(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068034
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】応力センサ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/1623 20200101AFI20220426BHJP
G01L 5/165 20200101ALI20220426BHJP
G01L 1/20 20060101ALI20220426BHJP
G01L 1/14 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
G01L5/1623
G01L5/165
G01L1/20 Z
G01L1/14 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176958
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】大原 隆憲
(72)【発明者】
【氏名】笹川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 和弘
(72)【発明者】
【氏名】森脇 健司
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051DA03
(57)【要約】
【課題】検知層を薄くしてもずりを十分に検出できる構成の応力センサを提供する。
【解決手段】対向配置された2つの電極間に圧力検知層が介装されて押圧力を検知する、1又は2以上の圧力検知部2と、対向配置された2つの電極間にせん断力検知層が介装されてせん断力を検知する、1又は2以上のせん断力検知部3と、上記複数の検知部のうち、少なくともせん断力検知部3の検知層における、当該検知層の厚さ方向の途中位置に介挿された導電性の潤滑層2E、3Eと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された2つの電極間に圧力検知層が介装されて押圧力を検知する、1又は2以上の圧力検知部と、
対向配置された2つの電極間にせん断力検知層が介装されてせん断力を検知する、1又は2以上のせん断力検知部と、
上記複数の検知部のうち、少なくともせん断力検知部の検知層における、当該検知層の厚さ方向の途中位置に介挿された導電性の潤滑層と、
を備えることを特徴とする応力センサ。
【請求項2】
少なくとも上記潤滑層が介挿された検知部における検知層の側面に配置された樹脂性の側壁部を有することを特徴とする請求項1に記載した応力センサ。
【請求項3】
隣り合う検知部間に介挿し、上記潤滑層が介挿された検知部における検知層のずりの行き過ぎを防止する樹脂性の隔壁部を有する請求項1又は請求項2に記載した応力センサ。
【請求項4】
上記潤滑層は、グラファイトを含む被膜から構成されることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載した応力センサ。
【請求項5】
上記圧力検知層及び上記せん断力検知層は、縦弾性係数が1000MPa以上5000MPa以下の樹脂層から構成されることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した応力センサ。
【請求項6】
基材の一方の面に複数の第1電極層を形成する工程と、
上記第1電極層のうち、少なくともせん断力検知部用の第1電極層の上に、第1の検知層を形成する工程と、
上記第1の検知層の上に潤滑層を形成する工程と、
上記潤滑層の上に第2の検知層を形成する工程と、
上記第2の検知層の上に第2電極層を形成する工程と、
上記形成した第1の検知層及び第2の検知層の側面に対し、第1の検知層及び第2の検知層より縦弾性係数が小さい樹脂層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする応力センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向電極間に挟まれた検知層の変形によって、押圧力(単に圧力とも記載する)や、せん断力(ずり力)を検知する応力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
応力センサは、2つの電極を対向させ、2つの電極間に導電樹脂層等からなる検知層を挟みこんだ構造となっており、検知層が力により変形することで変化する電極間の物理量を、圧力やずり力としてセンシングするセンサである(特許文献1、2参照)。
特許文献1には、対向する2つの電極間に導電層を備え、外力によって導電層が変形することにより、電極間抵抗値が変化することを利用した抵抗式感圧センサの発明が開示されている。
また特許文献2には、2枚の矩形の平行板電極間に、導電性・可撓性を持つゴムを挟みこんだ構成となっている応力センサの発明が開示され、物体に接触して接触面が平行(ずり方向)に動いた際に受けるずり力を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3664622号公報
【特許文献2】特開2013-232293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、応力センサを構成する電極や樹脂(検知層)の選択によっては、応力センサは、生体内のモニタリングなどに応用できる可能性がある。そして、生体内のセンシングなどでは、センササイズが小さくなると、センサの埋め込みなどで被測定対象に掛かる負担を少なくすることができる
また、一定面積あたりの力の測定精度を上げるためには、センシング部分を小型化し・高集積とすることが有効である。
更に、センサ素子を薄くすると、センサが生体の曲げなどの動きに追従しやすくなり、より高精度な測定が可能となる。
以上のように、応力センサに使用する電極の微細化、センサ素子の薄型化が求められている。
【0005】
応力センサが、例えば抵抗値変化を検出するタイプの場合、応力センサは、例えば次のようにして作製される。すなわち、対向した2つの電極間に、検知層としての導電性ゴムを挟むことで、応力センサとする。又は、検知層を構成する導電層に直接電極を印刷することで、応力センサとする。あるいは、電極に導電層を印刷したものを2組作り、2組の導電層同士を重ね合せることで、応力センサとする。
【0006】
上記のような方法で作製した応力センサでは、対向した電極間に挟まれる導電層が最も厚くなる。そのため、生体の曲げ動作等に追従するためにセンサを薄くする場合、導電層を薄くするのが有効な手段である。
こういった応力センサは、原理的には、対向する電極間の抵抗値や静電容量値の変化を読み取って検知するものであり、ゴムや導電層といった検知層の変形により対向電極の距離が変化することが重要となる。
【0007】
しかし、検知層を変形させて検出する構造のセンサ素子は、ずりの入力に対する変化の出力が検知層の厚みに依存する。検知層が厚ければ、入力に対しセンサ素子は変形しやすく、検知層が薄くなれば、センサ素子は変形しづらくなる。このような観点から、従来、ずりの入力に対し検知層を入力方向に変形させるためには、検知層は厚い方が望ましい。このことは、抵抗値変化の検出を検出するタイプに限らず、静電容量の変化を検出するタイプにおいても同様である。
【0008】
そのため、従来の応力センサでは、ずり方向に十分に変形できるだけの厚みを確保してセンサとする必要があった。しかし、単位面積当たりの測定解像度を上げるためにセンサを小型化すると、ノイズ等を防ぐため小型化、複雑化した電極の近傍に限局して検知層を形成する必要がある。このため、配置パターンに対応しながら、検知層を厚く形成することが難しくなる。
しかしながら、電極の小型化や複雑化に対応するように検知層を薄くすると、従来にあっては、ずりの入力によって抵抗値や静電容量の変化が検出できるほどに検知層が十分に変形できず、センサとして要求される機能を果たせないおそれがあった。
【0009】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、検知層を薄くしてもずりを十分に検出できる構成の応力センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題解決のために、本発明の一態様は、対向配置された2つの電極間に圧力検知層が介装されて押圧力を検知する、1又は2以上の圧力検知部と、対向配置された2つの電極間にせん断力検知層が介装されてせん断力を検知する、1又は2以上のせん断力検知部と、上記複数の検知部のうち、少なくともせん断力検知部の検知層における、当該検知層の厚さ方向の途中位置に介挿された導電性の潤滑層と、を備えることを要旨とする。
また、本発明の態様は、基材の一方の面に複数の第1電極層を形成する工程と、上記第1電極層のうち、少なくともせん断力検知部用の第1電極層の上に、第1の検知層を形成する工程と、上記第1の検知層の上に潤滑層を形成する工程と、上記潤滑層の上に第2の検知層を形成する工程と、上記第2の検知層の上に第2電極層を形成する工程と、上記形成した第1の検知層及び第2の検知層の側面に対し、第1の検知層及び第2の検知層より縦弾性係数が小さい樹脂層を形成する工程と、を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、少なくとも、せん断力(ずり)を検知するための検知層の厚さ方向途中位置に潤滑層を介挿する。これにより、本発明の態様によれば、潤滑層を挟んだ厚さ方向上下の検知層が、潤滑層を介してずり方向に変位しやすくなり。この結果、本発明の態様によれば、検知層が薄くても対向電極間の物理量(抵抗値、静電容量値)が変化し、センサとして機能する素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る応力センサを説明する断面図である。
【
図3】第1樹脂層を形成した状態を示す断面図である。
【
図5】第2樹脂層を形成した状態を示す断面図である。
【
図6】第4樹脂層を形成した状態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【
図7】(a)は第2電極層の平面図であり、(b)は第2電極層を形成した状態を示す断面図である。
【
図8】第1電極層と第2電極層の関係を示す平面図である。
【
図9】本発明に基づく実施形態に係る応力センサの他の例を説明する断面図である。
【
図10】本発明に基づく実施形態に係る応力センサの他の例を説明する断面図である。
【
図11】応力センサに押圧力を入力したときの挙動を示す模式図である。
【
図12】比較例における、応力センサにせん断力(ずり力)を入力したときの挙動を示す模式図である。
【
図13】本発明例における、応力センサにせん断力(ずり力)を入力したときの挙動を示す模式図であって、(a)は検知層が相対的に厚い場合の図であり、(b)は検知層が相対的に薄い場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
ここで、以下に説明する電極の形状や力の測定を行う電極の数等は一例であり、本発明は、本説明の内容に限定されるものではない。また、説明の簡単化のため実寸法と異なる比で図が描かれているが、本発明を限定するものではない。
(構成)
本実施形態の応力センサ1は、
図1に示すように、基材5の一方の面側に、1又は2以上のせん断力検知部3と、1又は2以上の圧力検知部2と、を有する。
本実施形態では、2つのせん断力検知部3と、1つの圧力検知部2とを備える場合を例にして説明する。
【0014】
(基材5)
基材5は、シート形状であって、可撓性を有する。基材5は、例えば、プラスチックフィルムや紙が例示できる。基材5がプラスチックフィルムの場合、基材5の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ナイロン(登録商標)、塩化ビニルなどを用いてもよい。
基材5は、印刷用のインキ、フォトリソグラフィーで形成する電極の条件やセンサとしての用途に合わせて適宜選択できる。
ここで、応力センサ1の生体への使用を考慮する場合、基材5の材料として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等のポリエステルおよびそれらの共重合体、アクリル樹脂、シリコーン、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリカーボネート、シクロオレフィンコポリマー、スチレン・ブタジエン系エラストマー、アルギン酸ナトリウム、カゼインなどを用いてもよい。
【0015】
(せん断力検知部3)
せん断力検知部3は、対向配置された2つの電極層3A、3B間にせん断力検知層が介装されて構成される。なお、各電極層は、電極を構成する。以下の記載についても同様である。
本実施形態のせん断力検知部3は、せん断力検知層の厚さ方向途中位置に潤滑層3Eが介挿されている。本実施形態のせん断力検知部3は、基材5側から、第1電極層3A、第1樹脂層3C、潤滑層3E、第2樹脂層3D、第2電極層3Bが、この順に積層されて構成される。この場合、本実施形態のせん断力検知層は、第1樹脂層3C、潤滑層3E、及び第2樹脂層3Dから構成される。
【0016】
ずり力(せん断力とも呼ぶ)は、基材5の面方向の力成分である。面内における2次元のずり成分を表すためには、少なくとも、平面視で交差する2方向のずり力を検出する必要がある。
このため、本実施形態では、所定の方向(例えば横方向)のずり力を検出するせん断力検知部と、上記所定方向に直交する方向(例えば縦方向)のずり力を検出するせん断力検知部との2つのせん断力検知部3を備える。
【0017】
上記所定方向に直交しない方向の第3のずり力を検出する第3のせん断力検知部を有していてもよい。すなわち、せん断力検知部3は、1つでも良いし3つ以上であってもよい。また、同方向のせん断力を検知する複数のせん断力検知部3を有していても良い。せん断力検知部3を増やすことで、より精度よく詳細にずりを測定することができる。例えば測定対象のずり検出方向が完全に特定されており、より測定解像度を上げたい場合などに有効である。
【0018】
(圧力検知部2)
圧力検知部2は、対向配置された2つの電極層2A、2B間に圧力検知層が介装されて構成される。
本実施形態の圧力検知部2は、圧力検知層の厚さ方向途中位置に潤滑層2Eが介挿されている。すなわち、本実施形態の圧力検知部2は、基材5側から、第1電極層2A、第1樹脂層2C、潤滑層2E、第2樹脂層2D、第2電極層2Bがこの順に積層されて構成される。
本実施形態の圧力検知層は、第1樹脂層2C、潤滑層2E、及び第2樹脂層2Dから構成されているが、潤滑層2Eを設けなくても良い。潤滑層2Eを介挿しない場合には、圧力検知層は1つの樹脂層で構成してもよい。
圧力検知部2は、少なくとも1つ存在すればよい。圧力検知部2を複数設けても良い。また、圧力検知部2の配置位置などについても特に限定されない。
【0019】
(第1電極層2A、3A)
各第1電極層2A、3Aは、
図2に示すように、基材5の一方の面上に形成される。
<せん断力検知部3用の第1電極層3A>
せん断力検知部3用の第1電極層3Aは、
図2に示すように、平面視、短冊(長方形)を2つ同方向に並べ且つ端部間を接続したコの字形状となっており、長方形の延在方向が、ずり検出方向と直交する方向に設定されている。第1電極層3Aの形状やその大きさは、特に限定されるものではなく、測定対象の大きさにより自由に選択できる。例えば、第1電極層3Aの形状を、コの字形状でなく、長方形の短冊1個で構成することにより、コの字形状の場合に比べ測定精度は落ちるが、センサ電極を簡易化することができる。また、第1電極層3Aの形状は、後述の第2電極層3Bと異なる形状の組み合わせで形成してもよい。例えば、第1電極層3Aと第2電極層3Bをそれぞれ長方形と三角形とで構成する場合、せん断力による第1電極層3Aと第2電極層3Bの重なり面積のずれが長方形同士の組み合わせより大きく得られ、かつ長方形同士の組み合わせと違い、形成時に第1電極層3Aと第2電極層3Bとの位置が回転方向にずれたとしても、安定して面積変化を得ることができる。
図2では、符号3Aaが横方向のずり検出用の電極層であり、符号3Abが縦方向のずり検出用の電極層である。このとき、平面視における、第1電極層3Aaと後述の第2電極層3Baの重なり面積と、第1電極層3Abと第2電極層3Bbの重なり面積とは同じに設定しておく。
【0020】
<圧力検知部2用の第1電極層2A>
圧力検知部2用の第1電極層2Aは、
図2に示すように、平面視長方形状となっている。もっとも、第1電極層2Aの形状は、直方形状に限定されず、ずり方向にずれが発生したとき、平面視における第1電極層2Aと後述の第2電極層2Bの重複面積が変わらないような形状、サイズで形成できれば、円形など他の形状であっても良い。このときの重複面積は、せん断力検知部3における対向電極、すなわち第1電極層3Aと第2電極層3Bとの重複面積と同じに設定する。
【0021】
<第1電極層2A、3Aの形成その他>
各第1電極層2A、3Aは、基材5の上に、スクリーン印刷やグラビアオフセット印刷など公知の印刷方法を用いて形成することができる。
電極層に用いるインキは、導電性があるものが求められる。電極層の材料は、数マイクロメートルから数十ナノメートルの貴金属粉末を熱硬化性樹脂に混合したペーストを用いるのが一般的である。電極層の材料は、カーボンやアルミ、モリブデン、タングステン、コバルト、クロムなど貴金属以外でも構わないし、貴金属との合金や混合物であってもよい。導電性が高い貴金属を用いることで、導電性粉末の混合比率を下げることができるし、アルミなどの貴金属以外の金属やカーボンなどにより低コスト化やイオンマイグレーションの発生を抑えることができる。また、電極層の材料として生体内に対し不活性な材料としては、マグネシウム、コバルト、クロム、ニッケル、モリブデンで構成される合金を選ぶことができる。
また、各第1電極層2A、3Aは、めっき、スパッタリングされた膜をエッチングして形成しても構わない。
【0022】
<リード4>
各第1電極層2A、3Aには、それぞれ信号を取り出すためのリード4が接続され、リード4の他端部(不図示)から信号を取り出す構成となっている。各リード4は、配線が途中で交わらない限りどのような引き回しでも許容されるが、本実施形態の応力センサ1のように、の応力センサ1を小型化するためには、基材5の他端部側を一箇所に集約するよう引き回すことが好ましい。
【0023】
(第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3D)
第1樹脂層2C、3Cは、
図3に示すように、各第1電極層2A、3Aの上に形成される。
図3では、第1樹脂層2C、3Cは、対応する第1電極層2A、3Aを覆うように形成されている。ただし、第1樹脂層2C、3Cは、検知部毎に分離して形成される。
同様に、第2樹脂層2D、3Dは、
図5に示すように、第1樹脂層2C、3Cの上に形成された潤滑層2E、3Eの上に形成される。ただし、第2樹脂層2D、3Dは、検知部毎に分離して形成する。
【0024】
ここで、本実施形態では、断面で見た場合、2つのせん断力検知部3用の各第1電極層3Aa、3Abが同一断面に存在しない。このため、
図3及び
図5には、一方のせん断力検知部3用の第1電極層3Abは図示されていない。
第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dは、検知層を構成する。センサの検出が対向電極間の抵抗値変化の場合は、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dとして、導電性を持つ材料が選択される。また、センサの検出が対向電極間の静電容量の場合は、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dとして、絶縁樹脂が選択される。
【0025】
本実施形態では、潤滑層2E、3Eを介して、第1樹脂層2C、3Cの上に第2電極層2B、3Bが積層する。ずり方向においては、せん断力検知層を構成する第1樹脂層3Cと第2樹脂層3Dとが相対的にずれることにより、電気抵抗値又は静電容量値の変化が検出される。本実施形態のせん断力検知部3では、ずりの入力による第1樹脂層3C及び第2樹脂層3Dの相対変位が、潤滑層3Eによって大きくなるように設定可能である。
【0026】
ここで、本実施形態のせん断力検知部3は、ずり入力(せん断力の入力)によって、第1樹脂層3Cと第2樹脂層3Dがずれる際に、第1樹脂層3C及び第2樹脂層3Dの弾性変形が大きいと、その弾性変形がノイズとなってしまい検出精度が落ちるおそれがある。これを防止するため、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dのうち、少なくとも第1樹脂層3C及び第2樹脂層3Dの縦弾性係数が、1000MPa以上5000MPa以下が望ましい。
【0027】
検知層を構成する樹脂層の縦弾性係数が1000MPaを下回ると、ずりの入力により無視できないほど、第1樹脂層3C及び第2樹脂層3Dに変形が生じる可能性がある。一方、検知層を構成する樹脂層の縦弾性係数が5000MPaを超える材料では、第1樹脂層3C及び第2樹脂層3Dが圧力方向に殆ど変形せず、一緒に設けた第1樹脂層2C及び第2樹脂層2Dで抵抗値や静電容量の変化がとれなくなるおそれがある。第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dの縦弾性係数の範囲は、より好ましくは2000MPa以上5000MPa以下の範囲である。
【0028】
<第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dの材料>
第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dを構成する樹脂として、導電性を持つ樹脂を用いる場合、電極層よりも抵抗が高い材料を用いる。そのような材料としては、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子や、グラファイトやカーボンナノチューブを用いたカーボンペーストが例示できる。
また、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dを構成する樹脂として、絶縁樹脂を用いる場合、その樹脂材料としては、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などの絶縁性が高い熱硬化性樹脂を例示できる。この場合、更に誘電率を上げるために、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dに、チタン酸バリウムなどを添加して用いても構わない。
【0029】
<第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dの形成>
第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dは、スクリーン印刷などの公知の印刷方法やスプレー塗布などの公知の塗工方法を使用して形成できる。ただし、第1樹脂層2C、3Cを第1電極層2A、3Aの付近に限局して形成したり、第2樹脂層2D、3Dを潤滑層2E、3E上の所定位置に限局して形成したりするためには、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dは、一度の印刷により形成できる印刷方法による形成が望ましい。
【0030】
<第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dの関係その他>
ここで、せん断力検知部3を構成する第1樹脂層3C及び第2樹脂層3Dと、圧力検知部2を形成する第1樹脂層2C及び第2樹脂層2Dとは、異なる樹脂材料を採用しても良い。
また、本実施形態では、せん断力検知部3を構成する第1樹脂層3C及び第2樹脂層3Dは、必ずしも弾性変形させなくても良いので、圧力検知部2を形成する第1樹脂層2C及び第2樹脂層2Dの弾性変形が最適化するようにして、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dの樹脂材料を選定するようにしても良い。
また、本実施形態では、相対的に、第1樹脂層2C、3C上に形成した潤滑層2E、3Eに沿って、第2樹脂層2D、3Dがずれるため、そのずり量の目標値を考慮して、少なくともせん断力検知部3については、平面視において、第1樹脂層3C及び潤滑層3Eの面積よりも第1樹脂層3Cの面積を小さく設定することが好ましい。
【0031】
(第4樹脂層7)
第4樹脂層7は、隣り合う検知部間に介挿し、潤滑層2E,3Eが介挿された検知部における検知層のずり(せん断方向の変位)の行き過ぎを防止する樹脂性の隔壁部を構成する。
ここで、隣り合う検知部2、3の接触によるセンサの精度劣化を防止するために、隣り合う検知部2、3間に隙間が形成されている。本実施形態では、その隙間部分に第4樹脂層7が形成される。
本実施形態の第4樹脂層7は、
図6に示すように、隣り合う検知部の検知層間であって、平面視で、少なくとも第2電極層2B、3Bに接続するリード10が形成される位置に形成されている。その第4樹脂層7の上面は、できるだけ第2樹脂層2D、3Dの上面と面一となるように形成することが好ましい。なお、本実施形態では、隣り合う検知部2、3間に隙間のうち、第4樹脂層7が介在しない隙間には、第3樹脂層6が配置される。
【0032】
また、第4樹脂層7は、第2電極層2B、3B側のリード10の断線を防ぐために形成するものである。第2電極層2B、3B形成の方法や第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dの厚みによっては、第4樹脂層7は、省略することができる。例えば第2電極層2B、3Bの材料が伸縮性に富み、厚膜形成可能であれば第4樹脂層7を形成する必要はない。
第4樹脂層7は、例えば絶縁材料から構成する。第4樹脂層7の縦弾性係数は、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dの縦弾性係数よりも小さい材料を使用する。第4樹脂層7は、例えば、後述の第3樹脂層6と同じ材料で構成する。異なる材料を使用する場合は、第4樹脂層7が第2樹脂層3Dのずりを妨げないように、第4樹脂層7として、柔らかく変形が容易なシリコーン樹脂やウレタン樹脂のゴムなどを使用すると良い。
【0033】
第4樹脂層7の形成は、例えば第1樹脂層2C、3Cを形成する前や第1樹脂層2C、3Cの形成直後に行えば良い。ただし、第4樹脂層7の形成の際に、第4樹脂層7を形成する材料のダレなどにより、第4樹脂層7の一部が第1樹脂層2C、3Cの表面に掛からないようにして形成する。なお、第1樹脂層2C、3Cに比べ、第2樹脂層2D、3Dの方が小さいため、第4樹脂層7は、第2樹脂層2D、3Dの側面に位置する部分の幅が相対的に大きくなっている。
【0034】
(潤滑層2E、3E)
潤滑層2E、3Eは、
図4に示すように、各第1樹脂層2C、3Cの上に形成する。
図3では省略されているが、図示されていないせん断力検知部3の第1樹脂層3Cの上にも潤滑層3Eが形成される。
なお、上述のように、圧力検知部2の第1樹脂層2Cの上には潤滑層2Eを形成しなくてもよい。もっとも、ずり力に対する抵抗力を下げるという観点からは、せん断力検知部3と共に設けられる圧力検知部2の第1樹脂層2Cの上にも、潤滑層2Eを形成することが好ましい。
【0035】
潤滑層2E、3Eは、例えば、バインダーとしての樹脂に、固体潤滑剤を配合した被膜潤滑剤を用いて形成される。被膜潤滑剤には、潤滑以外の付加機能の追加に応じてフィラーその他の添加剤を配合してもよい。
被膜潤滑剤は、溶剤に溶かして、第1樹脂層2C、3Cの上に、例えば、スプレーコートやディスペンサ塗布など公知の塗工方法を用いて形成される。また、第1樹脂層2C、3Cの上面以外に潤滑層2E、3Eを形成しないように、印刷法を用いてパターニングするか、潤滑層2E、3Eが不要な部分をレジストして全体に塗布しレジストを剥離してもよい。
【0036】
塗布された潤滑層2E、3Eは、第1樹脂層2C、3C表面の凹凸を埋めて、第1樹脂層2C、3Cの上に平滑な面を形成する。
潤滑剤としては、固定潤滑剤以外に、潤滑油その他の潤滑剤を用いても良いが、固体潤滑剤が好ましい。固体潤滑剤を用いた場合、熱に強く、表面(摩擦面)にせん断の低い被膜を形成し、且つ摩擦面自体の凝着力を下げる効果があるため、摺動面同士の凝着を軽減して、更なる低摩擦化を図ることが可能となる。
【0037】
固体潤滑剤としては、グラファイトが好適である。グラファイトを用いた場合、薄膜が多層重なった構造となり、ずり力により層間がずり方向にずれることで摺動面の摩擦を低減させる。また、グラファイトは導電性が良好なため、電極間の電気抵抗値の検出を妨げないこと、静電容量での検出においても、平行板コンデンサの電極間の一部に導電体を挿入したのと同じ状態となり、ずり力の検出を妨げることがない。
【0038】
潤滑層2E、3Eに対し、グラファイト以外の固体潤滑剤を用い、銀ペーストなどの導電性材料を添加剤として添加して導電性を持たせて形成しても良い。
そのような潤滑剤は、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、二硫化タングステン、メラミンシアヌレートが挙げられる。本実施形態では、潤滑剤自体が導電性を持ち、かつ潤滑性も高いグラファイトを用いる。
【0039】
潤滑層2E、3Eは、上述のように第1樹脂層2C、3Cの表面の凹凸(粗さ)を完全に埋めることが好ましい。従って、潤滑層2E、3Eは、第1樹脂層2C、3Cの表面(上面)に対し、第1樹脂層2C、3Cの最大高さ粗さRz位置まで形成され、更にその上に、0μmを超え30μm以下の範囲の厚さで形成されていることが好ましい。上記第1樹脂層2C、3Cの最大高さ粗さRz位置からの膜厚が、潤滑層2E、3Eの膜厚となる。すなわち、潤滑層2E、3Eの膜厚は、0μmを超え30μm以下の範囲で形成されていることが好ましい。
【0040】
ここで、潤滑層2E、3Eが、第1樹脂層2C、3Cの最大高さ粗さRzより薄いと、十分な潤滑効果が得られないおそれがある。一方、潤滑層2E、3Eの膜厚が30μmより厚いと、応力センサ1全体として厚くなってしまう。応力センサ1の厚さに余裕がある場合には、潤滑層2E、3Eの膜厚は30μmより厚くても構わない。
なお、潤滑層2E、3Eの上に形成する上記の第2樹脂層2D、3Dは、平面視において、潤滑層2E、3Eからはみ出ないように形成する。第2樹脂層2D、3Dがはみ出すと、潤滑層2E、3Eで覆われた部分以外に第2樹脂層2D、3Dが付着してしまい、潤滑できなくなる。上記のように、応力センサ1に要求されるずり変形が発生しても、第2樹脂層2D、3Dが、潤滑層2E、3Eからはみ出さないように、平面視で、第2樹脂層2D、3Dは、潤滑層2E、3Eより、小さいことが好ましい。
【0041】
(第2電極層2B、3B)
第2電極層2B、3Bは、
図7に示すように、各第1電極層2A、3Aと対向配置している。第2電極層2B、3Bとして、圧力検知部2用の第2電極層2Bとせん断力検知部3用の第2電極層3Bとを有する。
圧力検知部2用の第2電極層2Bは、第1電極層2Aよりも面積が大きく、応力センサ1にずりが発生しても、平面視において、第1電極層2Aが第2電極層3Bに完全に重なっているように構成する。
せん断力検知部3用の第2電極層3Bは、ずりの方向を区別するために、対向する第1電極層3Aとずらした状態で配置する。第1電極層3Aと第2電極層3Bのずり電極同士がずれた時に、対向する第1電極層3Aと第2電極層3Bからなる対向電極の重なり部分の減少若しくは増加によって、ずりの方向を区別できる。
第2電極層2B、3Bの材料及び形成方法は、第1電極層2A、3Aと同じである。
第2電極層2B、3Bは、電気的にリード10に接続されている。なお、本実施形態では、第2電極層2B、3B側がコモン電極側となる。
【0042】
(第3樹脂層6)
第3樹脂層6は、複数の検知部全体の外周を覆う、側壁部を構成する。なお、第4樹脂層7も側壁部を構成する。
本実施形態の第3樹脂層6は、潤滑層2E、3Eが介挿された検知部2、3を無負荷時の初期位置に復元する復元力を発揮する位置復元の機能を有する。
第3樹脂層6は、潤滑層2E、3Eが介挿された検知部2、3を構成する検知層の側面の少なくとも一面側に配置される。検知層と第3樹脂層6は接着していても良いし、縁切りされていてもよいが、無負荷状態で、検知層の側面と第3樹脂層6の側面が接触していることが好ましい。
【0043】
本実施形態では、第3樹脂層6は、
図1に示すように、平面視で、各検知層の側面を囲うように形成されている。
図1では、各検知部2、3の上側にも第3樹脂層6が形成されているが、各検知部の上側の部分6Bは別の樹脂で構成しても良い。第3樹脂層6のうち、
図1中、符号6A部分が、せん断変形した検知部に対する位置復元の機能の役割を有する。
すなわち、本実施形態の第3樹脂層6は、応力センサ1の各検知部全体の保護(封止)としての役割と、第2樹脂層2D、3Dが第1樹脂層2C、3Cに対してずれる際のずりやすさの制御、及びずれた後、第1電極層2A、3Aに対し第2樹脂層2D、3Dを元に復元するための役割(位置復元の機構の役割)を担っている。
【0044】
すなわち、第3樹脂層6の6A部分の弾性力で、ずりの具合(せん断変形するときの抵抗力や復元力)が調整可能である。
このため、第3樹脂層6は、第1樹脂層2C、3Cや第2樹脂層2D、3Dよりも柔らかく、ずりによってずり方向に適度なせん断力で変形でき、かつずりの負荷が抜けた時に元に戻れる弾性力を発揮することが求められる。第3樹脂層6は、絶縁樹脂が好ましい。また、測定対象に対して想定される、荷重負荷の大きさに対して、硬さを変更して形成できる材料が良い。そのような材料としてはシリコーンゴムやウレタンゴムが好適に用いられる。
【0045】
第3樹脂層6は、第2樹脂層2D、3Dを形成した後、又は第2電極層2B、3Bを形成した後に形成する。本実施形態では、第3樹脂層6が封止の役割も備えるために、第3樹脂層6は、第2電極層2B、3Bを形成した後に形成される。
第3樹脂層6の形成は、スピンコートやディップコート、各種印刷法など公知の方法を用いることができる。本実施形態では、第3樹脂層6は、第2電極層2B、3Bまでを完全に覆う厚みで形成する。
【0046】
位置復元の機構としての役割だけを考慮すると、第3樹脂層6は、少なくとも第1樹脂層2C、3Cと第2樹脂層2D、3Dの側面と対向する位置に形成されていればよい。
ここで、本実施形態では、第3樹脂層6で位置復元の機構を構成する場合を例示しているが、これに限定されない。例えば、検知部2、3を囲む第3樹脂層6を設けずに、検知部2、3の側面に配置される第4樹脂層7を位置復元の機構としても良い。
ここで、上記説明では、応力センサ1は、側壁部としての第3樹脂層6及び第4樹脂層7を有する場合を例示したが、
図9に示すように、応力センサ1は、第3樹脂層6及び第4樹脂層7を有しない構成であっても良い。
また、
図10に示すように、第3樹脂層6と第4樹脂層7とが一体化した構成であっても良い。
【0047】
(応力センサ1の製造について)
応力センサ1の作製は、例えば、基材5の上に、第1電極層2A、3A、第1樹脂層2C、3C、潤滑層2E、3E、第2樹脂層2D、3D、及び第2電極層2B、3Bをこの順に積層して製造する。また、第2電極層2B、3Bの形成前後に第3樹脂層6や第4樹脂層7を形成する。
【0048】
(動作その他)
応力センサ1として、潤滑層2E、3Eを設けない比較例の構成と、本発明に基づく本実施形態の構成(発明例の構成)とにおける、押圧力とずり力(せん断力)の検出の違いを説明する。
図11、
図12は、比較例の構成において、圧力とずりを測定するときの挙動を模式に示している。
図11は、接触圧力センシングのイメージ図である。
図11に示すセンサは、基材5(不図示)の厚み方向に形成された上下の電極20、21を備え、その対向する電極20、21が、樹脂層22を介して接続された構成となっている。なお、図示しないが上下の電極20、21は信号入出力のリードを備えている。
【0049】
図11(a)は、上側の電極21を指30でさわり、下側の電極20側に押圧力F1で押す場合を示している。押圧力F1を掛けると、
図11(b)のように、樹脂層22が圧縮変形し、電極20、21間の距離が減少する。そして、対向電極20、21間の電位や抵抗値、静電容量の変化を接触圧力として出力する。
【0050】
また、
図12は、比較例の構成における、ずり応力センシングのイメージである。
図12(a)のセンサは、
図11と同様に、対向電極20、21間に樹脂層22が介在した構成となっており、指30が上側の電極21に対し紙面左に向かってずり力(せん断力)F2を与えた際の状態を示している。このとき、樹脂層22のうち、平面視で、上側の電極20と下側電極21とに挟まれた重なり部分を重なり部22Aと呼ぶ。ずり力F2によって上側の電極21が、樹脂層22の弾性変形を伴ってずりが生じ、
図12(b)のようになる。このとき、
図12(a)の状態(無負荷の状態)と比べて、電極20と電極21の重なり間に位置する重なり部22Aの領域が減少することで、電極20、21間の電気抵抗値や電極間に流れる電流量、あるいは電極間の静電容量が減少する。そして、この変化をずり応力値として出力する。
【0051】
以上のように、応力センサ1は、対向する電極20、21間の距離の変化を検出する。そのため、従来にあっては、電極20、21間に挟まれた樹脂層22の弾性変形が重要となる。ずり方向へは、比較例の構成にあっては、樹脂層22の厚みを増やすことで、力を印加した電極21と反対方向の電極20を支点としたモーメントが増加するため、変形しやすくなる。
しかし、素子の単位面積当たりのセンサ数を増やして解像度を上げる、動体に貼り付けて使用するためにフレキシブル性を持たせるなどを想定した場合、センサ自体の小型化や薄型化が必要であり、樹脂層の厚みも減少させる必要がある。
【0052】
しかし、比較例の構成では、電極20、21間に挟まれる樹脂層22の厚みを減少させると、ずり方向の剛性が相対的に上がってしまい、ずり方向へ変形しづらくなる。
また、センサの小型化によって、検出電極と共に、樹脂層22も幅と長さを小さく形成することが好ましい。しかしながら、印刷によるダレやパターンの倒れがあるため幅や長さに対して厚みだけを突出させて厚く形成することは困難である。
【0053】
実施形態の応力センサ1の検出原理も、比較例と同様の、電極間の距離の変化を検出する方式である。しかしながら、本実施形態の応力センサ1では、
図13に示すように、対向する第1電極層3A及び第1樹脂層3Cと、第2電極層3B及び第2樹脂層3Dとの組が、潤滑層3Eを介して接続した構成となっているため、第2電極層3B及び第2樹脂層3Dは、潤滑層3Eによって、第1電極層3A及び第1樹脂層3Cに対し、樹脂層の弾性力に関係なく、ずり方向にずれることができる。このため、本実施形態では、電極層3A、3B間に形成される樹脂層が薄く且つ硬い材料で構成されても、対向する電極層3A、3B間の距離を変化させることができる。
【0054】
(効果)
(1)本実施形態の応力センサ1は、対向配置された2つの電極間に圧力検知層が介装されて押圧力を検知する、1又は2以上の圧力検知部2と、対向配置された2つの電極間にせん断力検知層が介装されてせん断力を検知する、1又は2以上のせん断力検知部3と、上記複数の検知部のうち、少なくともせん断力検知部3の検知層における、当該検知層の厚さ方向の途中位置に介挿された導電性の潤滑層2E、3Eと、を備える。
応力センサ1は、上記潤滑層2E、3Eが介挿された検知部を初期位置に復元する復元力を発揮する位置復元の機構を有していても良い。
この構成によれば、せん断力検知層が薄くても、ずり方向(せん断方向)に変位しやすくなり、応力センサ1を小型化及び薄型化することが可能となる。
なお、潤滑層2E、3Eを介挿しても、位置復元の機構を有する場合には、ずりを生じた検知部が初期位置に向けて自動的に復元可能となる。
【0055】
(2)上記位置復元の機構として、例えば、上記潤滑層2E、3Eが介挿された検知部における検知層の側面に配置された位置決め用の樹脂層を有する。位置決め用の樹脂層は、第3樹脂層や第4樹脂層で構成することが可能である。
この構成によれば、応力センサ1を厚くすることなく、ずり方向に変形した検知部を初期位置に復帰させることができる。
(3)上記位置決め用の樹脂層の縦弾性係数Aと、上記潤滑層2E、3Eが介挿された検知部の検知層の縦弾性係数Bとの比A:Bが、1:10~1:500である。
この構成によれば、位置決め用の樹脂層を設けても、せん断力検知部のずり方向への変形を必要以上に妨げることを防止できる。
【0056】
(4)上記潤滑層2E、3Eは、例えば、グラファイトを含む被膜から構成される。
この構成によれば、簡便に、導電性を有する潤滑層2E、3Eを形成可能となる。
(5)上記圧力検知層及びせん断力検知層は、例えば、縦弾性係数が1000MPa以上5000MPa以下の樹脂層から構成する。
この構成によれば、ずりの入力に対し、せん断力検知層の弾性変形を許容範囲ないにおさめることが可能となると共に、圧力検知層が押圧力の検知が可能な弾性変形が可能となる。
【0057】
(6)本実施形態の応力センサ1の製造方法は、例えば、基材5の一方の面に複数の第1電極層2A、3Aを形成する工程と、上記第1電極層2A、3Aのうち、少なくともせん断力検知部3用の第1電極層2A、3Aの上に、第1の検知層を形成する工程と、上記第1の検知層の上に潤滑層2E、3Eを形成する工程と、上記潤滑層2E、3Eの上に第2の検知層を形成する工程と、上記第2の検知層の上に第2電極層2B、3Bを形成する工程と、上記形成した上記第1の検知層及び第2の検知層の側面に対し、上記第1の検知層及び第2の検知層より縦弾性係数が小さい樹脂層を形成する工程と、を含む。
この構成によれば、本実施形態の応力センサ1を作製可能となる。
(7)本実施形態は、隣り合う検知部間に介挿し、上記潤滑層が介挿された検知部における検知層のずりの行き過ぎを防止する樹脂性の隔壁部を有する。
この構成によれば、潤滑層が介挿された検知部における検知層のずりの行き過ぎを簡易な構成で防止できる。
【実施例0058】
次に、実施形態に基づく実施例について説明する。
(実施例1)
基材5として、125μmのポリイミドフィルム(東レ株式会社製:カプトン500V)を用いた。
基材5の上に、
図1のように、第1電極層2A、3Aの材料として銀ペーストを用いて、全ての第1電極層2A、3Aが10mm×10mmの範囲内に収まるように印刷法で作製した。このとき、圧力検知部2の第1電極層2Aは、幅0.5mm×長さ3mmの長方形状に作製した。2つのせん断力検知部3の各第1電極層3Aは、互いに直交するずり方向に延在する、それぞれコの字形状(2つの並んだ短冊部分(長方形部分)とそれを接続する部分で構成される)で作製した。コの字形状のうち、2つの短冊部分(長方形部分)の寸法は、それぞれ、幅0.5mm、長さ3.2mmとし、並んだ短冊部分間の間隔は2.5mmとした。また第1電極層2A、3Aと同時に、リード4も幅0.03mmで、互いに交わることがないように配置した。第1電極層2A、3Aの厚みは、2μmであった。
【0059】
次に、第1樹脂層2C、3Cの材料として、十条ケミカル製のカーボンインキJELCON CH-Nを用い、各第1電極層2A、3Aの上に、各第1樹脂層2C、3Cを印刷法で形成した。このとき、第1樹脂層2C、3Cの膜厚は6μmであった。
次に、潤滑層2E、3Eの材料として、Everlube(登録商標) Products のLube-lok4006を用いて、各第1樹脂層2C、3Cの上に潤滑層2E、3Eをスプレー塗布により形成した。潤滑層2E、3Eの乾燥膜厚は5μmであった。
【0060】
次に、第2樹脂層2D、3Dの材料として、十条ケミカル製のカーボンインキJELCON CH-Nを用い、各潤滑層2E、3Eの上に第2樹脂層2D、3Dを印刷法で形成した。このとき、第2樹脂層2D、3Dの膜厚は6μmであった。
なお、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dが積層された構造体の一部に次工程で形成する第2電極層2B、3Bに接続するリード10の断線防止のため第4樹脂層7を形成した、第4樹脂層7は、材料として、絶縁材料であるアサヒ化学研究所製の絶縁性樹脂FR-1T-NSD9を用い、スクリーン印刷により形成した。乾燥膜厚は10μmであった。
【0061】
次に、第2樹脂層2D、3D及び第4樹脂層7の上に第2電極層2B、3B及びリード10を、銀ペーストを用いて印刷法にて形成した。第2電極層2B、3Bの厚みは、2μmであった。
最後に、第3樹脂層6の材料として、デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル社のSILPOT184に硬化剤を混ぜたものを用いて、第3樹脂層6を、第1電極層2A、3A及び第2電極層2B、3Bを含む全面に印刷法で塗布して形成した。厚みは30μmであった。
【0062】
以上によって、実施例1の応力センサ1を作製した。
作製した実施例1の応力センサ1に対し、センサ全体に指で厚み方向に圧力を掛けたところ、圧力検出用の電極において抵抗値の変化が確認された。
また、実施例1の応力センサ1に対し、指で面方向にずり力を掛けたところ、ずり力の入力方向に、第1樹脂層2C、3Cに対し第2樹脂層2D、3Dが相対的に滑り、対応するずり検出用の電極間が、大きく抵抗値変化することを確認した。
このように、実施例1の応力センサ1は、圧力とずりが検出できることを確認した。
【0063】
(実施例2)
基材5として、125μmのポリイミドフィルム(東レ株式会社製:カプトン500V)を用いた。
基材5の上に、
図1のように、第1電極層2A、3Aとして銀ペーストを用いて、全ての第1電極層2A、3Aが10mm×10mmの範囲内に収まるように印刷法で作製した。このとき、圧力検知部2の第1電極層2Aは、幅0.5mm×長さ3mmの長方形状に作製した。2つのせん断力検知部3の各第1電極層3Aは、互いに直交するずり方向に延在する、それぞれコの字形状(2つの並んだ短冊部分(長方形部分)とそれを接続する部分で構成される)で作製した。コの字形状のうち、2つの短冊部分(長方形部分)の寸法は、それぞれ、幅0.5mm、長さ3.2mmとし、並んだ短冊部分間の間隔は2.5mmとした。また第1電極層2A、3Aと同時に、リード4も幅0.03mmで、互いに交わることがないように配置した。第1電極層2A、3Aの厚みは5μmであった。
【0064】
次に、第1樹脂層2C、3Cの材料として、アサヒ化学研究所製の絶縁材料、FR-1T-NSD9を用い、基材5の上に第1樹脂層2C、3Cを印刷法により形成した。第1樹脂層2C、3Cの厚みは10μmであった。
次に、第1樹脂層2C、3Cの上のみに、Everlube(r) Products のLube-lok4006をスプレー塗布して、潤滑層2E、3Eを形成した。潤滑層2E、3Eの厚みは5μmであった。
【0065】
次に、第2樹脂層2D、3Dの材料として、アサヒ化学研究所製の絶縁材料、FR-1T-NSD9を用い、印刷法で第2樹脂層2D、3Dを形成した。第2樹脂層2D、3Dの厚みは10μmであった。
なお、第1樹脂層2C、3C及び第2樹脂層2D、3Dが積層された構造体の一部に、次工程で形成する第2電極層2B、3Bに接続するリード10の断線防止のため、絶縁材料としてデュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル社のSILPOT184に硬化剤を混ぜたものを用いてスクリーン印刷により第4樹脂層7を形成した。第4樹脂層7の厚みは25μmであった。
【0066】
次に、第2樹脂層2D、3D及び第4樹脂層7の上に、第2電極層2B、3B及びリード10として銀ペーストを印刷法にて形成した。第2電極層2B、3B及びリード10の厚みは2μmであった。
最後に、第3樹脂層6の材料として、デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル社のSILPOT184に硬化剤を混ぜたものを用いて、第3樹脂層6を、第1電極層2A、3A及び第2電極層2B、3Bを含む全面に印刷法で塗布して形成した。厚みは40μmであった。
【0067】
以上によって、実施例2の応力センサ1を作製した。
作製した実施例2の応力センサ1に対し、センサ各電極に電圧を掛け、全体に指で厚み方向に圧力を掛けたところ、圧力検出用の電極において静電容量値の増加が確認された。また、実施例2の応力センサ1に対し、指で面方向にずり力を掛けたところ、ずり力の入力方向に第2樹脂層2D、3Dが滑り、ずり検出用の電極の静電容量値が増減した。
以上のように、実施例2の応力センサ1が、センサとして圧力とずりが検出できることを確認した。
【0068】
(比較例1)
第1樹脂層2C、3Cと第2樹脂層2D、3Dの間に潤滑層2E、3Eを設けないという条件以外は、実施例1と同じ形成条件で、比較例1の応力センサ1を作製した。
この作製した比較例1の応力センサ1に対し、センサ全体に指で厚み方向に圧力を掛けたところ、圧力検出用の電極において抵抗値の変化が確認された。
一方、比較例1の応力センサ1に対し、指で面方向にずり力を掛けたところ、ずり力の入力方向に第2樹脂層2D、3Dが滑らなかった。このため、対応するずり検出用の電極の抵抗値が変化せず、ずり方向の検出ができなかった。
【0069】
(比較例2)
第1樹脂層2C、3Cと第2樹脂層2D、3Dの間に潤滑層2E、3Eを設けないという条件以外は、実施例2と同じ形成条件で、比較例2の応力センサ1を作製した。
作製した比較例2の応力センサ1に対し、センサ各電極に電圧を掛け、全体に指で厚み方向に圧力を掛けたところ、圧力検出用の電極において静電容量値の増加が確認された。
一方、比較例2の応力センサ1に対し、指で面方向にずり力を掛けたところ、ずり力の入力方向に第2樹脂層2D、3Dが滑らなかった。このため、ずり検出用の電極の静電容量値が増減せず、ずりの検出ができなかった。
【0070】
以上のように、応力センサ1の厚さを薄くするために検知層を薄くしても、本発明に基づく実施例1、2では、比較例1、2に比べ、押圧力及びずり力(せん断力)を検出可能であることが分かった。