IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エイビーエスシーアイ・エルエルシーの特許一覧

<>
  • 特開-誘導性共発現系 図1
  • 特開-誘導性共発現系 図2
  • 特開-誘導性共発現系 図3
  • 特開-誘導性共発現系 図4
  • 特開-誘導性共発現系 図5
  • 特開-誘導性共発現系 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068332
(43)【公開日】2022-05-09
(54)【発明の名称】誘導性共発現系
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220426BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220426BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20220426BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20220426BHJP
   C12N 15/61 20060101ALI20220426BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220426BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220426BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220426BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N1/21 ZNA
C12N15/52 Z
C12N15/53
C12N15/61
C07K16/18
C07K16/46
C12P21/02 C
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026494
(22)【出願日】2022-02-24
(62)【分割の表示】P 2018237995の分割
【原出願日】2013-08-05
(31)【優先権主張番号】61/679,751
(32)【優先日】2012-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/747,246
(32)【優先日】2012-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515034079
【氏名又は名称】エイビーエスシーアイ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】マクレイン,ショーン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァラセク,マーク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複合的な遺伝子産物の構成要素の制御誘導が可能な誘導性共発現系を提供する。
【解決手段】2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、各タイプの前記発現コンストラクトは、誘導性プロモーターおよび該誘導性プロモーターから転写されるための遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、少なくとも1つの前記誘導性プロモーターは、別の前記誘導性プロモーターの誘導物質と異なる誘導物質に対して応答性があり、少なくとも1つの前記遺伝子産物は、別の前記遺伝子産物と多量体を形成する、宿主細胞を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、
各タイプの前記発現コンストラクトは、誘導性プロモーターおよび該誘導性プロモーターから転写されるための遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、
少なくとも1つの前記誘導性プロモーターは、別の前記誘導性プロモーターの誘導物質と異なる誘導物質に対して応答性があり、
少なくとも1つの前記遺伝子産物は、別の前記遺伝子産物と多量体を形成する、宿主細胞。
【請求項2】
2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、
各タイプの前記発現コンストラクトは、誘導性プロモーターおよび該誘導性プロモーターから転写されるための遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、
少なくとも1つの前記遺伝子産物は、
(a)シグナルペプチドを欠き、少なくとも3つのジスルフィド結合を形成するポリペプチド、
(b)アラビノース利用酵素およびキシロース利用酵素からなる群から選択されるポリペプチド、
(c)リグニン分解ペルオキシダーゼからなる群から選択されるポリペプチド、
からなる群から選択される、宿主細胞。
【請求項3】
少なくとも1つの誘導性プロモーターがL‐アラビノース誘導性プロモーターである、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項4】
少なくとも1つの誘導性プロモーターがプロピオネート誘導性プロモーターである、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項5】
少なくとも1つの誘導性プロモーターが、araBADプロモーター、prpBCDEプロモーター、rhaSRプロモーター、およびxlyAプロモーターからなる群から選択される、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項6】
各誘導性プロモーターがラクトース誘導性プロモーターではない、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項7】
少なくとも1つの発現コンストラクトが、誘導性プロモーターに結合する転写制御因子をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項8】
転写制御因子をコードする前記ポリヌクレオチド配列および前記転写制御因子が結合する前記誘導性プロモーターが同じ発現コンストラクトにある、請求項7の宿主細胞。
【請求項9】
前記転写制御因子がAraC、PrpR、RhaR、およびXylRからなる群から選択される、請求項7の宿主細胞。
【請求項10】
少なくとも1つの発現コンストラクトが、pBAD18、pBAD18-Cm、pBAD18-Kan、pBAD24、pBAD28、pBAD30、pBAD33、pPRO18、pPRO18-Cm、pPRO18-Kan、pPRO24、pPRO30、およびpPRO33からなる群から選択されるプラスミド内に、ポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により生産された、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項11】
少なくとも1つの遺伝子産物がポリペプチドである、請求項1の宿主細胞。
【請求項12】
少なくとも1つの遺伝子産物が、(a)免疫グロブリン重鎖、(b)免疫グロブリン軽鎖、および(c)(a)から(b)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択される、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項13】
前記遺伝子産物が免疫グロブリン軽鎖である、請求項12の宿主細胞。
【請求項14】
前記遺伝子産物が免疫グロブリン重鎖である、請求項12の宿主細胞。
【請求項15】
少なくとも1つの遺伝子産物が、シグナルペプチドを欠くポリペプチドであり、少なくとも3つのジスルフィド結合を形成する、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項16】
前記ポリペプチドが、(a)少なくとも3であって17よりも少ないジスルフィド結合、および(b)少なくとも18であって100より少ないジスルフィド結合からなる群から選択される、いくつかのジスルフィド結合を形成する、請求項15の宿主細胞。
【請求項17】
前記ポリペプチドが、少なくとも3であって10より少ないジスルフィド結合を形成する、請求項15の宿主細胞。
【請求項18】
前記ポリペプチドが、少なくとも3であって8より少ないジスルフィド結合を形成する、請求項15の宿主細胞。
【請求項19】
前記ポリペプチドが、(a)免疫グロブリン重鎖、(b)免疫グロブリン軽鎖、(c)マンガンペルオキシダーゼ、および(d)(a)から(c)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択される、請求項15の宿主細胞。
【請求項20】
少なくとも1つの遺伝子産物は、アラビノース利用酵素およびキシロース利用酵素からなる群から選択されるポリペプチドである、請求項2の宿主細胞。
【請求項21】
前記ポリペプチドはキシロースイソメラーゼである、請求項20の宿主細胞。
【請求項22】
少なくとも1つの遺伝子産物は、リグニン分解ペルオキシダーゼからなる群から選択されるポリペプチドである、請求項2の宿主細胞。
【請求項23】
前記ポリペプチドはマンガンペルオキシダーゼである、請求項22の宿主細胞。
【請求項24】
少なくとも1つの追加の遺伝子産物は、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼである、請求項22の宿主細胞。
【請求項25】
前記ポリペプチドは汎用性のあるペルオキシダーゼである、請求項22の宿主細胞。
【請求項26】
前記宿主細胞は、2つのタイプの発現コンストラクトを含む、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項27】
1つのタイプの発現コンストラクトが、pBAD24プラスミド内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、他のタイプの発現コンストラクトが、pPRO33プラスミド内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生される、請求項26の宿主細胞。
【請求項28】
前記宿主細胞は、少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質についての輸送
タンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の変異を有する、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項29】
輸送タンパク質をコードする前記遺伝子は、araE、araF、araG、araH、rhaT、xylF、xylG、およびxylHからなる群から選択される、請求項28の宿主細胞。
【請求項30】
前記宿主細胞は、少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減されたレベルを有する、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項31】
少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする前記遺伝子は、araA、araB、araD、prpB、prpD、rhaA、rhaB、rhaD、xylA、およびxylBからなる群から選択される、請求項30の宿主細胞。
【請求項32】
前記宿主細胞は、少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質の生合成を伴うタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減されたレベルを有する、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項33】
少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質の生合成を伴うタンパク質をコードする前記遺伝子は、scpA/sbm、argK/ygfD、scpB/ygfG、scpC/ygfH、rmlA、rmlB、rmlC、およびrmlDからなる群から選択される、請求項32の宿主細胞。
【請求項34】
前記宿主細胞が原核細胞である、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項35】
前記宿主細胞が大腸菌である、請求項34の宿主細胞。
【請求項36】
前記宿主細胞は、該宿主細胞の細胞質の還元/酸化環境に影響を及ぼす遺伝子の変異した遺伝子機能を有する、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項37】
前記宿主細胞の細胞質の還元/酸化環境に影響を及ぼす前記遺伝子は、gorおよびgshBからなる群から選択される、請求項36の宿主細胞。
【請求項38】
前記宿主細胞は、還元酵素をコードする遺伝子の低減されたレベルの遺伝子機能を有する、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項39】
還元酵素をコードする前記遺伝子はtrxBである、請求項38の宿主細胞。
【請求項40】
前記宿主細胞は、少なくとも1つのジスルフィド結合イソメラーゼタンパク質をコードする少なくとも1つの発現コンストラクトを含む、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項41】
少なくとも1つの発現コンストラクトは、ジスルフィド結合イソメラーゼタンパク質DsbCをコードする、請求項40の宿主細胞。
【請求項42】
前記宿主細胞は、シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項43】
前記宿主細胞は、Erv1pをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、
請求項1または2の宿主細胞。
【請求項44】
各タイプの前記発現コンストラクトは、各他のタイプの発現コンストラクトの前記誘導性プロモーターと異なる誘導性プロモーターを含む、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項45】
各タイプの前記発現コンストラクトは、各他のタイプの前記発現コンストラクトの複製起点と異なる複製起点を含む、請求項1または2の宿主細胞。
【請求項46】
2つのタイプの発現コンストラクトを含む、大腸菌の宿主細胞であって、1つのタイプの発現コンストラクトは、pBAD24プラスミド内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、他のタイプの発現コンストラクトは、pPRO33プラスミド内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、2つまたはそれ以上の以下の、(a)araBAD遺伝子の欠失;(b)変異した遺伝子機能のaraEおよびaraFGH遺伝子;(c)lacY(A177C)遺伝子;(d)低減された遺伝子機能のprpBおよびprpD遺伝子;(e)好ましくはygfI遺伝子の発現に影響を及ぼさない、低減された遺伝子機能のsbm/scpA-ygfD/argK-ygfGH/scpBC遺伝子;(f)低減された遺伝子機能のgorおよびtrxB遺伝子;(g)低減された遺伝子機能のAscG遺伝子;(h)シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードするポリヌクレオチド;(i)Erv1pをコードするポリヌクレオチド;(j)タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードするポリヌクレオチド;(j)ChuAをコードするポリヌクレオチド;および(l)シャペロンをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、宿主細胞。
【請求項47】
少なくとも1つの発現コンストラクトが、誘導性プロモーターから転写されるための遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、請求項46の宿主細胞。
【請求項48】
前記遺伝子産物は、(a)免疫グロブリン重鎖、(b)免疫グロブリン軽鎖、および(c)(a)から(b)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択される、請求項47の宿主細胞。
【請求項49】
遺伝子産物を産生する方法であって、請求項1または2の前記宿主細胞の培養を増殖させることと、前記培養に少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を添加することを含む、方法。
【請求項50】
請求項49の方法により産生される、遺伝子産物。
【請求項51】
前記遺伝子産物は多量体産物である、請求項50に記載の遺伝子産物。
【請求項52】
前記多量体産物は抗体である、請求項51に記載の多量体産物。
【請求項53】
前記多量体産物はアグリコシル化抗体である、請求項52に記載の多量体産物。
【請求項54】
前記多量体産物はヒト抗体である、請求項52に記載の多量体産物。
【請求項55】
請求項1または2の前記宿主細胞を含む、キット。
【請求項56】
請求項50の前記遺伝子産物を含む、キット。
【請求項57】
請求項51の前記多量体産物を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への参照
本出願は、2012年8月5日出願の米国仮出願第61/679,751号、および2012年12月29日出願の米国仮出願第61/747,246号の利益を主張し、その全体の開示が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表への参照
本出願は、電子的に提出された配列表を含み、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、分子生物学および生物工学的生産の一般的な技術分野におけるものである。より具体的には、本発明は、組換えタンパク質発現の技術分野におけるものである。
【背景技術】
【0004】
生物工学的な物質の産生は、所望の産物が、2つまたはそれ以上の異なるポリペプチドから形成される多量体タンパク質のような、異なる遺伝子によりコードされる分子の組み合わせである場合にいっそう複雑なプロセスである。複合的な遺伝子産物の成功的な共発現は、1以上の遺伝子産物の同時の発現により混ざり合ういくつかの課題を克服することを必要とする。克服しなければならない問題は、1以上のタイプのベクターが使用される場合に適合性のある発現ベクターを作成すること、産物の正しい化学量論比を得ることと、正しく折り畳まれて、パートナーと結合することに関して適切な立体構造におけるものである、遺伝子産物を産生することと、所望の産物を、細胞および誤って折り畳まれたおよび/または不適当な立体構造におけるタンパク質のような望ましくないタンパク質から精製することと、および所望の産物(複数を含む)の収率の最大化の一態様として、封入体の形成を最小化することを含む。多くの異なるアプローチが、これらの課題を扱うためにとられてきたが、まだ、よりよい共発現方法についての必要性がある。
【0005】
lacおよびaraプロモーターを含むプラスミドを含む、いくつかの誘導性の細菌性タンパク質発現系が、個々のタンパク質を発現させるために考案されてきた。これらの系は、それらが野生型大腸菌における増殖培養集団の全体の中で均質にタンパク質を誘導し損なうため、発現が難しいタンパク質の共発現における有用性を限定していた(Khlebnikov and Keasling, "Effect of lacY expression on homogeneity of induction from the
Ptac and Ptrc promoters by natural and synthetic inducers", Biotechnol Prog 2002 May-Jun; 18(3): 672-674)。誘導物質についての輸送タンパク質の発現が誘導物質の
存在に依存する場合、野生型大腸菌lacおよびara系の場合のように、誘導物質の細胞濃度は、輸送タンパク質の産生を開始するために閾値レベルに達しなければならないが、いったん閾値に達すると、制御されていないポジティブフィードバックループが生じ得、細胞内で高レベルの誘導物質となり、そして同様に誘導性プロモーター由来の高レベルの発現:「全か無かの」現象となる結果を伴う。増殖培地における誘導物質の濃度を増加させることは、高い発現モードにある集団における細胞の割合を増加させる。このタイプの系は、集団の規模で、タンパク質発現の濃度依存性誘導をもたらすが、毒性があり、可溶性に乏しく、または他の理由のために特定の濃度を必要とするものを含む、発現の厳密な制御を必要とする、タンパク質の発現および産生についての最適下限である。
【0006】
誘導物質の誘導物質依存性輸送を排除することにより、単一のプロモーター発現系における「全か無かの」誘導現象を扱うためにいくつかの努力がなされてきた。一例は、ラクトースパーミアーゼ遺伝子(lacYam)における無発現変異を有しており、トランスポーターの不存在化である程度まで細胞膜を通り抜けることができるIPTG(イソプロ
ピル-チオ-β-D-ガラクトシド)のようなlacプロモーターの代わりの誘導物質を用いている(Jensen et al., "The use of lac-type promoters in control analysis", Eur J Biochem 1993 Jan 15; 211(1-2): 181-191)。他のアプローチは、アラビノーストランスポーター遺伝子において欠損された系統における、アラビノース誘導性プロモーターの使用であるが、アラビノースを細胞内に輸送することを可能にする、ラクトースパーミアーゼ遺伝子、lacY(A117C)における突然変異を有する(Morgan-Kiss et al., "Long-term and homogeneous regulation of the Escherichia coli araBAD promoter by use of a lactose transporter of relaxed specificity", Proc Natl Acad Sci U S A 2002 May 28; 99(11): 7373-7377)。
【0007】
個々のタンパク質発現の構成要素は、異なる誘導物質プロモーター系間の「相互干渉」の影響により有害な影響を及ぼし、または相互に排他的なゲノムの変更を必要とし、または一般的な代謝調節に供されるかもしれないため、共発現系においてそれらの使用を不可能にする、不適合である場合が多い。lacおよびara誘導性プロモーター系間の「相互干渉」問題を扱うための試みは、IPTG、lacプロモーターの誘導物質の存在下で、araBADプロモーターを誘導するためにその性能を向上させるためのAraC転写活性化因子の定向進化を含んだ(Lee et al., "Directed evolution of AraC for improved compatibility of arabinose- and lactose-inducible promoters", Appl Environ Microbiol 2007 Sep; 73(18): 5711-5715; Epub 2007 Jul 20)。しかしながら、araお
よびlac誘導性プロモーターに基づく発現ベクター間の適合性は、相互に排他的なゲノムの変更:アラビノースによるaraBADプロモーターの均質な誘導のためのlacY点突然変異(lacY(A117C))、およびIPTGによるlacプロモーターの均質な誘導のためのヌルlacY遺伝子の必要性により、未だに制限されている。一般的な代謝調節、例えば、炭素カタボライト抑制は、また、誘導性プロモーターの適合性に影響を及ぼし得る。CCRは、他の糖の前のグルコースの優先的な使用にみられるように、より好ましい化合物が存在する場合に、炭素含有化合物の利用に必要とされる遺伝子の抑圧により特徴づけられる。araおよびprp誘導性プロモーター系の場合、アラビノースの存在は、prpBCDEプロモーターから発現を誘導するためのプロピオネートの性能、CCRを伴うと考えられている効果を低減させる(Park et al., "The mechanism of sugar-mediated catabolite repression of the propionate catabolic genes in Escherichia coli", Gene 2012 Aug 1; 504(1): 116-121, Epub 2012 May 3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの問題を克服する誘導性共発現系の必要性が明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、各遺伝子産物の構成要素の制御誘導が可能である誘導性共発現系を提供する。
【0010】
本発明の一実施形態は、2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、各タイプの発現コンストラクトは、誘導性プロモーターと遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列とを含み、前記ポリヌクレオチド配列は該誘導性プロモーターから転写され;(1)少なくとも1つの前記誘導性プロモーターは、別の前記誘導性プロモーターの誘導物質ではない誘導物質に対して応答性があり、少なくとも1つの前記遺伝子産物は、別の前記遺伝子産物と多量体を形成し、または(2)少なくとも1つの前記遺伝子産物は、(a)シグナルペプチドを欠き、少なくとも3つのジスルフィド結合を形成するポリペプチド、(b)アラビノース利用酵素およびキシロース利用酵素からなる群から選択されるポリペプチド、並びに(c)リグニン分解ペルオキシダーゼからなる群から選択されるポリペプチド、からなる群から選択される。本発明の別の実施形態は、2
つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、各タイプの発現コンストラクトが、誘導性プロモーターと遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列とを含み、前記ポリヌクレオチド配列は該誘導性プロモーターから転写され;各誘導性プロモーターはラクトース誘導性プロモーターではなく、および少なくとも1つの前記遺伝子産物は、少なくとも2のジスルフィド結合を形成し、または少なくとも2であって17より少ないジスルフィド結合を形成し、または少なくとも2であって10より少ないジスルフィド結合を形成し、または2、3、4、5、6、7、8、および9からなる群から選択されるいくつかのジスルフィド結合を形成するポリペプチドである。本発明のいくつかの実施形態では、この宿主細胞は原核細胞であり、いくつかの例では、それは大腸菌細胞である。本発明の他の実施形態では、宿主細胞は真核細胞であり、いくつかの例では、それは酵母細胞であり、さらにいくつかの例では、それはサッカロマイセス・セレビシエ細胞である。さらなる実施形態では、宿主細胞により含まれる発現コンストラクトのそれぞれは、少なくとも1つの誘導性プロモーターを含み、誘導性プロモーターは、L-アラビノース誘導性プロモーターもしくはプロピオネート誘導性プロモーターであり、または、araBADプロモーター、prpBCDEプロモーター、rhaSRプロモーター、およびxlyAプロモーターからなる群から選択され、または、誘導性プロモーターはラクトース誘導性プロモーターではない。追加の実施形態では、宿主細胞により含まれる少なくとも1つの発現コンストラクトは、誘導性プロモーターに結合する転写制御因子をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含み、いくつかの実施形態では、転写制御因子および該転写制御因子が結合する誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド配列は、同じ発現コンストラクトにおけるものであり、およびさらなる例では、転写制御因子は、AraC、PrpR、RhaR、およびXylRからなる群から選択され、またはとりわけAraC、もしくはPrpRである。ある実施形態では、宿主細胞により含まれる少なくとも1つの発現コンストラクトは、ポリヌクレオチド配列を、pBAD18、pBAD18-Cm、pBAD18-Kan、pBAD24、pBAD28、pBAD30、pBAD33、pPRO18、pPRO18-Cm、pPRO18-Kan、pPRO24、pPRO30、およびpPRO33からなる群から選択されるプラスミド内に、または特にpBAD24もしくはpPRO33内に挿入する工程を含む方法により産生された。本発明の他の実施例は、2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、各タイプの発現コンストラクトは、誘導性プロモーターと遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列とを含み、少なくとも1つの遺伝子産物は、ポリペプチドであり、または(a)免疫グロブリン重鎖;(b)免疫グロブリン軽鎖;および(c)(a)から(b)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択され、または免疫グロブリン軽鎖であり、または免疫グロブリン重鎖であり;またはインフリキシマブ重鎖もしくは軽鎖もしくはそのフラグメントであり、または配列番号30もしくは配列番号31の長さの少なくとも50%もしくは80%にわたって配列番号30もしくは配列番号31と少なくとも80%もしくは90%アミノ酸配列同一性をそれぞれ有し、または配列番号30もしくは配列番号31のアミノ酸配列を有する、宿主細胞を含む。
【0011】
本発明の追加の実施形態では、宿主細胞は、2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含み、各タイプの発現コンストラクトは、誘導性プロモーターと遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列とを含み、前記ポリヌクレオチド配列は該誘導性プロモーターから転写され;少なくとも1つの遺伝子産物は、シグナルペプチドを欠くポリペプチドであり、少なくとも3つのジスルフィド結合、もしくは少なくとも3であって17よりも少ないジスルフィド結合、もしくは少なくとも18であって100より少ないジスルフィド結合、もしくは少なくとも3であって10より少ないジスルフィド結合、もしくは少なくとも3であって8より少ないジスルフィド結合を形成し;または3、4、5、6、7、8、および9からなる群から選択されるいくつかのジスルフィド結合を形成し、または(a)免疫グロブリン重鎖、(b)免疫グロブリン軽鎖、(c)マンガンペルオキシダーゼ、および(d)(a)から(c)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択さ
れるポリペプチドであり;またはインフリキシマブ重鎖もしくは軽鎖もしくはそのフラグメントであり、または配列番号30もしくは配列番号31の長さの少なくとも50%もしくは80%にわたって配列番号30もしくは配列番号31と少なくとも80%もしくは90%アミノ酸配列同一性をそれぞれ有し、または配列番号30もしくは配列番号31のアミノ酸配列を有し、または配列番号13、配列番号15、もしくは配列番号23の長さの少なくとも50%もしくは80%にわたって配列番号13、配列番号15、もしくは配列番号23と少なくとも80%もしくは90%アミノ酸配列同一性をそれぞれ有し、または配列番号13、配列番号15、もしくは配列番号23のアミノ酸配列を有し;またはキシロースイソメラーゼのようなアラビノース利用酵素およびキシロース利用酵素からなる群から選択されるポリペプチドであり;またはマンガンペルオキシダーゼもしくは汎用性のあるペルオキシダーゼのようなリグニン分解ペルオキシダーゼからなる群から選択されるポリペプチドである。
【0012】
本発明のさらなる実施形態では、2つのタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞が提供され、ある例では、1つのタイプの発現コンストラクトはpBAD24ポリヌクレオチド配列内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、他のタイプの発現コンストラクトはpPRO33ポリヌクレオチド配列内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生される。
【0013】
本発明の別の例は、2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、各タイプの発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含み、宿主細胞が少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質についての輸送タンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の変異を有し、および別の例として、輸送タンパク質をコードする遺伝子は、araE、araF、araG、araH、rhaT、xylF、xylG、およびxylHからなる群から選択され、または特にaraEである。さらなる実施形態として、宿主細胞は、2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含んで提供され、各タイプの発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含み、宿主細胞は、少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減されたレベルを有し、さらなる実施例として、少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする遺伝子は、araA、araB、araD、prpB、prpD、rhaA、rhaB、rhaD、xylA、およびxylBからなる群から選択される。追加の実施例として、宿主細胞は、2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含んで提供され、各タイプの発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含み、宿主細胞は、少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質の生合成を伴うタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減されたレベルを有し、さらなる実施形態では、scpA/sbm、argK/ygfD、scpB/ygfG、scpC/ygfH、rmlA、rmlB、rmlC、およびrmlDからなる群から選択される。
【0014】
また、本発明は、2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞を提供し、各タイプの発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含み、宿主細胞は、該宿主細胞の細胞質の還元/酸化環境に影響を及ぼす、遺伝子の変異した遺伝子機能を有し、いくつかの実施例では、gorおよびgshBからなる群から選択され、または宿主細胞は、還元酵素をコードする遺伝子の低減されたレベルの遺伝子機能を有し、いくつかの実施形態ではtrxBであり、または宿主細胞は、少なくとも1つのジスルフィド結合イソメラーゼタンパク質をコードする少なくとも1つの発現コンストラクトを含み、いくつかの実施形態ではDsbCであり、または宿主細胞は、シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み、または宿主細胞は、Erv1pをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。
【0015】
本発明の他の態様では、2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞を提供し、各タイプの発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含み、各タイプの発現コンストラクトは、各他のタイプの発現コンストラクトの誘導性プロモーターではない該誘導性プロモーターを含み、または各タイプの前記発現コンストラクトは、各他のタイプの前記発現コンストラクトの複製起点と異なる複製起点を含む。
【0016】
本発明の特定の実施例として、2つのタイプの発現コンストラクトを含む大腸菌宿主細胞が提供され、1つのタイプの発現コンストラクトは、pBAD24ポリヌクレオチド配列内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、他のタイプの発現コンストラクトは、pPRO33ポリヌクレオチド配列内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、および宿主細胞は、2つまたはそれ以上の以下の、(a)araBAD遺伝子の欠失;(b)変異した遺伝子機能のaraEおよびaraFGH遺伝子;(c)lacY(A177C)遺伝子;(d)低減された遺伝子機能のprpBおよびprpD遺伝子;(e)ygfI遺伝子の発現を変更しない、低減された遺伝子機能のsbm/scpA-ygfD/argK-ygfGH/scpBC遺伝子;(f)低減された遺伝子機能のgorおよびtrxB遺伝子;(g)低減された遺伝子機能のAscG遺伝子;(h)シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードするポリヌクレオチド;および(i)Erv1p、ChuA、またはシャペロンをコードするポリヌクレオチドをさらに含み、およびある実施例では、宿主細胞は、遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、前記ポリヌクレオチド配列は誘導性プロモーターから転写され、少なくとも1つの発現コンストラクトをさらに含み、いくつかの例では、遺伝子産物は、(a)免疫グロブリン重鎖、(b)免疫グロブリン軽鎖、(c)マンガンペルオキシダーゼ、および(d)(a)から(c)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択され;またはインフリキシマブ重鎖もしくは軽鎖もしくはそのフラグメントであり、または配列番号30もしくは配列番号31の長さの少なくとも50%もしくは80%にわたって配列番号30もしくは配列番号31と少なくとも80%もしくは90%アミノ酸配列同一性をそれぞれ有し、または配列番号30もしくは配列番号31のアミノ酸配列を有し;または配列番号13、配列番号15、もしくは配列番号23の長さの少なくとも50%もしくは80%にわたって配列番号13、配列番号15、もしくは配列番号23と少なくとも80%もしくは90%アミノ酸配列同一性をそれぞれ有し、または配列番号13、配列番号15、もしくは配列番号23のアミノ酸配列を有し;またはキシロースイソメラーゼのようなアラビノース利用酵素およびキシロース利用酵素からなる群から選択されるポリペプチドであり;またはマンガンペルオキシダーゼもしくは汎用性のあるペルオキシダーゼのようなリグニン分解ペルオキシダーゼからなる群から選択されるポリペプチドである。
【0017】
また、産物を産生する方法は、上記のような本発明の宿主細胞の培養を増殖させ、培養に少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を添加することによるような、本発明により提供され、この方法により産生される遺伝子産物または多量体産物もまた本発明により提供され、いくつかの実施形態では、抗体であり、より具体的な例では、アグリコシル化抗体、キメラ抗体、またはヒト抗体である。
【0018】
また、宿主細胞を含むキットが、本発明の系および方法により提供され、宿主細胞は2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含み、各タイプの発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含み、およびキットは、本発明の宿主細胞を増殖させて培養に少なくとも1つの誘導物質を添加することにより産生される遺伝子産物または多量体産物を含み、いくつかの実施形態では、多量体産物は抗体であり、より具体的な例では、アグリコシル化抗体、キメラ抗体、またはヒト抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、誘導性共発現系の概略図であり、誘導物質(5)の適用で異なる遺伝子産物を発現し、多量体産物(6)を形成する、2つの異なる誘導性発現ベクター(3)および(4)を含む宿主細胞(1)を含む。
図2図2は、誘導性共発現系の特定の使用の概略図であり、大腸菌宿主細胞ゲノム(2)が、シグナルペプチドを欠くジスルフィドイソメラーゼDsbCの細胞質の形態をコードし、発現ベクターpBAD24(3)が免疫グロブリン重鎖のL-アラビノース誘導性発現を提供し、発現ベクターpPRO33(4)が免疫グロブリン軽鎖のプロピオネート誘導性発現を提供し、多量体抗体産物(6)を誘導(5)で形成する。
図3図3は、細菌性細胞における免疫グロブリン重鎖および軽鎖の共発現の結果を示す。SHuffle(登録商標)ExpressおよびpBAD24-HCおよびpPRO33-LC誘導性発現ベクターの両方を含むBL21細胞が、L-アラビノースおよびプロピオネートにおける増殖により誘導された。誘導された細胞および非誘導の対照から抽出される可溶性のタンパク質が、4から12%のビス-トリスゲル上で還元条件下でSDSゲル電気泳動により分離された。レーン1:誘導されたSHuffle(登録商標)Express。レーン2:非誘導のSHuffle(登録商標)Express。レーン3:誘導されたBL21。レーン4:非誘導のBL21。矢印は、51kDaでタンパク質バンド(IgG1重鎖)および26kDaで他のタンパク質バンド(IgG1軽鎖)を示し、これらのバンドは、誘導された細胞では存在するが、非誘導の細胞では存在しない。
図4図4は、細菌性の細胞における免疫グロブリン重鎖および軽鎖の共発現の結果を示す。同じ可溶性のタンパク質は、図3に記載されるように、誘導されたおよび非誘導のSHuffle(登録商標)ExpressおよびpBAD24-HCおよびpPRO33-LC誘導性発現ベクターの両方を含むBL21細胞から抽出し、10から20%トリス-グリシンゲル上で天然の(非還元)条件下でゲル電気泳動により分離された。レーン1:誘導されたSHuffle(登録商標)Express。レーン2:非誘導のSHuffle(登録商標)Express。レーン3:誘導されたBL21。レーン4:非誘導のBL21。矢印は、154kDaでタンパク質バンド(重鎖および軽鎖を含むIgG1抗体)を示し、このバンドは、誘導されたSHuffle(登録商標)Express細胞では存在するが、誘導されたBL21細胞および非誘導の細胞では有意に低減されまたは存在しない。
図5図5は、ヘムの存在下で、細菌性の細胞における、マンガンペルオキシダーゼ(MnP)およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)の共発現の結果を示す。pPRO33-MnP-ChuAおよびpBAD24-PDI誘導性発現ベクターの両方を含む、SHuffle(登録商標)Express細胞は、L-アラビノースおよびプロピオネートにおける増殖により誘導された。非誘導および誘導された細胞から抽出された可溶性のタンパク質が、10%ビス-グリシンゲル上で還元条件下でゲル電気泳動により分離された。 マーカー:Bio-Rad Precision Plus Protein(商標)スタンダード(前染色された) レーン1:誘導されていない(ヘミンなし、プロピオネートなし、アラビノースなし) レーン2:50mMプロピオネート 0.002%アラビノース レーン3:25mMプロピオネート 0.002%アラビノース レーン4:12.5mMプロピオネート 0.002%アラビノース レーン5:50mMプロピオネート 0.01%アラビノース レーン6:25mMプロピオネート 0.01%アラビノース レーン7:12.5mMプロピオネート 0.01%アラビノース レーン8:50mMプロピオネート 0.05%アラビノース レーン9:25mMプロピオネート 0.05%アラビノース レーン10:12.5mMプロピオネート 0.05%アラビノース 矢印は、39kDaでMnP、および53kDaでPDIのタンパク質バンドを示し、これらのバンドは、最も強い所定の誘導条件下で誘導されたSHuffle(登録商標)Express細胞では存在するが、非誘導の細胞では有意に低減される。
図6図6は、ヘムの存在下で、マンガンペルオキシダーゼ(MnP_FT)およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)の代替的な成熟形態の、細菌性の細胞における、共発現の結果を示す。pBAD24-MnP_FT-ChuAおよびpPRO33-PDI誘導性発現ベクターの両方を含む、SHuffle(登録商標)Express細胞は、0.1%L-アラビノースおよび50mMプロピオネートでの増殖により誘導された。非誘導および誘導細胞から抽出される可溶性のタンパク質が、10%ビス-グリシンゲル上で還元条件下でゲル電気泳動により分離された。 レーン1:分子量マーカー Bio-Rad Precision Plus Protein(商標)スタンダード(前染色された) レーン2:誘導された共発現(0.1%L-アラビノース、50mMプロピオネート) レーン3:非誘導(ヘミンなし、L-アラビノースなし、プロピオネートなし) レーン4:誘導された対照(タンパク質をコードする挿入なし) レーン5:非誘導の対照(タンパク質をコードする挿入なし)
【発明を実施するための形態】
【0020】
相互に不適合な共発現系構成要素の問題には、相互適合性のある均質的に誘導性をもったプロモーター系を別々の発現コンストラクト上に配置して、いくつかの実施形態では種々の誘導物質によって活性化して、利用する、整合性の取れた細菌共発現系の開発によって取り組む。本発明の利点としては、以下に限定するものではないが、
1)誘導性共発現系内の構成要素の相互適合性向上、
2)多量体を一緒に形成する遺伝子産物又は遺伝子産物のその他の組み合わせの、誘導性発現(2つ以上の遺伝子産物の共発現)、
3)独立的滴定可能な誘導による、遺伝子産物共発現の制御向上、
4)多量体産物及び、ジスルフィド結合を形成する産物等、発現させることが困難な遺伝子産物複合体及び他の産物の発現向上、
5)遺伝子産物共発現の最新式最適化、
が挙げられる。
【0021】
共発現遺伝子産物 本発明の誘導性共発現系は、所望の産物に役立つ2つ以上の異なる遺伝子産物を共発現するように設計する。所望の産物は共発現遺伝子産物から形成する多量体であってもよく、又は、共発現を用いて、所望の産物と、所望の産物の発現を助ける追加的1つの産物又は複数の産物とを組み合わせたものを産生してもよい。
【0022】
「多量体産物」は、共に会合して多量体産物の機能を果たす一式の遺伝子産物を指し、遺伝子産物と他の分子の間の一過性会合物、例えば修飾酵素(キナーゼ、ペプチダーゼ及び同種のもの)、シャペロン、トランスポーター等は指さない。本発明の所定の実施形態では、多量体産物はヘテロ多量体である。多くの実施形態では、共発現遺伝子産物は、多量体タンパク質のサブユニットであるポリペプチドであってもよい。しかしながら、本発明の誘導性共発現系を使って、複数の異なる非コードRNA分子又は、ポリペプチド及び非コードRNA遺伝子産物の組み合わせを共発現することもまた可能である。非タンパク質コードRNA(npcRNA)とも称される非コードRNA分子、非メッセンジャーRNA(nmRNA)及び機能RNA(fRNA)には多くの異なる種類のRNA分子が含まれ、例えば、メッセンジャーRNAでない、したがって翻訳を通してポリペプチドを形成するための鋳型でないマイクロRNAが含まれる。
【0023】
多くの生物学的に重要な産物は複数の異なるポリペプチド鎖の組み合わせから形成される。抗体及び抗体断片に加えて、本発明の誘導性共発現方法によって産生することができる他の多量体産物としては、G結合タンパク質受容体及びリガンド開口型イオンチャネル、例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体、GABA受容体、グリシン受容体、セロトニン受容体、グルタミン酸受容体と、P2X受容体等のATPゲーティッド(ATP-gated)受容体とが挙げられる。ボツリヌス神経毒素(しばしばBoTN、BTX、又は市販されている形式のひとつであるBOTOX(登録商標)(オナボツリヌス毒素A)と称される)は、ジスルフィド結合によって連結される重鎖及び軽鎖から形成される(
Simpson et al., "The role of the interchain disulfide bond in governing the pharmacological actions of botulinum toxin", J Pharmacol Exp Ther 2004 Mar; 308(3): 857-864, Epub 2003 Nov 14)。複数の異なるポリペプチド鎖から形成される産物の別の
例はインスリンで、これは真核生物においてまず単一ポリペプチド鎖として翻訳され、折り畳まれ、次いで切断されて、最終的にはジスルフィド結合によって結合された2つのポリペプチド鎖になる。単一宿主細胞においてボツリヌス神経毒素又は成熟インスリンを効率的に産生することは、本発明の誘導性共発現方法の使用例である。
【0024】
本発明の方法は、遺伝子産物を産生するように設計しており、この遺伝子産物は、機能的産物の中に正確に折り畳まれかつ/又は会合し、そのような機能的産物の中で所望の位置において所望の数のジスルフィド結合を有するものである(これは、実施例11等の方法によって測定することができる)。ポリペプチド等の遺伝子産物のジスルフィド結合の数は、その遺伝子産物が所望の機能的産物の中に存在するときにその産物によって形成される分子内及び分子間結合の総数である。例えば、ヒトIgG抗体の軽鎖は典型的に3つのジスルフィド結合(2つの分子内結合及び1つの分子間結合)を有し、ヒトIgG抗体の重鎖は典型的に7つのジスルフィド結合(4つの分子内結合及び3つの分子間結合)を有する。いくつかの実施形態では、所望の遺伝子産物は、所望の遺伝子産物の産生に有益なシャペロン等の他の遺伝子産物で共発現される。シャペロンは、他の遺伝子産物の非共有結合フォールディング若しくはアンフォールディング及び/又は会合若しくは分解を助けはするが、結果として生じる単量体又は多量体遺伝子産物構造が(フォールディング及び/又は会合のプロセスを完了した後)その通常の生体機能を遂行しているときにはその構造中には現れないタンパク質である。シャペロンは、発現コンストラクト内で誘導性プロモーター又は構成的プロモーターから発現することができ、あるいは宿主細胞染色体から発現することができ、好ましくは、宿主細胞におけるシャペロンタンパク質(複数を含む)の発現は、所望の産物の中へ適切にフォールディング及び/又は会合する共発現遺伝子産物を産生するのに十分高いレベルにある。大腸菌宿主細胞に存在するシャペロンの例としては、フォールディング因子のDnaK/DnaJ/GrpE、DsbC/DsbG、GroEL/GroES、IbpA/IbpB、Skp、Tig(トリガー因子)、及びFkpAが挙げられ、これらを用いて細胞質又は周辺質タンパク質のタンパク質凝集を防いできた。DnaK/DnaJ/GrpE、GroEL/GroES、及びClpBは、タンパク質フォールディングを助ける上で相乗的に機能することができ、したがってこれらのシャペロンを組み合わせて発現することは、タンパク質発現に有益であることが示されている(Makino et al., "Strain engineering for improved expression of recombinant proteins in bacteria", Microb Cell Fact 2011 May 14; 10: 32)。原核生物宿
主細胞において真核生物タンパク質を発現するとき、同じ又は関連の真核生物種に由来するタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)等の真核生物シャペロンタンパク質は、本発明の所定の実施形態では所望の遺伝子産物と共発現又は誘導的共発現をする。
【0025】
誘導性プロモーター 以下は、発現コンストラクトにおいて遺伝子産物の共発現に用いることのできる誘導性プロモーターについて、そのような発現コンストラクトを含有する宿主細胞に対して行える遺伝子修飾のいくつかとともに記載したものである。これらの誘導性プロモーター及び関連遺伝子の例は、他に断りがなければ、エシェリキア・コリ(大腸菌)菌株MG1655(American Type Culture Collection寄託ATCC 700926)に由来するものであり、これは大腸菌K-12(American Type Culture Collection寄託ATCC 10798)の亜株である。表1は、誘導性プロモーター及び関連遺伝子のこれらの例について、大腸菌MG1655におけるヌクレオチド配列の遺伝子位置を列記する。ヌクレオチド及び他の遺伝子の配列で、表1にある遺伝子位置に従って参照されるものは、本明細書に明示的に援用されるものとする。本明細書に記載される大腸菌のプロモーター、遺伝子、及び菌株に関する追加情報は、オンラインでecoliwiki.netに位置する
EcoliWikiの情報源等、多くの公開情報源に見つけることができる。
【0026】
アラビノースプロモーター (本明細書で使用される場合、「アラビノース」はL-アラビノースを意味する。)アラビノース利用に関係するいくつかの大腸菌オペロンは、アラビノース - araBAD、araC、araE及びaraFGH - によって誘導性となるが、「アラビノースプロモーター」及び「araプロモーター」という用語は典型的に、araBADプロモーターを指して用いられる。Para、ParaB、ParaBAD及びPBAD等、大腸菌araBADプロモーターを指して、いくつか別の用語も用いている。「araプロモーター」又は上に記載の代替用語のいずれも、本明細書で使う場合、大腸菌araBADプロモーターを意味する。別の用語「araC-araBADプロモーター」が使われることからも分かるように、araBADプロモーターは双方向性プロモーターの一部と考えられ、一方向にaraBADがaraBADオペロンの発現を制御し、他方向にaraCプロモーターが、araBADプロモーターに隣接してかつaraBADプロモーターとは反対側の鎖上でaraCコード配列の発現を制御する。AraCタンパク質は、araBADプロモーターの正負両方の転写制御因子である。アラビノースの不存在下でAraCタンパク質はPBADからの転写を抑制するが、アラビノースの存在下でAraCタンパク質はアラビノースに結合するとそのコンフォーメーションを変異させるので、PBADからの転写を可能とする正の調節要素になる。araBADオペロンはL-アラビノースを代謝するタンパク質をコードし、この代謝は、L-アラビノースを中間体であるL-リブロース及びL-リブロース-リン酸を経てD-キシルロース-5-リン酸に変換することによる。アラビノース誘導性プロモーターからの発現の誘導をできるだけ大きくする目的で、AraAの機能を削除又は低減することは有用であり、AraAはL-アラビノースのL-リブロースへの変換を触媒し、任意でAraB及びAraDの少なくとも1つの機能を削除又は低減することができる。宿主細胞における有効濃度のアラビノースを減少させることができるその細胞の能力を削除又は低減すると、その細胞がアラビノースを他の糖に変換できる能力を削除又は低減することによって、アラビノース-誘導性プロモーターの誘導のためにより多くのアラビノースが得られるようになる。アラビノースを宿主細胞中へ移動させるトランスポーターをコードする遺伝子はaraE及びaraFGHオペロンで、araEは低親和性L-アラビノースプロトンシンポーターをコードし、araFGHオペロンはABCスーパーファミリー高親和性L-アラビノーストランスポーターのサブユニットをコードする。L-アラビノースを細胞質中へ輸送できる他のタンパク質は、LacYラクトース・ペルメアーゼの所定の突然変異体である、LacY(A177C)及びLacY(A177V)タンパク質であり、位置177でアラニンの代わりにシステイン又はバリンをそれぞれ有する(Morgan-Kiss et al., "Long-term and homogeneous regulation of the Escherichia coli araBAD
promoter by use of a lactose transporter of relaxed specificity", Proc Natl Acad Sci U S A 2002 May 28; 99(11): 7373-7377)。アラビノース誘導性プロモーターの均質的誘導を達成するために、アラビノースによる調節からは独立して細胞質へのアラビノースの輸送を行うことが有用である。これは、AraFGH輸送タンパク質の活性を削除又は低減し、araEの発現を変異させて、araEのみが構成的プロモーターから転写されるようにすることによって、成し遂げることができる。araEの構成的発現は、天然araE遺伝子の機能を削除又は低減すること及び、構成的プロモーターから発現されたAraEタンパク質のためのコード配列を含む発現コンストラクトを細胞中に導入することによって達成できる。あるいは、AraFGH機能を欠く細胞において、宿主細胞の染色体araE遺伝子の発現を制御するプロモーターは、アラビノース誘導性プロモーターから構成的プロモーターへ変化させることができる。同様に、アラビノース誘導性プロモーターの均質的誘導のための更なる代替方法として、AraE機能を欠く宿主細胞は、構成的プロモーターから発現された細胞中に存在する機能的AraFGHコード配列を有することができる。別の代替方法として、宿主染色体において天然araE及びaraFGHプロモーターを構成的プロモーターで置き換えることによって、araE遺伝子及び
araFGHオペロンの両方を構成的プロモーターから発現することが可能である。AraE及びAraFGHアラビノーストランスポーターの両方の活性を削除又は低減し、その状況で、LacYラクトース・ペルメアーゼによるアラビノース輸送を可能とするそのタンパク質における突然変異を用いることもまた可能である。lacY遺伝子の発現はアラビノースによって正常に調節されないので、アラビノース誘導性プロモーターがアラビノースの存在によって誘導されるとき、LacY(A177C)又はLacY(A177V)等のLacY突然変異体の使用は、「全か無か」の誘導現象にはならない。LacY(A177C)タンパク質はアラビノースを細胞中に輸送する点でより有効であるように思われるので、LacY(A177C)タンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用は、LacY(A177V)タンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用より好ましい。
【0027】
プロピオネートプロモーター 「プロピオネートプロモーター」又は「prpプロモーター」は大腸菌prpBCDEオペロンのプロモーターであり、PprpBとも称する。araプロモーターと同様、prpプロモーターは双方向プロモーターの一部であり、一方向にprpBCDEオペロンの発現を制御し、他方向にはprpRプロモーターがprpRコード配列の発現を制御する。PrpRタンパク質はprpプロモーターの転写制御因子であり、PrpRタンパク質が2-メチルシトレート(「2-MC」)に結合するときにprpプロモーターからの転写を活性化する。プロピオネート(プロパノエイトとも称する)はプロピオン酸(即ち「プロパン酸」)のイオン、CHCHCOOであり、一般式H(CHCOOHを有する「脂肪」酸の中で最も小さいものであり、この分類の分子がもつ所定の特性、即ち、水から塩析すると油状の層を生成して石鹸状カリウム塩を生成できるという特性を共有する。市販されるプロピオネートは概して固体であり、プロピオン酸ナトリウム(CHCHCOONa)等のプロピオン酸一価カチオン塩又は、プロピオン酸カルシウム(Ca(CHCHCOO))等の二価カチオン塩である。プロピオネートは膜透過性であり、PrpE(プロピオニル-CoAシンテターゼ)によってプロピオネートをプロピオニル-CoAに変換し、次いでPrpC(2-メチルシトレートシンターゼ)によってプロピオニル-CoAを2-MCに変換することによって、2-MCに代謝される。prpBCDEオペロン、PrpD(2-メチルシトレートデヒドラターゼ)及びPrpB(2-メチルイソシトレートリアーゼ)がコードする他のタンパク質は、ピルビン酸及びコハク酸等のより小さい産物への2-MCのさらなる異化作用に関与する。細胞増殖培地に加えたプロピオネートによってプロピオネート誘導性プロモーターの誘導をできるだけ大きくするためには、したがって、PrpC及びPrpE活性をもった宿主細胞を有して、プロピオネートを2-MCへ変換することが望ましいが、また、PrpD活性を削除又は低減し、任意でPrpB活性も削除又は低減して、2-MCが代謝されるのを防ぐことが望ましい。2-MC生合成に関与するタンパク質をコードする別のオペロンはscpA-argK-scpBCオペロンで、sbm-ygfDGHオペロンとも称する。これらの遺伝子は、コハク酸をプロピオニル-CoAへ変換し、次いでPrpCによって2-MCに変換するのに必要とされるタンパク質をコードする。これらのタンパク質の機能の削除又は低減は、2-MC誘導物質の産生のための平行経路を除去することがあり、従って、プロピオネート誘導性プロモーターの発現のバックグラウンドレベルを低減し、外因的に供給されるプロピオネートに対するプロピオネート誘導性プロモーターの感度を増加させることがある。sbm-ygfD-ygfG-ygfH-ygfIの欠失を大腸菌BL21(DE3)に導入して菌株JSBを作成すること(Lee and Keasling, "A propionate-inducible expression system for enteric bacteria", Appl Environ Microbiol 2005 Nov; 71(11): 6856-6862)は、外因的に供給された誘
導物質の不存在下でバックグラウンド発現を低減する際に役立っており、この欠失はまた菌株JSBにおけるprpプロモーターからの全体的発現を低減した。しかしながら、欠失sbm-ygfD-ygfG-ygfH-ygfIはまたygfIに影響を与えると思われ、これは機能の不明な推定上のLysR-ファミリー転写制御因子をコードするとい
うことに留意されたい。遺伝子sbm-ygfDGHは1つのオペロンとして転写され、ygfIは反対側の鎖から転写される。ygfHとygfIのコード配列の3’末端はいくつかの塩基対でオーバーラップするので、sbm-ygfDGHオペロンの全てを取り除く欠失はygfIコード機能をも明らかに取り除く。YgfG(ScpB、メチルマロニル-CoAデカルボキシラーゼとも称す)等のsbm-ygfDGH遺伝子産物のサブセットの機能を削除又は低減すること、又は、ygfIの発現が影響されないようにygfH(orscpC)遺伝子の十分な3’末端を残しながらsbm-ygfDGH(orscpA-argK-scpBC)オペロンの大部分を欠失させることは、最大レベルの誘導発現を低減することなくプロピオネート誘導性プロモーターからバックグラウンド発現を低減するのに十分であると思われる。
【0028】
ラムノースプロモーター (本明細書で使用される場合、「ラムノース」はL-ラムノースを意味する)「ラムノースプロモーター」即ち「rhaプロモーター」、又はPrhaSRは大腸菌rhaSRオペロンのためのプロモーターである。araプロモーター及びprpプロモーターと同様、rhaプロモーターは双方向プロモーターの一部であり、一方向にrhaSRオペロンの発現を制御し、他方向にはrhaBADプロモーターがrhaBADオペロンの発現を制御する。しかしながら、rhaプロモーターは、発現の調節に関与する2つの転写制御因子、即ちRhaR及びRhaSを有する。RhaRタンパク質はラムノースの存在下でrhaSRオペロンの発現を活性化し、一方RhaSタンパク質はL-ラムノース異化及び輸送オペロンであるそれぞれrhaBAD及びrhaTを活性化する(Wickstrum et al., "The AraC/XylS family activator RhaS negatively autoregulates rhaSR expression by preventing cyclic AMP receptor protein activation", J Bacteriol 2010 Jan; 192(1): 225-232)。RhaSタンパク質はまたrhaSRオペロンの発現を活性化することができるけれども、実際RhaSはこの発現を、RhaRとの発現を非常により大きなレベルに同時活性化できるサイクリックAMP受容体タンパク質(CRP)の能力に干渉することによって、負に自己調節する。rhaBADオペロンは、L-ラムノースをL-ラムヌロースに変換するラムノース異化タンパク質RhaA(L-ラムノースイソメラーゼ)と、L-ラムヌロースをリン酸化してL-ラムヌロース-1-Pを形成するRhaB(ラムヌロキナーゼ)と、L-ラムヌロース-1-PをL-ラクトアルデヒド及びDHAP(リン酸ジヒドロキシアセトン)に変換するRhaD(ラムヌロース-1-リン酸アルドラーゼ)とをコードする。ラムノース誘導性プロモーターからの発現を誘導するために得られる細胞内ラムノースの量をできるだけ多くするためには、RhaAの機能又は、任意でRhaAとRhaB及びRhaDの少なくとも1つとの機能を削除又は低減することによって、触媒作用が分解するラムノースの量を低減することが望ましい。大腸菌細胞質はまた、rmlBDACX(又はrfbBDACX)オペロンがコードするタンパク質RmlA、RmlB、RmlC及びRmlD(それぞれRfbA、RfbB、RfbC及びRfbDとも称する)の活性を通して、L-ラムノースをα-D-グルコース-1-Pから合成することができる。ラムノース誘導性プロモーターからのバックグラウンド発現を低減し、外因的に供給されるラムノースによるラムノース誘導性プロモーターの誘導の感度を高めるためには、RmlA、RmlB、RmlC及びRmlDタンパク質の1つ又は複数の機能を削除又は低減することが有益であると考えられる。L-ラムノースは、RhaT、ラムノースパーミアーゼ又はL-ラムノース:プロトンシンポーターによって細胞内に輸送される。上に記される通り、RhaTの発現は転写制御因子RhaSによって活性化される。ラムノース(RhaSの発現を誘導する)による誘導からは独立してRhaTの発現を行うためには、宿主細胞を変異させて、細胞内の全ての機能alRhaTコード配列が構成的プロモーターから発現されるようにすることができる。加えて、RhaSのコード配列は欠失又は不活性化させて、機能的RhaSが産生されないようにすることができる。細胞内のRhaSの機能を削除又は低減することにより、rhaSRプロモーターからの発現のレベルを、RhaSによる負の自己調節の不存在に基づいて増加させ、ラムノース触媒的オペロンrhaBADの発現のレベルを
減少させ、rhaプロモーターからの発現を誘導できるラムノースの能力をさらに増加させる。
【0029】
キシロースプロモーター (本明細書で使用される場合、「キシロース」はD-キシロースを意味する)キシロースプロモーター又は「xylプロモーター」又はPxylAは、大腸菌xylABオペロンのプロモーターを意味する。キシロースプロモーター領域は、xylABオペロンとxylFGHRオペロンの両方が、隣り合うキシロース誘導性プロモーターから大腸菌染色体上で反対方向に発現されるという意味において、組織の点で他の誘導性プロモーターに類似している(Song and Park, "Organization and regulation of the D-xylose operons in Escherichia coli K-12: XylR acts as a transcriptional activator", J Bacteriol. 1997 Nov; 179(22): 7025-7032)。PxylA及びPxylFプロモーターの両方の転写制御因子はXylRであり、キシロースの存在下でこれらのプロモーターの発現を活性化する。xylR遺伝子はxylFGHRオペロンの一部として発現されるか又はそれ自身の弱いプロモーターから発現され、このプロモーターはキシロースによる誘導性はなく、xylH及びxylRのタンパク質コード配列間に位置する。D-キシロースはXylA(D-キシロースイソメラーゼ)によって異化され、これはD-キシロースをD-キシルロースに変換し、これは次いでXylB(キシルロキナーゼ)によってリン酸化されてD-キシルロース-5-Pを形成する。キシロース誘導性プロモーターからの発現を誘導するために得られる細胞内キシロースの量をできるだけ多くするためには、少なくともXylAの機能又は、任意でXylAとXylBの両方の機能を削除又は低減することによって、触媒作用が分解するキシロースの量を低減することが望ましい。xylFGHRオペロンは、ABCスーパーファミリー高親和性D-キシローストランスポーターのサブユニットであるXylF、XylG及びXylHをコードする。xylE遺伝子は、大腸菌低親和性キシロース-プロトンシンポーターをコードするもので、分離オペロンの代表的なものであり、このオペロンの発現はまたキシロースによって誘導性となっている。キシロースによる誘導からは独立してキシローストランスポーターの発現を行うためには、宿主細胞を変異させて、全ての機能キシローストランスポーターが構成的プロモーターから発現されるようにすることができる。例えば、xylFGHコード配列が欠失するようにxylFGHRオペロンを変異させ、XylRをキシロース-誘導性PxylFプロモーターから発現される唯一の活性タンパク質としておき、xylEコード配列はその天然プロモーターからではなく構成的プロモーターから発現されるようにすることも可能である。別の例として、xylRコード配列は発現コンストラクトにおいてPxylA又はPxylFプロモーターから発現され、一方、xylFGHRオペロンが欠失してxylEが構成的に発現されるか、あるいは、xylFGHオペロン(xylRコード配列は発現コンストラクトに存在するので欠けている)が構成的プロモーターから発現されてxylEコード配列が活性タンパク質を産生しないように欠失又は変異をされるか、する。
【0030】
ラクトースプロモーター 「ラクトースプロモーター」という用語は、lacZp1とも称されるプロモーターである、lacZYAオペロンのためのラクトース誘導性プロモーターを指し、このラクトースプロモーターは、大腸菌K-12亜株MG1655(NCBI参照配列NC_000913.2,11-JAN-2012)のゲノム配列において約365603~365568(負鎖であり、RNAポリメラーゼ結合(「-35」)部位が約365603~365598、プリブノーボックス(「-10」)が365579~365573、転写開始点が365567)に位置する。いくつかの実施形態では、本発明の誘導性共発現系はlacZYAプロモーター等のラクトース誘導性プロモーターを含んでいてもよい。他の実施形態では、本発明の誘導性共発現系は、ラクトース誘導性プロモーターでない1つ又は複数の誘導性プロモーターを含む。
【0031】
【表1-1】
【0032】
【表1-2】
【0033】
【表1-3】
【0034】
表1注:
[1] ゲノム配列位置は全て、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)によってNCBI参照配列NC_000913.2,11-JAN-2012として提供される大腸菌K-12亜株MG1655のゲノム配列を指す。
[2] プロモーター領域の5’(又は「上流」)末端の位置は近似値である;「双方向」プロモーターについては、転写開始点間がおおよそ等距離にあるヌクレオチド配列位置が、個々のプロモーターの両方に対して指定5’「末端」として選択される。実際には、
発現コンストラクトのプロモーター部分は、それが下流のコード配列の転写を誘導可能なように推進する能力を保持している限りは、その5’末端で、表に示されるプロモーター配列よりも幾分少ない配列を有していてもよく、あるいは、表に示されるプロモーター配列の領域5’(又は「上流」)からのさらなる配列を含むヌクレオチド配列を有していてもよい。
[3] Smith and Schleif, "Nucleotide sequence of the L-arabinose regulatory region of Escherichia coli K12", J Biol Chem 1978 Oct 10; 253(19): 6931-6933。
[4] 「RNA pol」は表中、RNAポリメラーゼを示す。
[5] Miyada, et al., "DNA sequence of the araC regulatory gene from Escherichia coli B/r", Nucleic Acids Res 1980 Nov 25; 8(22): 5267-5274。
[6] Stoner and Schleif, "E. coli araE regulatory region araE codes for the low affinity L-arabinose uptake protein", GenBank Database Accession X00272.1, revision date 06-JUL-1989。
[7] Hendrickson et al., "Sequence elements in the Escherichia coli araFGH promoter", J Bacteriol 1992 Nov; 174(21): 6862-6871。
[8] 米国特許第8178338B2号;May 15 2012; Keasling, Jay;図9
[9] Wickstrum et al., "The AraC/XylS family activator RhaS negatively auto-regulates rhaSR expression by preventing cyclic AMP receptor protein activation", J Bacteriol 2010 Jan; 192(1): 225-232。
[10] Via et al., "Transcriptional regulation of the Escherichia coli rhaT gene", Microbiology 1996 Jul; 142(Pt 7): 1833-1840。
[11] Song and Park, "Organization and regulation of the D-xylose operons in
Escherichia coli K-12: XylR acts as a transcriptional activator", J Bacteriol. 1997 Nov; 179(22): 7025-7032。
[12] Davis and Henderson, "The cloning and DNA sequence of the gene xylE for xylose-proton symport in Escherichia coli K12", J Biol Chem 1987 Oct 15; 262(29): 13928-13932。
【0035】
発現コンストラクト 発現コンストラクトは目的の1つ又は複数の遺伝子産物を発現するように設計したポリヌクレオチドで、したがって天然の分子ではない。発現コンストラクトは宿主細胞染色体の中に組み込むか又は、プラスミド若しくは人工的染色体等の宿主細胞染色体から独立して複製するポリヌクレオチド分子として宿主細胞内に維持することができる。発現コンストラクトの例としては、1つ又は複数のポリヌクレオチド配列を宿主細胞染色体の中に挿入して得られるポリヌクレオチドが挙げられ、挿入されたポリヌクレオチド配列は染色体コード配列の発現を変異させる。発現ベクターは、特に1つ又は複数の遺伝子産物の発現に用いられるプラスミド発現コンストラクトである。1つ又は複数の発現コンストラクトは宿主細胞染色体の中に組み込むか又は、プラスミド若しくは人工的染色体等の染色体外ポリヌクレオチド上に維持することができる。以下、遺伝子産物の共発現のために発現コンストラクトにおいて用いることができる特定のタイプのポリヌクレオチド配列に関する記載である。
【0036】
複製起点 発現コンストラクトは、独立して複製するポリヌクレオチドとして宿主細胞内に維持されるためには、レプリコンとも称される複製起点を含まねばならない。複製のために同じメカニズムを用いる複数の異なるレプリコンは、繰り返される細胞分裂を通して単一の宿主細胞中に一緒に維持することができない。表2に示す通り結果としてプラスミドは、それが含有する複製起点によっては不和合性グループに分類することができる。
【0037】
【表2】
【0038】
表2注:
[1] www.bio.davidson.edu/courses/Molbio/Protocols/ORIs.html、及びSambrook and Russell, "Molecular Cloning: A laboratory manual", 3rd Ed., Cold Spring Harbor
Laboratory Press, 2001から応用。
[2] Kues and Stahl, "Replication of plasmids in gram-negative bacteria", Microbiol Rev 1989 Dec; 53(4): 491-516。
[3] pPRO33プラスミド(米国特許第8178338B2号;May 15 2012; Keasling, Jay)がAddgeneプラスミド17810としてAddgene(www.addgene.org)から市販されている。
[4] openwetware.org/wiki/CH391L/S12/Origins_of_Replication;accessed 03 Aug 2013。
【0039】
複製起点は、発現コンストラクトにおける使用のために、他の基準とも併せて不和合性グループ、複製数及び/又は宿主範囲に基づいて選択することができる。上に記載の通り、2つ又は複数の異なる発現コンストラクトを複数遺伝子産物の共発現のために同じ宿主細胞において用いる場合、その異なる発現コンストラクトは、例えば、1つの発現コンストラクトにはpMB1レプリコン、別の発現コンストラクトにはp15Aレプリコンといったように、異なる不和合性グループの複製起点を含有していれば最も良い。宿主染色体分子数との関係における、細胞における発現コンストラクトの平均複製数は、発現コンス
トラクトに含有される複製起点によって決まる。複製数は、細胞当たり数個から数百個の範囲であり得る(表2)。本発明の一実施形態では、同じ誘導物質によって活性化されるが異なる複製起点を有する誘導性プロモーターを含む複数の異なる発現コンストラクトを用いる。細胞中にそれぞれ異なる発現コンストラクトを所定のおおよその複製数で維持する複製起点を選択することによって、1つの発現コンストラクトから発現される遺伝子産物の全体的産生レベルを、異なる発現コンストラクトから発現される別の遺伝子産物との関連において調整することが可能である。一例として、多量体タンパク質のサブユニットA及びBを共発現するために、colE1レプリコンと、araプロモーターと、araプロモーターから発現されるサブユニットAのコード配列とを含む発現コンストラクト:「colE1-Para-A」を作成する。別のものとしては、p15Aレプリコン、araプロモーター及び、サブユニットBのコード配列を含む発現コンストラクト:「p15A-Para-B」を作成する。これらの2つの発現コンストラクトは、同じ宿主細胞中に一緒に維持することができ、サブユニットA及びBの両方の発現は1つの誘導物質、アラビノースを増殖培地に加えることによって誘導する。2つのサブユニットの発現量の化学量論比を所望の比率に近づけるために、サブユニットAの発現レベルをサブユニットBの発現レベルに対して大きく増加させる必要がある場合、例えば、pUC9プラスミドの複製起点(「pUC9ori」)にあるような修飾pMB1レプリコンを有する新しいサブユニットA用発現コンストラクト:pUC9ori-Para-Aを作成できると考えられる。pUC9ori-Para-A等の高複製数発現コンストラクトからサブユニットAを発現することは、p15A-Para-BからサブユニットBを発現することに比べて、産生されるサブユニットAの量を増加させる筈である。同様に、低複製数で発現コンストラクトを維持するpSC101等の複製起点の使用は、コンストラクトから発現される遺伝子産物の全体的レベルを低減し得ると考えられる。複製起点の選択はまた、レプリコンを含む発現コンストラクトをどの宿主細胞が維持できるかを決定する。例えば、colE1複製起点を含む発現コンストラクトは比較的狭い範囲の利用可能な宿主、即ち腸内細菌ファミリー内の種を有し、一方、RK2レプリコンを含む発現コンストラクトは大腸菌、緑膿菌、プチダ菌、アゾトバクター・ビネランジー及びアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)に維持することができ、発現コンストラクトがRK2レプリコン及び、RK2プラスミドからのいくつかの調節遺伝子を含む場合は、それをシノリゾビウム・メリロティ、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、カウロバクター・クレセンタス、アシネトバクター・カルコアセティカス及びロドバクター・スフェロイデス等、多種多様な宿主細胞に維持することができる(Kues and Stahl, "Replication of plasmids in gram-negative bacteria", Microbiol Rev 1989 Dec; 53(4): 491-516)。
【0040】
類似の考え方を用いて、真核生物細胞における誘導性共発現のために発現コンストラクトを作成することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシエの2ミクロン環状プラスミドは、他の酵母からのプラスミド、例えばpSR1(ATCC寄託番号48233及び66069;Araki et al., "Molecular and functional organization of yeast plasmid pSR1", J Mol Biol 1985 Mar 20; 182(2): 191-203) and pKD1 (ATCC Deposit No.
37519; Chen et al., "Sequence organization of the circular plasmid pKD1 from the yeast Kluyveromyces drosophilarum", Nucleic Acids Res 1986 Jun 11; 14(11): 4471-4481)と和合性がある。
【0041】
選択マーカー 発現コンストラクトは通常、選択マーカーとも称される選択遺伝子を含み、これは、選択培養培地において宿主細胞の残存又は増殖に必要なタンパク質をコードするものである。選択遺伝子を含む発現コンストラクトを含有しない宿主細胞質は培養培地において残存しないことになる。典型的な選択遺伝子は、抗生物質若しくは他の毒素に耐性を与えるタンパク質又は、宿主細胞の栄養要求性欠陥を補完するタンパク質をコードする。選択スキームの一例では、抗生物質等の薬剤を利用して宿主細胞の増殖を妨げる。
選択マーカーを含む発現コンストラクトを含有するそれらの細胞は、薬物耐性を与えるタンパク質を産生し、選択レジメン後も残存する。選択マーカーの選択に概ね用いられる抗生物質のいくつかの例(及び、抗生物質耐性表現型を提供する遺伝子表示略語)としては、アンピシリン(Amp)、クロラムフェニコール(Cml又はCm)、カナマイシン(Kan)、スペクチノマイシン(Spc)、ストレプトマイシン(Str)及びテトラサイクリン(Tet)が挙げられる。表2の代表的プラスミドの多くは、pBR322(Amp、Tet)、pMOB45(Cm、Tet)、pACYC177(Amp、Kan)及びpGBM1(Spc、Str)等の選択マーカーを含む。選択遺伝子の天然プロモーター領域は通常、その遺伝子産物のコード配列とともに、発現コンストラクトの選択マーカー部分の一部として含まれる。あるいは、選択遺伝子のコード配列は、構成的プロモーターから発現させることができる。
【0042】
誘導性プロモーター 本明細書に記載される通り、本発明の誘導性共発現系の一部として発現コンストラクトに含めることができるいくつかの異なる誘導性プロモーターがある。好ましい誘導性プロモーターは、表1に記載する通り、大腸菌K-12亜株MG1655ゲノム配列を参照して、プロモーターポリヌクレオチド配列の少なくとも30(より好ましくは少なくとも40及び最も好ましくは少なくとも50)の連続する塩基に対して少なくとも80%ポリヌクレオチド配列同一性(より好ましくは少なくとも90%同一性及び最も好ましくは少なくとも95%同一性)を共有し、ポリヌクレオチド配列同一性のパーセントは実施例13の方法を用いて測定する。「標準的」誘導条件(実施例5参照)の下では、好ましい誘導性プロモーターは、De Meyらの定量PCR法(実施例8)を用いて測定して、大腸菌K-12亜株MG1655の対応する「野生型」誘導性プロモーターの強度の少なくとも75%(より好ましくは少なくとも100%及び最も好ましくは少なくとも110%)を有する。発現コンストラクト内で誘導性プロモーターは、誘導発現される遺伝子産物のコード配列の5’(即ち、「上流」)に配置され、誘導性プロモーターの存在は、遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドのコード鎖に対して、遺伝子産物コード配列の転写を5’から3’の方向へ向かわせる。
【0043】
リボソーム結合部位 ポリペプチド遺伝子産物については、誘導発現されるべき遺伝子産物のコード配列の転写開始点と開始コドンとの間の領域のヌクレオチド配列は、ポリペプチド遺伝子産物のmRNAの5’非翻訳領域(「UTR」)に相当する。好ましくは、発現コンストラクトで5’UTRに相当する領域は、宿主細胞の種にあるコンセンサスリボソーム結合部位(RBS、シャイン・ダルガノ配列とも称する)に類似のポリヌクレオチド配列を含む。原核生物(古細菌及び細菌)においてはRBSコンセンサス配列はGGAGG又はGGAGGUであり、大腸菌等の細菌においてはRBSコンセンサス配列はAGGAGG又はAGGAGGUである。RBSは典型的に、5~10の介在ヌクレオチドによって開始コドンから隔てられる。発現コンストラクトにおいて、RBS配列は、AGGAGGUコンセンサス配列に対して好ましくは少なくとも55%同一、より好ましくは少なくとも70%同一、最も好ましくは少なくとも85%同一であり、5~10介在ヌクレオチドによって、より好ましくは6~9介在ヌクレオチドによって、最も好ましくは6又は7介在ヌクレオチドによって開始コドンから分けられる。所与のRBSが望ましい翻訳開始速度を生じさせることのできる能力は、ウェブサイトのsalis.psu.edu/software/RBSLibraryCalculatorSearchModeで、RBSCalculatorを用いて計算することができ、同じツールを用いて、100,000倍以上の範囲の翻訳速度で合成RBSを最適化することができる(Salis,
"The ribosome binding site calculator", Methods Enzymol 2011; 498: 19-42)。
【0044】
マルチクローニングサイト マルチクローニングサイト(MCS)は、ポリリンカーとも称され、お互いに隣接するか又はオーバーラップする多数の制限酵素認識部位を含有するポリヌクレオチドである。MCSにおける制限酵素認識部位は典型的に、MCS配列内
で一度生じ、好ましくはプラスミドの残りの内で又は他のポリヌクレオチドコンストラクト内では生じず、制限酵素がMCS内でのみプラスミド又は他のポリヌクレオチドコンストラクトを切断することを可能とする。MCS配列の例としては、pBADシリーズの発現ベクターにあるもので、pBAD18、pBAD18-Cm、pBAD18-Kan、pBAD24、pBAD28、pBAD30及びpBAD33等(Guzman et al., "Tight regulation, modulation, and high-levelexpression by vectorscontaining the arabinose PBADpromoter", J Bacteriol 1995 Jul; 177(14): 4121-4130); or those in the pPRO series of expression vectors derived from the pBAD vectors, such as pPRO18,
pPRO18-Cm, pPRO18-Kan, pPRO24, pPRO30, and pPRO33 (US Patent No. 8178338 B2; May 15 2012; Keasling, Jay)が挙げられる。マルチクローニングサイトは発現コンストラクトの作成において用いることができ、即ち、プロモーター配列の3’(即ち、下流)にマルチクローニングサイトを配置することにより、遺伝子産物のコード配列の転写が生じるようにプロモーターとの関連において適切な位置でMCSを用いてコード配列を挿入し、その遺伝子産物をコンストラクト中に共発現させることができる。MCS内でどの制限酵素を用いて切断を行うかにより、コード配列又は他のポリヌクレオチド配列が発現コンストラクト中に挿入された後、MCS配列の一部が発現コンストラクト内に残る可能性がある。残るMCS配列があれば、挿入する配列の上流、又は下流、又は両方にあり得る。リボソーム結合部位は、MCSの上流、好ましくはMCSに直接隣接するか、又はMCSからヌクレオチド数個だけ離れて配置されていてもよく、この場合にRBSはMCSに挿入される何らのコード配列の上流にあることになる。別の代替方法は、リボソーム結合部位をMCS内に含むことで、この場合には、MCS内で切断を行うために用いる制限酵素の選択は、RBSが保持されるかどうか、挿入される配列にどのように関係するかを決定する。さらなる代替方法は、発現コンストラクトの中にMCSにおいて挿入するべきポリヌクレオチド配列内にRBSを含むことで、好ましくは、転写されるメッセンジャーRNAから翻訳の開始を刺激するように、任意のコード配列に適切な関係で、含むことである。
【0045】
構成的プロモーターからの発現 本発明の発現コンストラクトはまた、構成的プロモーターから発現されるコード配列を含んでもよい。誘導性プロモーターとは異なり、構成的プロモーターは大抵の増殖条件下で連続的遺伝子産物産生を開始する。構成的プロモーターの一例としては、Tn3bla遺伝子の例が挙げられ、これはβラクタマーゼをコードし、pBR322(ATCC31344)、pACYC177(ATCC37031)及びpBAD24(ATCC87399)を含む多くのプラスミドが宿主細胞に与えるアンピシリン耐性(Amp)表現型の原因である。発現コンストラクトに用いることができる別の構成的プロモーターとしては、大腸菌lipoタンパク質遺伝子、lpp、のプロモーターが挙げられ、これは大腸菌K-12亜株MG1655において位置1755731~1755406(正鎖)に位置する(Inouye and Inouye, "Up-promoter mutations in the lpp gene of Escherichia coli", Nucleic Acids Res 1985 May 10; 13(9): 3101-3110)。大腸菌における異種遺伝子発現に用いた構成的プロモーターのさらなる例とし
てはtrpLEDCBAプロモーターが挙げられ、これは大腸菌K-12亜株MG1655において位置1321169~1321133(負鎖)に位置する(Windass et al., "The construction of a synthetic Escherichia coli trp promoter and its use in the expression of a synthetic interferon gene", Nucleic Acids Res 1982 Nov 11; 10(21): 6639-6657)。本明細書に記載される通り、構成的プロモーターは、選択マーカーの発現のため、また、所望の産物の共発現に有用な他の遺伝子産物の構成的発現のために、発現コンストラクトにおいて用いることができる。例えば、AraC、PrpR、RhaR及びXylR等の誘導性プロモーターの転写制御因子は、双方向誘導性プロモーターから発現しなければ、代わりに構成的プロモーターから、それが調節する誘導性プロモーターと同じ発現コンストラクト又は異なる発現コンストラクト上で、発現することができる。同様に、PrpEC、AraE若しくはRha等の誘導物質の産生若しくは輸送に有用
な遺伝子産物、又は細胞の還元酸化環境を改変するタンパク質を数例として、発現コンストラクト内で構成的プロモーターから発現することができる。共発現される遺伝子産物の産生に有用な遺伝子産物及び得られる所望の産物としてはまた、シャペロンタンパク質、補助因子トランスポーター等が挙げられる。
【0046】
シグナルペプチド 本発明の方法によって共発現するポリペプチド遺伝子産物は、そのような遺伝子産物が宿主細胞の細胞質から周辺質に運び出されるのが望ましいのか、細胞質に保持されるのが望ましいのか、それぞれに従ってシグナルペプチドを含んでいても欠いていてもよい。シグナルペプチド(シグナル配列、リーダー配列又はリーダーペプチドとも称す)は、単一αヘリックスを形成する傾向を有する一続きの疎水性アミノ酸で、アミノ酸が約5~20個の長さであり、しばしばアミノ酸が約10~15個の長さであることを構造的な特徴とする。この疎水性の一続きはしばしばその直前が、正電荷をもつアミノ酸(特にリジン)中に濃縮されるさらに短い一続きである。成熟ポリペプチドから切断されるシグナルペプチドは典型的に、シグナルペプチダーゼによって認識され切断される一続きのアミノ酸となって終わる。シグナルペプチドは、原核生物の原形質膜(又は大腸菌のようなグラム陰性菌の内膜)を通してか又は真核生物細胞の小胞体の中へか、共翻訳的又は翻訳後にポリペプチドの輸送を方向づける能力を機能的な特徴とし得る。シグナルペプチドが大腸菌のような宿主細胞の細胞膜周辺腔中へ輸送されるのを可能とできる程度は、例えば、実施例12に記載するような方法を用いて、周辺質タンパク質を細胞質に保持されるタンパク質から分離することによって測定することができる。
【0047】
宿主細胞 本発明の誘導性共発現系は複数遺伝子産物を発現するように設計し、本発明の所定の実施形態では、遺伝子産物は宿主細胞において共発現される。多量体産物の構成要素の効率的で費用効果的な誘導性共発現を可能とする宿主細胞の例を提供する。宿主細胞としては、培養中単離した細胞に加えて、多細胞生物の一部である細胞又は、異なる生物内若しくは生物系内で増殖する細胞が挙げられる。加えて、本発明の誘導性共発現系の発現コンストラクトは、コムギ胚芽抽出物又は細菌細胞抽出物に基づく系、大腸菌抽出物及びRTS ProteoMaster(Roche Diagnostics GmbH;Mannheim,Germany)等のインキュベーション装置を用いた連続交換無細胞(CECF)タンパク質合成系等、無細胞系において用いることができる(Jun et
al., "Continuous-exchange cell-free protein synthesis using PCR-generated DNA and an RNase E-deficient extract", Biotechniques 2008 Mar; 44(3): 387-391)。
【0048】
原核生物宿主細胞 本発明のいくつかの実施形態では、遺伝子産物の共発現のために設計する発現コンストラクトは、宿主細胞、好ましくは原核生物宿主細胞において提供する。原核生物宿主細胞としては、古細菌(ハロフェラックス・ボルカニ、スルホロブス・ソルファタリカス等)、グラム陽性菌(枯草菌、リケニホルミス菌、ブレビバチルス・チョウシネンシス、ラクトバチルス・ブレビス、ブーフナー菌、ラクトコッカス・ラクティス及びストレプトマイセス・リビダンス等)、又はグラム陰性菌、例えばアルファプロテオバクテリア(アグロバクテリウム・ツメファシエンス、カウロバクター・クレセンタス、ロドバクター・スフェロイデス及びシノリゾビウム・メリロティ)、ベータプロテオバクテリア(アルカリゲネス・ユートロフス)及びガンマプロテオバクテリア(アシネトバクター・カルコアセティカス、アゾトバクター・ビネランジー、大腸菌、緑膿菌及びプチダ菌)、が挙げられる。好ましい宿主細胞としては、エンテロバクター、エルウィニア、大腸菌(大腸菌を含む)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ(ネズミチフス菌を含む)、セラチア菌(霊菌を含む)及び赤痢菌等のファミリー腸内細菌科のガンマプロテオバクテリアが挙げられる。
【0049】
真核生物宿主細胞 酵母菌(カンジダ・シェハタエ、クルイベロミセス・ラクチス、クリベロマイセス・フラジリス、他のクリベロマイセス種、ピキア・パストリス、サッカロ
マイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・パストリアヌス別名ビール酵母、分裂酵母、デッケラ/ブレタノマイセス種、及びヤロウイア・リポリティカ);他の真菌(アスペルギルス・ニズランス、アスペルギルス・ニガー、ニューロスポラ・クラッサ、アオカビ類、トリポクラディウム、トリコデルマ・リーシア);昆虫セルライン(キイロショウジョウバエ・シュナイダー2細胞及びヨトウガSf9細胞);不死化セルラインを含む哺乳動物セルライン(チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト胎児由来腎臓(HEK、293、又はHEK-293)細胞、及びヒト肝細胞がん細胞(HepG2))等、真核生物細胞を含むさらに多くのタイプの宿主細胞を本発明の誘導性共発現系に用いることができる。上記宿主細胞はAmerican Type Culture Collectionから入手可能である。
【0050】
宿主細胞遺伝子機能への変異 誘導物質によって宿主細胞集団の効率的で均質的な誘導を促進するよう、誘導性発現コンストラクトを含む宿主細胞の遺伝子機能に所定の変異を行ってもよい。好ましくは、発現コンストラクト、宿主細胞遺伝子型及び誘導条件の組み合わせによっては、誘導された各プロモーターから遺伝子産物を発現する培養において、実施例8に記載のKhlebnikovらの方法によって測定して少なくとも75%(より好ましくは少なくとも85%及び最も好ましくは少なくとも95%)の細胞を生じることになる。大腸菌以外の宿主細胞については、これらの変異は、大腸菌遺伝子に構造的に似た遺伝子、又は、宿主細胞内で大腸菌遺伝子に似た機能を果たす遺伝子の、機能の関与を必要とする。宿主細胞遺伝子機能への変異としては、遺伝子タンパク質コード配列を全て欠失させることによって遺伝子機能を削除又は低減すること、又は、遺伝子の十分大きな部分を欠失させること、あるいはそれ以外では、減少させたレベルの機能遺伝子産物が遺伝子から作られるようにその遺伝子の配列を変異させること、が挙げられる。宿主細胞遺伝子機能への変異としてはまた、遺伝子のより高レベルの転写を指示するさらに強いプロモーターを作成するように天然プロモーターを変異させること等によって遺伝子機能を増加させること、又は、より活性の高い遺伝子産物を生じるタンパク質コード配列にミスセンス突然変異を導入すること、が挙げられる。宿主細胞遺伝子機能への変異としては、遺伝子機能のどのような変異の仕方も挙げられ、例えば、構成的に活性化したプロモーターを作成するように天然誘導性プロモーターを変異させることも挙げられる。誘導性プロモーターに関連して本明細書に記載される、誘導物質の輸送及び代謝のための遺伝子機能の変異、及び、シャペロンタンパク質の発現の変異に加えて、宿主細胞の炭素異化代謝産物抑制(CCR)制御系及び/又は還元酸化環境を変異させることも可能である。
【0051】
炭素異化代謝産物抑制(CCR) 宿主内における活発なCCR制御系の存在は、誘導物質が誘導性プロモーターから転写を活性化できる能力に影響を与える可能性がある。例えば、大腸菌等の宿主細胞がグルコースを含有する培地で増殖される場合、アラビノース誘導物質又はプロピオネート誘導物質も増殖培地に存在していたとして、他の炭素源の利用に必要なaraBADオペロン及びprpBCDEオペロン等の遺伝子は仮に発現されるとしても低レベルで発現される。グルコース以外の炭素源の利用順位もあり、例えば、ara及びprp誘導性プロモーター系の場合、アラビノースの存在が、prpBCDEプロモーターから発現を誘導するプロピオネートの能力を低減する(Park et al., "The mechanism of sugar-mediated catabolite repression of the propionate catabolic genes in Escherichia coli", Gene 2012 Aug 1; 504(1): 116-121; Epub 2012 May 3)。
したがって、細胞のCCRメカニズムにより、誘導性共発現系において2つ以上の炭素源誘導物質を用いることがより困難となり、これは、好適な炭素源である誘導物質の存在がそれほど好適でない炭素源による誘導を阻害するからである。Parkらの著者は、cAMPからは独立して機能することが可能な変異cAMP受容体タンパク質を産生する突然変異体crp遺伝子か又は、CCRの調節に関与するPTS(ホスホトランスフェラーゼ系)遺伝子の欠失か、いずれかを用い、アラビノースによるprpプロモーターの抑制を
軽減しようと試みたが、どちらの方法もほとんど不成功であった。しかしながら、Parkらの著者が用いたPTSノックアウトは菌株TP2811に基づき、これは、大腸菌ptsHI-crrオペロンの欠失したものである(Hernandez-Montalvo et al., "Character-ization of sugar mixtures utilization by an Escherichia coli mutant devoid of the phosphotransferase system", Appl Microbiol Biotechnol 2001 Oct; 57(1-2): 186-191)。ptsHI-crrオペロン全体の欠失は、crr遺伝子だけの欠失よりも、cAMP合成総体に大きく影響を及ぼすことがわかっている(Levy et al., "Cyclic AMP
synthesis in Escherichia coli strains bearing known deletions in the pts phosphotransferase operon", Gene 1990 Jan 31; 86(1): 27-33)。異なった方法では、宿主細胞におけるptsG遺伝子の機能を削除又は低減し、この遺伝子は、大腸菌におけるCCRの重要要素であるグルコース特異的EII A(EII Aglc)をコードするものである(Kim et al., "Simultaneous consumption of pentose and hexose sugars: an optimal microbial phenotype for efficient fermentation of lignocellulosic biomass", Appl Microbiol Biotechnol 2010 Nov; 88(5): 1077-1085, Epub 2010 Sep 14)。大
腸菌等の宿主細胞のゲノムにおける別の変異で、prpプロモーターの転写を増加させることになる変異は、AscGをコードするascG遺伝子の遺伝子機能を削除又は低減することである。AscGは通常の増殖条件下でβ-D-グルコシド-利用オペロンascFBの抑制因子であり、また、prpプロモーターの転写を抑制し、AscGコード配列の分裂はprpプロモーターからの転写を増加させることが示されている(Ishida et al., "Participation of regulator AscG of the beta-glucoside utilization operon in regulation of the propionate catabolism operon", J Bacteriol 2009 Oct; 191(19): 6136-6144; Epub 2009 Jul 24)。さらなる代替方法は、それほど好適ではない炭素源誘
導物質によって誘導性であるプロモーターの転写制御因子の発現を、それを強い構成的プロモーターの制御下か、より好適な炭素源誘導物質の制御下か、どちらかに置くことによって増加させることである。例えば、より好適であるアラビノースの存在下でそれほど好適でない炭素源キシロースの利用に必要な遺伝子の誘導を増加させるためには、XylRのコード配列を大腸菌araBADオペロンの中へ入れる(Groff et al., "Supplementation of intracellular XylR leads to coutilization of hemicellulose sugars", Appl
Environ Microbiol 2012 Apr; 78(7): 2221-2229, Epub 2012 Jan 27)。したがって、
誘導性共発現コンストラクトを含む宿主細胞は、好ましくは、それほど好適でない炭素源誘導物質(複数を含む)によって誘導性であるプロモーターの転写制御因子の遺伝子機能レベルが高められていること、及び、CCR系中で関与するcrr及び/又はptsG及び/又はascG等の遺伝子の遺伝子機能が削除又は低減されていること、を内包する。
【0052】
ヘム及び他の補助因子の細胞性輸送 本発明の誘導性共発現系を用いて、機能のための補助因子を必要とする酵素を産生するとき、利用可能な前駆体から補助因子を合成することができるか又は、環境からそれを取り出すことができる宿主細胞を用いることが役立つ。一般的な補助因子としては、ATP、コエンザイムA、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、NAD/NADH及びヘムが挙げられる。ヘム基は、ポルフィリンと呼ばれる大きな複素環式有機化合物の中心に鉄イオンを含む。最も一般的なタイプのヘム基はヘムBであり、他の主要なタイプはヘムA、ヘムC及びヘムOで、これらはポルフィリンの側鎖が異なる。ヘミンはヘムBの塩化物塩であり、ヘムの源として細菌増殖培地に加えることができる。他に可能性のあるヘムの源としては、チトクロム、ヘモグロビン及び、血等のヘモグロビン含有物質が挙げられる。大腸菌K12から誘導される大腸菌の実験室株は典型的に外膜ヘム受容体を欠き、したがってヘムを細胞中へ輸送せず、ヘムが唯一の鉄源である培地中で増殖できない。O157:H7及びCFT073等、大腸菌の病原性菌株は、大腸菌K12には存在しないゲノム分節を約9-kb含有し、これは、ヘム取り込み及び利用に係わるタンパク質をコードする2つの多岐に転写されるオペロン、即ちchuASオペロン、及びthechuTWXYUhmuVオペロンを含有する。このゲノム分節は、大腸菌CFT073の中に見られ、NCBI参照配列NC_004431.
1(20-JAN-2012)の位置4,084,974~4,093,975を含む。外膜ヘミン特異的受容体をコードするchuA遺伝子(実施例用、NCBI遺伝子ID No.1037196)を使った形質転換が、鉄源としてのヘミン上で増殖する能力をK12由来大腸菌株に与えるのに十分である(Torres and Payne, "Haem iron-transport system in entero-haemorrhagic Escherichia coli O157:H7", Mol Microbiol 1997 Feb; 23(4): 825-833)。ChuAに加えて、いくつかの他の異種ヘム受容体は、大腸菌K12-由来菌株が以下のヘムを取り込むことを可能とする:エンテロコリチカ菌HemR、霊菌HasR、及び志賀赤痢菌ShuA、並びにグラム陰性菌由来のものとして百日咳菌及びB.ブロンキセプチカBhuR、緑膿菌PhuR、及びP.フロレッセンスPfhR。ChuSタンパク質はまたヘムの利用に関与し、それはヘム分解オキシゲナーゼである。大腸菌aroB菌株は、鉄キレート分子エンテロバクチンの合成においては不十分であるが、その菌株において、chuSを使った形質転換は、エンテロバクチンの不存在下ヘミン上での増殖が引き起こす細胞毒性を低減するのに有用であった。chuAS及びchuTWXYUhmuVオペロン、並びに鉄代謝に関与し大腸菌K12菌株に存在するいつくかの他のオペロンの転写は、大腸菌Fur転写制御因子により、FurがFe2+と会合するときに抑制され、従ってこれらの遺伝子の転写は、鉄イオンの細胞内濃度に低下があると活性化される。
【0053】
大腸菌K12由来菌株等の宿主細胞は、それらの形質転換を、少なくともchuAを含有するchuAS-chuTWXYUhmuV領域の全て又は一部で行うか、又は、chuTWXYUhmuVオペロンからの追加の遺伝子を含んでいてもよいchuASオペロンで行って、それらがヘムを取り込むことを可能にするように変異させることができる。chuA転写を指示するプロモーターがFurによって抑制可能である実施形態においては、Fur抑制イオンの削除又は低減を、Furをコードする宿主細胞遺伝子を欠失させることによるか、遊離鉄の不存在下で宿主細胞を増殖させることによるか、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等の遊離鉄イオンのキレート剤の存在下で宿主細胞を増殖させることによるか、又は、Fur結合部位の複数複製を含むポリヌクレオチドコンストラクト(高い複製数で維持されるプラスミド等)で細胞を形質転換させることによるかして行い、鉄代謝オペロンの抑制のために得られるFur-Fe2+複合体の量を低減することができる。好適な実施形態では、発現コンストラクトを宿主細胞に導入し、発現コンストラクトは、構成的プロモーターの転写制御下、ChuAをコードするポリヌクレオチドを含み、ポリヌクレオチドはChuSをもコードしてよい。
【0054】
宿主細胞還元酸化環境 抗体等の多くの多量体遺伝子産物はジスルフィド結合を含有する。大腸菌の細胞質及び他の多くの細胞は通常、チオレドキシン及びグルタレドキシン/グルタチオン酵素系により、還元状態で維持される。これは、細胞質においてジスルフィド結合の形成を妨げ、ジスルフィド結合を必要とするタンパク質は周辺質へ運び出されて、周辺質でジスルフィド結合の形成と異性化が、DsbABCD及びDsbGを含むDsb系によって触媒される。システインオキシダーゼDsbA、ジスルフィドイソメラーゼDsbC又は、Dsbタンパク質の組み合わせは、通常全て周辺質へ輸送され、それらの発現の増加は、ジスルフィド結合を必要とする異種タンパク質の発現において利用されている(Makino et al., "Strain engineering for improved expression of recombinant proteins in bacteria", Microb Cell Fact 2011 May 14; 10: 32)。これらのDsbタ
ンパク質の細胞質型、例えばDsbC(「cDsbC」)の細胞質版を発現することも可能で、これはシグナルペプチドを欠き、したがって周辺質へ輸送されない。cDsbC等の細胞質Dsbタンパク質は、宿主細胞の細胞質をより酸化性にし、従って、細胞質に産生される異種タンパク質におけるジスルフィド結合の形成をより促すものとするために有益である。宿主細胞の細胞質はまた、チオレドキシン及びグルタレドキシン/グルタチオン酵素系を直接変異させることによってさらに酸化性にすることができ、グルタチオン還元酵素(gor)又はグルタチオンシンテターゼ(gshB)に欠ける突然変異体菌株は
、チオレドキシン還元酵素(trxB)とともに、細胞質を酸化性にする。これらの菌株は、リボヌクレオチドを還元することはできず、したがってジチオスレイトール(DTT)等の外因的還元体の不存在下において増殖することができない。ペルオキシレドキシンAhpCをコードする遺伝子ahpCにおける抑制因子突然変異体(ahpC*)はそれを、還元されたグルタチオンを生成するジスルフィド還元酵素に変換し、電子が酵素リボヌクレオチド還元酵素上に運ばれるようにし、gor及びtrxBに欠けるか又はgshB及びtrxBに欠ける細胞質がDTTの不存在下で増殖することを可能とする。別の分類の突然変異型のAhpCは、γグルタミルシステインシンテターゼ(gshA)の活性とtrxBとに欠ける菌株がDTTの不存在下で増殖することを可能にでき、これらとしては、AhpC V164G、AhpC S71F、AhpC E173/S71F、AhpC E171Ter、及びAhpC dup162~169が挙げられる(Faulkner
et al., "Functional plasticity of a peroxidase allows evolution of diverse disulfide-reducing pathways", Proc Natl Acad Sci U S A 2008 May 6; 105(18): 6735-6740, Epub 2008 May 2)。酸化性の細胞質をもったかかる菌株において、露出したタンパク質システインは、それらの生理的機能の逆行という形で、チオレドキシンによって触媒されるプロセスで容易に酸化され、ジスルフィド結合の形成を生じる。
【0055】
宿主細胞に行うことのできる別の変異は、宿主細胞の細胞質において酵母ミトコンドリアの内膜腔(inner membrane space)からスルフヒドリルオキシダーゼErv1pを発現することで、これは、gor又はtrxBに突然変異体が不存在でも、大腸菌の細胞質で種々の真核生物起源の複合体・ジスルフィド結合タンパク質の産生を増加させることが示されている(Nguyen et al., "Pre-expression of a sulfhydryl oxidase significantly increases the yields of eukaryotic disulfide bond containing proteins expressed in the cytoplasm of E. coli" Microb Cell Fact 2011 Jan 7; 10: 1)。誘導性共発現コンストラクトを含む宿主細胞は、好ましくはまた、cDsbC及び/又はErv1pを発現し、trxB遺伝子機能に欠け、gor、gshB又はgshAのいずれかの遺伝子機能に欠け、並びに、宿主細胞がDTTの不存在下で増殖できるようにAhpCの適切な突然変異型を発現する。
【0056】
ポリペプチド遺伝子産物のグリコシル化 宿主細胞は、ポリペプチドをグリコシル化するその能力を変異させてもよい。例えば、真核生物宿主細胞では、グリコシルトランスフェラーゼ及び/又はオリゴサッカリルトランスフェラーゼ遺伝子の遺伝子機能を削除又は低減し、ポリペプチドの通常の真核生物グリコシル化が糖タンパク質を形成するのを低減することが可能である。大腸菌等の原核生物宿主細胞は、ポリペプチドをグリコシル化するのが通常とは限らず、グリコシル化機能を提供する一連の真核生物遺伝子及び原核生物遺伝子を発現するよう変異させることもあり得る(DeLisa et al., "Glycosylated protein expression in prokaryotes", WO2009089154A2, 2009 Jul 16)。
【0057】
遺伝子機能を変異させた利用可能な宿主細胞菌株 本発明の誘導性共発現系及び方法において用いる宿主細胞の好適菌株を作成するために、所望の遺伝子変異を既に含む菌株から始めることは有益である(表3)。
【0058】
【表3】
【0059】
宿主細胞遺伝子機能を変異させる方法 当技術分野には遺伝子機能を削除、低減又は変更するために宿主細胞遺伝子を変異させる多くの方法がある。大腸菌及び他の原核生物等の宿主細胞の遺伝子を標的破壊する方法については記載がなされており(Muyrers et al., "Rapid modification of bacterial artificial chromosomes by ET-recombination", Nucleic Acids Res 1999 Mar 15; 27(6): 1555-1557; Datsenko and Wanner, "One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products", Proc Natl Acad Sci U S A 2000 Jun 6; 97(12): 6640-6645)、類似のRed/ET組換え方法を使うためのキットが市販されている(例えば、Gene Bridges GmbH,Heidelberg,Germanyから市販されるthe Quick & Easy E.coli Gene Deletion Kit)。本発明の一実施形態では、宿主細胞の1つ又は複数の遺伝子の機能の削除又は低減は、配列の遺伝子位置への参照によって本明細書に援用される大腸菌K-12亜株MG1655コード配列の1つ等、分解する遺伝子のコード配列内にヌクレオチド配列を特定すること、より具体的にはそのコード配列内にそれぞれ50個のヌクレオチドをもつ2つの隣接する続きを選択することによって、行なう。次いで、The Quick&Easy E.coli Gene
Deletion Kitを製造者の指示に従って用い、選択マーカーを含有するポリヌクレオチドコンストラクトを、選択した隣接するコード配列の続きの間に挿入し、遺伝子の通常の機能を削除又は低減する。また、Red/ET組換え方法を用いて、プロモーターの配列を異なるプロモーター、例えば、所定の転写レベルを促進すると予想される構成的プロモーター又は人工的プロモーターのそれに置き換えることもできる(De Mey et al., "Promoter knock-in: a novel rational method for the fine tuning of genes", BMC Biotechnol 2010 Mar 24; 10: 26)。また、宿主細胞遺伝子の機能は、RNAサイレンシング方法によって削除又は低減することができる(Man et al., "Artificial trans-encoded small non-coding RNAs specifically silence the selected gene expression in bacteria", Nucleic Acids Res 2011 Apr; 39(8): e50, Epub 2011 Feb 3)。さらに
、宿主細胞遺伝子機能を変異させる既知の突然変異を、伝統的な遺伝学的手法によって宿
主細胞に導入することもできる。
【0060】
本発明の誘導性共発現系 本発明の誘導性共発現系は、2つ以上の発現コンストラクトを含む宿主細胞が関与し、発現コンストラクトは遺伝子産物の発現を指示する誘導性プロモーターを含み、宿主細胞は、遺伝子産物の均質的誘導性発現を可能とする変異した遺伝子機能を有する。図1は、本発明の誘導性共発現系の略図を示し、次の構成要素をもつ:(1)宿主細胞、(2)宿主ゲノム(遺伝子変異を含む)、(3)遺伝子産物の発現を指示する誘導性プロモーターを含む発現ベクター「X」、(4)別の遺伝子産物の発現を指示する誘導性プロモーターを含む異なる発現ベクター「Y」、(5)発現の化学的誘導物質、及び(6)多量体共発現産物。
【0061】
図2は、均質的誘導性発現を可能とする適切なゲノム変異の入った大腸菌宿主細胞において、pPRO33発現ベクター上プロピオネート誘導性プロモーター(prpBCDEプロモーター)と組み合わせてpBAD24発現ベクター上araBADプロモーターを利用する(米国特許第8178338B2号;May 15 2012; Keasling, Jay)、本発明の誘導性共発現系の一特定例の略図を示す。この方法では、多量体産物の各構成要素の発現を厳密に制御し最適化することを、いくつかの共発現用途で用いて達成することができる。この実施形態では、宿主細胞(1)は、タンパク質発現用に当技術分野で一般的に用いられるグラム陰性菌大腸菌である。宿主ゲノム(2)は、シグナルペプチドを欠くジスルフィドイソメラーゼDsbCの細胞質型の発現等、均質的誘導性タンパク質共発現を容易にする突然変異又は他の変異をもった、宿主細胞生物のゲノムである。一実施形態では、ゲノム変異は、araBADオペロンノックアウト突然変異と、構成的プロモーターからのaraE及びaraFGHの発現か又はaraEFGH-欠損バックグラウンドにおけるlacY遺伝子(A117C)中の点突然変異かいずれかとの両方を含んで、外因的適用のL-アラビノースでプラスミド系araプロモーターの均質的誘導を容易にし、また、不活性化プロピオネート代謝遺伝子、prpDを含んで、外因的適用のプロピオネートでプラスミド系プロピオネートプロモーターの均質的誘導を容易にし、プロピオネートは生体内で2-メチルシトレートに変換される。誘導性共発現系に有用で宿主細胞に導入できる他のゲノム変異としては以下が挙げられ、但しこれらに制限されるものではない:
scpA-argK-scpBCオペロンの標的不活性化で、これはprpBCDEプロモーターからバックグラウンド発現を低減する;
araBADプロモーター等のL-アラビノース誘導性プロモーターからそれほど好適でない炭素源(プロピオネート)の転写制御因子(prpR)を発現すること、及び/又は、crr及び/又はptsG等、CCR系に関与する遺伝子の遺伝子機能を削除又は低減することで、これはL-アラビノースの存在下プロピオネートによる誘導をCCR系が抑制することを避ける;
チオレドキシンレダクターゼ(trxB)とともにグルタチオンレダクターゼ(gor)又はグルタチオンシンテターゼ(gshB)の遺伝子機能のレベルを低減すること、及び/又は、宿主細胞細胞質において酵母菌ミトコンドリアスルフヒドリルオキシダーゼErv1pを発現することで、これは比較的強くない還元環境を宿主細胞細胞質に提供し、ジスルフィド結合形成を促進する;
例えば、強い構成的プロモーターからの、シャペロンタンパク質、例えば、DnaK/DnaJ/GrpE、DsbC/DsbG、GroEL/GroES、IbpA/IbpB、Skp、Tig(トリガー因子)、及び/又はFkpAの発現のレベルを増強すること;及び、
内在性プロテアーゼ活性(Lon及びOmpTプロテアーゼ等の活性)及びリコンビナーゼ活性を低減する他の突然変異。
【0062】
図2に示す通り、2つの相互に適合する発現ベクター(3、4)は、宿主細胞中に維持し、2つの異なる遺伝子産物の同時発現(共発現)を可能とする。この実施形態では、1
つの発現ベクター(「L-アラビノース誘導された発現ベクター」)は、L-アラビノース誘導されたプロモーターを含有し、pBAD又は関連プラスミドと類似又は同等で、これにおいて、マルチクローニングサイト(MCS)にクローン化される挿入発現配列の発現をaraBADプロモーターが推し進める。L-アラビノース誘導発現ベクターはまた、抗生物質耐性遺伝子(例えば、βラクタマーゼをコードし、アンピシリンに耐性を与えるTn3bla遺伝子)のコード配列を含有し、インタクトな発現ベクターを含有する宿主細胞(細菌コロニー)の選択を容易にする。複製起点(ORI)は細菌宿主細胞内でプラスミドを増殖するのに必要とされる。L-アラビノース誘導発現プラスミドはまたaraBADプロモーターのL-アラビノース誘導を可能とし、非誘導状態で「漏出性」バックグラウンド発現を転写抑制を通して低減する転写制御因子であるaraCをコードする、ポリヌクレオチド配列を含有する。他の発現ベクター(「プロピオネート誘導発現ベクター」)は、pPRO又は関連プラスミドと類似又は同等で、これにおいてプロピオネート誘導プロモーターが、マルチクローニングサイト(MCS)にクローン化される挿入発現配列の発現を推し進める。そのプラスミドはまた、抗生物質耐性遺伝子(例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードし、クロラムフェニコールに耐性を与えるTn3bla遺伝子)のコード配列を含有し、インタクトな発現ベクターを含有する宿主細胞の選択を容易にする。複製起点(ORI)が、細菌宿主細胞内でプラスミドの増殖に必要とされる。加えて、プロピオネート誘導発現ベクターは、prpBCDEプロモーターのプロピオネート(2-メチルシトレート)誘導を可能とし、非誘導状態で「漏出性」バックグラウンド発現を低減する転写制御因子であるprpRをコードする、ポリヌクレオチド配列を含有する。誘導の分離ティトラテイション(titratation)、プラスミド和合性及び、発現ベクターの共増殖を容易にするために、発現ベクターが異なる誘導物質、和合複製起点及び異なる抗生物質耐性マーカーに応答性のあるプロモーターを含むことは有益である。本発明の一実施形態では、L-アラビノース誘導性araBADプロモーターを含有するpBAD24又は関連発現ベクター(pMB1又は「pBR322」ORI、Amp)は、宿主細胞において、プロピオネート誘導性prpBCDEプロモーターを含有するpPRO33又は関連発現ベクター(p15AORI、Cm)と化合する。発現ベクターは、アンピシリン及びクロラムフェニコールを補充した増殖培地を用いて共増殖し維持する。一実施形態では、1つの発現ベクターは、完全長抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチド配列を含み、他の発現ベクターは、完全長抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチド配列を含み、各コード配列はそれぞれの発現ベクターのMCSの中へインフレームにクローン化される。抗体等の所定の遺伝子産物の産生のためには、宿主生物の最適化(他の検討事項と併せて、コドンバイアス及びGC含量のための調製を含む)が、共発現系の発現コンストラクトの中に挿入されるコード配列を決定することになる。
【0063】
再度図2を参照すると、遺伝子産物の共発現は、廉価な外因的適用性化学的代謝産物であるL-アラビノース及びプロピオネート(5)によって誘導する。各遺伝子産物発現の誘導のレベルは、それ自身の化学的誘導物質で独立して滴定し、それによってタンパク質共発現の最適化を容易にする。これは、安定化のための結合パートナーを必要とするタンパク質複合体及びタンパク質の発現に有益であり、そうしなければ発現の困難なタンパク質、例えば、乏しい溶解性又は細胞毒性をもったタンパク質等の発現を容易にし得る。この例では、誘導後に抗体重鎖及短鎖はそれぞれ別々に発現し、次いで、タンパク質が連結し、重鎖及び軽鎖を含む完全長抗体の形成と安定化を可能とする鎖間ジスルフィド架橋(細菌宿主の細胞質内に)を形成する。タンパク質は、宿主生物の種々の区画へと向かわせることができる。例えば、大腸菌においては、タンパク質は細胞質、細胞膜、周辺質で発現し、媒介物へと分泌できる。適切なインキュベーション時間の後、細胞と媒介物を回収し、タンパク質全部を抽出すると、これは共発現遺伝子産物(6)を含む。抽出の後、所望の産物は、共発現系で産生される遺伝子産物の性質に従って、当技術分野で周知のいくつかの方法を用いて精製することができる(例えば、液体クロマトグラフィー)。図2
示される実施例では、多量体産物(完全長抗体)を抽出し、クロマトグラフィー方法を用いて精製する。精製されるインタクトな抗体を、タンパク質結合色素又は免疫組織化学等、標準的な技術を用いて非変性ゲル上で視覚化する。次いで、完全長抗体産物をいくつかの研究、診断、その他用途に用いることができる。
【0064】
本発明の方法によって作られる産物
多くの共発現用途での本発明の誘導性共発現系の利用及び、産物の特性においては、幅広い多用途性がある。
【0065】
グリコシル化 本発明の方法による遺伝子産物共発現はグリコシル化しても非グリコシル化してもよい。本発明の一実施形態では、共発現遺伝子産物はポリペプチドである。グリコシル化ポリペプチドは、共有結合したグリコシル基を含むポリペプチドであり、それとしては、そのポリペプチドの特定の残基に通常通り結合した全てのグリコシル基を含むポリペプチド(完全にグリコシル化されるポリペプチド)、部分的にグリコシル化されるポリペプチド、グリコシル化が起こるとは限らない1つ又は複数の残基でのグリコシル化(変異グリコシル化)を有するポリペプチド、及び、1つ又は複数の特定残基に通常通り結合するグリコシル基とは構造で異なる少なくとも1つのグリコシル基でグリコシル化(修飾グリコシル化)されるポリペプチド、も挙げられる。修飾グリコシル化の一例としては、「脱フコシル化」即ち「フコース欠損」ポリペプチド、即ち、ポリペプチドに結合するグリコシル基にフコース成分がないポリペプチドを、ポリペプチドをフコシル化する能力を欠く宿主細胞内でのポリペプチドの発現によって、産生させることが挙げられる。非グリコシル化ポリペプチドは、共有結合グリコシル基を含まないポリペプチドである。非グリコシル化されるポリペプチドはポリペプチドの脱グリコシル化の結果、又はアグリコシル化されるポリペプチドの産生の結果であり得る。脱グリコシル化ポリペプチドは、グリコシル化ポリペプチドを酵素的に脱グリコシル化することによって得られ、他方、アグリコシル化ポリペプチドは、原核生物細胞又は、少なくとも1つのグリコシル化酵素の機能が削除若しくは低減された細胞等、ポリペプチドをグリコシル化する能力を有さない宿主細胞にポリペプチドを発現することによって産生できる。特定の実施形態では、共発現ポリペプチドをアグリコシル化し、より具体的な実施形態ではアグリコシル化ポリペプチドを大腸菌等の原核生物細胞で共発現する。
【0066】
遺伝子産物の他の修飾 本発明の方法によって共発現される遺伝子産物は他のタイプの分子に共有結合していてもよい。共発現遺伝子産物に共有結合され得る分子の例としては、本発明の範囲を限定することなく、以下が挙げられる:ポリペプチド(例えば、受容体、リガンド、サイトカイン、増殖因子、ポリペプチドホルモン、DNA結合ドメイン、PDZドメイン等のタンパク質相互作用ドメイン、キナーゼドメイン、抗体、及び、そのようなポリペプチドの断片);水溶性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチル化ポリオール(グリセロール等)、ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、及び類似の化合物、誘導体、又はその混合物);及び、細胞毒性剤(例えば、化学療法剤、増殖阻害、毒素(例えば、細菌起源、真菌起源、植物起源又は動物起源の酵素活性毒素、又はその断片)、及び放射性同位体)。
【0067】
加えて、本発明の方法によって共発現する遺伝子産物は、遺伝子産物の精製及び/又は検出において補助となる分子成分を含むように設計することができる。多くのそのような成分が当技術分野で知られており、一例として、ポリペプチド遺伝子産物は、ポリヒスチジン「タグ」配列 - 6つ以上のヒスチジン、好ましくは6~10のヒスチジン残基、最も好ましくは6つのヒスチジンの列 - を、そのN-又はC-末端で含むように設計することができる。ポリペプチドの末端にポリヒスチジン配列が存在することにより、それがコバルト系又はニッケル系親和性媒介物によって結合して他のポリペプチドから分離
できるようになる。ポリヒスチジンタグ配列はエキソペプチダーゼによって除去できる。別の一例として、蛍光タンパク質のアミノ酸配列が好ましくはポリペプチド遺伝子産物のアミノ酸配列のN-又はC-末端で加えられたポリペプチド遺伝子産物の一部として、蛍光タンパク質配列を発現することができる。得られる融合タンパク質は、所定の波長の光が当てられると蛍光発光し、融合タンパク質の存在が視覚的に検出できるようになる。周知の蛍光タンパク質はオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質であり、多くの他の蛍光タンパク質が、それらをコードするヌクレオチド配列とともに市販されている。
【0068】
抗体 本発明の一実施形態では、共発現遺伝子産物は抗体である。「抗体」という用語は最も広い意味で用いられ、具体的には、「天然」抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、多選択性抗体(二重特異性抗体等)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片、及び、抗原に結合可能な抗体から誘導される他のポリペプチドが挙げられる。本明細書で他に記載がなければ、免疫グロブリン重鎖における残基の番号付け(「EU番号付け」)は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest,
Fifth Edition, 1991, National Institute of Health, Bethesda, MarylandにあるEUインデックス(ヒトIgG1 EU抗体の残基番号付け)のそれである。
【0069】
「天然」抗体は通常、2つの同じ軽(L)鎖と2つの同じ重(H)鎖からなる、約150,000ダルトンのヘテロテトラマー糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有結合ジスルフィド結合によって重鎖に連結され、一方、鎖間ジスルフィド架橋の数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖に従って変わる。各重鎖及び軽鎖はまた、規則的に間隔をあけて並べられた鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖は、そのN末端に可変ドメイン(V)とそれに続くいくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖はそのN-末端(V)で可変ドメインを、そのC-末端で定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは重鎖の最初の定常ドメインと一線に並び、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと一線に並ぶ。「可変」という用語は、可変ドメインの所定の部分は抗体によって配列が大きく異なり、抗原に対する各特定抗体の結合及び特異性の点から用いられる、という事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全域に均等に分布されている訳ではない。それは、軽鎖及び重鎖可変ドメインの両方における超可変領域(HVRs)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのよりよく保存される部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、3つのHVRによってつながれた4つのFR領域を含み、他の鎖からのHVRで、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。
【0070】
「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC-末端領域を指し、天然Fc領域及び変異Fc領域を含む。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動し得るけれども、ヒトIgG重鎖Fc領域は、位置Cys226のアミノ酸残基からか又はPro230からそのカルボキシル-C末端へ伸長するものと規定できる。あるいは、Fc領域は、保存C2免疫グロブリン領域のN末端残基(Ala231)からC-末端まで伸長するものと規定することもでき、C2、C3、及びC4等の多重保存ドメインが挙げられる。天然Fc領域のC-末端リジン(EU番号付けシステムに従って、残基447)は、例えば、抗体の産生若しくは精製の間に除去するか又は、抗体の重鎖をコードする核酸を組み替えエンジニアリングすることによって除去してもよい。したがって、インタクトな抗体の組成としては、全てのK447残基が除去された抗体集団、K447残基が除去されていない抗体集団、及び、K447残基のある抗体とない抗体の混ざったものを有する抗体集団、を含み得る。抗体のFc領域は、免疫学的細胞のリクルートメント及び抗体依存性細胞障害(ADCC)に決定的に重要である。特に、抗体によって誘発されるADCC応答の性質は、多くの細胞タイプの表面に位置する受容体(FcRs)とFc領域との相互作用に左右される。ヒトは少なくとも5つの異なる分類のFc受容体を含有する。抗体のFcRsへの結合は、他の免疫学的細胞をリクルートするその能力と、リクルートされ
る細胞のタイプを決定する。そのため、抗体を、所定の種類の細胞のみをリクルートできる変異Fc領域とエンジニアリングする能力は、治療に決定的に重要である(米国特許出願第20090136936A1号、05-28-2009, Georgiou, George)。哺乳動物細胞によって産生される天然抗体は典型的に、一般にN結合によってFc領域のCH2ドメインのAsn297に結合する分岐型二分岐オリゴ糖を含む。所定の実施形態では、本発明の方法によって産生される抗体は、たとえば、Fc領域の残基297での置換、又は、ポリペプチドをグリコシル化する能力を有しない宿主細胞での発現のために、グリコシル化しないか、又はアグリコシル化する。変異ADCC応答のために、非グリコシル化抗体はより低レベルの炎症反応、例えば神経炎症を刺激する。また、アグリコシル化Fc領域を有する抗体は、Fc受容体に対して非常に低い結合親和性を有するので、そのような抗体は、これらの受容体をもつ多数の免疫細胞に結合しないと考えられる。それは、非特異的結合を低減し、また、生体内での抗体の半減期を増加させ、治療におけるこの属性を非常に有益なものとするので、これは重要な利点である。
【0071】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」という用語は互換的に使用され、以下に定義するように、抗体断片でない実質的にインタクトな「天然」形式の抗体を指す。それらの用語は特に、可変ドメイン及びFc領域をそれぞれが含む重鎖をもつ抗体を指す。「抗体断片」はインタクトな抗体の一部を含み、好ましくはその抗原結合領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab′、F(ab′)、Fc、Fd、及びFv断片;二特異性抗体;線状抗体;scFv等の単一鎖抗体分子;及び、抗体断片から形成される多特異性抗体が挙げられる。
【0072】
「ヒト抗体」は、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を持つものである。「キメラ」抗体はその重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種から誘導される抗体又は特定の抗体分類若しくは下位分類に属する抗体における対応する配列と同一か、所定のアミノ酸配列同一性を共有する抗体であり、一方、鎖(複数を含む)の残りは別の種から誘導される抗体又は別の抗体分類若しくは下位分類に属する抗体及びそのような抗体の断片と同一か、所定の程度のアミノ酸配列同一性を共有する。「ヒト化」抗体は、非ヒト免疫グロブリン分子から誘導される最小アミノ酸残基を含有するキメラ抗体である。一実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(受容抗体)において受容抗体のHVR残基がマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類等の非ヒト種の免疫グロブリンHVR(ドナー抗体)からの残基によって置き換えられたものである。いくつかの場合には、ヒト受容抗体のFR残基は対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、受容抗体又はドナー抗体に見られない残基を含んでいてもよい。「モノクローナル抗体」という用語は、少量で存在し得る天然の突然変異体等、あり得る突然変異体を除いて、抗体の集団を含む個々の抗体は同一であるという点で実質的に均質的な抗体の集団から得られる抗体を指す。したがって、修飾因子「モノクローナル」は、個々別々の抗体の混合物ではないという、抗体の特徴を示す。複数の異なる決定基(エピトープ)に対して向かう複数の異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体の調製とは対照的に、モノクローナル抗体調製の各モノクローナル抗体は、抗原上の同じ単一の決定基に対して向かう。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製は、通常他の免疫グロブリンによって汚染されないという点で有利である。
【0073】
抗体等の分子の「結合親和性」は一般的に、分子の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、抗体とそれが結合する抗原)との間の非共有結合性相互作用の全体の強さを指す。他に示されていなければ、「結合親和性」は結合対(例えば抗体と抗原)の要素間の1:1の相互作用を反映する内因性結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は一般的に解離定数(Kd)によって表すことができる。低親和性抗体(Kdがより高い)は一般的にゆっくりと抗原に結合し簡単に解離する傾向があり、一方、高親和性抗体(Kdがより低い)は一般的に抗原により速く結合しより長く結合を維持する傾向
がある。結合親和性を測定する種々の方法が当技術分野で知られており、そのいずれもが本発明の目的のために使用できる。結合親和性を測定する具体的な例示的方法を実施例10に記載する。本発明の方法によって産生及び/又は使用する抗体及び抗体断片は、実施例10に記載の表面プラズモン共鳴法アッセイによって測定して好ましくは100nM未満の結合親和性を有し、より好ましくは10nM未満の結合親和性を有し、最も好ましくは2nM未満の結合親和性を有する。
【0074】
アグリコシル化抗体を認識する抗体(二次) 大腸菌又はその他に基づく原核生物発現系においてグリコシル化酵素なしで抗体を産生すると、一般的にアグリコシル化抗体が得られ、一次抗体として用いることができる。本発明の誘導性共発現系を用いてアグリコシル化一次抗体を産生することに加えて、本発明の誘導性共発現系を用いて特異的にアグリコシル化一次抗体を認識する二次抗体を効率的に産生することもできる。本発明の一態様は、研究、分析、診断又は治療目的のために非グリコシル化即ちアグリコシル化一次抗体を検出できる二次抗体系である。一例として、二次抗体系は次の構成要素とともに提供される:エピトープ、一次抗体、二次抗体及び検出系。エピトープは抗原(通常タンパク質)の一部であり、生きた動物に導入されるか別の方法で抗体によって認識されると免疫応答を生じさせる抗原決定基である。実際には、目的のエピトープは混合物又は組織の中に存在し得る。一実施形態では、エピトープはヒトの組織のがん細胞において発現されるタンパク質である。一次抗体は抗体断片、単一完全長抗体(モノクローナル)又は、複数の異なる完全長抗体(ポリクローナル)の混合物であり、エピトープを認識してこれに結合し、好ましくは特異的にエピトープに結合する。この例における完全長抗体は2つの重ポリペプチド鎖と2つの軽ポリペプチド鎖とがジスルフィド架橋で連結されたものを含む。鎖のそれぞれは、定常領域(Fc)及び可変領域(Fv)を含む。完全長抗体には2つの抗原結合部位がある。本発明の一実施形態では、一次抗体は目的のエピトープを認識してこれに結合する完全長アグリコシル化抗体(大腸菌に基づく発現系において産生されるもの等)である。二次抗体は抗体断片、単一完全長抗体(モノクローナル)又は、複数の異なる完全長抗体(ポリクローナル)の混合物であり、アグリコシル化一次抗体を認識してこれに結合し、好ましくは特異的にアグリコシル化一次抗体に結合する。本発明の一実施形態では、二次抗体は、完全長一次抗体のアグリコシル化Fc部分を認識してこれに結合する完全長抗体である。この場合に、抗体結合部位はアグリコシル化一次抗体のFc部分を特異的に認識するよう選択及び/又はエンジニアリングし、C-末端リジン残基はあってもなくてもよい。他の実施形態では、二次抗体はアグリコシル化一次抗体のさらなる領域(エピトープ)又は、一次抗体に共有結合するポリペプチド配列を含み但しそれに限定されないエンジニアリングされたさらなるエピトープ、を認識するようにエンジニアリングすることも考えられる。二次抗体は完全長アグリコシル化抗体分子(IgG、IgA等の種々の免疫グロブリン分類を含む)又は、Fc若しくはFab等の抗体断片上に存在する、単一若しくは複数部位(エピトープ)に向けることができる。したがって、この方法で生成されるいくつかの二次抗体はどのようなアグリコシル化完全長抗体に対しても広い特異性を有すると考えられる。本発明の一次及び二次抗体としてはまた、伝統的な方法(免疫化ウサギを用いたポリクローナル抗体産生又はマウスハイブリドーマを用いたモノクローナル抗体産生)及び、抗原結合ポリペプチドを特定するファージディスプレイ方法等の組換えDNA技術によって産生するものも挙げられる。
【0075】
検出系は一般的に、二次抗体に連結又は結合して二次抗体の検出、視覚化、及び/又は定量化を可能とする剤を含む。種々の検出系が当技術分野で周知であり、蛍光色素、酵素、放射性同位体又は重金属を含み、但しこれらに限定されない。これらは、さらなるポリペプチドを二次抗体に直接物理的に連結させることを含んでいてもいなくてもよい。この二次抗体系の応用としては、免疫組織化学的測定、ウエスタンブロッティング及び酵素結合免疫吸着測定(ELISA)が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、免疫組織化学的測定における使用の一実施形態では、目的のエピトープは組織の薄片に存在し、次
いでアグリコシル化一次抗体を組織に作用させ、エピトープに結合させる。非結合の一次抗体を除去し、次いでアグリコシル化一次抗体に特異的に結合できる二次抗体を組織に作用させ、一次抗体に結合させる。非結合二次抗体を除去し、次いで検出系試薬を作用させる。例えば、二次抗体を酵素に結合させる場合、色がきれいに出る酵素基質を組織に作用させ反応させる。次いで、直接顕微鏡又は蛍光透視によって反応酵素基質を視覚化することを実施する。他の検出方法も当技術分野で周知である。
アグリコシル化抗体を認識する二次抗体を用いた系の利点としては以下が挙げられ、それらに限定されない:
1)アグリコシル化しなければ真核生物組織に存在しない一次抗体のFc部分をアグリコシル化してそれに二次抗体が結合するよう設計しているので免疫組織化学的測定の特異性が向上する;
2)一次抗体に対する特異性の向上によりバックグラウンドの染色が低減される;
3)一次及び/又は二次抗体を大腸菌等の原核生物で生成できるので二次抗体系産生のコストが低減される;
4)抗体開発のプロセス全体を大腸菌等の原核生物で実施するので、マウス及びウサギ等の哺乳動物を不必要に利用することが避けられる。
【0076】
産業用途で用いられる酵素 多くの産業プロセスは本発明の方法によって産生できる酵素を利用する。これらのプロセスとしては、廃水処理並びに他のバイオレメディエーション及び/又は解毒プロセス;製紙・繊維産業における材料漂白;バイオ燃料へと効率的発酵可能な材料にするバイオマスの分解が挙げられる。多くの場合、微生物宿主細胞、好ましくは細菌宿主細胞におけるこれらの用途で酵素を産生することが望ましいと考えられるが、活性酵素は酵素フォールディング及び/又は補助因子必要性の問題により大量に発現することが困難である。本発明の以下の実施形態では、本発明の誘導性共発現方法を用いて産業用途に関する酵素を産生する。
【0077】
アラビノース利用酵素及びキシロース利用酵素 D-キシロースは植物バイオマス中に最も豊富にある五炭糖で、多糖類、ヘミセルロース及びペクチンの中に見られ、L-アラビノースが次に最も豊富にある五炭糖である。バイオ燃料及び他のバイオ産物の開発及び産生のためには、D-キシロース及びL-アラビノースをグルコース及びフルクトース等の六炭糖に変換することが有益で、これは六炭糖がエタノール等のバイオ燃料に効率的に発酵されるからである。上に記載の通り、大腸菌araBADオペロンは、L-アラビノースを次の通り代謝するタンパク質をコードする:L-アラビノースをL-アラビノースイソメラーゼ(AraA、EC5.3.1.4)によってL-リブロースへ;L-リブロースをL-リブロキナーゼ(AraB、EC2.7.1.16)によってL-リブロース-リン酸へ;L-リブロース-リン酸をL-リブロース-5-リン酸4-エピメラーゼ(AraD、EC5.1.3.4)によって、フルクトース及びグルコース形成の五炭糖リン酸経路の一部であるD-キシルロース-5-リン酸(D-キシルロース-5-Pとも称す)へ。L-アラビノースをキシリトールに変換し、次いでキシリトールをD-キシルロース-5-Pに変換できる他の酵素経路(「オキソ還元性経路」)は次の通りである:L-アラビノースをL-アラビノース/D-キシロース還元酵素(EC1.1.1.21)によってL-アラビニトールへ;L-アラビニトールをL-アラビニトールデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.12)によってL-キシルロースへ;L-キシルロースをL-キシルロース還元酵素(EC1.1.1.10)によってキシリトールへ。大腸菌xylABオペロンは次の通り、D-キシロースを利用する一酵素経路(「イソメラーゼ経路」)をコードする:D-キシロースをD-キシロースイソメラーゼ(XylA、EC5.3.1.5)によってD-キシルロースへ;D-キシルロースをキシルロキナーゼ(XylB、EC2.7.1.17)によってD-キシルロース-5-Pへ。D-キシロースをD-キシルロース-5-Pへ変換する別の一酵素経路(「オキソ還元性経路」)は次の通りである:D-キシロースをD-キシロース還元酵素(EC1.1.1.21)によってキシ
リトールへ;キシリトールをキシリトールデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.9)によってD-キシルロースへ;D-キシルロースをキシルロキナーゼ(XylB、EC2.7.1.17)によってD-キシルロース-5-Pへ。NADPH、NAD及びATP等、オキソ還元性経路において必要とされる種々の補助因子及び、これらの補助因子を利用するに当たってどの程度入手できるかにより、不均衡が副産物によるキシリトールの過剰産生を生じる可能性がある。D-キシルロース-5-Pに4-リン酸エリトロースをプラスしたものを、トランスケトラーゼ(EC2.2.1.1)によって、3-リン酸グリセルアルデヒドに6-リン酸フルクトースをプラスしたものへと変換できる。
【0078】
本発明の誘導性共発現方法を用いてアラビノース-利用酵素及びキシロース-利用酵素を産生することができ、これらは、前出の段落でEC番号によって列記されている酵素であると定義される。各酵素のEC(即ち「酵素委員会(Enzyme Commission)」)番号は、国際生化学・分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)(IUBMB)によって確立される。これらの酵素及びそれらの具体例に関するさらなる情報は、UniProtタンパク質データベース(www.uniprot.org/uniprot)及びB
RENDAデータベース(www.brenda-enzymes.org/index)を通じて容易に入手でき、BRENDA及びUniProtデータベースのアラビノース-利用酵素及びキシロース-利用酵素の記載項目は参照により本明細書に援用される。いくつかの実施形態では、アラビノース-利用酵素又はキシロース-利用酵素は、シャペロンタンパク質とともに共発現され;本明細書のさらなる実施形態では、アラビノース-利用酵素又はキシロース-利用酵素は、補助因子のトランスポーターとともに共発現される。所定の実施形態では、L-アラビノースイソメラーゼ(AraA、EC5.3.1.4)又はL-アラビノース還元酵素(EC1.1.1.21)は本明細書の方法によって産生され;これらの実施形態では、誘導物質のL-アラビノースがL-リブロース又はL-アラビニトールにそれぞれ変換されるので、アラビノース誘導性プロモーターは発現コンストラクトにおいて利用されない。宿主細胞がaraA突然変異体等、EC5.3.1.4及び/又はEC1.1.1.21に欠け、L-アラビノースを異化できない場合、L-アラビノースイソメラーゼ(AraA、EC5.3.1.4)又はL-アラビノース還元酵素(EC1.1.1.21)以外のアラビノース-利用酵素の産生には、アラビノース誘導性プロモーターを利用することができる。同様に、D-キシロースイソメラーゼ(XylA、EC5.3.1.5)又はD-キシロース還元酵素(EC1.1.1.21)が本明細書の方法によって産生される実施形態では、誘導物質であるD-キシロースがD-キシルロース又はキシリトールにそれぞれ変換されることが考えられるので、キシロース誘導性プロモーターはいずれの発現コンストラクトでも利用されない。D-キシロースイソメラーゼ(XylA、EC5.3.1.5)又はD-キシロース還元酵素(EC1.1.1.21)以外のキシロース利用酵素の産生のためには、xylA突然変異体等、EC5.3.1.5及び/又はEC1.1.1.21に欠ける宿主細胞がD-キシロースを異化できない場合、キシロース誘導性プロモーターを利用することができる。
【0079】
キシロースイソメラーゼ(XylA、EC5.3.1.5)は微生物、嫌気性真菌及び植物に見られる酵素で、アルド糖(D-キシロース)のケト糖(D-キシルロース)への相互変換を触媒する。それはまた、D-リボースをD-リブロースへ、D-グルコースをD-フルクトースへ異性化する。この酵素は、イソメラーゼ、具体的にはアルドース及びケトースを相互変換する分子内酸化還元酵素のファミリーに属する。この酵素分類の系統名はD-キシロース・アルドース-ケトース-イソメラーゼである。他の一般的な名称としては、D-キシロースイソメラーゼ、D-キシロースケトイソメラーゼ、D-キシロースケトール-イソメラーゼ、及びグルコースイソメラーゼが挙げられる。酵素は産業的に用いて、高フルクトースコーンシロップの製造においてグルコースをフルクトースに変換し、上に記載の通り、バイオ燃料生産のために五炭糖の六炭糖への変換において用いるこ
とができる。キシロースイソメラーゼはホモ四量体であり、2つの二価カチオン - Mg2+、Mn2+及び/又はCo2+ - を最大活性のために必要とする。キシロースイソメラーゼ活性は、NADH-結合アラビトールデヒドロゲナーゼアッセイ(Smith et
al., "D-Xylose (D-glucose) isomerase from Arthrobacter strain N.R.R.L. B3728. Purification and properties", Biochem J 1991 Jul 1; 277 (Pt 1): 255-261)を用いて測定することができ、これでは1単位のキシロースイソメラーゼ活性は、1マイクロモルのD-キシロースをD-キシルロースに1分で変換する酵素の量である。少なくともいくつかの種においては、キシロースイソメラーゼはその活性のためにマグネシウム(植物の場合はマンガン)を必要とし、一方、酵素の四量体構造を安定化させるためにコバルトが必要なことがある。各キシロースイソメラーゼサブユニットは、他の二価金属依存性TIM(トリオースリン酸イソメラーゼ)バレル酵素に類似のα/βバレルフォールディングを含有し、C末端のより小さい部分は、多量体化に関係する拡張らせんフォールディングを形成する。全ての既知のキシロースイソメラーゼにおける保存残基は、酵素のN末端部分にあって酵素の触媒メカニズムへの関与を示すヒスチジンであり、並びに、マグネシウム、コバルト、又はマンガンのイオンに結合するものであって、2つのグルタミン酸残基、ヒスチジン及び、2つの金属結合部位を形成する4つのアスパラギン酸残基、のそれぞれである(Katz et al., "Locating active-site hydrogen atoms in D-xylose isomerase: time-of-flight neutron diffraction", Proc Natl Acad Sci USA 2006 May 30; 103(22): 8342-8347; Epub 2006 May 17)。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態では、誘導性共発現を用いてキシロースイソメラーゼタンパク質を発現し、所定の実施形態では、キシロースイソメラーゼ(「XI」)は、アルスロバクター種菌株NRRL B3728 XI(UniProt P12070);バクテロイデス・ステルコリスXI(UniProt B0NPH3);ビフィオバクテリアム・ロンガムXI(UniProt Q8G3Q1);バークホルデリア・セノセパシアXI(UniProt Q1BG90);ユウレイボヤXI(UniProt F6WBF5);クロストリジウム・ファイトファーメンタンスXI(UniProt A9KN98);オルピノマイセス種ukk1 XI(UniProt B7SLY1);ピロミセス種E2 XI(UniProt Q9P8C9);ストレプトマイセス・リビダンスXI(UniProt Q9RFM4);ストレプトマイセス・リビダンスTK24 XI(UniProt D6ESI7);サーモアナエロバクター・エタノリカス JW 200 XI(UniProt D2DK62);サーモアナエロバクター・ヨンセイイXI(UniProt Q9KGU2);サーモトガ・ネアポリタナXI(UniProt P45687);サーマス・サーモフィラスXI(UniProt P26997);及びビブリオ種菌株XY-214 XI(UniProt C7G532)からなる群より選択される。特定の実施形態では、キシロースイソメラーゼはCorA(UniProt P0ABI4)等の二価トランスポーターとともに誘導的に共発現され、誘導性プロモーターを用いてイオンの輸送のタイミングと範囲を制御することは、宿主細胞に対するCo2+等の金属イオンからの毒性を低減する上で有益である。さらなる実施形態では、XIモノマーの対の間の相互作用に影響するキシロースイソメラーゼタンパク質に突然変異を導入し、例えば、システイン残基を導入して、モノマーの対の間にジスルフィド結合が形成されるようにする(以下参照、Varsani et al., "Arthrobacter D-xylose isomerase: protein-engineered subunit interfaces", Biochem J 1993 Apr 15; 291 (Pt 2):
575-583)。この例では、システイン残基は2つのモノマーの中の相互的ではあるが同一ではない位置に導入されるので、2つの異なるタイプの変異モノマーが産生され、本明細書の誘導性共発現系を用いて2つのタイプのモノマーの相対的発現を滴定し、所望の化学量論比を達成する。
【0081】
リグニン分解ペルオキシダーゼ ペルオキシダーゼは酸化還元酵素の下位グループであり、これを用いて種々の産業プロセスを触媒する。酸化還元酵素は、リグニンを分解する
ことができ、即ち、セルロース及びヘミセルロースの分解において還元酵素として働くことができ、植物バイオマスの処理において用いられる酵素がエタノール等のバイオ燃料の生産の間にサッカライド残基に容易に近づくことを可能とする。酸化還元酵素はオキシダーゼ又はデヒドロゲナーゼであってもよい。オキシダーゼは電子アクセプターとして分子酸素を用い、一方、デヒドロゲナーゼはH基をNAD/NADP又はフラビン依存性酵素等のアクセプターに移すことによって基質を酸化させる。ペルオキシダーゼは過酸化水素(H)等のペルオキシドの還元を触媒する。他のタイプの酸化還元酵素としては、オキシゲナーゼ、ヒドロキシラーゼ及び還元酵素が挙げられる。酸素、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)並びに、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドであるNAD及びNADPに加えて、酸化還元酵素の補助因子の可能性としては、チトクロム及びヘム、ジスルフィド並びに鉄硫黄タンパク質が挙げられる。
【0082】
リグニン分解ペルオキシダーゼは、リグニン、工業用染料、殺虫剤等の高酸化還元電位化合物を含む種々の芳香族化合物を酸化させる。次の4つのタイプのリグニン修飾酵素が同定され特徴付けられている:リグニンペルオキシダーゼ(LiP、EC1.11.1.14)、マンガンペルオキシダーゼ(MnP、EC1.11.1.13)、汎用ペルオキシダーゼ(VP、EC1.11.1.16)及びラッカーゼ(EC1.10.3.2)。LiP、MnP及びVPは、4つ又は5つのジスルフィド結合と、構造的Ca2+イオンに対する2つの結合部位とをもったヘムタンパク質であり、高酸化還元電位ペルオキシダーゼであり、これは高酸化還元電位基質及び/又はMn2+を直接酸化することができる。MnPのペルオキシダーゼ活性は、下の実施例4第E項に記載の2,6-ジメトキシフェノール(2,6-DMP)酸化アッセイを用いて測定することができ、LiP活性はHの存在下におけるベラチルアルコールのベラチルアルデヒドへの酸化によって測定することができる(Orth et al., "Overproduction of lignin-degrading enzymes by an
isolate of Phanerochaete chrysosporium", Appl Environ Microbiol 1991 Sep; 57(9): 2591-2596)。ラッカーゼは、ヘムと会合せず、銅イオン(通常ラッカーゼタンパク質
当たり4つの銅イオン)と会合し、低酸化還元電位の酸化還元酵素であり、これは酸化還元媒介物の存在下で高酸化還元電位基質のみを酸化させることができる。ラッカーゼの活性は、Zhao et al.,“Characterisation of a novel white laccase from the deuteromycete
fungus Myrothecium verrucaria NF-05 and
its decolourisation of dyes”,PLoS One 2012;7(6):e38817に記載のABTS(2,2’-アジノビス-(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))酸化アッセイを用いて測定することができ、1単位の活性は1分当たり1マイクロモルの産物の産生と定義される。
【0083】
本明細書の誘導性共発現方法を用いてリグニン分解ペルオキシダーゼを産生することができ、これは前出の段落にあるEC番号によって列記される酵素であると定義され;リグニン分解ペルオキシダーゼに関するBRENDA及びUniProtデータベース項目記載は参照によって本明細書に援用される。いくつかの実施形態では、リグニン分解ペルオキシダーゼはシャペロンタンパク質とともに共発現され、本発明のさらなる実施形態では、リグニン分解ペルオキシダーゼはヘム等の補助因子のトランスポーターとともに共発現される。
【0084】
LiPは本発明の誘導性共発現系を用いて発現することができ、所定の実施形態では、LiPは、ファネロケーテ・クリソスポリウム(スポロトリクム・プルイノスム)LiPアイソザイム「リグナーゼA」(UniProt P31837)、「リグナーゼB」(UniProt P31838)、「リグナーゼH2」(UniProt P11542)、「リグナーゼH8」(UniProt P06181)、「リグナーゼLG2」(UniProt P49012)、「リグナーゼLG3」(UniProt P21764
)、「リグナーゼLG5」(UniProt P11543)、及び「リグナーゼLG6」(UniProt P50622);フレビア・ラジアータ「リグナーゼ-3」(UniProt P20010);トラメテス・ベルシカラー(コリオラス・ベルシカラー)LiPアイソザイム「リグナーゼC」(UniProt P20013)、LP7(UniProt Q99057)、及びLP12(UniProt Q7LHY3);及びトラメトプシス・セルビナLiP(UniProt Q3C1R8)及び(UniProt
Q60FD2)からなる群より選択される。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態では、誘導性共発現を用いてMnPを発現し、所定の実施形態では、MnPはツクリタケMnP(UniProt Q5TJC2);フミヅキタケMnP(UniProt G4WG41);レイシMnP(UniProt C0IMT8);レンジテス・ギッボサMnP(UniProt C3V8Q9);ファネロケーテ・クリソスポリウムMnPアイソザイムMNP1(UniProt Q02567);H3(UniProt P78733);及びH4(UniProt P19136);フレビア・ラジアータMnPアイソザイムMnP2(UniProt Q70LM3)及びMnP3(UniProt Q96TS6);フレビア・ラジアータ種b19MnP(UniProt B2BF37);フレビア・ラジアータ種MG60MnPアイソザイムMnP1、MnP2、MnP3(それぞれUniProt B1B554、B1B555、B1B556);ヒラタケMnP3(UniProt B9VR21);ウスラヒラタケMnP5(UniProt Q2VT17);スポンジペリス種FERM P-18171MnP(UniProt Q2HWK0);及びトラメテス・ベルシカラー(コリオラス・ベルシカラー)MnPアイソザイム(UniProt Q99058、Q6B6M9、Q6B6N0、Q6B6N1、及びQ6B6N2)からなる群より選択される。ヘムの存在下におけるタンパク質ジスルフィドイソメラーゼとのMnPの共発現は実施例4に記載する。
【0086】
ラッカーゼは、本発明の誘導性共発現系を用いて発現することができ、所定の実施形態では、ラッカーゼは、灰色かび病菌(灰色かび病)ラッカーゼアイソザイム(Uniprot Q12570、Q96UM2、及びQ96WM9);セレナ種WR1ラッカーゼアイソザイム(Uniprot E7BLQ8、E7BLQ9、及びE7BLR0);ミダレアミタケ(ミダレアミタケ)ラッカーゼ(Uniprot B8YQ97);レイシラッカーゼアイソザイム(Uniprot Q6RYA2、B5G547、B5G549、B5G550、B5G551、及びB5G552);メラノカルプス・アルボマイセスラッカーゼ(Uniprot Q70KY3);ヒラタケラッカーゼアイソザイム(Uniprot Q12729、Q12739、Q6RYA4、Q6RYA4及びG3FGX5);シュタケラッカーゼアイソザイム(Uniprot O59896、Q9UVQ2、D2CSG0、D2CSG1、D2CSG4、D2CSG6及びD2CSG7);ヒイロタケラッカーゼアイソザイム(Uniprot D2CSF2、D2CSF5、D2CSF6、D2CSM7及びD7F484);アラゲカワラタケ(アラゲカワラタケ)ラッカーゼ(Uniprot Q02497);トラメテス・マキシマ(セレナ・マキシマ)ラッカーゼ(Uniprot D0VWU3);トラメテス・ベルシカラー(コリオラス・ベルシカラー)ラッカーゼアイソザイム(Uniprot Q12717、Q12718及びQ12719);及びトラメテス・ビローサラッカーゼアイソザイム(Uniprot Q99044、Q99046、Q99049、Q99055及びQ99056)からなる群より選択される。
【0087】
白色腐朽菌の3つの主要なリグニン修飾酵素はLiP、MnP及びラッカーゼである一方、別のタイプのペルオキシダーゼである汎用ペルオキシダーゼ(VP)がヒラタケ属及びカワラタケ属のいくつかの種に見られる。VPはその触媒的汎用性のために興味深く、それはLiP基質、ベラチルアルコール、メトキシ-ベンゼン及び非フェノールリグニン
モデル化合物、並びにMnP基質Mn2+を酸化させることができる。VPの汎用活性はMnP2,6-DMPアッセイ、又はLiPベラチルアルコールアッセイ、又はラッカーゼABTSアッセイを用いて試験することができる(上記参照)。本発明のいくつかの実施形態では、誘導性共発現を用いてVPを発現し、所定の実施形態では、VPは、ヤケイロタケVP(UniProt A5JTV4);エリンギVPアイソザイム(UniProt O94753、Q9UR19及びQ9UVP6);及びウスラヒラタケVP(UniProt I6TLM2)からなる群より選択される。
【実施例0088】
実施例1
細菌性の細胞における全長の抗体を産生するためのIgG1重鎖および軽鎖の誘導性共発現
A.発現ベクターの構造
誘導性共発現系は、細菌性の細胞で、全長の抗体、特にマウスの抗ヒトCD19IgG1抗体を産生するために用いられた。マウスの抗ヒトCD19IgG1重鎖(「IgG1重鎖」、「IgG1HC」、「重鎖」、または「HC」)についてのコード配列は、配列番号1として提供され、ジェンバンク受入番号AJ555622.1、特に塩基13から1407のジェンバンクAJ555622.1ヌクレオチド配列のそれと同じである。対応する全長のマウスの抗ヒトCD19IgG1重鎖アミノ酸配列は、配列番号2(およびジェンバンク受入番号CAD88275.1と同じである)として提供される。マウスの抗ヒトCD19IgG1軽鎖(「IgG1軽鎖」、「IgG1LC」、「軽鎖」、または「LC」)のコード配列は、配列番号3として提供され、ジェンバンク受入番号AJ555479.1、特に塩基23から742のジェンバンクAJ555479.1ヌクレオチド配列のそれと同じである。対応する全長のマウスの抗ヒトCD19IgG1軽鎖アミノ酸配列は、配列番号4として提供される(およびジェンバンク受入番号CAD88204.1と同じである)。
【0089】
IgG1重鎖および軽鎖をコードするポリヌクレオチドの合成および大腸菌における発現の最適化が、GenScript(Piscataway, NJ)により行われた。GenScript's OptimumGene(商標)Gene Designシステムが、アルゴリズム、タンパク質発現の異なる段階に伴われ
る種々の因子を考慮するOptimumGene(商標)アルゴリズム、例えば、コドン使用頻度の
バイアス、GC含有量、CpGジヌクレオチド含有量、予測されるmRNA構造、および転写および翻訳における種々のシス要素を用いる。IgG1重鎖および軽鎖の最適化された配列は、配列番号5および配列番号6としてそれぞれ提供され、これらの最適化された配列は、コード配列の上流および下流にいくつかの追加のヌクレオチドを含み、コード配列は、配列番号5の塩基25から1419、および配列番号6の塩基25から747である。IgG1軽鎖についての配列番号10における最適化されたコード配列は、追加のアミノ酸、配列番号4のIgG1軽鎖アミノ酸配列に関連する、コードされたアミノ酸配列の位置2でのアラニン残基をコードする。最適化された重鎖および軽鎖配列はともに、TAA停止コドン、および開始コドンの14から9の塩基の上流に配置される、好ましい大腸菌のリボソーム結合配列(AGGAGG)を含む。さらに、IgG1重鎖最適化配列(配列番号5)は、ATG開始コドンを含むNcoI制限部位、およびTAA停止コドンのすぐ下流にHindIII制限部位を含み、一方、IgG1軽鎖最適化配列(配列番号6)は、リボソーム結合配列のすぐ上流にNheI制限部位、またTAA停止コドンのすぐ下流にHindIII制限を含む。
【0090】
IgG1重鎖および軽鎖についての最適化されたコード配列は、ポリヌクレオチドインサートがpUC57内でクローン化され、GenScriptから得られた。pBAD24ベクターは、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)からATCC87399として得られ、ジェンバンクデータベース受入番号X81837.1(25-OCT-
1995)に示されるヌクレオチド配列を有し、pPRO33ベクターは、カリフォルニア大学(Berkeley,California)から得られ、配列番号7に示されるヌクレオチド配列を
有する。Guzman et al., "Tight regulation, modulation, and high-level expression by vectors containing the arabinose PBAD promoter" J Bacteriol 1995 Jul; 177(14): 4121-4130、および米国特許第8178338B2号; May 15 2012; Keasling, Jayに
記載されているように、pPRO33のヌクレオチド配列は、pBAD18ベクター(ジェンバンク受入番号X81838.1)、prpR-PprpB領域の大腸菌ゲノム配列、およびpBAD33ベクターの配列からコンパイルされた。IgG1重鎖をpBAD24ベクター内で、およびIgG1軽鎖をpPRO33ベクター内でクローン化するために、pUC57-HCおよびpUC57-LCコンストラクトは、まず大腸菌BL21細胞(New England Biolabs(または「NEB」),Ipswich, Massachusetts)内でヒートシ
ョック方法を用いて形質転換された。これらのベクターのそれぞれについてのプラスミドDNAが、ミニプレップ方法によりその後得られた。特記しない限り、液体培養における大腸菌細胞の増殖は、250RPMの回転振盪により37℃であった。プラスミドを含む大腸菌細胞株(pUC57-HCを含むBL21、pUC57-LCを含むBL21、およびpBAD24を含むDH5アルファ)は、14時間または一晩、8mLのLB+アンピシリン(「AMP」)培地でそれぞれ増殖され、pPRO33を含む大腸菌DH10B細胞(Life Technologies, Grand Island, New York)は、5mLのLB+クロラムフェ
ニコール(「CAM」)培地で増殖され、その後、細胞は、ペレットにされ、溶解され、プラスミドDNAがQIAprep(登録商標)スピンカラム(QIAGEN, Germantown, MD)を用いて製造者の手順に従って分離された。収率の増加のために、QIAprep(登録商標)スピンカラム手順は、PEバッファに添加された100%エタノールで行われ、上清は1回の代わりに2回カラムを通して送られた。
【0091】
IgG1重鎖をpBAD24内でクローン化するために、精製されたpUC57-HCおよびpBAD24プラスミドが、NcoIおよびHindIII制限酵素(NEB)により消化され、その後、IgG1HC NcoI-HindIIIフラグメントおよびNcoI-HindIII-cut pBAD24プラスミドが、ゲル電気泳動により他のポリヌクレオチドフラグメントから分離され、ゲルから切り取られ、イラストラGFX Gel Band Purificationキット(GE Healthcare Life Sciences, Piscataway, NJ)を用いて製造者の説明書に従って精製された。IgG1HC NcoI-HindIIIフラグメントは、その後、pBAD24-HC発現コンストラクトを形成するためのNcoI-HindIII-cut pBAD24プラスミドに連結された(16℃で一晩)。IgG1HC NcoI-HindIIIフラグメントにおけるNcoI制限部位が、IgG1HCコード配列のATG開始コドンを含むため、IgG1HC NcoI-HindIIIフラグメントがNcoI-HindIII-cut pBAD24ベクターに挿入される場合には、IgG1HCコード配列が、pBAD24ベクターに存在する好ましい大腸菌リボソーム結合配列AGGAGGの下流に配置される(Guzman et al., "Tight regulation, modulation, and high-level expression by vectors containing the arabinose PBAD promoter", J Bacteriol 1995 Jul; 177(14): 4121-4130の図1参照)。結果として得られたpBAD24-HC発現コンストラクトでは、リボソーム結合配列がIgG1HC開始コドンの14から9塩基の上流で配置される。
【0092】
pPRO33内でIgG1軽鎖をクローン化するために、精製されたpUC57-LCおよびpPRO33プラスミドが、NheIおよびHindIII制限酵素(NEB)により消化された。pPRO33プラスミドが2つのHindIII制限部位を有しているため、pPRO33 NheI-HindIII消化からゲル精製される2つのフラグメント、4.4kbフラグメントおよび1.5kbフラグメントがあった。イラストラGFX Gel Band Purificationキット(上記参照)を用いて、所望のフラグメントの全てのゲル
精製後に、精製された4.4kbpPRO33フラグメントが、アルカリホスファターゼ
(仔ウシの腸のホスファターゼまたはCIPともよばれる)(NEB)により、製造者の説明書に従って処理された。CIP-処理された4.4kbのpPRO33フラグメントが、イラストラGFX Gel Band Purificationキット(上記参照)を用いてホスファターゼ
反応混合物から精製され、その後、1.5kbのpPRO33フラグメントに結合された(16℃で10.5時間)。結果として得られたNheI-HindIII-cut pPRO33プラスミドが、pPRO33-LC発現コンストラクトを形成するために、IgG1LC NheI-HindIIIフラグメントに連結された(16℃で一晩)。IgG1LC NheI-HindIIIフラグメントにおけるNheI制限部位は、最適化された軽鎖配列(配列番号6)におけるリボソーム結合配列AGGAGGのすぐ上流であるため、IgG1LC NheI-HindIIIフラグメントがNheI-HindIII-cut pPRO33ベクター内に挿入される場合には、IgG1LC配列がその好ましい大腸菌リボソーム結合配列を保持する。
【0093】
B.細菌性の細胞におけるIgG1重鎖および軽鎖の誘導性共発現
pBAD24-HC発現コンストラクトおよびpPRO33-LC発現コンストラクトは、大腸菌BL21内におよび大腸菌SHuffle(登録商標)Express細胞(NEB)内に、ヒートショック方法を用いて、同時形質転換された。形質転換されたBL21(pBAD24-HC/pPRO33-LC)およびSHuffle(登録商標)Express(pBAD24-HC/pPRO33-LC)細胞は、30マイクログラム/mLのCAMおよび100マイクログラム/mLのAMPの5mLのLB培地中で一晩37℃で増殖された。SHuffle(登録商標)Express細胞が、BL21細胞よりもよりゆっくりと増殖するようであるため、2%(100マイクロリットル)の一晩培養のSHuffle(登録商標)Express(pBAD24-HC/pPRO33-LC)、および1%の(50マイクロリットル)一晩培養のBL21(pBAD24-HC/pPRO33-LC)が、カザミノ酸および0.2%グリセロール入りの5mLのM9最少培地、プラス30マイクログラム/mLのCAMおよび100マイクログラム/mLのAMPを播種するために使用された。これらの培養が、OD600が約0.5になるまで増殖され、SHuffle(登録商標)Express(pBAD24-HC/pPRO33-LC)細胞については3.1時間、BL21(pBAD24-HC/pPRO33-LC)細胞については2.5時間であった。誘導前に、対照のサンプルが、誘導なく増殖される各培養から採取された。残りのSHuffle(登録商標)Express(pBAD24-HC/pPRO33-LC)およびBL21(pBAD24-HC/
pPRO33-LC)細胞培養は、その後、0.2%アラビノースおよび50mMプロピオネートを追加することにより誘導され、6時間非誘導の対照サンプルと並行してそれらを増殖した。その時間の最後に、全ての細胞培養が、細胞をペレットにするために遠心分離され、-80℃のフリーザに配置された。細胞のペレットは、氷上で溶かされ、細胞が、Complete Mini Protease Inhibitor Cocktail Tablet (Roche, Indianapolis, Indiana)が、リゾチームおよびヌクレアーゼを添加する前に10mLの天然の溶解バッファに添
加された場合、並びに、サンプルが4℃の代わりに25℃で遠心分離される場合を除いて、Qproteome Bacterial Lysisキット(QIAGEN)を用いて、製造者の説明書に従って溶解された。
【0094】
誘導された細胞および非誘導の対照から抽出される可溶性のタンパク質が、NuPAGE(登録商標)4から12%のビス-トリスゲル(Life Technologies, Grand Island, New York)上で還元条件下でSDSゲル電気泳動により分離された。ゲルは、RAPIDス
テイン(商標)(G-Biosciences, St. Louis, Missouri)を用いて染色された。図3に示されるように、タンパク質のバンド(重鎖)は、51kDaでおよび他のタンパク質のバンド(軽鎖)が26kDaで移動がみられ、これらのバンドが誘導された細胞では存在したが、非誘導細胞では存在しない。同じ可溶性のタンパク質が、誘導および非誘導のSHuffle(登録商標)Expressから抽出され、pBAD24-HCおよびpPRO
33-LC誘導性発現ベクターの両方を含むBL21細胞が、Novex(登録商標)10から20%トリス-グリシンゲル(Life Technologies)上で、天然(非還元)の条件下
で、ゲル電気泳動により分離された。ゲルは、RAPIDステイン(商標)(G-Biosciences)を用いて染色された。図4に示されるように、タンパク質バンド(重鎖および軽鎖
を含むIgG1抗体)は、154kDaで移動し、このバンドは誘導されたSHuffle(登録商標)Express細胞では存在するが、誘導されたBL21細胞および非誘導細胞では有意に低減されまたは存在しない。
【0095】
実施例2
細菌性の細胞で産生されるIgG1全長の抗体および発現コンストラクトの特徴づけ
A.発現ベクターの特徴づけ
pBAD24-HCおよびpPRO33-LC発現コンストラクトの配列は、必要に応じて設計された他のプライマーとともに、ジデオキシチェインターミネーションシーケンス反応(chain-termination sequencing reaction)を開始するために、以下の表に示さ
れるプライマーを使用することが確認される。米国特許第8178338B2号の図1Cに示されるように、prpBCDEプロモーターのヌクレオチド配列およびMCSの上流のpPRO24ベクターの領域が、pPRO発現ベクターのMCS内にクローン化される配列をコードする配列に対する少なくとも1つのフォワードオリゴヌクレオチドプライマーを設計するために使用される。
【0096】
【表4】
【0097】
B.ウエスタンブロットでのマウスIgG1全長の抗体の検出
実施例1に示されるように、電気泳動により抽出する可溶性のタンパク質を分離するために使用されるタンパク質ゲル(NuPAGE(登録商標)4から12%ビス-トリスゲルまたはNovex(登録商標)10から20%トリス-グリシンゲル)は、XCell II(商標)Blot Module (Life Technologies, Grand Island, New York)内に配置される。電
流は、製造者の説明書に従って、ゲルにアプライされ、ゲルからニトロセルロース膜へのタンパク質の転写をもたらす。ニトロセルロース膜は、その後、一次抗体、抗マウスIgGを用いて、4℃で一晩インキュベートされる。ニトロセルロース膜は、その後、非結合抗体を取り除くために洗浄され、二次抗体、アルカリホスファターゼに結合されたヤギ抗マウスIgGを用いて、室温で1時間インキュベートされる。ニトロセルロース膜は、その後、非結合二次抗体を取り除くために洗浄され、タンパク質のバンド(複数を含む)染色するために、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5-ブロモ-4-クロロ-インドリル-ホスフェート(BCIP)を含む溶液を用いてインキュベートされ、その後、過剰な染色液を取り除くために洗浄される。
【0098】
実施例3
共発現を促進するための宿主細胞内へのゲノム変異の導入
上記のように、宿主細胞の遺伝子発現におけるある変化は、所望の遺伝子産物(複数を
含む)の共発現を向上し得る。以下の欠失および変異が、ゲノム配列をシームレスに取り除く、対抗選択による欠失として記載される、リコンビニアリング方法を用いて、Gene Bridges GmbH (Heidelberg, Germany)により、大腸菌SHuffle(登録商標)Exp
ress宿主細胞ゲノムにおいてなされた。宿主細胞のaraBADオペロンの欠失が、アラビノース誘導物質のより多くが、araBADプロモーターを含む発現コンストラクトから共発現される遺伝子産物の誘導を可能にするように、宿主細胞によるアラビノース異化反応を低減するためになされた。この欠失は、いくつかのコドンのAraDコード領域以外の全てを通る天然のaraBADプロモーターのほとんどが除去されるように、大腸菌ゲノム(ゲノムヌクレオチド配列内の位置は、表1におけるように全て付与される)の70,135から65,867(マイナス鎖)の位置に対応する、araBADオペロンの4269塩基対を除去する。欠失接合部(位置70,136|位置65,866)の周囲のヌクレオチド配列(マイナス鎖)は、TTAT|TACGである。別の欠失が、sbm-ygfDGH(scpA-argK-scpBCともよばれる)オペロン内でなされ、外因的に供給されたプロピオネートに対して、宿主細胞のプロピオネート誘導性プロモーターの感受性を増加させるために、2-メチルシトレートの生合成を伴う遺伝子の機能を排除した。sbm-ygfDGH欠失は、5542塩基対(大腸菌ゲノムの位置3,058,754から3,064,295)を除去し、sbm-ygfDGHプロモーターおよびygfHコード配列の最後のコドン以外の全てのオペロンを取り出し、一方、隣接するygfIコード配列および停止コドンをそのまま残す。欠失接合部(位置3,058,753|位置3,064,296)の周囲のヌクレオチド配列(プラス鎖)は、ACAA|GGGTである。大腸菌SHuffle(登録商標)Express宿主細胞ゲノムでなされるこれらの欠失に加えて、Gene Bridges GmbHは、位置3,472,574から3,472,200までのマイナス鎖上に延びる、ゲノムrpsL遺伝子コード配列における点突然変異を導入し、位置3,472,447でAをGに変更し、Lys43のコドンをArgのコドンに変化させ、突然変異体rpsL-Arg43遺伝子が発現されるときにストレプトマイシン耐性表現型をもたらす。上記のような、より厳密な制御誘導性の発現を可能にする、宿主細胞ゲノムに対する別の変異は、アラビノースに応答性があるよりもむしろ常時発現のaraEプロモーターを作成することである。CRP-cAMPおよびAraC結合部位を含む、ほとんどの天然のaraEプロモーターは、97塩基対(位置2,980,335から2,980,239(マイナス鎖))を欠失させ、および常時発現のJ23104プロモーターの35塩基対の配列を有するその配列を置換することにより取り除かれ、接合部の部位の配列、TGAA|TTGA←J23104プロモーター→TAGC|TTCAをもたらした。大腸菌SHuffle(登録商標)Express宿主細胞のような大腸菌宿主細胞は、あらゆるこれらのゲノム変異、またはあらゆるそれらの組み合わせとともに、遺伝子産物の誘導性共発現において採用され得る。
【0099】
実施例4
ヘムの存在下における、マンガンペルオキシダーゼおよびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼの誘導性共発現
A.発現ベクターの構造
マンガンペルオキシダーゼ(「MnP」、マンガン依存性ペルオキシダーゼともよばれる)は、いくつかのタイプの真菌類が、リグニンを二酸化炭素に分解し、多種多様な有機汚染物質の酸化を媒介することを可能にする酵素である。マンガンペルオキシダーゼの一例は、白色腐朽菌類ファネロケーテ・クリソスポリウム(UniProtKB/Swiss-Prot受入番号P19136)のH4アイソザイム(本明細書では「MnP-H4」と記載する)である。その機能的な形態では、MnP-H4は、マンガンイオン(Mn2)、鉄を含有するヘム分子、および2つのカルシウムイオン(Ca2)を伴い、また、MnP-H4は、5つのジスルフィド結合を有する(Sundaramoorthy et al., "The crystal structure of manganese peroxidase from Phanerochaete chrysosporium at 2.
06-Åresolution", J Biol Chem 1994 Dec 30; 269(52): 32759-32767)。MnP-H4
酵素の熱失活は、MnP-H4およびカルシウムイオン間の相互作用の喪失を伴う。MnP-H4 A48C/A63C変異体のように、末端のカルシウム相互作用部位付近の2つの位置で別のアミノ酸にシステインを置換するために、アミノ酸配列MnP-H4を変更することによりMnP-H4における追加のジスルフィド結合を作成することは、結果としてもたらされる、熱失活に対してより耐性のあるMnP-H4 A48C/A63C酵素を作成する(Reading and Aust, "Engineering a disulfide bond in recombinant manganese peroxidase results in increased thermostability", Biotechnol Prog 2000 May-Jun; 16(3): 326-333)。ジスルフィド結合の形成を促進する方法においてMnP-
H4を発現するために、タンパク質が宿主細胞(大腸菌SHuffle(登録商標)Express)の酸化する細胞環境で変化しないように、発現コンストラクトがシグナルペプチドを欠くMnP-H4酵素をコードして作成された。
【0100】
シグナルペプチドがないMnP-H4のアミノ酸配列が配列番号13として示され、Pease et al., "Manganese-dependent peroxidase from Phanerochaete chrysosporium. Primary structure deduced from cDNA sequence", J Biol Chem 1989 Aug 15; 264(23): 13531-13535に記載されるように、MnP-H4タンパク質のこの形態は、全長のアミノ酸配列のA14で開始する、予測される成熟したアミノ酸配列に結合される最初のメチオニン残基を有する。他の参照文献では、Sundaramoorthy et al., "The crystal structure of manganese peroxidase from Phanerochaete chrysosporium at 2.06-Åresolution", J Biol Chem 1994 Dec 30; 269(52): 32759-32767のように、成熟したMnP-H4アミ
ノ酸配列は、全長のアミノ酸配列のA25で開始することが示される。配列番号13のアミノ酸13から370を含むタンパク質(より短い成熟したアミノ酸配列に対応する)は、また、本発明の方法により産生され、ある実施形態では、配列番号13のアミノ酸13から370に結合される最初のメチオニン残基を有し、よって、配列番号23として示されるアミノ酸配列を有する。大腸菌におけるMnP-H4を形成する配列番号13の発現について最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号14として示され、配列番号14を含む発現コンストラクトは、MnP-H4を発現するために本発明の方法において使用された。配列番号14のヌクレオチド37から1110は、より短いMnP-H4成熟アミノ酸配列(全長のアミノ酸配列のA25で開始する)をコードし、配列番号14のヌクレオチド37から1110を含むポリヌクレオチドは、MnP-H4タンパク質の産生について本発明のいくつかの実施形態で使用され、ある実施形態では、配列番号14のヌクレオチド37から1110のヌクレオチド配列の5’末端に結合される最初のメチオニン残基についてのATGコドンを含む。
【0101】
同様の発現コンストラクトが、A48C/A63C MnP-H4タンパク質に対応し、シグナルペプチド(配列番号15として示されるアミノ酸配列、配列番号16として示される最適化コード配列)を欠く、MnP-H4タンパク質の発現のために作成される。より短い成熟したMnP-H4アミノ酸配列と比較して、配列番号15における追加の12のアミノ酸に起因して、アラニンからシステインへの変異が、配列番号15にA60C/A75Cとして示される。本発明の方法で使用される発現コンストラクトの追加の例は、配列番号15を含むタンパク質、または配列番号15のアミノ酸13から370、または配列番号15のアミノ酸13から370と結合された最初のメチオニン残基をコードする。ある実施形態では、本発明の方法で使用される発現コンストラクトは、配列番号16、または配列番号16のヌクレオチド37から1110、または配列番号16のヌクレオチド配列37から1110の5’末端に結語される最初のメチオニン残基についてのATGコドンを含む。MnP-H4アミノ酸配列の別の変異は、全長アミノ酸配列の位置105で生じ、セリンがアスパラギンに変化する。本発明の方法は、配列番号14または配列番号16の位置278でGがAに変更されて、セリンについてのAGCコドンがアスパラギンについてのAACコドンに変化しているヌクレオチド配列を含む発現コンストラクト
により、この変異(配列番号13または配列番号15の位置93でアスパラギンに変化するセリン)を有するMnP-H4タンパク質を産生するために使用される。
【0102】
MnP-H4におけるジスルフィド結合の形成を促進することに加えて、十分に活性化したMnP-H4酵素を産生するために、酵素は、ヘムの存在下で最適に発現される。大腸菌宿主細胞が、培地からヘミンのようなヘムを含有する分子を吸収することを可能にするために、大腸菌O157:H7 ChuA外膜ヘミン-特異的受容体をコードするヌクレオチド配列もまた、MnP-H4発現コンストラクトに含まれる。ChuAポリペプチドは、大腸菌宿主細胞の外膜内に挿入されるように、天然の大腸菌O157:H7株EC4113 ChuAタンパク質(配列番号17)のような、シグナルペプチドを含む、同じN末端アミノ酸配列を有する。ChuAポリペプチド(配列番号17)についての最適化されたコード配列は、配列番号19の位置68から2047で示される。大腸菌O157:H7株EC4113由来の、配列番号17に示されるChuAアミノ酸配列は、配列番号17の位置106でイソロイシン(CFT073)に代えてバリン(EC4113)を有することにより、大腸菌CFT073(NCBI遺伝子ID番号1037196)由来のChuAアミノ酸配列のそれとは異なる。ChuAアミノ酸配列におけるV106Iの変化は、配列番号19の位置383から385で、GTG ValコドンにおけるATTまたはATC Ileコドンへの変化によりコードされ得る。ヘム関連タンパク質の発現において使用されるChuAタンパク質のアミノ酸配列における他の変異は、例えば、配列番号17の位置259でのグルタミン酸からグリシンへの変化(配列番号19の位置842から844で、GAG GluコドンにおけるGGTまたはGGC Glyコドンへの変化によりコードされる)、または配列番号17の位置262でグルタミン酸からアスパラギンへの変化(配列番号19の位置851から853でGAG GluコドンにおけるGATまたはGAC Aspコドンへの変化によりコードされる)を含む。
【0103】
配列番号18、19、および22に対応するポリヌクレオチドの合成および大腸菌における発現についての最適化が、DNA2.0(Menlo Park, CA)により行われた。配列番号18は、MnP-H4タンパク質をコードし、誘導性プロモーターのようなプロモーターのすぐ下流に挿入されるように設計される。配列番号18のヌクレオチド配列は、GCTAGC NheI制限部位を有するその5’末端で開始し、配列番号18のヌクレオチド7から12でAGGAGGリボソーム結合部位、続いて、最適化された配列番号18のヌクレオチド21から1130でMnP-H4コード配列を有する。MnP-H4停止コドンの下流は、配列番号18の位置1142から1270の位置B0015ダブルターミネーターであり、TCTAGA XbaI制限部位が続く。B0015ダブルターミネーターのヌクレオチド配列は、partsregistry.orgのウェブサイトから得られた。配列番号
19はChuAをコードし、構成的プロモーターを含み、そのためChuAについてのこの発現コンストラクトは、あらゆる発現ベクターにまたは宿主細胞ゲノム内に配置され得、ChuAコード配列は、J23104構成的プロモーターの制御下で配置されたので、その転写はもはやFurによる抑制に供されなかった。本実施形態では、配列番号19は、TCTAGA XbaI制限部位によりその5’末端で開始し、配列番号18の配列に対する発現ベクター3’内に配置されるように設計される。配列番号19のヌクレオチド7から41はJ23104構成的プロモーターであり、配列番号19のヌクレオチド50から61はB0034リボソーム結合部位であり、両方が配列番号19のヌクレオチド68から2047でChuAのコード配列の上流に配置され、J23104およびB0034のヌクレオチド配列は、partsregistry.orgのウェブサイトから得られた。配列番号1
9は、GTCGAC SalI制限部位により終了する。配列番号18および配列番号19におけるXbaI部位は、これらのヌクレオチド配列がXbaI部位でとともに結合されることを可能にし、結果として得られるMnP-H4 ChuA発現コンストラクトのヌクレオチド配列が配列番号20に示される。配列番号18および配列番号19におけるNheIおよびSalI部位は、それぞれ、および配列番号20において、MnP-H4
ChuA発現コンストラクトが、そのマルチクローニングサイトでNheIおよびSalI制限部位を用いてpPRO33のような発現ベクター内に挿入されることを可能にする。
【0104】
正しく折り畳まれたMnP-H4酵素の産生を促進するために、MnP-H4は、ヒューミコラ・インソレンス(Humicola insolens)、好熱性、セルロース分解性、および腐
生性土壌糸状菌(saprophytic soil hyphomycete)(軟腐カビ(soft-rot fungus))由来
のシャペロンタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(「PDI」)により共発現された。PDIのアミノ酸配列は、配列番号21に示されるように、共発現され、MnP-H4ポリペプチドが産生されるときに、宿主細胞の細胞質に残るように、天然のタンパク質のシグナルペプチドを欠く。PDIをコードするヌクレオチド配列は、また、大腸菌における発現のために最適化され、PDIの発現コンストラクトは、配列番号22として示される。配列番号22は、その5’末端にGCTAGC NheI制限部位、ヌクレオチド7から12でAGGAGGリボソーム結合部位、ヌクレオチド21から1478でPDIコード配列、およびその3’末端でGTCGAC SalI制限部位を含む。配列番号22のヌクレオチド配列は、誘導性プロモーターのように、プロモーターのすぐ下流で挿入されるように設計された。配列番号22におけるNheIおよびSalI制限部位は、pBAD24発現ベクターのマルチクローニングサイト内に挿入するために使用された。
【0105】
配列番号20および配列番号22、並びにpPRO33およびpBAD24ベクターを含む合成された発現コンストラクトは、NheIおよびSalI制限酵素により切断され、合成された発現コンストラクトフラグメントは、すぐ上におよび実施例1に記載されているように、pPRO33-MnP-ChuAおよびpBAD24-PDIを作成するためにベクター内で結合された。大腸菌SHuffle(登録商標)Express細胞(New England Biolabs (または「NEB」), Ipswich, Massachusetts)は、結果としてもたらされる発現ベクター(pPRO33-MnP-ChuAおよびpBAD24-PDI)で、ヒートショック方法を用いて、同時形質転換された。
【0106】
B.細菌性の細胞におけるマンガンペルオキシダーゼおよびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼの誘導性共発現
pPRO33-MnP-ChuAおよびpBAD24-PDI発現ベクターにより同時形質転換される宿主細胞(SHuffle(登録商標)Express(pPRO33-MnP-ChuA/pBAD24-PDI)細胞)が、それぞれ、5mlのLB培地プラス34マイクログラム/mLCAMおよび100マイクログラム/mLAMPを含む、4つの振盪チューブに播種されるために使用された。16時間のインキュベーション後(30℃、250RPMでの回転振盪)、細胞は、4℃で10分間、4000rpmでスピンされ、LB培地がデカントして出され、細胞は、カザミノ酸および0.2%グリセロールを有する4×400マイクロリットルのM9最少培地、プラス34マイクログラム/mLのCAMおよび100マイクログラム/mLのAMP(「M9-CA-gly+CAM+AMP」)で、再懸濁された。その後、組み合わされた量の1.6mlの再懸濁された細胞のうち75マイクロリットルが、5mlのM9-CA-gly+CAM+AMPを含む10の振盪チューブにそれぞれ添加され、得られた培養のOD600が0.6となるように測定された。ヘミン(Sigma-Aldrich, St. Louis, Missouri)が、チューブ1、非誘導の対照以外の全てのチューブにおいて、最終濃度の8マイクロモル濃度に添加された。L-アラビノースおよびプロピオネート誘導物質が、以下の濃度におけるチューブ2から10に添加された。
チューブ1:非誘導(ヘミンなし、プロピオネートなし、アラビノースなし)
チューブ2:50mMプロピオネート 0.002%アラビノース
チューブ3:25mMプロピオネート 0.002%アラビノース
チューブ4:12.5mMプロピオネート 0.002%アラビノース
チューブ5:50mMプロピオネート 0.01%アラビノース
チューブ6:25mMプロピオネート 0.01%アラビノース
チューブ7:12.5mMプロピオネート 0.01%アラビノース
チューブ8:50mMプロピオネート 0.05%アラビノース
チューブ9:25mMプロピオネート 0.05%アラビノース
チューブ10:12.5mMプロピオネート 0.05%アラビノース
【0107】
細胞は、回転振盪しながら25℃で12時間誘導され、その後、スピンダウンされて、-80℃のフリーザに置かれた。細胞のペレットは、氷上で溶かされ、細胞がQproteome Bacterial Lysisキット(QIAGEN)を用いて、製造者の説明書に従って溶解され、プロテアーゼインヒビター反応混液(Protease Inhibitor Cocktail)は添加されず、サンプルは
4℃で遠心分離された。誘導された細胞および非誘導の対照から抽出する可溶性のタンパク質は、10%ビス-トリスゲル(Life Technologies, Grand Island, New York)上で
、還元条件下でSDSゲル電気泳動により分離された。ゲルは、RAPIDステイン(商標)(G-Biosciences)を用いて染色された。図5に示されるように、誘導された細胞由
来のライセートは、PDI(53kDa)およびMnP-H4(39kDa)に対応するタンパク質を含み、これらのタンパク質が、細菌性の細胞における可溶性のタンパク質として発現されることを示した。可溶性のMnP-H4の最大量は、50mMプロピオネートおよび0.002%アラビノース(レーン2)を用いる誘導により産生された。
【0108】
C.タンパク質ジスルフィドイソメラーゼとともにマンガンペルオキシダーゼの代替的な成熟形態の誘導性共発現、およびMnP-H4活性の測定
発現ベクターは、MnP-H4_FTとして言及され、Sundaramoorthy et al., 1994
(上記に引用される)に記載されるようにMnP-H4タンパク質の成熟したバージョンに対応する、より十分に切断されたバージョンのMnP-H4を発現するために調製された。MnP-H4_FTアミノ酸配列は、よって、配列番号13のアミノ酸13から370に結合される最初のメチオニン残基を有し、配列番号23として提供される。本実験においては、大腸菌における発現のために最適化されたMnP-H4_FTコード配列(上記のように、最適化されたMnP-H4コード配列由来)、およびChuAコード配列は、pBAD24ベクターで発現され、PDIコード配列(上記のように、同様に大腸菌における発現のために最適化された)は、pPRO33ベクターで発現された。pBAD24-MnP_FT-ChuA発現コンストラクトが、配列番号24および25のフォワードおよびリバースプライマーをそれぞれ用いて、MnP-H4コード配列および配列番号18のヌクレオチド配列を含むテンプレート由来のターミネーターをPCR増幅することにより調製された。配列番号24のフォワードプライマーの使用は、配列番号13のアミノ酸13から370についてのコード配列のすぐ上流にNcoI制限部位およびATGコドンを配置し、その後、配列番号23のMnP-H4_FTアミノ酸配列についてのコード配列を作成する。ChuA発現コンストラクトの配列は、配列番号26および27のフォワードおよびリバースプライマーをそれぞれ用いて、配列番号19のヌクレオチド配列を含むテンプレートからPCR増幅された。MnP-H4_FTおよびChuAのPCR産物は、NcoIおよびSalIで、並びにSalIおよびHindIIIでそれぞれ切断され、ゲル精製されて、pBAD24ベクター内にともに結合され、NcoIおよびHindIIIで切断され、CIP処理され、およびゲル精製された。結合されたpBAD24-MnP_FT-ChuA産物は、pBADプロモーターから発現されるMnP-H4_FTコード配列を含み、B0015ダブルターミネーター、J23104常時発現プロモーター、B0034リボソーム結合部位、およびChuAタンパク質コード配列が続いた。このpBAD24-MnP_FT-ChuA発現コンストラクトは、配列番号28で提供されるヌクレオチド配列を有する。
【0109】
pPRO33-PDI発現コンストラクトは、上記のような大腸菌における発現のため
に最適化され、配列番号22のヌクレオチド配列を含む、pPRO33ベクターおよびPDI発現コンストラクトをNheIおよびSalIにより切断すること、切断されたpPRO33ベクターをCIPで処理すること、フラグメントをゲル精製すること、およびともにそれらを結合することにより作成された。結果として得られたpPRO33-PDI発現コンストラクトは、配列番号29で提供されるヌクレオチド配列を有する。pBAD24-MnP_FT-ChuAおよびpPRO33-PDI発現コンストラクトは、SHuffle(登録商標)Express(pBAD24-MnP_FT-ChuA/pPRO33-PDI)細胞を形成するために、37℃で一晩、大腸菌SHuffle(登録商標)Express細胞(NEB)を同時形質転換するために使用された。
【0110】
SHuffle(登録商標)Express(pBAD24-MnP_FT-ChuA/pPRO33-PDI)および対照SHuffle(登録商標)Express(pBAD24/pPRO33)細胞が、5ミリリットルのLB培地+CAM(34マイクログラム/ミリリットル)+AMP(100マイクログラム/ミリリットル)を播種するために使用され、250rpmで振盪しながら30℃で一晩増殖させた。細胞は、4℃で10分間、4000rpmでスピンダウンされ、まず、400マイクロリットルのM9最小(CA_グリセロールなし:炭素源としてのカザミノ酸はあるが、グリセロールなし)+CAM+AMP培地で再懸濁され、その後、75マイクロリットルのそれが、5ミリリットルのM9(CA_グリセロールなし)最少培地+CAM+AMPに添加された。培養後に、250rpmで振盪しながら30℃で増殖され、0.6のOD600に達すると、10の一定分量のSHuffle(登録商標)Express(pBAD24-MnP_FT-ChuA/pPRO33-PDI)細胞が採取されて、ヘミンの濃度並びにアラビノースおよびプロピオネート誘導物質の濃度を異ならせて誘導された。サンプル1、対照は、ヘミンなし、誘導物質なしであり、残りの9つのサンプルは、最終濃度が8マイクロモル濃度に添加されたヘミン、0.025%、0.05%、または0.1%のアラビノース濃度、および12.5mM、25mM、または50mMのプロピオネート濃度を有した。対照のSHuffle(登録商標)Express(pBAD24/pPRO33)細胞(挿入なし)は、また、「誘導」サンプルおよび非誘導の対照サンプルとともに、誘導プロセスに含まれた。細胞は、250rpmで振盪しながら25℃で12時間誘導され、その後、スピンダウンされて、-80℃で保存された。誘導された共発現により産生されたタンパク質を可視化するために、凍結された細胞ペレットは、説明書に従って、Qproteome Bacterial Lysisキット(QIAGEN)を用いて溶かされて溶解されたが、溶解バッフ
ァの35マイクロリットルを細菌培養の各1マイクロリットルに使用した。SHuffle(登録商標)Express(pBAD24-MnP_FT-ChuA/pPRO33-PDI)誘導細胞および非誘導の対照から抽出された可溶性のタンパク質は、10%ビス-トリスゲル上で、還元条件下でSDSゲル電気泳動により分離され、サンプルは、ゲル上にロードされる前に、70℃で10分間加熱された。RAPID染色(商標)(ゲルは示されない)によるゲル染色後に、非誘導の対照以外の全ての誘導されたサンプルにおけるMnP-H4_FTおよびPDIに対応する可視的なバンドがあり、ゲル上の明らかな密度のバントが、0.1%アラビノースおよび50mMプロピオネートの組み合わせが最もMnP-H4_FTタンパク質を産生すること、およびより高いアラビノース濃度が、概して、より多くのMnP-H4_FTを産生するが、より低いアラビノース濃度は、概して、より多くのPDIを産生し、おそらくアラビノースによるプロピオネートプロモーターのカタボライト抑制に起因することを示した。
【0111】
誘導性共発現により産生されるMnP-H4_FTの活性化レベルを測定するために、0.1%アラビノースおよび50mMプロピオネートでの、MnP-H4_FTタンパク質の共発現由来の、0.5ミリリットルの可用性細胞の溶解分画が、0.5ミリリットルの20,000MWCO(分画分子量)Slide-A-Lyzer(登録商標)(Thermo Fisher Scientific Inc., Waltham MA)を用いて、10ミリモル濃度の酢酸ナトリウム
、5ミリモル濃度のCaCl、ph4.5に対して透析された。サンプルは、4℃で2時間透析され、バッファを新鮮なバッファに替えて、透析を4℃で一晩継続した。透析の最後にタンパク質の析出があるが、MnP-H4_FTタンパク質は、ゲル電気泳動により、および比色酵素活性分析により示されるように、可溶性で活性化したままであった。SHuffle(登録商標)Express(pBAD24-MnP_FT-ChuA/pPRO33-PDI)非誘導の対照細胞から、および非挿入のSHuffle(登録商標)Express(pBAD24/pPRO33)誘導および非誘導の対照細胞から得られる、可溶性タンパク質分画とともにMnP-H4_FTを含む、透析されたタンパク質サンプルは、10%ビス-トリスゲル上で還元条件下でSDSゲル電気泳動により分離され、サンプルは、ゲル上にロードする前に10分間70℃で加熱された。図6に示されるように、RAPIDステイン(商標)によりゲルを染色した後に、PDI(54kDa)およびMnP-H4_FT(38kDa)に対応するバンドが、0.1%アラビノースおよび50mMプロピオネートにおける共発現により産生される、透析されたタンパク質サンプルにおいて明らかに可視的であり(図6、レーン2)、対照サンプル(レーン3のSHuffle(登録商標)Express(pBAD24-MnP_FT-ChuA/
pPRO33-PDI)非誘導対照、レーン4の非挿入の誘導された対照、レーン5の非挿入の非誘導対照のいずれも可視的ではない。誘導性共発現により産生されるMnP-H4_FTタンパク質の酵素活性は、以下の実施例4のセクションEで記載される、比色マンガンペルオキシダーゼ分析を用いて分析され、共発現されたMnP-H4_FTタンパク質は、陽性対照MnPサンプルのそれに対して比較可能なマンガンペルオキシダーゼ活性を有することが示された。
【0112】
D.マンガンペルオキシダーゼの産生および精製
MnP-ChuAおよびPDI発現ベクターにより同時形質転換された宿主細胞は、クロラムフェニコールおよびアンピシリンを含むLBプレートに画線される。単一のコロニーが選択され、それぞれが15mlのLB+CAM+AMP培地を含む振盪チューブに播種するために使用される。固定相培養を生成するための十分な長さの時間のインキュベーション(30~37℃で、250RPMで回転振盪とともに)後に、成功的な増殖を有する各チューブから5mlが、100mlのLB+CAM+AMP培地を含むErlenmeyer振盪フラスコに播種するために使用される。固定相培養を生成するのに十分なさらなるインキュベーション(30~37℃で、250RPMで回転振盪とともに)後に、各振盪フラスコからのサンプルが、適切な細胞密度かについて確認される。振盪フラスコからの適切な量が、滅菌されてpH較正されたバイオリアクタ内に導入され、攪拌しながら30~37℃で増殖させ、一定期間の増殖後に、細胞が約0.5のOD600に達するまで、ヘミンまたは他のヘムのソースを含む培地で細胞が増殖される。細胞は、その後、アラビノースおよびプロピオネート、例えば、0.02%アラビノースおよび50mMプロピオネートを添加することにより、または実施例7の滴定方法により測定されるように、誘導され、攪拌しながら25から30℃で増殖が継続される。インキュベーション後に、細胞は、増殖培地から回収され、溶解され、溶解上清(可溶性タンパク質抽出物)が収集される。MnP-H4タンパク質は、サイズ排除カラムまたはイオン交換カラムとともに高速蛋白質液体クロマトグラフィー(FPLC)のような方法を用いて可溶性タンパク質抽出物から精製される。
【0113】
E.マンガンペルオキシダーゼ活性についての分析
サンプルにおけるマンガンペルオキシダーゼ活性の量、従って、活性化マンガンペルオキシダーゼの濃度は、マンガンおよび過酸化水素の存在下で、コエルリグノン(coerulignone)に2,6-ジメトキシフェノール(2,6-DMP)を酸化するための性能についてそれを試験することにより測定され得る。以下の分析が10マイクロリットルのサンプルについてであり、1マイクロリットルサンプルの代替量は括弧中に示される。以下の0.590mlのdHO(0.599mlのdHO);0.1mlマロン酸ジナトリウ
ム塩一水和物(MDSH)溶液(60mlのdHO,pH4.5における5gのMDSH);および0.1mlのMnSO・HO溶液(90mlのdHOにおける0.06gのMnSO・HO)が、サンプルの添加前に、分光光度計キュベットに添加される。測定の直前に、0.1mlの2,6-DMP溶液(90mlのdHOにおける0.014gの2,6-ジメトキシフェノール)および10マイクロリットル(1マイクロリットル)サンプルがキュベットに添加される。キュベットは、分光光度計に配置され、469nmでゼロに合わせられ、0.1mlの新鮮なH(30mlのdHOにおける3.4マイクロリットル30%H)が、その後、キュベットに添加される。キュベットの内容物は、3回のピペッティングの上下により混合される。Hの追加後の1分で、469nmでODが測定される。ODが0.2より大きい場合、サンプルのサイズは1マイクロリットルに減少され、または測定されるサンプルは希釈され、ODが0.005未満である場合、サンプルサイズは0.1mlに増加され、dHOの量は0.500mlに減少され、全ての他の量は同じままにし、分析は、その後、繰り返される。
【0114】
測定された吸光度は、以下の式に従って、ユニット/Lにおける酵素濃度(EC)を算出するために使用される:
EC[U/L]=(吸光度)(分析量[ml])(10μmol/mol)(1cm)/[(ε1cm)*(サンプル量[ml])]
ここで、ε1cm=49600吸光度/M・cm・minおよび経路長=1cmである。上記で計算された酵素濃度は、以下の式に従って、mg/Lに換算される:EC[mg/L]=酵素濃度[U/L]/酵素特異的活性[U/mg]、
ここで、MnPについての標準的な酵素特異的活性は、160U/mgである。酵素特異的活性は、mg/Lで、サンプルにおけるタンパク質の濃度を個別に測定することにより、例えば、280nmで分光光度的な分析により、あらゆるMnPサンプルについて算出される。酵素濃度(EC)が上記2,6-DMP酸化分析を用いて測定され、U/mgでの特異的活性が、EC[U/L]/濃度[mg/L]=特異的活性[U/mg]として算出される。
【0115】
実施例5
インフリキシマブの誘導性共発現
インフリキシマブは、TNFアルファ、炎症性サイトカインに結合するキメラモノクローナル抗体であり、自己免疫疾患(クローン病、リウマチ性関節炎、乾癬等)のようなTNFアルファを伴う症状の治療において使用される。インフリキシマブは、重鎖(配列番号30として示されるアミノ酸配列)および軽鎖(配列番号31として示されるアミノ酸配列)から形成され、これらの鎖のそれぞれは、マウス抗TNFアルファ抗体の可変ドメイン配列、およびヒト定常ドメインを有する。大腸菌における発現のためのコドン最適化および配列番号30および31をコードするポリヌクレオチドの合成は、DNA2.0(Menlo Park, CA)により行われた。pBAD24発現ベクターのマルチクローニングサイト(MCS)内にインフリキシマブ重鎖についての最適化コード配列を結合することにより形成される発現コンストラクトは、pBAD24-インフリキシマブ_HCであり、配列番号32として示されるヌクレオチド配列を有する。pPRO33発現ベクターのMCS内にインフリキシマブ軽鎖についての最適化コード配列を結合することにより形成される発現コンストラクトは、pPRO33-インフリキシマブ_LCであり、配列番号33で示されるヌクレオチド配列を有する。pBAD24-インフリキシマブ_HCおよびpPRO33-インフリキシマブ_LC発現コンストラクトは、大腸菌SHuffle(登録商標)Express細胞(NEB)を、37℃で一晩形質転換するために使用され、SHuffle(登録商標)Express(pBAD24-インフリキシマブ_HC/pPRO33-インフリキシマブ_LC)細胞を作成する。これらの細胞は、概して、実施例1および4に記載されるように増殖され、鉄が好ましいが、任意に、例えば、FeSO・7HOの形態で1リットル当たり3.0ミリグラムの濃度でLB増殖培地に添加
される場合を除いて、必要に応じて、アンピシリンおよび/またはクロラムフェニコールのような選択的な化合物の追加を含む。細胞は、スピンダウンされて、M9培地で再懸濁され、好ましいが任意に、カザミノ酸(炭素源となるとともに、必須アミノ酸を提供する)とともに炭素源として追加されるアセテート(例えば、0.27%酢酸ナトリウム(CNa))を伴い、また、好ましいが任意に、上記のような培地の鉄補充を伴い、培養の光学的密度(OD600)が0.8に達するまで増殖させる(Paliy and Gunasekera, "Growth of E. coli BL21 in minimal media with different gluconeogenic carbon sources and salt contents", Appl Microbiol Biotechnol 2007 Jan; 73(5): 1169-1172; Epub 2006 Aug 30; Erratum in: Appl Microbiol Biotechnol 2006 Dec; 73(4): 968参照)。そのポイントで、細胞が、アラビノース(最初に、0.1%を含む濃度で)お
よびプロピオネート(最初に、50mMを含む濃度で)の添加により誘導される。アラビノースおよびプロピオネートの濃度の調節が、実施例7に記載されるようになされ得、産生されるインフリキシマブ抗体は、実施例9から実施例11に記載されるように精製されまたは特徴づけられる。
【0116】
実施例6
酵母細胞におけるタンパク質の誘導性共発現
PDIを有するMnP-H4_FTの酵母宿主細胞における誘導性共発現についての発現コンストラクトおよびマウスの抗ヒトCD19IgG1抗体重鎖および軽鎖の発現コンストラクトは、GenWay Biotech Inc.(San Diego CA)により行われた以下の方法により
作成された。pJ1231-03CおよびpJ1234-03Cベクター(DNA2.0, Menlo Park, CA)が、それらが、pJ1231-03CにおけるKanR(大腸菌)およびLeu2(酵母);pJ1234-03CにおけるAmpR(大腸菌)およびUra3(酵母)のいずれかにおいて有用な選択的なマーカーとともに、大腸菌(pUC複製起点)またはサッカロマイセス・セレビシエの(2ミクロンサークルの複製起点)のいずれかの宿主におけるプラスミド保持のために必要な要素を含む場合に、酵母発現コンストラクトの主鎖部分として使用された。pJ1231-03CおよびpJ1234-03Cベクターのヌクレオチド配列は、配列番号34および35としてそれぞれ示される。pJ1231-03CおよびpJ1234-03Cベクターは、BfuA1制限エンドヌクレアーゼ(NEB、カタログ番号R0701S)で処理され、BfuA1消化後に保持されなかったベクターのフラグメントは、発現プロモーター、DasherGFPコード配列、およびCYC1ターミネーター配列を含む。PCRが、BfuA1-cut pJ1231-03CおよびpJ1234-03Cベクター内にその後結合される配列を作成するために発現されるポリペプチドについてのコード配列の生成を含む4つの発現コンストラクトで行われた。全てのPCR反応が、Platinum(登録商標)Pfx DNAポリメラーゼ(Life Technologies,Grand Island, New York,カタログ番号11708021
)を用いて行われ、QIAEXII DNA精製キット(QIAGEN,カタログ番号20051)が、製造者の説明書にしたがって、PCR産物およびベクターフラグメントの精製のために使用された。
【0117】
AraCコード配列、pBADアラビノース誘導性プロモーター、並びにMnP-H4_FTおよびChuAコード配列を含む、pBAD24-MnP_FT-ChuA発現コンストラクト(配列番号28)は、ベクター内のクローニングのためのMnP-H4_FTコード配列およびChuAコード配列、並びにBsaI制限部位のC末端で6xHisタグを追加するために、2つの別個のPCR反応におけるテンプレートとして使用される。(好ましいが任意に、ChuAコード配列が、そのC末端でHisタグを添加することで変異されない;これは、配列番号39のそれであるが、配列番号39の塩基21から38がないものに対する配列に似ているプライマーを用いることにより達成され得る。)これらの2つのPCR反応で使用されるプライマーは、(1)BsaI-AraC-MnP-H4_FTプライマー(配列番号36)およびMnP-H4_FT-6xHis-リバ
ースプライマー(配列番号37)、並びに(2)MnP-H4_FT-6xHis-フォワードプライマー(配列番号38)およびChuA-6xHis-BsaIプライマー(配列番号39)である。さらなるPCR反応が、その後、BsaI(NEB,カタログ番号R0535S)で精製されて切断され、T4DNAリガーゼ(Life Technologies,カタログ番号15224025)を用いてBfuA1-cut pJ1231-03Cベクター内に結合されて、単一の産物(AraC-MnP-H4_FT-ChuA、配列番号40)を作成するために、BsaI-AraC-MnP-H4_FTおよびChuA-6xHis-BsaIプライマーを用いて、2つの精製されたPCR産物上で行われ、pJ1231-AraC-MnP-H4_FT-ChuA発現コンストラクトを作成する。(好ましくは、BsaI-cut AraC-MnP-H4_FT-ChuAフラグメントは、また、BfuA1-cut pJ1234-03Cベクター内に結合されて、pJ1234-AraC-MnP-H4_FT-ChuA発現コンストラクトを作成する。)
【0118】
PrpRコード配列、pPROプロピオネート誘導性プロモーター、およびPDIコード配列を含む、pPRO33-PDI発現コンストラクト(配列番号29)が、PCR反応におけるテンプレートとして使用され、PDIコード配列のC末端で5xHisタグ、およびベクター内でクローニングするためのBsaI制限部位を加えた。(好ましいが任意に、PDIコード配列は、そのC末端でHisを添加することで変異されない;これは、配列番号42のそれであるが、配列番号42の塩基21から35がないものに対する配列に似ているプライマーを用いることにより達成され得る。)このPCR反応で使用されるプライマーは、BsaI-PrpR-PDIプライマー(配列番号41)およびPDI-5xHis-BsaIプライマー(配列番号42)であって、pJ1231-PrpR-PDI発現コンストラクトを作成するために、精製され、BsaIで切断され、T4DNAリガーゼを用いてBfuA1-cut pJ1231-03Cベクター内に結合されたPCR産物(PrpR-PDI,配列番号43)を作成した。(好ましくは、BsaI-cut PrpR-PDIフラグメントは、また、pJ1234-PrpR-PDI発現コンストラクトを作成するためにBfuA1-cut pJ1234-03Cベクター内に結合される。)
【0119】
マウスの抗ヒトCD19IgG1重鎖およびマウスの抗ヒトCD19IgG1軽鎖-pBAD24-HCおよびpPRO33-LCをコードする発現コンストラクトは、各コード配列からシグナル配列を取り除くため、およびベクター内でクローニングするBsaI制限部位を追加するために、2つの別個の各PCR反応において、テンプレートとしてそれぞれ使用された。pBAD24-HCに関し、これらの2つのPCR反応において使用されるプライマーは、(1)BsaI-AraC-HC-フォワードプライマー(配列番号44)およびHC-リバースプライマー(配列番号45)、並びに(2)HC-フォワードプライマー(配列番号46)およびHC-BsaI-リバースプライマー(配列番号47)であった。pPRO33-LCに関し、これらの2つのPCR反応において使用されるプライマーは、(1)BsaI-PrpR-LC-フォワードプライマー(配列番号48)およびLC-リバースプライマー(配列番号49)、並びに(2)LC-フォワードプライマー(配列番号50)およびLC-BsaI-リバースプライマー(配列番号51)であった。これらの反応におけるBsaI-AraC-HC-フォワードプライマー(配列番号44)およびBsaI-PrpR-LC-フォワードプライマー(配列番号48)の使用は、HC_NS(シグナルなし)およびLC_NSとして言及される、シグナル配列を欠くHCおよびLCコード配列をもたらし、変更されたHC_NSコード配列は、配列番号2のアミノ酸20から464がその後に続く、最初のメチオニン残基を有するHC_NSポリペプチドをもたらし、変更されたLC_NSコード配列は、アラニン残基およびその後の配列番号4のアミノ酸21から239がその後に続く、最初のメチオニン残基を有するLC_NSポリペプチドをもたらす。さらなるPCR反応が、その後、Bs
aI-AraC-HC-フォワードおよびHC-BsaI-リバースプライマーをそれぞれ用いて、それぞれ精製され、BsaIで切断され、およびT4DNAリガーゼを用いてBfuA1-cut pJ1231-03Cベクター(PrpR-LC_NS)またはBfuA1-cut pJ1234-03Cベクター(AraC-HC_NS)内に結合された、2つの個々の産物(AraC-HC_NS,配列番号52、およびPrpR-LC_NS,配列番号53)を作成するために、2つの精製されたPCR産物の各セットで行われ、pJ1231-PrpR-LC_NSおよびpJ1234-AraC-HC_NS発現コンストラクトを作成した。
【0120】
リガーゼ混合物が大腸菌DH5アルファ細胞内に形質転換され、DH5アルファ細胞においてプラスミドを維持するために十分な量のカナマイシンまたはアンピシリンを含むLB寒天平板培地に配置される。プラスミドDNAの調製は、標準的な方法に従って行われた。(任意であるが好ましくは、調製されたプラスミドDNAは、プラスミドインサートの配列を確認するためのシーケンス反応において使用される。)
【0121】
形質転換受容性のあるINVSc-1 S.セレビシエ細胞が、S.c.EasyComp(商標)形質転換キット(Life Technologies,カタログ番号K5050-01)を用いて、製造者の説明書に従って調製された。INVSc-1 S.セレビシエ株は、以下の、遺伝子型(MATa his3Δ1 leu2trp1-289 ura3-52/MATα his3Δ1 leu2 trp1-289 ura3-52)および表現型:His、Leu、Trp、Uraを有する。簡単に言うと、INVSc-1株由来の単一のコロニーが、10ミリリットルのYPD培地(1リットルあたり、10g酵母抽出物、20gペプトン、20gグルコースを含む)に播種され、250rpmの振盪インキュベーターにおいて、30℃で一晩増殖させた。翌日、一晩の培養が、0.3のOD600へと10ミリリットルの新鮮なYPD培地で希釈され、OD600が0.8に達するまで増殖させた。細胞は、室温で5分間の1500rpmの遠心分離により収集された。その後、細胞は10ミリリットルの溶液1(洗浄液)に再懸濁され、室温で5分間の1500rpmの遠心分離により収集された。上清が破棄され、細胞が1ミリリットルの溶液2(再懸濁液)に再懸濁され、50マイクロリットルの一定分量に分けられ、-80℃で保存された。形質転換受容性のある酵母細胞を発現コンストラクトで形質転換するために、50マイクロリットルのINVSc-1形質転換受容性のある細胞が、1.2マイクログラムの各発現ベクターまたは対照ベクターおよび500マイクロリットルの溶液3(形質転換液)と混合された。その後、細胞は勢いよく混合され、30℃のウォーターバスで1時間インキュベートされ、15分ごとに10秒間ボルテックスされた。100および400マイクロリットルの一定分量の形質転換混合物が、適切な選択的試薬の不存在下で、SC最小寒天平板培地上に播種された。SC最小培地は、1リットルあたり、6.7g酵母窒素塩基、20gグルコース、0.05gアスパラギン酸、0.05gヒスチジン、0.05gイソロイシン、0.05gメチオニン、0.05gフェニルアラニン、0.05gプロリン、0.05gセリン、0.05gチロシン、0.05gバリン、0.1gアデニン、0.1gアルギニン、0.1gシステイン、0.1gロイシン(Leu選択的培地を除く)、0.1gリジン、0.1gスレオニン、0.1gトリプトファン、および0.1gウラシル(Ura選択的培地を除く)を含む。pJ1231-PrpR-PDIで、pJ1231-PrpR-LC_NSで、およびpJ1231-03C対照ベクターで形質転換されたINVSc-1細胞が、48から72時間、30℃でロイシンのないプレート上で選択された。pJ1234-AraC-HC_NSでおよびpJ1234-03C対照ベクターで形質転換されたINVSc-1細胞が、ウラシルなしのSC最小寒天平板培地上で同じ条件下で増殖された。(好ましくは、pJ1231-AraC-MnP-H4_FT-ChuAで、pJ1234-AraC-MnP-H4_FT-ChuAで、およびpJ1234-PrpR-PDIで形質転換されたINVSc-1細胞も、ウラシルなしのSC最小寒天平板培地上で同じ条件下で増殖される。)pJ1234-Ara
C-HC_NSおよびpJ1231-PrpR-LC_NSと同時に同時形質転換されるINVSc-1細胞は、ロイシンまたはウラシルなしのSC最小寒天平板培地上で同じ条件下で選択された。(好ましくは、pJ1231-AraC-MnP-H4_FT-ChuAおよびpJ1234-PrpR-PDIで、またはpJ1234-AraC-MnP-H4_FT-ChuAおよびpJ1231-PrpR-PDIで、同時に同時形質転換されるINVSc-1細胞は、ロイシンまたはウラシルなしのSC最小寒天平板培地上で同じ条件下で選択される。)
【0122】
各形質転換からの全てのコロニー由来の細胞は、スクレープされ、適切な選択的な試薬および炭素源が存在しない、4ミリリットルの液体最小SC培地に再懸濁された。各培養におけるOD600が測定され、0.4光学ユニットに正規化された。タンパク質発現が、pJ1234-AraC-HC_NSで形質転換された培養に2%の滅菌フィルタを通されたアラビノース(Sigma-Aldrich, St. Louis, Missouri, カタログ番号A3256-25G)の添加により誘導された。pJ1231-PrpR-PDIでおよびpJ1231-PrpR-LC_NSで形質転換された細胞において、タンパク質発現が、2%の滅菌フィルタを通されたプロピオネート(Sigma-Aldrich, カタログ番号P188-100
G)の添加により誘導された。および、対応する培養におけるpJ1234-AraC-HC_NSおよびpJ1231-PrpR-LC_NSの共発現は、1%アラビノースおよび1%プロピオネートの添加により誘導された。(好ましくは、pJ1231-AraC-MnP-H4_FT-ChuAで形質転換された細胞によるタンパク質発現のための、およびpJ1231-AraC-MnP-H4_FT-ChuAで、およびpJ1234-PrpR-PDIで、またはpJ1234-AraC-MnP-H4_FT-ChuAおよびpJ1231-PrpR-PDIで同時形質転換された細胞のための誘導培地は、最終濃度の8マイクロモル濃度に添加されるヘミン(Sigma-Aldrich,カタログ番号H9039または51280)も含む。)タンパク質発現のタイムコースは、250rpmで振盪しているインキュベータにおいて、30℃で24時間であった。それぞれの予め誘導された培養の0.5ミリリットルからの細胞が、遠心分離により採取され、1ミリリットルの脱イオン水で洗浄され、-80℃で保存された。誘導後培養由来のサンプルは、同じ方法で調製された。総タンパク質抽出物が、誘導前および誘導後の培養から調製され、4から20%のSDS-PAGEで分解され、PDVF膜に転写された。標的タンパク質の発現レベルが、抗6×Hisタグおよび抗ヒトIgG抗体を用いてウエスタンブロットにより分析された。
【0123】
実施例7
誘導物質を変化させることによる共発現の滴定
本発明の誘導性共発現系を用いて多量体産物の産生を最適化するために、誘導物質の濃度を独立して調節または滴定することができる。L-アラビノース誘導性およびプロピオネート誘導性の発現コンストラクトを含む宿主細胞は、適切な抗生物質を含むM9最小培地で、所望の濃度(例えば、約0.5のOD600)に増殖され、その後、細胞は、少量のM9最小培地に等分され、任意にグリセロールのような炭素源を含まずに調製され、適切な抗生物質を含み、各誘導物質の濃度を変化させる。発現を誘導するために必要なL-アラビノースの濃度は、典型的には2%以下である。滴定実験では、L-アラビノースの試験された濃度は、2%から1.5%、1%、0.5%、0.2%、0.1%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%、0.005%、0.002%、および0.001%の範囲であり得る。L-ラムノース誘導性またはD-キシロース誘導性プロモーターの発現を誘導するために必要なL-ラムノースまたはD-キシロースの濃度は、5%から0.01%の範囲の試験濃度で同様に試験される。試験されるL-アラビノース(またはL-ラムノースまたはD-キシロース)の各濃度「x」について、最初の誘導物質の濃度「x」を含むチューブのそれぞれに添加される、プロピオネートのような異なる誘導物質の濃度が、各一連のサンプルで変更され、プロピオネートの場合、1Mか
ら750mM、500mM、250mM、100mM、75mM、50mM、25mM、10mM、5mM、および1mMの範囲である。代替的に、滴定実験は、誘導物質濃度の「スタンダード」な組み合わせで開始し得、0.002%のL-アラビノース、L-ラムノース、もしくはD-キシロースのいずれか、および/または50mMプロピオネートであり、「スタンダード」な組み合わせのそれから変化する誘導物質濃度の新たな組み合わせを試験する。同様の滴定実験が、本発明の誘導性共発現系で使用される、L-アラビノース、プロピオネート、L-ラムノース、およびD-キシロースを含むがこれらに限定されない誘導物質のあらゆる組み合わせで行われ得る。6時間の誘導物質の存在下で増殖された後に、細胞は、ペレットにされ、所望の産物が細胞から抽出され、細胞の質量値あたりの産物の収率が、ELISAのような定量的免疫学的分析により、または、産物の精製および280nmでのUV吸光度による定量化により測定される。
【0124】
また、ハイスループットアッセイを用いて誘導物質濃度を滴定することも可能であり、発現されるタンパク質は、mKate2赤色蛍光タンパク質(Evrogen, Moscow, Russia
)またはオワンクラゲおよびバチルス・セレウス由来の増強緑色蛍光タンパク質により提供されるもののような、蛍光タンパク質部分を含むように操作される。ハイスループット滴定実験における誘導物質の異なる濃度により産生される遺伝子産物の量と活性を測定するための別のアプローチは、表面プラスモン共鳴を検出するセンサーまたはバイオレイヤー干渉法(bio-layer interferometry)(BLI)(例えば、Octet(登録商標)QKシステム、forteBIO, Menlo Park, CAより)を採用するセンサーのような、生体分子の結合相互作用を測定することが可能なセンサーを用いることである。
【0125】
実施例8
プロモーターの強度の測定および誘導性発現の均質性
プロモーターの強度が、適切な対照に対して相対的な、そのプロモーターで開始される遺伝子産物の転写の量として測定される。発現コンストラクトにおける遺伝子産物の発現を方向づける構成的プロモーターについて、適切な対照は、「野生型」バージョンのプロモーター、または「ハウスキーピング」遺伝子由来のプロモーターが、試験されるプロモーターの代わりに使用されることを除いて、同じ発現コンストラクトを使用し得た。誘導性プロモーターについて、プロモーター由来の遺伝子産物の発現は、誘導および非誘導条件下で比較され得る。
【0126】
A.プロモーターから転写されたRNAのレベルを測定するために定量的PCRを用いてプロモーター強度を測定する
De Mey et al.の方法("Promoter knock-in: a novel rational method for the fine tuning of genes", BMC Biotechnol 2010 Mar 24; 10: 26)が、培養で増殖され得る宿主細胞におけるプロモーターの相対的な強度を測定するために使用される。試験されるプロモーターを有する発現コンストラクトを含む宿主細胞、および対照の発現コンストラクトを含む対照宿主細胞は、3通りに培養で増殖される。1mlサンプルが、mRNAおよびタンパク質収集のためにOD600=1.0で収集される。総RNA抽出物が、RNeasyミニキット(QIAGEN, The Netherlands)を用いてなされる。RNAの純度が、QI
AGENにより推奨されるように、FAアガロースゲル上で確認され、RNA濃度が260nmで吸光度を計測することにより測定される。2マイクログラムのRNAが、ランダムプライマーおよびRevertAid H Minus M-MulVリバース転写酵素(Fermentas, Glen Burnie, Maryland)を用いて、cDNAを合成するために使用される。プロモータの強度は、プロモーターから産生される転写物に対応するcDNAを増幅するために設計されたフォワードおよびリバースプライマーを用いて、iCycler IQ(登録商標)(Bio-Rad, Eke, Belgium)で行われるRT-qPCRにより測定され
る。(この目的のために、De Mey et al.著者は、Fw-ppc-qPCRおよびRv-
ppc-qPCRプライマー、並びに対照ハウスキーピング遺伝子rpoB由来のFw-
rpoB-qPCRおよびRv-rpoB-qPCRプライマーを使用した。)SYBR
GreenER qPCRスーパーミックス(supermix)(Life Technologies, Grand
Island, New York)が、簡潔にUDG(ウラシルDNAグリコシラーゼ)インキュベー
ション(50℃で2分間)を行うために使用され、すぐにPCR増幅(95℃で8.5分;95℃で15秒および60℃で1分の40サイクル)および融解曲線分析(95℃で1分、55℃で1分、および10秒の55℃+0.5℃/サイクルの80サイクル)が続き、プライマー二量体の存在を確認し、反応の特異性を分析する。PCRサイクル前のこのUDGインキュベーション工程は、前の反応由来のあらゆる混入dU含有産物を破壊する。UDGは、その後、PCRサイクル中の高温により不活化され、これにより、真の標的配列の増幅を可能にする。各サンプルは、3通りで行われる。相対的な発現の比は、PE Applied Biosystems(PerkinElmer, Forster City, California)の「デルタデルタCT法(Delta-delta ct method)」を用いて算出される。
【0127】
B.蛍光レポーター遺伝子を用いて、誘導の均一性および誘導性プロモーター強度を測定する
これらの実験は、Khlebnikov et al.の方法を用いて行われる("Regulatable arabinose-inducible gene expression system with consistent control in all cells of a culture", J Bacteriol 2000 Dec; 182(24): 7029-7034)。誘導性プロモーターの誘導を測
定する実験は、炭素源として3.4%グリセロールで補充されたC培地で行われる(Helmstetter, "DNA synthesis during the division cycle of rapidly growing Escherichia
coli B/r", J Mol Biol 1968 Feb 14; 31(3): 507-518)。蛍光レポーター遺伝子の発現を制御する少なくとも1つの誘導性プロモーターを含む発現コンストラクトを含む、大腸菌株は、0.6~0.8の600nm(OD600)での光学的密度に対する抗生物質選択下で37℃で増殖される。細胞は、遠心分離(15,000×g)により収集され、炭素源のないC培地で洗浄され、OD600の0.1から0.2に対する抗生物質、グリセロール、および/または誘導物質(遺伝子発現の誘導のための)を含む新鮮なC培地で再懸濁され、6時間インキュベートされる。分析のための増殖中に、サンプルがルーチン的に採取される。培養の蛍光が、360/40nmの波長の励起および520/10nmの波長のエミッションフィルターで、Versafluor Fluorometer(Bio-Rad Inc., Hercules, California)で測定される。誘導での誘導性プロモーター由来の発現の強度が、誘導された細胞の最大個体群の平均化された蛍光(蛍光/ODの比)の対照(例えば、非誘導)細胞のそれに対する比として発現され得る。細胞の個体群内の誘導の均質性を測定するために、フローサイトメトリーが、アルゴンレーザー(15mWおよび488nmの波長で放射)および525nmの波長バンドパスフィルターを備える、Beckman-Coulter EPICS XLフローサイトメーター(Beckman Instruments Inc., Palo Alto, California)で行われ
る。分析前に、サンプリングされた細胞は、フィルター(フィルターのポアサイズ、0.22マイクロメーター)を通したリン酸緩衝食塩水で洗浄され、0.05のOD600に希釈され、氷上に置かれる。各サンプルについて、500から1,000イベント(event)/sの間の割合で30,000イベントが収集される。各サンプルにおける誘導され
た(蛍光)細胞のパーセンテージは、フローサイトメトリーデータから算出され得る。
【0128】
実施例9
抗体の精製
本発明の誘導性共発現系により産生された抗体は、あらゆる細胞および破片を取り除くために、10分間、10,000×gで溶解された宿主細胞の遠心分離サンプルにより精製される。上清は、0.45マイクロメーターのフィルターを通してフィルターにかけられる。1mLの組換えタンパク質G-Sepharose(登録商標)カラム(Life Technologies, Grand Island, New York)は、1ml/minの流量に達するように設定さ
れ、以下のバッファ:バインディングバッファ、pH7.0の0.02Mリン酸ナトリウム、pH2.7の0.1Mグリシン-HCl、および中和バッファ:pH9.0の1Mト
リス-HClで使用される。カラムは、5カラム分の量(5ml)のバインディングバッファで平衡化され、その後、サンプルがカラムにアプライされる。不純物および非結合材料を取り除くために、カラムは、5~10カラム分の量のバインディングバッファで洗浄され、タンパク質が溶出液に検出されなくなるまで継続する(280nmでUV吸光度により測定)。カラムは、その後、5カラム分の量の溶出バッファで溶出され、カラムは、5~10カラム分の量のバインディングバッファですぐに再平衡化される。
【0129】
実施例10
抗体結合親和性の測定
「Kd」または「Kd値」として表される、抗体結合親和性は、以下の分析により記載される対象の抗体およびその抗原のFabバージョンで行われる放射標識された抗原の結合分析(RIA)により測定される。Fabバージョンの全長抗体の産生は、当該技術分野でよく知られる。抗原についてのFabの溶液-結合親和性は、非標識抗原の滴定のシリーズの存在下で最小濃度の(125I)標識された抗原でFabを平衡化することにより測定され、その後、抗Fab抗体をコートされたプレートで結合された抗原をとらえる(例えば、Chen et al., "Selection and analysis of an optimized anti-VEGF antibody: crystal structure of an affinity-matured Fab in complex with antigen", J Mol Biol 1999 Nov 5; 293(4): 865-881参照)。分析のための条件を確立するために、マイクロタイタープレート(DYNEX Technologies, Inc., Chantilly, Virginia)が、50mM
炭酸ナトリウム(pH9.6)における5マイクログラム/mlのキャプチャリング抗Fab抗体(Cappel Labs, West Chester, Pennsylvania)で、一晩コートされ、その後、
室温(約23℃)で2から5時間、PBSにおける2%(w/v)ウシ血清アルブミンでブロックされる。非吸着プレート(Nunc #269620; Thermo Scientific, Rochester, New York)において、100pMまたは26pM[125I]-抗原が、対象のFabの段階希釈と混合される(例えば、Presta et al., "Humanization of an anti-vascular endothelial growth factor monoclonal antibody for the therapy of solid tumors and other disorders", Cancer Res 1997 Oct 15; 57(20): 4593-4599における、抗VEGF抗体、Fab-12の評価と一致する)。対象のFabは、その後、一晩インキュベートされるが、インキュベーションは、平衡化に達していることを確実にするために、より長い期間(例えば、約65時間)継続することとしてもよい。その後、混合物は、室温でのインキュベーション(例えば、約1時間)のためにキャプチャープレートにうつされる。溶液はその後取り除かれ、プレートは、PBSにおける0.1%TWEEN-20(商標)界面活性剤で8回洗浄される。プレートが乾燥したとき、150マイクロリットル/ウェルのシンチラント(scintillant)(MICROSCINT-20(商標); PerkinElmer, Waltham, Massachusetts)が添加され、プレートは、10分間、TOPCOUNT(商標)ガンマカウ
ンター(PerkinElmer)上でカウントされる。最大の結合の20%以下である各Fabの
濃度が、競合結合測定で使用するために選択される。
【0130】
代替的に、KdまたはKd値は、約10反応ユニット(RU)で固定化された抗原CM5チップとともに25℃でBIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000機器(BIAcore, Inc., Piscataway, New Jersey)を用いて、表
面プラズモン共鳴分析を用いることにより測定される。簡潔には、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIAcore Inc.)が、サプライヤーの説明書に従って、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノ-プロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)により活性化される。抗原は、約10RUの結合タンパクに達するように、5マイクロリットル/分の流量での注入前に、pH4.8の10mM酢酸ナトリウムで5マイクログラム/ml(約0.2マイクロモル濃度)に希釈される。抗原の注入後に、1Mエタノールアミンが未反応基をブロックするために注入される。動力学測定のために、Fab(0.78nMから500nM)の2倍の段階希釈が、約25マイクロリットル/分の流量で、25℃で、0.05%TWE
EN20(商標)界面活性剤(PBST)でPBS中に注入される。会合速度(kon)および解離速度(koff)が、会合および解離センサーグラムを同時に適合させることにより、単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model)(BIAcore(登録商標)Evaluation Software version 3.2)を用いて算出される。平衡解離定数(Kd)が、比koff/konとして算出される。オンレート(on-rate)
が、上記表面プラズモン共鳴分析により10-1-1を超える場合、その後、オンレートは、撹拌キュベットで、流動停止を備えた分光光度計(stop-flow-equipped spectrophotometer)(Aviv Instruments)または8000シリーズSLM-AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)のような、分光計で測定される、抗原の濃度の増加の存在下で、25℃、pH7.2のPBSにおける20nM抗-抗原抗体(Fab形態)の蛍光-発光強度(励起=295nm;発光=340nm、16nmバンドパス)での増加または減少を測定する、蛍光クエンチング技術を用いることにより測定され得る。
【0131】
実施例11
共発現産物に存在するジスルフィド結合の特徴づけ
共発現されたタンパク質産物におけるジスルフィド結合の数および位置が、非還元条件下で、トリプシンのようなプロテアーゼによるタンパク質の消化、および結果として得られたペプチドフラグメントを連続的電子移動解離(sequential electron transfer dissociation)(ETD)および衝突誘起解離(CID)MSステップ(MS2,MS3)を
組み合わせる質量分析(MS)に供することにより測定され得る(Nili et al., "Defining the disulfide bonds of insulin-like growth factor-binding protein-5 by tandem
mass spectrometry with electron transfer dissociation and collision-induced dissociation", J Biol Chem 2012 Jan 6; 287(2): 1510-1519; Epub 2011 Nov 22)。
【0132】
共発現されたタンパク質の消化。ジスルフィド結合の再配列を防止するために、あらゆる遊離システイン残基が、まずアルキル化によりブロックされ、共発現されたタンパク質は、4M尿素入りのバッファ中で、20℃で30分振盪しながら、アルキル化剤ヨードアセトアミド(5mM)で光から保護されインキュベートされ、その後、プレキャストゲルを用いる非還元SDS-PAGEにより分離される。代替的に、共発現されたタンパク質は、ヨードアセトアミドで、または対照としてでなく、電気泳動後のゲルでインキュベートされる。タンパク質バンドが染色され、2倍の脱イオン水で脱染され、切除され、および、20℃で30分間浸透しながら、50mM炭酸水素アンモニウム、50%(v/v)アセトニトリルの500マイクロリットルで2回インキュベートされる。タンパク質サンプルが、100%アセトニトリルで約2分間脱水され、真空遠心分離により乾燥され、および氷上で15分間、50mM炭酸水素アンモニウムおよび5mM塩化カルシウムを含むバッファにおける10mg/mlのトリプシンまたはキモトリプシンで再水和される。過剰なバッファが取り除かれ、酵素のない50マイクロリットルの同じバッファで置換され、その後、振盪しながら、トリプシンおよびキモトリプシンについて、それぞれ、37℃または20℃で、16時間インキュベートされる。消化は、短時間のボルテックス後に、3マイクロリットルの88%ギ酸の添加により停止され、上清が取り除かれて、分析まで-20℃で保存される。
【0133】
質量分析によるジスルフィド結合の局在性。ペプチドは、0.1%ギ酸を含む移動相にて、20マイクロリットル/分で、1mm×8mmトラップカラム(Michrom BioResources, Inc., Auburn, CA)上に注入される。トラップカートリッジは、その後、5mmのZorbax SB-C18固定相(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)を含む、
0.5mm×250mmカラムに従って配置され、ペプチドが、1100シリーズキャピラリーHPLC(Agilent Technologies)により、10マイクロリットル/分で、90分にわたって、2から30%アセトニトリル勾配により分離される。ペプチドは、ETDソースによりLTQ Velosリニアイオントラップ(Thermo Scientific, San Jose, C
A)を用いて分析される。エレクトロスプレイイオン化は、Captive Spray
ソースを用いて行われる(Michrom Bioresources, Inc.)。サーベイMSスキャンは、サーベイスキャンにおける最も強いイオン上でCIDおよびETD MS2スキャンを含む、7つのデータに依存する走査がその後に続き、その後に、ETD MS2スキャンにおける、1から5番目の最も強いイオンで5つのMS3 CIDスキャンが続く。CIDスキャンは、正規化された35の衝突エネルギーを使用し、ETDスキャンは、可能とされる追加の活性化で、100msの活性化時間を使用する。MS2 CIDおよびETDスキャンを開始するための最小のシグナルは10,000であり、MS3 CIDスキャンの開始の最小シグナルは1000であり、全てのMS2およびMS3スキャンの分離幅は、3.0m/zである。ソフトウェアの動的排除(dynamic exclusion)の特徴は、1の
繰返し回数、100の排除リストサイズ、および30秒の排除期間で可能である。ETD
MS2スキャンの収集のための標的特異的架橋種に対する包含リストが使用される。MS2およびMS3スキャンについての分離データファイルが、ZSA電荷状態分析を用いるBioworks3.3(Thermo Scientific)により作成される。ペプチド配列に対
するMS2およびMS3スキャンのマッチングが、Sequest(V27, Rev 12, Thermo Scientific)により行われる。分析は、酵素特異性、2.5親イオン質量許容差、1.0のフラグメント質量許容差、および酸化したメチオニン残基についての+16の変動質量なしに実行される。結果はその後、使用される95および99%の最小のペプチドおよびタンパク質の見込みでプログラムScaffold(V3_00_08, Proteome Software, Portland, OR)を用いて分析される。MS3由来のペプチドは、スキャン数によりソート
され、ペプチドを含むシステインは、ETD MS2スキャンから観察される5つの最も強いイオンから産生されるMS3スキャンのグループから同定される。ジスルフィド結合された種に関与するシステインペプチドの同一性が、サーベイスキャンおよびETD MS2スキャンで観察される親イオン質量の手動の実験によりさらに確認される。
【0134】
実施例12
細菌性の細胞ペリプラズム由来、スフェロプラスト由来、細胞全体由来の共発現産物の分離
本発明の誘導性共発現系は、細胞質またはペリプラズムのような、細胞の異なるコンパートメントに蓄積する遺伝子産物を発現するために使用され得る。大腸菌またはS.セレビシエのような宿主細胞は、外側の細胞膜または細胞壁を有し、外膜または壁が取り除かれる場合にスフェロプラストを形成し得る。このような宿主で作成される共発現されたタンパク質は、以下の方法を用いて、特に、ペリプラズムから、またはスフェロプラストから、または細胞全体から精製され得る(Schoenfeld, "Convenient, rapid enrichment of
periplasmic and spheroplasmic protein fractions using the new PeriPreps TM Periplasting Kit", Epicentre Forum 1998 5(1): 5; www.epibio.com/newsletter/f5_1/f5_ 1pp.asp参照)。PeriPreps(商標)Periplastingキット(Epicentre(登録商標)Biotechnologies,Madison WI; www.epibio.com/ pdftechlit/107pl0612.pdfで実行可能な手順)を用いるこの方法は、大腸菌および他のグラム陰性菌について設計されるが、一般的なアプローチは、S.セレビシエのような他の宿主細胞のために変更され得る。
【0135】
1.細菌性の宿主細胞培養は、より古い細胞培養が、通常リゾチーム処理にいくらかの耐性を示す固定期に増殖するため、後期の対数期のみに増殖される。組換えタンパク質の発現が過剰である場合、細胞が早期に溶解する可能性があり、よって、細胞培養は、富栄養培地で、又は過剰なタンパク質合成を誘導する可能性のあるより高い増殖温度で増殖されない。タンパク質発現は、その後誘導され、細胞は、対数期または早期の固定期におけるものであるべきである。
【0136】
2.細胞培養は、室温で、10分間、最小の1000×gでの遠心分離によりペレット
にされる。注記:細胞は、フレッシュでなければならず、凍結してはならない。細胞ペレットの湿潤重量は、本手順のために必要とされる試薬の量を算出するために測定される。
【0137】
3.細胞は、細胞の各グラムについて、細胞懸濁が均質になるまで、ボルテックス混合により、またはピペッティングによるいずれかで、最小の2mlのPeriPreps Periplastingバッファ(pH7.5の200mMのトリス-HCl、20%スクロース、1mMのEDTA、および30U/マイクロリットルのReady-Lyse Lysozyme)で徹底的に再懸濁さ
れる。注記:過剰な撹拌は、細胞質タンパク質を有するペリプラズム分画の濃度をもたらすスフェロプラストの早期の溶解を引き起こすかもしれない。
【0138】
4.室温で5分間のインキュベート。Ready-Lyse Lysozymeが、室温で最適に活性化さ
れる。より低い温度(0℃から4℃)での溶解は、追加のインキュベーション時間を必要とし、このような温度では、インキュベーション時間は2から4倍に延びる。
【0139】
5.もとの細胞のペレット重量の各グラムについて4℃での3mlの精製水を添加し(ステップ2)および倒置により混合する。
【0140】
6.10分間の氷上でインキュベートする。
【0141】
7.溶解された細胞が、室温で15分間、最小の4000gで遠心分離によりペレットにされる。
【0142】
8.ペリプラズム分画を含む上清が、きれいなチューブに移される。
【0143】
9.混入している核酸を分解するために、OmniCleaveエンドヌクレアーゼがPeriPreps溶解バッファに任意に添加される。ヌクレアーゼの包含は、概して、タンパク質の収率およびライセートの操作の容易性を向上させるが、ヌクレアーゼの追加は、いくつかの場合で望ましくなく、例えば、ヌクレアーゼの使用は、残りのヌクレアーゼ活性またはマグネシウム補助因子に対する一次的な露出が、その後の分析または精製されたタンパク質の使用と干渉する場合には、避けるべきである。OmniCleaveエンドヌクレアーゼを不活化するためのライセートへのEDTAの追加は、同様に、その後の分析または精製されたタンパク質の使用と干渉するかもしれない。ヌクレアーゼが添加される場合、2マイクロリットルのOmniCleaveエンドヌクレアーゼおよび10マイクロリットルの1.0MのMgClが、ステップ10で必要とされる各ミリリットルの溶解バッファについて、PeriPreps溶解バッファ(pH7.5、の10mMのTris-HCl、50mMのKCl、1mMEDTA、および0.1%デオキシコール酸塩)で1mlまで希釈される。
【0144】
10.ペレットは、各グラムのオリジナルの細胞ペレット重量について、5mlのPeriPreps溶解バッファに再懸濁される。
【0145】
11.ペレットは、室温で10分間インキュベートされる(含まれる場合には、OmniCleaveエンドヌクレアーゼ活性が、粘度における有意な減少をもたらし、インキュベーションは、細胞の懸濁液が一貫性のある水分を有するまで継続される。)。
【0146】
12.細胞の破片が、4℃で15分間の最小の4000×gでの遠心分離によりペレットにされる。
【0147】
13.スフェロプラスト分画を含む上清が、きれいなチューブに移される。
【0148】
14.OmniCleaveエンドヌクレアーゼがPeriPreps溶解バッファに添加され、20マイクロリットルの500mMのEDTAが結果として得られるスフェロプラスト分画の各ミリリットルについて添加され、マグネシウムをキレート化する(ライセートにおけるEDTAの最終濃度は10mMである。)。OmniCleaveエンドヌクレアーゼによる核酸の加水分解後に、ライセートが、相当量のモノまたはオリゴヌクレオチドを含むかもしれない。これらの分解産物の存在は、ライセートのさらなる処理に影響を及ぼすかもしれず、例えば、ヌクレオチドは、レジンと相互作用することにより陰イオン交換樹脂の結合性能を低減させるかもしれない。
【0149】
上記の手順は、以下の変更により総細胞性タンパク質を調製するために使用され得る。ステップ2でペレットにされた細胞は、フレッシュまたは凍結されたものであり得、ステップ4では、細胞は15分間インキュベートされ、ステップ5から8が省略され、ステップ10では、オリジナルの細胞ペレット重量の各グラムについて、3mlのPeriPreps溶解バッファが添加される。
【0150】
ペリプラズム、またはスフェロプラスト、または細胞全体のタンパク質サンプルの調製後に、サンプルは、いくつかの特徴化および/または定量化方法のいずれかにより分析され得る。一例では、成功的なペリプラズムおよびスフェロプラストタンパク質の分画は、SDS-PAGEによるペリプラズムおよびスフェロプラスト分画の両方の一定分量を分析することにより確認される(2マイクロリットルの各分画が、概して、クーマシーブリリアントブルーで染色することにより可視化のために十分である。)。特有のタンパク質の存在または所与の分画における特定のタンパク質の濃縮は、成功的な分画を示す。例えば、宿主細胞が、アンピシリン耐性マーカーで高い複製数のプラスミドを含む場合、その後、主にペリプラズム分画におけるβ-ラクタマーゼ(31.5kDa)の存在が、成功的な分画を示す。ペリプラズムスペースでみられる他の大腸菌タンパク質は、アルカリホスファターゼ(50kDa)および伸長因子Tu(43kDa)を含む。所与の分画でみられるタンパク質の量は、いくつかの方法のいずれかを用いて定量化され得る(例えば、とりわけ、染色されたもしくは標識されたタンパク質バンドのSDS-PAGEおよびデンシトメトリー分析、放射標識されたタンパク質のシンチレーション測定、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、またはシンチレーション近接アッセイ)。スフェロプラスト分画と比較されるペリプラズム分画でみられるタンパク質の量と比較することは、タンパク質が、細胞質からペリプラズム内にエクスポートされた程度を示す。
【0151】
実施例13
ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列類似性の測定
ポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列同一性のパーセンテージが、配列される記号、つまり、両方の配列された配置と同じであり、ギャップを含む、2つの配列の配置で、符号の総数により除される、ヌクレオチドまたはアミノ酸の数として定義される。2つの配列間の類似性の程度(同一性のパーセンテージ)は、ウェブサイトのblast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiを通じて利用可能である、Needleman-Wunschグローバル配列アライメントツールにて国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)により実現されるように、Needleman and Wunsch(J. Mol. Biol. 48:443, 1970)のグローバルな配置法を用いて配列を配置することにより測定されることとしてもよい。一実施形態では、Needleman-Wunschアライメントパラメーターが、デフォルトの値に設定される(それぞれ2および-3のマッチ/ミスマッチスコア、並びにそれぞれ5および2のExistenceおよびExtensionのGap Cost)。配列比較の分野における当業者により使用される他のプログラムは、また、例えば、blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiウェブサイトに記載されるデフォルトのパラメーターセッティングを用いて、NCBIにより実行されるような、ベーシックなローカルアライメントサーチツールまたはBLAST(登録商標)プログラム(Altschul et al., "Basic local alignment search tool", J Mol Biol 199
0 Oct 5; 215(3): 403-410)のような配列を配置するために使用されることとしてもよい。BLASTアルゴリズムは、以下のように使用されることとしてもよい、2つを含む複合的な任意のパラメーターを有し、(A)低い組成上の複雑性を有するクエリー配列のセグメント、または好ましくは使用されないまたは「オフ」に設定される、短周期性の内部反復からなるセグメントをマスクするためのフィルターの包含、および(B)「エクスペクト」またはE-スコアとよばれる、データベース配列に対してマッチすることを報告するための統計的に有意な閾値(単に偶然にみいだされるマッチの期待される確率、マッチに帰される統計学的有意性は、このE-スコア閾値よりも大きい場合、マッチは報告されないであろう。)この「エクスペクト」またはE-スコア値が、デフォルトの値(10)から調節される場合、好ましい閾値は0.5、または、0.25、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001、0.00001、および0.000001の順で優先性が増加する。
【0152】
本発明を実施することにおいて、分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術における多くの従来の技術が、任意に使用される。このような従来の技術は、ベクター、宿主細胞、および組換え方法に関する。これらの技術は、十分に知られ、例えば、Berger and
Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology volume 152
Academic Press, Mc, San Diego, CA; Sambrook et al., Molecular Cloning - A Laboratory Manual (3rd Ed.), Vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York, 2000; およびCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel et al., eds., Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., (2006年を通して提供される)で説明される
。例えば、細胞の分離および培養について、およびその後の核酸またはタンパク質分離についての他の有用な参照文献は、Freshney (1994) Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique, third edition, Wiley-Liss, New York およびその中で挙げられる参照文献; Payne et al. (1992) Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley & Sons, Inc. New York, NY; Gamborg and Phillips (Eds.) (1995) Plant Cell, Tissue and Organ Culture; Fundamental Methods Springer Lab Manual, Springer- Verlag (Berlin Heidelberg New York);並びに Atlas and Parks (Eds.) The Handbook of Microbiological Media (1993) CRC Press, Boca Raton, FLを含む。核酸を作成する方法(例えば、インビトロ増幅、細胞からの精製、または化学合成による)、核酸を操作するための方法(例えば、部位特異的突然変異、制限酵素の消化、ライゲーション等による)、並びに核酸を操作および作成するのに有用な種々のベクター、細胞株等が、上記参考文献に記載される。さらに、本質的に、あらゆるポリヌクレオチド(標識されたまたはビオチン化されたポリヌクレオチドを含む)は、あらゆる種々の市販のソースからオーダーされたカスタムまたはスタンダードであり得る。
【0153】
本発明の実施についての一定の形態を含むために見出されるまたは提案される特定の実施形態の見地から、本発明は記載される。本開示に照らして、種々の変更および変化が、本発明の意図される範囲から逸脱することなく、例証される特定の実施形態においてなされ得ることが当業者により理解されるであろう。特許公開公報を含む、全ての挙げられた参考文献は、それらの全体において、参照により本明細書に組み込まれる。公開されている遺伝子座決定または他の記載により言及される、ヌクレオチドおよび他の遺伝子配列もまた、参照により本明細書に明白に組み込まれる。
【0154】
【表5-1】
【0155】
【表5-2】
【0156】
【表5-3】
【0157】
【表5-4】
【0158】
【表5-5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2022068332000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、
各タイプの前記発現コンストラクトは、誘導性プロモーターおよび該誘導性プロモーターから転写されるための遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、
少なくとも1つの前記誘導性プロモーターは、別の前記誘導性プロモーターの誘導物質と異なる誘導物質に対して応答性があり、
少なくとも1つの前記遺伝子産物は、別の前記遺伝子産物と多量体を形成する、宿主細胞。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0158
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0158】
【表5-5】
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、
各タイプの前記発現コンストラクトは、誘導性プロモーターおよび該誘導性プロモーターから転写されるための遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、
少なくとも1つの前記誘導性プロモーターは、別の前記誘導性プロモーターの誘導物質と異なる誘導物質に対して応答性があり、
少なくとも1つの前記遺伝子産物は、別の前記遺伝子産物と多量体を形成する、宿主細胞。
[態様2]2つまたはそれ以上のタイプの発現コンストラクトを含む宿主細胞であって、
各タイプの前記発現コンストラクトは、誘導性プロモーターおよび該誘導性プロモーターから転写されるための遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列を含み、
少なくとも1つの前記遺伝子産物は、
(a)シグナルペプチドを欠き、少なくとも3つのジスルフィド結合を形成するポリペプチド、
(b)アラビノース利用酵素およびキシロース利用酵素からなる群から選択されるポリペプチド、
(c)リグニン分解ペルオキシダーゼからなる群から選択されるポリペプチド、
からなる群から選択される、宿主細胞。
[態様3]少なくとも1つの誘導性プロモーターがL‐アラビノース誘導性プロモーターである、態様1または2の宿主細胞。
[態様4]少なくとも1つの誘導性プロモーターがプロピオネート誘導性プロモーターである、態様1または2の宿主細胞。
[態様5]少なくとも1つの誘導性プロモーターが、araBADプロモーター、prpBCDEプロモーター、rhaSRプロモーター、およびxlyAプロモーターからなる群から選択される、態様1または2の宿主細胞。
[態様6]各誘導性プロモーターがラクトース誘導性プロモーターではない、態様1または2の宿主細胞。
[態様7]少なくとも1つの発現コンストラクトが、誘導性プロモーターに結合する転写制御因子をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、態様1または2の宿主細胞。
[態様8]転写制御因子をコードする前記ポリヌクレオチド配列および前記転写制御因子が結合する前記誘導性プロモーターが同じ発現コンストラクトにある、態様7の宿主細胞。
[態様9]前記転写制御因子がAraC、PrpR、RhaR、およびXylRからなる群から選択される、態様7の宿主細胞。
[態様10]少なくとも1つの発現コンストラクトが、pBAD18、pBAD18-Cm、pBAD18-Kan、pBAD24、pBAD28、pBAD30、pBAD33、pPRO18、pPRO18-Cm、pPRO18-Kan、pPRO24、pPRO30、およびpPRO33からなる群から選択されるプラスミド内に、ポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により生産された、態様1または2の宿主細胞。
[態様11]少なくとも1つの遺伝子産物がポリペプチドである、態様1の宿主細胞。
[態様12]少なくとも1つの遺伝子産物が、(a)免疫グロブリン重鎖、(b)免疫グロブリン軽鎖、および(c)(a)から(b)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択される、態様1または2の宿主細胞。
[態様13]前記遺伝子産物が免疫グロブリン軽鎖である、態様12の宿主細胞。
[態様14]前記遺伝子産物が免疫グロブリン重鎖である、態様12の宿主細胞。
[態様15]少なくとも1つの遺伝子産物が、シグナルペプチドを欠くポリペプチドであり、少なくとも3つのジスルフィド結合を形成する、態様1または2の宿主細胞。
[態様16]前記ポリペプチドが、(a)少なくとも3であって17よりも少ないジスルフィド結合、および(b)少なくとも18であって100より少ないジスルフィド結合からなる群から選択される、いくつかのジスルフィド結合を形成する、態様15の宿主細胞。
[態様17]前記ポリペプチドが、少なくとも3であって10より少ないジスルフィド結合を形成する、態様15の宿主細胞。
[態様18]前記ポリペプチドが、少なくとも3であって8より少ないジスルフィド結合を形成する、態様15の宿主細胞。
[態様19]前記ポリペプチドが、(a)免疫グロブリン重鎖、(b)免疫グロブリン軽鎖、(c)マンガンペルオキシダーゼ、および(d)(a)から(c)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択される、態様15の宿主細胞。
[態様20]少なくとも1つの遺伝子産物は、アラビノース利用酵素およびキシロース利用酵素からなる群から選択されるポリペプチドである、態様2の宿主細胞。
[態様21]前記ポリペプチドはキシロースイソメラーゼである、態様20の宿主細胞。
[態様22]少なくとも1つの遺伝子産物は、リグニン分解ペルオキシダーゼからなる群から選択されるポリペプチドである、態様2の宿主細胞。
[態様23]前記ポリペプチドはマンガンペルオキシダーゼである、態様22の宿主細胞。
[態様24]少なくとも1つの追加の遺伝子産物は、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼである、態様22の宿主細胞。
[態様25]前記ポリペプチドは汎用性のあるペルオキシダーゼである、態様22の宿主細胞。
[態様26]前記宿主細胞は、2つのタイプの発現コンストラクトを含む、態様1または2の宿主細胞。
[態様27]1つのタイプの発現コンストラクトが、pBAD24プラスミド内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、他のタイプの発現コンストラクトが、pPRO33プラスミド内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生される、態様26の宿主細胞。
[態様28]前記宿主細胞は、少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質についての輸送タンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の変異を有する、態様1または2の宿主細胞。
[態様29]輸送タンパク質をコードする前記遺伝子は、araE、araF、araG、araH、rhaT、xylF、xylG、およびxylHからなる群から選択される、態様28の宿主細胞。
[態様30]前記宿主細胞は、少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減されたレベルを有する、態様1または2の宿主細胞。
[態様31]少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする前記遺伝子は、araA、araB、araD、prpB、prpD、rhaA、rhaB、rhaD、xylA、およびxylBからなる群から選択される、態様30の宿主細胞。
[態様32]前記宿主細胞は、少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質の生合成を伴うタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減されたレベルを有する、態様1または2の宿主細胞。
[態様33]少なくとも1つの前記誘導性プロモーターの誘導物質の生合成を伴うタンパク質をコードする前記遺伝子は、scpA/sbm、argK/ygfD、scpB/ygfG、scpC/ygfH、rmlA、rmlB、rmlC、およびrmlDからなる群から選択される、態様32の宿主細胞。
[態様34]前記宿主細胞が原核細胞である、態様1または2の宿主細胞。
[態様35]前記宿主細胞が大腸菌である、態様34の宿主細胞。
[態様36]前記宿主細胞は、該宿主細胞の細胞質の還元/酸化環境に影響を及ぼす遺伝子の変異した遺伝子機能を有する、態様1または2の宿主細胞。
[態様37]前記宿主細胞の細胞質の還元/酸化環境に影響を及ぼす前記遺伝子は、gorおよびgshBからなる群から選択される、態様36の宿主細胞。
[態様38]前記宿主細胞は、還元酵素をコードする遺伝子の低減されたレベルの遺伝子機能を有する、態様1または2の宿主細胞。
[態様39]還元酵素をコードする前記遺伝子はtrxBである、態様38の宿主細胞。
[態様40]前記宿主細胞は、少なくとも1つのジスルフィド結合イソメラーゼタンパク質をコードする少なくとも1つの発現コンストラクトを含む、態様1または2の宿主細胞。
[態様41]少なくとも1つの発現コンストラクトは、ジスルフィド結合イソメラーゼタンパク質DsbCをコードする、態様40の宿主細胞。
[態様42]前記宿主細胞は、シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、態様1または2の宿主細胞。
[態様43]前記宿主細胞は、Erv1pをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、態様1または2の宿主細胞。
[態様44]各タイプの前記発現コンストラクトは、各他のタイプの発現コンストラクトの前記誘導性プロモーターと異なる誘導性プロモーターを含む、態様1または2の宿主細胞。
[態様45]各タイプの前記発現コンストラクトは、各他のタイプの前記発現コンストラクトの複製起点と異なる複製起点を含む、態様1または2の宿主細胞。
[態様46]2つのタイプの発現コンストラクトを含む、大腸菌の宿主細胞であって、1つのタイプの発現コンストラクトは、pBAD24プラスミド内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、他のタイプの発現コンストラクトは、pPRO33プラスミド内にポリヌクレオチド配列を挿入する工程を含む方法により産生され、2つまたはそれ以上の以下の、(a)araBAD遺伝子の欠失;(b)変異した遺伝子機能のaraEおよびaraFGH遺伝子;(c)lacY(A177C)遺伝子;(d)低減された遺伝子機能のprpBおよびprpD遺伝子;(e)好ましくはygfI遺伝子の発現に影響を及ぼさない、低減された遺伝子機能のsbm/scpA-ygfD/argK-ygfGH/scpBC遺伝子;(f)低減された遺伝子機能のgorおよびtrxB遺伝子;(g)低減された遺伝子機能のAscG遺伝子;(h)シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードするポリヌクレオチド;(i)Erv1pをコードするポリヌクレオチド;(j)タンパク質ジスルフィドイソメラーゼをコードするポリヌクレオチド;(j)ChuAをコードするポリヌクレオチド;および(l)シャペロンをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、宿主細胞。
[態様47]少なくとも1つの発現コンストラクトが、誘導性プロモーターから転写されるための遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、態様46の宿主細胞。
[態様48]前記遺伝子産物は、(a)免疫グロブリン重鎖、(b)免疫グロブリン軽鎖、および(c)(a)から(b)のいずれかのフラグメント、からなる群から選択される、態様47の宿主細胞。
[態様49]遺伝子産物を産生する方法であって、態様1または2の前記宿主細胞の培養を増殖させることと、前記培養に少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を添加することを含む、方法。
[態様50]態様49の方法により産生される、遺伝子産物。
[態様51]前記遺伝子産物は多量体産物である、態様50に記載の遺伝子産物。
[態様52]前記多量体産物は抗体である、態様51に記載の多量体産物。
[態様53]前記多量体産物はアグリコシル化抗体である、態様52に記載の多量体産物。
[態様54]前記多量体産物はヒト抗体である、態様52に記載の多量体産物。
[態様55]態様1または2の前記宿主細胞を含む、キット。
[態様56]態様50の前記遺伝子産物を含む、キット。
[態様57]態様51の前記多量体産物を含む、キット。