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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068074
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】顎顔面用温マッサージャー
(51)【国際特許分類】
   A61F 7/00 20060101AFI20220426BHJP
   A61H 33/00 20060101ALI20220426BHJP
   A61H 35/00 20060101ALI20220426BHJP
   A45D 44/22 20060101ALI20220426BHJP
   A61H 33/12 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
A61F7/00 320A
A61H33/00 N
A61H35/00 K
A45D44/22 F
A61F7/00 320Z
A61H33/12 S
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020186844
(22)【出願日】2020-10-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000194413
【氏名又は名称】菅野 康幸
(72)【発明者】
【氏名】菅野 康幸
【テーマコード(参考)】
4C094
4C099
【Fターム(参考)】
4C094AA04
4C094DD34
4C094EE32
4C094GG04
4C094GG06
4C099AA01
4C099CA05
4C099EA02
4C099GA30
4C099JA01
4C099NA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱線放射型の温熱適用装置を用いて顎顔面の皮膚温を高くすると共に、強制対流発生装置を用いて皮膚からの水の蒸散を促進する顎顔面用温マッサージャーを提供する。
【解決手段】前部カバー8と後部カバーの二重壁で構成し、両カバー縁が近接する辺縁部にフレーム11を設置して、フレーム11の一部とオトガイ部の皮膚とが接触を有しない非密閉性のマスク型ハウジングにおいて、後部カバーに発熱体を設置し、マスク型ハウジングの正中上方にマスク型ハウジングを貫いて送風用フアン7を設置して、マスク型ハウジングの後方に熱線を放射し、後下方に送風することを手段とするものである。皮膚からの不感蒸散量を増大させて角質層を通る水分量を増大させること、汗腺活動を賦活して汗腺の萎縮を抑制すること、温熱適用後に冷熱適用を行ってリンパ輸送を抑制し、脂肪細胞が大きくなり易い環境を整える
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式バッテリー1と電源スイッチ2を接続して成る電源回路Aと、可変抵抗器3と発熱体4を接続して成る発熱体回路Bと、可変抵抗器5と極性転換連動スイッチ6と送風用フアン7を直列に接続して成る強制対流発生装置回路Cを構成要素とし、電源回路Aに発熱体回路Bと強制対流発生装置回路Cを並列に接続して、電源回路Aを前記2回路B,Cの共通電源回路とする電気回路を構成し、
顎顔面への装着を目的として、耐熱樹脂製の湾曲を有した前部カバー8と金属板製の湾曲を有した後部カバー12の二重構造で成り、両カバー8,12端が近接する辺縁部の全周に設置したシリコン製のフレーム11が、顎顔面の皮膚にオトガイ部を除いて接触し、後部カバー12と顎顔面との間に外界と交通する空間を有するよう構成した非密閉型のマスク型ハウジングに、発熱体回路Bと強制対流発生装置回路Cを設置して、バッテリーボックス16に電源回路Aを設置し、電源コード10に設置された電源コード側接続端子18とバッテリーボックス16に設置されたバッテリーボックス側接続端子17を用いて、電源回路Aに発熱体回路Bと強制対流発生装置回路Cを並列に接続するよう構成した顎顔面用温マッサージャーに於いて、
発熱体4をマスク型ハウジングの後部カバー12に設置し、送風用フアン7を該マスク型ハウジングの正中上方にて、前部カバー8と後部カバー12を貫通して設置して、該マスク型ハウジングの後方に向けて熱線を放射すると共に、該マスク型ハウジングの後下方に向けて送風することを特徴とする、顎顔面用温マッサージャー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顎顔面の温マッサージャーに関する。
【背景技術】
【0002】
年齢と共に容貌が衰えることは、生物学的な老化現象を止められない限り誰も避けることができない普遍的な現象であるが、従来から年齢と共に減少する細胞外物質や低下する生理的機能を補って、経時的に進行する症状をいくらかでも遅くしようとする試みが、様々な視点から巾広く行われてきた。その中でも、温熱適用による温マッサージは、生体に対する物理的な刺激を生理的機能の賦活手段とする各種マッサージの中で主流となっていた。
【0003】
顔貌の衰えは、保水力が低下し、肌のきめ細かさが失われ、弾力性が低下する等の症状から始まって、次第に皮溝が深化して小皺が現れる。そして、その様な小皺の底では汗腺(エクリン線)の萎縮が認められるばかりでなく、汗腺周囲の血管や神経線維の数が減る現象等も報告されていて、小皺の発症と汗腺の萎縮とは相関のあることが知られていた。さらに老化の進行に伴って脂肪細胞が縮小して皮下脂肪の容積が減少するが、その影響は皮下脂肪が多くある部位で大きく、顔貌に於いて頭蓋顔面部よりも顎顔面部の衰えが強く感じられる原因でもあった。
【0004】
一般的に、潤いがあって、きめ細かくハリ感があった状態に変化が認められ、肌のケアの必要性が明確に認識されるのは、生物学的な老化現象の一指標として考えられている、結合組織の主成分であるコラーゲン繊維の酸に対する膨潤性が低下し始める頃と一致し、それは30歳から50歳の間で急激に低下することが報告されていた。コラーゲン繊維は臓器や組織の形態の安定性や保水性にも関与するが、肌の劣化はコラーゲン繊維に生じている経時的変化のような、種々な生物学的老化現象の複合的結果と考えられ、明確なメカニズムがまだ解明されていないことから、顔貌の衰えに関与すると具体的に考えられている生理的機能を賦活することは、美容手段に成り得ると考えることができる。
【0005】
肌の潤の喪失は表皮の皮脂膜の喪失やグリセリン等の保水成分が不足して、表皮からの水の蒸散が過多となることと、その様な状態に対して皮膚組織から角質層への水の供給が不十分であることが要因として考えられ、角質層に於ける水の出納を保つために不感蒸散の促進や発汗を促進することは、生理的な美容方法であると考えられる。
元来、皮膚の最上層を構成している表皮の角質層は水を含んでいない。皮膚は表皮と真皮から成り表皮には血管がないが、真皮には血管があり血管から漏出した組織液が存在する。組織液は真皮と接する表皮の深層から表皮の各層を通って角質層の表面から水が蒸発し不感蒸散を生じる。さらに、皮膚には汗腺があり皮膚の表面で開口している。この様なことから、角質層に水が生理的に達するのは不感蒸散と発汗によるものであり、それらの慢性的な不足は角質層の乾燥につながり、肌荒要因の一つに成ると考えられる。
【0006】
一方、肌のハリ感は肌の弾力性と硬さの表現と考えられ、主としてこれに深く関与する皮膚のエラスチン繊維やコラーゲン繊維には、生涯に渡って架橋反応が進行する生物学的な老化現象が存在し、機械的な刺激や温熱刺激はかえってこれを促進することから、マッサージによる強度な振動刺激や強度な温熱刺激は好ましくないと考えられる。
【0007】
また、老化の進行に伴って皮溝が深化し小皺となり、小皺が織り成す網目模様に歪が生じて肌の繊細さが失われる他、頬部の皮膚が上唇部との境で弛み落ちホウレイ線が顕著となり、口角を中心とした放射状の皺や、上唇部や下唇部の皺も目立ってくる。この様な変化は個人差があるものの、発症の時期を問わなければ誰にも生じ得る普遍的な老化現象と考えられる。
従って、老化に伴う顎顔面部の皺の発症は、歯牙の喪失と咬合高径減少等の口腔内要因を別にして、マクロ的には皮膚の表面積が保たれたまま真皮層以下の容積が減少することであり、それは主に、口角挙筋と頬筋と口輪筋等を含む顔面表情筋の筋肉量の減少と、真皮と皮下脂肪組織の容積の減少、並びに、それらを灌流する血液とリンパ液の減少が要因として考えられる。
一方、ミクロ的には脂肪細胞の容積の減少と、皮溝が交わる底で真皮層の深部から皮下脂肪組織の上部にかけて存在し、皮膚表面下、約1~3mmの間に多く存在する汗腺の萎縮や、皮膚の諸器官の退行性変化等によって、皮溝が交差する部位の容積が減少すること等が要因として考えられる。
【0008】
上記のことから、他の手段を必要とする口腔内環境の維持と筋肉量の維持を別として、皮膚への温熱適用を手段とする温マッサージで望まれる作用は、これまでの末梢循環を促進して代謝を高める作用に加えて、不感蒸散や発汗を促進する作用と、汗腺等皮膚の付属緒器官の萎縮や皮下脂肪細胞の縮小を抑制する作用であり、これらによって角質層の乾燥を防ぎ、真皮層以下の容積の減少を抑制して、皺の発症を抑制する作用である。
しかしながら老齢化に伴って代謝量が低下し、体温もやや下がり、皮下脂肪が減少している者が多いこと、さらに、体温調節機能が低下して発汗能力も低下することが、一般的な事実として指摘されていた。
【0009】
汗腺は、生体に温熱を適用して発汗の促しを繰り返すことにより、発汗能力が向上して汗腺のサイズが大きくなること、そして、その様な方法は局所的な温熱適用でも可能であることが報告されていた。この様なことから、顎顔面に限局した温熱適用によって顎顔面に在る汗腺をトレーニングすることが可能であることは明らかである。
しかしながら、皮膚が汗で濡れた状態で15分~1時間の間おかれると、表皮が水で膨化して汗腺の導管が狭められ、ついには閉じられてしまう結果、発汗量が減少して発汗が止まる現象があることが知られていた。(発汗漸減)
【0010】
一方、肥満と美容に関する研究から、リンパ輸送の停滞によって脂肪成分がリンパ管から漏出し脂肪細胞の周囲に脂肪成分が留まることで、脂肪細胞が肥大化することが報告されていた。しかしながら、通常はリンパ管から物質が漏出することはないとする報告もなされていた。
脂肪成分は通常の組織液にも含まれていて、組織液は組織内の血管から血漿が漏出したものである。血漿の漏出は組織の血流量に比例して増大することから、生理的に脂肪細胞のサイズを大きくして皮下脂肪の容積の減少を防ぐためには、皮膚血流量を増やして生理的な範囲内で脂肪細胞の周囲に組織液を増やした後、生理的にリンパ輸送を抑制して、その効果が自然に解かれるまで脂肪細胞周囲に組織液の脂肪成分が留まることを繰り返すことが効果的であると考えられる。
従来の各種マッサージも末梢循環を促進して皮膚血流量を増やし、皮膚の組織液量を増やすことが可能であったが、本発明では、脂肪細胞のサイズが大きくなれる環境を整えるには、組織液の量を増やした後にリンパ輸送を抑制する必要があると考えていて、これは、従来の一般的なマッサージの目的とは異なり末梢循環を抑制する処置であった。
【0011】
しかしながら、温熱適用の後の冷熱適用が、爽快さや皮膚の緊張感等をもたらして、美容行為の充実感を得ることができることから、美容でも高く評価され、温熱適用が可能な装置と冷熱適用が可能な装置を併せ持つ装置が既に提供されていた。
特に近年では、スチームと温ミストの混合気を噴霧した後に冷ミストを噴霧する装置が提供されていたが(特許文献1)、該装置は、スチームの温熱と温ミストの水分によって皮膚への温熱適用と角質層の水分含有量を増大させることが可能であり、冷ミストの冷熱と水分によって温熱適用後の角質層の水分含有量の維持と皮膚への冷熱適用が可能であった。それ故、それらの機能は、スチームによる加温作用で発汗を促し皮膚の組織液の量を増やした後に、冷ミストを噴霧して皮膚温を下げ、リンパ輸送を抑制することが可能であると考えられる。
しかしながら、スチームと温ミストを用いる温熱適用の方法では、角質層上の水蒸気圧が飽和状態となるために不感蒸散が抑制される他、発汗が生じても汗が蒸発できずに皮膚上を流れ落ちて不快なばかりでなく、汗とスチーム由来の水と熱が角質層に含浸して膨潤化し易いため、発汗漸減を生じ易かった。このため、不感蒸散を促進することはできず、発汗を促して汗腺をトレーニングするには必ずしも最適な条件ではなかった他、発汗トレーニングには数十分以上の適用が望ましく、効果的な状態で適用できる時間が短くなることは欠点であった。また、水の補給を必要とし、装置に対面しての使用方法であったため携帯での使用はできなかった。
【0012】
本発明の目的には、不感蒸散の促進と、汗腺のサイズの増大と、脂肪細胞のサイズの増大を含むことから、顎顔面に対する温マッサージでは、不感蒸散あるいは発汗が抑制される状態を避けること、即ち、角質層上の空気を水蒸気で飽和させないこと、あるいは角質層を水分で過度に膨潤化させないことであり、スチームの適用や、温ミストや汗で角質層を濡らし続けることを避けることが望ましかった。
さらに、脂肪細胞のサイズが大きくなり易い環境をより長く維持するためには、皮膚の組織液量を十分に増加させた後で、リンパ輸送を生理的に抑制する必要があったが、皮膚の組織液量の増量は温熱適用による血流量の増大で可能であり、リンパ輸送の抑制は冷熱を適用してリンパ管の蠕動運動を停止させることによって可能であった。
また、肥満の本質は摂取エネルギーとエネルギー消費の差であり、エネルギー出納で摂取が消費を上回った場合に、余剰エネルギーが貯蔵物質である脂肪に変換されて蓄積されるものであり、本発明は体全体のエネルギー出納に影響を及ぼすものではなく、顎顔面に脂肪が蓄積され易くするものであり、脂肪蓄積部位の分配に影響を及ぼすのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2012-205731
【特許文献2】特開2002-336288
【特許文献3】特開2005-058593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、熱線放射型の温熱適用装置を用いて顎顔面に熱エネルギーを与え皮膚温を高くすると共に、強制対流発生装置を用いて皮膚からの水の蒸散を促進することにより、皮膚からの不感蒸散量を増大させて角質層を通る水分量を増大させることを第一の課題とし、前記温熱適用装置による皮膚への温熱適用によって、汗腺の活動を賦活して汗腺の萎縮を抑制することを第二の課題とするものであり、温熱適用後の冷熱適用によってリンパ輸送を抑制し、脂肪細胞が大きくなり易い環境を整えることを第三の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
顎顔面への装着を目的として、耐熱樹脂製の湾曲を有した前部カバーと、金属板製の湾曲を有した後部カバーの二重構造で成り、両カバー端が近接する辺縁部を全周に渡って縁取りしたフレームがオトガイ部を除いて顎顔面の皮膚と接触し、後部カバーと顎顔面との間に外界と交通する空間を有するよう構成した非密閉型のマスク型ハウジングにおいて、後部カバーに出力制御を可能とした発熱体を設置し、マスク型ハウジングの正中上方にて前部カバーと後部カバーを貫通して、出力制御を可能とした送風用フアンを設置して、マスク型ハウジングの後方に熱線を放射すると共にマスク型ハウジングの後下方に送風することを手段とするものである。
【発明の効果】
【0016】
発熱体の出力制御によって放射する熱エネルギーの量を調節し、温熱適用の強度を調節することができる他、強制対流発生装置である送風用フアンの出力制御によって、顎顔面上で生じる強制対流の風速を調節して皮膚からの水の蒸散速度を調整することができる。これによって、顎顔面に於ける不感蒸散の促進、あるいは汗腺のトレーニングを行うに適した条件を、それぞれ設定することができる。
皮膚への熱エネルギー伝達方法が熱線の放射であるため、強制対流が存在しても皮膚への熱エネルギーの伝達が妨げられない特徴がある。これによって、強制対流による水の蒸散速度と熱線による温熱適用強度を別々に制御することができる他、顎顔面に対して同時に作用させることが可能である。
伝導による熱の伝達方法では、発熱体部と皮膚とを接触させる必要があり、不感蒸散や発汗が妨げられる。また、対流によって熱の伝達を行う方法では、フアンによる強制対流によって熱の伝達が妨げられる。一方、空気の加温によって対流による熱の伝達と水の蒸散促進が同時に可能となるが、両者を別々に制御することが困難である。
発熱体として、PTC面状ヒーターの他、各種面状ヒーターや線状ヒーターを用いるこが可能であり、それらを後部カバーの裏面に設置して、伝導によって後部カバー全体に熱を伝達し、後部カバー表面の全面を熱線放射面とすることが可能である。また、赤外線ランプやハロゲンランプ、白熱電球やヒートランプ等の、各種発熱ランプを発熱体として用いることも可能で、この場合には、左右の二個の発熱ランプをマスク型ハウジングの後方へ向けて後部カバーの表面に設置することにより、後部カバー表面が反射体として作用して、マスク型ハウジングの後方に熱線を放射することが可能となる。
【0017】
本発明では、温熱適用による局所性、中枢性の生理的反応によって、皮膚血管を拡張させて皮膚血流量を増大させると共に、皮膚組織の代謝を促進することができる。
【0018】
本発明では、発熱体の出力を制御することによって、発汗を生じない程度に温熱適用の強度を調節することが可能である。そして、その様な程度の温熱負荷を適用した場合、当初は不感蒸散が促進されて角質層中の水分含有量が減少してくる。しかし、同時に、水分が減少した角質層と、血流量が増大して組織液の豊富な真皮層と接する基底層との間で、水分含有量の違いが生じて浸透圧差が拡大することから、真皮層から基底層を通り浸透圧の高い角質層へ向けた組織液の浸透速度が増大し、角質層に於ける水の収支が均衡して角質層の乾燥が防がれる。さらに、組織液の真皮層から表皮への浸透速度の増大に伴って血管のない表皮各層への物質移送が増大し、表皮の代謝回転率が向上して古い角質層の脱落が早くなり、表皮の角質層の新鮮さが保たれると考えることが可能である。従って、不感蒸散の促進は、角質層の潤いを保ち表皮の代謝回転率を上げて新陳代謝を促進し、新鮮な角質層による綺麗な肌を生み出す作用効果を期待することができる。
【0019】
顎顔面部に限局した温熱適用によっても脳内の温熱中枢が刺激されることから、中枢からの発汗神経活動が増加して発汗神経末端から分泌される伝達物質の量が増える。同時に、伝達物質に対する汗分泌細胞の反応性も、温熱適用部に於けるQ10効果によって高くなることから、相乗的に汗腺活動が促進されて顎顔面の発汗が促される。
発汗がある場合には送風用フアンの出力を調節して水の蒸散を促進し、角質層が水で膨潤化することを抑制することができる。
一方、多量の発汗で皮膚が汗で濡れる場合には、発熱体の出力を下げて温熱適用の強度を下げることと、送風用フアンの出力を上げて水の蒸散速度を大きくすることで、皮膚が汗で濡れることを抑制することができる。理想的には、発汗速度と皮膚からの水の蒸散速度が略等しくて、発汗しても皮膚が略濡れない程度の状態であり、それらの調節には顎顔面部に於ける爽快感の有無を指標とすることが可能である。
【0020】
本発明では、本発明による局所的な温熱適用だけでは発汗が困難な場合がある。
生理的には平均体表温度や深部体温が高い程発汗に有利なことから、季節によっては汗腺トレーニングを温かい環境で行うことや、汗腺トレーニングの前に暖かいお湯や飲料を飲む、あるいは食事の後や入浴後に行う、あるいは軽度な作業や歩行などを伴って行う等、発汗を生じさせるためには種々な工夫を要する場合がある。
しかし、一般的には歩行などの軽い運動で意識しない程度のわずかな発汗を生じさせることにより、温熱適用を受けている顎顔面部により多くの発汗を生じさせることが可能であることから、発汗を目的とする場合には、軽い運動を伴う適用方法が最も簡単で容易である。
しかしながら、発汗が生じなくても、温熱適用によって末梢と中枢の活動が刺激されて汗腺活動が亢進することから、汗腺トレーニングを繰り返すことによって汗腺の萎縮を抑制し、汗腺周囲の血管や神経線維の数を減らさない効果が期待でき、皮膚組織に於ける退行性変化を抑制して容積の減少を防止し、皺の発症を抑制する効果を期待することができる。
一方、比較的寒い環境でも、顎顔面部の皮膚を42℃以上に加熱することで少しの発汗が可能であるが、刺激的な温熱刺激を美容に用いることは避けるべきと考えられる。
【0021】
本発明では携帯での使用が可能であり、発汗を支援するための軽度な運動を伴いながら本発明を適用して、顎顔面により多くの発汗を生じさせることが可能である。言い換えれば、強度な運動を行わなくても、局所的に顎顔面に多くの発汗を生じさせることが可能であり、大きな身体的負担をかけることなく顎顔面の汗腺トレーニングを行うことが可能である。上記の様な使い方は、美容と健康を一体化して美容行為を軽度なスポーツ感覚で行うことを可能とし、場所と時間を問わない適用が可能となる利点がある。
【0022】
本発明による皮膚のケアは、すべて物理的な刺激による生理的な反応を利用するものであり、不感蒸散の促進あるいは発汗トレーニング後の角質層に含まれる水分も、真皮層の毛細血管から漏出した組織液が表皮の基底層から表皮の各層を通り角質層へ浸透したもの、あるいは、発汗した汗の水が角質層に浸透したものである。
従って、本発明は、スチームやミストの適用のように、あるいは、各種の化粧品のように、体外にある水分を角質層に外から作用させて生じる作用効果ではなく、体内の水分を皮膚が有する生理的機能を賦活して角質層に作用させるものであり、人体が有する生理的な機能で肌の瑞々しさや繊細さを自らもたらす特徴があることから、顎顔面において健康と美を一致させる作用効果を期待することができる。
【0023】
皮膚には量的な個人差が大きいものの、美肌菌と称される表皮ブドウ球菌が常在菌として生息していて、瑞々しい肌ほど単位面積当たりの表皮ブドウ球菌の数が多いと言われている。そして、その表皮ブドウ球菌がグリセリンを分泌することから、表皮ブドウ球菌の存在が肌の保水効果をもたらすと考えられている。さらに、表皮ブドウ球菌は角質層の表面ばかりでなく、内部にも生息していることが報告されていて、角質層内でもグリセリンが分泌されることから、皮膚の内部からも保水力を高める効果があると考えられている。そして、汗と皮脂の成分が表皮ブドウ球菌の栄養源であることも明らかにされている。従って、本発明では生理的手段によって皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌に汗を給餌し、皮脂腺の代謝回転率を高めて皮脂を給餌することによって、皮膚に常在する表皮ブドウ球菌の数を増やし、皮膚の表面と内部の両方から保水力を高める生物学的作用を期待することができる。
上記の通り、本発明では、生理学的作用と生物学的作用を併せ持ち、角質層へ水を供給すると共に、角質層の保水力を高めることができると考えられることから、瑞々しい肌を得るための相乗効果を期待することができる。
【0024】
温熱適用では皮膚血管が拡張し皮膚血流量が増大することにより、毛細血管から漏出する血漿量が受動的に増大して皮膚の組織液量が増大する。このため、皮膚の真皮層以下の容積が増大するが、一方で、リンパ管や毛細血管静脈側に吸収される組織液の量も増大して収支がほぼ均衡することから、温熱適用を受けている間の真皮層以下の組織の容積は、生理的な範囲内で増加したまま略一定に保たれる。
そこで、皮膚の組織液量が増大して略一定に保たれている状態で、温熱適用を中止して冷熱を適用することにより、真皮層以下の組織のリンパ輸送を抑制し、皮下の脂肪細胞の周囲に増加した脂肪成分を含む組織液の脂肪細胞周囲からの排出を抑制して、脂肪細胞のサイズが増大し易い環境を整えて維持延長することができる。
温熱適用後に行うリンパ輸送の抑制は、皮膚を冷やしてリンパ管の蠕動運動を停止させることで可能であるが、皮膚への冷熱適用には必ずしも冷熱適用装置を用いる必要性がなく、よく冷やしたタオル等で顎顔面を覆うことが簡単で効果的である。
従って、本発明では、冷熱適用のための装置を備えていないが、身近な手段でリンパ輸送を抑制することによって、顎顔面部の皮下脂肪の容積の減少を抑制して、皺の発症を抑制する効果を期待することができる。
【0025】
老齢者の顔貌を個々に観察する際に、マスクを装着した顔貌を観察した後でマスクを外した顔貌を観察することによって、顔貌の衰えを示す変化が顎顔面部において顕著に生じていることを認識することは容易である。実際に、マスクを装着した状態では実年齢よりも若く感じられることが多いことは、多くの人々が経験するところであった。
この様に、頭蓋顔面部よりも顎顔面部において顔貌の衰えが目立つのは、頭蓋顔面部では皮下脂肪が少なく筋肉も薄いからであり、これに対し、顎顔面部では皮下脂肪と筋肉が厚く、元々多い脂肪と筋肉の容積の、老化による減少の絶対量が大きいからである。しかし、原因はそればかりでなく、解剖学的には特に頬脂肪体があることから、頬部に在る頬脂肪体の脂肪細胞が縮小することによって頬部の皮膚に余剰が生じ、ホウレイ線が生じ易い特徴があった。
本発明では、頬脂肪体の容積の減少を抑制し、ホウレイ線の顕在化を抑制する効果を期待することができる他、温熱適用が局所的であるために身体的負担が少なく、高齢者にも適用することが容易である。
【0026】
皮膚の綺麗さを保つには、前述の通り、不感蒸散の促進、表皮の代謝回転率の向上、汗による表皮ブドウ球菌の増殖等が効果的であると考えられ、皺の発症を抑制するには、発汗を促して汗腺等の萎縮を抑制することであり、ホウレイ線等大きな皺を抑制するには、頬脂肪体を含む顎顔面部の皮下脂肪組織の容積の減少を抑制することが効果的であると考えられる。本発明では、発熱体の出力を調整して、温熱刺激作用を伴う皮膚の加温と、強制対流による皮膚からの蒸散促進の、それぞれの強度を別々に調節することができることから、不感蒸散の促進、あるいは発汗の促進、脂肪細胞の萎縮の抑制等、目的に応じた利用と調節が可能である。
【0027】
目的に応じた適用をするには、温熱適用の強度と使用方法と使用時間の長さと時間帯が効果に影響を及ぼすと考えられることから、不感蒸散の促進には温熱適用の強度を小さくして長時間適用することが効果的であり、発汗の促進には、歩行などの軽い運動を伴って本発明を適用することが簡単で容易である。また、ホウレイ線等の皺の深化を抑制するためには、会話や咀嚼による顎顔面筋や筋周囲組織の動きがリンパ輸送を促進することから、本発明の適用を就寝前に行うことが、適用後の組織の安静を保ち、就寝中に生じる成長ホルモンのサージを脂肪細胞のサイズアップに活かせる点で有利であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明実施例による電気回路図の模式図である。
図2】本発明実施例によるマスク型ハウジング部の右斜め前方からの模式図である。
図3】本発明実施例によるマスク型ハウジング部の前面の模式図である。
図4】本発明実施例によるマスク型ハウジング部の、後部カバーの裏面に設置された発熱体4(PTC面状ヒーター)の位置を示す模式図である。
図5】本発明実施例によるマスク型ハウジング部の、中央部を水平的に切断した断面の模式図である。
図6】本発明実施例によるバッテリーボックス部の模式図である。
図7】本発明実施例によるマスク型ハウジング部とバッテリーボックス部の装着時の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明実施例は、顎顔面に装着して使用することを目的とする装置であり、耐熱樹脂製の前部カバー8と、前部カバー8と一体成型されスペーサーの役割を果たす裏面の突起部13にビス14で固定されたアルミ板製の後部カバー12とで成る、二重構造を有したマスク型ハウジングに、発熱体であるPTC面状ヒーター4を可変抵抗器3と接続して成る発熱体回路Bと、送風用フアン7と極性転換連動スイッチ6と可変抵抗器5を直列に接続して成る強制対流発生装置回路Cを設置して、バッテリーボックス16に設置された充電式バッテリー1と電源スイッチ2を接続して成る電源回路Aに、電源コード10に設置された電源コード側接続端子18とバッテリーボックス側接続端子17によって接続するよう構成したもので、以下、本発明の実施の形態を図1図8に基づいて説明する。
【0030】
図1においては、充電式バッテリー1に電源スイッチ2を接続して成る電源回路Aに、発熱体であるPTC面状ヒーター4を可変抵抗器3と接続して成る発熱体回路Bと、可変抵抗器5と極性転換連動スイッチ6と送風用フアン7を直列に接続して成る強制対流発生装置回路Cを、並列に接続して成る本発明実施例の、接続端子を除いた電気回路の模式図である。
極性転換連動スイッチ6は、送風用フアン7に接続する電源の極性を逆にすることによって、フアン7を逆回転させるものである。
発汗状態では、送風用フアン7を高速で正回転させて生じる顎顔面上の後下方に向けた強制対流により、上唇部からオトガイ部を経てマスク型ハウジングの外へ空気を送り出すことができ、蒸散を促進すると共に汗が顎顔面から流れ落ちることを促進することができる。
不感蒸散の促進では、送風用フアン7を低速で逆回転させることによって、マスク型ハウジングと顎顔面との間に生じる自然対流に逆らわないマスク型ハウジングの前上方に排気することができるので、静寂な運転が可能である。
発熱体であるPTC面状ヒーター4と送風用フアン7には、それぞれに可変抵抗器3,5が接続され、それぞれの出力を調節することができるので、熱線放射の強度と強制対流の速度をそれぞれ独立して調節することが可能である。
電気回路の内、電源回路Aはバッテリーボックス16に、その他の電気回路B,Cはマスク型ハウジングに設置され、電源コード10と接続端子17,18によって接続されるものである。
発熱体であるPTC面状ヒーター4と接続する可変抵抗器3によって、設定されたキュリー点以下の温度領域で熱線放射の強度を調節することができる。
【0031】
図2に於いては、本発明実施例によるマスク型ハウジング部の右斜め前方からの外観を示す模式図である。耐熱樹脂製の前部カバー8の正中上方で、マスク型ハウジングの装着時に於ける鼻孔相当位よりも上位に、送風用フアン7がマスク型ハウジングを貫通して設置され、マスク型ハウジングの前上方から後下方の顎顔面に向けて強制対流を生じさせ、マスク型ハウジングの下方から顎顔面上の空気を送出することができる。
【0032】
図3は、マスク型ハウジング部の前面の外観を示す模式図である。
マスク型ハウジングの辺縁部は全周がシリコン製のフレーム11で縁取られていて、皮膚と接触する部位で皮膚との接触圧を緩和することができる。
マスク型ハウジングの前部カバー8には左右のフック装着用金具9と、極性転換連動スイッチ6の操作部と、可変抵抗器5の操作部と、可変抵抗器3の操作部が設置され、電源回路Aと接続する電源コード10が前部カバー8の下方から導出されている。
【0033】
図4は、マスク型ハウジング部の後面の外観を示すが、マスク型ハウジング部の後部カバー12の裏面に設置されているPTC面状ヒーター4の位置を示す模式図である。
マスク型ハウジングの前部カバー8と後部カバー12の間に設けられたスペースには、電源回路Aを除き、電気回路Bと、送風用フアンの一部分を除いた電気回路Cが納められ、マスク型ハウジングのアルミ板製後部カバー12に設けられた送風用フアン7の開口部は、マスク型ハウジング部を装着した時の鼻孔相当位よりも上方に位置するように設置されている。後部カバー12がアルミ板製で熱の良導体であることから、後部カバー12表面の全面からマスク型ハウジングの後方に位置する顎顔面部に向けて熱線を放射することができる。
【0034】
図5に於いては、発熱体であるPTC面状ヒーター4の中央部で水平的にマスク型ハウジング部を切断した断面の状態を示す模式図で、発熱体であるPTC面状ヒーター4は、アルミ板製の後部カバー12の裏面に耐熱性接着剤で設置され、発熱体であるPTC面状ヒーター4と前部カバー8との間には断熱材15が設置され、断熱機能を果たすと共にPTC面状ヒーター4を後部カバー12の裏面に圧接して保持する作用を有している。
マスク型ハウジングの湾曲が大きく、後部カバー12と顎顔面の間に空間が生じることから、不感蒸散や発汗を妨げることがなく、送風用フアン7による顎顔面上の強制対流によって顎顔面上での水の蒸散を促進することが容易である。
【0035】
図6においては、本発明実施例によるバッテリーボックス部を示すもので、バッテリーボックス16にはマスク型ハウジングへの装着用フック20の付いたネックバンド19が設置され、首との接触部にはウレタンフオームのクッション21が設けられている。また、バッテリーボックス16の中には電源回路Aが入っていて、バッテリーボックス16の側面片側には電源スイッチ2の操作部とバッテリーボックス側接続端子17が設置され、電源コード10に設置された電源コード側接続端子18と接続して、マスク型ハウジング内の各電気回路に電力を供給する。
【0036】
図7においては、本発明実施例の人への装着状態を示す模式図で、電源回路Aを収容したバッテリーボックス16に設置されたネックバンド19の先端に付けられたフック20を、マスク型ハウジングの前部カバー8に設置されたフック装着用金具9に掛け、バッテリーボックス16をクッション21を介して首にマウントして、マスク型ハウジング部を顎顔面に装着した状態を示すものである。
マスク型ハウジング部の下部はオトガイ部上を間隙を有して通過して、マスク型ハウジング部の下部とオトガイ部の皮膚とは接触せず、運動時の呼吸状態でも呼吸を妨げない通気経路を確保すると共に汗が顎顔面から流れ落ちることを可能とする。
【符号の説明】
【0037】
1 充電式バッテリー
2 電源スイッチ
3 発熱体用可変抵抗器
4 発熱体(PTC面状ヒーター)
5 フアン用可変抵抗器
6 極性転換連動スイッチ
7 送風用フアン
8 前部カバー
9 フック装着用金具
10 電源コード
11 フレーム
12 後部カバー
13 突起部
14 ビス
15 断熱材
16 バッテリーボックス
17 バッテリーボックス側接続端子
18 電源コード側接続端子
19 ネックバンド
20 フック
21 クッション
A 電源回路
B 発熱体回路
C 強制対流発生装置回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7