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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068259
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】調光シート、および、調光窓
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20220426BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20220426BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20220426BHJP
   B60J 3/04 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
B60J1/00 H
B60J3/04
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019958
(22)【出願日】2022-02-10
(62)【分割の表示】P 2019562509の分割
【原出願日】2018-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2017254088
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲志
(57)【要約】
【課題】ポリマーネットワークに分散したドメインのなかの液晶分子と二色性色素とを含む液晶組成物の応答性を向上可能にした調光シート、および調光窓を提供する。
【解決手段】第1配向層と第2配向層とを備える一対の配向層と、第1配向層と第2配向層とに挟まれた調光層であって、ポリマーネットワークと、ポリマーネットワークのなかに分散し、かつ、液晶分子と二色性色素とを含む液晶組成物で充填された複数のドメインと、を含む調光層と、一対の配向層を挟む一対の透明電極と、を備える。調光層の透過率は、一対の透明電極に対する駆動電圧の印加によって上がり、一対の配向層は、透明電極間に駆動電圧が印加されていない状態で、液晶分子および二色性色素を、一対の配向層に対して水平配向させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1配向層と第2配向層とを備える一対の配向層と、
前記第1配向層と前記第2配向層とに挟まれた調光層であって、ポリマーネットワークと、前記ポリマーネットワークのなかに分散し、かつ、液晶分子と二色性色素とを含む液晶組成物で充填された複数のドメインと、を含む前記調光層と、
前記一対の配向層を挟む一対の透明電極と、を備え、
前記調光層の透過率は、前記一対の透明電極に対する駆動電圧の印加によって上がり、
前記一対の配向層は、前記透明電極間に前記駆動電圧が印加されていない状態で、前記液晶分子および前記二色性色素を、前記一対の配向層に対して水平配向させ、
前記ドメインにおけるドメイン径の平均値が0.1μm以上5μm以下である
調光シート。
【請求項2】
前記調光層の厚さは、5μm以上30μm以下である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記透明電極間に前記駆動電圧が印加されていない状態で前記調光シートは黒色である
請求項1または2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記液晶分子において、異常光の屈折率が常光の屈折率よりも大きく、
前記ポリマーネットワークの屈折率と前記常光の屈折率との差が、前記異常光の屈折率と前記常光の屈折率との差よりも小さい
請求項1から3のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記ポリマーネットワークの屈折率は前記常光の屈折率と等しい
請求項4に記載の調光シート。
【請求項6】
前記調光シートは、表面にハードコート層をさらに備える
請求項1から5のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
光を透過する透過部と、
前記透過部を取り囲む枠体と、
請求項1から6のいずれか一項に記載の調光シートと、を備え、
前記調光シートは、前記透過部に位置する
調光窓。
【請求項8】
前記透過部は、光透過性を有する2枚の板部材を含み、
前記調光シートは、前記2枚の板部材に挟まれている
請求項7に記載の調光窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シート、および、調光シートを備える調光窓に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ネットワーク型の液晶を含む調光層を備える調光シートが知られている。調光シートは、一対の透明フィルムと、一対の透明フィルムに挟まれる一対の透明電極と、一対の透明電極間に位置する調光層を備えている。調光層は、三次元的な網目状を有したポリマーネットワークと、ポリマーネットワークが区画する複数のドメイン内に位置する液晶組成物とを含んでいる。こうした調光シートでは、調光シートに駆動電圧が印加されているときと、調光シートに駆動電圧が印加されていないときとの間で、調光層の透過率が異なる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-162823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一部の調光シートは、二色性色素によって特定の色を呈することが可能であることが知られている。この調光シートは、調光シートに印加されている駆動電圧に応じて、透明の状態と、所定の色を呈し、かつ、不透明である状態とに変わる。車両の意匠性を高める目的で、車体が備える窓にこうした調光シートを取り付けることが提案されている。
【0005】
一方、ポリマーネットワークに分散したドメインのなかで液晶分子と二色性色素とが連動する構成では、液晶分子が二色性色素を連れ動かすことを要する分だけ、液晶分子は動きにくい。結果として、液晶分子がポリマーネットワークに貼り付きやすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための調光シートは、第1配向層と第2配向層とを備える一対の配向層と、前記第1配向層と前記第2配向層とに挟まれた調光層であって、ポリマーネットワークと、前記ポリマーネットワークのなかに分散し、かつ、液晶分子と二色性色素とを含む液晶組成物で充填された複数のドメインと、を含む前記調光層と、前記一対の配向層を挟む一対の透明電極と、を備え、前記調光層の透過率は、前記一対の透明電極に対する駆動電圧の印加によって上がり、前記一対の配向層は、前記透明電極間に前記駆動電圧が印加されていない状態で、前記液晶分子および前記二色性色素を、前記一対の配向層に対して水平配向させ、前記ドメインにおけるドメイン径の平均値が0.1μm以上5μm以下である。
【0007】
上記課題を解決するための調光窓は、光を透過する透過部と、前記透過部を取り囲む枠体と、上記調光シートとを備える。前記調光シートは、前記透過部に位置する。
上記調光シートにおいて、前記調光層の厚さは、5μm以上30μm以下でもよい。
【0008】
上記調光シートにおいて、前記透明電極間に前記駆動電圧が印加されていない状態で前記調光シートは黒色でもよい。
上記調光シートでは、前記液晶分子において、異常光の屈折率が常光の屈折率よりも大きく、前記ポリマーネットワークの屈折率と前記常光の屈折率との差が、前記異常光の屈折率と前記常光の屈折率との差よりも小さくてもよい。
【0009】
この場合、ポリマーネットワークの屈折率が常光の屈折率に近付くため、水平配向された液晶分子に光が入射したとき、液晶分子の屈折率、すなわち異常光の屈折率と、ポリマーネットワークの屈折率との差を、異常光の屈折率と常光の屈折率との差に近付けることができる。それゆえに、調光層が不透明であるときに、調光層のなかにおいて散乱が生じやすくなる。結果として、調光層が透明であるときと不透明であるときとの透過率の差を大きくすることができる。
【0010】
前記ポリマーネットワークの屈折率は前記常光の屈折率と等しくてもよい。
この場合、水平配向された液晶分子に光が入射したとき、液晶分子の屈折率と、ポリマーネットワークの屈折率との差を、異常光の屈折率と常光の屈折率との差に等しくすることができる。これにより、調光層が不透明であるときに、調光層のなかにおいてより散乱が生じやすくなる。
【0011】
上記調光シートにおいて、前記調光シートは、表面にハードコート層をさらに備えてもよい。
この場合、調光シートがハードコート層を備える。そのため、ハードコート層の内側に位置する層において、化学的な損傷、および、物理的な損傷の少なくとも一方が抑えられる。
【0012】
上記調光窓において、前記透過部は、光透過性を有する2枚の板部材を含み、前記調光シートは、前記2枚の板部材に挟まれていてもよい。上記構成によれば、調光シートが2枚の板部材によって化学的な損傷および物理的な損傷の少なくとも一方から保護される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透過性の向上と発色性の向上とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態における調光シートの構造を示す断面図。
図2】同実施形態における調光シートの構造を示す断面図。
図3】同実施形態の調光シートにおける調光層と偏光層との第1の例を示す断面図。
図4】同実施形態の調光シートにおける調光層と偏光層との第2の例を示す断面図。
図5】従来の調光シートの作用を説明するための作用図。
図6】従来の調光シートの作用を説明するための作用図。
図7】同実施形態における調光シートの作用を説明するための作用図。
図8】同実施形態における調光シートの作用を説明するための作用図。
図9】同実施形態における調光シートの他の構造を示す断面図。
図10】車両の構造を示す斜視図。
図11】調光窓における第1例の構造を示す断面図。
図12】調光窓における第2例の構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1から図12を参照して、調光シートおよび調光窓の一実施形態を説明する。図1は、調光シートが備える透明電極間に駆動電圧が印加されていない状態を示し、図2は、透明電極間に駆動電圧が印加されている状態を示している。なお、図1および図2では、調光層の構成を説明する便宜上、調光層に含まれるドメインが誇張されている。以下では、調光シートの構成、調光シートの作用、および、調光窓の構成を順に説明する。
【0016】
[調光シートの構成]
図1を参照して調光シートの構成を説明する。なお、本実施形態において、用語「シート」とは、厚さに対して広い表面を有した構造体を指し、用語「フィルム」を含む。調光シート10は、一対の配向層と調光層12とを備えている。一対の配向層は、第1配向層11aと第2配向層11bとを含む。調光層12は、第1配向層11aと第2配向層11bとに挟まれ、かつ、調光層12には、第1配向層11aおよび第2配向層11bがそれぞれ接している。調光層12は、ポリマーネットワーク12aと、ポリマーネットワーク12aのなかに分散した複数のドメイン12bとを含む。各ドメイン12bには、液晶分子12c1と二色性色素12c2を含む液晶組成物12cが充填されている。こうした調光層は、一般に高分子ネットワーク型液晶(PNLC)と呼ばれる。
【0017】
調光シート10は、さらに、一対の配向層を挟む一対の透明電極と、第1配向層11aに対して調光層12とは反対側に位置する偏光層14とを備えている。一対の透明電極は、第1透明電極13aと第2透明電極13bとを含む。第1配向層11a、調光層12、および、第2配向層11bから形成される積層体が、第1透明電極13aと第2透明電極13bとに挟まれている。
【0018】
調光層12の透過率は、一対の透明電極に対する駆動電圧の印加によって上がる。一対の配向層は、第1透明電極13aと第2透明電極13bとの間に駆動電圧が印加されていない状態で、液晶分子12c1および二色性色素12c2を、一対の配向層に対して水平配向させるとともに、調光層12の厚さ方向から見て、二色性色素12c2の吸収軸が、偏光層14の吸収軸と直交するように配向させる。なお、一対の透明電極に駆動電圧が印加されていない状態での配向が、液晶分子12c1の初期配向である。
【0019】
複数のドメイン12bには、第1配向層11aまたは第2配向層11bに接するドメイン12bが含まれる。また、複数のドメイン12bにおいて、隣り合うドメイン12b同士は互いに繋がっている。言い換えれば、各ドメイン12b内の液晶組成物12cは、ポリマーネットワーク12aから相分離され、かつ、他のドメイン12b内の液晶組成物12cに連続する。
【0020】
そのため、各ドメイン12b内に位置する液晶分子12c1および二色性色素12c2は、調光層12に対する駆動電圧の印加によって、他のドメイン12bに含まれる液晶分子12c1および二色性色素12c2と連動して配向を変える。複数のドメイン12bのなかの1つに注目して該当するドメイン12bの大きさを見積もる場合には、ポリマーネットワーク12aを撮影した画像の解析により、仮想的な円によってそのドメイン12bの大きさを概算する。
【0021】
調光シート10は、さらに、一対の透明基材を備えている。一対の透明基材のうち、第1透明電極13aと偏光層14との間に位置する透明基材が第1透明基材15aであり、第2透明電極13bに対して第2配向層11bとは反対側に位置する透明基材が第2透明基材15bである。以下、調光シート10が備える各層をより詳しく説明する。
【0022】
[透明基材]
第1透明基材15aおよび第2透明基材15bは、可視光を透過する光透過性を有している。第1透明基材15aおよび第2透明基材15bには、樹脂製のフィルム、または、ガラス基板を用いることができる。樹脂製のフィルムを形成する材料には、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、および、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを用いることができる。
【0023】
[透明電極]
第1透明電極13aおよび第2透明電極13bは、可視光を透過する光透過性を有している。各透明電極を形成する材料には、例えば、金属酸化物、有機ポリマー、金属ナノワイヤー、および、カーボンナノチューブ(CNT)などのいずれかを用いることができる。金属酸化物には、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ(TO)、酸化亜鉛(ZnO)、および、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などが挙げられる。有機ポリマーには、光透過性を有し、かつ、導電性を有したポリマーを用いることができる。
【0024】
[偏光層]
偏光層14は、偏光子を含む。偏光子は、例えば、樹脂製のフィルムに二色性色素を吸着させた後、吸着後のフィルムを所定の方向に沿って延伸することによって形成することができる。フィルムを形成する材料には、例えば、ポリビニルアルコールおよびポリエチレンテレフタレートなどを用いることができる。二色性色素には、例えば、ヨウ素を含む色素、および、有機色素などを用いることができる。
【0025】
[配向層]
一対の配向層を構成する各配向層は、可視光を透過する光透過性を有している。上述したように、一対の配向層は、液晶分子12c1および二色性色素12c2の初期配向において、液晶分子12c1および二色性色素12c2を、一対の配向層に対して水平配向させるとともに、調光層12の厚さ方向から見て、偏光層14の吸収軸が、二色性色素12c2の吸収軸と直交するように配向させる。
【0026】
そのため、第1配向層11aおよび第2配向層11bの両方が、水平配向層である。すなわち、各配向層は、液晶分子12c1の長軸方向が、配向層が拡がる平面に沿うように液晶分子12c1を配向させる配向規制力を有する。しかも、各配向層は、各配向層によって配向させる液晶分子12c1の長軸方向が、互いに平行になるように液晶分子12c1を配向させる配向規制力を有する。こうした配向層によれば、液晶分子12c1および二色性色素12c2の初期配向を水平配向とすることができる。なお、水平配向はホモジニアス配向とも言う。配向層は、さらに、調光シート10の厚さ方向から見て、液晶分子12c1の長軸方向が、偏光層14の吸収軸と直交するように、液晶分子12c1および二色性色素12c2を配向させる。
【0027】
なお、各配向層は、光の照射によって所定の配向規制力を発現する光配向層によって具体化することができる。また、各配向層は、以下の方法によって形成することも可能である。まず、ポリイミド製のフィルムを準備する。そして、フィルムにおける1つの面であって、調光シート10において調光層12と接する面に、液晶分子12c1の初期配向に応じたラビング処理を行う。これにより、各配向層を得ることができる。
【0028】
[調光層]
[液晶組成物]
液晶組成物12cは、液晶分子12c1および二色性色素12c2に加えて、ポリマーネットワーク12aの形成に用いられた紫外線重合性化合物12c3の未反応分を含んでもよいし、紫外線重合性化合物12c3の未反応分を含んでいなくてもよい。
【0029】
液晶分子12c1には、ネマティック液晶相を有し、かつ、正の誘電率異方性を有した液晶分子を用いることができる。ネマティック液晶相を有し、かつ、正の誘電率異方性を有した液晶分子を液晶分子12c1として用いることによって、一対の透明電極に対する駆動電圧の印加によって、液晶分子12c1の配向が、水平配向から垂直配向に変わる。液晶分子12c1の配向が水平配向から垂直配向に変わることにより、二色性色素12c2の配向も、水平配向から垂直配向に変わる。
【0030】
なお、本実施形態の調光層12では、液晶分子12c1の屈折率異方性が、0.1以下であることが好ましい。屈折率異方性Δnは、以下の式によって表される。
Δn=n-n … 式(1)
式(1)において、nは異常光の屈折率であり、nは常光の屈折率である。
【0031】
二色性色素12c2は、可視光の吸収において異方性を有する色素分子である。調光層12を透過した光の色は、二色性色素12c2の長軸が延びる方向、言い換えれば吸収軸の延びる方向によって異なる。二色性色素12c2は、1種の色素のみを含んでもよいし、複数種の色素を含んでもよい。例えば、調光層12が黒色を呈する構成であり、かつ、二色性色素12c2として1種の色素のみを含むときには、二色性色素12c2には黒色用色素、すなわち、可視光の波長領域に含まれるほとんどの波長の光を吸収する色素を用いることができる。また、調光層12が二色性色素12c2として複数種の色素を含むときには、二色性色素12c2には、可視光の波長領域において互いに異なる吸収波長帯を有する複数種の色素を用いることができる。
【0032】
二色性色素12c2が複数種の色素を含むときには、例えば、黄色用色素、赤色用色素、および、青色用色素の3種の色素から二色性色素12c2を生成することができる。なお、黄色用色素の吸収波長帯が3つの色素のなかで最も短波長の領域を含む。青色用色素の吸収波長帯が3つの色素のなかで最も長波長の領域を含む。赤色用色素の吸収波長帯が他の色素における吸収波長帯の間に位置する領域を含む。各色素の吸収波長帯には、他の色素における吸収波長帯の一部が含まれてもよい。二色性色素12c2には、例えば、アゾ系色素、アントラキノン系色素、および、ナフトキノン系色素などを用いることができる。
【0033】
[ポリマーネットワーク]
ポリマーネットワーク12aを形成する材料には、紫外線重合性化合物12c3を用いることができる。紫外線重合性化合物12c3は、紫外線の照射によって他の紫外線重合性化合物12c3と重合してポリマーネットワーク12aを形成する。ポリマーネットワーク12aは、光学的に等方性の高分子を含んでもよいし、液晶高分子を含んでもよい。言い換えれば、紫外線重合性化合物12c3は、光学的に等方性の化合物であってもよいし、液晶分子を含む化合物であってもよい。
【0034】
光学的に等方性の化合物には、単官能紫外線重合性化合物、二官能紫外線重合性化合物、および、多官能紫外線重合性化合物を用いることができる。単官能紫外線重合性化合物には、例えば、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、および、各化合物のオリゴマーが挙げられる。アクリレート化合物には、例えば、ブチルエチルアクリレート、および、シクロヘキシルアクリレートなどが挙げられる。メタクリレート化合物には、N,N‐ジメチルアミノエチルメタクリレート、および、フェノキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0035】
二官能紫外線重合性化合物には、例えば、スチルベン化合物、ジアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、および、各化合物のオリゴマーなどが挙げられる。多官能紫外線重合性化合物には、例えば、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、トリメタクリレート化合物、テトラメタクリレート化合物、および、各化合物のオリゴマーなどが挙げられる。
【0036】
ポリマーネットワーク12aが光学的に等方性の高分子を含む構成では、液晶分子12c1が垂直配向であるとき、高分子の屈折率と、液晶分子12c1の平均屈折率とが互いにほぼ等しいことが好ましい。なお、液晶分子12c1の平均屈折率は、液晶分子12c1における異常光の屈折率と常光の屈折率とを平均した値である。
【0037】
なお、紫外線重合性化合物12c3は、上述した化合物を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。また、液晶組成物12cは、ポリマーネットワーク12aの形成を促すために、紫外線の照射によってラジカルを発生する重合開始剤を含むことができる。
【0038】
液晶分子を含む化合物には、主鎖型のメソゲン化合物、側鎖型のメソゲン化合物、および、複合型のメソゲン化合物のいずれかを用いることができる。なお、メソゲン化合物は、芳香環を含む棒状または板状を有したメソゲン基を含んでいる。主鎖型のメソゲン化合物は、メソゲン基を主鎖のみに含むメソゲン化合物であり、側鎖型のメソゲン化合物は、メソゲン基を側鎖にのみ含むメソゲン化合物である。複合型のメソゲン化合物は、メソゲン基を主鎖と側鎖との両方に含むメソゲン化合物である。
【0039】
ポリマーネットワーク12aに含まれる液晶高分子では、高分子を構成する単位構造であって、重合前における液晶分子に対応する構造の配向は、配向層が有する配向規制力によって定められる配向に固定される。一対の配向層は、上述したように、ドメイン12bに充填される液晶分子12c1を水平配向させるように構成されるため、ポリマーネットワーク12aに含まれる単位構造の配向、すなわち液晶高分子の配向は、水平配向に固定される。
【0040】
調光層12において、第1配向層11aに接する面が表面であり、第2配向層11bに接する面が裏面である。調光層12の表面および裏面において、ポリマーネットワーク12aに含まれる各ドメイン12bが占める領域における長さが、そのドメイン12bのドメイン径である。各ドメイン12bが占める領域における長さは、そのドメイン12bを上述した画像解析により仮想的な円と見なした際の直径の長さである。例えば、ドメイン径の平均値は0.1μm以上5μm以下であり、好ましくは0.2μm以上3μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。
【0041】
ドメイン径の平均値が0.1μm以上であるため、ドメイン12b内に含まれる液晶分子12c1が、ポリマーネットワーク12aのなかでそのドメイン12bを区画する部分に貼り付くことが抑えられ、ひいては、ドメイン12b内に位置する液晶分子12c1の配向が変わりにくくなることが抑えられる。また、ドメイン径の平均値が5μm以下であるため、ドメイン径の平均値が調光層12の厚さに対して十分に小さく、これによって、ポリマーネットワーク12aが形成されやすくなる。
【0042】
液晶分子12c1において、異常光の屈折率nが常光の屈折率nよりも大きく、ポリマーネットワークの屈折率nと常光の屈折率nとの差が、異常光の屈折率nと常光の屈折率nとの差よりも小さいことが好ましい。これにより、ポリマーネットワーク12aの屈折率nが常光の屈折率nに近付くため、水平配向された液晶分子12c1に光が入射したとき、液晶分子12c1の屈折率、すなわち異常光の屈折率nと、ポリマーネットワーク12aの屈折率nとの差を、異常光の屈折率nと常光の屈折率nとの差に近付けることができる。それゆえに、調光層12が不透明であるときに、調光層12のなかにおいて散乱が生じやすくなる。結果として、調光層12が透明であるときと不透明であるときとの透過率の差を大きくすることができる。
【0043】
また、ポリマーネットワーク12aの屈折率nが常光の屈折率nと等しいことがより好ましい。水平配向された液晶分子12c1に光が入射したとき、液晶分子12c1の屈折率と、ポリマーネットワーク12aの屈折率nとの差を、異常光の屈折率nと常光の屈折率nとの差に等しくすることができる。これにより、調光層12が不透明であるときに、調光層12のなかにおいてより散乱が生じやすくなる。
【0044】
さらには、ポリマーネットワーク12aの屈折率n、液晶分子12c1における異常光の屈折率n、および、液晶分子12c1における常光の屈折率nにおいて、これら3つの値における最大値と最小値との差が、0.16以下であることが好ましい。ポリマーネットワーク12aの屈折率と、ポリマーネットワーク12aによって区画されたドメイン12b内に位置する液晶分子12c1の屈折率との差が0.16以下であることによって、調光層12に入射した光の散乱が過度に大きくなることが抑えられる。これにより、調光層12が透明であるときの透過率が低くなることが抑えられる。
【0045】
ここで、図3および図4を参照して、上述した調光シート10のなかで、調光層12の構造と偏光層14の構造とをより詳しく説明する。以下では、図3を参照して調光層12と偏光層14との第1の例を説明し、図4を参照して調光層12と偏光層14との第2の例を説明する。なお、図3および図4では、図示の便宜上、第1透明基材15aと調光層12との間に位置する第1配向層11aおよび第1透明電極13aの図示と、第2透明基材15bと調光層12との間に位置する第2配向層11bおよび第2透明電極13bの図示とが省略されている。
【0046】
図3が示すように、偏光層14は、偏光子14a、第1透明フィルム14b、および、第2透明フィルム14cから構成される。偏光子14aは、偏光層14の厚さ方向において、第1透明フィルム14bと第2透明フィルム14cとに挟まれている。第1透明フィルム14bおよび第2透明フィルム14cには、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)製のフィルムを用いることができる。偏光子14aには、上述したように、二色性色素を含む樹脂性のフィルムを用いることができる。
【0047】
調光層12の厚さは、例えば5μm以上30μm以下であり、調光層12を挟む第1透明基材15aおよび第2透明基材15bの各々の厚さは、例えば50μmである。調光層12では、調光層12の厚さを厚くすると調光層12の色を濃くすることができるが、代わりに調光層12のヘイズが大きくなるというトレードオフの関係が成立する。そのため、調光層12の色を濃くするためには調光層12は厚い方が好ましく、調光層12のヘイズを小さくするためには調光層12は薄い方が好ましい。調光層12の厚さは、調光シートが使用される用途に応じて、適宜選択することができる。偏光層14において、偏光子14aの厚さは、例えば20μmであり、第1透明フィルム14bおよび第2透明フィルム14cの各々の厚さは、例えば50μmである。
【0048】
調光層12に駆動電圧が印加されていないとき、調光層12を透過した光が、偏光層14を透過することを抑える上では、調光層12と偏光子14aとの間に位置する層の厚さが薄いことが好ましく、また、調光層12と偏光子14aとの間に位置する層の数が少ないことが好ましい。これにより、調光層12と偏光子14aとの間に位置する層の界面において生じる光の屈折などが、調光層12を透過した光に偏光子14aを透過させることを抑えることができる。
【0049】
そのため、偏光層14において、第2透明フィルム14cの厚さが、第1透明フィルム14bの厚さよりも薄いことが好ましい。これにより、第2透明フィルム14cの厚さが第1透明フィルム14bの厚さ以上である場合と比べて、調光層12を透過した光が、偏光子14aを透過することが抑えられる。また、調光層12を挟む2つの透明フィルムにおいて、第1透明基材15aの厚さが、第2透明基材15bの厚さよりも薄いことが好ましい。
【0050】
なお、第1透明フィルム14bおよび第2透明フィルム14cの各々には、無延伸フィルムが用いられる。また、第1透明基材15aおよび第2透明基材15bの各々には、無延伸フィルムを用いることが好ましい。なお、第1透明基材15aおよび第2透明基材15bの各々には、一軸延伸フィルムおよび二軸延伸フィルムのいずれかを用いることも可能である。
【0051】
第1透明基材15aおよび第2透明基材15bの各々が、一軸延伸フィルムであるときには、フィルムの延伸方向が、調光層12の吸収軸と平行な方向、または、直交する方向に沿って延びるように、2つのフィルムによって調光層12を挟むことが好ましい。また、第1透明基材15aおよび第2透明基材15bの各々が、二軸延伸フィルムであるときには、フィルムの延伸方向における一方が、調光層12の吸収軸と平行な方向、または、直交する方向に沿って延びるように、2つのフィルムによって調光層12を挟むことが好ましい。
【0052】
あるいは、第1透明基材15aおよび第2透明基材15bの各々が、一軸延伸フィルムであるときには、フィルムの延伸方向が、偏光子14aの吸収軸と平行な方向、または、直交する方向に沿って延びるように、2つのフィルムによって調光層12を挟むことが好ましい。また、第1透明基材15aおよび第2透明基材15bの各々が、二軸延伸フィルムであるときには、フィルムの延伸方向が、偏光子14aの吸収軸と平行な方向、または、直交する方向に沿って延びるように、2つのフィルムによって調光層12を挟むことが好ましい。
【0053】
図4が示すように、偏光層14では、偏光子14aおよび第1透明フィルム14bを備える一方で、第2透明フィルム14cを備えなくてもよい。言い換えれば、偏光層14は、第1透明基材15aに接する偏光子14aと、偏光子14aに対して第1透明基材15aとは反対側に位置し、偏光子14aに接する第1透明フィルム14bとから構成されてもよい。
【0054】
偏光層14が第2透明フィルム14cを備えないことによって、調光シート10の厚さ方向において偏光子14aの両側に透明フィルムが位置する場合と比べて、調光層12と偏光子14aとの間の層の厚さを薄くし、かつ、層の数を少なくすることができる。これにより、調光層12を透過した光が偏光子14aを透過することが抑えられる。
【0055】
[調光シートの作用]
図1図2、および、図5から図8を参照して調光シート10の作用を説明する。以下に説明するように、調光シート10は、ノーマルモードの調光シートである。すなわち、調光シート10は、透明電極間に駆動電圧が印加されていないときに不透明であり、透明電極間に駆動電圧が印加されているときに透明である。
【0056】
図1が示すように、透明電極間に駆動電圧が印加されていないとき、液晶組成物12cに含まれる液晶分子12c1の配向、および、二色性色素12c2の配向が、いずれも水平配向である。このとき、二色性色素12c2の吸収軸と、偏光層14の吸収軸とが、調光シート10の厚さ方向から見て直交する。そのため、調光シート10に対して偏光層14から入射した光は、調光層12が含む二色性色素12c2によってほぼ吸収される。これにより、偏光層14を介して入射した光は、第2透明基材15bから射出されない。また、調光シート10に対して第2透明基材15bから入射した光の一部は、調光層12が含む二色性色素12c2によって吸収される。そして、二色性色素12c2によって吸収されなかった光は偏光層14をほぼ透過しない。このように、調光シート10は、偏光層14と対向する方向から視認されても、第2透明基材15bと対向する方向から視認されても、特定の色を呈する。なお、二色性色素12c2が吸収することができる波長によっては、二色性色素12c2に入射した光のうち、二色性色素12c2によって吸収されない波長の光が調光シート10から射出される。
【0057】
図2が示すように、駆動部Dが透明電極間に駆動電圧を印加すると、液晶分子12c1の配向が水平配向から垂直配向に変わる。このとき、二色性色素12c2の配向も水平配向から垂直配向に変わる。そのため、調光シート10に、偏光層14から入射した光は、二色性色素12c2によってほぼ吸収されず、第2透明基材15bから調光シート10の外部に射出される。また、調光シート10に、第2透明基材15bから入射した光も、二色性色素12c2によってほぼ吸収されない。二色性色素12c2によって吸収されなかった光の一部は、偏光層14を透過する。このように、調光シート10は、偏光層14と対向する方向から視認されても、第2透明基材15bと対向する方向から視認されても、透明である。
【0058】
ここで、図5および図6には、従来の調光シート、すなわち、配向層を有しないノーマルモードの調光シートが示され、図7および図8には、本実施形態の調光シート10が示されている。なお、図5から図8の各々では、調光シートにおける液晶分子および二色性色素の状態について説明する便宜上、図5および図6には、調光層のみが示される一方で、図7および図8には、調光層および偏光層のみが示されている。図5から図8では、図示の便宜上、調光層が備える液晶分子および二色性色素が誇張され、かつ、ドメインの図示が省略されている。図5から図8において、図5および図7が透明電極間に駆動電圧が印加されていない状態を示し、図6および図8が透明電極間に駆動電圧が印加された状態を示している。
【0059】
図5が示すように、従来の調光シート20では、透明電極間に駆動電圧が印加されていないとき、調光層22のなかで、複数の液晶分子22c1および複数の二色性色素22c2は、ランダムに並んでいる。そのため、調光層22における吸光係数εは、以下の式(2)で表すことができる。
【0060】
ε=(2ε⊥+ε∥)/3 … 式(2)
なお、ε⊥は、二色性色素22c2の長軸方向と直交する方向における吸光係数であり、ε∥は、二色性色素22c2の長軸方向における吸光係数である。以下、ε⊥を第1吸光係数に設定し、ε∥を第2吸光係数に設定する。第2吸光係数ε∥は、第1吸光係数ε⊥よりも大きい。
【0061】
調光層22の光路長は、調光層22の厚さIと、調光層22の屈折率nとの積(I・n)である。調光層22の吸光度A1は、上述した式(2)と光路長(I・n)とを用いて、以下の式(3)で表すことができる。
【0062】
A1=(2ε⊥+ε∥)/3・I・n・c … 式(3)
なお、cは、調光層22の色素濃度である。調光層22の光路長が大きくなるほど、また、色素濃度cが高くなるほど、調光層22の内部での散乱が起こりやすくなり、調光層22の透明性が低くなる。
【0063】
図6が示すように、調光シート20では、透明電極間に駆動電圧が印加されているとき、調光層22のなかで、複数の液晶分子22c1は垂直配向し、これにより、複数の二色性色素22c2も垂直配向する。このとき、調光層22の吸光係数εは第2吸光係数ε⊥であり、光路長は調光層22の厚さIに等しい。そのため、調光層22の吸光度A2は、以下の式(4)で表すことができる。
【0064】
A2=ε⊥・I・c … 式(4)
これに対して、図7が示すように、本実施形態の調光シート10では、調光層12に駆動電圧が印加されていないとき、偏光層14から調光シート10に入射した光に対して、調光層12の吸光係数εは、第2吸光係数ε∥である。調光層12の光路長は、調光層12の厚さIと、調光層12の屈折率n’との積(I・n’)である。調光層12の吸光度A3は、吸光係数ε、光路長(I・n’)、および、色素濃度cを用いて、以下の式(5)で表すことができる。
【0065】
A3=ε∥・I・n’・c … 式(5)
図8が示すように、調光層12に駆動電圧が印加されているときには、従来の調光シート20と同様、上述した式(4)によって、調光層12の吸光度A2を表すことができる。
【0066】
ここで、式(3)および式(5)から明らかなように、調光層12の吸光度A3は、調光層22の吸光度A1よりも大きい。そのため、2つの調光層12,22間において、光路長および色素濃度cが等しい前提では、調光層12において吸収される光の量が大きくなり、結果として、調光層12の発色性が高まる。これに対して、調光層22において調光層12と同じ程度の吸光度Aを実現する場合には、色素濃度c、および、厚さIの少なくとも一方を大きくする必要がある。言い換えれば、本実施形態の調光シート10によれば、色素濃度c、および、調光層12の厚さI、ひいては調光シート10の厚さを大きくせずとも調光層12の発色性を高めることができ、結果として、発色性の向上と透明性の向上とが可能である。
【0067】
[調光シートの他の例]
図9を参照して調光シートの他の例を説明する。
図9が示すように、調光シート10Aは、上述した調光シート10に対して、さらに第1ハードコート層16aと第2ハードコート層16bとを付加した構造を有する。
【0068】
第1ハードコート層16aは、偏光層14に対して第1透明電極13aとは反対側に位置している。第2ハードコート層16bは、第2透明電極13bに対して第2配向層11bとは反対側に位置している。本実施形態において、第1ハードコート層16aは、偏光層14の外側に位置し、第2ハードコート層16bは、第2透明基材15bの外側に位置している。
【0069】
偏光層14の外側と、第2透明基材15bの外側とに、それぞれハードコート層が位置するため、ハードコート層を備えない構造と比べて、各ハードコート層の内側に位置する層において、化学的な損傷および物理的な損傷の少なくとも一方が抑えられる。調光シート10が備える複数の層のなかでも、偏光層14および第2透明基材15bは、ハードコート層で覆われることによって、調光シート10の外部にほぼ露出しないため、ハードコート層を備えない構造と比べて、損傷が特に抑えられる。
【0070】
なお、調光シート10Aは、第1ハードコート層16aと第2ハードコート層16bとの双方を備えているが、これらハードコート層のいずれか一方のみを備える構成であってもよい。
【0071】
[調光窓の構成]
図10から図12を参照して調光窓の構成を説明する。以下では、調光窓が、車両が備える車体の一部として具体化された例を説明する。
【0072】
図10が示すように、車両30の車体31は、ボディ本体31a、フロントドア31b、および、リヤドア31cを備えている。ボディ本体31aが有する開口には、リヤガラス32が嵌め込まれている。フロントドア31bが有する開口にはフロントドアガラス33が嵌め込まれている。リヤドア31cが有する開口には、リヤドアガラス34が嵌め込まれている。
【0073】
例えば、車体31のなかで、リヤガラス32およびリヤドアガラス34が、光を透過する透過部の一例である。そして、ボディ本体31aおよびリヤドア31cが、それぞれ透過部を取り囲む枠体の一例である。上述した調光シート10,10Aは、リヤガラス32およびリヤドアガラス34に位置している。こうした構成によれば、一対の透明電極に対する駆動電圧の印加に応じて、リヤガラス32およびリヤドアガラス34の状態が透明の状態と不透明の状態との間で切り替わったように、リヤガラス32およびリヤドアガラス34が観察者によって視認される。
【0074】
なお、調光シート10,10Aは、リヤガラス32およびリヤドアガラス34のいずれかのみに位置してもよい。あるいは、調光シート10,10Aは、フロントドアガラス33に位置してもよい。要は、調光シート10,10Aは、リヤガラス32、フロントドアガラス33、および、リヤドアガラス34の少なくとも1つに位置していればよい。また、リヤガラス32、フロントドアガラス33、および、リヤドアガラス34には、それぞれガラスから形成された透過部に限らず、光透過性を有した樹脂から形成された透過部を適用することができる。
【0075】
こうした車両30用の調光シート10では、車両30の乗員のプライバシーを保護すること、車両30の意匠性を高めること、および、車両30の高級感を高めることなどの目的で、調光シート10,10Aが、黒色を呈することが求められている。また、調光シート10が呈する黒色の品位を高める上で、調光シート10の発色性が高いことが求められている。一方で、調光シート10には、車室内から外部を視認することが容易であるように透明性が高いことも求められている。本実施形態の調光シート10,10Aによれば、こうした要求を満たすことができる。
【0076】
以下では、図11および図12を参照して、リヤガラス32と調光シート10とを含む調光窓の第1例と第2例とを説明する。なお、図11および図12では、図示の便宜上、調光シート10を構成する各層のなかで、調光層12と偏光層14とのみが示されている。
【0077】
[第1例]
図11が示すように、調光窓はリヤガラス32とボディ本体31aとを含み、車室を区画する車体31の一部を形成している。リヤガラス32は、光透過性を有し車室内に面する内側面32aと車室外に面する外側面32bとを含む板部材の一例である。なお、ボディ本体31aに嵌め込まれる透過部は、リヤガラス32以外の部材を含んでもよい。調光シート10は、偏光層14がリヤガラス32と調光層12とによって挟まれるように内側面32aに位置している。
【0078】
すなわち、調光シート10の偏光層14が、例えば、光透過性を有する接着剤または粘着剤によって、リヤガラス32の内側面32aに貼り付けられている。なお、上述した調光シート10Aを調光窓に適用する場合には、第1ハードコート層16aが、リヤガラス32の内側面32aに位置し、かつ、第2ハードコート層16bが、調光シート10Aのなかで、車室内に露出する面を有している。調光シート10Aのなかで第2ハードコート層16bが車室内に露出する面を有するため、調光シート10が車両30の乗員に触れられたとしても、調光シート10を構成する調光層12が損傷しにくくなる。
【0079】
調光シート10がリヤガラス32の内側面32aに位置するため、調光シート10がリヤガラス32の外側面32bに位置する場合と比べて、調光シート10が水分などに曝されにくい。それゆえに、調光シート10に求められる耐候性が低くてもよい。これにより、調光シート10を形成するための材料における自由度が、調光シート10に求められる性能によって制限されにくい。また、偏光層14が調光層12よりもリヤガラス32寄りに位置するため、調光層12には、偏光層14から調光シート10に入射した光Lの一部のみが入射する。それゆえに、偏光層14を介さずに光Lが調光層12に入射する場合と比べて、調光層12に入射する光Lの成分が制限されることによって、調光層12が劣化しにくくなる。
【0080】
調光窓の第1例において、偏光層14の厚さは、25μm以上120μm以下であることが好ましい。車体31を構成するリヤガラス32は、曲率を有した形状であることが多い。この点で、偏光層14の厚さが25μm以上120μm以下であれば、特定の光成分のみを透過させる機能を偏光層14が発現しつつ、偏光層14の厚さが、調光シート10が曲率を有したリヤガラス32に貼り付けにくくなる大きさになることが抑えられる。
【0081】
[第2例]
図12が示すように、リヤガラス32は、光透過性を有する2枚のガラス板32gを含んでいる。各ガラス板32gは、板部材の一例である。調光シート10は、2枚のガラス板32gに挟まれている。調光シート10が2枚のガラス板32gに挟まれているため、調光シート10は、化学的な損傷および物理的な損傷の少なくとも一方からガラス板32gによって保護される。それゆえに、調光シート10がリヤガラス32に後付けされた構成と比べて、調光シート10が損傷しにくくなる。
【0082】
調光シート10の偏光層14は、調光層12に対して車室外に面するガラス板32g寄りに位置している。これにより、上述した調光窓の第1例と同様、調光層12には、偏光層14を介した光が入射するため、調光層12が劣化しにくくなる。
【0083】
調光窓の第2例において、偏光層14の厚さは、25μm以上120μm以下であることが好ましい。これにより、特定の光成分のみを透過させる機能を偏光層14が発現しつつ、偏光層14の厚さが、調光シート10とリヤガラス32との厚さの合計が過度に厚くなる大きさになることが抑えられる。
【0084】
なお、調光窓の第2例では、2枚のガラス板32gによって挟まれる空間の幅は、所定の幅に制約されることがある。空間の幅は、例えば、200μm、あるいは、400μmに制約されることがある。ここで、調光層12の厚さは、上述したように、空間の幅に対して十分に小さいため、空間の幅を200μmあるいは400μmとするためには、調光層12以外の層によって、調光シート10の厚さを調整する必要がある。
【0085】
この点で、調光シート10の第1例、および、第2例によれば、偏光層14が備える第1透明フィルム14bの厚さを厚くすること、あるいは、第2透明基材15bの厚さを厚くすることによって、調光シート10の厚さを調整することができる。これにより、調光層12と偏光子14aとの間に位置する層の厚さを厚くすることなく、調光シート10の厚さを調整することが可能である。
【0086】
以上説明したように、調光シートおよび調光窓の一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)透明電極間に駆動電圧が印加されていないとき、調光層12は不透明である。このとき、二色性色素12c2が水平配向しているため、二色性色素12c2が調光層12のなかでランダムに並ぶ構成と比べて、二色性色素12c2に由来する調光層12の吸光度が大きくなる。それゆえに、調光層12の厚さを大きくしたり、二色性色素12c2の濃度を大きくしたりすることなく、すなわち、調光層12の内部での散乱が生じにくい状態で、二色性色素12c2による調光層12の発色性を高めることができる。結果として、調光シート10において、発色性の向上と透明性の向上とを両立することができる。
【0087】
(2)ポリマーネットワーク12aの屈折率nが常光の屈折率nに近付くため、水平配向された液晶分子12c1に光が入射したとき、液晶分子12c1の屈折率、すなわち異常光の屈折率nと、ポリマーネットワーク12aの屈折率nとの差を、異常光の屈折率nと常光の屈折率nとの差に近付けることができる。それゆえに、調光層12が不透明であるときに、調光層12のなかにおいて散乱が生じやすくなる。結果として、調光層12が透明であるときと不透明であるときとの透過率の差を大きくすることができる。
【0088】
(3)水平配向された液晶分子12c1に光が入射したとき、液晶分子12c1の屈折率と、ポリマーネットワーク12aの屈折率との差を、異常光の屈折率nと常光の屈折率nとの差に等しくすることができる。これにより、調光層12が不透明であるときに、調光層12のなかにおいてより散乱が生じやすくなる。
【0089】
(4)第2透明フィルム14cの厚さが、第1透明フィルム14bの厚さよりも薄い構成であれば、第2透明フィルム14cの厚さが第1透明フィルム14bの厚さ以上である構成と比べて、調光層12を透過した光が、偏光子14aを透過することが抑えられる。
【0090】
(5)偏光層14が第2透明フィルム14cを備えないことによって、調光シート10の厚さ方向において偏光子14aの両側に透明フィルムが位置する構成と比べて、調光層12と偏光子14aとの間の層の厚さを薄くし、かつ、層の数を少なくすることができる。これにより、調光層12を透過した光が偏光子14aを透過することが抑えられる。
【0091】
(6)調光シート10がハードコート層を備える場合には、ハードコート層の内側に位置する層において、化学的な損傷および物理的な損傷の少なくとも一方が抑えられる。
(7)一対の透明電極に対する駆動電圧の印加に応じて、調光窓が備えるリヤガラス32あるいはリヤドアガラス34の状態が透明の状態と不透明の状態との間で切り替わったように、リヤガラス32あるいはリヤドアガラス34が観察者によって視認される。
【0092】
(8)車体31の外部から調光窓に入射した光Lは、偏光層14を介して調光層12に入射するため、偏光層14を介さずに光Lが調光層12に入射する構成と比べて、調光層12に入射する光Lの成分が制限される。これにより、調光層12が劣化することが抑えられる。
【0093】
(9)調光窓の第1例において、偏光層14の厚さが、25μm以上120μm以下であるため、特定の光成分のみを透過させる機能を偏光層14が発現しつつ、偏光層14の厚さのせいで調光シート10が曲率を有したリヤガラス32に貼り付けにくくなることが抑えられる。
【0094】
(10)調光窓の第2例では、調光シート10が2枚のガラス板32gによって挟まれているため、調光シート10は、化学的な損傷および物理的な損傷の少なくとも一方から保護される。
【0095】
(11)調光窓の第2例において、特定の光成分のみを透過させる機能を偏光層14が発現しつつ、偏光層14の厚さのせいで、調光シート10とリヤガラス32との厚さの合計が過度に厚くなることが抑えられる。
【0096】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
・偏光層14は、第1透明電極13aと第1透明基材15aとの間に位置してもよい。こうした構成であっても、偏光層14は、第1透明基材15aの外側に位置するときと同等の機能を有する。
【0097】
・調光シート10の厚さ方向から見て、二色性色素12c2の吸収軸と、偏光層14の吸収軸とが、直交以外の角度で交差する構成であってもよい。こうした構成であっても、二色性色素12c2によって吸収された光の少なくとも一部は偏光層14を透過することができないため、上述した(1)に記載の効果を少なからず得ることはできる。
【0098】
・調光層12は黒色以外の色を呈する構成でもよい。調光層12において、例えば、二色性色素の成分や種類を調整することによって、青色や赤色などを呈するような構成とすることも可能である。
【0099】
・調光窓において、調光層12が偏光層14よりも車室外側に位置してもよい。こうした構成であっても、上述した(7)に準じた効果を得ることはできる。
・偏光層14には、上述した第1の例および第2の例に限らず、以下の構成を採用することができる。すなわち、偏光層14において、第2透明フィルム14cの厚さは、第1透明フィルム14bの厚さ以上であってもよい。ただし、上述した理由から、第2透明フィルム14cの厚さは、第1透明フィルム14bの厚さよりも小さいことが好ましい。あるいは、偏光層14は、第2透明フィルム14cを備えないことが好ましい。
【符号の説明】
【0100】
10,10A,20…調光シート、11a…第1配向層、11b…第2配向層、12,22…調光層、12a…ポリマーネットワーク、12b…ドメイン、12c…液晶組成物、12c1,22c1…液晶分子、12c2,22c2…二色性色素、12c3…紫外線重合性化合物、13a…第1透明電極、13b…第2透明電極、14…偏光層、14a…偏光子、14b…第1透明フィルム、14c…第2透明フィルム、15a…第1透明基材、15b…第2透明基材、16a…第1ハードコート層、16b…第2ハードコート層、30…車両、31…車体、31a…ボディ本体、31b…フロントドア、31c…リヤドア、32…リヤガラス、32a…内側面、32b…外側面、32g…ガラス板、33…フロントドアガラス、34…リヤドアガラス、D…駆動部。
図1
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図12