(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068412
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】金属ペン
(51)【国際特許分類】
B43K 1/00 20060101AFI20220427BHJP
【FI】
B43K1/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177063
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】314012685
【氏名又は名称】有限会社シオン
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】山田 健
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA11
2C350NA05
2C350NC02
2C350NC10
(57)【要約】
【課題】品質にばらつきがなく、衝撃に強い金属ペンを提供する。
【解決手段】円錐形又は角錐形に形成されたペン先部10と、ペン先部10の底面側に、円柱状又は角柱状に形成された軸部20と、軸部20からペン先部10にかけて、複数箇所に軸部20及びペン先部10の軸方向に直線状に形成された溝32であって、表面が親水性を有するように改質処理された第1溝部30と、軸部20に形成された複数の溝42であって、複数の溝42のそれぞれが、第1溝部30の複数の溝32のうち少なくとも1つに交差するように形成され、表面が親水性を有するように改質処理されるとともに、深さが第1溝部30よりも浅い第2溝部40を備えている金属ペン1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐形又は角錐形に形成されたペン先部と、
前記ペン先部の底面側に、円柱状又は角柱状に形成された軸部と、
前記軸部から前記ペン先部にかけて、複数箇所に前記軸部及び前記ペン先部の軸方向に直線状に形成された溝であって、表面が親水性を有するように改質処理された第1溝部と、
を備えることを特徴とする金属ペン。
【請求項2】
請求項1に記載の金属ペンにおいて、
前記軸部に形成された複数の溝であって、該複数の溝のそれぞれが、前記第1溝部の前記複数の溝のうち少なくとも1つに交差するように形成され、表面が親水性を有するように改質処理されるとともに、深さが前記第1溝部よりも浅い第2溝部を備えていることを特徴とする金属ペン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属ペンにおいて、
前記第1溝部及び/又は前記第2溝部は、
電子ビーム加工により改質処理が行われていることを特徴とする金属ペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン先をインクに浸して、ペン先部分にインクを蓄積して文字や模様を描くことができる金属ペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸方向に複数の溝が形成されたガラスの棒材を加熱しながら両端方向に伸ばしつつひねりを加え、最終的に軸方向の略中央部で切断し、切断部をペン先として形成したガラスペンがある。このガラスペンは、その製法からも分かるように、ペン先にらせん状の溝が形成されるため、インク瓶に入っているインクにペン先を浸すことにより、毛細管現象を利用して、溝にインクを含有させて文字や模様を描くことができるようになっている。
【0003】
また、万年筆のように、ガラスペンの胴部を中空にし、中空部分にインクカートリッジを装着して、インクをガラス製のペン先に供給するようにして、インクを長持ちさせるようにしたガラスペンもある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが上記ガラスペンは、いわゆる職人が一本一本手作りするものであるため、出来上がったガラスペンは、ペン先の形状や尖度、溝の深さなどにばらつきがあり、描く文字や模様の太さ、描ける時間(つまり、溝でのインクの含有量)など、ペンとしての品質にばらつきがあるという課題があった。また、ペン先がガラスでできているため衝撃が加わると割れやすいという課題もあった、
本発明は、こうした課題に鑑みなされたもので、品質にばらつきがなく、衝撃に強い金属ペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。なお、本欄における括弧内の参照符号や補足説明などは、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0007】
[適用例1]
適用例1に記載の発明は、
円錐形又は角錐形に形成されたペン先部(10)と、
前記ペン先部(10)の底面側に、円柱状又は角柱状に形成された軸部(20)と、
前記軸部(20)から前記ペン先部(10)にかけて、複数箇所に前記軸部(20)及び前記ペン先部(10)の軸方向に直線状に形成された溝(32)であって、表面が親水性を有するように改質処理された第1溝部(30)と、
を備えることを要旨とする金属ペン(1)である。
【0008】
このような金属ペン(1)では、軸部(20)からペン先部(10)にかけて、その軸方向に複数の溝(32)が直線状に形成されている(第1溝部(30))。また、その第1溝部(30)の表面は、親水性を有するように改質処理されている。したがって、水溶性の顔料や染料を溶かしたインクや墨汁などにペン先部(10)を浸すと、毛細管現象で第1溝部(30)にインクなどが蓄積され、文字や模様を描くことが可能となる。
【0009】
また、従来のガラスペンは、製作者の手作りで、ガラス棒の先端を加熱し、軸方向に伸ばしつつ、ひねりを加えて溝のあるペン先部(10)を形成している。したがって、出来上がったガラスペンには、ペン先部(10)の形状や尖度、溝の深さなどにばらつきがあり、描く文字や模様の太さ、描ける時間(つまり、溝でのインクの含有量)など、ペンとしての品質にばらつきがあった。
【0010】
これに対し、金属ペン(1)は、ペン先部(10)や溝(32)を金属加工により形成するため、ペン先部(10)の形状、尖度、溝の深さなどが常に一定であり、描く文字や模様の太さ、描ける時間の一定であるなど、ペンとしての品質を一定にすることができる。
【0011】
さらに、ペン先部(10)が金属製であるため、衝撃が加わっても割れることがなく、衝撃に強いペンとなる。
【0012】
[適用例2]
適用例2に記載の金属ペン(1)は、
適用例1に記載の金属ペン(1)において、
前記軸部(20)に形成された複数の溝(42)であって、該複数の溝(42)のそれぞれが、前記第1溝部(30)の前記複数の溝(32)のうち少なくとも1つに交差するように形成され、表面が親水性を有するように改質処理されるとともに、深さが前記第1溝部(30)よりも浅い第2溝部(40)を備えていることを要旨とする。
【0013】
このような金属ペン(1)は、ペン先部(10)の軸方向に形成された直線状の第1溝部(30)に加え、複数の溝から成る第2溝部(40)を備えている。
この第2溝部(40)は、軸部(20)に形成された複数の溝(42)であって、その複数の溝(42)のそれぞれが、第1溝部(30)の複数の溝(32)のうち少なくとも1つに交差するように形成されている。
【0014】
また、第1溝部(30)の溝(32)と同様に表面が親水性を有するように改質処理されるとともに、深さが第1溝部(30)の溝(32)の深さよりも浅くなっている。したがって、ペン先部(10)及び軸部(20)をインク等に浸すと第1溝部(30)とともに第2溝部(40)にもインク等が毛細管現象で蓄積される。
【0015】
ここで、第1溝部(30)の深さよりも第2溝部(40)の深さの方が浅いので、第1溝部(30)にインク等が少なくなると、第2溝部(40)に蓄積されたインク等は、毛細管現象により第1溝部(30)と交差している部分から第1溝部(30)へ流入する。
つまり、金属ペン(1)としては、インク等の蓄積量が多くなるため、インク等に1回浸すことにより文字などをより多く書けるようになる。
【0016】
[適用例3]
適用例3に記載の金属ペン(1)において、
適用例1又は適用例2に記載の金属ペン(1)において、
前記第1溝部(30)及び/又は前記第2溝部(40)は、
電子ビーム加工により改質処理が行われていることを要旨とする。
【0017】
このような金属ペン(1)では、容易に溝(32,42)の表面が親水性を有するように改質することができる。
金属表面に親水性を持たせるためには種々の改質加工方法がある。例えば、金属表面を薬品やブラストなどを用いて物理的に表面状態を変化させ、表面積を増やすことで物理的な接着効果(アンカー効果)狙った処理方法、あるいは、プラズマ処理、UV処理、フレーム処理など官能基によって科学的結合を変化させて接着効果を狙った処理方法などがあるが、電子ビームを照射する方法(電子ビーム加工)を用いることにより、簡易で短時間に改質処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】金属ペン1の概略の構成を示す外観図である。
【
図2】第2実施形態における金属ペン2の概略の構成を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0020】
[第1実施形態]
(金属ペン1の構成)
図1に基づき、金属ペン1の構成について説明する。
図1は、金属ペン1の概略の構成を示す外観図であり、
図1(a)は側面図、
図1(b)及び
図1(c)はペン先部の先端部分を軸方向から見た拡大図である。
【0021】
図1(a)に示すように、金属ペン1は、ペン先部10、軸部20及び結合部50を備えている。
【0022】
ペン先部10は、SUS304、SUS316などのステンレス鋼、A2024やA7075などのアルミニウム合金、真鍮などの銅合金、あるいは、64合金と呼ばれるチタン合金や純チタンなどの金属の棒材を円錐形に削り出しで形成した部分である。また、円錐形のペン先部10の最先端部分に極細の円柱状のペンポイント部12が形成されている。
【0023】
本実施形態では、底面の直径7mm、底面から円錐の先端までの長さが10mmであり、ペンポイント部12は直径0.8mm、長さ1.25mmとなっている。
【0024】
軸部20は、円錐状に形成されたペン先部10の底面側に、中心軸がペン先部10の中心軸と同軸となるように形成された円柱状の部分であり、ペン先部10と同じ金属材料を一体として削り出して形成した部分である。本実施形態では、各部の寸法は、直径7mm、長さ16.5mmとなっている。
【0025】
第1溝部30は、軸部20からペン先部10にかけて、複数箇所に軸部20及びペン先部10の中心軸方向に直線状に形成された溝32である。本実施形態では、第1溝部30では、断面が60°のV字形状で深さが0.15mmの溝32が、ペン先部10の中心軸に対して平行に8本形成されている、
【0026】
また、第1溝部30の溝32は、その表面(V字を形成している面の表面)が親水性を有するように電子ビームを照射することにより改質処理されている。
【0027】
第2溝部40は、軸部20に形成された複数の溝42であって、それら複数の溝42のそれぞれが、第1溝部30の複数の溝42のうち少なくとも1つに交差するように形成されている。本実施形態では、第2溝部40は、断面が60°のV字形状で深さが0.65mmの溝42が、軸部20の中心軸に対して、ピッチ14、条数6のらせん状に形成されている。
【0028】
また、第2溝部40の複数の溝は、第1溝部30の溝32と同様に、その表面(V字を形成している面の表面)が親水性を有するように電子ビームを照射することにより改質処理されている。
【0029】
結合部50は、金属ペン1を別途準備される胴部分と連結するために、軸部20の後端部分(ペン先部10と反対端側)に、中心軸が軸部20の中心軸と同軸となるように、ペン先部10及び軸部20と同じ金属材料を一体として円柱状に削り出して形成した部分である。本実施形態では、直径4.5mm、長さ7.25mmで後端部には、長さ3.75でM6のネジが形成されている。
【0030】
(金属ペン1の特徴)
以上のような金属ペン1では、ペン先部10から軸部20にかけて、その軸方向に8本の溝32が直線状に形成されている。
【0031】
また、溝32の表面は、親水性を有するように改質処理されている。したがって、水溶性の顔料や染料を溶かしたインクや墨汁などにペン先部10を浸すと、毛細管現象で溝32にインクなどが蓄積され、文字や模様を描くことが可能となる。
【0032】
また、金属ペン1は、金属加工によりペン先部10や溝32を形成するため、ペン先部10の形状、尖度、溝の深さなどが常に一定であり、描く文字や模様の太さ、描ける時間の一定であるなど、ペンとしての品質を一定にすることができる。さらに、ペン先部10が金属製であるため、衝撃が加わっても割れることがなく、衝撃に強いペンとなる。
【0033】
また、軸部20において、らせん状の複数の溝42のそれぞれが第1溝部30の複数の溝32に交差するように形成されている。この溝42は、溝32と同様に表面が親水性を有するように改質処理されるとともに、深さが溝32の深さよりも浅くなっている。
【0034】
したがって、ペン先部10とともに軸部20をインク等に浸すと溝32とともに溝42にもインク等が毛細管現象で蓄積されため、溝32のインク等が少なくなると、溝42に蓄積されたインク等は、毛細管現象により溝32と交差している部分から溝32へ流入する。つまり、金属ペン1としては、インク等の蓄積量が多くなるため、インク等に1回浸すことにより文字などをより多く書けるようになる。
【0035】
[第2実施形態]
次に
図2に基づき、第2実施形態の金属ペン2について説明する。
図2は、第2実施形態における金属ペン2の概略の構成を示す外観図である。
【0036】
図2に示すように、第2実施形態における金属ペン2は、第1実施形態における金属ペン1とペン先部10及び軸部20は同じ構成であるため、同じ構成部品には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0037】
金属ペン2は、金属ペン1の結合部50の代わりにペンの胴部60が形成されている。この胴部60は、ペン先部10及び軸部20と同じ金属材料を一体として六角柱形状になるように削り出して形成した部分である。本実施形態では、胴部60は、直径10.0mm、長さ110mmで軸部20との境界部分が長さ20mmで中心軸側に凹状の湾曲面となるように加工されている。
【0038】
このような金属ペン2は、ペン先部10、軸部20及び胴部60が同じ金属材料で一体成型されているため、加工しやすく安価にできる。
【0039】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0040】
(1)上記実施形態では、溝32,42に電子ビームを照射することにより表面が親水性を有するように改質していたが、他の改質方法、例えば、薬品やブラストにより金属表面を変化させ、表面積を増やすことで物理的な接着効果を狙った方法、あるいは、UV処理、フレーム処理など官能基によって科学的結合を変化させて接着効果を狙った処理方法などによって改質をしてもよい。
【0041】
(2)また、電子ビームを照射して、溝32,42の表面を改質する場合の方法の一つとして、幅が50μm以下の任意のパターンの微細な溝を電子ビームの照射により形成することで改質するようにしてもよい。
【0042】
(3)上記実施形態では、溝32,42の表面が親水性を有するように改質していたが、第1溝部30や第2溝部40において溝32,42の表面以外の部分、つまり、第1溝部30や第2溝部40における溝32,42以外の部分の表面を改質するようにしてもよい。
【0043】
(4)上記実施形態では、ペン先部10を円錐形状、軸部20を円柱形状としていたが、ペン先部10を角錐形状、軸部20を角柱形状にしてもよい。
【0044】
(5)上記実施形態における各部(ペン先部を含む)の寸法は、一例であり、金属ペン1,2の用途に合わせて変更してもよい。
【0045】
(6)上記実施形態では、第2溝部40を複数のらせん状の溝42で構成していたが、軸部20の中心軸に対して周方向に形成された溝であればらせん状でなくてもよい。
(7)上記実施形態では、溝32,42の断面がV字形状になるように形成していたが、断面形状が凹状になど他の形状となるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1… 金属ペン 10… ペン先部 12… ペンポイント部 20… 軸部 30… 第1溝部 32… 溝 40… 第2溝部 42… 溝 50… 結合部 60… 胴部。