IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

特開2022-67993制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置
<>
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図1
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図2
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図3
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図4
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図5
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図6
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図7
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図8
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図9
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図10
  • 特開-制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067993
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】制振装置用ベース部材とそれを用いた小規模建築物用制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20220426BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
F16F15/02 M
F16F15/02 C
E04H9/02 341C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176892
(22)【出願日】2020-10-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 販売日:令和2年2月10日~令和2年10月21日 販売場所:住友理工株式会社(愛知県小牧市東三丁目1番地)
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】開田 優二
(72)【発明者】
【氏名】柴田 洋輔
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC03
2E139AC04
2E139BB02
2E139BB23
2E139BB42
2E139BC06
2E139BC11
2E139BD33
3J048AA01
3J048AD06
3J048BA24
3J048BF02
3J048BF09
(57)【要約】
【課題】十分な強度を確保しながら、高さ方向での小型化を実現し、更にばね部材の着脱等の作業性にも優れた、新規な構造の制振装置用ベース部材と、それを用いた新規な構造の小規模建築物用制振装置を提供すること。
【解決手段】マス部材16がばね部材20によって弾性支持された構造を有する小規模建築物用制振装置10を構成して、ばね部材20を制振対象部材60に連結する制振装置用ベース部材18であって、複数の梁材24によって構成される矩形枠部22を備えており、梁材24は、長手平板状の縦板部26と、縦板部26の上下方向の一端から上下方向と直交する縦板部26の厚さ方向の一方側へ突出してばね部材20に取り付けられる第一横板部28と、縦板部26の上下方向の他端から縦板部26の厚さ方向の他方側へ突出して制振対象部材60に取り付けられる第二横板部30とを備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マス部材がばね部材によって弾性支持された構造を有する小規模建築物用制振装置を構成して、該ばね部材を制振対象部材に連結する制振装置用ベース部材であって、
複数の梁材によって構成される矩形枠部を備えており、
該梁材は、長手平板状の縦板部と、該縦板部の上下方向の一端から上下方向と直交する該縦板部の厚さ方向の一方側へ突出して前記ばね部材に取り付けられる第一横板部と、該縦板部の上下方向の他端から該縦板部の厚さ方向の他方側へ突出して前記制振対象部材に取り付けられる第二横板部とを備える制振装置用ベース部材。
【請求項2】
上下方向における前記梁材の高さ寸法が、前記縦板部の厚さ方向における該梁材の幅寸法よりも小さくされている請求項1に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項3】
前記縦板部の高さ寸法が、前記第一横板部及び前記第二横板部の該縦板部からの突出寸法以下とされている請求項2に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項4】
前記矩形枠部の高さ寸法が、該矩形枠部を含む前記小規模建築物用制振装置の高さ寸法の25%以下とされている請求項2又は3に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項5】
前記縦板部と前記第一横板部と前記第二横板部が板材の折曲げによって一体形成されている請求項1~4の何れか一項に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項6】
前記矩形枠部において周方向で隣り合う前記梁材は、前記第一横板部が相互に溶接され、前記第二横板部が相互に溶接され、前記縦板部が相互に溶接されている請求項1~5の何れか一項に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項7】
前記矩形枠部は、互いに並列的に配される一対の第一梁材と、該第一梁材に対する交差方向に延びる一対の第二梁材とによって構成されており、
該第二梁材の端部が該第一梁材の側面に突き当てられて溶接されている請求項1~6の何れか一項に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項8】
前記矩形枠部の周方向で隣り合う2つの前記梁材は、一方の該梁材の端部が他方の該梁材の側面に突き当てられており、
該一方の梁材の端部は、前記第一横板部が取り除かれて該他方の梁材の該第一横板部が配される上部切欠きと、前記第二横板部が取り除かれて該他方の梁材の該第二横板部が配される下部切欠きとの何れか一方を備えて、
該一方の梁材の端部と該他方の梁材の側面との各突き当て部分が溶接されている請求項1~7の何れか一項に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項9】
並列的に配される一対の前記梁材において、各前記第一横板部の各前記縦板部からの突出方向が互いに逆向きとされている請求項1~8の何れか一項に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項10】
各前記梁材の前記第一横板部が何れも前記縦板部から前記矩形枠部の内周側へ向けて突出している請求項9に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項11】
前記第二横板部に重ね合わされて前記梁材を前記制振対象部材に連結する受部材が設けられており、
該受部材が該梁材の前記第一横板部における前記ばね部材への連結位置よりも前記矩形枠部の外周側に配置されている請求項10に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項12】
各前記梁材の前記第一横板部が何れも前記縦板部から前記矩形枠部の外周側へ向けて突出している請求項9に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項13】
複数の前記矩形枠部を一体的に備えている請求項1~12の何れか一項に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項14】
前記矩形枠部の上面と下面の少なくとも一方が単一平面上に位置している請求項1~13の何れか一項に記載の制振装置用ベース部材。
【請求項15】
マス部材と、制振対象部材に取り付けられるベース部材とが、ばね部材によって弾性連結された構造を有する小規模建築物用制振装置であって、
前記ベース部材が請求項1~14の何れか一項に記載の制振装置用ベース部材とされている小規模建築物用制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般住宅や集合住宅等の小規模建築物に好適に採用される小規模建築物用制振装置と、小規模建築物用制振装置を構成する制振装置用ベース部材とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般住宅や集合住宅等の小規模建築物においては、交通振動や風等の外力が加振力として作用することによって発生する振動や騒音が問題となる場合がある。特に、一般住宅でも2階建てや3階建てが多くなってきており、そのような住宅においては、交通振動等による微振動が、例えば就寝時における不快音や不快振動等の原因となるおそれもある。
【0003】
従来から、建築構造物の振動を低減するための装置としては、高層ビルやタワー等の高層建築物の揺れを軽減するためのダンパ装置が提案されている。しかし、これら高層建築物用ダンパ装置は、非常に大掛かりで、想定される振動エネルギーも極めて大きいものであることから、一般住宅に適用すると、コストが高く、振動エネルギーの小さい交通振動等に対する有効な制振効果が発揮されないおそれもある。
【0004】
そこで、本出願人は、特開2003-343645号公報(特許文献1)において、一般住宅等の小規模建築物に適用される制振装置を提案している。この小規模建築物用制振装置は、マス部材とベース部材がゴムマウント等のばね部材によって弾性連結された構造を有しており、ベース部材が制振対象である住宅等の小規模建築物に固定されることによって、主振動系たる小規模建築物に対して副振動系を構成する。これにより、小規模建築物の振動が小規模建築物用制振装置のマス-ばね共振によって相殺的に低減される。小規模建築物用制振装置は、例えば、住宅において、居住スペースに露出することなく、屋根裏等に設置されている。ベース部材は、質量が数十kg~数百kgに及ぶマス部材を支持するために高い変形剛性が求められることから、特許文献1にも例示されているように、一般的にH形鋼からなる梁材を枠状に組み合わせたものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-343645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、居室空間の天井高を高く確保したり、屋根裏等に配される配線やダクト、遮音材、断熱材等が増加するなどして、屋根裏等における制振装置の配設スペースが狭くなっており、特に制振装置の高さ方向での小型化が求められる場合が増えている。しかしながら、マス部材とばね部材は、要求される制振性能を満たすために小型化が難しく、H形鋼からなるベース部材は、作業性を確保するために高さを低くすることが難しかった。即ち、H形鋼の上側のフランジにばねを取り付けると共に、下側のフランジを建築物にボルトとナットによって固定するためには、上下のフランジ間に手や工具を差し入れてボルト締結等の作業を行う必要があり、上下のフランジ間の距離を作業可能な程度に確保する必要があった。
【0007】
また、ばね部材の交換や取付方向の調整などのメンテナンスを行う際には、ばね部材をベース部材の上側のフランジに固定するボルトやナットを緩める或いは締め付ける作業が必要になる。しかし、例えば、天井裏に設けられた制振装置のメンテナンス作業を、天井に設けられた点検口を通じて下方から行う場合には、ベース部材の下側のフランジが作業の妨げになり易い。
【0008】
また、ベース部材を構成するH形鋼は、ウェブの上端及び下端においてウェブの厚さ方向の両側へフランジが突出しており、ウェブに関する略対称形状(一般に上下方向対称形状)とされている。それゆえ、制振装置が配設されるスペースの空間形状への柔軟な対応が難しく、各種配設スペースに対応するための設計自由度が小さかった。具体的には、例えば、1つのフランジに配管などが干渉する場合や固定する構造材の位置が合わない場合などに、ベース部材を構成するH形鋼の向きを変えるといった簡単な変更によって干渉を回避することが難しく、大幅な設計変更が必要になったり、無理な小型化によって制振性能が低下するなどの不具合を避け難かった。
【0009】
本発明の解決課題は、十分な強度を確保しながら、高さ方向での小型化を実現し、更にばね部材の着脱等の作業性にも優れた、新規な構造の制振装置用ベース部材を提供することにある。
【0010】
また、本発明は、高さ方向での小型化を実現し、更にばね部材のベース部材に対する着脱等の作業性にも優れた、新規な構造の小規模建築物用制振装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0012】
第一の態様は、マス部材がばね部材によって弾性支持された構造を有する小規模建築物用制振装置を構成して、該ばね部材を制振対象部材に連結する制振装置用ベース部材であって、複数の梁材によって構成される矩形枠部を備えており、該梁材は、長手平板状の縦板部と、該縦板部の上下方向の一端から上下方向と直交する該縦板部の厚さ方向の一方側へ突出して前記ばね部材に取り付けられる第一横板部と、該縦板部の上下方向の他端から該縦板部の厚さ方向の他方側へ突出して前記制振対象部材に取り付けられる第二横板部とを備えるものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、矩形枠部を構成する梁材が略Z形の断面形状を有しており、第一横板部と第二横板部が上下方向で対向することなく、縦板部から相互に反対側へ向けて突出している。これにより、第一横板部に対するばね部材の取付構造が、梁材の他部位によって覆われることなく下向きに開放されることから、縦板部の上下方向の高さ寸法に関係なく、ばね部材の取付構造を下方から操作することができる。
【0014】
梁材が縦板部の厚さ方向の各一方側に向けて突出する第一横板部と第二横板部を備えるZ形断面とされていることにより、梁材の変形剛性が大きくされており、梁材によって形成される矩形枠部を備えたベース部材の変形剛性を大きく得ることができる。
【0015】
H形鋼の梁材は、縦板部(ウェブ)に関する略対称形状であることから、梁材を配設するためには、梁材の向きに関わらず略一定の空間が必要になる。それに対して、略Z形の断面形状を有する本態様の梁材は、縦板部に関する非対称形状であることから、配設スペースに応じて梁材の向きを変えることにより、配設に必要とされる空間を変化させることができ、配設スペースの制約に対応し易い。具体的には、縦板部から矩形枠部の内周へ向けて突出する横板部が、縦板部の上端に位置する梁材の向きと、縦板部の下端に位置する梁材の向きとを選択可能であり、横板部が配管などに干渉する場合には、梁材の向きを逆向きとする小規模な変更によって干渉を回避し得る。また、ベース部材の基本的な強度や剛性を維持しつつ、具体的な形状や寸法の調整を行うことが可能となって、設計自由度が大きく確保される。
【0016】
第二の態様は、第一の態様に記載された制振装置用ベース部材において、上下方向における前記梁材の高さ寸法が、前記縦板部の厚さ方向における該梁材の幅寸法よりも小さくされているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、梁材の高さ寸法が小さくされることにより、小規模建築物用制振装置の高さを小さくすることができる。梁材の幅寸法が高さ寸法よりも大きくされることにより、第一横板部と第二横板部を長くすることができて、第一横板部のばね部材への取付面積と、第二横板部の制振対象部材(建築物の梁など)に対する取付面積を大きく確保することができる。
【0018】
第三の態様は、第二の態様に記載された制振装置用ベース部材において、前記縦板部の高さ寸法が、前記第一横板部及び前記第二横板部の該縦板部からの突出寸法以下とされているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、小規模建築物用制振装置の高さを一層小さくしながら、第一横板部のばね部材への取付面積と、第二横板部の制振対象部材への取付面積とを、それぞれ十分に確保することができる。
【0020】
第四の態様は、第二又は第三の態様に記載された制振装置用ベース部材において、前記矩形枠部の高さ寸法が、該矩形枠部を含む前記小規模建築物用制振装置の高さ寸法の25%以下とされているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、小規模建築物用制振装置の高さ寸法に対する制振装置用ベース部材の高さ寸法の割合が十分に小さくされて、小規模建築物用制振装置の高さ方向(上下方向)の小型化に資する。
【0022】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された制振装置用ベース部材において、前記縦板部と前記第一横板部と前記第二横板部が板材の折曲げによって一体形成されているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、縦板部と第一横板部と第二横板部を備える梁材を、複数の部材を管理してそれらを溶接するといった煩雑な作業を要することなく、容易に得ることができる。
【0024】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された制振装置用ベース部材において、前記矩形枠部において周方向で隣り合う前記梁材は、前記第一横板部が相互に溶接され、前記第二横板部が相互に溶接され、前記縦板部が相互に溶接されているものである。
【0025】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、4つの梁材の縦板部、第一横板部、第二横板部が、それぞれ周方向において連続するように溶接されて環状とされることにより、変形剛性に優れた矩形枠部を得ることができる。特に、縦板部が溶接されることで形成される矩形筒状の部分の両端に、周方向で連続するフランジ状とされた第一横板部と第二横板部が設けられる構造となることから、強度の大きな矩形枠部を得ることができる。
【0026】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された制振装置用ベース部材において、前記矩形枠部は、互いに並列的に配される一対の第一梁材と、該第一梁材に対する交差方向に延びる一対の第二梁材とによって構成されており、該第二梁材の端部が該第一梁材の側面に突き当てられて溶接されているものである。
【0027】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、一対の第一梁材の間に一対の第二梁材を配した梯子型の構造によって、変形剛性に優れた矩形枠部を実現することができる。また、例えば、ベース部材が一対の第二梁材の間に第三梁材を配した構造とされる場合に、第三梁材を第二梁材と共通の構造とすることも容易になる。
【0028】
第八の態様は、第一~第七の何れか1つの態様に記載された制振装置用ベース部材において、前記矩形枠部の周方向で隣り合う2つの前記梁材は、一方の該梁材の端部が他方の該梁材の側面に突き当てられており、該一方の梁材の端部は、前記第一横板部が取り除かれて該他方の梁材の該第一横板部が配される上部切欠きと、前記第二横板部が取り除かれて該他方の梁材の該第二横板部が配される下部切欠きとの何れか一方を備えて、該一方の梁材の端部と該他方の梁材の側面との各突き当て部分が溶接されているものである。
【0029】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、2つの梁材の接続部分において、矩形枠部の内周側へ突出する第一横板部又は第二横板部が重なり合うことなく突き当てられる。これにより、横板部の重なり合いによる段差の形成が回避されて、矩形枠部の上面と下面の少なくとも一方を平坦面とし易くなる。
【0030】
第九の態様は、第一~第八の何れか1つの態様に記載された制振装置用ベース部材において、並列的に配される一対の前記梁材において、各前記第一横板部の各前記縦板部からの突出方向が互いに逆向きとされているものである。
【0031】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、矩形枠部が対称的な形状とされることから、矩形枠部において強度の良好なバランスが実現されて、振動入力時に矩形枠部における部分的な応力集中やねじれなどが回避され易くなる。
【0032】
第十の態様は、第九の態様に記載された制振装置用ベース部材において、各前記梁材の前記第一横板部が何れも前記縦板部から前記矩形枠部の内周側へ向けて突出しているものである。
【0033】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、ばね部材が取り付けられる第一横板部が縦板部よりも矩形枠部の内周側に位置することにより、ばね部材の取付構造(例えばボルトやナット等)を下方から操作する際に、ばね部材の取付構造に対して矩形枠部の内周側からアクセスし易く、矩形枠部の内周側に配置された点検口によって、より多くのばね部材の取付構造を操作することが可能になる。
【0034】
第十一の態様は、第十の態様に記載された制振装置用ベース部材において、前記第二横板部に重ね合わされて前記梁材を前記制振対象部材に連結する受部材が設けられており、該受部材が該梁材の前記第一横板部における前記ばね部材への連結位置よりも前記矩形枠部の外周側に配置されているものである。
【0035】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、縦板部よりも内周側に設けられるばね部材と第一横板部の連結構造が、第二横板部に取り付けられる受部材によって覆われるのを防ぐことができる。それゆえ、ばね部材の第一横板部への連結構造を、受部材によって妨げられることなく下方から容易に操作することができる。
【0036】
第十二の態様は、第九の態様に記載された制振装置用ベース部材において、各前記梁材の前記第一横板部が何れも前記縦板部から前記矩形枠部の外周側へ向けて突出しているものである。
【0037】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、例えば点検口が矩形枠部の外周側に位置している場合などにおいて、第一横板部とばね部材の連結構造に対する点検口からのアクセスが容易になる。
【0038】
第十三の態様は、第一~第十二の何れか1つの態様に記載された制振装置用ベース部材において、複数の前記矩形枠部を一体的に備えているものである。
【0039】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、例えば複数の矩形枠部によって支持される複数の副振動系を設けることにより、特定周波数における優れた制振効果を得たり、相互に異なる複数周波数の振動に対する制振効果を得たりすることができる。また、複数の矩形枠部が住宅などの制振対象部材に取り付けられることにより、制振対象部材に対する制振装置の取付強度を大きく得ることができる。
【0040】
第十四の態様は、第十三の態様に記載された制振装置用ベース部材において、前記矩形枠部の上面と下面の少なくとも一方が単一平面上に位置しているものである。
【0041】
本態様に従う構造とされた制振装置用ベース部材によれば、例えば、単一平面上に位置する矩形枠部の上面と下面の少なくとも一方に対して、制振装置のばね部材を取り付けることにより、共通のばね部材でマス部材を適切に支持することができる。
【0042】
第十五の態様は、マス部材と、制振対象部材に取り付けられるベース部材とが、ばね部材によって弾性連結された構造を有する小規模建築物用制振装置であって、前記ベース部材が第一~第十四の何れか1つの態様に記載された制振装置用ベース部材とされているものである。
【0043】
本態様に従う構造とされた小規模建築物用制振装置によれば、ベース部材の上下寸法が小さくされることから、上下方向において小型化を図ることができる。また、ベース部材がZ形の断面形状を有する梁材によって構成されることにより、高さ寸法を抑えながら、強度を十分に確保することができ、配設スペースに対する対応性の向上も図られる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、十分な強度を確保しながら、高さ方向での小型化を実現し、更にばね部材の着脱等の作業性にも優れた制振装置用ベース部材と、それを備える小規模建築物用制振装置とを、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の第一の実施形態としての小規模建築物用制振装置を、住宅への設置状態で示す図
図2図1に示す小規模建築物用制振装置の平面図
図3図1に示す小規模建築物用制振装置の正面図
図4図1に示す小規模建築物用制振装置の右側面図であって、制振装置の住宅への設置状態を示す図
図5図1に示す小規模建築物用制振装置を構成する制振装置用ベース部材の平面図
図6図5に示す制振装置用ベース部材の正面図
図7図5に示す制振装置用ベース部材の右側面図
図8図5に示す制振装置用ベース部材を構成する第1梁材と第2梁材の接続構造を説明する斜視図
図9】本発明の第二の実施形態としての制振装置用ベース部材の正面図
図10図9に示す制振装置用ベース部材の右側面図
図11】本発明の別の一実施形態としての制振装置用ベース部材の平面図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0047】
図1には、本発明に従う構造とされた小規模建築物用制振装置(以下、制振装置と称する)10が、小規模建築物である3階建ての住宅12に設置された状態で概略的に示されている。制振装置10は、住宅12の3階の天井裏14に配されており、住宅12の3階の天井15を構成する梁などに取り付けられている。制振装置10は、図2図4に示すように、マス部材16と制振装置用ベース部材(以下、ベース部材と称する)18とが、ばね部材としてのゴムマウント20によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、高さ方向である図1中の上下方向を言う。
【0048】
マス部材16は、鉄系金属等の高比重の材料で形成されている。マス部材16は、形状が限定されるものではないが、本実施形態では略矩形ブロック状乃至は厚肉の矩形平板状とされている。本実施形態では、図2に示すように、4つのマス部材16が縦横で相互に離れて配されており、後述する振動入力時のマス部材16の変位に際して、マス部材16同士が相互に干渉しないようになっている。
【0049】
ベース部材18は、鋼材によって形成されており、図5図7にも示すように、矩形枠部22を備えている。矩形枠部22は、左右方向(図2中の左右方向)で互いに並列的に延びる一対の第一梁材24aと、前後方向(図2中の上下方向)で互いに並列的に延びる一対の第二梁材24bとの4つの梁材24によって構成されている。
【0050】
梁材24は、図7に示すように、上下方向に所定の高さ寸法を有する長手板状の縦板部26と、縦板部26の上端から縦板部26の厚さ方向の一方側へ突出する第一横板部28と、縦板部26の下端から縦板部26の厚さ方向の他方側へ突出する第二横板部30とを、備えている。縦板部26は、略一定の上下寸法で直線的に延びている。第一横板部28と第二横板部30は、縦板部26から互いに逆向きに突出しており、本実施形態では、第一横板部28が矩形枠部22の内周側へ向けて突出していると共に、第二横板部30が矩形枠部22の外周側へ向けて突出している。これにより、各梁材24は、何れも略Z形の断面形状を有している。
【0051】
梁材24は、第一横板部28の上面と第二横板部30の下面との上下方向の距離である高さ寸法Hbが、第一横板部28の突出先端面と第二横板部30の突出先端面との距離である幅寸法Wよりも小さくされている。本実施形態では、縦板部26の高さ寸法hが、第一横板部28の縦板部26からの突出寸法w1以下とされ、且つ第二横板部30の縦板部26からの突出寸法w2以下とされている。これにより、梁材24は、上下方向において扁平な断面形状を有しており、上下方向において小型化が図られている。第一梁材24aと第二梁材24bは、縦板部26の厚さ方向及び高さ方向と直交する長さ方向において、寸法が相互に異なるが、第一梁材24aと第二梁材24bの幅寸法(縦板部26の厚さ方向の寸法)、高さ寸法、断面形状は略同じとされている。要するに、第一梁材24aと第二梁材24bは、長さ方向と直交する断面が相互に略同一とされている。第一梁材24aは、第二梁材24bよりも長さ寸法が大きくされている。
【0052】
梁材24は、例えば、後述する切欠部40や孔32,34,36などが形成された鋼板がプレス加工等によって折り曲げられることにより形成されており、縦板部26と第一横板部28と第二横板部30が一体形成されている。もっとも、梁材24は、例えば、別部材として準備された各板状の縦板部26と第一横板部28と第二横板部30とを、溶接によってつなぎ合わせて得ることもできる。
【0053】
第一横板部28には、厚さ方向に貫通するマウント取付孔32とストッパ挿通孔34が形成されている。第二横板部30には、厚さ方向に貫通する受部材取付孔36が形成されている。マウント取付孔32及びストッパ挿通孔34の配置や数、大きさ、形状などは、マス部材16やゴムマウント20の配置、数、後述するストッパ部材58の配置や数、大きさ、形状等に応じて、適宜に変更される。受部材取付孔36の配置や数、大きさ、形状などは、要求されるベース部材18の建築構造体60(後述)への固定強度などに応じて、適宜に変更される。
【0054】
本実施形態では、並列的に配された一対の第一梁材24a,24aの間に、それら第一梁材24a,24aと略直交して延びる第二梁材24b,24bが配されている。そして、第二梁材24b,24bの各両端部38b,38bが第一梁材24a,24aに側方から突き当てられて固定されることにより、矩形枠部22が構成されている。本実施形態の矩形枠部22は、第一梁材24a,24aと第二梁材24b,24bが梯子状に組み合わされた構造を有している。
【0055】
矩形枠部22を構成する一対の第一梁材24a,24aは、各第一横板部28aが縦板部26aから矩形枠部22の内周へ向けて突出していると共に、各第二横板部30aが縦板部26aから矩形枠部22の外周へ向けて突出している。また、矩形枠部22を構成する一対の第二梁材24b,24bは、各第一横板部28bが縦板部26bから矩形枠部22の内周へ向けて突出していると共に、各第二横板部30bが縦板部26bから矩形枠部22の外周へ向けて突出している。従って、一対の第一梁材24a,24aにおいて各第一横板部28aの突出方向が互いに逆向きとされて、一対の第一梁材24a,24aが互いに略対称とされていると共に、一対の第二梁材24b,24bにおいて各第一横板部28bの突出方向が互いに逆向きとされて、一対の第二梁材24b,24bが互いに対称とされている。これにより、矩形枠部22において、後述する振動入力に対するねじれや応力集中が低減されて、ベース部材18の変形剛性や耐久性の向上が図られる。
【0056】
第一梁材24a,24aと第二梁材24b,24bは、突き当てられた状態で固定されている。より詳細には、図7図8に示すように、第二梁材24bの端部38bは、上端において第一横板部28bが取り除かれた上部切欠きとしての切欠部40bを備えている。切欠部40bを備える第二梁材24bの端部38bは、上端の角部が斜めに切り落とされたC面形状とされていると共に、第一横板部28bの切欠部40b側の端面に沿った位置には、縦板部26bを厚さ方向に貫通して縦板部26bの上面に開口する切込み42bが形成されている。切欠部40bを備える第二梁材24bが、例えば、予め切欠部40bに相当する部分が切除された鋼板を曲げ加工することによって形成される際に、第一横板部28bの切欠部40b側の端縁における応力集中が切込み42bによって緩和されて、曲げ加工時の破損が防止される。
【0057】
そして、第二梁材24bの縦板部26bは、切欠部40bを備える端部38bにおいて第一梁材24aの縦板部26aに対して側方から突き当てられる。また、第二梁材24bの端部38bにおける縦板部26bの上面は、第一梁材24aの第一横板部28aの下面に重ね合わされる。また、第一梁材24aの第一横板部28aが、第二梁材24bの切欠部40bに配されて、第二梁材24bの第一横板部28bにおける切欠部40b側の端部が、第一梁材24aの第一横板部28aの突出先端面に重ね合わされる。第一梁材24aにおける縦板部26aと第一横板部28aの連続部分に形成される曲げRは、第二梁材24bの端部38bの上端角に設けられたC面形状によって、第一梁材24aと第二梁材24bの突き当てが阻害されない。
【0058】
第一梁材24aと第二梁材24bは、第二梁材24bの端部38bが第一梁材24aの側面に突き当てられて、溶接によって相互に固定されている。即ち、第二梁材24bの縦板部26bが第一梁材24aの縦板部26aの側面に突き当てられて溶接されている。また、第二梁材24bの第二横板部30bが、第一梁材24aにおける第二横板部30aの基端に突き当てられて溶接されていると共に、第二梁材24bの第一横板部28bが、第一梁材24aの第一横板部28aの先端に突き当てられて溶接されている。このように、第一梁材24aと第二梁材24bは、縦板部26aと縦板部26b、第一横板部28aと第一横板部28b、第二横板部30aと第二横板部30bが、それぞれ相互に溶接されており、第一梁材24aと第二梁材24bの接続部分の固着強度や変形剛性等が大きくされている。更に、本実施形態では、第一梁材24aの第一横板部28aと第二梁材24bの縦板部26bの上端も溶接されており、第一梁材24aと第二梁材24bの接続部分がより高強度とされている。
【0059】
矩形枠部22は、第一梁材24a,24aと第二梁材24b,24bが溶接されることにより、周方向に連続する縦板部26が筒状とされると共に、縦板部26の上端では内周へ向けて突出する第一横板部28が矩形環板状とされ、縦板部26の下端では外周へ向けて突出する第二横板部30が矩形環板状とされている。このように、ベース部材18の矩形枠部22は、筒状体の上下両端部に全周にわたって連続する内フランジと外フランジとが一体的に形成されたような構造を有していることから、大きな変形剛性が実現されている。
【0060】
第二梁材24bの端部38bは、第一梁材24aの第一横板部28aとの重なりを回避するために、上端部分に切欠部40bが設けられて、第一横板部28bが部分的に除かれている。しかしながら、第二横板部30bは第二梁材24bの端まで連続して設けられていることから、第二梁材24bが端部38bにおいて過度に脆弱になることは防止されている。
【0061】
第一梁材24a,24aと第二梁材24b,24bの溶接によって形成される矩形枠部22は、上面44と下面46がそれぞれ略単一平面によって構成されている。矩形枠部22の上面44と下面46は、例えば、第一梁材24a,24aと第二梁材24b,24bを溶接した後で、溶接部分のビードを切削や研磨によって平坦に加工することにより、平面とされている。矩形枠部22は、上面44と下面46の何れか一方だけが単一平面上に位置するように加工されていてもよく、その場合、好適には、ゴムマウント20に連結される第一横板部28側の面(本実施形態では上面44)が単一平面とされることにより、共通のゴムマウント20を採用し易くなる。
【0062】
一対の第二梁材24b,24bの間には、図5に示すように、2本の第三梁材24c,24cが取り付けられている。第三梁材24cは、第二梁材24bと共通の部材とされていることから、第二梁材24bと対応する各部は、図中において末尾のbをcに変えた符号を付すことにより、詳細な説明を省略する。第三梁材24c,24cは、両端部38c,38cが一対の第一梁材24a,24aに対して溶接されている。第三梁材24c,24cは、第一梁材24aの長さ方向の中央付近に設けられており、相互に離れて並列的に設けられている。第二梁材24b,24bと第三梁材24c,24cは、第一梁材24aの長さ方向において、第二梁材24b、第三梁材24c、第三梁材24c、第二梁材24bの順に並んで配されている。第三梁材24cは、第一横板部28cが縦板部26cから第一梁材24aの長さ方向で隣り合う第二梁材24bに向けて突出していると共に、第二横板部30cが縦板部26cから第一梁材24aの長さ方向で隣り合う第三梁材24cに向けて突出している。
【0063】
第三梁材24c,24cが配されることにより、一対の第一梁材24a,24aと第二梁材24bと第三梁材24cとによって囲まれる分割枠部47が、第一梁材24aの長さ方向に並んで2つ形成されている。2つの分割枠部47,47は、第一梁材24aの長さ方向において、相互に離れて設けられている。第一梁材24aと第二梁材24bと第三梁材24cは、各第一横板部28a,28b,28cが、構成する分割枠部47の内周へ向けて突出している。なお、本実施形態では、一対の第一梁材24a,24aと一対の第二梁材24b,24bからなる最外周部分を矩形枠部22として捉えて、矩形枠部22が第三梁材24c,24cによって2つの分割枠部47,47に分割されているとして説明する。しかしながら、例えば、2つの分割枠部47,47をそれぞれ矩形枠部と捉えてもよく、その場合、ベース部材18は、複数の矩形枠部が設けられた態様とみなすことができる。
【0064】
そして、各分割枠部47に対して、2つのマス部材16,16が取り付けられている。従って、2つの分割枠部47,47を備えるベース部材18に対して、4つのマス部材16が取り付けられている(図2参照)。
【0065】
各マス部材16は、4つのゴムマウント20によって四角部分を弾性支持されている。ゴムマウント20は、構造を特に限定されるものではないが、本実施形態では、図3図4に示すように、所定の間隔で積層された複数枚の金属プレート48が、一対のゴム弾性体50,50によって相互に弾性連結された構造を有している。金属プレート48は、長手矩形板状とされており、平板状でも良いが、例えば、長手方向の両端部分が長手方向の外側へ向けて上傾する傾斜形状とされて、傾斜部分にそれぞれゴム弾性体50が固着されている。これにより、マス部材16の分担支持荷重を圧縮力として受けることができると共に、金属プレート48の長手方向と短手方向のばね特性の違いを大きくすることができ、ゴムマウント20の向きを調節することによって、マス-バネ共振系の共振周波数をより大きな自由度で調節することができる。なお、金属プレート48におけるゴム弾性体50の固着部分には貫通孔が形成されており、各金属プレート48間に配されるゴム弾性体50が一体的に連続している。
【0066】
ゴムマウント20は、上端部に配された第一取付部材52がマス部材16に固定されると共に、下端部に配された第二取付部材54がベース部材18に固定されることにより、マス部材16とベース部材18の間に介装されている。これにより、マス部材16とベース部材18がゴムマウント20によって相互に弾性連結されて、副振動系(マス-バネ共振系)を構成する制振装置10が形成される。ゴムマウント20の第二取付部材54は、第二取付部材54から下方へ向けて突出するボルトがベース部材18のマウント取付孔32に挿通されて、当該ボルトにナット56が締め付けられることによって、第一横板部28に固定されている。ベース部材18を構成する梁材24がそれぞれZ形断面を有しており、第一横板部28の下方が他の横板等で覆われることなく開放されていることから、ナット56の締結作業が容易とされている。
【0067】
マス部材16を支持する4つのゴムマウント20は、2つが第一梁材24a、1つが第二梁材24b、1つが第三梁材24cに、それぞれ取り付けられる。また、マス部材16には、下方へ向けて延び出すロッド状のストッパ部材58が設けられており、ストッパ部材58がベース部材18のストッパ挿通孔34に挿通されることによって、マス部材16のベース部材18に対する水平方向の相対移動量を制限するストッパが構成される。また、例えば、特開2003-343645号公報に示されているように、メンテナンスの際にマス部材16をベース部材18に対してジャッキアップするためのジャッキアップ機構を、ストッパ部材58を利用して構成することもできる。
【0068】
ベース部材18の高さ寸法Hbは、制振装置10の高さ寸法Hd(図3参照)に対して、25%以下とされていることが望ましい。このように、制振装置10においてベース部材18の高さ寸法が十分に小さくされることにより、制振装置10の上下方向における小型化が図られる。
【0069】
かくの如き構造とされた制振装置10は、図4に示すように、ベース部材18における梁材24の第二横板部30が、住宅12の梁などの制振対象部材としての建築構造体60に対して、受部材62を介して取り付けられる。受部材62は、建築構造体60に固定されると共に、ベース部材18に対して固定されることにより、ベース部材18と建築構造体60を連結する部材である。ベース部材18が受部材取付孔36に挿通されるボルト64とナット66とによって受部材62に固定されることにより、ゴムマウント20が建築構造体60にベース部材18を介して連結されている。受部材62の具体的な形状は、建築構造体60やベース部材18の形状や相対的な配置等によって適宜に変更され得るが、例えば、建築構造体60の間に制振装置10が配された図4の例において、建築構造体60から制振装置10へ向けて内側へ延び出す板状とされている。受部材62は、ベース部材18とゴムマウント20の連結構造を構成するナット56に対して、矩形枠部22の外周側に位置していることが望ましい。要するに、受部材62は、ベース部材18とゴムマウント20の連結位置に対して、下方を覆うことなく外れていることが好適である。
【0070】
主振動系を構成する住宅12に対して制振対象振動が入力されると、制振装置10のマス部材16とゴムマウント20によって構成される副振動系(マス-バネ共振系)において、マス部材16が共振状態で積極的に振動し、ゴムマウント20のゴム弾性体50の変形によるエネルギー減衰作用等の制振効果が発揮される。これにより、住宅12の振動が低減されて、不快な揺れや異音を防止することができる。
【0071】
ゴムマウント20は、金属プレート48の長手方向と短手方向で異なるばね特性を有していることから、ゴムマウント20の向きを調節することによって、特定方向の振動入力に対してゴムマウント20をばねとする副振動系の共振周波数を調節することができる。本実施形態において、マス部材16に取り付けられるゴムマウント20の第一取付部材52は、マス部材16に対して回転不能に固定されており、第一取付部材52に図示しないボルトとナットで締結される上端の金属プレート48が、ナットを緩めることで第一取付部材52に対してボルトを軸とする回転を許容される。また、ベース部材18に取り付けられるゴムマウント20の第二取付部材54は、ベース部材18の第一横板部28に対して一点においてボルトとナット56で締結されており、ナット56を緩めることによって、第一横板部28に対するボルトを軸とする回転が許容される。
【0072】
ところで、制振装置10は、図1にも示すように、天井裏14に配されており、制振装置10の下方には、図4において2点鎖線で示す天井15が位置している。天井15には、制振装置10の直下に位置する点検口68が設けられており、点検口68を通じて制振装置10の下側へアクセス可能とされている。点検口68は、ベース部材18の矩形枠部22よりも内周側に位置しており、矩形枠部22を構成する梁材24a,24bに対して、矩形枠部22の内周側からアクセス可能とされていることが望ましい。より好適には、点検口68は、分割枠部47を構成する梁材24a,24b,24cに対して、それぞれ分割枠部47の内周側からアクセス可能となるように配される。点検口68は、常時開放されていてもよいが、例えば、着脱可能な羽目板或いは開閉可能な扉などによって通常時は塞がれており、点検や整備を行う際に必要に応じて開放可能とされる。
【0073】
制振装置10の調節や部品の交換等の作業を行う場合には、作業者は脚立等によって点検口68へ上体を入れながら、下側から作業を行うこととなる。点検口68を通じて行われる制振装置10のメンテナンス等は、主として、ゴムマウント20の向きの調節や交換といったゴムマウント20に関するものであり、これにはゴムマウント20とベース部材18を連結するナット56を緩める或いは締める作業が含まれる。ここにおいて、ベース部材18を構成する梁材24がZ形断面を有しており、ナット56の下方が開放されていることから、ナット56を操作する際に、下側からナット56を操作し易い。
【0074】
本実施形態では、ゴムマウント20が取り付けられる第一横板部28が矩形枠部22の内周へ向けて縦板部26から突出することから、ベース部材18とゴムマウント20の連結部分を、ベース部材18と住宅12の建築構造体60とを連結する受部材62よりも内周へ配し易くなる。また、受部材62に連結されるベース部材18の第二横板部30は、第一横板部28と反対に矩形枠部22の外周へ向けて縦板部26から突出することから、ベース部材18と受部材62の連結部分がベース部材18とゴムマウント20の連結部分よりも外周側に位置する。それゆえ、受部材62をベース部材18とゴムマウント20の連結部分よりも外周に配置し易い。
【0075】
また、ナット56に対して下方からのアクセスが容易であることにより、縦板部26の高さを低くしてもナット56の操作が困難になることがなく、メンテナンス等の作業性を確保しながら、ベース部材18の高さ寸法を小さくすることができる。これにより、制振性能を維持しながら制振装置10の高さを低くすることができて、配管、配線、遮音材、断熱材などによって天井裏14等の制振装置10の配設スペースが制限される場合にも、制振装置10を配設し易くなる。
【0076】
更に、ナット56を回す際に、横から工具や手を差し入れる必要がなく、ナット56の操作が容易になると共に、ナット56に対して力を加え易くなる。また、電動工具などを採用する場合にもスペースが制限され難く、必要な工具を使用することができる。
【0077】
図9には、本発明の第二の実施形態としての小規模建築物用制振装置70が示されている。制振装置70は、マス部材16と制振装置用ベース部材72がゴムマウント20によって弾性連結された構造を有している。また、ベース部材72は、図9図10に示すように、第一梁材74aと第二梁材74bによって構成される矩形枠部76が、第三梁材74cによって2つの分割枠部77,77に区分けされた構造を有している。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0078】
第一梁材74aは、第一横板部28aが縦板部26aの下端から矩形枠部76の内周側へ向けて突出していると共に、第二横板部30aが縦板部26aの上端から矩形枠部76の外周側へ向けて突出している。要するに、本実施形態のベース部材72を構成する第一梁材74aは、第一の実施形態のベース部材18を構成する第一梁材24aに対して、上下方向と直交する面に関する面対称形状とされている。第二梁材74bは、第一横板部28bが縦板部26bの下端から矩形枠部76の内周側へ向けて突出していると共に、第二横板部30bが縦板部26bの上端から矩形枠部76の外周側へ向けて突出している。要するに、本実施形態のベース部材72を構成する第二梁材74bは、第一の実施形態のベース部材18を構成する第二梁材24bに対して、上下方向と直交する面に関する面対称形状とされている。
【0079】
第三梁材74cは、第一横板部28cが矩形枠部76を構成する分割枠部77の内周側へ向けて縦板部26cの下端から突出していると共に、第二横板部30cが分割枠部77の外周側へ向けて縦板部26cの上端から突出している。要するに、本実施形態のベース部材72を構成する第三梁材74cは、第一の実施形態のベース部材18を構成する第三梁材24cに対して、上下方向と直交する面に関する面対称形状とされている。従って、本実施形態のベース部材72は、全体として第一の実施形態のベース部材18を上下反転或いは上面と下面が入れ替わるように180°回転させた構造とされている。
【0080】
ベース部材72は、第一横板部28にマウント取付孔32とストッパ挿通孔34が形成されると共に、第二横板部30に受部材取付孔36が形成される。また、第二梁材74bの端部38bには、第一横板部28bが取り除かれた下部切欠きとしての切欠部78bが下端部に形成されており、第一梁材74aの第一横板部28aが切欠部78bに配されることによって、第一梁材74aの第一横板部28aと第二梁材74bの第一横板部28bとの上下方向での重なりが回避されている。図示は省略されているが、第三梁材74cの端部には、第二梁材74bの端部38bの切欠部78bと同様に、第一横板部28cが取り除かれた下部切欠きとしての切欠部が形成されている。
【0081】
このような本実施形態に従う構造のベース部材72によれば、ゴムマウント20の第一横板部28への取付位置をより下方に設定し易くなって、ベース部材72を備える小規模建築物用制振装置の高さ寸法を小さくし得る。また、ベース部材72とゴムマウント20の連結構造をより下方に配することができて、下方からのメンテナンス等の作業がより行い易くなる。
【0082】
また、第一の実施形態のベース部材18において第一横板部28又は第二横板部30が天井裏14の配管等に干渉する場合に、本実施形態のベース部材72を採用すれば干渉が回避され得る。即ち、第一の実施形態のベース部材18は、内周へ向けて突出する第一横板部28が上端に位置し、外周へ向けて突出する第二横板部30が下端に位置するが、本実施形態のベース部材72は、内周へ向けて突出する第一横板部28が下端に位置し、外周へ向けて突出する第二横板部30が上端に位置するからである。このように、第一の実施形態の梁材24とは逆向きの梁材74によってベース部材72を構成することにより、配設スペースの空間形状に比較的容易に対応できる場合がある。
【0083】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ベース部材18が備える矩形枠部22の数は前記実施形態で示した2つに限定されず、1つでもよいし、3つ以上の複数であってもよい。
【0084】
前記実施形態では、矩形枠部22によって独立した4つの副振動系がそれぞれ支持されていたが、1つの矩形枠部22に対して設けられる副振動系の数は限定されず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0085】
ベース部材を構成する梁材は、必ずしも梯子型に組み合わされる必要はなく、例えば、図11に示すベース部材80のように、矩形枠部82を構成する各梁材84がそれぞれ切欠部40を備える端部38を一端だけに設けられて、端部38が周方向で隣り合う他の梁材84の側面に突き当てられて固定されるようにしてもよい。ベース部材80では、各梁材84を共通とすることができて、部品の製造や管理が容易になり得る。なお、図11に示すベース部材80は1つの矩形枠部だけを有しているが、ベース部材80に第三梁材を設けて、前記実施形態で示したような複数の分割枠部を備える矩形枠部を実現することもできる。
【0086】
梁材24bと平行な梁材24cに加えて或いは代えて、梁材24a,24aの間に梁材24aと略平行に延びる梁材を設けることもできる。
【0087】
梁材24においてゴムマウント20が取り付けられる第一横板部28は、縦板部26から矩形枠部22の内周側へ向けて延び出すものに限定されず、外周側へ向けて延び出すものであってもよい。このように、第一横板部28が縦板部26から外周側へ向けて延び出す場合には、住宅12側に取り付けられる第二横板部30は、縦板部26から矩形枠部22の内周側へ向けて延び出す。
【0088】
前記実施形態では、梁材24bの端部38bに切欠部40bが形成されて、ベース部材18の上面44と下面46の両方が平面上に位置するように梁材24aと梁材24bが組み合わされる構造について説明したが、必ずしも上面44と下面46の両面が単一平面上に位置する必要はない。例えば、梁材24bの高さ寸法が梁材24aの高さ寸法よりも小さくされて、梁材24bの第一横板部28bが梁材24aの第一横板部28aに重ね合わされるようにしてもよい。ベース部材18の上面44と下面46は、何れか一方だけが単一平面とされていてもよいし、何れも単一平面ではなく段差や凹凸等を備えていてもよい。
【0089】
前記実施形態では、梁材24が板材を折り曲げて形成されることを例示したが、梁材は、例えば、圧延によって全体を一体的に形成することも可能である。また、例えば、縦板部の一部と第一横板部が一体とされたL字型の部材と、縦板部の他の一部と第二横板部が一体とされた逆L字型の部材とを溶接することによって、梁材を得ることもできる。
【0090】
前記第一の実施形態では、第二横板部30が縦板部26に対して曲げ加工によって形成されることから、第二横板部30と縦板部26の接続部分が湾曲しており、縦板部26の上下端において、当該湾曲した接続部分は第二横板部30の基端を構成するとして把握することもできる。それゆえ、第一梁材24aの第二横板部30aの基端と、第二梁材24bの第二横板部30bの先端とが、隙間をもって或いは当接状態で配されており、それら第二横板部30a,30bが直接的に溶接される。
【0091】
1つのマス部材16を支持するゴムマウント20の数は、4つに限定されず、3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。
【0092】
前記実施形態では、周方向の向きを調節することによって特性を調節可能な矩形断面のゴムマウント20について例示したが、例えば、周方向の向きによる特性の違いが小さい円形断面のゴムマウントを採用する場合にも、本発明は適用可能であり、その場合にもゴムマウントの交換等の作業に資する。
【符号の説明】
【0093】
10 小規模建築物用制振装置(第一の実施形態)
12 住宅
14 天井裏
15 天井
16 マス部材
18 制振装置用ベース部材
20 ゴムマウント(ばね部材)
22 矩形枠部
24 梁材
24a 第一梁材
24b 第二梁材
24c 第三梁材
26 縦板部
28 第一横板部
30 第二横板部
32 マウント取付孔
34 ストッパ挿通孔
36 受部材取付孔
38 端部
40 切欠部(上部切欠き)
42 切込み
44 上面
46 下面
47 分割枠部
48 金属プレート
50 ゴム弾性体
52 第一取付部材
54 第二取付部材
56 ナット
58 ストッパ部材
60 建築構造体(制振対象部材)
62 受部材
64 ボルト
66 ナット
68 点検口
70 小規模建築物用制振装置(第二の実施形態)
72 制振装置用ベース部材
74 梁材
74a 第一梁材
74b 第二梁材
74c 第三梁材
76 矩形枠部
77 分割枠部
78 切欠部(下部切欠き)
80 制振装置用ベース部材(別の一実施形態)
82 矩形枠部
84 梁材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11