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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068186
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】注射器における使用のためのピストン
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20220426BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20220426BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220426BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220426BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
A61M5/315 512
A61M5/28
A61L31/04 110
A61L31/16
A61L31/14
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022011753
(22)【出願日】2022-01-28
(62)【分割の表示】P 2020177366の分割
【原出願日】2014-06-04
(31)【優先権主張番号】PA201300342
(32)【優先日】2013-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(31)【優先権主張番号】PA201370433
(32)【優先日】2013-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】518326294
【氏名又は名称】インイェクト・グループ・エー/エス
【氏名又は名称原語表記】Injecto Group A/S
【住所又は居所原語表記】Strandvejen 60,2900 Hellerup,Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ミッケル・ヘッティング
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡単な構造を有し、再使用できないインジェクタを提供する。
【解決手段】ピストン4と、ガラスまたは重合体素材からつくられたシリンダー2とを備えるインジェクタ1であって、前記ピストン4は、凸状の面を有する変形可能なシーリングエレメント5を有し、前記変形可能なシーリングエレメント5は、前記ピストン4が変形のないとき、前記シリンダー2の内径より3%から20%大きい直径を有する。前記ピストン4が前記シリンダー2に挿入されたとき、前記変形可能なシーリングエレメント5は、接する境界面6において前記シリンダー2の内壁3に接し、前記接する境界面6と前記変形可能なシーリングエレメント5は、長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、前記接する境界面6の最も大きな軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメント5の最も大きな軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の軸と内壁とを有したシリンダーを備えたインジェクタにおいて使用するためのピストンであって、
前記ピストンは、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有し、
前記変形可能なシーリングエレメントは、前記ピストンがシリンダーに挿入されたとき、接する境界面において前記シリンダーの前記内壁に接し、前記ピストンと前記シリンダーの前記内壁との間の環状のギャップをシールし、
前記接する境界面と前記変形可能なシーリングエレメントは、前記長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、
前記接する境界面の軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあることを特徴とする、ピストン。
【請求項2】
前記ピストンは、ソリッドであり、2つまたはそれより多くの請求項1に規定された変形可能なシーリングエレメントを有する、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記ピストンは、顔料も染料も備えない、請求項1または2のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項4】
前記ピストンと前記変形可能なシーリングエレメントとは、同じ材料でできている、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項5】
前記変形可能なシーリングエレメント、または、ピストンと変形可能なシーリングエレメントは、約50から約90の範囲のショアA硬度を有する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項6】
前記ピストンは、射出成形によってつくられた、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項7】
前記ピストンは、スチレンブロック共重合体からできている、請求項6に記載のピストン。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のピストンを備えたインジェクタ。
【請求項9】
長手方向の軸と内壁とをもったシリンダーと、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有したピストンとを備えたインジェクタであって、
前記変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面において前記シリンダーの前記内壁に接し、前記ピストンと前記シリンダーの前記内壁との間の環状のギャップをシールし、
前記接する境界面と前記変形可能なシーリングエレメントは、前記長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、
前記接する境界面の軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあることを特徴とする、インジェクタ。
【請求項10】
前記ピストンの初期動作は、少なくとも約300kPaの圧力を必要とする、請求項8または9のいずれか一項に記載のインジェクタ。
【請求項11】
前記シリンダーの前記内壁は、シリコンオイル、または、ワクチン、または、医薬組成物などの潤滑剤を備える、請求項8ないし10のいずれか一項に記載のインジェクタ。
【請求項12】
前記シリンダーは、45mmまでの内径、例えば、約2mmから約10mmの範囲の直径、を有する、請求項8ないし11のいずれか一項に記載のインジェクタ。
【請求項13】
前記シリンダーを横切る平面の一方の側で、前記接する境界面を介して、前記変形可能なシーリングエレメントの前記凸状の面と前記シリンダーの前記内壁は、約0度から約50度の範囲で接触角度を規定し、前記平面の他方の側で、前記変形可能なシーリングエレメントの前記凸状の面と前記シリンダーの前記内壁は、約0度から約50度の範囲で第2の接触角度を規定する、請求項8ないし12のいずれか一項に記載のインジェクタ。
【請求項14】
前記シリンダーは、医薬組成物が予め充填されている、請求項8ないし13のいずれか一項に記載のインジェクタ。
【請求項15】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のピストンの使い捨て注射器における使用。
【請求項16】
使い捨て注射器における、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有したピストンの使用であって、
前記変形可能なシーリングエレメントは、前記注射器の中にマウントされると、接する境界面において前記注射器の内壁に接し、前記ピストンと前記注射器の前記内壁との間の環状のギャップをシールし、
前記接する境界面と前記変形可能なシーリングエレメントは、前記注射器の長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、
前記接する境界面の軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあることを特徴とする、ピストンの使用。
【請求項17】
請求項8ないし14のいずれか一項に記載のインジェクタのためのピストンロッドであって、
前記インジェクタは、前記シリンダーの作動端と反対側にある前記シリンダーの排出端における排出口に取り付けられた皮下注射針を備え、
前記シリンダーは、前記シリンダーの前記作動端から前記シリンダーの前記排出端までの距離から前記長手方向の軸と平行な前記ピストンの寸法を引くことによって規定された動作長を有し、
前記ピストンロッドは、前記皮下注射針を収納するための管状部を有し、
前記管状部は、前記排出口または前記皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、前記針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、 前記管状部は、前記ピストンを作動させるためのデバイスを備え、
前記管状部の長さは、前記シリンダーの前記動作長に等しいかより長いことを特徴とする、ピストンロッド。
【請求項18】
前記ピストンを作動させるための前記デバイスは、前記針挿入端または前記針保護端に設けられる、請求項17に記載のピストンロッド。
【請求項19】
前記ピストンを作動させるための前記デバイスは、前記ピストンの凸状の作動面に相補的な凹状の面または形状を有する、請求項17または18のいずれか一項に記載のピストンロッド。
【請求項20】
前記管状部の外径の前記シリンダーの内径に対する比率は、50%から90%の範囲にある、請求項17ないし19のいずれか一項に記載のピストンロッド。
【請求項21】
前記ピストンロッドは、前記インジェクタの前記シリンダーに挿入されたときに前記ピストンロッドを軸方向にガイドするための1つまたはそれより多くのガイド構造を、前記管状部の外側の面上に備える、請求項17ないし20のいずれか一項に記載のピストンロッド。
【請求項22】
前記ピストンロッドの前記管状部は、前記皮下注射針をシールするためのエラストマー素材を含む、請求項17ないし21のいずれか一項に記載のピストンロッド。
【請求項23】
前記針挿入端において、または、前記針保護端において、前記ピストンは、サムプレートを備える、請求項17ないし22のいずれか一項に記載のピストンロッド。
【請求項24】
前記ピストンロッドは、前記シリンダーの前記動作長に等しい長さを有し、
前記サムプレートは、前記インジェクタのシリンダーの内側の断面エリアと等しいかより小さい断面エリアを有する、
請求項23に記載のピストンロッド。
【請求項25】
前記サムプレートは、前記シリンダーの前記断面エリアより大きい断面エリアを有する、請求項23に記載のピストンロッド。
【請求項26】
長手方向の軸と内壁をもったシリンダーと、
変形可能なシーリングエレメントを有したピストンと、前記変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面において前記シリンダーの前記内壁に接し、前記ピストンと前記シリンダーの前記内壁との間の環状のギャップをシールする、
皮下注射針を収納するための管状部を有したピストンロッドと、前記管状部は、前記排出口または前記皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、前記針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、前記管状部は、前記ピストンを作動させるためのデバイスを備える、
を備えたインジェクタであって、
前記管状部の長さは、前記シリンダーの前記動作長よりも長く、
前記管状部は、前記皮下注射針をシールするためのエラストマー素材を含む、インジェクタ。
【請求項27】
請求項16ないし25のいずれか一項に記載のピストンロッドと皮下注射針を備えたパーツのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有したピストンをもったシリンダーを備えたインジェクタにおける使用のためのピストンに関し、変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面においてシリンダーの内壁に接し、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールする。本発明は、また、インジェクタと、インジェクタのためのピストンロッドに関する。本発明のインジェクタは、ワクチン等の医薬組成物のデリバリに好適である。
【背景技術】
【0002】
既知の使い捨て注射器は、多くの場合に、一回の使用のためのみを目的にされているにもかかわらず、それらが再使用可能なように構成されている。従来のプランジャーを引くことによって、注射器を再充填することができ、ピストンとの接合を介して、2次的な注射のために円筒状のバレルを再充填する。再使用を防ぐための手段のない注射器構造は、そのような追加の構造を必要としないので、典型的に、より単純である。多くの場合には、使い捨て注射器を再使用する可能性は関知するところではない。しかし必要な医療器具の不足により、使い捨て注射器を再使用することが、特に貧困の開発途上国において一般的になっており、それらは、不適切な清潔および衛生的な状態により、不十分に洗浄され、消毒されるにすぎない。
【0003】
使い捨て注射器の例は、米国特許第5,795,337、国際公開第2004/078243、国際公開第2004/075958、国際公開第2004/033018、米国特許第4,252,118、米国特許第5,158,549、および、国際公開第2002/32485に与えられている。さらに、注射器の例は、米国特許4,430,082、欧州特許0047442、仏特許1600637、および、米国特許3,545,607に与えられている。
【0004】
しかし、注射内のあるエリアでは、再使用するために、ユーザがあらゆる手を使って使い捨て注射器を操作する。貧困な第3世界の国々で実施される予防接種キャンペーンに関連して、針を介して圧力を与えることがむしろ普通で、圧力は、より大きな標準の注射器の使用によって手動で生成され、2次的な注射のためにガラスの小瓶を介して注射器をワクチンで再充填する。
【0005】
望まれない再利用は、さらに、ドラッグ乱用者の間で非常に広く広がっており、1人またはそれより多くの人が、ためらわずに、同じ注射器と針を、事前の消毒なしに利用している。
【0006】
そのような使い捨て注射器の再使用は、世界中の病院、クリニック、および、予防接種サイトにおいて、人が生命に脅威を与える病気をうつされ、他にもある中で、例えば、HIVウィルス(AIDS)やB型肝炎といった血液由来の伝染病の伝播の結果となる。
【0007】
これらの問題の認識において、世界保健機関(WHO)は、異なる構造的な理由のために再使用を不可能にしたオートディスエーブル(auto-disable:AD)注射器を利用し、その利用を促している。
【0008】
そのようなAD注射器は、しばしば、製造するのに高価であり、したがって、使用するのに高価であり、多くの国は、必要な範囲までこれらの種類の使い捨て注射器を購入する余裕がない。
【0009】
世界の最貧国における予防接種キャンペーンに関連して使用されるいくつかの異なるAD注射器が存在する。大抵、通常または従来の注射器と比較して特別のコンポーネントを必要とする個々のオートディスエーブル技術を含む他に、いくつかのものは、圧力充填に抗するように構成され、それによって、注射器を再利用する異なる種類の試みを防止する。
【0010】
国際出願PCT/EP00/00028から、空にするシーケンスの間のピストンは、約90度回転し、したがって、プランジャーとのその相互接続から離れるので、注射器を空にする間にプランジャーからピストンを分離することによって機能するAD注射器が知られている。次に、ピストンはバレルの底に位置決めされ、そこに維持される。ピストンのシーリング面は、バレルの長手方向の軸において、十分な垂直な延伸部を有する。ピストンの接する面の垂直の延伸部は、ピストンが動いているかいないかにかかわらず、摩擦を比較的低くする。したがって、注射器の利用のために必要な潤滑は、ピストンの大きな垂直の接する面により、動きまたは静止に係わらず、ピストンとバレル内壁との間で有効になる。潤滑がピストンとバレル内壁との間の接する境界面に恒久的に存在する場合、圧力充填に抗するために必要な摩擦が達成され得ないので、圧力充填に抗するために、このアプローチには疑問がある。
【0011】
前述の特許出願に述べられたピストンと同様に、従来の注射器並びにAD注射器から知られたピストンは、ピストンとバレル内壁との間の気密度を確実にするために1つまたは複数のシーリング面が与えられており、ピストンは、比較的に許容的であり、これらが、ピストンの外径よりも小さい直径のバレルにマウントされる場合、シーリング面の接する面が垂直方向に、即ち、バレルの長手方向の軸に、大きく伸びるという結果になることを意味する。ピストンとバレル内壁との間の領域における潤滑の恒久的な存在は、針を介する所与の圧力で、押し込むことができ、それによって、ピストンが初期位置に位置決めされることができ、それによって、新たな注射のために注射器を再使用することができることを意味する。
【0012】
他のAD注射器は、針を介する圧力充填を効果的に遮断するメタルクリップまたは1方向バルブを与えられる。したがって、既知のAD注射器は、単独で、特別なコンポーネントの存在の結果として圧力充填を避ける。
【0013】
これは、AD注射器におけるピストンが従来の注射器におけるピストンと比較して圧倒的に不変であり、したがって、それ自身では、WHOが利用を期待するAD注射器のための法的な要件である注射器の圧力再充填に抗し得ない。
【0014】
上述のAD注射器の製造と組立は、いくつかの課題を提示する。に、低い製造価格と、それによって、第三世界の国々における広いマーケットを確実にするために、可能な限り少ないコンポーネントでもって注射器を製造することが望まれる。さらに、注射器は、注射器の通常充填または圧力充填の両方による再利用を防ぐための手段を備えるべきである。例えば、ピストンとプランジャーの間のリリース可能な結合をもった注射器は、圧力充填による再使用を防げない。さらに、再使用を防ぐための先に述べた解決策は、他の形式のAD注射器に実装するのには好適でなく、それらのどれもが協働可能ではない、広い範囲の異なる解決策に帰結する。最後に、AD注射器は、簡単な有用性を与えるべきである。
【0015】
上記に鑑みて、本発明の目的は、簡単な構造をもち、1回の使用のために操作することが容易で、製造するのに安価であり、再使用できない、冒頭段落に記載の種類のインジェクタを提供することにある。
【発明の概要】
【0016】
本発明の態様について、この目的は、長手方向の軸と内壁とを有したシリンダーを備えたインジェクタにおいて使用するためのピストンを提供することによって達成され、該ピストンは、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有し、該変形可能なシーリングエレメントは、ピストンがシリンダーに挿入されたとき、接する境界面においてシリンダーの内壁に接し、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールし、接する境界面と変形可能なシーリングエレメントは、長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあることを特徴とする。他の態様において、本発明は、該ピストンを備えたインジェクタに関する。さらに他の態様において、本発明は、長手方向の軸と内壁とをもったシリンダーと、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有したピストンとを備えたインジェクタに関し、該変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面においてシリンダーの内壁に接し、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールし、接する境界面と変形可能なシーリングエレメントは、長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあることを特徴とする。更なる態様において、本発明は、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有するピストンの使い捨て注射器における使用を提供することによって目的を達成し、該変形可能なシーリングエレメントは、注射器の中にマウントされると、接する境界面において注射器の内壁に接し、ピストンと注射器の内壁との間の環状のギャップをシールし、接する境界面と変形可能なシーリングエレメントは、注射器の長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にある。特定の実施形態において、本発明は、本発明のピストンの任意の実施形態の使い捨て注射器における使用に関する。
【0017】
変形可能なシーリングエレメントがシリンダーの内壁に接する場所において、変形可能なシーリングエレメントと内壁との間の境界面は、静摩擦と動摩擦を与える。シリンダーにおけるピストンの動きは、初期に静摩擦に、引き続いて動摩擦に打ち勝つに十分な力を与えることを必要とし、静摩擦は動摩擦よりも大きく、それによって、ピストンの初期動作を与えるための力は、ピストンの持続された動きを与えるために必要とされる力よりも大きい。ピストンが動きを止めたならば、初期動作を与えるための力に、再度、打ち勝たなければならない。本発明者は、驚くべきことに、接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率が0.01と0.4との間の範囲、例えば0.01と0.2の間、0.01と0.15との間、0.01と0.1との間、0.01と0.05との間等、にあるとき、ピストンは、変形可能なシーリングエレメントを介して、他の注射器等の手動操作器具を用いて注射器を再充填しようと試みるときに典型的に利用可能な力の範囲の中でのシリンダーにおけるピストンの動きを妨げるようなシリンダーの内壁上の力、例えば、静摩擦を与えることを見出した。一般に、シリンダーの内壁は、ピストンのための十分な滑りを確実にし、シリンダーにおけるピストンの楽な動きと、それによって注射の間の医薬組成物の楽なデリバリを可能にするのに、動摩擦を十分に低く保つために、潤滑を必要とする。理論によって拘束されることなしに、本発明者は、変形可能なシーリングエレメントの設計(即ち、本発明に従ったピストンがシリンダーに挿入されるとき)と潤滑剤の選定のある組み合わせについて、変形可能なシーリングエレメントが潤滑剤をシリンダーの内壁の面から離れる方向に押して、変形可能なシーリングエレメントと内壁との間の直接の接触をなし、それによって、例えばシリンダーにおけるピストンの初期動作、例えば、軸方向の初期動作をなすための300kPaの圧力を必要とすることを確信している。これは、接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率が、0.01と0.1との間、例えば、0.01と0.05との間の範囲にあるように小さいときに特に関連し、潤滑剤(例えば、シリコンオイル潤滑剤)の粘度が、500cStと2,000cSTとの間の範囲、例えば、約1,000cStにあるように低いときに、さらに関連性がある。一般に、接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率が小さいほど、変形可能なシーリングエレメントを介して内壁上で働く力はより大きくなり、それによって、内壁と変形可能なシーリングエレメントとの間の、例えば、接する境界面における、静摩擦はより大きくなる。本発明者は、0.01と0.4との間の範囲が、例えば、約2mmと約10mmとの間の内径をもった医薬組成物のデリバリのために伝統的に使用される直径のインジェクタにとって適していることを見出したが、内径は限定されず、0.1mmから45mmの範囲等、典型的に45mmまででもある。内径は、例えば、約10mm、約20mm、約30mm、約40mm等であってよい。特に、接する境界面の軸方向の寸法が、変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法よりも小さいので、ピストンによって内壁に働く力は(即ち、接する境界面において)集中され、それによって、変形可能なシーリングエレメントと内壁との間に生成される摩擦は最大になる。接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲、例えば、0.01と0.05の間等、0.01と0.1の間、にあることが好ましい。一般に、パラメータが、ピストンの初期動作のために必要とされる圧力を制御するために選択され得、他の実施形態において、必要とされる圧力は、250kPa、200kPa、150kPa、または100kPaである。
【0018】
インジェクタは、患者の皮膚を介して、患者に医薬組成物をデリバリするために利用される任意の種類のインジェクタであってよい。例えば、インジェクタは、例えば、皮下(subcutaneous:SC)、筋肉内(intramuscular:IM)、または、静脈内(intravenous:IV)のデリバリ、または、他のタイプのデリバリを介して医薬組成物を注射するための皮下注射針が取り付けられている注射器であってよく、または、インジェクタは、細く、高速の流体ジェットを与えることができる無針インジェクタ(needle free injector:NFI)であってもよく、ジェットは、皮膚に浸透し、例えば、SCまたはIMデリバリを介して、患者に医薬組成物をデリバリする。インジェクタは、また、カートリッジ、または、ガラス瓶の形をとってもよい。
【0019】
インジェクタはシリンダーを備える。発明の文脈において、「シリンダー(cylinder)」は、シリンダーにおけるある点から他の点にピストンが動かされることを可能にする任意の種類のチューブまたはその類似物である。シリンダーは、典型的に、互いに対向した「作動端」と「排出端」とを有する。シリンダーの作動端は、シリンダーの中でピストンを動かす、即ち、ピストンを「作動させる」ためにピストンへのアクセスを可能にする。同様に、ピストンは、シリンダーの作動端に面する作動面と、作動面と反対側にある、したがってシリンダーの排出端に面する排出面を有する。一般に、シリンダーの作動端からシリンダーの排出端までの距離からシリンダーの長手方向の軸と平行なピストンの寸法を引いたものが、シリンダーの「動作長」を規定する。ピストンは、任意の手段を用いて、作動端から排出端に向かって動かされ、例えば、ピストンは、ピストンロッド、プランジャー、または、ガスまたは液体の圧力等の流体圧力を用いて、排出端に向かって動かされ得る。特に、ピストンは、例えば、作動端からのピストンロッドまたはその類似物とのピストンの係合でもって、例えば排出端から、作動端に向かって動かされ得ないことが好ましい。ある実施形態では、インジェクタはピストンロッドを備えない。他の実施形態では、インジェクタは、ピストンロッドを備える。
【0020】
ピストンは、ピストン本体と変形可能なシーリングエレメントを有し、該変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面においてシリンダーの内壁に接し、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールする。「接する境界面(abutting interface)」の用語は、内壁と変形可能なシーリングエレメントが互いに接触する任意の部分をいい、「接する境界面」は、シリンダーの内壁またはシーリングエレメントの面のいずれにも、何らかの限定を課すものではない。したがって、ピストンは、即ちピストンの排出面においてピストンのシリンダーの排出部を、即ちピストンの作動面においてシリンダーの作動部を規定し、ピストンを通しての、排出部から作動部への、または、反対方向への流体のやり取りを防止する。それによって、排出端に向かってのシリンダーにおけるピストンの動きは、例えば、排出口を介して、排出部に存在する流体を排出する。ピストン本体はシリンダーの内壁に接せず、ピストン本体上にあるシーリングエレメントのみが、シリンダーの内壁に接する。ピストンは、上記に定義された1つまたは複数の変形可能なシーリングエレメントを有し得るが、ピストンは、他の形状や機能をもった追加のシーリングエレメントを有してもよい。例えば、ピストンは、シリンダー内のピストンの方向をガイドまたは制御することができる補助シーリングエレメントを有し得る。
【0021】
好ましい実施形態において、ピストンは、2つまたはそれより多くの変形可能なシーリングエレメントを有し、ピストンは、ソリッドであり、即ち、空洞またはその類似物をもたない。2つまたはそれより多くの変形可能なシーリングエレメントを有するソリッドピストンは、横断面に関して対称であり得、シリンダーに挿入されたときの方向は関係ない。対照的に、ピストンロッドを収納するための空洞等の空洞を有するピストンといった非対称なピストンは、シリンダーへの挿入の前に方向付けされる必要があり、例えば、ピストンは、空洞に挿入されたピストンロッドによって作動され得る。ピストンを方向付けする必要性をなくすことは、注射器、例えば、予め充填された注射器、の製造を大きく単純化し、それによって、製造コストを削減する。ソリッドピストンが、ピストンロッドと係合する何らの手段も備えないことが好ましい。この実施形態は、特に、本発明のピストンロッドとともに使用されるときに有利である。例えば、ピストンロッドと係合するための手段のないソリッドピストンは、ピストンがピストンロッドにより押され、それによってシリンダーを空にすることを可能にするのみである。
【0022】
変形可能なシーリングエレメントと接する境界面は、軸方向の寸法、即ち、シリンダーの長手方向の軸と平行な寸法を有する。変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法は、変形可能なシーリングエレメントの「高さ(height)」と呼ばれてもよく、一般に、変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法は、変形可能なシーリングエレメントの最も大きな軸方向の寸法である。同様に、接する境界面は、また、接する境界面の「高さ」と呼ばれ得る軸方向の寸法を有する。同様に、シリンダーの作動端は、シリンダーまたはインジェクタの上側端と呼ばれてもよく、排出端は、下側端と呼ばれてもよい。
【0023】
本発明の実施形態において、ピストンの初期動作は、少なくとも約300kPaの圧力を必要とする。初期動作は、インジェクタのシリンダーの軸方向である。特に、約4.65mmの内径をもった注射器について、300kPaの要求される圧力は、排出口に取り付けられた手動操作される注射器を用いて、排出口を介する注射器の再充填を防ぐのに十分と考えられる。他の実施形態において、圧力は、少なくとも350kPa、少なくとも400kPa、少なくとも450kPa、または、少なくとも500kPaである。初期動作、例えば、軸方向の初期動作をなすための300kPaの最小の圧力は、特に、予め充填されていない注射器の場合ほど、エンドユーザにより正確に充填される必要がない予め充填された注射器にとって有利である。
【0024】
本発明の実施形態において、シリンダーの内壁は潤滑剤を備える。粘度、例えば、重粘性や与えられる潤滑剤の量等のパラメータを選択することによって、シリンダーの内壁と変形可能なシーリングエレメントとの間の動摩擦が減らされ、所望のレベルに調節される。医療グレードのシリコンオイルは、注射器潤滑剤としての使用のための現在の業界標準となっているが、ドラッグメディア等の医薬組成物と不利に相互作用しないグリセリン等の任意の好適な医療グレードの潤滑剤が使用され得る。潤滑剤は、例えば、約100cStから約15,000cSt、例えば、約500cStから約10,000cSt、または、約1,000cStから約8,000cSt、の範囲の重粘性を有し得る。潤滑剤は、所望の手段を用いてシリンダーの内壁に適用され得る。例えば、潤滑剤は、例えば、内側のシリンダー壁におよびその中に潤滑剤を下向きにスプレイすることによって、スプレイされ、シリンダーの内面の全体または一部が潤滑剤でコーティングされる結果となる。シリンダーが、例えば、ガラス、金属、何らかのポリマー等の耐熱材からできている場合、潤滑剤は、ベーク・オン・アプリケーション技術を用いて与えられる。この技術は、一般的に、エマルジョンとしてシリコンオイル等の潤滑剤を適用することを含み、特定の温度で、特定の時間長の間、シリンダーの面に焼き付ける。潤滑剤は、また、気相堆積を用いて適用され得る。
【0025】
また、ピストン面の全体または部分、例えば、変形可能なシーリングエレメントの面は、潤滑剤でコーティングされ得る。ピストン面の潤滑剤は、シリンダー上に使用される潤滑剤と同じタイプのものであってよい。ピストンの面とシリンダーの内壁の両方は潤滑剤を備え、または、潤滑剤は、ピストンの面またはシリンダーの内壁のいずれかに適用され得る。ある実施形態では、例えばワクチンや薬といった、インジェクタを介する注射のための医薬組成物は、潤滑剤として機能する。例えば、医薬組成物は、インジェクタにおける唯一の潤滑剤を提供し得、他の潤滑剤は使用される必要がない。特に、医薬組成物は、例えば、他の機能に加えて、インジェクタにおける潤滑効果を与える医薬品添加物を備え得る。医薬組成物が潤滑効果を与える場合、ピストン面および/またはシリンダーの内壁は、所望されるならば追加の潤滑剤を利用することもまた可能ではあるが、更なる潤滑剤を何ら必要とし得ない。
【0026】
本発明者は、シリンダーの内壁上の変形可能なシーリングエレメントの効果は、変形可能なシーリングエレメントの面とシリンダーの内壁との間の接触角度が約10度から約30度の範囲にあるときより顕著であること、さらに、変形可能なシーリングエレメントが凸状であるときにより顕著であることに気付いた。さらに、変形可能なシーリングエレメントまたは、ピストンと変形可能なシーリングエレメントが、約70から約90、例えば約70から約80、の範囲のショアA硬度を有する場合、効果は、より一層顕著である。
【0027】
変形可能なシーリングエレメントが、変形可能なシーリングエレメントとシリンダーの内壁との間の直接の接触をつくるために、潤滑剤を押しやる場合、効果は、ピストンの動きを始めるために高い静摩擦となる、例えば、ピストンの動きは、少なくとも300kPaの圧力を必要とするが、一度、この静摩擦に打ち勝つと、ピストン、即ち、変形可能なシーリングエレメントは潤滑され、動摩擦は、ピストンの楽な動きを可能にするように低くなる。ピストンの動きが止められると、高い静摩擦に、再度、打ち勝たなければならない。これは、特に、注射器または排出口を介して再充填されることを目的とされない使い捨て注射器にとって有利である。
【0028】
例えば潤滑剤による追加の潤滑を必要としない平滑な面を与えるために、シリンダーの内壁の面、および/または、ピストンの面、例えば、変形可能なシーリングエレメントとオプションとしての補助シーリングエレメント、または、ピストンとシーリングエレメントを化学的に機能させることも可能である。例えば、面は、ペルフルオロ(perfluoro)グループを用いて機能させられてもよい。
【0029】
ピストンは、変形可能なシーリングエレメントを備える。本発明の文脈において、「変形可能な(deformable)」の用語は、変形可能なシーリングエレメントが変形され得、それによって、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールすることを説明する。変形可能なシーリングエレメントは、したがって、リラックスした状態、例えば、変形(例えば、シリンダーにピストンを挿入したことによって生じる変形)のない状態において寸法を有し、リラックスした状態における直径(例えば、変形可能なシーリングエレメントを含むピストンの)が、インジェクタのシリンダーの内径よりも大きい。これは、変形可能なシーリングエレメントが、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールすることを確実にする。変形可能なシーリングエレメントの直径は、典型的には、シリンダーの内径より3%から20%大きく、例えば、5%から15%大きい。
【0030】
変形可能なシーリングエレメントは、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップがシールされることを確実にするために、適切な硬度と弾性の素材からつくられる。任意のそのような素材は、変形可能なシーリングエレメントのために選ばれ得る。好ましい実施形態において、本発明のピストンは、適切な熱可塑性ポリマーから射出成形によってつくられる。任意の熱可塑性エラストマーが使用され得る。適切な熱可塑性ポリマーは、スチレンブロック共重合体(SBC)、例えば、水素化-H-SBC-(SEBS-スチレンエチレン ブチレン-スチレン、または、類似のもの)、または、非水素化(SBS-スチレン-ブタジエンスチレン)、または、これらの合金、および他の互換性のあるポリマーを備える。好ましいSBCは、AlphaGary Corporation(Leominster, MA, USA)によって販売されている商標「Evoprene」のもとに知られたものである。「Evoprene」は、「EVOPRENE(商標) Thermoplastic Elastomer (TPE) Compounds - GENERAL INFORMATION” (published by AlphaGary, July 2007)」というパンフレットに記載されており、好ましい「Evoprene(商標)」ポリマーは、それぞれ、「EVOPRENE(商標) SUPER G Thermoplastic Elastomer (TPE) Compounds」、「EVOPRENE(商標) G Thermoplastic Elastomer (TPE) Compounds」、「EVOPRENE(商標) GC Thermoplastic Elastomer (TPE) Compounds」、および、「EVOPRENE(商標) HP Thermoplastic Elastomer (TPE) Compounds」(published by AlphaGary, July 2007)のパンフレットに記載された、Evoprene(商標) Super G、Evoprene(商標) G、Evoprene(商標) GC、Evoprene(商標) HPである。AlphaGary社による上記全てのパンフレットの内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。ピストンが、射出成形される場合、ピストンは、従来のゴム製ピストンの製造に一般的に使用される加硫法(vulcanisation)等の技術によって与えられるより低いトレランスをもってつくられ得る。適切な素材は、ゴム、例えば、天然ゴム、合成ゴム(ポリイソプレンゴム、ブチルゴム)、シリコンゴム、等のエラストマーを備え、例えば、エラストマー素材の弾性を示し、エラストマー素材の硬度を測定するショアデュロメータに関して定義され得、デュロメータが高くなればなるほど組成物は硬くなる。例えば、本発明の実施形態において、変形可能なシーリングエレメント、または、ピストンと変形可能なシーリングエレメントは、約50から約90、好ましくは、60から80、より好ましくは71から76の範囲のショアA硬度を有する。「ショア硬度(Shore hardness)」や「ショアデュロメータ(Shore durometer)」は、互換的に使用され得る。一般に、変形可能なシーリングエレメントは、同質で、変形可能なシーリングエレメントの容積を通して同じ素材からつくられ、該素材は、所与の範囲のショアA硬度を有する。上述の範囲のショアA硬度をもった素材を用いることによって、比較的硬いエラストマー素材が提供される。これは、ピストンが、シリンダーの内壁に対して十分な力を働かせ、それによって、例えば、皮下注射針を介する圧力充填にさらされるとき、例えば300kPaの実質的な圧力に抗する静摩擦を与えることを可能にする。ショアAデュロメータは、選ばれた素材の材質特性を特徴づけるための多くの方法の内の一つにすぎず、他の試験が素材を特徴づけるために利用可能であることが留意されるべきである。
【0031】
ピストンは、任意の素材からつくられ得る。特に、ピストン本体は、シリンダーの内壁との接触はなく、ピストン本体の素材は、一般的に、インジェクタにおける任意の医薬組成物に関して不活性であることが要求されるのみである。変形可能なシーリングエレメントは、同様に、インジェクタにおける医薬組成物に関して不活性であるべきである。本発明のある実施形態では、ピストンと変形可能なシーリングエレメントとは同じ素材から成り、例えば、ピストン本体と変形可能なシーリングエレメントは同じ素材から成る。ピストン、例えば、ピストン本体、と変形可能なシーリングエレメントと任意のオプションとしての補助シーリングエレメントを同じ素材で提供することにより、よりコスト効率よく、単純な生産が可能にされ、それによって、時間を使う組立等の異なるプロセス工程を大幅に避ける。
【0032】
本発明の1つの実施形態において、ピストンは、ピストンと注射器のシリンダーとの間にコントラストを与えるために、染色されまたは着色され、例えば、ピストンは黒である。このコントラストは、シリンダーが容積の表示を備えているときに、より正確な投薬量を可能にする。例えば、容積を表示する黒線でマークが付けられたシリンダーにおいて、黒いピストンは、インジェクタに吸引されるまたは注射器から排出される容積のより良好な制御のために、その表示を容易に読むことを可能にする。しかし、顔料や染料は、ピストンからインジェクタにおける医薬組成物に浸出し得る。これは、医薬組成物が予め充填されたインジェクタにとって特に適しており、これは、この場合に、医薬組成物は長い時間期間の間ピストンに接触しているからである。好ましい実施形態において、本発明のピストンは顔料や染料を備えず、例えば、ピストンは「透明(transparent)」である。染料や顔料の漏れのリスクないので、これは、特に、ピストンが医薬組成物を備えたインジェクタにおいて使用されるときに好ましく、また、自動充填機器によって注射器の充填がなされるので、造影剤の明瞭な必要性がないからである。
【0033】
変形可能なシーリングエレメントの面は、任意の所望の形状を有し得る。ある実施形態では、変形可能なシーリングエレメントは凸状の面を有するが、面は凸状の形状に限定されない。この文脈において、「凸状(convex)」の用語は、変形可能なシーリングエレメントの中の任意の2点の間の直線が変形可能なシーリングエレメントの面とクロスしないことを意味する。変形可能なシーリングエレメントが凸状の面を有する場合、変形可能なシーリングエレメントを介してシリンダーの内壁上に働く力は最大にされ、これは、シリンダーの長手方向の軸の方向における変形可能なシーリングエレメントの変形が最小にされるからである。凸状性は、接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率が、0.01と0.2との間の範囲、例えば、0.01と0.1または0.01と0.05との間、にあるとき、特に有利であり、一般に、接する境界面の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率が小さいほど、凸状の面の効果がより著しくなり、これは、変形可能なシーリングエレメントによってシリンダーの内壁に働かされる力がより集中されるからである。
【0034】
変形可能なシーリングエレメントとシリンダーの内壁との間の境界面(interface)は、接触角度、例えば、シリンダーの長手方向の軸と平行な方向の接触角度、を規定する。一般に、変形可能なシーリングエレメントの面とシリンダーの内壁との間の接触角度は、約0度から50度の範囲にある。特に、シリンダーを横切る平面の一方の側で、接する境界面を介して、変形可能なシーリングエレメントの凸状の面とシリンダーの内壁は、約0度から約50度の範囲で接触角度を規定し、前記平面の他方の側で、変形可能なシーリングエレメントの凸状の面とシリンダーの内壁は、約0度から約50度の範囲で第2の接触角度を規定する。接触角度の好ましい範囲は、約10度から約30度である。これらの接触角度が50度を下回る場合、変形可能なシーリングエレメントを介して、シリンダーの内壁に働かされる力は最大にされ、静摩擦もまた最大化される。さらに、接触角度が50度を下回る場合、変形可能なシーリングエレメントは傾ぎを防止される。本発明の文脈において、「傾ぎ(tilting)」の用語は、シリンダーの長手方向の軸の方向の力を与えることで、変形可能なシーリングエレメントが、一般的に反対の方向に変形される状況をいう。変形可能なシーリングエレメントの傾ぎは、静摩擦を減らし、シリンダーのいずれかの端に向かってのピストンの動きを容易にする結果となる。傾ぎは、また、一般的に、ピストンが2つまたはそれより多くの変形可能なシーリングエレメントを備える場合に最小限にされる。したがって、傾ぐ変形可能なシーリングエレメントは、AD注射器にとって好適ではない。さらに、傾ぎは、シリンダーから排出される液体の量をコントロールするのに困難であるというリスクを生む。
【0035】
シリンダーは、任意の適切な素材からつくられ得、典型的な素材は、例えば、TOPASポリマー(TOPAS Advanced Polymers GmbHによって供給される)等の環状オレフィン系共重合体(COC)等の重合体素材、または、ポリスチレン、または、ガラスを備える。COCポリマーは、その良好なバリア特性により好ましく、薬剤薬品の長期保存の必要性にかなっている。また、シリンダーは金属でつくられること、または、重合体素材、ガラス、または、金属の組み合わせを備えることも考えられる。シリンダーの断面形状は限定されないが、シリンダーは円形の断面をもつことが好ましい。断面は、長円形、楕円形、多角形、等であり得ることも考えられる。シリンダーが円形の断面を有する場合、直径、例えば、内径は、注射器で従来使用されている値を有してよい。例えば、好ましい実施形態において、シリンダーは、約2mmから10mmの範囲、例えば、4.65mmまたは8.80mm、の内径を有する。
【0036】
シリンダーの作動端におけるシリンダーは、シリンダーの断面全体にわたって開口しており、ピストンの取り外しや挿入を可能にし、また、それによって、作動端を介してインジェクタの充填を可能にする。シリンダーは、また、作動端において、一旦シリンダーに挿入されたピストンが取り外されるのを防ぐリッジまたは隆起またはその類似物を有し得る。特に、リッジまたは隆起は、相補的な「スプリングデバイス(spring device)」がピストンロッド上に含まれている「スプリングロックデバイス(spring-lock device)」の「ロックデバイス(lock device)」を提供し得る。スプリングロックデバイスまたはその類似物は、ピストンをシリンダーの排出端に動かした後、ピストンロッドをロックすることができ、それによって、シリンダーの再充填を防ぐ。
【0037】
インジェクタが注射器の場合、シリンダーは、例えば排出端において、皮下注射針をマウントするフィッティングを備え得る。したがって、シリンダーは、皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを提供しまたは備える、シリンダーからの排出口、例えば、管状の排出口をもった、例えばテーパのついた端部を有し、例えば、係合デバイスと相補的な係合デバイスは雄雌相互作用を備え、管状の排出口はオプションとして雄ネジ、例えばらせん状の雄ネジ、を備え、皮下注射針はオプションとして相補的な雌ネジ、例えば、らせん状の雌ネジを備える。皮下注射針は、皮下注射針の簡便な取り外しや交換を可能にするよう適合されてもよく、または、皮下注射針は、インジェクタに恒久的にマウントされてもよい。特に、皮下注射針は、その取り外しにインジェクタの破壊を必要とするようにインジェクタにマウントされ得、それによって、例えば、新しい皮下注射針をマウントすること、さらには、排出端からのインジェクタの再充填を、皮下注射針を介するように制限すること、これは厄介であり非効率的である、によって再使用を防ぐ。インジェクタがNFIである場合、排出チューブは、患者の皮膚に浸透するに十分な速度の排出流を与えるために十分に狭くなり得る。NFIの排出チューブは、閉鎖部材と係合するように設計され得、皮下注射針をもったインジェクタで使用されたものと同じ係合デバイスが、閉鎖部材とNFIに適している。
【0038】
本発明の実施形態において、好ましくは予め充填されるインジェクタは、皮下注射針をもった注射器である。注射器は、管状の排出口または他の形状の排出口にマウントされた、例えば、恒久的にマウントされた、皮下注射針を有し得、インジェクタは、さらに、ユーザを皮下注射針との早まった接触から保護する皮下注射針保護キャップを備える。インジェクタが予め充填されている場合、特に、インジェクタがピストンロッドも備えている場合、シリンダーの作動端とピストンの作動面との間にクリアランスが存在し得る。クリアランスは、ピストンロッドがシリンダーに挿入されたとき、ピストンロッドの安定性を確実にし、結果、インジェクタのより安全な、かつ、より簡単な動作となる。例えば長さの単位ではかられる、クリアランスは、インジェクタの大きさ、例えば容積、および、インジェクタの医薬組成物の服用量について妥当な任意の値であってよい。クリアランスの典型的な値は、約2mmと約20mmとの間である。
【0039】
好ましい実施形態において、インジェクタは、針保護キャップとしても機能するピストンロッドを備える。ピストンロッドは、また、プランジャーとも呼ばれ得、本発明の文脈において、2つの用語は互換的に使用され得る。この実施形態では、インジェクタは、管状の排出口または他の形の排出口にマウントされた、例えば、恒久的にマウントされた、皮下注射針をもった注射器である。例えば、ピストンロッドは、皮下注射針を収納する管状部を有し得、管状部は、排出口または皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、該管状部は、ピストンを作動させるためのデバイスを備え、管状部の長さは、シリンダーの動作長に等しいかより長いことを特徴とする。一実施形態において、ピストンロッドは、皮下注射針を収納するための管状部と動作部とを有し、該管状部は、排出部または皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備え、該動作部は、ピストンを作動させるためのデバイスを備え、管状部と動作部との組み合わせの長さは、シリンダーの動作長よりも長い。
【0040】
ピストンロッドは、針挿入端、即ち、それが注射器にマウントされたときにシリンダーの排出端に面するピストンロッドの端部と、針挿入端と反対側にある針保護端とを有する。ピストンを作動させるためのデバイスは、ピストンロッドのどちらの端部にあってもよい。ピストンロッドは、典型的には、動作長よりも約1mmから約20mm長い。ある実施形態では、ピストンロッドの長さは、シリンダーの動作長に等しい。管状部、例えば、管状部と動作部、は、それらそれぞれの機能に適切な任意の形をとることができる。例えば、最も単純な形では、ピストンロッドは、シリンダーの作動端から排出端にピストンを押すに十分に硬い素材の管であり、該管は、シリンダーの内径よりも小さい外径を有し、内径は、相シリンダーの排出口または皮下注射針と係合するための係合デバイスを与え、したがって補的な係合デバイスを与える。
【0041】
例えば、2から5mlまたはそれより大きな容積の大きな注射器に特に関連する一実施形態において、管状部の内壁は、針挿入端において、例えば、3、4、または、それより多くの軸方向のリッジを備え、該リッジは、注射器の排出口または皮下注射針と係合するための係合デバイスを提供する。これは、管状部が、注射器におけるピストンの安定作動を確実にするために十分に大きな直径のものであることを可能にする。一般的に、シリンダーの内径に対する管状部の外径の比率は、50%から90%の範囲、例えば、80%から90%の範囲にあることが好ましい。比率が50%またはそれより高い、例えば、80%またはそれより高い、場合、ピストンは、注射器の正しい動作を確実にするに十分な安定性をもって作動され得る。インジェクタは、特に、それがピストンロッドを備えている場合、予め充填されていることが好ましい。
【0042】
ピストンを作動させるためのデバイスは、ピストンを作動、特に、ピストンをシリンダーの排出端に向かって押すことができる任意のデバイスであってよい。ピストンを作動させるためのデバイスは、ピストンロッドのどちらの端部に位置してもよい。例えば、ピストンを作動させるためのデバイスは針挿入端にあってよく、または、ピストンを作動するためのデバイスは針保護端にあってもよい。ピストンを作動させるためのデバイスは、「作動デバイス(actuating device)」と呼ばれてもよく、用語はこの明細書を通して互換的に使用され得る。ピストンを作動させるためのデバイスは、硬い素材の平らな面であり得る。一実施形態では、ピストンを作動させるためのデバイスは、ピストンの作動面に相補的な形状の面を備える。例えば、ピストンが、作動面を構成する凹状の面をもった凹状のまたは中空の領域を備え得、ピストンを作動するためのデバイスは、相補的な凸状の面を備える。好ましい実施形態において、作動デバイスは針挿入端にあり、ソリッドピストンとの組み合わせで使用される。例えば、作動デバイスの面は、ピストンの表面領域、例えば、シリンダーの長手方向の軸に垂直な全表面領域、よりも小さい。ピストンを作動させるためのデバイスとピストンが相補的な形状の面を有している場合、相補性はピストンロッドがピストンを作動させるために使用されるときに安定性を与える。これは、同様に、注射器の正しい使用と注射器からの医薬組成物のより正確な排出を確実にする。同様に、作動面は凸状であり得、ピストンを作動させるためのデバイスは相補的な凹状の面であり得る。一般に、ピストンはソリッドであり、空洞を備えないことが好ましい。一般に、ピストンを作動させるためのデバイスは、ピストンと係合するための手段を備えない。特に、ピストンを作動させるためのデバイスは、ピストンを、シリンダーの作動端に向かって動かすことができず、それにより、インジェクタは、本発明のピストンロッドを用いて再充填されることができない。ピストンを作動させるためのデバイスが、ピストンの凸状の作動面に相補的な凹状の面または形状を有することが好ましい。例えば、ピストンは、円錐状の作動面、例えば、凸状の円錐状の作動面を有し、ピストンを作動させるためのデバイスは、相補的な形状の凹状の面または構造を有し得る。ピストンは、ピストンを作動させるためのデバイスとの協働のために、凸状の円錐状の作動面を有することが好ましい。さらに、ピストンは対称であり、両端に凸状の円錐状の面を有することが好ましく、向きを気にすることなく、注射器のシリンダーにピストンは挿入され得る。注射器のシリンダーがより効率よく空にされることを確実にするので、凸状の円錐状の面はさらに有利である。
【0043】
特定の実施形態において、ピストンロッドは、ピストンロッドがインジェクタのシリンダーに挿入されたとき、ピストンロッドを軸方向にガイドするための1または複数のガイド構造を、例えば、管状部の外面上に、備える。ガイド構造によって与えられる軸方向のガイドでもって、ピストンロッドのシリンダーへの挿入と注射器の排出端に向けてのピストンロッドの動きとも、より楽になり、より安定する。ガイド構造、例えば、2、3、または、4つのガイド構造は、一般的に、シリンダーの内面に接触することができる隆起を備え、それによって、シリンダー内のピストンロッド動きがシリンダーの軸方向の寸法と平行になることを確実にする。例えば、ガイド構造は、シリンダーの円周上に均等に配置されたレールの形の2から4つの隆起を備え得、レールは、典型的に、動作長の少なくとも10%の長さを有するが、より短い、および、より長いレールも、また、考えられる。他の実施形態では、ピストンロッドは、管状部の外側上のらせん状のリッジである、単一のガイド構造を備える。
【0044】
管状部の長さ、例えば、管状部と動作部との組み合わせた長さ、は、任意の方向において組み合わされた長さであってよい。管状部の長さにわたる管状部は、ピストンを作動させるためのデバイスがシリンダーの動作長にわたってピストンを作動させることを可能にする断面寸法を有し、例えば、断面寸法は、シリンダーの内径よりも小さいことが好ましい。
【0045】
管状部は、ピストンロッドが保護キャップとして皮下注射針上にマウントされたとき、皮下注射針を収納する。管状部は、排出口または皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備える。係合デバイスとその相補的な係合デバイスは、雄ネジ、例えばらせん状の雄ネジ、をオプションとして備えた管状の排出口または皮下注射針、および、相補的な雌ネジ、例えばらせん状の雌ネジ、を相応に備える管状部との、雄雌相互作用等の任意の形式の係合を含み得る。係合デバイスとその相補的な係合デバイスは、また、磁力または圧入相互作用を含んでもよい。
【0046】
一実施形態では、ピストンロッドの管状部は、皮下注射針をシールするためのエラストマー素材を含む。皮下注射針が管状部に挿入され、それによってエラストマー素材に挿入されたとき、皮下注射針の先端がエラストマー素材によってシールされるように、エラストマー素材は位置付けられる。例えば、エラストマー素材は、ピストンロッドの針保護端に設けられ得る。ピストンロッドが皮下注射針よりもかなり長いことを必要とされる場合、エラストマー素材は、皮下注射針が管状部に挿入されたとき、皮下注射針の先端がエラストマー素材に挿入される管状部における任意の位置に設けられ得る。エラストマー素材は、皮下注射針の先端をシールし、注射器の組成物が漏れることまたは蒸発することを防ぐ。エラストマー素材は、また、汚染物質がシリンダーの中に入り込むのを防ぎ、したがって、シリンダーの中の医薬組成物、例えば、薬剤またはワクチンの汚染を防止する。したがって、エラストマー素材をもったピストンロッドは、予め充填された注射器にとって特に適している。エラストマー素材は、皮下注射針をシールすることができる任意のエラストマー素材であってよい。エラストマー素材は、注射器の内容物に、例えば、染料、可塑剤、モノマー、またはその類似物といった成分を漏出しないことが好ましい。例示のエラストマー素材は、シリコンゴムまたは上記したSBC等の、例えば、医療グレードの、化学的に不活性な熱可塑性エラストマーである。
【0047】
ある実施形態では、ピストンロッドは、その針保護端に開口を組み込んでおり、エラストマー素材は、開口を介して針挿入端から挿入され得る。これは、外側から、2から6つの内側の隆起等の内側の隆起も含む、ピストンロッドの内側の中空に向かうエラストマー素材の挿入を可能にする。内側の隆起は、エラストマー素材をガイドし、また、ピストンロッドにエラストマー素材を固定することができる。特定の実施形態では、内側の隆起(例えば、ピストンロッドは4つの内側の隆起を有する)は、ピストンロッドの長手方向の軸と平行なリッジである。さらに、エラストマー素材が、エラストマー素材のガイドと固定をさらに改善するために、これらのリッジに相補的な戻り止めまたはくぼみを有することが好ましい。
【0048】
特定の実施形態において、ピストンロッドは、いずれかの端において、ピストンロッドがシリンダーに挿入されたとき、例えば、指で、ピストンロッドを用いて、ピストンをシリンダーの排出端に向けて押すために用いられ得る、サムプレート(thumb-plate)を備える。サムプレートは、例えば、断面エリアについて、意図された用途に適切とみなされるような、任意の大きさを有し得る。しかし、サムプレートは、典型的に、シリンダーの断面エリアよりも大きな断面エリアを有する。例えば、サムプレートは、円形であってよく、シリンダーの内径の2倍までの直径を有し得る。サムプレートの存在は、人の注射を行うときに非常に重要である、注射の投与の間の安定性を増す。さらに、サムプレートは、ピストンの動きを始めるに必要な力(束縛から脱する力:break loose force)がより小さな注射器に比較して大きい、より大きな注射器での注射の間に特に関係がある、注射器を動作しているときのユーザの快適さを増す。結果的に、サムプレートエリアは、典型的に、シリンダーの直径が増加すると増加し、後者の直径が、シリンダーを空にするために必要とされる力についての支配的なパラメータである。サムプレートは、任意の形状でよいが、典型的には、ディスクまたは環状リングである。針挿入端に置かれた環状リングは、皮下注射針を収納するための部分への皮下注射針の挿入を可能にし得る。針保護端に置かれた場合、環状リング、例えば、エラストマー素材の挿入のための開口を有する環状リング、は、ピストンロッドのいずれかの端を介した管状部へのエラストマー素材の挿入を可能にし得る。好ましい実施形態において、サムプレートは、ピストンロッドの針保護端に存在し、ピストンロッドは、略円筒状の形状を有する。この実施形態において、さらに、サムプレートは、ディスク形状であることが好ましい。特に好ましい実施形態において、ピストンロッドは、円筒状で、針保護端にディスク形状のサムプレートを有し、皮下注射針をシールするためのエラストマー素材を含む。ある実施形態では、針保護端に設けられたサムプレートをオプションとして有するピストンロッドは、シリンダーの動作長に等しい長さ、例えば、全長、を有する。この実施形態において、例えば、オプションとしてのサムプレートを含むピストンロッドは、シリンダーの内側の断面エリアに等しいかより小さい断面エリアを有し、例えば、ピストンロッドは、シリンダーの内径に等しいかより小さい直径を有する。したがって、ピストンロッドは、注射の終了の後、シリンダーの中に完全に挿入され、ピストンロッドは、シリンダーから容易に取り外されることができない。
【0049】
特定の実施形態において、ピストンロッドは、1つの略円錐台形(frustoconical)のピースであり、円錐台形の広い方の端部は係合デバイスを備え、狭い方の端部は作動デバイスを備える。皮下注射針は、したがって、円錐台形の広い方の端部から管状部に挿入される。広い方の端部は、さらに、インジェクタにおけるピストンロッドのより簡単な扱いのためのフィンガーグリップを備える。フィンガーグリップは、略円錐台形形状にみられるよりも小さな直径をもった、円錐台形の狭い部分の形をとり得、したがって、この狭い部分は、ピストンロッドが皮下注射針から取り外されたとき、ピストンロッド上でのより良好なグリップを可能にし、さらに、狭い部分は、ピストンロッドがピストンを作動するためのシリンダーに挿入されたとき、より良好なグリップを可能にする。円錐台形の狭い方の端部は、動作部と表すことができ、円錐台形のこの部分は、中空またはソリッドであってよい。作動デバイスは、上述の任意の形をとり得、動作部は、円錐台形の一部であってもよく、形状が円筒状であってもよい。
【0050】
さらに好ましい実施形態において、例えば、円錐台形または管状の形状をもつピストンロッド、および、シリンダーは、バーブ(barb)またはその類似物、スプリングロックデバイスの相補的な部品を備え、例えば、ピストンがシリンダーに挿入され、排出端に向かってある距離だけ動かされた(例えば、全動作長だけ動かされた)ら、スプリングロックデバイスの相補的な部品と協働で、ピストンロッドをシリンダーの決まった場所にロックする。例えば、ピストンロッドは、スプリングロックデバイスの「スプリングデバイス(spring device)」を備え、シリンダー、例えば、シリンダーの内壁、は、スプリングロックデバイスの「ロックデバイス(lock device)」を備え、また、逆も可能である。特定の実施形態において、シリンダーは、作動端において、「ロックデバイス」として、シリンダーの内壁に面したリッジまたは隆起またはその類似物を備え、ピストンロッドは、例えば、作動デバイスに面した狭い方の端部と、隆起の間の距離よりも大きな直径またはリッジよりも大きな直径をもった広い方の端部とをもった円錐台形において、「スプリングデバイス」として弾性部材を備え、シリンダーの中へのピストンロッドの挿入を可能にする。一旦弾性部材が隆起またはリッジをすぎて挿入されたならば、ピストンロッドは決められた場所にロックされ、シリンダーから取り外されることができない。それによって、インジェクタの再充填や再使用が防止される。
【0051】
インジェクタは、患者への医薬組成物のデリバリに好適である。経皮デリバリのための任意のタイプの医薬組成物がインジェクタにおいて利用され得る。例えば、医薬組成物は、ワクチンまたは薬剤であり得る。本発明の実施形態において、シリンダー、例えば、シリンダーの排出端、は、医薬組成物が予め充填されている。シリンダーは、患者へのデリバリのための正しい服用量で、医薬組成物が予め充填されていることが好ましいが、シリンダーは、より自由度の高い製品を提供するために、患者のために意図されるよりも多くの服用量で予め充填されていてもよいことも考えられる。医薬組成物が予め充填されている本発明のインジェクタは、皮下注射針、例えば保護キャップをもった皮下注射針を備えるか、または、予め充填されたインジェクタは、皮下注射針を備えない。皮下注射針の有無にかかわらず、有利なことには、インジェクタは、ピストンに取り付けられた従来のピストンロッドなしで供給され得る。インジェクタが、ピストンに取り付けられた従来のピストンロッドを備えない場合、予め充填されたインジェクタの梱包と保管は、空間のより少ない必要性により簡素化される。特に、冷却を必要とするワクチン等の医薬組成物が予め充填されたインジェクタにとって、従来のピストンロッドなしのインジェクタは、より緊密に梱包され得、それによって、冷却のための電力消費を軽減できる。これは、発展途上国や同様な地域のために予め充填されたインジェクタを供給することに特に適している。インジェクタにおいてピストンに取り付けられる、または、ピストンと係合される従来のピストンロッドを有した予め充填されたインジェクタは、インジェクタが早まって空にされるリスクをもたらす。このリスクは、ピストンに取り付けられた、または、ピストンと係合したピストンロッドなしのインジェクタには存在しない。
【0052】
他の形態において、本発明は、インジェクタ、特に上述のインジェクタのためのピストンロッドに関する。ピストンロッドは、インジェクタが皮下注射針を備えた場合の上述の任意の実施形態に従ったインジェクタのためのものであってよい。ピストンロッドは、また、本発明によらないインジェクタ、例えば、上述のピストンとは代わったピストンを有するインジェクタのためのものであってもよい。一般に、代替のピストンは、面、例えば凸状の面、をもった変形可能なシーリングエレメントを有し、変形可能なシーリングエレメントは、ピストンがシリンダーに挿入されたとき、接する境界面においてシリンダーの内壁に接し、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールする。この代替のピストンの全ての他の特徴は、本発明のピストンと同じであり得る。本発明のピストンについてみられたものと同じ有利な点が、代替のピストンの初期動作が少なくとも約300kPaの圧力を必要としない点を除いて、代替のピストンを利用した場合にもみられ得る。例えば、この態様におけるピストンの初期動作は、10kPaから100kPaの範囲の圧力を必要とし得る。
【0053】
一般に、例えば、本発明のピストンまたは代替のピストンを有するインジェクタは、シリンダーの作動端と反対側にあるシリンダーの排出端における排出口に取り付けられた皮下注射針を備える。シリンダーは、シリンダーの作動端からシリンダーの排出端までの距離から長手方向の軸と平行なピストンの寸法を引くことによって規定された動作長を有する。本発明のピストンロッドは、皮下注射針を収納するための管状部を有し、管状部は、排出口または皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、管状部は、ピストンを作動させるためのデバイスを備え、管状部の長さは、シリンダーの動作長に等しいかより長いことを特徴とする。ピストンロッドは、上述のピストンロッドについての特徴の任意のもの、または、特徴の組み合わせを備え得る。ピストンロッドは、予め充填されたインジェクタとともに使用される場合に特に有利であり、それは、これが個別のピストンロッドの必要性をなくし、それによって、予め充填されたインジェクタのためにより少ない部品しか必要とされないからであり、インジェクタが、製造コストを最小限にすることが極めて重要な発展途上国における予防接種キャンペーン等のマーケットのために目的とされた場合に適している。
【0054】
本発明のピストンロッドは、本発明のインジェクタには限定されないことを注記し、更なる態様において、本発明は、
内壁をもったシリンダーと、
変形可能なシーリングエレメントを有するピストンと、変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面においてシリンダーの内壁に接し、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールし、
シリンダーの作動端と反対側にあるシリンダーの排出端における排出口に取り付けられた皮下注射針と、
を備えたインジェクタのためのピストンロッドに関し、
シリンダーは、シリンダーの作動端からシリンダーの排出端までの距離から長手方向の軸と平行なピストンの寸法を引くことによって規定された動作長を有し、
ピストンロッドは、皮下注射針を収納するための管状部を有し、
管状部は、排出口または皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、
管状部は、ピストンを作動させるためのデバイスを備え、
管状部の長さは、シリンダーの動作長に等しいかより長いことを特徴とする。
【0055】
さらに他の態様において、本発明は、
内壁をもったシリンダーと、
変形可能なシーリングエレメントを有するピストンと、変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面においてシリンダーの内壁に接し、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールし、
シリンダーの作動端と反対側にあるシリンダーの排出端における排出口に取り付けられた皮下注射針と、
を備えたインジェクタに関し、
シリンダーは、シリンダーの作動端からシリンダーの排出端までの距離から長手方向の軸と平行なピストンの寸法を引くことによって規定された動作長を有し、
ピストンロッドは、皮下注射針を収納するための管状部を有し、
管状部は、排出口または皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、
管状部は、ピストンを作動させるためのデバイスを備え、
管状部の長さは、シリンダーの動作長に等しいかより長いことを特徴とする。
【0056】
さらに他の態様において、本発明は、
長手方向の軸と内壁をもったシリンダーと、
変形可能シーリングエレメントを有したピストンと、変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面においてシリンダーの内壁に接し、ピストンとシリンダーの内壁との間の環状のギャップをシールし、
皮下注射針を収納するための管状部を有したピストンロッドと、管状部は、排出口または皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、管状部は、ピストンを作動させるためのデバイスを備える、
を備えたインジェクタに関し、
管状部の長さは、シリンダーの動作長よりも長く、
管状部は、皮下注射針をシールするためのエラストマー素材を含む。ピストンは、2つまたはそれより多くの変形可能なシーリングエレメントを有し、ピストンはソリッドであることが好ましく、このピストンは、有利なことに、シリンダーの中で特定の向きを必要としない。さらに、ピストンが、凸状の作動面を有することと、ピストンを作動させるためのデバイスが凹状の面または相補的な形状の構造を有することとが好ましい。この態様において、ピストンの初期動作は、約300kPaよりも小さい圧力を必要とする、例えば、初期動作は、10kPaから100kPaの範囲にある圧力を必要とすることも好ましい。インジェクタは、例えば、インジェクタの排出口に取り付けられた皮下注射針を有し得、または、インジェクタは皮下注射針を有しない。この態様の他の実施形態では、インジェクタは、医薬組成物が予め充填されている。本発明の文脈では、「医薬組成物(pharmaceutical composition)」は、患者への注射を目的とされた任意の組成物であるとみなされ、ワクチン、薬剤(medicine)、薬品(medicament)、薬物(drug)、美容組成物(cosmetic composition)、生理食塩水(saline)、等を備え得る。
【0057】
他の態様において、本発明は、本発明のピストンロッドと皮下注射針を備えたパーツのキットに関し、例えば、皮下注射針はピストンロッドの皮下注射針を収納するための管状部に挿入されている。この態様はまた、インジェクタを有するが、インジェクタは必須ではない。例えば、皮下注射針は、対応する所与の動作長をもった標準の大きさの注射器上にマウントされる標準の大きさのものであり、ピストンロッドは、シリンダーの動作長より長い。したがって、パーツのキットは、標準の注射器に適合するように供給され、例えば、ピストンロッドと、例えば、皮下注射針が好適となるような注射器の大きさの表示をもつ。パーツのキットは、また、注射器の大きさに適切なピストンを含み得る。一般に、ピストンに関する本発明の態様について上述された全ての特徴は、本発明の全ての他の態様に関連し、明瞭に述べられてはいないが、該特徴は、個々の特徴または特徴の組について記載された必要な限定を考慮に入れて、自由に組み合わされ得る。同様に、本発明のインジェクタに関係する態様の実施形態についてみられた全ての特徴や対応する利点は、個々の特徴について特に示されたような制限のみのもとで、自由に組み合され得る。
【0058】
本発明は、図面を参照して以下にさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1図1は、本発明のインジェクタの実施形態の長手方向の断面を示す。
図2図2は、本発明のインジェクタの変形可能なシーリングエレメントの2つの実施形態を示す。
図3図3は、本発明のインジェクタの実施形態の長手方向の断面を示す。
図4図4は、本発明のインジェクタの実施形態の長手方向の断面を示す。
図5a図5aは、本発明のインジェクタの実施形態の長手方向の断面を示す。
図5b図5bは、本発明のインジェクタの実施形態の長手方向の断面を示す。
図6図6は、本発明のピストンロッドの実施形態の長手方向の断面を示す。
図7図7は、注射器にマウントされた本発明のピストンロッドをもったインジェクタの実施形態の長手方向の断面を示す。
図8図8は、注射器に挿入された本発明のピストンロッドをもったインジェクタの実施形態の長手方向の断面を示す。
【詳細な説明】
【0060】
異なる実施形態は、ピストンの修正および変形であり、同じ参照番号が同様のパーツに使用されている。
ここで、本発明は、添付の図面を参照してより詳細に説明される。
【0061】
図1は、インジェクタ1の断面を示す。インジェクタは、内壁3をもったシリンダー2と、凸状の面をもつ2つの変形可能なシーリングエレメント5を有するピストン4を備える。変形可能なシーリングエレメント5は、接する境界面(abutting interface)6においてシリンダー2の内壁3に接し、ピストン4とシリンダー2の内壁3との間の環状のギャップをシールする。接する境界面6と変形可能なシーリングエレメント5は、シリンダー2の長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、接する境界面6の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメント5の軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.4の間の範囲、例えば、0.01と0.2の間の範囲にある。図1に示されたピストン4は、ソリッドであり、空洞をもたない。図1に示されたピストン4は、横断平面に対して対称である。ピストン4は1つまたは2つより多くの変形可能なシーリングエレメントを有し得るが、図1のピストン4は、2つの変形可能なシーリングエレメントをもつように図示されている。
【0062】
図示された実施形態において、ピストン4は、ピストン4の長手方向に互いから距離をおいて位置付けられ、各々がピストン4の端近くにある、2つの円周方向の変形可能なシーリングエレメント5を備える。各変形可能なシーリングエレメント5は、ピストン4からシリンダー2の内壁3に向かってある角度で伸びる凸状の面を備える。
【0063】
接する境界面6は、シリンダー2の長手方向の軸に沿って伸びる高さを有する。変形可能なシーリングエレメント5の各々の接する境界面6は、異なる高さを有してもよく、変形可能なシーリングエレメント5の各々の接する境界面6は、接する境界面6の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメント5の軸方向の寸法との比率が示された範囲にある限り、内壁3の円周に沿って一様である必要はない。
【0064】
示された実施形態において、凸状の面は、ある角度で内壁と出会い、それによって、略区切られた(punctuated)、接する境界面6を提供する。接する境界面6は、変形可能なシーリングエレメント5を含むピストン4の直径がシリンダー2の内径よりも大きいことの結果として、変形可能なシーリングエレメント5を介してピストン4によって内壁3上に働く力を与える。
【0065】
変形可能なシーリングエレメント5は、長手方向において、シリンダーを異なる部位に分割する。最上部の変形可能なシーリングエレメント5は、ピストンロッド(図示されず)がピストン4を動かすために挿入され得る、シリンダーの作動部12を規定する。最下部の変形可能なシーリングエレメント5は、注射のための液体7、例えば、医薬組成物、が設けられる排出部11を規定する。作動部12と排出部11は、ピストン4の位置に伴って変化し得る。変形可能なシーリングエレメント5は、排出部11における液体7がピストン4を介して、または、ピストン4を通して、作動部12に通り抜けないことを確実にする。2つの変形可能なシーリングエレメント5が図示されているが、任意の数の変形可能なシーリングエレメント5が利用され得る。例えば、他の実施形態において、ピストン4は、3、4、5、または、それより多くの変形可能なシーリングエレメント5を備える。一般に、変形可能なシーリングエレメント5が多いほど、ピストン4の初動動作のためにより大きな力が必要とされる。
【0066】
シリンダーは、シリンダー2の各端部に位置付けられた作動端9と排出端8とを備える。作動端9は、ピストン4が最初に挿入され得る端部を規定する。排出端8は、ピストン4が動作、例えば、インジェクタ1を空にすること、の間に動くときに向かう端部を規定する。
【0067】
ここで、皮下注射針14が、管状の排出口10に予めマウントされて示されている。管状の排出口10は、シリンダー2の排出端8につながっている。管状の排出口10は、シリンダー2の一体化された部品であってよい。管状の排出口10は、皮下注射針14をシリンダー2に取り付けるための雄雌関係等の適切な原理を用いて、皮下注射針との係合を可能にする任意の形状を有し得る。
【0068】
インジェクタ1は、さらに、ピストンロッド(図示されず)を備え得る。シリンダー2の作動端9を通してピストンロッドを挿入することによって、ピストンロッドは、ピストン4が排出端8に向かって動かされることを可能にする。ピストンロッドをシリンダー2の中に押し込むことによって、ピストン4は排出端8に向かって動かされ、皮下注射針14または排出口10を介して、排出部11から液体7を押し出す。
【0069】
インジェクタ1からの液体7の注射の間、例えば、ピストンロッド(図示されず)によって、ピストン4の作動面に対して、および、シリンダーの排出端8の方向に、排出力が与えられる。排出部11が液体7で充填されているので、液体7は、排出力とは反対の方向に反力をつくる。ピストン4は、したがって、排出力と反力との結果として、圧縮を受ける。結果として、内壁上の力は大きくされ、ピストン4と変形可能なシーリングエレメント5が円周方向に延びて、内壁3に対してよりきつくシールをし、それによって、液体7が排出部11から作動部12に通り抜けるのを防止し、同様に、液体7の正しい投与量が排出され、インジェクタ1から注射されることを確実にする。前述の方向におけるピストン4の動きは、排出力が、内壁3上の力によって接する境界面6においてつくられる静摩擦と前記の力とを超したときに起きることが理解されるべきである。同様に、皮下注射針14を通して、圧力充填を介してシリンダー2を再充填しようと試みられる場合、反力が、内壁3上の力によって接する境界面6においてつくられる静摩擦を超さなければならない。ピストン4の初期動作は、少なくとも約300kPaの圧力を必要とする。
【0070】
シリンダー2の内壁3は、シリンダー2におけるピストン4の容易な動きのため、例えば、動摩擦を低くするために、シリコンオイル、または、ワクチン、または、他の医薬組成物等の潤滑剤を備える。
【0071】
図2は、異なる形状の変形可能なシーリングエレメント5をもった本発明の異なる実施形態を示す。図2の実施形態において、変形可能なシーリングエレメント5とシリンダー2の内壁3の断面が示される。変形可能なシーリングエレメント5の高さは、Hで示される。シリンダーを横断する平面(図示されず)の各々の側で、接する境界面6を介して、変形可能なシーリングエレメント5の凸状の面とシリンダー2の内壁3は、接触角度αとαのそれぞれを規定する。角度αとαは、ほぼ45度である。角度αとαは、約0度から約50度の範囲にあり、互いに独立に変化し得る。変形可能なシーリングエレメント5の凸状の面は任意の形状でよく、凸状の面を形成する直線には限定されない。
【0072】
接する境界面6は、そこで変形可能なシーリングエレメント5が内壁3に接するところでの面によって定義される。接する境界面6は、hで示された高さを有する。接する境界面6の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメント5の軸方向の寸法との間の比率は、約0.1から約0.15である。しかし、接する境界面6の軸方向の寸法と変形可能なシーリングエレメント5の軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.4との間の範囲、例えば、0.01と0.2の間の範囲にあってよい。
【0073】
図3は、補助シーリングエレメント13の近くに位置付けられた、ピストン4によって全ての側面を全体的にまたは部分的に囲まれた空洞15を、ピストン4が備える、本発明のインジェクタの実施形態を示す。使用の間、空洞15は、ピストン4の作動面における孔を介して、ピストンロッド(図示されず)の先端を収納し得る。空洞15は、所望の任意の形状でよい。
【0074】
変形可能なシーリングエレメント5と補助シーリングエレメント13は、互いに独立に、任意の形状でよい。示された実施形態において、最下部の変形可能なシーリングエレメント5は、図1に記載された変形可能なシーリングエレメント5と同じ特徴を有する。最上部の補助シーリングエレメント13は、コンタクト接触面の軸方向の寸法と補助シーリングエレメントの軸方向の寸法との0.4を下回る比率を与えるために必要とされるよりも、内壁3とのより大きなコンタクト接触面となる異なるプロファイルを有する。最上部の補助シーリングエレメント13は、大きく増加した静摩擦を与えないが、ピストン4の方向を制御して、それによって排出部11からの液体7の漏れを防ぐために、動きの間、ピストン4をガイドする。補助シーリングエレメント13は、変形可能なシーリングエレメント5および/またはピストン4と同じ素材でつくられてもよく、弾力性や硬度について同じ特徴を有してもよい。ピストンロッドは、インジェクタを空にするために空洞15に挿入されたとき、好ましくは、空洞15を満たす。
【0075】
他の実施形態(図示されない)において、ピストンは、最上部のシーリングエレメントとして、本発明で要求されるように、第2の変形可能なシーリングエレメントを備える。最下部の変形可能なシーリングエレメントは、シリンダーの中に位置決めされた後、常に、シリンダーの内壁に接する。しかし、最上部の変形可能なシーリングエレメントは、ピストンがピストンロッドでもって動作されていないとき、ピストンの休止またはアンロード位置において内壁とコンタクトしてもよい。ピストンロッドの空洞への挿入に応じて、排出端に向かってのピストンの動きは、空洞を囲むピストンの素材の変形をもたらし得、該変形は、ピストンの中心軸方向に向けられ、最上部の変形可能なシーリングエレメントは、内壁から離れて「持ち上げられる(lifted)」。それによって、最上部の変形可能なシーリングエレメントは、静摩擦には寄与しない。しかし、ピストンロッドが空洞に挿入されていないとき、最上部の変形可能なシーリングエレメントは、静摩擦に寄与する。それによって、シリンダーを空にするためにピストンロッドを介してインジェクタを使用するときよりもより大きな静摩擦に、排出口を介してインジェクタを再充填することを試みる場合には、打ち勝たなければならない。これは、インジェクタを、オペレータにとってより便利にする。この実施形態において、ピストンの作動面は凹状、例えば、円錐形であり、ピストンロッドがピストンを排出端に向かって押すときに、ピストンロッドが「持ち上げ効果(lifting effect)」を出して、最上部の変形可能なシーリングエレメントを内壁から離して持ち上げるために、ピストンロッドが空洞を満たさないことが好ましい。
【0076】
図4は、例えば、NFI(無針インジェクタ)での使用のための、ピストン4が医薬組成物が予め充填されたインジェクタに挿入されている、本発明にしたがったインジェクタ1の実施形態を示し、作動手段によって、液体7が圧力のもとで、皮下注射針の使用なしで、皮膚を介して注射される。インジェクタのこの実施形態は、また、「アンプル(ampoule)」と呼ばれてもよい。
【0077】
図4の実施形態は、ユーザがインジェクタを満たすための必要性をなくす。示された実施形態におけるインジェクタ1は、製造から注射まで締め付けを確実にする、排出端8におけるバレルキャップ16を備える。示されているNFIは、患者に医薬組成物を与えるために、患者の皮膚に浸透するようインジェクタのシリンダーの中の医薬組成物の液流をつくるため、十分な力でピストンを排出端に動かすように、例えば、圧力をかけられた気体、または、デバイスに統合されたピストンロッドを介して、十分な力を与えることができるデバイスにおいて使用するために意図される。そのようなデバイスは、技術に習熟した者には既知である。
【0078】
図5aと図5bの実施形態は、断面において、本発明のインジェクタ1を表す使い捨て注射器を示す。インジェクタ1は、シリンダー2の作動端9の反対側にあるシリンダー2の排出端8における排出口10に取り付けられた皮下注射針14を備える。シリンダー2は、シリンダー2の作動端9からシリンダー2の排出端までの距離から長手方向の軸と平行なピストン4の寸法を引いたことによって定義される動作長17を有する。インジェクタ1は、皮下注射針14を収納するための管状部18と動作部19とを有するピストンロッド20を有し、管状部18は、排出口10または皮下注射針14の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備える。図5aは、皮下注射針14を収納するためにマウントされたピストンロッド20と医薬組成物が予め充填されている排出部11を示す。したがって、図5aは、エンドユーザに供給され得るインジェクタを表す。皮下注射針14の上にマウントされたピストンロッド20は、エンドユーザを、皮下注射針14との早まった接触から保護する。使用において、ピストンロッド20は、皮下注射針14から取り外され、ピストン4を作動させ、医薬組成物を、皮下注射針14を介して排出するために、ピストンロッド20の動作部19のために、作動部12に挿入される。図5に示された実施形態において、ピストンロッド20は円錐台形で、ピストンロッド20の長さ、即ち、管状部18と動作部19との組み合わせの長さは、シリンダー2の動作長17よりも長い。図5bは、シリンダー2を空にした後のシリンダー2に挿入されたピストンロッド20を示す。好ましい実施形態において、ピストンロッド20とシリンダー2、例えば、シリンダー2の内壁3は、ピストンロッド20の取り外しと、それによるインジェクタ1の再使用を防ぐために、スプリングロックデバイス(図示されず)の相補的部品が取り付けられている。
【0079】
図6は、ピストンロッド20に挿入された皮下注射針14をもった本発明のピストンロッド20を示す。ピストンロッドは、円筒状である管状部18を有し、それは針保護端22の反対側にある針挿入端21を有する。針挿入端21は、例えば、図示の実施形態では雄雌相互作用を介して皮下注射針14と係合するための係合デバイスを備える。皮下注射針14の先端は、エラストマー素材24に挿入され、それによって、皮下注射針14をシールする。示された実施形態では、エラストマー素材23は、管状部18の針保護端22における開口を介して挿入されている。この実施形態は、エラストマー素材が、予め充填される注射器を充填した後、挿入されることを可能にする。針挿入端21を介してエラストマー素材24を挿入することも可能である。ピストンロッド20は、針保護端と22にサムプレート(thumb-plate)23を備える。図6のサムプレート23は、環状リングのような形状であり、環の開口は、エラストマー素材24の挿入を可能にする。他の実施形態において、サムプレートは、開口のないディスク形状を有する。ピストンロッド20は、図6に示されたように、即ち、エラストマー素材24を含む管状部18に挿入された皮下注射針14をもって、供給され得る。これは、皮下注射針14が、ピストンロッド20から取り外され、シリンダーのピストンを作動させるために針挿入端21を注射器のシリンダーに挿入する前に、注射器(図示されず)上にマウントされることを可能にする。
【0080】
図7図8は、それぞれ、シリンダー2の排出口10上にマウントされたピストン20とシリンダー2に挿入されたピストン20の実施形態を示す。ピストンロッドは、円筒状である管状部18を有する。管状部18の外径は3.80mmで、シリンダー2の内径は4.6mmであり、82%の比に対応する。この比率は、シリンダー内でのピストンロッド軸方向の動きを安定化させる。ピストンロッド20は、針保護端22において、円盤形状のサムプレート23を有し、サムプレートをもたないピストンロッドに比べてユーザの利便性を向上させる。
【0081】
図7は、ピストン4が、シリンダーの作動端9への10mmのクリアランスをもってシリンダー2に挿入されている、本発明のインジェクタの実施形態に対応する。インジェクタは、ワクチンであってよい医薬組成物(図示されない)が予め充填されている。示された実施形態は、例えば、10.00mmのクリアランスをもってピストン4が挿入された場合、ワクチンのために適していると考えられる0.5mlの容積を有する。しかし、容積とそれによる対応する寸法は、特定の目的でおよびインジェクタから排出される医薬組成物に対して、必要に応じて、技術に習熟した者によって自由に選択され得る。
【0082】
図8は、シリンダー2の中に十分に挿入されたピストン20をもった図7の実施形態を示す。図8において、シリンダー2の動作長17と管状部の長さは、ピストンロッド20がシリンダー2に十分に挿入されたら、サムプレート23がピストンロッド20を引き抜くために使用されることができないように選択される。他の実施形態(図示されず)では、管状部18の長さは、ピストンロッド20がシリンダー2から取り外されることを可能にするに十分である。ピストンロッド20、即ち、ピストンを作動させるためのデバイスは、ピストン4と係合しないので、ピストンロッド20は、注射器を再充填するために使用されることができない。代わりに、皮下注射針14は、エンドユーザまたは他の人が皮下注射針14の先端に身をさらされないで、けがや伝染病に潜在的に身をさらすことのリスクを低減するように、ピストンロッド20の中に再挿入されることができる。
【0083】
以上の開示は本発明の例示であり、その限定として解釈されるべきではない。本発明の1つまたは複数の実施形態が記載されるが、当技術において通常の技量を有する者は、本開示の発明の範囲や精神から逸脱することなく、多くの変更がなされ得ることを容易に理解するであろう。したがって、そのような変更の全てが、この発明の範囲に含まれると意図されていることが理解されるべきである。記載や図面は、本発明の1つまたは複数の例としての実施形態を示すものであり、限定として解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-02-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物のデリバリのためのインジェクタであって、前記インジェクタは、ピストンと、ガラスまたは重合体素材からつくられたシリンダーとを備え、前記シリンダーは、内径と長手方向の軸と内壁とを有し、
前記ピストンは、70から80の範囲のショアA硬度を有するスチレンブロック共重合体からつくられ、前記ピストンは、凸状の面を有する変形可能なシーリングエレメントを有し、前記変形可能なシーリングエレメントは、前記ピストンが変形のないとき、前記シリンダーの前記内径より3%から20%大きい直径を有し、
前記ピストンが前記シリンダーに挿入されたとき、前記変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面において前記シリンダーの前記内壁に接し、前記接する境界面と前記変形可能なシーリングエレメントは、前記長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、そのため、前記接する境界面の最も大きな軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメントの最も大きな軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあり、
前記インジェクタは、前記シリンダーを注射のために充填する前記医薬組成物によってのみ潤滑される、インジェクタ
【請求項2】
前記シリンダーは、環状オレフィン系共重合体またはポリスチレンからつくられる、請求項1に記載のインジェクタ。
【請求項3】
前記ピストンは、前記シリンダー内の前記ピストンの方向をガイドまたは制御することができる補助シーリングエレメントをさらに備える、請求項1または2に記載のインジェクタ。
【請求項4】
前記ピストンは、2つまたはそれより多くの請求項1に規定された変形可能なシーリングエレメントを有する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のインジェクタ
【請求項5】
前記インジェクタから排出される前記医薬組成物は、前記変形可能なシーリングエレメントが前記医薬組成物を排出するために動かされるとき、潤滑剤として機能する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のインジェクタ。
【請求項6】
熱可塑性エラストマーは、71から76の範囲のショアA硬度を有する、請求項1ないしのいずれか一項に記載のインジェクタ
【請求項7】
記接する境界面の最も大きな軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメントの最も大きな軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.との間の範囲にある、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のインジェクタ。
【請求項8】
前記シリンダーは、2mmから10mmの範囲の内径を有する、請求項ないしのいずれか一項に記載のインジェクタ。
【請求項9】
前記シリンダーは、医薬組成物が予め充填されている、請求項ないしのいずれか一項に記載のインジェクタ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0083
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0083】
以上の開示は本発明の例示であり、その限定として解釈されるべきではない。本発明の1つまたは複数の実施形態が記載されるが、当技術において通常の技量を有する者は、本開示の発明の範囲や精神から逸脱することなく、多くの変更がなされ得ることを容易に理解するであろう。したがって、そのような変更の全てが、この発明の範囲に含まれると意図されていることが理解されるべきである。記載や図面は、本発明の1つまたは複数の例としての実施形態を示すものであり、限定として解釈されるべきではない。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[C1]
長手方向の軸と内壁とを有したシリンダーを備えたインジェクタにおいて使用するためのピストンであって、
前記ピストンは、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有し、
前記変形可能なシーリングエレメントは、前記ピストンがシリンダーに挿入されたとき、接する境界面において前記シリンダーの前記内壁に接し、前記ピストンと前記シリンダーの前記内壁との間の環状のギャップをシールし、
前記接する境界面と前記変形可能なシーリングエレメントは、前記長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、
前記接する境界面の軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあることを特徴とする、ピストン。
[C2]
前記ピストンは、ソリッドであり、2つまたはそれより多くのC1に規定された変形可能なシーリングエレメントを有する、C1に記載のピストン。
[C3]
前記ピストンは、顔料も染料も備えない、C1または2のいずれか一項に記載のピストン。
[C4]
前記ピストンと前記変形可能なシーリングエレメントとは、同じ材料でできている、C1ないし3のいずれか一項に記載のピストン。
[C5]
前記変形可能なシーリングエレメント、または、ピストンと変形可能なシーリングエレメントは、約50から約90の範囲のショアA硬度を有する、C1ないし4のいずれか一項に記載のピストン。
[C6]
前記ピストンは、射出成形によってつくられた、C1ないし5のいずれか一項に記載のピストン。
[C7]
前記ピストンは、スチレンブロック共重合体からできている、C6に記載のピストン。
[C8]
C1ないし7のいずれかに記載のピストンを備えたインジェクタ。
[C9]
長手方向の軸と内壁とをもったシリンダーと、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有したピストンとを備えたインジェクタであって、
前記変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面において前記シリンダーの前記内壁に接し、前記ピストンと前記シリンダーの前記内壁との間の環状のギャップをシールし、
前記接する境界面と前記変形可能なシーリングエレメントは、前記長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、
前記接する境界面の軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあることを特徴とする、インジェクタ。
[C10]
前記ピストンの初期動作は、少なくとも約300kPaの圧力を必要とする、C8または9のいずれか一項に記載のインジェクタ。
[C11]
前記シリンダーの前記内壁は、シリコンオイル、または、ワクチン、または、医薬組成物などの潤滑剤を備える、C8ないし10のいずれか一項に記載のインジェクタ。
[C12]
前記シリンダーは、45mmまでの内径、例えば、約2mmから約10mmの範囲の直径、を有する、C8ないし11のいずれか一項に記載のインジェクタ。
[C13]
前記シリンダーを横切る平面の一方の側で、前記接する境界面を介して、前記変形可能なシーリングエレメントの前記凸状の面と前記シリンダーの前記内壁は、約0度から約50度の範囲で接触角度を規定し、前記平面の他方の側で、前記変形可能なシーリングエレメントの前記凸状の面と前記シリンダーの前記内壁は、約0度から約50度の範囲で第2の接触角度を規定する、C8ないし12のいずれか一項に記載のインジェクタ。
[C14]
前記シリンダーは、医薬組成物が予め充填されている、C8ないし13のいずれか一項に記載のインジェクタ。
[C15]
C1ないし7のいずれか一項に記載のピストンの使い捨て注射器における使用。
[C16]
使い捨て注射器における、凸状の面をもった変形可能なシーリングエレメントを有したピストンの使用であって、
前記変形可能なシーリングエレメントは、前記注射器の中にマウントされると、接する境界面において前記注射器の内壁に接し、前記ピストンと前記注射器の前記内壁との間の環状のギャップをシールし、
前記接する境界面と前記変形可能なシーリングエレメントは、前記注射器の長手方向の軸と平行な軸方向の寸法を有し、
前記接する境界面の軸方向の寸法と前記変形可能なシーリングエレメントの軸方向の寸法との間の比率は、0.01と0.2との間の範囲にあることを特徴とする、ピストンの使用。
[C17]
C8ないし14のいずれか一項に記載のインジェクタのためのピストンロッドであって、
前記インジェクタは、前記シリンダーの作動端と反対側にある前記シリンダーの排出端における排出口に取り付けられた皮下注射針を備え、
前記シリンダーは、前記シリンダーの前記作動端から前記シリンダーの前記排出端までの距離から前記長手方向の軸と平行な前記ピストンの寸法を引くことによって規定された動作長を有し、
前記ピストンロッドは、前記皮下注射針を収納するための管状部を有し、
前記管状部は、前記排出口または前記皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、前記針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、 前記管状部は、前記ピストンを作動させるためのデバイスを備え、
前記管状部の長さは、前記シリンダーの前記動作長に等しいかより長いことを特徴とする、ピストンロッド。
[C18]
前記ピストンを作動させるための前記デバイスは、前記針挿入端または前記針保護端に設けられる、C17に記載のピストンロッド。
[C19]
前記ピストンを作動させるための前記デバイスは、前記ピストンの凸状の作動面に相補的な凹状の面または形状を有する、C17または18のいずれか一項に記載のピストンロッド。
[C20]
前記管状部の外径の前記シリンダーの内径に対する比率は、50%から90%の範囲にある、C17ないし19のいずれか一項に記載のピストンロッド。
[C21]
前記ピストンロッドは、前記インジェクタの前記シリンダーに挿入されたときに前記ピストンロッドを軸方向にガイドするための1つまたはそれより多くのガイド構造を、前記管状部の外側の面上に備える、C17ないし20のいずれか一項に記載のピストンロッド。
[C22]
前記ピストンロッドの前記管状部は、前記皮下注射針をシールするためのエラストマー素材を含む、C17ないし21のいずれか一項に記載のピストンロッド。
[C23]
前記針挿入端において、または、前記針保護端において、前記ピストンは、サムプレートを備える、C17ないし22のいずれか一項に記載のピストンロッド。
[C24]
前記ピストンロッドは、前記シリンダーの前記動作長に等しい長さを有し、
前記サムプレートは、前記インジェクタのシリンダーの内側の断面エリアと等しいかより小さい断面エリアを有する、
C23に記載のピストンロッド。
[C25]
前記サムプレートは、前記シリンダーの前記断面エリアより大きい断面エリアを有する、C23に記載のピストンロッド。
[C26]
長手方向の軸と内壁をもったシリンダーと、
変形可能なシーリングエレメントを有したピストンと、前記変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面において前記シリンダーの前記内壁に接し、前記ピストンと前記シリンダーの前記内壁との間の環状のギャップをシールする、
皮下注射針を収納するための管状部を有したピストンロッドと、前記管状部は、前記排出口または前記皮下注射針の相補的な係合デバイスと係合するための係合デバイスを備えた針挿入端と、前記針挿入端の反対側にある針保護端とを有し、前記管状部は、前記ピストンを作動させるためのデバイスを備える、
を備えたインジェクタであって、
前記管状部の長さは、前記シリンダーの前記動作長よりも長く、
前記管状部は、前記皮下注射針をシールするためのエラストマー素材を含む、インジェクタ。
[C27]
C16ないし25のいずれか一項に記載のピストンロッドと皮下注射針を備えたパーツのキット。
【外国語明細書】