(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068097
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】金属帯の温度測定方法、金属帯の温度測定装置、金属帯の製造方法、金属帯の製造設備、及び、金属帯の品質管理方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/00 20220101AFI20220426BHJP
C21D 9/573 20060101ALI20220426BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
G01J5/00 101A
C21D9/573 101Z
C21D9/56 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130195
(22)【出願日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2020176486
(32)【優先日】2020-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 紘明
(72)【発明者】
【氏名】中村 章紀
【テーマコード(参考)】
2G066
4K043
【Fターム(参考)】
2G066AC11
2G066BC15
2G066CA14
2G066CA15
4K043AA01
4K043CA02
4K043CA04
4K043CB01
4K043CB03
4K043DA01
4K043DA05
4K043EA06
4K043FA03
4K043FA12
4K043FA13
4K043GA07
4K043GA10
(57)【要約】
【課題】2つのロール間で金属帯の温度を簡易に精度よく測定することができる金属帯の温度測定方法、金属帯の温度測定装置、金属帯の製造方法、金属帯の製造設備、及び、金属帯の品質管理方法を提供すること。
【解決手段】金属帯の搬送方向に間隔をあけて配置された、金属帯が巻き付く2つのロールの間で、金属帯の温度を測定する金属帯の温度測定方法であって、2つのロールのうち、金属帯の搬送方向で上流側に位置する上流側ロールに埋設された熱電対によって上流側ロールの温度を測定するステップと、金属帯の上流側ロールに巻き付いた部分を第1放射温度計で測定し、放射輝度を求めるステップと、熱電対によって測定された温度と放射輝度とから、金属帯の放射率を算出するステップと、放射率を用いて第2放射温度計により、2つのロールの間に設定された測定位置で金属帯の表面温度を測定するステップと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯の搬送方向に間隔をあけて配置された、前記金属帯が巻き付く2つのロールの間で、前記金属帯の温度を測定する金属帯の温度測定方法であって、
前記2つのロールのうち、前記金属帯の搬送方向で上流側に位置する上流側ロールに埋設された熱電対によって前記上流側ロールの温度を測定するステップと、
前記金属帯の前記上流側ロールに巻き付いた部分を第1放射温度計で測定し、放射輝度を求めるステップと、
前記熱電対によって測定された温度と前記放射輝度とから、前記金属帯の放射率を算出するステップと、
前記放射率を用いて第2放射温度計により、前記2つのロールの間に設定された測定位置で前記金属帯の表面温度を測定するステップと、
を有することを特徴とする金属帯の温度測定方法。
【請求項2】
前記金属帯の搬送方向における、前記第1放射温度計による金属帯表面の測定位置と、前記第2放射温度計による金属帯表面の測定位置との距離と、
前記金属帯の搬送速度または前記上流側ロールの回転数と、
を用いて、
金属帯表面の同一個所を前記第1放射温度計及び前記第2放射温度計によって測定することを特徴とする請求項1に記載の金属帯の温度測定方法。
【請求項3】
金属帯の搬送方向に間隔をあけて配置された、前記金属帯が巻き付く2つのロールの間で、前記金属帯の表面温度を測定する金属帯の温度測定装置であって、
前記2つのロールのうち、前記金属帯の搬送方向で上流側に位置する上流側ロールに埋設され、前記上流側ロールの温度を測定する熱電対と、
前記金属帯の前記上流側ロールに巻き付いた部分を測定する第1放射温度計と、
前記熱電対によって測定された温度と、前記第1放射温度計の測定結果から得られた放射輝度とから、前記金属帯の放射率を算出する手段と、
前記放射率を用いて、前記2つのロールの間に設定された測定位置で前記金属帯の表面温度を測定する第2放射温度計と、
を備えることを特徴とする金属帯の温度測定装置。
【請求項4】
前記金属帯の搬送方向における、前記第1放射温度計による金属帯表面の測定位置と、前記第2放射温度計による金属帯表面の測定位置との距離と、
前記金属帯の搬送速度または前記上流側ロールの回転数と、
を用いて、
金属帯表面の同一個所を前記第1放射温度計及び前記第2放射温度計によって測定することを特徴とする請求項3に記載の金属帯の温度測定装置。
【請求項5】
金属帯の製造ステップと、
請求項1または2に記載の金属帯の温度測定方法によって、前記製造ステップにおいて、前記金属帯の温度を測定する温度測定ステップと、
を含むことを特徴とする金属帯の製造方法。
【請求項6】
前記温度測定ステップは、前記金属帯の搬送中の温度を測定するものであり、
前記温度測定ステップで測定した温度を用いて、前記製造ステップに含まれる工程のうち、前記温度測定ステップより後にある1つまたは複数の工程の条件を制御することを特徴とする請求項5に記載の金属帯の製造方法。
【請求項7】
金属帯を製造するための製造設備と、
前記製造設備により製造される金属帯の温度を測定する請求項3または4に記載の金属帯の温度測定装置と、
を備え、
前記製造設備は、前記金属帯を搬送するロールを有する搬送設備を備え、
前記温度測定装置は、前記搬送設備内に設けられることを特徴とする金属帯の製造設備。
【請求項8】
請求項1または2に記載の金属帯の温度測定方法によって、金属帯の温度を測定する温度測定ステップと、
前記温度測定ステップにより得られた温度測定結果から、前記金属帯の品質管理を行う品質管理ステップと、
を含むことを特徴とする金属帯の品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯の温度測定方法、金属帯の温度測定装置、金属帯の製造方法、金属帯の製造設備、及び、金属帯の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄鋼板などの鋼帯の製造工程においては、材質の造りこみの観点から、鋼帯の温度管理が非常に重要である。特に、焼鈍工程では、鋼帯が各工程で目標温度となるように制御するために、搬送中の鋼帯の温度を測定するニーズがある。代表的な温度測定方法としては、鋼帯の放射輝度を測定し、測定した放射輝度を温度に換算する放射測温が挙げられる。しかしながら、鋼帯の放射率が既知でないと正しく測温することができず、製造工程で表面性状が大きく変化する鋼帯には、放射率の設定において課題が存在している。
【0003】
金属帯、特に鋼帯の放射率に関わらず測温できる手法としては、例えば、特許文献1に開示されているような多重反射式放射温度方式の測温装置を用いた手法、非特許文献1に開示されているような測温ロール方式の測温装置を用いた手法、及び、特許文献2に開示されているような分光主成分放射温度計を備えた測温装置を用いた手法などが挙げられる。多重反射式放射温度方式の測温装置を用いた手法では、例えば、
図6に示すように、鋼帯110が巻き付いているロール120と鋼帯表面とのわずかな隙間を放射温度計140の視野とすることによって、疑似的に多重反射条件とし、放射率1.0に近づいた状態で鋼帯110の測温がなされる。また、測温ロール方式の測温装置を用いた手法では、例えば、
図7に示すように、ロール130の内部に周方向にわたって複数の熱電対131を埋め込み、鋼帯110のロール130に巻き付いた部分で、ロール130の温度と鋼帯温度とが同一となる条件を作り出すことによって、熱電対131により鋼帯110の測温がなされる。また、分光主成分放射温度計を備えた測温装置を用いた手法では、鋼帯の分光放射と、主成分分析による学習とを用いて鋼帯の測温がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4-58568号公報
【特許文献2】特許第5979065号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄と鋼、1993年、vol.79、No.7、p.765-771
【非特許文献2】計測自動制御学会論文集、1982年、vol.18、No.7、p.704-709
【非特許文献3】JIS C 1612、放射温度計の性能試験方法通則
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び非特許文献1に開示された手法は、鋼帯の温度を正しく測定する上で非常に有力な方法である。しかしながら、ロールと鋼帯との温度が同一でないと使用できず、十分に鋼帯がロールに巻き付いている必要があり、ロールに鋼帯が巻き付いていない、鋼帯の搬送方向に間隔をあけて配置された2つのロール間の直線パスでは、特許文献1及び非特許文献1に開示された手法は使用できない。また、特許文献2に開示された手法も、鋼帯温度の真値を取るために接触式熱電対が必要であり、装置が大掛かりになることや、学習のために大量のデータが必要になるなどの課題が存在する。
【0007】
一方、ロール間の直線パスにおいても、水焼き入れなどの鋼帯温度が急変する直前など、温度管理上、非常に重要な工程もあり、強い測温のニーズが存在する。特に、水焼き入れ直前の鋼帯温度は、材質上、きわめて重要であるが、設備制約上、水焼き入れ直前に鋼帯を巻き付けるためのロールを配置することは困難であり、ロールを用いた測温が適用できない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、2つのロール間で金属帯の温度を簡易に精度よく測定することができる金属帯の温度測定方法、金属帯の温度測定装置、金属帯の製造方法、金属帯の製造設備、及び、金属帯の品質管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る金属帯の温度測定方法は、金属帯の搬送方向に間隔をあけて配置された、前記金属帯が巻き付く2つのロールの間で、前記金属帯の温度を測定する金属帯の温度測定方法であって、前記2つのロールのうち、前記金属帯の搬送方向で上流側に位置する上流側ロールに埋設された熱電対によって前記上流側ロールの温度を測定するステップと、前記金属帯の前記上流側ロールに巻き付いた部分を第1放射温度計で測定し、放射輝度を求めるステップと、前記熱電対によって測定された温度と前記放射輝度とから、前記金属帯の放射率を算出するステップと、前記放射率を用いて第2放射温度計により、前記2つのロールの間に設定された測定位置で前記金属帯の表面温度を測定するステップと、を有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る金属帯の温度測定方法は、上記の発明において、前記金属帯の搬送方向における、前記第1放射温度計による金属帯表面の測定位置と、前記第2放射温度計による金属帯表面の測定位置との距離と、前記金属帯の搬送速度または前記上流側ロールの回転数と、を用いて、金属帯表面の同一個所を前記第1放射温度計及び前記第2放射温度計によって測定することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明に係る金属帯の温度測定装置は、金属帯の搬送方向に間隔をあけて配置された、前記金属帯が巻き付く2つのロールの間で、前記金属帯の表面温度を測定する金属帯の温度測定装置であって、前記2つのロールのうち、前記金属帯の搬送方向で上流側に位置する上流側ロールに埋設され、前記上流側ロールの温度を測定する熱電対と、前記金属帯の前記上流側ロールに巻き付いた部分を測定する第1放射温度計と、前記熱電対によって測定された温度と、前記第1放射温度計の測定結果から得られた放射輝度とから、前記金属帯の放射率を算出する手段と、前記放射率を用いて、前記2つのロールの間に設定された測定位置で前記金属帯の表面温度を測定する第2放射温度計と、を備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明に係る金属帯の温度測定装置は、上記の発明において、前記金属帯の搬送方向における、前記第1放射温度計による金属帯表面の測定位置と、前記第2放射温度計による金属帯表面の測定位置との距離と、前記金属帯の搬送速度または前記上流側ロールの回転数と、を用いて、金属帯表面の同一個所を前記第1放射温度計及び前記第2放射温度計によって測定することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る金属帯の製造方法は、金属帯の製造ステップと、上記の発明の金属帯の温度測定方法によって、前記製造ステップにおいて製造された金属帯の温度を測定する温度測定ステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明に係る金属帯の製造方法は、上記の発明において、前記温度測定ステップは、前記金属帯の搬送中の温度を測定するものであり、前記温度測定ステップで測定した温度を用いて、前記製造ステップに含まれる工程のうち、前記温度測定ステップより後にある1つまたは複数の工程の条件を制御することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明に係る金属帯の製造設備は、金属帯を製造するための製造設備と、前記製造設備により製造される金属帯の温度を測定する上記の発明の金属帯の温度測定装置と、を備え、前記製造設備は、前記金属帯を搬送するロールを有する搬送設備を備え、前記温度測定装置は、前記搬送設備内に設けられることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明に係る金属帯の品質管理方法は、上記の発明の金属帯の温度測定方法によって、金属帯の温度を測定する温度測定ステップと、前記温度測定ステップにより得られた温度測定結果から、前記金属帯の品質管理を行う品質管理ステップと、を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る金属帯の温度測定方法、金属帯の温度測定装置、金属帯の製造方法、金属帯の製造設備、及び、金属帯の品質管理方法は、2つのロール間で金属帯の温度を簡易に精度よく測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に係る金属帯(一例として鋼帯)の製造設備に設けられた金属帯測温装置(一例として鋼帯測温装置)の概略構成を示した図である。
【
図2】
図2は、第1放射温度計の校正結果の一例を示したグラフである。
【
図3】
図3は、従来のフィードバック制御についての説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る鋼帯の製造設備で実施可能なフィードフォワード制御についての説明図である。
【
図5】
図5は、実施例の測温結果を示したグラフである。
【
図6】
図6は、多重反射式放射温度方式の測温装置の概略構成を示した図である。
【
図7】
図7は、測温ロール方式の測温装置の概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る金属帯の温度測定方法、金属帯の温度測定装置、金属帯の製造方法、金属帯の製造設備、及び、金属帯の品質管理方法の実施形態について説明する。なお、本実施形態においては、金属帯の一例として鋼帯を用いて説明する。すなわち、金属帯の製造設備については一例として鋼帯の製造設備で、金属帯の測温装置については一例として鋼帯の測温装置で説明する。もちろん、発明の効果を損ねない限り、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0020】
図1は、実施形態に係る鋼帯の製造設備に設けられた鋼帯測温装置1の概略構成を示した図である。
【0021】
当該鋼帯の製造設備は、以下に説明する鋼帯の搬送設備を備えている。
図1に示すように、実施形態に係る鋼帯10の搬送設備には、鋼帯10の搬送方向を上下に変更するための下部搬送ロール20と上部搬送ロール30と搬送ロール80とが設けられている。下部搬送ロール20は、
図1中で反時計回り方向に回転しており、下部搬送ロール20に巻き付いた鋼帯10の搬送方向を横向きから上向きに変更しつつ搬送する。上部搬送ロール30は、
図1中で時計回り方向に回転しており、下部搬送ロール20から上向きに搬送され、上部搬送ロール30に巻き付いた鋼帯10の搬送方向を下向きに変更しつつ搬送する。上部搬送ロール30よりも鋼帯10の搬送方向で下流側には、例えば、焼鈍炉による焼鈍後の鋼帯10を冷却水によって急冷するための急冷装置60が設けられている。なお、実施形態に係る鋼帯10の製造設備においては、製造する鋼帯10の種類などに応じて、上部搬送ロール30よりも鋼帯10の搬送方向で下流側に、急冷装置60に替えて鋼帯10を加熱する加熱装置を設けても良い。また、急冷装置60よりも鋼帯10の搬送方向の下流側には、鋼帯10が巻き付いて搬送される搬送ロール80が設けられている。なお、本実施形態においては、上部搬送ロール30と搬送ロール80とが、本発明の2つのロールであって、上部搬送ロール30が上流側ロールに、搬送ロール80が下流側ロールに相当する。
【0022】
ここで、
図1からわかるように、急冷装置60の直前には、上部搬送ロール30によって搬送された後の鋼帯10が、搬送ロールに巻き付いていない上下方向の直線パス50しか存在せず、なおかつ、この直線パス50において鋼帯10が搬送中に空冷などによって温度変化する要因が存在する。そのため、実施形態に係る鋼帯10の製造設備は、鋼帯10の搬送設備内に急冷装置60の直前の鋼帯10の温度を測定するための温度測定装置である鋼帯測温装置1を備えている。鋼帯測温装置1は、複数の熱電対31が埋設された上部搬送ロール30、第1放射温度計41、第2放射温度計42、及び、制御装置70などによって構成されている。
【0023】
上部搬送ロール30の内部には、周方向にわたって複数の熱電対31が埋設されており、上部搬送ロール30が測温ロールとしての機能を有している。なお、実施形態に係る鋼帯測温装置1においては、上部搬送ロール30の内部に1つ以上の熱電対31を埋設すればよい。また、上部搬送ロール30の性質上、鋼帯10からの熱伝達によって加熱される上部搬送ロール30の温度と、鋼帯温度とが同一になる必要があるため、上部搬送ロール30に対して鋼帯10が半周以上、巻き付いていることが望ましい。
【0024】
第1放射温度計41は、鋼帯10の上部搬送ロール30に巻き付いた部分における表面温度を測定可能なように配置されている。なお、第1放射温度計41の測定位置PAは、鋼帯10の上部搬送ロール30に巻き付いた部分であれば特に限定されるものではない。また、実施形態に係る鋼帯測温装置1においては、鋼帯10の上部搬送ロール30に巻き付いた部分を測定する第1放射温度計41を1つ以上設ければよい。
【0025】
第2放射温度計42は、鋼帯10の搬送方向で急冷装置60の直前の位置における鋼帯10の表面温度を測定可能なように配置されている。なお、第2放射温度計42の測定位置PBは、できるだけ急冷装置60に近いほうが好ましい。また、実施形態に係る鋼帯測温装置1においては、急冷装置60の直前の位置で鋼帯10の表面温度を測定する第2放射温度計42を1つ以上設ければよい。
【0026】
第1放射温度計41及び第2放射温度計42は、搬送中の鋼帯10と接触しない程度に、鋼帯表面から所定間隔をあけて配置されている。この際、第1放射温度計41及び第2放射温度計42と鋼帯表面との間隔は、第1放射温度計41及び第2放射温度計42のそれぞれの円形のスポット径内に、鋼帯表面上の狙いの個所がおさまっていれば、特定に限定されない。また、第1放射温度計41及び第2放射温度計42は、
図1に示すように、鋼帯表面に対して垂直な位置で測定可能に配置することに限定されず、例えば、鋼帯表面に対して垂直な位置から鋼帯10の搬送方向の上流側または下流側に60[°]以下の範囲で傾いた位置で測定可能に配置してもよい。
【0027】
制御装置70は、第1放射温度計41及び上部搬送ロール30の測定結果を用いて放射率εを算出し、その算出した放射率εを、第2放射温度計42の測定時に適用して、急冷装置60の直前の鋼帯温度を算出する。なお、放射率εは、波長依存性を持つため、第1放射温度計41と第2放射温度計42とは同一波長特性であることが望ましい。
【0028】
また、実施形態に係る鋼帯10の製造設備では、第1放射温度計41の測定位置PAと、第2放射温度計42の測定位置PBとで、なるべく鋼帯10の表面性状が変化しないことが好ましい。
【0029】
ここで、実施形態に係る鋼帯測温装置1において、第1放射温度計41としては、放射温度を測定結果として出力する仕様のものと、放射輝度を測定結果として出力する仕様のものとの、いずれも適用可能である。そのため、まずは、第1放射温度計41が放射温度を測定結果として出力する仕様の場合について説明する。
【0030】
放射温度を出力する仕様の第1放射温度計41では、ある一定の放射率εに設定して、鋼帯10の測温を実施する。この際、設定する放射率εは既知であればなんでも良いが、便宜上、1.0としておく。そして、このように放射率εを設定した第1放射温度計41によって鋼帯10の上部搬送ロール30に巻き付いた部分を測定し、鋼帯10の放射温度T
Aを第1放射温度計41の測定結果として出力する。このとき、上部搬送ロール30の熱電対31によって測定された測温値をT
rとする。鋼帯10の放射率εを算出するためには、放射率εが1.0(黒体条件)のときの放射輝度と、実際の放射輝度とを比較する必要があるため、得られた温度値を輝度値に換算する必要がある。なお、この際に用いる換算式は、第1放射温度計41を設置する前に校正により予め算出しておく。校正に用いる式は、一般的な多項式などでも良いが、精度を求めるのであればプランクの式をよく近似している下記数式(1)で表される佐久間服部の式(非特許文献2を参照)などが望ましく、本実施形態においても佐久間服部の式を用いる。第1放射温度計41の校正方法は、例えば、非特許文献3に開示された校正方法を適用でき、第1放射温度計41の校正結果の一例を
図2に示す。
図2に示すように、第1放射温度計41の校正を行うことによって、温度Tと、第1放射温度計41が出力する出力信号電圧Vとの間に、相関性が得られていることがわかる。このとき、第1放射温度計41の固有のパラメータA,B,Cが得られ、本パラメータを用いて鋼帯10の放射率εを算出する。なお、下記数式(1)中、c
2は放射の第二定数である。
【0031】
【0032】
上記数式(1)を用いて、測温値Trを放射輝度Sr(Tr)に換算した結果を下記数式(2)に示し、放射温度TAを放射輝度SA(TA)に換算した結果を下記数式(3)に示す。なお、第1放射温度計41によって放射温度TAを測定するときに、放射率εを1.0に設定していない場合は、放射温度TAを測定するときに設定した放射率εで放射輝度SA(TA)を割ることによって、放射輝度SA(TA)を補正する。
【0033】
【0034】
【0035】
そして、放射率εは、黒体条件(測温値T
rを換算した結果)の放射輝度S
r(T
r)と実際の放射輝度S
A(T
A)との比であるため、下記数式(4)で算出することができる。
【数4】
【0036】
今回は、佐久間服部の式を用いて、測温値Tr及び放射温度TAと、放射輝度Sr(Tr),SA(TA)との換算を実施したが、換算に用いる式としては佐久間服部の式に限定されるものではなく、他の式を用いて、測温値Tr及び放射温度TAと、放射輝度Sr(Tr),SA(TA)との換算を実施も同様の結果が得られる。測温値Tr及び放射温度TAと、放射輝度Sr(Tr),SA(TA)との換算に、どの式を選定するのかは、計算量、精度、及び、放射温度計の波長特性などを鑑みて、適切な式を選定すればよい。
【0037】
次に、第1放射温度計41が放射輝度を測定結果として出力する仕様の場合について説明する。放射輝度を測定結果として出力する仕様の第1放射温度計41では、上記数式(3)によって放射温度TAを放射輝度SA(TA)に換算する必要がない。そのため、上記数式(4)に、第1放射温度計41の出力結果である放射輝度SA(TA)を直接代入し、測温値Trを上記数式(2)によって換算した放射輝度Sr(Tr)を代入して、放射率εを算出することができる。
【0038】
そして、算出した放射率εを用いて、第2放射温度計42によって鋼帯10の測温を実施することにより、第2放射温度計42の測定位置PBにおける鋼帯表面の放射温度TBを得ることができる。
【0039】
また、第2放射温度計42はスポット計測である必要はなく、鋼帯表面の幅方向あるいは2次元の視野を持つ光学素子を用いて算出した放射率εを適用して鋼帯表面の幅方向温度分布を計測しても良い。また、鋼帯表面の幅方向に視野を持つ光学素子の代わりに、スポット温度計を走査させて鋼帯表面の幅方向温度分布を計測しても良い。このとき、鋼帯表面の幅方向の操業条件のばらつきにより、表面性状や放射率εが鋼帯表面の幅方向で異なる可能性がある。放射率εが鋼帯表面の幅方向で異なるときに、特定の一つの放射率εを適用した場合には、放射率εを正しく補正できない領域が発生し、測定する温度の誤差に繋がる。したがって、第1放射温度計41を2次元の視野を持つ光学素子あるいはスポット温度計とし、この第1放射温度計41を走査させることにより、鋼帯表面の幅方向の温度分布を計測可能としても良い。さらには、熱電対をロール幅方向に複数埋め込むことにより、対応する位置の放射輝度と熱電対温度値とから鋼帯表面の幅方向の放射率分布を算出しても良い。鋼帯表面の幅方向の放射率分布を用いて鋼帯表面の幅方向温度分布を算出することにより、鋼帯表面の幅方向に放射率εのばらつきがあったとしても、全測定位置に関わらず精度よく測温することが可能となる。
【0040】
なお、鋼帯10の搬送方向において、第1放射温度計41の測定位置PAと第2放射温度計42の測定位置PBとは離れている。このとき、2つの鋼帯10を搬送方向で溶接して繋げた溶接点の前後など、表面性状及び放射率εが鋼帯10の搬送方向で大きく異なる鋼帯表面が通過する場合には、第1放射温度計41の測定位置PAと第2放射温度計42の測定位置PBとで放射率εが異なる条件が存在する。そのような条件で第1放射温度計41により算出した放射率εを用いて、同時に第2放射温度計42により測温した場合には、鋼帯10の表面性状の変化に伴う放射率εそのものが異なるため、測温誤差の要因となる可能性がある。そのため、第1放射温度計41の測定位置PAで測温した鋼帯表面上の位置と、第2放射温度計42の測定位置PBで測温する鋼帯表面上の位置とが、略同じになるように位置合わせを実施するのが好ましい。そして、例えば、鋼帯10の搬送速度をv[m/s]とし、鋼帯10の搬送方向における、第1放射温度計41の測定位置PAと第2放射温度計42の測定位置PBとの間の距離をL[m]とする。この場合、鋼帯表面上の同一個所が、第1放射温度計41の測定位置PAと第2放射温度計42の測定位置PBとを通過するタイミングには、第1放射温度計41の測定位置PAに対して第2放射温度計42の測定位置PBでL/v[s]の遅延が存在する。したがって、第2放射温度計42が測定した放射温度TBの算出に用いる放射率εは、L/v[s]前に、第1放射温度計41が測定した放射温度TAまたは放射輝度SA(TA)と、上部搬送ロール30の熱電対31が測定した測温値Trと、を用いて算出した放射率εを用いればよい。
【0041】
一方で、鋼帯10の搬送速度を用いて鋼帯表面上の同一個所が移動した距離を算出し、位置合わせを行う場合には、第1放射温度計41の測定位置PAで測温した鋼帯表面上の位置と、第2放射温度計42の測定位置PBで測温する鋼帯表面上の位置との間に位置ズレが発生する可能性がある。その理由は、鋼帯10の搬送速度が等速の場合には精度よく位置合わせできるが、鋼帯表面上の同一個所が第1放射温度計41の測定位置PAから第2放射温度計42の測定位置PBに到達するまでの間に、鋼帯10の搬送速度が変化した場合であっても、鋼帯10の搬送速度が等速であると仮定して鋼帯10の搬送速度と時間との積により、鋼帯表面上の同一個所が移動した距離を算出するためである。そのため、より厳密に制御したい場合には、鋼帯10の搬送速度の変化を考慮して、鋼帯10の搬送速度を時間で積分して鋼帯表面上の同一個所が移動した距離を算出し、第1放射温度計41の測定位置PAで測温した鋼帯表面上の位置と、第2放射温度計42の測定位置PBで測温する鋼帯表面上の位置とが、略同じになるように位置合わせすることがより好ましい。さらに、上部搬送ロール30の回転数によって鋼帯表面上の位置をトラッキングしている場合には、鋼帯表面上の同一個所が、第1放射温度計41と第2放射温度計42とによって測定されるように、トラッキング情報から、第1放射温度計41の測定位置PAで測定した鋼帯表面上の位置と、第2放射温度計42の測定位置PBで測定する鋼帯表面上の位置との位置合わせを実施し、直接、鋼帯表面上の同一個所が移動した距離を算出してもよい。このように、第1放射温度計41の測定位置PAで測定した鋼帯表面上の位置と、第2放射温度計42の測定位置PBで測定する鋼帯表面上の位置との位置合わせを実施することによって、鋼帯表面上の同一個所に対して放射率εの補正を実施することができ、鋼帯10の搬送方向で生じ得る鋼帯表面の放射率変動の影響を受けずに、精度よく測温することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態においては、第1放射温度計41及び上部搬送ロール30に対して第2放射温度計42を鋼帯10の搬送方向で下流側に配置しているが、第1放射温度計41及び上部搬送ロール30に対して第2放射温度計42を鋼帯10の搬送方向で上流側に配置しても、同様の測温が可能となる。ただし、この場合、第2放射温度計42で用いる放射率εが得られるのは、第2放射温度計42によって測温された鋼帯10の表面上の同一個所が、鋼帯表面に対する第1放射温度計41の測定位置PAを通過した後となる。そのため、例えば、第2放射温度計42では、仮の放射率εを用いて測温しておくか、放射輝度を取得しておき、後から得られる放射率εを用いて正しい測温結果に換算する。
【0043】
また、第1放射温度計41及び上部搬送ロール30に対して第2放射温度計42を鋼帯10の搬送方向で上流側に配置した場合においても、上述したのと同様に、鋼帯表面に対する第1放射温度計41の測定位置PAと、鋼帯表面に対する第2放射温度計42の測定位置PBとの位置合わせを実施することが望ましい。
【0044】
ここで、従来、鋼帯の製造設備では、
図3に示すように、急冷装置160によって急冷された後の鋼帯110を放射温度計142によって測温し、その測温結果と、急冷後の鋼帯10の目標温度との差異を、急冷装置160の出力(例えば、単位時間当たりに鋼帯10に向けて噴射する液量など)にフィードバックするフィードバック制御を制御装置170が行うことによって、鋼帯10の温度制御が行われている。しかしながら、フィードバック制御では、実際に急冷後の鋼帯10を測温してから制御装置170によって急冷装置160の出力を調整するため、フィードフォワード制御と比較して、どうしても応答性が低下する。そのため、温度や厚みなどの製造条件が異なる鋼帯を連続して製造する場合には、製造条件が変わる前後で応答性の低下が、急冷後の鋼帯における温度不良領域の増加につながり、歩留まりを低下させる。
【0045】
そこで、実施形態に係る鋼帯10の製造設備においては、
図4に示すように、上記数式(4)を用いて算出された放射率εと、鋼帯10の搬送速度をv[m/s]とを用いて、第1放射温度計41によって測温された鋼帯表面の同一個所が急冷装置60に到達するまでの温度変化を、制御装置70が伝熱計算によって予測する。そして、その予測した温度変化に基づいて、制御装置70によって急冷装置60の出力(例えば、単位時間当たりに鋼帯10に向けて噴射する液量など)を調整するフィードフォワード制御を行い、鋼帯10の温度制御を実施する。
【0046】
なお、鋼帯10の温度制御の応答性を向上させるためには、温度予測によるフィードフォワード制御が有効であるが、鋼帯の製造工程のような高温域では、伝熱は下記数式(5)で表されるように輻射が支配的であり、放射率εが特に重要であった。
【0047】
【0048】
そのため、実施形態に係る鋼帯測温装置1のように、放射率εを精度良く推定することによって、伝熱モデルの精度が向上し、フィードフォワード制御を導入することによって、高い応答性で鋼帯10の温度制御が可能となる。また、鋼帯10の温度制御に、上記フィードフォワード制御と上記フィードバック制御とを組み合わせて、より高精度な温度制御を実現しても良い。
【実施例0049】
次に、発明の効果を示す実施例について説明する。本実施例では、第1放射温度計41、第2放射温度計42、及び、上部搬送ロール30などの鋼帯測温装置1を構成する各構成要素の配置は、
図1と同様である。また、本実施例では、第1放射温度計41及び第2放射温度計42として、InGaAs素子を備えるものを用いた。本実施例では、第2放射温度計42の測定位置P
Bの直後には、急冷装置60によって鋼帯10に水焼き入れを行う水焼き入れ工程があり、焼き入れ直前の鋼帯10の温度管理が極めて重要である。
【0050】
本実施例では、まず、事前に第1放射温度計41の校正を実施した。次に、第1放射温度計41と上部搬送ロール30との測定結果から鋼帯10の放射率εを算出した。なお、放射率εの算出の際に用いた換算式は、佐久間服部の式を用いた。また、本実施例では、第1放射温度計41の測定位置P
Aと第2放射温度計42の測定位置P
Bとが、鋼帯10の搬送方向で30[m]離れている。そのため、本実施例では、鋼帯10の搬送速度v[m/s]を上部搬送ロール30の回転数などから取得して、30/v[s]前に、第1放射温度計41が測定した放射温度T
Aまたは放射輝度S
A(T
A)と、上部搬送ロール30の熱電対31が測定した測温値T
rとを用いて算出した放射率εを、第2放射温度計42の放射温度T
Bの算出時に適用した。
図5に、本実施例の鋼帯10の測温結果を示す。
【0051】
ここで、放射率εを一定にした場合には、第2放射温度計42による鋼帯10の測温結果が大きくばらついていた。これに対して、本実施例では、時々刻々と放射率εを算出し、放射率εの変動を常時補正して、第2放射温度計42による鋼帯10の測温が行われるため、
図5に示すように、鋼帯10の測温結果のばらつきが低減していることがわかる。このように、本実施例では、急冷装置60の直前の直線パス50にて、正しい放射率εを用いて第2放射温度計42により鋼帯10の温度を簡易に精度よく測定することができる。
【0052】
また、本発明を金属帯の製造設備を構成する温度測定装置として適用し、本発明に係る温度測定装置によって、公知または既存の製造設備によって製造された金属帯の温度を測定するようにしてもよい。この場合、既に説明した通り、金属帯を製造するための製造設備は、前記金属帯を搬送するロールを有する搬送設備を備える。そして、本発明に係る温度測定装置は、この搬送設備内に設けられることになる。さらに、本発明に係る温度測定装置は、この搬送設備内の金属帯を搬送する2つのロール間に設けられるのが最も望ましい。
【0053】
また、本発明を金属帯の製造方法に含まれる温度測定ステップとして適用し、公知または既存の製造ステップにおいて、金属帯の温度を測定するようにしてもよい。この場合、既に説明した通り、公知または既存の製造ステップの途中に、本発明に係る温度測定方法を用いて製造途中の金属帯の温度を測定する温度測定ステップを設けることが望ましい。
【0054】
具体的には、金属帯の製造工程における温度が急激に変化する前後に温度測定ステップを設けることが望ましい。金属帯の製造工程において目的の材質を造りこむための手段として水冷や空冷による急冷や、誘導加熱炉(Induction Heatingを略してIH加熱炉と呼ぶ)や直火炉による急加熱は、非常に重要であり、温度変化前後の正確な測温が製品材質に大きく寄与する。しかしながら、このような急冷設備の直前もしくは直後、または急加熱設備の直前もしくは直後は、ロール間であることが多く、多重反射式や測温ロールなどによる精度の良い測温手法を適用することが困難である。本発明により温度測定することで、急冷・急加熱前後の温度を精度良く測定することで、精度良く目的とする材質の金属帯を製造できるようになる。
【0055】
また、温度制御の応答性を高めて過渡応答期間を減少させ、温度非定常領域をなるべく少なくするためにフィードフォワード制御を用いる場合は、上記金属帯の製造方法に追加して、前記温度測定ステップは、前記金属帯の搬送中の温度を測定するものとし、前記温度測定ステップで測定した温度を用いて、前記製造ステップに含まれる工程のうち、前記温度測定ステップより後にある1つまたは複数の工程の条件を制御する。
【0056】
フィードフォワード制御の具体例を、鋼帯の製造技術を例にしていくつか述べる。鋼帯の入側温度から目標温度にラジエントヒーターを用いて加熱制御する加熱帯において、定常状態から何らかの操業条件の変化により、入側温度や鋼帯の放射率が変化して加熱後の温度が目標温度から変化することを考える。このとき、放射率は吸収率と等しいため、ラジエントヒーターからの吸熱量は放射率に依存する。加熱後の計測温度値を用いたフィードバック制御の場合、加熱後に到達するまでラジエントヒーターの出力は変化せず、加熱後に到達して初めて制御が始まるため、その間に搬送された鋼帯は目標温度からの誤差が大きくなる。本発明により算出した放射率を用いて、ラジエントヒーターからの吸熱量を入側の時点でシミュレーションし、加熱後の温度を予測してラジエントヒーターの出力を予めフィードフォワード制御することで、加熱後の鋼帯温度を目標温度に近づけることができ、結果として不良となる材の領域を減少させることが可能となる。
【0057】
次に、鋼帯の入側温度から目標温度にIH加熱炉等を用いて加熱制御する加熱帯において、定常状態から何らかの操業条件の変化により、入側温度や鋼帯の放射率が変化して加熱後の温度が目標温度から変化することを考える。このとき、鋼帯からは輻射抜熱が存在するが、抜熱量は放射率に依存する。加熱後の計測温度値を用いたフィードバック制御の場合、加熱後に到達するまでIH加熱炉等の出力は変化せず、加熱後に到達して初めて制御が始まるため、その間に搬送された鋼帯は目標温度からの誤差が大きくなる。本発明により算出した放射率を用いて、鋼帯からの輻射抜熱量を入側の時点でシミュレーションし、加熱後の温度を予測してIH加熱炉の出力を予めフォードフォワード制御することで、加熱後の鋼帯温度を目標温度に近づけることができ、結果として不良となる材の領域を減少させることが可能となる。本具体例は、IHによる加熱時の放射率変動による抜熱量変動を予測したが、空冷時や保熱時による抜熱も同様にフィードフォワード制御することが可能となる。
【0058】
このような金属帯の製造設備及び金属帯の製造方法によれば、金属帯を歩留りよく製造することができる。特に、金属帯を鋼帯とした場合、すなわち鋼帯の製造設備及び鋼帯の製造方法の場合には、フィードフォワード制御の利点を最大限に生かすことができるので、特に好ましい。
【0059】
さらに、本発明を金属帯の品質管理方法に適用し、金属帯の温度を測定することにより、金属帯の品質管理を行うようにしてもよい。すなわち、製造工程における金属帯の温度履歴は最終製品の表面性状や材質に大きく影響する。したがって、各製造工程において所定の温度に制御することは品質管理上、非常に重要である。具体的には、本発明で金属帯の温度を温度測定ステップで測定し、温度測定ステップで得られた測定結果から、金属帯の品質管理を行うことができる。次に続く品質管理ステップでは、温度測定ステップで得られた測定結果に基づき、各工程で測定された温度が製造された金属帯が予め指定された温度管理基準を満たしているかどうかを判定し、金属帯の品質を管理する。このような金属帯の品質管理方法によれば、高品質の金属帯を提供することができる。特に、金属帯を鋼帯とした場合、すなわち鋼帯の品質管理方法の場合には特に好ましい。