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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068048
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20220426BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20220426BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220426BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20220426BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20220426BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20220426BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60K6/445 ZHV
B60W10/08 900
B60K6/547
B60K6/543
B60W20/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176978
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519314766
【氏名又は名称】株式会社BluE Nexus
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 侑貴
(72)【発明者】
【氏名】松原 亨
(72)【発明者】
【氏名】日浅 康博
(72)【発明者】
【氏名】寿山 大介
(72)【発明者】
【氏名】吉本 勇介
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA03
3D202BB11
3D202CC02
3D202CC16
3D202CC52
3D202DD05
3D202DD24
3D202DD26
3D202EE10
3D202EE11
3D202FF05
3D202FF07
3D202FF12
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125DD19
5H125EE08
5H125EE09
5H125EE42
5H125EE51
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】モータ走行中において、下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制する。
【解決手段】駆動トルク制御部により、下り勾配判定が成立中である場合には、モータ走行中における駆動トルクの増加過渡時に、所定トルク領域内では駆動トルクが緩変化トルクに設定されると共に、走行中の路面勾配に基づいて所定トルク領域が駆動トルクの高低方向に変化させられることに加えて、回転機の回転速度の変化速度に応じた回転機の慣性トルクに基づいて回転機の出力トルクが補正されるので、下り勾配に応じて変化させられた所定トルク領域で実際の駆動トルクが緩変化トルクに制御され易くされる。よって、モータ走行中において、下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも回転機を含む駆動力源と、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の、制御装置であって、
駆動トルクの増加過渡時に、前記駆動トルクが負トルクから正トルクへ変化させられる所定トルク領域内では、前記駆動トルクを、前記所定トルク領域外に比べて前記駆動トルクの上昇勾配が小さな値とされた緩変化トルクに設定すると共に、走行中の路面勾配に基づいて前記所定トルク領域を前記駆動トルクの高低方向に変化させる駆動トルク制御部を含んでおり、
前記駆動トルク制御部は、前記回転機の回転速度又は前記動力伝達装置の出力回転部材の回転速度の、一定時間当たりの変化量が所定値以上であって、運転者によるアクセル操作が為されていないことを条件として成立させられる一方で、前記変化量の絶対値が前記所定値未満であることが所定時間継続したことを条件として解除させられる下り勾配判定が成立中である場合には、前記回転機の出力トルクを前記駆動トルクとして走行するモータ走行中における前記駆動トルクの増加過渡時に、前記回転機の回転速度の変化速度に応じた前記回転機の慣性トルクに基づいて前記回転機の出力トルクを補正することを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも回転機を含む駆動力源を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくとも回転機を含む駆動力源と、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御装置がそれである。この特許文献1には、駆動トルクを増加させて車両を被駆動状態から駆動状態へ切り替える際に、動力伝達装置における回転部材間のガタが詰められる方向が反転することによるガタ打ちの発生が予測される所定トルク領域内では、駆動トルクを、所定トルク領域外に比べて駆動トルクの上昇勾配が小さな値とされた緩変化トルクに設定すると共に、走行中の路面勾配に基づいて所定トルク領域を設定することによって、例えば下り勾配では平坦路に比べて所定トルク領域を高トルク側に設定することによって、被駆動状態から駆動状態への切替え時におけるガタ打ちによるショックである所謂チップインショックを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-59393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、走行中は、回転機の回転速度が変化することによって回転機の慣性トルクが生じる。その為、駆動トルクを増加させて車両を被駆動状態から駆動状態へ切り替える際に、緩変化トルクに制御したときの実際の駆動トルクが狙いからずれてしまいチップインショックを抑制することができないおそれがある。特に、走行路が下り勾配のときは、勾配抵抗の加速度によって発生する回転機の慣性トルクがある為、下り勾配が回転機の慣性トルクに与える影響によって、チップインショックを抑制することができないという現象が顕著である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、モータ走行中において、下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)少なくとも回転機を含む駆動力源と、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)駆動トルクの増加過渡時に、前記駆動トルクが負トルクから正トルクへ変化させられる所定トルク領域内では、前記駆動トルクを、前記所定トルク領域外に比べて前記駆動トルクの上昇勾配が小さな値とされた緩変化トルクに設定すると共に、走行中の路面勾配に基づいて前記所定トルク領域を前記駆動トルクの高低方向に変化させる駆動トルク制御部を含んでおり、(c)前記駆動トルク制御部は、前記回転機の回転速度又は前記動力伝達装置の出力回転部材の回転速度の、一定時間当たりの変化量が所定値以上であって、運転者によるアクセル操作が為されていないことを条件として成立させられる一方で、前記変化量の絶対値が前記所定値未満であることが所定時間継続したことを条件として解除させられる下り勾配判定が成立中である場合には、前記回転機の出力トルクを前記駆動トルクとして走行するモータ走行中における前記駆動トルクの増加過渡時に、前記回転機の回転速度の変化速度に応じた前記回転機の慣性トルクに基づいて前記回転機の出力トルクを補正することにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、下り勾配判定が成立中である場合には、モータ走行中における駆動トルクの増加過渡時に、所定トルク領域内では駆動トルクが緩変化トルクに設定されると共に、走行中の路面勾配に基づいて所定トルク領域が駆動トルクの高低方向に変化させられることに加えて、回転機の回転速度の変化速度に応じた回転機の慣性トルクに基づいて回転機の出力トルクが補正されるので、下り勾配に応じて変化させられた所定トルク領域で実際の駆動トルクが緩変化トルクに制御され易くされる。よって、モータ走行中において、下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制することができる。
【0008】
前記回転機の回転速度又は前記動力伝達装置の出力回転部材の回転速度の、一定時間当たりの変化量を算出するときの基になる値は、前記変化量を算出する回転速度になまし処理を一回又は複数回実施した値であるので、なまし処理を実施しないときに比べて、前記変化量の算出期間である一定時間を短くすることができ、又、下り勾配判定の閾値である所定値を小さくすることができる。これにより、より小さな下り勾配でも、下り勾配判定の誤判定が抑制され、回転機の出力トルクを補正する制御を行うことができ、下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制することができる
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2図1の機械式有段変速部の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
図3図1の電気式無段変速部と機械式有段変速部とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図4図1の機械式有段変速部の変速制御に用いられるATギヤ段変速マップと、走行モードの切替制御に用いられる走行モード切替マップと、の一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
図5】要求駆動トルクが増加させられたときに、緩変化処理を実施した場合の駆動トルクの指令値の一例を示す図である。
図6】下り勾配路のEV走行時に要求駆動トルクが増加させられた場合の一例を示す図である。
図7】EV中精密慣性補正実施フラグを設定する場合の一例を示す図である。
図8】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、EV走行中において下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
図9】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であって、図1の車両とは別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態において、前記動力伝達装置は変速機を備えている。前記変速機における変速比は、「入力側の回転部材の回転速度/出力側の回転部材の回転速度」である。この変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0012】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン12と第1回転機MG1と第2回転機MG2とを備えている。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0013】
エンジン12は、駆動力を発生することが可能な駆動力源であって、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0014】
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTg及び第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えばエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18内に設けられている。
【0015】
動力伝達装置16は、ケース18内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部20及び機械式有段変速部22等を備えている。電気式無段変速部20は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速部22は、電気式無段変速部20の出力側に連結されている。又、動力伝達装置16は、機械式有段変速部22の出力回転部材である出力軸24に連結された差動歯車装置26、差動歯車装置26に連結された一対の車軸28等を備えている。車軸28は、駆動輪14と連結されている。尚、以下、電気式無段変速部20を無段変速部20、機械式有段変速部22を有段変速部22という。又、無段変速部20や有段変速部22等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された無段変速部20の入力回転部材である連結軸30などの軸心である。
【0016】
無段変速部20は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1及び無段変速部20の出力回転部材である中間伝達部材32に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構34と、を備えている。中間伝達部材32には、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部20は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構34の差動状態が制御される電気式無段変速機である。無段変速部20は、変速比(ギヤ比ともいう)γ0(=エンジン回転速度Ne/MG2回転速度Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。エンジン回転速度Neは、エンジン12の回転速度であり、無段変速部20の入力回転速度すなわち連結軸30の回転速度と同値である。MG2回転速度Nmは、第2回転機MG2の回転速度であり、無段変速部20の出力回転速度すなわち中間伝達部材32の回転速度と同値である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機であって、差動用回転機に相当する。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
【0017】
差動機構34は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸30を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構34において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
【0018】
有段変速部22は、中間伝達部材32と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する、つまり無段変速部20と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する、有段変速機としての機械式変速機構である。中間伝達部材32は、有段変速部22の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材32には第2回転機MG2が一体回転するように連結されている。第2回転機MG2は、駆動力を発生することが可能な駆動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。又、無段変速部20の入力側にはエンジン12が連結されている。よって、有段変速部22は、駆動力源(エンジン12、第2回転機MG2)と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。有段変速部22は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置と、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0019】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路56内の各ソレノイドバルブSL1-SL4等から出力される調圧された係合装置CBの各係合圧によりそれぞれのトルク容量が変化させられることで、各々、係合や解放などの制御状態すなわち作動状態が切り替えられる。
【0020】
有段変速部22は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材32、ケース18、或いは出力軸24に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置38の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
【0021】
有段変速部22は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部22は、複数の係合装置の何れかが係合されることで、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。本実施例では、有段変速部22にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部22の入力回転速度すなわち中間伝達部材32の回転速度であり、MG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部22の出力回転速度すなわち出力軸24の回転速度である。出力回転速度Noは、無段変速部20と有段変速部22とを合わせた全体の変速機である複合変速機40の出力回転速度でもある。尚、エンジン回転速度Neは、複合変速機40の入力回転速度でもある。
【0022】
有段変速部22は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。又、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図2において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部22のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
【0023】
有段変速部22は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部22の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
【0024】
車両10は、更に、機械式のオイルポンプであるMOP58、不図示の電動式のオイルポンプ等を備えている。MOP58は、連結軸30に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。又、不図示の電動式のオイルポンプは、例えばエンジン12の停止時すなわちMOP58の非駆動時に駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58や不図示の電動式のオイルポンプが吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。係合装置CBは、作動油OILを元にして油圧制御回路56により調圧された各係合圧によって作動状態が切り替えられる。
【0025】
図3は、無段変速部20と有段変速部22とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部20を構成する差動機構34の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部22の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部22の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸24の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構34の歯車比ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1遊星歯車装置36の歯車比ρ1と第2遊星歯車装置38の歯車比ρ2とに応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に対応する間隔とされる。
【0026】
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部20の差動機構34において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材32と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材32を介して有段変速部22へ伝達するように構成されている。無段変速部20では、縦線Y2を横切る各直線L0e、L0m、L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0027】
又、有段変速部22において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材32に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸24に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材32に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース18に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース18に選択的に連結される。有段変速部22では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、出力軸24における「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」の各回転速度が示される。
【0028】
図3中の実線で示す、直線L0e及び直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するハイブリッド走行(=HV走行)が可能なHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。HV走行は、エンジン12からの駆動力を少なくとも用いて走行するエンジン走行である。このHV走行モードでは、差動機構34において、キャリアCA0に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動トルクTrdemに応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
【0029】
図3中の一点鎖線で示す直線L0m及び図3中の実線で示す直線L1、L2、L3、L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第2回転機MG2を駆動力源として走行するモータ走行(=EV走行)が可能なEV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。EV走行は、第2回転機MG2からの駆動力のみを用いて走行するモータ走行、つまりMG2トルクTmを駆動トルクTrとして走行するモータ走行である。駆動トルクTrは駆動輪14における車両10の出力トルクである。EV走行モードでの前進走行におけるEV走行では、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、EV走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG2トルクTmが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。ここでのMG2トルクTmは、正回転且つ正トルクの力行トルクである。
【0030】
図3中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、EV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このEV走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置90によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。ここでのMG2トルクTmは、負回転且つ負トルクの力行トルクである。尚、HV走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、EV走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
【0031】
車両10は、走行用の駆動力源として、エンジン12及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置16において、エンジン12や第2回転機MG2から出力される動力は、有段変速部22へ伝達され、その有段変速部22から差動歯車装置26等を介して駆動輪14へ伝達される。このように、動力伝達装置16は、駆動力源(エンジン12、第2回転機MG2)の出力トルクを駆動輪14へ伝達する。尚、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0032】
図1に戻り、車両10は、エンジン12、無段変速部20、及び有段変速部22などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。図1は、電子制御装置90の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置90による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を行う。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0033】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、出力回転速度センサ62、MG1回転速度センサ64、MG2回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、ブレーキペダルセンサ72、Gセンサ74、バッテリセンサ76、油温センサ78、シフトポジションセンサ80など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度Niと同値であるMG2回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、運転者によるブレーキペダルの踏込操作の大きさを表すブレーキ操作量Bra、車両10の前後加速度Gxや左右加速度Gyや上下加速度Gz、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油OILの温度である作動油温THoil、車両10に備えられたシフトレバーの操作ポジションPOSshなど)が、それぞれ供給される。
【0034】
運転者のアクセル操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量である加速操作量であって、車両10に対する運転者の出力要求量である。運転者の出力要求量としては、アクセル開度θaccの他に、スロットル弁開度θthなどを用いることもできる。
【0035】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ホイールブレーキ装置82など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、ホイールブレーキによる制動トルクTbを制御する為のブレーキ制御指令信号Sbra、など)が、それぞれ出力される。
【0036】
ホイールブレーキ装置82は、車輪にホイールブレーキによる制動トルクTbを付与するブレーキ装置である。制動トルクTbは、駆動トルクTrのうちの制動側となる負トルクである。ホイールブレーキ装置82は、運転者による例えばブレーキペダルの踏込操作などに応じて、ホイールブレーキに設けられたホイールシリンダへブレーキ油圧を供給する。ホイールブレーキ装置82では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキ操作量Braに対応した大きさのマスタシリンダ油圧がブレーキ油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置82では、例えばABS制御時、横滑り抑制制御時、自動車速制御時、自動運転制御時などには、ホイールブレーキによる制動トルクTbの発生の為に、各制御で必要なブレーキ油圧がホイールシリンダへ供給される。上記車輪は、駆動輪14及び不図示の従動輪である。
【0037】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部92、及びハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部94を備えている。
【0038】
AT変速制御部92は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば図4に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速部22の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部22の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。
【0039】
図4において、ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部22の変速が判断される為の予め定められた複数種類の変速線SHを有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。複数種類の変速線SHは、例えば実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線SHua、SHub、SHuc、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線SHda、SHdb、SHdcを含んでいる。
【0040】
ハイブリッド制御部94は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0041】
ハイブリッド制御部94は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで駆動要求量としての駆動輪14における要求駆動トルクTrdemを算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動トルクTrdem[Nm]の他に、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、駆動輪14における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸24における要求AT出力トルク等を用いることもできる。ハイブリッド制御部94は、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動トルクTrdemと車速Vとに基づく要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
【0042】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力であり、バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力である。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電量に相当する充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置90により算出される。
【0043】
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部20を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、最適エンジン動作点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン12を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部20の無段変速制御を実行して無段変速部20の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γt(=Ne/No)が制御される。最適エンジン動作点は、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ54における充放電効率等を考慮した車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点として予め定められている。このエンジン動作点は、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。このように、動力伝達装置16では、ATギヤ段が形成された有段変速部22と無段変速機として作動させられる無段変速部20とで、無段変速部20と有段変速部22とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
【0044】
又は、無段変速部20を有段変速機のように変速させることも可能であるので、動力伝達装置16では、ATギヤ段が形成される有段変速部22と有段変速機のように変速させる無段変速部20とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40では、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表す変速比γtが異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速部22と無段変速部20とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部20と有段変速部22とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部20の変速比γ0と有段変速部22の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
【0045】
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部22の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部20の変速比γ0との組合せによって、有段変速部22の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段-模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段-模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段-模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。複合変速機40では、出力回転速度Noに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度Neとなるように無段変速部20が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部20が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
【0046】
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部20を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部92による有段変速部22のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部20の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力回転速度Noの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。このように、ハイブリッド制御部94は、エンジン回転速度Neを有段変速のように変化させる変速制御が可能である。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTrdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
【0047】
ハイブリッド制御部94は、走行モードとして、EV走行モード又はHV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部94は、予め定められた関係である例えば図4に示すような走行モード切替マップを用いて、要求駆動パワーPrdemが比較的小さなEV走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが比較的大きなHV走行領域にある場合には、HV走行モードを成立させる。
【0048】
図4において、走行モード切替マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、HV走行モードとEV走行モードとを切り替える為のHV走行領域とEV走行領域との境界線を有する所定の関係である。上記境界線は、例えば一点鎖線に示すような、EV走行とHV走行との切替えが判断される為の予め定められた走行領域切替線CFである。走行モードの切替えでは走行に用いられる駆動力源が切り替えられることから、走行領域切替線CFは駆動力源切替線でもある。尚、図4では、便宜上、この走行モード切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
【0049】
ハイブリッド制御部94は、要求駆動パワーPrdemがEV走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0050】
ハイブリッド制御部94は、エンジン12の運転停止時にHV走行モードを成立させた場合には、エンジン12を始動するエンジン始動制御を行う。ハイブリッド制御部94は、エンジン12を始動するときには、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを上昇させつつ、エンジン回転速度Neが点火可能な所定点火可能回転速度以上となったときに点火することでエンジン12を始動する。すなわち、ハイブリッド制御部94は、第1回転機MG1によりエンジン12をクランキングすることでエンジン12を始動する。
【0051】
ハイブリッド制御部94は、例えば運転者によるアクセル操作(例えばアクセル開度θacc、アクセル開度θaccの減少速度)、車速V、降坂路の勾配、ホイールブレーキを作動させる為の運転者によるブレーキ操作(例えばブレーキ操作量Bra、ブレーキ操作量Braの増大速度)などに基づいて要求減速度Grdemを算出し、予め定められた関係を用いて要求減速度Grdemを実現する為の要求制動トルクTbdemを設定する。ハイブリッド制御部94は、車両10の減速走行中には、要求制動トルクTbdemが得られるように車両10の制動トルクTbを発生させる。減速度Grが大きい側は、制動トルクTbが小さい側、すなわち制動トルクTbの絶対値が大きい側である。
【0052】
車両10の制動トルクTbは、例えば回生制動トルクTbr、ホイールブレーキトルクTbwなどによって発生させられる。回生制動トルクTbrは、例えば第2回転機MG2の回生制御による制動すなわち第2回転機MG2による回生制動によって得られる制動トルクTbである。第2回転機MG2による回生制御は、駆動輪14から入力される被駆動トルクにより第2回転機MG2を回転駆動させて発電機として作動させ、その発電電力をインバータ52を介してバッテリ54へ充電する制御である。ホイールブレーキトルクTbwは、ホイールブレーキ装置82によるホイールブレーキによって得られる制動トルクTbである。
【0053】
車両10の制動トルクTbは、例えばエネルギー効率の向上の観点では、回生制動トルクTbrにて優先して発生させられる。ハイブリッド制御部94は、回生制動トルクTbrに必要な回生トルクが得られるように第2回転機MG2による回生制御を実行する回転機制御指令信号Smgをインバータ52へ出力する。ハイブリッド制御部94は、例えば車両10が停止する直前には、回生制動トルクTbrの分をホイールブレーキトルクTbwに置き換えて要求制動トルクTbdemを実現する。ハイブリッド制御部94は、必要となるホイールブレーキトルクTbwを得る為のブレーキ制御指令信号Sbraをホイールブレーキ装置82へ出力する。
【0054】
ここで、要求駆動トルクTrdemが増加させられると、駆動トルクTrの指令値は所定の上昇勾配にて増加させられる。この際、駆動トルクTrが、車両10が被駆動状態となる負トルクから車両10が駆動状態となる正トルクへ切り替えられる場合がある。この場合、動力伝達装置16を構成する部品間のガタが詰められる方向が反転する為、急激なガタ詰めが発生すると、ガタ打ちによるチップインショックが発生するおそれがある。車両10の駆動状態は、駆動力源から出力されるトルクによって駆動輪14が回転させられる状態である。車両10の被駆動状態は、駆動輪14から入力されるトルクによって動力伝達装置16の回転部材やエンジン12等が回転させられる状態である。
【0055】
電子制御装置90は、ガタが詰められる方向が反転させられるときの急激なガタ詰めを抑制してチップインショックを抑制するという制御機能を実現する為に、更に、駆動トルク制御手段すなわち駆動トルク制御部96を備えている。
【0056】
駆動トルク制御部96は、要求駆動トルクTrdemが負トルクから正トルクへ増加させられた場合には、駆動トルクTrの指令値を緩変化領域SPsl内において緩変化トルクTrslに設定する処理である緩変化処理を実施する指令をハイブリッド制御部94へ出力する。要求駆動トルクTrdemが負トルクから正トルクへ増加させられた場合とは、例えば要求駆動トルクTrdemの変化に基づいて、車両10が被駆動状態から駆動状態へ切り替えられることに伴うガタ打ちの発生が予測される場合である。緩変化領域SPslは、例えば実際の駆動トルクTrが負トルクから正トルクへ変化させられる予め定められた所定トルク領域である。つまり、緩変化領域SPslは、実際の駆動トルクTrがゼロとなるガタ打ちポイントと、そのガタ打ちポイント近傍の駆動トルクTrの領域と、を合わせた所定トルク領域である。緩変化トルクTrslは、緩変化領域SPsl内における駆動トルクTrの上昇勾配が緩変化領域SPsl外に比べて小さな値に予め定められた駆動トルクTrの指令値である。又、緩変化トルクTrslは、ガタが詰められる方向が反転させられるときの急激なガタ詰めが抑制される為の予め定められた駆動トルクTrの上昇勾配である。緩変化領域SPsl外における駆動トルクTrの上昇勾配は、例えば要求駆動トルクTrdemに向けて立ち上がるときや要求駆動トルクTrdemに近づくときの予め定められた上限値によって設定される。このように、駆動トルク制御部96は、駆動トルクTrの増加過渡時に、緩変化領域SPsl内では、駆動トルクTrを緩変化トルクTrslに設定する。
【0057】
走行路が坂路である場合、勾配抵抗の加速度により発生する慣性トルクによって緩変化領域SPslが平坦路に対して変化させられる。そこで、駆動トルク制御部96は、坂路における緩変化領域SPslを、予め定められた平坦路における緩変化領域SPslに対して、走行路の勾配である路面勾配θroad[deg]に基づいて算出したオフセット量Tros[Nm]分だけ駆動トルクTrの高低方向に変化させる。駆動トルク制御部96は、予め定められた駆動トルクゼロポイントオフセットマップに路面勾配θroadを適用することで、オフセット量Trosを算出する。オフセット量Trosは、平坦路における緩変化領域SPslと坂路における緩変化領域SPslとの、駆動トルクTrの高低方向におけるズレ量である。路面勾配θroadは、例えばGセンサ74による車両10の前後加速度Gxや上下加速度Gzなどに基づく路面勾配θroadの推定値である勾配推定値θroadeが用いられる。このように、駆動トルク制御部96は、走行中の路面勾配θroadに基づいて緩変化領域SPslを駆動トルクTrの高低方向に変化させる。
【0058】
図5は、要求駆動トルクTrdemが増加させられたときに、緩変化処理を実施した場合の駆動トルクTrの指令値の一例を示す図である。図5において、t1a時点は、例えば減速中に運転者によってアクセルオン操作が為されたことで要求駆動トルクTrdemが負トルクから正トルクへ増加させられた時点を示している。駆動トルクTrの指令値は、増加後の要求駆動トルクTrdemに向けて所定の上昇勾配で上昇させられる。この際、緩変化処理が実施され、駆動トルクTrの指令値は、緩変化領域SPslでは緩変化トルクTrslとされる。破線に示す駆動トルクTrの指令値は、平坦路で緩変化処理が実施された場合の一例である。見方を換えれば、破線に示す駆動トルクTrの指令値は、下り勾配において路面勾配θroadに基づく緩変化領域SPslが設定されなかった場合の一例である。実線に示す駆動トルクTrの指令値は、下り勾配路で緩変化処理が実施された場合の一例である。下り勾配路の緩変化領域SPslは、平坦路での緩変化領域SPslよりも高駆動トルク側に設定されている。下り勾配路では、例えば下り勾配が大きい程、緩変化領域SPslが高駆動トルク側に設定される。尚、図示はしていないが、上り勾配路の緩変化領域SPslは、平坦路での緩変化領域SPslよりも低駆動トルク側に設定される。上り勾配路では、例えば上り勾配が大きい程、緩変化領域SPslが低駆動トルク側に設定される。
【0059】
走行中は、エンジン回転速度Ne、MG1回転速度Ng、MG2回転速度Nmが変化することによって慣性トルクが生じる。その為、緩変化処理後の実際の駆動トルクTrが狙いの緩変化領域SPslから外れてしまいチップインショックを適切に抑制することができないおそれがある。駆動トルク制御部96は、駆動トルクTrの一部となるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)の算出に当たり、エンジントルクTeを慣性トルク分補正する精密慣性補正を実施し、精密慣性補正後のエンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとで駆動トルクTrの指令値を実現するようにエンジントルクTeとMG1トルクTgとMG2トルクTmとを制御する指令をハイブリッド制御部94へ出力する。
【0060】
具体的には、駆動トルク制御部96は、予め定められた次式(1)を用いて、エンジントルクTeの精密慣性補正を実施する。次式(1)は、例えば無段変速部20におけるg軸、e軸、及びm軸(図3参照)の各軸毎において成立する、慣性(=イナーシャ)、回転加速度、及び軸上のトルクに基づいて、導き出された運動方程式である。次式(1)において、「Te」はエンジントルク、「Tg」はMG1トルク、「ρ0」は差動機構34の歯車比、「Ie」はエンジン12のイナーシャ、「Ig」は第1回転機MG1のイナーシャ、「Ica」はキャリアCA0が連結されたe軸のイナーシャ、「dNe/dt」はエンジン回転加速度、「dNg/dt」はMG1回転加速度、「dNm/dt」はMG2回転加速度を各々示している。各回転加速度dN/dtは、回転速度Nの変化速度すなわち回転変化率であって、回転速度Nの時間変化率すなわち時間微分であり、回転部材の角加速度に対応するものである。次式(1)中においては回転加速度dN/dtを回転速度Nのドットで表している。
【0061】
【数1】
【0062】
ところで、EV走行中は、エンジントルクTeがゼロとされており、エンジン直達トルクTdはゼロとされる。しかしながら、EV走行中もMG1回転速度NgやMG2回転速度Nmが変化する為、前記式(1)における右辺の下段に示した慣性トルクが発生する。その為、EV走行中にも、精密慣性補正を実施する。特に下り勾配では、勾配抵抗の加速度により発生する慣性トルクの影響によって緩変化処理後の実際の駆動トルクTrが狙いの緩変化領域SPslから外れてしまいチップインショックが発生し易い。
【0063】
そこで、駆動トルク制御部96は、下り勾配においてEV走行中は、前記式(1)を用いて、エンジントルクTeの精密慣性補正を実施し、精密慣性補正後のエンジントルクTeを反映させたエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)を算出し、エンジン直達トルクTdがゼロから変更された分を補償するように、駆動トルクTrの指令値を実現するMG2トルクTmを補正する指令をハイブリッド制御部94へ出力する。本実施例では、EV走行中の精密慣性補正をEV中精密慣性補正と称する。EV中精密慣性補正は、少なくともMG2回転加速度dNm/dtに応じた第2回転機MG2の慣性トルクに基づいてMG2トルクTmを補正する制御である。
【0064】
図6は、下り勾配路のEV走行時に要求駆動トルクTrdemが増加させられた場合の一例を示す図である。図6において、駆動トルクTrの指令値は、下り勾配に応じた緩変化処理が既に反映された状態である。尚、図6では、便宜上、緩変化領域SPslをゼロ及びゼロ近傍とした。t1b時点は、例えばEV走行での減速中に運転者によってアクセルオン操作が為され、その後、要求駆動トルクTrdemが負トルクから正トルクへ増加させられた時点を示している。破線で示す比較例では、EV走行中である為にエンジン直達トルクTdがゼロとされており、EV中精密慣性補正が実施されていない。その為、比較例では、駆動トルクTrの実際値が慣性トルク分目減りして、狙いの緩変化処理後の駆動トルクTrからずれてしまい、チップインショックが発生している。実線で示す本実施例では、EV走行中ではあるが、エンジントルクTeの精密慣性補正が実施され、精密慣性補正後のエンジントルクTeの推定値がエンジン直達トルクTdに反映されている。そして、本実施例では、エンジン直達トルクTdがゼロから変更された分を補償するようにMG2トルクTmを補正するEV中精密慣性補正が実施されている。本実施例では、EV中精密慣性補正によってMG2トルクTmが増大させられたことによって、二点鎖線で示す駆動トルクTrの実際値が狙いの緩変化処理後の駆動トルクTrと略一致させられ、チップインショックが抑制される。
【0065】
電子制御装置90は、EV走行中において、下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制するという制御機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部98を備えている。
【0066】
下り勾配の判定は、Gセンサ74を用いて実施しても良いが、Gセンサ74の誤差以下の勾配では判定が困難である。そこで、チップインショックが発生する現象が下り勾配での加速度に起因することから、状態判定部98は、MG2回転速度Nmの変化量であるMG2回転速度変化量ΔNm[rpm/sec]が所定値ΔNmf以上であることで下り勾配の判定である下り勾配判定を成立させる。MG2回転速度変化量ΔNmは、例えば後述する図8のフローチャートに示す制御作動の一サイクル又は複数サイクル毎の一定時間当たりの変化量であり、実質的にはMG2回転加速度dNm/dtと同意である。所定値ΔNmfは、例えば下り勾配と判定できる程のMG2回転速度変化量ΔNmであると判断する為の予め定められた閾値である。
【0067】
MG2回転速度変化量ΔNmが所定値ΔNmf以上であることで下り勾配判定を成立させる場合、運転者のアクセル操作によってMG2回転速度変化量ΔNmが大きくなった状況を下り勾配であると判定してしまう。下り勾配判定は、運転者によるアクセルオン操作の前に成立させることで、アクセルオン操作に伴って要求駆動トルクTrdemが増加させられたときにEV中精密慣性補正を実施する為のEV中精密慣性補正実施判定である。その為、下り勾配判定の成立条件として、運転者によるアクセル操作が為されていないことを取り入れる。状態判定部98は、MG2回転速度変化量ΔNmが所定値ΔNmf以上であって、アクセル開度θaccが所定開度θaccf以下である場合には、下り勾配判定すなわちEV中精密慣性補正実施判定を成立させる。EV中精密慣性補正実施判定を成立させることは、例えばEV中精密慣性補正実施フラグFGcievのオン判定(=ON判定)を成立させることである。所定開度θaccfは、運転者によるアクセル操作が為されていないと判断することができる、すなわちアクセル開度θaccがゼロと判断することができる予め定められたアクセル開度θaccの上限値である。
【0068】
MG2回転速度変化量ΔNmが所定値ΔNmf未満であることでEV中精密慣性補正実施判定を解除させる場合、EV中精密慣性補正の実施中に、運転者によるブレーキ操作によってMG2回転速度変化量ΔNmが負側に変化したときにEV中精密慣性補正実施判定が解除されてしまうと、EV中精密慣性補正が中断されて駆動トルクTrの変化が大きくなるおそれがある。その為、EV中精密慣性補正実施判定を解除させる場合には、MG2回転速度変化量ΔNmの絶対値(=|ΔNm|)が所定値ΔNmf未満であることを条件とする。但し、MG2回転速度変化量ΔNmの絶対値が所定値ΔNmf未満であることでEV中精密慣性補正実施判定を解除させたとしても、EV中精密慣性補正実施判定の成立と解除とが繰り返されるハンチングが生じるおそれがある。その為、EV中精密慣性補正実施判定の解除を、MG2回転速度変化量ΔNmの絶対値が所定値ΔNmf未満であることが所定時間TMf継続したことを条件とする。所定時間TMfは、例えばEV中精密慣性補正実施判定のハンチングが適切に防止できる為の予め定められた閾値である。又、EV中精密慣性補正実施判定の成立中に要求駆動トルクTrdemが増加させられたときにEV中精密慣性補正が実施されるので、EV中精密慣性補正実施判定の解除条件には、運転者によるアクセル操作が為されたことは取り入れない。状態判定部98は、EV中精密慣性補正実施判定の成立中に、MG2回転速度変化量ΔNmの絶対値が所定値ΔNmf未満であることが所定時間TMf継続した場合には、EV中精密慣性補正実施判定を解除する。EV中精密慣性補正実施判定を解除することは、例えばEV中精密慣性補正実施フラグFGcievのオフ判定(=OFF判定)を成立させることである。
【0069】
このように、下り勾配判定すなわちEV中精密慣性補正実施判定は、MG2回転速度変化量ΔNmが所定値ΔNmf以上であって、運転者によるアクセル操作が為されていないことを条件として成立させられる一方で、MG2回転速度変化量ΔNmの絶対値が所定値ΔNmf未満であることが所定時間TMf継続したことを条件として解除させられる、EV中精密慣性補正実施判定である。これにより、EV中精密慣性補正実施判定は、例えば図6のタイムチャートにおけるt1b時点よりも前に成立させられ、アクセル操作が為されたt1b時点以降も適切に継続させられる。
【0070】
中間伝達部材32は、有段変速部22を介して車軸28等と機械的に連結されている為、MG2回転速度Nmは、車軸28等の捩れ振動の影響を受ける可能性がある。その為、MG2回転速度変化量ΔNmに基づいて、より低勾配で下り勾配判定を成立させるには、MG2回転速度変化量ΔNmの算出期間である一定時間を長く取る必要がある。そうすると、例えば電子制御装置90のROMの容量を大きくする必要がある。そこで、本実施例では、MG2回転速度変化量ΔNmを算出するときの基になる値は、MG2回転速度Nmになましをかけるなまし処理を一回又は複数回実施した値を採用する。このなまし処理は、例えばMG2回転速度Nmに対してMG2回転速度Nmの変動を遅らせるフィルタ処理であり、MG2回転速度Nmの変化を遅延する、ローパスフィルタによるフィルタ処理である。なまし処理におけるなまし時定数を大きくするとカットオフ周波数が下がり検出したい下り勾配の低周波数成分も減衰されてしまい、下り勾配の検出精度が低下してしまう可能性がある。そこで、本実施例では、カットオフ周波数を下げずに不要な周波数帯を除去できるようになまし処理を2回実施する。
【0071】
状態判定部98は、MG2回転速度Nmになまし処理を実施し、なまし処理を実施したMG2回転速度Nmである、なまし後MG2回転速度Nmlpfを算出する。状態判定部98は、なまし後MG2回転速度Nmlpfの一定時間当たりの変化量である、なまし後MG2回転速度変化量ΔNmlpfと、なまし後MG2回転速度変化量ΔNmlpfの絶対値(=|ΔNmlpf|)と、を算出する。
【0072】
状態判定部98は、なまし後MG2回転速度変化量ΔNmlpfの低下が継続している状態のときに加算される計数値(=カウンタ)であるMG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTの初期化判定が成立しているか否かを判定する。MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTの初期化判定は、例えばEV中精密慣性補正実施フラグFGcievの前回値がオフ(=OFF)であるときに成立させられるか、又は、なまし後MG2回転速度変化量ΔNmlpfの絶対値が所定値ΔNmf以上であるときに成立させられる。
【0073】
状態判定部98は、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTの初期化判定が成立していると判定した場合には、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTを初期化してゼロとする。一方で、状態判定部98は、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTの初期化判定が成立していないと判定した場合には、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTを、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTの前回値に「1」を加算した値とする。
【0074】
状態判定部98は、間欠作動中のエンジン12が停止中であるか否か、つまり走行モードがEV走行モードであるか否かを判定する。状態判定部98は、エンジン12が停止中でないと判定した場合には、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievをOFFとする。
【0075】
状態判定部98は、エンジン12が停止中であると判定した場合には、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのOFF判定が成立しているか否かを判定する。状態判定部98は、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのOFF判定が成立していると判定した場合には、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievをOFFとする。EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのOFF判定は、例えばMG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTが所定カウンタCNTf以上であるときに成立させられる。所定カウンタCNTfは、例えばMG2回転速度変化量ΔNmの絶対値が所定値ΔNmf未満であることが所定時間TMf継続したことを判断する為の予め定められた計数値である。
【0076】
状態判定部98は、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのOFF判定が成立していないと判定した場合には、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定が成立しているか否かを判定する。状態判定部98は、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定が成立していると判定した場合には、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievをオン(=ON)とする。状態判定部98は、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定が成立していないと判定した場合には、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievをEV中精密慣性補正実施フラグFGcievの前回値とする。EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定は、例えばなまし後MG2回転速度変化量ΔNmlpfが所定値ΔNmf以上であって、アクセル開度θaccが所定開度θaccf以下であるときに成立させられる。
【0077】
状態判定部98は、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievがONであるか否かを判定する。
【0078】
駆動トルク制御部96は、状態判定部98によってEV中精密慣性補正実施フラグFGcievがONであると判定された場合には、つまりEV中精密慣性補正実施判定が成立中である場合には、EV走行中における駆動トルクTrの増加過渡時に、EV中精密慣性補正を実施する。電子制御装置90は、状態判定部98によってEV中精密慣性補正実施フラグFGcievがONでないと判定された場合には、EV中精密慣性補正以外のその他制御を実施する。例えば、駆動トルク制御部96は、状態判定部98によってEV中精密慣性補正実施フラグFGcievがONでないと判定された場合には、HV走行中における精密慣性補正の実施判定に従った制御を実施する。
【0079】
図7は、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievを設定する場合の一例を示す図である。図7において、破線に示す比較例では、なまし処理が実施されていないMG2回転速度Nmが用いられている為、所定値ΔNmfが本実施例よりも大きくされている。又、比較例では、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTが用いられていない為、EV中精密慣性補正実施判定のハンチングが生じている。実線に示す本実施例では、なまし後MG2回転速度Nmlpfが用いられているので、EV中精密慣性補正実施判定の誤判定へのロバスト性が向上させられる。これにより、所定値ΔNmfを比較例よりも小さくすることができ、下り勾配においてより低勾配で精度良くEV中精密慣性補正実施判定を成立させることができる。又、本実施例では、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTが所定カウンタCNTf以上であるときにEV中精密慣性補正実施判定が解除されるので、EV中精密慣性補正実施判定のハンチングが防止され、慣性トルクが安定して小さくなるまでEV中精密慣性補正を実施することができる。
【0080】
図8は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、EV走行中において下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
【0081】
図8において、先ず、状態判定部98の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、なまし後MG2回転速度Nmlpfが算出される。次いで、状態判定部98の機能に対応するS20において、なまし後MG2回転速度変化量ΔNmlpfと、なまし後MG2回転速度変化量ΔNmlpfの絶対値と、が算出される。次いで、状態判定部98の機能に対応するS30において、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTの初期化判定が成立しているか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合は状態判定部98の機能に対応するS40において、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTがゼロとされる。上記S30の判断が否定される場合は状態判定部98の機能に対応するS50において、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTがMG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTの前回値に「1」を加算した値とされる。上記S40に次いで、又は、上記S50に次いで、状態判定部98の機能に対応するS60において、エンジン12が停止中であるか否かが判定される。このS60の判断が肯定される場合は状態判定部98の機能に対応するS70において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのOFF判定が成立しているか否かが判定される。このS70の判断が否定される場合は状態判定部98の機能に対応するS80において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定が成立しているか否かが判定される。上記S70の判断が肯定される場合は状態判定部98の機能に対応するS90において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievがOFFとされる。上記S80の判断が肯定される場合は状態判定部98の機能に対応するS100において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievがONとされる。上記S80の判断が否定される場合は状態判定部98の機能に対応するS110において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievがEV中精密慣性補正実施フラグFGcievの前回値とされる。上記S60の判断が否定される場合は状態判定部98の機能に対応するS120において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievがOFFとされる。上記S90に次いで、又は、上記S100に次いで、又は、上記S110に次いで、又は、上記S120に次いで、状態判定部98の機能に対応するS130において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievがONであるか否かが判定される。上記S130の判断が肯定される場合は駆動トルク制御部96の機能に対応するS140において、EV走行中における駆動トルクTrの増加過渡時にEV中精密慣性補正が実施される。上記S130の判断が否定される場合は駆動トルク制御部96等の機能に対応するS150において、EV中精密慣性補正以外のその他制御、例えばHV走行中における精密慣性補正の実施判定に従った制御が実施される。
【0082】
上述のように、本実施例によれば、下り勾配判定つまりEV中精密慣性補正実施判定が成立中である場合には、EV走行中における駆動トルクTrの増加過渡時に、緩変化領域SPsl内では駆動トルクTrが緩変化トルクTrslに設定されると共に、走行中の路面勾配θroadに基づいて緩変化領域SPslが駆動トルクTrの高低方向に変化させられることに加えて、EV中精密慣性補正によってMG2トルクTmが補正されるので、下り勾配に応じて変化させられた緩変化領域SPslで実際の駆動トルクTrが緩変化トルクTrslに制御され易くされる。よって、EV走行中において、下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制することができる。
【0083】
また、本実施例によれば、MG2回転速度変化量ΔNmを算出するときの基になる値は、MG2回転速度Nmになまし処理を一回又は複数回実施した値であるので、なまし処理を実施しないときに比べて、MG2回転速度変化量ΔNmの算出期間である一定時間を短くすることができ、又、下り勾配判定の閾値である所定値ΔNmfを小さくすることができる。これにより、より小さな下り勾配でも、下り勾配判定の誤判定が抑制され、EV中精密慣性補正を行うことができ、下り勾配におけるチップインショックを適切に抑制することができる
【0084】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例0085】
図9は、本発明が適用される車両100の概略構成を説明する図である。車両100は、前述の実施例1の車両10とは別の実施例である。
【0086】
図9において、車両100は、駆動力源(エンジン12、第2回転機MG2)の出力トルクを駆動輪14へ伝達する動力伝達装置102を備えている。動力伝達装置102は、電気式無段変速部104と機械式有段変速部106とを備えている。電気式無段変速部104は、車両10の無段変速部20と比べて、更に、ブレーキB0とクラッチC0とを備えている。ブレーキB0はサンギヤS0とケース18との間に設けられ、クラッチC0はサンギヤS0とキャリアCA0との間に設けられている。
【0087】
電気式無段変速部104は、クラッチC0及びブレーキB0が共に解放されると、無段変速部20と同様に、電気式無段変速機とされる。一方で、電気式無段変速部104は、クラッチC0又はブレーキB0が係合されると、差動作用が不能な非差動状態とされる。クラッチC0が係合される非差動状態では、電気式無段変速部104は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する有段変速状態とされる。ブレーキB0が係合される非差動状態では、電気式無段変速部104は変速比γ0が「1」より小さい値に固定された増速変速機として機能する有段変速状態とされる。
【0088】
機械式有段変速部106は、車両10の有段変速部22と同様に、複数組の遊星歯車装置と複数の係合装置とを備えた、公知の遊星歯車式の自動変速機である。
【0089】
電気式無段変速部104と機械式有段変速部106とを合わせた全体の変速機である複合変速機108では、クラッチC0及びブレーキB0の何れも係合させないことで、複合変速機40と同様の作動をさせることができる。複合変速機108では、クラッチC0及びブレーキB0の何れかを係合させることで、複合変速機108全体の変速比γtが異なる複数のギヤ段が形成される有段変速機として作動をさせることができる。
【0090】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0091】
例えば、前述の実施例では、MG2回転速度変化量ΔNmを用いて、下り勾配判定すなわちEV中精密慣性補正実施判定の成立と解除とを実施したが、この態様に限らない。例えば、MG2回転速度変化量ΔNmに替えて、MG2回転速度Nmと一対一に連動して変化する動力伝達装置16の出力回転部材の回転速度の、一定時間当たりの変化量を用いても良い。動力伝達装置16の出力回転部材は、例えば出力軸24、車軸28などである。
【0092】
また、前述の実施例では、走行中の路面勾配θroadに基づいて緩変化領域SPslを駆動トルクTrの高低方向に変化させるときには、駆動トルクゼロポイントオフセットマップに路面勾配θroadを適用することでオフセット量Trosを算出したが、この態様に限らない。例えば、坂路における緩変化領域SPslが平坦路に対して変化させられる要因となる、勾配抵抗の加速度により発生する慣性トルクを考慮した運動方程式を用いて駆動トルクTrの指令値を算出しても良い。
【0093】
また、前述の実施例において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定の条件として、なまし後MG2回転速度変化量ΔNmlpfが所定値ΔNmf以上であって、アクセル開度θaccが所定開度θaccf以下であることの他に、例えば運転者操作がない状況であることを明確にする為に、ブレーキ操作量Braが、運転者によるブレーキ操作が為されていないと判断することができる予め定められた所定操作量Braf以下であることを加えても良い。及び/又は、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定の条件として、例えばブレーキオフに伴う発進時のクリープトルクによるMG2回転速度変化量ΔNmを下り勾配と誤判定することを防止する為に、車速Vが、クリープトルクによる車速域を除外する為の予め定められた所定車速Vf以上であることを加えても良い。及び/又は、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定の条件として、例えばシフトレバーの操作ポジションPOSshが公知のDポジション等の前進走行用ポジションであることを加えても良い。及び/又は、有段変速部22がAT1速ギヤ段とされた状態で走行する状況は、例えば減速走行からのアクセルオンの遭遇頻度が高く、又、チップインショックが増大し易い為、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのON判定の条件として、例えば有段変速部22の変速比γatから判断したATギヤ段がAT1速ギヤ段であることを加えても良い。
【0094】
また、前述の実施例において、EV中精密慣性補正実施フラグFGcievのOFF判定の条件として、MG2回転速度変化量低下継続カウンタCNTが所定カウンタCNTf以上であることの他に、例えば有段変速部22の変速比γatから判断したATギヤ段がAT1速ギヤ段以外であることを加えても良い。
【0095】
また、前述の実施例において、EV中精密慣性補正の実施に当たり、エンジン直達トルクTdに反映する前の、前記式(1)を用いたエンジントルクTeの推定値に対して、なまし処理を実施しても良い。このようにすれば、ノイズなどの高周波数成分を含んだMG2トルクTmが印加されることが抑制される。
【0096】
また、前述の実施例において、無段変速部20は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構を備えていても良い。このロック機構は、例えば連結軸30をケース18に対して固定することができるワンウェイクラッチである。又は、このロック機構は、例えば連結軸30とケース18とを選択的に連結することができる、噛合式クラッチ、クラッチやブレーキなどの油圧式摩擦係合装置、乾式の係合装置、電磁式摩擦係合装置、磁粉式クラッチなどの係合装置である。又、差動機構34は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、差動機構34は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構34は、エンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材32が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、差動機構34は、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
【0097】
また、前述の実施例では、4種類のATギヤ段に対して10種類の模擬ギヤ段を割り当てる実施態様を例示したが、この態様に限らない。好適には、模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数以上であれば良く、ATギヤ段の段数と同じであっても良いが、ATギヤ段の段数よりも多いことが望ましく、例えば2倍以上が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材32やその中間伝達部材32に連結される第2回転機MG2の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、又、模擬ギヤ段の変速は、エンジン回転速度Neが所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それら各々の段数は適宜定められる。
【0098】
また、前述の実施例では、本発明が適用される車両として、複合変速機40を備える車両10や複合変速機108を備える車両100を例示したが、車両10や車両100に限らず、自動変速機を単独で備える車両であっても、本発明を適用することができる。上記自動変速機は、例えば無段変速部20を単独で備える自動変速機、有段変速部22を単独で備える自動変速機、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などである。又は、エンジンや自動変速機を備えない車両であっても、本発明を適用することができる。要は、少なくとも回転機を含む駆動力源と、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。エンジンを備えない車両である場合、例えば回転機の慣性トルクを考慮した運動方程式を用いて回転機の出力トルクが補正される。
【0099】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0100】
10:車両
14:駆動輪
16:動力伝達装置
24:出力軸(動力伝達装置の出力回転部材)
28:車軸(動力伝達装置の出力回転部材)
90:電子制御装置(制御装置)
96:駆動トルク制御部
100:車両
102:動力伝達装置
MG2:第2回転機(駆動力源、回転機)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9