(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067953
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】リチウム二次電池に用いる結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体、電極用結着剤及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220426BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220426BHJP
C08G 18/40 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
C08G18/40
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176839
(22)【出願日】2020-10-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】金子 文弥
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 聡哉
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 恭輝
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 宗騎
【テーマコード(参考)】
4J034
5H050
【Fターム(参考)】
4J034BA08
4J034CA04
4J034CA22
4J034CB04
4J034CB08
4J034CC03
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DF02
4J034DP02
4J034DP12
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA03
4J034JA32
4J034KD12
4J034KE02
4J034QC05
4J034RA14
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB12
5H050CB20
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA27
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】イオン電導度と結着性と放電保持率とに優れた結着剤に関する技術を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池に用いる結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体は、ポリイソシアネート化合物(a)と、2個以上の活性水素基を有する化合物(b)と、親水基と1個以上の活性水素基とを有する化合物(c)と、鎖伸長剤(d)と、を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水に分散させたポリウレタン樹脂水分散体であり、化合物(b)は、2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1)と、2個以上の活性水素基を有し、かつ、連続する炭素数が6以下のポリカーボネート(b2)とを含有し、ポリウレタン樹脂水分散体に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度は、0.02mol/kg以上0.28mol/kg以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池に用いる結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
ポリイソシアネート化合物(a)と、2個以上の活性水素基を有する化合物(b)と、親水基と1個以上の活性水素基とを有する化合物(c)と、鎖伸長剤(d)と、を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水に分散させたポリウレタン樹脂水分散体であり、
前記化合物(b)は、2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1)と、2個以上の活性水素基を有し、かつ、連続する炭素数が6以下のポリカーボネート(b2)とを含有し、
前記ポリウレタン樹脂水分散体に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度は、0.02mol/kg以上0.28mol/kg以下であることを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項2】
請求項1に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
前記ポリオレフィン(b1)と前記ポリカーボネート(b2)との合計配合量100質量部に対して、前記ポリカーボネート(b2)が5質量部以上95質量部以下であることを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項3】
請求項1に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
前記ポリオレフィン(b1)と前記ポリカーボネート(b2)との合計配合量100質量部に対して、前記ポリカーボネート(b2)が40質量部以上80質量部以下であることを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
前記ポリイソシアネート化合物(a)は、芳香族ポリイソシアネートと脂環族ポリイソシアネートとの少なくとも一方を含むことを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
前記ポリオレフィン(b1)は、水酸基を2個以上含有するポリオレフィンを含むことを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
前記ポリカーボネート(b2)は、水酸基を2個以上含有するポリカーボネートを含むことを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
前記化合物(c)は、活性水素基とカルボキシ基とを有する化合物を含むことを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
前記鎖伸長剤(d)は、トリアミンを含むことを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体であって、
前記ポリイソシアネート化合物(a)と前記化合物(b)と前記化合物(c)と前記鎖伸長剤(d)との合計配合量100質量部に対して、前記鎖伸長剤(d)は、0.2質量部以上1質量部以下であることを特徴とする、
結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体を含むことを特徴とする、
電極用結着剤。
【請求項11】
請求項10に記載の電極用結着剤を用いた電極を備えることを特徴とする、
リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に用いる結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体、電極用結着剤及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ノート型パソコンや、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)等の携帯端末の電源として、二次電池を用いることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1,2,3には、二次電池の電極に用いる結着剤として、スチレンブタジエンゴム(SBR)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-21068号公報
【特許文献2】特開平11-7948号公報
【特許文献3】特開2001-210318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2,3に記載の結着剤は絶縁性の材料であり、放充電が繰り返されるにつれて電極の構造や導電路を維持することができないため、イオン電導度と放電保持率について改善の余地があった。このため、イオン電導度と結着性と放電保持率とに優れた結着剤に関する技術の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、リチウム二次電池に用いる結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体が提供される。この結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体は、ポリイソシアネート化合物(a)と、2個以上の活性水素基を有する化合物(b)と、親水基と1個以上の活性水素基とを有する化合物(c)と、鎖伸長剤(d)と、を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水に分散させたポリウレタン樹脂水分散体であり、前記化合物(b)は、2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1)と、2個以上の活性水素基を有し、かつ、連続する炭素数が6以下のポリカーボネート(b2)とを含有し、前記ポリウレタン樹脂水分散体に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度は、0.02mol/kg以上0.28mol/kg以下であることを特徴とする。
【0008】
この形態によれば、イオン電導度と結着性と放電保持率とに優れたリチウム二次電池用結着剤を提供できる。
【0009】
(2)上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体において、前記ポリオレフィン(b1)と前記ポリカーボネート(b2)との合計配合量100質量部に対して、前記ポリカーボネート(b2)が5質量部以上95質量部以下であってもよい。
【0010】
この形態によれば、結着性を向上させることができる。
【0011】
(3)上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体において、前記ポリオレフィン(b1)と前記ポリカーボネート(b2)との合計配合量100質量部に対して、前記ポリカーボネート(b2)が40質量部以上80質量部以下であってもよい。
【0012】
この形態によれば、結着性を向上させることができる。
【0013】
(4)上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体において、前記ポリイソシアネート化合物(a)は、芳香族ポリイソシアネートと脂環族ポリイソシアネートとの少なくとも一方を含んでもよい。
【0014】
この形態によれば、結着性と放電保持率とにさらに優れたリチウム二次電池用結着剤を提供できる。
【0015】
(5)上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体において、前記ポリオレフィン(b1)は、水酸基を2個以上含有するポリオレフィンを含んでもよい。
【0016】
この形態によれば、結着性と放電保持率とにさらに優れたリチウム二次電池用結着剤を提供できる。
【0017】
(6)上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体において、前記ポリカーボネート(b2)は、水酸基を2個以上含有するポリカーボネートを含んでもよい。
【0018】
この形態によれば、イオン電導度と放電保持率とにさらに優れたリチウム二次電池用結着剤を提供できる。
【0019】
(7)上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体において、前記化合物(c)は、活性水素基とカルボキシ基とを有する化合物を含んでもよい。
【0020】
この形態によれば、イオン電導度と結着性と放電保持率とに優れたリチウム二次電池用結着剤を提供できる。
【0021】
(8)上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体において、前記鎖伸長剤(d)は、トリアミンを含んでもよい。
【0022】
この形態によれば、耐電解液性を向上できる。
【0023】
(9)上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体において、前記ポリイソシアネート化合物(a)と前記化合物(b)と前記化合物(c)と前記鎖伸長剤(d)との合計配合量100質量部に対して、前記鎖伸長剤(d)は、0.2質量部以上1質量部以下であってもよい。
【0024】
この形態によれば、イオン電導度と結着性と放電保持率とに優れたリチウム二次電池用結着剤を提供できる。
【0025】
(10)本発明の他の形態によれば、上記形態の結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体を含む電極用結着剤が提供される。
【0026】
(11)本発明の他の形態によれば、上記形態の電極用結着剤を用いた電極を備えるリチウム二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0028】
<ポリウレタン樹脂水分散体>
本発明の実施形態であるリチウム二次電池に用いる結着剤用ポリウレタン樹脂水分散体(以下、単に、「ポリウレタン樹脂水分散体」とも呼ぶ)は、ポリイソシアネート化合物(a)と、2個以上の活性水素基を有する化合物(b)と、親水基と1個以上の活性水素基とを有する化合物(c)と、鎖伸長剤(d)と、を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水に分散させたポリウレタン樹脂水分散体である。化合物(b)は、2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1)と、2個以上の活性水素基を有し、かつ、連続する炭素数が6以下のポリカーボネート(b2)とを含有する。ポリウレタン樹脂水分散体に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度は、0.02mol/kg以上0.28mol/kg以下である。本明細書において、「活性水素基」とは、イソシアネート基と反応する官能基であり、例えば、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、チオール基等が挙げられる。活性水素基としては、水酸基が好ましい。
【0029】
この形態のポリウレタン樹脂水分散体をリチウム二次電池の結着剤に用いることにより、イオン電導度と結着性と放電保持率とに優れた結着剤が得られる。このメカニズムは定かではないが、以下のような推定メカニズムが考えられる。すなわち、2個以上の活性水素基を有する化合物として、ポリオレフィンのみを用いるとイオン電導度が優れないという課題があるが、2個以上の活性水素基を有し、かつ、連続する炭素数が6以下のポリカーボネートを併用することにより、イオン電導度と結着性と放電保持率とに優れると考えられる。また、ポリウレタン樹脂水分散体に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度が上述の範囲内であることにより、ポリカーボネート成分が電解液に膨潤した状態でも一定の強度を保持することができるため、放電保持率に優れると考えられる。
【0030】
ポリウレタン樹脂水分散体に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度は、0.03mol/kg以上がより好ましく、0.04mol/kg以上が更に好ましく、0.05mol/kg以上が特に好ましい。また、0.25mol/kg以下が好ましく、0.20mol/kg以下がより好ましく、0.10mol/kg以下が特に好ましい。
【0031】
尚、本明細書における架橋密度は下記の方法で算出することができる。すなわち、分子量MWA1及び官能基数FA1のポリイソシアネート化合物(a)を質量WA1gと、分子量MWA2及び官能基数FA2のポリイソシアネート化合物(a)を質量WA2gと、分子量MWAj及び官能基数FAjのポリイソシアネート化合物(a)を質量WAjgと(jは1以上の整数)と、分子量MWB1及び官能基数FB1であり2個以上の活性水素基を有する化合物(b)を質量WB1gと、分子量MWB2及び官能基数FB2であり2個以上の活性水素基を有する化合物(b)を質量WB2gと、分子量MWBk及び官能基数FBkであり2個以上の活性水素基を有する化合物(b)を質量WBkg(kは1以上の整数)と、分子量MWC1、官能基数FC1であり親水基と1個以上の活性水素基とを有する化合物(c)を質量WC1gと、分子量MWCm、官能基数FCmであり親水基と1個以上の活性水素基とを有する化合物(c)を質量WCmg(mは1以上の整数)と、分子量MWD1、官能基数FD1の鎖伸長剤(d)を質量WD1gと分子量MWDn、官能基数FDnの鎖長剤(d)を質量WDng(nは1以上の整数)とを反応せしめて得られたポリウレタン樹脂水分散体に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度を、下記の式により計算で求めることができる。
【0032】
【0033】
<ポリイソシアネート化合物(a)>
ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、有機ポリイソシアネートが挙げられる。有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等を挙げることができる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート等を挙げることができる。脂環族ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、ポリイソシアネート化合物としては、これらの有機ポリイソシアネートの2量体又は3量体や、ビュレット化イソシアネート等の変性体を挙げることができる。ポリイソシアネート化合物は、一種のみを使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0034】
ポリイソシアネート化合物としては、耐電解液性と結着性とに優れる観点から、脂肪族ポリイソシアネートと脂環族ポリイソシアネートとが好ましく、脂環族ポリイソシアネートがより好ましい。具体的には、ポリイソシアネート化合物としては、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネ-ト、イソホロンジイソシアネ-ト、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートがより好ましい。
【0035】
<2個以上の活性水素基を有する化合物(b)>
2個以上の活性水素基を有する化合物(b)は、2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1)と、2個以上の活性水素基を有し、かつ、連続する炭素数が6以下のポリカーボネート(b2)と、を含有する。
【0036】
(2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1))
2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1)は、水酸基と、1級アミノ基と、2級アミノ基と、チオール基とからなる群より選ばれる活性水素基を2個以上含有するポリオレフィンである。ポリオレフィン(b1)に含有される2個以上の活性水素基は、同じ官能基であってもよく、異なる官能基であってもよい。本明細書において、「ポリオレフィン」とは、エチレン、プロピレン、ブタン、ブタジエン、イソプレンなどの二重結合を有する脂肪族炭化水素化合物の重合体を示す。2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1)としては、耐電解液性と結着性とに優れる観点から、水酸基を1個以上含有するポリオレフィンが好ましく、水酸基を2個以上含有するポリオレフィンがより好ましい。
【0037】
水酸基を2個以上含有するポリオレフィン(b1)としては、特に限定されないが、例えば、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、ポリクロロプレンポリオール等が挙げられる。水酸基を2個以上含有するポリオレフィン(b1)としては、さらに、例えば、上記ポリオレフィンに水素添加したポリオレフィンや、他のオレフィン化合物を共重合させたものが挙げられる。
【0038】
2個以上の活性水素基を有するポリオレフィン(b1)としては、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールが好ましく、ポリブタジエンポリオールがより好ましい。
【0039】
(2個以上の活性水素基を有し、かつ、連続する炭素数が6以下のポリカーボネート(b2))
本実施形態では、2個以上の活性水素基を有し、かつ、連続する炭素数が6以下のポリカーボネート(b2)を用いる。連続する炭素数が6以下のポリカーボネートを用いることにより、本実施形態のポリウレタン樹脂水分散体を結着剤に用いた場合に、電解液との親和性に優れるため、イオン伝導性が優れる。
【0040】
ポリカーボネート(b2)は、水酸基と、1級アミノ基と、2級アミノ基と、チオール基とからなる群より選ばれる活性水素基を2個以上有し、かつ、連続する炭素数が6以下である。ポリカーボネート(b2)に含有される2個以上の活性水素基は、同じ官能基であってもよく、異なる官能基であってもよい。ポリカーボネート(b2)は、耐電解液性とイオン電導度と結着性と放電保持率とに優れる観点から、水酸基を1個以上含有するポリカーボネートが好ましく、水酸基を2個以上含有するポリカーボネートがより好ましい。
【0041】
ポリカーボネート(b2)としては、特に限定されないが、例えば、当該技術分野で一般的に使用されるポリカーボネートポリオールを使用することができる。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオールのカーボネートポリオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールのカーボネートポリオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールのカーボネートポリオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールのカーボネートポリオール等が挙げられる。より具体的には、旭化成社製のPCDL T-6001、T-6002、T-5651、T-5652、T-5650J、T-4671、T-4672や、クラレ社製のクラレポリオールC-590、C-1050、C-1050R,C-1090,C-2050、C-2050R,C-2070、C-2070R、C-2090、C-2090R、C-3090、C-3090R、C-4090、C-4090R、C-5090、C-5090R、C-1065N、C-2065N、C-1015N、C-2015Nや、宇部興産社製のETERNACOLL(登録商標) UH-50、UH-100、UH-200、UH-300、UM-90(3/1)、UM-90(1/1)、UM-90(1/3)、UC-100等が挙げられる。
【0042】
ポリオレフィン(b1)とポリカーボネート(b2)との合計配合量に対して、ポリカーボネートは、特に限定されないが、イオン電導度の観点から5質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上がさらに好ましい。また、ポリオレフィン(b1)とポリカーボネート(b2)との合計配合量に対して、ポリカーボネートは、特に限定されないが、耐電解液性の観点から95質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。
【0043】
<親水基と1個以上の活性水素基とを有する化合物(c)>
本明細書において、「親水基」としては、アニオン性親水基と、カチオン性親水基と、ノニオン性親水基とが挙げられる。アニオン性親水基としては、例えば、カルボキシ基及びその塩、スルホン酸基及びその塩が挙げられる。カチオン性親水基としては、例えば、第3級アンモニウム塩、第4級アンモニウム塩が挙げられる。ノニオン性親水基としては、例えば、エチレンオキシドの繰り返し単位からなる基、エチレンオキシドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキシドの繰り返し単位からなる基等が挙げられる。
【0044】
活性水素基とカルボキシ基またはその塩を各1個以上含有する化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6-ジオキシ安息香酸、3,4-ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物及びこれらの誘導体並びにそれらの塩に加え、これらを使用して得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。また、アラニン、アミノ酪酸、アミノカプロン酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン等のアミノ酸類、コハク酸、アジピン酸、無水マレイン酸、フタル酸、無水トリメリット酸等のカルボン酸類も挙げられる。
【0045】
活性水素基とスルホン酸基(又はその塩)を各1個以上有する化合物としては、例えば、2-オキシエタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホコハク酸、5-スルホイソフタル酸、スルファニル酸、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、2,4-ジアミノトルエン-5-スルホン酸等のスルホン酸含有化合物及びこれらの誘導体、並びにこれらを共重合して得られるポリエステルポリオール、ポリアミドポリオール、ポリアミドポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0046】
これらのカルボキシ基又はスルホン酸基を中和して塩にすることにより、最終的に得られるポリウレタンを水分散性にすることができる。この場合の中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基等が挙げられる。中和は、ウレタン化反応前、反応中、又は反応後の何れにおいても行うことができる。
【0047】
1個以上の活性水素基と第3級アンモニウム塩を含有する化合物の例としては、例えば、メチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。これらを、ギ酸、酢酸などの有機カルボン酸、または塩酸、硫酸などの無機酸で中和して塩にすることにより、ポリウレタンを水分散性にすることができる。中和は、ウレタン化反応前、反応中、又は反応後の何れにおいても行うことができる。これらのうち、乳化の容易性の観点からは、メチルジエタノールアミンを有機カルボン酸で中和したものが好ましい。
【0048】
1個以上の活性水素基と第4級アンモニウム塩を有する化合物は、前述のメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミンを、塩化メチル、臭化メチルなどのハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸などのジアルキル硫酸により4級化した化合物である。これらのうち、乳化の容易性の観点からは、メチルジエタノールアミンをジメチル硫酸等で4級化した化合物が好ましい。
【0049】
活性水素基とノニオン性親水基を各1個以上有する化合物は、特に限定されないが、エ
チレンオキシドの繰り返し単位を少なくとも30質量%以上含有し、数平均分子量300~20,000の化合物が好ましく、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシブチレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレン共重合体グリコール又はそのモノアルキルエーテル等のノニオン性基含有化合物、或いはこれらを共重合して得られるポリエステルポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0050】
<鎖伸長剤(d)>
鎖伸長剤(d)としては、特に限定されないが、例えば、ジアミン、トリアミン、テトラミン等が挙げられる。ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン等が挙げられる。トリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン等が挙げられる。テトラミンとしては、例えば、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。耐電解液性を向上させるため、鎖伸長剤(d)としては、トリアミンが好ましく、ジエチレントリアミンがより好ましい。
【0051】
鎖伸長剤(d)の配合量としては、特に限定されないが、耐電解液性と結着性とを両立させる観点から、ポリウレタン樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下が好ましく、0.2質量部以上1質量部以下がより好ましい。
【0052】
ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂の固形分としては、特に限定されないが、作業性の観点から、ポリウレタン樹脂水分散体100質量部に対して、1質量部以上60質量部以下が好ましく、3質量部以上55質量部以下がより好ましく、4質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
【0053】
さらに、ポリウレタン樹脂水分散体には、必要に応じて、一般的に使用される各種添加剤を使用することができる。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、耐候剤、抗菌剤、抗カビ剤、顔料、防錆剤、染料、造膜助剤、無機架橋剤、有機架橋剤、シランカップリング剤、ブロッキング防止剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、分散安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。有機架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、ブロックドイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メラミン系架橋剤等が挙げられる。
【0054】
<ポリウレタン樹脂水分散体の製造方法>
ポリウレタン樹脂水分散体の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。ポリウレタン樹脂水分散体の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、ポリイソシアネート化合物(a)、化合物(b)、化合物(c)を30℃~130℃で0.5時間~10時間程度の反応条件で反応させた後、必要に応じてこれを5℃~45℃に冷却する。このようにすることによって、親水基を中和、または、四級化剤を予め加えておくことによって四級化することにより、ウレタンプレポリマーを得ることができる。尚、溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの任意の有機溶媒を使用することができる。さらに、ウレタンプレポリマーを乳化、鎖伸張することにより、ポリウレタン樹脂水分散体を製造することができる。乳化に使用する水としては、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、100~900質量部の水を添加することが好ましい。
【0055】
次に本実施形態のリチウム二次電池について説明する。本実施形態のリチウム二次電池に用いられる正極及び負極は、電極活物質、導電剤、電極活物質の集電体、及び電極活物質並びに導電剤を集電体に結着させる結着剤等から構成される。
【0056】
本実施形態のリチウム二次電池は、上記実施形態のポリウレタン樹脂水分散体を含む結着剤を使用して製造された電極から構成されるものである。上記結着剤は正極と負極とのいずれにも利用可能であり、正極と負極とのいずれか一方に用いられる。
【0057】
本実施形態のリチウム二次電池において、上記ポリウレタン樹脂水分散体を使用しない方の電極用結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンやパーフルオロメチルビニルエーテル及びテトラフルオロエチレンとの共重合体などのポリフッ化ビニリデン共重合体樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴムなどのフッ素系樹脂や、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、スチレン-アクリロニトリル共重合体などのポリマーが使用可能であるが、これに限定されるものではない。
【0058】
本実施形態のリチウム二次電池の正極に使用する正極活物質としては、リチウムイオンの挿入、脱離が可能であるものであれば、特に制限されることはない。例としては、CuO、Cu2O、MnO2、MoO3、V2O5、CrO3、MoO3、Fe2O3、Ni2O3、CoO3等の金属酸化物、LixCoO2、LixNiO2、LixMn2O4、LiFePO4等のリチウムと遷移金属との複合酸化物や、TiS2、MoS2、NbSe3等の金属カルコゲン化物、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子化合物等が挙げられる。上記の中でも、一般に高電圧系と呼ばれる、コバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属から選ばれる1種以上とリチウムとの複合酸化物がリチウムイオンの放出性や、高電圧が得られやすい点で好ましい。コバルト、ニッケル、マンガンとリチウムとの複合酸化物の具体例としては、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiNixCo(1-x)O2、LiMnaNibCoc(a+b+c=1)などが挙げられる。また、これらのリチウム複合酸化物に、少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄などの元素をドーブしたものや、リチウム複合酸化物の粒子表面を、炭素、MgO、Al2O3、SiO2等で表面処理したものも使用できる。上記正極活物質は2種類以上を併用することも可能である。
【0059】
本実施形態の負極に使用する負極活物質としては、金属リチウム又はリチウムイオンを挿入/脱離することができるものであれば公知の活物質を特に限定なく用いることができる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素などの炭素材料を用いることができる。また、金属リチウムや合金、スズ化合物などの金属材料、リチウム遷移金属窒化物、結晶性金属酸化物、非晶質金属酸化物、ケイ素化合物、導電性ポリマー等を用いることもでき、具体例としては、Li4Ti5O12、NiSi5C6等が挙げられる。
【0060】
本実施形態のリチウム二次電池の正極及び負極には導電剤が用いられる。導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば、特に限定なく使用することができる。通常、アセチレンブラックやケッチンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維や金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料でもよい。これらは2種類以上の混合物として使用することもできる。その添加量は活物質量に対して0.1~30質量%が好ましく、特に0.2~20質量%が好ましい。
【0061】
本実施形態のリチウム二次電池の電極活物質の集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば何でも使用可能である。例えば、正極用集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅等の表面を、カーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。また、負極用集電体としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。これらの集電体材料は表面を酸化処理することも可能である。また、その形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体も用いられる。厚みは特に限定はないが、1~100μmのものが通常用いられる。
【0062】
本実施形態のリチウム二次電池の電極は、電極活物質、導電剤、電極活物質の集電体、及び電極活物質並びに導電剤を集電体に結着させる結着剤等を混合してスラリー状の電極材料を調製し、集電体となるアルミ箔又は銅箔等に塗布して分散媒を揮発させることにより製造することができる。
【0063】
本実施形態の電極材料には、スラリー化の粘性調整剤として、水溶性高分子などの増粘剤を使用できる。具体的には、カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダなどのポリカルボン酸系化合物;ポリビニルピロリドンなどのビニルピロリドン構造を有する化合物;ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、カンテン、デンプンなどから選択された1種又は2種以上が使用可能であり、中でもカルボキシメチルセルロース塩が好ましい。
【0064】
上記電極材料の混合の方法や順序等は特に限定されず、例えば、活物質と導電剤は予め混合して用いることが可能であり、その場合の混合には、乳鉢、ミルミキサー、遊星型ボールミル又はシェイカー型ボールミルなどのボールミル、メカノフュージョン等を用いることができる。
【0065】
本実施形態のリチウム二次電池に使用するセパレータは、通常のリチウム二次電池に用いられるセパレータを特に限定なしに使用でき、その例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等よりなる多孔質樹脂、セラミック、不織布などが挙げられる。
【0066】
本実施形態のリチウム二次電池に使用する電解液は通常のリチウム二次電池に用いられる電解液であればよく、有機電解液およびイオン液体等の一般的なものを使用することができる。
【0067】
本実施形態のリチウム二次電池に使用する電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCl、LiBr、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI、LiAlCl4、NaClO4、NaBF4、NaI等を挙げることができ、特に、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6などの無機リチウム塩、LiN(SO2CxF2x+1)(SO2CyF2y+1)で表される有機リチウム塩が好ましい。ここで、xおよびyは0又は1~4の整数を表し、また、x+yは2~8である。有機リチウム塩としては、例えば、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)(SO2C2F5)、LiN(SO2CF3)(SO2C3F7)、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2C2F5)(SO2C3F7)、LiN(SO2C2F5)(SO2C4F9)等が挙げられる。中でも、LiPF6、LiBF4、LiN(CF3SO2)2、LiN(SO2F)2、LiN(SO2C2F5)2などを電解質に使用すると、電気特性に優れるので好ましい。上記電解質塩は1種類用いても2種類以上用いても良い。このようなリチウム塩は、通常、0.1~2.0モル/リットル、好ましくは0.3~1.5モル/リットルの濃度で、電解液に含まれていることが望ましい。
【0068】
本実施形態のリチウム二次電池の電解質塩を溶解させる有機溶媒としては、通常のリチウム二次電池の非水電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されず、例えば、カーボネート化合物、ラクトン化合物、エーテル化合物、スルホラン化合物、ジオキソラン化合物、ケトン化合物、ニトリル化合物、ハロゲン化炭化水素化合物等を挙げることができる。詳しくは、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレングリコールジメチルカーボネート、プロピレングリコールジメチルカーボネート、エチレングリコールジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート類、γ-ブチルラクトン等のラクトン類、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、スルホラン、3-メチルスルホラン等のスルホラン類、1,3-ジオキソラン等のジオキソラン類、4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類、アセトニトリル、ピロピオニトリル、バレロニトリル、ベンソニトリル等のニトリル類、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、その他のメチルフォルメート、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、イミダゾリウム塩、4級アンモニウム塩などのイオン性液体等を挙げることができる。さらに、これらの混合物であってもよい。
【0069】
これらの有機溶媒のうち、特に、カーボネート類からなる群より選ばれた非水溶媒を一種類以上含有することが、電解質の溶解性、誘電率および粘度において優れているので好ましい。
【0070】
本実施形態のリチウム二次電池において、ポリマー電解質又は高分子ゲル電解質を用いる場合は、使用可能な例としては、高分子化合物であるエーテル、エステル、シロキサン、アクリロニトリル、ビニリデンフロライド、ヘキサフルオロプロピレン、アクリレート、メタクリレート、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、オキセタンなどの重合体又はその共重合体構造を有する高分子又はその架橋体などが挙げられ、高分子は一種類でも二種類以上でもよい。高分子構造は特に限定されるものではないが、ポリエチレンオキサイドなどのエーテル構造を有する高分子が特に好ましい。
【0071】
本実施形態のリチウム二次電池において、液系の電池は電解液、ゲル系の電池はポリマーを電解液に溶解したプレカーサー溶液、固体電解質電池は電解質塩を溶解した架橋前のポリマーを電池容器内に収容する。
【0072】
本実施形態に係るリチウム二次電池は、円筒型、コイン型、角型、その他任意の形状に形成することができ、電池の基本構成は形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更して実施することができる。例えば、円筒型では、負極集電体に負極活物質を塗布してなる負極と、正極集電体に正極活物質を塗布してなる正極とを、セパレータを介して捲回した捲回体を電池缶に収納し、非水電解液を注入し上下に絶縁板を載置した状態で密封して得られる。また、コイン型リチウム二次電池に適用する場合では、円盤状負極、セパレータ、円盤状正極、およびステンレスの板が積層された状態でコイン型電池缶に収納され、非水電解液が注入され、密封される。
【実施例0073】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるもの
ではない。
【0074】
<使用原料>
(ポリイソシアネート化合物)(a)
・ポリイソシアネート化合物(a1):イソホロンジイソシアネート(分子量:222.3、官能基数:2)
ポリイソシアネート化合物(a2):水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(分子量:262、官能基数:2)
【0075】
(ポリオレフィン)(b1)
・ポリオレフィンポリオール(b1):Kraysol LBH-P2000(CRAY VALLEY社製、ポリブタジエンポリオール)(分子量:2000、官能基数:2)
【0076】
(ポリカーボネート)(b2)
・ポリカーボネートポリオール(b21):デュラノール PCDL T5652(旭化成社製、1、5-ペンタンジオール及び1、6-ヘキサンジオールベースポリカーボネートポリオール)(分子量:2000、官能基数:2)
・ポリカーボネートポリオール(b22):ETERNACOLL UH-200(宇部興産社製、1、6-ヘキサンジオールベースポリカーボネートポリオール)(分子量:2000、官能基数:2)
【0077】
(親水基と1個以上の活性水素基とを有する化合物)(c)
・ジメチロールプロピオン酸(Bis-MPA)(分子量:134.17、官能基数:2)
【0078】
(鎖伸長剤)(d)
・アミン伸長剤(EDA):エチレンジアミン(分子量:60.1、官能基数:2)
・アミン伸長剤(DETA):ジエチレントリアミン(分子量:103.17、官能基数:3)
【0079】
(中和塩)
・中和塩(TEA):トリエチルアミン
・中和塩(Li):水酸化リチウム一水和物(ナカライテスク社製)
【0080】
<ポリウレタン樹脂水分散体の製造>
(実施例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリオレフィンポリオール(b1)66.1質量部と、ポリカーボネートポリオール(b21)10.0質量部と、ジメチロールプロピオン酸(Bis-MPA)4.8質量部と、ポリイソシアネート化合物(a1)18.4質量部と、メチルエチルケトン100質量部と、を加えた。その後、75℃で2時間反応させることにより、ポリウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液の不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量は0.85%であった。
【0081】
次に、この溶液を45℃まで冷却した後、水に溶解させた水酸化リチウム一水和物1.5質量部(10%水溶液)を添加することによって中和させた。その後、この溶液に水186質量部を徐々に加えながらホモジナイザーを使用して乳化反応させた。得られた乳化分散体に、ジエチレントリアミン(DETA)0.7質量部が水27.00質量部に溶解した水溶液を添加した後、1時間反応させた。その後、反応溶媒であるメチルエチルケトンを減圧蒸留することにより、不揮発分(固形分)濃度が35質量%であるポリウレタン樹脂水分散体を得た。ここで、実施例1におけるポリウレタン樹脂水分散体に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度は、上述の架橋密度の計算式より、以下のように計算できる。
0.7(部:DETA量)/103.17(DETA分子量)/100(部:総量)×1000≒0.07
【0082】
(実施例2~6、比較例1~4)
表1の組成に変更した以外は実施例1記載の方法と同様の方法でポリウレタン樹脂水分散体を合成した。
【0083】
<評価方法>
以下の評価に用いる皮膜は、上述のポリウレタン樹脂水分散体を使用して、以下の条件により作製した。
・皮膜作製条件:40℃×15時間+80℃×6時間+120℃×20分
・乾燥膜厚=約300μm
【0084】
以下の評価に用いる電解液は、以下のものを使用した。
・電解液:エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(体積比)混合溶液
【0085】
(耐電解液性)
上記のとおり作製した皮膜を約0.2g程度切り取ることにより、試験片とした。試験片の浸漬前質量を測定した後、70℃で3日間電解液に浸漬させた。その後、室温に戻した後に、表面の電解液をふき取った。その後、試験片の浸漬後質量を測定した。そして、下記式に基づいて、質量増加率(%)を算出した。質量増加率が小さいほど、耐電解液性に優れる。
質量増加率(%)=(浸漬後の質量-浸漬前の質量)/浸漬前の質量
【0086】
(イオン伝導度)
上記のとおり作製した皮膜を直径14mmの円形に切り取ることにより、試験片とした。
試験片の質量及び膜厚を測定した後、12時間電解液に浸漬させた。その後、浸漬した試験片を測定治具にセットした後、加圧して、イオン伝導度を測定した。
【0087】
<実験に用いる電池の作製方法>
(正極の作製)
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM)100質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ社製、Li-400)7.8質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン6質量部と、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン61.3質量部と、を遊星型ミキサーで混合することにより、固形分65質量%の正極スラリーを調製した。固形分の調製には純水を用いた。この正極スラリーを塗工機で厚み15μmのアルミニウム箔上に塗布した後、130℃で乾燥後、ロールプレス処理を行うことにより、正極活物質22mg/cm2の正極を得た。
【0088】
(負極の作製)
負極活物質としてSiO(平均粒径4.5μm、比表面積5.5m2/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m2/g)との含有比率が20:80の混合物を95部と、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ社製)2部と、分散剤兼結着剤としてカルボキシメチルセルロース塩(第一工業製薬社製、WS-C)を0.8部と、結着剤として繊維状ナノカーボン分散体(比表面積:400-500m2/g、繊維径1-4nm)0.2部(固形分部数)及び作製したポリウレタン樹脂水分散体2部(固形分部数)と、を混合後、ホモディスパーにて攪拌することにより、固形分48質量%となるように負極スラリーを調製した。固形分の調製には純水を用いた。この負極スラリーをロールコーター(サンクメタル社製、チビコーター)で厚み10μmの電解銅箔上に塗布した後、120℃で乾燥後、ロールプレス処理を行うことにより、負極活物質7mg/cm2の負極を得た。
【0089】
(リチウム二次電池の作製)
正極と負極を作製した後、正極と負極の間にポリオレフィン系セパレータを挟んで積層し、正極側および負極側にタブリードをそれぞれ超音波溶接することにより、タブリード付き積層体を作製した。このタブリード付き積層体をアルミラミネート包材に入れた後、電解液を注入するための開口部を残して封止することにより、注液前電池を得た。注液前電池において、正極面積は18cm2とし、負極面積は19.8cm2とした。その後、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比30:70で混合した溶媒にLiPF6(1.0mol/L)を溶解させた電解液を、開口部から注液後、開口部を封止することにより、評価用電池を得た。
【0090】
<電極結着性評価>
(乾燥時結着性評価)
上記で得られた電極の塗工面を外側として、電極を180°折り曲げて戻した後に、塗工面の活物質の脱落程度を目視で判断した。電極としては、負極を用いた。
【0091】
評価基準:
5点:0%以上25%未満脱落
4点:25%以上50%未満脱落
3点:50%以上75%未満脱落
2点:75%以上100%未満脱落
1点:100%脱落
【0092】
(湿潤時結着性評価)
上記で得られた電極を直径12mmの円形に切り取ることにより、試験片とした。試験片を50mLのサンプル管に入れた後、電解液(エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(体積比)混合溶液)を5mL入れて、24時間浸漬させた。その後、サンプル管を超音波洗浄機(株式会社エスエヌディ、38kHz)に入れて、10分間の超音波洗浄処理を行った。そして、電極の塗工面における活物質の脱落の程度を目視で判断した。評価基準は、乾燥時結着性評価と同じにした。
【0093】
(1kHz ACR)
1kHz ACR(Alternating Current Resistance:交流抵抗)は、0.2C電流値にて12時間のCCCV(Constant Current, Constant Voltage:定電流定電圧)充電した後、インピーダンスアナライザー(biologic社製 SP-150)を用いて、周波数1kHzでの抵抗値を測定した。
【0094】
(放電保持率)
放電保持率は、以下のように測定した。まず、0.5C相当の電流密度で4.2VまでCC(Constant Current:定電流)充電を行った後、0.5C相当の電流密度で2.7VまでCC放電するサイクルを、20℃で300サイクル行った。そして、300サイクル後の1C放電容量を、初回の1C放電容量で除した値(%)を、放電保持率とした。
【0095】
以下に実験結果を示す。
【0096】
【0097】
実施例1~6と比較例1~4とを比較することにより、本実施形態のポリウレタン樹脂分散体を用いることにより、イオン電導度、結着性、抵抗、及び放電保持率がバランスよく優れることが分かった。
【0098】
<不可能・非実際的事情>
本実施形態のポリウレタン樹脂水分散体の構造は複雑であるため、一般式で表すことは困難である。さらに、構造が特定されなければ、それに応じて定まるその物質の特性の特定も容易にはできない。すなわち、本実施形態のポリウレタン樹脂水分散体を、その構造又は特性により直接特定することは不可能である。
本実施形態のポリウレタン樹脂水分散体は、リチウム二次電池用電極の結着剤として利用でき、この結着剤を用いた電極は各種リチウム二次電池の製造に用いられる。得られたリチウム二次電池は、携帯電話、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラなどの各種携帯型機器や、更には電動自転車、電気自動車などに搭載される中型又は大型リチウム二次電池に使用することができる。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。