(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068227
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】複合電極型心腔内除細動カテーテル及び複合電極型心腔内除細動カテーテルユニット
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20220426BHJP
A61N 1/04 20060101ALI20220426BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20220426BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20220426BHJP
A61B 5/287 20210101ALI20220426BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220426BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
A61N1/39
A61N1/04
A61M25/00 610
A61B5/33 120
A61B5/287 100
A61L31/04 110
A61L31/06
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016253
(22)【出願日】2022-02-04
(62)【分割の表示】P 2018059844の分割
【原出願日】2018-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2017111185
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518279749
【氏名又は名称】ジェイソル・メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】大井 丈士
(57)【要約】
【課題】EP検査用電極で発見した異常な電気刺激を発生している部位に、除細動のために要求される電流を除細動用電極から容易に供給でき、確実に除細動を行うことが可能な複合電極型心腔内除細動カテーテル及び複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットを提供する。
【解決手段】本発明の複合電極型心腔内除細動カテーテルは、心腔内の部位又は細胞群の電気生理学上の電気信号を検出する2以上の第1電極を具備してなる第1電極群と、隣り合う2つの前記第1電極の間に位置する、心腔内又は心腔内と静脈内での接触部位に除細動のための高電圧の除細動電気衝撃による電流を流すための1以上の第2電極を具備してなる第2電極群を含み、前記第2電極の前記カテーテルシャフトの長手方向における表面の導電長が前記第1電極における当該導電長以上の長さを有することを特徴としている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が概略円形の絶縁性部材でできた可撓性のあるカテーテルシャフトと、当該カテーテルシャフトの表面に形成された複数の電極と、当該電極に接続されかつ前記カテーテルシャフトの内部で配線される導電ケーブルを含む電極カテーテルであって、
前記複数の電極は、心腔内の部位又は細胞群の電気生理学上の電気信号を検出する2以上の第1電極を具備してなる第1電極群と、隣り合う2つの前記第1電極の間に位置する、心腔内又は心腔内と静脈内での接触部位に除細動のための高電圧の除細動電気衝撃による電流を流すための1以上の第2電極を具備してなる第2電極群を含み、
前記第2電極の前記カテーテルシャフトの長手方向における表面の導電長が前記第1電極における当該導電長以上の長さを有することを特徴とする複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項2】
前記第1電極群と前記第2電極群の組合せが、前記カテーテルシャフトの2箇所設けられていることを特徴とする請求項1に記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項3】
前記第1電極及び前記第2電極に加えて、前記カテーテルシャフトの先頭部に独立して形成され前記カテーテルシャフトの内部で配線される導電ケーブルと接続された、心腔内の部位又は細胞群の電気生理学上の電気信号を検出する第3電極を有する請求項1又は2に記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項4】
前記第1電極が、円環形状又は円筒形状を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項5】
前記第1電極が、前記カテーテルシャフトの表面に露出しかつ当該表面とほぼ同じ表面となるように形成した断面が円形状の導電ケーブルであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項6】
前記第1電極が、断面円形状である導電ケーブルを前記カテーテルシャフトに巻いてなる導電部であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項7】
前記第1電極が、前記導電ケーブルのケーブルと同一材料からなることを特徴とする請求項5又は6に記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項8】
前記第2電極が、円筒形状を有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項9】
前記第2電極が、全体が円筒形状であってかつ長手方向に螺行する形状であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項10】
前記第2電極の長手方向に螺行する形状は、螺行の間隔が密であることを特徴とする請求項9に記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項11】
前記第2電極の長手方向に螺行する形状は、螺行の間隔が粗であることを特徴とする請求項9に記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項12】
前記第2電極が、断面が円形状である導電ケーブルを前記カテーテルシャフトに巻いてなる導電部であることを特徴とする1から7のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項13】
前記導電ケーブルが、前記カテーテルシャフトに密巻きで巻かれていることを特徴とする請求項12に記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項14】
前記導電ケーブルが、前記カテーテルシャフトに粗巻きで巻かれていることを特徴とする請求項12に記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項15】
前記第2電極が、前記導電ケーブルと同じ材料からなることを特徴とする請求項12から14のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項16】
前記第1電極及び前記第2電極が、前記カテーテルシャフトの表面に概略半分埋め込まれていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項17】
前記第2電極が、前記カテーテルシャフトの表面に概略半分埋め込まれていることを特徴とする請求項5に記載の複合電極型心腔内除細動電極カテーテル。
【請求項18】
前記第1電極及び第2電極が、前記カテーテルシャフトの表面に全部埋め込まれ、当該第1電極及び第2電極の表面が前記カテーテルシャフトの表面と面一であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項19】
前記カテーテルシャフトは、中空のチューブあるいは多孔のチューブであることを特徴とする請求項1から18のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項20】
前記カテーテルシャフトの内部は、低硬度のナイロンエラストマー、高硬度のナイロンエラストマー又はステンレス素線による編組でその内壁層を裏打ちしていることを特徴とする請求項1から19のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項21】
前記カテーテルシャフトが多孔のチューブであって、当該多孔のチューブの内部壁がテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はフッ素樹脂からなる層により裏打ちされていることを特徴とする請求項1から19のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテル。
【請求項22】
前記導電ケーブルの被覆がポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂のいずれかからなり、肉厚が20~40μmであること請求項1から21のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細カテーテル。
【請求項23】
請求項1から22のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテルと、
当該電極カテーテルの一方の終端に存在する終端接続部と、
当該終端接続部に設けられかつ前記導電ケーブルが電気的に接続された導電性のコネクターピンとを具備してなることを特徴とする複合電極型心腔内除細動カテーテルユニット。
【請求項24】
請求項1から22のいずれかに記載の複合電極型心腔内除細動カテーテルには、
前記カテーテルシャフトの先端部の内部に接続され、前記カテーテルシャフトの内部に埋設され、一方が前記終端接続部に引き出されたプルワイヤーが備えられていることを特徴とする請求項23に記載の複合電極型心腔内除細動カテーテルユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心腔内に挿入されて、心房細動を除去する複合電極型心腔内除細動カテーテル及び複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心房細動を除去する機器として、体外から電気的刺激を与える体外式除細動器が知られている。しかし、細動を起こしている心臓に対して体外から大きな電気エネルギーを与えるため、電気的刺激による苦痛を伴い患者にとって負担が大きく、さらには皮膚への熱傷を与えるおそれがある。このような背景から、心腔内除細動カテーテルを用いた除細動が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
心腔内除細動カテーテルにおける従来の例として、特許文献1に沿って説明すると、まず、
図1は、除細動を行う従来の心腔内除細動カテーテルユニット200の一例を模式的に示す平面図である。外形上はカテーテルシャフト10に、その表面に設けたEP(電気生理学的)検査用電極20が複数集まったEP検査用電極群20Gと、除細動用電極30が複数集まった2つの除細動用電極群31Gと32Gとが別々に配置されて電極カテーテル(電気カテーテルと呼ばれることもある)100が形成されている。この電極カテーテル100は、EP検査を行うことができ、また必要に応じて、除細動も行うことができるようになっている。
【0004】
カテーテルシャフト10は、例えばPFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等の可撓性を有する樹脂材料からできており、EP検査用電極群20Gを構成するEP検査用電極20及び除細動用電極群31G、32Gを構成する除細動用電極30は多くの場合ではステンレス、金や白金の金属でできている。隣り合う2つの除細動用電極30の間や隣り合う2つのEP検査用電極20の間には電極間ギャップ40が設けられている。また、2つの除細動用電極群31G及び32G間の表面はカテーテルシャフト10の一部となっている。除細動用電極群32GとEP検査用電極群20Gの間の表面もカテーテルシャフト10の一部となっている。
【0005】
EP検査用電極20と除細動用電極30のそれぞれには導電ケーブル(
図1には示されていない)が接続され、その導電ケーブルはカテーテルシャフト10の内部に埋設され、ストレインレリーフ24やハンドル50の内部を経由して心腔内除細動カテーテルユニット200の接続終端部23のコネクターピン25(
図2に示されている)に接続される。接続終端部23は、ラッチ機構26(
図2に示されている)により、他のケーブルコネクターが装着され、そのケーブルを介して高電圧発生電源やEP検査用計測器を含む制御電源ユニット(図示せず)に接続される。
【0006】
EP検査用電極20は、カテーテルシャフト10に沿った長手方向の長さが除細動用電極30と比べて短い円筒形状又は円環形状である。一方、除細動用電極30はEP検査用電極20に比較してカテーテルシャフト10に沿った長手方向の長さが長い円筒形状である。前者は心腔内の部位又は細胞群の電気生理学上の電気信号を検出するものであるためその表面積が小さい方が良い。逆に、長手方向の長さが長い形状である場合にはEP検査用電極20の信号検出の空間分解能が低下し、かえって検出対象とする心腔内の部位の特定が困難となる。後者は心腔内又は心腔内と静脈内での接触部位に除細動のための高電圧の除細動電気衝撃による電流を流すために表面積を大きくする必要があり、そのため、除細動用電極30にはカテーテルシャフト10に沿った長手方向の長さが長い円筒形状のものを採用している。
【0007】
カテーテルシャフト10の先端部は、経皮的に静脈を通じて心腔に容易に導入するため丸みを帯びた形状のカテーテルシャフトヘッド45を構成している。
【0008】
除細動を行うには、細動を生じている心腔内の部位に2つの除細動用電極群31G及び32G間の電流通路にその部位が通過するように電極カテーテル100の心腔内の位置や屈曲を術者の手元操作により変化させる。手元操作はハンドル50、特に把持部21、ストレインレリーフ24とカテーテルシャフト10内に埋設したプルワイヤー(図示せず)に繋がる摘まみ22を、カテーテルシャフト10の長手方向に前後に動かすことにより行う。
【0009】
プルワイヤーを手前に引くことにより、電極カテーテル100の先端は曲がり、静脈血管や心腔内の曲がり部に対して容易に電極カテーテル100を進入させることができる。
【0010】
除細動用電極30は、円筒形状の電極を用いているだけであるので、電流放出面積を十分確保しにくい。電流放出面積を大きくするためには、除細動用電極群31G及び32Gにおいて、隣り合う除細動用電極30の間の電極間ギャップ40を小さくして個々の除細動用電極30の円筒形状の円筒長を長くするしかない。
【0011】
しかし、そうすると、除細動用電極30は金属であるため、電極カテーテル100は全体として可撓性がなくなり、静脈や心腔内を屈曲して進入させることが困難になり、除細動をすべき静脈あるいは心腔の特定部位に電極カテーテル100を導入して留置することが円滑にできなくなる。そのため、除細動用電極30の電流放出面積を大きくすることは限界がある。その結果、有効に除細動を行うに必要な電流を心臓に十分に供給することが困難となる。更に、電極カテーテル100が可撓性を失うことは、静脈あるいは心腔内で電極カテーテル100を移動させることにより静脈あるいは心腔の内壁を傷付ける原因となり、好ましいものではない。
【0012】
電流放出面積を十分確保できないことは、電気的には、電極カテーテル100を心腔内あるいは冠静脈内に挿入させたとき、電極カテーテル100の除細動用電極群31G及び32Gに繋がるコネクターピン25から見たインピーダンスが高くなることを意味する。そのため、除細動を行うために除細動用電極群31G及び32Gに繋がるコネクターピン25に高電圧を印加すると、コネクターピン25から除細動用電極30に至るまでの導電ケーブル間、特に除細動用電極群31G及び32Gに至る導電ケーブル間で高電圧による絶縁破壊が生じ、コネクターピン25に加えた高電圧はその絶縁破壊部で短絡し、その除細動用のエネルギーは細動発生部位あるいは細動原因信号を発生している部位には供給されず、除細動を行うことができない。
【0013】
いったん高電圧による絶縁破壊が生じると、それぞれ除細動用電極群31G及び32Gに繋がる導電ケーブル間は絶縁性が低下し、もしくは導通し、当該絶縁破壊によりその絶縁破壊部に非可逆的にピンホールや電流パスが形成されて、細動部位に除細動電気衝撃を加えることができなくなる。そのため、もはやその心腔内除細動カテーテルは利用することはできず、新たな心腔内除細動カテーテルと交換しなければならなくなる。その交換においては、使用中の心腔内除細動カテーテルを冠静脈から抜去し、新たな心腔内除細動カテーテルを穿刺し冠静脈へガイドし進入させるという施術を再度行う必要があり、施術者の負担と患者の身体的負担は大きくなってしまう。
【0014】
EP検査用電極20は電極カテーテル100の先端部のカテーテルシャフトヘッド45より後方でかつ除細動用電極群31G及び32Gの後方に配置されているため、電極カテーテル100を、冠静脈洞を介して冠静脈の中へ進入させたときであっても冠静脈の奥の電位を測定することは困難であり、その結果EP検査用のカテーテルとしての機能は制限される。
【0015】
除細動は、不整脈の原因となる電気刺激を発生している冠静脈洞、電気刺激が調整される房室結節、細動を生じている心腔内の部位である心房筋又は心室筋(以下「異常部位」と呼ぶ)をターゲットとして行われる、即ち、直流の高電圧の除細動電気衝撃を除細動用電極群31G及び32Gに印加し、除細動用電極群31G及び32Gの間の電流経路がこれらの異常部位に流れることにより、これら異常部位に直流の高電圧の除細動電気衝撃を与え異常部の電気刺激の発生やリエントリーを停止させて、正常な心筋の収縮が行われるようにする。
【0016】
心臓が正常な状態においては洞結節だけが自発的に電気刺激を出し、その電気刺激がギャップジャンクションを通り、房室結節、心房筋、ヒス束、右脚プルキンエ線維及び左脚プルキンエ線維、そして心室へ伝わり心筋が収縮する。しかし、非正常な心臓の動作は、不整脈となって現れ、その主な原因は、細胞の興奮発生の異常、興奮の伝わり方の異常である。
【0017】
これらは、具体的には房室、房室結節、洞房結節の細胞の異常な興奮(リエントリーと呼ばれている)、更に心房筋細胞や心室筋細胞の勝手な興奮を生じる。実際には、電気刺激を加えながら検査プローブとして心臓内各部の心電図を記録して、冠静脈洞等での電気刺激の発生部位やリエントリーの経路を調べる。そして、従来の心腔内除細動カテーテルでは、異常な部位を発見すれば、原則的にはその部位に、2つの除細動用電極群31G及び32Gの間の直流の高圧の電流通路が貫くように、その異常部位に除細動電気衝撃をかけて、細動を停止させる。
【0018】
しかしながら、例えば
図1に示すような従来の心腔内除細動カテーテルユニット200を用いる場合では、EP検査用電極群20Gが除細動用電極群31G及び32Gより離れているため、異常な電気刺激を発生している部位を見つけてもその部位に心腔内除細動カテーテルユニット200用に形成された除細動用電極群31G及び32Gのひとつを近づけることが困難であるため、除細動電気衝撃による直流の高圧の電流通路が、その部位を貫くように、除細動用電極群31G及び32Gを位置させることは難しい。
【0019】
心腔内で電極カテーテル100を術者が手元で引いてもEP検査用電極群20Gがあった部位に除細動用電極群31G及び32Gのひとつを移動させることは困難である。心腔内では電極カテーテル100の動きは、カテーテルシャフト10に沿ったものではなく、3次元的に自由に移動し得るからである。そのため、EP検査用電極20で異常な電気刺激を発生している部位を見つけても、確実に除細動をすることは困難である。
【0020】
このように、従来の心腔内除細動カテーテルユニット200では、EP検査用電極20で異常な電気刺激を発生している部位を見つけても、その部位に2つの除細動用電極群31G及び32Gの間が来るように電極カテーテル100を移動させて確実に除細動をすることには困難がともなう。
【0021】
具体的には、EP検査用電極群20Gが除細動用電極群31G及び32Gより離れているため、異常な電気刺激を発生している部位をEP検査用電極群20Gで見つけてもその異常部位はEP検査用電極群20Gに近いだけで、除細動用電極群31Gや32Gからは離れているため、その部位に直流の高圧の電流通路が貫くようにすることは難しい。ましてや、2つの除細動用電極群31G及び32Gの間の電流経路に異常部位を位置させること、すなわちポジショニングは更に難しい。そのため、従来の心腔内除細動カテーテルユニット200では確実に除細動をすることが困難である。
【0022】
そこで、従来の心腔内除細動カテーテルユニット200ではEP検査用電極20で異常な電気刺激を発生している部位を見つけると、術者が、手元で心腔内除細動カテーテルユニット200の経皮アプローチ口から心腔内除細動カテーテルユニット200を電極カテーテル100上のEP検査用電極群20Gと除細動用電極群31G及び32Gの間の距離分だけ、体内に押入れ又は体内から引き抜くことにより除細動用電極群31G及び32Gを移動させて、除細動用電極30をできるだけ当該異常部位に近づけるような手法を取っている。そのために、カテーテルシャフト10にマーカを付け経皮アプローチ口を基準としてマーカの移動の前後を目視し、該異常部位を検知したEP検査用電極群20の位置に除細動用電極群31G及び32Gの間が来るように移動させ、その移動距離をできるだけ正確に見込む方法が採用されている。
【0023】
しかし、上述した可撓性のある電極カテーテル100は3次元的な自由度を有することから、そのようにして除細動用電極群31G又は32Gを当該異常部位に近づける方法をもってしてもまだ不正確でかつ不十分である。一方、プルワイヤーにより電極カテーテル100の可撓性が制限される場合には、心腔内除細動カテーテルユニット200の引き抜き移動は必ずしも電極カテーテルが心腔等の内部をその表面に沿って移動するものでないため、当該異常部位に除細動用電極群31G又は32Gを移動させることにはならない。以上により従来の心腔内除細動カテーテルユニット200では、異常部位に除細動用電極群31G又は32Gを位置させること、すなわち異常部位に対するポジショニングが十分には達成できないとの問題がある。
【0024】
このように、従来の心腔内除細動カテーテルユニット200では除細動用電極群31G及び32Gの適切なポジショニングが不十分である。従って、従来の心腔内除細動カテーテルユニット200を用いる場合には、細動の原因となっている部位あるいは細動部に対して除細動用電極群31G及び32Gの間に高電圧の除細動電気衝撃を最短経路で印加する保証はない。そこで、遠方経路に対しても異常部位に除細動電気衝撃による十分な直流電流を流せるように、最短経路を条件とする最適条件に比して、比較的高電圧である除細動電気衝撃を除細動用電極に印加するようにしていた。
【0025】
このような比較的高電圧である除細動電気衝撃を使用するため、例えば心房細動では心房に血が淀んで血栓ができやすくなることに加えて、高電圧の除細動電気衝撃の印加により血管壁や心腔壁の損傷を起こしやすく、これらの結果として血栓が生じやすくなる。そのため、施術中に、これらの機序により発生した血栓により副次的に心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険性があった。特に、除細動電気衝撃による施術を受けた患者の1%前後が脳梗塞を発症する可能性があるとの報告もされている。
【0026】
更に比較的高い電圧の除細動電気衝撃を印加することは、前述の絶縁破壊が生じやすく施術中に心腔内除細動カテーテルユニットの交換を必要とする事態となり、心腔内除細動カテーテルユニットの使用上の信頼性の問題があった。
【0027】
以上より、従来の心腔内除細動カテーテルユニット200は、1)除細動を行う際に要求される必要十分な電流を異常部位に供給することが困難であり、2)血栓の発生により副次的に心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険性があり、3)同時に高インピーダンスであることにより使用中に絶縁破壊により心腔内除細動カテーテル200が使用不能となり、4)これを交換することは患者の負担を大きくする、との欠点を有していることが分かる。
【0028】
また、血栓の発生及び絶縁破壊による心腔内除細動カテーテルユニット200の使用不能の事態を避けるため、除細動電気衝撃を印加した時に電極カテーテル100の除細動用電極30から電流放出量を増加させることも必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2010-63708号公報(特許第4545210号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
そこで、本発明は、EP検査用電極で発見した異常な電気刺激を発生している部位に、除細動のために要求される電流を除細動用電極から容易に供給でき、確実に除細動を行うことが可能な複合電極型心腔内除細動カテーテル及び複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットを提供することを課題とする。
また、本発明は、除細動カテーテルの可撓性を失うことなく除細動電気衝撃を印加したときに除細動電極からの放出電流を必要十分な大きさにすることができる複合電極型心腔内除細動カテーテル及び複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットを提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
以下、上記課題を解決するための手段について説明する。
EP検査用電極群は房室結節、洞房結節、更に心房筋細胞や心室筋細胞における異常な興奮を測定する。その測定には2以上のEP検査用電極が用いられ、各電極間の電圧の組み合わせにより心腔内の対象部位の電気刺激を測定し、心腔内で異常興奮をしている部位を特定する。一方、除細動用電極群は、心腔内除細動カテーテルが心腔内に円滑に進入できるよう可撓性を確保するために各除細動用電極は円筒形状をしており除細動用電極群全体としては可撓性を有するようにしている。
【0032】
そこで、本発明に係る複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットでは、EP検査用電極間に1以上の除細動用電極が配列された構成とすることを特徴とする複合電極を採用して心腔内除細動カテーテルを構成する。この場合はEP検査用電極と除細動用電極は隣接しEP検査用電極群と除細動用電極群は、心腔内除細動カテーテル上では同じ位置内にあるといえる。
【0033】
具体的には、本発明にかかる複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットは、その基本となる要素発明である次の電極カテーテル構造を有している。
【0034】
すなわち、断面が概略円形の絶縁性部材でできた可撓性のあるカテーテルシャフトと、このカテーテルシャフトの表面に形成された複数の電極と、これら電極に接続されかつこのカテーテルシャフトの内部で配線される導電ケーブルを含む電極カテーテルであって、これら複数の電極は、2以上のEP検査用電極(あるいは、第1電極と呼ぶこともできる)を具備してなる第1電極群と、隣り合う2つの当該EP検査用電極の間ごとに1以上の除細動用電極(あるいは第2電極と呼ぶこともできる)が位置しており、そのような当該除細動用電極を1以上具備してなる第2電極群を含み、前記除細動用電極の前記カテーテルシャフトの長手方向における表面の導電長が前記EP検査用電極における当該導電長以上の長さを有することを特徴とする電極カテーテルである。ここで、導電長とは、一つの電極の表面のカテーテルシャフト方向の長さをいう。自分自身又は他の導電体により電気的に繋がった複数の電極については、これら複数の電極のカテーテルシャフト方向の長さを合計した長さを導電長という。
【0035】
さらに、本発明にかかる複合電極型心腔内除細動カテーテルユニット(単に除細動カテーテルユニットとも呼ぶ)は、使用上の具体性からは、その電極カテーテルの一方の終端に存在する終端接続部と、この終端接続部に設けられかつこれら導電ケーブルが電気的に接続された導電性のコネクターピンを有している。
【0036】
EP検査用電極は2つの電極対となって心房や心室内等の異常な興奮を測定することができる。したがって、異常部位の測定位置は2つのEP検査用電極間と言える。一方、除細動用電極の位置は2つのEP検査用電極間のカテーテルシャフトの表面全体であるため、除細動用電極の位置はEP検査用電極が配置されているその位置そのものである。さらに、除細動用電極は2つのEP検査用電極の間にあるため、EP検査用電極と除細動用電極は離隔していない。そのため、電極群全体としても、EP検査用電極群と除細動用電極群も離隔していない。
【0037】
EP検査用電極及び除細動用電極に接続された導電ケーブルはカテーテルシャフト内部で埋め込まれカテーテルシャフト一方の終端の終端接続部まで配線されて、その終端接続部に設けられかつ当該導電ケーブルが電気的に接続された導電性のコネクターピンに接続され、電圧検出器や外部電源にEP検査用電極及び除細動用電極がそれぞれ電気的に接続され、心腔内除細動カテーテルユニットとして機能している。
【0038】
このEP検査用電極間に除細動用電極を配列する構成は、除細動用電極間に新たなEP検査用電極を配置することに他ならない。言い方を変えるなら、従来の心腔内除細動カテーテルでは、2つのEP検査用電極間である電極間ギャップはカテーテルシャフトの表面のみが存在するデッドスペースであり、本発明では、EP検査用電極を元の除細動用電極を挟むように移動させることであり、このような移動により構成された電極配列を採用する本発明にあっては、除細動用電極の数が増えるわけではない。複数の除細動用電極を配列する構成は、その配列の最前列と最後部にEP検査用電極を追加して配列する構成であってよい。
【0039】
最前部と最後部にはEP検査用電極を追加して配列することは、EP検査用電極の数を増やすこととなる。しかし、EP検査用電極のカテーテルシャフト長に対する長さは除細動用電極のそれよりも小さく電極カテーテルの長手方向に対する電極の全体の長さはほとんど変わらない。そのためこのような電極配置をしても本発明は、電極カテーテルとしての可撓性が劣化するものではない。
【0040】
なお、本発明では、基本的に2つのEP検査用電極間に1以上の除細動用電極を配置する電極配列を採用するが、当該配列の最終位置にさらに除細動用電極を配列しても良い。
【0041】
図3(A)、
図3(B)、
図3(C)、
図3(D)は除細動用電極からの電流の放出を表した図である。
図3(A)、
図3(B)、
図3(C)、
図3(D)は何れも除細動用電極がカテーテルシャフト10の表面に配置されているその長手方向を見た外観を示している。
図3(A)と
図3(B)は、除細動用電極30がカテーテルシャフト10の表面に巻きつけられて配置されている。一方、
図3(C)と
図3(D)は除細動用電極30がカテーテルシャフト10に埋め込まれて、除細動用電極30の表面とカテーテルシャフト10の表面が一致している。
図3(A)及び
図3(C)に示すように、除細動用電極30からの電流放出は、除細動用電極30の端では電流放出が、除細動用電極30が存在しない全空間に向かう。これは電流に関するガウスの定理であるdivE=Jから導き出される結果である。divは発散を意味する数学的な演算子であり、Eは電場のベクトルであり、Jは電流密度のベクトルである。
【0042】
このガウスの定理より、除細動用電極30の端では、放出される電流は除細動用電極30が存在しない全空間に向かい、その結果、周りに自分自身である除細動用電極30が存在する除細動用電極30の中心部に比べて電流放出は大きくなる。そのため、
図3(B)、
図3(D)に示すように、除細動用電極30の端では、放出電流の電流密度はどちらも中心部に比較して大きくなる。
【0043】
図3(B)、
図3(D)に見られる放出電流の電流密度の違いは、除細動用電極30がカテーテルシャフト10の表面から突出しているか、除細動用電極30の表面がカテーテルシャフト10の表面と一致するかの差による。前者では、除細動用電極30の端から見込む血液の空間や心腔内表面の細胞の空間が後者より大きいため、ガウスの定理より後者に比べて電流の放射が大きくなる。
【0044】
さらに、除細動用電極30の表面とそれに接触する血液や心腔内表面の細胞の間には、接触抵抗があり、その効果により除細動用電極30の中心部では電流放出は抑制され周辺部では電流放出は中心部に比べて抑制されにくい。その結果、ガウスの定理に加えて接触抵抗の働きにより、除細動用電極30の端では、除細動用電極30の中心部に比べて放出電流の電流密度は相対的に更に大きくなり、そのため電流放出も更に大きくなる。以下、除細動用電極30の端における電流放出のこのような増大を、除細動用電極30の「終端効果」と呼ぶ。
【0045】
図4(A)と
図4(B)は終端効果による電流の増大の例を示している。除細動用電極の両端の数の増大による放出電流の増加の効果を示している。
図4(B)では、
図4(A)の1つの除細動用電極30を分割して2つの除細動用電極31aと31bを形成している。この分割におけるカテーテルシャフト10上の電極間ギャップ11と2つの除細動用電極31aと31bを合わせたカテーテルシャフト10の長手方向の長さは、
図4(A)に示す1つの除細動用電極30の当該長手方向の長さと同じである。従って、分割した2つの除細動用電極31aと31bの電極面積の総和は、分割していない除細動用電極30の電極面積より小さい。
【0046】
除細動用電極30、31a及び31bの表面における放出電流の電流密度は、上述した吊り橋型の分布をする。
図4(B)に示す2つに分割された除細動用電極配置の場合はその電極間ギャップ11から電流放出はない。
図4(A)に示す単一除細動用電極配置においてこの電極間ギャップ11に対応する除細動用電極30部分から放出される電流の電流量I1は
図4(A)に示すハッチング部分である。電極間ギャップ11に対応する除細動用電極30の部分は除細動用電極30の中心部分である、従って、この電流量I1は除細動用電極30から放出される全電流に比べてわずかである。
【0047】
一方、
図4(B)に示す2つに分割された除細動用電極配置の場合(即ち、除細動用電極31aと31b)では、それぞれの除細動用電極31a及び31bの表面からの放出電流の分布は、
図4(B)に見られるように、
図4(A)と同様な吊り橋型の分布となる。しかし、
図4(B)に示す分割された除細動用電極31aと31bでは、電極間ギャップ11からは、除細動用電極を分割していない場合に見られる電極間ギャップ11に相当する部からの電流放出I1はない。しかし、分割により形成された除細動用電極31a又は31bの新たな終端では、電流の放出には終端効果が働き除細動用電極31a又は31bの当該新たな終端における電流の放出は、分割されていない形状の除細動用電極30(
図4(A))の左右の両端における放出電流の分布とほぼ同じである。
【0048】
除細動用電極31a及び31bの分割により形成された新たな端の電流量はI2とI3とすると、
図4(A)と
図4(B)の比較より、除細動用電極30をこのように2つに分割した結果生じる放出電流の変化分は、I2+I3-I1である。
図4(A)と
図4(B)に示す電流密度の大きさの違いより、この変化分は明らかに正である。このことは、一つの除細動用電極30による除細動用電極配列よりも、これを2つに分割した除細動用電極31a及び除細動用電極31bによる除細動用電極の方が高い電流放出効果を有することを示している。本明細書では、これを分割による電流放出の増大効果と呼ぶ。その本質的な原因は上述の終端効果にあることから、終端効果による電流放出の増大とも呼ぶ。
【0049】
上記の分割による電流放出の増大効果は、見方を変えると、除細動用電極が円筒形状であるとするなら、分割された除細動用電極31a及び31bのカテーテルシャフト10に沿った長さの総和が、これに対応する分割されていない除細動用電極30のカテーテルシャフト10に沿った長さより小さい。そうすると分割された除細動用電極31a及び31bを用いる電極カテーテルの方が可撓性にすぐれている。なぜなら、可撓性を有する電極間ギャップ11を含むことと、円筒形状である個々の除細動用電極31a及び31bがカテーテルシャフト10に沿った長さについては小さいからである。
【0050】
上記の結果、除細動用電極を分割することは、終端効果を発揮させて電流放出を増大させることにより、比較的低い除細動電気衝撃を用いて血栓の発生や電極カテーテルの絶縁破壊を回避するとともに、可撓性を向上させるという心腔内除細動カテーテルとしては、望ましい効果を生じる。
【0051】
本発明にかかる除細動用電極を2つ又はそれ以上に分割した具体的な構成としては、次のものがある。すなわち、断面が概略円形の絶縁性部材でできた可撓性のある円筒部材(カテーテルシャフト)と、その円筒部材の表面に形成された2以上の第1電極(EP検査用電極)からなる第1電極群と、その円筒部材の表面に形成されかつ1組の前記の第1電極の間に位置する2以上の電極であって前記円筒部材の長手方向における導電長が前記第1電極における当該導電長以上の長さを有する第2電極(除細動用電極)が2以上備わって成る第2電極群と、これら第1電極及び第2電極に接続されかつ前記円筒部材の内部で配線される導電ケーブルからなる電極カテーテルと、この電極カテーテルの一方の終端に存在する終端接続部と、その終端接続部に設けられかつ前記導電ケーブルが電気的に接続された導電性のコネクターピンと、からなる除細動カテーテルユニットである。
【0052】
除細動カテーテルユニット、特に電極カテーテルに終端効果による電流放出の増大を起こさせることは、印加する除細動電気衝撃が比較的低くても、十分な除細動の効果を上げることができることとなる。終端効果による電流放出の増大は、除細動用電極の物理的な周辺部の形状及びその数に依存する。従って、終端効果を作り出す方法は他にもあり、それらの例のいくつかは後述の実施例で示す。
【0053】
また、上記以外に除細動電気衝撃による細動部位等に与える電流量を増やす方法として別の手段を用いることができる。具体的には、EP検査用電極を、除細動電気衝撃を印加する際、除細動用電極のみならずEP検査用電極を介しても印加するという手段である。EP検査用電極による静脈又は心腔内の電気生理学的検査は除細動電気衝撃を印加する際には行わないため、この期間にはEP検査用電極は使用していない。
【0054】
そこで、除細動電気衝撃を印加する際には、除細動用電極に加えてEP検査用電極をもその印加電極として利用するというものである。言い換えれば、EP検査用電極の使用を時分割して、除細動電気衝撃を印加しないときに行われる電気生理学的検査の際にはそのままEP検査用電極として使用し、除細動電気衝撃を印加する際には、EP検査用電極も除細動用電極に加えてその印加電極として使用するものである。
【0055】
このような時分割使用ができるのは、EP検査用電極群が除細動用電極群と同じ場所に混在するという、本発明の電極配列の特長をそのまま利用できるからである。この時分割により、本発明では、電極の利用の効率を高めている。
【発明の効果】
【0056】
従来の心腔内除細動カテーテルではEP検査用電極群が除細動用電極群より離れているため、異常な電気刺激を発生している部位を見つけてもその部位に正確に除細動用電極群を近づけることが困難であるため、その部位に直流の高圧の電流通路が貫くようにすることは難しかった。
【0057】
これに対して、本発明に係る心腔内除細動複合電極型カテーテルユニットでは、検査用電極と除細動用電極は離隔しておらず、EP検査用電極群と除細動用電極群も離隔していないため、EP検査用電極で発見した異常な電気刺激を発生している部位に、除細動用電極群から的確に直流の高圧の電流通路が貫くように電流を流すことが可能である。その結果、確実に除細動をすることが可能となる。
【0058】
また、そのような異常な部位に除細動用電極群にから的確に高圧の電流通路が貫くように電流を流すことが可能となるため、細動に効果のない部位、言い換えると、細動を生じていない部位あるいは細動の原因となる異常部位ではなく除細動に効果のない部位に無駄な電流を流すことがなくなる。そのため、印加される高電圧も必要な電流を供給するだけの電圧でよく、導電ケーブルの配線間の絶縁破壊は生じにくくなり、使用中に電極カテーテルが絶縁破壊により使用不能となることはほとんどない。そのため、施術中に心腔内除細動カテーテルユニットを交換する事故もなくなり、そのような交換により生じる患者の負担はほとんどなくなる。その結果、確実にかつ安全に除細動の施術をすることができる。
【0059】
さらに、本発明では、除細動用電極を分割あるいはこれに相当する形状とすることにより終端効果を発揮させて電流放出を増大させることにより低い電圧の除細動電気衝撃を用いることができる。そのため血栓の発生や電極カテーテルの絶縁破壊を回避するとともに、除細動用電極を分割あるいはこれに相当する形状とすることにより可撓性を向上させるという心腔内除細動カテーテルユニットとしては、安全確実な施術を行うことに資する特徴と効果を与えるものである。
【0060】
さらに、本発明では、EP検査用電極の利用を時分割して、除細動電気衝撃を印加するときは、除細動用電極とともにEP検査用電極も除細動電気衝撃の印加に利用することもできる。EP検査用電極をこのように時分割利用することにより、電極カテーテルの形状の変更やそれに伴う可撓性の変更を生じさせることなく、除細動電気衝撃による電流放出を増大させることができる。その結果、電流放出をさらに増大させることが可能となる。そのため、より低い電圧の除細動電気衝撃を用いることが可能となり、血栓の発生や電極カテーテルの絶縁破壊を回避するとともに、可撓性を向上させるという心腔内除細動カテーテルとしては、さらに安全確実な施術を行うことに資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】
図1は、従来の心腔内除細動カテーテルユニットを模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、従来の心腔内除細動カテーテルユニットの終端接続部に係る部分を示す斜視図である。
【
図3】
図3(A)及び
図3(C)は、除細動用電極表面の電流放射の様子を示す図であり、
図3(B)及び
図3(D)は、除細動用電極表面の放射電流分布の大きさを示す図である。
【
図4】
図4(A)は、除細動用電極の放射電流分布の大きさを示す図であり、
図4(B)は、除細動用電極を分割して2つの除細動用電極にした場合の放射電流分の大きさを示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1に係る複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットを模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、実施例1に係るEP検査用電極と除細動用電極の要部を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、実施例2に係る除細動用電極を分割した場合のEP検査用電極と除細動用電極の要部を示す斜視図である。
【
図8A】
図8Aは、実施例3に係る除細動用電極を円筒スプリングで構成した場合についてのEP検査用電極と除細動用電極の要部を示す斜視図である。
【
図8B】
図8Bは、実施例3に係る除細動用電極を円筒スプリングで構成した場合についてのEP検査用電極と除細動用電極の要部を示す斜視図である。
【
図9A】
図9Aは、実施例5に係る除細動用電極を円形単線ケーブルで構成した場合のEP検査用電極と除細動用電極の要部を示す斜視図である。
【
図9B】
図9Bは、実施例6に係る除細動用電極を円形単線ケーブルで構成した場合のEP検査用電極と除細動用電極の要部を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、実施例7に係るEP検査用電極を円形単線ケーブルの切断面で構成した場合のEP検査用電極と除細動用電極の要部を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、先端EP検査用電極を電極カテーテルの前端部であるカテーテルシャフトヘッドにも設けた実施例8に係る電極カテーテルの要部を示す斜視図である。
【
図12】
図12は、本発明に係る複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットに使用する制御電源ユニットの構成を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明に係る複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットに使用するときの、制御電源ユニットの動作を示す図である。
図13(A)は、第1電気ケーブルの接続先の時間的変化、
図13(B)は、EP検査用計測器の動作の時間的変化、
図13(C)は継電器に対する除細動電気衝撃の印加が行われるタイミング、をそれぞれ示す。
【
図14】
図14は、本発明に係る複合電極型心腔内除細動カテーテルユニットの使用手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に、図面を参照にして本発明の実施の形態について説明する。
【実施例0063】
図5は、本発明に係る第1の実施例である複合電極型心腔内除細動カテーテルユニット500の全体を示す図面である。複合電極型心腔内除細動カテーテルユニット500の複合電極型心腔内除細動カテーテル(単に電極カテーテルとも呼ぶ)400は、大腿静脈や上腕静脈から経皮的に挿入され、心房、心室や冠静脈に至る。そのため電極カテーテル400は長く、
図5ではその要部を示している。外形的にはカテーテルシャフト310とその表面に設けたEP(電気生理学的)検査用電極320と321はそれらが複数集まったEP検査用電極群320Gと321Gを構成しかつカテーテルシャフト310の表面上に別々に配置されている。除細動用電極330と331がそれぞれ複数集まった除細動用電極群330Gと331Gもカテーテルシャフト310の表面上に別々に配置されている。図中340は電極間ギャップである。
【0064】
複合電極型・BR>S腔内除細動カテーテル400の要部は、カテーテルシャフト310とその表面に設けたEP検査用電極群320Gと321G、除細動用電極群330Gと331G、これらの間の電極間ギャップ340、更にEP検査用電極群320Gと321G及び除細動用電極群330Gと331Gに接続されかつカテーテルシャフト310の内部で配線される導電ケーブル(
図5には図示されていない)により構成されている。また、カテーテルシャフト310の先端部は、丸みを帯びたカテーテルシャフトヘッド345を構成している。
【0065】
EP検査用電極群320Gと321G及び除細動用電極群330Gと331Gを組み合わせた電極配列について、EP検査用電極320と321及び除細動用電極330と331は本実施例では前者は16個、後者は14個である。その数をEP検査用電極320と321では2個ずつ及び除細動用電極330と331では1個ずつの最小個数としても良い。
【0066】
図6は、一部の除細動用電極330とEP検査用電極320についてその部分を取り出して示している。除細動用電極331とEP検査用電極321についても同じであるので、以下、除細動用電極330とEP検査用電極320について説明を行う。除細動用電極330はEP検査用電極320に比べてカテールシャフト310の長手方向における導電長が長い。除細動用電極330はカテールシャフト310上で一組のEP検査用電極320の間に配置され、除細動用電極330と検査用電極320の間は電極ギャップ340が存在する。電極ギャップ340はカテールシャフト310の表面の一部である。
【0067】
このような除細動用電極330とEP検査用電極320の配置より、両電極はいわゆる入れ子状に配置されている。そのため、仮にEP検査用電極群320Gの何れかのEP検査用電極320の隣接する2つにより形成される1組のEP検査用電極320の間に細動の原因となる異常電気刺激発生部位が存在することが、当該EP検査用電極320の組の間の電圧信号の検出で発見されたとき、その場で2つの除細動用電極群330Gと331Gの間に直流の除細動電気衝撃をかけると、その電流経路はEP検査用電極群320Gと入れ子になった除細動用電極群330Gを経由するため、必ず異常電気刺激発生部位を通ることとなる。そのため、当該異常電気刺激発生部位に必ず除細動用電極群330Gを介して電流が流れ、除細動電気衝撃による除細動を確実に行うこととなる。異常電気刺激発生部位がEP検査用電極群321Gで発見されたときは、当該異常電気刺激発生部位に必ず除細動用電極群331Gを介して電流が流れ、同様に除細動が確実に行える。
【0068】
カテーテルシャフト310の内部では、全てのEP検査用電極群320G及び321GのEP検査用電極320及び321と全ての除細動用電極群330G及び331Gの除細動用電極330及び331に個々に接続された導電ケーブルが埋設され、ストレインレリーフ324、把持部326を経由して、外部電線325-1及び321-2を通じて、更にコネクター323-1及び323-2により制御電源ユニット(
図5では図示せず)に接続される。
【0069】
除細動用電極群330G及び331Gに属する除細動用電極330と331には大きな電圧がかかるため、除細動用電極330と331に至る導電ケーブルの間では絶縁破壊が生じやすい。そこで、コネクター323-1及び323-2にはそれぞれ除細動用電極群330G及び331Gに属する除細動用電極330と331が接続され、除細動用電極330と331に繋がる導電ケーブルはカテーテルシャフト310内でできるだけ電気的に離隔して絶縁破壊が起こり難いように構成している。
【0070】
カテーテルシャフト310の内部には除細動用電極330、331やEP検査用電極群320、321に繋がる導電ケーブルを埋設させるため中空のチューブ形状あるいはルーメンチューブと言われる多孔のチューブ及びこれらに相当するものが用いられる。当該中空チューブやルーメンチューブは例えばテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの絶縁性の高くかつ可撓性を有する樹脂材料が用いられる。
【0071】
カテーテルシャフト310の内部は、低硬度のナイロンエラストマー、高硬度のナイロンエラストマーあるいはステンレス素線による編組でその内壁層を裏打ちし、そのような複合構造により、カテーテルシャフト全体のしなやかさを施術の対象とする電気的に異常な興奮部分に近接するに適したものとすることができる。
【0072】
また、カテーテルシャフト310にルーメンチューブを用いる場合、その内部壁は、フッ素樹脂層、例えばテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの絶縁性の高い材料により裏打ちすることにより、ルーメンの区画間の絶縁性を向上させることも可能である。
【0073】
導電ケーブルの被覆にはポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などを例示することができる。絶縁性チューブの肉厚としては、20~40μmであることが好ましい。また、複数の絶縁性チューブを束ねてなる外部電線325-1及び325-2の外皮絶縁材料としては、「Pebax」(ARKEMA社の登録商標)などのナイロン系エラストマーを例示することができる。
2つの除細動用電極330aと330bのカテーテルシャフト310の長手方向の長さを合計しても、実施例1に係る除細動用電極330のカテーテルシャフト310の長手方向の長さより小さい。除細動用電極330aと330bは円筒状の金属からなることにより、その長さが比較的小さい実施例2の電極カテーテルは実施例1に係る電極カテーテルより可撓性において優れている。また、放出電流は、除細動用電極の終端効果により、実施例1の除細動用電極330よりも大きい。
なお、実施例2では除細動用電極を2つに分割した場合を示しているが、除細動用電極を3つ以上に分割することにより、2つに分割した場合と同様に除細動用電極の終端効果により放出電流を大きくすることができる。