に対してアダプタ本体部31に設けられた雌ネジ31bが大きな圧力で接触した状態で、動力伝達部40に対してアダプタ本体部31を先端側へ移動させることにより、これら両ネジ間に作用する圧力が開放されて、これらネジの噛み込みを解消することができる。
【0049】
ところで、固定ピン10をアダプタ30に固定する際には、動力伝達部40の先端側端面40aに対してワイヤ保持部20が基端側へ移動している必要があるため、動力伝達部40に対してアダプタ本体部31を回動させる捩りコイルバネ36が設けられている。
【0050】
捩りコイルバネ36は、図6(a)、図6(c)及び図7に示すように、その内側に動力伝達部本体41が挿通された状態で把持部33の内面に設けられた環状の収容凹部33b内に収容されている。収容凹部33bは、貫通孔32の内面から径方向外側に窪んで基端側が開口する。収容凹部33bの基端側の側面には、捩りコイルバネ36の端末部から延びる2本の第1腕36a及び第2腕36bのうちの一方の第1腕36aを掛止するための第1掛止溝37が形成されている。また、動力伝達部40の側面には、捩りコイルバネ36の第2腕36bの先端部を掛止するための第2掛止溝41aが形成されている。本実施形態では、第1腕36aは荷重が作用する荷重点であり、第2腕36bは固定点である。
【0051】
捩りコイルバネ36は、アダプタ本体部31に対して回転操作がされていない状態でもアダプタ本体部31を左回転方向側へ常時付勢している。すなわち、捩りコイルバネ36は、ワイヤ保持部20の基端側端面20aがアダプタ本体部31の先端側端面40aに当接する方向に付勢している。従って、先端側孔部35bの右回転方向側端部35b1が案内ピン46に当接した状態から、アダプタ本体部31を捩りコイルバネ36の付勢力に抗して右回転方向側へ回転操作させた後に、アダプタ本体部31から手を離すと、捩りコイルバネ36が元の状態に戻ろうとするため、アダプタ本体部31は回転操作された方向(右回転方向)と逆方向(左回転方向)に回転する。このため、回転操作されたアダプタ本体部31を元の位置に戻すための操作を不要にすることができる。
【0052】
次に、本実施形態に係わる外科用固定ピン刺込器具1を使用して骨折した骨Bの部位を修復する手術を行う際の外科用固定ピン刺込器具1の使用方法について、図8及び図9を参照しながら説明する。先ず、本実施形態の外科用固定ピン刺込器具1は、図9(a)に示すようにアダプタ30及び固定ピン10が分離された状態で手術現場に供給される。この状態では、アダプタ30と固定ピン10は、滅菌処理された状態を維持可能な包装容器内に密閉されていることが好ましい。
【0053】
分離状態で手術現場に供給されたアダプタ30及び固定ピン10は、夫々が包装容器内から取り出された後に、アダプタ30における動力伝達部40の動力伝達軸43に電動ドライバ3(図2参照)が装着される。そして、固定ピン10がアダプタ30の先端部に同軸上に装着される。
【0054】
固定ピン10がアダプタ30に装着されると、電動ドライバ3を駆動して動力伝達部40及びアダプタ本体部31を供回りさせて固定ピン10を回転させる。そして、図5図8及び図9(c)に示すように、固定ピン10の刺込固定軸部11を骨B内に刺し入れる。このとき、固定ピン10は、アダプタ30と同軸上に固定されているので、固定ピン10の回転振れが防止されて、安定した状態で骨B内に刺し入れることができる。また、固定ピン10の先端に形成された刃部12は、固定ピン10と同軸上に形成された中心刃12aと、中心刃12aの径方向外側に形成された一対の外刃12bとを有してなるので、中心刃12aの先端を骨Bに当接させることにより、刃部12の回転中心の位置決めをすることができる。したがって、中心刃12aを回転中心として一対の外刃12bが回転することにより、精度の高い孔を骨Bに形成して固定ピン10を骨B内に刺し入れることができる。
【0055】
本実施形態では、図8に示すように、固定ピン10は、骨折した骨Bの上側部位B1と下側部位B2とを貫通した状態で設けられる。すなわち、固定ピン10は、刺込固定軸部11が骨折した骨の上側部位B1と下側部位B2に刺し入れられた状態で刺込固定軸部11の先端が骨折した骨Bの下側部位B2から突出し、且つワイヤ保持部20が骨折した骨Bの上側部位B1に接触した状態で、骨折した骨B内に刺し入れられる。
【0056】
ここで、固定ピン10が骨B内に刺し入れられると、固定ピン10のワイヤ保持部20が動力伝達部40の先端部に圧接された状態となって、雄ネジ25と雌ネジ31bとの間でネジの噛み込みが発生し、アダプタ30から固定ピン10を取り外し難くなる場合がある。この場合には、図9(d)に示すように、動力伝達部40の位置が固定された状態で、把持部33を介してアダプタ本体部31を捩りコイルバネ36の付勢に抗して右回転方向に回転させる。
【0057】
従って、供回り機構部50(図6(a)参照)によって、動力伝達部40に対してアダプタ本体部31が先端側へ移動することにより、固定ピン10のワイヤ保持部20の基端側端面20aと動力伝達部40の先端側端面40aとの間に隙間gが形成される。このため、ワイヤ保持部20と動力伝達部40との圧接状態が開放されることにより、雄ネジ25と雌ネジ31bとの間のネジの噛み込みを解消することができる。
【0058】
このように、ワイヤ保持部20と動力伝達部40との圧接状態が開放されると、図9(e)に示すように、動力伝達部40の動力伝達軸43に装着された電動ドライバ3(図2参照)を逆回転(左方向回転)させて、アダプタ本体部31側に設けられた雌ネジ31bを固定ピン10側に設けられた雄ネジ25から螺脱して、固定ピン10からアダプタ30を取り外すことができる。
【0059】
なお、本実施形態では、図8に示すように、骨折した骨Bに対して1本の固定ピン10を骨Bの幅方向一方側に上下方向に刺し入れた後に、別の固定ピン10’を骨Bの幅方向他方側に刺し入れた例を示している。別の固定ピン10’を骨折した骨Bに刺し入れる作業は、1本目の固定ピン10の場合と同様なので、その説明は省略する。
【0060】
2本の固定ピン10、10’が骨折した骨Bの部位に刺し入れられると、図8に示すように、外科用ワイヤWは、一方の固定ピン10のワイヤ挿通孔23(図3参照)及び他方の固定ピン10’のワイヤ挿通孔23(図3参照)に挿通されて下方に向かって屈曲され、骨Bの外側に掛け回された後に、骨Bの下側部位B2から突出する一方の固定ピン10の先端部10aと骨Bとの間に掛け回されて他方の固定ピン10’側へ屈曲され、他方の固定ピン10’の先端部10a’と骨Bとの間に掛け回される。そして、外科用ワイヤWは、上方へ向かって骨Bの外側に掛け回された後に、一方の固定ピン10のワイヤ挿通孔23’及び他方の固定ピン10’のワイヤ挿通孔23’に挿通されて、側面視において8の字状に掛け回される。その後、外科用ワイヤWの両端に図示しないテンショナーを用いて張力を加え、外科用ワイヤWによって骨折した骨Bの上側部位B1及び下側部位B2を締付ける。
【0061】
外科用ワイヤWによって、骨折した骨Bの上側部位B1及び下側部位B2が締付けられると、かしめペンチによって2本の外科用ワイヤWをワイヤ保持部20とともにかしめて、外科用ワイヤWをワイヤ保持部20に固定する(図9(f)参照)。外科用ワイヤWがワイヤ保持部20に固定されると、図9(g)に示すように、固定ピン10のガイド軸部15を刺込固定軸部11に対して傾動させて脆弱部15aを介して破断する。また、ワイヤ挿通孔23、23’から延出する余剰の外科用ワイヤWは、ニッパー等で切断される。なお、骨Bから突出する固定ピン10の先端部には先端が尖った刃部12が形成されているので、この刃部12をピンカッター等で切断したり折り曲げたりしてもよい。
【0062】
このように、本実施形態に係る外科用固定ピン刺込器具1は、動力伝達部40がアダプタ本体部31に対して軸周りに一体的に回転可能であって、動力伝達部40には、先端が開口して基端側に向かって軸方向に延びるガイド穴44が設けられ、固定ピン10のガイド軸部15がガイド穴44に同軸上に挿入されていることにより、固定ピン10をアダプタ30に対し軸方向に同軸上に配置することができる。また、固定ピン10のワイヤ保持部20の外周面には、アダプタ本体部31の先端部に設けられた雌ネジ31bに螺合可能な雄ネジ25が設けられている。このため、ガイド軸部15をガイド穴44に挿入し、且つ雄ネジ25を雌ネジ31bに螺合させるとともにワイヤ保持部20の基端側端面20aを動力伝達部40の先端側端面40aに当接することで、固定ピン10をアダプタ30に対して軸方向に挿入した状態で固定することができる。
【0063】
なお、前述した実施形態では、外科用固定ピン刺込器具1のアダプタ30は、アダプタ本体部31と動力伝達部40とが別体のものである場合を示したがこれに限るものではない。アダプタ30は、アダプタ本体部31と動力伝達部40とが一体的に構成されたものでもよい。この場合には、供回り機構部50は設けられない。
【符号の説明】
【0064】
1 外科用固定ピン刺込器具
3 電動ドライバ
10 固定ピン
10a 先端部
11 刺込固定軸部
12 刃部
12a 中心刃
12b 外刃
15 ガイド軸部
15a 脆弱部
20 ワイヤ保持部
20a 基端側端面
20b 先端側端面
21、22 平坦面部
23、23’ ワイヤ挿通孔
24 面取り
25 雄ネジ
26、27 円弧面部
28 外周面
30 アダプタ
31 アダプタ本体部
31a 先端部
31b 雌ネジ
32 貫通孔
32a 第1貫通孔部
32b 第2貫通孔部
33 把持部
33a ローレット目
33b 収容凹部
34 側壁
35 案内孔
35a 基端側孔部
35a1 左回転方向側端部
35b 先端側孔部
35b1 右回転方向側端部
36 捩りコイルバネ
36a 第1腕
36b 第2腕
37 第1掛止溝
40 動力伝達部
40a 先端側端面(当接部、当接面)
41 動力伝達部本体
41a 第2掛止溝
41b 挿通孔
42 小径部
43 動力伝達軸
44 ガイド穴
46 案内ピン
47 ピン固定孔
50 供回り機構部
B 骨
B1 上側部位
B2 下側部位
g ワイヤ保持部と動力伝達部間の隙間
L 軸
La 雌ネジ部の長さ
Lb ワイヤ保持部の軸方向長さ
Lh 芯出し穴の軸方向長さ
Ls ガイド軸部の軸方向長さ
W 外科用ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9