(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068077
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】金属銅をカソード電極とする1コンパートメント型水溶液燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/08 20160101AFI20220426BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20220426BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220426BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
H01M8/08
H01M8/02
H01M4/90 M
H01M12/06 G
H01M12/06 F
H01M12/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020187599
(22)【出願日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】500055935
【氏名又は名称】佐想 光廣
(71)【出願人】
【識別番号】517217232
【氏名又は名称】クロステクノロジーラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】佐想 光廣
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA02
5H018AS02
5H018AS03
5H018EE02
5H018HH06
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS11
5H032CC11
5H032CC16
5H032EE01
5H032EE03
5H126BB02
5H126GG11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】1コンパートメントの燃料電池の提供。
【解決手段】過酸化水素を含む電解液中で金属銅からなるカソード電極と、銅より電極電位の卑なる金属アノードと対向し、過酸化水素を含む電解質中で銅カソード表面で水素ガスの発生を起させ、そこで、過酸化水素から供給される酸素と反応させ、外部から水素供給をせず、発電反応させる燃料電池を構成する。本発明の構成は1コンパートメント構造の水素燃料電池又は過酸化水素燃料電池として新規で有用な構成を提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも導電性を付与する電解質と過酸化水素を含む水性電解液と、該電解液中に浸漬する、金属銅からなるカソード電極と、該金属銅より電極電位が卑なる金属アルミ又はマグネシウム金属或いはその合金からなるアノード電極とを備え、前記電解液中に前記金属銅のカソード電極とアノード電極を対向配置してなり、カソード電極表面で水素と酸素とを反応させることを特徴とする1コンパートメント型燃料電池。
【請求項2】
アノード電極及びカソード電極を板状となし、そのアノード電極板の両面に金属銅板であるカソード電極を前記電解液中で間隔をおいて対向配置してなる電極構成を少なくとも1組備える請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記電解液が過炭酸ナトリウム及び/又は塩化ナトリウム及び過酸化水素を含む請求項1記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属銅をカソード電極とし、電解質水溶液槽内で、イオン分離膜壁で正極陰極を分離することなく、1コンパートメントで発電する新規な燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅をカソード電極とする電池としては金属亜鉛を対極とし、希硫酸電解液中で金属の溶解・金属イオンの蓄積をエネルギーとした化学電池であるボルタ電池が有名であるが、銅をカソード電極とする金属空気電池及び燃料電池は開発されていない。なぜなら、カソードにおける酸素を活物質とし、アノードとして金属電極を利用する金属空気電池としては正極活物質である酸素と負極活物質の金属との反応物をカソード側で貯蔵するシステムを採用するため、金属酸化物である反応物を貯蔵する金属以外の炭素電極、セラミック電極を使用する必要があり、銅をカソード電極とする金属空気電池は存在しない。また、燃料電池に至っては、水素燃料電池が脚光を浴びており、典型的には固体電解質を挟んだ電極に水素を、そしてもう一方の電極に酸素を送って水素と酸素を反応させることにより発電させるもので、水素の供給源と、水素と酸素を反応させる固体電解質を両電極で挟むことを必要とするものであり、銅をカソード電極とする水素燃料電池は存在しない。
【0003】
近年、水素燃料電池と違って、水溶液を用いる1コンパートメント構造の過酸化水素燃料電池が燃料の供給が容易で、しかもカソードとアノード室を区画する膜のない1コンパートメント構造で動作できるため、有望なエネルギー変換プラットフォームとして期待されている。しかしながら、過酸化水素は燃料と酸化剤の両方として機能する高エネルギー密度液体であるので、ほとんどの金属電極はH2O2のH2OとO2
への不均化反応を触媒し、その結果、過酸化物燃料電池における著しい損失機構を示すので、金属をカソード電極とする過酸化水素燃料電池は存在しない。
【0004】
そこで、従来、伝導性ポリマーであるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)をカソード電極とし、アノード電極としてニッケルメッシュを使用して、不均化反応による損失を発生させることない、0.20~0.30mW cmの電力密度で0.5~0.6Vの範囲のオープン回路電位をしめす過酸化物燃料電池が発表されている(非特許文献1:「Single-Compartment hydrogen peroxide fuel cell with poly(3,4-ethylenedioxythiophene)cathodes」Chemical Communications,2018,Vol.54,Pages 11873-11876)。他方、カソード材料としてヘキサシアノ鉄酸銅(CuHCF)を使用し、アノード材料としてNiグリッドを使用する過酸化水素燃料電池も発表されている(非特許文献2:「Copper hexacyanoferrate as cathode material for hydrogen peroxide fuel cell」International Journal of Hydrogen Energy,ELSEVIER,Vol.45,Issue 47,25 September 2020,Pages 25708-25718)。
【先行技術文献】
【0005】
【非特許文献1】Chemical Communications,2018,Vol.54,Pages 11873-11876
【非特許文献2】Journal of Hydrogen Energy,ELSEVIER,Vol.45,Issue 47,25 September 2020,Pages 25708-25718
【発明の概要】
【発明の解決すべき課題】
【0006】
かかる現状において、化学電池でなく、カソード極において、空気中の酸素を活物質とする金属空気電池又は燃料電池の構成が電気エネルギー供給源として好ましいものであるが、水素燃料電池は水素・酸素の反応槽をなす固体電解質と、外部から水素を供給する必要があり、水素ステーションという設備は水素燃料電池の自動車への有効利用性を制限するものとなっている。それに対し、過酸化水素を燃料とする燃料電池では、1コンパートメント内での反応であり、電池系のコンパクト化には有望であるが、カソード電極材料として伝導性ポリマーであるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)または、ヘキサシアノ鉄酸銅(CuHCF)を使用する必要があるため、汎用性に欠けるという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明者は、各種実験の中で、金属銅を使用し、塩化ナトリウム及び過酸化水素或いは過炭酸ナトリウムを含む水溶液を用いる条件下では銅表面から多量の水素の発生が見られる現象に着目した(
図2)。そして、鋭意研究の結果、この電極表面で発生する水素が利用できると、水素燃料電池において、最大の問題である過大な水素供給システムの必要をなくすることができるとの考えに至った。他方、過酸化水素燃料電池においては、1コンパートメントの水溶液中で酸素を供給して発電できる燃料電池が容易に供給できるので、汎用性のある金属電極を使用しても、カソード電極で過酸化水素を不均化させることをなくせば、簡易な燃料電池を供給することができることに着目した。本発明者はかかる着目点に鑑み、鋭意研究の結果、電池内で水素が供給できるシステムを利用する一方、従来の水素燃料電池のように、固体電解質で電解層を二分することなく、カソードに酸素を供給して、1コンパートメントの水溶液中で酸素と水素を反応させて発電できる燃料電池構成を提供することを目的とした。
【課題を達成すべき手段】
【0008】
本発明は、
図1に概略するように、少なくとも導電性を付与する電解質と過酸化水素を含む水溶性電解液と、該電解液中に浸漬する、金属銅からなるカソード電極と、金属銅より電極電位が卑なる金属アルミ又はマグネシウム金属又はその合金からなるアノード電極とを備え、前記電解液中に浸漬して前記金属銅のカソード電極とアノード電極を対向配置してなる、ことを特徴とする1コンパートメント型燃料電池にある。本発明においては、カソード電極である金属銅表面での水素イオン又は水素ガスの発生を利用するため、アノード電極を板状となし、その両面に金属銅板が間隔をおいて対抗配置してなる電極構成を少なくとも1組備えるのがよい。
【発明の作用効果】
【0009】
本発明によれば、なぜかカソード電極である金属銅表面で水素と酸素が発生し、反応するらしく、その反応に特有な発熱する沸騰現象が見られる(
図3)。他方、電解質と過酸化水素を含む水溶性電解液はほぼ中性域にあるので、アノード極を構成するアルミ又はマグネシウムはほぼ1昼夜で1~5%が溶解ロスするのみで、希硫酸を電解液として用いる化学電池のボルタ電池の場合より極めて小さい。そして、ボルタ電池ではおよそ1時間未満で銅表面は不動態化して発電が停止するのに対し、本発明においては過酸化水素が電解液中に存在する限り、1昼夜発電は継続するので、アノード極が溶解する化学電池でなく、また、銅電極表面で、過酸化水素から形成される酸素及び水素が反応し、発熱するためかアノード極とカソード極との間で電解液が加熱され、沸騰現象が徐々にみられるようになるため、本発明の電池構成は、水素と酸素とが反応して反応熱が発生する水素燃料電池特有の現象を有するものであると認められる。よって、本発明では従来の化学電池では見られたことのない、電極重量減少グラムあたり、5wh/g以上の発電量が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】過酸化水素を含む電解液中で金属銅表面から水素の発生が認められることを示す写真である。
【
図3】本発明構成では電極間に挟まれる電解液の沸騰現象が認められることを示す写真である。
【
図4】本発明の具体的な電池構成での発電状態を示す写真である。
【発明の実施態様】
【0011】
図4に示す電池構成で発電量を測定した。
容量1200mlの波板壁を有する上部開放型直方体プラスチック容器内に等間隔で、電極を配置する。10×20cmの厚み0.5mmの銅板を3枚、同じく10×20cmの厚み0.5mmのアルミ板を2枚を、左から順に、交互に銅板/アルミ板/銅板/アルミ板/銅板を対向配置し、水道水750mlに食塩を0.5~2.0モル/lの濃度となるように調整し、これに過酸化水素水(濃度30%和光純薬社製)250ml、又はそれに相当する過炭酸ナトリウムl、或いは過酸化水素水250ml及び過炭酸ナトリウム0.5モル/lを混合し、その発電量を測定した。
【0012】
その結果、過酸化水素の供給量にもよるが、0.5モル/lの食塩水以下では、発電量は小さく、1.5モル以上2.0モル/lの濃度の食塩水では容器から電解液が沸騰してこぼれるほど反応が大きくなるので、1.0モル/l以上1.5モル/l以下、好ましくは1.2モル/l前後の食塩濃度が好ましいことが分かった。
【0013】
過酸化水素の供給量は30%過酸化水素水(mass/mass)で電解液の10分の1から4分の1で開始し、一定時間ごと、好ましくは2~3時間ごとに10~30mlを添加するのが好ましいが、過炭酸ナトリウムを用いて過酸化水素水の添加に替えることができる。また、過炭酸ナトリウムを使用すると、過酸化水素が徐々に放出されるので、本発明電池の反応制御にとって望ましい。また、炭酸ナトリウムが電解質となるので、特に食塩を添加せずとも反応は進行する。しかしながら、過酸化水素水と過炭酸ナトリウムと食塩の三者を同時に用いることにより、発電反応の立ち上がりが早く、現状では最も好ましい組み合わせとなる。
【0014】
以上の実験を考察すると、本発明においては、金属銅をカソード電極として用い、過酸化水素を含む電解質中で銅より電極電位の卑なる金属アノードと対向すると、過酸化水素を含む電解質中ではその銅カソード表面で水素ガスの発生が起こり、そこで、過酸化水素水から供給される酸素と反応して水素燃料電池で見られる発電反応が起こる。これは現在まで見出されていない現象である。そのため、本発明の構成は1コンパートメント構造の水素燃料電池又は過酸化水素燃料電池として新規で有用な構成を提供することができるので、画期的である。