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特開2022-68422複合材、複合材の製造方法、端子および端子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068422
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】複合材、複合材の製造方法、端子および端子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20220427BHJP
   C25D 3/46 20060101ALI20220427BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20220427BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20220427BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20220427BHJP
   C22C 9/06 20060101ALN20220427BHJP
【FI】
C25D15/02 F
C25D15/02 J
C25D3/46
C25D15/02 L
C25D7/00 H
H01R13/03 D
H01R43/16
C22C9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177082
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】小谷 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】土井 龍大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有紀也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕貴
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
5E063
【Fターム(参考)】
4K023AA04
4K023AA24
4K023AB40
4K023BA29
4K023CB03
4K023CB21
4K023DA06
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA10
4K024AA24
4K024AB02
4K024AB12
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA06
4K024DA09
4K024GA03
4K024GA07
5E063GA01
5E063GA08
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性と曲げ加工性の両方に優れた複合材を提供すること。
【解決手段】炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合被膜のビッカース硬度が100以上であり、前記複合被膜において炭素粒子が均一に分散している、複合材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜が素材上に形成されてなる複合材であって、
前記複合被膜のビッカース硬度が100以上であり、
前記複合被膜表面を、28kHzで4分の条件で超音波洗浄した後、顕微鏡写真を撮り、
得られた撮影画像中に当該画像の面積の75%以上のサイズで、縦:横の長さの比が2:3の長方形の領域をとり、この領域を同じ大きさの正方形で縦に2個、横に3個の合計6個に分割し、
各正方形内において、正方形の左側の縦辺からの距離が正方形の横辺の長さの3分の1及び3分の2の二つの縦線を引き、正方形の上側の横辺からの距離が正方形の縦辺の長さの3分の1及び3分の2の二つの横線を引き、各縦線及び横線上に存在する炭素粒子の個数を求め、各正方形について各線上に存在する炭素粒子の個数の平均値を求めたとき、
6個の正方形それぞれについての平均値A1~A6のCV値が0.6以下であり、
前記各正方形において、前記縦線及び横線の合計4本の線のうち、線上に存在する炭素粒子の個数が0個である線が1本以下である、
複合材。
【請求項2】
前記複合被膜のビッカース硬度が120~250である、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記平均値A1~A6のCV値が0.01~0.5である、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項4】
前記平均値A1~A6の平均値Bが1.5~12である、請求項1~3のいずれかに記載の複合材。
【請求項5】
前記複合被膜表面に前記超音波洗浄した後の複合被膜表面に占める炭素粒子の面積の割合が、4~50%である、請求項1~4のいずれかに記載の複合材。
【請求項6】
前記6個の正方形について、各正方形における前記各線上に存在する炭素粒子の個数についてのCV値(CV1~CV6)を求めたとき、CV1~CV6の平均値が0.5以下である、請求項1~5のいずれかに記載の複合材。
【請求項7】
前記複合被膜表面を、拡大倍率1000倍で、縦80~100μm×横120~140μmの視野でSEM写真を撮り、得られたSEM像中に縦78μm×横117μmの長方形の領域をとり、この領域を39μm×39μmの正方形に六分割する、請求項1~6のいずれかに記載の複合材。
【請求項8】
前記複合被膜の厚さが0.5~40μmである、請求項1~7のいずれかに記載の複合材。
【請求項9】
前記炭素粒子が、鱗片形状の黒鉛粒子である、請求項1~8のいずれかに記載の複合材。
【請求項10】
前記複合被膜中のアンチモンの含有量が0.5質量%未満である、請求項1~9のいずれかに記載の複合材。
【請求項11】
前記素材が銅又は銅合金で構成されている、請求項1~10のいずれかに記載の複合材。
【請求項12】
前記複合材の形状が平板状である、請求項1~11のいずれかに記載の複合材。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の複合材がその構成材料として用いられた、端子。
【請求項14】
請求項12に記載の複合材を端子形状に曲げ加工する工程を有する、端子の製造方法。
【請求項15】
炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であって、
前記銀めっき液中の炭素粒子の含有量が15g/L以上であり、
形成される前記複合被膜のビッカース硬度が100以上となるように複合被膜を形成する、
複合材の製造方法。
【請求項16】
前記銀めっき液が下記一般式(I)で表される化合物Xを含有する、請求項15に記載の複合材の製造方法:
【化1】
(式(I)において、mは1~5の整数であり、Raは、カルボキシル基であり、Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rcは、水素又は任意の置換基であり、
mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、
mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよく、
Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【請求項17】
前記炭素粒子が、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.5~15μmの黒鉛粒子である、請求項15又は16に記載の複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材上に所定の複合被膜が形成されてなる複合材およびその製造方法等に関し、特に、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料として使用される複合材およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅(Cu)や銅合金などの導体素材の酸化(腐食)を防止するために、導体素材に金めっきや錫めっきを施しためっき材が使用されている。
【0003】
しかし、例えば自動車の電動化や自動運転化が進む中で、車載向けのスイッチやコネクタには今まで以上に高い耐摩耗性などの信頼性が求められている。錫めっきは摩耗しやすく酸化もすることから十分な信頼性が得られない。また金めっきは求められている特性にかなうものの、非常に高価であるという難点がある。
【0004】
そこで酸化しにくく金より安価な銀めっきの適用が始まっている。
しかし一般に銀めっきは軟質で摺動により摩耗しやすい、また銀同士が凝着するため銀めっき材は摩擦係数が高いという問題がある。
【0005】
この問題を解消するため、耐熱性、耐摩耗性及び潤滑性に優れた黒鉛やカーボンブラックなどの炭素粒子を銀マトリクス中に分散させた複合被膜が電気めっきにより素材上に形成されてなる複合材が提案されている(例えば特許文献1及び2)。
【0006】
前記問題の他の解決方法として、素材上に特定の結晶配向の第1の銀めっき層を形成し、その銀めっき層の上にアンチモンを含む第2の銀めっき層を形成した銀めっき材も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-16250号公報
【特許文献2】特開平9-7445号公報
【特許文献3】特開2013-189680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
摺動について考えると、例えば突起状物が板の上を摺動するとき、板の各部分は突起状物が接触しているときだけ摺動による力がかかっているが、突起状物の方は常に摺動による力がかかっている。このため、突起状物(例えばメス端子)として使用されるめっき材には、非常に高い耐摩耗性が求められ、特許文献1や2の複合材ではこの要求を満足できない。特許文献3の銀めっき材は、非常に硬く耐摩耗性に特に優れており、前記の要求を満足し得る。
【0009】
ここで、めっきのプロセスとしては、板状の素材にめっきを施してから各種の製品(例えば端子)の形状に曲げ加工する「先めっき」と、曲げ加工してからめっきを施す「後めっき」の二つが考えられる。製品の生産性の観点から、近年は先めっきが注目されている。
【0010】
先めっきのプロセスを採用する場合、特許文献3の銀めっき材は前記の通り優れた耐摩耗性を示すものの、めっき層が非常に硬いため曲げ加工をしたときにめっき層に局所的に分断が発生してしまう。このような局所的な分断は、めっき層の分断された部分直下の素材の部分に強い応力を与え、素材に割れを発生させてしまう。素材に割れが発生すると、例えば自動車走行時の振動などで端子に応力がかかるとき、(素材の)割れの部分に応力が集中しやすくなり、その部分で端子が破断するリスクが大きく上がってしまう。このような事態が非常に起きにくい、曲げ加工性に優れた材料が求められる。
【0011】
従って本発明は、耐摩耗性と曲げ加工性の両方に優れた複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、炭素粒子を含む銀層からなる硬い複合被膜であって、その複合被膜において炭素粒子が均一に分散した複合被膜が素材上に形成された複合材が、耐摩耗性と曲げ加工性の両方に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0013】
[1]炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜が素材上に形成されてなる複合材であって、
前記複合被膜のビッカース硬度が100以上であり、
前記複合被膜表面を、28kHzで4分の条件で超音波洗浄した後、顕微鏡写真を撮り、
得られた撮影画像中に当該画像の面積の75%以上のサイズで、縦:横の長さの比が2:3の長方形の領域をとり、この領域を同じ大きさの正方形で縦に2個、横に3個の合計6個に分割し、
各正方形内において、正方形の左側の縦辺からの距離が正方形の横辺の長さの3分の1及び3分の2の二つの縦線を引き、正方形の上側の横辺からの距離が正方形の縦辺の長さの3分の1及び3分の2の二つの横線を引き、各縦線及び横線上に存在する炭素粒子の個数を求め、各正方形について各線上に存在する炭素粒子の個数の平均値を求めたとき、
6個の正方形それぞれについての平均値A1~A6のCV値が0.6以下であり、
前記各正方形において、前記縦線及び横線の合計4本の線のうち、線上に存在する炭素粒子の個数が0個である線が1本以下である、
複合材。
【0014】
[2]前記複合被膜のビッカース硬度が120~250である、[1]に記載の複合材。
【0015】
[3]前記平均値A1~A6のCV値が0.01~0.5である、[1]又は[2]に記載の複合材。
【0016】
[4]前記平均値A1~A6の平均値Bが1.5~12である、[1]~[3]のいずれかに記載の複合材。
【0017】
[5]前記複合被膜表面に前記超音波洗浄した後の複合被膜表面に占める炭素粒子の面積の割合が、4~50%である、[1]~[4]のいずれかに記載の複合材。
【0018】
[6]前記6個の正方形について、各正方形における前記各線上に存在する炭素粒子の個数についてのCV値(CV1~CV6)を求めたとき、CV1~CV6の平均値が0.5以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の複合材。
【0019】
[7]前記複合被膜表面を、拡大倍率1000倍で、縦80~100μm×横120~140μmの視野でSEM写真を撮り、得られたSEM像中に縦78μm×横117μmの長方形の領域をとり、この領域を39μm×39μmの正方形に六分割する、[1]~[6]のいずれかに記載の複合材。
【0020】
[8]前記複合被膜の厚さが0.5~40μmである、[1]~[7]のいずれかに記載の複合材。
【0021】
[9]前記炭素粒子が、鱗片形状の黒鉛粒子である、[1]~[8]のいずれかに記載の複合材。
【0022】
[10]前記複合被膜中のアンチモンの含有量が0.5質量%未満である、[1]~[9]のいずれかに記載の複合材。
【0023】
[11]前記素材が銅又は銅合金で構成されている、[1]~[10]のいずれかに記載の複合材。
【0024】
[12]前記複合材の形状が平板状である、[1]~[11]のいずれかに記載の複合材。
【0025】
[13][1]~[12]のいずれかに記載の複合材がその構成材料として用いられた、端子。
【0026】
[14][12]に記載の複合材を端子形状に曲げ加工する工程を有する、端子の製造方法。
【0027】
[15]炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であって、
前記銀めっき液中の炭素粒子の含有量が15g/L以上であり、
形成される前記複合被膜のビッカース硬度が100以上となるように複合被膜を形成する、複合材の製造方法。
【0028】
[16]前記銀めっき液が下記一般式(I)で表される化合物Xを含有する、[15]に記載の複合材の製造方法:
【化1】
(式(I)において、mは1~5の整数であり、Raは、カルボキシル基であり、Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rcは、水素又は任意の置換基であり、mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよく、Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【0029】
[17]前記炭素粒子が、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.5~15μmの黒鉛粒子である、[15]又は[16]に記載の複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、耐摩耗性と曲げ加工性の両方に優れた複合材、及びその製造方法等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、実施例1で得られた複合材の複合被膜表面の炭素粒子個数のカウントに使用した画像である。
図2図2は、割れの発生について説明する模式図である。
図3図3は、実施例1で得られた複合材を曲げ加工試験において曲げた試験片について、曲げ加工部頂点の断面をレーザー顕微鏡によって200倍の倍率で観察した画像である。
図4図4は、比較例1で得られた複合材を曲げ加工試験において曲げた試験片について、曲げ加工部頂点の断面をレーザー顕微鏡によって200倍の倍率で観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[複合材]
本発明の複合材は、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜が素材上に形成されてなり、ビッカース硬度が100以上であり、炭素粒子の複合被膜内における分散状態について、特定の条件が満たされる。以下、このような複合材の各種構成について説明する。
【0033】
<<素材>>
その上に複合被膜を形成する素材の構成材料としては、銀めっき可能であり、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料に求められる導電性を有するものが好適であり、更にコストの観点から、構成材料としてCu(銅)及びCu合金が好適である。前記Cu合金としては、導電性と耐摩耗性の両立などの観点から、Cuと、Si(ケイ素),Fe(鉄),Mg(マグネシウム),P(リン),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Co(コバルト),Zn(亜鉛),Be(ベリリウム),Pb(鉛),Te(テルル),Ag(銀),Zr(ジルコニウム),Cr(クロム),Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上である(Cuの量は好ましくは99.95質量%以下である)。
【0034】
素材は後述する通り好ましくは(複合被膜が形成された複合材として)端子の用途に用いられるが、素材自体がそういった用途の形状をしている場合もあるし、素材は平らな形状(平板形状など)で、複合材となった後に用途の形状に成形される場合もある。後者は[発明が解決しようとする課題]の項で述べた先めっきの製造プロセスであり、最終製品の生産性の観点から好適である。
【0035】
<<複合被膜>>
素材上に形成された複合被膜は、炭素粒子を含有する銀層で構成される。この銀層においては、銀からなるマトリクス中に炭素粒子が分散している。なお複合材の製造にあたって素材上に複合被膜を形成する前に銀ストライクめっきを行っている場合は、素材(又は後述する下地層)と複合被膜の間にこのストライクめっきによる中間層が存在するが、非常に薄くて複合被膜と区別できない場合も多い。また複合被膜は素材の表層全体の上に形成されていてもよいし、表層の一部上に形成されていてもよい。
【0036】
<炭素粒子>
前記炭素粒子は、実質的に炭素のみからなる粒子であり、複合材の耐摩耗性及び耐熱性を高める。このような機能の発揮の観点から、炭素粒子は黒鉛粒子であることが好ましい。
【0037】
また炭素粒子の平均一次粒子径は、複合材の耐摩耗性の観点から、0.5~15μmであることが好ましく、1~12μmであることがより好ましく、2.5~10μmであることが更に好ましい。なお平均一次粒子径とは、粒子の長径の平均値であり、長径とは、複合材の複合被膜中の炭素粒子を適切な観察倍率で観察した画像(平面)における、粒子内にひくことのできる最も長さの長い線分の長さとする(当該線分は、粒子外に存在する部分を有さない)。また長径は、50個以上の粒子について求めるものとする。なお、前記画像において、炭素粒子は2個以上付着し合ったものが1個に見えているなどの場合もあり、炭素粒子1個を正確に判別することは困難である。そこで、銀マトリクスに縁どられた一つの塊を炭素粒子1個とする。
【0038】
炭素粒子の形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合被膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。
【0039】
<ビッカース硬度>
本発明の複合材の実施の形態における複合被膜のビッカース硬度は、100以上である。このように複合被膜が硬いことで、複合材は耐摩耗性に優れる。耐摩耗性の観点から、複合被膜のビッカース硬度は好ましくは120~250であり、より好ましくは140~230である。
【0040】
<炭素粒子の分散状態>
本発明の複合材の実施の形態は、例えば後述する本発明の複合材の製造方法の実施の形態により得られ、複合被膜中において炭素粒子が均一に分散している。
【0041】
本発明では炭素粒子の分散の均一さの程度を、以下のように求める。
まず、前記複合被膜表面を28kHzで4分の条件で超音波洗浄する(使用する液体は純水、温度は20℃)。これにより、複合被膜表面に単に付着しているだけの炭素粒子は除去される。これらは耐摩耗性や曲げ加工性において機能しないと考えられるので、まずこれらを除いてから複合被膜における炭素粒子の分散状態を評価する。
【0042】
超音波洗浄した後、炭素粒子の大きさに応じて適切な拡大倍率で顕微鏡写真を撮る。撮影する視野の大きさは、一辺の長さが炭素粒子の平均一次粒子径の12~50倍程度の矩形であることが、炭素粒子の分散状態の観察にあたって望ましい。得られた撮影画像中にその画像の面積の75%以上のサイズで、縦:横の長さの比が2:3の長方形の領域をとり、この領域を同じ大きさの正方形で縦に2個、横に3個の合計6個に分割する。一例を挙げると、炭素粒子の平均一次粒子径が0.5~15μm程度の場合には、拡大倍率1000倍で、縦80~100μm×横120~140μmの視野でSEM写真を撮り、得られたSEM像中に縦78μm×117μmの長方形の領域をとり、この領域を39μm×39μmの正方形に六分割すると、炭素粒子の分散状態が観察しやすい。
【0043】
そしてこの六つの正方形の各々において、どの程度炭素粒子が存在するのか(数)を求める。具体的には、正方形の左側の縦辺からの距離が正方形の横辺の長さの3分の1及び3分の2の二つの縦線を引き、正方形の上側の横辺からの距離が正方形の縦辺の長さの3分の1及び3分の2の二つの横線を引き、各縦線及び横線上に存在する炭素粒子の個数を求め(参考までに、図1は、後述する実施例1で得られた複合材の複合被膜表面の炭素粒子の分散状態を評価すべく炭素粒子の個数を求めるのに使用した画像である)、各正方形について各線上に存在する炭素粒子の個数の平均値A1~A6を求める。各正方形における各線上の炭素粒子の個数及びその平均値A1~A6は、各正方形内に存在する炭素粒子の数(量)の指標となる。
【0044】
ここで、複合被膜をSEM観察した場合、銀が存在する箇所は白めの色であり、炭素が存在する箇所は黒めの色である。このように白、黒の濃淡がある状態を白黒に2値化して区別を容易とする。そして、SEM像中における1個の黒いまとまりは、炭素粒子1個の場合もあれば、2個以上が重なったり付着し合ったものが1個に見えている場合もあり、実際に何個であるかを正確に判別することは困難である。そこで、正方形内の縦線及び横線上で黒のピクセルが続いている限りそのまとまりを炭素粒子1個とカウントする。1ピクセルの黒でも1個とカウントする。一つの線の太さのピクセル数は1ピクセルとする。また一つの線の長さは350~450ピクセル程度となるように1ピクセルのサイズを調整する。
【0045】
以上のようにして各線上の炭素粒子の個数を求め、線一つあたりの平均値を上記六つの正方形について求め、その平均値A1~A6のCV値(CVA1-A6=(平均値A1~A6の標準偏差)/(平均値A1~A6の平均値B))を求める。このCVA1-A6が小さいほど炭素粒子が複合被膜中において均一に分散しており、本発明の複合材の実施の形態ではCVA1-A6は0.6以下である。
【0046】
なお、六つの正方形中で、全ての線上の炭素粒子が0個の場合でも、CVA1-A6は小さくなるが、本発明では、各正方形において、前記縦線及び横線の合計4本の線のうち、線上に存在する炭素粒子の個数が0個である線が1本以下であり、炭素粒子が複合被膜中に相応の量存在したうえで、CVA1-A6が小さい。
【0047】
本発明の複合材の実施の形態を曲げ加工する時、複合材の複合被膜は硬いが、硬いと一般的に曲げによる応力が局所に集中しやすい。そして応力が集中したところに大きな複合被膜の分断ができる。その結果、素材の、複合被膜が分断した直下の部分にも応力が集中して、素材に割れが生じてしまう。応力のかかる箇所について、本発明の複合材の実施の形態における複合被膜では、炭素粒子と銀マトリクスの界面のところに応力がかかりやすい。そして前記複合被膜では炭素粒子が均一に分散しているので、前記の界面が複合被膜全体にわたって存在し、曲げによる応力が複合被膜全体に分散しやすい。その結果素材の応力がかかる部分も分散して素材の割れが非常に発生しにくい。これにより、本発明の複合材の実施の形態は優れた曲げ加工性を達成している。
【0048】
複合材の優れた曲げ加工性の観点から、CVA1-A6は好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下であり、更に好ましくは0.3以下である。なおCVA1-A6を0にすることは現実的には困難であり、CVA1-A6は通常0.01以上であり、好ましくは0.03以上である。
【0049】
(平均値A1~A6について)
上述の通り、各正方形における各線上の炭素粒子の個数の平均値A1~A6は、各正方形内に存在する炭素粒子の数(量)の指標となる。本発明の効果(優れた耐摩耗性及び曲げ加工性)の発揮の観点からは、炭素粒子がある程度以上複合被膜中に存在することが好ましい。また炭素粒子の平均一次粒子径は、好ましくは上記した範囲のものであり、各線上に存在できる炭素粒子の数にはある程度の限度がある。これらの点から、平均値A1~A6の平均値Bは、1.2~25であることが好ましく、1.5~12であることがより好ましい。
【0050】
(正方形ごとの各線上の炭素粒子の個数のCV値(CV1~CV6)の平均について)
上述の通り本発明の複合材の実施の形態では、炭素粒子が複合被膜中に相応の量存在したうえで、CVA1-A6が小さい。炭素粒子が均一に分散して曲げ加工性に優れる観点からは、CVA1-A6を求める際の各正方形それぞれにおける、各線上の炭素粒子の個数のCV値(CV1~CV6)も小さいことが好ましい。この点と、CV値を0とすることは現実的に困難であることから、CV1~CV6の平均値は1.2以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.05~0.35であることが特に好ましい。
【0051】
<炭素の面積率>
本発明の複合材の実施の形態における複合被膜は上記の通り炭素粒子を含有している。この複合被膜の表面における炭素粒子が占める面積割合(面積率)は、複合材の耐摩耗性の指標になり、耐摩耗性と導電性のバランスの観点から、好ましくは1~80%であり、より好ましくは1.5~80%であり、更に好ましくは4~50%である。なおこの面積率の測定は、予め複合被膜に対して上述の超音波処理を行ったものについて実施する。面積率の測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0052】
<銀と炭素の含有量の合計>
本発明の複合材の実施の形態における複合被膜の元素組成については、典型的には実質的に銀と炭素とからなる。具体的には、複合被膜中のこれらの元素の含有量の合計は、好ましくは99質量%以上であり、より好ましくは99.5質量%以上である。下記に記載するアンチモンを含有する場合は、複合被膜中の銀と炭素とアンチモンの合計が、好ましくは99質量%以上であり、より好ましくは99.5質量%以上である。
【0053】
<アンチモン>
本発明の複合材の実施の形態における複合被膜は、アンチモンを含んでいてもよい。アンチモンの含有により複合被膜のビッカース硬度を高めやすく、これは複合材の優れた耐摩耗性に寄与する。複合被膜がアンチモンを含む場合の複合被膜中のアンチモンの含有量は、複合材の耐摩耗性の観点から、好ましくは0.5~3質量%である。
【0054】
なお、アンチモンは複合材の耐熱性に悪影響する場合があり、複合材を耐熱性が重視される用途に使用する場合には、複合被膜中のアンチモンの含有量は好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、更に好ましくは500ppm以下である。後述する一般式(I)で表される化合物Xを含有する銀めっき液を使用して複合材を製造すると、このようにアンチモンの含有量が低く、かつビッカース硬度が100以上の複合被膜が形成される。
【0055】
<複合被膜の厚さ>
複合被膜の厚さは特に制限されないが、耐摩耗性や導電性の点で、最低限の厚さがあることが好ましい。また厚さが大きすぎても複合被膜の効果は飽和し、原料コストが高まる。以上の観点から、複合被膜の厚さは0.5~40μmであることが好ましく、0.5~35μmであることがより好ましく、3~20μmであることが更に好ましい。複合被膜の厚さの測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0056】
<<下地層>>
素材と複合被膜の間に、種々の目的で下地層が形成されていてもよい。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgが挙げられる。例えば素材中の銅が複合被膜表面に拡散して耐熱性が劣化することを防止する目的では、Niからなる下地層を形成することが好ましい。素材が黄銅などの亜鉛を含む銅合金で、素材中の亜鉛が複合被膜表面に拡散することを防止する目的では、Cuからなる下地層を形成することが好ましい。複合被膜の素材への密着性改善の目的では、Agからなる下地層を形成することが好ましい。下地層の厚さは特に限定されないが、その機能発揮とコストの観点から、0.1~8μmであることが好ましく、0.2~5μmであることがより好ましい。また、電気・電子部品の端子にはCu下地やNi下地を含むSnめっきまたはリフローSnめっきを施した(素材側からCu下地、Ni下地、Sn下地の積層構造)材料が使用されることが多く、本発明においてもこのような積層構造の下地層を形成してもよい。したがって本発明において、複合被膜の下地にCu,Ni,Sn、Agそれぞれからなる層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層があってもよく、また例えば素材の電気接点部に本発明で規定する複合被膜を形成し(下地層は形成してもしなくてもよい)、電線加締め部にリフローSnめっき下地層を形成する(複合被膜は形成しない)など、場所によって異なる層を形成してもよい。
【0057】
[端子]
本発明の複合材の実施の形態は耐摩耗性及び曲げ加工性に優れるので、端子、特にスイッチやコネクタなどの、その使用において摺動がなされる電気接点部品における端子の構成材料として好適である。
【0058】
特に、前記複合材の優れた曲げ加工性から、平板形状の長尺の本発明の複合材の実施の形態を予め製造し、これをプレスで打ち抜き、端子形状に成型加工(曲げ加工)して端子を製造することが、端子の生産性の観点から好ましい。
【0059】
[複合材の製造方法]
以上説明した本発明の複合材は、例えば本発明の複合材の製造方法により製造することができる。以下、当該製造方法の実施の形態を説明する。
【0060】
前記製造方法は、炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であり、前記銀めっき液中の炭素粒子の含有量が15g/L以上であり、形成される前記複合被膜のビッカース硬度が100以上となるように複合被膜を形成する。以下、この製造方法の実施の形態の各構成について説明する。
【0061】
<<素材>>
前記素材は、本発明の複合材の実施の形態について説明した素材と同じである。すなわち、素材の構成材料としてはCu(銅)及びCu合金が好適である。前記Cu合金としては、導電性と耐摩耗性の両立などの観点から、Cuと、Si(ケイ素),Fe(鉄),Mg(マグネシウム),P(リン),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Co(コバルト),Zn(亜鉛),Be(ベリリウム),Pb(鉛),Te(テルル),Ag(銀),Zr(ジルコニウム),Cr(クロム),Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上である(Cuの量は好ましくは99.95質量%以下である)。
【0062】
<<電気めっき>>
本発明の複合材の製造方法の実施の形態では、特定の銀めっき液中で、以上説明した素材に対して電気めっきを行うことで、素材上に、銀層中に炭素粒子を含有する複合被膜を形成する。
【0063】
<銀めっき液>
前記銀めっき液は、銀イオン及び炭素粒子を含有し、炭素粒子の含有量が15g/L以上である。
【0064】
(炭素粒子)
前記炭素粒子は、本発明の複合材の実施の形態において説明したのと同様である。銀めっき液が炭素粒子を含んでいると、電気めっきにより素材上へ複合被膜(AgCめっき膜)が形成される際に、銀マトリクス中に炭素粒子が巻き込まれる。これにより複合材の耐摩耗性が高まる。このような機能の発揮の観点から、炭素粒子は黒鉛粒子であることが好ましい。また炭素粒子の形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合被膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。
【0065】
また、炭素粒子の、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)は、AgCめっき膜への巻き込みやすさの観点から0.5~15μmであることが好ましく、1~12μmであることがより好ましく、2.5~10μmであることが更に好ましい。
【0066】
炭素粒子を15g/L以上の含有量で含む銀めっき液を使用して、かつビッカース硬度100以上となるように複合被膜を形成することで、炭素粒子が均一に分散した(上述したCVA1-A6が0.6以下の)複合被膜が形成される。炭素粒子が均一に分散した複合被膜を形成する観点や、得られる複合材の耐摩耗性の観点、更に複合被膜中に導入できる炭素粒子の量には限度があることから、銀めっき液中の炭素粒子の含有量は18~100g/Lであることが好ましく、30~90g/Lであることがより好ましい。
【0067】
また、この炭素粒子を酸化処理することにより、炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去することが好ましい。このような親油性有機物として、アルカンやアルケンなどの脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの芳香族炭化水素が含まれる。炭素粒子の酸化処理として、湿式酸化処理の他、Oガスなどによる乾式酸化処理を使用することができるが、量産性の観点から湿式酸化処理を使用するのが好ましく、湿式酸化処理によって表面積が大きい炭素粒子を均一に処理することができる。湿式酸化処理の方法としては、炭素粒子を水中に懸濁させた後に適量の酸化剤を添加する方法などを使用することができる。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用することができる。炭素粒子に付着している親油性有機物は、添加された酸化剤により酸化されて水に溶けやすい形態になり、炭素粒子の表面から適宜除去されると考えられる。また、この湿式酸化処理を行った後、ろ過を行い、さらに炭素粒子を水洗することにより、炭素粒子の表面から親油性有機物を除去する効果をさらに高めることができる。炭素粒子の酸化処理により、炭素粒子の表面から脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの親油性有機物を除去することができ、300℃加熱ガスによる分析によれば、酸化処理後の炭素粒子を300℃で加熱して発生したガス中には、アルカンやアルケンなどの親油性脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの親油性芳香族炭化水素が殆ど含まれていない。酸化処理後の炭素粒子中に脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素が若干含まれていても、炭素粒子を本発明で使用する銀めっき液中に均一に分散させることができるが、炭素粒子中に分子量160以上の炭化水素が含まれず且つ炭素粒子中の分子量160未満の炭化水素の300℃加熱発生ガス強度(パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析強度)が5,000,000以下になるのが好ましい。なお、酸化処理の前後で、炭素粒子のD50は実質的には変化しない。
【0068】
(銀イオン)
銀めっき液は銀イオンを含む。この銀めっき液中の銀の濃度は、複合被膜の形成速度の観点や、複合被膜の外観ムラ抑制の観点から5~150g/Lであることが好ましく、10~120g/Lであることがより好ましく、20~100g/Lであることが更に好ましい。
【0069】
(化合物X)
ビッカース硬度100以上の複合被膜を形成するにあたって、下記一般式(I)で表される化合物Xを含む銀めっき液が有効である。
【化2】
【0070】
式(I)において、mは1~5の整数であり、Raは、カルボキシル基であり、Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rcは、水素又は任意の置換基であり、Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。前記2価の基の例としては、-CH-CH-O-、-CH-CH-CH-O-、(-CH-CH-O-)が挙げられる(nは2以上の整数である)。
【0071】
化合物Xは、析出した銀の表面に吸着して銀の結晶が成長することを抑えることで、電気めっきにより形成される複合被膜における銀の結晶子サイズを小さくし、硬い複合被膜を形成するものと考えられる。
【0072】
また上記一般式(I)において、mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよい。Rcについて、前記「任意の置換基」としては、炭素数1~10のアルキル基、アルキルアリール基、アセチル基、ニトロ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルコキシル基が挙げられる。
【0073】
銀めっき液中の化合物Xの濃度は、複合被膜の外観ムラ抑制や、形成される複合被膜の硬さ(ビッカース硬度)を適切に制御する観点から3~250ml/Lであることが好ましく、4~200ml/Lであることがより好ましい。
【0074】
銀めっき液が化合物Xを含有する場合、銀めっき液は下記で説明するアンチモンを含有しなくとも(具体的にはアンチモンの含有量が0.5g/L未満、好ましくは0.1g/L以下、より好ましくは0.05g/L以下)、ビッカース硬度100以上の複合被膜を形成することができる。このようにして製造された複合材は、耐熱性が重視される用途に好適である。
【0075】
(アンチモン)
ビッカース硬度100以上の複合被膜を形成するにあたって、アンチモンを含む銀めっき液も有効である。銀めっき液がアンチモンを含有することで、複合被膜のマトリクス(炭素粒子以外の部分)として銀-アンチモン合金が形成され、この合金はビッカース硬度が高い。
【0076】
銀めっき液中のアンチモンの濃度は、複合被膜の硬さを適切に制御する観点から、0.5~5g/Lであることが好ましい。
【0077】
(錯化剤)
本発明で使用する銀めっき液は、好ましくは錯化剤を含有する。錯化剤は銀めっき液中の銀イオンを錯体化して、そのイオンとしての安定性を高める。この作用により、銀のめっき液を構成する溶媒への溶解度が高まる。
【0078】
錯化剤は、前記の機能を有するものを広く使用することができるが、形成される錯体の安定性の観点からスルホン酸基を有する化合物が好ましい。スルホン酸基を有する化合物としては、炭素数1~12のアルキルスルホン酸、炭素数1~12のアルカノールスルホン酸及びヒドロキシアリールスルホン酸が挙げられる。これらの化合物の具体例としては、メタンスルホン酸、2-プロパノールスルホン酸及びフェノールスルホン酸が挙げられる。
【0079】
銀めっき液中の錯化剤の量は、銀イオンの安定化の観点から、30~200g/Lであることが好ましく、50~120g/Lであることがより好ましい。
【0080】
(他の添加剤)
他の添加剤として、例えば本発明に使用する銀めっき液は、光沢剤、硬化剤、電導度塩を含有してもよい。前記硬化剤としては、硫化炭素化合物(例えば二硫化炭素)、無機硫黄化合物(例えばチオ硫酸ナトリウム)、有機化合物(スルホン酸塩)、セレン化合物、テルル化合物、周期律表4Bまたは5B族金属等が挙げられる。前記電導度塩としては水酸化カリウム等が挙げられる。
【0081】
(溶媒)
銀めっき液を構成する溶媒は、主に水である。水は、(錯体化した)銀イオンの溶解性、めっき液が含むその他の成分の溶解性や、環境への負荷が小さいことから好ましい。また、溶媒として、水とアルコールの混合溶媒を使用してもよい。
【0082】
(シアン化合物)
シアン化合物はめっき液の添加剤として広く使用されているが、これは水質汚濁防止法(排水基準)やPRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度の対象物質であり、廃水処理コストが大きい。本発明で使用する銀めっき液が上記化合物Xを含有する場合は、銀めっき液がシアン化合物を実質的に含まなくとも(具体的には、銀めっき液中のシアン化合物の含有量が1mg/L以下)、本発明の複合材を製造することができる。この銀めっき液は、廃水処理コストが小さいという利点を有する。なお、シアン化合物とはシアノ基(-CN)を含む化合物であり、シアン化合物はJISK0102:2019に従って定量できる。
【0083】
<電気めっき条件>
次に、以上説明した銀めっき液を用いた電気めっきの諸条件について説明する。例えば以下に説明する電気めっきにより、素材上に金属銀(又は銀-アンチモン合金)が析出するとともに、その際銀マトリクス中に炭素粒子が巻き込まれ、複合被膜が形成される。
【0084】
(カソード及びアノード)
電気めっきする対象である素材がカソードである。溶解して銀イオンを提供する、例えば銀電極板がアノードである。
【0085】
(電流密度)
銀めっき液(めっき浴)にカソード及びアノードを浸漬し、電流を流して銀めっきする。ここでの電流密度は、複合被膜の形成速度の観点及び複合被膜の外観のムラ抑制の観点から、0.5~10A/dmが好ましく、1~8A/dmがより好ましく、1.5~6A/dmが更に好ましい。
【0086】
(温度・撹拌・めっき時間・めっき対象部位)
電気めっきを行う際のめっき浴(銀めっき液)の温度(めっき温度)は、めっきの生産効率および銀めっき液の過度な蒸発を防ぐ観点から15~50℃であることが好ましく、20~45℃であることがより好ましい。この際のめっき浴の撹拌は、均一なめっきの実施の観点から、200~550rpmであることが好ましく、350~500rpmであることがより好ましい。銀めっきの時間(電流をかける時間)は、目的とする複合被膜の厚さに応じて適宜調整することができるが、代表的には25~1800秒の範囲である。まためっきする対象部位は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、素材の表層の一部でもよい。
【0087】
(銀ストライクめっき)
素材上に複合被膜を形成する前に、銀ストライクめっきにより非常に薄い中間層を形成して、素材と複合被膜との密着性を高めることが好ましい。なお、下記に説明する下地層を素材上に形成する場合は、下地層上に銀ストライクめっきを行う。銀ストライクめっきの実施方法としては、本発明の効果を損なわない限り、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。銀ストライクめっきに使用するめっき液は、廃水処理コストの点からシアン化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【0088】
<<下地層の形成>>
本発明の複合材の製造方法の実施の形態では、素材に対して下地層を形成して、その下地層に対して上記で説明した複合被膜形成のための電気めっきを施してもよい。下地層は、素材の銅がめっき表面に拡散して酸化し、複合材の耐熱性が劣化することを防止する目的や、複合被膜の密着性改善の目的で形成される。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgが挙げられる。なお下地層は、Cu,Ni,Sn、Agそれぞれからなる層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層であってもよく、下地層の形成は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、その一部でもよい。
【0089】
下地層の形成方法は特に限定されず、前記の構成金属のイオンを含むめっき液を用いて、公知の方法により電気めっきすることで、形成することができる。なお前記めっき液は、廃水処理コストの点からシアン化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【実施例0090】
以下、本発明による複合材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0091】
<炭素粒子の準備>
炭素粒子として平均粒径5μmの鱗片形状黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製のPAG-3000)80gを1.4Lの純水中に添加し、この混合液を攪拌しながら50℃に昇温させた。なお前記平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300(LOW-WET MT3000II Mode))を用いて測定した、体積基準の累積値が50%の粒径である。次に、この混合液に酸化剤として0.1モル/Lの過硫酸カリウム水溶液0.6Lを徐々に滴下した後、2時間攪拌することで酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行い、得られた固形物に対して水洗を行った。
【0092】
この酸化処理の前後の炭素粒子について、パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析装置(加熱脱着装置として日本分析工業株式会社製のJHS-100およびガスクロマトグラフ質量分析計として株式会社島津製作所製のGCMS QP-5050Aを組み合わせた装置)を使用して、300℃加熱発生ガスの分析を行ったところ、上記の酸化処理により、炭素粒子に付着していた(ノナン、デカン、3-メチル-2-ヘプテンなどの)親油性脂肪族炭化水素や、(キシレンなどの)親油性芳香族炭化水素が除去されていることがわかった。
【0093】
[実施例1]
<銀ストライクめっき>
縦5.0cm、横5.0cm、厚さ0.2mmのCu-Ni-Sn-P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB-109EH)を用意した。この板材を素材として、当該素材をカソード、(チタンのメッシュ素材を酸化イリジウムコーティングした)酸化イリジウムメッシュ電極板をアノードとして使用して、錯化剤としてメタンスルホン酸を含む25℃のスルホン酸系銀ストライクめっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-ST、シアン化合物を実質的に含まない。銀濃度3g/L、メタンスルホン酸濃度42g/L、アンチモン濃度0.05g/L以下)中において、電流密度5A/dmで60秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を行った。なお銀ストライクめっきは素材の表層全体に対して行った。
【0094】
<AgCめっき>
錯化剤としてメタンスルホン酸を含む、銀濃度30g/L、メタンスルホン酸濃度60g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB(一般式(I)に該当する化合物を含み、溶媒は主に水であり、アンチモンの含有量は0.05g/L以下である))に、上記の酸化処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して、濃度50g/Lの炭素粒子と濃度30g/Lの銀と濃度60g/Lのメタンスルホン酸を含む炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を用意した。この銀めっき液は、実質的にシアン化合物を含まない。
【0095】
次に、上記の銀ストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、上記の炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで500秒間電気めっきを行い、銀層中に炭素粒子を含有する複合被膜(AgCめっき被膜)が素材上に形成されてなる複合材を得た。なお複合被膜は素材の表層全体上に形成した。
【0096】
以上の複合材の製造条件等を、後述する実施例2~9及び比較例1~4の製造条件等とともに、後記表2にまとめた。
【0097】
この実施例1で得られた複合材について、以下の評価を行った。
<複合被膜の厚さ>
複合材の複合被膜(5.0cm×5.0cmの面における中央部分の直径0.2mmの円形の範囲)の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT110A)で測定したところ、10μmであった。なお蛍光X線膜厚計では(炭素粒子の)C原子の検出は困難でAg原子を検出して厚さを求めているが、本発明ではこれにより求まる厚さを複合被膜の厚さと近似する。
【0098】
<複合被膜表面のビッカース硬度Hv>
複合被膜表面のビッカース硬度Hvは、微小硬度計(株式会社ミツトヨ製のHM221)を使用して、荷重0.01Nを複合材の平らな部分に15秒間加えて、JIS Z2244に従って測定し、3回の測定の平均値を採用した。結果、ビッカース硬度Hvは180だった。
【0099】
<超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率>
得られた複合材の複合被膜表面に対して、超音波洗浄器(AS ONE製のVS-100III、出力100W、槽内寸法:縦140mm×横240mm×深さ100mm、使用液体は純水、水温は20℃)を使用して、28kHzで4分の超音波洗浄処理を実施した。
【0100】
超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率は、以下のようにして測定した。
卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテク製のTM4000 Plus)を使用して加速電圧5kVで1000倍に拡大して複合被膜の表面を観察した反射電子組成(COMPO)像(1視野)をGIMP 2.10.10(画像解析ソフト)にて2値化し、複合被膜表面において炭素が占める面積率を算出した。具体的には、全ピクセルのうち最も高い輝度を255、最も低い輝度を0とすると、輝度が127以下のピクセルが黒、輝度が127を超えるピクセルが白になるように階調を2値化し、銀の部分(白い部分)と炭素粒子の部分(黒い部分)に分離して、画像全体のピクセル数Pに対する炭素粒子の部分のピクセル数Qの比Q/Pを、表面の炭素面積率(%)として算出した。その結果、超音波洗浄処理後の炭素面積率は30%だった。
【0101】
<複合被膜表面の超音波洗浄処理後の炭素粒子の分散状態>
複合材における複合被膜の炭素粒子の分散状態は、以下のようにして評価した。
卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテク製のTM4000 Plus)を使用して加速電圧5kVで1000倍に拡大して縦90μm×横130μmの視野で超音波洗浄処理後の複合材の複合被膜の表面を観察した反射電子組成(COMPO)像(1視野)をGIMP 2.10.10(画像解析ソフト)にて2値化した。具体的には、全ピクセルのうち最も高い輝度を255、最も低い輝度を0とすると、輝度が127以下のピクセルが黒、輝度が127を超えるピクセルが白になるように階調を2値化した。
【0102】
得られた2値化画像中の中央部分に縦78μm×横117μmの長方形の領域をとり(当該領域の、視野全体に対する大きさの割合は78%である)、この領域を39μm×39μmの正方形に6分割し、各正方形内において、正方形の左側の縦辺からの距離が13μm及び26μmの二つの縦線を引き、正方形の上側の横辺からの距離が13μm及び26μmの二つの横線を引き、各縦線及び横線上に存在する炭素粒子の個数を求めた。ここで、各縦線及び横線上のピクセルが黒で続く部分を炭素粒子1個と数え、1ピクセルの黒でも炭素粒子1個と数えた。この炭素粒子個数のカウントに使用した画像を図1に示す。なお、縦線及び横線の太さは1ピクセルであり、縦線及び横線の長さは390ピクセルである。更に、図1においては便宜のため正方形の輪郭の線を太く表示しているが、実際の炭素粒子のカウント時には縦線と同じ太さとしている。
【0103】
参考までに、図1における左上の正方形における各線上の炭素粒子個数のカウント結果を下記表1に示す(全てのカウント結果については後述の表3に示す)。
【0104】
【表1】
【0105】
炭素粒子個数のカウントの結果から各正方形について各縦線及び横線上に存在する炭素粒子の個数の平均値(A1~A6)を求めた。この平均値(A1~A6)についてCV値(平均値(A1~A6)の標準偏差/平均値(A1~A6)の平均値B)を求めたところ、0.19であった。
【0106】
<耐摩耗性の評価>
実施例1で使用したのと同じCu-Ni-Sn-P合金板材に対して後述する比較例2と同様のめっき処理(AgSbめっき)を施しためっき材から横2.0cm×縦3.0cmの大きさの平板状試験片を切り出した。
【0107】
一方、上記実施例1で得られた複合材から横1.0cm×縦4.0cmの試験片を切り出し、これに対して内径1.0mmのインデント(半球形状に押し出す)加工を施して、インデント付き試験片(圧子)を得た。
【0108】
摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製 CRS-G2050-DWA)により、上記平板状試験片に、前記インデント付き試験片の凸部が平板状試験片にあたるようにして、インデント付き試験片を一定の加重(2N)で平板状試験片に押し当てながら、往復摺動動作(摺動距離10mm(つまり1往復で20mm)、摺動速度3mm/s)を継続して、インデント付き試験片と平板状試験片の摩耗状態を確認する摩耗試験を行うことにより、耐摩耗性の評価を行った。その結果、100回の往復摺動動作後に、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-1000)によりインデント付き試験片及び平板状試験片の摺動痕の中心部を倍率200倍で観察したところ、どちらの摺動痕からも(茶色の)素材(合金板材)が露出していないことが確認され、実施例1の複合材は耐摩耗性に優れていることがわかった。
【0109】
<曲げ加工性の評価>
(最大露出幅の評価)
得られた複合材における複合被膜を曲げ加工したときの最大露出幅は、以下のようにして評価した。
【0110】
得られた複合材から長手方向がTD(圧延方向に対して垂直な方向)で幅方向がLD(圧延方向)になるように幅10mmの曲げ加工試験片を切り出し、曲げ加工試験片についてLDを曲げ軸(BadWay曲げ(B.W.曲げ))にしてJIS H3130に準拠した90°W曲げ試験を曲げ半径R=0.2mmで行った。この試験後の試験片について、曲げ加工部頂点の表面をレーザー顕微鏡(キーエンス製のVK-X160)によって200倍の倍率で観察して、曲げ加工によって複合被膜が分断されて素材が露出した箇所のうち、露出部分のTD(圧延方向に対して垂直な方向)方向の長さが最大のもののTD方向の長さを、最大露出幅として求めた。
【0111】
評価の結果、実施例1の複合材の最大露出幅は22μmだった。なお、最大露出幅が30μm以下であれば、複合材の曲げ加工性が優れていると評価した。その理由は以下のとおりである。
【0112】
複合被膜が曲げ加工で引き伸ばされて分断された箇所の直下の素材部分に引張応力が働くことで、素材の前記部分にせん断力がかかりやすい。なお、複合被膜は元の素材に密着しているため、曲げ加工により素材が塑性変形する場合、複合被膜は必ず分断される。複合被膜の分断された箇所が多いほど、分断一か所当たりの、その直下の素材の部分にかかるせん断力は小さくなるので、素材にはシワ(素材がすべり、せん断変形した状態のもの(破断はしていない))は発生するものの、素材の割れ(素材が大きくすべり、せん断変形が進行して破断したもの)は生じにくい(シワと割れについては、図2参照)。結果として観察される最大露出幅は小さくなる。一方、複合被膜に生じた分断数が少ない場合、素材の特定箇所(分断の直下の部分)に大きな応力がかかり、素材の割れが生じやすい。結果として観察される最大露出幅は大きくなる。素材に割れが生じると、端子等の製品の形状に異常が生じたり更には破断してしまうなど、その機能を果たさなくなるという問題が生じる。
【0113】
(曲げ加工断面の評価)
本実施例1の複合材については、前記の曲げ加工試験で得られた、曲げた状態の試験片について、曲げ加工部頂点の断面をレーザー顕微鏡(キーエンス製のVK-X160)によって200倍の倍率で観察をした。
【0114】
得られた断面写真を図3に示す。複合被膜に多数の分断が生じているが、素材の割れは発生していないことがわかる。
【0115】
以上の評価結果(曲げ加工断面の評価結果を除く)は、後述する実施例2~9及び比較例1~4の評価結果とともに後記表2にまとめた。
【0116】
[実施例2]
炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中の炭素濃度を20g/Lに変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。
【0117】
[実施例3]
炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中の炭素濃度を80g/Lに変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。
【0118】
[実施例4]
AgCめっきの時間を60秒に変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。
【0119】
[実施例5]
AgCめっきの時間を1500秒に変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。
【0120】
[実施例6]
実施例1と同様の素材をカソード、Ni電極板をアノードとして使用して、スルファミン酸ニッケルをNi濃度として80g/Lの濃度で含有し、更に濃度45g/Lでホウ酸を含有するニッケルめっき浴(水溶液)中において、液温55℃、電流密度4A/dmで攪拌しながら40秒間電気めっき(Niめっき)を行って、素材上に厚さ0.2μmのNi被膜(Ni下地層)を形成した。Ni下地層は素材の表層全面に対して形成した。下地層の厚さは複合被膜の厚さを求める方法と同様の方法で測定した。
【0121】
このNi下地層を形成した素材に対して銀ストライクめっきを施した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。
【0122】
[実施例7]
Ni下地層を形成する際の電気めっきの時間を600秒に変更した以外は、実施例6と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。Ni下地層の厚さは3.4μmだった。
【0123】
[実施例8]
スルホン酸系銀めっき液として大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-SBを使用して、これに上記の酸化処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液とした以外は、実施例1と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。
【0124】
[実施例9]
炭素粒子として日本黒鉛株式会社製のUTC-48J(平均粒径は1.8μm)を上記と同様に酸化処理したものを使用した以外は、実施例4と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。
【0125】
[比較例1]
炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液の代わりにスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB)を使用して電気めっきを行った以外は、実施例1と同様にして、銀層(Agめっき被膜)が素材上に形成されてなる銀めっき材を得た。この銀めっき材について、実施例1と同様に各種評価を行った。
【0126】
なお本比較例1の銀めっき材については、炭素粒子に関する評価は実施しなかった。またこの銀めっき材は曲げ加工性の評価結果が悪かったため、インデント加工(=曲げ加工)を行う耐摩耗性の評価は行わなかった。また、本めっき材について行った曲げ加工性の評価で得られた、曲げた状態の試験片の断面を実施例1と同様にして観察した結果(断面写真)を図4に示す。拡大倍率200倍の写真である。銀めっき層が分断し、この分断は実施例1の複合被膜の場合に比べて数が少なく幅が広く、素材には割れが生じたと思われる小さな亀裂(矢印部分)が見られる。
【0127】
[比較例2]
<銀ストライクめっき>
実施例1と同様の素材を用意し、この素材をカソード、(チタンのメッシュ素材を白金めっきした)チタン白金メッシュ電極板をアノードとして使用して、錯化剤としてシアン化合物を含むシアン系銀ストライクめっき液(一般試薬から建浴、シアン化銀濃度3g/L、シアン化カリウム濃度90g/L、溶媒は水)中において、液温25℃、電流密度5A/dmで30秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を行った。
【0128】
<AgSbめっき>
錯化剤としてシアン化合物を含む銀濃度60g/L、アンチモン(Sb)濃度2.5g/Lのシアン系Ag-Sb合金めっき液(溶媒は水)を用意した。前記シアン系Ag-Sb合金めっき液は、10質量%のシアン化銀と30質量%のシアン化ナトリウムとニッシンブライトN(日進化成株式会社製)を含み、前記めっき液中のニッシンブライトNの濃度は50mL/Lである。そしてニッシンブライトNは、光沢剤と三酸化二アンチモンを含み、ニッシンブライトNにおける三酸化二アンチモンの濃度は6質量%である。
【0129】
次に、上記の銀ストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、上記のシアン系Ag-Sb合金めっき液中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで1000秒間電気めっきを行い、複合被膜(銀-アンチモン被膜)が素材上に形成された複合材を得た。
【0130】
得られた複合材について、実施例1と同様にして各種評価を行った。なお本比較例2の複合材については、炭素粒子に関する評価は実施しなかった。またこの複合材は曲げ加工性の評価結果が悪かったため、インデント加工(=曲げ加工)を行う耐摩耗性の評価は行わなかった。
【0131】
[比較例3]
実施例1のスルホン酸系銀めっき液の代わりに、錯化剤としてメタンスルホン酸を60g/Lの濃度で含む銀濃度30g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-PL(一般式(I)に該当する化合物を含まず、溶媒は水))を使用し、これに実施例1と同様の酸化処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して、得られた炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を使用した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。
【0132】
[比較例4]
炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中の炭素濃度が10g/Lになるように、スルホン酸系銀めっき液への炭素粒子の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成し、各種評価を行った。なお本比較例4の複合材は曲げ加工性の評価結果が悪かったため、インデント加工(=曲げ加工)を行う耐摩耗性の評価は行わなかった。
【0133】
以上の実施例1~9及び比較例1~4の複合材及び銀めっき材の製造条件等と評価結果を下記表2にまとめる。更に、各複合材についての炭素粒子個数のカウント結果を下記表3に示す。
【0134】
【表2】

【0135】
【表3】

図1
図2
図3
図4