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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068056
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20220426BHJP
   B62D 3/06 20060101ALI20220426BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220426BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D3/06
B62D5/04
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176999
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野々口 裕三
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC01
3D232DC02
3D232DC03
3D232DC22
3D232DC33
3D232DC34
3D232DC35
3D232DD02
3D232DD10
3D232DE02
3D232DE10
3D232EA01
3D232EB04
3D232EC22
3D232EC34
3D232GG02
3D333CB03
3D333CB28
3D333CE55
(57)【要約】
【課題】従来例に比べて軌跡追従性を向上させることができる車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】電動モータ制御部は、所定の基本あそび量と操舵角とに基づいて、現在のハンドル位置から第1方向に操舵する場合の第1あそび量と、現在のハンドル位置から前記第1方向とは反対方向である第2方向に操舵する場合の第2あそび量を演算し、自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値と操舵角とに基づいて、操舵予定方向を判定し、操舵予定方向が第1方向である場合には、第1あそび量を用いて目標操舵角を補正し、操舵予定方向が第2方向である場合には、第2あそび量を用いて目標操舵角を補正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルに連結されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに連結され、左右の転舵輪を転舵させるための転舵機構と、
前記ステアリングシャフトを回転させるための電動モータと、
操舵角を検出するための操舵角検出部と、
前記電動モータを制御する電動モータ制御部とを含み、
前記電動モータ制御部は、
所定の基本あそび量と操舵角とに基づいて、現在のハンドル位置から第1方向に操舵する場合の第1あそび量と、現在のハンドル位置から前記第1方向とは反対方向である第2方向に操舵する場合の第2あそび量を演算し、
自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値と操舵角とに基づいて、操舵予定方向を判定し、
前記操舵予定方向が第1方向である場合には、前記第1あそび量を用いて前記目標操舵角を補正し、
前記操舵予定方向が第2方向である場合には、前記第2あそび量を用いて前記目標操舵角を補正し、
補正後の目標操舵角と操舵角とに基づいて、前記電動モータを制御する、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記操舵角は、操舵中立位置からの前記ステアリングシャフトの正逆両方向の回転量であり、操舵中立位置から第1方向への回転量が正の値で表され、操舵中立位置から第2方向への回転量が負の値で表され、
前記電動モータ制御部は、
前記基本あそび量をαとし、前記基本あそび量の中心に相当するハンドル位置からの不定時間毎または一定時間毎の操舵角変化量の積分値であって、かつα/2以上になるとα/2となり、-α/2以下になると-α/2となるΔαを演算し、
α/2からΔαを減算することにより、前記第1あそび量を演算し、
α/2にΔαを加算することにより、前記第2あそび量を演算する、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記電動モータ制御部は、
電源オン指令が入力された時に、前記ハンドルを自動的に往復移動させながら、前記電動モータに流れるモータ電流および操舵角を取得し、取得したモータ電流および操舵角に基づいて、前記基本あそび量を演算する、請求項1または2に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記電動モータ制御部は、
電源オン指令が入力された時に、前記ハンドルを自動的に往復移動させながら、前記電動モータに流れるモータ電流および操舵角を取得し、取得したモータ電流および操舵角に基づいて、前記基本あそび量の中心に相当するハンドル位置まで前記ハンドルを自動的に回転させた後、Δαをリセットする、請求項3に記載の車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラック、バス等の大型車両では、左右の車輪がアクスルビームで連結されているリジットアクスルサスペンションが広く用いられている。リジットアクスルサスペンションを有する車両では、ボールねじ式油圧パワーステアリング機構を備えた操舵装置が広く採用されている。このような大型車両の操舵装置は、ハンドル、ステアリングコラム、ステアリングギアボックス、ピットマンアーム、ドラッグリング、ナックルアーム、タイロッド等を備えており、インデペンデントサスペンションが用いられている乗用車の操舵装置に比べて複雑である。また、大型車両の操舵装置は乗用車の操舵装置に比べて、ステアリングシャフト等の長さが長い。
【0003】
特許文献1には、前述のような大型車両の操舵装置のステアリングコラムに電動モータを追加し、この電動モータを使用して、目標軌道に沿って自動走行させる技術が開示されている。このような自動走行制御(自動操舵制御)は、例えば、次のようにして行われる。すなわち、まず、目標軌跡と自車両位置との関係から、転舵輪の目標転舵角を算出し、その値にステアリングギア比(転舵角に対する操舵角の比)を乗算して目標操舵角を算出する。そして、目標操舵角と実操舵角との偏差が零になるように、電動モータに対して角度フィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-164622号公報
【特許文献2】特開2016-135676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、大型車両の操舵装置は、乗用車の操舵装置よりも複雑であり、ステアリングシャフトに生じる捻じれや撓みが比較的大きいため、ハンドルから転舵輪までの間のあそび(allowance)が大きい。このため、大型車両の操舵装置に対して例えば前述のような自動走行制御を行った場合には、目標操舵角を与えても、転舵輪の転舵角が目標転舵角に一致しないため、軌跡追従性が悪くなる。
【0006】
そこで、特許文献2には、軌跡追従性を向上させるために、操舵不感帯をΔHとすると、切り始め時には、ΔH/2を目標操舵角に加算することにより目標操舵角を補正し、切り返し時には、ΔHを目標操舵角に加算することにより目標操舵角を補正する技術(以下、「従来例」という。)が開示されている。しかしながら、従来例では、例えば、切り始め時においてハンドル回転角度位置(以下、「ハンドル位置」という。)が操舵不感帯の中心からずれている場合に、精度の高い補正を行えないという問題がある。
【0007】
なお、この明細書において、「切り始め」とは、操舵角が変化していない状態から操舵角が変化し始めることをいう。「切り返し」とは、操舵方向が逆転するように操舵角が変化することをいう。
この発明の目的は、比較例に比べて軌跡追従性を向上させることができる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一実施形態は、ハンドルに連結されたステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに連結され、左右の転舵輪を転舵させるための転舵機構と、前記ステアリングシャフトを回転させるための電動モータと、操舵角を検出するための操舵角検出部と、前記電動モータを制御する電動モータ制御部とを含み、前記電動モータ制御部は、所定の基本あそび量と操舵角とに基づいて、現在のハンドル位置から第1方向に操舵する場合の第1あそび量と、現在のハンドル位置から前記第1方向とは反対方向である第2方向に操舵する場合の第2あそび量を演算し、自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値と操舵角とに基づいて、操舵予定方向を判定し、前記操舵予定方向が第1方向である場合には、前記第1あそび量を用いて前記目標操舵角を補正し、前記操舵予定方向が第2方向である場合には、前記第2あそび量を用いて前記目標操舵角を補正し、補正後の目標操舵角と操舵角とに基づいて、前記電動モータを制御する、車両用操舵装置を提供する。
【0009】
この構成では、軌跡追従性を向上させることができるようになる。
この発明の一実施形態では、前記操舵角は、操舵中立位置からの前記ステアリングシャフトの正逆両方向の回転量であり、操舵中立位置から第1方向への回転量が正の値で表され、操舵中立位置から第2方向への回転量が負の値で表され、前記電動モータ制御部は、前記基本あそび量をαとし、前記基本あそび量の中心に相当するハンドル位置からの不定時間毎または一定時間毎の操舵角変化量の積分値であって、かつα/2以上になるとα/2となり、-α/2以下になると-α/2となるΔαを演算し、α/2からΔαを減算することにより、前記第1あそび量を演算し、α/2にΔαを加算することにより、前記第2あそび量を演算する。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記電動モータ制御部は、電源オン指令が入力された時に、前記ハンドルを自動的に往復移動させながら、前記電動モータに流れるモータ電流および操舵角を取得し、取得したモータ電流および操舵角に基づいて、前記基本あそび量を演算する。
この発明の一実施形態では、前記電動モータ制御部は、電源オン指令が入力された時に、前記ハンドルを自動的に往復移動させながら、前記電動モータに流れるモータ電流および操舵角を取得し、取得したモータ電流および操舵角に基づいて、前記基本あそび量の中心に相当するハンドル位置まで前記ハンドルを自動的に回転させた後、Δαをリセットする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、車両用操舵装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3図3は、モータ制御用ECUの電気的構成を示すブロック図である。
図4図4は、操舵角θと転舵角δとの関係を示すグラフである。
図5図5は、操舵角θとΔαとの関係を示すグラフである。
図6図6は、基本あそび量演算部によって実行される基本あそび量演算処理の手順を示すフローチャートである。
図7図7Aは、操舵中立位置付近での操舵角とq軸電流との関係を示すグラフであり、図7Bは、路面からの逆入力によって転舵輪が転舵されることにより、ハンドルと転舵輪の位置関係が変化した場合の、操舵中立位置付近での操舵角とq軸電流との関係を示すグラフである。
図8図8は、目標操舵角補正部によって実行される目標操舵角補正処理の手順を示すフローチャートである。
図9図9は、目標操舵角補正部によって実行される目標操舵角補正処理の変形例を示すフローチャートである。
図10図10は、図9のステップS34の電流監視処理の手順を示すフローチャートである。
図11図11は、図9のステップS35の補正処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。図1において破線29の左側は、車両を側方から見た側面図であり、破線29の右側は、車両を上方から見た平面図である。
この車両用操舵装置1は、ハンドル(ステアリングホイール)2、ステアリングシャフト3を有するステアリングコラム4、ベベルギア部5、動力伝達軸6、ボールねじ式油圧パワーステアリング機構(以下、「油圧パワーステアリング機構7」という。)、転舵機構8、電動モータ9等を備えている。電動モータ9は、本発明の「アクチュエータ」の一例である。
【0013】
ハンドル2は、ステアリングシャフト3を介してベベルギア部5の入力軸に連結されている。ベベルギア部5の出力軸は、動力伝達軸6を介して油圧パワーステアリング機構7の入力軸に連結されている。
転舵機構8は、ピットマンアーム11、ドラッグリンク12、ナックルアーム13、キングピン軸14,15、タイロッドアーム16およびタイロッド17を備える。
【0014】
ピットマンアーム11の一端は、油圧パワーステアリング機構7のセクターシャフトに連結されている。ピットマンアーム11の他端には、ドラッグリンク12の一端が連結されている。ドラッグリンク12の他端は、右転舵輪(右前輪)22のナックルアーム13の一端に連結されている。ナックルアーム13の他端は、右転舵輪22のキングピン軸14に連結されている。右転舵輪22のキングピン軸14と左転舵輪(左前輪)21のキングピン軸15とは、タイロッドアーム16およびタイロッド17によって連結されている。図の破線18は、アクスルビームである。
【0015】
電動モータ9は、ステアリングコラム4に設けられており、図示しない減速機を介してステアリングシャフト3に連結されている。減速機は、ウォームギヤと、このウォームギヤと噛み合うウォームホイールとを含むウォームギヤ機構からなる。以下において、減速機の減速比をNで表す。減速比Nは、ウォームホイールの回転角であるウォームホイール角に対するウォームギヤの回転角であるウォームギヤ角の比として定義される。電動モータ9のロータ回転角θは、回転角センサ25によって検出される。
【0016】
ハンドル2が回転すると、この回転トルクが、ステアリングシャフト3、ベベルギア部5、動力伝達軸6およびボールねじ式油圧パワーステアリング機構7に伝達されて、ピットマンアーム11が揺動される。このピットマンアーム11の揺動により、ドラッグリンク12が前後方向に移動され、ナックルアーム13が揺動され、転舵輪21,22が転舵される。
【0017】
電動モータ9が回転されると、この回転トルクがステアリングシャフト3に伝達されるので、前述と同様な動力伝達経路を介して転舵輪21,22が転舵される。すなわち、電動モータ9によってステアリングシャフト3を回転させることにより、転舵輪21,22の転舵が可能となる。
図2は、車両用操舵装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0018】
車両には、自動操舵用ECU101およびモータ制御用ECU102が設けられている。モータ制御用ECU102は、本発明の電動モータ制御部の一例である。
自動操舵用ECU101は、操舵モードが自動操舵モードであるか手動操舵モードであるかを示すモード信号Smodeを出力する。また、自動操舵用ECU101は、自動操舵モード時に、自動操舵のための目標操舵角θcmdaを生成する。
【0019】
目標操舵角θcmdaは、自動操舵モード時における操舵角(ステアリングシャフト3の回転角)θの目標値である。この実施形態では、操舵角θは、ハンドル2の中立位置(操舵中立位置)からのステアリングシャフト3の正逆両方向の回転量(回転角)であり、操舵中立位置から右方向への回転量が正の値で表され、操舵中立位置から左方向への回転量が負の値で表される。この実施形態では、操舵角θは、回転角センサ25によって検出されるロータ回転角θから演算される。
【0020】
モード信号Smodeおよび目標操舵角θautoは、モータ制御用ECU102に与えられる。
また、モータ制御用ECU102には、車両のキースイッチの状態を表すキースイッチ状態検知信号Sが入力する。この実施形態では、車両のキースイッチは、例えばエンジン(図示略)または走行用モータ(図示略)を始動するためのイグニッションキーである。キースイッチは、イグニッションキーの他、イモビライザを備えた電子キーを用いて認証を得られた場合に電気信号を発するもの、または押ボタンによって電気信号を発するものであってもよい。
【0021】
キースイッチがオン操作されたときには、そのことを示すキースイッチ状態検知信号(以下、「キースイッチオン状態信号」という。)がモータ制御用ECU102に入力される。キースイッチオン状態信号は、本発明の電源オン指令の一例である。キースイッチがオフ操作されたときには、そのことを示すキースイッチ状態検知信号(以下、「キースイッチオフ状態信号」という。)がモータ制御用ECU102に入力される。
【0022】
モータ制御用ECU102は、キースイッチ状態検知信号S、モード信号Smode、目標操舵角θautoおよび回転角センサ25の出力信号に基づいて、自動操舵モード時に、電動モータ9を駆動制御する。
図3は、モータ制御用ECU102の電気的構成を示すブロック図である。
モータ制御用ECU102は、マイクロコンピュータ31と、マイクロコンピュータ31によって制御され、電動モータ9に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)32と、電動モータ9に流れるモータ電流を検出する電流検出部33とを備えている。
【0023】
マイクロコンピュータ31は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、基本あそび量演算部41と、目標操舵角補正部42と、角度偏差演算部43、PD制御部44と、電流指令値設定部45と、電流偏差演算部46と、PI(比例積分)制御部47と、dq/UVW変換部48と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部49と、UVW/dq変換部50と、回転角演算部51、減速比除算部52とを含む。
【0024】
回転角演算部51は、回転角センサ25の出力信号に基づいて、電動モータ9のロータの回転角θ(以下、「ロータ回転角θ」という。)を演算する。回転角演算部51によって演算されるロータ回転角θは、dq/UVW変換部48、UVW/dq変換部50および減速比除算部52に与えられる。
減速比除算部52は、回転角演算部51によって演算されるロータ回転角θを減速比Nで除算することにより、操舵角θを演算する。操舵角θは、基本あそび量演算部41、目標操舵角補正部42および角度偏差演算部43に与えられる。回転角センサ25、回転角演算部51および減速比除算部52は、本発明の操舵角検出部の一例である。
【0025】
基本あそび量演算部41は、電源オン時に、基本あそび量演算処理を実行することにより、基本あそび量αを演算する。基本あそび量演算部41の詳細については後述する。
目標操舵角補正部42は、自動操舵モード時に、目標操舵角θcmdaを補正する。目標操舵角補正部42の詳細については後述する。目標操舵角補正部42による補正後の目標操舵角θcmdは、角度偏差演算部43に与えられる。
【0026】
角度偏差演算部43は、目標操舵角θcmdと操舵角θとの偏差Δθ(θcmd-θ)を演算する。
PD制御部44は、角度偏差演算部43によって演算された角度偏差Δθに対してPD演算(比例微分演算)を行うことにより、トルク指令値Tcmdを演算する。
電流指令値設定部45は、トルク指令値Tcmdに基づいて、d軸電流指令値Id,cmdおよびq軸電流指令値Iq,cmd(以下、これらを総称するときには「二相電流指令値Idq,cmd」という。)を設定する。
【0027】
具体的には、電流指令値設定部45は、q軸電流指令値Iq,cmdを有意値とする一方で、d軸電流指令値Id,cmdを零とする。より具体的には、電流指令値設定部45は、PD制御部44によって演算されたトルク指令値Tcmdを、電動モータ9のトルク定数Kで除算することにより、q軸電流指令値Iq,cmdを設定する。電流指令値設定部45によって設定された二相電流指令値Idq,cmdは、電流偏差演算部46に与えられる。
【0028】
電流検出部33は、電動モータ9のU相電流I、V相電流IおよびW相電流I(以下、これらを総称するときは、「三相検出電流IUVW」という。)を検出する。電流検出部33によって検出された三相検出電流IUVWは、UVW/dq変換部50に与えられる。
UVW/dq変換部50は、電流検出部33によって検出されるUVW座標系の三相検出電流IUVW(U相電流I、V相電流IおよびW相電流I)を、dq座標系の二相検出電流IおよびI(以下総称するときには「二相検出電流Idq」という。)に座標変換する。この座標変換には、回転角演算部51によって演算されるロータ回転角θが用いられる。UVW/dq変換部50によって演算される二相検出電流Idqは、電流偏差演算部46に与えられる。UVW/dq変換部50によって演算されるq軸電流Iは、基本あそび量演算部41に与えられる。
【0029】
電流偏差演算部46は、電流指令値設定部45によって設定される二相電流指令値Idq,cmdと、UVW/dq変換部50から与えられる二相検出電流Idqとの偏差を演算する。より具体的には、電流偏差演算部46は、d軸電流指令値Id,cmdに対するd軸検出電流Iの偏差およびq軸電流指令値Iq,cmdに対するq軸検出電流Iの偏差を演算する。これらの偏差は、PI制御部47に与えられる。
【0030】
PI制御部47は、電流偏差演算部46によって演算された電流偏差に対するPI(比例積分)演算を行なうことにより、電動モータ9に印加すべき二相電圧指令値Vdq,cmd(d軸電圧指令値Vd,cmdおよびq軸電圧指令値Vq,cmd)を生成する。この二相電圧指令値Vdq,cmdは、dq/UVW変換部48に与えられる。
dq/UVW変換部48は、二相電圧指令値Vdq,cmdを三相電圧指令値VUVW,cmdに座標変換する。この座標変換には、回転角演算部51によって演算されるロータ回転角θが用いられる。三相電圧指令値VUVW,cmdは、U相電圧指令値VU,cmd、V相電圧指令値VV,cmdおよびW相電圧指令値VW,cmdからなる。この三相電圧指令値VUVW,cmdは、PWM制御部49に与えられる。
【0031】
PWM制御部49は、U相電圧指令値VU,cmd、V相電圧指令値VV,cmdおよびW相電圧指令値VW,cmdにそれぞれ対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路32に供給する。
駆動回路32は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM制御部49から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相電圧指令値VUVW,cmdに相当する電圧が電動モータ9の各相のステータ巻線に印加されることになる。
【0032】
角度偏差演算部43およびPD制御部44は、角度フィードバック制御手段を構成している。この角度フィードバック制御手段の働きによって、操舵角θが、目標操舵角補正部42による補正後の目標操舵角θcmdに近づくように、電動モータ9が制御される。
以下、基本あそび量演算部41および目標操舵角補正部42について、詳しく説明する。
【0033】
まず、目標操舵角補正部42による補正の考え方について説明する。
図4は、操舵角θと転舵角(タイヤ角)δとの関係を示すグラフである。
図4は、操舵中立位置Oから零よりも大きい所定の第1操舵角θh1まで操舵角θを連続的に変化させた後、操舵角θを零よりも小さい所定の第2操舵角θh2まで連続的に変化させ、さらに操舵角θを第1操舵角θh1に向かって連続的に変化させた場合の、転舵角δの軌跡を示している。
【0034】
ハンドル2から転舵輪21,22までの間にはあそび(がた)が存在している。このため、操舵角θが0°から増加しても、すぐには、転舵角δは増加しない。つまり、切り始め状態においては、操舵角θが変化しても、すぐには、転舵角δは変化しない。操舵角θの増加によってあそび詰まると(A点)、転舵角δが増加し始める。
そして、操舵角θが第1操舵角θh1に達し(B点)、切り返し動作が行われると、操舵角θが減少される。この場合も、あそびがあるため、すぐには、転舵角δは減少しない。つまり、切り返し状態においては、操舵角θが変化しても、すぐには、転舵角δは変化しない。操舵角θの減少によってあそびが詰まると(C点)、転舵角δが減少し始める。したがって、転舵角δが零になったときに(D点)、操舵角θは0以下の値となる。
【0035】
操舵角θが第1操舵角θh2に達し(E点)、切り返し動作が行われると、操舵角θが増加される。この場合にも、あそびがあるため、すぐには、転舵角δは増加しない。操舵角θの増加によってあそびが詰まると(F点)、転舵角δが増加し始める。
A点とD点(またはB点とC点、またはF点とE点)との間の操舵角θの変化量の絶対値が、基本あそび量αである。以下において、あるハンドル位置からステアリングシャフト3(ハンドル2)が右操舵方向に回転されたときに、当該ハンドル位置から操舵角θが変化しても転舵角δが変化しない操舵角範囲を「右方向のあそび量α」ということにする。また、あるハンドル位置からステアリングシャフト3(ハンドル2)が左操舵方向に回転されたときに、当該ハンドル位置から操舵角θが変化しても転舵角δが変化しない操舵角範囲を「左方向のあそび量α」ということにする。
【0036】
例えば、操舵中立位置Oからハンドル2を右操舵方向に切り始める場合、右方向のあそび量αは、α/2となる。また、例えば、操舵中立位置Oからからハンドル2を左操舵方向に切り始める場合、左方向のあそび量αは、α/2となる。また、例えば、点Bからハンドル2を左操舵方向に切り返す場合、左方向のあそび量αはαとなる。
また、例えば、操舵中立位置Oと点Aとの間の点Pからハンドル2を右操舵方向に切り始める場合、右方向のあそび量αは、点Pと点Aとの間の操舵角の変化量となる。また、例えば、操舵中立位置Oと点Aとの間の点Pからハンドル2を左操舵方向に切り始める場合、左方向のあそび量αは、点Pと点Dとの間の操舵角の変化量となる。
【0037】
右方向のあそび量αおよび左方向のあそび量αは、次式(1)によって表される。
α=α/2-Δα
α=α/2+Δα …(1)
if -α/2≦X≦α/2, then Δα=X
if X>α/2, then Δα=α/2
if X<-α/2, then Δα=-α/2
X=Δα(i-1)+(θ-θh(i-1)
式(1)において、Δα(i-1)は、Δαの前回値であり、θh(i-1)は、θの前回値である。Δαは、基本あそび量αの中心に相当するハンドル位置からの不定時間毎または一定時間毎の操舵角変化量の積分値であって、α/2以上になるとα/2となり、-α/2以下になると-α/2となる値である。
【0038】
図5は、操舵角θとΔαとの関係を示すグラフである。
操舵中立位置Oから操舵角θを増加させると、それにともなってΔαは増加する。そして、Δα=α/2になると(A’点)、操舵角θが増加しても、Δαはα/2を維持する。操舵角θが零よりも大きい所定の第3所定の操舵角θh3に達した後(B’点)、切り返し動作が行われて操舵角θが減少されると、それにともなってΔαは減少する。
【0039】
そして、Δα=-α/2になると(C’点)、操舵角θが減少しても、Δαは-α/2を維持する。操舵角θが零よりも小さい所定の第4操舵角θh4に達した後(E’点)、切り返し動作が行われて操舵角θが増加されると、それにともなってΔαは増加する。そして、Δα=α/2になると(F’点)、操舵角θが増加しても、Δαはα/2を維持する。
【0040】
なお、A’点とB’点との間のG’点において、操舵角θが減少されると、それにともなって、Δαは減少する。また、C’点とE’点との間のH’点において、操舵角θが増加されると、それにともなって、Δαは増加する。
例えば、現在のハンドル位置が図4のP点であり、操舵角指令値θcmdaに基づく操舵方向(以下、「予定操舵方向」という。)が右操舵方向である場合には、操舵角θがP点からA点まで増加するまでは転舵角δは増加しない。そのため、操舵角θが操舵角指令値θcmdaに近づくように制御しても、転舵角は操舵角指令値θcmdaに応じた転舵角にはならない。そこで、このような場合には、目標操舵角補正部42は、操舵角指令値θcmdaに、右方向のあそび量α(=α/2-Δα)を加算することにより、操舵角指令値θcmdaを補正する。これにより、転舵角δを、操舵角指令値θcmdaに応じた転舵角にすることができる。
【0041】
一方、現在のハンドル位置が図4のP点であり、予定操舵方法が左操舵方向である場合には、操舵角θがP点からD点まで減少するまでは、転舵角δは減少しない。そのため、操舵角θが操舵角指令値θcmdaに近づくように制御しても、転舵角は操舵角指令値θcmda応じた転舵角にはならない。そこで、このような場合には、目標操舵角補正部42は、操舵角指令値θcmdaから左方向のあそび量α(=α/2+Δα)を減算することにより、操舵角指令値θcmdaを補正する。これにより、転舵角δを、操舵角指令値θcmdaに応じた転舵角にすることができる。
【0042】
また、例えば、現在のハンドル位置が第1操舵角θh1であり(B点)、予定操舵方法が左操舵方向である場合には、操舵角θがB点からC点まで減少するまでは、転舵角δは減少しない。そのため、操舵角θが操舵角指令値θcmdaに近づくように制御しても、転舵角は操舵角指令値θcmda応じた転舵角にはならない。そこで、このような場合には、目標操舵角補正部42は、操舵角指令値θcmdaから左方向あそび量α(=α/2+Δα)を減算することにより、操舵角指令値θcmdaを補正する。この場合、Δα=α/2となるので、補正後の操舵角指令値θcmdは、(θcmda-α)となる。
【0043】
図6は、基本あそび量演算部41によって実行される基本あそび量演算処理の手順を示すフローチャートである。
キースイッチオン状態信号が入力されると(ステップS1)、基本あそび量演算部41は、まず、ステアリングシャフト3が右操舵方向に回転するように電動モータを駆動する(ステップS2)。例えば、基本あそび量演算部41は、ステアリングシャフト3を右操舵方向に回転させるための所定の操舵角指令値θcmdを角度偏差演算部43に与える。これにより、電動モータ9が駆動され、ステアリングシャフト3が右操舵方向に回転する。
【0044】
この場合、図7Aに示すように、UVW/da変換部50(図3参照)から出力されるq軸電流Iは、操舵角θが0からα/2までの間は正の微小値となり、α/2以上になると増加する。
基本あそび量演算部41は、q軸電流Iが、転舵輪21,22が右操舵方向に転舵するのに必要な所定の第1電流値Iq1(右方向転舵に最小限必要な電流値)に達すると、電動モータ9の回転を停止させ、そのときの操舵角θをθ1としてメモリに記憶する(ステップS3)。
【0045】
次に、基本あそび量演算部41は、ステアリングシャフト3が左操舵方向に回転するように電動モータを駆動する(ステップS4)。例えば、基本あそび量演算部41は、ステアリングシャフト3を左操舵方向に回転させるための所定の操舵角指令値θcmdを角度偏差演算部43に与える。これにより、電動モータ9が駆動され、ステアリングシャフト3が左操舵方向に回転する。
【0046】
この場合、図7Aに示すように、q軸電流Iは、操舵角θがα/2から-α/2までの間は負の微小値となり、-α/2以上になると減少する。
基本あそび量演算部41は、q軸電流Iが、転舵輪21,22が左操舵方向に転舵するのに必要な所定の第2電流値Iq2(左方向転舵に最小限必要な電流値)に達すると、電動モータ9の回転を停止させ、そのときの操舵角θをθ2としてメモリに記憶する(ステップS5)。そして、基本あそび量演算部41は、(θ1-θ2)を、基本あそび量αとして演算する(ステップS6)。
【0047】
次に、基本あそび量演算部41は、ステアリングシャフト3がα/2だけ右操舵方向に回転するように、電動モータ9を駆動する(ステップS7)。そして、基本あそび量演算部41は、目標操舵角補正部42に、基本あそび量αを含むΔα演算開始指令を与える(ステップS8)。そして、基本あそび量演算部41は、今回の基本あそび量演算処理を終了する。
【0048】
図8は、目標操舵角補正部42によって実行される目標操舵角補正処理の手順を示すフローチャートである。
キースイッチオン状態信号が入力されると(ステップS11)、目標操舵角補正部42は、基本あそび量αを含むΔα演算開始指令が与えられるのを待つ(ステップS12)。Δα演算開始指令が与えられると(ステップS12:YES)、目標操舵角補正部42は、Δα演算開始指令に含まれている基本あそび量αを、基本あそび量αとしてメモリに記憶し、Δαをリセット(Δα=0)する(ステップS13)。
【0049】
この後、目標操舵角補正部42は、式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αおよび左方向のあそび量αを演算する(ステップS14)。なお、Δα(i-1)およびθh(i-1)の初期値は、0である。
次に、目標操舵角補正部42は、モード信号Smodeに基づいて、操舵モードが自動操舵モードか否かを判別する(ステップS15)。
【0050】
操舵モードが自動操舵モードである場合には(ステップS15:YES)、目標操舵角補正部42は、予定操舵方向を判定する(ステップS16)。具体的には、目標操舵角補正部42は、θcmda-θ>0であれば、予定操舵方向を右操舵方向と判定し、θcmda-θ<0であれば、予定操舵方向を左操舵方向と判定する。θcmda-θ=0であれば、予定操舵方向を前回の操舵方向であると判定する。
【0051】
予定操舵方向が右操舵方向であると判定された場合には、目標操舵角補正部42は、ステップS14で算出された右方向のあそび量αを用い、次式(2)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS17)。そして、目標操舵角補正部42は、ステップS19に移行する。
θcmd=θcmda+α …(2)
ステップS16において、予定操舵方向が左操舵方向であると判定された場合には、目標操舵角補正部42は、ステップS14で算出された左方向のあそび量αを用い、次式(3)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS18)。そして、目標操舵角補正部42は、ステップS19に移行する。
【0052】
θcmd=θcmda-α …(3)
ステップS19では、目標操舵角補正部42は、キースイッチオフ状態信号が入力されたか否かを判別する。キースイッチオフ状態信号が入力されていなければ(ステップS19:NO)、目標操舵角補正部42はステップS14に戻る。この場合、目標操舵角補正部42は、式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αおよび左方向のあそび量αを演算した後、ステップS15に移行する。
【0053】
ステップS19において、キースイッチオフ状態信号が入力されていると判別された場合には(ステップS19:YES)、目標操舵角補正部42は、今回の処理を終了する。
ステップS15において、操舵モードが手動操舵モードである場合には(ステップS15:NO)、目標操舵角補正部42は、ステップS19に移行する。この場合には、電動モータ9は駆動されない。ステップS19において、キースイッチオフ状態信号が入力されていないと判別された場合には、目標操舵角補正部42はステップS14に戻る。したがって、操舵モードにかかわらず、Δαは、不定時間毎または一定時間毎に演算されることになる。
【0054】
本実施形態によれば、従来例に比べて、軌跡追従性を向上させることができる。
次に、目標操舵角補正部42の動作の変形例について説明する。車両走行中に、路面からの逆入力によって転舵輪21,22が転舵されると、ハンドル2と転舵輪21,22の位置関係が変化し、あそびの中心位置が操舵中立位置から変化することがある。あそびの中心位置が操舵中立位置から変化すると、前述の実施形態による目標操舵角の補正方法では、軌跡追従性の精度が低下するおそれがある。
【0055】
あそびの中心位置が操舵中立位置から変化した場合に軌跡追従性精度が低下するのを抑制するために、目標操舵角補正部42は、図9に示すような目標操舵角補正処理を行うことが好ましい。
図9を参照して、目標操舵角補正部42よって実行される目標操舵角補正処理について説明する。
【0056】
この変形例では、目標操舵角補正部42には、図3に2点鎖線で示すように、UVW/da変換部50(図3参照)から出力されるq軸電流Iが入力されるものとする。
キースイッチオン状態信号が入力されると(ステップS31)、目標操舵角補正部42は、基本あそび量αを含むΔα演算開始指令が与えられるのを待つ(ステップS32)。
Δα演算開始指令が与えられると(ステップS32:YES)、目標操舵角補正部42は、Δα演算開始指令に含まれている基本あそび量αを、基本あそび量αとしてメモリに記憶し、Δαをリセット(Δα=0)し、フラグFをリセット(F=0)する(ステップS33)。フラグFは、あそびの中心位置が操舵中立位置から変化していることを記憶するためのフラグである。
【0057】
この後、目標操舵角補正部42は、電流監視処理(ステップS34)と、補正処理(ステップS35)とを並行して行う。
図10は、図9のステップS34の電流監視処理の手順を示すフローチャートである。
電流監視処理においては、目標操舵角補正部42は、まず、前記式(1)に基づいて、Δαを演算する(ステップS41)。
【0058】
次に、目標操舵角補正部42は、q軸電流Iの絶対値が、転舵に最小限必要な電流絶対値未満から当該電流絶対値以上に変化したか否かを判別する(ステップS42)。転舵に最小限必要な電流絶対値は、例えば、前述のIq1の絶対値|Iq1|または前述のIq2の絶対値|Iq2|である。ここでは、転舵に最小限必要な電流絶対値は、|Iq1|とする。
【0059】
q軸電流Iの絶対値が、転舵に最小限必要な電流絶対値未満から当該電流絶対値以上に変化していない場合には(ステップS42:NO)、目標操舵角補正部42は、キースイッチオフ状態信号が入力されているか否かを判別する(ステップS47)。キースイッチオフ状態信号が入力されていない場合には(ステップS47:NO)、目標操舵角補正部42は、ステップS41に戻る。
【0060】
ステップS42において、q軸電流Iの絶対値が、転舵に最小限必要な電流絶対値未満から当該電流絶対値以上に変化したと判別された場合には(ステップS42:YES)、目標操舵角補正部42は、ステップS41で演算されたΔαをΔαとして記憶する(ステップS43)。
次に、目標操舵角補正部42は、Δαが、-α/2<Δα<α/2の範囲内であるか否かを判別する(ステップS44)。
【0061】
車両走行中に路面からの逆入力によって転舵輪が転舵されると、ハンドル2と転舵輪との位置関係が変化し、あそびの中心位置が操舵中立位置から変化する。これにより、q軸電流Iと操舵角θとの関係が、たとえば図7Bに示すように変化する。そうすると、操舵角θが-α/2よりも大きくかつα/2未満の範囲内において、q軸電流Iの絶対値が転舵に最小限必要な電流絶対値未満から当該電流絶対値以上に変化するといったことが起こるようになる。
【0062】
Δαが、-α/2<Δα<α/2の範囲内である場合には(ステップS44:YES)、目標操舵角補正部42は、あそびの中心位置が操舵中立位置から変化したと判断し、フラグFをセット(F=1)する(ステップS45)。そして、目標操舵角補正部42は、ステップS47に移行する。
一方、ステップS44において、Δαが、-α/2<Δα<α/2の範囲外であると判別された場合には(ステップS44:NO)、つまり、Δα=-α/2またはΔα=α/2である場合には、目標操舵角補正部42は、あそびの中心位置が操舵中立位置にあると判断し、フラグFをリセット(F=0)する(ステップS46)。そして、目標操舵角補正部42は、ステップS47に移行する。
【0063】
ステップS47においてキースイッチオフ状態信号が入力されていない場合には(ステップS47:NO)、目標操舵角補正部42は、ステップS41に戻る。一方、ステップS47においてキースイッチオフ状態信号が入力されている場合には(ステップS47:YES)、目標操舵角補正部42は、今回の電流監視処理を終了する。
図11は、図9のステップS35の補正処理の手順を示すフローチャートである。
【0064】
補正処理においては、目標操舵角補正部42は、まず、フラグFがセットされているか否かを判別する(ステップS51)。
フラグFがリセット(F=0)されている場合には(ステップS51:NO)、目標操舵角補正部42は、前記式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αおよび左方向のあそび量αを演算する(ステップS52)。そして、目標操舵角補正部42は、ステップS54に移行する。
【0065】
一方、ステップS51において、フラグFがセット(F=1)されていると判別された場合には(ステップS51:YES)、目標操舵角補正部42は、次式(4)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αおよび左方向のあそび量αを演算する(ステップS53)。そして、目標操舵角補正部42は、ステップS54に移行する。
α=Δα-Δα
α=α-Δα+Δα …(4)
if -(α-Δα)≦X≦Δα, then Δα=X
if X>Δα, then Δα=Δα
if X<-(α-Δα), then Δα=-(α-Δα
X=Δα(i-1)+(θ-θh(i-1)
ステップS54では、目標操舵角補正部42は、モード信号Smodeに基づいて、操舵モードが自動操舵モードか否かを判別する。
【0066】
操舵モードが自動操舵モードである場合には(ステップS54:YES)、目標操舵角補正部42は、予定操舵方向を判定する(ステップS55)。具体的には、目標操舵角補正部42は、θcmda-θ>0であれば、予定操舵方向を右操舵方向と判定し、θcmda-θ<0であれば、予定操舵方向を左操舵方向と判定する。θcmda-θ=0であれば、予定操舵方向を前回の操舵方向であると判定する。
【0067】
予定操舵方向が右操舵方向であると判定された場合には、目標操舵角補正部42は、最新に算出された右方向のあそび量αを用い、前記式(2)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS56)。そして、目標操舵角補正部42は、ステップS58に移行する。
ステップS55において、予定操舵方向が左操舵方向であると判定された場合には、目標操舵角補正部42は、最新に算出された左方向のあそび量αを用い、前記式(3)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS57)。そして、目標操舵角補正部42は、ステップS58に移行する。
【0068】
ステップS58では、目標操舵角補正部42は、キースイッチオフ状態信号が入力されたか否かを判別する。キースイッチオフ状態信号が入力されていなければ(ステップS58:NO)、目標操舵角補正部42はステップS51に戻る。
ステップS58において、キースイッチオフ状態信号が入力されていると判別された場合には(ステップS58:YES)、目標操舵角補正部42は、今回の補正処理を終了する。
【0069】
ステップS55において、操舵モードが手動操舵モードである場合には(ステップS55:NO)、目標操舵角補正部42は、ステップS58に移行する。この場合には、電動モータ9は駆動されない。ステップS58において、キースイッチオフ状態信号が入力されていないと判別された場合には、目標操舵角補正部42はステップS51に戻る。したがって、操舵モードにかかわらず、Δαは、不定時間毎または一定時間毎に演算されることになる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。例えば、前述の実施形態では、ロータ回転角を検出するための回転角センサ25に基づいて操舵角θを検出しているが、ステアリングシャフト3の回転角を検出する舵角センサによって、操舵角θを検出するようにしてもよい。
その他、この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…パワーステアリング装置、2…ハンドル、3…ステアリングシャフト、8…転舵機構、9…電動モータ、21,22…転舵輪、25…回転角センサ、41…基本あそび量演算部、42…目標操舵角補正部、101…自動操舵用ECU、102…モータ制御用ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11